説明

摩擦係合装置

【課題】部品点数を抑えた簡単な構成で、エンドプレートの移動を規制するスナップリングが外れることを効果的に防止できるようにする。
【解決手段】複数の摩擦プレート21,22における積層方向の一端に配置した環状のエンドプレート24と、ケーシング10に係合してエンドプレート24が積層方向に移動することを防止する環状のスナップリング28とを備え、エンドプレート24の側面24aには、径方向の外側を向く段差面25が形成されており、スナップリング28は、その側面28cがエンドプレート24における段差面25の外径側25aに当接しており、かつその内周端28bが段差面25に対向している。スナップリング28が巻き方向の力によって小径化する際に、段差面25に当接することでそれ以上の小径化が規制されるので、スナップリング28が溝部14から内径側に外れることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の変速機などが備えるクラッチやブレーキなどの摩擦係合装置に関し、詳細には、摩擦プレートの積層方向の移動を規制するエンドプレートとケーシングとの間に設置したスナップリングなどの係止部材が外れることを防止するための構造を備えた摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された自動変速機は、油圧式の摩擦係合装置(クラッチ又はブレーキ)を備えている。この種の摩擦係合装置として、例えば、特許文献1に示すように、ケーシング(ハウジング)と、ケーシング内に複数が重ねて配列された摩擦プレートと、複数の摩擦プレートにおける積層方向の一端側に配置したエンドプレートと、複数の摩擦プレートを積層方向の他端側からエンドプレート側に押し付ける油圧ピストンと、油圧ピストンとエンドプレートとの間に設置したリターンスプリングとを備えたものがある。油圧ピストンは、作動油の油圧でエンドプレート側に移動することで摩擦プレートを押圧する一方、リターンスプリングの付勢力で摩擦プレートから離間する方向に移動するようになっている。
【0003】
このような摩擦係合装置では、リターンスプリングの一端がエンドプレートに支持されているため、エンドプレートの移動を規制するための構造が必要となる。そこで、エンドプレートの外側面とそれに対向するケーシングの内側面との間にスナップリング(係止部材)を設置している。このスナップリングは、円環状の一部に切れ目を有する略C字型の金属製部材である。このスナップリングによって、エンドプレートの外側(ピストンと反対側)への移動を規制するようになっている。
【0004】
ところが、上記の構成では、リターンスプリングの付勢力でスナップリングがエンドプレートに対して常に押し付けられた状態になっている。そのため、摩擦プレートの回転でエンドプレートが組み付けガタの分、回転方向にずれると、摩擦力によってスナップリングに回転方向の力が加わる。これにより、スナップリングに巻き方向の力が付与されて、小径化する方向の変形が生じる。この場合、スナップリングは、その外周端がケーシングの内側面の環状溝に係合しているが、小径化することで、極めて稀ではあるが、環状溝から内径側に外れてしまうおそれがある。
【0005】
上記のような問題に対処するための従来技術として、特許文献1に示す摩擦係合装置のスナップリングある。特許文献1の摩擦係合装置は、ケーシング(ハウジング)側に配設される第1のスナップリングと、エンドプレート側に配設される第2のスナップリングとの2本を重ね合わせた構成のスナップリングを備えている。第1のスナップリングは、外周方向へ向かって厚み寸法が漸増するように形成されており、第2のスナップリングは、外周方向へ向かって厚み寸法が漸減するように形成されている。そして、第1のスナップリングと第2のスナップリングを重ね合わせることで、第1のスナップリングの外側面と第2のスナップリングの外側面とが略平行になるように構成されている。これにより、ケーシングに特別な加工を施すことなく、第1のスナップリングと第2のスナップリングの相補的なくさび効果により、スナップリングの外れを抑制できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−309292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す摩擦係合装置のスナップリングは、第1のスナップリングと第2のスナップリングの2本で構成されているため、その分、摩擦係合装置の部品点数が多くなる。また、第1のスナップリングと第2のスナップリングの2本を重ね合わせ、その状態でケーシングの溝部に嵌合させなければならない。そのため、スナップリングの組み付けが簡単に行えず、摩擦係合装置の組立作業の煩雑化を招くという問題がある。また、第1、第2のスナップリングは、断面を台形状に加工する必要がある。