摩擦攪拌接合装置
【課題】 横向姿勢の摩擦接合ツールにより摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、自走車体式の接合装置を提供すること、小型で且つ設置スペース的に有利で設備費を低減可能な接合装置を提供すること。
【解決手段】 被接合物40,41の側壁部40a,41aの被接合部42に沿って自走可能に構成された自走車体2と、摩擦接合ツール3を横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に保持するツール保持部6と、ツール保持部6を基準軸線回りに回転駆動するサーボモータと、ツール保持部6を基準軸線に沿って変位駆動するエアシリンダと、エアシリンダによりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に作用させる押圧力の反力F1に抗する対抗力F2を発生させ、且つ押圧力の反力F1によって自走車体2に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる吸着パッド14及び真空ポンプを設けた。
【解決手段】 被接合物40,41の側壁部40a,41aの被接合部42に沿って自走可能に構成された自走車体2と、摩擦接合ツール3を横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に保持するツール保持部6と、ツール保持部6を基準軸線回りに回転駆動するサーボモータと、ツール保持部6を基準軸線に沿って変位駆動するエアシリンダと、エアシリンダによりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に作用させる押圧力の反力F1に抗する対抗力F2を発生させ、且つ押圧力の反力F1によって自走車体2に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる吸着パッド14及び真空ポンプを設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走式の摩擦攪拌接合装置に関し、特に被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールにより摩擦攪拌して接合可能に構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミ合金板等の2枚の被接合物を突合わせた被接合部に、接合ツールを回転させながら押圧して没入させ、被接合部を摩擦熱で軟化させ塑性流動させると共に攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合技術が実用化されており、鉄道用車両のアルミ合金製の構体を接合する場合にも、この摩擦攪拌接合(FSW)の技術が採用されている。
【0003】
この摩擦攪拌接合装置として、大別すると、自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置と、自走車体式の摩擦攪拌接合装置とが提案されている。
自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置は、被接合物を跨ぐ門形フレームと、この門形フレームの下端部の1対の自走用脚部と、これら自走用脚部を案内する1対のレールとを有する自走ガントリー装置と、その門形フレームに装備された1又は複数の摩擦接合ツールとで構成されている。この摩擦攪拌接合装置では、自走ガントリー装置を自走させながら、1又は複数の摩擦接合ツールを被接合部に沿って移動させつつ摩擦攪拌接合を行う。
【0004】
特許文献1に記載の自走車体式の摩擦攪拌接合装置は、被接合物の上面に沿って自走する自走車体と、この自走車体に接合ツールを下向姿勢に保持するツール保持部と、ツール保持部を基準軸線まわりに回転駆動する回転駆動手段と、ツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段とを有し、自走車体を被接合部に沿って自走させつつ、被接合部を下向姿勢で摩擦攪拌接合する。尚、この特許文献1には、被接合物の下側を自走しながら、被接合部を上向姿勢で摩擦攪拌接合する接合装置も開示されている。
【0005】
特許文献2に記載の摩擦攪拌接合装置は、自走ガントリー式摩擦攪拌接合装置とも、自走車体式の摩擦攪拌接合装置とも異なる装置であり、電車の車両の左右の側部構体の被接合部を両側から同時に横向き姿勢で摩擦攪拌接合する装置である。側部構体の左右両側において、側部構体より外側に側部構体を横向きに支持する為の複数のL形枠を適当間隔おきに設置し、L形枠の内端部に側部構体を横向きに支える支持装置を設け、複数のL形枠の上枠の下面部に沿って側部構体の全長に亘る上案内レールを設け、これに対向するフロア部に下案内レールを設け、上下の案内レールに沿って移動可能な台車に接合装置を設けてある。台車を上下の案内レールに沿って移動させつつ、接合装置により側部構体の被接合部を接合する。
【特許文献1】特開2005−186084号公報
【特許文献2】特開2002−210571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置では、自走ガントリー装置が大型で、設備費も多額になる。しかも、レール長は、被接合部の長さよりも数mも長くなるため、広い設置スペースが必要で、設備費の面で不利である。
【0007】
前記特許文献1に記載の自走車体式の摩擦攪拌接合装置では、縦向きの被接合物の被接合部を横向姿勢の接合ツールで接合することはできない。そこで、被接合物の姿勢を90°変えることで、下向姿勢又は上向姿勢で接合可能にする必要があるため、被接合物の姿勢変換に多大の労力と時間がかかる。そのため、被接合物が制約され、電車の側部構体の被接合部などを接合することは到底不可能である。
前記特許文献2に記載の摩擦攪拌接合装置は、高さの大きなL形枠と、上案内レールとを設けるため、大型の専用の装置となり、設備費が高価になり、汎用性に欠け、広い設置スペースも必要であるため設備費の面で不利である。
【0008】
本発明の目的は、横向姿勢の摩擦接合ツールにより摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、自走車体式の接合装置を提供すること、小型で且つ設置スペース的に有利で設備費を低減可能な接合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の摩擦攪拌接合装置は、被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置において、被接合物の側壁部の被接合部に沿って自走可能に構成された自走車体と、この自走車体に横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に装備されて、接合ツールを保持するツール保持部と、自走車体に装備されツール保持部を基準軸線回りに回転駆動する回転駆動手段と、自走車体に装備されツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段と、変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に作用させる押圧力の反力に抗する対抗力を発生させる対抗力発生手段と、前記押圧力の反力によって自走車体に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる対抗モーメント発生手段とを備えたことを特徴とする。尚、被接合物は、アルミ合金等の軽金属製の被接合物であることが望ましい。
【0010】
この摩擦攪拌接合装置では、接合ツールを保持したツール保持部を横向姿勢の基準軸線回りに回転させながら、変位駆動手段によりツール保持部を基準軸線に沿って変位させて、接合ツールの先端部を被接合部に没入させる。その状態で、被接合部に沿って自走車体を走行させることにより、被接合部が摩擦熱で軟化し塑性流動することで被接合部が摩擦攪拌接合される。
【0011】
接合時に、変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に押圧力が作用し、この押圧力の反力がツール保持部と接合ツールに作用すると共に、押圧力の反力によって自走車体に転倒モーメントが作用するが、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とを設け、対抗力発生手段で発生させる対抗力によって押圧力の反力を打ち消し、また、対抗モーメント発生手段で発生させる対抗モーメントによって転倒モーメントを打ち消すため、安定した状態で摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0012】
