説明

摩耗防止剤組成物及び該摩耗防止剤組成物を含有する潤滑油組成物

【課題】鉱油に溶解させる際に低温での溶解性を向上した摩耗防止剤組成物並びに溶解後も不溶解分が析出せず安定性良好な摩耗防止性能に優れる油組成物の提供。
【解決手段】摩耗防止剤組成物は、(A)成分:ヒンダードエステル又は芳香族エステル;(B)成分:下記の一般式(1)で表わされる化合物;


(C)成分:特定のモノタイプのコハク酸イミド化合物又はビスタイプのコハク酸イミド化合物を必須成分とする摩耗防止剤組成物並びにそれを添加した潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗防止剤組成物及び該摩耗防止剤組成物を含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工作機械等の機械類は近年高機能化が進んでおり、こうした機械類に使用される潤滑油の要求性能も高まっている。潤滑油に求められる機能や効果は様々であるが、機械類の高速化や高圧力化が進んでおり、摩耗防止に対する要求性能が非常に大きい。摩耗防止には、通常、添加剤として摩耗防止剤を潤滑油に添加するが、こうした摩耗防止剤は昔からよく知られた添加剤であり、一般的にリン系や硫黄系の化合物、またはこれらの組み合わせで摩耗防止に対応していた(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、潤滑油基油(鉱油・合成油)に対して、清浄剤として全塩基価(TBN)165mgKOH/gを有するカルシウム・アルキサリチレート(カルシウム(Ca)含有量6.0質量%)を質量%で5.8〜8.3、酸化防止剤兼摩耗防止剤としてプライマリアルキル型ジンク・ジチオホスフェートを亜鉛(Zn)の質量%で0.09〜0.13、摩擦調整剤兼摩耗防止剤として油溶性オキシモリブデン・ジアルキルジチオホスフェートを、モリブデン(Mo)の質量%で0.02〜0.04を配合したことを特徴とする排気ガス還流装置付エンジン用ディーゼルエンジンオイルが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、次の化学構造
【化1】

[ここで、R及びR’は水素またはアルキルであってよく、このさいRまたはR’の少なくとも一つはアルキルであり、ここでR’’はアルキル、またはR’’OCOCH、またはR’’’OCOCHCH(ここで、R’’’はアルキルであり、そしてXはSである)である]を有する組成物からなる低リン潤滑剤用の摩耗防止剤が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、スーパートラクターオイルユニバーサル潤滑組成物であり、a)粘度指数が少なくとも約95であり、i)少なくとも一つの金属清浄剤と、ii)少なくとも一つのリンベースの摩耗防止剤と、iii)少なくとも一つの油溶性モリブデン化合物を含む添加剤成分で調合された潤滑粘度のオイルを含み、b)潤滑組成物の総重量を基にした金属の含有量(ppm)と潤滑組成物の全塩基価(mg KOH/g)の比率が約210から約450(ppm/mg KOH/g)であることを特徴とし、c)潤滑油組成物の総重量を基にした金属の含有量(ppm)と潤滑組成物の総重量を基にしたリンの含有量(ppm)の比率が約5.0から約20.0(ppm/ppm)であり、また、d)潤滑組成物の総重量を基にしたリンの含有量(ppm)と潤滑組成物の総重量を基にしたモリブデンの含有量(ppm)の比率が約0.5から約80.0(ppm/ppm)である、スーパートラクターオイルユニバーサル潤滑組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されたいずれの摩耗防止剤も、摩耗防止効果は不十分であり、市場ではより効果の高い潤滑油添加剤が求められている。このような現状に鑑み、従来知られている摩耗防止剤と比較して摩耗防止効果の高い、縮合リン酸エステルを使用することで、従来知られているリン系の摩耗防止剤よりも高い摩耗防止効果を発揮できることを既に提案している(特願2010−21022号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−207290号公報
【特許文献2】特開2003−183247号公報
【特許文献3】特開2008−174742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、縮合リン酸エステルの形状は0℃〜25℃において固体又は液体であり、一般的に潤滑油用途の添加剤は固体よりも液体が好まれるが、縮合リン酸エステルは液体の場合でも長時間静置すると不溶解分が析出する場合や凝固する場合がある。そのため、長期間静置する場合は温度管理を行う必要があり、使用条件によってはハンドリングが困難となる。また、縮合リン酸エステルは鉱油に対する溶解性が低く、鉱油に溶かす際、25℃前後では溶解性が不十分となることもあり、添加量によっては加温して溶解させることが必要となる場合もある。また、鉱油に溶解させた後も長時間静置した場合、不溶解分が析出し摩耗防止剤としての性能を維持することが困難な場合となることもある。
【0009】
従って、本発明の目的は、縮合リン酸エステルを主成分とする摩耗防止剤組成物において、0℃〜25℃で長時間静置した場合でも不溶解分が析出せず安定性良好な液体状態を維持することが可能であり、鉱油に溶解させる際に低温での溶解性を向上した摩耗防止剤組成物を提供すること、溶解後も不溶解分が析出せず安定性良好な摩耗防止性能に優れた潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者等は鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を必須成分とする摩耗防止剤組成物である:
(A)成分:ヒンダードエステル又は芳香族エステル;
(B)成分:下記の一般式(1)で表わされる化合物;
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、Xは、炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、nは、1〜10の数を表わす。)
(C)成分:下記一般式(2)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物又はビスタイプのコハク酸イミド化合物;
【化3】

