説明

携行用バルブ開閉装置

【課題】開閉頻度が少ないバルブ等の大きな操作トルクを必要とするバルブを少ない労力で簡単に開閉できる携行用バルブ開閉装置を提供することである。
【解決手段】ハンドル3を取り付けたハンドル軸4を入力軸、バルブ軸31と係合するバルブ係合部1を下端に取り付けた回転操作軸2を出力軸とする遊星歯車減速機構5を設け、そのケーシング6を固定レバー7でバルブ設置部に固定することにより、開閉頻度が少ないバルブ等の大きな操作トルクを必要とするバルブを少ない労力で簡単に開閉できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種配管のバルブ設置部に携行してバルブを開閉する携行用バルブ開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水道、農業用水、工業用水、工業設備等の各種配管に設けられ、比較的開閉頻度の少ないバルブは、バルブ設置部をコンパクトに設計するために、バルブ開閉装置を装備せずに、バルブを開閉するバルブ軸を弁箱の上方へ突出させるのみとして、必要に応じてバルブ開閉装置を携行し、この携行したバルブ開閉装置でバルブ軸を回転させてバルブを開閉するようにしたものが多い。また、これらのバルブ設置部は、地面や床面等のベース面に上方へ開口する空隙に設けられることが多い。
【0003】
このようなバルブ設置部へ携行する携行用バルブ開閉装置には、バルブを開閉するバルブ軸と回転方向に係合するバルブ係合部と、このバルブ係合部と係合したバルブ軸を回転操作する回転操作軸と、この回転操作軸を回転させるハンドルとを備え、弁箱の上方へ突出するバルブ軸にバルブ係合部を係合させてハンドルを手で回転させ、バルブを開閉するようにしたものが多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたものでは、バルブ係合部をハンドル付きのバルブ軸にも係合できるように、汎用的なバルブ軸と係合するボックス型の係合部の先端に、バルブ軸のハンドルと係合する二股の爪を設けている。
【0004】
なお、弁箱等に装着される装備式のバルブ開閉装置には、手で回転させるハンドル軸を歯車減速機構を介してバルブ軸に連結し、小さな操作トルクでバルブ軸を回転できるようにしたものがある(例えば、特許文献2、3参照)。特許文献2に記載されたものでは、歯車減速機構に、太陽歯車と内歯車の間に遊星歯車を噛み合わせた遊星歯車減速機構を採用し、特許文献3に記載されたものでは、中心軸回りに回転する内歯車に、内歯車よりも歯数が少なく、偏心させた差動歯車を噛み合わせる差動歯車減速機構を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−82803号公報
【特許文献2】特開昭60−65979号公報
【特許文献3】特開2000−193136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したバルブ開閉装置を装備していないバルブは、開閉頻度が少ないので、バルブ軸や弁体等が固着しやすく、開閉初期にバルブ軸を回転操作するのに大きな操作トルクを必要とすることがある。このため、特許文献1に記載された従来の携行用バルブ開閉装置では、バルブの開閉に多大な労力を必要とし、バルブを開閉できないこともある。特に、大口径バルブや高圧用のバルブでは、元々大きな操作トルクでバルブ軸を回転操作するのに多大な労力を必要とし、バルブを開閉できないことも多い。
【0007】
そこで、本発明の課題は、開閉頻度が少ないバルブ等の大きな操作トルクを必要とするバルブを少ない労力で簡単に開閉できる携行用バルブ開閉装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、バルブを開閉するバルブ軸と回転方向に係合するバルブ係合部と、このバルブ係合部と係合したバルブ軸を回転操作する回転操作軸と、この回転操作軸を回転させるハンドルとを備え、バルブが設けられたバルブ設置部へ携行して、前記バルブ係合部を弁箱の上方へ突出するバルブ軸に係合させ、前記ハンドルを回転させてバルブを開閉するようにした携行用バルブ開閉装置において、前記ハンドルを取り付けたハンドル軸を入力軸、前記バルブ係合部を下端に取り付けた回転操作軸を出力軸とする歯車減速機構を設け、そのケーシングを前記バルブ設置部に固定する手段を設けた構成を採用した。
