説明

摺動機構

【課題】長期間に亘って焼き付きを防止することができる摺動機構を提供する。
【解決手段】弁体10と、前記弁体10をスライド可能に支持する弁体支持穴5を有する弁本体3と、前記弁体支持穴5の内面と前記弁体10の外面との一方である弁体10の外面に多層で形成され、他方よりも硬い硬質層を最表面層20aとして有する多層皮膜20とを具備し、前記多層皮膜20aの厚みtが、前記多層皮膜20aと前記他方との隙間21に入り得る異物30のうちの最大の異物30aの最大の外径L2よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関のシリンダ内へ燃焼温度を下げる流体(例えば水)を噴射する流体噴射装置などに用いられる水圧機器であって、摺動部分に水が介在する摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
上述した従来の流体噴射装置においては、針状の弁体がその軸心方向へスライド可能に挿入される弁体支持穴に対して前記弁体が摺動する摺動機構を内蔵し、その摺動機構の摺動部分に、潤滑油を供給することにより前記摺動部分の焼付きを防止することが一般的に行われている。
【0003】
上述した摺動機構として、前記摺動部分の表面に硬質層、例えばステライト材(登録商標)からなる層を肉盛りにより形成した構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。上述したステライト材を用いた場合は、焼き付きの抑制に効果を有するものの十分なレベルではなかった。更に、摺動機構には、潤滑油供給のための手段が必要となり、コスト的に高くなるという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−117887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願出願人は、長期間に亘って焼き付きを防止することが可能な摺動機構を見出すべく、前記ステライト材に代えて、それよりも硬質である硬質層を、水圧機器装置における弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動部分に形成したものを用いる実験を行った。
【0006】
図7は、その実験結果の一例であり、前記硬質層として、ダイヤモンド ライク カーボン(DLC)膜を用い、弁体支持穴を有する弁本体及び弁体にSUS630を用いて、弁体を約35万回スライドさせて耐久試験を行った場合である。
【0007】
この図7から理解されるように、DLC膜100に、摺動方向Bに沿って剥がれた線状傷(黒くなった部分)101や、その線状傷101に繋がっていて摺動方向Bと直交する方向に幅をもって剥がれた引っ掻き傷(黒くなった部分)102が発生し、耐久性に問題があることが判明した。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、長期間に亘って焼き付きを防止することができる摺動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る摺動機構は、弁体と、前記弁体をスライド可能に支持する弁体支持穴を有する支持部材と、前記弁体支持穴の内面と前記弁体の外面との一方に多層で形成され、他方よりも硬い硬質層を最表面層として有する多層皮膜とを具備し、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との隙間に入り得る異物のうちの最大の外径を有する異物の前記外径よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係る摺動機構は、請求項1に記載の摺動機構において、前記多層皮膜が形成された前記一方が、前記他方よりも硬いものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係る摺動機構は、請求項2に記載の摺動機構において、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との隙間に入り得る異物のうちの最大の外径を有する異物の前記外径の0.5倍よりも大きいことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に係る摺動機構は、弁体と、前記弁体をスライド可能に支持する弁体支持穴を有する支持部材と、前記弁体支持穴の内面と前記弁体の外面との一方に多層で形成され、他方よりも硬い硬質層を最表面層として有する多層皮膜とを具備し、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との設計上の隙間寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に係る摺動機構は、請求項4に記載の摺動機構において、前記多層皮膜が形成された前記一方が、前記他方よりも硬いものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6に係る摺動機構は、請求項5に記載の摺動機構において、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との設計上の隙間寸法の0.5倍よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の摺動機構による場合には、弁体支持穴の内面と弁体の外面との一方に形成した多層皮膜と他方との隙間の寸法よりも大きい外径を有する異物は前記隙間に入り込み得ない。