説明

撥水剤組成物および撥水剤物品

【課題】シリコーン系基剤を用いた撥水性組成物であって、優れた撥水性能を有するとともに、保存安定性が良好な撥水剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)(i)加水分解性の有機基を有するポリオルガノシロキサン及び/または(ii)下記一般式(I)で表されるラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中10〜80質量%、及びこのラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中20〜90質量%用いた共重合反応により得られる共重合体、(B)金属アルコキシド、および(C)溶剤を含有し、組成物中の水分量が0.001〜1.5質量%である撥水性組成物。
[化1]


(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは酸素原子またはNH、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撥水剤組成物およびこれを用いた撥水剤物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維製品等に撥水性を付与するものとして、種々のフッ素系基剤を用いた撥水剤組成物が利用されてきた。この様なフッ素系基剤としては、例えば分子内にパーフルオロ基またはフルオロアルキル基を含有するモノマーの重合物、あるいはこのモノマーと他のモノマーとの共重合物等が用いられている。
しかしながら、これらの重合物を用いた撥水剤組成物は、撥水効果は良好であるが、それらを希釈する際に用いられる溶剤は、近年、大気のオゾン層破壊の一因として挙げられ、地球環境保護の見地からその使用が制限されている。また、この溶剤の代替溶剤の検討もなされているが、未だ満足すべき結果が得られていない。
【0003】
そこで、最近では、シリコーン系基剤を用いた撥水剤組成物の検討が行われている。シリコーン系基剤は、フッ素系基剤を用いた撥水剤組成物の様にオゾン層破壊を生じる溶剤を使用する必要がない。しかしながら、フッ素系基剤を用いた撥水剤組成物と比べると撥水性が不充分である場合が多い。
【0004】
この撥水性の向上策として、シリコーン系基剤と金属アルコキシド等の有機金属化合物との組み合わせ(例えば下記特許文献1〜5)が提案されている。
下記特許文献1には、高撥水性難燃布帛として繊維を被覆するためのコーティング液として、アルコキシシランと、金属アルコキシド等の加水分解可能な有機金属化合物を含有させることが記載されている。
下記特許文献2には、特定のシリコーン樹脂またはシリコーングラフトアクリル樹脂、特定のオルガノポリシロキサン、および金属アルコキシドから構成される撥水成分と有機溶剤と噴射ガスからなるエアゾール型撥水処理剤が記載されている。
下記特許文献3には、加水分解性基を有するポリオルガノシロキサン樹脂、金属アルコキシドまたはその部分加水分解縮合物及びアルコールを配合した撥水剤組成物が記載されている。
下記特許文献4には、特定のポリオルガノシロキサン樹脂、直鎖状ジポリオルガノシロキサン、有機チタン酸エステルまたは有機ジルコニウム酸エステルまたは有機ゲルマニウム酸エステル、第4級アンモニウム塩基を有する抗菌性シラン及び、芳香族系および塩素系溶剤を用いた固体材料処理剤が記載されている。
下記特許文献5は、特定のポリオルガノシロキサン樹脂、アルキル−アルコキシポリシロキサン樹脂、縮合触媒、及び芳香族系溶剤を用いたメーソンリー用撥水剤が記載されている。
【特許文献1】特開2004−76202号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2000−186279号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開平7−305053号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平4−300958号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開昭63−170484号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコーン系基剤と金属アルコキシドとを組み合わせることにより撥水性を向上させることはできるものの、かかる組成物にあっては保存中に沈殿物が発生する場合があり、保存安定性が不十分であるという問題がある。
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、シリコーン系基剤を用いた撥水性組成物であって、優れた撥水性能を有するとともに、保存安定性が良好な撥水剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明においては以下のような手段を提案する。
第1の態様は、(A)(i)加水分解性の有機基を有するポリオルガノシロキサン及び/または(ii)下記一般式(I)で表されるラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中10〜80質量%、及びこのラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中20〜90質量%用いた共重合反応により得られる共重合体、(B)金属アルコキシド、および(C)溶剤を含有する撥水剤組成物であって、組成物中の水分量が0.001〜1.5質量%である。
【0007】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは酸素原子またはNH、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示す。)