[式中、Rは、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わし、R10及びR12は、炭素数2〜10のアルキレン基を表わし、R11は水素または炭素数1〜4のアルキル基を表わし、rは0〜10の数を表わし、Wは−NH又は下記の一般式(3)を表す。但しWが一般式(3)の場合は、rは1〜10を表わし、少なくとも1つのR11は水素である。]
【化4】

(式中のR13は、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わす。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、0℃〜25℃で長時間静置した場合の保存安定性に優れ、潤滑油に対する溶解性を大幅に向上させた摩耗防止剤組成物、及び該摩耗防止剤組成物を含有した潤滑油組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の摩耗防止剤組成物に使用する(A)成分について説明する。
(A)成分は、ヒンダードエステル又は芳香族エステルであり、上記のヒンダードエステルとしては任意のモノカルボン酸とネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等のヒンダードアルコールから得られるエステルである。これらの中でもモノカルボン酸は鉱油に対して高い溶解性を示すので、炭素数3〜20が好ましく、炭素数5〜15がより好ましく、炭素数5〜10が更に好ましい。ヒンダードアルコールとしてはペンタエリスリトールが好ましい。エステル化率は特に限定されないが、鉱油に対して高い溶解性を示すので、60〜100%エステル化されていることが好ましく、70〜100%がより好ましい。なお、ヒンダードエステルのエステル化率は、ヒンダードアルコールの分子内の全てのOH基がエステル化されている場合のエステル化率を100%とし、OH基が全てエステル化されていない場合のエステル化率を0%とする。
【0013】
前述した芳香族エステルとしては、芳香族多価カルボン酸とモノアルコールのエステルであれば特に限定されないが鉱油に対して高い溶解性を示すので、ピロメリット酸又はトリメリット酸と炭素数3〜15の飽和アルコールのエステルが好ましく、ピロメリット酸又はトリメリット酸と炭素数5〜10の飽和アルコールのエステルがより好ましい。エステル化率は特に限定されないが、鉱油に対して高い溶解性を示すので、80〜100%エステル化されていることが好ましく、90〜100%がより好ましい。なお、エステル化率は芳香族多価カルボン酸分子内の全てのCOOH基がエステル化されている場合のエステル化率を100%とし、COOH基が全てエステル化されていない場合のエステル化率を0%とする。
これらの中でも、溶解性改善効果が高いことから芳香族エステルが好ましい。
また、ヒンダードエステル、芳香族エステルの動粘度は特に限定されるものではないが、溶解性改善効果が高いため、100℃において1〜50mm/秒が好ましく、100℃において2〜30mm/秒がより好ましい。
【0014】
本発明の摩耗防止剤組成物に使用する(B)成分について説明する。
(B)成分は、一般式(1)で表わされる化合物である:
【化5】