一方、前記隙間とほぼ同一の外径の異物が前記隙間に入っても、その異物の最大外径よりも多層皮膜の厚みの方が大きいので、多層皮膜の下地(弁体支持穴の内面または弁体の外面)が露出することが無い。これにより、弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動状態を長期に亘って維持することが可能になり、長期間に亘る焼き付き防止をすることができる。
【0016】
請求項2の発明による場合には、多層皮膜と他方との間に入った異物が、軟質の他方側に深く入り込むため、その他方側が一方側よりも大きく窪み、一方側に形成された多層皮膜が傷付く程度を軽減することができる。
【0017】
請求項3の発明による場合には、多層皮膜と他方との間に入った異物が、軟質の他方側に深く入り込むため、その他方側が一方側よりも大きく窪み、一方側に形成された多層皮膜が傷付く程度を軽減し、一方側の凹部が異物の最大の外径の半分以下となる。よって、多層皮膜の厚みを、前記多層皮膜と前記他方との隙間に入り得る異物のうちの最大の外径を有する異物の前記外径の0.5倍にしても、下地が露出することがない。よって、多層皮膜の厚みを前記最大の外径の0.5倍よりも大きくしても良いので、多層皮膜の生成コストを低減することができる。
【0018】
請求項4の発明による場合には、弁体支持穴の内面と弁体の外面との一方に形成した多層皮膜と他方との隙間における設計上の隙間寸法より外径が大きい異物は前記隙間に入り込み得ない。一方、設計上の隙間寸法とほぼ同一の外径の異物が前記隙間に入っても、多層皮膜の厚みが前記設計上の隙間寸法(異物の外径)よりも大きいので、多層皮膜の下地(弁体支持穴の内面または弁体の外面)が露出することが無い。これにより、弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動状態を長期に亘って維持することが可能になり、長期間に亘る焼き付き防止をすることができる。ここで、上述した設計上の隙間寸法は、弁体支持穴の軸心と弁体の軸心とが一致する状態で弁体のスライド性、弁体と弁体支持穴との隙間からの流体の漏れの有無、加工精度などを考慮して決定される。
【0019】
請求項5の発明による場合には、多層皮膜と他方との間に入った異物が、軟質の他方側に深く入り込むため、その他方側が一方側よりも大きく窪み、一方側に形成された多層皮膜が傷付く程度を軽減することができる。
【0020】
請求項6の発明による場合には、多層皮膜と他方との間に入った異物が、軟質の他方側に深く入り込むため、その他方側が一方側よりも大きく窪み、一方側に形成された多層皮膜が傷付く程度を軽減するから、多層皮膜の厚みを、前記多層皮膜と前記他方との設計上の隙間寸法の0.5倍よりも大きくしても、下地が露出することがない。よって、前記隙間寸法を2倍にすることができるため、隙間管理のための加工精度を上げる必要がなく、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る摺動機構を内蔵する水圧機器装置を示す模式図である。
【図2】第1実施形態に係る摺動機構において弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動部分に異物が入り込んだ状態を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る摺動機構において弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動部分が異物により傷付けられた状態を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る摺動機構において多層皮膜が異物により傷付けられた様子を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る摺動機構において弁体支持穴の内面と弁体の外面との摺動部分に異物が入り込んだ状態を示す図である。
【図6】楕円球状の異物の説明図である。
【図7】従来例のDLC膜が異物により傷付けられた様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る摺動機構を内蔵する水圧機器装置を示す模式図である。
【0024】
この水圧機器装置1は、内部に弁体支持穴5及び流体通路7を有する弁本体3と、弁体支持穴5に設けられた弁体10とを具備し、弁本体3における弁体支持穴5の周囲部分と弁体10とは摺動機構8を構成する。
【0025】
