説明

操作キー、電子機器および操作キーの製造方法

【課題】照光式の操作キーの製造工数を低減するとともに、シンボルの凹状の刻印部と透過光のずれをなくす。
【解決手段】
操作キー20の基体24は凹状刻印部21の底面27の周縁部に沿って溝29を有する。基体24は、透明または半透明の材料で形成されている。金属被膜の形成工程において、溝29の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に溝29の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成される。その結果、凹状刻印部21の背後側から投射された光が凹状刻印部21の底面27の周縁部のみで操作キーの天面23側へ通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刻印された操作キーを備えた電子機器に関し、特に、刻印部が内部から照光される操作キーおよびそれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、携帯電話機など、操作キーを備えた電子機器には、その操作キーに割り当てられた文字や記号、機能等を表すシンボルがそのキー天面に記録されている。シンボルの記録は単に印刷するのではなく、シンボルの耐久性や装飾性の観点から凹状の刻印で記録される場合もある(特許文献1参照)。
【0003】
また、加工の容易さおよび重量の観点から操作キーは合成樹脂で形成されることが多い。合成樹脂製の操作キーの表面に対しては、高級感を出すために蒸着やスパッタリングによる金属被膜が形成される場合もある。
【0004】
さらに、暗い空間でも電子機器の使用者が見えるように操作キーを内部から照光する照光式操作キーも知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−071728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸着やスパッタリングによる金属被膜を形成する場合でも、金属被膜の厚みを十分薄くすることにより、電子機器本体内部の光源から発せられた光が操作キーを透過するようにすることは可能である。
【0006】
しかし、この場合は操作キー全体から光が透過してしまうため、シンボルを凹刻印した部分だけ光らせるということができない。また、キー全体の金属被膜が薄すぎると、金属被膜を設ける本来の効果が軽減される。
【0007】
操作キーに十分な厚みの金属被膜を形成した場合、金属被膜は光を透過しないため、操作キー天面の金属被膜をレーザーカット等の加工によりシンボル形状にくり抜いて、シンボルの形に発光させる必要がある。そのため、レーザーカットのような加工を伴う場合、対象となるすべての操作キーに対してその加工工程が追加になり、製造工数およびコスト面で不利である。
【0008】
また、凹状刻印部と同形状にレーザーカットを行う場合には、一般的な量産性を考慮すると、レーザーカットの精度を上げることが困難であり、凹状刻印部に対するレーザーカットの位置がばらつき、位置ずれが生じるという品質面での問題もあった。
【0009】
本発明はこのような背景においてなされたものであり、照光式の操作キーの製造工数を低減するとともに、シンボルの凹状刻印部と透過光のずれをなくすことを企図する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般に、金属被膜の形成工程において、金属被膜を形成する面に微細な凹部があると、その微細凹部に金属被膜が形成されなかったり、形成されても膜厚が他の部分に比べて可視光を透過する程度まで極端に薄くなる場合があった。したがって、そのような被膜形成不良を防止するために、金属被膜を形成する対象面にはそのような微細凹部は形成しないのが従来の慣行であった。本発明は、逆にそのような被膜形成不良を積極的に利用することにより、課題を達成するものである。
【0011】
すなわち、本発明による操作キーは、天面に凹状の刻印部を有する透明または半透明の材料で形成された基体に金属被膜が形成された操作キーであって、前記基体は凹状の刻印部の底面周縁部に沿って溝を有し、前記金属被膜の形成工程において前記溝の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成され、前記刻印部の背後側から投射された光が前記刻印部の底面周縁部のみで操作キーの天面側へ透過することを特徴とする。
【0012】
また、本発明による電子機器は、このような操作キーを備えた電子機器である。
【0013】
