説明

摩擦ダンパー

【課題】摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図る。
【解決手段】相対移動を抑制する摩擦ダンパー10である。一対の部材51,52のうちの一方の部材51に設けられる第1圧接板11と、他方の部材52に設けられる第2圧接板21と、前記第2圧接板21とによって前記第1圧接板11を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板31と、前記圧接力を付与すべく、前記第1圧接板11の前記所定方向に長い第1貫通孔13、前記第2圧接板21の第2貫通孔23、及び前記第3圧接板31の第3貫通孔33を挿通して設けられるボルト部材41bと、前記ボルト部材41bを内側に挿入しつつ、前記第1貫通孔13、前記第2貫通孔23、及び前記第3貫通孔33を挿通して設けられるパイプ部材47とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物架構の振動を抑制する摩擦ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
建物架構の振動を減衰する摩擦ダンパーが知られている。この摩擦ダンパーは、建物架構において所定方向に互いに相対移動する一対の鉄骨部材の間に配置され、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制するものである。
【0003】
図1はこの摩擦ダンパー10dの説明図であり、図2Aは、図1中のII−II断面図である。この例では、摩擦ダンパー10dは、柱梁架構1のブレース5を構成するH形鋼のウエブに設けられている。すなわち、図2Aに示すように、摩擦ダンパー10dは、前記ブレース5を2つに分断してなる一方のブレース分断片51のウエブ51Wにボルト固定される第1圧接板11と、他方のブレース分断片52のウエブ52Wがそのまま流用される第2圧接板21と、この第2圧接板21とによって前記第1圧接板11を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板31と、を有している。そして、前記圧接力は、第1圧接板11の第1貫通孔13、第2圧接板21の第2貫通孔23、及び第3圧接板31の第3貫通孔33を挿通して設けられたボルト41bにナット41nを螺合させて締結することで付与されるようになっており、また、圧接力の安定化を図るべく、ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間にはそれぞれ皿ばね43が介装されている。また、第1貫通孔13は、前記所定方向に長い長孔に形成されており、これにより、前記一方のブレース分断片51と他方のブレース分断片52との相対移動に応じて第2圧接板21及び第3圧接板31が第1圧接板11に対して前記所定方向に摺動可能に構成され、その結果、当該摺動時の摩擦力Ffにより前記相対移動を抑制して柱梁架構1の振動を減衰するようにしている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−352113号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来は、前記他方のブレース分断片52に設けられる第2圧接板21と第3圧接板31とは、図2Aに示すように、上記のボルト41b・ナット41n以外に別途締結部55が設けられ、この締結部55によって互いに相対移動不能に一体に連結固定されていた。そして、これにより、前記他方のブレース分断片52(第2圧接板21)からの外力Pを、当該締結部55を介して第3圧接板31に作用させて、第3圧接板31を第2圧接板21と連動させて第1圧接板11に対して摺動させるようにしていた。
【0005】
ここでこのような締結部55を設けていた理由は、上記のボルト41bに図2に示すような剪断力Fsを加えることを想定しておらず、ボルト41bにはボルト軸力のみを働かせるようにしていたためである。つまり、第2圧接板21と第3圧接板31との間における前記所定方向の力の伝達を、前記ボルト41bでは行っていなかったためである。
【0006】
しかしながら、このような締結部55を設けると摩擦ダンパー10の部品数が多くなるだけでなく、第3圧接板31に対して前記締結部55配置用の領域を確保しなければならず、第3圧接板31のサイズダウンも阻まれる。そして、その結果として、摩擦ダンパー10のコストダウン及びコンパクト化が阻まれてしまう。
【0007】
本発明は、かかる従来の課題に鑑みて成されたもので、コストダウン及びコンパクト化を図れる摩擦ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す摩擦ダンパーは、