【0015】
一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、こうしたアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基、トリデシル基、テトラデシル(ミリスチル)基、ペンタデシル基、ヘキサデシル(パルミチル)基、へプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル)基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。摩耗防止効果が高いことから、R〜Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0016】
一般式(1)において、Xは、炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、こうした基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリール基、及びアリール基とアルキレン基からなる炭化水素基等が挙げられ、アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、テトラデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、イコサレン基等が挙げられる。
シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、ジシクロペンチレン基、トリシクロペンチレン基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、一般式(4)で表わされる基、一般式(6)で表わされる基、ナフチレン基等が挙げられ、一般式(4)で表わされる基の場合、結合する箇所によってオルト体、メタ体及びパラ体の3つの構造になるが、いずれの構造であってもよく、これらの違いによって性能は変わらない。
アリール基とアルキレン基からなる炭化水素基としては、一般式(5)で表わされる基、1,2−ジフェニルエチレン基等が挙げられる。これらの中でも、摩耗防止効果が高いことからXはアリール基を1つ以上含有することが好ましく、一般式(4)、一般式(5)又は一般式(6)のいずれかで表わされる基がより好ましく、一般式(4)又は一般式(5)のいずれかで表わされる基が更に好ましく、一般式(4)で表わされる基が最も好ましい。
【0017】
【化6】

【0018】
一般式(1)において、nは、重合度を表わし、(B)成分において、本発明の摩耗防止剤組成物の摩耗防止効果を十分に発揮させるためには、nが1〜10の数、好ましくは1〜5の数である。 また、nの平均、即ち、平均重合度は、一般式(1)で表わされる化合物のモル比から計算され、例えば、n=1の化合物が50モル%、n=2の化合物が50モル%の組成ならば、平均重合度は1.5となる。なお、nの値は高速液体クロマトグラフィーの測定結果から算出できる。
【0019】
(B)成分には、一般式(1)で表わされる化合物のnがゼロである化合物、又はnが11以上の化合物が不純物として混入することもあるが、これらの含有量は(B)成分100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、2質量部以下が更に好ましい。10質量部を超えると、本発明の摩耗防止剤組成物の摩耗防止効果が低くなるために好ましくない。なお、一般式(1)のnがゼロである化合物やnが11以上の化合物が混入している場合、(B)成分のnの平均、即ち、平均重合度を算出する際に、これらの化合物のnの値を含めないものとする。
【0020】
(B)成分において、nの平均、即ち、平均重合度は、特に制限はないが摩耗防止効果を高めるためには、1.0〜4.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましい。4.0を超える場合は基油への溶解が困難になる場合や摩耗防止効果が低くなる場合がある。
【0021】
方法1
一般式(1)で表わされる化合物を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を使用してもよく、例えば、以下の方法により目的物を得ることが出来る。
例えば、Xが一般式(4)で表わされ、R〜Rが全て水素原子、一般式(1)のnの値が1〜5の化合物を製造する場合には、1モルの1,3−ベンゼンジオールと2モルのオキシ塩化リンとを反応させた後に、4モルのフェノールを反応させればよい。この場合、各原料のモル比を変えることによってnの値の異なった化合物を製造することができるが、通常いずれのモル比で合成しても、精製を行わなければnの値が異なった化合物の混合物が得られる。
【0022】
方法2
例えば、Xが一般式(4)で表わされ、R〜Rが全て水素原子、一般式(1)のnの値が1の化合物を製造する場合には、1モルの1,3−ベンゼンジオールと2モルのクロロリン酸ジフェニルとを反応させることにより得られる。
【0023】
次に、本発明の摩耗防止剤組成物の(C)成分について説明する。
(C)成分の化合物は、下記一般式(2)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又はビスタイプのコハク酸イミド化合物である:
【化7】

(式中、Rは、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わし、R10及びR12は、炭素数2〜10のアルキレン基を表わし、R11は水素または炭素数1〜4のアルキル基を表わし、rは0〜10の数を表わし、Wは−NHまたは下記の一般式(3)を表す。但しWが一般式(3)の場合は、rは1〜10を表わし、少なくとも1つのR11は、水素である。)
【0024】
【化8】

(式中、R13は、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わす。)
【0025】
上記の一般式(2)のコハク酸イミド化合物は一般にアルキレンポリアミンとアルケニルまたはアルキル無水コハク酸との反応から作られる。この反応に使われるアルキレンポリアミン類は一般に一般式(7)によって表される:
【化9】

