説明

撥水・撥油性及び耐擦傷性が向上した反射防止フィルムの製造方法

【課題】プラスチックフィルム基材上に、他の層を介して又は介さずに、撥水・撥油性で、且つ耐擦傷性を兼ね備えた、低屈折率層を形成した反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】 透明プラスチック基材フィルム上に、直接又は他の層を介して、最表面層として低屈折率層を形成して反射防止フィルムを製造する方法である。該低屈折率層内には、撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子が含まれている。該撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子は、以下の1)〜3)の工程を用いて製造する。
1)空隙を有するシリカ微粒子をイオン交換樹脂にて前処理することにより、不純物イオンを取り除いてシリカ微粒子表面にあるシラノール基の活性を高める工程。
2)該シラノール基の活性が高められた空隙を有するシリカ微粒子に対して撥水・撥油処理剤を添加し加熱を行うことにより、撥水・撥油性基を導入する工程。
3)該撥水・撥油性基を導入した空隙を有するシリカ微粒子に対して架橋性基を有する化合物を添加し還流することにより架橋基を導入する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水・撥油性で、且つ耐擦傷性を兼ね備えた、低屈折率層を有する、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等の各種ディスプレイ等の光学物品の表面に用いられる反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等、光学物品の表示面は、その視認性を高めるために、蛍光灯などの外部光源から照射された光線の反射が少ないことが求められている。このような反射防止を行うために、透明プラスチック基材フィルム上に直接又は他の層を介して、下層の屈折率よりも低い屈折率を有する低屈折率層を形成した反射防止フィルムを光学物品の表面に貼付することが行われている。該反射防止フィルムにおける低屈折率層は、屈折率が低いことが必要であるが、ディスプレイの最表面に配置されることから、更に、水や油の付着が原因の汚染防止をするための撥水性、撥油性を付与すること、且つ傷つきを防止するための耐擦傷性を付与することが必要である。
【0003】
特開2002−82206号公報(特許文献1)、特開2003−202406号公報(特許文献2)には、反射防止フィルムに耐汚染性を付与するために、低屈折率層(反射防止層)上に撥水層を積層することが示されている。特許文献2の撥水層は反射防止フィルムの表面に直接面しているため、耐擦傷性に劣るという問題がある。このような耐擦傷性の問題を解決するためには、最表面層である撥水層以外の層に、耐擦傷性を付与することにより、反射防止フィルムとしての耐擦傷性を確保することが行われている。しかしながら、このような反射防止フィルムでは、耐汚染性及び耐擦傷性を付与するためには、低屈折率層(反射防止層)以外に、撥水・撥油層及び耐擦傷性の層を別途設ける必要があり、製造工程の増加は避けられない。
【0004】
特開平8−211202号公報(特許文献3)には、撥水・撥油性を有するフッ素含有のシラン化合物で被覆された多数の反射防止超微粒子からなる反射防止膜を透明基板上に形成した光反射板が示されている。特許文献3の超微粒子は、エチルシリケートのバインダにより200℃で焼成して固定されており、特許文献3のような高温の焼成を必要とする手法では、熱に弱いプラスチックフィルム基材を用いて反射防止フィルムを作成することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−82206号公報
【特許文献2】特開2003−202406号公報
【特許文献3】特開平8−211202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラスチックフィルム基材上に、他の層を介して又は介さずに、撥水・撥油性で、且つ耐擦傷性を兼ね備えた、低屈折率層を形成した反射防止フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の反射防止フィルムの製造方法は、透明プラスチック基材フィルム上に、直接又は他の層を介して、最表面層として低屈折率層を形成する反射防止フィルムの製造方法であって、該低屈折率層内には、撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子が含まれており、該撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子は、以下の1)〜3)の工程を用いて製造することを特徴とする反射防止フィルムの製造方法である。
