説明

摩擦撹拌接合方法および装置

【課題】特に薄肉なプレート部材同士を良好かつ経済的に接合することができ、しかも構成および工程の簡素化を図ることを可能にする。
【解決手段】胴部材42およびフランジ部材44、46の第1および第2突き合わせ部48、50が、第1および第2裏当て治具88、92に保持される。その際、第1および第2裏当て治具88、92に、第1および第2突き合わせ部48、50に対応して第1および第2緩衝部材98、116が取り付けられる。第1および第2突き合わせ部48、50の内周面48b、50bは、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aに密着状態で嵌合しており、前記第1および第2突き合わせ部48、50は、所望の形状に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1プレート部材の端部と第2プレート部材の端部とを突き合わせた突き合わせ部の一方の面に、回転するプローブを押し付けながら、前記プローブを前記突き合わせ部に沿って相対的に移動させることにより、前記突き合わせ部を接合する摩擦撹拌接合方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ワーク(物体)に回転するプローブを挿入する際に発生する摩擦熱を利用して、2つのワークを固相接合する摩擦撹拌溶接(Friction Stir Welding :以下、FSWともいう)が知られている。上記の接合によると、ワークの接合部分は、母材に対して80%程度の強度を維持することができ、結晶の粗大化も防止することが可能になる。
【0003】
例えば、ワークとしてアルミニウム材を用い、従来のスポット溶接や電子ビームによる溶接を行うと、このアルミニウム材に過剰な熱が付与されてしまう。このため、材料の劣化や粗大化による強度低下が惹起されるおそれがある。
【0004】
これに対して、FSWでは、アルミニウム材のように比較的融点の低い金属材料(アルミニウムでは、600℃〜660℃程度)を用いても、500℃程度で接合が行われるため、熱による劣化が防止される。従って、FSWによる場合は、アルミニウム材の他、マグネシウムやチタン、高分子等の他の材料にも適用することが可能である。
【0005】
上記のFSWをアルミニウム材に適用する例として、電車のような大型部材のアルミニウムフレームが挙げられる。この種の大型部材は、接合の強度を重視しており、アルミニウム材の厚さは、通常、5mm以上に設定されている。一方、ガスタービンエンジン部材のように、強度の向上とともに軽量化を図ることが望まれている部材では、厚さを大きくすることができない。このため、例えば、1.2mm程度の薄板状のアルミニウム材を用い、ガスタービンエンジンの外枠を構成している。
【0006】
しかしながら、薄板状のアルミニウム材の両端部を突き合わせた突き合わせ部を、FSWで接合して比較的大径な円筒部材を形成する際、このアルミニウム材が薄肉であるために真円度を得ることができないという問題がある。
【0007】
さらに、2つの円筒部材の端部同士を突き合わせた突き合わせ部を、FSWにより接合する際、各端部の円周長さが同一寸法にならないおそれがある。従って、この状態で、円筒部材をFSWにより接合すると、接合部の最終部位で位相差が発生し、例えば、波形に変形する、所謂、皺が惹起されるという問題がある。
【0008】
この他、FSWによる接合時には、薄板状のアルミニウム材に1t〜2t単位の押し付け力が付与される。このため、アルミニウム材を確実に保持し得ないと、接合部にはFSWによって凹凸が発生するという問題がある。
【0009】
そこで、例えば、特許文献1のアルミニウム部材の接合方法では、図12に示すように、アルミニウムの中空管(プレート部材)1a、1bの突き合わせ部2の内部に、この中空管1a、1bと同一材料の裏当て3が配置されている。この裏当て3と突き合わせ部2の内面との間には、所定の隙間Cが形成されている。
【0010】
このような構成において、プローブ4を高速回転させながら突き合わせ部2および裏当て3にプローブ先端4aを挿入し、前記プローブ4を前記突き合わせ部2に沿って移動させる。これにより、周回する突き合わせ部2の全周に摩擦撹拌接合が行われる。
【0011】