(式中、R14及びR16は、炭素数が2〜10のアルキレン基を表し、R15は、水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、sは、0〜10の数を表す。)
【0026】
一般式(2)、(3)におけるR及びR13は、それぞれ数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基であり、R及びR13は、同一でも異なっていてもよい。R及びR13の数平均分子量として好ましくは、溶解性改善効果が高いため1000〜3000である。
【0027】
一般式(2)、(7)の、R10、R12、R14及びR16としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、1,2−ジメチルプロピレン基、1,3−ジメチルプロピレン基、1−メチルブチレン基、2−メチルブチレン基、3−メチルブチレン基、4−メチルブチレン基、2,4−ジメチルブチレン基、1,3−ジメチルブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数が2〜8のものが好ましく、2〜6がより好ましく、2〜5が更に好ましく、2又は3が最も好ましい。また、R11及びR15は、好ましくは水素原子であり、r及びsは、好ましくは2〜9の数であり、3〜8がより好ましい。r及びsは0又はrが11以上であると、(A)成分に対する溶解性が悪くなるために好ましくない。
【0028】
一般式(7)で表される化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ヘキサエチレンヘプタアミン、プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラプロピレンペンタアミン、ペンタプロピレンヘキサアミン、ヘキサプロピレンヘプタアミン及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0029】
上記のコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
【0030】
この反応に使用できるポリオレフィンとしては、C2〜C5のモノオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンおよびペンテン等が挙げられる。さらにポリイソブチレンのようなホモポリマーならびに、エチレンとプロピレン、ブチレン、およびイソブチレン等とのコポリマーのような2つまたはそれ以上のオレフィン類のコポリマー類も含む。その他のコポリマーには、少量のコポリマーモノマー、例えば、1〜20モル%がC4〜C8の非共役ジオレフィンであるもの、例えば、イソブチレンとブタジエンとのコポリマーまたはエチレン、プロピレンと、1,4−ヘキサジエン等とのコポリマーも含む。
【0031】
また、本発明の(C)成分で表されるコハク酸イミド化合物は単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
更に、(C)成分は、上記のコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。コハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。
【0033】
(B)成分は潤滑油の分散剤としては公知であるが、本発明のように(A)成分、(B)成分及び(C)成分を組み合わせることにより低温で潤滑油に溶解させることが可能となることは知られていない。
【0034】
(B)成分の必要な配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、5〜40質量部配合することが好ましく、5〜30量部配合することがより好ましく、5〜25質量部配合することが更に好ましく、10〜20質量部配合することが最も好ましい。
【0035】
また、(C)成分の必要な配合量は(B)成分の使用量により異なるが、(B)成分100質量部に対して、100〜300質量部、好ましくは100〜250質量部であり、より好ましくは120〜220質量部である。50質量部を下回ると、その効果が発揮されにくく、また500質量部を上回ってもその添加に見合った効果は得られない。
【0036】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の摩耗防止剤組成物と基油を必須の構成成分とするものである。基油は、鉱油又はエステル以外の合成油及びこれらの混合物よりなり、より具体的には、ポリ−α−オレフィン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、GTL等の合成油;パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類等が挙げられる。これらの基油はそれぞれ単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。これらの中でも、溶解性改善効果の改善が大きいため、ポリ−α−オレフィン、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油が好ましく、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油がより好ましい。
【0037】
ポリ−α−オレフィンを使用する場合は、炭素数8〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1つから導かれる100℃における動粘度が1〜20mm/秒のものである。また、更に好ましいエチレン−α−オレフィン共重合体としては、炭素数8〜20のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1つから導かれる構成単位を50〜99質量%、エチレンから導かれる構成単位を1〜50質量%の量で含有する100℃における動粘度が1〜20mm/秒のものである。また、鉱油としては、水素化精製、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化分解、硫酸洗浄、白土処理等の精製を行い、100℃における動粘度が1〜20mm/秒のものが更に好ましい。基油の100℃での動粘度が20を超えると低温粘度特性が悪化する場合があり、動粘度が1未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣る場合や金属摩耗が増加する場合があるために好ましくない。また、基油として鉱油を使用する場合は粘度指数90以上が好ましく、100以上がより好ましい。
【0038】
本発明の潤滑油組成物は、本発明の摩耗防止剤組成物を基油100質量部に対して、0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜7質量部、更に好ましくは0.3〜5質量部、最も好ましくは0.5〜2質量部配合したものである。配合量が少なすぎると摩耗防止剤としての効果が発揮できない場合があり、配合量が多すぎると不溶解物がでてくる場合や配合量に見合った効果を得られない場合があるために好ましくない。
【0039】
本発明の潤滑油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、本発明の(B)成分以外の摩耗防止剤、摩擦調整剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩擦防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧添加剤、消泡剤、乳化剤、抗乳化剤、カビ防止剤等を本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0040】
本発明の(B)成分以外の摩耗防止剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩、亜鉛ジチオホスフェート等の有機金属化合物等が挙げられる。これら摩耗防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。
【0041】
上記摩擦調整剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら摩擦調整剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0042】