1)空隙を有するシリカ微粒子をイオン交換樹脂にて前処理することにより、不純物イオンを取り除いてシリカ微粒子表面にあるシラノール基の活性を高める工程。
2)該シラノール基の活性が高められた空隙を有するシリカ微粒子に対して撥水・撥油処理剤を添加し加熱を行うことにより、撥水・撥油性基を導入する工程。
3)該撥水・撥油性基を導入した空隙を有するシリカ微粒子に対して架橋性基を有する化合物を添加し還流することにより架橋基を導入する工程。
【0008】
また、前記、低屈折率層内に含まれる空隙を有するシリカ微粒子は、撥水・撥油処理剤による撥水・撥油性基の導入処理後に、架橋性基を有する化合物(硬化性処理剤)により、架橋性基を導入処理されたものが望ましい。
【0009】
本明細書において「撥水・撥油」とは、撥水と撥油の両方、又は撥水と撥油の何れか一方を意味する。
【0010】
シリカ微粒子に撥水・撥油性処理剤と硬化性処理剤の両方の化合物を反応させ、撥水・耐擦傷性シリカ微粒子を得る。シリカ微粒子に対し撥水・撥油性化合物及び硬化性化合物の処理を撥水・撥油性処理剤、続いて硬化性処理剤の順に行うことが、未反応の撥水・撥油性化合物による塗膜の外観を損なうことを防ぐ上で好ましい。
【0011】
本発明の製造方法により得られた反射防止フィルムに対して、さらに、耐擦傷性を付与するために、透明プラスチック基材フィルムと低屈折率層との間に、必要に応じてハードコート層を設けてもよい。また、本発明の反射防止フィルムに対して、帯電防止性を付与するために、透明プラスチック基材フィルムと低屈折率層との間に、必要に応じて帯電防止層を設けてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法により得られた反射防止フィルムにおける低屈折率層は、撥水・撥油処理剤による撥水・撥油性基が導入処理され、及び架橋性基を有する化合物(硬化性処理剤)による架橋性基が導入処理された空隙を有するシリカ微粒子が含まれているので、本発明の製造方法により得られた反射防止フィルムは、油及び/又は水に対する耐汚染性があり、且つ、耐擦傷性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<シリカ微粒子の処理方法について>
シリカ微粒子
本発明で使用するシリカ微粒子は、通常のシリカ微粒子よりも屈折率が低い「空隙を有するシリカ微粒子」を用いる。「空隙を有する微粒子」とは、微粒子の内部に気体が充填された構造及び/または気体を含む多孔質構造をとった結果、或いは微粒子が集合体を形成した結果、気体が屈折率1.0の空気である場合、微粒子本来の屈折率に比べて微粒子中の空気の占有率に反比例して、屈折率が低下した微粒子及びその集合体のことを言う。微粒子の平均粒子径は、5nm以上300nm以下であり、好ましくは下限が8nm以上であり上限が100nm以下であり、より好ましくは下限が10nm以下であり上限が80nm以下である。シリカ微粒子の平均粒子径がこの範囲内にあることにより、低屈折率層に優れた透明性を付与することが可能となる。
【0014】
上記シリカ微粒子の表面に撥水性・耐擦傷性を付与する際、シリカ微粒子は前処理なしでそのまま用いても良いが、好ましくは前処理として、シリカ微粒子をイオン交換樹脂などを用いてシリカ微粒子表面にあるシラノール基の活性を高めた後に、撥水・撥油処理及び耐擦傷性処理を行うと良い。
【0015】
撥水・撥油性処理剤
シリカ微粒子の表面に撥水性基を導入する方法としては、シリカ微粒子の表面にシラノール基が多数存在するため、該シラノール基と、疎水性基を有する疎水性化合物を反応させることにより撥水性基を導入する方法、疎水性基を有する界面活性剤でシリカ微粒子表面を処理する方法、疎水性基を有する重合体でシリカ微粒子表面を被覆する方法、疎水性基を含有するガス存在下でプラズマ重合膜をシリカ表面に軽水する方法が挙げられる。
【0016】
疎水性基を有する疎水性化合物としては、パーフルオロ基、アルキル基、トリメチルシリル基、ジメチルシリレン基、フェニル基、ポリジメチルシロキサンセグメント等を含む疎水性化合物が挙げられる。この疎水性化合物の中でも、撥水性と撥油性を兼ね備えたパーフルオロアルキル基を有する化合物をシリカ微粒子表面のシラノール基と結合させることが、撥水・撥油性を付与できるため特に好ましい。
【0017】