【0008】
第2の態様は、前記(i)成分における加水分解性の有機基がアルコキシ基である第1の態様の撥水剤組成物である。
第3の態様は、前記(B)成分がチタンアルコキシドであること第1または第2の態様の撥水剤組成物である。
第4の態様は、第1〜3の態様のいずれかの撥水剤組成物を、内面が樹脂コーティングされている金属容器に収容してなる撥水剤物品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコーン系基剤を用いた撥水性組成物であって、優れた撥水性能を有するとともに、保存安定性が良好な撥水剤組成物が得られる。
また本発明の撥水剤物品は、優れた撥水性能を有するとともに、保存安定性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<(A)成分>
(A)成分は、下記(i)及び/または(ii)で表される成分[以下、(i)成分、(ii)成分と略記することがある]である。
(i)成分:加水分解性の有機基を有するポリオルガノシロキサン、
(ii)成分:前記一般式(I)で表されるラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中10〜80質量%、このラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中20〜90質量%用いた共重合反応により得られる共重合体。
【0011】
(i)成分と(ii)成分はいずれも撥水性を発現する成分であり、かかる(i)成分及び/または(ii)成分を用いることにより、撥水性が良好な撥水剤組成物が得られる。また、アルコール等の芳香族系溶剤以外の溶剤も使用可能となり、簡便な使用の点から好ましい。さらに撥水処理後であっても衣類等の被処理物の風合いが劣化しないという優れた効果が得られる。
【0012】
[(i)成分]
(i)成分において、有機基とは飽和又は不飽和の芳香族又は脂肪族炭化水素基(これらはエーテル基、ポリエーテル基、エステル基のような、酸素原子を含んでもよい)、窒素などの異原子を有してもよい飽和又は不飽和の芳香族又は脂肪族炭化水素基を含む概念である。
加水分解性の有機基としてはアルコキシ基、アセトキシ基、アミド基、アミノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基、アルドオキシの窒素原子に結合している水酸基から水素原子を除いた基、ケトオキシムの窒素原子に結合している水酸基から水素原子を除いた基等が例示される。硬化性や硬化反応時の副生成物の臭気の点から、アルコキシ基が好ましい。さらに、アルコキシ基としては、炭素数1〜12の範囲のものが好ましく、さらには硬化性が良好であることから炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
(i)成分において、加水分解性の有機基はポリオルガノシロキサンの末端に結合していることが望ましい。
【0013】
(i)成分において、加水分解性の有機基以外の基としては、炭素数1〜10の非置換または置換の1価炭化水素基、水酸基、水素原子が挙げられる。なお、ここで「置換」とは、1価の炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基にて置換されていることを示す。
置換基としては、ハロゲン原子等が挙げられる。なお、本発明においては「ハロゲン原子」も「置換基」に含まれるものとする。ハロゲン原子としては塩素原子、フッ素原子、ヨウ素原子、臭素原子等が挙げられる。
前記加水分解性の有機基以外の基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、あるいはこれらの基をハロゲン原子で置換した基、水酸基、水素原子等を挙げることができる。
このうち、撥水性、有機溶剤への溶解性の点からメチル基が好ましい。
【0014】
(i)成分は、4官能のSiO単位を含まないことが好ましい。これにより、鎖状が維持され、良好な撥水性が得られる。該4官能のSiO単位とは、ケイ素原子に有機基が結合せず、ケイ素原子を中心として、これに4つの酸素原子が結合し、さらにこれら酸素原子にそれぞれケイ素原子が結合することにより、ポリマー中に網目状の構造を構成する単位である。
【0015】
(i)成分として好適なものとしては、例えば以下の一般式で示す構造を有するものが挙げられる。
【0016】
【化2】

(式中、nは繰り返し単位数を示し、分子量によって変化する。Rはアルキル基を示す。)
【0017】
具体的には、例えばXS66−B1101(商品名、GE東芝シリコーン株式会社製)等が挙げられる。なお、XS66−B1101は、(A)成分として(i)成分を60質量%(分析値)含む製品である。
【0018】
(i)成分の分子量は、好ましい有機溶剤であるアルコールへの溶解性が良好であることから、25℃での粘度が0.65〜100cSt、特に5〜90cSt、さらに好ましくは10〜80cStである分子量をとることが好ましい。言うまでもないが、分子量が大きくなる程粘度は増加する。
なお、本明細書において、粘度はメーカーカタログ記載の値である。
【0019】
[(ii)成分]
(ii)成分は、前記一般式(I)で表されるラジカル重合性モノマー[以下(ii−1)モノマーという]と、この(ii−1)モノマー以外のラジカル重合性モノマー[以下、(ii−2)モノマーという]とを特定の割合で共重合してなる共重合体である。
(ii)成分を重合するにおいて、(ii−1)モノマーは、(ii)成分の全原料モノマー中10〜80質量%の割合で用いる。(ii−2)モノマーは、(ii)成分の全原料モノマー中20〜90質量%の割合で用いる。この範囲を満足することにより、特に(ii)成分は撥水性および有機溶剤への溶解性が良好になる。
【0020】
