説明

摩擦撹拌接合装置と、該摩擦撹拌接合装置を利用した異種金属同士の差厚テーラードブランク材の製造方法

【課題】摩擦撹拌接合によるテーラードブランク材の製造において、接合部の表面を板厚が連続して変化する平滑な傾斜面とする。
【解決手段】摩擦撹拌接合装置1において、上、下ショルダー2、7を板厚の異なる接合母材13、13’の厚さに合わせて傾動させて該接合母材13、13’を挟持した上、突き合わせ面14に沿ってプローブ12を差し込み摩擦撹拌を行うことで、摩擦撹拌接合の際に発生する接合母材13の溢出物が、プローブ12並びに傾動する上、下ショルダー2、7によって薄板状の接合母材13側に誘導されて凝固するので、接合部15の表面は板厚が連続して変化する平滑な傾斜面となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、自動車、各種車両、建材等において、突き合わせた金属板間を摩擦撹拌により接合部を形成して一体に接合する摩擦撹拌接合装置と、該摩擦撹拌接合装置を利用した異種金属同士の差厚テーラードブランク材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在、環境保護の観点から、例えば自動車等では、様々な部品の全部又は一部を従来の鋼材からより軽量なアルミニウム合金材へ置換することによって燃料消費の向上につながる車体の軽量化が推進されている。そのため、上記部品の成形にあたっては、例えば同種金属又は異種金属からなり、且つ板厚の異なる接合母材を確実に接合するとともに、ポロシティ等の溶融溶接特有の欠陥が生じないように、プローブとショルダーからなる硬質のツールを接合母材間の突き合わせ面に差し込み、摩擦撹拌を行うことで該接合母材間に接合部を形成して一体に接合する摩擦撹拌接合が用いられる。
ところが、上記部品のうち、特に差厚テーラードブランク材の作製において使用される接合母材は、通常板厚が0.7〜3mm程度と薄いため、接合部の裏面側にキッシングボンドを形成し易いものである。その上、作製された上記差厚テーラードブランク材では、摩擦撹拌接合により形成される接合部に段差が生じてしまうため(特許文献1参照)、最終的には該段差を平滑にするための仕上げ工程を追加せざるを得なくなり、製造コストの上昇を招くものである。
【0003】
そのため、プローブと上、下ショルダーが独立に回転する複動式の回転工具によって、接合母材の突き合わせ面をその上下方向から上、下ショルダーにより挟持するとともに、その突き合わせ面に沿ってプローブを差し込み、該上、下ショルダーとともに摩擦撹拌して接合を行う摩擦撹拌接合装置が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、上記摩擦撹拌接合装置は、接合母材の突き合わせ面をその上下方向から挟持する上、下のショルダーが、常時平行に保持されているので、板厚の異なる接合母材による差厚テーラードブランク材の作製に際しては、薄板状の接合母材側では上、下ショルダーが接合母材の表面に当接せず、摩擦撹拌接合による接合を行うことは困難となる。
【0004】
さらに、上記差厚テーラードブランク材の作製において、例えば接合すべき接合母材において、一方が鋼板のような接合温度域で強度の高い薄板状の硬質金属であり、他方がアルミニウム合金のような接合温度域で強度の低い厚板状の軟質金属であるように互いに異種金属である場合では、摩擦撹拌接合のために突き当て面に対してツールのプローブを差し込むと、軟質金属側ではプローブが円滑に回転して摩擦撹拌が行われるが、硬質金属側ではプローブが摩擦により異常に摩耗し、十分な摩擦撹拌が行えず確実に接合することができない上、プローブの破損や交換による部品コストの上昇をも招いてしまうものである。
【特許文献1】特開2004−50189号公報