【特許文献1】特開平11−226759号公報(段落[0018]、[0019]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の特許文献1では、裏当て3は中空管1a、1bの補強材としてこの中空管1a、1bの内面に接合されている。しかしながら、このように裏当て3が接合された中空管1a、1bは、例えば、ガスタービンエンジンの外枠として使用することができない。このため、中空管1a、1bを接合した後、この中空管1a、1bの内面から裏当て3を剥離しなければならず、特に薄肉な中空管1a、1bでは、前記裏当て3の剥離処理によって歪みが発生するという問題が指摘されている。しかも、裏当て3は、剥離により破損するおそれがあり、これによって繰り返し利用することができず、経済的ではないという問題がある。
【0013】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、特に薄肉なプレート部材同士を良好かつ経済的に接合することができ、しかも構成および工程の簡素化を図ることが可能な摩擦撹拌接合方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る摩擦撹拌接合方法および摩擦撹拌接合装置では、突き合わせ部の他方の面を保持する裏当て治具に、前記突き合わせ部に対応して緩衝部材が取り付けられる。次いで、第1および第2プレート部材が裏当て治具に保持された状態で、プローブを突き合わせ部の一方の面から挿入し、かつ前記プローブの先端を緩衝部材から離間した位置に維持しながら、前記突き合わせ部に沿って摩擦撹拌接合が行われる。
【0015】
このため、第1および第2プレート部材は、裏当て治具に張り付くことがなく、前記裏当て治具は、前記第1および第2プレート部材から剥離されることによる破損のおそれがない。これによって、裏当て治具は、繰り返し利用することができ、経済的である。しかも、第1および第2プレート部材は、緩衝部材に接合されることがなく、前記緩衝部材の離脱処理が容易に遂行される。
【0016】
また、摩擦撹拌接合が行われた後、突き合わせ部の他方の面に緩衝部材が圧着した状態で、前記突き合わせ部から裏当て治具のみが離脱される。次に、突き合わせ部の他方の面から緩衝部材が離脱される。このため、第1および第2プレート部材には、裏当て治具が離脱される際に残留歪みが発生することがない。
【0017】
さらに、裏当て治具と突き合わせ部の他方の面とを密着状態にすることにより、第1および第2プレート部材の端部同士を同一の長さに規制する。従って、特に薄肉でかつ比較的大径な突き合わせ部であっても、プローブの挿入によって変形や皺等による位相差が発生することがなく、前記突き合わせ部の真円度を良好に維持することができ、寸法精度が向上する。しかも、突き合わせ部のずれを阻止して正確な位置出しが可能になり、摩擦撹拌接合処理が効率的に遂行される。
【0018】
さらにまた、裏当て治具は、真円形状の外周面を有しており、この外周面に密着する第1および第2プレート部材の端部同士を同一の円周長さに規制する。これにより、簡単かつ経済的な構成および工程で、第1および第2プレート部材は、真円度を確実に維持して突き合わせ部全周を良好に接合される。
【0019】
その際、裏当て治具は、複数に分割されて径方向に進退自在な分割治具を備えるとともに、緩衝部材は、それぞれの分割治具に形成された各凹状部に一体的に嵌合自在なリング状に構成される。このため、摩擦撹拌接合後に、裏当て治具を緩衝部材から容易かつ迅速に離脱させることができる。
【0020】
また、第1および第2プレート部材を裏当て治具に対し相対的に膨張させた状態で、前記裏当て治具に前記第1および第2プレート部材が配置される。例えば、第1および第2プレート部材が加熱されると、この第1および第2プレート部材が熱膨張して内周径が拡大する。従って、第1および第2プレート部材は、裏当て治具に容易に外装されるとともに、冷却されることにより収縮して前記裏当て治具の外周面に確実に密着する。
【0021】
さらに、第1および第2プレート部材は、プローブの挿入方向と略直交する方向から加圧力が付与された状態で、突き合わせ部に沿って摩擦撹拌接合される。これにより、第1および第2プレート部材の端部同士を確実に圧着することができ、突き合わせ部を高品質に接合することが可能になる。
【0022】
さらにまた、第1および第2プレート部材は、厚さが2mm以下に設定されており、薄肉なプレート部材であっても、摩擦撹拌接合が良好に遂行される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る摩擦撹拌接合方法および装置では、突き合わせ部の他方の面を保持する裏当て治具に、前記突き合わせ部の他方の面に対応して緩衝部材が取り付けられるため、第1および第2プレート部材は、摩擦撹拌接合される際に前記裏当て治具に張り付くことがない。従って、裏当て治具は、第1および第2プレート部材から剥離することによる破損のおそれがない。これにより、裏当て治具を繰り返し利用することができ、経済的である。
【0024】
