説明

摩擦攪拌接合用工具、それを用いた接合法及びそれにより得た加工物

【課題】本発明の目的は、摩擦攪拌接合用工具について、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、工具からの不純物の混入が少なく、摩耗が少なく、且つ、破壊されにくい工具を提供することである。
【解決手段】本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有する。ステンレス鋼や炭素含有量が2質量%以下の鋼を被加工物とできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点部材を摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)するための摩擦攪拌接合用工具と、それを用いた摩擦攪拌接合法並びに該摩擦攪拌接合法によって得られた加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の接合方法として、摩擦攪拌接合法の技術が開示されている(例えば特許文献1又は2を参照。)。摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、摩擦熱を利用して被加工物を接合する接合法である。そして、摩擦攪拌接合法は、鉄、アルミニウム合金などの金属相互の溶接は勿論異種金属の溶接すら可能な溶接法である。
【0003】
摩擦攪拌接合法については、融点が比較的低いアルミニウム及びアルミニウム合金を対象とした接合が多く検討されており、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金を被加工物として摩擦攪拌接合法を適用した報告例は少ないが、高融点である白金を接合した技術の開示がある(例えば特許文献3を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特表平7−505090号公報
【特許文献2】特表平9−508073号公報
【特許文献3】特開2004−090050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高融点を有する被加工物とする場合、摩擦攪拌接合用工具と被加工物との摩擦による発熱は、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金等の比較的融点が低い被加工物を対象とした場合と比較して、さらに高温まで上げる必要がある。したがって、摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を接合し、長寿命であるために、摩擦によって高温に発熱させてもそれに耐える化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。
【0006】
そこで本発明の目的は、摩擦攪拌接合用工具について、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、工具からの不純物の混入が少なく、摩耗が少なく、且つ、破壊されにくい工具を提供することであり、そしてこの工具を用いて安定して摩擦攪拌接合を実現することである。
【0007】
また本発明のもう一つの目的は、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物のみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼についても、同様に、摩擦攪拌接合を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、摩擦攪拌接合用工具を形成する材料の組成を種々検討した結果、イリジウムを主成分とし、所定の元素を副成分として含有する組成をもつ合金によって摩擦攪拌接合用工具を形成すると、高融点を有する被加工物を安定して摩擦攪拌接合できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを含む。
【0011】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム合金で形成されており、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ルテニウム合金で形成されており、ルテニウムの含有量が1.0〜45.0原子%であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−モリブデン合金で形成されており、モリブデンの含有量が1.0〜23.0原子%であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タングステン合金で形成されており、タングステンの含有量が1.0〜19.0原子%であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ニオブ合金で形成されており、ニオブの含有量が1.0〜16.0原子%であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タンタル合金で形成されており、タンタルの含有量が1.0〜16.0原子%であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ジルコニウム合金で形成されており、ジルコニウムの含有量が0.3〜5.0原子%であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ハフニウム合金で形成されており、ハフニウムの含有量が0.3〜12.0原子%であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム−ジルコニウム合金で形成されており、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.1〜5.0原子%であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム−ハフニウム合金で形成されており、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ハフニウムの含有量が0.1〜5.0原子%であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、前記被加工物は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る摩擦攪拌接合法では、前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを含む。
【0024】
本発明に係る摩擦攪拌接合法では、前記摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことが好ましい。被加工物の裏面側もかなりの高温まで上昇する。そこでそれに耐えうる化学的安定性、耐熱強度及び耐熱衝撃性を有する材料からなるバックプレート又は該組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがうことで、バックプレートの融着を防止し、またバックプレートからの不純物の混入を防止できる。
【0025】
本発明に係る摩擦攪拌接合部位を有する加工物は、前記摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、摩擦攪拌接合用工具について、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、工具からの不純物の混入を少なくし、摩耗を少なくし、且つ、破壊されることを低減できる。また、この工具を用いて安定した摩擦攪拌接合を実現することができる。
【0027】
また本発明は、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物のみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなる被加工物にも適用でき、例えば、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼についても、同様に、摩擦攪拌接合を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。最初に図1を参照して摩擦攪拌接合法のプロセスとその装置について説明する。図1は摩擦攪拌接合法の機構の一形態を示す概念図である。
【0029】
摩擦攪拌接合法は、被加工物1A,1Bを相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域2を規定する工程、摩擦攪拌接合用工具3を回転させながら結合領域2に挿入して摩擦攪拌接合用工具3と結合領域2との間で摩擦熱を発生させ、発熱させた結合領域中に可塑性領域を発生させて加工物同士を接合する工程を備えるものである。
【0030】
ここで、摩擦攪拌接合用工具3は円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4とを備える。なお、摩擦攪拌接合用工具3はモータ7によって回転する。摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれなければならないので、被加工物1A,1Bは相互に当接されていなければならない。摩擦が行なわれることを条件に被加工物がほぼ当接していても良い。また、スポット接合ではなく連続した接合を行なうために結合領域2は細長でなければならず、結合領域2に大きな空間があると摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれない。さらに、摩擦攪拌接合用工具3は摩擦熱に耐えなければならず、且つ回転によるねじれの応力に耐え得る強度を有する必要がある。また、被加工物1A,1Bの裏面側にはバックプレート6が配置される。
【0031】
次に摩擦攪拌接合法の原理について説明する。被加工物1A,1Bを突合せ、摩擦攪拌接合用工具3を回転させ、ペンシル部分4をゆっくりと結合領域2である突合せラインに挿入する。このとき、ペンシル部分4が設けられている円柱形の肩状部5の端面と、被加工物1A,1Bの表面が当接し合っている。このペンシル部分4の長さは溶接深さに必要なものとする。摩擦攪拌接合用工具3が回転して、結合領域2に接触すると摩擦が接触点の材料を急速に加熱させ、その結果、材料の機械的強度を低下させる。さらに力を加えると摩擦攪拌接合用工具3はその進行方向8に沿って材料をこね、押し出す。結合領域2では、摩擦攪拌接合用工具3の回転する肩状部5とペンシル部分4によって発生した摩擦熱が、肩状部5の端面部分とペンシル部分4の周りの金属に高温の可塑性領域を作る。被加工物1A,1Bが摩擦攪拌接合用工具3の動きと反対方向に動くかその逆に動くと、塑性化した金属は摩擦攪拌接合用工具3の進行方向8の前端で潰れ、機械的攪拌と摩擦攪拌接合用工具3の形状と回転方向による鍛造作用によって後端へ移動する。この結果、摩擦攪拌接合用工具3の前面の接合部を加熱し、可塑性領域を作り出す。そして被加工物に存在する酸化膜を破壊し潰れた金属を攪拌しながら、摩擦攪拌接合用工具3の後端で可塑性領域は冷却されて固体状の溶着を形成するに至る。この現象はすべて被加工物の融点よりも低い温度で生じる。
【0032】
摩擦攪拌接合法では、亀裂発生がなくなり、溶着金属の蒸発による合金要素のロスが無く、合金成分をそのまま保持でき、さらに溶接器具の圧入、攪拌及び鍛造作用によって微細な粒状組織が溶着金属に形成されるというメリットがある。
【0033】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であり、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するというものである。
【0034】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、接合目的の被加工物は、特に1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金である。もちろん1600℃未満の融点を有する金属若しくは合金を接合する目的としても使用できる。1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金としては、数例を例示すれば、チタン、チタン基合金、白金、白金基合金である。なお、突合せる被加工物同士は異種組成のものであっても良い。さらに、強度強化のために酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ハフニウム等の酸化物微粒子を分散させた酸化物分散強化型の金属若しくは合金も本実施形態における高融点を有する金属若しくは合金に含まれる。