上記、シリカ微粒子表面のパーフルオロアルキル化の方法としては、パーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上含む金属アルコキシ化合物、金属ハロゲン化合物、金属イソシアネート化合物などを、シリカ微粒子表面のシラノール基と反応させる方法、フルオロ界面活性剤でシリカ微粒子を処理する方法、フルオロアルキル基を有する重合体でシリカ微粒子を被覆する方法、フッ素含有ガス存在下でプラズマ重合膜をシリカ微粒子表面に形成する方法などが挙げられる。この中でも、金属アルコキシ化合物、金属ハロゲン化合物、金属イソシアネート化合物を撥水・撥油性処理剤として用いることが望ましい。金属化合物の中でも、珪素を有する化合物は最も好ましい。
【0018】
パーフルオロアルキル基含有化合物としては、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリクロロシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリイソシアネートシラン、2−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリイソプロポキシシラン、2−パーフルオロオクチルエチルトリクロロシラン、2−パーフルオロオクチルイソシアネートシラン等が挙げられる。
【0019】
パーフルオロアルキル基の撥水・撥油性向上の構造としては、パーフルオロアルキル基の末端がトリフルオロ基(CF3 )であること、パーフルオロアルキル基のアルキル鎖の長さが(CF2 )3 以上であることが好ましい。さらに、上記記載の末端がトリフルオロ基(CF3 )とアルキル鎖の長さが(CF2 )3 以上の両方兼ね備えた化合物が最も好ましい。
【0020】
架橋性基を有する化合物(硬化性処理剤)
撥水・撥油性処理を施したシリカ微粒子に、架橋性基を有する化合物で処理することにより架橋性基を導入することで、シリカ微粒子とバインダー樹脂とが結合するため、該シリカ微粒子を含有する塗膜は耐擦傷性が向上する。架橋性基をシリカ微粒子に導入する方法としては、上記撥水・撥油性化合物をシリカ微粒子に導入する方法と同手法を用いることができるため、例えば、架橋性基を1つ以上有する金属アルコキシ化合物、金属ハロゲン化合物、金属イソシアネート化合物を用いることができる。架橋性基として、光ラジカル重合、光カチオン重合、光アニオン重合のような重合反応、或いは、光二量化を経て進行する付加重合又は縮重合等の反応形式により反応が進行するものが挙げられる。その中でも、特に、アクリル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基は、紫外線、電子線のような電離放射線の照射により直接的に、又は開始剤の作用を受けて間接的に光ラジカル重合反応を生じるものであり、光硬化の工程を含む取り扱いが比較的容易なものとして好ましい。
【0021】
表面処理
上記、撥水・撥油性処理、架橋性基導入処理においては、撥水・撥油性処理剤をシリカ微粒子の表面に反応させた後に、架橋性基を有する化合物(硬化性処理剤)を反応させて、架橋性基を導入することが好ましい。該順序で撥水・撥油性処理、及び架橋性基導入処理を行うことにより、未反応の撥水・撥油性化合物が減少し、塗膜面の外観を損なうことが防止できるからである。
【0022】
撥水・撥油性処理剤のシリカ微粒子への処理量としてはシリカ微粒子100質量部に対して、3質量部〜25質量部が好ましい。3質量部以下だと撥水・撥油性を付与できず、25質量部以上だと塗膜外観を損ねてしまう。硬化性処理剤のシリカ微粒子への処理量はシリカ微粒子100質量部に対して5質量部〜25質量部が好ましい。5質量部以下だと、塗膜の強度は得られず、25質量部以上では膜の強度向上は得られない。
【0023】
撥水・撥油性処理剤と硬化性処理剤を組み合わせる際に、双方の処理量の合計はシリカ微粒子100質量部に対して8質量部〜30質量部が好ましい。8質量部以下だと、撥水・撥油性及び膜の強度の両立は困難である。また、30質量部以上だと塗膜の外観が損なわれる。
【0024】
<低屈折率層の作成について>
低屈折率層は、前記した撥水・撥油性処理且つ硬化性処理が行われたシリカ微粒子を、バインダー樹脂として電離放射線硬化型樹脂、及び溶剤中に混合分散してなる低屈折率層用コーティング組成物を塗布、電離放射線硬化して形成し、下層の屈折率よりも低くなるようにする。電離放射線硬化型樹脂及び溶剤には下記に示すものが使用できる。
【0025】