上記金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でも過塩基性塩が好ましく、過塩基性塩の中でもTBN(トータルベーシックナンバー)が30〜500mgKOH/gのものがより好ましい。これらの金属系清浄剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0043】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−ターシャリーブチルフェノール(以下、ターシャリーブチルをt−ブチルと略記する。)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ステアリル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オレイル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸デシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル、テトラキス{3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオニルオキシメチル}メタン、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸グリセリンモノエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸とグリセリンモノオレイルエーテルとのエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸ブチレングリコールジエステル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸チオジグリコールジエステル、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)サルファイド、トリス{(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル−オキシエチル}イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、ビス{2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル}サルファイド、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、テトラフタロイル−ジ(2,6−ジメチル−4−t−ブチル−3−ヒドロキシベンジルサルファイド)、6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−{ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)}プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシナミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−リン酸ジエステル、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)サルファイド、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス{3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド}グリコールエステル等のフェノール系酸化防止剤;1−ナフチルアミン、フェニル−1−ナフチルアミン、p−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ノニルフェニル−1−ナフチルアミン、p−ドデシルフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジイソブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジオクチル−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、p,p’−ジ−n−ブチルジフェニルアミン、p,p’−ジ−t−ブチルジフェニルアミン、p,p’−ジ−t−ペンチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミン、p,p’−ジデシルジフェニルアミン、p,p’−ジドデシルジフェニルアミン、p,p’−ジスチリルジフェニルアミン、p,p’−ジメトキシジフェニルアミン、4,4’−ビス(4−α,α−ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p−イソプロポキシジフェニルアミン、ジピリジルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノセレナジン等のフェノチアジン系酸化防止剤等が挙げられる。これら酸化防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜5質量%、より好ましくは0.05〜4質量%である。
【0044】
上記摩擦防止剤としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンジチオフォスフェート等の有機モリブデン化合物が挙げられる。これら摩擦低減剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対してモリブデン含量で30〜2000質量ppm、より好ましくは50〜1000質量ppmである。
【0045】
上記粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。重量平均分子量は10000〜1500000、好ましくは20000〜500000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜15質量%である。
【0046】
上記流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリスチレン−(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、ポリエチレン−酢酸ビニル等が挙げられ、重量平均分子量は1000〜100,000、好ましくは5000〜50,000程度である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.005〜3質量%、より好ましくは0.01〜2質量%である。
【0047】
上記防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0048】
上記腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.01〜3質量%、より好ましくは0.02〜2質量%である。
【0049】
上記極圧添加剤としては、例えば硫化スパーム油、硫化エステル、アルキルポリサルファイド等が挙げられる。これらの極圧添加剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
【0050】
上記消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%である。
【0051】
上記乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、カルボン酸塩、アルキルリン酸エステル等が挙げられる。これらの乳化剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0052】
上記抗乳化剤としては、例えば四級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの抗乳化剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0053】
上記カビ防止剤としては、例えばアルキルフェノール、フェニルフェノール、ヘキサハイドロトリアジン等が挙げられる。これらのカビ防止剤の好ましい配合量は、潤滑油組成物全量に対して0.001〜2質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において「%」及び「ppm」は、特に記載が無い限り質量基準である。
以下に、本発明品及び比較品を示す。
(A)成分
A−1:芳香族エステル=トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル:粘度指数:79、1
00℃における動粘度:9.6mm/秒
A−2:ヒンダードエステル=ペンタエリスリトールとカルボン酸(イソペンタン酸/オ
クタン酸=1/1(モル比))をエステル化した混合物:粘度指数:126、10
0℃における動粘度:5.4mm/秒
A−3:ジエステル=アジピン酸ジトリデシル:粘度指数:133、100℃における動
粘度:5.2mm/秒
A−4:アルキルエステル=オレイル酸2−エチルヘキシル:粘度指数:238、100
℃における動粘度:2.8mm/秒
【0055】
(B)成分
以下に、(B)成分の合成例を示す:
合成例1<B−1>
攪拌機、温度計、窒素導入管を備えた1000mlの4つ口フラスコに、水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付け、1,3−ベンゼンジオール1.0mol(110g)、オキシ塩化リン3.0mol(460g)及び塩化マグネシウム0.005mol(0.5g)を仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度を徐々に100℃まで5時間かけて昇温させた。同温度にて2時間熟成後、減圧の上130℃に昇温し、上記反応において消費されなかった過剰のオキシ塩化リンを留去した。この反応液にフェノール4.0mol(376g)を添加して熟成させ、反応を終了した。その後、常法により触媒を除去し、140℃にて減圧乾燥し、一般式(8)で表わされるB−1を得た:
【0056】
【化10】