【0035】
前記した1600℃未満の融点を有する金属若しくは合金としては、例えば、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼である。これらの材料においても1350℃以上の高融点を有するため、摩擦攪拌接合を行なうことは従来困難であるとされていた材料である。ここでステンレス鋼は、12%以上のクロムを含む鋼であり、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系のいずれも含まれる。さらに、フェライト/オーステナイト2相混合組織をもつ2相ステンレス鋼、PHステンレス鋼も含まれる。本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物とするのみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼を被加工物とすることもできる。
【0036】
このとき、摩擦攪拌接合用工具3は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であり、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するというものである。
【0037】
被加工物に接触させる部分とは、図1を参照すれば、円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4である。少なくとも当該部分が特に化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。図1では肩状部5を長く形成して直接モータ7を取り付けているが、例えば肩状部5の上端部分に他材質からなる軸部(不図示)を固定し、該軸部にモータ7を取り付けることとしても良い。軸部は、直接摩擦される部分ではないため、上記要求特性は被加工物に接触させる部分と比較して高度に要求されないためである。ただし、軸となることから耐ねじれ強度は要求される。なお、軸部は被加工物に接触させる部分とはならないが、肩状部5とペンシル部分4と同一材料で形成されていても良い。
【0038】
被加工物に接触させる部分は、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有する材料で形成される。1600℃以上の高融点を有する被加工物を摩擦攪拌接合する際、摩擦攪拌接合用工具は、被加工物の結合領域に押し付けられた状態で回転させられるため、上記被加工物の融点に近い温度まで加熱された状態で、圧縮応力とねじれ応力が加えられる。
【0039】
したがって、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有する材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで、化学的安定性が良好となり、熔解した状態の被加工物と接触しても反応することが抑制される。すなわち、被加工物側から見れば摩擦攪拌接合用工具からの不純物の混入が少なく、摩擦攪拌接合用工具から見れば被加工物の成分と反応しにくいので化学的安定性等の上記要求特性の低下が抑制される。
【0040】
また、これらの材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで高温強度が得られ、作業中に圧縮応力とねじれ応力が加えられてもそれに耐えうる。また、耐熱衝撃性も良好となるため、作業を行なうたびに昇温降温が繰り返されてもそれを原因として破壊されることは少ない。
【0041】
さらに被加工物に接触させる部分は、耐摩耗性が要求されるため、上記組成の材料で形成されるもののうち、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有する材料で形成する必要がある。本実施形態の摩擦攪拌接合用工具の硬度は、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)によって評価した。マイクロビッカース硬度が200Hv未満の材質で工具を形成すると、被加工物との摩擦によって早期に摩耗してしまうため寿命が短い。
【0042】
本実施形態の摩擦攪拌接合用工具の硬度は、摩耗を防ぐために250Hv以上が好ましく、300Hv以上がさらに好ましい。
【0043】
なお、マイクロビッカース硬度の測定温度は、1600℃で熱処理後にマイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)によって測定されたものである。
【0044】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム2元合金で形成する場合には、レニウムの含有量を1.0〜36.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは4.5〜29.0原子%であり、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0045】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−ルテニウム2元合金で形成する場合には、ルテニウムの含有量を1.0〜45.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは6.0〜29.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が45.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0046】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−モリブデン2元合金で形成する場合には、モリブデンの含有量を1.0〜23.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.0〜19.0原子%、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が23.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。

【0047】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−タングステン2元合金で形成する場合には、タングステンの含有量を1.0〜19.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.5〜15.0原子%、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が19.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0048】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ニオブ2元合金で形成する場合には、ニオブの含有量を1.0〜16.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.0〜13.0原子%、さらに好ましくは2.0〜8.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が16.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0049】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−タンタル2元合金で形成する場合には、タンタルの含有量を1.0〜16.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.0〜13.0原子%、さらに好ましくは2.0〜8.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が16.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0050】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ジルコニウム2元合金で形成する場合には、ジルコニウムの含有量を0.3〜5.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0原子%とする。含有量を0.3原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0051】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ハフニウム2元合金で形成する場合には、ハフニウムの含有量を0.3〜12.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0原子%とする。含有量を0.3原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が12.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0052】
なお、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、被加工物に接触させる部分を、副成分が1成分である2成分系合金のみならず、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−レニウム−ジルコニウム合金、イリジウム−レニウム−ハフニウム合金、イリジウム−レニウム−モリブテン合金が有る。
【0053】
例えば、被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム−ジルコニウム合金で形成する場合には、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.1〜5.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは、イリジウムの含有量が95.9〜80.0原子%、レニウムの含有量が3.6〜18.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.5〜2.0原子%とする。イリジウムを主成分とし、レニウムを添加することで材料強度及び材料硬度の向上を図り、さらにジルコニウムを添加することによる材料強度及び材料硬度の向上と結晶粒微細化を図る。レニウムの含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、高温での酸化揮発減耗量が増加する。ジルコニウムの含有量を0.1原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、融点の低下や材料の均一性が劣る場合がある。
【0054】
例えば、前記被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム−ハフニウム合金で形成する場合には、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ハフニウムの含有量が0.1〜5.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは、イリジウムの含有量が95.9〜80.0原子%、レニウムの含有量が3.6〜18.0原子%、ハフニウムの含有量が0.5〜2.0原子%とする。イリジウムを主成分とし、レニウムを添加することで材料強度及び材料硬度の向上を図り、さらにハフニウムを添加することによる材料強度及び材料硬度の向上と結晶粒微細化を図る。レニウムの含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、高温での酸化揮発減耗量が増加する。ハフニウムの含有量を0.1原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、融点の低下や材料の均一性が劣る場合がある。
【0055】
また、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するものも含まれる。
【0056】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム2元合金、イリジウム−ルテニウム2元合金、イリジウム−モリブデン2元合金、イリジウム−タングステン2元合金、イリジウム−ニオブ2元合金、イリジウム−タンタル2元合金、イリジウム−ジルコニウム2元合金、イリジウム−ハフニウム2元合金で形成する場合には、これらの組成は前記各2元系合金の組成と同様とする。