【0009】
すなわち、ハンドルを取り付けたハンドル軸を入力軸、バルブ係合部を下端に取り付けた回転操作軸を出力軸とする歯車減速機構を設け、そのケーシングをバルブ設置部に固定する手段を設けることにより、開閉頻度が少ないバルブ等の大きな操作トルクを必要とするバルブを少ない労力で簡単に開閉できるようにした。
【0010】
前記ハンドル軸を中空のものとして、この中空のハンドル軸の中に前記回転操作軸をスライド可能に嵌挿し、前記ハンドル軸の下方への前記回転操作軸の突出長さを可変とすることにより、ベース面に開口する空隙に設けられたバルブ設置部で、ベース面から空隙内のバルブ軸までの距離が異なる場合でも、回転操作軸の下端のバルブ係合部を容易にバルブ軸に係合させることができる。
【0011】
前記回転操作軸を前記ハンドル軸の上端から突出するように上方へ延長し、このハンドル軸から突出する回転操作軸に、回転操作軸を直接回転させる直結ハンドルを取り付けることにより、バルブの開閉初期を過ぎて必要な操作トルクが小さくなったときに、直結ハンドルによってバルブ軸を迅速に回転させることができる。
【0012】
前記歯車減速機構は、前記ハンドル軸の外径面に太陽歯車を設け、前記ケーシングの内径面に前記太陽歯車と同軸上に内歯車を設け、これらの太陽歯車と内歯車の間に複数の遊星歯車を噛み合わせて、これらの遊星歯車をキャリアを介して前記回転操作軸に連結した遊星歯車減速機構とすることができる。
【0013】
前記バルブ設置部がベース面に上方へ開口する空隙に設けられている場合は、前記ケーシングの外側に、上下方向へ回動自在な少なくとも1本の固定レバーを取り付けて、この固定レバーを前記バルブ設置部空隙の外側のベース面に沿わせるように回動させ、このベース面に沿わせた固定レバーを踏みつけて、前記ケーシングをバルブ設置部に固定することにより、ケーシングを簡単にバルブ設置部に固定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る携行用バルブ開閉装置は、ハンドルを取り付けたハンドル軸を入力軸、バルブ係合部を下端に取り付けた回転操作軸を出力軸とする歯車減速機構を設け、そのケーシングをバルブ設置部に固定する手段を設けたので、開閉頻度が少ないバルブ等の大きな操作トルクを必要とするバルブを少ない労力で簡単に開閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】携行用バルブ開閉装置の実施形態を示す縦断面図
【図2】a、b、cは、それぞれ図1の直結ハンドル、ハンドルおよびケーシング部の平面図
【図3】図1の遊星歯車減速機構の縦断面図
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図
【図5】a、bは、図1の携行用バルブ開閉装置を用いてバルブを開閉する第1実施例を示す正面図
【図6】a、bは、図1の携行用バルブ開閉装置を用いてバルブを開閉する第2実施例を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この携行用バルブ開閉装置は、図1および図2(a)、(b)、(c)に示すように、バルブ軸31と回転方向で係合するバルブ係合部1と、バルブ係合部1が下端に取り付けられ、バルブ軸31を回転操作する回転操作軸2と、ハンドル3が上端部に取り付けられた中空のハンドル軸4と、ハンドル軸4を入力軸、回転操作軸2を出力軸とする遊星歯車減速機構5と、遊星歯車減速機構5のケーシング6をバルブ設置部に固定する2本の固定レバー7とを備え、中空のハンドル軸4に嵌挿された回転操作軸2が上方へ延長されて、ハンドル軸4の上端から突出する回転操作軸2の上端部に、回転操作軸2を直接回転させる直結ハンドル8が取り付けられている。
【0017】
前記バルブ係合部1は、矩形断面のバルブ軸31と係合するボックス型のものとされている。また、回転操作軸2は矩形断面とされて、後述する遊星歯車減速機構5のキャリア5eの内径面にスライド可能に内嵌され、円筒状のハンドル軸4の中に回転自在に嵌挿されている。
【0018】