【0057】
合成例2<B−2>
B−2は、上記B−1の合成において1,3−ベンゼンジオールの代わりに4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールを使用した他は、B−1と同様の製法で製造し、一般式(9)で表わされるB−2を得た:
【0058】
【化11】

【0059】
合成例3<B−3>
攪拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管を備えた1000mlの4つ口フラスコに、水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付け、2,6−ジメチルフェノール2.0mol(244g)、及び塩化マグネシウム0.016mol(1.5g)を仕込み、反応装置内の雰囲気を窒素で置換後、温度を120℃まで昇温させた。同温度にてオキシ塩化リン1.0mol(153g)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、180℃まで2時間かけて昇温し、ジ(2,6−キシリル)ホスホロクロリデートを得た。フラスコ内を20℃まで冷却し、フラスコに1,3−ベンゼンジオール0.5mol(55g)、及び塩化マグネシウム0.016mol(1.5g)を仕込み、2時間かけて180℃まで昇温し、2時間熟成した。その後、常法により触媒を除去し、140℃にて減圧乾燥し、一般式(10)で表わされるB−3を得た:
【0060】
【化12】

【0061】
合成例4<B−4>
B−4は上記B−1の合成において、1,3−ベンゼンジオールの代わりに4,4’−ビフェノールを使用した他は、B−1と同様の製法で製造し、一般式(11)で表わされるB−4を得た:
【0062】
【化13】