【0057】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−チタン2元合金で形成する場合には、チタンの含有量を1.0〜11.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは1.5〜9.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が11.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0058】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−バナジウム2元合金で形成する場合には、バナジウムの含有量を1.0〜19.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.5〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が19.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0059】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−クロム2元合金で形成する場合には、クロムの含有量を1.0〜27.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.5〜22.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が27.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0060】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−マンガン2元合金で形成する場合には、マンガンの含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0061】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−鉄2元合金で形成する場合には、鉄の含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0062】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−コバルト2元合金で形成する場合には、コバルトの含有量を1.0〜30.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.9〜24.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が30.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0063】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ニッケル2元合金で形成する場合には、ニッケルの含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0064】
なお、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−チタン−バナジウム合金、イリジウム−チタン−クロム合金、イリジウム−チタン−マンガン合金、イリジウム−バナジウム−クロム合金、イリジウム−バナジウム−マンガン合金、イリジウム−クロム−マンガン合金等が有る。
【0065】
また本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記組成を満たした工具を製造する際に、溶解法によって得た固溶体で工具を形成することが好ましい。また、焼結法によって得た焼結体で工具を形成することとしても良い。
【0066】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、主成分であるイリジウムに対する副成分の組み合わせを複数例示しているが、副成分の選択は、被加工物に応じて使い分けても良い。
【0067】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、工具の形状には限定されない。工具の形状は、摩擦係数や攪拌効率を考慮して被加工物に応じて適宜選択する。
【0068】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合法では、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなる被加工物を、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を使用して接合を図るものである。
【0069】
もちろん、本実施形態に係る摩擦攪拌接合法では、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼からなる被加工物を、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を使用して接合を図る場合も含まれる。
【0070】
さらに摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート(図1中、符号6)又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことが好ましい。摩擦攪拌接合用工具を押し当てる面の裏面側も高温まで昇温するため、ステンレス等のバックプレートをあてがうと、バックプレートと被加工物が接合する場合や、バックプレートの成分が接合部に溶出する場合がある。摩擦攪拌接合用工具のみならず、バックプレートについてもイリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム等を副成分として含有する上記組成で形成することで、被加工物と接合せず、接合部への不純物の混入の低減や、接合部への不純物の溶出を低減できる。また、イリジウム被膜若しくは上記組成の被膜をバックプレートに施すこととしても良い。この場合、被膜を施す基材は、上記組成の材料で形成されていることが好ましいが、上記組成の材料で形成されていない場合も本実施形態に含まれる。被膜の厚さは例えば10〜500μmとし、50〜100μmとすることが好ましい。また、摩擦攪拌接合用工具の組成とバックプレート若しくはそれに施す被膜の組成とは同一の組成とすることが好ましいが、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成のバックプレート、或いはこれらを被膜化したバックプレートであることを満たす限り、異種組成を組み合わせても良い。
【0071】
本実施形態の摩擦攪拌接合法を行なうことで、高融点を有する被加工物であっても、不純物の混入が少ない摩擦攪拌接合部位を有する加工物を得ることができる。
【0072】
もちろん、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼からなり、摩擦攪拌接合部位を有する加工物も得ることができる。
【実施例】
【0073】
溶解法により、表1に示した組成の合金を実施例1〜実施例21として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、マイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図2に示した。比較例1はイリジウム金属とした。
【0074】
さらに溶解法により、表2に示した組成の合金を実施例22〜実施例29として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、マイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図3に示した。比較例1はイリジウム金属とした。
【0075】
【表1】

【表2】

【0076】
図2及び図3を参照すると、イリジウムに対して、副成分としてレニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ルテニウム、チタン又はバナジウムの各添加量を増加させると、マイクロビッカース硬度が増加する傾向が見られる。図2のグラフにおいて、マイクロビッカース硬度Hvが200以上となる副成分の添加量が耐摩耗性の観点から要求される。
【0077】
(実施例30)
次にイリジウム90.0原子%、レニウム10.0原子%の組成を有する摩擦攪拌接合用工具を溶解法により作製し、実施例30とした。図2のグラフからマイクロビッカース硬度Hvは300であると読み取れる。また比較のために、比較例1のイリジウム100原子%の摩擦攪拌接合用工具を作製した。図2のグラフからマイクロビッカース硬度Hvは180であると読み取れる。被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士を突合せて、結合領域を形成し、該結合領域に実施例30又は比較例1の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化ジルコニウム分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。そして、接合は実施例30、比較例1共に行なうことができた。また実施例30、比較例1共に摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0078】
接合距離を300cmとして、接合を5回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。摩耗量は、減少した肉厚部分の厚さを測定した。実施例30の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.2(mm)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は変形が確認されたため正確性は欠けるが約1.5(mm)であった。したがって、実施例30の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。一方、比較例1の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できたものの、工具の摩耗量が多く、劣化が早いといえる。実施例1〜実施例29の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.1〜0.3(mm)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0079】
なお、実施例30の摩擦攪拌接合は、イリジウム90.0原子%、レニウム10.0原子%の組成を有するバックプレートに被加工物を載せて行なったものである。このとき被加工物にバックプレートが接合することや、被加工物にバックプレートが融着することはなかった。そこで、接合部分の板厚方向について、摩擦攪拌接合用工具の押し当て表面、及び、バックプレート側の裏面について、電子線マイクロアナライザ(日本電子株式会社製)を用いてEPMA分析を行なった。イリジウム又はレニウムが不純物として接合部分に混入していることや、イリジウム又はレニウムが不純物として接合部分に溶出しているとは認められなかった。
【0080】
次に比較試験のため、実施例30の摩擦攪拌接合用工具を使用し、且つ、バックプレートとしてステンレス(SUS−304)を用いて接合を行なった。このとき被加工物にバックプレートが接合することや、被加工物にバックプレートの融着が生じた。そして同様にEPMA分析を行なった。その結果、鉄が不純物として接合部分に混入していることや、鉄が不純物として接合部分に溶出していることが認められた。そして、バックプレート側である被加工物裏面における鉄含有量は最大3%であり、摩擦攪拌接合用工具の押し当て側である被加工物表面における鉄含有量は最大300ppmであった。したがって、バックプレートから接合部分に鉄が溶出し、摩擦攪拌される工程中に被加工物の表面側(押し当て面側)に鉄が拡散及び鉄が攪拌していくと考えられる。したがって、実施例30の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いることで、接合防止、融着防止及び接合部分への不純物の混入防止、溶出防止ができることが判明した。さらに実施例1〜29の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いても同様に接合防止、融着防止及び接合部分への不純物の混入防止、溶出防止ができることが判明した。