【特許文献2】特開2003−181654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、同種金属又は異種金属であって、且つ板厚の異なる接合母材を使用して行う差厚テーラードブランク材の作製において、プローブの破損や製造コストの上昇を防止しながら、摩擦撹拌接合により形成される接合部が、板厚が連続的に変化し、且つ、その表面が平滑な傾斜面となるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明は、第1の特徴として、プローブを設けた回転シャフトに対して、板厚が異なる接合すべき接合母材を挟持しつつ該回転シャフトと同期して回転しうる上ショルダー及び下ショルダーを、該プローブの上下に設けてなり、
該プローブ平面視における回転方向は、プローブの進行方向に対して厚板側から薄板側へ向かうものとし、
該上、下ショルダーのうち少なくとも一方には、本体部だけでなく、本体部の対向するショルダー側に圧接部を有してなり、
該圧接部は、前記回転シャフトが貫通して設けられる貫通孔の内周面を、対向するショルダー側に向けて内径が略回転シャフト径に狭まるテーパ形状とするとともに、該本体部に対してそれぞれ個別に上下方向に伸縮自在となる圧力調整装置を回転シャフトを中心として複数介装して、該圧接部を有するショルダーの回転にかかわらず、本体部に対して常に一定方向に傾動自在に一体としてなるものである。
【0007】
そのため、接合すべき接合母材同士において板厚が異なる場合には、該接合母材を挟持する上、下ショルダーの圧接部を薄板の接合母材側に傾動させる。即ち、上、下ショルダー間に上記板厚が異なる接合母材を所定の圧力で挟持しようとする際、接合母材の突き合わせ面において板厚が異なる側のショルダーを、本体部と圧接部の2層構造とすることにより、圧接部に対して圧力調整装置を作動させて、該圧接部を薄板の接合母材側に傾動させて接合母材を挟持する。このとき、この圧接部の傾動が可能となるように、該圧接部における回転シャフトの貫通孔は、その内周面が対向するショルダー側に向けて内径が略回転シャフト径に狭まるテーパ形状となっている。そして、該上、下ショルダー間に挟持された接合母材間の突き合わせ面に沿って側端面より回転シャフトに形成されたプローブを差し込み、摩擦撹拌する際、該上、下ショルダーも回転するものの、該回転に合わせて圧力調整装置によって常に薄板の接合母材側に傾斜した状態で接合母材が挟持される上、プローブ平面視におけるプローブの進行方向に対して厚板側から薄板側へ向かうように回転させることで、該突き合わせ面に沿って接合部が形成されて接合母材同士が一体に接合されるだけでなく、同時に、該摩擦撹拌によって接合母材より表面に溢出する溢出物が、プローブ並びに上、下ショルダーの回転によって、上、下ショルダーの圧接部及び接合母材によって形成される空間内に誘導されて凝固する。従って、上記突き合わせ面に沿って形成される接合部は、板厚が連続して変化しその表面は平滑な傾斜面となる。
【0008】
なお、接合すべき接合母材同士において板厚が同じ場合には、該接合母材を挟持する上、下ショルダーにおける本体部と圧接部との間に介装する圧力調整装置は特段に作動せず、互いに平行に保持されながら各圧接部が接合母材の表面に当接する。そして該上、下ショルダー間に挟持された接合母材間の突き合わせ面に沿って、回転シャフトに形成されたプローブを側端面より差し込み摩擦撹拌することで、接合部が形成されて接合母材同士は一体に接合することとなる。しかも該突き合わせ面に沿って形成される接合部は板厚が同じであって、その表面は上、下ショルダーにより押圧されるので平滑になる。
【0009】
そして、前記第1の特徴を踏まえて第2の特徴は、上、下の各ショルダーにおいて、それぞれ本体部とともに圧接部を設けてなる上記摩擦撹拌接合装置を使用するものであって、
上記板厚の異なる接合すべき接合母材において、一方の接合母材は他方の接合母材よりも接合温度域での強度の高い薄板状の硬質金属とし、他方の接合母材は一方の接合母材よりも接合温度域で強度の低い厚板状の軟質金属とするものであって、該両接合母材をその厚み方向の中心線が一直線となるように揃えて突き合わせた上、上記摩擦撹拌接合装置において上記両接合母材の突き合わせ面より軟質金属側に差し込むプローブの中心までの距離Pを、該プローブの半径をrとしたときにr<P≦2rとするとともに、上、下ショルダーの各圧接部を薄板状の硬質金属側に傾斜させて挟持して摩擦撹拌接合してなるものである。
【0010】