建物架構において所定方向に相対移動する一対の部材の間に配置されて、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制する摩擦ダンパーであって、
前記一対の部材のうちの一方の部材に設けられる第1圧接板と、
前記一対の部材のうちの他方の部材に設けられる第2圧接板と、
前記第2圧接板とによって前記第1圧接板を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板と、
前記圧接力を付与すべく、前記第1圧接板の前記所定方向に長い第1貫通孔、前記第2圧接板の第2貫通孔、及び前記第3圧接板の第3貫通孔を挿通して設けられるボルト部材と、
前記ボルト部材を内側に挿入しつつ、前記第1貫通孔、前記第2貫通孔、及び前記第3貫通孔を挿通して設けられるパイプ部材と、を有し、
前記第1貫通孔によって前記第1圧接板に対する前記第2圧接板の前記所定方向の摺動が許容されるとともに、前記摺動に連動して前記第3圧接板が前記第1圧接板に対して前記所定方向に摺動するように、当該摺動させるための力が、前記パイプ部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達されることを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、前記第3圧接板を第2圧接板に連動させて摺動させるための力は、前記パイプ部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達される。よって、前記第3圧接板を第2圧接板に締結固定するための締結部を省略できるとともに、当該省略に伴って第3圧接板のサイズダウンも可能となり、その結果として、摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図ることができる。
【0010】
また、前記第3圧接板を摺動させるための力は、前記パイプ部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達されるので、前記ボルト部材に剪断力が作用することは殆どなく、前記ボルト部材を圧接力の付与のみに特化させて使用できて、その健全性を高く維持可能となる。
【0011】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の摩擦ダンパーであって、
前記パイプ部材と前記ボルト部材との間には、隙間が形成されていることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、前記第3圧接板を摺動させるための力の前記ボルト部材への入力は、前記隙間によって完全に防止されるので、前記ボルト部材に剪断力が作用することを確実に防ぐことができる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項1又は2に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板の前記両面には滑動板又は摩擦板が固着され、
前記第2圧接板及び前記第3圧接板において、前記第1圧接板の滑動板と対向する面には摩擦板が固着される一方、前記第1圧接板の摩擦板と対向する面には滑動板が固着され、
前記滑動板と前記摩擦板との摺動によって前記摩擦力が発生することを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、前記第1圧接板と、前記第2圧接板及び前記第3圧接板との摺動によって確実に摩擦力を発生させることができる。
【0013】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れか記載の摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材の先端部に螺着されて、前記ボルト部材の頭部とによって、前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に前記圧接力を付与するナットを有し、
前記頭部と該頭部に隣接する圧接板との間、及び前記ナットと該ナットに隣接する圧接板との間の少なくとも一方には、皿ばねが介挿されており、
前記皿ばねの弾発力が前記圧接力として前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に付与されることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、前記圧接力は、皿ばねの非線形領域の特性による一定の弾発力により付与されるので、圧接力設定時の誤差や前記圧接板の摩耗による影響を小さくできるなど、前記圧接力の大きさの安定化を図ることができる。