【0081】
表3に示した組成の合金を実施例31と実施例32及び比較例1として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、実施例31、32、及び、比較例1の再結晶温度に基づくマイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図4(再結晶温度調査)に示した。図4は、再結晶温度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【0082】
【表3】

【0083】
硬度及び耐摩耗性の観点から、ビッカーズ硬度200Hv以上が要求され、図4から実施例31、32は、1350℃以上で熱処理されたものを室温で測定してもビッカーズ硬度300Hv以上を維持することができるが、比較例1は、1300℃付近で熱処理されたものを室温で測定すると、ビッカーズ硬度300Hvを下回る結果になった。硬度を得るためには、他元素及び含有量が必要であることが確認された。
【0084】
また、実施例31、32及び比較例1の摩耗量を測定した。被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に実施例31又は32の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化ジルコニウム分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。測定結果を図5(摩耗量調査)に示した。図5は、ツール外周の回転距離と単位面積あたりの質量減との関係を示す図である。ツール外周の回転距離は、肩状部5の円周×回転数×接合時間(接合距離/送り速度)のように求めた。このときのツール外周の質量減は、接合前の重量−接合後の重量のように求めた。図5から3元合金で形成された実施例31、32は、3元合金以上で形成することにより、比較例1より摩耗に対する耐性を維持する効果が確認された。
【0085】
実施例31と比較例1の摩擦攪拌接合用工具を用い、被加工物として、ステンレス(SUS−304)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に 実施例31と比較例1の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合をとして試みた。なお、当該SUS304の融点は1400〜1450℃である。そして、接合は、実施例31、比較例1共に行なうことができた。また、実施例31、比較例1共に摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0086】
また、実施例31の摩擦攪拌接合用工具を用い、被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に実施例31の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化物分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。そして、接合を行なうことができた。また摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0087】
SUS304の接合距離を100cmとして、接合を1回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。回転数と送り速度は一定とした。摩耗量は、接合前と接合後の摩擦攪拌接合用工具の重量の差を測定した。実施例31の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.3(g)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は約1.5(g)であった。したがって、実施例31の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。一方、比較例1の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できたものの、工具の摩耗量が多く、劣化が早いといえる。実施例32の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.3(g)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0088】
酸化物分散強化白金の接合距離を100cmとして、接合を1回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。回転数と送り速度は一定とした。摩耗量は、接合前と接合後の摩擦攪拌接合用工具の重量の差を測定した。実施例31の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.6(g)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は3.0(g)であった。したがって、実施例31の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。実施例32の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.63(g)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0089】
また、実施例31の89原子%Ir−10原子%Re−1原子%Zrの組成を有するバックプレートに被加工物を載せて行なった。このとき被加工物にバックプレートが接合することはなかった。そこで、接合部分の板厚方向について、摩擦攪拌接合用工具の押し当て表面、及び、バックプレート側の裏面について、電子線マイクロアナライザ(日本電子株式会社製)を用いてEPMA分析を行なった。その結果、イリジウム、レニウム、ジルコニウムが不純物として接合部分に混入しているとは認められなかった。さらに、実施例32の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いても同様に接合防止及び接合部分への不純物の混入防止ができることが判明した
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】摩擦攪拌接合法の機構の一形態を示す概念図である。
【図2】副成分の添加元素濃度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図3】副成分の添加元素濃度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図4】再結晶温度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図5】ツール外周の回転距離と単位面積あたりの質量減との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1A,1B,被加工物
2,結合領域
3,摩擦攪拌接合用工具(プローブピン)
4,ペンシル部分
5,肩状部
6,バックプレート
7,モータ
8,進行方向
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点部材を摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)するための摩擦攪拌接合用工具と、それを用いた摩擦攪拌接合法並びに該摩擦攪拌接合法によって得られた加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の接合方法として、摩擦攪拌接合法の技術が開示されている(例えば特許文献1又は2を参照。)。摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、摩擦熱を利用して被加工物を接合する接合法である。そして、摩擦攪拌接合法は、鉄、アルミニウム合金などの金属相互の溶接は勿論異種金属の溶接すら可能な溶接法である。
【0003】
摩擦攪拌接合法については、融点が比較的低いアルミニウム及びアルミニウム合金を対象とした接合が多く検討されており、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金を被加工物として摩擦攪拌接合法を適用した報告例は少ないが、高融点である白金を接合した技術の開示がある(例えば特許文献3を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特表平7−505090号公報
【特許文献2】特表平9−508073号公報
【特許文献3】特開2004−090050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高融点を有する被加工物とする場合、摩擦攪拌接合用工具と被加工物との摩擦による発熱は、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金等の比較的融点が低い被加工物を対象とした場合と比較して、さらに高温まで上げる必要がある。したがって、摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を接合し、長寿命であるために、摩擦によって高温に発熱させてもそれに耐える化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。
【0006】
そこで本発明の目的は、摩擦攪拌接合用工具について、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、工具からの不純物の混入が少なく、摩耗が少なく、且つ、破壊されにくい工具を提供することであり、そしてこの工具を用いて安定して摩擦攪拌接合を実現することである。
【0007】
また本発明のもう一つの目的は、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物のみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼についても、同様に、摩擦攪拌接合を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、摩擦攪拌接合用工具を形成する材料の組成を種々検討した結果、イリジウムを主成分とし、所定の元素を副成分として含有する組成をもつ合金によって摩擦攪拌接合用工具を形成すると、高融点を有する被加工物を安定して摩擦攪拌接合できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウムを副成分として含有する2元合金の組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケルを副成分として含有する2元合金の組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを含む。
【0011】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム合金で形成されており、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ルテニウム合金で形成されており、ルテニウムの含有量が1.0〜45.0原子%であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−モリブデン合金で形成されており、モリブデンの含有量が1.0〜23.0原子%であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タングステン合金で形成されており、タングステンの含有量が1.0〜19.0原子%であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ニオブ合金で形成されており、ニオブの含有量が1.0〜16.0原子%であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タンタル合金で形成されており、タンタルの含有量が1.0〜16.0原子%であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ジルコニウム合金で形成されており、ジルコニウムの含有量が0.3〜5.0原子%であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ハフニウム合金で形成されており、ハフニウムの含有量が0.3〜12.0原子%であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、前記被加工物は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る摩擦攪拌接合法では、前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを含む。