この摩擦撹拌接合の方法により、接合すべき接合母材の一方が、接合温度域で強度の高い硬質金属からなる薄板状であって、他方が接合温度域で強度の低い軟質金属からなる厚板状である場合、摩擦撹拌接合装置の上、下ショルダーは硬質金属からなる薄板状の接合母材側に傾動して前記両接合母材を挟持することとなる。そして、当該摩擦撹拌接合装置は前記第1の特徴に基づく作用を奏しつつ、同時に、上記両接合母材の突き合わせ面より軟質金属側に差し込むプローブの中心までの距離Pを、該プローブの半径をrとしたときにr<P≦2rとすることから、軟質金属が摩擦撹拌された際に生ずる溢出物は、プローブ並びに上、下ショルダーの回転によって、上、下ショルダーの圧接部及び接合母材によって形成される空間内に誘導されて、接合温度の高い薄板状の硬質金属からなる接合母材の表面を被覆するように凝固することとなる。従って、上記突き合わせ面に沿って形成される接合部は板厚が連続して変化し、その表面は平滑な傾斜面となる。
また、使用する摩擦撹拌接合装置において上記両接合母材の突き合わせ面より軟質金属側に差し込むプローブの中心までの距離Pは、好ましくは、P=1.5rである。
ここで、上記摩擦撹拌接合装置において上記両接合母材の突き合わせ面より軟質金属側に差し込むプローブの中心までの距離Pを、プローブの半径rとしたときにP≦rとすると、摩擦撹拌を行うプローブが硬質金属によって異常に摩耗してしまい、両接合母材を円滑、且つ確実に接合させることができない。逆にP>2rとすると、摩擦撹拌によって生じ、硬質金属の表面に凝固する溢出物が十分な強度を有する被膜とならず、接合強度が不十分になってしまうものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明における摩擦撹拌接合装置は、摩擦撹拌接合により接合母材間に形成される接合部の表面を平滑なものとし、特に板厚が異なる接合母材間での摩擦撹拌接合において形成される接合部を、板厚が連続して変化し、その表面は平滑な傾斜面とすることができるので、十分な接合強度を確保しつつ、部品加工における作業性や外観性を向上させることができる優れた効果を有するものである。
更に、該摩擦撹拌接合装置を使用した本願発明における摩擦撹拌接合方法は、接合母材の一方が接合温度域で強度の高い薄板状の硬質金属であって、他方が接合温度域で強度の低い厚板状の軟質金属である場合にも、プローブの異常摩耗や破損を招くことなく、その接合部を、板厚が連続して変化し、その表面は平滑な傾斜面とすることができるので、十分な接合強度を確保しつつ、部品加工における作業性や外観性を向上させることができる優れた効果を有するものである。
【0012】
以下において、本願発明の実施例について説明する。
なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本願発明が制限されるものでない。
【実施例1】
【0013】
本願発明の実施例1を説明する。
まず、図1に示す1は摩擦撹拌接合装置であって、回転シャフト11と、該回転シャフト11に対して軸着されて同期して回転する本体部4を有する上ショルダー2と、回転シャフト11と一体に形成される本体部9を有する下ショルダー7とからなるものである。そして前記上ショルダー2は、本体部4と該本体部4に対して油圧シリンダー(図示せず)を内装した圧力調整装置5を介して一体となる上圧接部3とからなり、又、下ショルダー7も、本体部9と該本体部9に対して油圧シリンダー(図示せず)を内装した圧力調整装置10を介して一体となる下圧接部8とからなっている。前記上ショルダー2の本体部4は、シャフト部4aと円盤部4bとからなり、その両者の中心を回転シャフト11が貫通している。そして円盤部4bの下面において、該回転シャフト11を中心とする同心円上の等間隔に、それぞれ油圧シリンダー(図示せず)を内装した圧力調整装置5が4個設けられ、該4個の圧力調整装置5を介して、前記円盤部4bと同径長の円盤状の上圧接部3が一体に設けられている。又、該上圧接部3に設けられた回転シャフト11の貫通孔6は、下端の内径が回転シャフト11の径長より若干広いだけの径長となるよう、下方に向かって幅狭となったテーパー面6’を形成している。