請求項2の摩擦攪拌接合装置は、請求項1の発明において、前記対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項3の摩擦攪拌接合装置は、請求項1の発明において、前記対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項4の摩擦攪拌接合装置は、請求項2又は3の発明において、前記対抗モーメント発生手段は、前記吸着パッドと、前記負圧発生手段とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項5の摩擦攪拌接合装置は、請求項2又は3の発明において、前記対抗モーメント発生手段は、前記ガイド部材と、前記1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項6の摩擦攪拌接合装置は、請求項1〜5の何れかの発明において、前記対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって前記対抗モーメントの一部を発生するように構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項7の摩擦攪拌接合装置は、請求項1又は2の発明において、前記自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、前記対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより前記対抗力の一部を発生させるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、自走車体と、ツール保持部と、回転駆動手段と、変位駆動手段と、対抗力発生手段と、対抗モーメント発生手段とを備えたので、対抗力発生手段で発生させる対抗力によって押圧力の反力を打ち消すことができ、且つ対抗モーメント発生手段で発生させる対抗モーメントによって転倒モーメントを打ち消すことができる。それ故、自走車体の転倒を防止しながら安定した状態で接合することができる。
上記の対抗力発生手段や対抗モーメント発生手段は、比較的簡単な構成のもので構成可能であり、自走車体を主体として構成することができるため、全体として小型且つ簡単な構成の摩擦攪拌接合装置を実現することができる。
縦向きの被接合物の側壁部の被接合部を接合できるので、汎用性に優れるうえ、被接合物の姿勢を変換したりする必要もないので有利である。
【0019】
請求項2の発明によれば、対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有するので、吸着パッドを被接合物の側壁部の表面に吸着させた状態で自走車体を走行させて被接合部を接合することができ、接合時に作用する押圧力の反力を吸着パッドの吸着力でもって確実に打ち消すことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有するので、被ガイド輪をガイド部材に係合させた状態で自走車体を走行させて被接合部を接合することができ、これにより、接合時に作用する押圧力の反力を確実に打ち消すことができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、吸着パッドと負圧発生手段とを有するので、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とを吸着パッドと負圧発生手段で実現することができ、装置を小型化できるうえ設備コストを低減できる。しかも、広い設置スペースを必要としない。
【0022】
請求項5の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、ガイド部材と、1又は複数の被ガイド輪とを有するので、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とをガイド部材と被ガイド輪で実現することができ、装置を小型化できるうえ設備コストを低減できる。
【0023】
請求項6の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって対抗モーメントの一部を発生するように構成されたので、装置を大型化させることなく、接合時に作用する転倒モーメントを効果的に打ち消すことができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより対抗力の一部を発生させるように構成されたので、装置を大型化させることなく、接合時に作用する押圧力の反力を効果的に打ち消すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置であり、本実施例では、縦向き姿勢にした側壁部をなすアルミ合金製の被接合物40,41を突き合わせた被接合部42を、横向姿勢の摩擦接合ツール3によって摩擦攪拌して被接合部42を接合する例が図示されている。
【0027】
本実施例では、被接合物40,41を固定保持するため、水平方向に延びる角筒状の保持冶具43が配置され、保持冶具43の側壁面に、鋼製の補助板44と鋼製の裏当板45とを介して被接合物40,41が固定され、被接合物41と保持冶具43はフロア上に固定された1対の支持板46の上面に固定されている。尚、接合時に被接合物40,41が動いたり倒れたりしないよう、保持冶具43は図示外の手段によってフロアに固定されている。
【0028】
次に、摩擦攪拌接合装置1について説明する。
図1〜図3に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、被接合物40,41の側方近傍部を被接合部42に沿って自走可能に構成された自走車体2と、横向姿勢の摩擦接合ツール3を保持する円筒状のツール保持部6と、ツール保持部6を基準軸線回りに回転駆動するサーボモータ7(回転駆動手段)と、ツール保持部6を基準軸線に沿って変位駆動するエアシリンダ8,9(変位駆動手段)と、被接合物40の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッド14と、吸着パッド14に作用させる負圧を発生させる真空ポンプ37(負圧発生手段)と、制御ユニット21とを備えている。尚、基準軸線は、ツール保持部6に摩擦接合ツール3が装着された状態で摩擦接合ツール3と同軸となる軸線である。
【0029】
自走車体2の下部には、走行路を構成するフロア47(図4参照)上を走行する4つの車輪12が回転可能に装着され、これら4つの車輪12は平面視にて長方形の頂点に配置されている。車輪12は、円筒状外周面を有する金属製の車輪本体と、この車輪本体に外嵌固定された円筒状外周面を有する高摩擦の合成樹脂製のタイヤ部とを有する。4つの車輪12のうちの駆動輪である2つの前側車輪12に、前側車輪軸12aを介して走行用モータ10が連結され、走行用モータ10により前側車輪12が回転駆動される。尚、2つの後側車輪12は遊転輪であるが、前側車輪軸12aからタイミングベルトを介して同期駆動してもよい。さらに、2つの前側車輪12に2つの走行用モータ10を夫々連結し、これら2つの走行用モータ10により左右の前側車輪12を夫々回転駆動してもよいし、後側車輪12を駆動輪に構成してもよい。
【0030】
自走車体2には、ツール保持部6が横向姿勢且つ自走車体2の右側部から右方に突出した状態に装備され、このツール保持部6に摩擦接合ツール3が着脱可能に装着されており、ツール保持部6は、サーボモータ7の回転駆動により摩擦接合ツール3と共に基準軸線回りに回転自在に構成されている。尚、図3に示すように、ツール保持部6の基準軸線は、水平面内において、被接合部42に接近する程、前方へ移行するように約1〜5°傾いた姿勢に設定されている。
【0031】
図3〜図4に示すように、摩擦接合ツール3は、円柱状の本体部4と、本体部4から右方に突出する円柱状のピン部5とを有する。ピン部5の外径は、本体部4の外径よりも小径に形成されている。本体部4の右端にはショルダー面4aが形成され、このショルダー面4aが、摩擦接合ツール3の軸線に対して略垂直に形成されている。接合時に被接合部42と摩擦接合ツール3との間で発生する摩擦熱が大きくなるように、ツール保持部6と摩擦接合ツール3は、被接合部42の表面の垂直方向に対して所定傾斜角度θ(例えば約1〜5°)だけ前記のように傾斜した状態に設けられている。
【0032】
図2、図3、図6に示すように、ツール保持部6の前後には2つの複動型エアシリンダ8,9が水平に設けられ、圧縮空気供給源から加圧エアがエアホースにより自走車体2に導入され、ソレノイドバルブ28,29(以下、SOLバルブという)を介して、エアシリンダ8,9に夫々接続されている。制御ユニット21からの指令によりSOLバルブ28,29を制御し、エアシリンダ8,9の伸長作動と退入作動が制御される。エアシリンダ8,9を伸長作動させると、ツール保持部6が摩擦接合ツール3と共に基準軸線に沿って右方へ変位(移動)する。
【0033】
ツール保持部6の右方への変位量を検出する検出機構37も設けられ、その検出信号が制御ユニット21に供給され、摩擦攪拌接合に際しては、制御ユニット21でSOLバルブ28,29を介してエアシリンダ8,9を伸長作動させ、ツール保持部6は、ショルダ面4aが被接合部12に当接する位置まで変位させられ、接合中はその伸長作動状態を維持する。