しかも、第1および第2プレート部材は、緩衝部材に接合されることがなく、前記緩衝部材の離脱処理が容易に遂行されるとともに、特に薄肉な第1および第2プレート部材であっても、残留歪みが発生することを有効に阻止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る摩擦撹拌接合方法が実施されるファンダクト10を組み込む航空機用ガスタービンエンジン12の概略構成説明図である。
【0026】
ガスタービンエンジン12はファン14を備え、このファン14は、高速で回転して外部から空気を吸引し、この空気を圧縮して後方に圧送する。ファン14の近傍には、コアダクト16とファンダクト10とによってファンバイパス通路18が形成され、このファンバイパス通路18を通って後方に噴射される空気を介し、図示しない機体に推力を生じさせる。
【0027】
ファン14は、低圧圧縮機20を構成しており、この低圧圧縮機20で圧縮された空気は、後段の高圧圧縮機22に送られる。この高圧圧縮機22で圧縮された空気は、さらに後段の燃焼室24に送られる。この燃焼室24は燃料ノズル26を備え、この燃料ノズル26から前記燃焼室24に燃料が圧送される。燃焼室24では、高圧圧縮機22から圧送された圧縮空気と、燃料ノズル26から噴霧された燃料とを混合した混合気が、エンジン始動時に点火されて燃焼する。
【0028】
混合気が燃焼することによって高温高圧ガスが発生し、この高温高圧ガスは、高圧タービン28に送られてこの高圧タービン28を高速回転させる。この高圧タービン28は、ファン14のロータ14aを回転させる一方、高温高圧ガスは、前記高圧タービン28を回転駆動した後、低圧タービン30に送られる。低圧タービン30は、低圧圧縮機20のロータ14aおよびファン14を回転させる。
【0029】
ガスタービンエンジン12の外部下面には、スタータおよび発電機を組み込むスタータジェネレータ32が、アクセサリギアボックス34を介して取り付けられる。
【0030】
図2は、ファンダクト10を構成するダクト構造体40の説明図である。このダクト構造体40は、薄板状、例えば、厚さが2mm以下のアルミニウム材を略円筒形状に成形した胴部材(第1プレート部材)42と、薄板状のアルミニウム材を略円筒形状に成形したフランジ部材(第2プレート部材)44、46とを備える。胴部材42の端部42a、42bと、フランジ部材44、46の端部44a、46aとを突き合わせた第1および第2突き合わせ部48、50は、その外周面(一方の面)48a、50aに摩擦撹拌接合が行われ、前記胴部材42と前記フランジ部材44、46とが接合される。
【0031】
図3は、上記のダクト構造体40を摩擦撹拌接合する本発明の第1の実施形態に係る摩擦撹拌接合装置60の一部分解斜視図であり、図4は、前記摩擦撹拌接合装置60の断面説明図であり、図5は、前記摩擦撹拌接合装置60の一部拡大説明図である。
【0032】
この摩擦撹拌接合装置60は、回転テーブル62に固定されて回転されるとともに、予め仮接合された胴部材42とフランジ部材44、46とを一体的に保持する台部材64を備える。台部材64の上部には、略円盤状の支持ベース66が固着され、この支持ベース66の中央部には、鉛直方向(矢印A方向)に延在して支柱68が立設される。支柱68の先端には、加圧機構70を構成するねじ部72が形成される。
【0033】
加圧機構70は加圧板74を備え、この加圧板74は、略円盤状を有するとともに、中央部に支柱68を挿入する孔部76が形成される。加圧板74は、支持ベース66上に配置される胴部材42およびフランジ部材44、46を後述するプローブ144(図5参照)の挿入方向(矢印B方向)と略直交する矢印A方向から加圧力を付与する機能を有する。
【0034】
加圧板74の中央部分には、押圧ブロック77が係合するとともに、ねじ部72に螺合するナット部材78が前記押圧ブロック77を介して加圧板74を矢印A方向に加圧する。ねじ部72の先端には、吊り下げ用ボルト79が螺着される。加圧板74には、等角度間隔離間して複数の開口部80と、前記開口部80よりも小径な複数の開口部82とが形成される。
【0035】
支持ベース66には、支柱68を中心に周回するリング部86が矢印A方向に膨出して形成される。リング部86の外周には、第1裏当て治具88が着脱自在に設けられるとともに、前記リング部86に固定されるロッド90を介して第2裏当て治具92が取り付けられる。
【0036】