【0022】
本発明に係る摩擦攪拌接合法では、前記摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことが好ましい。被加工物の裏面側もかなりの高温まで上昇する。そこでそれに耐えうる化学的安定性、耐熱強度及び耐熱衝撃性を有する材料からなるバックプレート又は該組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがうことで、バックプレートの融着を防止し、またバックプレートからの不純物の混入を防止できる。
【0023】
本発明に係る摩擦攪拌接合部位を有する加工物は、前記摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、摩擦攪拌接合用工具について、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、工具からの不純物の混入を少なくし、摩耗を少なくし、且つ、破壊されることを低減できる。また、この工具を用いて安定した摩擦攪拌接合を実現することができる。
【0025】
また本発明は、1600℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物のみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなる被加工物にも適用でき、例えば、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼についても、同様に、摩擦攪拌接合を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。最初に図1を参照して摩擦攪拌接合法のプロセスとその装置について説明する。図1は摩擦攪拌接合法の機構の一形態を示す概念図である。
【0027】
摩擦攪拌接合法は、被加工物1A,1Bを相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域2を規定する工程、摩擦攪拌接合用工具3を回転させながら結合領域2に挿入して摩擦攪拌接合用工具3と結合領域2との間で摩擦熱を発生させ、発熱させた結合領域中に可塑性領域を発生させて加工物同士を接合する工程を備えるものである。
【0028】
ここで、摩擦攪拌接合用工具3は円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4とを備える。なお、摩擦攪拌接合用工具3はモータ7によって回転する。摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれなければならないので、被加工物1A,1Bは相互に当接されていなければならない。摩擦が行なわれることを条件に被加工物がほぼ当接していても良い。また、スポット接合ではなく連続した接合を行なうために結合領域2は細長でなければならず、結合領域2に大きな空間があると摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれない。さらに、摩擦攪拌接合用工具3は摩擦熱に耐えなければならず、且つ回転によるねじれの応力に耐え得る強度を有する必要がある。また、被加工物1A,1Bの裏面側にはバックプレート6が配置される。
【0029】
次に摩擦攪拌接合法の原理について説明する。被加工物1A,1Bを突合せ、摩擦攪拌接合用工具3を回転させ、ペンシル部分4をゆっくりと結合領域2である突合せラインに挿入する。このとき、ペンシル部分4が設けられている円柱形の肩状部5の端面と、被加工物1A,1Bの表面が当接し合っている。このペンシル部分4の長さは溶接深さに必要なものとする。摩擦攪拌接合用工具3が回転して、結合領域2に接触すると摩擦が接触点の材料を急速に加熱させ、その結果、材料の機械的強度を低下させる。さらに力を加えると摩擦攪拌接合用工具3はその進行方向8に沿って材料をこね、押し出す。結合領域2では、摩擦攪拌接合用工具3の回転する肩状部5とペンシル部分4によって発生した摩擦熱が、肩状部5の端面部分とペンシル部分4の周りの金属に高温の可塑性領域を作る。被加工物1A,1Bが摩擦攪拌接合用工具3の動きと反対方向に動くかその逆に動くと、塑性化した金属は摩擦攪拌接合用工具3の進行方向8の前端で潰れ、機械的攪拌と摩擦攪拌接合用工具3の形状と回転方向による鍛造作用によって後端へ移動する。この結果、摩擦攪拌接合用工具3の前面の接合部を加熱し、可塑性領域を作り出す。そして被加工物に存在する酸化膜を破壊し潰れた金属を攪拌しながら、摩擦攪拌接合用工具3の後端で可塑性領域は冷却されて固体状の溶着を形成するに至る。この現象はすべて被加工物の融点よりも低い温度で生じる。
【0030】
摩擦攪拌接合法では、亀裂発生がなくなり、溶着金属の蒸発による合金要素のロスが無く、合金成分をそのまま保持でき、さらに溶接器具の圧入、攪拌及び鍛造作用によって微細な粒状組織が溶着金属に形成されるというメリットがある。
【0031】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であり、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するというものである。
【0032】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、接合目的の被加工物は、特に1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金である。もちろん1600℃未満の融点を有する金属若しくは合金を接合する目的としても使用できる。1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金としては、数例を例示すれば、チタン、チタン基合金、白金、白金基合金である。なお、突合せる被加工物同士は異種組成のものであっても良い。さらに、強度強化のために酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ハフニウム等の酸化物微粒子を分散させた酸化物分散強化型の金属若しくは合金も本実施形態における高融点を有する金属若しくは合金に含まれる。
【0033】
前記した1600℃未満の融点を有する金属若しくは合金としては、例えば、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼である。これらの材料においても1350℃以上の高融点を有するため、摩擦攪拌接合を行なうことは従来困難であるとされていた材料である。ここでステンレス鋼は、12%以上のクロムを含む鋼であり、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系のいずれも含まれる。さらに、フェライト/オーステナイト2相混合組織をもつ2相ステンレス鋼、PHステンレス鋼も含まれる。本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物とするのみならず、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼を被加工物とすることもできる。
【0034】
このとき、摩擦攪拌接合用工具3は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であり、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するというものである。
【0035】
被加工物に接触させる部分とは、図1を参照すれば、円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4である。少なくとも当該部分が特に化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。図1では肩状部5を長く形成して直接モータ7を取り付けているが、例えば肩状部5の上端部分に他材質からなる軸部(不図示)を固定し、該軸部にモータ7を取り付けることとしても良い。軸部は、直接摩擦される部分ではないため、上記要求特性は被加工物に接触させる部分と比較して高度に要求されないためである。ただし、軸となることから耐ねじれ強度は要求される。なお、軸部は被加工物に接触させる部分とはならないが、肩状部5とペンシル部分4と同一材料で形成されていても良い。
【0036】
被加工物に接触させる部分は、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有する材料で形成される。1600℃以上の高融点を有する被加工物を摩擦攪拌接合する際、摩擦攪拌接合用工具は、被加工物の結合領域に押し付けられた状態で回転させられるため、上記被加工物の融点に近い温度まで加熱された状態で、圧縮応力とねじれ応力が加えられる。
【0037】
したがって、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有する材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで、化学的安定性が良好となり、熔解した状態の被加工物と接触しても反応することが抑制される。すなわち、被加工物側から見れば摩擦攪拌接合用工具からの不純物の混入が少なく、摩擦攪拌接合用工具から見れば被加工物の成分と反応しにくいので化学的安定性等の上記要求特性の低下が抑制される。
【0038】
また、これらの材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで高温強度が得られ、作業中に圧縮応力とねじれ応力が加えられてもそれに耐えうる。また、耐熱衝撃性も良好となるため、作業を行なうたびに昇温降温が繰り返されてもそれを原因として破壊されることは少ない。
【0039】
さらに被加工物に接触させる部分は、耐摩耗性が要求されるため、上記組成の材料で形成されるもののうち、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有する材料で形成する必要がある。本実施形態の摩擦攪拌接合用工具の硬度は、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)によって評価した。マイクロビッカース硬度が200Hv未満の材質で工具を形成すると、被加工物との摩擦によって早期に摩耗してしまうため寿命が短い。
【0040】
本実施形態の摩擦攪拌接合用工具の硬度は、摩耗を防ぐために250Hv以上が好ましく、300Hv以上がさらに好ましい。
【0041】
なお、マイクロビッカース硬度の測定温度は、1600℃で熱処理後にマイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)によって測定されたものである。