【0034】
一方、接合終了時には、エアシリンダ8,9を退入作動させてツール保持部6を摩擦接合ツール3と共に基準軸線に沿って左方へ変位させ、原位置に復帰させる。尚、ツール保持部6と摩擦接合ツール3は、接合時に被接合部42から押圧力の反力F1が作用しても破損しない十分な強度を有する。
【0035】
図4に示すように、摩擦接合ツール3の先端のピン部5が被接合部42に没入している間、エアシリンダ8,9によりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に対して基準軸線方向に押圧力が作用するが、これにより、被接合部42からツール保持部6と摩擦接合ツール3に対して押圧力の反力F1(ツール軸線方向反力)が作用し、この反力F1によって自走車体2を図4にて反時計回り方向への転倒モーメントM1が作用する。
【0036】
ここで、摩擦攪拌接合を行うときに摩擦接合ツール3に作用する反力について、図5に基づいて説明する。
摩擦接合ツール3が、図5の矢印に示す方向、つまり、左方から視て時計回りに回転しつつ、被接合部42に押圧された状態で前方に移動すると、摩擦接合ツール3に対して、反力F1に加えて、摩擦接合ツール3の回転によって生じる基準軸線と走行方向に垂直且つ鉛直下向きの接合反力F3と、走行方向と逆向きの接合方向反力F4とが作用する。
反力F1は、ツール保持部6と摩擦接合ツール3が被接合部42を押圧する押圧力と同じ力で且つ方向が逆向きの力である。尚、板厚が5mmの場合、押圧力は例えば500kgfに設定され反力F1は500kgfである。
図4に示すように、前記転倒モーメントM1は、M1=F1×L1である。但し、L1はフロア面47からツール保持部6までの距離である。
【0037】
そこで、図6に示すように、反力F1に対抗する対抗力F2を発生させる対抗力発生機構17と、転倒モーメントM1に対抗する対抗モーメントM2を発生させる対抗モーメント発生機構18とが設けられている。この対抗力発生機構17と対抗モーメント発生機構18は、以下に説明する吸着機構16を主体として構成されている。この吸着機構16は、吸着パッド14と、この吸着パッド14に負圧を導入する負圧発生手段とを有する。尚、対抗モーメント発生機構18は、後述の如く、自走車体2とその装備品の自重W及び鉛直下向きに発生する接合反力F3によって前記対抗モーメントM2の一部を発生するように構成されている。
【0038】
図1〜図4に示すように、自走車体2の上端部には、取付ブラケット13を介して吸着パッド14が固定されている。吸着パッド14は矩形枠を有し、この矩形枠の表面には低摩擦のフッ素樹脂からなる滑動体15が設けられ、吸着パッド14が被接合物40の表面に吸着している状態で自走車体2が走行するとき、滑動体15は吸着状態を維持したまま被接合物40の表面上を低摩擦で摺動可能に構成されている。
【0039】
自走車体2の外部に設けられた真空ポンプ38(負圧発生手段)にから真空ホースにより負圧が自走車体2に導入され、ソレノイドバルブ30(以下、SOLバルブという)を介して吸着パッド14に接続されている。制御ユニット21によりSOLバルブ30を介して、吸着パッド14に負圧を導入されると、吸着パッド14が吸着状態になり、吸着力からなる対抗力F2を発生させるように構成されている。一方、制御ユニット21により、SOLバルブ30を介して吸着パッド14に大気圧を導入すると、吸着パッド14が非吸着状態になる。
【0040】
前記吸着パッド14に負圧導入したときに、反力F1よりも大きな対抗力F2を発生させるように、吸着パッド14のサイズと、負圧の大きさが設定されている。
ここで、図4に示すように、対抗モーメント発生機構18により発生させる対抗モーメントM2は、対抗モーメントM2=W×L0+F2×L2となる。
【0041】
但し、Wは自走車体2とその装備品の自重、L0は自走車体2の左端から自走車体2の中心(自重Wが作用する位置)までの距離、L2はフロア面47から吸着パッド14の中心までの距離である。自走車体2の転倒が生じない条件は、対抗モーメントM2>転倒モーメントM1であるから、(W×L0+F2×L2)>F1×L1、を満足させるように設定されている。尤も、図4に図示の場合、F2>F1、L2>L1であるから、上記の不等式は十分に成立している。尚、上記の不等式を満足させる範囲内で、フロア面47から吸着パッド14の中心までの距離L2を小さくすることができ、吸着パッド14の取り付け位置を下げることができる。さらに、前述のように、摩擦接合ツール3の回転により鉛直下向きの接合反力F3が作用するため、対抗モーメントM2を増加させることができる。
【0042】
次に、摩擦攪拌接合装置1の制御系について説明する。
図6に示すように、制御ユニット21は、CPUとROMとRAMとを含むマイクロコンピュータと、入力インターフェースと、出力インターフェース等を有する。入力インターフェースには、摩擦攪拌接合装置1に対して種々の指令を入力する為の操作部20と、ツール保持部6の右方への変位量を検出する検出機構37が接続されている。出力インターフェースには、サーボモータ7と、エアシリンダ8,9に接続されるSOLバルブ28,29と、走行用モータ10,11と、吸着パッド14に接続されるSOLバルブ30が駆動回路22〜27を介して夫々電気的に接続されている。
【0043】
次に、摩擦攪拌接合装置1の作用、効果について説明する。
図1、図4に示すように、この摩擦攪拌接合装置1では、摩擦接合ツール3を保持したツール保持部6を横向姿勢の基準軸線回りに回転させながらエアシリンダ8,9によりツール保持部6を基準軸線に沿って右方に変位させて、被接合部42に摩擦接合ツール3のピン部5を没入させ、被接合部42の軟化が進行するのに応じて本体部4も没入させる。この状態で、2枚の被接合物40,41が突合わされた被接合部42に沿って自走車体2が走行することにより、被接合部42が摩擦熱で軟化し塑性流動することで被接合部42が接合される。
【0044】
接合時に、エアシリンダ8,9によりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に押圧力が作用し、この押圧力の反力F1がツール保持部6と摩擦接合ツール3に作用し、反力F1によって自走車体2に転倒モーメントM1が作用するが、吸着パッド14による吸着力によって対抗力F2と対抗モーメントM2を発生させるため、自走車体2が被接合物40,41から離隔したり、転倒したりすることなく、安定した状態で摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0045】
このように、自走車体2と、ツール保持部6と、サーボモータ7と、エアシリンダ8,9と、吸着パッド14と真空ポンプ38とを備えたので、吸着パッド14に作用する負圧の吸着力により発生する対抗力F2と対抗モーメントM2によって、接合時に作用する押圧力の反力F1と転倒モーメントM1に対抗することができ、自走車体2が傾いて転倒することなく安定した状態で接合することができる。
【0046】
また、被接合物40,41を水平姿勢等に変更することなく、被接合物40,41の被接合部42を接合できるので、姿勢変換作業が増加することもない。このように、対抗力発生機構17と対抗モーメント発生機構18を吸着パッド14と真空ポンプ38で構成することができるため、それら機構を小型化でき、設備コストを低減できる。しかも、広い設置スペースを必要としないので有利である。
さらに、自走車体2とその装備品の自重W及び鉛直下向きに発生する接合反力F3によって対抗モーメントM2の一部を発生するように構成したので、対抗モーメント発生機構18の小型化、簡単化を図ることができる。
【実施例2】
【0047】
次に、実施例2の摩擦攪拌接合装置1Aについて説明する。但し、前記実施例と同一の構成には同一の符号を付し、異なる構成についてのみ説明する。
図7に示すように、この摩擦攪拌接合装置1Aにおいては、対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36の構成において前記実施例と異なっている。
自走車体2が自走する自走路を構成するフロア面47に被接合部42と平行に固定されたガイド部材31と、自走車体2に装備されてガイド部材31に係合する2対の被ガイド輪33,34とを有し、ガイド部材31と被ガイド輪33,34とで対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36とが構成されている。
【0048】
自走車体2が自走する走行路面としてのフロア面47には、被接合部42とほぼ同長のガイド部材31が被接合部42と平行に設けられ、ガイド部材31の下部が支持板46に固定されている。ガイド部材31はウェブ部31aとフランジ部31bとを断面L形に形成されている。図7において右側(内側)の2つの車輪12の右側には、被ガイド輪34が車輪軸12aの内端に遊転自在に設けられている。この被ガイド輪34は、ガイド部材31のフランジ部31bの下面に係合し、下向きの対抗力F2を発生させる。