低屈折率層用コーティング組成物は、例えば、スピンコート法、デイップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種方法で基材上に塗布することができる。塗工物は、通常は、必要に応じて乾燥し、その後、紫外線や電子線等の電離放射線を放射して硬化させることにより低屈折率層が形成される。
【0026】
電離放射線硬化型樹脂
電離放射線硬化型樹脂には、電離放射線の照射を受けたときに直接、又は開始剤の作用を受けて間接的に、重合や二量化等の大分子化を進行させる反応を起こす重合性官能基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。具体的には、アクリル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性のモノマー、オリゴマーが好ましく、バインダー成分の分子間で架橋結合が生じるように、一分子内に重合性官能基を2個以上、好ましくは3個以上有する多官能のバインダー成分であることが望ましい。しかしながら、その他の電離放射線硬化性のバインダー成分を用いることも可能であり、例えば、エポキシ基含有化合物のような光カチオン重合性のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。
【0027】
該バインダー樹脂が光硬化型樹脂である場合には、ラジカル重合を開始させるために光開始剤を用いることが望ましい。光開始剤は特に限定されないが、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、ジスルフィド化合物類、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物類などが挙げられる。
【0028】
溶剤
固形成分を溶解分散するための有機溶剤が必須であり、その種類は限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられる。
【0029】
<反射防止フィルムの作成について>
透明プラスチック基材フィルム
透明プラスチック基材フィルムの材質は、特に限定されないが、反射防止フィルムに用いられる一般的な材料を用いることができ、例えば、トリアセテートセルロース (TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、トリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等の各種樹脂で形成したフィルム等を例示することができる。基材の厚さは、通常25μm〜1000μm程度である。
【0030】
ハードコート層
ハードコート層は、反射防止積層体に耐擦傷性、強度等の性能を向上させる目的で、必要に応じて、形成されてよい。「ハードコート層」とは、JIS5600−5−4:1999で規定される鉛筆硬度試験で「H]以上の硬度を示すものをいう。
【0031】
ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂組成物を使用して形成することが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリレート系の官能基を有するもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエーテル樹脂、多価アルコール、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート等のジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート誘導体、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の多官能化合物としてのモノマー類;または、エポキシアクリレート又はウレタンアクリレート等のオリゴマーを使用することができる。
【0032】
ハードコート層の形成方法は、前記低屈折率層の形成方法と同様な方法にて行うことができる。
【0033】
帯電防止層
帯電防止層は、反射防止積層体に、静電気の発生の抑制、ゴミの付着の排除、および外部からの静電気障害の抑制を図るために、必要に応じて、設けられてよい。帯電防止層は反射防止積層体の表面抵抗値を1012Ω/□以下とする働きを担うものが好ましいが、その一方で、表面抵抗値が1012Ω/□以上であっても、静電気発生の抑制等の上記諸機能を発揮できるのであれば帯電防止層を設けることが好ましい。
【0034】
