改善されたフィブロネクチンベースの結合分子およびそれらの使用
本発明は、特定の標的抗原に結合するフィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子を提供する。本発明はさらに、2種以上の標的に同時に結合する、二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。本発明のFn3ベースの結合分子はまた、一体に結合して多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成するか、および/または半減期および安定性を改善するためにヒト血清アルブミン(HSA)のような非Fn3部分と複合化されていてもよい。本発明はまた、Fn3ベースの結合分子を作成し、スクリーニングし、そして多様な治療および診断適用において使用する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本願は、2008年5月2日に出願した米国仮出願第61/050,142号の優先権を主張し、その内容をそれらの全体において、参照により本明細書に組み込む。
関連情報
本明細書を通じて言及されているあらゆる特許、特許出願および文献の内容は、それらの全体において、参照により本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
所望の標的エピトープと特異的に結合することができる分子は、治療および医学的診断ツールとして極めて重要である。このクラスの分子の周知の例は、モノクローナル抗体である。ほぼあらゆる構造エピトープと特異的に、そして高い親和性で結合する抗体が、選択され得る。その結果、抗体は研究ツールおよびFDA承認治療薬として日常的に使用されており、治療用および診断用モノクローナル抗体の世界市場は現在約30,000,000,000ドルにも上る。
【0003】
しかし、モノクローナル抗体は、多数の欠点を有する。例えば、標準的な抗体は大きく、複雑な分子である。それらは2本の軽鎖と2本の重鎖を含み、鎖内および鎖間ジスルフィド結合によって結合した、異種四量体構造を有する。この構造的複雑さによって、単純な原核細胞系における抗体の容易な発現が妨げられており、より複雑な(そしてより高価な)哺乳類細胞系での抗体の産生が必要である。抗体のサイズが大きいことによっても、しばしば効果的に特定の組織空間に侵入することができないため、それらの治療上有効性が限定される。治療用抗体は、Fc領域を有するため、望ましくないエフェクター細胞機能および/または凝固カスケードを惹起することがある。さらに、二重特異性または多重特異性抗体の作成は、しばしば困難かつ複雑な方法を含む(例えば、Josefina et al., (1997), Nature Biotechnology, 15: 159-163; および Wu et al. (2007) Nature Biotechnology, 25: 1290-1297参照)。
【0004】
したがって、当該技術分野において、高い親和性および特異性で所望の標的に特異的に結合することができる代替結合分子が求められている。また、二重特異性または多重特異性結合分子を作成するための単純な方法も必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、標的抗原に特異的に結合し、したがって広範な治療および診断適用に用いることができる、フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子を提供する。本発明は、少なくとも1個の修飾底部ループを含むFn3が構造的および立体構造的安定性を保持しており、標的分子に結合できるという予期せぬ驚くべき発見に基づく。さらにまた、本発明は、Fn3の上部および底部ループの両方を用いることによって、1個のFn3分子が1種以上の標的分子に結合できる、新たな二重特異性なFn3ベースの結合分子の発見に基づく。本発明はまた、二重特異性および多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成する単純な、効果的な方法も提供する。
【0006】
したがって一つの態様において、本発明は、1種以上の標的、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、リゾチームに結合するために底部AB、CD、EFループまたはC末端を用いる、単一特異性なFn3ベースの結合分子(底部単一特異性なFn3ベースの結合分子)に関する。これらの底部単一特異性なFn3ベースの結合分子を(例えば数珠状に)一体に連結して、複数の標的に同時に結合する多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成することができ、そして/または1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)と複合化することができ、そして/または例えばFn3ベースの結合分子の半減期および安定性を改善するために、1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、抗体Fc領域またはポリエチレングリコール(PEG)と複合化することができる。
【0007】
別の態様において、底部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成するために上部BC、DEまたはFGループを用いるFn3ベースの結合分子と組み合わせてもよい。本発明はさらに、二種以上の標的と同時に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。これらの二重特異性Fn3ベースの結合分子はまた、一体に(例えば数珠状に)連結して、複数の標的に同時に結合する多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成することができ、そして/または上記のとおり1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)と複合化することができる。本発明はさらに、標的、典型的には標的タンパク質に特異的に結合するかについて、Fn3ベースの結合分子のライブラリーをスクリーニングする方法、ならびに例えば原核細胞または真核細胞系においてFn3ベースの結合分子を作成する方法を提供する。さらに、本発明は、Fn3ベースの結合分子を含む組成物(例えば治療用組成物)、ならびに多様な治療および診断適用におけるかかる組成物の使用を提供する。
【0008】
したがって一つの局面において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子に関する。具体的な態様において、AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端において変化されているアミノ酸残基は、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸の1個以上を含む。非Fn3結合配列は、例えばCDR領域(例えば抗体CDR領域)またはT細胞受容体の全部または一部であってよい。
【0009】
別の局面において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二のFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子に関する。
【0010】
別の局面において、本発明は、二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そしてFn3ドメインの上部BC、DEまたはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子を提供する。具体的な態様において、底部AB、CD、EFループ領域またはC末端における変化されたアミノ酸残基は、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸の1個以上を含み、上部BC、DEまたはFGループ領域における変化されたアミノ酸残基は、配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸の1個以上を含む。したがって、かかる本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じ分子または異なる分子の2個以上の標的に同時に結合する。
【0011】
別の局面において、本発明は、多重特異性なFn3ベースの結合分子であって、上記のいずれかのFn3ベースの結合分子の2個以上を含み、それらが同じ分子または異なる分子の2個以上の標的に結合するように一体に連結されている(例えば数珠状に)結合分子を提供する。
【0012】
本発明の「Fn3ベースの結合分子」(以後、これは二重特異性および多重特異性なFn3ベースの結合分子を含む)はまた、例えばインビボで投与したとき該Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する1個以上の非Fn3部分に結合するか、またはそれと連結していてもよい。好適な非Fn3部分は、抗体Fc領域、ヒト血清アルブミン(HSA)(またはその一部)、ポリエチレングリコール(PEG)および/または上記タンパク質もしくは半減期の延長を伴う他の血清タンパク質、例えばトランスフェリンに結合するポリペプチドを含むが、これらに限定されない。したがって、別の局面において、本発明は、非Fn3部分と連結した1個以上のFn3ベースの結合分子を含む複合体を提供する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明のFn3ベースの結合分子および複合体はさらに、機能的部分を付加するための、野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して修飾されたアミノ酸を少なくとも1個含んでいる。一つの態様において、該修飾されたアミノ酸は、ループ領域、ベータストランド領域、ベータ様ストランド領域、C末端領域、C末端と最もC末端側のベータストランド(またはベータ様ストランド)間の領域、N末端領域およびN末端と最もN末端側のベータストランド(またはベータ様ストランド)間の領域から選択される1個以上の領域における、システインまたは非天然アミノ酸残基の置換または付加を含む。
【0014】
本発明のFn3ベースの結合分子は、野生型Fn3配列(例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトFn3)および本明細書に記載のとおりかかる野生型配列の修飾型に基づいていてよい。例えば、Fn3ベースの結合分子は、少なくとも2個の異なるフィブロネクチンモジュールに由来するFn3ベータストランドを有するキメラであってよい。
【0015】
また本発明は、本発明のFn3ベースの結合分子または複合体を含み、好適な担体で製剤された組成物を提供する。
【0016】
本発明のFn3ベースの結合分子および複合体は、多様な治療および診断適用、例えば抗体を使用することができる適用を含むがこれに限定されない適用に使用できる。かかる適用は、例えば自己免疫疾患、がんおよび感染症の処置および診断を含む。
【0017】
Fn3ベースの結合分子をコードするまだら状核酸ライブラリーのような本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】強調を付したリガンド結合表面を構成するループおよびフレームワーク残基を有するFn3ベースの結合分子のリボン図を示す。
【図2】Fn3の上部および底部ループ表面を示す模式図を図示する。
【図3a】図3aは上部または底部ループのいずれかを修飾して1個の標的、標的Aに結合できることを示す、単一特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。図3bは上部および底部ループの両方を修飾して1個の標的、標的Aに結合できることを示す、二重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。二重特異性なFn3ベースの結合分子は2個の異なる標的に結合させるために用いてもよく、その場合は上部ループが1個の標的、標的Aに結合し、底部ループが第二の標的、標的Bに結合する。
【図4a】底部ループに修飾を有する2個の底部単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。
【図4b】上部および底部ループに修飾を有する2個の二重特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。
【図5】図5aは底部ループに修飾を有する複数の単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの模式図である。図5bは上部および底部ループに修飾を有する複数の二重特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの模式図である。
【図6】フィブロネクチンcDNAをクローニングするために用いるベクターの図である。
【図7】底部ループまたはC末端を用いてヒト血清アルブミンに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図8a】底部ループまたはC末端を用いてリゾチームに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図8b】底部ループまたはC末端を用いてリゾチームに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図9】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的としてヒト血清アルブミンに結合するヒスチジンタグ化単一特異性なFn3ベースの結合分子の、ヒト血清アルブミン特異的ELISA分析を示すグラフである。
【図10】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌における発現の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図11】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌溶解物からの精製の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図12】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌溶解物からの精製の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図13】底部ループまたはC末端と、上部ループの両方を用いて異なる標的分子に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子のELISA分析を示すグラフである。クローン87およびクローン89から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子は、VEGFR2に結合する上部ループと、ヒト血清アルブミンに結合する底部ループを有する。このデータは、1個のFn3ベースの結合分子を操作して上部ループがVEGFR2に結合し、底部ループがHSAに結合するようにできることを示している。
【図14】上部ループを用いてVEGFR2に結合する、クローン87から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子の、Biacore結合試験を示すグラフである。
【図15】底部ループを用いてHSAに結合する、クローン87から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子の、Biacore結合試験を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本明細書および特許請求の範囲の理解を明確にするため、次の定義が簡便には提供される。
【0020】
定義
本明細書において使用するとき、用語「フィブロネクチンタイプIIIドメイン」または「Fn3ドメイン」は、いずれかの生物由来の野生型Fn3ドメインならびに2個以上の異なるFn3ドメイン由来のベータストランドから構築したキメラFn3ドメインを意味する。当該技術分野において知られているとおり、天然に生じるFn3ドメインはAB、BC、CD、DE、EFおよびFGループと称される6個のループで連結された、A、B、C、D、E、FおよびGと称される7個のベータストランドから成るベータサンドイッチ構造を有する(例えば、Bork and Doolittle, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 89:8990, 1992; Bork et al, Nature Biotech. 15:553, 1997; Meinke et al., J. Bacteriol. 175:1910, 1993; Watanabe et al., J. Biol. Chem. 265:15659, 1990; Main et al, 1992; Leahy et al., 1992; Dickinson et al., 1994; 米国特許第6,673,901号; PCT公報WO/03104418;および米国特許出願第2007/0082365号参照、これらの全教示を参照により本明細書の一部とする)。3個のループはドメインの上部に存在し(BC、DEおよびFGループ)、3個のループはドメインの底部に存在する(AB、CDおよびEFループ)(図1参照)。本発明の特定の態様において、該Fn3ドメインはヒトフィブロネクチンの第10Fn3ドメイン(10Fn3)に由来する(配列番号1)。
【0021】
本明細書において使用するとき、用語「Fn3ベースの結合分子」または「フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子」は、1個以上の非Fn3結合配列を含むように改変されているFn3ドメインを意味する。具体的な態様において、1個以上の底部AB、CDおよび/またはEFループが、対応する野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1個以上の非Fn3結合配列を含む。別の態様において、1個以上の底部AB、CDまたはEFループと、1個以上の上部BC、DEおよびFGループが、対応する野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1個以上の非Fn3結合配列を含む。かかる分子は「二重特異性なFn3ベースの結合分子」と本明細書において称される。さらなる態様において、2個以上のFn3ベースの結合分子または二重特異性なFn3ベースの結合分子が一体に連結されている。かかる分子は、「多重特異性なFn3ベースの結合分子」と本明細書において称される。
【0022】
用語「非Fn3結合配列」は、天然に生じる(例えば野生型)Fn3ドメイン中には存在せず、特定の標的に結合するアミノ酸配列を意味する。かかる非Fn3結合配列は典型的には、野生型Fn3ドメインを修飾して(例えば置換および/または付加によって)導入される。これは例えば、野生型Fn3ドメイン内のアミノ酸残基のランダムまたは所定の変異によって得ることができる。さらにまたはあるいは、非Fn3結合配列は、部分的または完全に異種であってよく、すなわち異なる遺伝子源またはアミノ酸源に由来してよい。例えば、異種配列は、抗体の超可変領域、例えば既知の標的抗原に対して既知の結合特異性を有する1個以上のCDR領域に由来していてよい。かかるCDRは一本の抗体鎖(例えば軽鎖または重鎖の可変領域)または異なる抗体鎖の組合せに由来していてよい。CDRはまた、2種の異なる抗体(例えば異なる特異性を有する)に由来していてもよい。特定の態様において、CDRはナノ抗体、例えばラクダ様重鎖に由来している。
【0023】
本明細書において使用するとき、用語「単一特異性」は、Fn3ドメインの底部領域またはFn3ドメインの上部領域のみ(両方ではない)が結合に使用されるFn3ドメインを含む、1個以上の標的分子に結合するFn3ベースの結合分子を意味する。例えば、底部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、Fn3ドメインのAB、CDもしくはEFループのような底部ループまたはC末端のみを用いて標的に結合するが、上部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、Fn3ドメインのBC、DEおよびFGループのような上部ループのみを用いて標的に結合するものである。上部または底部の3個のループの全てが標的分子との結合に使用される必要がないことが理解される。
【0024】
単一特異性Fn3ドメインは一体に(例えば数珠状に)連結されて、例えば少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成してもよい。底部単一特異性な結合分子について、各Fn3ドメインは少なくとも1個の底部ループまたはC末端領域を用いて1個以上の標的分子に結合する。一つの態様において、この多重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じ標的分子(例えば標的A)の異なる標的領域に結合する。例えば、1個のFn3ドメインが標的Aの第一の標的領域に結合し、別のFn3ドメインが標的Aの第二の標的領域に結合できる。これを用いて、標的分子に対するFn3ベースの結合分子の結合活性を上昇させることができる。別の態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は複数の標的分子に結合する。例えば、1個のFn3ドメインが標的Aに結合して、別のFn3ドメインが標的B(例えば半減期エクステンダー)に結合できる。さらに別の態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、標的Aの異なる標的領域に結合する少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインと、標的Bの異なる標的領域に結合する少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインを含む。当業者は、任意の数のFn3ドメインをこの方法で連結して、同じ標的分子または異なる標的分子の異なる標的領域に結合できる多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。
【0025】
本明細書において使用するとき、用語「二重特異性」は、Fn3ドメインの底部領域とFn3ドメインの上部領域の両方を用いて1個以上の標的に結合するFn3ベースの結合分子を意味する。例えば、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、該分子のAB、CDもしくはEFループのような底部ループまたはC末端と該分子のBC、DEもしくはFGループのような上部ループの両方を用いて標的に結合するFn3ドメインを含んでなる。二重特異性なFn3ベースの結合分子を用いて、該二重特異性なFn3ベースの結合分子の上部および底部の両方に結合できる同一の標的分子、例えば標的Aに結合させることができる(図3b参照)。あるいは、二重特異性なFn3ベースの結合分子を用いて、2種の異なる標的分子、例えば標的Aと標的Bに結合させてもよい。この場合は、上部ループを用いて標的Aに結合させ、底部ループを用いて標的Bに結合させるか、あるいは上部ループを用いて標的Bに結合させ、底部ループを用いて標的Aに結合させることができる(図3b参照)。二重特異性なFn3ベースの結合分子を一体に(例えば数珠状に)連結させて、多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成させてもよい。
【0026】
本明細書において使用するとき、用語「多重特異性」は、一体に連結した少なくとも2個の単一特異性なFn3ベースの結合分子または一体に連結した少なくとも2個の二重特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなるFn3ベースの結合分子を意味する。
【0027】
用語「相補性決定領域(CDR)」は、抗体可変ドメインまたはT細胞受容体由来の超可変ループを意味する。抗体可変領域内のCDRの位置は、正確に定義されている(Kabat, E.A., et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, 1991およびChothia, C. et al., J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987参照、これらを参照により本明細書の一部とする)。用語「シングルドメイン抗体」は、例えばDomantis(Domantis / GSK (Cambridge, UK))に記載のヒトドメイン抗体または下記定義のラクダナノ抗体を含む、いずれかの天然に生じる一可変ドメイン抗体または対応する操作された結合フラグメントを意味する。
【0028】
用語「一本鎖抗体」は、軽鎖可変領域の抗原結合部分と重鎖可変部分の抗原結合部分とが、例えば組換え方法を用いて、VLおよびVH領域が対となって1価の分子を形成する一本のタンパク質鎖に該鎖をさせることができる合成リンカーによって結合している抗体を意味する(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えばBird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 85:5879-5883参照)。
【0029】
用語「ラクダナノ抗体」は、軽鎖を含まない小さな1個の可変ドメインであり、標的に対して高い親和性を有する低分子タンパク質を得て、低分子量抗体由来タンパク質を得るために遺伝子操作して得ることができるラクダ抗体の領域を意味する。例えば、WO07042289および1998年6月2日取得の米国特許第5,759,808号参照;また、例えばStijlemans, B. et al., 2004, J Biol Chem. 279(2): 1256-61も参照されたい。ラクダ抗体および抗体フラグメントの操作ライブラリーは、例えばAblynx、Ghent、Belgiumから商業的に入手可能である。非ヒト起源の他の抗体に関して、ラクダ抗体のアミノ酸配列を組換えによって変化させて、ヒト配列により近い配列を得ることができ、すなわちナノ抗体は「ヒト化」してもよい。これは、ヒトに対するそもそも低いラクダ抗体の抗原性をさらに低下させる。
【0030】
用語「標的」は、本発明のFn3ベースの結合分子が認識する抗原またはエピトープを意味する。標的は、タンパク質に存在するエピトープ、ペプチド、糖および/または脂質を含むが、これらに限定されない。
【0031】
用語「複合体」は、1個以上の非Fn3部分と化学的または遺伝的に結合したFn3ベースの結合分子を意味する。
【0032】
用語「非Fn3部分」は、それが結合している分子にさらなる機能性を与える生物学的または化学的要素を意味する。特定の態様において、非Fn3部分はポリペプチド、例えばヒト血清アルブミン(HSA)またはFn3ベースの結合分子のインビボでの半減期を延長する化学的要素、例えばポリエチレングリコール(PEG)である。
【0033】
用語「非天然アミノ酸残基」は、天然に生じる(野生型)Fn3ドメインには存在しないアミノ酸残基を意味する。かかる非天然アミノ酸残基は、天然に生じるアミノ酸の置換および/または天然に生じるアミノ酸Fn3配列への非天然アミノ酸の挿入によって導入することができる。非天然アミノ酸残基は、Fn3ベースの結合分子に所望の機能性、例えば機能的部分(例えばPEG)と結合する能力を付与するように、導入してもよい。
【0034】
用語「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、カップリング剤を含むかまたは含まない、あるいはカップリングまたは活性化部分で誘導体化されたかあるいはされていない、ポリアルキレングリコール化合物またはその誘導体を意味する。
【0035】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、表面プラズモン共鳴によって測定したとき、室温で標準的な生理的塩およびpH条件下で、標的と少なくとも1×10−6Mの親和性で結合し、そして/または非特異的抗原についての親和性よりも少なくとも2倍(好ましくは少なくとも10倍)の親和性で標的と結合する、Fn3ベースの結合分子の能力を意味する。
【0036】
概略
本発明は、標的抗原と特異的に結合するフィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子を提供する。本発明は、1個以上の標的分子に結合する底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の少なくとも1個以上の修飾を有する、単一特異性なFn3結合分子を提供する。本発明はさらに、2個の異なる結合節を有する同じ標的分子または2種以上の標的抗原に同時に結合する、二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。本発明のFn3ベースの結合分子はまた、一体に(例えば数珠状に)連結して、多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成するか、そして/または半減期および安定性を改善するためにヒト血清アルブミン(HSA)のような非Fn3部分と複合化されていてよい。Fn3ベースの結合分子は、抗体のような他の結合分子と同様に、多様な治療および診断適用に用いることができる。
【0037】
単一特異性なFn3結合分子
一つの局面において、本発明は、野生型Fn3ドメインと比較して(例えば底部および/または上部ループ領域において)改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている単一特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。一つの態様において、単一特異性なFn3ベースの結合分子はAB、CD、EFループまたはC末端を用いて1個以上の標的分子に結合する。
【0038】
したがって一つの態様において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている結合分子を提供する。特定の態様において、野生型Fn3ドメインはヒトFn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)である。さらに、ループ領域に隣接する1個以上のベータストランドにおける1個以上のアミノ酸残基も、野生型Fn3ドメインと比較して変異されて、非Fn3部分に結合できるさらなる非Fn3結合配列または残基をもたらしてもよい。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。
【0039】
例示的な非Fn3結合配列は、例えば抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む。
【0040】
別の局面において、本発明は、具体的な所望の標的に結合するFn3ベースの結合分子を同定するために使用できる、Fn3ベースの結合分子のライブラリーを提供する。一つの態様において、該ライブラリーは、野生型Fn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)と比較して底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上に少なくとも1個のアミノ酸改変を各々含む、複数のFn3ベースの結合分子を含む。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端およびベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。
【0041】
別の態様において、ライブラリーは、野生型Fn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)と比較して上部BC、DEまたはFGループ領域の1個以上に少なくとも1個のアミノ酸改変を各々含む、複数のFn3ベースの結合分子を含む。改変してよい上部BC、DEまたはFGループ領域およびベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸を含む。
【0042】
ライブラリーの多様性は、例えば配列番号1に開示された残基の1個以上の、ランダム突然変異、「ウォークスルー(walk though)変異誘発」または「ルックスルー(look through)変異誘発」によって作成できる(7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793、5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5,866,344 およびPCT公開公報WO06023144)。
【0043】
あるいは、Fn3ベースの結合分子は、1個以上の異なるライブラリーメンバー由来の非Fn3結合配列を組み合わせて作成してもよい。具体的な態様において、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、1個のライブラリーメンバーの底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上由来の非Fn3結合配列を、別のライブラリーメンバーの上部BC、DEまたはFGループの1個以上に由来する非Fn3結合配列と共に、1個の二重特異性なFn3ベースの結合分子に組み合わせることで作成される。
【0044】
本明細書に記載のFn3ベースの結合分子のライブラリーをコードする核酸またはその変異体は、PCRを利用するかもしくは酵素仲介遺伝子操作、最初からのDNAもしくはRNA合成、および/またはカセット変異誘発を含むがこれらに限定されない当業者に認識されている方法を用いて構築できる。