【0049】
内側の2つの車輪12に対応する位置において、自走車体2の右壁部には、右方に延びるL形の固定部材32が夫々固定され、固定部材32の先端に縦向きの被ガイド輪33が遊転自在に枢着され、被ガイド輪33はガイド部材31のウェブ部31aの内面に係合し、2対の被ガイド輪33,34によりガイド部材31が左右両側から夫々挟持された状態で、自走車体2が被接合部42に沿って走行可能に構成されている。
【0050】
ここで、前記実施例1と同様に、対抗モーメント発生機構36により発生させる対抗モーメントM2は、対抗モーメントM2=W×L0+F2×L2となる。但し、Wは自走車体2とその装備品の自重、L0は自走車体2の左端から自走車体2の中心(自重Wが作用する位置)までの距離、L2は自走車体2の左端から被ガイド輪34の中心までの距離である。自走車体2の転倒が生じない条件は、対抗モーメントM2>転倒モーメントM1であるから、(W×L0+F2×L2)>F1×L1、を満足させるように設定されている。
【0051】
このように、自走車体2が自走する自走路を構成するフロア面47に固定されたガイド部材31と、自走車体2に装備されてガイド部材31のフランジ部31bの下面に係合する被ガイド輪34と、ガイド部材31のウェブ部31aの内面に係合する被ガイド輪33とを有するので、被ガイド輪33,34をガイド部材31に係合させた状態で自走車体2を走行させて被接合部42を接合することができ、これにより、接合時に作用する押圧力の反力F1を確実に打ち消すことができる。さらに、対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36とをガイド部材31と被ガイド輪33,34で実現することができるので、装置1Aを小型化できるうえ設備コストを低減できる。また、摩擦接合ツール3を左方から視て時計回りに回転させることで、鉛直下向きの接合反力F3を発生させて、対抗モーメントM2を増加させることができる。
【0052】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]図8に示すように、摩擦攪拌接合装置1Bによって自走車体2を傾斜させた状態で被接合部42に沿って走行させて被接合部42を接合してもよい。
この場合、被接合部42と平行且つ被接合部42よりも長い寸法の傾斜台48をフロア面47に設置し、さらに、取付ブラケット39の先端部にヒンジ部39aを設けて、このヒンジ部39aに吸着パッド14を連結することで、吸着パッド14の角度が変更可能に構成されている。このように、接合時に自走車体2が傾斜台48の上面を走行する場合に、被接合物40の側壁部の表面に対して平行になるように吸着パッド14の角度を調整することで、側壁部の表面に吸着パッド14を確実に吸着させることができ、安定した状態で接合することができる。
【0053】
2]図9に示すように、2台の摩擦攪拌接合装置1によって被接合物40,41の左側壁部の被接合部42と、被接合物70,71の右側壁部の被接合部72とを同時に接合してもよい。
この場合、保持冶具43を挟んで左側に被接合物40,41、右側に被接合物70,71を突合わせて固定した後、実施例1の摩擦攪拌接合装置1を被接合部42の左側に配置する。さらに、自走車体2の左側部から左方に突出した状態でツール保持部6を装備した摩擦攪拌接合装置1を被接合部72の右側に配置した後、2台の自走車体2を同時に、被接合部42と被接合部72に沿って夫々走行させて接合する。
【0054】
このように、保持冶具43を挟んで左右両側の被接合部42,72に対して、逆向きで同じ大きさの押圧力が夫々作用するので、保持冶具43をフロア面47に固定する方法を簡略化しても、被接合物40,41,70,71が動いたり倒れたりしない。
このとき、被接合物40,41を接合する左側の装置のツール回転方向を、左方から視て時計回りに、一方被接合物70,71を接合する右側の装置のツール回転方向を、右方から視て反時計回りに回転させることで、鉛直下向きの接合反力F3を夫々発生させて、対抗モーメントM2を夫々増加させることができる。
【0055】
3]自走車体2が有する被接合物40,41側の2個の内側車輪12と、被接合物40,41と反対側の2個の外側車輪12を、外側車輪12よりも内側車輪12を小径に構成することにより対抗力F2の一部を発生させるように構成してもよい。この場合、装置1を大型化させることなく、接合時に作用する押圧力の反力F1を効果的に打ち消すことができる。また、内側車輪12と外側車輪12の駆動系を別系統とし、2つの走行用モータ10の周波数(回転速度)を、外側車輪12の方が30%以下程度の範囲で大きくなるように回転駆動することにより、対抗力F2の一部を発生させるように構成してもよい。
【0056】
4]吸着パッド14に作用する負圧により被接合物40の側壁部の表面に吸着させる代わりに、マグネットで発生させる磁力により吸着させてもよい。
5〕実施例2において、前側車輪12又は後側車輪12の何れかに1対の被ガイド輪33,34を設けてもよいし、固定部材32を設けずに1つの被ガイド輪34のみを設けてもよい。
【0057】
6]先ず、摩擦攪拌接合装置1で接合される鉄道用車両の車体50,60の例について説明する。図10に示すように、車体50は、ダブルスキン構造のアルミ合金板からなる床構体51と、アルミ合金板と複数のリブとを含むシングルスキン構造の側部構体52と、アルミ合金板と複数のリブとを含むシングルスキン構造の屋根構体53とを有する。本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、2枚の側板54,55を接合する被接合部56と、側板54と床構体51とを接合する被接合部57等の接合に供される。符号58は側柱、符号59は入口柱を示す。
図11に示すように、ダブルスキン構造のアルミ合金板で構成される車体60では、側部構体61の被接合部62〜68などが摩擦攪拌接合装置1により接合される。
6〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の後方から視た斜視図である。
【図2】摩擦攪拌接合装置の右側面図である。
【図3】摩擦攪拌接合装置の平面図である。
【図4】接合時に作用する押圧力の反力と反力に抗する対抗力を説明する為の摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図5】摩擦攪拌接合を行うときに接合ツールに作用する反力を説明する為の図である。
【図6】摩擦攪拌接合装置の制御系を示すブロック図である。
【図7】実施例2の図4相当図である。
【図8】変更例1に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図9】変更例2に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図10】摩擦攪拌接合装置により接合される鉄道用車両の車体(シングルスキン構造)の斜視図である。
【図11】摩擦攪拌接合装置により接合される鉄道用車両の車体(ダブルスキン構造)の斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B 摩擦攪拌接合装置
2 自走車体
6 ツール保持部
7 サーボモータ
8,9 エアシリンダ
14 吸着パッド
17,35 対抗力発生機構
18,36 対抗モーメント発生機構
31 ガイド部材
33,34 被ガイド輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走式の摩擦攪拌接合装置に関し、特に被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールにより摩擦攪拌して接合可能に構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミ合金板等の2枚の被接合物を突合わせた被接合部に、接合ツールを回転させながら押圧して没入させ、被接合部を摩擦熱で軟化させ塑性流動させると共に攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合技術が実用化されており、鉄道用車両のアルミ合金製の構体を接合する場合にも、この摩擦攪拌接合(FSW)の技術が採用されている。
【0003】
この摩擦攪拌接合装置として、大別すると、自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置と、自走車体式の摩擦攪拌接合装置とが提案されている。
自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置は、被接合物を跨ぐ門形フレームと、この門形フレームの下端部の1対の自走用脚部と、これら自走用脚部を案内する1対のレールとを有する自走ガントリー装置と、その門形フレームに装備された1又は複数の摩擦接合ツールとで構成されている。この摩擦攪拌接合装置では、自走ガントリー装置を自走させながら、1又は複数の摩擦接合ツールを被接合部に沿って移動させつつ摩擦攪拌接合を行う。