弁本体3は、概略的に有底の円筒状に形成されていて、軸心方向Aに長いものであり、弁本体3の底部3aには、軸心方向Aの一方側(図1の下側)に向けて流体、例えば水を他の機器に送る出口7aが設けられている。ここで、図1に示す水圧機器装置1の一方側(下側)を先端側、一方側とは反対の他方側(上側)を基端側と呼ぶ。
【0026】
前記弁体支持穴5は、軸心方向Aと直交する横断面を円形とする内部空洞であり、その弁体支持穴5には、軸心方向Aへスライド可能に弁体10が設けられ、弁体10の基端側の約半分が弁体支持穴5の内部に支持される一方、先端側の残り部分が弁体支持穴5から外側に突出している。この弁体10は、先端側に開閉弁部11を有し、この開閉弁部11が弁本体3の内部に設けた環状の弁座3bに当接する位置を閉弁位置としてスライドする。
【0027】
流体通路7は、前記出口7aと、出口7aに繋がる第1通路7bと、第1通路7bに繋がる第2通路7cと、第2通路7cに繋がる流体供給口7dとを有する。
【0028】
第1通路7bは、前記弁座3bよりも先端側にあって横断面を円形とする内部空洞であり、その内径は前記弁体支持穴5の内径よりも小さく、第1通路7bの基端に対応する弁本体3の内壁部に前記環状の弁座3bが形成されている。
【0029】
前記第2通路7cは、第1通路7bと弁体支持穴5との間に位置し、軸心方向Aと直交する横断面を円形とする内部空洞であり、第2通路7cの内径は第1通路7bの内径及び弁体支持穴5の内径よりも大きいものである。よって、前記弁体10の外周(後述する多層皮膜20)と、その外周に対向する、上記第2通路7cの内壁(軸心を向く内面)との間は、隙間を有し非接触となっている。
【0030】
流体供給口7dは、弁本体3の外周壁を貫通して複数、例えば2つ設けられていて、各流体供給口7dは上記第2通路7cに連通している。各流体供給口7dには、流体が外部から供給される。なお、流体供給口7dの個数は、複数に限らず単数としてもよい。
【0031】
このように構成された流体通路7は、外部から流体供給口7dに流体が供給され、その供給された流体が、第2通路7c及び第1通路7bを経て出口7aへ送られるようになっていて、前記弁体10が前記閉弁位置側へ向けてスライドし開閉弁部11が弁座3bに当接すると、この当接により第1通路7bと第2通路7cとの間が遮断されて閉状態になる。一方、弁体10が閉弁位置よりも基端側に移動すると、つまり開閉弁部11が弁座3bから離れると、第1通路7bと第2通路7cとの間が連通して開状態になる。そして、開状態にあっては、外部から流体供給口7dに供給される流体が、第2通路7c及び第1通路7bを経て出口7aから他の機器に供給される。一方、閉状態にあっては、出口7aからの流体の供給が停止される。
【0032】
上記弁体支持穴5の基端側には弁体10の脱落を防止する抜止部材6が取付けられている。上記抜止部材6には、抜き孔6aが貫通状態で形成されており、この抜き孔6aは弁体支持穴5内の流体の出入れを許容して弁体10のスライドを支障無く行わせるためのものである。
【0033】
前記弁体10は、軸心方向Aと直交する横断面を円形状に形成したもので、先端部12を中実に、基端部13を中空にして形成され、先端部12の先端側には前記開閉弁部11が設けられている。この開閉弁部11は、先端側になる程に小径となる円錐台形状に形成されている。
【0034】
この弁体10は、図示しない電磁バルブに通電すると電磁力の働きにより開閉弁部11が弁座3bから離れるように軸心方向Aにスライドし、流体通路7を開状態にする開弁状態になる。一方、電磁バルブを断電すると、中空の基端部13の内側に設けたばね15により開閉弁部11が弁座3bに当接するように押圧付勢力を受け、これにより流体通路7を閉状態にする閉弁状態になる。なお、中空の基端部13は、ばね15を所定姿勢に拘束することが可能であれば省略しても構わない。
【0035】
前記弁体10における開閉弁部11よりも基端側部分の外周は、弁体支持穴5の内周面に対して互いに摺動する部分であり、その弁体10の摺動部分の外表面には、多層皮膜20が形成されている。上記多層皮膜20は、弁体10の摩耗や破損を抑制するものであって、図2に示すように複数の皮膜を有し、弁体支持穴5の内面に接触する側の最表面層20aは弁本体3の硬度よりも硬い硬質層となっている。例えば、弁本体3の材質はSUS630からなり、最表面層20aの材質はそれより硬いDLCからなる。なお、最表面層20aとしては、クロームメッキ層やセラミックコーティング層などを用いることができる。
【0036】
上記多層皮膜20は、弁体10が前記軸心方向Aへスライドすることにより弁体支持穴5に対して摺動する。また、多層皮膜20は、最表面層20aよりも下側の膜として、例えばW、Ta、Mo、Nb、CrおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種の金属製の膜を含む。
【0037】
この多層皮膜20が形成された弁体10の材質は、例えばシリコロイXVI(登録商標)からなり、弁体10の方が、弁本体3よりも硬いものである。
【0038】
