説明

攪拌装置

【課題】金属溶湯の攪拌ムラを低減できる攪拌装置を提供すること。
【解決手段】攪拌装置における攪拌翼の下面を、回転方向の先側から後側に向けて突出高さの大きくなる傾斜面状にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼、溶銑、アルミニウム合金、銅合金などの金属溶湯を攪拌するための攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶湯を攪拌するための攪拌装置としては、従来から種々のものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1〜3に紹介されている攪拌装置は、回転軸と攪拌翼とを持つ。攪拌翼は回転軸に一体化され、回転軸の回転に伴って回転する。この攪拌装置を金属溶湯に挿入して攪拌翼を回転させることで、金属溶湯を攪拌することができる。
【0003】
攪拌装置には、金属溶湯をムラ無く攪拌する機能が求められている。しかし、この種の攪拌装置で金属溶湯を攪拌する場合、金属溶湯のなかで攪拌翼よりも下側に存在する部分(以下、下側溶湯と呼ぶ)には攪拌ムラが生じ易い。特に、金属溶湯に脱硫材等の添加剤を添加する場合には、添加材を金属溶湯中に均一に分散させ難い問題があった。
【0004】
特許文献1、2には、攪拌翼の側面にテーパ面または曲面の部分を設けて下側溶湯を攪拌する技術が提案されている。しかしこの種の攪拌装置であっても、下側溶湯を充分に攪拌することはできず、金属溶湯の攪拌ムラを無くすことはできなかった。したがって、金属溶湯の攪拌ムラをさらに低減できる攪拌装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4319387号公報
【特許文献2】特開平10−306330号公報
【特許文献3】特開昭62−297422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属溶湯の攪拌ムラを低減できる攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の攪拌装置は、金属溶湯に挿入されて該金属溶湯を攪拌するための攪拌装置であって、回転軸と、該回転軸に一体化され該回転軸の径方向外方に突出している複数個の攪拌翼と、を持ち、該攪拌翼の下面の少なくとも一部は傾斜面状をなし、該傾斜面の下方に向けた突出高さは、該回転軸の回転方向の先側から後側に向けて大きくなることを特徴とする。
【0008】
本発明の攪拌装置において、前記攪拌翼の上面は平坦面であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
金属溶湯のなかで攪拌翼の回転領域内および回転領域の径方向外側に存在する部分には、攪拌翼の回転による力(攪拌力と呼ぶ)を効率良く受ける。しかし、下側溶湯は回転領域の下方に存在するため、攪拌力を受け難い。このため、特許文献1、2に開示されている攪拌装置によると、下側溶湯が充分に攪拌されず、金属溶湯の攪拌ムラが生じると考えられる。
【0010】
本発明の攪拌装置では、下側溶湯に攪拌力を作用させることができ、金属溶湯の攪拌ムラを低減できる。これは以下の理由による。以下、攪拌装置における回転軸の回転方向を単に回転方向と呼ぶ。
【0011】
本発明の攪拌装置においては、攪拌翼の下面の少なくとも一部が傾斜面状をなす。この傾斜面の下方に向けた突出高さは、回転方向の先側から後側に向けて大きくなる。換言すると、本発明の攪拌装置は攪拌翼の下面に突出形状を持つ。このため、攪拌翼の下面によって下側溶湯を直接攪拌できる。
【0012】
また、攪拌翼の下面は、回転方向先側から後側に向けて下方への突出高さが徐々に大きくなるように傾斜しているため、回転方向先側から後側に向けて下側溶湯を下方向に連続的に押圧できる。このため攪拌翼の下面は、下側溶湯を下方向に流動させることができ、下側溶湯の流動によって下側溶湯全体を攪拌するのに有利である。さらに、攪拌翼の下面は、単なる突出形状でなく傾斜面状をなし、下側溶湯を下方向に連続的に押圧するために、下側溶湯を滑らかに流動させ得る。すなわち攪拌翼の下面は、下側溶湯を整流しつつ下方向に流動させ得る。本発明の攪拌装置は、これらの協働によって、金属溶湯の攪拌ムラを低減できる。