一方、前記下ショルダー7の本体部9は、回転シャフト11と一体に形成された円盤体形状であり、本体部9の上面において、該回転シャフト11を中心とする同心円上の等間隔に、それぞれ油圧シリンダー(図示せず)を内装した圧力調整装置10が4個設けられ、該4個の圧力調整装置10を介して、前記本体部9と同径長の円盤状の下圧接部8が一体に設けられている。又、該下圧接部8に設けられた回転シャフト11の貫通孔6は、上端の内径が回転シャフト11の径長より若干広いだけの径長となるように、上方へ向かって幅狭となったテーパー面6’を形成している。上下の圧接部3,8は、その各テーパー面6’と各圧力調整装置5,10によって、中心に存する回転シャフト11に対してそれぞれ±15°傾動可能となっている。又、回転シャフト11の表面においては、上圧接部3の貫通孔6に面した部分から下圧接部8の貫通孔6にに面した部分にかけてプローブ12が形成されている。尚、上ショルダー2の本体部4の円盤部4b直径長は15mmに、又、プローブ12の直径は5mmに設定されている。
尚、圧力調整装置5、10内において圧力を調整する機構として、本実施例では油圧シリンダーを使用したが、空圧シリンダーやスプリングでもよい。又、摩擦撹拌接合中における上、下ショルダー2,7の各位置を自動調整するために、セルフリアクティング機能を有していれば好適である。
【0014】
そして、互いに板厚の異なる2枚のアルミニウム合金板13、13’を突き合わせて、その突き合わせ面14に対して本願発明の摩擦撹拌接合装置1を差し込むことにより摩擦撹拌接合する場合には、図1(イ)に示すように、互いに板厚の異なる2枚のアルミニウム合金板13、13’の突き合わせ面14に沿って摩擦撹拌接合を行う場合には、上下の圧接部3,8が薄板側に傾斜して該アルミニウム合金板13、13’を挟持することとなる。一方、図1(ロ)において示すように、その2枚のアルミニウム合金板13’、13’の板厚が等しい場合には、対向する上、下ショルダー2、7において、その上圧接部3と本体部4との間並びに下圧接部8と本体部9との間にそれぞれ介装されるいずれの圧力調整装置5、10も作動する必要がなく、従前の摩擦撹拌接合装置と同様に作動することとなる。すなわち、前記対向する上、下ショルダー2、7が互いに平行に保持されたままで、2枚のアルミニウム合金板13’、13’を突き合わせ面14の直角方向から挟持して、摩擦撹拌接合するものとなる。
【0015】
そこで、図2に示すように、前記摩擦撹拌接合装置1を使用して、互いに板厚の異なる接合母材を摩擦撹拌接合する場合には、以下のように摩擦撹拌接合することとなる。例えば、幅700mm×長さ1500mmであって、厚さが各々0.8mm及び1.2mmの6016合金T4材のアルミニウム合金板13、13’(薄板を13、厚板を13’とする。)を用いて、同種金属間の差厚テーラードブランク材16の作製を本願発明の摩擦撹拌接合装置1により行った。
先ず、厚さの異なる上記アルミニウム合金板13、13’を長さ方向に突き合わせた上で、隙間が20mmの鋼製裏当て治具により全長を押さえ板により拘束した(図示せず)。そして、本願発明の摩擦撹拌接合装置1の回転シャフト11の軸位置を、接合する2枚のアルミニウム合金板13、13’の突き合わせ面14に合致させた上、上ショルダー2を位置制御して厚板側のアルミニウム合金板13’に当接させるとともに、下ショルダー7を5kNで引き上げて、同様に厚板側のアルミニウム合金板13’に当接させる。その上で、各圧力調整装置5、10に内装される油圧シリンダーの圧力を調整して、図2(イ)にあるように、上下の圧接部3,8をそれぞれ傾斜させて、薄板側のアルミニウム合金板13に当接させる。これにより、上記アルミニウム合金板13、13’は、突き合わせ面14の上下方向からそれぞれ傾斜した上下の圧接部3,8により挟持された状態となる。この状態で回転シャフト11を回転させて摩擦撹拌接合を行うこととなる。
【0016】