そのため、スナップリングの製造に手間と時間がかかり、製品のコスト増につながる。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、組立工程の容易化を図りながら、係止部材が外れることを効果的に防止できる摩擦係合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、ケーシング(10)と、ケーシング(10)内で積層された複数の摩擦プレート(21,22)と、複数の摩擦プレート(21,22)における積層方向の一端側に設置した環状のエンドプレート(24)と、複数の摩擦プレート(21,22)における積層方向の他端側に設置したピストン(26)と、エンドプレート(24)とピストン(26)との間で積層方向に付勢力を付与する付勢手段(30)と、ケーシング(10)とピストン(26)との間に画成した油圧室(32)と、エンドプレート(24)がピストン(26)から離間する方へ移動することを規制する環状の係止部材(28)と、を備えた摩擦係合装置(B1)において、係止部材(28)は、その外周端(28a)又は内周端がケーシング(10)の内面(11a)に形成した溝部(14)に対して径方向に係合していると共に、エンドプレート(24)の係止部材(28)側の側面(24a)には、径方向を向く段差面(25)が形成されており、係止部材(28)は、エンドプレート(24)における段差面(25)の外径側(25a)又は内径側に当接しており、当該係止部材(28)の内周端(28b)又は外周端がエンドプレート(24)の段差面(25)に対向していることを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる摩擦係合装置によれば、エンドプレートの側面に形成した径方向を向く段差面により、エンドプレートの側面は、段差面の外径側と内径側のいずれか一方が他方よりも係止部材側に突出している。そして、係止部材は、当該側面における段差面の外径側又は内径側に当接しており、当該係止部材の内周端又は外周端が段差面に対向している。したがって、係止部材が小径化又は大径化する方向に変形した場合でも、係止部材の内周端又は外周端がエンドプレートの段差面に当接することで、それ以上の小径化又は大径化を抑制することができる。これにより、係止部材の周端がケーシングの溝部から外れることを防止できる。したがって、摩擦係合装置の部品点数を増やすことなく、簡単な構成で、係止部材が外れることを効果的に防止できる。また、係止部材の張力を上げるためにあらかじめ係止部材の径寸法を大きくしておくなど、摩擦係合装置の構成部品の形状や配置に影響を及ぼす構造変更を行う必要もない。
【0011】
また、上記構成の摩擦係合装置では、係止部材(28)の内周端(28b)又は外周端と、エンドプレート(24)の段差面(25)との間には、径方向の隙間(CL)が形成されており、当該隙間(CL)の寸法は、溝部(14)に対する係止部材(28)の径方向の係り代(X)よりも小さい寸法(CL<X)であることが望ましい。これによれば、溝部に係合している係止部材が小径化又は大径化する方向に変形した場合でも、溝部に対する係り代の係合が外れる前に、係止部材がエンドプレートの段差面に当接し、それ以上の小径化が抑制される。したがって、溝部から係止部材が外れることを確実に防止できる。
【0012】
また、上記の摩擦係合装置では、段差面(25)は、径方向の外側を向いて形成されており、エンドプレート(24)の厚さ寸法は、段差面(25)の外径側(25)の厚さ寸法(t1)よりも内径側の厚さ寸法(t2)の方が厚い寸法(t1<t2)になっているとよい。このように、エンドプレートの内径側を外径側よりも厚くすれば、エンドプレートの剛性を向上させることができ、エンドプレートの変形を少なく抑えることができる。これにより、摩擦プレートの当りを均一化できるので、摩擦プレートの磨耗を低減できる。また、エンドプレートの内径側を厚くすることで、エンドプレートの周辺の空きスペースを有効活用できるので、デッドスペースを削減できる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる摩擦係合装置によれば、部品点数を少なく抑えた簡単な構成で、組立工程の容易化を図りながら、係止部材が外れることを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる摩擦係合装置の一実施形態にかかるブレーキ(第1ブレーキ)を備えた変速機の全体構成例を示すスケルトン図である。
【図2】第1ブレーキの詳細な構成を示す部分側断面図である。
【図3】エンドプレートとスナップリングを軸方向から見た側面図である。
【図4】ケーシング及びエンドプレートとスナップリングの寸法関係を説明するための図で、図3のIV−IV断面に対応する箇所の側断面図である。