【0045】
Fn3ベースの結合分子の好適な標的は、半減期エクステンダ(例えばHSA)、リゾチーム、細胞受容体、細胞受容体リガンド、細菌またはウィルスを含むがこれらに限定されない(図1参照)。具体的な態様において、標的は、ヒトの疾患、例えば自己免疫疾患、がんまたは感染症に関与している。
【0046】
本明細書はとりわけ、Fn3分子の底部ループを用いて標的、例えばHSAに結合する新規なFn3ベースの結合分子の同定および作成について記載している。本発明の方法を用いて数百種類のクローンを作成し、代表的な数個を実施例4に示すように特徴付けた。図7はHSAに結合するFn3足場タンパク質のこのライブラリーから単離した代表数の配列を示す(配列番号7〜41)。
【0047】
さらにまた、多くの独立的にランダム化したループがHSA結合に参加する可能性があるコンセンサス配列(配列番号42)に集中する傾向があることを見出した。したがって、このコンセンサス配列を有するポリペプチドが、それらが同定されたタンパク質の前後関係から分離されたとしても、HSA結合物質として有用であると期待される。
【0048】
図8はリゾチームに結合するFn3足場タンパク質のこのライブラリーから単離した代表的な数の配列を示す(配列番号43〜116)。実施例5のデータは、代表的な数個のFn3ベースの結合タンパク質のHSAに対する結合試験を示す。この結果は、標的に結合する能力を有するFn3結合分子が修飾底部ループによって作成できることを示している。
【0049】
このデータは、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように修飾されているFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成できることを示している。HSAライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と同じ長さを保っていた。リゾチームライブラリーについて、底部ループの長さは、タンパク質の構造に有害な影響を与えることなく、変化した。さらに、これらの修飾された底部ループを有する単一特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造的安定性を維持し、結合能を維持しながら発現され、精製可能である。したがって、本発明の方法を用いて、少なくとも1個の修飾された底部ループを有するFn3ベースの結合分子、ならびに底部表面を用いて標的に結合するFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成することができる。
【0050】
二重特異性なFn3ベースの結合分子
一部は上記のとおり、別の局面において、本発明は、2個以上の標的に同時に結合できる二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。かかる二重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じタンパク質ドメイン内に2個以上の非Fn3結合配列を含む。これは、上部および底部AB、BC、CD、DE、EFまたはFGループ領域の2個以上を改変して非Fn3結合配列を含めることによって得られる(図1参照)。特定の態様において、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個の別々の結合特異性を作成するために上部と底部ループ領域の両方において改変されている。
【0051】
したがって一つの態様において、本発明は、二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDまたはEFループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列を作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEおよびFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列を作成されている結合分子を提供する。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。改変してよい上部BC、DEまたはFGループ領域および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸を含む。
【0052】
本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個以上の標的に同時に結合する。標的は同じ分子に存在していてよく、同じ標的分子の2個の領域が該標的と二重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。あるいは、標的は異なる分子に存在していてよく、2個の異なる分子が該標的と二重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。標的は同一であってもよく、抗体が分子を集合させることができるのと同様に、二重特異性なFn3ベースの結合分子が標的分子を集合させることができる。
【0053】
好適な標的は、上記のものを単独で、あるいは半減期エクステンダー、例えばHSA、抗体FcレセプターまたはPEGのような、二重特異性なFn3ベースの結合分子の物理的特性を向上する分子に存在する標的と組み合わせて含む。好適な標的は、本明細書に記載のとおり、さらなる機能的特性、例えば細胞傷害性、標識またはイメージング部分を与える分子も含む。2個の二重特異性なFn3ベースの結合ドメイン分子が標的に同時に結合できるとき、好適な標的を用いて、二重特異性なFn3ベースの結合分子の二量体化を誘導してもよい。例えば、2個の二重特異性なFn3ベースの結合分子がイディオタイプ/抗イディオタイプな関係で働き得る。この場合、Fn3結合分子の1個の結合部位が標的分子に結合するが、Fn3結合分子の第二の結合部位はFn3結合分子の結合領域に結合する。例えば、二重特異性なFn3結合分子の底部ループが標的Aに結合し得るが、該二重特異性な分子の上部ループは第二の二重特異性なFn3結合分子に結合し得る。これは、底部ループ標的結合部位が標的Aとの結合に利用可能であり、上部ループ結合部位が第二のFn3結合分子との自己会合を導くように、Fn3結合分子の多量体化を導く。
【0054】
本明細書はとりわけ、同じFn3分子の底部ループと上部ループの両方を用いて2個の異なる標的分子、例えばHSAおよびVEGFR2に結合する、新規な二重特異性なFn3分子の同定および作成について記載する。本発明の方法を用いて数百個のクローンを作成して、1個、特にクローン89が実施例6および7においてより詳細に説明される。クローン89は、Fn3分子の底部ループがHSAと結合し、同じFn3分子の上部ループがVEGFR2に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子である(配列番号120)。
【0055】
二重特異性なFn3結合分子は、所望の機能、例えばHSAとの結合能を有する単一特異性なFn3ベースの結合分子をまず同定して、作成してもよい。この単一特異性なFn3ベースの分子は、2個の結合表面の一方にのみループ変動を有する(すなわち、上部ループか底部ループのいずれかであって、両方ではない)。所望の機能を有する好適な単一特異性なFn3ベースの結合分子を同定した後、次いでこの分子を足場として用いて、Fn3分子の逆の表面のループが改変されているライブラリーを作成し、したがって二重特異性なFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成する。次いでこの二重特異性なFn3ベースの結合分子のライブラリーを用いて、2個の標的に結合する二重特異性なものを同定するために、第二の標的分子に対するスクリーニングを行う。例えば、単一特異性なFn3ベースの結合分子は少なくとも1個の底部ループを用いてHSAに結合できる。この単一特異性なFn3ベースの結合分子を足場として用いて、該分子の少なくとも1個の上部ループが第二の標的、例えばVEGFR2に結合するように改変されているライブラリーを作成して、二重特異性なFn3ベースの分子のライブラリーを作成する。この二重特異性なFn3ベースの分子のライブラリーを用いて、VEGFR2標的に対するスクリーニングを行うことができる。
【0056】
VEGFR2はVEGFシグナル伝達の血管新生促進効果の一次メディエーターである。VEGFR−2はVEGF−A、VEGF−CおよびVEGF−Dに結合し、活性化される。内皮細胞において、VEGFR−2活性化刺激細胞増殖および移動、ならびにインビボでのVEGFR−2活性化は、血管新生を惹起し、脈管構造の透過性を向上させる。血管新生の増加は、腫瘍増殖および多様な網膜症の重要な特徴として十分に確立されており、また脈管構造の透過性の向上は多くの炎症性応答における重要な事象である(例えばWO2005056764参照)。
【0057】
このデータは修飾された底部ループを有する二重特異性なFn3ベースの結合分子が立体構造安定性を維持し、結合活性を保持したまま発現され、精製され得ることを示している。当業者は、本明細書に記載の本発明の方法を用いて、いずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。二重特異性な分子は、いずれかの興味のある標的に結合するように設計できる。例えば、二重特異性な分子は、同じ標的の異なる結合部位に結合できる。あるいは、二重特異性な分子は、異なる標的分子に結合できる。
【0058】
多重特異性なFn3ベースの結合分子
別の局面において、本発明は、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子または二重特異性なFn3ベースの結合分子を含み、それらが一体に(例えば遺伝子的または化学的に)連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。多重特異性なFn3ベースの結合分子は、少なくとも1個の底部ループAB、CD、EFを用いて標的に結合する、少なくとも1個の単量体Fn3ベースの結合分子を含む。
【0059】
一つの態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、数珠状に連結されており、各Fn3ベースの結合分子がそれぞれ特定の標的に結合する、2個以上のFn3ベースの結合分子を含んでなる。二重特異性なFn3ベースの結合分子について、かかる標的は同じ分子または異なる分子に存在していてよく、異なる分子は該多重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。標的は同一であってもよく、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、抗体と同様に、標的分子を集合させることができる。
【0060】
多様なFn3ベースの結合分子、例えば単一の結合特異性を有するFn3ベースの結合分子、二重特異性なFn3ベースの結合分子または両方のタイプのFn3ベースの結合分子の組合せが、多重特異性なFn3ベースの結合分子に組み込まれてよい。したがって、多重特異性なFn3ベースの結合分子の好適な標的は、Fn3ベースの結合分子および二重特異性なFn3ベースの結合分子において記載したものを含む。
【0061】
多重特異性なFn3ベースの結合分子は、当該技術分野において知られている方法を用いて作成できる。例えば、Fn3ベースの結合分子が1個のポリペプチドとして発現されるように、Fn3ベースの結合分子を遺伝子的に連結してよい。この連結は、直接であるか、あるいはさらなるアミノ酸「リンカー」配列によって行ってよい。好適な非限定的な方法およびリンカーは、例えば US20060286603 および WO04041862A2に記載されている。例示的なポリペプチドリンカーは、GGGGSGGGGS(配列番号118)、GSGSGSGSGS(配列番号121)、PSTSTST(配列番号122)およびEIDKPSQ(配列番号123)のようなGSリンカーならびにそれらの多量体を含むが、それらに限定されない。実施例6はG−Sリンカーを用いてどのように多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成するかを示している。具体的には、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、上部ループを用いてVEGFR2に結合する第一の単一特異性なFn3ベースの結合分子と、底部ループを用いてHSAに結合する第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子を連結するGGGGSGGGGS(配列番号118)リンカー配列を用いて作成する(配列番号119)。
【0062】
リンカー配列を用いて作成した多重特異性なFn3ベースの結合分子は標的分子との結合について改善された立体障害を有し、したがってより短いリンカー配列を2個以上の単量体Fn3ベースの結合分子を一体に連結するために使用できる。より短いリンカー配列は、免疫原性応答を低減し、分裂する可能性を低減する。
【0063】
あるいは、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、当該技術分野において既知の方法を用いて、個々のFn3ベースの結合分子を化学的に複合体化して作成できる。多様なカップリング剤または架橋剤が共有複合化のために使用できる。架橋剤の例には、例えばプロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を含む(例えば、Karpovsky et al. (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, MA et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:8648参照)。他の方法は、Paulus (1985) Behring Ins. Mitt. No. 78, 118-132; Brennan et al. (1985) Science 229:81-83)、および Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139: 2367-2375)に記載のものを含む。好ましい複合化剤はSATAおよびスルホ−SMCCであり、いずれもPierce Chemical Co. (Rockford, IL)から入手可能である。システイン残基をFn3結合分子の特定の位置で導入して(例えば参照)、DPDPBまたはDTME(Pierceから入手可能)のようなスルホヒドリルと物質を架橋して、2個の分子を一体に連結できる。
【0064】
実施例6および7は、リンカー配列で一体に連結する2個の別々の単一特異性なFn3分子を用いて、2個の異なる標的、HSAとVEGFR2に結合する新規な二重特異性なFn3分子の同定および作成について記載している。この具体例において、1個の単量体Fn3ベースの結合分子は、底部ループを使用してHSAに結合し、他方の単一特異性なFn3ベースの結合分子は上部ループを使用してVEGFR2に結合する。本発明の方法を用いて数百個のクローンを作成し、代表的な数個、特にクローン89を特徴付けた。このデータは、修飾された底部ループを有する多重特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造安定性を維持し、結合活性を保持したまま発現され、精製され得ることを示している。当業者は本発明の方法を用いて、任意の数の多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。かかる多重特異性な結合分子は、1個の標的に結合するように設計してもよい。あるいは、多重特異性な結合分子は2個以上の標的に結合するように設計してもよい。
【0065】
Fn3ベースの結合分子の複合体
別の局面において本発明は、1個以上の非Fn3部分と連結したFn3ベースの結合分子を含んでなる複合体を提供する。かかる非Fn3部分は、例えばFn3ベースの結合分子にさらなる機能的または物理化学的特性を与えることができる。一つの態様において、Fn3ベースの結合分子は、抗体Fcドメイン(またはその一部)に連結または融合する。分子とFcドメイン、例えばIgG1のFcドメインを融合する方法は、当該技術分野において既知である(例えばU.S. 5,428,130参照)。かかる複合体は、IgGホメオスタシスにおいて重要な機能を提供して、異化からそれと結合する分子を保護するFcRnと結合するFcの能力のため、延長された循環系半減期を有する。
【0066】
別の態様において、Fn3ベースの結合分子は1個以上のヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチドまたはその一部と融合する。成熟形態では585アミノ酸のタンパク質であるHSAは、血清の浸透圧の大部分に関与しており、内因性および外因性リガンドのキャリヤーとして機能する。キャリヤー分子としてのアルブミンの役割およびその不活性性は、インビボでペプチドのキャリヤーおよびトランスポーターとして使用するために望ましい特性である。多様なタンパク質のキャリヤーとしてのアルブミン融合タンパク質としてのアルブミンの使用は、WO 93/15199、WO 93/15200およびEP 413 622において示唆されている。ポリペプチドと融合するためのHSAのN末端フラグメントの使用も提案されている(EP 399 666)。したがって、本発明の分子とアルブミンまたはアルブミンのフラグメント(一部)または変異体あるいはタンパク質および/またはその活性を安定化するために十分なHSAと結合することができる分子(抗HSAバインダー)とを遺伝子的または化学的に融合または結合させることによって、該分子は安定化されて、保存期間が延長され、そして/または溶液中、インビトロおよび/またはインビボで長期間、分子の活性が保持される。
【0067】
アルブミンと他のタンパク質との融合は、HSAをコードするDNAまたはそのフラグメントを、該タンパク質をコードするDNAと結合させるように、遺伝子操作することによって達成することができる。次いで、融合ポリペプチドを発現するように好適なプラスミドを設計した該融合ヌクレオチド配列で、好適な宿主を形質転換またはトランスフェクトする。発現は、例えば原核細胞または真核細胞から、インビトロで、あるいは例えばトランスジェニック生物から、インビボで実施することができる。HSA融合に関するさらなる方法は、例えばWO 2001077137およびWO 200306007に見出すことができ、これらを参照により本明細書の一部とする。具体的な態様において、融合タンパク質の発現は、哺乳類細胞系、例えばCHO細胞系において実施する。
【0068】
他の本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、少なくとも1個の異なる結合部位または標的分子に結合する分子を作成するために、非Fn3ベースの結合分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば抗体または受容体のリガンド)に連結したFn3ベースの結合分子を含む。
【0069】
本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、当該技術分野において既知の方法を用いて、構成分子を結合させて作成できる。例えば、多様なカップリング剤または架橋剤を共有複合化に使用して、構成分子を化学的に結合させることができる。架橋剤の例には、例えばプロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を含む(例えば、Karpovsky et al. (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, MA et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:8648参照)。他の方法は、Paulus (1985) Behring Ins. Mitt. No. 78, 118-132; Brennan et al. (1985) Science 229:81-83)、および Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139: 2367-2375)に記載のものを含む。好ましい複合化剤はSATAおよびスルホ−SMCCであり、いずれもPierce Chemical Co. (Rockford, IL)から入手可能である。
【0070】
あるいは、構成分子を同じベクターにコード化して、宿主細胞において1個のタンパク質として発現させることができる。かかる融合タンパク質を作製する方法は、例えば米国特許5,260,203; 米国特許5,455,030; 米国特許4,881,175; 米国特許5,132,405; 米国特許5,091,513; 米国特許5,476,786; 米国特許5,013,653; 米国特許5,258,498; および米国特許5,482,858に記載されている。
【0071】
さらに別の態様において、本発明は、例えば分子の生物学的(例えば血清)半減期を延長するため、ポリエチレングリコール(PEG)と複合化したFn3ベースの結合分子を提供する。タンパク質をPEG化するための方法は当該技術分野において既知である。例えば、1個以上のPEG基が該分子に結合する条件下で、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体のようなPEG部分とFn3ベースの結合分子を反応させる。用語「ペグ化部分」、「ポリエチレングリコール部分」または「PEG部分」は、ポリアルキレングリコール化合物、あるいはカップリング剤またはカップリングもしくは活性化部分での誘導体化(例えば、チオール、トリフレート、トレシレート、アジルジン、オキシランまたは好ましくはマレイミド部分と、例えばPEG−マレイミド)ありまたはなしでのその誘導体を含む。他の適切なポリアルキレングリコール化合物は、マレイミドモノメトキシPEG、活性化PEGポリプロピレングリコール、あるいは次のタイプの荷電もしくは中性ポリマーを含むが、これらに限定されない:デキストラン、コロミン酸または他の糖ベースのポリマー、アミノ酸のポリマーおよびビオチン誘導体。
【0072】
PEG誘導体のための好適な官能基の選択は、分子上の利用可能な反応基のタイプまたはPEGと結合させる分子のタイプに基づく。タンパク質について、典型的な反応性アミノ酸は、リジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、チロシンを含む。N末端アミノ基およびC末端カルボン酸も使用することができる。
【0073】
好ましくは、ペグ化は反応性PEG分子(または類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応によって実施される。本明細書において使用するとき、用語「ポリエチレングリコール」は他のタンパク質の誘導体化に使用されているあらゆる形態のPEG、例えばモノ(C1−C10)アルコキシ−もしくはアリールオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドを含む。タンパク質をペグ化する方法は当該技術分野において既知であり、本発明に適用することができる。例えば、WO 2005056764, U.S.7,045,337, U.S.7,083,970, U.S.6,927,042, Nishimura et al.によるEP 0 154 316およびIshikawa et alによるEP 0 401 384を参照されたい。Fn3ベースの結合分子は、ペグ化を促進するため、少なくとも1個のシステインアミノ酸または少なくとも1個の非天然アミノ酸を含むように操作されていてもよい。
【0074】
Fn3ベースの結合分子複合体とその特異的標的との結合は、多様なアッセイによって確認することができ、例えば融合体をラジオイムノアッセイ(RIA)において、放射活性によって標識し、使用することができる(例えば、Weintraub, B., Principles of Radioimmunoassays, Seventh Training Course on Radiolidang Assay Techniques, The Endocrine Society, March, 1986参照、これらを参照により本明細書の一部とする)。放射性同位体は、γカウンターまたはシンチレーションカウンターの使用のような方法によって、またはオートラジオグラフィーによって検出することができる。
【0075】
他の本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、タグ(例えばビオチン)または化学物質(例えば免疫毒素または化学療法剤)と結合したFn3ベースの結合分子を含む。かかる化学物質は、細胞に有害な(例えば殺す)任意の薬物である細胞傷害剤を含む。例えば、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、ミトマイシン、エトポシド、テニポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロールおよびプロマイシンならびにそれらのアナログまたはホモログを含む。治療薬物はまた、例えば代謝拮抗剤(例えばメトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシル、デカルバジン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオエパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ミトマイシンCおよびcis-ジクロロジアミンプラチナ(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えばダウノルビシン(正式にはダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗菌剤(例えばダクチノマイシン(正式にはアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシンおよびアントラマイシン(AMC))および抗有糸分裂剤(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)を含む。本発明のフィブロネクチンベースの結合分子と結合することができる他の治療用細胞傷害剤の例は、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、マイタンシンおよびアウリスタチンならびにそれらの誘導体を含む。
【0076】
細胞傷害剤は、当該技術分野において利用可能なリンカー技術を用いて、本発明のFn3ベースの結合分子と結合することができる。細胞傷害剤と結合するために使用されるリンカータイプの例は、ヒドラゾン、チオエーテル、エステル、ジスルフィドおよびペプチド含有リンカーを含むが、これらに限定されない。リンカーは、例えばリソソーム区画内での低pHによる切断に受容性であるか、あるいは腫瘍組織において優先的に発現されているプロテアソーム、例えばカテプシン(例えばカテプシンB、C、D)のようなプロテアソームによる切断に受容性であるように選択してもよい。細胞傷害剤のタイプ、リンカーおよび治療薬物を複合化する方法のさらなる説明は、Saito, G. et al. (2003) Adv. Drug Deliv. Rev. 55:199-215; Trail, P.A. et al. (2003) Cancer Immunol. Immunother. 52:328-337; Payne, G. (2003) Cancer Cell 3:207-212; Allen, T.M. (2002) Nat. Rev. Cancer 2:750-763; Pastan, I. and Kreitman, R. J. (2002) Curr. Opin. Investig. Drugs 3:1089-1091; Senter, P.D. and Springer, C.J. (2001) Adv. Drug Deliv. Rev. 53:247-264も参照されたい。
【0077】
本発明のFn3ベースの結合分子は、細胞傷害放射性薬物(放射性免疫複合体とも称する)を作成するために、放射性同位体と複合化してもよい。診断または治療に使用するためにフィブロネクチンベースの結合分子と複合化することができる放射性同位体の例は、ヨウ素131、インジウム111、イットリウム90およびルテチウム177を含むが、これらに限定されない。放射性免疫複合体を作成する方法は、当該技術分野において確立されている。放射性免疫複合体の例は、イブリツモマブ、チウキセタンおよびトシツモマブを含む商業的に入手可能なものであり、同様の方法を用いて、本発明の分子を使用して放射性免疫複合体を作成することができる。
【0078】
本発明のFn3ベースの結合分子複合体を使用して、所定の生物学的応答を修飾することができ、そして薬物部分は伝統的な化学治療薬物に限るものとして構成されない。例えば、薬物部分は所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってもよい。かかるタンパク質は、例えば酵素的に活性な毒物またはそのフラグメント、例えばアブリン、リシンA、シュードモナス属外毒素、またはジフテリア毒素;腫瘍壊死因子またはインターフェロンγのようなタンパク質;または生物学的応答調節剤、例えばリンホカイン、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)または他の増殖因子を含み得る。
【0079】
かかる治療部分を複合化する技術は周知であり、本発明の分子に適用可能である。例えばArnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”, Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeld et al. (eds.), pp. 243-56 (Alan R. Liss, Inc. 1985); Hellstrom et al., “Antibodies For Drug Delivery”, Controlled Drug Delivery (2nd Ed.), Robinson et al. (eds.), pp. 623-53 (Marcel Dekker, Inc. 1987); Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review”, Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, Pinchera et al. (eds.), pp. 475-506 (1985); “Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”, Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy, Baldwin et al. (eds.), pp. 303-16 (Academic Press 1985)および Thorpe et al., “The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates”, Immunol. Rev., 62:119-58 (1982)を参照されたい。
【0080】
本発明のFn3ベースの結合分子は、薬物特性を修飾するために、薬物と結合したヒドロキシエチルデンプン(HES)誘導体を用いたHES化によって修飾してもよい。HESは、体の酵素によって分解される、ロウ様トウモロコシデンプン由来の修飾された天然ポリマーである。この修飾のため、分子の安定性が上昇し、腎クリアランスが低下することによって循環系半減期が延長されて、生物学的活性の上昇がもたらされる。さらにまた、HES化は免疫原性およびアレルゲン性を強力に変化させる。HESの分子量のような異なるパラメーターを変化させて、広範なHES薬物複合体をカスタマイズすることができる。
【0081】
DE 196 28 705 および DE 101 29 369は、ヒドロキシエチルデンプンの対応するアルドノラクトンを介して、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)中でヒドロキシエチルデンプンをヘモグロビンおよびアンホテリシンBの遊離アミノ基と結合させることができる方法をそれぞれ開示している。特にタンパク質の場合に、溶解性またはタンパク質の変性の理由で、無水非極性溶媒を使用することができないことが多いため、水性媒体中でHESによるカップリング法も利用可能である。例えば、鎖の還元末端でアルドン酸に選択的に酸化されているヒドロキシエチルデンプンのカップリングは、水溶性カルボジイミドEDC(1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)カルボジイミド)の仲介によって可能である(PCT/EP 02/02928)。本発明に適用することができるさらなるHES化法は、例えばU.S. 20070134197, U.S. 20060258607, U.S. 20060217293, U.S. 20060100176および U.S.20060052342に記載されている。
【0082】
本発明のFn3ベースの結合分子はまた、糖残基によって修飾されていてもよい。タンパク質を糖残基で修飾するかあるいはタンパク質をグリコシル化する方法は、当該技術分野において既知であり(例えば、Borman (2006) Chem.&Eng. News 84(36):13-22およびBorman (2007) Chem.&Eng. News 85:19-20参照)、本発明の分子に適用可能である。
【0083】