【0014】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記第3圧接板の前記第3貫通孔の周囲には、前記パイプ部材の外径よりも小径の孔部を有するプレート部材が前記孔部を前記第3貫通孔に一致させて固着されており、
前記孔部に前記ボルト部材が通されていることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、前記第3貫通孔からの前記パイプ部材の抜け落ちを前記プレート部材によって有効に防ぐことができる。
【0015】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記第2圧接板の前記第2貫通孔の周囲には、前記パイプ部材の外径よりも小径の孔部を有するプレート部材が前記孔部を前記第2貫通孔に一致させて固着されており、
前記孔部に前記ボルト部材が通されていることを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、前記第2貫通孔からの前記パイプ部材の抜け落ちを前記プレート部材によって有効に防ぐことができる。
【0016】
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記所定方向に関する前記パイプ部材との間の隙間の大きさは、前記第1貫通孔よりも前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔の方が小さく、
前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔の前記隙間の大きさは、それぞれ0.1〜3.0mmの範囲の任意値であることを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔の前記隙間の大きさを、前記第1貫通孔の前記隙間の大きさよりも小さくしているとともに、それぞれ0.1〜3.0mmの範囲の任意値にしているので、施工時における前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔への前記パイプ部材の挿通作業を容易にしながらも、前記第3圧接板を摺動させるための力の伝達を第2圧接板から第3圧接板へと確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る摩擦ダンパーによれば、摩擦ダンパーのコストダウン及びコンパクト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
===第1実施形態の摩擦ダンパー10===
図3Aは、建物の柱梁架構1のブレース5に適用された第1実施形態の摩擦ダンパー10の説明図であり、図1中のII−II矢視に相当する断面図である。また、図3Bは、図3Aの拡大図である。更に、図4A、図4B、図4C、図4Dは、それぞれに、図3A中のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【0019】
前述した図1の例と同様に、第1実施形態の摩擦ダンパー10も、柱梁架構1のブレース5に組み込まれている。すなわち、この摩擦ダンパー10が組み込まれるブレース5も、適宜位置で互いに間隔S1を隔てるように分断されて、図3Aに示すように一対のブレース分断片51,52(一対の部材に相当)が形成されており、もって、これらブレース分断片51,52同士は、前記間隔S1によってブレース5の架け渡し方向(所定方向に相当し、以下では、ブレース架け渡し方向とも言う)に相対移動可能になっている。そして、摩擦ダンパー10は、一方のブレース分断片51のウエブ51Wにフィラープレート53を介してボルト止めされる第1圧接板11と、他方のブレース分断片52のウエブ52Wがそのまま流用される第2圧接板21と、この第2圧接板21とによって前記第1圧接板11を表裏両面から所定の圧接力で板厚方向に挟み込む第3圧接板31と、を有している。
【0020】
ここで、第1圧接板11の表裏両面には、それぞれ、滑動板15の一例としてのステンレス板が移動不能に固着されている一方、これら滑動板15,15と対向する第2圧接板21及び第3圧接板31の各面には、それぞれ摩擦板25,35が移動不能に固着されている。この固着方法としては、例えば、(1)接着による方法、(2)固着面を構成する各々の表面について表面粗さの増大化処理(第1圧接板11、第2圧接板21、第3圧接板31、滑動板15及び摩擦板25,35表面の目荒らし、ショットブラスト等)を施して、固着面で相対的な滑りが生じないようにする方法、(3)嵌合による方法等が挙げられる。
【0021】