前記一般式(I)において、Rは水素原子またはメチル基、Aは酸素原子またはNH、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示す。アルキレン基は直鎖状または分岐鎖状のいずれでもよい。より好ましくは、Rはメチル基、Aは酸素原子、Rは炭素数1〜3のアルキレン基である。
【0021】
(ii−1)モノマーは市販品として入手することができる。
例えば、サイラプレーンTM−0701(商品名、チッソ株式会社製)(化合物名:3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート)、サイラプレーン TM−0701T(商品名、チッソ株式会社製)(化合物名:3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート)、X−22−2404(商品名、信越化学工業株式会社製)(化合物名:3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート)等が挙げられる。
(ii−1)モノマーは1種または2種以上混合して用いることができる。
【0022】
(ii−2)モノマーは、(ii−1)モノマーと共重合可能なものであれば、特に制限されない。(ii−2)モノマーは1種または2種以上選択して共重合させることもできる。
(ii−2)モノマーとしては、例えばカチオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマー、疎水性ビニルモノマー等が挙げられる。
(ii−2)モノマー中のカチオン性ビニルモノマーの好ましい割合は、50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。上限値以下であることにより撥水性が向上する。
アニオン性ビニルモノマーの好ましい割合は50質量%以下、好ましくは40質量%以下である。上限値以下であることにより撥水性が向上する。
疎水性ビニルモノマーの好ましい割合は、90質量%以下、好ましくは50質量%以下である。上限値以下であることにより溶剤への溶解性が良好となる。
カチオン性ビニルモノマー、アニオン性ビニルモノマー、疎水性ビニルモノマーを用いるにおいて、それぞれの好適な(ii−2)モノマー中の割合の下限値は特に限定せず、これらのモノマーの合計が(ii)成分を構成する全原料モノマー中、20質量%以上であればよい。
【0023】
カチオン性ビニルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、及びそれらのハロゲン化アルキルによる四級化物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、及びそれらのハロゲン化アルキルによる四級化物が挙げられる。またハロゲン化アルキルとしては例えば、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ベンジルクロリド等が挙げられる。
このうち好ましくは(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル及びそれらのハロゲン化アルキルによる四級化物であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロリド等が挙げられる。
なお、ここで「(メタ)アクリル」はアクリルとメタクリルの一方あるいは両方を示す。
【0024】
アニオン性ビニルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸半エステル、フマル酸半エステル等のカルボキシ基を含有するビニルモノマーや、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタンスルホン酸(メタ)アクリレート、エタンスルホン酸(メタ)アクリレート、プロパンスルホン酸(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を含有するモノマーが挙げられる。
このうち好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。
なお、ここで「(メタ)アクリレート」はアクリレートとメタクリレートの一方あるいは両方を示す。
【0025】
疎水性ビニルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基の水素原子を炭素数1〜24の直鎖または分岐状アルキル基にて置換した(メタ)アクリル酸エステルや(メタ)アクリルアミド等の疎水性モノマーが挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド、ヘキシル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ラウリルアクリルアミド、ラウリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
このうち好ましくは炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリルアミドであり、さらに好ましくは炭素数1〜12の直鎖または分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルである。中でもt−ブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
また、(ii−2)モノマーはアクリル系モノマーであることが好ましい。ここで、アクリル系モノマーとは、アクリル酸から誘導される化合物を示し、上述の様にカルボキシ基の水素原子が置換された誘導体や、アクリル酸において、カルボニル基が結合するα−炭素原子にメチル基等の置換基が結合したものを含む概念とする。
【0027】
