説明

支圧接合構造および支圧接合部材

【課題】高力ボルト接合に代わる有効な支圧接合構造およびそのための支圧接合部材を提供する。
【解決手段】接合対象の一方の部材Aにネジ孔aを形成し、他方の部材Bにはそれよりも大径のキリ孔bを形成する。軸部材2の先端部のネジ部2aをネジ孔aに螺着し、軸部材2の打込孔に芯棒3を打ち込んでその周囲の支圧片を外側に変形させてキリ孔bの内面に密着させ、その状態で軸部材2の基端部のネジ部2bにナット4を螺着して双方の部材どうしを締結する。あるいは、接合対象の双方の部材にキリ孔を形成し、軸部材の両端部の打込孔に芯棒を打ち込んでその周囲の支圧片を外側に変形させてキリ孔の内面に密着させ、その状態で軸部材の両端部のネジ部にナットを螺着して双方の部材どうしを締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨等の構造部材どうしを支圧伝達可能に接合する場合に適用して好適な支圧接合構造、およびそれに用いる支圧接合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、構造部材どうしを接合するための手法として一般的な高力ボルト接合は摩擦接合によるものであり、ボルトの導入軸力により発生する摩擦力によって応力を伝達していることから、接合部に作用する力が摩擦耐力を越えるとボルト孔の内径とボルト軸部とのクリアランス分の滑りが発生し、それ以降はボルトと部材の支圧により応力が伝達される。
このような応力伝達機構に基づき、高力ボルトの許容耐力はボルト締め付けによる導入軸力に滑り係数0.45を乗じた滑り耐力で定められ、また最大耐力はボルトのせん断耐力で定められている。
【0003】
ところで、過去においては一般的であったリベットによる接合や打ち込み式の支圧ボルトによる接合では、ボルト孔内にクリアランスがなく初期段階から支圧による応力伝達が可能であるので許容耐力をボルトのせん断耐力とすることができ、したがって摩擦接合の場合よりも大きな耐力を見込むことができるが、そのような手法は現在では施工効率や施工環境の点でそのまま採用できるものではない。
【0004】
そのため、たとえば特許文献1〜3に示されるような現代的な支圧ボルト接合手法についての提案がある。
特許文献1はボルト軸を中空とした第1ボルトと中実とした第2ボルトとを組み合わせて使用するものであり、特許文献2はボルトとボルト孔との間の隙間に接着剤を注入し硬化させるものであり、特許文献3はボルト軸部を切削により平滑面に仕上げることによりボルトをボルト孔に打ち込むことなく無騒音で挿入するというものである。
【特許文献1】特開平7−19227号公報
【特許文献2】特開平8−232939号公報
【特許文献3】特開2004−324718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示されるものは複雑かつ高価な組み合わせボルトを必要とし、特許文献2に示されるものは接着剤の併用による工程の複雑化とコスト増が不可避であり、特許文献3に示されるものはボルトに対する高精度の切削加工を必要とし、しかもいずれもボルト孔の芯ずれには有効に対応できず、したがってコスト面や施工面で現実的ではないので広く普及するに至っていない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は施工性を損なうことなく、また大きなコスト増となることもない、合理的で有効適切な支圧接合構造およびそのための支圧接合部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、部材どうしを支圧伝達可能に接合するための構造であって、接合対象の二部材の一方にネジ孔が形成され、他方の部材には前記ネジ孔よりも大径とされたキリ孔が形成されて、それらネジ孔とキリ孔とが合致する状態で双方の部材が積層され、先端部および基端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ基端部および中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されてなる軸部材が用いられて、該軸部材の先端部のネジ部が前記一方の部材のネジ孔に螺着された状態で該軸部材の中間部が前記他方の部材のキリ孔内に緩挿状態で配置され、前記軸部材の打込孔に前記芯棒が打ち込まれることによって前記支圧片が径方向外側に変形せしめられて各支圧片の外周面がそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめられ、前記軸部材の基端部のネジ部にナットが螺着されることにより双方の部材どうしが締結されてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構造により部材どうしを接合するための部材であって、先端部および基端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ基端部および中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されていて、先端部のネジ部が接合対象の一方の部材のネジ孔に螺着された