【0042】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム2元合金で形成する場合には、レニウムの含有量を1.0〜36.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは4.5〜29.0原子%であり、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0043】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−ルテニウム2元合金で形成する場合には、ルテニウムの含有量を1.0〜45.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは6.0〜29.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が45.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0044】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−モリブデン2元合金で形成する場合には、モリブデンの含有量を1.0〜23.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.0〜19.0原子%、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が23.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0045】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−タングステン2元合金で形成する場合には、タングステンの含有量を1.0〜19.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.5〜15.0原子%、さらに好ましくは5.0〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が19.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0046】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ニオブ2元合金で形成する場合には、ニオブの含有量を1.0〜16.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.0〜13.0原子%、さらに好ましくは2.0〜8.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が16.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0047】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−タンタル2元合金で形成する場合には、タンタルの含有量を1.0〜16.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.0〜13.0原子%、さらに好ましくは2.0〜8.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が16.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0048】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ジルコニウム2元合金で形成する場合には、ジルコニウムの含有量を0.3〜5.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0原子%とする。含有量を0.3原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0049】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ハフニウム2元合金で形成する場合には、ハフニウムの含有量を0.3〜12.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0原子%とする。含有量を0.3原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が12.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0050】
なお、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、被加工物に接触させる部分を、副成分が1成分である2成分系合金のみならず、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−レニウム−ジルコニウム合金、イリジウム−レニウム−ハフニウム合金、イリジウム−レニウム−モリブテン合金が有る。
【0051】
例えば、被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム−ジルコニウム合金で形成する場合には、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.1〜5.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは、イリジウムの含有量が95.9〜80.0原子%、レニウムの含有量が3.6〜18.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.5〜2.0原子%とする。イリジウムを主成分とし、レニウムを添加することで材料強度及び材料硬度の向上を図り、さらにジルコニウムを添加することによる材料強度及び材料硬度の向上と結晶粒微細化を図る。レニウムの含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、高温での酸化揮発減耗量が増加する。ジルコニウムの含有量を0.1原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、融点の低下や材料の均一性が劣る場合がある。
【0052】
例えば、前記被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム−ハフニウム合金で形成する場合には、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ハフニウムの含有量が0.1〜5.0原子%とすることが好ましい。より好ましくは、イリジウムの含有量が95.9〜80.0原子%、レニウムの含有量が3.6〜18.0原子%、ハフニウムの含有量が0.5〜2.0原子%とする。イリジウムを主成分とし、レニウムを添加することで材料強度及び材料硬度の向上を図り、さらにハフニウムを添加することによる材料強度及び材料硬度の向上と結晶粒微細化を図る。レニウムの含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が36.0原子%を超えると、高温での酸化揮発減耗量が増加する。ハフニウムの含有量を0.1原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が5.0原子%を超えると、融点の低下や材料の均一性が劣る場合がある。
【0053】
また、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有するものも含まれる。
【0054】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−レニウム2元合金、イリジウム−ルテニウム2元合金、イリジウム−モリブデン2元合金、イリジウム−タングステン2元合金、イリジウム−ニオブ2元合金、イリジウム−タンタル2元合金、イリジウム−ジルコニウム2元合金、イリジウム−ハフニウム2元合金で形成する場合には、これらの組成は前記各2元系合金の組成と同様とする。
【0055】
ここで被加工物に接触させる部分をイリジウム−チタン2元合金で形成する場合には、チタンの含有量を1.0〜11.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは1.5〜9.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が11.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0056】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−バナジウム2元合金で形成する場合には、バナジウムの含有量を1.0〜19.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは2.5〜15.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が19.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0057】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−クロム2元合金で形成する場合には、クロムの含有量を1.0〜27.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.5〜22.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が27.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0058】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−マンガン2元合金で形成する場合には、マンガンの含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0059】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−鉄2元合金で形成する場合には、鉄の含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0060】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−コバルト2元合金で形成する場合には、コバルトの含有量を1.0〜30.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは3.9〜24.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が30.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0061】
被加工物に接触させる部分をイリジウム−ニッケル2元合金で形成する場合には、ニッケルの含有量を1.0〜40.0原子%とすることが好ましく、より好ましくは5.0〜32.0原子%とする。含有量を1.0原子%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が40.0原子%を超えると、材料の均一性が劣る場合がある。
【0062】
なお、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−チタン−バナジウム合金、イリジウム−チタン−クロム合金、イリジウム−チタン−マンガン合金、イリジウム−バナジウム−クロム合金、イリジウム−バナジウム−マンガン合金、イリジウム−クロム−マンガン合金等が有る。
【0063】
また本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記組成を満たした工具を製造する際に、溶解法によって得た固溶体で工具を形成することが好ましい。また、焼結法によって得た焼結体で工具を形成することとしても良い。
【0064】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、主成分であるイリジウムに対する副成分の組み合わせを複数例示しているが、副成分の選択は、被加工物に応じて使い分けても良い。
【0065】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、工具の形状には限定されない。工具の形状は、摩擦係数や攪拌効率を考慮して被加工物に応じて適宜選択する。
【0066】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合法では、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなる被加工物を、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を使用して接合を図るものである。
【0067】
もちろん、本実施形態に係る摩擦攪拌接合法では、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼からなる被加工物を、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を使用して接合を図る場合も含まれる。
【0068】