具体的には、プローブ12はその平面視における回転方向を、プローブ12の進行方向に対して厚板側のアルミニウム合金板13’側から薄板側のアルミニウム合金板13側へと向かう方向とした上、回転数を1500rpm、接合速度400mm/分として上記アルミニウム合金板13、13’の突き合わせ面14に沿って一側端面より差し込み、摩擦撹拌を行いながら接合部15を形成し、他側端面より抜去するものとした。この摩擦撹拌接合により、図2に示すように、プローブ12の通過に伴い、突き合わせ面14周囲にはアルミニウム合金が流動化した溢出物13aが発生する。そして、この流動化した溢出物13aはプローブ12並びに上、下ショルダー2,7の回転に伴って、傾斜した上・下圧接部3,8と2枚のアルミニウム合金板13、13’とによって形成された上下の隙間部13bの内、薄板側のアルミニウム合金板13によって形成された隙間部13b側に集中し、該薄板側のアルミニウム合金板13によって形成された隙間部13bを埋め尽くすことによって接合部15を形成する。
その結果、上記アルミニウム合金板13、13’の突き合わせ面14に沿って形成され、板厚が連続して変化し、その表面が均一な鱗状のビード模様であって平滑な傾斜面となる接合部15により一体に接合された差厚テーラードブランク材16が得られた〔図2(ニ)参照〕。
【0017】
そして、該差厚テーラードブランク材16における接合部15について複数箇所からサンプリングを行い、曲げ試験及び断面組織観察を行ったところ、キッシングボンドや未接合などの欠陥は見出されなかった。また接合部15の引張試験の結果、引張強さは210MPa、伸びは14%となり、十分な強度を有することも確認された。その上、該差厚テーラードブランク材16に対するプレス成形試験でも割れを生じることなく成形することができた。
以上より、本願発明の効果は明確に確認された。
【実施例2】
【0018】
本願発明の実施例2を説明する。
まず、本願発明の実施例2において使用する摩擦撹拌接合装置1は、実施例1におけるものと同一である。一方、接合母材は幅700mm×長さ1500mm×厚さ1.0mmの5182−Oのアルミニウム合金板18と幅700mm×長さ1500mm×厚さ0.7mmの冷間圧延鋼板18’であって、異種金属間の差厚テーラードブランク材17の作製を行った。
即ち、厚さの異なる上記アルミニウム合金板18と冷間圧延鋼板18’とを長さ方向に突き合わせた上で、隙間が20mmの鋼製裏当て治具により全長を押さえ板により拘束した(図示せず)。そして、本願発明の摩擦撹拌接合装置1の回転シャフト11の軸位置を、接合する2枚のアルミニウム合金板18と冷間圧延鋼板18’の突き合わせ面14より、該プローブ12の半径長の1.5倍に当たるP=3.75mmだけアルミニウム合金板18側にずらした上、上ショルダー2を位置制御してアルミニウム合金板18に当接させるとともに、下ショルダー7を5kNで引き上げて、同様にアルミニウム合金板18に当接させる。その上で、各圧力調整装置5、10に内装される油圧シリンダーの圧力を調整して、図3(イ)にあるように、上下の圧接部3,8をそれぞれ傾斜させて、冷間圧延鋼板18’に当接させる。これにより、上記アルミニウム合金板18と冷間圧延鋼板18は、突き合わせ面14の上下方向からそれぞれ傾斜した上下の圧接部3,8により挟持された状態となる。この状態で回転シャフト11を回転させて摩擦撹拌接合を行うこととなる。
【0019】
具体的には実施例1の場合と同様、プローブ12はその平面視における回転方向を、該プローブ12の進行方向においてアルミニウム合金板18側から冷間圧延鋼板18’側へと向かう方向とした上、回転数を1500rpm、接合速度400mm/分として上記アルミニウム合金板18の一側端面から突き合わせ面14に平行に差し込み、摩擦撹拌を行いながら接合部15を形成し、他側端面より抜去するものとした。この摩擦撹拌接合により、図3に示すように、プローブ12の通過に伴い、プローブ12の通過部周囲にはアルミニウム合金が流動化した溢出物18aが発生する。そして、この流動化した溢出物18aはプローブ12並びに上、下ショルダー2,7の回転に伴って、傾斜した上・下圧接部3,8とアルミニウム合金板18及び冷間圧延鋼板18’とによって形成された上下の隙間部18bの内、冷間圧延鋼板18’側に形成された隙間部18b側に集中し、該冷間圧延鋼板18’側に形成された隙間部18bを埋め尽くすことによって接合部15を形成する。