状態で中間部が他方の部材に形成されているキリ孔内に緩挿状態で配置される軸部材と、前記軸部材の打込孔に打ち込まれることによって前記支圧片を径方向外側に変形せしめて各支圧片の外周面をそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめる芯棒と、前記打込孔に前記芯棒を打ち込んだ状態で前記軸部材の基端部のネジ部に螺着されて双方の部材どうしを締結するナットからなることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、部材どうしを支圧伝達可能に接合するための構造であって、接合対象の二部材の双方にキリ孔が形成されて、それら双方のキリ孔どうしが合致する状態で双方の部材が積層され、両端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ両端部から中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されてなる軸部材が用いられて、該軸部材の中間部が前記双方の部材のキリ孔内に緩挿状態で配置され、前記軸部材の打込孔に前記芯棒が打ち込まれることによって前記支圧片が径方向外側に変形せしめられて各支圧片の外周面がそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめられ、前記軸部材の両端部のネジ部にナットが螺着されることにより双方の部材どうしが締結されてなることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明の構造により部材どうしを支圧伝達可能に接合するための部材であって、接合対象の双方の部材に形成されているキリ孔よりも小径とされ、両端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ両端部から中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されていて、中間部が前記キリ孔内に緩挿状態で配置される軸部材と、前記軸部材の打込孔に打ち込まれることによって前記支圧片を径方向外側に変形せしめて各支圧片の外周面をそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめる芯棒と、前記打込孔に前記芯棒を打ち込んだ状態で前記軸部材の両端部のネジ部に螺着されて双方の部材どうしを締結するナットからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項2記載の発明によれば、支圧接合部材の軸部材の先端部を一方の部材に形成したネジ孔に直接螺着するのでそれらの間にはクリアランスが生じ得ず、また他方の部材に形成したキリ孔と軸部材との間のクリアランスは軸部材に芯棒を打ち込むことによる軸部材自体の変形によって塞いでしまうので、双方の部材を軸部材およびそれに打ち込まれた芯棒を介して支圧伝達可能な状態で強固に接合することが可能である。
また、一方の部材には軸部材のネジ部に対応したネジ孔を形成しておき、他方の部材にはそのネジ孔よりもやや大径のキリ孔を形成しておくことにより、キリ孔への軸部材の挿入とその先端部のネジ孔への螺着作業を何ら面倒なく容易に行うことができ、したがって芯棒の打ち込み作業を必要とすること以外は実質的に通常の高力ボルト接合の場合と同等程度の手間、コストで支圧接合を実現できる。
さらに、ネジ孔とキリ孔との偏心はそれらの寸法差の範囲内で支障なく許容可能であるし、打込孔の周囲の壁面はスリットにより複数の支圧片に分割されているので芯棒の打ち込みによりそれら支圧片が確実かつ容易に変形可能であり、特にネジ孔とキリ孔とが偏心している場合においては各支圧片がそれぞれ偏心状態に対応して外方へ変形するので、いずれにしてもクリアランスを全周にわたって確実かつ容易に塞いで確実な支圧伝達が可能である。
【0012】
請求項3および請求項4記載の発明によれば、支圧接合部材の軸部材と双方の部材に形成したキリ孔との間のクリアランスを軸部材に芯棒を打ち込むことによる軸部材自体の変形によって塞いでしまうので、双方の部材を軸部材およびそれに打ち込まれた芯棒を介して支圧伝達可能な状態で強固に接合することが可能である。
また、双方の部材には軸部材よりもやや大径のキリ孔を形成しておくことにより、キリ孔への軸部材の挿入を何ら面倒なく容易に行うことができ、したがって芯棒の打ち込み作業を必要とすること以外は実質的に通常の高力ボルト接合の場合と同等程度の手間、コストで支圧接合を実現できる。
さらに、双方の部材のキリ孔どうしの偏心はキリ孔と軸部材との寸法差の範囲内で支障なく許容可能であるし、打込孔の周囲の壁面はスリットにより複数の支圧片に分割されているので芯棒の打ち込みによりそれら支圧片が確実かつ容易に変形可能であり、特に双方のキリ孔どうしが偏心している場合においては各支圧片がそれぞれの偏心状態に対応して外方へ変形するので、いずれにしてもクリアランスを全周にわたって確実かつ容易に塞いで確実な支圧伝達が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1実施形態を図1〜図3を参照して説明する。本実施形態は、図1に示すように部材Aと部材Bとを支圧接合部材1により支圧伝達可能な状態で接合することを主眼とするものであり、その支圧接合部材1は軸部材2と、芯棒3と、ナット4とからなるものである。