さらに摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート(図1中、符号6)又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことが好ましい。摩擦攪拌接合用工具を押し当てる面の裏面側も高温まで昇温するため、ステンレス等のバックプレートをあてがうと、バックプレートと被加工物が接合する場合や、バックプレートの成分が接合部に溶出する場合がある。摩擦攪拌接合用工具のみならず、バックプレートについてもイリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム等を副成分として含有する上記組成で形成することで、被加工物と接合せず、接合部への不純物の混入の低減や、接合部への不純物の溶出を低減できる。また、イリジウム被膜若しくは上記組成の被膜をバックプレートに施すこととしても良い。この場合、被膜を施す基材は、上記組成の材料で形成されていることが好ましいが、上記組成の材料で形成されていない場合も本実施形態に含まれる。被膜の厚さは例えば10〜500μmとし、50〜100μmとすることが好ましい。また、摩擦攪拌接合用工具の組成とバックプレート若しくはそれに施す被膜の組成とは同一の組成とすることが好ましいが、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成のバックプレート、或いはこれらを被膜化したバックプレートであることを満たす限り、異種組成を組み合わせても良い。
【0069】
本実施形態の摩擦攪拌接合法を行なうことで、高融点を有する被加工物であっても、不純物の混入が少ない摩擦攪拌接合部位を有する加工物を得ることができる。
【0070】
もちろん、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金、例えばステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼からなり、摩擦攪拌接合部位を有する加工物も得ることができる。
【実施例】
【0071】
溶解法により、表1に示した組成の合金を実施例1〜実施例21として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、マイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図2に示した。比較例1はイリジウム金属とした。
【0072】
さらに溶解法により、表2に示した組成の合金を実施例22〜実施例29として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、マイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図3に示した。比較例1はイリジウム金属とした。
【0073】
【表1】

【表2】

【0074】
図2及び図3を参照すると、イリジウムに対して、副成分としてレニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、ルテニウム、チタン又はバナジウムの各添加量を増加させると、マイクロビッカース硬度が増加する傾向が見られる。図2のグラフにおいて、マイクロビッカース硬度Hvが200以上となる副成分の添加量が耐摩耗性の観点から要求される。
【0075】
(実施例30)
次にイリジウム90.0原子%、レニウム10.0原子%の組成を有する摩擦攪拌接合用工具を溶解法により作製し、実施例30とした。図2のグラフからマイクロビッカース硬度Hvは300であると読み取れる。また比較のために、比較例1のイリジウム100原子%の摩擦攪拌接合用工具を作製した。図2のグラフからマイクロビッカース硬度Hvは180であると読み取れる。被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士を突合せて、結合領域を形成し、該結合領域に実施例30又は比較例1の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化ジルコニウム分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。そして、接合は実施例30、比較例1共に行なうことができた。また実施例30、比較例1共に摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0076】
接合距離を300cmとして、接合を5回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。摩耗量は、減少した肉厚部分の厚さを測定した。実施例30の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.2(mm)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は変形が確認されたため正確性は欠けるが約1.5(mm)であった。したがって、実施例30の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。一方、比較例1の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できたものの、工具の摩耗量が多く、劣化が早いといえる。実施例1〜実施例29の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.1〜0.3(mm)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0077】
なお、実施例30の摩擦攪拌接合は、イリジウム90.0原子%、レニウム10.0原子%の組成を有するバックプレートに被加工物を載せて行なったものである。このとき被加工物にバックプレートが接合することや、被加工物にバックプレートが融着することはなかった。そこで、接合部分の板厚方向について、摩擦攪拌接合用工具の押し当て表面、及び、バックプレート側の裏面について、電子線マイクロアナライザ(日本電子株式会社製)を用いてEPMA分析を行なった。イリジウム又はレニウムが不純物として接合部分に混入していることや、イリジウム又はレニウムが不純物として接合部分に溶出しているとは認められなかった。
【0078】
次に比較試験のため、実施例30の摩擦攪拌接合用工具を使用し、且つ、バックプレートとしてステンレス(SUS−304)を用いて接合を行なった。このとき被加工物にバックプレートが接合することや、被加工物にバックプレートの融着が生じた。そして同様にEPMA分析を行なった。その結果、鉄が不純物として接合部分に混入していることや、鉄が不純物として接合部分に溶出していることが認められた。そして、バックプレート側である被加工物裏面における鉄含有量は最大3%であり、摩擦攪拌接合用工具の押し当て側である被加工物表面における鉄含有量は最大300ppmであった。したがって、バックプレートから接合部分に鉄が溶出し、摩擦攪拌される工程中に被加工物の表面側(押し当て面側)に鉄が拡散及び鉄が攪拌していくと考えられる。したがって、実施例30の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いることで、接合防止、融着防止及び接合部分への不純物の混入防止、溶出防止ができることが判明した。さらに実施例1〜29の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いても同様に接合防止、融着防止及び接合部分への不純物の混入防止、溶出防止ができることが判明した。
【0079】
表3に示した組成の合金を実施例31と実施例32及び比較例1として形成し、マイクロビッカース硬度試験(JIS−Z2244)((株)アカシ、HV−112)にもとづき、実施例31、32、及び、比較例1の再結晶温度に基づくマイクロビッカース硬度を測定した。測定結果を図4(再結晶温度調査)に示した。図4は、再結晶温度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【0080】
【表3】

【0081】
硬度及び耐摩耗性の観点から、ビッカーズ硬度200Hv以上が要求され、図4から実施例31、32は、1350℃以上で熱処理されたものを室温で測定してもビッカーズ硬度300Hv以上を維持することができるが、比較例1は、1300℃付近で熱処理されたものを室温で測定すると、ビッカーズ硬度300Hvを下回る結果になった。硬度を得るためには、他元素及び含有量が必要であることが確認された。
【0082】
また、実施例31、32及び比較例1の摩耗量を測定した。被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に実施例31又は32の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化ジルコニウム分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。測定結果を図5(摩耗量調査)に示した。図5は、ツール外周の回転距離と単位面積あたりの質量減との関係を示す図である。ツール外周の回転距離は、肩状部5の円周×回転数×接合時間(接合距離/送り速度)のように求めた。このときのツール外周の質量減は、接合前の重量−接合後の重量のように求めた。図5から3元合金で形成された実施例31、32は、3元合金以上で形成することにより、比較例1より摩耗に対する耐性を維持する効果が確認された。
【0083】
実施例31と比較例1の摩擦攪拌接合用工具を用い、被加工物として、ステンレス(SUS−304)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に 実施例31と比較例1の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合をとして試みた。なお、当該SUS304の融点は1400〜1450℃である。そして、接合は、実施例31、比較例1共に行なうことができた。また、実施例31、比較例1共に摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0084】
また、実施例31の摩擦攪拌接合用工具を用い、被加工物として、酸化物分散強化型白金合金(白金82.13原子%、酸化ジルコニウム0.23原子%、ロジウム17.64原子%、厚さ1.5mm、フルヤ金属製)の板同士をつき合わせて、境界領域を形成し、該境界領域に実施例31の各摩擦攪拌接合用工具を押し当てて、摩擦攪拌接合法により接合を試みた。なお、当該酸化物分散強化型白金合金の融点はおよそ1860℃である。そして、接合を行なうことができた。また摩擦攪拌接合用工具の割れは見られなかった。
【0085】
SUS304の接合距離を100cmとして、接合を1回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。回転数と送り速度は一定とした。摩耗量は、接合前と接合後の摩擦攪拌接合用工具の重量の差を測定した。実施例31の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.3(g)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は約1.5(g)であった。したがって、実施例31の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。一方、比較例1の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できたものの、工具の摩耗量が多く、劣化が早いといえる。実施例32の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.3(g)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0086】
酸化物分散強化白金の接合距離を100cmとして、接合を1回行なった後、摩擦攪拌接合用工具の摩耗量を評価した。回転数と送り速度は一定とした。摩耗量は、接合前と接合後の摩擦攪拌接合用工具の重量の差を測定した。実施例31の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は0.6(g)であるのに対して、比較例1の摩擦攪拌接合用工具の摩耗量は3.0(g)であった。したがって、実施例31の摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を摩擦攪拌接合できると共に、工具の摩耗が少なかった。実施例32の各組成を有する摩擦攪拌接合用工具を同様に評価したところ、いずれも摩擦攪拌接合できると共に摩耗量は0.63(g)であった。また、摩擦攪拌接合用工具の割れはいずれも見られなかった。
【0087】