【0004】
特許文献1に記載の自走車体式の摩擦攪拌接合装置は、被接合物の上面に沿って自走する自走車体と、この自走車体に接合ツールを下向姿勢に保持するツール保持部と、ツール保持部を基準軸線まわりに回転駆動する回転駆動手段と、ツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段とを有し、自走車体を被接合部に沿って自走させつつ、被接合部を下向姿勢で摩擦攪拌接合する。尚、この特許文献1には、被接合物の下側を自走しながら、被接合部を上向姿勢で摩擦攪拌接合する接合装置も開示されている。
【0005】
特許文献2に記載の摩擦攪拌接合装置は、自走ガントリー式摩擦攪拌接合装置とも、自走車体式の摩擦攪拌接合装置とも異なる装置であり、電車の車両の左右の側部構体の被接合部を両側から同時に横向き姿勢で摩擦攪拌接合する装置である。側部構体の左右両側において、側部構体より外側に側部構体を横向きに支持する為の複数のL形枠を適当間隔おきに設置し、L形枠の内端部に側部構体を横向きに支える支持装置を設け、複数のL形枠の上枠の下面部に沿って側部構体の全長に亘る上案内レールを設け、これに対向するフロア部に下案内レールを設け、上下の案内レールに沿って移動可能な台車に接合装置を設けてある。台車を上下の案内レールに沿って移動させつつ、接合装置により側部構体の被接合部を接合する。
【特許文献1】特開2005−186084号公報
【特許文献2】特開2002−210571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自走ガントリー式の摩擦攪拌接合装置では、自走ガントリー装置が大型で、設備費も多額になる。しかも、レール長は、被接合部の長さよりも数mも長くなるため、広い設置スペースが必要で、設備費の面で不利である。
【0007】
前記特許文献1に記載の自走車体式の摩擦攪拌接合装置では、縦向きの被接合物の被接合部を横向姿勢の接合ツールで接合することはできない。そこで、被接合物の姿勢を90°変えることで、下向姿勢又は上向姿勢で接合可能にする必要があるため、被接合物の姿勢変換に多大の労力と時間がかかる。そのため、被接合物が制約され、電車の側部構体の被接合部などを接合することは到底不可能である。
前記特許文献2に記載の摩擦攪拌接合装置は、高さの大きなL形枠と、上案内レールとを設けるため、大型の専用の装置となり、設備費が高価になり、汎用性に欠け、広い設置スペースも必要であるため設備費の面で不利である。
【0008】
本発明の目的は、横向姿勢の摩擦接合ツールにより摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、自走車体式の接合装置を提供すること、小型で且つ設置スペース的に有利で設備費を低減可能な接合装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の摩擦攪拌接合装置は、被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置において、被接合物の側壁部の被接合部に沿って自走可能に構成された自走車体と、この自走車体に横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に装備されて、接合ツールを保持するツール保持部と、自走車体に装備されツール保持部を基準軸線回りに回転駆動する回転駆動手段と、自走車体に装備されツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段と、変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に作用させる押圧力の反力に抗する対抗力を発生させる対抗力発生手段と、前記押圧力の反力によって自走車体に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる対抗モーメント発生手段とを備えたことを特徴とする。尚、被接合物は、アルミ合金等の軽金属製の被接合物であることが望ましい。
【0010】
この摩擦攪拌接合装置では、接合ツールを保持したツール保持部を横向姿勢の基準軸線回りに回転させながら、変位駆動手段によりツール保持部を基準軸線に沿って変位させて、接合ツールの先端部を被接合部に没入させる。その状態で、被接合部に沿って自走車体を走行させることにより、被接合部が摩擦熱で軟化し塑性流動することで被接合部が摩擦攪拌接合される。
【0011】
接合時に、変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に押圧力が作用し、この押圧力の反力がツール保持部と接合ツールに作用すると共に、押圧力の反力によって自走車体に転倒モーメントが作用するが、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とを設け、対抗力発生手段で発生させる対抗力によって押圧力の反力を打ち消し、また、対抗モーメント発生手段で発生させる対抗モーメントによって転倒モーメントを打ち消すため、安定した状態で摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0012】
請求項2の摩擦攪拌接合装置は、請求項1の発明において、前記対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項3の摩擦攪拌接合装置は、請求項1の発明において、前記対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項4の摩擦攪拌接合装置は、請求項2又は3の発明において、前記対抗モーメント発生手段は、前記吸着パッドと、前記負圧発生手段とを有することを特徴とする。
【0015】
請求項5の摩擦攪拌接合装置は、請求項2又は3の発明において、前記対抗モーメント発生手段は、前記ガイド部材と、前記1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項6の摩擦攪拌接合装置は、請求項1〜5の何れかの発明において、前記対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって前記対抗モーメントの一部を発生するように構成されたことを特徴とする。
【0017】
請求項7の摩擦攪拌接合装置は、請求項1又は2の発明において、前記自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、前記対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより前記対抗力の一部を発生させるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、自走車体と、ツール保持部と、回転駆動手段と、変位駆動手段と、対抗力発生手段と、対抗モーメント発生手段とを備えたので、対抗力発生手段で発生させる対抗力によって押圧力の反力を打ち消すことができ、且つ対抗モーメント発生手段で発生させる対抗モーメントによって転倒モーメントを打ち消すことができる。それ故、自走車体の転倒を防止しながら安定した状態で接合することができる。
上記の対抗力発生手段や対抗モーメント発生手段は、比較的簡単な構成のもので構成可能であり、自走車体を主体として構成することができるため、全体として小型且つ簡単な構成の摩擦攪拌接合装置を実現することができる。
縦向きの被接合物の側壁部の被接合部を接合できるので、汎用性に優れるうえ、被接合物の姿勢を変換したりする必要もないので有利である。
【0019】
請求項2の発明によれば、対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有するので、吸着パッドを被接合物の側壁部の表面に吸着させた状態で自走車体を走行させて被接合部を接合することができ、接合時に作用する押圧力の反力を吸着パッドの吸着力でもって確実に打ち消すことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有するので、被ガイド輪をガイド部材に係合させた状態で自走車体を走行させて被接合部を接合することができ、これにより、接合時に作用する押圧力の反力を確実に打ち消すことができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、吸着パッドと負圧発生手段とを有するので、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とを吸着パッドと負圧発生手段で実現することができ、装置を小型化できるうえ設備コストを低減できる。しかも、広い設置スペースを必要としない。
【0022】
請求項5の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、ガイド部材と、1又は複数の被ガイド輪とを有するので、対抗力発生手段と対抗モーメント発生手段とをガイド部材と被ガイド輪で実現することができ、装置を小型化できるうえ設備コストを低減できる。