【0013】
本発明の攪拌装置において、攪拌翼の上面が平坦面である場合には、金属溶湯表面(上面)の波立ちを低減でき、金属溶湯の酸化や飛散等を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図である。
【図2】実施例1の攪拌装置を図1中A−A位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図3】実施例1の攪拌装置を図1中B−B位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図4】実施例1の攪拌装置を使用している様子を模式的に表す説明図である。
【図5】実施例1の攪拌装置を使用している様子を模式的に表す説明図である。
【図6】実施例2の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図である。
【図7】実施例3の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を基に、本発明の攪拌装置を具体的に説明する。
【0016】
(実施例1)
実施例1の攪拌装置を模式的に表す図を図1〜5に示す。詳しくは、図1は実施例1の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図である。図2は実施例1の攪拌装置を図1中A−A位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。図3は実施例1の攪拌装置を図1中B−B位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。図4、5は実施例1の攪拌装置を使用している様子を模式的に表す説明図である。以下、本明細書において、上、下とは、図1に示す上、下を指す。回転方向の先側、後側とは、図1に示す先側、後側を指す。
【0017】
図1〜4に示すように、実施例1の攪拌装置は、芯部3と、芯部3を一体に覆う被覆部4と、芯部3と被覆部4との間に介在しているスタッド5と、を持つ。
【0018】
図2、3に示すように、芯部3は、筒状をなす軸芯30と、軸芯30の下端部分に一体化されている4つの翼芯31とを持つ。4つの翼芯31は、互いに離間しつつ軸芯30の周方向に配列している。各翼芯31は、軸芯30の中心線(後述する回転軸1の軸線L)に沿って軸芯30に一体化され、軸芯30の径方向外方に放射状に突出している。したがって、各翼芯31は、上下方向および軸芯30の径方向に延在している。なお、芯部3は鉄製であることが好ましい。
【0019】
被覆部4は軸芯30および翼芯31を一体に覆っている。被覆部4のなかで軸芯30を覆っている部分を軸被覆部40と呼び、被覆部4のなかで翼芯31を覆っている部分を翼被覆部41と呼ぶ。被覆部4は、耐火物の一種であるキャスタブルで形成されていることが好ましい。具体的には、アルミナ、マグネシア、アルマグカーボン(アルミナ−マグネシア−カーボン系耐火物)、アルミナカーボン(アルミナ−カーボン系耐火物)、マグネシアカーボン(マグネシア−カーボン系耐火物)製であるのが好ましい。なお、アルマグカーボンなどのカーボン含有耐火材は、カーボンを含有するために、伝熱性に優れ均熱性を高め得るとともに、金属溶湯を弾き易く耐食性に優れる利点がある。
【0020】
スタッド5は略Y字状をなす。スタッド5は軸芯30に一体化され、被覆部4に向けて略V字状に突出している。スタッド5は、鉄等の比較的強度に優れた金属材料製であるのが好ましい。
【0021】
軸芯30、スタッド5および軸被覆部40は、実施例1の攪拌装置における回転軸1を構成している。また、翼芯31および翼被覆部41は、実施例1の攪拌装置における攪拌翼2を構成している。各攪拌翼2の中心線は、軸線Lと平行な直線状をなし、上下方向に延びている。
【0022】