【図5】ケーシング及びエンドプレートとスナップリングの寸法関係を説明するための図で、図3のV−V断面に対応する箇所の側断面図である。
【図6】ケーシング及びエンドプレートとスナップリングの寸法関係を説明するための図で、図3のVI−VI断面に対応する箇所の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる摩擦係合装置(後述する第1ブレーキB1)を備えた変速機のスケルトン図である。同図に示す変速機1は、車両に搭載された自動変速機であり、ケーシング(トランスミッションケース)10と、該ケーシング10に収容されたシングルピニオン型の第1遊星歯車機構P1と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車機構P2と、シングルピニオン型の第3遊星歯車機構P3とを備えている。これら第1乃至第3遊星歯車機構P1〜P3によって、入力軸2の回転を変速して出力歯車3から出力するようになっている。なお、入力軸2は、エンジン4によって回転駆動されるトルクコンバータTCのタービン5に連結されている。
【0016】
変速機1は、複数の変速段を選択的に成立させるための係合要素として、油圧式の摩擦係合装置である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3を備えている。これら、クラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3は、図示しない油圧アクチュエータを有する油圧制御回路で係合制御されることで、それぞれの締結・解放状態が切り換えられる。そして、クラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3の締結・解放の組み合わせに応じて、複数の変速段のいずれかが選択的に成立するようになっている。
【0017】
すなわち、変速機1では、第1乃至第3遊星歯車機構P1〜P3の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちいずれかの連結状態の組み合わせに応じて、第1速段〜第6速段の6つの前進ギヤ段、及び1つの後進ギヤ段が成立するようになっている。なお、ここでは、各変速段の設定に関する詳細な説明は省略する。
【0018】
図2は、変速機1が備える第1ブレーキ(摩擦係合装置)B1の側断面図である。また、図3は、後述するエンドプレート24とスナップリング28を軸方向の一端側から見た側面図である。また、図4乃至図6は、ケーシング10及びエンドプレート24とスナップリング28の寸法関係を説明するための図で、図4,5,6はそれぞれ、図3のIV−IV断面、V−V断面、VI−VI断面に対応する箇所の側断面図である。なお、以下の説明では、変速機1の入力軸2(図1参照)が延びている方向を軸方向と称す。第1ブレーキB1は、図2に示すように、多板式の油圧ブレーキであって、ケーシング10内で複数が軸方向に沿って重ねて配列された円形環状の第1摩擦プレート21及び第2摩擦プレート22と、第1、第2摩擦プレート21,22における軸方向の一端側に設置した円形環状のエンドプレート24と、第1、第2摩擦プレート21,22における軸方向の他端側に設置したピストン26と、エンドプレート24とピストン26との間で軸方向の付勢力を付与するリターンスプリング30と、ケーシング10とピストン26との間に画成した油圧室32とを備えて構成されている。そして、エンドプレート24は、筒状部11の内面11aに形成した溝部14に係合する円形環状のスナップリング(係止部材)28によって、軸方向でピストン26から離間する方へ移動することが規制されている。
【0019】
ケーシング10は、軸方向に延びる有底略円筒型の筒状部11を有している。筒状部11の内面11aには、軸方向に延びる突起状のスプライン歯12が形成されている。詳細な図示は省略するが、スプライン歯12は、内面11aの周方向に沿って所定間隔で複数本が配列形成されている。また、第1摩擦プレート21の外周端には、筒状部11のスプライン歯12の間に嵌合可能な複数の突起部21aが形成されている。突起部21aは、第1摩擦プレート21の外周端の周方向に沿って所定間隔で複数が配列形成されている。これらにより、第1摩擦プレート21は、筒状部11の内面11aに対して、軸方向に移動可能かつ相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0020】