一方、第1圧接板11、第2圧接板21、第3圧接板31には、それぞれ、第1貫通孔13、第2貫通孔23、第3貫通孔33が板厚方向に貫通形成されているとともに、これらの貫通孔13,23,33には串刺し状に、鋼製の丸パイプ47(断面正円形状のパイプで、パイプ部材に相当)が通され、更に、当該丸パイプ47には、管軸方向に沿って高力ボルト41b(ボルト部材に相当)が通されている。そして、この高力ボルト41bの先端部にはナット41nが螺着されており、これら高力ボルト41b及びナット41nによって、第1圧接板11は、第2圧接板21と第3圧接板31とに挟まれた状態で締結され、これにより、挟み込みのための前記圧接力が板厚方向に付与されている。
【0022】
よって、この圧接力により、第1圧接板11の滑動板15に対して第2圧接板21の摩擦板25及び第3圧接板31の摩擦板35は当接され、摺動時には前記圧接力に応じた摩擦力Ffを生じる(図3Bを参照)。そして、この摩擦力Ffが柱梁架構1の振動の減衰力となる。なお、高力ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間にはそれぞれ皿ばね43が介装されており、これら皿ばね43の弾発力により圧接力の大きさの安定化が図られている。
【0023】
ところで、上記の摺動を前記ブレース架け渡し方向について許容すべく、第1圧接板11の前記第1貫通孔13は、前記ブレース架け渡し方向に沿って長い長孔に形成されている(図4Cも参照)。すなわち、この長孔13によって、柱梁架構1のブレース分断片51,52同士のブレース架け渡し方向の相対移動に伴い、第1圧接板11に対して第2圧接板21及び第3圧接板31が、前記ブレース架け渡し方向に摺動可能になっている。
【0024】
これに対して、第2圧接板21の第2貫通孔23及び第3圧接板31の第3貫通孔33の方は、丸パイプ47との間に形成される前記ブレース掛け渡し方向の隙間S2が前記第1貫通孔13の場合よりも小さく、しかも、当該隙間S2が極力小さくなるような孔径の正円に設定される(図3Bを参照)。
【0025】
この理由は、この発明にあっては、丸パイプ47と第2貫通孔23及び第3貫通孔33との当接係合を介して、第1圧接板11に対する第2圧接板21の摺動に連動させて第3圧接板31を摺動させるようにしているためである。
【0026】
詳しくは、柱梁架構1が振動する際に、図3Bに示すように、前記他方のブレース分割片52たる第2圧接板21にあっては、振動に伴う外力Pが柱梁架構1から直接入力されて、これにより第2圧接板21は第1圧接板11に対して摺動し、この摺動により摩擦力Ffを発生して上記振動の減衰力とするが、第3圧接板31にあっては、前記他方のブレース分割片52には直結されておらず、それ故に、摺動に要する力を、第2圧接板21から丸パイプ47を介して付与される必要があるためである。
【0027】
つまり、図3Bに示すように、第2圧接板21に作用する前記外力Pの一部の力は、丸パイプ47と第2貫通孔23の内周面との当接係合による支圧力Fpとして第2圧接板21から丸パイプ47へと伝達され、そして、丸パイプ47に伝達された支圧力Fpは、丸パイプ47内で剪断力Fsの形態を経た後に、丸パイプ47と第3貫通孔33の内周面との当接係合によって第3圧接板31へと伝達され、その結果、この伝達された支圧力Fpによって第3圧接板31は第1圧接板11に対して摺動する。そして、この摺動に伴って第3圧接板31と第1圧接板11との間には摩擦力Ffが発生し、上記の振動の減衰に寄与するのである。
【0028】
従って、これら第2貫通孔23及び第3貫通孔33の孔径は、施工時に丸パイプ47を通すのに問題の無い範囲内で極力小さくするのが望ましく、例えば、丸パイプ47を挿通させた際の丸パイプ47との隙間S2が、前記ブレース掛け渡し方向について0.1〜3.0mmの範囲にすると良い。そうすれば、施工時の丸パイプ通し作業を容易にしながらも、摺動に必要な支圧力Fpを第3圧接板31へ確実に伝達可能となる。
【0029】
ちなみに、上記隙間S2を零に設定した理想状態の場合には、この摩擦ダンパー10は、図5に示すような振動エネルギー吸収履歴特性を示す。このグラフは、ブレース掛け渡し方向に所定振幅δ0で強制加振して得られるグラフであり、横軸には、ブレース掛け渡し方向の相対変位δを示し、縦軸には、摩擦ダンパー10が発生する摩擦力の総和ΣFfを示している。
【0030】
ここで、グラフ中の摩擦力Ff0は、滑動板15と摩擦板25,35との摩擦係数をμとし、圧接力をNとした場合に下式で表される。
Ff0=2×μ×N
なお、上式中の「2」という数値の意味は、上記の摩擦ダンパー10が摩擦力Ffを発生する摺動面を2面有する2面摩擦の摩擦ダンパーであるからである。また、図3B中における剪断力Fs、支圧力Fp、摩擦力Ff、及び外力Pは、次のような釣り合い関係にあるのは言うまでもない。
Fs=Fp=Ff
P=2×Ff