さらにまたはあるいは、フコシル残基の量が少ない低フコシル化パターンのような別のタイプのグリコシル化を有する本発明のFn3ベースの結合分子、あるいは増加した二分(bisecting)GlcNac構造を有するFn3ベースの結合分子を作成することができる。かかる糖修飾は、例えば改変されたグリコシル化機構を有する宿主細胞中でFn3ベースの結合分子を発現させることによって実施することができる。改変されたグリコシル化機構を有する細胞は当該技術分野において説明されており、これは本発明の組換えFn3ベースの結合分子を発現させて、それによって改変されたグリコシル化を有する本発明のFn3ベースの結合分子を作成する宿主細胞として使用することができる。例えば、Hang et al.によるEP 1,176,195には、機能的に破壊された、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子を有する細胞系であって、かかる細胞系において発現された抗体が低フコシル化を示す細胞系が記載されている。PrestaによるPCT公報WO 03/035835は、フコースとAsn(297)結合糖の結合能が低下しており、また宿主細胞において発現された抗体の低フコシル化をもたらす変異CHO細胞系、Lecl3細胞について記載している(Shields, R.L. et al., 2002 J. Biol. Chem. 277:26733-26740も参照)。ヒト様グリコシル化パターンを有するポリペプチドを作成する方法は、GlycofiのEP1297172B1および他のパテントファミリーにも記載されている。
【0084】
Fn3ベースの結合分子を作成する方法
1)核酸およびアミノ酸変化
1個以上のアミノ酸またはヌクレオチド修飾(例えば変化)を有する本発明のFn3ベースの結合分子は、多様な既知の方法によって作成することができる。典型的には、かかる修飾されたFn3ベースの結合分子は、例えば、組換え法によって作成することができる。さらに、遺伝子コードの縮重のため、多様な核酸配列を用いて各々所望の分子をコードすることができる。
【0085】
出発分子のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子を作成するための、当該技術分野において認識されている方法の例は、部位特異的(またはオリゴヌクレオチド介在)突然変異誘発、PCR突然変異誘発および該分子をコードする前に作成されたDNAのカセット突然変異誘発による作成を含むが、これらに限定されない。
【0086】
部位特異的突然変異誘発は、置換変異体を作成するための好ましい方法である。この技術は当該技術分野において周知である(例えば、Carter et al. Nucleic Acids Res. 13:4431-4443 (1985)およびKunkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:488 (1987)参照)。簡潔には、DNAの部位特異的突然変異誘発の実施において、親DNAは最初に、かかる親DNAの一本鎖と所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせて変化させる。ハイブリダイゼーションの後、DNAポリメラーゼを用いて、プライマーとして上記ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドを使用し、そしてテンプレートとして上記親DNAの一本鎖を使用して、全第二鎖を合成する。かくして、所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドは、得られた二本鎖DNAに組み込まれる。
【0087】
PCR突然変異誘発も、出発分子のアミノ酸配列変異体を作成するために好適である。Higuchi, in PCR Protocols, pp.177-183 (Academic Press, 1990);および Vallette et al., Nuc. Acids Res. 17:723-733 (1989)を参照されたい。簡潔には、PCRにおいて少量のテンプレートDNAを出発物質として使用するとき、テンプレートDNAの対応する領域とはわずかに配列が異なるプライマーを使用して、プライマーがテンプレートと異なる位置でのみテンプレート配列と異なる特定のDNAフラグメントを比較的大量に作成することができる。
【0088】
変異体を作成するための別の方法であるカセット突然変異誘発は、Wells et al., Gene 34:315-323 (1985)に記載の技術に基づく。出発物質は、変異される出発ポリペプチドDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。変異される親DNAのコドンを同定する。同定した変異部位(複数でも可)の両側に、固有の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在していなければならない。かかる制限部位が存在しないとき、出発ポリペプチドDNAの適切な位置でそれらを導入するため、上記オリゴヌクレオチド介在突然変異誘発方法を用いてそれらを作成することができる。これらの部位でプラスミドDNAを切断して、直線にする。制限部位間のDNA配列をコードするが所望の変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドは、標準的な方法を用いて合成され、ここで該オリゴヌクレオチドの2本の鎖は別個に合成され、次いで標準的な技術を用いて一体にハイブリダイズする。この二本鎖オリゴヌクレオチドは、カセットと称される。このカセットは、直線化されたプラスミドの末端と適合可能である5’および3’末端を有するように設計され、それはプラスミドと直接ライゲートすることができる。そうしてこのプラスミドは、変異DNA配列を含む。
【0089】
あるいはまたはさらに、本分子のポリペプチド変異体をコードする所望のアミノ酸配列を決定することができ、かかるアミノ酸配列変異体をコードする核酸配列を合成的に作製することができる。
【0090】
本発明のFn3ベースの結合分子は、アミノ酸配列が(例えば野生型とは)異なるが、所望の活性には変化がないように、さらに修飾されていてもよいことが、当業者には理解される。例えば、「非本質的な」アミノ酸残基でのアミノ酸置換を導くさらなるヌクレオチド置換が該タンパク質に行われていてもよい。例えば、分子中の非本質的なアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置換されていてもよい。他の態様において、一連のアミノ酸が、順序および/または側鎖ファミリーメンバーの組成において異なる構造的に類似した一連のもので置換されていてもよく、すなわちあるアミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置換された保存的置換を行うことができる。
【0091】
同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族性側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0092】
アミノ酸置換に加えて、本発明は、機能的に均等な分枝を作成するための、出発分子アミノ酸配列の他の修飾を意図する。例えば、1個以上のアミノ酸残基を欠失させてもよい。一般に、本発明のこの態様に従って、1〜約10個以下の残基が欠失される。1個以上のアミノ酸欠失を含むフィブロネクチン分子は、好ましくは出発ポリペプチド分子の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%を保持している。
【0093】
元のFn3ドメインまたはFn3ベースの結合分子機能を保持したアミノ酸挿入変異体を作成してもよい。例えば、本分子に少なくとも1個のアミノ酸残基(例えば1〜2個のアミノ酸残基、一般に10残基以下)を導入することができる。他の態様において、アミノ酸修飾は、1個のFn3ドメインまたはFn3ベースの結合分子内で組み合わせてもよい。
【0094】
一つの態様において、アミノ酸置換は、システインまたはFn3ベースの結合分子と部分の結合に好適な他の非天然アミノ酸を含むように、周知の結合方法を使用して、Fn3ドメインで実施される。特に本発明は、Fn3足場を有するFn3ベースの結合分子の特定のアミノ酸変異体であって、1個以上のセリンアミノ酸残基がシステインまたは他の非天然アミノ酸で置換されている変異体に関する。置換され得るセリンアミノ酸残基は、Ser 1432、Ser 1436、Ser 1458、Ser 1475およびSer 1504を含むが、これらに限定されない。置換され得るFn3足場の他のアミノ酸位置は、V 1426、L 1434、T 1473およびT 1486を含むが、これらに限定されない。天然には生じないアミノ酸は、例えばAmbrex技術を用いてFn3足場に置換され得る(例えばUS 7,045,337; 7,083,970参照)。
【0095】
2)Fn3ベースの結合分子を同定するためのスクリーニングアッセイ
多様なスクリーニングアッセイを使用して、本発明のFn3ベースの結合分子を同定することができる。所望の抗原との結合について選択するいずれかのインビトロまたはインビボスクリーニング方法が、本質的には、使用できる。
【0096】
一つの態様において、Fn3ベースの結合分子は細胞、ウイルスまたはバクテリオファージの表面に提示され、固定化抗原を用いた選択に供される。スクリーニングのための好適な方法は、米国特許7,063,943; 6,699,658; 7,063,943および5866344に記載されている。かかる表面ディスプレイ法は、Fn3ベースの結合分子と通常細胞、ウイルスまたはバクテリオファージの外側表面に存在する好適なタンパク質との融合タンパク質の作成を必要とし得る。かかる融合体を作成するための好適なタンパク質は、当該技術分野において周知である。
【0097】
他の態様において、Fn3ベースの結合分子は、リボソームまたはポリソームディスプレイのようなインビトロ表現型−遺伝子型連鎖ディスプレイを用いてスクリーニングされる。かかる「分子進化」の方法は、当該技術分野において周知である(例えば米国特許6,194,550および7,195,880参照)。
【0098】
スクリーニング方法は、1回以上のインビトロまたはインビボ親和性成熟段階を含んでいてもよい。所望の抗原とFn3ベースの結合分子の結合を改善するFn3ドメインまたはCDRにおけるアミノ酸変化をもたらすあらゆる親和性成熟アプローチを使用することができる。これらのアミノ酸変化は、例えばランダム突然変異誘発、「ウォークスルー突然変異誘発」および「ルックスルー突然変異誘発」によって達成され得る。かかる突然変異誘発は、例えば誤りがちな(error-prone)PCR、酵母または細菌の「ミューテーター」株、Fn3ベースの結合分子の全部または一部の最初からの合成中でのランダムまたは所定の核酸変化の導入を用いて、達成され得る。親和性成熟および/または突然変異誘発を実施する方法は、例えば米国特許7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793, 5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5866344およびPCT公報WO06023144に記載されている。かかる親和性成熟方法は、改善された抗原親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択するために抗原結合スクリーニングアッセイのストリンジェンシーを上昇することがさらに必要であり得る。タンパク質−タンパク質相互作用のストリンジェンシーを上昇させるための当該技術分野において知られている方法をここで用いてよい。一つの態様において、所望の抗原に対するFn3ベースの結合分子の親和性を低下させるために、1個以上のアッセイ条件(例えばアッセイバッファーの塩濃度)を変化させる。別の態様において、Fn3ベースの結合分子が所望の抗原と結合することができる時間を短くする。他の態様において、タンパク質間相互作用アッセイに競合的結合工程を加える。例えば、Fn3ベースの結合分子は最初に、所望の固定化抗原と結合させる。次いで、固定化抗原と競合して結合する特定の濃度の非固定化抗原を加えて、抗原に対して最も低い親和性を有するFn3ベースの結合分子を固定化抗原から溶出させて、改善された抗原結合親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択する。該アッセイ条件のストリンジェンシーは、アッセイに加える非固定化抗原の濃度を上昇させて、さらに上昇させることができる。
【0099】
本発明のスクリーニング法はまた、改善された抗原結合性を有する1種以上のFn3ベースの結合分子を富化するため、複数回の選択を必要としてもよい。一つの態様において、選択のそれぞれの回でさらにアミノ酸変異をFn3ベースの結合分子に導入する。他の態様において、選択のそれぞれの回で所望の抗原との結合のストリンジェンシーを上昇して、増加した抗原親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択する。
【0100】
本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子の場合には、各結合特異性について独立してスクリーニングすることが好ましい。従って、AB、CDまたはEFループの1個以上における1個以上のアミノ酸が改変されているFn3ベースの結合分子の第一ライブラリーを用いて、第一の標的に結合する個々のFn3ベースの結合分子を同定する第一スクリーニングを行う。BC、DEおよびFGループの1個以上における1個以上のアミノ酸が改変されているFn3ドメインの第二ライブラリーを用いて、第二の標的に結合する個々のFn3ベースの結合分子を同定する別個の第二スクリーニングを行う。両方のスクリーニングから同定した個々の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を、当該技術分野において既知の方法を用いて、決定する。個々のFn3ベースの結合分子由来の第一および第二の標的結合配列を1個のキメラFn3ベースの結合分子に組み合わせて、二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成する。
【0101】
3)製造方法
本発明のFn3ベースの結合分子は典型的には、組み換え発現によって作成する。該分子をコードする核酸を発現ベクターに挿入する。該分子をコードするDNAセグメントは、それらの発現を確実に行うため発現ベクターの調節配列と作動可能に連結している。発現調節配列は、プロモーター(例えば天然関連または異種プロモーター)、シグナル配列、エンハンサー要素および転写終止配列を含むが、これらに限定されない。好ましくは、発現調節配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることができるベクター内の真核プロモーター系である。ベクターが適切な宿主に取り込まれると、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で該宿主を維持し、交叉反応するFn3ベースの結合分子を回収および精製する。
【0102】
これらの発現ベクターは典型的には、エピソームとして、あるいは宿主染色体DNAの不可欠な部分として、宿主生物内で複製可能である。一般に、発現ベクターは所望のDNA配列で形質転換された細胞の検出を可能とするため、選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性またはネオマイシン耐性)を含む(例えば、Itakura et al., 米国特許4,704,362参照)。
【0103】
大腸菌は本発明のポリヌクレオチド(例えばDNA配列)をクローン化するために特に有用な原核宿主である。使用に好適な他の微生物宿主は、枯草菌のような細菌およびサルモネラ、セラチアおよび多様なシュードモナス属の種のような他の腸内細菌を含む。
【0104】
酵母のような他の微生物も発現に有用である。サッカロマイセスおよびピキアは、望ましい発現調節配列(例えばプロモーター)、複製起点、終止配列等を有する好適なベクターを有する、例示的な酵母宿主である。典型的なプロモーターは、3−ホスホグリセリン酸キナーゼおよび他の解糖酵素を含む。とりわけ誘導可能な酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ、イソシトクロームC、ならびにメタノール、マルトースおよびガラクトース利用に関与する酵素由来のプロモーターを含む。
【0105】
微生物に加えて、哺乳類組織培養物も本発明のポリペプチド(例えば免疫グロブリンまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド)を発現し、生産するために使用することができる。Winnacker, From Genes to Clones, VCH Publishers, N.Y., N.Y. (1987)を参照されたい。CHO細胞系、多様なCOS細胞系、HeLa細胞、293細胞、骨髄腫細胞系、形質転換B細胞およびハイブリドーマを含む、異種タンパク質(例えばインタクトな免疫グロブリン)を分泌することができる多くの好適な宿主細胞系真核細胞が当該技術分野において開発されているめ、実際には真核細胞が好まれる。これらの細胞の発現ベクターは、複製起点、プロモーターおよびエンハンサーのような発現調節配列(Queen et al., Immunol. Rev. 89:49 (1986))、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終止配列のような必要なプロセッシング情報部位を含んでいてもよい。好ましい発現調節配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルス等に由来するプロモーターである。Co et al., J. Immunol. 148:1149 (1992)を参照されたい。
【0106】
あるいは、コーディング配列は、トランスジェニック動物のゲノムへの導入および続くトランスジェニック動物の乳における発現のために、トランス遺伝子に組み込まれていてもよい(例えば、Deboer et al.のU.S. 5,741,957、Rosenの U.S. 5,304,489およびMeade et al.のU.S. 5,849,992参照)。好適なトランス遺伝子は、カゼインまたはベータラクトグロブリンのような乳腺特異的遺伝子由来のプロモーターおよびエンハンサーと作動可能に結合した、軽鎖および/または重鎖のコード配列を含む。
【0107】
目的のポリヌクレオチド配列および発現調節配列を含むベクターは、細胞宿主のタイプに依存して変化する周知の方法で、宿主細胞に移すことができる。例えば、化学的に形質転換受容性のある原核細胞は、短時間に熱ショックを与えることができ、一方でリン酸カルシウム処置、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃またはウイルスを利用したトランスフェクションが、他の細胞宿主には使用され得る(一般に、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press, 2nd ed., 1989)参照)。哺乳類細胞を形質転換するために使用される他の方法は、ポリブレン、プロトブラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーションおよびマイクロインジェクションの使用を含む(一般に、Sambrook et al., supra参照)。トランスジェニック動物の作成のために、トランス遺伝子を受精卵母細胞にマイクロインジェクションすることができ、あるいは胚幹細胞のゲノムに組み込んで、かかる細胞の核を除核した卵母細胞に移すことができる。
【0108】
発現されると、本発明のFn3ベースの結合分子は、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、HPLC精製、ゲル電気泳動等を含む当該技術分野において標準的な方法に従って精製することができる(一般に、Scopes, Protein Purification (Springer-Verlag, N.Y., (1982))参照)。少なくとも約90〜95%の均一性の実質的に純粋な分子が好ましく、医薬的使用のためには98〜99%またはそれ以上の均一性が最も好ましい。
【0109】
4)Fn3ベースの結合分子にCDRを移植する方法
一つの局面において、本発明は、野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含むFn3ベースの結合分子を特徴とする。
【0110】
抗体のCDRもしくはT細胞受容体可変領域またはそれらの抗原結合フラグメントが移植に好適である。CDRは、げっ歯類、霊長類、ラクダまたはサメを含むがこれらに限定されないいずれかの動物の抗体またはT細胞受容体レパートリーから得ることができる。特定の態様において、CDRはシングルドメイン抗体、例えばナノ抗体のCDR1、CDR2およびCDR3から得られる。より具体的な態様において、ナノ抗体のようなシングルドメイン抗体のCDR1、2および3がFn3ドメインのAB、BC、CD、DE、EFおよびFGループに移植されて、それによって元のナノ抗体の標的結合特異性をFn3ベースの結合分子に付与する。ラクダ抗体および抗体フラグメントの操作ライブラリーは、例えばAblynx、Ghent、Belgiumから商業的に入手可能である。抗体レパートリーは、1種以上の抗原でチャレンジした動物または抗原でチャレンジされていないそのままの動物に由来するものであってよい。さらにまたはあるいは、CDRはインビトロポリソームまたはリボソームディスプレイ、ファージディスプレイまたは酵母ディスプレイ技術を含むがこれらに限定されないインビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法によって作成した抗体またはその抗原結合フラグメントから得ることができる。これは、インビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法によって当初は作成されないが、次いで突然変異誘発またはインビトロまたはインビボスクリーニング法を用いた1回以上の親和性変異段階を実行した抗体を含む。かかるインビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法または親和性成熟方法の例は、例えば米国特許7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793, 5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5866344およびPCT公報WO06023144に記載されている。
【0111】
抗体CDRを同定する方法は、当該技術分野において周知である(Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, “Sequences of Proteins of Immunological Interest” (1983); Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987); MacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)参照)。特定の抗体をコードする核酸を単離し、配列決定することができ、該CDR配列は確立された抗体配列命名法に関してコードされたタンパク質の調査によって演繹される。超可変領域またはCDRを本発明のFn3ベースの結合足場に移植する方法は、例えば遺伝子操作、デノボ核酸合成またはPCR利用遺伝子アセンブリを含む(例えば、米国特許第5,225.539号参照)。
【0112】
上記技術によって、超可変領域またはCDRの選択および提示のために好適な足場ループを同定することができる。しかし、Fn3ドメインおよびドナー抗体の構造モデリングに基づいた超可変領域のフィットおよび提示をさらに改善するため、さらなる基準が敷かれ得る。
【0113】
一つの局面において、Fn3足場のいずれかのベータ鎖における特定のアミノ酸残基を変異させて、抗原との結合性を保持ないし改善する立体配置をCDRループに採用させることができる。この方法は、構造モデリングと配列比較の組合せを用いて、異種抗体フレームワークにCDRを移植する方法と同様に実施することができる。一つの態様において、CDRと隣接するFn3残基をQueen et al.が実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,180,370; 5,693,762; 5,693,761; 5,585,089; 7,022,500参照)。他の態様において、CDR残基の1ファンデルワールス半径内のFn3ドメイン残基をWinter et al.が実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,548,640; 6,982,321参照)。他の態様において、CDR残基と隣接していないが、Fn3ドメインおよびドナー抗体の構造モデリングに基づいてCDR残基の立体配置を変更すると予測されるFn3残基を、Carter et al.またはAdair et alが実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,407,213; 6,639,055; 5,859,205; 6,632,927参照)。
【0114】
組成物
本発明のFn3ベースの結合分子は、インビボでの治療上有用性を有する。したがって、本発明はまた、薬学的に許容される担体と共に製剤された、Fn3ベースの結合分子(またはその変異体、融合体および複合体)の1種または組合せを含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物はまた、組合せ療法で、すなわち他の薬物と組み合わせて投与してもよい。例えば、組合せ療法は、本発明の組成物と少なくとも1種以上のさらなる治療薬物、例えば抗炎症剤、抗癌剤および化学療法剤を含んでいてもよい。
【0115】
本発明の医薬組成物はまた、放射線療法と組み合わせて投与してもよい。他のFn3ベースの結合分子との共投与も本発明に含まれる。
【0116】
本明細書において使用するとき、「薬学的に許容される担体」は、生理的に適合性である、いずれかおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。好ましくは、担体は静脈内、筋肉内、皮下、非経腸、脊髄または上皮投与(例えば注射または輸液による)に好適である。投与経路に依存して、活性化合物、すなわち抗体、二重特異性および多重特異性分子は、酸および化合物を不活性化し得る他の天然条件から該化合物を保護するための物質でコーティングしてもよい。
【0117】
「薬学的に許容される塩」は、親化合物の所望の生物学的活性を保持しており、いずれかの望ましくない毒性効果に関与しない塩を意味する(例えば、Berge, S.M., et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19参照)。かかる塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、非毒性無機酸、例えば塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等、ならびに非毒性有機酸、例えば脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族性スルホン酸等に由来するものを含む。塩基付加塩は、アルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等、ならびに非毒性有機アミン、例えばN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等に由来するものを含む。
【0118】
本発明の組成物は、当該技術分野において既知の多様な方法によって投与することができる。当業者に理解されるとおり、投与経路および/または形態は、望まれる結果に従って変化する。活性化合物は、該化合物を速やかな放出から保護するための担体と共に製剤されていてもよい(例えばインプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤)。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用してもよい。かかる製剤の製造のための多様な方法が特許化されているか、あるいは一般に当業者に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
【0119】
ある投与経路で本発明の化合物を投与するために、その不活性化から保護するための物質で該化合物をコーティングするか、あるいはそれと共に該化合物を投与する必要がある場合がある。例えば、化合物は対象に適切な担体、例えばリポソームまたは希釈剤中で投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤は、生理食塩水および水性バッファー溶液を含む。リポソームは、水中油中水CGFエマルジョンおよび常套のリポソームを含む(Strejan et al. (1984) J. Neuroimmunol. 7:27)。
【0120】
薬学的に許容される担体は、滅菌水溶液または分散剤および滅菌注射液または分散剤を即時製造するための滅菌粉末を含む。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体および薬物の使用は、当該技術分野において既知である。いずれかの常套の媒体または薬物が本活性化合物と非適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性化合物も本組成物に含まれていてよい。
【0121】
治療用組成物は典型的には、滅菌されており、製造および貯蔵条件下で安定でなければならない。該組成物は、溶液、ミクロエマルジョン、リポソームまたは高薬物濃度に好適な他の秩序構造として製剤することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび脂質ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物を含む、溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合、組成物中に等張化剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールのようなポリアルコールまたは塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の延長された吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0122】
滅菌注射液は、上記成分の1種または組合せと共に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を含めて、所望により、次いで滅菌マイクロフィルトレーションして製造することができる。一般に、分散剤は、基礎分散媒および必要な上記の他の成分を含む滅菌ビークルに、活性化合物を含めることによって製造する。滅菌注射液の製造のための滅菌粉末の場合、好ましい製造方法は真空乾燥および凍結−乾燥(凍結乾燥)であり、これによって有効成分とその予め滅菌濾過した溶液のいずれかのさらなる所望の成分の粉末を得る。
【0123】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応答)を得るために調節される。例えば、1回ボーラスを投与し、複数回分割用量をゆっくり時間を掛けて投与するか、あるいは用量を治療状況の緊急性によって示されるとおりに比例的に減少または増加することができる。例えば、本発明のFn3ベースの結合分子は、皮下注射で週に1または2回、あるいは皮下注射で月に1または2回投与することができる。
【0124】
投与の簡便さおよび投与量の均一性のため、非経腸組成物を単位投与形態に製剤することが特に有利である。単位投与形態は、本明細書において使用するとき、処置する対象への単位投与量として好適な物理的に分離した単位を意味し;各単位は、必要な医薬担体と共に、所望の治療効果を奏するように計算された所定の量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態についての説明は、(a)活性化合物の特異的な特徴および得られるべき具体的な治療効果、ならびに(b)個体の感受性の処置のための活性化合物のような配合の分野に内在する制限に基づいて説明され、そしてそれらに直接的に依存する。
【0125】
薬学的に許容される抗酸化剤の例は、(1)水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等;(2)油溶性抗酸化剤、例えばアスコルビルパルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガラート、アルファ−トコフェロール等;および(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等を含む。
【0126】
治療用組成物について、本発明の製剤は、経口、経鼻、局所(頬側および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経腸投与に適したものを含む。製剤は、簡便には単位投与形態で存在していてよく、薬学の分野において既知のいずれかの方法によって製造することができる。単剤形態を製造するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、処置する対象および具体的な投与形態に従って変化する。単剤形態を製造するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を奏する組成物の量である。一般に、この量は100%中、約0.001%〜約90%の有効成分、好ましくは約0.005%〜約70%、最も好ましくは約0.01%〜約30%である。
【0127】