第1裏当て治具88は、例えば、鉄系材料で形成された複数、例えば、4つの分割治具94a〜94dを備えており、全体として略リング状を有する。分割治具94a〜94dは、アクチュエータ、例えば、シリンダ96a〜96dに連結されて半径方向に個別に進退可能に構成される。この第1裏当て治具88の外周面88aは、真円形状に設定されるとともに、胴部材42とフランジ部材44との第1突き合わせ部48の内周面(他方の面)48bに対応して周回する凹状部97が設けられる。凹状部97には、第1突き合わせ部48に摩擦撹拌接合が行われた後、前記第1突き合わせ部48の内周面48bから離脱される第1緩衝部材98が取り付けられる。この第1緩衝部材98は、例えば、鉄系材料あるいはアルミニウム製のリング材で構成されるとともに、厚さが凹状部97の深さと同一寸法、例えば、略1mm程度の厚さに設定される。
【0037】
リング部86の上面には、所定の角度間隔ずつ離間してねじ穴100が形成され、前記ねじ穴100には、各ロッド90が一方の端部に設けられるねじ部102が螺合する。ロッド90の他方の端部には、ねじ穴104が形成され、第2裏当て治具92を構成する取り付け板106からボルト108がねじ込まれることにより、前記取り付け板106がロッド90に固定される。
【0038】
第2裏当て治具92は、例えば、鉄系材料で形成された複数の分割治具、例えば、4つの分割治具110a〜110dを備えており、全体として略リング状を有する。分割治具110a〜110dは、アクチュエータ、例えば、シリンダ112a〜112dに連結されて取り付け板106上を半径方向に個別に進退可能に構成される。
【0039】
この第2裏当て治具92の外周面92aは、全体として真円状に構成されるとともに、胴部材42とフランジ部材44との第2突き合わせ部50の内周面(他方の面)50bに対応して周回する凹状部114が設けられる。凹状部114には、第2突き合わせ部50に摩擦撹拌接合が行われた後、前記第2突き合わせ部50の内周面50bから離脱される第2緩衝部材116が取り付けられる。この第2緩衝部材116は、例えば、鉄系材料あるいはアルミニウム製のリング材で構成されるとともに、厚さが凹状部114の深さと同一寸法、例えば、略1mm程度の厚さに設定される。
【0040】
第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aは、ダクト構造体40のスプリングバックを考慮して、前記ダクト構造体40を最終的に設計寸法に維持する必要があり、前記第1および第2裏当て治具88、92が拡径した際の前記外周面88a、92aの最大外径寸法は、加熱前の第1および第2突き合わせ部48、50の内径よりも大きい。
【0041】
第1突き合わせ部48の外周面48aには、前記第1突き合わせ部48を保持する第1クランプ治具117が配置されるとともに、第2突き合わせ部50の外周面50aには、前記第2突き合わせ部50を保持する第2クランプ治具118が配置される。
【0042】
図3に示すように、第1クランプ治具117は、角材をリング状に成形してベルト状に構成する。第1クランプ治具117の一方の端面には、ねじ穴119が形成されるとともに、他方の端面には、孔部120が形成される。ボルト122が孔部120を通ってねじ穴119にねじ込まれることにより、第1クランプ治具117は、径方向の寸法が縮小されて第1突き合わせ部48の外周面48aを締め付ける。
【0043】
図3乃至図5に示すように、支持ベース66の外周縁部には、ボルト124を介して複数本のロッド126が固定される。各ロッド126は、矢印A方向に延在しており、その端部にねじ込まれるボルト128を介して取り付け板130が設けられる。この取り付け板130は、略リング形状に構成され、ボルト132を介して前記取り付け板130に第2クランプ治具118が固定される。第2クランプ治具118は、略リング状に構成され、第2突き合わせ部50の外周面50aを締め付け保持する。
【0044】
図5に示すように、第1突き合わせ部48を接合する接合機140は、回転工具142を備える。この回転工具142の先端には、その先端面から所定の長さだけ突出するプローブ144が設けられる。このプローブ144は、第1突き合わせ部48に挿入されるプローブ先端部114aの長さが前記第1突き合わせ部48の肉厚よりも短尺に設定される。なお、第2突き合わせ部50は、上記の接合機140により接合してもよく、あるいは個別の接合機を用いて接合作業を行ってもよい。
【0045】
このように構成される摩擦撹拌接合装置60の動作について、第1の実施形態に係る摩擦撹拌接合方法との関連で、図6に示すフローチャートに沿って以下に説明する。
【0046】
まず、円筒形状を有する胴部材42およびフランジ部材44、46が作製される(ステップS1)。具体的には、図2に示すように、胴部材42を構成する薄板状のアルミニウム材を略円筒形状に成形し、その両端部を突き合わせた突き合わせ部42cに沿って摩擦撹拌接合(FSW)が行われ、前記突き合わせ部42cが接合される。このため、胴部材42が得られる。
