説明

撚糸機

【課題】給糸カバーがバルーン糸に従動回転することによる不具合発生を防止することができる撚糸機を提供する。
【解決手段】静止ディスク5に載置された給糸パッケージ8の周囲を覆う給糸カバー6が静止ディスク5と一体的に設けられていると共に、静止ディスク5の下方に配置された回転ディスク7から径方向に導出された糸Y2が給糸カバー6の周囲でバルーンを形成するようになっている撚糸ユニットを複数備えた撚糸機であって、撚糸ユニットはそれぞれ、静止ディスク5または給糸カバー6が所定位置に静止しているか否かの判別を行うようになっており、さらに、静止ディスク5または給糸カバー6が所定位置に静止していないと判別した場合、作動しないようになっている撚糸機とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルの回転により糸条をバルーンさせて加撚した後に巻き取る撚糸ユニットを複数並設した撚糸機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、給糸パッケージから解舒された糸を加撚して巻き取る撚糸ユニットを複数並設した撚糸機が知られている。この撚糸機における撚糸ユニットは、例えば特許文献1に開示されるように、機台フレームの下部と上部とに、給糸パッケージが配置されると共に、機台フレームの中央部に撚り糸の巻取りパッケージが配置されており、上下の給糸パッケージから繰り出された第1糸および第2糸を撚り合わせて、撚り糸が製造される構成となっている。
【0003】
ここで、下側の給糸パッケージは、撚糸ユニット下方に配置された撚糸装置における、スピンドルに対して回転可能に取り付けられた(すなわちスピンドルの回転に拠らず静止し得るように取り付けられた)静止ディスクに静止状態で支持されており、第1糸が繰り出されるようになっている。また、上側の給糸パッケージから繰り出された第2糸は、上記撚糸装置まで案内されて、スピンドルと共に回転する回転ディスクから径方向に導出され、遠心力により下側の給糸パッケージの周りにバルーンを形成し、撚りが加えられるようになっている。
【特許文献1】特開2005−48311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、下側の給糸パッケージが載置される撚糸装置の静止ディスクには、その給糸パッケージの外周を覆う給糸カバーが設けられているが、運転開始前の糸掛けセッティングのミスや給糸カバーの傷などの原因により、当該給糸カバーにバルーン糸が引っ掛かる場合がある。この状態のままその撚糸ユニットの運転を開始すると、作動中静止しているべき給糸カバーすなわち静止ディスクがバルーン糸に従動して高速で回転してしまい、撚り糸の製造不良を招くと共に、ついにはスピンドルの破損を招いてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、給糸カバーがバルーン糸に従動回転することによる不具合発生を防止することができる撚糸機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、(1)静止ディスクに載置された給糸パッケージの周囲を覆う給糸カバーが静止ディスクと一体的に設けられていると共に、前記静止ディスクの下方に配置された回転ディスクから径方向に導出された糸が前記給糸カバーの周囲でバルーンを形成するようになっている撚糸ユニットを複数備えた撚糸機であって、前記撚糸ユニットはそれぞれ、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止しているか否かの判別を行うようになっており、さらに、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないと判別した場合、作動しないようになっていることを特徴とする撚糸機を提供するものである。
【0007】
また本発明は、上記構成において、(2)前記撚糸ユニットは、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーに対応する位置に配置されたセンサを備えており、当該センサが、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないことを検知して当該撚糸ユニットの制御装置に信号を送った場合、当該撚糸ユニットは作動しないようになっていることを特徴とする撚糸機を提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記構成(2)において、(3)前記静止ディスクは、その外周部に設けられた少なくとも1つの第1の磁石と、前記静止ディスクの外方であって当該第1の磁石に対応する位置に配置された第2の磁石との吸引によって静止し得るようになっており、前記センサは、前記第1の磁石の磁界を検出することにより、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないことを検知するようになっていることを特徴とする撚糸機を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された本発明の撚糸機は、撚糸ユニットそれぞれが、静止ディスクまたは給糸カバーが所定位置に静止しているか否かの判別を行うようになっており、静止ディスクまたは給糸カバーが所定位置に静止していないと判別した場合、作動しないようになっている。したがって、本発明の撚糸機によれば、給糸カバーにバルーン糸が引っ掛かった状態で運転を開始したような場合であって、給糸カバーおよび静止ディスクがバルーン糸に従動して回転しだした場合であっても、その撚糸ユニットの運転が速やかに停止されるので、撚り糸の製造不良やスピンドルの破損等の不具合発生を回避することができる。