【0031】
ところで、望ましくは、図3Bに示すように高力ボルト41bと丸パイプ47との間に隙間を設けると良く、より望ましくは、当該隙間の大きさGを、設計で想定する限界状態(例えば、弾性限界)まで変形状態の丸パイプ47において当該丸パイプ47の内周面と高力ボルト41bとが当接しないようなサイズにすると良い。そして、このように設定すれば、第3圧接板31を摺動させるための支圧力Fpは、専ら丸パイプ47のみに作用して高力ボルト41bには作用しないので、高力ボルト41bの健全性を高い状態に維持可能となる。
【0032】
また、望ましくは、図3Bに示すように、丸パイプ47の全長を、その管軸方向の両端が第3貫通孔33及び第2貫通孔23から外方に突出しないような長さに設定するとともに、第3圧接板31の皿ばね43側の面及び第2圧接板21の皿ばね43側の面に、それぞれ孔部45a付きの薄板45(プレート部材に相当)を固着し、更に、これら薄板45,45の孔部45a,45aの孔径を、前記丸パイプ47の外径よりも小径に設定すると良い。このようにすれば、当該丸パイプ47は薄板45,45によって管軸方向の移動を規制されるので、第3、第2、第1貫通孔33,23,13からの丸パイプ47の抜け落ちは確実に防止される。なお、これら薄板45,45を、摩擦係数の低い素材で構成するか又は同素材でコーティングすれば、これら薄板45,45に当接する皿ばね43の角部の摩耗を低減できる。
【0033】
===第2実施形態の摩擦ダンパー10a===
上述の第1実施形態では、図3Aに示すように、第1圧接板11の表裏両面を第2圧接板21及び第3圧接板31で挟み込むことにより、摩擦力が生じる摺動面を2面形成した2面摩擦の摩擦ダンパー10を例示したが、図6に示す第2実施形態の摩擦ダンパー10aは、摺動面を4面形成した4面摩擦の摩擦ダンパーである点で相違する。すなわち、第1圧接板11aが1枚追加されて2枚となり、これに伴い、第3圧接板31aも1枚追加されて2枚になっている。なお、ここでは、説明の都合上、追設された第1圧接板には符号11aを、また、追設された第3圧接板には符号31aを付して示しているが、それぞれに、第1実施形態の第1圧接板11及び第3圧接板31と全く同仕様の部材である。
【0034】
図6を参照して詳細に説明すると、先ず、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aにあっては、第1実施形態において第1圧接板11がボルト止めされたブレース分断片51のウエブ51Wの片面だけでなく、その反対側の面にもフィラープレート53を介して別途第1圧接板11aがボルト止めされており、また、この追設された第1圧接板11aを前記第1実施形態の第2圧接板21とで挟み込むべく新たに第3圧接板31aが追設されている。そして、これら追設された第1圧接板11aにも第1貫通孔13が同仕様の長孔に形成される一方、追設された第3圧接板31aにも第3貫通孔33が同仕様の正円に形成されており、更に、これら第1及び第3貫通孔13,33には、前記第1実施形態の第1乃至第3貫通孔13,23,33に通された丸パイプ47及び高力ボルト41bが挿通されてその先端部のナット41nにより締結されている。
【0035】
よって、第2圧接板21と、追設された第1圧接板11aとの間に新たに摺動面が形成され、更に、追設された第1圧接板11aと、追設された第3圧接板31aとの間にも新たに摺動面が形成され、これにより、第1実施形態の2面摩擦の摩擦ダンパー10よりも2面だけ摺動面が増えた4面摩擦の摩擦ダンパー10aが達成されている。
【0036】
ちなみに、この追設された第3圧接板31aも、第1圧接板11aに対して摺動するための支圧力Fpを、丸パイプ47と第3貫通孔33及び第2貫通孔23との当接係合を介して第2圧接板21から付与されるのは言うまでもない。
【0037】
また、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aは4面摩擦であることから、上述の2面摩擦の第1実施形態と同値の圧接力の作用下においても、第1実施形態の2倍の大きさの摩擦力ΣFfを発生させ得るので、コンパクトな割には大きな摩擦力ΣFfを出力可能となる。
【0038】
更には、この第2実施形態の摩擦ダンパー10aでは、第2圧接板21に関して線対称に第1圧接板11と第1圧接板11aとが配置されているとともに、第3圧接板31及び第3圧接板31aも第2圧接板21に関して線対称に配置されている。よって、第2圧接板21から第3圧接板31,31aへと前記支圧力Fpを偏り無くほぼ均等に割り振って作用させることができて、その結果、振動の減衰作用の安定化を図れる。
【0039】