【0014】
本実施形態では、図示例のように部材Aと部材Bとを上下に積層した状態で接合するに際し、下層側の部材Aには内面に雌ネジを形成したネジ孔aを形成しておき、上層側の部材Bには単なる(雌ネジの形成されていない)キリ孔bを形成しておく。
ネジ孔aは軸部材2の先端部のネジ部2aが直接螺着できるものとするが、キリ孔bの径寸法はネジ孔aよりもやや大径として、キリ孔bの内面と軸部材2との間に若干のクリアランス(従来の高力ボルト接合による場合にボルトとボルト孔との間に確保されるクリアランスと同等程度で良い)が確保できるように、軸部材2の径寸法に対応させて設定しておく。
【0015】
支圧接合部材1における軸部材2は、先端部および基端部の外周面にそれぞれネジ部2a、2bが形成され、中間部の外周面には平滑な支圧面2cが形成された軸体であって、図3に示すように先端部のネジ部2aを部材Aのネジ孔aに対して直接的に螺着可能であり、基端部のネジ部2bにはナット4が螺着されて部材A,Bどうしを締結するものである。
【0016】
軸部材2は、その詳細を図2に示すように、先端側の軸部は単に中実とされているが、基端部および中間部の軸部には芯棒3を打ち込み可能な打込孔2dが形成されているとともに、その打込孔2dの周囲の壁面は複数のスリット2fにより複数の支圧片2eに分割されている。
そして、各支圧片2eの上端部の内側には、内方に突出しているとともにその上面が傾斜面とされたフック部2gが形成されていて、上記の芯棒3を打込孔2d内に打ち込む際には芯棒3の先端が傾斜面に当接して支圧片2eが自ずと外側に押し拡げられ、かつ芯棒3が打ち込まれた後には図3に示すようにフック部2gが芯棒3の上端に係合して抜け留めとして機能するようになっている。
なお、図示例の軸部材2は打込孔2dの周囲の壁面を4個所のスリット2fにより4つの支圧片2eに分割したものであるが、その分割数(支圧片2eの数)は適宜で良く、2分割や3分割とすることでも良いし5分割以上とすることでも勿論良い。
【0017】
芯棒3は上記の打込孔2d内に打ち込み可能な忠実の軸部材であるが、その径寸法は打込孔2dの内径寸法よりも若干大きくされていて、芯棒3を打込孔2dに打ち込むことにより各支圧片2eはやや外側に膨出するように変形し、それにより各支圧片2eの外周面がキリ孔bの内面に自ずと密着するようになっている。
つまり、軸部材2の基端部は芯棒3の打ち込みにより若干拡径されることになり、したがって軸部材2の基端部のネジ部2bに螺着されるナット4の内径はその拡径を考慮して設定され、具体的には芯棒3の外径寸法に両側の支圧片2eの厚み寸法を加えた寸法とされている。
【0018】
上記の支圧接合部材1により部材Aと部材Bとを支圧接合するには、ネジ孔aとキリ孔bとを可及的に同芯状態に合致させた状態で双方の部材A,Bを積層する。その際、キリ孔bはネジ孔aよりもやや大径とされていることから、それらの寸法差の範囲内であればネジ孔aとテーパ孔bの偏心は許容される。
【0019】
そして、軸部材2の先端部を部材Bのキリ孔bに挿入してそのネジ部2aを部材Aのネジ孔aに螺着すると、軸部材2の中間部は自ずとキリ孔bの内側に配置され、その支圧面2cとキリ孔bの内面との間には若干のクリアランスが自ずと確保される。その際、ネジ孔aとキリ孔bとが偏心している場合にはクリアランスの大きさは周方向に不均等になるが、そのような偏心が生じていてもこの時点では支障がない。
【0020】
その状態で図3に示すように軸部材2の打込孔2dに芯棒3を打ち込むと、上述したように各支圧片2eが外側に変形してキリ孔bの内面に自ずと密着する。その際、(a)に示すようにネジ孔aとキリ孔bとが同芯状態であれば支圧片2eは各方向に均等に変形するが、(b)に示すようにそれらが偏心している場合には各支圧片2eは偏心している方向に大きく変形し、いずれにしてもクリアランスはその全周にわたって確実に塞がれてしまう。
【0021】
しかる後に、軸部材2の基端部のネジ部2bにナット4を螺着して締め込むことにより、双方の部材A,Bどうしが軸部材2およびそれに打ち込まれた芯棒3を介して支圧伝達可能な状態で強固に締結される。
【0022】
上記の支圧接合部材1を用いた上記の支圧接合構造によれば、軸部材2の先端部が部材Aに対して直接螺着されるのでそれらの間にはクリアランスが生じ得ないことはもとより、部材Bと軸部材2との間のクリアランスは芯棒3の打ち込みにより生じる軸部材2の変形によって塞がれてしまい、したがって部材A,Bどうしを軸部材2および芯棒3とによって支圧伝達可能な状態で強固に接合することが可能である。
【0023】
そして、部材Aには軸部材2のネジ部2aに対応したネジ孔aを形成しておき、部材Bにはそのネジ孔aよりもやや大径のキリ孔bを形成しておくことにより、ネジ孔aとキリ孔bとはそれらの寸法差の範囲内で偏心が支障なく許容されるし、部材Aに対する軸部材2の螺着作業を何ら面倒なく行うことができ、したがって芯棒3の打ち込み作業を必要とすること以外は実質的に通常の高力ボルト接合の場合と同等程度の手間、コストで支圧接合を実現できることになり、その結果、通常の高力ボルト接合の場合に比べて充分な許容耐力を見込むことができてボルト本数を削減できる。