前記ハンドル軸4は、後述する遊星歯車減速機構5の太陽歯車5aが外径面に取り付けられた基軸4aと、基軸4aの上部にボルト4bで着脱可能に接続された延長軸4cとからなり、延長軸4cの上端部にハンドル3が取り付けられている。このハンドル3は、図2(b)に示すように、延長軸4cの上端部が嵌まり込む嵌合穴3aが設けられたボックス3bの両側に一対のレバー3cを取り付けたT型のものであり、延長軸4cに着脱可能とされている。延長軸4cの上端部と嵌合穴3aとの嵌合断面は、円形の一部に回り止め用の弦部を形成した形状とされている。
【0019】
前記直結ハンドル8は、図2(a)に示すように、矩形断面の回転操作軸2の上端部が嵌まり込む角孔8aが中心部に設けられた丸型のものであり、回転操作軸2に着脱可能とされている。また、前記固定レバー7はC形アングル部材で形成され、図2(c)に示すように、ケーシング6の両側へ張り出す枠6aに差し渡された軸ピン6bに枢着され、上下方向へ回動自在とされている。なお、枠6aには水平に回動された固定レバー7がそれ以上に上方へ戻るように回動するのを止めるストッパ6cが取り付けられており、バルブ設置部の空隙が大きく開口する場合でも、携行用バルブ開閉装置が中に落ち込むのを防止できるようになっている。
【0020】
図3および図4に示すように、前記遊星歯車減速機構5は、入力軸としてのハンドル軸4の基軸4aに取り付けられた太陽歯車5aと、ケーシング6の内径面に太陽歯車5aと同軸上に設けられた内歯車5bと、太陽歯車5aと内歯車5bと噛み合い、自転しながら公転する複数の遊星歯車5cと、遊星歯車5cを支持軸5dで回転自在に支持し、出力軸としての回転操作軸2の外径面に取り付けられたキャリア5eとからなり、ハンドル3からハンドル軸4に入力されるトルクを、回転操作軸2に増力して伝達する。したがって、バルブの開閉に大きな操作トルクを必要とする場合でも、回転操作軸2に係合させたバルブ軸31を少ない労力で簡単に回転させることができる。
【0021】
なお、前記ケーシング6は軸方向に分割されてボルト6dで締結されており、ハンドル軸4の基軸4aは軸受9a、9bでケーシング6とキャリア5eに回転自在に支持され、キャリア5eは軸受9cでケーシング6に回転自在に支持されている。また、回転操作軸2は矩形断面とされたキャリア5eの内径面に軸方向へスライド可能に回り止めされ、ケーシング6の内部はシール部材10a、10bでシールされている。
【0022】
図5(a)、(b)は、上述した携行用バルブ開閉装置を用いて、ベース面としての地面Gに上方へ開口し、枠体32で囲われた空隙に設けられたバルブ設置部でバルブを開閉する第1実施例を示す。この実施例では、バルブ設置部の弁箱33から突出するバルブ軸31が地面Gから浅い位置にある。
【0023】
図5(a)は、大きな操作トルクを必要とするバルブ開閉初期の状態を示す。ケーシング6は枠体32の上に載置され、各固定レバー7が地面Gに沿うように回動されている。各固定レバー7は先端側が少し下降して、地面Gに食い込むようになっている。また、下端のバルブ係合部1をバルブ軸31に係合させるように、回転操作軸2は下方へスライドされている。この実施例では、バルブ軸31が地面Gから浅い位置にあるので、回転操作軸2の下方への突出長さが比較的短くなり、その上端がハンドル軸4の上端から突出しており、不要な直結ハンドル8は取り外されている。この状態で、作業者Aは、一方の固定レバー7を踏みつけてケーシング6を固定し、両手でハンドル3を掴んでハンドル軸4を回転させることにより、上述した遊星歯車減速機構5によって、少ない労力で開閉初期のバルブ軸31を回転させることができる。
【0024】
図5(b)は、バルブ軸31が回転しやすくなった開閉初期後の状態を示す。この状態では不要なハンドル3が取り外され、回転操作軸2に直結ハンドル8が取り付けられる。作業者Aは、この直結ハンドル8を回転させることにより、迅速にバルブ軸31を回転させることができる。
【0025】
図6(a)、(b)は、第2実施例を示す。この実施例では、バルブ設置部の弁箱33から突出するバルブ軸31が地面Gから深い位置にあり、バルブ係合部1をバルブ軸31に係合させるための回転操作軸2の下方への突出長さが長くなって、その上端がハンドル軸4の中に入り、直結ハンドル8が取り外されている。図6(a)は、大きな操作トルクを必要とするバルブ開閉初期の状態を示す。図示は省略するが、作業者は、第1の実施例の場合と同様に、一方の固定レバー7を踏みつけてケーシング6を固定し、両手でハンドル3を掴んでハンドル軸4を回転させる。