また、筒状部11の内径側には、第1遊星歯車機構P1のキャリアCA1(図1参照)と一体回転するように構成されたハブ34が設置されている。ハブ34の外周面34aには、軸方向に延びる突起状のスプライン歯35が形成されている。詳細な図示は省略するが、スプライン歯35は、外周面34aの周方向に沿って所定間隔で複数本が配列形成されている。そして、第2摩擦プレート22の内周端には、ハブ34のスプライン歯35の間に嵌合可能な複数の突起部22aが形成されている。突起部22aは、第2摩擦プレート22の内周端の周方向に沿って所定間隔で複数が配列形成されている。これらにより、第2摩擦プレート22は、ハブ34の外周面34aに対して、軸方向に移動可能かつ相対回転不能にスプライン嵌合している。そして、複数の第1摩擦プレート21と複数の第2摩擦プレート22とは、軸方向に沿って交互に重ね合わせて配列されている。以下、この第1、第2摩擦プレート21,22を重ね合わせた方向を積層方向という。
【0021】
エンドプレート24は、第1摩擦プレート21及び第2摩擦プレート22に対して、積層方向におけるピストン26と反対側の端部に隣接して設置されている。図3に示すように、エンドプレート24の外周端には、筒状部11の内面11aに形成したスプライン歯12に嵌合可能な複数の凸部24bと凹部24cが交互に形成されており、エンドプレート24は、筒状部11の内面11aに対して軸方向に若干量移動可能、且つ相対回転不能にスプライン嵌合している。
【0022】
リターンスプリング30は、第1、第2摩擦プレート21,22の外径側で、ピストン26とエンドプレート24との間に介在しており、ピストン26をエンドプレート24に対して軸方向に離間させるように付勢している。また、ケーシング10とピストン26との隙間に画成された油圧室32は、図示しない作動油供給経路から供給される油圧で、ピストン26を軸方向に沿ってエンドプレート24側に移動させるようになっている。なお、油圧室32のピストン26とケーシング10との径方向の隙間は、Oリング(シール部材)33で密封されている。
【0023】
そして、この第1ブレーキB1では、スナップリング28によって、エンドプレート24の積層方向の移動を規制するように構成している。スナップリング28は、金属製の弾性部材であり、図3に示すように、円環状の一部に切れ目28dを有する略C字型に形成されている。
【0024】
図2及び図5に示すように、筒状部11の内面11aに設けたスプライン歯12の先端には、径方向の外側に向かって窪んだ溝部14が形成されており、スナップリング28は、その外周端28aが溝部14に係合している。溝部14は、筒状部11の内面11aにおける周方向に配列形成された複数のスプライン歯12の先端それぞれに形成されており、全体が軸方向の同一位置で円環状をなす環状溝を構成している。
【0025】
一方、エンドプレート24の側面(ピストン26と反対側の側面)24aには、径方向の外側を向く環状の段差面25が形成されている。段差面25は、側面24aにおける径方向の途中位置に設けられており、エンドプレート24の全周に渡って形成されている。これにより、エンドプレート24の側面24aは、段差面25の外径側25aよりも内径側25bの方が軸方向でスナップリング28側に突出している。そして、ケーシング10の溝部14に係合しているスナップリング28は、その側面(エンドプレート24側の側面)28cがエンドプレート24の側面24aにおける段差面25の外径側25aに当接している。
【0026】
ここでは、図5に示すように、溝部14の深さ寸法をXとする。この深さ寸法Xは、溝部14に対するスナップリング28の径方向の掛かり代に相当する。一方、スナップリング28の内周端28bと段差面25との間には、径方向で所定寸法のクリアランスCLが設けられている。そして、このクリアランスCLと、溝部14の径方向の深さ寸法(スナップリング28の掛かり代)Xとの関係がCL<Xとなるように設定されている。また、図4に示すように、エンドプレート24の厚さ寸法は、段差面25の外径側25aの厚さ寸法t1よりも、段差面25の内径側25bの厚さ寸法t2の方が厚い寸法(t1<t2)に設定されている。
【0027】
上記構成のスナップリング28を組み付ける手順について簡単に説明する。第1ブレーキB1の組立においては、ピストン26の側部に第1、第2摩擦プレート21,22を積層した状態で設置する。そして、第1、第2摩擦プレート21,22の積層方向の一端側(ピストン26と反対側)にエンドプレート24を設置する。この際、エンドプレート24とピストン26との間にリターンスプリング30を介在させておく。この状態で、エンドプレート24は、リターンスプリング30でピストン26から離れる方へ付勢されているが、複数の第1、第2摩擦プレート21,22は、積層方向に若干のクリアランスを有している。したがって、エンドプレート24をリターンスプリング30の付勢力に抗してピストン26側に押圧すると、第1、第2摩擦プレート21,22のクリアランスの分、エンドプレート24がピストン26側に移動する。これにより、エンドプレート24の側面24aを軸方向に沿ってケーシング10の溝部14よりもピストン26側に押し込むことができる。