【0024】
特に、打込孔2dの周囲壁面をスリット2fの形成により複数の支圧片2eに分割しているので、芯棒3の打ち込みにより各支圧片2eが確実かつ容易に変形可能であるし、特にネジ孔aとキリ孔bとが偏心している場合においては各支圧片2eが偏心状態(つまり、塞ぐべきクリアランスの大きさ)に応じて自由に変形し、いずれにしてもクリアランスを全周にわたって確実かつ容易に塞ぐことが可能であって確実な支圧伝達を行い得る。
【0025】
勿論、軸部材2の先端部のネジ部2aを部材Aに形成したネジ孔aに直接螺着するのでその螺着作業は片側(部材B側)からのみの作業で実施でき、したがってたとえばボックス柱等の閉断面の部材に対する接合にも適用できる。
また、上述したようにキリ孔bの大きさを従来の高力ボルト接合と同等のクリアランスを確保するように設定しておくことにより、従来の高力ボルト接合による場合に比べて施工性を大きく損なうことはない。
なお、上記構造は基本的には支圧接合であるので、摩擦接合による通常の高力ボルト接合の場合のように接合面に対する摩擦面処理は不要であるし軸部材2に対する導入軸力も軽減できるが、敢えて接合面に適当な摩擦面処理を行ったうえで軸部材2に所定の軸力を導入すれば摩擦接合による応力伝達も期待することができる。
【0026】
以上で第1実施形態を説明したが、次に本発明の第2実施形態を図4〜図6を参照して説明する。
上記第1実施形態は、一方の部材Aに形成したネジ孔aに軸部材2の先端部のネジ部2aを直接螺着したうえで、軸部材2の基端部に芯棒3を打ち込むようにしたが、本第2実施形態では双方の部材にそれぞれキリ孔を形成して軸部材の両端部にそれぞれ芯棒を打ち込むようにしたものである。
換言すると、本第2実施形態においては、上記第1実施形態における他方の部材Bどうしを接合するようにしたものであって、そのために本第2実施形態における軸部材は基端部のみならず先端部も(つまり両端部が)第1実施形態における軸部材の基端部と同様に構成されているものである。
したがって以下の第2実施形態についての説明では、上述した第1実施形態における説明を援用して、両実施形態において同様に機能する共通の構成要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
【0027】
本第2実施形態においては、図4に示すように接合対象の双方の部材Bには同径寸法のキリ孔bをそれぞれ形成しておき、それら部材Bどうしを接合するための軸部材2にはその両端部の外周面にそれぞれナット4を螺着するためのネジ部2bを形成しておく。
また、図5に示すように軸部材2はその両端部が対称形をなすように形成されている。すなわち、軸部材2は両端部から中間部の軸部にそれぞれ芯棒3が打ち込み可能な打込孔2dが形成され、それら打込孔2dの周囲の壁面がスリット2fにより複数の支圧片2eに分割され、各支圧片2eの先端にはフック部2gが形成されている。
本第2実施形態においては、双方のキリ孔bを合致させた状態で双方の部材Bを積層し、それらキリ孔b内に軸部材2を緩挿させてその両端部の打込孔2dにそれぞれ芯棒3を打ち込むことにより、各支圧片2eがキリ孔bの内面に密着してそれらの間のクリアランスが塞がれ、その状態で軸部材2の両端部のネジ部2bにナット4を螺着して締結することにより、双方の部材Bどうしを支圧伝達可能に接合することができる。
【0028】
本第2実施形態においても、第1実施形態と同様にキリ孔bへの軸部材2の挿入作業や打込孔2dへの芯棒3の打ち込み作業は何ら面倒なく容易に行い得るから、通常の摩擦接合による高力ボルト接合の場合のように施工性を損なうことはない。但し、軸部材2の両端部に対してそれぞれナット4を螺着する必要があるから、第1実施形態のように片側からの作業のみでは実施できず閉断面の部材に対しては適用することができない。
また、図6(a)に示すように双方のキリ孔bが合致している場合はもとより、(b)に示すように双方のキリ孔bどうしが偏心している場合においても、双方の打込孔2dへの芯棒3の打ち込みにより各支圧片2eが自ずと偏心状態に応じて変形するので、いずれにしても確実な支圧接合を実現し得る。
【0029】
以上で本発明の第1および第2実施形態を説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば支圧接合部材1の各部の形状や寸法、それによる具体的な接合作業手順等については、接合対象部材の素材や接合目的、要求される接合強度、その他の諸条件を考慮して最適設計すれば良く、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜の変更や応用が可能であることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態である支圧接合部材による支圧接合構造を示す図(接合前の状態を分解して示す図)である。
【図2】同、支圧接合部材における軸部材を示す図である。