【0047】
同様に、フランジ部材44、46を構成する薄板状のアルミニウム材が略円筒形状に成形された後、それぞれの突き合わせ部44c、46cが摩擦撹拌接合より接合される。従って、フランジ部材44、46が得られる。
【0048】
なお、上記の摩擦撹拌接合時には、図示しないプローブは、円筒形状の中心から所定距離だけオフセットして配置されており、接合面の切断を有効に阻止している。
【0049】
次いで、胴部材42の端部42a、42bにフランジ部材44、46の端部44a、46aを突き合わせた状態で、第1および第2突き合わせ部48、50には、所定の個所にアルミニウムテープ(図示せず)が貼り付けられる。このため、胴部材42の両側にフランジ部材44、46が仮接合される(ステップS2)。この仮接合された胴部材42およびフランジ部材44、46は、図示しない加熱炉内に配置されて所定の温度に加熱される(ステップS3)。所定温度に加熱された胴部材42およびフランジ部材44、46は、台部材64にセットされる(ステップS4)。
【0050】
具体的には、図3乃至図5に示すように、台部材64を構成する支持ベース66上には、リング部86を周回して第1裏当て治具88を構成する分割治具94a〜94dが半径内方向に配置されている。従って、第1裏当て治具88は、外周面88aが最小直径に維持されており、この外周面88aの凹状部97に対応して第1緩衝部材98が配置された状態で、シリンダ96a〜96dが駆動される。このため、分割治具94a〜94dは、半径外方向に移動して第1裏当て治具88の外周面88aが拡径し、この外周面88aにより第1緩衝部材98が押圧保持される。
【0051】
一方、リング部86に形成されたねじ穴100には、ロッド90のねじ部102が螺着される。ロッド90上に第2裏当て治具92を構成する取り付け板106が配置され、前記ロッド90のねじ穴104に前記取り付け板106の孔部を通ってボルト108が螺着される。これにより、各ロッド90には、取り付け板106が固定されるとともに、分割治具110a〜110dが半径内方向に配置されている。
【0052】
この状態で、第2裏当て治具92の外周面92aに第2緩衝部材116が配置され、シリンダ112a〜112dが駆動されて分割治具110a〜110dが半径外方向に移動する。従って、外周面92aが拡径してこの外周面92aにより第2緩衝部材116が押圧保持される。
【0053】
そこで、所定温度に加熱された胴部材42およびフランジ部材44、46は、第1および第2裏当て治具88、92に外装される。この場合、胴部材42およびフランジ部材44、46は、所定の温度に加熱されており、熱膨張によって内周径が拡大している。このため、胴部材42およびフランジ部材44、46の第1および第2突き合わせ部48、50は、第1および第2裏当て治具88、92に配置された第1および第2緩衝部材98、116に容易に外装される。
【0054】
さらに、胴部材42およびフランジ部材44、46は、冷却されることによって内周径が収縮し、第1および第2突き合わせ部48、50の内周面48b、50bは、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92a、すなわち、第1および第2緩衝部材98、116に密着した状態で確実に嵌合する(図5参照)。第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aの最大外径寸法が、加熱前の第1および第2突き合わせ部48、50の内周面48b、50bの内径寸法よりも大きいからである。
【0055】
ここで、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aは、真円形状を有しており、この外周面88a、92aの凹状部97、114に嵌合する第1および第2緩衝部材98、116に密着する端部42a、44aおよび端部42b、46aは、それぞれ同一の円周長さに規制されるとともに、真円形状に維持される。
【0056】
次に、第2裏当て治具92上に加圧板74が配置され、押圧ブロック77がねじ部72に外装された後、ナット部材78が前記ねじ部72にねじ込まれる。これにより、押圧ブロック77を介して加圧板74が加圧され、胴部材42およびフランジ部材44、46は、矢印A方向に締め付け荷重が付与される。この結果、第1および第2突き合わせ部48、50には、隙間が生じない状態で押圧保持される(ステップS5)。そして、ステップS6に進み、第1および第2突き合わせ部48、50に貼り付けられているアルミニウムテープ(図示せず)が除去され、表面の洗浄が行われる。
【0057】