さらに本発明による操作キーの製造方法は、上記のような操作キーの製造方法であって、前記操作キーに対応した金型であって、前記刻印部の底面の周縁部に溝が形成されるように、当該溝に対応した凸部を有する金型を作成するステップと、前記金型を用いて、透明または半透明の材料で操作キーを作成するステップと、前記操作キーの表面に金属被膜を形成するステップとを備え、前記金属被膜を形成するステップの結果、前記溝の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操作キーに蒸着やスパッタリングなどの被膜形成処理を施した後、個々の操作キーに対してレーザーカットのような金属被膜をシンボル状に除去する工程を不要とすることができる。したがって、製造工程を簡略化し、製造時間を短縮するとともに、製造コストの低減を図ることができる。
【0015】
また、凹状刻印部に対するレーザーカット工程をなくすことにより、レーザーカットの加工精度に基づくシンボルと凹状刻印部とのずれを回避することができる。特に、基体において、凹状刻印部の底面周縁部に沿って溝が形成された状態で、被膜形成処理を行うことにより、透過光の形状を凹状刻印部の形状に完全に一致させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明が適用される電子機器の一例としての携帯電話端末100の外観図を示している。本実施の形態では、二つ折り型の携帯電話端末を示しているが、二つ折り型に限定されるものではなく、いわゆるストレート型、スライド型等、筐体の型は問わない。また、携帯電話端末に限るものでもなく、本発明は、照光式の操作キーを有する任意の電子機器に適用可能である。
【0018】
携帯電話端末100は、ヒンジ部118と、このヒンジ部118で開閉可能に連結されたカバー部114および本体部125を有する。カバー部114の内側の面の上部にはスピーカ112が配置され、内側の主要面には表示部116(例えば液晶ディスプレイのような平面表示デバイス)が配置されている。
【0019】
本体部125の内側の面には、上部中央にドーナツ状の方向指示キー(カーソル移動キーともいう)120およびその中央部に配置された決定キー121、この両側端にソフトキー117a,117bが配列されている。ソフトキー117a,117bは、種々のメニューや画面に対応して任意の機能が割り当てられる操作キーであり、その割り当てられた機能は、キー操作表示エリアの表示内容によってユーザに知らしめられる。これらの操作キーの下側には、通話キー122、クリアキー123、および電源キー/終話キー124が配置されている。さらにその下側にはテンキー128が配置され、これらの下側にはメモキー130およびマナーキー131が配置されている。本体部125の最下部にはマイク132が配置されている。
【0020】
本発明の照光式の操作キーを、上記のような各種の操作キーのすべてに採用するか、一部の操作キー(例えば方向指示キー120)についてのみ採用するかは任意であり、デザインや必要に応じて決定することができる。本実施の形態では、方向指示キー120および決定キー121に適用し、それらのシンボル120a〜120dおよび121aを本発明による構造で昇降する。
【0021】
図2は、本発明と対比するための従来の電子機器の操作キー(キートップ)10の概略の構成例を示したものである。図2(a)は操作キー10の平面図、図2(b)はその右側面図、図2(c)は図2(a)のC−C矢視断面図、図2(d)は図2(c)のD部分の拡大図である。
【0022】
操作キー10は、天面に凹状の刻印部を有する透明または半透明の材料で形成された基体14を有する。そのような操作キーの材料としては、一般に、ポリカーボネイト、ABSなどの合成樹脂材料が用いられる。また、シリコンラバーなどと組み合わせて操作キーに弾性部を設けてもよい。
【0023】
基体14の天面13には凹状刻印部11が形成されている。基体14の下部には水平方向に広がるフランジ部15を有する。
【0024】
凹状刻印部11を有する操作キー10の上面には、凹状刻印部11を含めて、蒸着またはスパッタリングなどの被膜形成処理により、金属被膜18が形成されている。凹状刻印部11の底面17では、図示しないが、レーザーカットによりそのシンボルに対応する形状で金属被膜18が除去される。なお、この例では、四角形(□)のシンボルを例として示しているが、これに限るものではない。
【0025】
図2(c)に示すように、操作キー10の内部(凹状刻印部11の背後側)から投射された光(可視光)が凹状刻印部11のシンボル形状で操作キーの天面側へ通過する。しかし、上述したように、そのレーザー加工には加工時間を要するだけでなく、加工精度による加工ズレが生じうる。
【0026】
図2の従来例に対応して、図3に、本実施の形態の電子機器の操作キー(キートップ)20の概略の構成例を示す。図3(a)は操作キー20の平面図、図3(b)はその右側面図、図3(c)は図3(a)のC−C矢視断面図、図3(d)は図3(c)のD部分の拡大図である。