【0028】
溝部14にスナップリング28を嵌め込むには、スナップリング28の切れ目28dの両端を接近させて小径化し、その状態で、外周端28aを溝部14に内径側から嵌め込む。しかしながら、エンドプレート24がピストン26から離れる方へ付勢されている状態では、エンドプレート24の段差面25が邪魔になって、スナップリング28を溝部14よりも小径化できない。そこで、上記の手順でエンドプレート24の側面24aを溝部14よりもピストン26側に押し込んで移動させる。これにより、段差面25に干渉させることなく、溝部14にスナップリング28を嵌め込むことができる。以上により、エンドプレート24の段差面25の外径側25aにスナップリング28を設置することができる。
【0029】
上記構成の第1ブレーキB1の動作を説明する。図示しない作動油供給経路を通して油圧室32に作動油が供給されると、ピストン26がリターンスプリング30の付勢力に抗してエンドプレート24側に移動し、ピストン26とエンドプレート24との間で第1摩擦プレート21及び第2摩擦プレート22が押圧される。これにより、第1摩擦プレート21に対する第2摩擦プレート22の相対回転が不能となり、第1ブレーキB1が係合する。一方、油圧室32から作動油が排出されると、リターンスプリング30の付勢力でピストン26がエンドプレート24から離れる方に移動する。これにより、ピストン26とエンドプレート24との間で押圧されていた第1摩擦プレート21及び第2摩擦プレート22が解放される。こうして、第1摩擦プレート21に対する第2摩擦プレート22の相対回転が許容されることで、第1ブレーキB1が解放される。このように、油圧室32へ供給される油圧の調節によって、第1ブレーキB1の締結・解放が制御される。
【0030】
そして、本実施形態の第1ブレーキB1では、エンドプレート24の側面24aには、径方向の外側を向く段差面25が形成されている。そして、スナップリング28は、そのエンドプレート24側の側面28cがエンドプレート24の側面24aにおける段差面25の外径側25aに当接しており、その内周端28bがエンドプレート24の段差面25に対向している。したがって、スナップリング28が巻き方向の力で内径側に縮小した場合でも、エンドプレート24の段差面25がスナップリング28に当接することで、それ以上の小径化を規制することができる。これにより、スナップリング28がケーシング10の溝部14から外れることを防止できる。したがって、第1ブレーキB1及び変速機1の部品点数を増やすことなく、簡単な構成で、スナップリング28が外れることを効果的に防止できる。また、スナップリング28の張力を上げるためにあらかじめスナップリング28の径寸法を大きくしておくなど、第1ブレーキB1あるいは変速機1の構成部品の形状や配置に影響を及ぼす構造変更を行う必要もない。
【0031】
すなわち、本実施形態の第1ブレーキB1では、スナップリング28には、エンドプレート24から加わるリターンスプリング30の付勢力が常に作用している。そのため、第1ブレーキB1の締結時に第2摩擦プレート22からエンドプレート24に加わる回転方向のトルクによって、スナップリング28に巻き方向(円周方向)の力が付加される。この巻き方向の力によって、スナップリング28が内径側に縮められる。このように、スナップリング28が内径側に縮められた場合、エンドプレート24との摩擦力でスナップリング28が元の形状に容易に復帰できない。そのため、従来構造では、スナップリング28が溝部14から外れてしまうおそれがあった。これ対して、本実施形態では、エンドプレート24の側面24aに形成した段差面25をスナップリング28の内周端28bに対向させている。したがって、スナップリング28が内径側に縮んだ場合でも、段差面25に当接することで、それ以上縮むことを抑制できる。これにより、スナップリング28が溝部14よりも小径化することを阻止できるので、溝部14から内径側に外れることを効果的に防止できる。
【0032】
また、本実施形態では、スナップリング28の内周端28bとエンドプレート24の段差面25との間のクリアランスCLと、ケーシング10の溝部14に対するスナップリング28の係り代Xとの関係がCL<Xとなるように設定している。これにより、溝部14に係合しているスナップリング28が内径側に縮んだ場合でも、溝部14に対する係り代Xの係合が外れる前に、スナップリング28の内周端28bがエンドプレート24の段差面25に当接し、それ以上の小径化が規制される。したがって、溝部14からスナップリング28が外れることを確実に防止できる。
【0033】
