説明

摩擦材

【課題】 特に大型車においてブレーキの効き(定積常用効力)が高く、かつME現象(空車ME効力)を低減するバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。
【解決手段】 繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも硫化亜鉛(ZnS)を0.05体積%以上0.45体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。さらにカシューダストは13体積%以上24体積%未満含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材と、結合材と、充填材とを含有する摩擦材に関し、特に所謂カックンブレーキ現象の発生を防止でき、バス、トラック等の大型車用摩擦材として好適な摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特にバス、トラック等の大型車において急激にブレーキの効きが上昇し、車体がカックンと大きく揺れて急停止するという所謂カックンブレーキ現象が発生する問題が生じている。また同時に、自動車の性能向上からブレーキの効きレベルを今まで以上に上げることに対する要求も高まっており、カックンブレーキ現象すなわちME(Morning Effect)現象が発生せず、かつブレーキの効きレベルが良いバランスのとれた摩擦材の開発が望まれている。
【0003】
弊社の出願でもある特許文献1には、高硬度で粒径の小さい無機充填材を一定量添加し、好ましくはガラス繊維のチョップドストランドを通常より少量添加することにより、ブレーキの効きレベルが高く、しかもカックンブレーキ現象が発生しないという摩擦材が開示されているが、更なるブレーキの効きレベル、及びコストダウンを求められている現状がある。
特許文献2には平均粒径5μm以下のZnSを0.5〜15体積%含有する摩擦材が記載されている。しかしこれでは、カックンブレーキ現象の抑制が不充分であり、ブレーキ効きとのバランスがとれない恐れがある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−309641公報
【特許文献2】特開2001−11430公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、特に大型車においてブレーキの効き(定積常用効力)が高く、かつME現象(空車ME効力)を低減するバランスのとれた摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討したところ、少量ではカックンブレーキ現象(ME)防止の効果なしとされていた硫化亜鉛(ZnS)を従来考えられていた含有量より少量含有させることが、むしろブレーキの効きとのバランスをトータルで考えた場合、効果的であることを見出し、本発明をなすに至った。
これには詳細は不明であるが、MEに影響を及ぼすと言われる対面(ローター)の鏡面化が影響していると思われる。即ち硫化亜鉛が多いと新品時のドラム面(Rz=10〜15μm)が制動の繰り返しにより少しずつ鏡面化(たとえばRz=4μm以下)していく事となり結果としてME現象が発生するのに対し、硫化亜鉛が少量の場合、硫化亜鉛の影響より他の因子の影響が大きくなり、適度なローター面粗さが確保されると考えられるからである。
【0007】
即ち、本発明は下記の摩擦材を提供する。
(1)繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも硫化亜鉛(ZnS)を0.05体積%以上0.45体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。
(2)該充填材としてさらにカシューダストを13体積%以上24体積%未満含有する請求項1記載の摩擦材。
(3)繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも該硫化亜鉛(ZnS)を0.1体積%以上0.3体積%未満含有し、かつ該カシューダストを15体積%以上23体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。
(4)該硫化亜鉛(ZnS)は表面処理されたものである(1)〜(3)記載の摩擦材。
(5)該硫化亜鉛(ZnS)の平均粒径は1μm以下である(1)〜(4)記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の摩擦材は特に大型車において、ブレーキの効きが高く、かつME現象が発生しないバランスのとれた良好な結果を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも硫化亜鉛(ZnS)を0.05体積%以上0.45体積%未満含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に使用される硫化亜鉛(ZnS)は、通常品である粉砕して粒度を整えたもの(表面未処理品)でもよいが、摩擦材原料内での分散性を考えると、通常品に対しさらに表面処理を施した硫化亜鉛を使用することが好ましい。表面処理の方法としては、シランカップリング剤処理、フェノール樹脂処理、トリエタノールアミン処理、さらにこれにシクロナイズ化処理等を加えたものがあるが、分散性能面、コスト面から考えてトリエタノールアミン処理が好ましい。表面処理剤は、硫化亜鉛(ZnS)に対し0.1〜10質量%、特に1〜5質量%の使用量とすることが好ましい。
この硫化亜鉛の平均粒径は5μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。平均粒径が大き過ぎるとブレーキの効きが不充分となる場合がある。
またその摩擦材組成物全量に対する添加量は0.05体積%以上0.45体積%未満、好ましくは0.1体積%以上0.42体積%未満、より好ましくは0.1体積%以上0.3体積%未満である。これより多いと、ME現象の抑制が不充分となる。
【0011】
さらに本発明では常用制動時の効力バランスをとるため、カシューダストを用いる。カシューダストはその含有タール分によりさまざまな種類があるが、一般的に摩擦材に使用されるものであれば特に問題ない。但しブレーキの効きに関係する為、常温アセトン抽出法においてタール分が3〜9質量%、粒径が120〜300μmであるのカシューダストを用いることが好ましい。