その結果、上記アルミニウム合金板18と冷間圧延鋼板18’との間で形成され、板厚が連続して変化し、その表面は均一な鱗状のビード模様であって、平滑な傾斜面となる接合部15により一体に接合された差厚テーラードブランク材17が得られた。(図4(ニ)参照)
【0020】
そして、該差厚テーラードブランク材17における接合部15について複数箇所からサンプリングを行い、断面組織観察を行ったところ、摩擦撹拌接合の際のアルミニウム合金板18による溢出物18aが冷間圧延鋼板18’の表面を突き合わせ面14の上下方向より被覆するものとなっており、キッシングボンドや未接合などの欠陥も見出されなかった。また接合部の引張試験の結果では、アルミニウム合金板18側で破断し、その接合部15が十分な強度を有していることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本願発明は、同種又は異種金属を問わず、等厚又は差厚の接合母材における摩擦撹拌接合に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明の実施例における摩擦撹拌接合装置の構造を、(イ)等厚接合母材の場合、(ロ)差厚接合母材の場合で示す模式図である。
【図2】本願発明の実施例1におけるテーラードブランク材の製造過程を示す模式図である。
【図3】本願発明の実施例2におけるテーラードブランク材の製造過程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
1 摩擦撹拌接合装置
2 上ショルダー
3 上圧接部
4 本体部
4a シャフト部
4b 円盤部
5 圧力調整装置
6 貫通孔
6’ テーパー面
7 下ショルダー
8 下圧接部
9 本体部
10 圧力調整装置
11 回転シャフト
12 プローブ
13、13’ アルミニウム合金板
13a 溢出物
13b 隙間部
14 突き合わせ面
15 接合部
16 (同種金属間の)差厚テーラードブランク材
17 (異種金属間の)差厚テーラードブランク材
18 アルミニウム合金板
18a 溢出物
18b 隙間部
18’ 冷間圧延鋼板
P 突き合わせ面からプローブ中心までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを設けた回転シャフトに対して、板厚が異なる接合すべき接合母材を挟持しつつ該回転シャフトと同期して回転しうる上ショルダー及び下ショルダーを、該プローブの上下に設けてなり、
該プローブ平面視における回転方向は、プローブの進行方向に対して厚板側から薄板側へ向かうものとし、
該上、下ショルダーのうち少なくとも一方には、本体部だけでなく、本体部の対向するショルダー側に圧接部を有してなり、
該圧接部は、前記回転シャフトが貫通して設けられる貫通孔の内周面を、対向するショルダー側に向けて内径が略回転シャフト径に狭まるテーパ形状とするとともに、該本体部に対してそれぞれ個別に上下方向に伸縮自在となる圧力調整装置を回転シャフトを中心として複数介装して、該圧接部を有するショルダーの回転にかかわらず、本体部に対して常に一定方向に傾動自在に一体としてなる摩擦撹拌接合装置。
【請求項2】
上、下の各ショルダーにおいて、それぞれ本体部とともに圧接部を設けてなる請求項1記載の摩擦撹拌接合装置を使用するものであって、
上記板厚の異なる接合すべき接合母材において、一方の接合母材は他方の接合母材よりも接合温度域での強度の高い薄板状の硬質金属とし、他方の接合母材は一方の接合母材よりも接合温度域で強度の低い厚板状の軟質金属とするものであって、該両接合母材をその厚み方向の中心線が一直線となるように揃えて突き合わせた上、上記摩擦撹拌接合装置において上記両接合母材の突き合わせ面より軟質金属側に差し込むプローブの中心までの距離Pを、該プローブの半径をrとしたときにr<P≦2rとするとともに、上、下ショルダーの各圧接部を薄板状の硬質金属側に傾斜させて挟持して摩擦撹拌接合してなることを特徴とする摩擦撹拌接合装置を利用した異種金属同士の差厚テーラードブランク材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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