(ii)成分において、上述の様に(ii−1)モノマーは、(ii)成分の全原料モノマー中、10〜80質量%用いる。好ましくは15〜70質量%、さらに好ましくは20〜60質量%の範囲で用いる。
10質量%以上であると撥水性が向上し、80質量%以下であると、(ii)成分の(C)有機溶剤への溶解性が向上し、白化やムラを抑制できる。さらに皮膜形成性が向上するので、撥水性及び撥水持続性が向上する。
【0028】
(ii)成分において、上述の様に(ii−2)モノマーは、(ii)成分の全原料モノマー中、20〜90質量%用いる。好ましくは30〜85質量%、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲で用いる。
20質量%以上であることにより(ii)成分の(C)有機溶剤への溶解性が向上し、また皮膜形成性を向上させることができるので、撥水性及び撥水持続性が向上する。90質量%以下であることにより(ii−1)モノマーとのバランスの点から撥水性が向上する。
【0029】
(ii)成分は、ラジカル重合法により製造することができる。
また、(ii)成分の重合時に架橋剤を配合してもよい。架橋剤を少量配合することにより、撥水性、撥水持続性が向上する。なお、この場合、架橋剤も原料モノマーに含まれる。ただし、架橋剤の配合量は、全原料モノマー中5質量%以下、特に3質量%以下、実質的には0.01質量%以上とされる。
架橋剤としては、両末端メタクロイル変性ジメチルポリシロキサン[ 商品名 X−22−164C、X−22−164A、X−22−164B (信越化学工業株式会社製)、FM−7711、FM−7721、FM−7725(チッソ株式会社製)]の様な2官能性の架橋剤を配合する。
重合に用いる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノ−ル、プロピレングリコール等が挙げられ、特にエタノール、イソプロパノ−ル等の低級アルコールが好ましい。
【0030】
重合開始剤としては従来公知の各種のものを使用することができ、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化ベンゾイル等の過酸化物;2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2、4−ジバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、2、2’−アゾビス(N、N−ジメチレンイソブチルアミジン)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられ、アゾ化合物が好ましい。
【0031】
重合は、好適には、モノマーを前記適当な溶媒に溶解したモノマー溶液と、重合開始剤を適当な溶媒に溶解した開始剤溶液とを用いて行う。
すなわち、これらモノマー溶液及び開始剤溶液は、重合熱の除去や反応器への送液中の重合等を抑えて安定に製造するために、別々に分割または連続的に反応器中の重合溶媒中に添加することが好ましい。
また、モノマーの一部及び重合開始剤の一部または全量を反応器中の重合溶媒中に予め配合しておいてもよい。
重合に際しては、溶媒はモノマー混合物の濃度が10〜50質量%程度となるように調整して使用することが好ましい。
重合温度は、用いる開始剤の種類等によって適宜選定すればよいが、高い反応率を得るために重合開始剤の半減期が5〜100分程度とすることが好ましく、特に用いる重合溶媒の沸点に近いことが温度制御の点から好ましい。
また、重合時間は、モノマー濃度や重合温度によって変わるが、1〜12時間、特に2〜10時間が好ましい。
【0032】
(ii)成分のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によるポリスチレン換算の質量平均分子量は、5000〜1000000であるのが好ましく、より好ましくは10000〜800000である。
質量平均分子量が5000以上であると、皮膜形成性が向上し、撥水性及び撥水持続性が向上する。1000000以下であるとアルコールへの溶解性が高くなり、好ましい(C)有機溶剤に溶解しやすくなる。
【0033】
(A)成分は、(i)成分及び(ii)成分から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
(A)成分の配合量は、撥水剤組成物中、0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。0.01質量%以上であると、撥水性が向上する。10質量%以下であると、撥水剤組成物由来のしみが生じにくくなり、繊維等に使用した場合に風合いが良好である。
【0034】
<(B)成分>
(B)成分は、金属アルコキシドである。(B)成分を配合することにより、撥水性と撥水持続性を向上させることができる。(B)成分は、金属原子にアルコキシ基が結合した化合物であり、その部分加水分解縮合物も包含する概念とする。
例えばチタンアルコキシド、シリコンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、またはこれらのその部分加水分解縮合物等が挙げられる。アルコキシ基は直鎖でも分岐鎖状でもよく、その炭素数は好ましくは1〜10、より好ましくは3〜8である。
【0035】
金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ(n−ブトキシ)チタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。またはこれらの部分加水分解縮合物等が例示できる。
これらの中でもチタンアルコキシドが好ましく、皮膜の硬化性、撥水性組成物の保存安定性が良好なことから、特にテトライソプロポキシチタン、テトラ(n−ブトキシ)チタン、テトラ(2−エチルヘキシルオキシ)チタンが好ましい。