【0027】
操作キー20は、透明または半透明の材料で形成された基体24を有する。基体24の天面23には凹状刻印部21が形成されている。基体24の下部には水平方向に広がるフランジ部25を有する。但し、フランジ部25は本発明に必須の構成要素ではない。
【0028】
凹状刻印部21を有する操作キー20の上面には、凹状刻印部21を含めて、蒸着またはスパッタリング等により、金属被膜28が形成されている。ここまでの構成は図2に示した操作キー10の構成と同じであるが、基体24は凹状の凹状刻印部21の底面27の周縁部に沿って溝29を有する。金属被膜28の形成工程においては、溝29の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成される。したがって、図3(c)に示すように、電子機器本体内部に設けた光源(図示せず)により、操作キー20の内部(凹状刻印部21の背後側)から投射された光(可視光)が凹状刻印部21の底面27の周縁部のみで操作キーの天面側へ通過する。光源は、必要に応じて、操作キーまたはシンボル毎に異なるものを設ける場合と、複数の操作キーまたはシンボルに共通に1または複数の光源を設ける場合とがありうる。
【0029】
操作キー(キートップ)20は金型を用いた射出成形等の製造方法により、同シンボルの操作キーについては、すべて同じ位置に、溝29も含めて同じ形状の凹状刻印部21が形成される。したがって、すべての操作キーについての溝29はその凹状刻印部21の外形と同形状であり、よって、操作キー20を透過する光は正確に凹状刻印部21の形状に見える。
【0030】
図4は、本実施の形態において、基体14の凹状刻印部21の底面27の周縁部に沿って形成される「微細凹部」としての溝の幾つかの例を示したものである。図4(a)は、図3(d)の一部分を拡大して示した断面図である。溝29aは、同断面図において、凹状刻印部21の凹部の壁面26と、底面27の周縁部にそって形成された傾斜面30aとのなす角度を角度αとする。本発明の課題を達成できる角度αは、特定の金属被膜形成環境において実験的または経験的に求めることができる。図では、そのような角度αとして鋭角(90°未満)の場合を示している。このような溝29aは微細凹部を構成し、この溝29aについては、金属被膜28の形成工程において、金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成される。
【0031】
図4(b)は、図4(a)の溝29aの変形例としての溝29bを示している。溝29bは、その傾斜面30bが上側に凸状に湾曲した形状としたものである。
【0032】
図4(c)は、「微細凹部」の他の例を示している。この例の溝29cは、幅xおよび深さyの断面矩形状の溝である。溝の幅xは所定の幅Δxより狭く、溝の深さyは所定の深さΔyより深い。所定の幅Δxおよび深さΔyは特定の金属被膜形成環境において実験的または経験的に求めることができる。
【0033】
ここで、本実施の形態における操作キーの製造方法の手順を従来と比較する。
【0034】
図5は従来の照光式の操作キーの製造方法の手順を示したフローチャートである。この手順では、まず、既知の方法により、操作キー(キートップ)のための金型を作成する(S11)。この金型を用いて射出成形等の既知の方法により操作キーを作成する(S12)。ついで、蒸着やスパッタリング等の既知の被膜形成方法によりこの操作キーの表面に金属被膜を形成する(S13)。その後、個々の操作キーに対応するシンボルを、当該操作キーの表面にレーザーカットのような既知の加工方法を用いて形成する(S14)。
【0035】
これに対して、図6に、本実施の形態における照光式の操作キーの製造方法の手順を示したフローチャートを示す。
【0036】
まず、既知の方法により、操作キー(キートップ)のための金型を作成する(S21)。そのためには例えば、電鋳と呼ばれる方法を用いることができる。「電鋳」とは、電気分解による電解液の中に溶けた金属を原型(マスター)に電着させ、原型と同じ型を精密に複製する方法であり、通常の機械加工よりも高精度に対象を細部まで複製することができる。したがって、原型に溝29を設けておけば、その原型から作成される金型に溝29に対応する凸部が形成される。さらに、この金型から原型と同じ樹脂形状が成形される。ただし、本発明は電鋳の利用に限るものではない。
【0037】