図2に示すように上記弁体10に形成された多層皮膜20と弁体支持穴5の内面との間には隙間21が形成される。その隙間21は、設計上の隙間寸法に設定されている。その設計上の隙間寸法としては、弁体支持穴5の軸心と弁体10の軸心とが一致する状態で弁体10のスライド性、弁体10と弁体支持穴5との隙間からの流体の漏れの有無、加工精度などを考慮して決定される。
【0039】
この隙間21は、弁体10の軸心が弁体支持穴5の軸心に対して偏心することにより、弁体10の周方向位置によって寸法が変化する場合がある。このときの隙間21の最大値をL1とする。
【0040】
また、上記隙間21には、流体(水)に含まれる異物30が入り得る。異物30は、流体(水)に含まれたものや配管内の酸化物が主たる発生源であり、その流体(水)としては、例えば水清浄度が5級から12級(NAS1638汚染基準)のものが使用される。
【0041】
ここで、上記異物30として、例えば球状のものを例に挙げて説明する。
【0042】
弁体10が弁体支持穴5に対して偏心し、弁本体3と弁体10との隙間21が最大となった値を最大値L1とする。この最大値L1の隙間21に入り得る異物のうち、最大の異物30aの外径をL2とし、この異物30aが隙間21に入ったとする。上記多層皮膜20の厚みtは、この異物30aの前記最大の外径L2(図2参照)よりも大きくなるように形成される。
【0043】
次に、このように構成された第1実施形態に係る水圧機器装置1の摺動機構8における焼き付き防止の内容につき説明する。
【0044】
上述した球状の異物30は、その外径が前記隙間21の最大値L1よりも大きい場合、隙間21に入り込み得ない。一方、隙間21の最大値L1とほぼ同一である最大の外径L2の異物30aまたは外径が最大外径L2よりも小さい異物30は最大値L1の隙間21に入り得る。この場合において、その異物30aの最大外径L2よりも多層皮膜20の厚みtの方が大きいので、異物30aによる多層皮膜20の剥落部分が多層皮膜20の下地である弁体10に届かず、弁体10が露出することがない。これにより、多層皮膜20と弁体支持穴5の内面との摺動状態を長期に亘って維持することが可能になり、長期間に亘る焼き付き防止をすることができる。
【0045】
また、第1実施形態にあっては、多層皮膜20が弁体10側に形成され、前記多層皮膜20が形成された前記弁体10が、前記弁体支持穴5の内面部分の材質(弁本体3の材質)よりも硬いものであるので、図3に示すように多層皮膜20と弁体支持穴5との間に入った異物30が、軟質の弁体支持穴5の内面側に深く入り込む。つまり、異物30が多層皮膜20に入り込んだ深さD1よりも異物30が弁体支持穴5の内面に入り込んだ深さD2が大になる。このため、弁体支持穴5の内面側が多層皮膜20側よりも大きく窪み、多層皮膜20が傷付く程度を軽減することができる。
【0046】
すなわち、弁体10と弁本体3の下地が同じ材質で形成されている場合に、多層皮膜を考慮しないと、弁体10と弁本体3とが押し付けられたときに、ほぼ均等にそれぞれ弁体10と弁本体3に異物30aが下地に入り込む。これに対し、弁体10の下地が、弁本体3の材質よりも硬いもので形成されることで、弁体10に異物30aが入り込む深さを隙間21の最大値L1の半分よりも深くなることを低減してくれる。
【0047】
このため、多層皮膜20の厚みtを異物30aの最大外径L2の0.5倍にしても、下地が露出する虞が少なくなり、多層皮膜20の生成コストを低減することができる。つまり、多層皮膜20を厚くすると、多層皮膜20自体の歪みにより割れを生じることがあり、多層皮膜20を厚くすることは高度な生産技術とコストを要するが、多層皮膜20の厚みtを半分にし得ることで、上述のように多層皮膜20の生成コストを低減することができる。更には、逆の見方をすれば、多層皮膜20の厚みtをそのままにすれば、最大外径が2倍の異物30aに対応すること、つまり隙間21を2倍にすることも可能となる。これにより、隙間21の寸法管理のための加工精度を下げることができ、弁体10および弁本体3の製造コストを低減することができる。
【0048】
図4は、第1実施形態において弁体10を100万回スライドさせ、多層皮膜20が異物30により傷付けられた様子を示す図である。
【0049】
この図4より理解されるように、第1実施形態による場合には、多層皮膜20が剥がれ難く、多層皮膜20が剥がれて形成された傷(黒くなった部分)22が軽減されている。よって、多層皮膜20と弁体支持穴5の内面との摺動状態を長期に亘って維持することが可能になり、長期間に亘る焼き付き防止をすることができる。
【0050】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、多層皮膜20の厚みtを、最大値L1の隙間21に入り得る異物のうち、最大外径L2を有する異物30aの前記最大外径L2を基準とし、その基準よりも大きくなるようにしているが、この第2実施形態にあっては、図5に示すように、前記隙間21を設計上の隙間寸法L4に設定するとともに、多層皮膜20の厚みtをその設計上の隙間寸法L4よりも大きく形成している。上記設計上の隙間寸法L4は、前述のように弁体支持穴5の軸心と弁体10の軸心とが一致する状態で弁体10のスライド性、弁体10と弁体支持穴5との隙間からの流体の漏れの有無、加工精度などを考慮して決定される。なお、他の部分は、第1実施形態と同様に構成している。