好適な市販品としては、A−1(商品名、日本曹達株式会社製)(化合物名:テトラ−イソプロポキシエタン)、B−1(商品名、日本曹達株式会社製)(化合物名:テトラ−(n−ブトキシ)チタン)、TOT(商品名、日本曹達株式会社製)(化合物名:テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン)、オルガチックスTA−10(商品名、松本製薬工業株式会社製)(化合物名:テトライソプロピルチタネート)、オルガチックスTA−25(商品名、松本製薬工業株式会社製)(化合物名:テトラノルマルブチルチタネート)、オルガチックスTA−30(商品名、松本製薬工業株式会社製)(化合物名:テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート)等が挙げられる。
また、前記(i)成分の具体例として挙げたXS66−B1101(商品名、GE東芝シリコーン社製)は、テトラ(n−ブトキシ)チタンを40質量%(分析値)含んでおり、好適に用いることができる。
【0036】
(B)成分は、1種もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。(B)成分の配合量は、撥水剤組成物中、0.01〜10質量%であり、さらに好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.08〜2質量%の範囲である。0.01質量%以上であると撥水剤組成物によって形成される皮膜の硬化性が良好で、撥水性、撥水持続性を向上させることができる。10質量%以下であると撥水剤組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0037】
<(C)成分>
本発明で用いられる(C)溶剤は、(A)、(B)成分を溶解させるために有機溶剤を含むことが好ましい。また、撥水剤組成物における水分含有量が本発明における好ましい範囲を越えない範囲で、(C)成分として蒸留水等の水を含有させてもよい。
有機溶剤としては、1価アルコール類、2価アルコール類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、エステル類、ケトン類、脂環族炭化水素類等が挙げられ、芳香族炭化水素類以外の有機溶剤が好ましい。この様に、本発明においては、芳香族系溶剤以外の溶剤も使用可能であり、この様な有機溶剤を選択すればより簡便に使用できる撥水剤組成物が得られる。
有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)、n−ブタノール、プロピレングリコール、トルエン、キシレン、イソペンタン、イソヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が挙げられる。簡便な使用性、使用時における臭気等の点から低級アルコールが好ましく、炭素数4以下の低級アルコールがさらに好ましく、特にエタノール、イソプロパノールが好ましい。
(C)溶剤は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0038】
また、(C)成分においては、(A)(B)成分を溶解するための有機溶剤に加えて、ポリオール型溶剤を併用することもできる。
好ましいポリオール型溶剤としては、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール系溶剤が挙げられる。これらのポリオール型溶剤を用いることにより、撥水剤組成物による「しみ」を抑制できる。ポリオール型溶剤を用いる場合は(C)成分中0.01〜10質量%程度とされる。
【0039】
(C)成分は、液安定性、乾燥性の点から、好ましくは撥水剤組成物中70〜99.97質量%、より好ましくは80〜99.9質量%の範囲で用いる。
【0040】
<その他任意成分>
本発明の撥水剤組成物には、上記(A)成分、(B)成分、(C)成分以外の他の成分を配合することができる。例えば(A)成分に含まれないシリコーン化合物(以下、(D)成分という。)、香料等が挙げられる。
【0041】
[(D)成分]
(D)成分は(A)成分に含まれないシリコーン化合物である。
具体例としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、環状シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、メチルスチリル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、高級脂肪酸変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、4官能のSiO単位を含む網目状シリコーン樹脂であって加水分解性の有機基を有しないもの、および上記(ii)成分に含まれないシリコーン系グラフト共重合体等が挙げられる。これらのシリコーン化合物は、撥水性、持続性を向上させたり、衣類等の被処理物の風合いを改善することができる。
(D)成分は1種または2種以上混合して用いることができる。
(D)成分を用いる場合、撥水剤組成物中における含有量は、好ましい添加効果を得るうえで0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%の範囲である。
【0042】
[香料]
好ましい香料としては、フローラル系香料、シトラス系香料、ムスク系香料、ミント系香料等が挙げられる。1種または2種以上を適宜用いることができる。
【0043】
<水分含有量>
本発明の撥水剤組成物は、組成物中の水分量が0.001〜1.5質量%の範囲内である。撥水剤組成物中の水分量が1.5質量%以上では保存中に析出物がみられるなどの不具合が発生する。0.001質量%以下では水分を除去するためのコストが嵩み不経済である。
本発明における撥水剤組成物中の水分量の値は、カールフィッシャー水分計(平沼産業社製、製品名;AQV−7)を用いて測定した値である。