【0010】
なお、静止ディスクを、当該静止ディスクに設けた第1の磁石とその外方に設けた第2の磁石との吸引力によって静止し得るように構成し、当該第1の磁石の磁界を検出するように設けたセンサによって、静止ディスクまたは給糸カバーが所定位置に静止しているか否かの判別をするように構成した場合は、静止ディスクまたは給糸カバー等にセンサに対応する被検知部材を別途設ける必要がなく、シンプルかつ低コストに構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好ましい一実施形態につき説明する。
図1は本発明が適用される撚糸機を示す側面図、図2は図1の撚糸機における給糸ボビン昇降装置の動作を示す側面図、図3は図1の撚糸機における撚糸装置を示す要部断面図、図4は図3のX−X線に沿った断面図、図5は図1の撚糸機における撚糸ユニットの制御装置を示す概略図である。
【0012】
まず、図1を参照して、本発明を適用した撚糸機1の全体構成について説明する。
撚糸機1は、図1に示す如く、撚糸ユニット3が、左右にそれぞれ配置されていると共に、機台2の長手方向(図面垂直方向)に沿って多数並設されて構成されている。
【0013】
撚糸ユニット3の下部には、二本の糸を一本の糸に撚り合わせる方式の撚糸装置4が設けられている。
撚糸装置4は、静止ディスク5と、静止ディスク5と一体的に設けられた給糸カバー6と、静止ディスク5の下部に設けられた回転ディスク7とを備えている。
給糸カバー6内には給糸パッケージ8が設けられており、給糸パッケージ8から繰り出される第1糸Y1は、テンション装置9上を案内され、長さ調整器10に達する。
【0014】
また、撚糸ユニット3の上部には給糸ボビン昇降装置11が設けられており、給糸ボビン昇降装置11の各ボビン支持軸12a,12b,12cに、給糸パッケージ13が支持され得るようになっている。
【0015】
給糸ボビン昇降装置11は、支持フレーム14と、ボビン支持フレーム15と、支持フレーム14に設けられた回動支軸16a,17aおよびボビン支持フレーム15に設けられた回動支軸16b,17bの間にそれぞれ設けられた第1リンクアーム16および第2リンクアーム17とを備えている。給糸ボビン昇降装置11はさらに、第1リンクアーム16およびボビン支持フレーム21の間に設けられたスプリング18と、第1リンクアーム16の下端に回動自在に設けられたロッカーアーム19と、第1リンクアーム16およびロッカーアーム19の間に設けられたスプリング20と、回動支軸16a,17b間に設けられたダンパー21とを備えている。
【0016】
上記のように構成された給糸ボビン昇降装置11は、図2に示す如く、作業者が、ボビン支持フレーム15を下降させて、ボビン支持フレーム15上の空ボビンの除去や新たな給糸パッケージ13の補充等が行われ得るようになっている。
【0017】
給糸ボビン昇降装置11に支持された給糸パッケージ13から繰り出された第2糸Y2は、ニップテンサー22を経て、案内筒23内を案内されて、撚糸装置4の下端に至る。第2糸Y2は、回転ディスク7より放射方向に繰り出されて、給糸カバー6の回りで回転してふくらみ、長さ調整器10へと案内される。
なお、長さ調整器10は、両糸Y1・Y2の撚り長さを均一にする装置である。
【0018】
長さ調整器10を経て製造された撚り糸Yは、案内ローラ24および送りローラ25を経て、巻取りローラ26と巻取りパッケージ27との間に案内され、巻取りパッケージ27に巻き取られる。
【0019】
次に、図3〜図5を参照して、撚糸装置4について詳述する。撚糸装置4は、図3に示す如く、スピンドル駆動モータ28と、スピンドル駆動モータ28に駆動されるスピンドル29と、スピンドル29に対して配置された静止ディスク5および回転ディスク7と、静止ディスク5と一体的に設けられた給糸カバー6と、を備えている。
【0020】
スピンドル駆動モータ28は、スピンドル29を保持しており、スピンドル29を鉛直上方に向けて設置されている。スピンドル29は、案内筒23(図1参照)からの糸Y2を回転ディスク7へ導くための孔29aを、その中心に備えている。
【0021】
静止ディスク5は、スピンドル29の上部にベアリング31を介して回転可能に嵌入されて支持されており、給糸パッケージ8が載置されている。静止ディスク5の外周部には、静止磁石32,32が取り付けられており、静止磁石32,32と、静止ディスク5の外方に非接触状態で配置される吸引磁石33,33との吸引力により、静止ディスク5が静止状態を維持するようになっている。すなわち、静止ディスク5は、スピンドル29が回転しても静止状態を維持し得るようになっている。
【0022】
また、静止ディスク5には、給糸パッケージ8の外周を覆うと共に、その頂部にテンション装置9を備えた給糸カバー6が一体的に設けられている。給糸パッケージ8から引き出された糸Y1は、給糸カバー6を通過してテンション装置9に案内され、所定の張力を付与された後、長さ調整器10に案内される。
【0023】
回転ディスク7は、スピンドル29に対して回転不能に嵌入されて支持されており、静止ディスク5の下方に配置されている。すなわち、回転ディスク7は、スピンドル29と共に回転し得るようになっている。回転ディスク7はさらに、径方向に延びると共にスピンドル29の孔29aに繋がる孔7aを備えており、孔29aから導かれた糸Y2を放射方向に繰り出し得るようになっている。
【0024】
回転ディスク7から外部へ繰り出された糸Y2は、スピンドル駆動モータ28により回転せしめられるスピンドル29および回転ディスク7が高速回転することによりバルーンされ、その後長さ調整器10へと案内される。
【0025】