また、実施例31の89原子%Ir−10原子%Re−1原子%Zrの組成を有するバックプレートに被加工物を載せて行なった。このとき被加工物にバックプレートが接合することはなかった。そこで、接合部分の板厚方向について、摩擦攪拌接合用工具の押し当て表面、及び、バックプレート側の裏面について、電子線マイクロアナライザ(日本電子株式会社製)を用いてEPMA分析を行なった。その結果、イリジウム、レニウム、ジルコニウムが不純物として接合部分に混入しているとは認められなかった。さらに、実施例32の摩擦攪拌接合用工具の組成と同様の組成のバックプレートを用いても同様に接合防止及び接合部分への不純物の混入防止ができることが判明した
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】摩擦攪拌接合法の機構の一形態を示す概念図である。
【図2】副成分の添加元素濃度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図3】副成分の添加元素濃度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図4】再結晶温度とマイクロビッカース硬度との関係を示す図である。
【図5】ツール外周の回転距離と単位面積あたりの質量減との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1A,1B,被加工物
2,結合領域
3,摩擦攪拌接合用工具(プローブピン)
4,ペンシル部分
5,肩状部
6,バックプレート
7,モータ
8,進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【請求項2】
1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケル或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【請求項3】
前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを特徴とする請求項2に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項4】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム合金で形成されており、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項5】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ルテニウム合金で形成されており、ルテニウムの含有量が1.0〜45.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項6】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−モリブデン合金で形成されており、モリブデンの含有量が1.0〜23.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項7】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タングステン合金で形成されており、タングステンの含有量が1.0〜19.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項8】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ニオブ合金で形成されており、ニオブの含有量が1.0〜16.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項9】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タンタル合金で形成されており、タンタルの含有量が1.0〜16.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項10】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ジルコニウム合金で形成されており、ジルコニウムの含有量が0.3〜5.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項11】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ハフニウム合金で形成されており、ハフニウムの含有量が0.3〜12.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項12】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム−ジルコニウム合金で形成されており、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ジルコニウムの含有量が0.1〜5.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項13】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム−ハフニウム合金で形成されており、イリジウムの含有量が98.9〜59.0原子%、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%、ハフニウムの含有量が0.1〜5.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項14】
被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、
前記被加工物は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、請求項1、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする摩擦攪拌接合法。
【請求項15】
被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、
前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13に記載の摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする摩擦攪拌接合法。
【請求項16】
前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを特徴とする請求項15に記載の摩擦攪拌接合法。
【請求項17】
前記摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことを特徴とする請求項14、15又は16に記載の摩擦攪拌接合法。
【請求項18】
請求項14、15、16又は17に記載の摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする摩擦攪拌接合部位を有する加工物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウムを副成分として含有する2元合金の組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【請求項2】
1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、イリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、又はニッケルを副成分として含有する2元合金の組成を有し、且つ、マイクロビッカース硬度が200Hv以上の硬度を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【請求項3】
前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを特徴とする請求項2に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項4】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−レニウム合金で形成されており、レニウムの含有量が1.0〜36.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項5】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ルテニウム合金で形成されており、ルテニウムの含有量が1.0〜45.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項6】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−モリブデン合金で形成されており、モリブデンの含有量が1.0〜23.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項7】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タングステン合金で形成されており、タングステンの含有量が1.0〜19.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項8】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ニオブ合金で形成されており、ニオブの含有量が1.0〜16.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項9】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−タンタル合金で形成されており、タンタルの含有量が1.0〜16.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項10】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ジルコニウム合金で形成されており、ジルコニウムの含有量が0.3〜5.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項11】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム−ハフニウム合金で形成されており、ハフニウムの含有量が0.3〜12.0原子%であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項12】
被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、
前記被加工物は、1600℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、請求項1、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする摩擦攪拌接合法。
【請求項13】
被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、
前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11に記載の摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする摩擦攪拌接合法。
【請求項14】
前記1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金が、ステンレス鋼又は炭素含有量が2質量%以下の鋼であることを特徴とする請求項13に記載の摩擦攪拌接合法。
【請求項15】
前記摩擦攪拌接合用工具の押し当て面の裏面側に、イリジウムのバックプレート又はイリジウムを主成分とし、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム又はハフニウム或いはこれらの2種以上を副成分として含有する組成を有するバックプレート又はイリジウム被膜若しくは前記組成を有する被膜を施したバックプレートをあてがいながら、接合を行なうことを特徴とする請求項12、13又は14に記載の摩擦攪拌接合法。
【請求項16】
請求項12、13、14又は15に記載の摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする摩擦攪拌接合部位を有する加工物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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