図7及び図8には、6面摩擦及び8面摩擦に構成した摩擦ダンパー10b,10cをそれぞれ例示している。但し、これらの摩擦ダンパー10b,10cの構成は、上述と同様の方法により、つまり、更に第1圧接板11aと第3圧接板31aを追設することにより得られるのは明らかであるので、その詳細な説明は省略する。なお、これら6面摩擦及び8面摩擦の摩擦ダンパー10b,10cにおいても、追設された第3圧接板31aは、第1圧接板11,11aに対して摺動するための支圧力Fpを、丸パイプ47と第3貫通孔33及び第2貫通孔23との当接係合を介して第2圧接板21から付与されるのは言うまでもない。
【0040】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0041】
上述の実施形態では、摩擦ダンパー10を柱梁架構1のブレース5のウエブに組み込んでいたが、何等これに限るものではなく、ブレース5のフランジに組み込んでも良く、更には、柱梁架構1のブレース5以外の部位(例えば、間柱、間仕切り壁など)に組み込んでも良い。つまり、建物の柱梁架構1の振動時に、互いに相対移動する一対の部材であれば、それらの間に設置することができる。
【0042】
上述の実施形態では、パイプ部材の一例として鋼製の丸パイプ47を例示したが、想定される前記剪断力Fsに耐用し得る耐力を有し、且つ、内側に高力ボルト41bを挿通可能であれば、その形状や素材については何等これに限るものではない。例えば、形状については、断面矩形状の角パイプを用いても良く、素材にあってはアルミニウム等の非鉄金属や樹脂等の非金属でも良い。
【0043】
上述の実施形態では、前記圧接力を付与するための高力ボルト41bが挿通された丸パイプ47を1本だけ備えた構成を例示したが、何等これに限るものではない。すなわち、当該丸パイプ47のみを介して、第2圧接板21から第3圧接板31へと第3圧接板31を摺動させるための支圧力Fpが伝達されるのであれば、当該高力ボルト41bが挿通された丸パイプ47の設置本数を複数本にしても良い。その場合の設置例としては、ブレース架け渡し方向に沿って複数本並べることや、ブレース架け渡し方向及び板厚方向の両者と直交する板幅方向に沿って複数本並べること等が挙げられる。
【0044】
上述の実施形態では、摩擦板25,35の素材について詳説していなかったが、ステンレス板等の滑動板15との間で適度な摩擦力を発生するものであれば適用可能である。例えば、滑動板15がステンレス板の場合には、摩擦板25,35は、熱硬化性樹脂を結合材としてアラミド繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、カーボンファイバー等の繊維材料と、カシューダスト、鉛などの摩擦調整材と、硫酸バリューム等の充填剤とから主に構成される摩擦材料で形成される。なお、摩擦板25,35には、上述の摩擦材料を単独で用いても良いし、摩擦材料に鋼板等を裏打ちして強度を高めたものを用いてもよい。
【0045】
上述の実施形態では、2面、4面、6面、及び8面摩擦の摩擦ダンパー10,10a,10b,10cを例示したが、摺動面数は何等これに限るものではなく、2×n面摩擦(nは5以上の整数)に構成しても良いのは言うまでもない。
【0046】
上述の実施形態では、第1圧接板11に滑動板15の一例としてのステンレス板を設け、第2圧接板21及び第3圧接板31に摩擦板25及び摩擦板35を設けたが、何等これに限るものではなく、この配置関係を逆にしても良い。
【0047】
上述の実施形態では、皿ばね43を、高力ボルト41bの頭部と第2圧接板21との間、及びナット41nと第3圧接板31との間の両方にそれぞれ介挿したが、いずれか一方にのみ設置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】柱梁架構1のブレース5に組み込まれた摩擦ダンパー10dの説明図である。
【図2】図1中のII−II断面図である。
【図3A】第1実施形態の摩擦ダンパー10の説明図である。
【図3B】同摩擦ダンパー10の拡大図である。
【図4】図4A、図4B、図4C、図4Dは、それぞれに、図3A中のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【図5】この摩擦ダンパー10の振動エネルギー吸収履歴特性である。
【図6】第2実施形態の摩擦ダンパー10aの説明図である。
【図7】他の実施形態として6面摩擦に構成した摩擦ダンパー10bの説明図である。
【図8】他の実施形態として8面摩擦に構成した摩擦ダンパー10cの説明図である。
【符号の説明】
【0049】
1 柱梁架構、5 ブレース、10 摩擦ダンパー、
10a 摩擦ダンパー、10b 摩擦ダンパー、
10c 摩擦ダンパー、10d 摩擦ダンパー、
11 第1圧接板、11a 第1圧接板、13 第1貫通孔、
15 滑動板、21 第2圧接板、23 第2貫通孔、25 摩擦板、