該組成物中の水分量のより好ましい範囲は0.001〜1.3質量%である。
該組成物中の水分量を上記範囲に低減させるために、必要であれば積極的に水分を除去する方法を用いることができる。例えばモレキュラシーブスや硫酸マグネシウムに水分を吸着させる方法、また蒸留後に、芳香族化合物やマグネシウム化合物などを使って脱水させる方法などがある。
【0044】
<(E)噴射剤>
本発明の撥水剤組成物は、適当な容器に収納し、繊維等の撥水性を付与する対象に吹き付けて使用することが好ましい。
例えばエアゾール容器に充填して使用することが、使用性(使い勝手)の点等から好ましい。エアゾール容器に充填する際は、本発明の撥水剤組成物に加えて噴射剤(以下、(E)成分ということもある)を添加することが好ましい。
【0045】
(E)噴射剤は、(A)〜(C)成分及び必要に応じて添加される他の成分と共に、エアゾール容器に充填した場合に、これらを噴射できるものであれば特に限定されるものではない。本明細書では本発明の撥水剤組成物に噴射剤を添加したものをエアゾール型撥水剤組成物と称する。
(E)噴射剤としては、例えば液化石油ガス、ジメチルエーテル、液化炭酸ガス、液化窒素ガス等が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0046】
(E)成分の配合量は、噴射性の点から、液化石油ガス及びジメチルエーテル等の有機溶剤に多量に溶解するものの場合は、エアゾール型撥水剤組成物中、5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜40質量%であり、炭酸ガス及び窒素ガス等の有機溶剤にほとんど溶解しないものの場合は、エアゾール型撥水剤組成物中、1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0047】
<撥水剤物品>
本発明の撥水剤組成物を内面が樹脂コーティングされている金属容器に収容して撥水剤物品とすることが好ましい。容器がエアゾール容器の場合は、(E)成分を添加したエアゾール型撥水剤組成物の形態で収容することが好ましい。
金属容器は耐圧性に優れるため、内容物を対象に吹き付ける形態の容器として好ましい。金属容器の具体例としてはブリキ缶、アルミ缶等が好ましい。
また内面が樹脂コーティングされている金属容器を用いることにより、(B)有機金属化合物による金属容器の腐食を防止できる。内面のコーティングに用いられる合成樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリイミド、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリエステルなどが挙げられる。
【0048】
最適な容器の形態は使用性の点からエアゾール形態であり、ブリキ缶やアルミ缶等のエアゾールスプレー容器にエアゾール型撥水剤組成物を充填させたエアゾールスプレーとして用いることができる。エアゾールスプレー容器としては、例えば特開平9−3441、特開平9−58765号公報等に記載されているものが挙げられる。
またその他にも、例えばトリガースプレー容器(直圧あるいは蓄圧型)、フィンガースプレー容器、ディスペンサータイプのポンプスプレー容器に収納して用いることもできる。
トリガースプレー容器としては、例えば特開平9−268473号公報、特開平9−256272号公報、特開平10−76196号公報等に記載されているものが挙げられる。ポンプスプレー容器としては、例えば、特開平9−256272号公報等に記載されているものが挙げられる。また、エアゾールスプレー容器としては、例えば特開平9−3441号公報、特開平9−58765号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0049】
本発明の撥水剤組成物を使用する対象としては衣類、傘、壁紙、カーテンやソファの布製家具の繊維製品、皮革等の軟表面を有する製品等が挙げられる。特に衣類に関しては、汗の濡れじみによる変色等も防止することが可能となる。
本発明の撥水剤組成物は、簡便に一般家庭で繊維製品、その他皮革製品等に撥水性を付与することができる。さらに撥水性を付与することが通常困難である綿等の親水性素材に対しても高い撥水性と撥水持続性を付与できる。
【0050】
本発明の撥水剤組成物はシリコーン系基剤と金属アルコキシドを組み合わせたもので、優れた撥水性能を有しており、環境的にも好ましい。また保存中に沈殿が生じ難く、保存安定性に優れている。
その理由は以下のように推測される。すなわち、シリコーン系基剤と金属アルコキシドとの反応には水が関与しており、例えば繊維など処理対象面に存在する水分や空気中の水分など環境中の水分によって反応が進行するほか、組成物内に水分が含有されることでも反応が進行してしまい、その水分量が多量であると組成物内で反応が急速に進み、保存中に析出物が発生すると推測される。
例えば加水分解性の有機基を有するシリコーン系基剤とチタンアルコキシドを用いた場合の反応式は下記のように表される。
【0051】
【化3】

【0052】
そして、本発明の撥水剤組成物は、シリコーン系基剤と金属アルコキシドを含有する撥水剤組成物中に含まれる水分量を特定の範囲内に規定したことにより、撥水性能を損なうことなく保存安定性を向上できたものと考えられる。
【0053】
また、特許文献4、5に記載の発明では、溶剤として主に芳香族系溶剤を用いているため、例えば工業用途として利用する際にはそれ程問題になりにくいが、換気設備の乏しい一般家庭で用いるには不都合であり、簡便に使用できないという問題がある。しかし、本発明の撥水剤組成物においては、比較的溶剤の選択の自由度が高く、例えば芳香族系溶剤を使用しなくても、撥水剤組成物を構成することができる。したがって、簡便な使用が可能である。