膣投与に適している本発明の製剤はまた、適切であると当該技術分野において知られている担体を含んだペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡またはスプレー製剤を含む。本発明の組成物の局所または経皮投与用投与形態は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤を含む。活性化合物は、滅菌条件下で薬学的に許容される担体と、そして必要であり得るいずれかの保存剤、バッファーまたはプロペラントと共に混合することができる。
【0128】
用語「非経腸投与」および「非経腸的に投与」は、本明細書において使用するとき経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による投与形態を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および輸液を含むが、これらに限定されない。
【0129】
本発明の医薬組成物に使用することができる好適な水性および非水性担体の例は、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、および注射用有機エステル、例えばエチルオレエートを含む。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0130】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤のようなアジュバントを含んでいてもよい。微生物の存在の防止は、上記滅菌方法ならびに多様な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等を含めることの両方によって、保証され得る。糖、塩化ナトリウム等のような等張化剤を組成物に含めることが望まれることもある。さらに、注射用医薬形態の延長された吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる物質を含めることによってもたらされ得る。
【0131】
本発明の化合物が医薬としてヒトおよび動物に投与されるとき、それらは単独で、または例えば0.001〜90%(より好ましくは、0.005〜70%、例えば0.01〜30%)の有効成分と薬学的に許容される担体を組み合わせて含む医薬組成物として、投与することができる。
【0132】
選択した投与経路に拘わらず、好適な水和物形態で使用されてもよい本発明の化合物および/または本発明の医薬組成物は、当業者に既知の常套の方法によって薬学的に許容される投与形態に製剤される。
【0133】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投与レベルは、具体的な患者、組成物および投与形態について、患者に毒性なく、所望の治療応答を得るために有効である有効成分の量が得られるように、変化してよい。選択される投与レベルは、使用する具体的な本発明の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用する具体的な化合物の排出速度、処置の期間、使用する具体的な組成物と組み合わせて用いる他の薬物、化合物および/または物質、処置する患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康および薬歴等の医学分野で周知の要因を含む、多様な薬物動態因子に依存する。当該技術分野における通常の技術を有する医師または獣医は、必要な医薬組成物の有効量を容易に決定し、予測することができる。例えば、医師または獣医は、医薬組成物において使用する本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を得るために必要とされる量よりも少ないレベルで開始し、所望の効果が得られるまで用量を漸増することができる。一般に、本発明の組成物の好適な1日用量は、治療効果を奏するために有効な最低用量である化合物の量である。かかる有効用量は、一般に、上記要因に依存する。投与は静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近くに投与する。所望により、治療用組成物の有効1日用量は、1日の適切な間隔で、所望により単位投与形態で、2、3、4、5、6またはそれ以上の分割用量として別々に投与することが好ましいこともある。本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、医薬製剤(組成物)として化合物を投与することが好ましい。
【0134】
治療用組成物は、当該技術分野において既知の医薬デバイスによって投与することができる。例えば好ましい態様において、本発明の治療用組成物は、無針皮下注射器、例えば米国特許5,399,163、5,383,851、5,312,335、5,064,413、4,941,880、4,790,824または4,596,556に記載のデバイスによって投与することができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例は、制御された速度で医薬を供給するためのインプラント可能なマイクロ輸液ポンプを記載する米国特許4,487,603、皮膚を介して医薬を投与するための治療用デバイスを記載する米国特許4,486,194、正確な輸液速度で医薬を送達するための医薬輸液ポンプを記載する米国特許4,447,233、連続的薬物送達のための、インプラント可能な流速可変型輸液装置を記載する米国特許4,447,224、複数のチャンバー区画を有する浸透薬物送達システムを記載する米国特許4,439,196、ならびに浸透薬物送達システムを記載する米国特許4,475,196を含む。多様な他のかかるインプラント、送達システムおよびモジュールが当業者に既知である。
【0135】
ある態様において、本発明の分子は、インビボでの適切な分散を確実にするために製剤され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は多くの高親水性化合物を除外する。本発明の治療化合物がBBBを通過することを確保するため(所望により)、それらは例えばリポソーム中に製剤されていてよい。リポソームを製造する方法に関しては、例えば米国特許4,522,811;5,374,548;および5,399,331を参照されたい。リポソームは特定の細胞または臓器に選択的に移動され、したがって標的薬物送達を向上する1種以上の部分を含んでいてもよい(例えば、V.V. Ranade (1989) J. Clin. Pharmacol. 29:685参照)。例示的な標的部分は、葉酸またはビオチン(例えば、Low et al.の米国特許5,416,016参照);マンノシド(Umezawa et al., (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038);抗体(P.G. Bloeman et al. (1995) FEBS Lett. 357:140; M. Owais et al. (1995) Antimicrob. Agents Chemother. 39:180);界面活性プロテインA受容体(Briscoe et al. (1995) Am. J. Physiol. 1233:134)、本発明の製剤ならびに本発明の分子の成分を含み得る異なる種;p120(Schreier et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:9090)を含み;K. Keinanen; M.L. Laukkanen (1994) FEBS Lett. 346:123; J.J. Killion; I.J. Fidler (1994) Immunomethods 4:273も参照されたい。本発明の一つの態様において、本発明の治療化合物は、リポソームに製剤され;より好ましい態様において、リポソームは標的部分を含む。最も好ましい態様において、リポソーム中の治療化合物は、腫瘍または感染に近い部位にボーラス注射によって送達される。組成物は、容易に注射針を通過できる程度に流動的でなければならない。それは製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。
【0136】
さらなる態様において、本発明の分子は、胎盤を通過する輸送を防止または低減するように製剤されていてもよい。これは当該技術分野において既知の方法、例えばFn3ベースの結合分子のPEG化によって行うことができる。さらなる参考文献は、Cunningham-Rundles C, Zhuo Z, Griffith B, Keenan J. (1992) Biological activities of polyethylene-glycol immunoglobulin conjugates. Resistance to enzymatic degradation. J Immunol Methods. 152:177-190; および Landor M. (1995) Maternal-fetal transfer of immunoglobulins, Ann Allergy Asthma Immunol 74:279-283を挙げることができる。これは、Fn3ベースの結合分子が自然発生的流産の再発を処置または予防するために使用されるとき、特に関係する。
【0137】
がんを阻害する化合物の能力は、ヒト腫瘍における効果の予測が可能な動物モデル系において評価することができる。あるいは、組成物のこの特性は、当業者に既知のインビトロでの阻害アッセイによって、本化合物の阻害能を試験することによって評価することができる。治療上有効量の治療化合物は、腫瘍のサイズを減少させることができ、あるいは対象の症状を緩和することができる。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度および選択した具体的な化合物または投与経路のような要因に基づいて、かかる量を決定することができる。
【0138】
組成物は滅菌されており、そして該組成物がシリンジによって送達可能である程度に流動的でなければならない。水に加えて、担体は等張緩衝化食塩水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液性ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合、組成物中に等張化剤、例えば糖、マンニトールまたはソルビトールのようなポリアルコールおよび塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期間の吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0139】
活性化合物が上記のとおり好適に保護されているとき、該化合物は例えば不活性希釈剤または同化食用担体と共に経口的に投与してもよい。
【0140】
治療および診断適用
本明細書に記載のFn3ベースの結合分子は、いずれかの目的の抗原または標的に結合するように構築することがでる。かかる標的は、クラスタードメイン、細胞レセプター、細胞レセプターリガンド、増殖因子、インターロイキン、タンパク質アレルゲン、細菌またはウイルスを含むが、これらに限定されない(図1参照)。本明細書に記載のFn3ベースの結合分子は、増加した安定性および半減期、ならびにさらなる機能的部分を有するように修飾してもよい。したがって、これらの分子は、研究、治療および診断分野を含む、抗体が使用されているあらゆる領域において抗体の代わりに使用することができる。さらに、これらの分子は抗体よりも優れた溶解性および安定性を有するため、本明細書に記載の抗体模倣物はまた、抗体分子を破壊もしくは不活性化する条件下で使用することもできる。
【0141】
例えばこれらの分子は、例えばインビトロまたはエクスビボで、培地中の細胞に、あるいは例えばインビボで対象に、多様な障害の処置、予防または診断のために、投与することができる。用語「対象」は、本明細書において使用するとき、ヒトおよび非ヒト動物を含むことを意図する。非ヒト動物は、全ての脊椎動物、例えば哺乳類および非ヒト哺乳類、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、両生類およびは虫類を含む。Fn3分子が別の薬物と共に投与されるとき、これら2つは順次または同時に投与することができる。
【0142】
一つの態様において、本発明のFn3ベースの結合分子(およびその変異体、融合体および複合体)は、該分子によって結合される標的および/または二重特異性/多重特異性なFn3ベースの結合分子によって結合される標的のレベルを検出するために使用することができる。これは、例えばサンプル(例えばインビトロサンプル)と対照サンプルを該分子と、該分子と標的の複合体の形成が可能な条件下で接触させることによって、達成することができる。該分子と標的間で形成されたいずれかの複合体を検出して、サンプルと対照で比較する。例えば、ELISA、FACSおよびフローサイトメトリー分析のような当該技術分野において周知の標準的な検出方法が、本発明の組成物を用いて実施され得る。
【0143】
また、本発明の組成物(例えば、フィブロネクチンベースの結合分子、その変異体、融合体および複合体)と使用のための指示書を含むキットも本発明の範囲に含まれる。該キットはさらに、少なくとも1種のさらなる試薬または1種以上のさらなる本発明のFn3ベースの結合分子(例えば第一の分子と異なる標的抗原のエピトープに結合する相補的活性を有する抗体)を含んでいてもよい。キットは典型的には、キットの内容物の意図した使用を記載したラベルを含む。用語ラベルは、キット上またはキットと共に供給されるいずれかの記載されたかあるいは記録された物体か、あるいはそれ以外のキットに伴うものを含む。
【0144】
上記のとおり、本発明の分子は、研究、治療および診断分野のあらゆる領域で使用することができる。本発明のFn3ベースの結合分子(およびその変異体、融合体および複合体)を使用して処置することができる疾患/障害の例は、自己免疫障害、がん、感染症、および他の病原性適応症を含む。
【0145】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できる自己免疫疾患の具体例は以下のものを含むが、それらに限定されない:多発性硬化症および他の脱髄疾患;リウマチ様関節炎;炎症性腸疾患;全身性エリトマトーデス;I型糖尿病;炎症性皮膚疾患;ショーグレン症候群;および移植拒絶。
【0146】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できるがんの具体例は以下のものを含むが、それらに限定されない:肺がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん;黒色腫;非ホジキンリンパ腫;結直腸癌;膵臓がん;子宮内膜がん;腎臓がん;皮膚がん(非黒色腫);白血病および甲状腺がん。
【0147】
VEGFに関連した疾患の具体例は、例えば不適切な血管形成に関連した多くの状態を含み、例えば以下のものを含むが、それらに限定されない:自己免疫疾患(例えばリウマチ様関節炎、炎症性腸疾患または乾癬);心臓疾患(例えばアテローム性動脈硬化症または血管再狭窄);網膜症(例えば一般的な増殖性網膜症、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性または血管新生緑内障);腎臓病(例えば糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、移植拒絶、炎症性腎疾患、糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群および高血圧性腎硬化症);血管芽細胞腫;血管腫;甲状腺過形成;組織移植;慢性炎症;メーグス症候群;心嚢液貯留;胸水;自己免疫疾患;糖尿病;子宮内膜症;慢性喘息;望ましくない線維症(特に肝線維症)およびがん、ならびにがんによって引き起こされる合併症、例えば胸水および腹水。Fn3ベースの結合分子は、過増殖性疾患またはがんおよびがんの転移拡散の処置または予防に使用できる。がんの非限定的な例は、膀胱がん、血液のがん、脳がん、乳がん、軟骨がん、結腸がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、リンパ節のがん、神経組織のがん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、骨格筋のがん、皮膚がん、脊髄がん、脾臓がん、胃がん、睾丸がん、胸腺がん、甲状腺がん、気管がん、尿生殖路がん、尿管がん、尿道がん、子宮がんまたは膣がんを含む。さらなる処置可能な状態は、米国特許6,524,583(ここに参照により本明細書に組み込む)に見られる。VEGFR−2結合ポリペプチドについての使用を記載している他の文献は以下のものを含む:McLeod DS et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2002 Feb;43(2):474-82; Watanabe et al. Exp Dermatol. 2004 Nov;13(11):671-81; Yoshiji H et al., Gut. 2003 Sep;52(9): 1347-54; Verheul et al., Oncologist. 2000;5 Suppl 1:45-50; Boldicke et al., Stem Cells. 2001;19(1) :24-36。本明細書に記載する血管形成関連疾患は、以下のものを含むがそれらに限定されない:血管形成依存性のがん、例えば固形腫瘍、血液伝播性腫瘍、例えば白血病、ならびに腫瘍転移;良性腫瘍、例えば血管腫、聴神経腫瘍、神経線維腫、トラコーマおよび化膿性肉芽種;炎症性疾患、例えば免疫および非免疫炎症;慢性関節リウマチおよび乾癬;目の血管形成疾患、例えば糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、後水晶体繊維増殖症、ルベオーシス;オスラー・ウェーバー症候群;心筋血管新生;プラーク心血管形成;毛細血管拡張症;血友病関節;血管線維腫;ならびに創傷肉芽形成および創傷治癒;毛細血管拡張症、乾癬、強皮症、化膿性肉芽種、冠状動脈側枝(cororany collaterals)、虚血肢血管形成、角膜疾患、虹彩血管新生、関節炎、糖尿病性血管新生、骨折、脈管形成、造血(例えばWO2005056764参照)。
【0148】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できる感染症の具体例は、細胞性、真菌性、細菌性およびウイルス性のものを含むが、これらに限定されない。
【0149】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これはさらなる限定を構成するべきではない。全ての図面および本明細書を通じて言及した全ての文献、特許および公開された特許出願の内容は、明示的に参照により本明細書に引用する。
【実施例】
【0150】
実施例1
フィブロネクチンベースの結合分子のライブラリーの作成
一般に、特に定めのない限り、本発明の実施は、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(例えば特に抗体技術)およびポリペプチド調製における標準的な技術を使用する。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989); Antibody Engineering Protocols (Methods in Molecular Biology), 510, Paul, S., Humana Pr (1996); Antibody Engineering: A Practical Approach (Practical Approach Series, 169), McCafferty, Ed., Irl Pr (1996); Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow et al., C.S.H.L. Press, Pub. (1999); および Current Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons (1992)を参照されたい。本発明の実施に使用するのに好適な他の方法、技術および配列は、米国特許7,153,661; 7,119,171; 7,078,490; 6,703,199; 6,673,901; および 6,462,189に見出すことができる。
【0151】
第10ヒトフィブロネクチンタンパク質(Fn310)を用いて、単一特異性なバインダーを設計し、単離し、操作した。標準的な選択方法を用いて、2つのライブラリーから独立して、最初のバインダーをまず単離した。次いでこの富化集団を突然変異誘発し、ランダム突然変異の逐次ラウンドおよび富化を行って、所望の単一特異性なバインダーを得た。
【0152】
ライブラリー構成
配列番号1の野生型Fn310配列を基礎として用いて、上部または底部ループを用いるバインダーのライブラリーを作成した。
VSDVPRDLEVVAATPTSLLISWDAPAVTVRYYRITYGETGGNSPVQEFTVPGSKSTATISGLKPGVDYTITVYAVTGRGDSPASSKPISINYRTEI (配列番号1)
【0153】
コンピューターモデリングを用いて、2セットの野生型Fn310の可変領域を選択し、ランダム化した。溶媒に曝される上部ループBC、DEおよびFGを含む第一のセットをライブラリーAとして、配列番号2で太字で示す領域においてランダム化した。
ライブラリーA(溶媒に曝される上部ループBC、DEおよびFGを有するベータサンドイッチ):
【化1】
【0154】
溶媒に曝される底部ループAB、CD、EFおよびC末端を含む第二のセットをライブラリーBとして、イタリック体で示す下線の領域においてランダム化した。
ライブラリーB(溶媒に曝される底部ループAB、CE、EFおよびC末端を有するベータサンドイッチ):
【化2】
【0155】
2つのライブラリーに対応するDNA配列を、Geneart AG, Germanyでの大腸菌における発現に最適化した。配列番号2および3の太字または下線を付したイタリック体の領域はそれぞれ、変性位置として合成した。全長フラグメントゲル精製に対応する合成的に変性されたオリゴヌクレオチドおよび遺伝子該ライブラリーから構築した。末端プライマーで増幅を行い、続いてクローニングベクターpCR-Scriptに増幅したライブラリーをライゲートして、出発ライブラリーを得た。ライブラリーAおよびBは次いで、下記実施例2に記載のとおり、単一特異性なバインダーを同定するために独立してスクリーニングした。
【0156】
実施例2
単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子のスクリーニング
本実施例は、実施例1に記載のライブラリーAおよびBから作成した単一特異性なフィブロネクチンバインダーについてどのようにスクリーニングするかを説明する。ライブラリーAおよびBはいずれも独立して、pYD1 (Invitrogen)のような酵母ディスプレイベクターに、相同組換え法を用いてサブクローン化して、EBY100のような好適な株に、標準的な分子生物学的技術を用いて形質転換する。
【0157】
ニワトリリゾチームに対するフィブロネクチンベースのバインダーの提示および選択は、本質的にLipovsek、D. et alにより公開されているプロトコール(J Mol Biol. 2007 May 11;368(4):1024-41)に従って、いくつかのわずかな改変を加えて実施した。両方のライブラリーを独立して、ニワトリ卵白リゾチームに対するバインダーについてスクリーニングした。
【0158】
(i) 磁性ビーズ選別を用いたニワトリ卵白リゾチームに対結合の選択
全ての選択について、10Fn3ベースの分子のライブラリーAまたはライブラリーBを提示する酵母培養物をガラクトース含有培地(90% SG-CAA/10% SD-CAA、50 μg/mL カナマイシン、100 U/mL ペニシリンG、200 U/mL ストレプトマイシン)中、30℃で18時間誘導した。誘導された109個のライブラリーAまたはBの酵母細胞を25 mLの氷冷リン酸緩衝化食塩水(PBS)pH 7.4、2 mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)で洗浄し、次いで1 μMのビオチニル化ニワトリ卵白リゾチーム(HEL-b、Sigma、St. Louis、MO)を含む同じバッファー 5mL中、室温で1時間、緩やかに振盪しながらインキュベートした。インキュベーションの後、サンプルを氷上で冷やし、25 mLの氷冷PBS pH 7.4、2 mMのEDTA、0.5%のBSAで洗浄し、2.5 mLの同じバッファーに再懸濁した。磁性Streptavidin MicroBeads (Miltenyi Biotec、Auburn、CA)の100 μLのアリコートを酵母に加え、氷上で10分間インキュベートした。氷冷PBS pH 7.4、2 mMのEDTA、0.5%のBSAをサンプルに加えて全量を25 mLとした後、すぐにこれをAutoMACS Cell Separator (Miltenyi Biotec)で、レア細胞のポジティブ選択のために予めセットされたプログラム(possel_s)を用いた分離に供した。選択した細胞を6 mLのSD-CAA、pH 4.5、50 μg/mLのカナマイシン、100 U/mLのペニシリンG、200 U/mLのストレプトマイシン中に回収し;連続希釈で定量した後、SD-CAA寒天プレートに播種し;50 mLの同じ培地中、30℃で2日間増殖させた。
【0159】
(ii) 蛍光活性化細胞選別を用いたニワトリ卵白リゾチームに対する結合の選択
2×106〜3×106個の誘導された酵母細胞で開始して、FACSによって続く選択ラウンドを行った。細胞を1 mLのPBS、pH 7.4、0.1% BSAで洗浄し、ビオチニル化ニワトリ卵白リゾチームを含む同じバッファー 100 μL中に再懸濁して、室温で緩やかに振盪しながら1時間インキュベートした。
【0160】
1 mLの氷冷PBS、pH 7.4、0.1% BSAで洗浄した後、細胞を抗体およびストレプトアビジンで標識した。マウスモノクローナルFITC複合化抗c−myc抗体(AbD Serotec)を用いてc−mycタグ化抗体模倣物の表面ディスプレイのために酵母を標識し、PE標識化ストレプトアビジン(Invitrogen)または抗ビオチン抗体(Miltenyi)を用いてリゾチーム結合抗体模倣物に関するHEL−bを標識した。FITC複合化マウス抗c−myc抗体およびPE複合化ストレプトアビジン(Invitrogen)で標識した酵母細胞について、FACSソートを実施した。
【0161】
488 nmのレーザーを備えたDako MoFloハイスピードセルソーターで、6000〜10,000 細胞/sで二重標識された酵母細胞を選別した。最も高い0.1〜1%のHEL−b関連シグナル(PE)および発現関連シグナル(FITC)の上半分で酵母細胞を回収するようにゲートを調節した。同じ抗体およびストレプトアビジン試薬で標識したがHEL−bなしでの2回目のサンプルを用いて、リゾチームではなく検出試薬に結合した細胞を選択することを回避した。
【0162】
全てのライブラリーについて、1 μMのHEL−bで標識した酵母に最初の2回のFACS選別を実施した。HEL−bの存在下であって非存在下ではなくPEで標識した細胞集団が観察されると、続くラウンドでのHEL−bの濃度を1オーダー下げる。選択した細胞を0.5 mLのSD-CAA、pH 4.5、50 μg/mLのカナマイシン、100 U/mLのペニシリンGおよび200 U/mLのストレプトマイシン中に回収した。回収した細胞を5 mLの同じ培地中、30℃で2日間振盪しながら飽和まで増殖させた後、次の選別ラウンドのために誘導し、標識した。
【0163】
数ラウンドのFACS選別の後、最後の富化された集団をSDCAAプレートに播種し、30℃で2日間インキュベートした。個々のコロニーはGenetix Clonepixを用いて取り出し、SD-CAA配置を含む96ウェルプレートに再アレイした。24時間インキュベートした後、遠心分離して細胞を回収し、表面で発現される固有のFn3分子の誘導のためにSD-GAA培地に再懸濁した。標準的なELISAでポジティブクローンを同定した。固有のFn3ポジティブクローンに対応するプラスミドDNAを精製し、配列決定して、単一特異性なバインダーを同定した。
【0164】
単一特異性なバインダーを同定し、ライブラリーAまたはBのいずれかから選択した後、それらを独立して用いて治療用分子を作成できる。特に、Fn3分子の底部ループを用いてライブラリーBから作成した単一特異性なバインダーを用いて、目的の標的に対する新規な治療用結合分子を作成できる。ライブラリーBからの多様な単一特異性なバインダーをリンカーと組み合わせて、1個の標的(例えばTNF)の1個以上の領域に結合できるFn3結合分子を作成できる。あるいは、ライブラリーBからのバインダーを含むFn3結合分子は、複数の標的の1個以上の領域(例えばHSAおよびTNFの1個以上の領域)に結合するようにも設計できる。
【0165】
さらに、ライブラリーAおよびライブラリーBから作成した単一特異性なバインダーは、標準的な分子生物学的技術を用いて、下記実施例3に記載のとおりに二重特異性または多重特異性なバインダーを作成するために組み合わせることができる。
【0166】
実施例3
二重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成
ヒトFn3のX線構造におけるランダム化領域のコンピューターモデリングは、ライブラリーAおよびBのそれぞれの単一特異性なバインダーを組み合わせて、二重特異性なフィブロネクチン結合分子を作成できることを示している。これらの結合分子は、それらが同じ標的分子の異なる領域を認識するか、あるいは二重特異性または多重特異性なフィブロネクチン分子の異なる結合部位が2種以上の異なる標的の異なる領域に結合できるように操作可能である。
【0167】
例えば、バインダーA(ライブラリーAをスクリーニングして得た)に対応する好適な配列と、バインダーB(ライブラリーBをスクリーニングして得た)に対応する好適な配列を1個の分子に組み合わせて、二重特異性な分子を作成できる。
ライブラリーAをスクリーニングして同定したバインダーA(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ):
【化3】
ここでXは任意のアミノ酸配列である。
【0168】
ライブラリーBをスクリーニングして同定したバインダーB(溶媒に曝される底部ループAB、CE、EFおよびC末端を有するベータサンドイッチ):
【化4】
ここでZは任意のアミノ酸配列である。
【0169】
ライブラリーAをスクリーニングして得た配列(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ)とライブラリーBをスクリーニングして得た配列(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ)を組み合わせてバインダーCを同定した。2つの配列を1つの分子に組み合わせると、二重特異性なバインダーCが導かれる。
【化5】
ここでXおよびZは任意のアミノ酸配列である。
【0170】
次いで、バインダーCの組み合わされたアミノ酸配列に対応するDNAを合成し、Geneart AG、Germanyでの大腸菌における発現に最適化した。大腸菌へのクローン化および続く精製は、4章(製造方法)に記載の標準的なプロトコールに従う。
あるいは、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子を連結して作成できる。
【0171】
実施例4
底部ループを用いて標的に結合する単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成
実施例2に記載の実験の詳細を反復して、フィブロネクチンの底部ループを用いて半減期エクステンダーであるHSAに結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子を作成した。別のライブラリーを用いて、底部ループを用いてリゾチームに結合する単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子を作成した。
【0172】
(a) 酵母からの富化ループの単離
数ラウンドの選択の後、選択した集団の配列を決定した。各選択した酵母集団の飽和培養物1 mLからZymoprep キット(Zymo Research、Orange、CA)を用いてプラスミドDNAを抽出し、2 μLのプラスミドをエレクトロ・コンピテントなTop10 大腸菌(Invitrogen、Carlsbad、CA)に形質転換した。 プラスミドミニプレップを調製し、96コロニーについて配列決定した。
【0173】
(b) 大腸菌へのサブクローニング
富化されたフィブロネクチンプールをコードする遺伝子を図6に示すpNAT40ベクターにクローン化して、構築物をエレクトロ・コンピテントなAcella大腸菌株(Gaithersburg、MD)に形質転換した。多数のクローンを選択肢、配列決定した。HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーの選択したクローンのアミノ酸配列は、コンセンサス結合配列(配列番号42)と共に図7に示す。図8はリゾチームに対する潜在的なFn3ベースのバインダーの選択したクローンのアミノ酸配列を示す。
【0174】
HSAライブラリーからの個々のクローンを選択し、使用して、コロニーピッカー(Genetix Clonepix2、Boston、MA)を用いて96ディープウェルプレート中で、100 μg/mlのカナマイシンを含むOvernightExpress培地(Novagen、Gibbstown、NJ)1 mlに播種して、激しく撹拌しながら37℃で一夜増殖した。翌日、3000 rpmで15分間遠心分離し、上清を破棄して細胞ペレットを回収した。ディープウェルプレートを−80℃で30分間、2回凍結し、室温で解凍した。次いで、TBS、0.2 mg/mlのリゾチームおよび1 mMのEDTAを含む溶解バッファー250 μlを加え、プレートを室温で1時間インキュベートし、次いで0.1 mg/mlのDNaseI、10 mMのMgCl2を含むTBS 250 μlを加えて、室温でさらに1時間インキュベートした。