【0026】
図6(b)は、バルブ軸31が回転しやすくなった開閉初期後の状態を示す。この実施例では、ハンドル軸4の中に入る回転操作軸2が露出するように、延長軸4cがハンドル3と一緒に取り外され、回転操作軸2の上端部に直結ハンドル8が取り付けられている。第1の実施例の場合と同様に、作業者は直結ハンドル8を回転させることにより、迅速にバルブ軸31を回転させることができる。
【0027】
上述した実施形態では、バルブ係合部をボックス型のものとしたが、ハンドル付きのバルブ軸と係合する爪を取り付けたり、バルブ係合部を爪型のものと交換可能としたりすることもできる。
【0028】
また、上述した実施形態では、回転操作軸に直結ハンドルを取り付けたが、この直結ハンドルは省略することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 バルブ係合部
2 回転操作軸
3 ハンドル
3a 嵌合穴
3b ボックス
3c レバー
4 ハンドル軸
4a 基軸
4b ボルト
4c 延長軸
5 遊星歯車減速機構
5a 太陽歯車
5b 内歯車
5c 遊星歯車
5d 支持軸
5e キャリア
6 ケーシング
6a 枠
6b 軸ピン
6c ストッパ
6d ボルト
7 固定レバー
8 直結ハンドル
8a 角孔
9a、9b、9c 軸受
10a、10b シール部材
31 バルブ軸
32 枠体
33 弁箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブを開閉するバルブ軸と回転方向に係合するバルブ係合部と、このバルブ係合部と係合したバルブ軸を回転操作する回転操作軸と、この回転操作軸を回転させるハンドルとを備え、バルブが設けられたバルブ設置部へ携行して、前記バルブ係合部を弁箱の上方へ突出するバルブ軸に係合させ、前記ハンドルを回転させてバルブを開閉するようにした携行用バルブ開閉装置において、前記ハンドルを取り付けたハンドル軸を入力軸、前記バルブ係合部を下端に取り付けた回転操作軸を出力軸とする歯車減速機構を設け、そのケーシングを前記バルブ設置部に固定する手段を設けたことを特徴とする携行用バルブ開閉装置。
【請求項2】
前記ハンドル軸を中空のものとして、この中空のハンドル軸の中に前記回転操作軸をスライド可能に嵌挿し、前記ハンドル軸の下方への前記回転操作軸の突出長さを可変とした請求項1に記載の携行用バルブ開閉装置。
【請求項3】
前記回転操作軸を前記ハンドル軸の上端から突出するように上方へ延長し、このハンドル軸から突出する回転操作軸に、回転操作軸を直接回転させる直結ハンドルを取り付けた請求項2に記載の携行用バルブ開閉装置。
【請求項4】
前記歯車減速機構を、前記ハンドル軸の外径面に太陽歯車を設け、前記ケーシングの内径面に前記太陽歯車と同軸上に内歯車を設け、これらの太陽歯車と内歯車の間に複数の遊星歯車を噛み合わせて、これらの遊星歯車をキャリアを介して前記回転操作軸に連結した遊星歯車減速機構とした請求項1乃至3のいずれかに記載の携行用バルブ開閉装置。
【請求項5】
前記バルブ設置部がベース面に上方へ開口する空隙に設けられ、前記ケーシングの外側に、上下方向へ回動自在な少なくとも1本の固定レバーを取り付けて、この固定レバーを前記バルブ設置部空隙の外側のベース面に沿わせるように回動させ、このベース面に沿わせた固定レバーを踏みつけて、前記ケーシングをバルブ設置部に固定するようにした請求項1乃至4のいずれかに記載の携行用バルブ開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−164115(P2010−164115A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6469(P2009−6469)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(000155285)株式会社明和製作所 (7)
【Fターム(参考)】