撚糸装置4にはさらに、図4に示す如く、給糸カバー6の外方における吸引磁石33の側方であって静止磁石32に対応する高さ位置に、磁気センサ34が配置されている。磁気センサ34は、図5に示す如く、スピンドル駆動モータ28および巻取りローラ26を駆動するモータ35を制御する制御装置36に接続されている。
【0026】
磁気センサ34は、図4Aに示す如く、静止ディスク5が静止磁石32,32および吸引磁石33,33の吸引力によって静止している位置、すなわち所定位置にある場合は、静止磁石32の磁界を検出しないようになっている。
また、図4Bに示す如く、静止ディスク5が、所定位置から外れて磁気センサ34が静止磁石32の磁界を検出し得る位置まで回転した場合、磁気センサ34は、静止磁石32の磁界を検出して制御装置36に信号を送り、静止ディスク5が所定位置にないと検知するようになっている。
【0027】
スピンドル駆動モータ28および巻取りローラ駆動モータ35を制御する制御装置36は、磁気センサ34から静止磁石32の磁界を検出した信号、すなわち静止ディスク5が所定位置に静止していないことを示す信号を受信すると、スピンドル駆動モータ28および巻取りローラ駆動モータ35を速やかに停止させるように制御する。
【0028】
上記のように構成された撚糸機1によれば、下記のような効果が得られる。
例えば運転開始前の糸掛けセッティングのミスや給糸カバー6の傷などの原因によって給糸カバー6にバルーン糸Y2が引っ掛かっていた場合、その状態のまま撚糸ユニット3が始動されると、給糸カバー6および静止ディスク5がバルーン糸Y2に従動して高速で回転し始める。このとき、磁気センサ34が静止ディスク5における静止磁石32の磁界を検出し、静止ディスク5が所定位置に静止していないことを示す信号を制御装置36に対して送信する。
この信号を受信した制御装置36は、スピンドル駆動モータ28および巻取りローラ駆動モータ35を速やかに停止させるので、そのまま回転し続けた際に生じる撚り糸の製造不良やスピンドルの破損等の不具合発生を回避することができる。
【0029】
また、静止ディスク5が所定位置に静止していないことを検知するセンサを、静止磁石32の磁界を検出する磁気センサ34としたことにより、新たな非検知部材を静止ディスク5または給糸カバー6等に設ける必要がなく、シンプルかつ低コストに構成することができる。
【0030】
なお、静止ディスク5が所定位置に静止していないことを検知するセンサは、上記実施形態に示した具体例に限定されず、例えば、磁性金属を検知する誘導型近接センサや、静電容量型近接センサ、光電センサ等、種々のセンサを適宜使用することができる。
【0031】
また、撚糸ユニット3の運転前に静止ディスク5が所定位置にないことが検知された段階で、アラーム音やアラーム表示で作業者に知らせると共に、運転が開始されないように制御することにより、不具合発生を回避してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が適用される撚糸機の一例を示す側面図である。
【図2】図1の撚糸機における給糸ボビン昇降装置の動作を示す側面図である。
【図3】図1の撚糸機における撚糸装置を示す要部断面図である。
【図4】図3のX−X線に沿った断面図である。
【図5】図1の撚糸機における撚糸ユニットの制御装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0033】
Y 撚り糸
Y1 第1糸
Y2 第2糸
4 撚糸装置
5 静止ディスク
6 給糸カバー
7 回転ディスク
8 給糸パッケージ
9 テンション装置
10 長さ調整器
24 案内ローラ
25 送りローラ
26 巻取りローラ
27 巻取りパッケージ
28 スピンドル駆動モータ
29 スピンドル
34 磁気センサ
35 巻取りローラ駆動モータ
36 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止ディスクに載置された給糸パッケージの周囲を覆う給糸カバーが静止ディスクと一体的に設けられていると共に、前記静止ディスクの下方に配置された回転ディスクから径方向に導出された糸が前記給糸カバーの周囲でバルーンを形成するようになっている撚糸ユニットを複数備えた撚糸機であって、
前記撚糸ユニットはそれぞれ、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止しているか否かの判別を行うようになっており、さらに、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないと判別した場合、作動しないようになっていることを特徴とする撚糸機。
【請求項2】
前記撚糸ユニットは、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーに対応する位置に配置されたセンサを備えており、当該センサが、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないことを検知して当該撚糸ユニットの制御装置に信号を送った場合、当該撚糸ユニットは作動しないようになっていることを特徴とする請求項1に記載の撚糸機。
【請求項3】
前記静止ディスクは、その外周部に設けられた少なくとも1つの第1の磁石と、前記静止ディスクの外方であって当該第1の磁石に対応する位置に配置された第2の磁石との吸引によって静止し得るようになっており、前記センサは、前記第1の磁石の磁界を検出することにより、前記静止ディスクまたは前記給糸カバーが所定位置に静止していないことを検知するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の撚糸機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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