【0175】
溶解した細胞懸濁液を96ウェルMultiscreen HTS(Millipore、Billerica、MA)に移し、遠心分離して上清を澄明にした。次いで、HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーを含む澄明にした上清を下記実施例5に記載のELISAアッセイに用いた。
【0176】
実施例5
単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の結合特性
この実施例は、Fn3の底部ループの少なくとも1個(例えばAB、CDおよび/またはEF)を改変してFn3ベースの結合分子を作成して、底部ループを用いて標的に結合するFn3ベースの分子の生産に成功した初めての例を示す。この実施例において、HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーを試験した。
【0177】
結合特性を評価するため、ELISAアッセイを用いた。前処理したELISAプレート(Nunc Maxisorb)の各ウェルをPBS中プラスティックフィルムで被覆した100 μlの1.0 μg/mL HSAでコーティングし、4℃で一夜インキュベートした。翌日、コーティング溶液を除去し、PBSでプレートを2回洗浄した。ウェルあたり200 μLの25 mg/ml カゼイン/PBSを加えてウェルをブロックし、湿潤密封容器中で37℃で1時間インキュベートした。ブロック溶液を除去し、50 μlのPBSで2回洗浄した後、潜在的な単一特異性なバインダーを発現する予め調製した大腸菌溶解物を加え、撹拌下で1時間インキュベートした。次いで、PBS/Tween 20(0.05%)バッファーでプレートを5回洗浄し、次いで0.25%のカゼイン/PBS中に希釈したHRP複合化抗Hisタグ抗体(Abcam、Cambridge、MA)をウェルあたり50 μL加えた。1時間インキュベートした後、Hisタグ抗体溶液を除去し、PBS/Tween 20 (0.05%)でプレートを5回洗浄した。最後に、ウェルあたり50 μLの基質溶液(SureBlue TMB microwell substrate solution、KPL)を加えてELISAを現像した。ポジティブクローンを選択し、次いでスケールアップ生産のための候補を同定するために発現をスクリーニングした。
【0178】
図9は選択したクローンに由来するHisタグ化フィブロネクチンタンパク質の、ヒト血清アルブミン特異的ELISA分析の非限定的な代表例を示す。HSA抗原でコーティングし、さらにPBSと1%のカゼインでブロックしたELISAプレートのウェルに、可溶性フィブロネクチンFn10ドメインの粗溶解物を加えた。HSAに対するFn3ベースのバインダーの検出は、モノクローナルHRP複合化抗His抗体を用いて行った。ELISAを上記のとおり、TMB基質で現像した。OD値(Y軸)をELISAリーダーで450 nmで測定した。各バーはそれぞれのクローン抽出物を示す。このデータは、HSAに対するポジティブFn3ベースのバインダーである多数のクローンがバックグラウンドよりも約3倍高い結合を示すことを示している。この結果は、フィブロネクチン分子の底部ループを用いてHSAのような標的に結合できることを初めて示している。
【0179】
発現されたHSAに対する単一特異性なFn3ベースのバインダーを精製するため、澄明にした溶解物を96ウェルディープブロックに移し、20 μLの50%(v/v)Ni2+負荷MagneHisビーズ(Promega)のスラリーを加えた。KingFisher Robot (Thermo Scientific)を用いて自動精製を行った。30分間インキュベートした後、1 mlの洗浄バッファー/ウェル(50 mMのリン酸、1 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、pH 7.6)でビーズを2回洗浄した。最後に、200 μlのPBSと300 mMのイミダゾール、pH 7.6で結合したフィブロネクチンタンパク質を溶出した。粗抽出物および溶出物のアリコートをSDSゲル電気泳動で分析した(データは示さず)。
【0180】
HSAに対する底部側Fn3ベースのバインダーの発現が成功することをさらに示すため、大腸菌で小スケールの全発現実験を行った。24個の構築物の全発現由来のサンプルをNovex BisTris 4-2% NuPAGEゲル、26ウェル(Invitrogen)で分析した。レーン1はサイズマーカーSeeBlue plus2 (Invitrogen)を含む。この結果は、修飾された底部ループを有するフィブロネクチン分子の大腸菌における発現が成功したことを示している。図10に示すとおり、選択したクローンの多くに約16kDaのタンパク質バンド(フィブロネクチンFn10(約11〜12kDa)とN末端Hisタグ、Sタグおよび正確な切断部位の合計に対応する)が見られる。これらの結果はさらに、単一特異性なFn3ベースの結合分子が大腸菌において成功裏に発現され、結合活性を保持していることを示している。
【0181】
発現されたタンパク質がタンパク質構造に悪影響(例えば分解)なく精製され得ることを示すため、上記のとおりサンプルを精製して、Novex BisTris 4-12% NuPAGEゲル、26 ウェル(Invitrogen)で分析した。レーン1はサイズマーカーMark 12 (Invitrogen)を含む。図10に示すとおり、16 kDaのバンドがほとんどのクローンに明らかに見られる。表1に示すとおり、質量分析によって、精製したフィブロネクチンの正しい分子量での存在を確認する。
【表1】
【0182】
以上より、この結果は、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように改変されエチルFn3ベースの結合分子を作成できることを、初めて示している。今日まで、底部ループと比較して上部ループが抗体配列とよりアラインメントしやすいため、典型的には上部ループが標的との結合について分析されてきた。本明細書で提示する結果は、分子の安定性に悪影響を及ぼすことなく、底部ループを改変できることを示している。したがって、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように改変されているFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成できる。HSAライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と同じ長さに保って改変した。リゾチームライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と比較して長さを変えたが、タンパク質の構造に悪影響はなかった。さらに、改変された底部ループを有するこれらの単一特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造安定性を維持しており、結合能を保ったまま発現され、精製できる。したがって、本発明の方法を用いて、少なくとも1個の改変された底部ループを有するFn3ベースの結合分子のライブラリー、ならびに底部表面を用いて標的に結合するFn3ベースの結合分子を作成できる。
【0183】
実施例6
多重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成および特徴付け
この実施例は、2個の別個の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、多重特異性、例えば二重特異性な分子を作成するためのリンカー配列を用いて数珠状に一体に連結されている、多重特異性なFn3ベースの結合分子の作成および特徴付けを示す。二重特異性な分子は次のとおりに設計した。図7において同定し、次に(配列番号8)示す底部側HSAバインダーに、短いGSリンカー配列GGGGSGGGGS(配列番号118)を用いて下記VEGFR2結合配列(配列番号117)を融合して、下記の配列番号119を有する多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成した。この構築物はDNA2.0で合成し、発現ベクターpjExpress 401にサブクローン化した。クローニング、精製およびELISAは上記の標準的なプロトコールに従った。
【0184】
VEGFR上部側配列:
【化6】
図7からの底部側配列8:
【化7】
GSリンカーと融合した図7からのVEGFR2底部配列8(クローン87):
【化8】
【0185】
多重特異性な分子のELISA結合試験は、図13に示し、実施例7により詳細に記載する。
【0186】
多重特異性なFn3ベースの結合分子が該分子の大スケール発現から精製できることを示すため、Graeslundらによって示された方法を用いた(Graeslund et al. Nature Methods (2008) 5, 135 - 146)。出発培養物10 ml(〜1/100の最終培養体積)を用いて、25 μg/mlのカナマイシンを含むMinimal Mediaに播種し、37℃、175 rpmで一夜インキュベートした。翌朝、10 mlの出発培養物を用いて、2.8 LのFernbach撹拌フラスコ中の100 μg/mlのカナマイシンを含むOvernightExpress培地 1 リットルに播種した。600 nm (OD600)で1〜1.5の光学密度が得られるまで37℃、175 rpmで細胞をインキュベートした。次いで培養温度を18℃に下げて発現のスイッチを入れて、続く発現のために培養物を18℃で一夜維持した。4500 gで10分間遠心分離して細胞を回収した。細胞を秤量し、1体積(v/w)の溶解バッファー(0.1 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、1.0 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、10%(v/v)のグリセロール、1 mMのTCEPおよび20 単位/mlのBenzonase)を加えた。l mg/mlのリゾチームを細胞懸濁液に加え、氷上で30分間インキュベートした後、懸濁液を1〜2分間断続的に超音波処理した。溶解物を2〜3体積の溶解バッファーで希釈し、1 mlのNi-NTA樹脂を加えた。250 mlのコニカルバイアル中、4℃で1時間上清をゆっくりと撹拌して、結合を行った。樹脂を20 mlの使い捨てカラム中に回収し、タンパク質が溶出しなくなるまで(それぞれ20〜30カラム体積)負荷バッファー(0.05 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、0.5 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、5%(v/v)のグリセロール、0.5 mMのTCEP)で洗浄した。溶出バッファー(0.05 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、0.5 MのNaCl、0.3 Mのイミダゾール、5%(v/v)のグリセロール、0.5 mMのTCEP)で結合したタンパク質を溶出させた。ピークフラクションを同定し、一緒に貯留し、平衡化したMonoS 5/50 GLカラム(GE)にバッファーS(50 mMのHepes、50 mMのNaCl pH 7.6)と共にロードした。Ni-NTA溶出物をバッファーSで10倍に希釈し、予め平衡化したカラムにロードした。10体積のバッファーSで洗浄した後、タンパク質をバッファーS中50 mMから1 MのNaClの直線グラジエントで溶出した。SDS−PAGEおよび質量分析でフラクションを分析した。
【0187】
図12の左パネルは、クローン87の異なる精製工程のSDS−PAGEを示す。レーン1、全タンパク質;レーン2、粗抽出物;レーン3、Ni-NTA流出;レーン4、Ni-NTA 洗浄;レーン5、Ni-NTA溶出;レーン6、Mono S 溶出。右パネルは、クローン87のN末端メチオニン切断タンパク質の予期される質量と一致した精製サンプルのマススペクトル(MW 23404 D)を示す。
【0188】
実施例7
二重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成および特徴付け
この実施例は、1個のフィブロネクチン分子が2個の別個の標的、例えばVEGFR2とHSAに結合するように改変された上部ループおよび底部ループを有する二重特異性なFn3ベースの結合分子の作成および特徴付けを示す。
【0189】
底部側HSA結合ループ配列を上部側VEGFR2バインダーに作って二重特異性な分子を作成して、同じFn3分子の上部および底部ループの両方を用いて2個の異なる標的分子に結合できる二重特異性機能を有する分子を作成した。二重特異性な分子を作成するために、底部ループを切除してVEGFR2バインダーにそれを挿入し、分子VEGFR2−HAS(配列番号120)を得て、底部側バインダー(配列番号8)ループ(上記)をVEGFR2バインダー(配列番号117)(上記)に作った。構築物はDNA2.0で合成紙、発現ベクターpjExpress 401にサブクローン化した。クローニング、精製およびELISAは、上記の標準的なプロトコールに従った。
VEGFR2/底部側配列番号8融合分子(クローン89)
【化9】
【0190】
(a) 実施例6および7の二重特異性なフィブロネクチン結合分子のELISA:
実施例6および7の多重特異性および二重特異性なバインダーの結合特性を次のとおりに評価した。VEGFR2−Fc融合タンパク質を前処理したELISAプレート(NuncMultisorb)に不動化して、さらにPBSと1%のカゼインでブロックした。野生型Fn10(レーン1)、クローン87(多重特異性)(レーン2)、クローン89(二重特異性)(レーン3)およびPBSの澄明な溶解物のアリコートをウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。これらは異なる濃度1、2および3で実行した。PBS/0.05%のTweenで5回洗浄し、該ウェルをPBS中 1 μg/mlのHSAと共にインキュベートした。HRP複合化ニワトリ抗ヒトhSA抗体(Abcam)で検出を行った。ELISAをTMP基質で現像し、OD値を450 nmで測定した。結果を図13に示す。
【0191】
粗抽出物中に存在する多重特異性および二重特異性なFn3ベースの結合分子の両方について一貫して再現可能な結果が得られ、クローン87(多重特異性)とクローン89(二重特異性)がHSAとVEGFR2の両方に結合することが示された。このデータは、単一特異性なフィブロネクチン結合分子の1個がHSAに結合できる少なくとも1個の改変された底部ループ(AB、DE、FG)を有するとき、多重特異性および二重特異性なFn分子が作成できることを示している(図13参照)。
【0192】
多重特異性なFn3分子(クローン87)は、G−Sリンカーを介して一体に連結した2個の別々の単一特異性なFn3分子を有する。一方の単一特異性なFn3分子はHSAに結合する改変された底部ループを有するが、他方の単一特異性なFn3分子はVEGFR2に結合する改変された上部ループを有する。得られた多重特異性な分子は、各々の単一特異性なフィブロネクチン分子を用いて2種の異なる標的に結合する能力を保有する。このデータは、単一特異性なFn3分子を数珠状に一体に連結して多重特異性なFn3分子を作成できること;リンカーは各単量体Fn3分子の結合能に干渉しないこと;そして多重特異性なFn3分子はなんら立体障害の問題なく2種の異なる標的に結合できることを示している。
【0193】
二重特異性なフィブロネクチン分子(クローン89)は、底部ループがHSAに結合し、上部ループがVEGFR2に結合するように操作された1個のフィブロネクチン分子である。1個の二重特異性なフィブロネクチン分子はHSAとVEGFR2の両方にうまく結合する。図13は、なんら立体障害の問題なく1個の二重特異性なフィブロネクチン分子がHSAとVEGFR2の両方に結合できることを示している。このデータは、二重特異性なフィブロネクチン分子が作成できること;該二重特異性なフィブロネクチン分子の各側のループの結合能が保持されること;二重特異性な分子の構造確認が、同時に改変されている底部および上部ループの両方で維持されること;上部および底部ループが互いに独立して別個の標的に結合するために機能すること;そして二重特異性なFn3分子がなんら立体障害の問題なく2種の異なる標的に結合できることを、初めて示す。
【0194】
(b) 実施例6および7の二重特異性なフィブロネクチン結合分子のBiacore:
BIAcore T100 (GE)を用いて標的に結合するフィブロネクチンベースの足場タンパク質の結合カイネティクスを測定した。抗ヒトIgG(GE、ヒトIgG補足キット)。Fc特異的抗体をCM5センサーチップに不動化して、可溶性VEGFR2−huFc融合タンパク質をその表面に補足した。可溶性フィブロネクチンクローン87(多重特異性)をバッファー0(10 mMのHEPES、150 mMのNaCl、0.005%のTween 20、pH 7.4)中に100 nM(トップライン)および200 nM(ボトムライン)で注入した。各濃度でセンサーグラムを得て、速度定数ka(kon) および kd (koff)を決定した。アフィニティー定数KDを速度定数koff/konの比から計算した。
【0195】
クローン87についての結果を、上部ループ結合VEGFR2および底部ループ結合HSAについてそれぞれ図14および15に示す。このデータは、G−Sリンカーで一体に連結した2個の別個の単一特異性なFn3分子を含む多重特異性なフィブロネクチンが、底部および上部ループを用いて2個の別個の標的分子にうまく結合することを示す。
【0196】
同じ実験をクローン89について反復し、1個の二重特異性なFn3分子および同様の結果を得た(データは示さず)。
【0197】
以上から、これらの結果は、多重特異性および二重特異性なフィブロネクチン分子を作成可能であると初めて示す。これらの分子は大腸菌における発現に成功し、分解することなく精製でき、結合能を保持し、そして2個の別個の標的に結合できた。
【0198】
均等
当業者は、常套未満の実験を用いて、本明細書に記載の本発明の具体的な態様の多様な均等を認識し、あるいは確認することができる。かかる均等は、特許請求の範囲に含まれることを意図する。
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本願は、2008年5月2日に出願した米国仮出願第61/050,142号の優先権を主張し、その内容をそれらの全体において、参照により本明細書に組み込む。
関連情報
本明細書を通じて言及されているあらゆる特許、特許出願および文献の内容は、それらの全体において、参照により本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
所望の標的エピトープと特異的に結合することができる分子は、治療および医学的診断ツールとして極めて重要である。このクラスの分子の周知の例は、モノクローナル抗体である。ほぼあらゆる構造エピトープと特異的に、そして高い親和性で結合する抗体が、選択され得る。その結果、抗体は研究ツールおよびFDA承認治療薬として日常的に使用されており、治療用および診断用モノクローナル抗体の世界市場は現在約30,000,000,000ドルにも上る。
【0003】
しかし、モノクローナル抗体は、多数の欠点を有する。例えば、標準的な抗体は大きく、複雑な分子である。それらは2本の軽鎖と2本の重鎖を含み、鎖内および鎖間ジスルフィド結合によって結合した、異種四量体構造を有する。この構造的複雑さによって、単純な原核細胞系における抗体の容易な発現が妨げられており、より複雑な(そしてより高価な)哺乳類細胞系での抗体の産生が必要である。抗体のサイズが大きいことによっても、しばしば効果的に特定の組織空間に侵入することができないため、それらの治療上有効性が限定される。治療用抗体は、Fc領域を有するため、望ましくないエフェクター細胞機能および/または凝固カスケードを惹起することがある。さらに、二重特異性または多重特異性抗体の作成は、しばしば困難かつ複雑な方法を含む(例えば、Josefina et al., (1997), Nature Biotechnology, 15: 159-163; および Wu et al. (2007) Nature Biotechnology, 25: 1290-1297参照)。
【0004】
したがって、当該技術分野において、高い親和性および特異性で所望の標的に特異的に結合することができる代替結合分子が求められている。また、二重特異性または多重特異性結合分子を作成するための単純な方法も必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、標的抗原に特異的に結合し、したがって広範な治療および診断適用に用いることができる、フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子を提供する。本発明は、少なくとも1個の修飾底部ループを含むFn3が構造的および立体構造的安定性を保持しており、標的分子に結合できるという予期せぬ驚くべき発見に基づく。さらにまた、本発明は、Fn3の上部および底部ループの両方を用いることによって、1個のFn3分子が1種以上の標的分子に結合できる、新たな二重特異性なFn3ベースの結合分子の発見に基づく。本発明はまた、二重特異性および多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成する単純な、効果的な方法も提供する。
【0006】
したがって一つの態様において、本発明は、1種以上の標的、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、リゾチームに結合するために底部AB、CD、EFループまたはC末端を用いる、単一特異性なFn3ベースの結合分子(底部単一特異性なFn3ベースの結合分子)に関する。これらの底部単一特異性なFn3ベースの結合分子を(例えば数珠状に)一体に連結して、複数の標的に同時に結合する多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成することができ、そして/または1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)と複合化することができ、そして/または例えばFn3ベースの結合分子の半減期および安定性を改善するために、1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、抗体Fc領域またはポリエチレングリコール(PEG)と複合化することができる。
【0007】
別の態様において、底部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成するために上部BC、DEまたはFGループを用いるFn3ベースの結合分子と組み合わせてもよい。本発明はさらに、二種以上の標的と同時に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。これらの二重特異性Fn3ベースの結合分子はまた、一体に(例えば数珠状に)連結して、複数の標的に同時に結合する多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成することができ、そして/または上記のとおり1個以上の非Fn3部分(例えば機能的部分)と複合化することができる。本発明はさらに、標的、典型的には標的タンパク質に特異的に結合するかについて、Fn3ベースの結合分子のライブラリーをスクリーニングする方法、ならびに例えば原核細胞または真核細胞系においてFn3ベースの結合分子を作成する方法を提供する。さらに、本発明は、Fn3ベースの結合分子を含む組成物(例えば治療用組成物)、ならびに多様な治療および診断適用におけるかかる組成物の使用を提供する。
【0008】
したがって一つの局面において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子に関する。具体的な態様において、AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端において変化されているアミノ酸残基は、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸の1個以上を含む。非Fn3結合配列は、例えばCDR領域(例えば抗体CDR領域)またはT細胞受容体の全部または一部であってよい。
【0009】
別の局面において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二のFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子に関する。
【0010】
別の局面において、本発明は、二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そしてFn3ドメインの上部BC、DEまたはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子を提供する。具体的な態様において、底部AB、CD、EFループ領域またはC末端における変化されたアミノ酸残基は、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸の1個以上を含み、上部BC、DEまたはFGループ領域における変化されたアミノ酸残基は、配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸の1個以上を含む。したがって、かかる本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じ分子または異なる分子の2個以上の標的に同時に結合する。
【0011】
別の局面において、本発明は、多重特異性なFn3ベースの結合分子であって、上記のいずれかのFn3ベースの結合分子の2個以上を含み、それらが同じ分子または異なる分子の2個以上の標的に結合するように一体に連結されている(例えば数珠状に)結合分子を提供する。
【0012】
本発明の「Fn3ベースの結合分子」(以後、これは二重特異性および多重特異性なFn3ベースの結合分子を含む)はまた、例えばインビボで投与したとき該Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する1個以上の非Fn3部分に結合するか、またはそれと連結していてもよい。好適な非Fn3部分は、抗体Fc領域、ヒト血清アルブミン(HSA)(またはその一部)、ポリエチレングリコール(PEG)および/または上記タンパク質もしくは半減期の延長を伴う他の血清タンパク質、例えばトランスフェリンに結合するポリペプチドを含むが、これらに限定されない。したがって、別の局面において、本発明は、非Fn3部分と連結した1個以上のFn3ベースの結合分子を含む複合体を提供する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明のFn3ベースの結合分子および複合体はさらに、機能的部分を付加するための、野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して修飾されたアミノ酸を少なくとも1個含んでいる。一つの態様において、該修飾されたアミノ酸は、ループ領域、ベータストランド領域、ベータ様ストランド領域、C末端領域、C末端と最もC末端側のベータストランド(またはベータ様ストランド)間の領域、N末端領域およびN末端と最もN末端側のベータストランド(またはベータ様ストランド)間の領域から選択される1個以上の領域における、システインまたは非天然アミノ酸残基の置換または付加を含む。
【0014】
本発明のFn3ベースの結合分子は、野生型Fn3配列(例えば配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトFn3)および本明細書に記載のとおりかかる野生型配列の修飾型に基づいていてよい。例えば、Fn3ベースの結合分子は、少なくとも2個の異なるフィブロネクチンモジュールに由来するFn3ベータストランドを有するキメラであってよい。
【0015】
また本発明は、本発明のFn3ベースの結合分子または複合体を含み、好適な担体で製剤された組成物を提供する。
【0016】
本発明のFn3ベースの結合分子および複合体は、多様な治療および診断適用、例えば抗体を使用することができる適用を含むがこれに限定されない適用に使用できる。かかる適用は、例えば自己免疫疾患、がんおよび感染症の処置および診断を含む。
【0017】
Fn3ベースの結合分子をコードするまだら状核酸ライブラリーのような本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】強調を付したリガンド結合表面を構成するループおよびフレームワーク残基を有するFn3ベースの結合分子のリボン図を示す。
【図2】Fn3の上部および底部ループ表面を示す模式図を図示する。
【図3a】図3aは上部または底部ループのいずれかを修飾して1個の標的、標的Aに結合できることを示す、単一特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。図3bは上部および底部ループの両方を修飾して1個の標的、標的Aに結合できることを示す、二重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。二重特異性なFn3ベースの結合分子は2個の異なる標的に結合させるために用いてもよく、その場合は上部ループが1個の標的、標的Aに結合し、底部ループが第二の標的、標的Bに結合する。
【図4a】底部ループに修飾を有する2個の底部単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。
【図4b】上部および底部ループに修飾を有する2個の二重特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子の模式図である。
【図5】図5aは底部ループに修飾を有する複数の単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの模式図である。図5bは上部および底部ループに修飾を有する複数の二重特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの模式図である。
【図6】フィブロネクチンcDNAをクローニングするために用いるベクターの図である。
【図7】底部ループまたはC末端を用いてヒト血清アルブミンに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図8a】底部ループまたはC末端を用いてリゾチームに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図8b】底部ループまたはC末端を用いてリゾチームに結合する、選択した数の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を示す表である。
【図9】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的としてヒト血清アルブミンに結合するヒスチジンタグ化単一特異性なFn3ベースの結合分子の、ヒト血清アルブミン特異的ELISA分析を示すグラフである。
【図10】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌における発現の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図11】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌溶解物からの精製の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図12】底部ループまたはC末端を用いて特異的標的に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子の、大腸菌溶解物からの精製の成功を示すSDS−PAGEゲルである。
【図13】底部ループまたはC末端と、上部ループの両方を用いて異なる標的分子に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子のELISA分析を示すグラフである。クローン87およびクローン89から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子は、VEGFR2に結合する上部ループと、ヒト血清アルブミンに結合する底部ループを有する。このデータは、1個のFn3ベースの結合分子を操作して上部ループがVEGFR2に結合し、底部ループがHSAに結合するようにできることを示している。
【図14】上部ループを用いてVEGFR2に結合する、クローン87から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子の、Biacore結合試験を示すグラフである。
【図15】底部ループを用いてHSAに結合する、クローン87から単離した二重特異性なFn3ベースの結合分子の、Biacore結合試験を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本明細書および特許請求の範囲の理解を明確にするため、次の定義が簡便には提供される。
【0020】
定義