また、特に衣類を処理する際には、撥水処理後にごわつき等の衣類等の被処理物の風合いの低下が生じにくいことが求められるが、本発明の撥水剤組成物は衣類等を処理しても風合いを劣化させることがない。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<合成例>
撹拌機、冷却管及び温度計を備えた500mLのガラス製セパラブルフラスコにエタノール63gを加え、窒素ガスを吹き込みながら80℃に加熱した。このセパラブルフラスコ中のエタノールを撹拌しながら、その中に、ラジカル重合性モノマー(p)31.5g、疎水性ビニルモノマー(q−1)11.9g、疎水性ビニルモノマー(q−2)3.5g、カチオン性ビニルモノマー(r)11.9g、アニオン性ビニルモノマー(s−1)8.4g、アニオン性ビニルモノマー(s−2)1.4g、架橋剤(t)1.4g及びエタノール28gの混合溶液、及び重合開始剤(2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、和光純薬工業株式会社製、V−59)1.4g及びエタノール14gの混合溶液を2時間かけて連続的に滴下し、さらに80℃で6時間窒素ブローしながら撹拌し、GPCによるポリスチレン換算の質量平均分子量95000の共重合体(A−1)を得た。
【0055】
上記合成例と同様の合成方法、条件にて、下記表1に示すモノマーを用いて共重合体の実施品(A−2)〜(A−4)を合成した。
【0056】
【表1】

【0057】
なお、表1に使用したモノマーの詳細は、下記の通りである。
「p」:3−トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート(商品名 サイラプレーンTM−0701T、チッソ株式会社製)。
「q−1」:t−ブチルメタクリレート(メタクリル酸ターシャリーブチル、株式会社日本触媒製)。
「q−2」:t−ブチルアクリレート(商品名 TBA、大阪有機化学工業株式会社製)。
「r」:ジメチルアミノエチルメタクリレート(メタクリル酸ジメチルアミノエチル、三菱ガス化学株式会社製)。
「s−1」:メタクリル酸(株式会社日本触媒製)。
「s−2」:アクリル酸(株式会社日本触媒製)。
「t」:両末端メタクロイル変性ジメチルポリシロキサン (商品名 X−22−164C、信越化学工業株式会社製)。
【0058】
<実施例1〜9、比較例1〜4>
下記表2に示す配合で(А)〜(D)成分を混合して撥水剤組成物を調製した。
また、該(А)〜(D)成分を混合してなる撥水剤組成物に、さらに(E)成分を下記表2に示す配合で混合してエアゾール型撥水剤組成物を調製した。
なお、表2中の含有量は純分としての含有量を示し、単位は何れも質量%である。
【0059】
<配合成分>
表2に記載した各成分は以下の通りである。
「A+B成分」:商品名 XS66−B1101(GE東芝シリコーン株式会社製)
(A−5:ポリアルキルアルコキシシロキサン60%、B−1:テトラ(n−ブトキシ)チタン40%混合品;日本電子株式会社製JNM−EX270(商品名)、株式会社リガク製Systemによる分析値)。
【0060】
「B−2」:テトラ(n−ブトキシ)チタン(化合物名はB−1と同様;商品名「B−1※」、日本曹達株式会社製)。
「B−3」:テトラ−イソプロポキシチタン(商品名「A−1※」、日本曹達株式会社製)
※商品名「A−1」、商品名「B−1」:配合成分の表示とは区別する。
【0061】
「C−1」:エタノール(試薬1級、甘糟化学産業株式会社製)。
「C−2」:イソプロパノール(鹿1級、関東化学株式会社製)。
「C−3」:蒸留水。
【0062】
「D−1」:商品名 KF−7312K(信越化学工業株式会社製、トリメチルシロキシケイ酸60%、商品名 KF−96A−6cs 40%混合品;信越化学工業株式会社カタログ記載)。
「D−2」:商品名 KF−9021(信越化学工業株式会社製、トリメチルシロキシケイ酸50%、KF−995 50%混合品;信越化学工業株式会社カタログ記載)。
「D−3」:商品名 KF−995(信越化学工業株式会社製、下記化学式(III)においてn’=5で表される化合物)。
「D−4」:商品名 SH200−20cs(東レ・ダウコーニング株式会社製、メチルポリシロキサン)。
【0063】
【化4】

【0064】
「E−1」:液化石油ガス(20℃蒸気圧0.2MPa)。
「E−2」:液化炭酸ガス。
【0065】
<水分量の測定>
上記(А)〜(D)成分を混合して得られた撥水剤組成物について、カールフィッシャー水分計(製品名:AQV−7、平沼産業社製)を用い、上述の測定方法により水分量を測定した。測定結果を下記表に示す。
【0066】
<スプレー形態の調製>
上記(А)〜(E)成分を含有するエアゾール型撥水剤組成物を、常法に準じて下記仕様のエアゾール容器に50g収納し評価に用いた。
エアゾール容器の仕様:
缶:BL35×110 B2改コート(商品名、東洋製罐株式会社製、缶の材質;アルミニウム合金、内面樹脂コートの材質:エポキシポリアミドイミド)。
バルブ:S13−(70P)78HG7183ALPS”26”×76R(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
ボタン:D94WIB03735N”3”−A(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
【0067】
上記エアゾール容器に収納されたエアゾール型撥水剤組成物について、下記評価方法により撥水性、および保存時の安定性について評価した。これらの結果を下記表にあわせて示す。
【0068】
<撥水性の評価方法>
(試験布)
試験布には以下の処理を行った綿ブロード(商品名;250GM502 116、日清紡績株式会社製)を用いた。
【0069】
(試験布の前処理方法)