なおここで言う常温アセトン抽出法は具体的には次のように求めたものである。すなわち、粉末試料2gを精秤し(W0)、これを円筒ロ紙に入れソックスレーアセトン抽出試験装置の抽出管にセットし、アセトン100ml中で2時間還流下で抽出を行う。抽出後、ソックスレーフラスコに抽出されたタール分を105℃で1時間乾燥処置を行い、その重量(W1)を精秤する。アセトン抽出率Rは次式により計算される。
R(%)=(W1 / W0)×100
カシューダストは摩擦材組成物全量に対し13体積%以上24体積%未満、好ましくは15体積%以上23体積%未満、より好ましくは16体積%以上19体積%未満用いる。これより多いと常用制動時におけるブレーキの効きが高くなりすぎる恐れがあり、また少ないとブレーキとしての効きが不充分となる場合がある。
【0012】
その他充填材としては摩擦材に通常用いられる充填材が使用出来る。充填材は有機充填材と無機充填材に分けられる。有機充填材として、たとえばタイヤリク、アクリルゴムダスト、メラミンダスト等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、バーミキュライト、黒鉛、四三酸化鉄、硫化鉄、コークス、マイカ等の他、青銅、銅、錫、亜鉛、アルミニウム等の金属粉が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの充填材の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは20〜80体積%、より好ましくは30〜60体積%である。
【0013】
繊維基材としては摩擦材に通常用いられる繊維基材が挙げられる。たとえばスチール、ステンレス、銅、真鍮、青銅、アルミニウム等の金属繊維;チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト等の無機繊維;アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維;等である。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。繊維基材全体の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは5〜50体積%、より好ましくは10〜40体積%である。これらは本発明の効果を維持できる範囲で、適宜添加することができる。
【0014】
結合材としては摩擦材に通常用いられるものを使用することができる。たとえば、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、アクリルゴム(未加硫品)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。この結合材の添加量は摩擦材組成物全量に対して好ましくは10〜30体積%、より好ましくは15〜30体積%である。
【0015】
本発明の摩擦材の製造方法は、上記成分をレディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合して成形金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度130〜180℃、成形圧力15〜49MPaで、3〜10分成形するものである。
次に、得られた成形品を150〜250℃の温度で2〜10時間熱処理(後硬化)した後、必要に応じて塗装、焼き付け、研磨処理を施して完成品が得られる。
なお自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄またはアルミ製プレート上に予備成形物を載せ、この状態で成形用金型で成形、熱処理、塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【0016】
本発明の摩擦材は、特に大型トラック、バス用として好適なものであるが、自動車、鉄道車両、各種産業機械等の制動用ブレーキにも用いることが出来る。
【実施例】
【0017】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0018】
実施例及び比較例において、硫化亜鉛(ZnS)としてSACHTLEBEN社のトリエタノールアミン表面処理品、粒径0.4μmのものを使用した。またカシューダストはカシュー社製のタール分7質量%、粒径150μmのものを使用した。なお平均粒径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いている。
【0019】
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、加圧型内で10MPaにて20秒加圧して予備成形をした。この予備成形品を成形温度150℃、成形圧力40MPaの条件下で6分間成形した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行ない、摩擦材を作成した。
得られた摩擦材について、定積常用効力、空車ME効力を評価した。結果を表1に、評価基準を表2に示す。
【0020】
表1


【0021】
表2



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも硫化亜鉛(ZnS)を0.05体積%以上0.45体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
該充填材としてさらにカシューダストを13体積%以上24体積%未満含有する請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくとも該硫化亜鉛(ZnS)を0.1体積%以上0.3体積%未満含有し、かつ該カシューダストを15体積%以上23体積%未満含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項4】
該硫化亜鉛(ZnS)は表面処理されたものである請求項1〜3記載の摩擦材。
【請求項5】
該硫化亜鉛(ZnS)の平均粒径は1μm以下である請求項1〜4記載の摩擦材。

【公開番号】特開2006−257113(P2006−257113A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72336(P2005−72336)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】