【0063】
(B)成分の平均重合度を下記表1に示す:
【0064】
【表1】

【0065】
(C)成分
C−1:ポリブテニルコハク酸モノイミド[一般式(2)において、Rのポリブテニル 基の数平均分子量2000、R10=エチレン基、R11=H、R12=エチレ
ン基、W=NH、r=5、窒素含有量3.4量%、全塩基価56mgKOH/
g]
C−2:ポリブテニルコハク酸ビスイミド[一般式(2)において、R、R13のポリ
ブテニル基の数平均分子量2000、R10=エチレン基、R11=H、R12
=エチレン基、W=一般式(3)、r=5、窒素含有量2.0質量%、全塩基価
35mgKOH/g]
C−3:ポリブテニルコハク酸モノイミド[一般式(2)において、Rのポリブテニル 基の数平均分子量1500、R10=エチレン基、R11=H、R12=エチレ
ン基、W=NH、r=5、窒素含有量1.6質量%、ホウ素含有量0.4質量
%、全塩基価31mgKOH/g]
C−4:コハク酸エステル系分散剤
ペンタエリスリトールとポリブテニルコハク酸無水物(ポリブテニル基の数平均 分子量2000)を等モルで反応させたコハク酸エステル
C−5:ベンジルアミン系分散剤
市販のヒドロキシベンジルアミン(炭素数50〜100の分布をもつアルキル基 を有するフェノールとテトラエチレンペンタミンのマンニッヒ反応物)50gと ホウ酸10gを入れ、窒素でバブリングしながら130℃で6時間加熱攪拌し、 製造した反応物であり、ホウ素含有量は2.2質量%
【0066】
基油:市販の鉱油[新日本石油(株)スーパーオイルN22:パラフィン系鉱油)
粘度指数:102、100℃における動粘度:4.4mm/秒)
【0067】
[摩耗防止剤組成物の調製]
下記に本発明の摩耗防止剤組成物の調整方法を示す。表2、表3に記載に従い、合計量が100gになるように200mlビーカーに本発明品及び比較品の摩耗防止剤組成物を25℃、1時間攪拌し、調製した。調製した摩耗防止剤組成物の溶解性を下記の試験方法により評価した。
【0068】
摩耗防止剤組成物の溶解性評価
調製した摩耗防止剤組成物を25℃で24時間静置し、その後0℃で24時間静置した。目視で不溶解分の析出を観測し、以下の評価基準で評価した。結果を溶解性試験1として表2、表3に示す。
◎:25℃で24時間静置後不溶解分なし、0℃で24時間静置後不溶解分なし(0℃で も保存安定性問題なし)。
○:25℃で24時間静置後不溶解分なし、0℃で24時間静置後不溶解分あり(25℃ における保存安定性は問題ないが極低温下は問題がある場合がある)。
△:攪拌終了時に全成分が均一に溶解、25℃で24時間静置後不溶解分あり(調製後、 直ぐに使う場合は問題ない場合がある)。
×:攪拌終了時に全成分が均一に溶解していない(使用は困難である)。
【0069】
[潤滑油組成物の調製]
200mlビーカーに基油100.0g、及び25℃で1時間攪拌し、調製した摩耗防止剤組成物を表4、表5の記載に従い必要量を加えた。25℃で1時間撹拌し、潤滑油組成物を調製した。潤滑油組成物の溶解性及び摩耗防止効果を下記の方法により評価した。
【0070】
潤滑油組成物の溶解性評価
潤滑油組成物を前述した摩耗防止剤組成物の溶解性評価と同様の試験方法及び評価基準で評価した。結果を溶解性試験2として表4、表5に示す。
【0071】
耐摩耗試験
高速4球試験機を用いてASTM D4172に準拠して耐摩耗試験を行った。試験後のボールの摩耗痕径(mm)を測定し表4、表5に示す。摩耗痕径が小さいほど摩耗防止効果が高いことを示す。
耐摩耗試験条件
試験機器:シェル式高速4球試験機
回転数:1200rpm
荷重:392N
試験温度:75℃
試験時間:60分
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
表2〜表5より本発明品の摩耗防止剤組成物は低温保存性に優ることが分かり、又本発明品の潤滑油組成物は基油に対する溶解性が高く、保存安定性に優れ、摩耗防止効果も発揮できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の摩耗防止剤組成物及び潤滑油組成物は、潤滑油が使用できる用途であればいずれの用途にも使用できる。これらの用途としては、例えば、エンジン油、ギヤー油、タービン油、作動油、冷凍機油、コンプレッサー油、真空ポンプ油、軸受油、しゅう動面油、ロックドリル油、金属加工油、塑性加工油、熱処理油、グリース、加工油等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を必須成分とすることを特徴とする摩耗防止剤組成物:
(A)成分:ヒンダードエステル又は芳香族エステル;
(B)成分:下記の一般式(1)で表わされる化合物;
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基を表わし、Xは、炭素数2〜20の炭化水素基を表わし、nは、1〜10の数を表わす。)
(C)成分:下記一般式(2)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又はビスタイプのコハク酸イミド化合物;
【化2】

(式中、Rは、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わし、R10及びR12は、炭素数2〜10のアルキレン基を表わし、R11は、水素または炭素数1〜4のアルキル基を表わし、rは、0〜10の数を表わし、Wは、−NH又は下記の一般式(3)を表す。但しWが一般式(3)の場合は、rは、1〜10を表わし、少なくとも1つのR11は水素である。)
【化3】

(式中、R13は、数平均分子量500〜3000のアルケニル基又はアルキル基を表わす。)
【請求項2】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分の配合量が、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が5〜30質量部であり、(B)成分100質量部に対して、(C)成分が100〜300質量部である、請求項1記載の摩耗防止剤組成物。
【請求項3】
上記一般式(1)のXは、以下の一般式(4)、一般式(5)又は一般式(6)で表される、請求項1又は2に記載の摩耗防止剤組成物。
【化4】

【請求項4】
上記一般式(1)のR〜Rが、水素原子又はメチル基である、請求項1〜3のいずれか1項記載の摩耗防止剤組成物。
【請求項5】
基油100質量部に対して、請求項1〜4のいずれか1項記載の摩耗防止剤組成物を0.01〜20質量部含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項6】
上記基油がポリ−α−オレフィン、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油である、請求項5記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
更に、摩擦調整剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩擦防止剤、摩擦低減剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、極圧添加剤、消泡剤、金属不活性化剤、乳化剤、抗乳化剤、かび防止剤及び本発明の(B)成分以外の摩耗防止剤からなる群から選択される1種または2種以上の潤滑油添加剤を含有する、請求項5又は6記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−107108(P2012−107108A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256454(P2010−256454)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】