このようにして形成された金型を用いて射出成形等の既知の方法により操作キーを作成する(S22)。ついで、蒸着やスパッタリング等の既知の被膜形成方法によりこの操作キーの表面に金属被膜を形成する(S23)。本発明では、この段階で、溝29の部分については金属被膜が形成されないか、形成されても光が透過可能な程度にごく薄く形成されることとなる。その結果、凹状刻印部の背後側から投射された光が凹状刻印部の底面周縁部のみで操作キーの天面側へ透過することとなる。また、個々の操作キーに対応するシンボルを、当該操作キーの表面にレーザーカットのような既知の加工方法を用いて加工する従来のステップS14に対応する処理が不要となる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態によれば、従来のようなレーザーカットなどの追加工程なく実現することで、品質の向上、コストの優位性、量産性の向上(部品製造時間短縮)を実現することができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記で言及した以外にも種々の変形、変更を行うことが可能である。例えば、電子機器として携帯電話端末についてのみ説明したが、携帯情報端末(PDA)、PC、ゲーム機、電子辞書、等、本発明は任意の電子機器に適用可能である。また、その電子機器は、携帯型の機器に限るものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明が適用される電子機器の一例としての携帯電話端末の外観図である。
【図2】本発明と対比するための従来の電子機器の操作キー(キートップ)の概略の構成例を示した図である。
【図3】本発明の実施の形態の電子機器の操作キー(キートップ)の概略の構成例を示した図である。
【図4】本発明の実施の形態において、基体の凹状刻印部の底面の周縁部に沿って形成される微細凹部としての溝の幾つかの例を示した図である。
【図5】従来の照光式の操作キーの製造方法の手順を示したフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態における照光式の操作キーの製造方法の手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
20…操作キー、21…凹状刻印部、23…天面、24…基体、25…フランジ部、26…壁面、27…底面、28…金属被膜、29…溝、29a…溝、29b…溝、29c…溝、30a…傾斜面、30b…傾斜面、100…携帯電話端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天面に凹状の刻印部を有する透明または半透明の材料で形成された基体に金属被膜が形成された操作キーであって、
前記基体は凹状の刻印部の底面周縁部に沿って溝を有し、前記金属被膜の形成工程において前記溝の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成され、前記刻印部の背後側から投射された光が前記刻印部の底面周縁部のみで操作キーの天面側へ透過することを特徴とする操作キー。
【請求項2】
天面に凹状の刻印部を有する透明または半透明の材料で形成された基体に金属被膜が形成された操作キーと、前記操作キーの背後から照光する照光手段とを備えた電子機器であって、
前記操作キーの前記基体は凹状の刻印部の底面周縁部に沿って溝を有し、前記金属被膜の形成工程において前記溝の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成され、前記刻印部の背後側から投射された光が前記刻印部の底面周縁部のみで操作キーの天面側へ通過することを特徴とする電子機器。
【請求項3】
天面に凹状の刻印部を有する透明または半透明の材料で形成された基体に金属被膜が形成された操作キーの製造方法であって、
前記操作キーに対応した金型であって、前記刻印部の底面の周縁部に溝が形成されるように、当該溝に対応した凸部を有する金型を作成するステップと、
前記金型を用いて、透明または半透明の材料で操作キーを作成するステップと、
前記操作キーの表面に金属被膜を形成するステップとを備え、
前記金属被膜を形成するステップの結果、前記溝の部分に金属被膜が形成されないか、または、可視光を透過させる程度に前記溝の部分に金属被膜が他の部分に比べて薄く形成される
ことを特徴とする操作キーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−48859(P2009−48859A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213590(P2007−213590)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(501431073)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社 (810)
【Fターム(参考)】