本明細書において使用するとき、用語「フィブロネクチンタイプIIIドメイン」または「Fn3ドメイン」は、いずれかの生物由来の野生型Fn3ドメインならびに2個以上の異なるFn3ドメイン由来のベータストランドから構築したキメラFn3ドメインを意味する。当該技術分野において知られているとおり、天然に生じるFn3ドメインはAB、BC、CD、DE、EFおよびFGループと称される6個のループで連結された、A、B、C、D、E、FおよびGと称される7個のベータストランドから成るベータサンドイッチ構造を有する(例えば、Bork and Doolittle, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 89:8990, 1992; Bork et al, Nature Biotech. 15:553, 1997; Meinke et al., J. Bacteriol. 175:1910, 1993; Watanabe et al., J. Biol. Chem. 265:15659, 1990; Main et al, 1992; Leahy et al., 1992; Dickinson et al., 1994; 米国特許第6,673,901号; PCT公報WO/03104418;および米国特許出願第2007/0082365号参照、これらの全教示を参照により本明細書の一部とする)。3個のループはドメインの上部に存在し(BC、DEおよびFGループ)、3個のループはドメインの底部に存在する(AB、CDおよびEFループ)(図1参照)。本発明の特定の態様において、該Fn3ドメインはヒトフィブロネクチンの第10Fn3ドメイン(10Fn3)に由来する(配列番号1)。
【0021】
本明細書において使用するとき、用語「Fn3ベースの結合分子」または「フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子」は、1個以上の非Fn3結合配列を含むように改変されているFn3ドメインを意味する。具体的な態様において、1個以上の底部AB、CDおよび/またはEFループが、対応する野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1個以上の非Fn3結合配列を含む。別の態様において、1個以上の底部AB、CDまたはEFループと、1個以上の上部BC、DEおよびFGループが、対応する野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1個以上の非Fn3結合配列を含む。かかる分子は「二重特異性なFn3ベースの結合分子」と本明細書において称される。さらなる態様において、2個以上のFn3ベースの結合分子または二重特異性なFn3ベースの結合分子が一体に連結されている。かかる分子は、「多重特異性なFn3ベースの結合分子」と本明細書において称される。
【0022】
用語「非Fn3結合配列」は、天然に生じる(例えば野生型)Fn3ドメイン中には存在せず、特定の標的に結合するアミノ酸配列を意味する。かかる非Fn3結合配列は典型的には、野生型Fn3ドメインを修飾して(例えば置換および/または付加によって)導入される。これは例えば、野生型Fn3ドメイン内のアミノ酸残基のランダムまたは所定の変異によって得ることができる。さらにまたはあるいは、非Fn3結合配列は、部分的または完全に異種であってよく、すなわち異なる遺伝子源またはアミノ酸源に由来してよい。例えば、異種配列は、抗体の超可変領域、例えば既知の標的抗原に対して既知の結合特異性を有する1個以上のCDR領域に由来していてよい。かかるCDRは一本の抗体鎖(例えば軽鎖または重鎖の可変領域)または異なる抗体鎖の組合せに由来していてよい。CDRはまた、2種の異なる抗体(例えば異なる特異性を有する)に由来していてもよい。特定の態様において、CDRはナノ抗体、例えばラクダ様重鎖に由来している。
【0023】
本明細書において使用するとき、用語「単一特異性」は、Fn3ドメインの底部領域またはFn3ドメインの上部領域のみ(両方ではない)が結合に使用されるFn3ドメインを含む、1個以上の標的分子に結合するFn3ベースの結合分子を意味する。例えば、底部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、Fn3ドメインのAB、CDもしくはEFループのような底部ループまたはC末端のみを用いて標的に結合するが、上部単一特異性なFn3ベースの結合分子は、Fn3ドメインのBC、DEおよびFGループのような上部ループのみを用いて標的に結合するものである。上部または底部の3個のループの全てが標的分子との結合に使用される必要がないことが理解される。
【0024】
単一特異性Fn3ドメインは一体に(例えば数珠状に)連結されて、例えば少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインを含み、これらが一体に連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成してもよい。底部単一特異性な結合分子について、各Fn3ドメインは少なくとも1個の底部ループまたはC末端領域を用いて1個以上の標的分子に結合する。一つの態様において、この多重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じ標的分子(例えば標的A)の異なる標的領域に結合する。例えば、1個のFn3ドメインが標的Aの第一の標的領域に結合し、別のFn3ドメインが標的Aの第二の標的領域に結合できる。これを用いて、標的分子に対するFn3ベースの結合分子の結合活性を上昇させることができる。別の態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は複数の標的分子に結合する。例えば、1個のFn3ドメインが標的Aに結合して、別のFn3ドメインが標的B(例えば半減期エクステンダー)に結合できる。さらに別の態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、標的Aの異なる標的領域に結合する少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインと、標的Bの異なる標的領域に結合する少なくとも2個の単一特異性なFn3ドメインを含む。当業者は、任意の数のFn3ドメインをこの方法で連結して、同じ標的分子または異なる標的分子の異なる標的領域に結合できる多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。
【0025】
本明細書において使用するとき、用語「二重特異性」は、Fn3ドメインの底部領域とFn3ドメインの上部領域の両方を用いて1個以上の標的に結合するFn3ベースの結合分子を意味する。例えば、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、該分子のAB、CDもしくはEFループのような底部ループまたはC末端と該分子のBC、DEもしくはFGループのような上部ループの両方を用いて標的に結合するFn3ドメインを含んでなる。二重特異性なFn3ベースの結合分子を用いて、該二重特異性なFn3ベースの結合分子の上部および底部の両方に結合できる同一の標的分子、例えば標的Aに結合させることができる(図3b参照)。あるいは、二重特異性なFn3ベースの結合分子を用いて、2種の異なる標的分子、例えば標的Aと標的Bに結合させてもよい。この場合は、上部ループを用いて標的Aに結合させ、底部ループを用いて標的Bに結合させるか、あるいは上部ループを用いて標的Bに結合させ、底部ループを用いて標的Aに結合させることができる(図3b参照)。二重特異性なFn3ベースの結合分子を一体に(例えば数珠状に)連結させて、多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成させてもよい。
【0026】
本明細書において使用するとき、用語「多重特異性」は、一体に連結した少なくとも2個の単一特異性なFn3ベースの結合分子または一体に連結した少なくとも2個の二重特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなるFn3ベースの結合分子を意味する。
【0027】
用語「相補性決定領域(CDR)」は、抗体可変ドメインまたはT細胞受容体由来の超可変ループを意味する。抗体可変領域内のCDRの位置は、正確に定義されている(Kabat, E.A., et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, 1991およびChothia, C. et al., J. Mol. Biol. 196:901-917, 1987参照、これらを参照により本明細書の一部とする)。用語「シングルドメイン抗体」は、例えばDomantis(Domantis / GSK (Cambridge, UK))に記載のヒトドメイン抗体または下記定義のラクダナノ抗体を含む、いずれかの天然に生じる一可変ドメイン抗体または対応する操作された結合フラグメントを意味する。
【0028】
用語「一本鎖抗体」は、軽鎖可変領域の抗原結合部分と重鎖可変部分の抗原結合部分とが、例えば組換え方法を用いて、VLおよびVH領域が対となって1価の分子を形成する一本のタンパク質鎖に該鎖をさせることができる合成リンカーによって結合している抗体を意味する(一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えばBird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 85:5879-5883参照)。
【0029】
用語「ラクダナノ抗体」は、軽鎖を含まない小さな1個の可変ドメインであり、標的に対して高い親和性を有する低分子タンパク質を得て、低分子量抗体由来タンパク質を得るために遺伝子操作して得ることができるラクダ抗体の領域を意味する。例えば、WO07042289および1998年6月2日取得の米国特許第5,759,808号参照;また、例えばStijlemans, B. et al., 2004, J Biol Chem. 279(2): 1256-61も参照されたい。ラクダ抗体および抗体フラグメントの操作ライブラリーは、例えばAblynx、Ghent、Belgiumから商業的に入手可能である。非ヒト起源の他の抗体に関して、ラクダ抗体のアミノ酸配列を組換えによって変化させて、ヒト配列により近い配列を得ることができ、すなわちナノ抗体は「ヒト化」してもよい。これは、ヒトに対するそもそも低いラクダ抗体の抗原性をさらに低下させる。
【0030】
用語「標的」は、本発明のFn3ベースの結合分子が認識する抗原またはエピトープを意味する。標的は、タンパク質に存在するエピトープ、ペプチド、糖および/または脂質を含むが、これらに限定されない。
【0031】
用語「複合体」は、1個以上の非Fn3部分と化学的または遺伝的に結合したFn3ベースの結合分子を意味する。
【0032】
用語「非Fn3部分」は、それが結合している分子にさらなる機能性を与える生物学的または化学的要素を意味する。特定の態様において、非Fn3部分はポリペプチド、例えばヒト血清アルブミン(HSA)またはFn3ベースの結合分子のインビボでの半減期を延長する化学的要素、例えばポリエチレングリコール(PEG)である。
【0033】
用語「非天然アミノ酸残基」は、天然に生じる(野生型)Fn3ドメインには存在しないアミノ酸残基を意味する。かかる非天然アミノ酸残基は、天然に生じるアミノ酸の置換および/または天然に生じるアミノ酸Fn3配列への非天然アミノ酸の挿入によって導入することができる。非天然アミノ酸残基は、Fn3ベースの結合分子に所望の機能性、例えば機能的部分(例えばPEG)と結合する能力を付与するように、導入してもよい。
【0034】
用語「ポリエチレングリコール」または「PEG」は、カップリング剤を含むかまたは含まない、あるいはカップリングまたは活性化部分で誘導体化されたかあるいはされていない、ポリアルキレングリコール化合物またはその誘導体を意味する。
【0035】
用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、表面プラズモン共鳴によって測定したとき、室温で標準的な生理的塩およびpH条件下で、標的と少なくとも1×10−6Mの親和性で結合し、そして/または非特異的抗原についての親和性よりも少なくとも2倍(好ましくは少なくとも10倍)の親和性で標的と結合する、Fn3ベースの結合分子の能力を意味する。
【0036】
概略
本発明は、標的抗原と特異的に結合するフィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子を提供する。本発明は、1個以上の標的分子に結合する底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の少なくとも1個以上の修飾を有する、単一特異性なFn3結合分子を提供する。本発明はさらに、2個の異なる結合節を有する同じ標的分子または2種以上の標的抗原に同時に結合する、二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。本発明のFn3ベースの結合分子はまた、一体に(例えば数珠状に)連結して、多重特異性なFn3ベースの結合分子を形成するか、そして/または半減期および安定性を改善するためにヒト血清アルブミン(HSA)のような非Fn3部分と複合化されていてよい。Fn3ベースの結合分子は、抗体のような他の結合分子と同様に、多様な治療および診断適用に用いることができる。
【0037】
単一特異性なFn3結合分子
一つの局面において、本発明は、野生型Fn3ドメインと比較して(例えば底部および/または上部ループ領域において)改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている単一特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。一つの態様において、単一特異性なFn3ベースの結合分子はAB、CD、EFループまたはC末端を用いて1個以上の標的分子に結合する。
【0038】
したがって一つの態様において、本発明は、Fn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている結合分子を提供する。特定の態様において、野生型Fn3ドメインはヒトFn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)である。さらに、ループ領域に隣接する1個以上のベータストランドにおける1個以上のアミノ酸残基も、野生型Fn3ドメインと比較して変異されて、非Fn3部分に結合できるさらなる非Fn3結合配列または残基をもたらしてもよい。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。
【0039】
例示的な非Fn3結合配列は、例えば抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む。
【0040】
別の局面において、本発明は、具体的な所望の標的に結合するFn3ベースの結合分子を同定するために使用できる、Fn3ベースの結合分子のライブラリーを提供する。一つの態様において、該ライブラリーは、野生型Fn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)と比較して底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上に少なくとも1個のアミノ酸改変を各々含む、複数のFn3ベースの結合分子を含む。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端およびベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。
【0041】
別の態様において、ライブラリーは、野生型Fn3ドメイン、例えばヒト10Fn3(配列番号1)と比較して上部BC、DEまたはFGループ領域の1個以上に少なくとも1個のアミノ酸改変を各々含む、複数のFn3ベースの結合分子を含む。改変してよい上部BC、DEまたはFGループ領域およびベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸を含む。
【0042】
ライブラリーの多様性は、例えば配列番号1に開示された残基の1個以上の、ランダム突然変異、「ウォークスルー(walk though)変異誘発」または「ルックスルー(look through)変異誘発」によって作成できる(7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793、5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5,866,344 およびPCT公開公報WO06023144)。
【0043】
あるいは、Fn3ベースの結合分子は、1個以上の異なるライブラリーメンバー由来の非Fn3結合配列を組み合わせて作成してもよい。具体的な態様において、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、1個のライブラリーメンバーの底部AB、CD、EFループ領域またはC末端の1個以上由来の非Fn3結合配列を、別のライブラリーメンバーの上部BC、DEまたはFGループの1個以上に由来する非Fn3結合配列と共に、1個の二重特異性なFn3ベースの結合分子に組み合わせることで作成される。
【0044】
本明細書に記載のFn3ベースの結合分子のライブラリーをコードする核酸またはその変異体は、PCRを利用するかもしくは酵素仲介遺伝子操作、最初からのDNAもしくはRNA合成、および/またはカセット変異誘発を含むがこれらに限定されない当業者に認識されている方法を用いて構築できる。
【0045】
Fn3ベースの結合分子の好適な標的は、半減期エクステンダ(例えばHSA)、リゾチーム、細胞受容体、細胞受容体リガンド、細菌またはウィルスを含むがこれらに限定されない(図1参照)。具体的な態様において、標的は、ヒトの疾患、例えば自己免疫疾患、がんまたは感染症に関与している。
【0046】
本明細書はとりわけ、Fn3分子の底部ループを用いて標的、例えばHSAに結合する新規なFn3ベースの結合分子の同定および作成について記載している。本発明の方法を用いて数百種類のクローンを作成し、代表的な数個を実施例4に示すように特徴付けた。図7はHSAに結合するFn3足場タンパク質のこのライブラリーから単離した代表数の配列を示す(配列番号7〜41)。
【0047】
さらにまた、多くの独立的にランダム化したループがHSA結合に参加する可能性があるコンセンサス配列(配列番号42)に集中する傾向があることを見出した。したがって、このコンセンサス配列を有するポリペプチドが、それらが同定されたタンパク質の前後関係から分離されたとしても、HSA結合物質として有用であると期待される。
【0048】
図8はリゾチームに結合するFn3足場タンパク質のこのライブラリーから単離した代表的な数の配列を示す(配列番号43〜116)。実施例5のデータは、代表的な数個のFn3ベースの結合タンパク質のHSAに対する結合試験を示す。この結果は、標的に結合する能力を有するFn3結合分子が修飾底部ループによって作成できることを示している。
【0049】
このデータは、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように修飾されているFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成できることを示している。HSAライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と同じ長さを保っていた。リゾチームライブラリーについて、底部ループの長さは、タンパク質の構造に有害な影響を与えることなく、変化した。さらに、これらの修飾された底部ループを有する単一特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造的安定性を維持し、結合能を維持しながら発現され、精製可能である。したがって、本発明の方法を用いて、少なくとも1個の修飾された底部ループを有するFn3ベースの結合分子、ならびに底部表面を用いて標的に結合するFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成することができる。
【0050】
二重特異性なFn3ベースの結合分子
一部は上記のとおり、別の局面において、本発明は、2個以上の標的に同時に結合できる二重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。かかる二重特異性なFn3ベースの結合分子は、同じタンパク質ドメイン内に2個以上の非Fn3結合配列を含む。これは、上部および底部AB、BC、CD、DE、EFまたはFGループ領域の2個以上を改変して非Fn3結合配列を含めることによって得られる(図1参照)。特定の態様において、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個の別々の結合特異性を作成するために上部と底部ループ領域の両方において改変されている。
【0051】
したがって一つの態様において、本発明は、二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDまたはEFループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列を作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEおよびFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が野生型Fn3ドメイン(例えば配列番号1)と比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列を作成されている結合分子を提供する。改変してよい底部AB、CD、EFループ領域またはC末端および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95または96番アミノ酸を含む。改変してよい上部BC、DEまたはFGループ領域および隣接ベータストランドにおける具体的なアミノ酸残基は、例えば配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87または88番アミノ酸を含む。
【0052】
本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個以上の標的に同時に結合する。標的は同じ分子に存在していてよく、同じ標的分子の2個の領域が該標的と二重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。あるいは、標的は異なる分子に存在していてよく、2個の異なる分子が該標的と二重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。標的は同一であってもよく、抗体が分子を集合させることができるのと同様に、二重特異性なFn3ベースの結合分子が標的分子を集合させることができる。
【0053】
好適な標的は、上記のものを単独で、あるいは半減期エクステンダー、例えばHSA、抗体FcレセプターまたはPEGのような、二重特異性なFn3ベースの結合分子の物理的特性を向上する分子に存在する標的と組み合わせて含む。好適な標的は、本明細書に記載のとおり、さらなる機能的特性、例えば細胞傷害性、標識またはイメージング部分を与える分子も含む。2個の二重特異性なFn3ベースの結合ドメイン分子が標的に同時に結合できるとき、好適な標的を用いて、二重特異性なFn3ベースの結合分子の二量体化を誘導してもよい。例えば、2個の二重特異性なFn3ベースの結合分子がイディオタイプ/抗イディオタイプな関係で働き得る。この場合、Fn3結合分子の1個の結合部位が標的分子に結合するが、Fn3結合分子の第二の結合部位はFn3結合分子の結合領域に結合する。例えば、二重特異性なFn3結合分子の底部ループが標的Aに結合し得るが、該二重特異性な分子の上部ループは第二の二重特異性なFn3結合分子に結合し得る。これは、底部ループ標的結合部位が標的Aとの結合に利用可能であり、上部ループ結合部位が第二のFn3結合分子との自己会合を導くように、Fn3結合分子の多量体化を導く。
【0054】
本明細書はとりわけ、同じFn3分子の底部ループと上部ループの両方を用いて2個の異なる標的分子、例えばHSAおよびVEGFR2に結合する、新規な二重特異性なFn3分子の同定および作成について記載する。本発明の方法を用いて数百個のクローンを作成して、1個、特にクローン89が実施例6および7においてより詳細に説明される。クローン89は、Fn3分子の底部ループがHSAと結合し、同じFn3分子の上部ループがVEGFR2に結合する二重特異性なFn3ベースの結合分子である(配列番号120)。
【0055】
二重特異性なFn3結合分子は、所望の機能、例えばHSAとの結合能を有する単一特異性なFn3ベースの結合分子をまず同定して、作成してもよい。この単一特異性なFn3ベースの分子は、2個の結合表面の一方にのみループ変動を有する(すなわち、上部ループか底部ループのいずれかであって、両方ではない)。所望の機能を有する好適な単一特異性なFn3ベースの結合分子を同定した後、次いでこの分子を足場として用いて、Fn3分子の逆の表面のループが改変されているライブラリーを作成し、したがって二重特異性なFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成する。次いでこの二重特異性なFn3ベースの結合分子のライブラリーを用いて、2個の標的に結合する二重特異性なものを同定するために、第二の標的分子に対するスクリーニングを行う。例えば、単一特異性なFn3ベースの結合分子は少なくとも1個の底部ループを用いてHSAに結合できる。この単一特異性なFn3ベースの結合分子を足場として用いて、該分子の少なくとも1個の上部ループが第二の標的、例えばVEGFR2に結合するように改変されているライブラリーを作成して、二重特異性なFn3ベースの分子のライブラリーを作成する。この二重特異性なFn3ベースの分子のライブラリーを用いて、VEGFR2標的に対するスクリーニングを行うことができる。
【0056】
VEGFR2はVEGFシグナル伝達の血管新生促進効果の一次メディエーターである。VEGFR−2はVEGF−A、VEGF−CおよびVEGF−Dに結合し、活性化される。内皮細胞において、VEGFR−2活性化刺激細胞増殖および移動、ならびにインビボでのVEGFR−2活性化は、血管新生を惹起し、脈管構造の透過性を向上させる。血管新生の増加は、腫瘍増殖および多様な網膜症の重要な特徴として十分に確立されており、また脈管構造の透過性の向上は多くの炎症性応答における重要な事象である(例えばWO2005056764参照)。
【0057】
このデータは修飾された底部ループを有する二重特異性なFn3ベースの結合分子が立体構造安定性を維持し、結合活性を保持したまま発現され、精製され得ることを示している。当業者は、本明細書に記載の本発明の方法を用いて、いずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。二重特異性な分子は、いずれかの興味のある標的に結合するように設計できる。例えば、二重特異性な分子は、同じ標的の異なる結合部位に結合できる。あるいは、二重特異性な分子は、異なる標的分子に結合できる。
【0058】
多重特異性なFn3ベースの結合分子
別の局面において、本発明は、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子または二重特異性なFn3ベースの結合分子を含み、それらが一体に(例えば遺伝子的または化学的に)連結されている多重特異性なFn3ベースの結合分子を提供する。多重特異性なFn3ベースの結合分子は、少なくとも1個の底部ループAB、CD、EFを用いて標的に結合する、少なくとも1個の単量体Fn3ベースの結合分子を含む。
【0059】
一つの態様において、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、数珠状に連結されており、各Fn3ベースの結合分子がそれぞれ特定の標的に結合する、2個以上のFn3ベースの結合分子を含んでなる。二重特異性なFn3ベースの結合分子について、かかる標的は同じ分子または異なる分子に存在していてよく、異なる分子は該多重特異性なFn3ベースの結合分子の結合によって並列される。標的は同一であってもよく、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、抗体と同様に、標的分子を集合させることができる。
【0060】
多様なFn3ベースの結合分子、例えば単一の結合特異性を有するFn3ベースの結合分子、二重特異性なFn3ベースの結合分子または両方のタイプのFn3ベースの結合分子の組合せが、多重特異性なFn3ベースの結合分子に組み込まれてよい。したがって、多重特異性なFn3ベースの結合分子の好適な標的は、Fn3ベースの結合分子および二重特異性なFn3ベースの結合分子において記載したものを含む。
【0061】
多重特異性なFn3ベースの結合分子は、当該技術分野において知られている方法を用いて作成できる。例えば、Fn3ベースの結合分子が1個のポリペプチドとして発現されるように、Fn3ベースの結合分子を遺伝子的に連結してよい。この連結は、直接であるか、あるいはさらなるアミノ酸「リンカー」配列によって行ってよい。好適な非限定的な方法およびリンカーは、例えば US20060286603 および WO04041862A2に記載されている。例示的なポリペプチドリンカーは、GGGGSGGGGS(配列番号118)、GSGSGSGSGS(配列番号121)、PSTSTST(配列番号122)およびEIDKPSQ(配列番号123)のようなGSリンカーならびにそれらの多量体を含むが、それらに限定されない。実施例6はG−Sリンカーを用いてどのように多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成するかを示している。具体的には、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、上部ループを用いてVEGFR2に結合する第一の単一特異性なFn3ベースの結合分子と、底部ループを用いてHSAに結合する第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子を連結するGGGGSGGGGS(配列番号118)リンカー配列を用いて作成する(配列番号119)。
【0062】
リンカー配列を用いて作成した多重特異性なFn3ベースの結合分子は標的分子との結合について改善された立体障害を有し、したがってより短いリンカー配列を2個以上の単量体Fn3ベースの結合分子を一体に連結するために使用できる。より短いリンカー配列は、免疫原性応答を低減し、分裂する可能性を低減する。
【0063】
あるいは、多重特異性なFn3ベースの結合分子は、当該技術分野において既知の方法を用いて、個々のFn3ベースの結合分子を化学的に複合体化して作成できる。多様なカップリング剤または架橋剤が共有複合化のために使用できる。架橋剤の例には、例えばプロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を含む(例えば、Karpovsky et al. (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, MA et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:8648参照)。他の方法は、Paulus (1985) Behring Ins. Mitt. No. 78, 118-132; Brennan et al. (1985) Science 229:81-83)、および Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139: 2367-2375)に記載のものを含む。好ましい複合化剤はSATAおよびスルホ−SMCCであり、いずれもPierce Chemical Co. (Rockford, IL)から入手可能である。システイン残基をFn3結合分子の特定の位置で導入して(例えば参照)、DPDPBまたはDTME(Pierceから入手可能)のようなスルホヒドリルと物質を架橋して、2個の分子を一体に連結できる。
【0064】
実施例6および7は、リンカー配列で一体に連結する2個の別々の単一特異性なFn3分子を用いて、2個の異なる標的、HSAとVEGFR2に結合する新規な二重特異性なFn3分子の同定および作成について記載している。この具体例において、1個の単量体Fn3ベースの結合分子は、底部ループを使用してHSAに結合し、他方の単一特異性なFn3ベースの結合分子は上部ループを使用してVEGFR2に結合する。本発明の方法を用いて数百個のクローンを作成し、代表的な数個、特にクローン89を特徴付けた。このデータは、修飾された底部ループを有する多重特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造安定性を維持し、結合活性を保持したまま発現され、精製され得ることを示している。当業者は本発明の方法を用いて、任意の数の多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成できると理解する。かかる多重特異性な結合分子は、1個の標的に結合するように設計してもよい。あるいは、多重特異性な結合分子は2個以上の標的に結合するように設計してもよい。
【0065】
Fn3ベースの結合分子の複合体
別の局面において本発明は、1個以上の非Fn3部分と連結したFn3ベースの結合分子を含んでなる複合体を提供する。かかる非Fn3部分は、例えばFn3ベースの結合分子にさらなる機能的または物理化学的特性を与えることができる。一つの態様において、Fn3ベースの結合分子は、抗体Fcドメイン(またはその一部)に連結または融合する。分子とFcドメイン、例えばIgG1のFcドメインを融合する方法は、当該技術分野において既知である(例えばU.S. 5,428,130参照)。かかる複合体は、IgGホメオスタシスにおいて重要な機能を提供して、異化からそれと結合する分子を保護するFcRnと結合するFcの能力のため、延長された循環系半減期を有する。
【0066】