【0023】
請求項6の発明によれば、対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって対抗モーメントの一部を発生するように構成されたので、装置を大型化させることなく、接合時に作用する転倒モーメントを効果的に打ち消すことができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより対抗力の一部を発生させるように構成されたので、装置を大型化させることなく、接合時に作用する押圧力の反力を効果的に打ち消すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0026】
図1に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置であり、本実施例では、縦向き姿勢にした側壁部をなすアルミ合金製の被接合物40,41を突き合わせた被接合部42を、横向姿勢の摩擦接合ツール3によって摩擦攪拌して被接合部42を接合する例が図示されている。
【0027】
本実施例では、被接合物40,41を固定保持するため、水平方向に延びる角筒状の保持冶具43が配置され、保持冶具43の側壁面に、鋼製の補助板44と鋼製の裏当板45とを介して被接合物40,41が固定され、被接合物41と保持冶具43はフロア上に固定された1対の支持板46の上面に固定されている。尚、接合時に被接合物40,41が動いたり倒れたりしないよう、保持冶具43は図示外の手段によってフロアに固定されている。
【0028】
次に、摩擦攪拌接合装置1について説明する。
図1〜図3に示すように、摩擦攪拌接合装置1は、被接合物40,41の側方近傍部を被接合部42に沿って自走可能に構成された自走車体2と、横向姿勢の摩擦接合ツール3を保持する円筒状のツール保持部6と、ツール保持部6を基準軸線回りに回転駆動するサーボモータ7(回転駆動手段)と、ツール保持部6を基準軸線に沿って変位駆動するエアシリンダ8,9(変位駆動手段)と、被接合物40の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッド14と、吸着パッド14に作用させる負圧を発生させる真空ポンプ37(負圧発生手段)と、制御ユニット21とを備えている。尚、基準軸線は、ツール保持部6に摩擦接合ツール3が装着された状態で摩擦接合ツール3と同軸となる軸線である。
【0029】
自走車体2の下部には、走行路を構成するフロア47(図4参照)上を走行する4つの車輪12が回転可能に装着され、これら4つの車輪12は平面視にて長方形の頂点に配置されている。車輪12は、円筒状外周面を有する金属製の車輪本体と、この車輪本体に外嵌固定された円筒状外周面を有する高摩擦の合成樹脂製のタイヤ部とを有する。4つの車輪12のうちの駆動輪である2つの前側車輪12に、前側車輪軸12aを介して走行用モータ10が連結され、走行用モータ10により前側車輪12が回転駆動される。尚、2つの後側車輪12は遊転輪であるが、前側車輪軸12aからタイミングベルトを介して同期駆動してもよい。さらに、2つの前側車輪12に2つの走行用モータ10を夫々連結し、これら2つの走行用モータ10により左右の前側車輪12を夫々回転駆動してもよいし、後側車輪12を駆動輪に構成してもよい。
【0030】
自走車体2には、ツール保持部6が横向姿勢且つ自走車体2の右側部から右方に突出した状態に装備され、このツール保持部6に摩擦接合ツール3が着脱可能に装着されており、ツール保持部6は、サーボモータ7の回転駆動により摩擦接合ツール3と共に基準軸線回りに回転自在に構成されている。尚、図3に示すように、ツール保持部6の基準軸線は、水平面内において、被接合部42に接近する程、前方へ移行するように約1〜5°傾いた姿勢に設定されている。
【0031】
図3〜図4に示すように、摩擦接合ツール3は、円柱状の本体部4と、本体部4から右方に突出する円柱状のピン部5とを有する。ピン部5の外径は、本体部4の外径よりも小径に形成されている。本体部4の右端にはショルダー面4aが形成され、このショルダー面4aが、摩擦接合ツール3の軸線に対して略垂直に形成されている。接合時に被接合部42と摩擦接合ツール3との間で発生する摩擦熱が大きくなるように、ツール保持部6と摩擦接合ツール3は、被接合部42の表面の垂直方向に対して所定傾斜角度θ(例えば約1〜5°)だけ前記のように傾斜した状態に設けられている。
【0032】
図2、図3、図6に示すように、ツール保持部6の前後には2つの複動型エアシリンダ8,9が水平に設けられ、圧縮空気供給源から加圧エアがエアホースにより自走車体2に導入され、ソレノイドバルブ28,29(以下、SOLバルブという)を介して、エアシリンダ8,9に夫々接続されている。制御ユニット21からの指令によりSOLバルブ28,29を制御し、エアシリンダ8,9の伸長作動と退入作動が制御される。エアシリンダ8,9を伸長作動させると、ツール保持部6が摩擦接合ツール3と共に基準軸線に沿って右方へ変位(移動)する。
【0033】
ツール保持部6の右方への変位量を検出する検出機構37も設けられ、その検出信号が制御ユニット21に供給され、摩擦攪拌接合に際しては、制御ユニット21でSOLバルブ28,29を介してエアシリンダ8,9を伸長作動させ、ツール保持部6は、ショルダ面4aが被接合部12に当接する位置まで変位させられ、接合中はその伸長作動状態を維持する。
【0034】
一方、接合終了時には、エアシリンダ8,9を退入作動させてツール保持部6を摩擦接合ツール3と共に基準軸線に沿って左方へ変位させ、原位置に復帰させる。尚、ツール保持部6と摩擦接合ツール3は、接合時に被接合部42から押圧力の反力F1が作用しても破損しない十分な強度を有する。
【0035】
図4に示すように、摩擦接合ツール3の先端のピン部5が被接合部42に没入している間、エアシリンダ8,9によりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に対して基準軸線方向に押圧力が作用するが、これにより、被接合部42からツール保持部6と摩擦接合ツール3に対して押圧力の反力F1(ツール軸線方向反力)が作用し、この反力F1によって自走車体2を図4にて反時計回り方向への転倒モーメントM1が作用する。
【0036】
ここで、摩擦攪拌接合を行うときに摩擦接合ツール3に作用する反力について、図5に基づいて説明する。
摩擦接合ツール3が、図5の矢印に示す方向、つまり、左方から視て時計回りに回転しつつ、被接合部42に押圧された状態で前方に移動すると、摩擦接合ツール3に対して、反力F1に加えて、摩擦接合ツール3の回転によって生じる基準軸線と走行方向に垂直且つ鉛直下向きの接合反力F3と、走行方向と逆向きの接合方向反力F4とが作用する。
反力F1は、ツール保持部6と摩擦接合ツール3が被接合部42を押圧する押圧力と同じ力で且つ方向が逆向きの力である。尚、板厚が5mmの場合、押圧力は例えば500kgfに設定され反力F1は500kgfである。
図4に示すように、前記転倒モーメントM1は、M1=F1×L1である。但し、L1はフロア面47からツール保持部6までの距離である。
【0037】
そこで、図6に示すように、反力F1に対抗する対抗力F2を発生させる対抗力発生機構17と、転倒モーメントM1に対抗する対抗モーメントM2を発生させる対抗モーメント発生機構18とが設けられている。この対抗力発生機構17と対抗モーメント発生機構18は、以下に説明する吸着機構16を主体として構成されている。この吸着機構16は、吸着パッド14と、この吸着パッド14に負圧を導入する負圧発生手段とを有する。尚、対抗モーメント発生機構18は、後述の如く、自走車体2とその装備品の自重W及び鉛直下向きに発生する接合反力F3によって前記対抗モーメントM2の一部を発生するように構成されている。
【0038】
図1〜図4に示すように、自走車体2の上端部には、取付ブラケット13を介して吸着パッド14が固定されている。吸着パッド14は矩形枠を有し、この矩形枠の表面には低摩擦のフッ素樹脂からなる滑動体15が設けられ、吸着パッド14が被接合物40の表面に吸着している状態で自走車体2が走行するとき、滑動体15は吸着状態を維持したまま被接合物40の表面上を低摩擦で摺動可能に構成されている。
【0039】
自走車体2の外部に設けられた真空ポンプ38(負圧発生手段)にから真空ホースにより負圧が自走車体2に導入され、ソレノイドバルブ30(以下、SOLバルブという)を介して吸着パッド14に接続されている。制御ユニット21によりSOLバルブ30を介して、吸着パッド14に負圧を導入されると、吸着パッド14が吸着状態になり、吸着力からなる対抗力F2を発生させるように構成されている。一方、制御ユニット21により、SOLバルブ30を介して吸着パッド14に大気圧を導入すると、吸着パッド14が非吸着状態になる。
【0040】
前記吸着パッド14に負圧導入したときに、反力F1よりも大きな対抗力F2を発生させるように、吸着パッド14のサイズと、負圧の大きさが設定されている。