【0051】
この第2実施形態にあっては、上記設計上の隙間寸法L4より外径が大きい球状の異物30は前記隙間21に入り込み得ない。一方、設計上の隙間寸法L4とほぼ同一の外径または設計上の隙間寸法L4より小さい外径の異物30は、前記隙間21に入り得るものの、多層皮膜20の厚みtが設計上の隙間寸法L4(異物30の外径)より大きいので、異物30による多層皮膜20の剥落部分が多層皮膜20の下地である弁体10に届かず、弁体10の外面が露出することがない。これにより、多層皮膜20と弁体支持穴5の内面との摺動状態を長期に亘って維持することが可能になり、長期間に亘る焼き付き防止をすることができる。
【0052】
なお、上述した第1、第2実施形態では球状の異物30と多層皮膜20と隙間21との関係について説明しているが、本発明はこれに限らず、楕円球状(卵形)の異物と多層皮膜と隙間との関係についても、以下のように考えることで対応することができる。
【0053】
図6は、楕円球状(卵形)の異物30Aの説明図である。この図では異物30Aの最小外径をL5、最大外径をL6としている。第1実施形態に対しては、図2に示すL1をL5に対応させて定め、同じくtはL6よりも大きい値に定める。一方、第2実施形態に対しては、図5に示すtをL6よりも大きい値に定めることで対応することができる。
【0054】
また、上述した第1、第2実施形態では多層皮膜20を弁体10側に形成しているが、本発明はこれとは逆に弁本体3側(弁体支持穴5の内面)に多層皮膜20を形成してもよい。この場合は、弁本体3に弁体10よりも硬い材料を用いるのが好ましい。
【0055】
更にまた、上述した第1、第2実施形態では弁体10のスライドを電磁弁により行う構成としているが、本発明はこれに限らない。例えば、弁体10の基端側と先端側とのそれぞれに別々の圧力を作用させ、これらの圧力差により弁体10をスライドさせる構成、または、抜き孔6aからパイロット圧を導入する構成としてもよい。
【0056】
更に、上述した第1、第2実施形態では舶用エンジンのシリンダ内へ燃焼温度を下げる水を噴射する流体噴射装置に設けられた水圧機器装置1の摺動機構8を焼き付き防止しているが、本発明はこれに限らず、シリンダやスプール弁などの他の摺動機構部の焼き付き防止にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 水圧機器装置
3 弁本体
5 弁体支持穴
8 摺動機構
10 弁体
20 多層皮膜
20a 最表面層
21 隙間
30 球状の異物
30A 楕円球状の異物
t 多層皮膜の厚み
L1 隙間寸法
L2 最大外径
L4 設計上の隙間寸法
L5 楕円球状の異物の最小外径
L6 楕円球状の異物の最大外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体と、
前記弁体をスライド可能に支持する弁体支持穴を有する支持部材と、
前記弁体支持穴の内面と前記弁体の外面との一方に多層で形成され、他方よりも硬い硬質層を最表面層として有する多層皮膜とを具備し、
前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との隙間に入り得る異物のうちの最大の外径を有する異物の前記外径よりも大きいことを特徴とする摺動機構。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動機構において、前記多層皮膜が形成された前記一方が、前記他方よりも硬いものであることを特徴とする摺動機構。
【請求項3】
請求項2に記載の摺動機構において、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との隙間に入り得る異物のうちの最大の外径を有する異物の前記外径の0.5倍よりも大きいことを特徴とする摺動機構。
【請求項4】
弁体と、
前記弁体をスライド可能に支持する弁体支持穴を有する支持部材と、
前記弁体支持穴の内面と前記弁体の外面との一方に多層で形成され、他方よりも硬い硬質層を最表面層として有する多層皮膜とを具備し、
前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との設計上の隙間寸法よりも大きいことを特徴とする摺動機構。
【請求項5】
請求項4に記載の摺動機構において、前記多層皮膜が形成された前記一方が、前記他方よりも硬いものであることを特徴とする摺動機構。
【請求項6】
請求項5に記載の摺動機構において、前記多層皮膜の厚みが、前記多層皮膜と前記他方との設計上の隙間寸法の0.5倍よりも大きいことを特徴とする摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−137495(P2011−137495A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296864(P2009−296864)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】