帯電防止層形成用コーティング組成物は、既にインキ化されたものを用いても良いし、導電性微粒子、電離放射線硬化型樹脂、溶剤、その他の成分などを組み合わせて調製しても良い。上記各成分を用いて帯電防止層形成用コーティング組成物を調製するには、塗工液の一般的な調製法に従って分散処理すればよい。例えば、導電性微粒子がコロイドの形状であれば、そのまま混合することが可能であるし、粉状であれば、得られた混合物にビーズ等の媒体を投入し、ペイントシェーカーやビーズミル等で適切に分散処理することにより、コーティングのための帯電防止層形成用組成物が得られる。
【0035】
帯電防止層形成用コーティング組成物は、例えば、スピンコート法、デイップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ビードコーター法等の各種方法で基材上に塗布することができる。塗工物は、通常は、必要に応じて乾燥して硬化させるか、或いは、紫外線や電子線等の電離放射線を放射して硬化させることにより帯電防止層が形成される。
【実施例】
【0036】
実施例1、2、比較例1〜4について
本実施例1、2及び比較列1〜4の透明プラスチック基材フィルム/ハードコート層/低屈折率層からなる反射防止フィルムの作製は以下のようにして行った。
【0037】
透明プラスチック基材フィルム/ハードコート層からなる積層フィルム上に、下記に示す組成の低屈折率層形成用コーティング組成物をバーコーティングし、乾燥により溶剤を除去した後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン(株)製)を用いて、照射線量260mJ/cm2 で紫外線照射を行い、塗膜を硬化させて、屈折率層の膜厚を約100nmとした透明プラスチック基材フィルム/ハードコート層/低屈折率層からなる積層体(反射防止フィルム)を得た。表面処理された空隙を有するシリカゾルは、下記の実施例1、2及び比較例1〜4で得たものを使用した。
【0038】
低屈折率層形成用コーティング組成物の調製
下記組成の成分を混合して低屈折率層形成用組成物を調製した。
【0039】
表面処理された空隙を有するシリカゾル(10%メチルイソブチルケトン溶液)
28.56質量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA) 1.90質量部
イルガキュア907(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.02質量部
イルガキュア184(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製) 0.07質量部
TSF4460(商品名、GE東芝シリコーン(株)製) 0.24質量部
メチルイソブチルケトン 69.21質量部
【0040】
<評価方法>
最低反射率
5℃正反射測定装置を備えた分光光度計(島津製作所(株)製、UV−3100PC:商品名)を用いて反射率を測定した。なお、反射率は波長550nm付近で極小値となったときの値(最低反射率)を示した。
【0041】
耐擦傷性評価試験
反射防止積層体の表面を、#0000番のスチールウールを用いて、所定の摩擦荷重(200g)で30往復摩擦し、反射防止積層体の表面に傷がないものには○、傷の本数が1〜10本以内のものには△、傷の本数が10本以上のものには×として、反射防止積層体の耐擦傷性を評価した。
【0042】
接触角測定
協和界面科学(株)製の顕微鏡式接触角計CA−QIシリーズを用いて、撥水性については水、撥油性については流動パラフィンにて測定した。
【0043】
[実施例1](シリカ微粒子の表面処理)
1晩イオン交換樹脂(AG r 501-x8(D) Resin: 商品名、BIO-RAD Laboratories INC.)にて、不純物イオンをとり除いた空隙を有するシリカゾル(イソプロピルアルコールの10%溶液)93質量部にフッ素系シランカップリング剤(TSL−8233:商品名、東芝シリコーン社製)0.5質量部を添加し、溶剤としてイソプロピルアルコールを5.5質量部加えた。得られた混合物に対して、更に、水を添加した。該水の添加量はフッ素系シランカップリング剤1molに対し3molとした。また、HCl水溶液にて全体の溶液をpH=4に調節した後、80℃、2.5時間過熱攪拌を行った。次いで、得られた処理物に対してメタアクリル系シランカップリング剤(KBM−503:商品名、信越化学社製)を1質量部添加し、さらに80℃、2.5時間還流攪拌を行い、撥水・撥油性及び耐擦傷性のシリカ微粒子を得た。作製した溶液は、イソプロピルアルコールからメチルイソブチルケトンに溶剤置換を行った。
【0044】
[実施例2](シリカ微粒子の表面処理)
前記実施例1のシリカ微粒子の表面処理において、フッ素系シランカップリング剤(TSL−8233:商品名、東芝シリコーン社製)を1質量部に変更した以外は、前記実施例1と同様の処理を行い、本実施例2の表面処理シリカ微粒子を得た。