別の態様において、Fn3ベースの結合分子は1個以上のヒト血清アルブミン(HSA)ポリペプチドまたはその一部と融合する。成熟形態では585アミノ酸のタンパク質であるHSAは、血清の浸透圧の大部分に関与しており、内因性および外因性リガンドのキャリヤーとして機能する。キャリヤー分子としてのアルブミンの役割およびその不活性性は、インビボでペプチドのキャリヤーおよびトランスポーターとして使用するために望ましい特性である。多様なタンパク質のキャリヤーとしてのアルブミン融合タンパク質としてのアルブミンの使用は、WO 93/15199、WO 93/15200およびEP 413 622において示唆されている。ポリペプチドと融合するためのHSAのN末端フラグメントの使用も提案されている(EP 399 666)。したがって、本発明の分子とアルブミンまたはアルブミンのフラグメント(一部)または変異体あるいはタンパク質および/またはその活性を安定化するために十分なHSAと結合することができる分子(抗HSAバインダー)とを遺伝子的または化学的に融合または結合させることによって、該分子は安定化されて、保存期間が延長され、そして/または溶液中、インビトロおよび/またはインビボで長期間、分子の活性が保持される。
【0067】
アルブミンと他のタンパク質との融合は、HSAをコードするDNAまたはそのフラグメントを、該タンパク質をコードするDNAと結合させるように、遺伝子操作することによって達成することができる。次いで、融合ポリペプチドを発現するように好適なプラスミドを設計した該融合ヌクレオチド配列で、好適な宿主を形質転換またはトランスフェクトする。発現は、例えば原核細胞または真核細胞から、インビトロで、あるいは例えばトランスジェニック生物から、インビボで実施することができる。HSA融合に関するさらなる方法は、例えばWO 2001077137およびWO 200306007に見出すことができ、これらを参照により本明細書の一部とする。具体的な態様において、融合タンパク質の発現は、哺乳類細胞系、例えばCHO細胞系において実施する。
【0068】
他の本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、少なくとも1個の異なる結合部位または標的分子に結合する分子を作成するために、非Fn3ベースの結合分子、例えば別のペプチドまたはタンパク質(例えば抗体または受容体のリガンド)に連結したFn3ベースの結合分子を含む。
【0069】
本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、当該技術分野において既知の方法を用いて、構成分子を結合させて作成できる。例えば、多様なカップリング剤または架橋剤を共有複合化に使用して、構成分子を化学的に結合させることができる。架橋剤の例には、例えばプロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)およびスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)を含む(例えば、Karpovsky et al. (1984) J. Exp. Med. 160:1686; Liu, MA et al. (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:8648参照)。他の方法は、Paulus (1985) Behring Ins. Mitt. No. 78, 118-132; Brennan et al. (1985) Science 229:81-83)、および Glennie et al. (1987) J. Immunol. 139: 2367-2375)に記載のものを含む。好ましい複合化剤はSATAおよびスルホ−SMCCであり、いずれもPierce Chemical Co. (Rockford, IL)から入手可能である。
【0070】
あるいは、構成分子を同じベクターにコード化して、宿主細胞において1個のタンパク質として発現させることができる。かかる融合タンパク質を作製する方法は、例えば米国特許5,260,203; 米国特許5,455,030; 米国特許4,881,175; 米国特許5,132,405; 米国特許5,091,513; 米国特許5,476,786; 米国特許5,013,653; 米国特許5,258,498; および米国特許5,482,858に記載されている。
【0071】
さらに別の態様において、本発明は、例えば分子の生物学的(例えば血清)半減期を延長するため、ポリエチレングリコール(PEG)と複合化したFn3ベースの結合分子を提供する。タンパク質をPEG化するための方法は当該技術分野において既知である。例えば、1個以上のPEG基が該分子に結合する条件下で、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体のようなPEG部分とFn3ベースの結合分子を反応させる。用語「ペグ化部分」、「ポリエチレングリコール部分」または「PEG部分」は、ポリアルキレングリコール化合物、あるいはカップリング剤またはカップリングもしくは活性化部分での誘導体化(例えば、チオール、トリフレート、トレシレート、アジルジン、オキシランまたは好ましくはマレイミド部分と、例えばPEG−マレイミド)ありまたはなしでのその誘導体を含む。他の適切なポリアルキレングリコール化合物は、マレイミドモノメトキシPEG、活性化PEGポリプロピレングリコール、あるいは次のタイプの荷電もしくは中性ポリマーを含むが、これらに限定されない:デキストラン、コロミン酸または他の糖ベースのポリマー、アミノ酸のポリマーおよびビオチン誘導体。
【0072】
PEG誘導体のための好適な官能基の選択は、分子上の利用可能な反応基のタイプまたはPEGと結合させる分子のタイプに基づく。タンパク質について、典型的な反応性アミノ酸は、リジン、システイン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、チロシンを含む。N末端アミノ基およびC末端カルボン酸も使用することができる。
【0073】
好ましくは、ペグ化は反応性PEG分子(または類似の反応性水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応によって実施される。本明細書において使用するとき、用語「ポリエチレングリコール」は他のタンパク質の誘導体化に使用されているあらゆる形態のPEG、例えばモノ(C1−C10)アルコキシ−もしくはアリールオキシ−ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール−マレイミドを含む。タンパク質をペグ化する方法は当該技術分野において既知であり、本発明に適用することができる。例えば、WO 2005056764, U.S.7,045,337, U.S.7,083,970, U.S.6,927,042, Nishimura et al.によるEP 0 154 316およびIshikawa et alによるEP 0 401 384を参照されたい。Fn3ベースの結合分子は、ペグ化を促進するため、少なくとも1個のシステインアミノ酸または少なくとも1個の非天然アミノ酸を含むように操作されていてもよい。
【0074】
Fn3ベースの結合分子複合体とその特異的標的との結合は、多様なアッセイによって確認することができ、例えば融合体をラジオイムノアッセイ(RIA)において、放射活性によって標識し、使用することができる(例えば、Weintraub, B., Principles of Radioimmunoassays, Seventh Training Course on Radiolidang Assay Techniques, The Endocrine Society, March, 1986参照、これらを参照により本明細書の一部とする)。放射性同位体は、γカウンターまたはシンチレーションカウンターの使用のような方法によって、またはオートラジオグラフィーによって検出することができる。
【0075】
他の本発明のFn3ベースの結合分子複合体は、タグ(例えばビオチン)または化学物質(例えば免疫毒素または化学療法剤)と結合したFn3ベースの結合分子を含む。かかる化学物質は、細胞に有害な(例えば殺す)任意の薬物である細胞傷害剤を含む。例えば、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、エチジウムブロマイド、エメチン、ミトマイシン、エトポシド、テニポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロールおよびプロマイシンならびにそれらのアナログまたはホモログを含む。治療薬物はまた、例えば代謝拮抗剤(例えばメトトレキセート、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−フルオロウラシル、デカルバジン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオエパ、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)およびロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ミトマイシンCおよびcis-ジクロロジアミンプラチナ(II)(DDP)シスプラチン)、アントラサイクリン(例えばダウノルビシン(正式にはダウノマイシン)およびドキソルビシン)、抗菌剤(例えばダクチノマイシン(正式にはアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシンおよびアントラマイシン(AMC))および抗有糸分裂剤(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)を含む。本発明のフィブロネクチンベースの結合分子と結合することができる他の治療用細胞傷害剤の例は、デュオカルマイシン、カリケアマイシン、マイタンシンおよびアウリスタチンならびにそれらの誘導体を含む。
【0076】
細胞傷害剤は、当該技術分野において利用可能なリンカー技術を用いて、本発明のFn3ベースの結合分子と結合することができる。細胞傷害剤と結合するために使用されるリンカータイプの例は、ヒドラゾン、チオエーテル、エステル、ジスルフィドおよびペプチド含有リンカーを含むが、これらに限定されない。リンカーは、例えばリソソーム区画内での低pHによる切断に受容性であるか、あるいは腫瘍組織において優先的に発現されているプロテアソーム、例えばカテプシン(例えばカテプシンB、C、D)のようなプロテアソームによる切断に受容性であるように選択してもよい。細胞傷害剤のタイプ、リンカーおよび治療薬物を複合化する方法のさらなる説明は、Saito, G. et al. (2003) Adv. Drug Deliv. Rev. 55:199-215; Trail, P.A. et al. (2003) Cancer Immunol. Immunother. 52:328-337; Payne, G. (2003) Cancer Cell 3:207-212; Allen, T.M. (2002) Nat. Rev. Cancer 2:750-763; Pastan, I. and Kreitman, R. J. (2002) Curr. Opin. Investig. Drugs 3:1089-1091; Senter, P.D. and Springer, C.J. (2001) Adv. Drug Deliv. Rev. 53:247-264も参照されたい。
【0077】
本発明のFn3ベースの結合分子は、細胞傷害放射性薬物(放射性免疫複合体とも称する)を作成するために、放射性同位体と複合化してもよい。診断または治療に使用するためにフィブロネクチンベースの結合分子と複合化することができる放射性同位体の例は、ヨウ素131、インジウム111、イットリウム90およびルテチウム177を含むが、これらに限定されない。放射性免疫複合体を作成する方法は、当該技術分野において確立されている。放射性免疫複合体の例は、イブリツモマブ、チウキセタンおよびトシツモマブを含む商業的に入手可能なものであり、同様の方法を用いて、本発明の分子を使用して放射性免疫複合体を作成することができる。
【0078】
本発明のFn3ベースの結合分子複合体を使用して、所定の生物学的応答を修飾することができ、そして薬物部分は伝統的な化学治療薬物に限るものとして構成されない。例えば、薬物部分は所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドであってもよい。かかるタンパク質は、例えば酵素的に活性な毒物またはそのフラグメント、例えばアブリン、リシンA、シュードモナス属外毒素、またはジフテリア毒素;腫瘍壊死因子またはインターフェロンγのようなタンパク質;または生物学的応答調節剤、例えばリンホカイン、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)または他の増殖因子を含み得る。
【0079】
かかる治療部分を複合化する技術は周知であり、本発明の分子に適用可能である。例えばArnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”, Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeld et al. (eds.), pp. 243-56 (Alan R. Liss, Inc. 1985); Hellstrom et al., “Antibodies For Drug Delivery”, Controlled Drug Delivery (2nd Ed.), Robinson et al. (eds.), pp. 623-53 (Marcel Dekker, Inc. 1987); Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review”, Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, Pinchera et al. (eds.), pp. 475-506 (1985); “Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”, Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy, Baldwin et al. (eds.), pp. 303-16 (Academic Press 1985)および Thorpe et al., “The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates”, Immunol. Rev., 62:119-58 (1982)を参照されたい。
【0080】
本発明のFn3ベースの結合分子は、薬物特性を修飾するために、薬物と結合したヒドロキシエチルデンプン(HES)誘導体を用いたHES化によって修飾してもよい。HESは、体の酵素によって分解される、ロウ様トウモロコシデンプン由来の修飾された天然ポリマーである。この修飾のため、分子の安定性が上昇し、腎クリアランスが低下することによって循環系半減期が延長されて、生物学的活性の上昇がもたらされる。さらにまた、HES化は免疫原性およびアレルゲン性を強力に変化させる。HESの分子量のような異なるパラメーターを変化させて、広範なHES薬物複合体をカスタマイズすることができる。
【0081】
DE 196 28 705 および DE 101 29 369は、ヒドロキシエチルデンプンの対応するアルドノラクトンを介して、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)中でヒドロキシエチルデンプンをヘモグロビンおよびアンホテリシンBの遊離アミノ基と結合させることができる方法をそれぞれ開示している。特にタンパク質の場合に、溶解性またはタンパク質の変性の理由で、無水非極性溶媒を使用することができないことが多いため、水性媒体中でHESによるカップリング法も利用可能である。例えば、鎖の還元末端でアルドン酸に選択的に酸化されているヒドロキシエチルデンプンのカップリングは、水溶性カルボジイミドEDC(1−エチル−3−(3−ジメチル−アミノプロピル)カルボジイミド)の仲介によって可能である(PCT/EP 02/02928)。本発明に適用することができるさらなるHES化法は、例えばU.S. 20070134197, U.S. 20060258607, U.S. 20060217293, U.S. 20060100176および U.S.20060052342に記載されている。
【0082】
本発明のFn3ベースの結合分子はまた、糖残基によって修飾されていてもよい。タンパク質を糖残基で修飾するかあるいはタンパク質をグリコシル化する方法は、当該技術分野において既知であり(例えば、Borman (2006) Chem.&Eng. News 84(36):13-22およびBorman (2007) Chem.&Eng. News 85:19-20参照)、本発明の分子に適用可能である。
【0083】
さらにまたはあるいは、フコシル残基の量が少ない低フコシル化パターンのような別のタイプのグリコシル化を有する本発明のFn3ベースの結合分子、あるいは増加した二分(bisecting)GlcNac構造を有するFn3ベースの結合分子を作成することができる。かかる糖修飾は、例えば改変されたグリコシル化機構を有する宿主細胞中でFn3ベースの結合分子を発現させることによって実施することができる。改変されたグリコシル化機構を有する細胞は当該技術分野において説明されており、これは本発明の組換えFn3ベースの結合分子を発現させて、それによって改変されたグリコシル化を有する本発明のFn3ベースの結合分子を作成する宿主細胞として使用することができる。例えば、Hang et al.によるEP 1,176,195には、機能的に破壊された、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子を有する細胞系であって、かかる細胞系において発現された抗体が低フコシル化を示す細胞系が記載されている。PrestaによるPCT公報WO 03/035835は、フコースとAsn(297)結合糖の結合能が低下しており、また宿主細胞において発現された抗体の低フコシル化をもたらす変異CHO細胞系、Lecl3細胞について記載している(Shields, R.L. et al., 2002 J. Biol. Chem. 277:26733-26740も参照)。ヒト様グリコシル化パターンを有するポリペプチドを作成する方法は、GlycofiのEP1297172B1および他のパテントファミリーにも記載されている。
【0084】
Fn3ベースの結合分子を作成する方法
1)核酸およびアミノ酸変化
1個以上のアミノ酸またはヌクレオチド修飾(例えば変化)を有する本発明のFn3ベースの結合分子は、多様な既知の方法によって作成することができる。典型的には、かかる修飾されたFn3ベースの結合分子は、例えば、組換え法によって作成することができる。さらに、遺伝子コードの縮重のため、多様な核酸配列を用いて各々所望の分子をコードすることができる。
【0085】
出発分子のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子を作成するための、当該技術分野において認識されている方法の例は、部位特異的(またはオリゴヌクレオチド介在)突然変異誘発、PCR突然変異誘発および該分子をコードする前に作成されたDNAのカセット突然変異誘発による作成を含むが、これらに限定されない。
【0086】
部位特異的突然変異誘発は、置換変異体を作成するための好ましい方法である。この技術は当該技術分野において周知である(例えば、Carter et al. Nucleic Acids Res. 13:4431-4443 (1985)およびKunkel et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 82:488 (1987)参照)。簡潔には、DNAの部位特異的突然変異誘発の実施において、親DNAは最初に、かかる親DNAの一本鎖と所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせて変化させる。ハイブリダイゼーションの後、DNAポリメラーゼを用いて、プライマーとして上記ハイブリダイズしたオリゴヌクレオチドを使用し、そしてテンプレートとして上記親DNAの一本鎖を使用して、全第二鎖を合成する。かくして、所望の変異をコードするオリゴヌクレオチドは、得られた二本鎖DNAに組み込まれる。
【0087】
PCR突然変異誘発も、出発分子のアミノ酸配列変異体を作成するために好適である。Higuchi, in PCR Protocols, pp.177-183 (Academic Press, 1990);および Vallette et al., Nuc. Acids Res. 17:723-733 (1989)を参照されたい。簡潔には、PCRにおいて少量のテンプレートDNAを出発物質として使用するとき、テンプレートDNAの対応する領域とはわずかに配列が異なるプライマーを使用して、プライマーがテンプレートと異なる位置でのみテンプレート配列と異なる特定のDNAフラグメントを比較的大量に作成することができる。
【0088】
変異体を作成するための別の方法であるカセット突然変異誘発は、Wells et al., Gene 34:315-323 (1985)に記載の技術に基づく。出発物質は、変異される出発ポリペプチドDNAを含むプラスミド(または他のベクター)である。変異される親DNAのコドンを同定する。同定した変異部位(複数でも可)の両側に、固有の制限エンドヌクレアーゼ部位が存在していなければならない。かかる制限部位が存在しないとき、出発ポリペプチドDNAの適切な位置でそれらを導入するため、上記オリゴヌクレオチド介在突然変異誘発方法を用いてそれらを作成することができる。これらの部位でプラスミドDNAを切断して、直線にする。制限部位間のDNA配列をコードするが所望の変異を含む二本鎖オリゴヌクレオチドは、標準的な方法を用いて合成され、ここで該オリゴヌクレオチドの2本の鎖は別個に合成され、次いで標準的な技術を用いて一体にハイブリダイズする。この二本鎖オリゴヌクレオチドは、カセットと称される。このカセットは、直線化されたプラスミドの末端と適合可能である5’および3’末端を有するように設計され、それはプラスミドと直接ライゲートすることができる。そうしてこのプラスミドは、変異DNA配列を含む。
【0089】
あるいはまたはさらに、本分子のポリペプチド変異体をコードする所望のアミノ酸配列を決定することができ、かかるアミノ酸配列変異体をコードする核酸配列を合成的に作製することができる。
【0090】
本発明のFn3ベースの結合分子は、アミノ酸配列が(例えば野生型とは)異なるが、所望の活性には変化がないように、さらに修飾されていてもよいことが、当業者には理解される。例えば、「非本質的な」アミノ酸残基でのアミノ酸置換を導くさらなるヌクレオチド置換が該タンパク質に行われていてもよい。例えば、分子中の非本質的なアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置換されていてもよい。他の態様において、一連のアミノ酸が、順序および/または側鎖ファミリーメンバーの組成において異なる構造的に類似した一連のもので置換されていてもよく、すなわちあるアミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置換された保存的置換を行うことができる。
【0091】
同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術分野において定義されており、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非電荷極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分枝側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族性側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0092】
アミノ酸置換に加えて、本発明は、機能的に均等な分枝を作成するための、出発分子アミノ酸配列の他の修飾を意図する。例えば、1個以上のアミノ酸残基を欠失させてもよい。一般に、本発明のこの態様に従って、1〜約10個以下の残基が欠失される。1個以上のアミノ酸欠失を含むフィブロネクチン分子は、好ましくは出発ポリペプチド分子の少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%を保持している。
【0093】
元のFn3ドメインまたはFn3ベースの結合分子機能を保持したアミノ酸挿入変異体を作成してもよい。例えば、本分子に少なくとも1個のアミノ酸残基(例えば1〜2個のアミノ酸残基、一般に10残基以下)を導入することができる。他の態様において、アミノ酸修飾は、1個のFn3ドメインまたはFn3ベースの結合分子内で組み合わせてもよい。
【0094】
一つの態様において、アミノ酸置換は、システインまたはFn3ベースの結合分子と部分の結合に好適な他の非天然アミノ酸を含むように、周知の結合方法を使用して、Fn3ドメインで実施される。特に本発明は、Fn3足場を有するFn3ベースの結合分子の特定のアミノ酸変異体であって、1個以上のセリンアミノ酸残基がシステインまたは他の非天然アミノ酸で置換されている変異体に関する。置換され得るセリンアミノ酸残基は、Ser 1432、Ser 1436、Ser 1458、Ser 1475およびSer 1504を含むが、これらに限定されない。置換され得るFn3足場の他のアミノ酸位置は、V 1426、L 1434、T 1473およびT 1486を含むが、これらに限定されない。天然には生じないアミノ酸は、例えばAmbrex技術を用いてFn3足場に置換され得る(例えばUS 7,045,337; 7,083,970参照)。
【0095】
2)Fn3ベースの結合分子を同定するためのスクリーニングアッセイ
多様なスクリーニングアッセイを使用して、本発明のFn3ベースの結合分子を同定することができる。所望の抗原との結合について選択するいずれかのインビトロまたはインビボスクリーニング方法が、本質的には、使用できる。
【0096】
一つの態様において、Fn3ベースの結合分子は細胞、ウイルスまたはバクテリオファージの表面に提示され、固定化抗原を用いた選択に供される。スクリーニングのための好適な方法は、米国特許7,063,943; 6,699,658; 7,063,943および5866344に記載されている。かかる表面ディスプレイ法は、Fn3ベースの結合分子と通常細胞、ウイルスまたはバクテリオファージの外側表面に存在する好適なタンパク質との融合タンパク質の作成を必要とし得る。かかる融合体を作成するための好適なタンパク質は、当該技術分野において周知である。
【0097】
他の態様において、Fn3ベースの結合分子は、リボソームまたはポリソームディスプレイのようなインビトロ表現型−遺伝子型連鎖ディスプレイを用いてスクリーニングされる。かかる「分子進化」の方法は、当該技術分野において周知である(例えば米国特許6,194,550および7,195,880参照)。
【0098】
スクリーニング方法は、1回以上のインビトロまたはインビボ親和性成熟段階を含んでいてもよい。所望の抗原とFn3ベースの結合分子の結合を改善するFn3ドメインまたはCDRにおけるアミノ酸変化をもたらすあらゆる親和性成熟アプローチを使用することができる。これらのアミノ酸変化は、例えばランダム突然変異誘発、「ウォークスルー突然変異誘発」および「ルックスルー突然変異誘発」によって達成され得る。かかる突然変異誘発は、例えば誤りがちな(error-prone)PCR、酵母または細菌の「ミューテーター」株、Fn3ベースの結合分子の全部または一部の最初からの合成中でのランダムまたは所定の核酸変化の導入を用いて、達成され得る。親和性成熟および/または突然変異誘発を実施する方法は、例えば米国特許7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793, 5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5866344およびPCT公報WO06023144に記載されている。かかる親和性成熟方法は、改善された抗原親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択するために抗原結合スクリーニングアッセイのストリンジェンシーを上昇することがさらに必要であり得る。タンパク質−タンパク質相互作用のストリンジェンシーを上昇させるための当該技術分野において知られている方法をここで用いてよい。一つの態様において、所望の抗原に対するFn3ベースの結合分子の親和性を低下させるために、1個以上のアッセイ条件(例えばアッセイバッファーの塩濃度)を変化させる。別の態様において、Fn3ベースの結合分子が所望の抗原と結合することができる時間を短くする。他の態様において、タンパク質間相互作用アッセイに競合的結合工程を加える。例えば、Fn3ベースの結合分子は最初に、所望の固定化抗原と結合させる。次いで、固定化抗原と競合して結合する特定の濃度の非固定化抗原を加えて、抗原に対して最も低い親和性を有するFn3ベースの結合分子を固定化抗原から溶出させて、改善された抗原結合親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択する。該アッセイ条件のストリンジェンシーは、アッセイに加える非固定化抗原の濃度を上昇させて、さらに上昇させることができる。
【0099】
本発明のスクリーニング法はまた、改善された抗原結合性を有する1種以上のFn3ベースの結合分子を富化するため、複数回の選択を必要としてもよい。一つの態様において、選択のそれぞれの回でさらにアミノ酸変異をFn3ベースの結合分子に導入する。他の態様において、選択のそれぞれの回で所望の抗原との結合のストリンジェンシーを上昇して、増加した抗原親和性を有するFn3ベースの結合分子を選択する。
【0100】
本発明の二重特異性なFn3ベースの結合分子の場合には、各結合特異性について独立してスクリーニングすることが好ましい。従って、AB、CDまたはEFループの1個以上における1個以上のアミノ酸が改変されているFn3ベースの結合分子の第一ライブラリーを用いて、第一の標的に結合する個々のFn3ベースの結合分子を同定する第一スクリーニングを行う。BC、DEおよびFGループの1個以上における1個以上のアミノ酸が改変されているFn3ドメインの第二ライブラリーを用いて、第二の標的に結合する個々のFn3ベースの結合分子を同定する別個の第二スクリーニングを行う。両方のスクリーニングから同定した個々の単一特異性なFn3ベースの結合分子のアミノ酸配列を、当該技術分野において既知の方法を用いて、決定する。個々のFn3ベースの結合分子由来の第一および第二の標的結合配列を1個のキメラFn3ベースの結合分子に組み合わせて、二重特異性なFn3ベースの結合分子を作成する。
【0101】
3)製造方法
本発明のFn3ベースの結合分子は典型的には、組み換え発現によって作成する。該分子をコードする核酸を発現ベクターに挿入する。該分子をコードするDNAセグメントは、それらの発現を確実に行うため発現ベクターの調節配列と作動可能に連結している。発現調節配列は、プロモーター(例えば天然関連または異種プロモーター)、シグナル配列、エンハンサー要素および転写終止配列を含むが、これらに限定されない。好ましくは、発現調節配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることができるベクター内の真核プロモーター系である。ベクターが適切な宿主に取り込まれると、ヌクレオチド配列の高レベル発現に適した条件下で該宿主を維持し、交叉反応するFn3ベースの結合分子を回収および精製する。
【0102】
これらの発現ベクターは典型的には、エピソームとして、あるいは宿主染色体DNAの不可欠な部分として、宿主生物内で複製可能である。一般に、発現ベクターは所望のDNA配列で形質転換された細胞の検出を可能とするため、選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性またはネオマイシン耐性)を含む(例えば、Itakura et al., 米国特許4,704,362参照)。
【0103】
大腸菌は本発明のポリヌクレオチド(例えばDNA配列)をクローン化するために特に有用な原核宿主である。使用に好適な他の微生物宿主は、枯草菌のような細菌およびサルモネラ、セラチアおよび多様なシュードモナス属の種のような他の腸内細菌を含む。
【0104】
酵母のような他の微生物も発現に有用である。サッカロマイセスおよびピキアは、望ましい発現調節配列(例えばプロモーター)、複製起点、終止配列等を有する好適なベクターを有する、例示的な酵母宿主である。典型的なプロモーターは、3−ホスホグリセリン酸キナーゼおよび他の解糖酵素を含む。とりわけ誘導可能な酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ、イソシトクロームC、ならびにメタノール、マルトースおよびガラクトース利用に関与する酵素由来のプロモーターを含む。
【0105】
微生物に加えて、哺乳類組織培養物も本発明のポリペプチド(例えば免疫グロブリンまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド)を発現し、生産するために使用することができる。Winnacker, From Genes to Clones, VCH Publishers, N.Y., N.Y. (1987)を参照されたい。CHO細胞系、多様なCOS細胞系、HeLa細胞、293細胞、骨髄腫細胞系、形質転換B細胞およびハイブリドーマを含む、異種タンパク質(例えばインタクトな免疫グロブリン)を分泌することができる多くの好適な宿主細胞系真核細胞が当該技術分野において開発されているめ、実際には真核細胞が好まれる。これらの細胞の発現ベクターは、複製起点、プロモーターおよびエンハンサーのような発現調節配列(Queen et al., Immunol. Rev. 89:49 (1986))、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終止配列のような必要なプロセッシング情報部位を含んでいてもよい。好ましい発現調節配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルス等に由来するプロモーターである。Co et al., J. Immunol. 148:1149 (1992)を参照されたい。
【0106】