【図3】同、接合後の状態を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態である支圧接合部材による支圧接合構造を示す図(接合前の状態を分解して示す図)である。
【図5】同、支圧接合部材における軸部材を示す図である。
【図6】同、接合後の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
A 部材(接合対象の一方の部材)
a ネジ孔
B 部材(接合対象の他方の部材)
b テーパ孔
1 支圧接合部材
2 軸部材
2a,2b ネジ部
2c 支圧面
2d 打込孔
2e 支圧片
2f スリット
2g フック部
3 芯棒
4 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材どうしを支圧伝達可能に接合するための構造であって、
接合対象の二部材の一方にネジ孔が形成され、他方の部材には前記ネジ孔よりも大径とされたキリ孔が形成されて、それらネジ孔とキリ孔とが合致する状態で双方の部材が積層され、
先端部および基端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ基端部および中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されてなる軸部材が用いられて、該軸部材の先端部のネジ部が前記一方の部材のネジ孔に螺着された状態で該軸部材の中間部が前記他方の部材のキリ孔内に緩挿状態で配置され、
前記軸部材の打込孔に前記芯棒が打ち込まれることによって前記支圧片が径方向外側に変形せしめられて各支圧片の外周面がそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめられ、前記軸部材の基端部のネジ部にナットが螺着されることにより双方の部材どうしが締結されてなることを特徴とする支圧接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の構造により部材どうしを支圧伝達可能に接合するための部材であって、
先端部および基端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ基端部および中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されていて、先端部のネジ部が接合対象の一方の部材のネジ孔に螺着された状態で中間部が他方の部材に形成されているキリ孔内に緩挿状態で配置される軸部材と、
前記軸部材の打込孔に打ち込まれることによって前記支圧片を径方向外側に変形せしめて各支圧片の外周面をそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめる芯棒と、
前記打込孔に前記芯棒を打ち込んだ状態で前記軸部材の基端部のネジ部に螺着されて双方の部材どうしを締結するナットからなることを特徴とする支圧接合部材。
【請求項3】
部材どうしを支圧伝達可能に接合するための構造であって、
接合対象の二部材の双方にキリ孔が形成されて、それら双方のキリ孔どうしが合致する状態で双方の部材が積層され、
前記キリ孔よりも小径とされ、両端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ両端部から中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されてなる軸部材が用いられて、該軸部材の中間部が前記双方の部材のキリ孔内に緩挿状態で配置され、
前記軸部材の打込孔に前記芯棒が打ち込まれることによって前記支圧片が径方向外側に変形せしめられて各支圧片の外周面がそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめられ、前記軸部材の両端部のネジ部にナットが螺着されることにより双方の部材どうしが締結されてなることを特徴とする支圧接合構造。
【請求項4】
請求項3記載の構造により部材どうしを支圧伝達可能に接合するための部材であって、
接合対象の二部材の双方に形成されているキリ孔よりも小径とされ、両端部の外周面にそれぞれネジ部が形成されているとともに中間部の外周面には平滑な支圧面が形成され、かつ両端部から中間部の軸部には芯棒を打ち込み可能な打込孔が形成されているとともに該打込孔の周囲の壁面には該壁面を複数の支圧片に分割するスリットが形成されていて、中間部が前記キリ孔内に緩挿状態で配置される軸部材と、
前記軸部材の打込孔に打ち込まれることによって前記支圧片を径方向外側に変形せしめて各支圧片の外周面をそれぞれ前記キリ孔の内面に密着せしめる芯棒と、
前記打込孔に前記芯棒を打ち込んだ状態で前記軸部材の両端部のネジ部に螺着されて双方の部材どうしを締結するナットからなることを特徴とする支圧接合部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−299755(P2009−299755A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153875(P2008−153875)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】