ここで、図4に示すように、対抗モーメント発生機構18により発生させる対抗モーメントM2は、対抗モーメントM2=W×L0+F2×L2となる。
【0041】
但し、Wは自走車体2とその装備品の自重、L0は自走車体2の左端から自走車体2の中心(自重Wが作用する位置)までの距離、L2はフロア面47から吸着パッド14の中心までの距離である。自走車体2の転倒が生じない条件は、対抗モーメントM2>転倒モーメントM1であるから、(W×L0+F2×L2)>F1×L1、を満足させるように設定されている。尤も、図4に図示の場合、F2>F1、L2>L1であるから、上記の不等式は十分に成立している。尚、上記の不等式を満足させる範囲内で、フロア面47から吸着パッド14の中心までの距離L2を小さくすることができ、吸着パッド14の取り付け位置を下げることができる。さらに、前述のように、摩擦接合ツール3の回転により鉛直下向きの接合反力F3が作用するため、対抗モーメントM2を増加させることができる。
【0042】
次に、摩擦攪拌接合装置1の制御系について説明する。
図6に示すように、制御ユニット21は、CPUとROMとRAMとを含むマイクロコンピュータと、入力インターフェースと、出力インターフェース等を有する。入力インターフェースには、摩擦攪拌接合装置1に対して種々の指令を入力する為の操作部20と、ツール保持部6の右方への変位量を検出する検出機構37が接続されている。出力インターフェースには、サーボモータ7と、エアシリンダ8,9に接続されるSOLバルブ28,29と、走行用モータ10,11と、吸着パッド14に接続されるSOLバルブ30が駆動回路22〜27を介して夫々電気的に接続されている。
【0043】
次に、摩擦攪拌接合装置1の作用、効果について説明する。
図1、図4に示すように、この摩擦攪拌接合装置1では、摩擦接合ツール3を保持したツール保持部6を横向姿勢の基準軸線回りに回転させながらエアシリンダ8,9によりツール保持部6を基準軸線に沿って右方に変位させて、被接合部42に摩擦接合ツール3のピン部5を没入させ、被接合部42の軟化が進行するのに応じて本体部4も没入させる。この状態で、2枚の被接合物40,41が突合わされた被接合部42に沿って自走車体2が走行することにより、被接合部42が摩擦熱で軟化し塑性流動することで被接合部42が接合される。
【0044】
接合時に、エアシリンダ8,9によりツール保持部6と摩擦接合ツール3から被接合部42に押圧力が作用し、この押圧力の反力F1がツール保持部6と摩擦接合ツール3に作用し、反力F1によって自走車体2に転倒モーメントM1が作用するが、吸着パッド14による吸着力によって対抗力F2と対抗モーメントM2を発生させるため、自走車体2が被接合物40,41から離隔したり、転倒したりすることなく、安定した状態で摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0045】
このように、自走車体2と、ツール保持部6と、サーボモータ7と、エアシリンダ8,9と、吸着パッド14と真空ポンプ38とを備えたので、吸着パッド14に作用する負圧の吸着力により発生する対抗力F2と対抗モーメントM2によって、接合時に作用する押圧力の反力F1と転倒モーメントM1に対抗することができ、自走車体2が傾いて転倒することなく安定した状態で接合することができる。
【0046】
また、被接合物40,41を水平姿勢等に変更することなく、被接合物40,41の被接合部42を接合できるので、姿勢変換作業が増加することもない。このように、対抗力発生機構17と対抗モーメント発生機構18を吸着パッド14と真空ポンプ38で構成することができるため、それら機構を小型化でき、設備コストを低減できる。しかも、広い設置スペースを必要としないので有利である。
さらに、自走車体2とその装備品の自重W及び鉛直下向きに発生する接合反力F3によって対抗モーメントM2の一部を発生するように構成したので、対抗モーメント発生機構18の小型化、簡単化を図ることができる。
【実施例2】
【0047】
次に、実施例2の摩擦攪拌接合装置1Aについて説明する。但し、前記実施例と同一の構成には同一の符号を付し、異なる構成についてのみ説明する。
図7に示すように、この摩擦攪拌接合装置1Aにおいては、対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36の構成において前記実施例と異なっている。
自走車体2が自走する自走路を構成するフロア面47に被接合部42と平行に固定されたガイド部材31と、自走車体2に装備されてガイド部材31に係合する2対の被ガイド輪33,34とを有し、ガイド部材31と被ガイド輪33,34とで対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36とが構成されている。
【0048】
自走車体2が自走する走行路面としてのフロア面47には、被接合部42とほぼ同長のガイド部材31が被接合部42と平行に設けられ、ガイド部材31の下部が支持板46に固定されている。ガイド部材31はウェブ部31aとフランジ部31bとを断面L形に形成されている。図7において右側(内側)の2つの車輪12の右側には、被ガイド輪34が車輪軸12aの内端に遊転自在に設けられている。この被ガイド輪34は、ガイド部材31のフランジ部31bの下面に係合し、下向きの対抗力F2を発生させる。
【0049】
内側の2つの車輪12に対応する位置において、自走車体2の右壁部には、右方に延びるL形の固定部材32が夫々固定され、固定部材32の先端に縦向きの被ガイド輪33が遊転自在に枢着され、被ガイド輪33はガイド部材31のウェブ部31aの内面に係合し、2対の被ガイド輪33,34によりガイド部材31が左右両側から夫々挟持された状態で、自走車体2が被接合部42に沿って走行可能に構成されている。
【0050】
ここで、前記実施例1と同様に、対抗モーメント発生機構36により発生させる対抗モーメントM2は、対抗モーメントM2=W×L0+F2×L2となる。但し、Wは自走車体2とその装備品の自重、L0は自走車体2の左端から自走車体2の中心(自重Wが作用する位置)までの距離、L2は自走車体2の左端から被ガイド輪34の中心までの距離である。自走車体2の転倒が生じない条件は、対抗モーメントM2>転倒モーメントM1であるから、(W×L0+F2×L2)>F1×L1、を満足させるように設定されている。
【0051】
このように、自走車体2が自走する自走路を構成するフロア面47に固定されたガイド部材31と、自走車体2に装備されてガイド部材31のフランジ部31bの下面に係合する被ガイド輪34と、ガイド部材31のウェブ部31aの内面に係合する被ガイド輪33とを有するので、被ガイド輪33,34をガイド部材31に係合させた状態で自走車体2を走行させて被接合部42を接合することができ、これにより、接合時に作用する押圧力の反力F1を確実に打ち消すことができる。さらに、対抗力発生機構35と対抗モーメント発生機構36とをガイド部材31と被ガイド輪33,34で実現することができるので、装置1Aを小型化できるうえ設備コストを低減できる。また、摩擦接合ツール3を左方から視て時計回りに回転させることで、鉛直下向きの接合反力F3を発生させて、対抗モーメントM2を増加させることができる。
【0052】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]図8に示すように、摩擦攪拌接合装置1Bによって自走車体2を傾斜させた状態で被接合部42に沿って走行させて被接合部42を接合してもよい。
この場合、被接合部42と平行且つ被接合部42よりも長い寸法の傾斜台48をフロア面47に設置し、さらに、取付ブラケット39の先端部にヒンジ部39aを設けて、このヒンジ部39aに吸着パッド14を連結することで、吸着パッド14の角度が変更可能に構成されている。このように、接合時に自走車体2が傾斜台48の上面を走行する場合に、被接合物40の側壁部の表面に対して平行になるように吸着パッド14の角度を調整することで、側壁部の表面に吸着パッド14を確実に吸着させることができ、安定した状態で接合することができる。
【0053】
2]図9に示すように、2台の摩擦攪拌接合装置1によって被接合物40,41の左側壁部の被接合部42と、被接合物70,71の右側壁部の被接合部72とを同時に接合してもよい。
この場合、保持冶具43を挟んで左側に被接合物40,41、右側に被接合物70,71を突合わせて固定した後、実施例1の摩擦攪拌接合装置1を被接合部42の左側に配置する。さらに、自走車体2の左側部から左方に突出した状態でツール保持部6を装備した摩擦攪拌接合装置1を被接合部72の右側に配置した後、2台の自走車体2を同時に、被接合部42と被接合部72に沿って夫々走行させて接合する。
【0054】
このように、保持冶具43を挟んで左右両側の被接合部42,72に対して、逆向きで同じ大きさの押圧力が夫々作用するので、保持冶具43をフロア面47に固定する方法を簡略化しても、被接合物40,41,70,71が動いたり倒れたりしない。