さらに、ステップS7において、第1クランプ治具117が装着される。この第1クランプ治具117は、ベルト状に構成されており、胴部材42の外周を端部42a側に沿って周回している。そこで、孔部120にボルト122を挿入し、このボルト122をねじ穴119にねじ込むことにより、第1クランプ治具117の内周径が縮小する。従って、第1クランプ治具117は、胴部材42の外周面を締め付け保持する。
【0058】
次いで、台部材64は、回転テーブル62にねじ止めによって固定される(ステップS8)。この状態で、図7に示すように、接合機140を構成する回転工具142が高速で回転しながら、第1突き合わせ部48に向かって(矢印B方向)移動する。このため、高速回転するプローブ144は、プローブ先端144aが第1突き合わせ部48に挿入され、摩擦熱によって前記第1突き合わせ部48が溶接される(図8参照)。その際、回転テーブル62が回転しており、高速回転するプローブ144は、第1突き合わせ部48に沿って相対的に移動し、この第1突き合わせ部48の全周にわたり接合作業が遂行される(ステップS9)。
【0059】
第1突き合わせ部48の接合作業が終了すると、回転テーブル62が停止されるとともに、接合機140がこの第1突き合わせ部48から離間する。さらに、第1クランプ治具117が取り外される一方、第2クランプ治具118が取り付けられる(ステップS10)。第1クランプ治具117は、ボルト122をねじ穴119から離脱することにより、内周径が拡大して胴部材42から取り外される。
【0060】
一方、支持ベース66の外周縁部には、ボルト124を介して複数のロッド126が取り付けられ、前記ロッド126の先端部には、ボルト128を介して取り付け板130が取り付けられる。この取り付け板130には、ボルト132を介して第2クランプ治具118が装着され、この第2クランプ治具118が胴部材42の端部42b側の外周面を締め付け保持する。
【0061】
この状態で、図9に示すように、例えば、接合機140が第2突き合わせ部50に対応して配置され、回転工具142と一体的にプローブ144が回転しながら、このプローブ144のプローブ先端144aが前記第2突き合わせ部50の外周面50aに挿入される。この第2突き合わせ部50は、回転テーブル62の回転作用下に接合機140に対して回転しており、前記第2突き合わせ部50の全周にわたって摩擦撹拌接合が行われる(ステップS11)。
【0062】
上記のように、第1および第2突き合わせ部48、50が接合されて接合品であるダクト構造体40が得られた後、このダクト構造体40は、第1および第2裏当て治具88、92とともに、台部材64から取り外される(ステップS12)。具体的には、第1裏当て治具88を構成する分割治具94a〜94dは、シリンダ96a〜96dの駆動によって半径内方向に移動し、外周面88aが第1緩衝部材98から離間する(図8中、二点鎖線参照)。一方、第2裏当て治具92を構成する分割治具110a〜110dは、シリンダ112a〜112dの作用下に半径内方向に移動し、外周面92aが第2緩衝部材116から離間する。
【0063】
そこで、吊り下げ用ボルト79およびナット部材78がねじ部72から離脱されて押圧ブロック77が取り外されるとともに、加圧板74が支柱68から取り外される。そして、ダクト構造体40は、第1および第2緩衝部材98、116を内周面に保持した状態で、支持ベース66から取り出される。次に、図10に示すように、第1および第2緩衝部材98、116は、ダクト構造体40の内周面から除去される(ステップS13)。
【0064】
このように、第1の実施形態では、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aに、第1および第2突き合わせ部48、50に対応して凹状部97、114が形成され、この凹状部97、114に第1および第2緩衝部材98、116が装着される。このため、第1および第2突き合わせ部48、50の内周面48b、50bに第1および第2緩衝部材98、116が密着した状態で、前記第1および第2突き合わせ部48、50の外周面48a、50aに摩擦撹拌接合が行われる。
【0065】
その際、高速回転するプローブ144のプローブ先端144aが第1および第2突き合わせ部48、50の外周面48a、50aに挿入されるとともに、前記プローブ先端144aが第1および第2緩衝部材98、116から離間した位置に維持されている(図8参照)。従って、第1および第2突き合わせ部48、50は、第1および第2裏当て治具88、92に張り付くことがなく、前記第1および第2裏当て治具88、92は、ダクト構造体40から剥離されることによる破損のおそれがない。これによって、第1および第2裏当て治具88、92は、繰り返し利用することができ、経済的であるという効果が得られる。