【0045】
[比較例1]
1晩イオン交換樹脂にて、不純物イオンをとり除いた空隙を有するシリカゾル(イソプロピルアルコールの10%溶液)を用いた。
【0046】
[比較例2]
前記実施例1のシリカ微粒子の表面処理において、メタアクリル系シランカップリング剤による処理を施さない以外は、前記実施例1と同様の処理を行い、比較例2の表面処理シリカ微粒子を得た。
【0047】
[比較例3]
前記実施例1のシリカ微粒子の表面処理において、フッ素系シランカップリング剤による処理を施さない以外は、前記実施例1と同様の処理を行い、比較例3の表面処理シリカ微粒子を得た。
【0048】
[比較例4]
前記実施例1のシリカ微粒子の表面処理において、フッ素系シランカップリング剤による処理、及びメタアクリル系シランカップリング剤による処理を常温で行った以外は、前記実施例1と同様な処理を行い、比較例4の表面処理シリカ微粒子を得た。
【0049】
前記実施例1、2、比較例1〜4の表面処理シリカ微粒子を用いて作製した反射防止フィルムについての各評価の結果を下記の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1によれば、本実施例1及び2の反射防止フィルムは、撥水性、撥油性が共に優れ、且つ耐擦傷性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製造方法により得られた反射防止フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の画像表示装置に適用可能であり、水及び/又は油に対する防汚性に優れ、且つ耐擦傷性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明プラスチック基材フィルム上に、直接又は他の層を介して、最表面層として低屈折率層を形成する反射防止フィルムの製造方法であって、
該低屈折率層内には、撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子が含まれており、
該撥水・撥油性基の導入処理及び架橋基の導入処理が施された空隙を有するシリカ微粒子は、以下の1)〜3)の工程を用いて製造することを特徴とする反射防止フィルムの製造方法:
1)空隙を有するシリカ微粒子をイオン交換樹脂にて前処理することにより、不純物イオンを取り除いてシリカ微粒子表面にあるシラノール基の活性を高める工程、
2)該シラノール基の活性が高められた空隙を有するシリカ微粒子に対して撥水・撥油処理剤を添加し加熱を行うことにより、撥水・撥油性基を導入する工程、
3)該撥水・撥油性基を導入した空隙を有するシリカ微粒子に対して架橋性基を有する化合物を添加し還流することにより架橋基を導入する工程。
【請求項2】
前記撥水・撥油処理剤は、パーフルオロアルキル基を有する化合物であり、該基の末端がトリフルオロ基であり、且つ、該基のアルキル基の長さが(CF2 3 以上である請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記撥水・撥油処理剤は、フッ素系シランカップリング剤であり、且つ、前記架橋性基を有する化合物は、メタアクリル系シランカップリング剤である請求項1に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記撥水・撥油処理剤の前記シリカ微粒子への処理量は、シリカ微粒子100質量部に対して3質量部〜25質量部であり、
前記架橋性基を有する化合物の前記シリカ微粒子への処理量は、シリカ微粒子100質量部に対して5質量部〜25質量部であり、
前記撥水・撥油処理剤と前記架橋性基を有する化合物との合計量が、前記シリカ微粒子100質量部に対し8質量部〜30質量部である請求項1、2又は3に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法により製造されてなる反射防止フィルム。

【公開番号】特開2011−154396(P2011−154396A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88924(P2011−88924)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【分割の表示】特願2004−295326(P2004−295326)の分割
【原出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】