このとき、被接合物40,41を接合する左側の装置のツール回転方向を、左方から視て時計回りに、一方被接合物70,71を接合する右側の装置のツール回転方向を、右方から視て反時計回りに回転させることで、鉛直下向きの接合反力F3を夫々発生させて、対抗モーメントM2を夫々増加させることができる。
【0055】
3]自走車体2が有する被接合物40,41側の2個の内側車輪12と、被接合物40,41と反対側の2個の外側車輪12を、外側車輪12よりも内側車輪12を小径に構成することにより対抗力F2の一部を発生させるように構成してもよい。この場合、装置1を大型化させることなく、接合時に作用する押圧力の反力F1を効果的に打ち消すことができる。また、内側車輪12と外側車輪12の駆動系を別系統とし、2つの走行用モータ10の周波数(回転速度)を、外側車輪12の方が30%以下程度の範囲で大きくなるように回転駆動することにより、対抗力F2の一部を発生させるように構成してもよい。
【0056】
4]吸着パッド14に作用する負圧により被接合物40の側壁部の表面に吸着させる代わりに、マグネットで発生させる磁力により吸着させてもよい。
5〕実施例2において、前側車輪12又は後側車輪12の何れかに1対の被ガイド輪33,34を設けてもよいし、固定部材32を設けずに1つの被ガイド輪34のみを設けてもよい。
【0057】
6]先ず、摩擦攪拌接合装置1で接合される鉄道用車両の車体50,60の例について説明する。図10に示すように、車体50は、ダブルスキン構造のアルミ合金板からなる床構体51と、アルミ合金板と複数のリブとを含むシングルスキン構造の側部構体52と、アルミ合金板と複数のリブとを含むシングルスキン構造の屋根構体53とを有する。本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、2枚の側板54,55を接合する被接合部56と、側板54と床構体51とを接合する被接合部57等の接合に供される。符号58は側柱、符号59は入口柱を示す。
図11に示すように、ダブルスキン構造のアルミ合金板で構成される車体60では、側部構体61の被接合部62〜68などが摩擦攪拌接合装置1により接合される。
6〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の後方から視た斜視図である。
【図2】摩擦攪拌接合装置の右側面図である。
【図3】摩擦攪拌接合装置の平面図である。
【図4】接合時に作用する押圧力の反力と反力に抗する対抗力を説明する為の摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図5】摩擦攪拌接合を行うときに接合ツールに作用する反力を説明する為の図である。
【図6】摩擦攪拌接合装置の制御系を示すブロック図である。
【図7】実施例2の図4相当図である。
【図8】変更例1に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図9】変更例2に係る摩擦攪拌接合装置と被接合物の背面図である。
【図10】摩擦攪拌接合装置により接合される鉄道用車両の車体(シングルスキン構造)の斜視図である。
【図11】摩擦攪拌接合装置により接合される鉄道用車両の車体(ダブルスキン構造)の斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1A,1B 摩擦攪拌接合装置
2 自走車体
6 ツール保持部
7 サーボモータ
8,9 エアシリンダ
14 吸着パッド
17,35 対抗力発生機構
18,36 対抗モーメント発生機構
31 ガイド部材
33,34 被ガイド輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置において、
被接合物の側壁部の被接合部に沿って自走可能に構成された自走車体と、
この自走車体に横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に装備されて、接合ツールを保持するツール保持部と、
自走車体に装備されツール保持部を基準軸線回りに回転駆動する回転駆動手段と、
自走車体に装備されツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段と、
変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に作用させる押圧力の反力に抗する対抗力を発生させる対抗力発生手段と、
前記押圧力の反力によって自走車体に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる対抗モーメント発生手段と、
を備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
前記対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
前記対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
前記対抗モーメント発生手段は、前記吸着パッドと、前記負圧発生手段とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
前記対抗モーメント発生手段は、前記ガイド部材と、前記1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項6】
前記対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって前記対抗モーメントの一部を発生するように構成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
前記自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、前記対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより前記対抗力の一部を発生させるように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項1】
被接合物の縦向きの側壁部の被接合部を横向姿勢の摩擦接合ツールによって摩擦攪拌して被接合部を接合する摩擦攪拌接合装置において、
被接合物の側壁部の被接合部に沿って自走可能に構成された自走車体と、
この自走車体に横向姿勢の基準軸線回りに回転自在に装備されて、接合ツールを保持するツール保持部と、
自走車体に装備されツール保持部を基準軸線回りに回転駆動する回転駆動手段と、
自走車体に装備されツール保持部を基準軸線に沿って変位駆動する変位駆動手段と、
変位駆動手段によりツール保持部と接合ツールから被接合部に作用させる押圧力の反力に抗する対抗力を発生させる対抗力発生手段と、
前記押圧力の反力によって自走車体に作用する転倒モーメントに抗する対抗モーメントを発生させる対抗モーメント発生手段と、
を備えたことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
前記対抗力発生手段は、被接合物の側壁部の表面に吸着可能な吸着パッドと、この吸着パッドに負圧を作用させる負圧発生手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
前記対抗力発生手段は、自走車体が自走する自走路を構成するフロア面に固定されたガイド部材と、自走車体に装備されてガイド部材に係合する1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
前記対抗モーメント発生手段は、前記吸着パッドと、前記負圧発生手段とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
前記対抗モーメント発生手段は、前記ガイド部材と、前記1又は複数の被ガイド輪とを有することを特徴とする請求項2又は3に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項6】
前記対抗モーメント発生手段は、自走車体とその装備品の自重及び鉛直下向きに発生する接合反力によって前記対抗モーメントの一部を発生するように構成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
前記自走車体は、被接合物側の2個の内側車輪と被接合物と反対側の2個の外側車輪とを有し、前記対抗力発生手段は、外側車輪よりも内側車輪を小径に構成することにより前記対抗力の一部を発生させるように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−61479(P2009−61479A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232491(P2007−232491)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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