【0066】
しかも、第1および第2突き合わせ部48、50は、第1および第2緩衝部材98、116に接合されることがなく、前記第1および第2緩衝部材98、116の離脱処理が容易に遂行される。さらに、ダクト構造体40には、第1および第2緩衝部材98、116の剥離による残留歪みが発生することがない。
【0067】
特に、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aが真円状に構成されており、第1および第2突き合わせ部48、50の内周面48b、50bは、前記外周面88a、92aに密着して真円形状が維持される。しかも、それぞれの端部42a、44aの内周長さおよび端部42b、46aの円周長さが同一の長さに規制される。
【0068】
このため、厚さが2mm以下の薄肉でかつ比較的大径な第1および第2突き合わせ部48、50であっても、変形や皺等による位相差が発生することがなく、前記第1および第2突き合わせ部48、50の真円度を良好に維持することができ、寸法精度が向上する。これにより、簡単かつ経済的な工程で、第1および第2突き合わせ部48、50の摩擦撹拌接合作業が効率的に遂行されるという効果が得られる。
【0069】
さらに、第1および第2突き合わせ部48、50は、第1および第2緩衝部材98、116を介して第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aに密着状態で嵌合する。このため、第1および第2突き合わせ部48、50のずれを阻止して正確な位置出しが可能になり、摩擦撹拌接合処理が効率的に遂行される。その際、第1および第2突き合わせ部48、50は、所定温度に加熱されることによって熱膨張により内周径を拡大させた状態で、第1および第2裏当て治具88、92に嵌合している。従って、第1および第2裏当て治具88、92の外周面88a、92aに対し、第1および第2突き合わせ部48、50を容易かつ確実に密着させることができる。
【0070】
さらにまた、胴部材42とフランジ部材44、46とは、加圧機構70を介してプローブ144の挿入方向(矢印B方向)と略直交する方向(矢印A方向)から加圧力が付与される。これにより、第1および第2突き合わせ部48、50に隙間が発生することがなく、確実に圧着することができ、高品質な接合処理が遂行されるとともに、加圧機構70の構成が容易に簡素化する。
【0071】
なお、上記した第1の実施形態では、図示しないアルミニウムテープで仮接合された胴部材42と、フランジ部材44、46とを、加熱炉内で所定温度に加熱することにより、内周径を拡径させて第1および第2裏当て治具88、92に装着しているが、これに限定されるものではない。例えば、第1および第2裏当て治具88、92を冷却して該第1および第2裏当て治具88、92の外径寸法を縮小させてもよい。
【0072】
また、それぞれ4分割された分割治具94a〜94d、110a〜110dを用いているが、分割数は種々選択可能である。さらに、シリンダ96a〜96d、112a〜112dに代替して電磁ソレノイド等の駆動源を用いてもよい。さらにまた、分割治具94a〜94d(および/または分割治具110a〜110d)を単一の駆動源を介して一体的に進退させることもできる。
【0073】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る摩擦撹拌接合装置160の一部斜視図である。なお、第1の実施形態に係る摩擦撹拌接合装置60と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0074】
摩擦撹拌接合装置160は、第1および第2裏当て治具162、164を備える。第1裏当て治具162は、例えば、鉄系材料で形成された複数の分割治具、例えば、4つの分割治具94a〜94dと、前記分割治具94a〜94dの内側に配置されて該分割治具94a〜94dを拡径させる第1リング部材166とを備える。第2裏当て治具164は、第1裏当て治具162と同様に、例えば、鉄系材料で形成された複数の分割治具、例えば、4つの分割治具110a〜110dと、前記分割治具110a〜110dの内側に配置されて該分割治具110a〜110dを拡径させる第2リング部材168とを備える。
【0075】
このように構成される摩擦撹拌接合装置160では、第1裏当て治具162を構成する分割治具94a〜94dの外周に第1緩衝部材98が配置された状態で、この分割治具94a〜94dの内側に第1リング部材166が挿入される。これにより、分割治具94a〜94dが拡径して前記分割治具94a〜94dの外周に第1リング部材166が密着保持される。同様に、第2リング部材168が第2裏当て治具164を構成する分割治具110a〜110dの内側に挿入されることによって、前記分割治具110a〜110dの外周には、第2緩衝部材116が密着保持される。