図1〜4に示すように、各攪拌翼2の下面20は傾斜面状をなす。詳しくは、各下面20の下方への突出高さHは、攪拌翼2の全高さHよりも小さく、回転軸1の回転方向Pの先側から後側に向けて徐々に大きくなっている。より詳しくは、各下面20のなかで回転方向Pの後側に位置する端部(後側端部21)の下方への突出高さは、回転方向Pの先側に位置する端部(先側端部22)の下方への突出高さよりも大きい。以下、下面20の下方への突出高さを、単に突出高さと呼ぶ。下面のなかで後側端部21と先側端部22とを接続する部分(接続部23)の突出高さは、先側端部22から後側端部21に向けて徐変している。
【0023】
攪拌翼2の上面24は略平坦面状をなしている。実施例1の攪拌装置は、図略の駆動手段を持つ。駆動手段は、回転軸1に接続されて回転軸1および攪拌翼2を駆動する。
【0024】
実施例1の攪拌装置は、金属溶湯9を攪拌するための装置である。金属溶湯は、例えば溶銑鉄等の溶融金属材料のみからなっても良いし、溶融金属材料に脱硫材、脱リン材、脱酸材、酸化鉄等の添加材を添加したものでも良い。
【0025】
図4に示すように、実施例1の攪拌装置を容器92内の金属溶湯9に挿入し、攪拌翼2を回転させると、攪拌翼2における回転方向Pの先側に位置する側面25が金属溶湯9を回転方向Pおよび径方向外方に押圧する。
【0026】
攪拌翼2の下面20は下側溶湯90を攪拌する。詳しくは、下側溶湯90は、先ず攪拌翼2の先側端部22に当接し、下方に押圧される。先側端部22によって下方に押圧された下側溶湯90は、接続部23によってさらに下方に押圧され、後側端部21によってより一層下方に押圧される。このため、下面20は下側溶湯90を連続的に下方向に押圧し、下側溶湯90を下方向に流動させる。攪拌翼2によって下側溶湯90が流動することは、下側溶湯90全体を攪拌するのに有利である。攪拌翼2の下面20は直状の傾斜面状をなすために、下側溶湯90は連続的に押圧され滑らかに流動する。したがって下側溶湯90の流動性が向上する。よって、実施例1の攪拌装置は金属溶湯9の攪拌ムラを低減できる。
【0027】
また、攪拌翼2の上面24が略平面状をなすために、金属溶湯9の湯面WA付近の揺動を低減できる。
【0028】
実施例1の攪拌装置は、図5に示すように、攪拌翼2の全体を金属溶湯9に挿入せず、攪拌翼2の上側部分を金属溶湯9の上側に露出させて使用することもできる。この場合にも、攪拌翼2の下面20が下側溶湯90を下方向に押圧し、下側溶湯90を下方向に流動させるために、金属溶湯9の全体を攪拌できる。したがってこの場合にも、金属溶湯9の攪拌ムラを低減できる。さらに、図5中の二点鎖線で示す金属溶湯9の湯面WAよりも、攪拌翼2の上側部分が僅かに下方に配置される程度に、攪拌翼2の全体を金属溶湯9に挿入して使用しても良い。
【0029】
(実施例2)
実施例2の攪拌装置は、攪拌翼の形状以外は実施例1の攪拌装置と同じものである。実施例2の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図を図6に示す。
【0030】
実施例2の攪拌装置における攪拌翼2は、回転軸1の周壁面15に沿って湾曲している。詳しくは、各攪拌翼2の回転方向Pの先側に位置する側面25は、傾斜した湾曲面状をなす。この側面25の上端部27は、下端部28よりも、回転方向Pの先側に位置している。上端部27と下端部28とを接続する接続部29は、上端部27と下端部28とを滑らかに接続する湾曲面状をなす。各攪拌翼2の中心線L0は曲線状をなし、軸線Lと平行ではない。攪拌翼2の下面20は、実施例1の攪拌装置における攪拌翼2の下面20と同様に、傾斜面状をなす。
【0031】
実施例2の攪拌装置によると、攪拌翼2の下面20によって下側溶湯90を下方に流動させることができ、かつ、攪拌翼2の側面25によっても金属溶湯9を径方向外方かつ下方に流動させることができる。このため実施例2の攪拌装置によると、金属溶湯9の攪拌ムラをさらに低減できる。
【0032】
(実施例3)
実施例3の攪拌装置は、攪拌翼の形状以外は実施例1の攪拌装置と同じものである。実施例3の攪拌装置を模式的に表す要部拡大斜視図を図7に示す。
【0033】