31 第3圧接板、31a 第3圧接板、33 第3貫通孔、
35 摩擦板、41b 高力ボルト(ボルト部材)、41n ナット、
43 皿ばね、45 薄板(プレート部材)、45a 孔部、
47 丸パイプ(パイプ部材)、
51 一方のブレース分断片、51W ウエブ、
52 他方のブレース分断片、52W ウエブ、
53 フィラープレート、55 締結部、
Ff 摩擦力、Fs 剪断力、P 外力、Fp 支圧力、
S1 間隔、S2 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物架構において所定方向に相対移動する一対の部材の間に配置されて、前記相対移動に伴って摺動する圧接板同士の摩擦力により、前記相対移動を抑制する摩擦ダンパーであって、
前記一対の部材のうちの一方の部材に設けられる第1圧接板と、
前記一対の部材のうちの他方の部材に設けられる第2圧接板と、
前記第2圧接板とによって前記第1圧接板を両面から所定の圧接力で挟み込む第3圧接板と、
前記圧接力を付与すべく、前記第1圧接板の前記所定方向に長い第1貫通孔、前記第2圧接板の第2貫通孔、及び前記第3圧接板の第3貫通孔を挿通して設けられるボルト部材と、
前記ボルト部材を内側に挿入しつつ、前記第1貫通孔、前記第2貫通孔、及び前記第3貫通孔を挿通して設けられるパイプ部材と、を有し、
前記第1貫通孔によって前記第1圧接板に対する前記第2圧接板の前記所定方向の摺動が許容されるとともに、前記摺動に連動して前記第3圧接板が前記第1圧接板に対して前記所定方向に摺動するように、当該摺動させるための力が、前記パイプ部材の前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔との係合を介して前記第2圧接板から前記第3圧接板へと伝達されることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦ダンパーであって、
前記パイプ部材と前記ボルト部材との間には、隙間が形成されていることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦ダンパーであって、
前記第1圧接板の前記両面には滑動板又は摩擦板が固着され、
前記第2圧接板及び前記第3圧接板において、前記第1圧接板の滑動板と対向する面には摩擦板が固着される一方、前記第1圧接板の摩擦板と対向する面には滑動板が固着され、
前記滑動板と前記摩擦板との摺動によって前記摩擦力が発生することを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記ボルト部材の先端部に螺着されて、前記ボルト部材の頭部とによって、前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に前記圧接力を付与するナットを有し、
前記頭部と該頭部に隣接する圧接板との間、及び前記ナットと該ナットに隣接する圧接板との間の少なくとも一方には、皿ばねが介挿されており、
前記皿ばねの弾発力が前記圧接力として前記第1圧接板、前記第2圧接板、前記第3圧接板に付与されることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記第3圧接板の前記第3貫通孔の周囲には、前記パイプ部材の外径よりも小径の孔部を有するプレート部材が前記孔部を前記第3貫通孔に一致させて固着されており、
前記孔部に前記ボルト部材が通されていることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記第2圧接板の前記第2貫通孔の周囲には、前記パイプ部材の外径よりも小径の孔部を有するプレート部材が前記孔部を前記第2貫通孔に一致させて固着されており、
前記孔部に前記ボルト部材が通されていることを特徴とする摩擦ダンパー。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の摩擦ダンパーであって、
前記所定方向に関する前記パイプ部材との間の隙間の大きさは、前記第1貫通孔よりも前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔の方が小さく、
前記第2貫通孔及び前記第3貫通孔の前記隙間の大きさは、それぞれ0.1〜3.0mmの範囲の任意値であることを特徴とする摩擦ダンパー。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−150183(P2009−150183A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330579(P2007−330579)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】