【0076】
従って、第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、構成が一層簡素化するという利点がある。なお、第1および第2リング部材166、168に代替して楔部材等を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る摩擦撹拌接合方法が実施されるファンダクトを組み込む航空機用ガスタービンエンジンの概略構成説明図である。
【図2】前記ファンダクトを構成するダクト構造体の説明図である。
【図3】前記ダクト構造体を接合する摩擦撹拌接合装置の一部分解斜視図である。
【図4】前記摩擦撹拌接合装置の断面説明図である。
【図5】図4に示す前記摩擦撹拌接合装置の一部拡大説明図である。
【図6】前記摩擦撹拌接合方法のフローチャートである。
【図7】第1突き合わせ部を接合する際の動作説明図である。
【図8】前記第1突き合わせ部を接合する際の断面説明図である。
【図9】第2突き合わせ部を接合する際の動作説明図である。
【図10】前記第1突き合わせ部から第1緩衝部材を分離するための動作説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の一部斜視図である。
【図12】特許文献1のアルミニウム部材の接合方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0078】
10…ファンダクト 12…ガスタービンエンジン
14…ファン 40…ダクト構造体
42…胴部材 42a、42b、44a、46a…端部
44、46…フランジ部
42c、44c、46c、48、50…突き合わせ部
48a、50a、88a、92a…外周面
48b、50b…内周面 60、160…摩擦撹拌接合装置
62…回転テーブル 64…台部材
66…支持ベース 68…支柱
70…加圧機構 72…ねじ部
74…加圧板 77…押圧ブロック
88、92、162、164…裏当て治具
90…ロッド 106、130…取り付け板
117、118…クランプ治具 140…接合機
144…プローブ 166、168…リング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1プレート部材の端部と第2プレート部材の端部とを突き合わせた突き合わせ部の一方の面に、回転するプローブを押し付けながら、前記プローブを前記突き合わせ部に沿って相対的に移動させることにより、前記突き合わせ部を接合する摩擦撹拌接合方法であって、
前記突き合わせ部の他方の面を保持する裏当て治具に、前記突き合わせ部に対応して緩衝部材を取り付ける工程と、
前記第1および第2プレート部材を裏当て治具に保持させた状態で、前記プローブを前記突き合わせ部の一方の面から挿入し、かつ該プローブの先端を前記緩衝部材から離間した位置に維持しながら、該突き合わせ部に沿って摩擦撹拌接合を行う工程と、
を有することを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【請求項2】
第1プレート部材の端部と第2プレート部材の端部とを突き合わせた突き合わせ部の一方の面に、回転するプローブを押し付けながら、前記プローブを前記突き合わせ部に沿って相対的に移動させることにより、前記突き合わせ部を接合する摩擦撹拌接合装置であって、
前記第1および第プレート部材を配置して前記突き合わせ部の他方の面を保持し、摩擦撹拌接合が行われた後に前記突き合わせ部の他方の面から離脱される裏当て治具を備え、
前記裏当て治具は、前記突き合わせ部の他方の面に対応して凹状部を設けるとともに、
前記凹状部には、前記摩擦撹拌接合が行われた後に、前記突き合わせ部の他方の面から離脱される緩衝部材が取り付けられることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−142384(P2006−142384A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45465(P2006−45465)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【分割の表示】特願2003−6147(P2003−6147)の分割
【原出願日】平成15年1月14日(2003.1.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】