実施例3の攪拌装置における攪拌翼2は、側面25が傾斜した平面状をなすこと以外は、実施例2の攪拌装置と同じものである。実施例3の攪拌装置によると、実施例2の攪拌装置と同様に、攪拌翼2の下面20によって下側溶湯90を下方に流動させることができ、かつ、攪拌翼2の側面25によっても金属溶湯9を径方向外方かつ下方に流動させることができる。このため実施例3の攪拌装置によっても、金属溶湯9の攪拌ムラをさらに低減できる。なお、実施例3の攪拌装置は、側面25が傾斜した平面状をなすために、容易かつ安価に製造できる利点がある。
【0034】
実施例1、2の攪拌装置においては、攪拌翼2の下面20全面が傾斜面状をなすが、本発明の攪拌装置においては、攪拌翼2の下面20の少なくとも一部が傾斜面であれば良い。例えば一部が平坦面等であっても良い。下面20全面が傾斜面状をなす場合には、攪拌効率を向上させ得る。
【0035】
攪拌翼2の下面20は、傾斜した平面であっても良いし、傾斜した湾曲面であっても良い。何れの場合にも、下面20が傾斜面であれば下側溶湯90を下方向に流動させ得る。また、攪拌翼2の側面25は、傾斜面であっても良いし、平坦面、テーパ面、湾曲面等の他の形状であっても良い。
【0036】
攪拌翼2の側面25の傾斜方向は、上端部27が下端部28よりも回転方向Pの先側に位置する方向(すなわち、実施例2、3における側面25の傾斜方向)であっても良いし、逆方向であっても良い。側面25が、実施例2、3と同じ方向に傾斜する場合には、側面25によって金属溶湯9を下方向に流動させ得る。また、側面25がこの逆方向に傾斜する場合には、側面25によって金属溶湯9を上方向に流動させ得る。
【0037】
金属溶湯9の攪拌ムラを低減するためには、攪拌翼2の下面20の突出高さHは大きい方が好ましい。突出高さHが過小であれば、攪拌ムラ低減の効果が小さくなる。また、金属溶湯9による流体抵抗を考慮すると、攪拌翼2の下面20の突出高さHは小さい方が好ましい。突出高さHが過大であれば、金属溶湯9による流体抵抗が過大になり、攪拌翼2による溶湯攪拌能力が低下する。したがって、攪拌翼2の下面20の突出高さHは、攪拌翼2の大きさ、攪拌翼2の回転数、金属溶湯9の種類等に応じて適宜設定できるが、突出高さHには好ましい範囲が存在する。具体的には、図1に示す攪拌翼2の全高さHを100としたときの攪拌翼2の下面20の突出高さHは、3〜50であるのが好ましく、5〜40であるのがより好ましく、7〜30であるのがさらに好ましい。全高さHを100とした突出高さHの上限値は、50または40であるのが好ましい。下限値は3または5であるのが好ましい。
【0038】
芯部3および被覆部4の材料は、実施例の組み合わせに限定されず、種々の材料を選択できる。例えば、芯部3はセラミックス等を材料としても良い。また、芯部3(軸心30)は、筒状でなく中実状であっても良い。また、被覆部4は他の耐火物を材料としても良い。回転軸1の全体および/または攪拌翼2の全体を耐火物で構成しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1:回転軸 2:攪拌翼 20:攪拌翼の下面 9:金属溶湯 90:下側溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯に挿入されて該金属溶湯を攪拌するための攪拌装置であって、
回転軸と、該回転軸に一体化され該回転軸の径方向外方に突出している複数個の攪拌翼と、を持ち、
該攪拌翼の下面の少なくとも一部は傾斜面状をなし、
該傾斜面の下方に向けた突出高さは、該回転軸の回転方向の先側から後側に向けて大きくなることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記攪拌翼の上面は平坦面状をなす請求項1に記載の攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167868(P2012−167868A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29342(P2011−29342)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】