家庭用洗濯機に30Lの50℃水道水を入れ、これに衣類用粉末洗剤(商品名:トップ、ライオン株式会社製)30gを添加し、よく分散させた後、試験布1kgの試験布を投入し、15分間撹拌し、ついで脱水機で5分間脱水した。ついで、もう一度前記洗浄、脱水を繰り返した後、水道水を用いた流水すすぎ15分間の後脱水5分間の工程を5回繰り返した。以上の処置をした後、室温で乾燥し、20cm×20cmに裁断した。
【0070】
(撥水性試験)
上記記載の前処理をした試験布に、上記エアゾール容器に収納したエアゾール型撥水剤組成物を試験布に対して2.5gを均一になるように布全体に噴霧し、20℃、50RH%の室内で12時間乾燥させたものを「撥水処理した試験布」とした。
撥水性の評価は、JIS L−1092 はっ水度試験(スプレー試験)により行った。
すなわち、試験布を直径約15cmの枠にしわが生じないように取り付け、水平面に対し45度の角度で保持し、そこへ試験布中心から15cmの高さに設置したスプレーノズルから、27±1℃のイオン交換水250mLを試験布へ散布した。つぎに枠を台上から取り外し、その一端を持ち、表面を下向きにして他端を叩いて余分な水滴を落とした後、濡れた状態を以下の判定標準により評価した。
【0071】
(判定標準)
100点:表面に付着湿潤のないもの。
90点:表面にわずかに付着湿潤を示すもの。
80点:表面に水滴状に湿潤を示すもの。
70点:表面にかなりの部分的湿潤を示すもの。
60点:70と50の中間の湿潤を示すもの。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表裏両面に湿潤を示すもの。
【0072】
<保存安定性の評価方法>
25℃、40%RHの室内において、上記(А)〜(D)成分を含有する撥水剤組成物を100mLエアゾール耐圧試験瓶(東京高分子株式会社製)に収納し、試験瓶用バルブで密閉した。次いで、バルブ口から(E)成分を充填した。なお(А)〜(E)成分の総量が60gとなるように調整した。こうして得られた試験瓶を室温で3日間放置し、沈殿物の有無を目視にて判定した。
○:沈殿物なし。
×:沈殿物あり。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示した結果より、(А)〜(C)成分を含有し、水分量が本発明の範囲内である実施例1〜9では、優れた撥水性能が得られるとともに、保存安定性も良好であった。
これに対して(А)〜(C)成分を含有するものの、水分量がそれぞれ2.460質量%、3.475質量%である比較例1,2では、撥水性は良好であったが保存中に沈殿物が発生した。
また比較例3は(A)成分を含まないため撥水性能が得られず、比較例4は(B)成分を含まないため撥水性能が得られなかった。
【0075】
<撥水剤物品の製造例>
実施例4、7および9のエアゾール型撥水剤組成物を常法に準じて下記仕様のエアゾール容器A、Bに収納した。
(容器A)
缶:BL35×110 B2改コート(商品名、東洋製罐株式会社製、缶の材質;アルミニウム合金、内面コートの材質:エポキシポリアミドイミド)。
バルブ:S13−(70P)78HG7183ALPS‘’26‘’×76R(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
ボタン:D174W0444N‘’3‘’(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
充填量:54g。
(容器B)
缶:AE100WN3エアゾール缶(東洋製罐株式会社製、缶の材質;ブリキ)。
バルブ:S13−(70P−4)78HG7183‘’3‘’×67R(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
ボタン:D174W0444N‘’3‘’(商品名、株式会社三谷バルブ製)。
充填量:75g。
【0076】
上記エアゾール容器に収納されたエアゾール型撥水剤物品を45℃で6ヶ月保管した後、開缶し、缶の状態を目視評価した。その結果は以下の通りであった。
容器A:実施例4、7および9のエアゾール型撥水剤組成物を収納した容器いずれも保存前と比較し、変化は認められなかった。
容器B:実施例4、7および9のエアゾール型撥水剤組成物を収納した容器いずれも腐食が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(i)加水分解性の有機基を有するポリオルガノシロキサン及び/または(ii)下記一般式(I)で表されるラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中10〜80質量%、及びこのラジカル重合性モノマー以外のラジカル重合性モノマーを全原料モノマー中20〜90質量%用いた共重合反応により得られる共重合体、(B)金属アルコキシド、および(C)溶剤を含有する撥水剤組成物であって、組成物中の水分量が0.001〜1.5質量%であることを特徴とする撥水剤組成物。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは酸素原子またはNH、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記(i)成分における加水分解性の有機基がアルコキシ基であることを特徴とする請求項1記載の撥水剤組成物。
【請求項3】
前記(B)成分がチタンアルコキシドであることを特徴とする請求項1または2に記載の撥水剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥水剤組成物を、内面が樹脂コーティングされている金属容器に収容してなることを特徴とする撥水剤物品。

【公開番号】特開2007−177232(P2007−177232A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321604(P2006−321604)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】