また、本実施形態では、エンドプレート24の厚さ寸法は、段差面25の外径側25aの厚さ寸法t1よりも、段差面25の内径側25bの厚さ寸法t2の方が厚い寸法(t1<t2)になっている。このように構成したことで、エンドプレート24の剛性を向上させることができ、エンドプレート24の変形を少なく抑えることができる。したがって、第1、第2摩擦プレート21,22の当りを均一化でき、第1、第2摩擦プレート21,22の磨耗を低減する効果が望める。また、エンドプレート24の内径側25bを厚くすることで、エンドプレート24の周辺のデッドスペースを削減することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明にかかる摩擦係合装置は、上記実施形態に示すブレーキには限らず、クラッチなど他の摩擦係合装置にも適用が可能である。したがって、本発明を適用する摩擦係合装置としては、上記実施形態に示す第1ブレーキB1には限らず、変速機1が備える他のブレーキB2,B3あるいはクラッチC1,C2であってもよい。また、本発明にかかる摩擦係合装置の実施形態であるブレーキ(第1ブレーキ)B1を設けた変速機1の構成は一例であり、本発明にかかる摩擦係合装置は、他の構成の変速機に設置してもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、スナップリング28の外周端28aが筒状部11の内面11aに形成した溝部14に係合している場合を示している。したがって、この場合、エンドプレート24の段差面25を径方向の外側に向けて形成し、スナップリング28は、エンドプレート24の側面24aにおける段差面25の外径側25aに当接させるようにして、スナップリング28の内周端28bを段差面25に対向させている。しかながら、本発明にかかる摩擦係合装置の構成としては、上記以外にも、図示は省略するが、環状のスナップリングの内周端がケーシングの溝部に係合している場合にも適用が可能である。その場合は、エンドプレートの段差面を径方向の内側に向けて形成し、スナップリングは、エンドプレートの側面における段差面の内径側に当接させるようにして、スナップリングの外周端を段差面に対向させればよい。
【符号の説明】
【0036】
1 変速機
10 ケーシング
11 筒状部
11a 内面
14 溝部
21 第1摩擦プレート
22 第2摩擦プレート
24 エンドプレート
24a 側面
25 段差面
25a 外径側
25b 内径側
26 ピストン
28 スナップリング
28a 外周端
28b 内周端
28c 側面
28d 切れ目
30 リターンスプリング(付勢手段)
32 油圧室
34 ハブ
B1-B3 ブレーキ(摩擦係合装置)
C1,C2 クラッチ(摩擦係合装置)
P1-P3 遊星歯車機構
TC トルクコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシング内で積層された複数の摩擦プレートと、
前記複数の摩擦プレートにおける積層方向の一端側に設置した環状のエンドプレートと、
前記複数の摩擦プレートにおける積層方向の他端側に設置したピストンと、
前記エンドプレートと前記ピストンとの間で前記積層方向に付勢力を付与する付勢手段と、
前記ケーシングと前記ピストンとの間に画成した油圧室と、
前記エンドプレートが前記ピストンから離間する方へ移動することを規制する環状の係止部材と、を備えた摩擦係合装置において、
前記係止部材は、その外周端又は内周端が前記ケーシングの内面に形成した溝部に対して径方向に係合していると共に、
前記エンドプレートの前記係止部材側の側面には、径方向を向く段差面が形成されており、
前記係止部材は、前記エンドプレートにおける前記段差面の外径側又は内径側に当接しており、当該係止部材の内周端又は外周端が前記エンドプレートの前記段差面に対向している
ことを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項2】
前記係止部材の内周端又は外周端と、前記エンドプレートの前記段差面との間には、径方向の隙間が形成されており、当該隙間の寸法は、前記溝部に対する前記係止部材の径方向の係り代よりも小さい寸法である
ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記段差面は、径方向の外側を向いて形成されており、
前記エンドプレートの厚さ寸法は、前記段差面の外径側の厚さ寸法よりも前記段差面の内径側の厚さ寸法の方が厚い寸法になっている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦係合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−169336(P2011−169336A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31019(P2010−31019)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】