あるいは、コーディング配列は、トランスジェニック動物のゲノムへの導入および続くトランスジェニック動物の乳における発現のために、トランス遺伝子に組み込まれていてもよい(例えば、Deboer et al.のU.S. 5,741,957、Rosenの U.S. 5,304,489およびMeade et al.のU.S. 5,849,992参照)。好適なトランス遺伝子は、カゼインまたはベータラクトグロブリンのような乳腺特異的遺伝子由来のプロモーターおよびエンハンサーと作動可能に結合した、軽鎖および/または重鎖のコード配列を含む。
【0107】
目的のポリヌクレオチド配列および発現調節配列を含むベクターは、細胞宿主のタイプに依存して変化する周知の方法で、宿主細胞に移すことができる。例えば、化学的に形質転換受容性のある原核細胞は、短時間に熱ショックを与えることができ、一方でリン酸カルシウム処置、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃またはウイルスを利用したトランスフェクションが、他の細胞宿主には使用され得る(一般に、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press, 2nd ed., 1989)参照)。哺乳類細胞を形質転換するために使用される他の方法は、ポリブレン、プロトブラスト融合、リポソーム、エレクトロポレーションおよびマイクロインジェクションの使用を含む(一般に、Sambrook et al., supra参照)。トランスジェニック動物の作成のために、トランス遺伝子を受精卵母細胞にマイクロインジェクションすることができ、あるいは胚幹細胞のゲノムに組み込んで、かかる細胞の核を除核した卵母細胞に移すことができる。
【0108】
発現されると、本発明のFn3ベースの結合分子は、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、HPLC精製、ゲル電気泳動等を含む当該技術分野において標準的な方法に従って精製することができる(一般に、Scopes, Protein Purification (Springer-Verlag, N.Y., (1982))参照)。少なくとも約90〜95%の均一性の実質的に純粋な分子が好ましく、医薬的使用のためには98〜99%またはそれ以上の均一性が最も好ましい。
【0109】
4)Fn3ベースの結合分子にCDRを移植する方法
一つの局面において、本発明は、野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含むFn3ベースの結合分子を特徴とする。
【0110】
抗体のCDRもしくはT細胞受容体可変領域またはそれらの抗原結合フラグメントが移植に好適である。CDRは、げっ歯類、霊長類、ラクダまたはサメを含むがこれらに限定されないいずれかの動物の抗体またはT細胞受容体レパートリーから得ることができる。特定の態様において、CDRはシングルドメイン抗体、例えばナノ抗体のCDR1、CDR2およびCDR3から得られる。より具体的な態様において、ナノ抗体のようなシングルドメイン抗体のCDR1、2および3がFn3ドメインのAB、BC、CD、DE、EFおよびFGループに移植されて、それによって元のナノ抗体の標的結合特異性をFn3ベースの結合分子に付与する。ラクダ抗体および抗体フラグメントの操作ライブラリーは、例えばAblynx、Ghent、Belgiumから商業的に入手可能である。抗体レパートリーは、1種以上の抗原でチャレンジした動物または抗原でチャレンジされていないそのままの動物に由来するものであってよい。さらにまたはあるいは、CDRはインビトロポリソームまたはリボソームディスプレイ、ファージディスプレイまたは酵母ディスプレイ技術を含むがこれらに限定されないインビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法によって作成した抗体またはその抗原結合フラグメントから得ることができる。これは、インビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法によって当初は作成されないが、次いで突然変異誘発またはインビトロまたはインビボスクリーニング法を用いた1回以上の親和性変異段階を実行した抗体を含む。かかるインビトロまたはインビボライブラリースクリーニング法または親和性成熟方法の例は、例えば米国特許7,195,880; 6,951,725; 7,078,197; 7,022,479; 5,922,545; 5,830,721; 5,605,793, 5,830,650; 6,194,550; 6,699,658; 7,063,943; 5866344およびPCT公報WO06023144に記載されている。
【0111】
抗体CDRを同定する方法は、当該技術分野において周知である(Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, “Sequences of Proteins of Immunological Interest” (1983); Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987); MacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)参照)。特定の抗体をコードする核酸を単離し、配列決定することができ、該CDR配列は確立された抗体配列命名法に関してコードされたタンパク質の調査によって演繹される。超可変領域またはCDRを本発明のFn3ベースの結合足場に移植する方法は、例えば遺伝子操作、デノボ核酸合成またはPCR利用遺伝子アセンブリを含む(例えば、米国特許第5,225.539号参照)。
【0112】
上記技術によって、超可変領域またはCDRの選択および提示のために好適な足場ループを同定することができる。しかし、Fn3ドメインおよびドナー抗体の構造モデリングに基づいた超可変領域のフィットおよび提示をさらに改善するため、さらなる基準が敷かれ得る。
【0113】
一つの局面において、Fn3足場のいずれかのベータ鎖における特定のアミノ酸残基を変異させて、抗原との結合性を保持ないし改善する立体配置をCDRループに採用させることができる。この方法は、構造モデリングと配列比較の組合せを用いて、異種抗体フレームワークにCDRを移植する方法と同様に実施することができる。一つの態様において、CDRと隣接するFn3残基をQueen et al.が実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,180,370; 5,693,762; 5,693,761; 5,585,089; 7,022,500参照)。他の態様において、CDR残基の1ファンデルワールス半径内のFn3ドメイン残基をWinter et al.が実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,548,640; 6,982,321参照)。他の態様において、CDR残基と隣接していないが、Fn3ドメインおよびドナー抗体の構造モデリングに基づいてCDR残基の立体配置を変更すると予測されるFn3残基を、Carter et al.またはAdair et alが実施した方法と同様に変異させる(米国特許6,407,213; 6,639,055; 5,859,205; 6,632,927参照)。
【0114】
組成物
本発明のFn3ベースの結合分子は、インビボでの治療上有用性を有する。したがって、本発明はまた、薬学的に許容される担体と共に製剤された、Fn3ベースの結合分子(またはその変異体、融合体および複合体)の1種または組合せを含む組成物、例えば医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物はまた、組合せ療法で、すなわち他の薬物と組み合わせて投与してもよい。例えば、組合せ療法は、本発明の組成物と少なくとも1種以上のさらなる治療薬物、例えば抗炎症剤、抗癌剤および化学療法剤を含んでいてもよい。
【0115】
本発明の医薬組成物はまた、放射線療法と組み合わせて投与してもよい。他のFn3ベースの結合分子との共投与も本発明に含まれる。
【0116】
本明細書において使用するとき、「薬学的に許容される担体」は、生理的に適合性である、いずれかおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤等を含む。好ましくは、担体は静脈内、筋肉内、皮下、非経腸、脊髄または上皮投与(例えば注射または輸液による)に好適である。投与経路に依存して、活性化合物、すなわち抗体、二重特異性および多重特異性分子は、酸および化合物を不活性化し得る他の天然条件から該化合物を保護するための物質でコーティングしてもよい。
【0117】
「薬学的に許容される塩」は、親化合物の所望の生物学的活性を保持しており、いずれかの望ましくない毒性効果に関与しない塩を意味する(例えば、Berge, S.M., et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19参照)。かかる塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、非毒性無機酸、例えば塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸等、ならびに非毒性有機酸、例えば脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族性スルホン酸等に由来するものを含む。塩基付加塩は、アルカリ土類金属、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等、ならびに非毒性有機アミン、例えばN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等に由来するものを含む。
【0118】
本発明の組成物は、当該技術分野において既知の多様な方法によって投与することができる。当業者に理解されるとおり、投与経路および/または形態は、望まれる結果に従って変化する。活性化合物は、該化合物を速やかな放出から保護するための担体と共に製剤されていてもよい(例えばインプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤)。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用してもよい。かかる製剤の製造のための多様な方法が特許化されているか、あるいは一般に当業者に知られている。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
【0119】
ある投与経路で本発明の化合物を投与するために、その不活性化から保護するための物質で該化合物をコーティングするか、あるいはそれと共に該化合物を投与する必要がある場合がある。例えば、化合物は対象に適切な担体、例えばリポソームまたは希釈剤中で投与してもよい。薬学的に許容される希釈剤は、生理食塩水および水性バッファー溶液を含む。リポソームは、水中油中水CGFエマルジョンおよび常套のリポソームを含む(Strejan et al. (1984) J. Neuroimmunol. 7:27)。
【0120】
薬学的に許容される担体は、滅菌水溶液または分散剤および滅菌注射液または分散剤を即時製造するための滅菌粉末を含む。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体および薬物の使用は、当該技術分野において既知である。いずれかの常套の媒体または薬物が本活性化合物と非適合性である場合を除き、本発明の医薬組成物におけるその使用が意図される。補助的な活性化合物も本組成物に含まれていてよい。
【0121】
治療用組成物は典型的には、滅菌されており、製造および貯蔵条件下で安定でなければならない。該組成物は、溶液、ミクロエマルジョン、リポソームまたは高薬物濃度に好適な他の秩序構造として製剤することができる。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび脂質ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物を含む、溶媒または分散媒であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合、組成物中に等張化剤、例えば糖、マンニトール、ソルビトールのようなポリアルコールまたは塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の延長された吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0122】
滅菌注射液は、上記成分の1種または組合せと共に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を含めて、所望により、次いで滅菌マイクロフィルトレーションして製造することができる。一般に、分散剤は、基礎分散媒および必要な上記の他の成分を含む滅菌ビークルに、活性化合物を含めることによって製造する。滅菌注射液の製造のための滅菌粉末の場合、好ましい製造方法は真空乾燥および凍結−乾燥(凍結乾燥)であり、これによって有効成分とその予め滅菌濾過した溶液のいずれかのさらなる所望の成分の粉末を得る。
【0123】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応答)を得るために調節される。例えば、1回ボーラスを投与し、複数回分割用量をゆっくり時間を掛けて投与するか、あるいは用量を治療状況の緊急性によって示されるとおりに比例的に減少または増加することができる。例えば、本発明のFn3ベースの結合分子は、皮下注射で週に1または2回、あるいは皮下注射で月に1または2回投与することができる。
【0124】
投与の簡便さおよび投与量の均一性のため、非経腸組成物を単位投与形態に製剤することが特に有利である。単位投与形態は、本明細書において使用するとき、処置する対象への単位投与量として好適な物理的に分離した単位を意味し;各単位は、必要な医薬担体と共に、所望の治療効果を奏するように計算された所定の量の活性化合物を含む。本発明の単位投与形態についての説明は、(a)活性化合物の特異的な特徴および得られるべき具体的な治療効果、ならびに(b)個体の感受性の処置のための活性化合物のような配合の分野に内在する制限に基づいて説明され、そしてそれらに直接的に依存する。
【0125】
薬学的に許容される抗酸化剤の例は、(1)水溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等;(2)油溶性抗酸化剤、例えばアスコルビルパルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、プロピルガラート、アルファ−トコフェロール等;および(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等を含む。
【0126】
治療用組成物について、本発明の製剤は、経口、経鼻、局所(頬側および舌下を含む)、直腸、膣および/または非経腸投与に適したものを含む。製剤は、簡便には単位投与形態で存在していてよく、薬学の分野において既知のいずれかの方法によって製造することができる。単剤形態を製造するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、処置する対象および具体的な投与形態に従って変化する。単剤形態を製造するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、一般に、治療効果を奏する組成物の量である。一般に、この量は100%中、約0.001%〜約90%の有効成分、好ましくは約0.005%〜約70%、最も好ましくは約0.01%〜約30%である。
【0127】
膣投与に適している本発明の製剤はまた、適切であると当該技術分野において知られている担体を含んだペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡またはスプレー製剤を含む。本発明の組成物の局所または経皮投与用投与形態は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤を含む。活性化合物は、滅菌条件下で薬学的に許容される担体と、そして必要であり得るいずれかの保存剤、バッファーまたはプロペラントと共に混合することができる。
【0128】
用語「非経腸投与」および「非経腸的に投与」は、本明細書において使用するとき経腸投与および局所投与以外の、通常は注射による投与形態を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節内、眼窩内、心臓内、皮膚内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および輸液を含むが、これらに限定されない。
【0129】
本発明の医薬組成物に使用することができる好適な水性および非水性担体の例は、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物、植物油、例えばオリーブ油、および注射用有機エステル、例えばエチルオレエートを含む。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0130】
これらの組成物はまた、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤のようなアジュバントを含んでいてもよい。微生物の存在の防止は、上記滅菌方法ならびに多様な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸等を含めることの両方によって、保証され得る。糖、塩化ナトリウム等のような等張化剤を組成物に含めることが望まれることもある。さらに、注射用医薬形態の延長された吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる物質を含めることによってもたらされ得る。
【0131】
本発明の化合物が医薬としてヒトおよび動物に投与されるとき、それらは単独で、または例えば0.001〜90%(より好ましくは、0.005〜70%、例えば0.01〜30%)の有効成分と薬学的に許容される担体を組み合わせて含む医薬組成物として、投与することができる。
【0132】
選択した投与経路に拘わらず、好適な水和物形態で使用されてもよい本発明の化合物および/または本発明の医薬組成物は、当業者に既知の常套の方法によって薬学的に許容される投与形態に製剤される。
【0133】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投与レベルは、具体的な患者、組成物および投与形態について、患者に毒性なく、所望の治療応答を得るために有効である有効成分の量が得られるように、変化してよい。選択される投与レベルは、使用する具体的な本発明の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用する具体的な化合物の排出速度、処置の期間、使用する具体的な組成物と組み合わせて用いる他の薬物、化合物および/または物質、処置する患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康および薬歴等の医学分野で周知の要因を含む、多様な薬物動態因子に依存する。当該技術分野における通常の技術を有する医師または獣医は、必要な医薬組成物の有効量を容易に決定し、予測することができる。例えば、医師または獣医は、医薬組成物において使用する本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を得るために必要とされる量よりも少ないレベルで開始し、所望の効果が得られるまで用量を漸増することができる。一般に、本発明の組成物の好適な1日用量は、治療効果を奏するために有効な最低用量である化合物の量である。かかる有効用量は、一般に、上記要因に依存する。投与は静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下であることが好ましく、好ましくは標的部位の近くに投与する。所望により、治療用組成物の有効1日用量は、1日の適切な間隔で、所望により単位投与形態で、2、3、4、5、6またはそれ以上の分割用量として別々に投与することが好ましいこともある。本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、医薬製剤(組成物)として化合物を投与することが好ましい。
【0134】
治療用組成物は、当該技術分野において既知の医薬デバイスによって投与することができる。例えば好ましい態様において、本発明の治療用組成物は、無針皮下注射器、例えば米国特許5,399,163、5,383,851、5,312,335、5,064,413、4,941,880、4,790,824または4,596,556に記載のデバイスによって投与することができる。本発明に有用な周知のインプラントおよびモジュールの例は、制御された速度で医薬を供給するためのインプラント可能なマイクロ輸液ポンプを記載する米国特許4,487,603、皮膚を介して医薬を投与するための治療用デバイスを記載する米国特許4,486,194、正確な輸液速度で医薬を送達するための医薬輸液ポンプを記載する米国特許4,447,233、連続的薬物送達のための、インプラント可能な流速可変型輸液装置を記載する米国特許4,447,224、複数のチャンバー区画を有する浸透薬物送達システムを記載する米国特許4,439,196、ならびに浸透薬物送達システムを記載する米国特許4,475,196を含む。多様な他のかかるインプラント、送達システムおよびモジュールが当業者に既知である。
【0135】
ある態様において、本発明の分子は、インビボでの適切な分散を確実にするために製剤され得る。例えば、血液脳関門(BBB)は多くの高親水性化合物を除外する。本発明の治療化合物がBBBを通過することを確保するため(所望により)、それらは例えばリポソーム中に製剤されていてよい。リポソームを製造する方法に関しては、例えば米国特許4,522,811;5,374,548;および5,399,331を参照されたい。リポソームは特定の細胞または臓器に選択的に移動され、したがって標的薬物送達を向上する1種以上の部分を含んでいてもよい(例えば、V.V. Ranade (1989) J. Clin. Pharmacol. 29:685参照)。例示的な標的部分は、葉酸またはビオチン(例えば、Low et al.の米国特許5,416,016参照);マンノシド(Umezawa et al., (1988) Biochem. Biophys. Res. Commun. 153:1038);抗体(P.G. Bloeman et al. (1995) FEBS Lett. 357:140; M. Owais et al. (1995) Antimicrob. Agents Chemother. 39:180);界面活性プロテインA受容体(Briscoe et al. (1995) Am. J. Physiol. 1233:134)、本発明の製剤ならびに本発明の分子の成分を含み得る異なる種;p120(Schreier et al. (1994) J. Biol. Chem. 269:9090)を含み;K. Keinanen; M.L. Laukkanen (1994) FEBS Lett. 346:123; J.J. Killion; I.J. Fidler (1994) Immunomethods 4:273も参照されたい。本発明の一つの態様において、本発明の治療化合物は、リポソームに製剤され;より好ましい態様において、リポソームは標的部分を含む。最も好ましい態様において、リポソーム中の治療化合物は、腫瘍または感染に近い部位にボーラス注射によって送達される。組成物は、容易に注射針を通過できる程度に流動的でなければならない。それは製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保存されていなければならない。
【0136】
さらなる態様において、本発明の分子は、胎盤を通過する輸送を防止または低減するように製剤されていてもよい。これは当該技術分野において既知の方法、例えばFn3ベースの結合分子のPEG化によって行うことができる。さらなる参考文献は、Cunningham-Rundles C, Zhuo Z, Griffith B, Keenan J. (1992) Biological activities of polyethylene-glycol immunoglobulin conjugates. Resistance to enzymatic degradation. J Immunol Methods. 152:177-190; および Landor M. (1995) Maternal-fetal transfer of immunoglobulins, Ann Allergy Asthma Immunol 74:279-283を挙げることができる。これは、Fn3ベースの結合分子が自然発生的流産の再発を処置または予防するために使用されるとき、特に関係する。
【0137】
がんを阻害する化合物の能力は、ヒト腫瘍における効果の予測が可能な動物モデル系において評価することができる。あるいは、組成物のこの特性は、当業者に既知のインビトロでの阻害アッセイによって、本化合物の阻害能を試験することによって評価することができる。治療上有効量の治療化合物は、腫瘍のサイズを減少させることができ、あるいは対象の症状を緩和することができる。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度および選択した具体的な化合物または投与経路のような要因に基づいて、かかる量を決定することができる。
【0138】
組成物は滅菌されており、そして該組成物がシリンジによって送達可能である程度に流動的でなければならない。水に加えて、担体は等張緩衝化食塩水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液性ポリエチレングリコール等)およびそれらの好適な混合物であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンのようなコーティング物質の使用によって、分散剤の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、そして界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合、組成物中に等張化剤、例えば糖、マンニトールまたはソルビトールのようなポリアルコールおよび塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の長期間の吸収は、吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。
【0139】
活性化合物が上記のとおり好適に保護されているとき、該化合物は例えば不活性希釈剤または同化食用担体と共に経口的に投与してもよい。
【0140】
治療および診断適用
本明細書に記載のFn3ベースの結合分子は、いずれかの目的の抗原または標的に結合するように構築することがでる。かかる標的は、クラスタードメイン、細胞レセプター、細胞レセプターリガンド、増殖因子、インターロイキン、タンパク質アレルゲン、細菌またはウイルスを含むが、これらに限定されない(図1参照)。本明細書に記載のFn3ベースの結合分子は、増加した安定性および半減期、ならびにさらなる機能的部分を有するように修飾してもよい。したがって、これらの分子は、研究、治療および診断分野を含む、抗体が使用されているあらゆる領域において抗体の代わりに使用することができる。さらに、これらの分子は抗体よりも優れた溶解性および安定性を有するため、本明細書に記載の抗体模倣物はまた、抗体分子を破壊もしくは不活性化する条件下で使用することもできる。
【0141】
例えばこれらの分子は、例えばインビトロまたはエクスビボで、培地中の細胞に、あるいは例えばインビボで対象に、多様な障害の処置、予防または診断のために、投与することができる。用語「対象」は、本明細書において使用するとき、ヒトおよび非ヒト動物を含むことを意図する。非ヒト動物は、全ての脊椎動物、例えば哺乳類および非ヒト哺乳類、例えば非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ニワトリ、両生類およびは虫類を含む。Fn3分子が別の薬物と共に投与されるとき、これら2つは順次または同時に投与することができる。
【0142】
一つの態様において、本発明のFn3ベースの結合分子(およびその変異体、融合体および複合体)は、該分子によって結合される標的および/または二重特異性/多重特異性なFn3ベースの結合分子によって結合される標的のレベルを検出するために使用することができる。これは、例えばサンプル(例えばインビトロサンプル)と対照サンプルを該分子と、該分子と標的の複合体の形成が可能な条件下で接触させることによって、達成することができる。該分子と標的間で形成されたいずれかの複合体を検出して、サンプルと対照で比較する。例えば、ELISA、FACSおよびフローサイトメトリー分析のような当該技術分野において周知の標準的な検出方法が、本発明の組成物を用いて実施され得る。
【0143】
また、本発明の組成物(例えば、フィブロネクチンベースの結合分子、その変異体、融合体および複合体)と使用のための指示書を含むキットも本発明の範囲に含まれる。該キットはさらに、少なくとも1種のさらなる試薬または1種以上のさらなる本発明のFn3ベースの結合分子(例えば第一の分子と異なる標的抗原のエピトープに結合する相補的活性を有する抗体)を含んでいてもよい。キットは典型的には、キットの内容物の意図した使用を記載したラベルを含む。用語ラベルは、キット上またはキットと共に供給されるいずれかの記載されたかあるいは記録された物体か、あるいはそれ以外のキットに伴うものを含む。
【0144】
上記のとおり、本発明の分子は、研究、治療および診断分野のあらゆる領域で使用することができる。本発明のFn3ベースの結合分子(およびその変異体、融合体および複合体)を使用して処置することができる疾患/障害の例は、自己免疫障害、がん、感染症、および他の病原性適応症を含む。
【0145】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できる自己免疫疾患の具体例は以下のものを含むが、それらに限定されない:多発性硬化症および他の脱髄疾患;リウマチ様関節炎;炎症性腸疾患;全身性エリトマトーデス;I型糖尿病;炎症性皮膚疾患;ショーグレン症候群;および移植拒絶。
【0146】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できるがんの具体例は以下のものを含むが、それらに限定されない:肺がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん;黒色腫;非ホジキンリンパ腫;結直腸癌;膵臓がん;子宮内膜がん;腎臓がん;皮膚がん(非黒色腫);白血病および甲状腺がん。
【0147】
VEGFに関連した疾患の具体例は、例えば不適切な血管形成に関連した多くの状態を含み、例えば以下のものを含むが、それらに限定されない:自己免疫疾患(例えばリウマチ様関節炎、炎症性腸疾患または乾癬);心臓疾患(例えばアテローム性動脈硬化症または血管再狭窄);網膜症(例えば一般的な増殖性網膜症、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性または血管新生緑内障);腎臓病(例えば糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、移植拒絶、炎症性腎疾患、糸球体腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群および高血圧性腎硬化症);血管芽細胞腫;血管腫;甲状腺過形成;組織移植;慢性炎症;メーグス症候群;心嚢液貯留;胸水;自己免疫疾患;糖尿病;子宮内膜症;慢性喘息;望ましくない線維症(特に肝線維症)およびがん、ならびにがんによって引き起こされる合併症、例えば胸水および腹水。Fn3ベースの結合分子は、過増殖性疾患またはがんおよびがんの転移拡散の処置または予防に使用できる。がんの非限定的な例は、膀胱がん、血液のがん、脳がん、乳がん、軟骨がん、結腸がん、腎臓がん、肝臓がん、肺がん、リンパ節のがん、神経組織のがん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、骨格筋のがん、皮膚がん、脊髄がん、脾臓がん、胃がん、睾丸がん、胸腺がん、甲状腺がん、気管がん、尿生殖路がん、尿管がん、尿道がん、子宮がんまたは膣がんを含む。さらなる処置可能な状態は、米国特許6,524,583(ここに参照により本明細書に組み込む)に見られる。VEGFR−2結合ポリペプチドについての使用を記載している他の文献は以下のものを含む:McLeod DS et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 2002 Feb;43(2):474-82; Watanabe et al. Exp Dermatol. 2004 Nov;13(11):671-81; Yoshiji H et al., Gut. 2003 Sep;52(9): 1347-54; Verheul et al., Oncologist. 2000;5 Suppl 1:45-50; Boldicke et al., Stem Cells. 2001;19(1) :24-36。本明細書に記載する血管形成関連疾患は、以下のものを含むがそれらに限定されない:血管形成依存性のがん、例えば固形腫瘍、血液伝播性腫瘍、例えば白血病、ならびに腫瘍転移;良性腫瘍、例えば血管腫、聴神経腫瘍、神経線維腫、トラコーマおよび化膿性肉芽種;炎症性疾患、例えば免疫および非免疫炎症;慢性関節リウマチおよび乾癬;目の血管形成疾患、例えば糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性、角膜移植拒絶反応、血管新生緑内障、後水晶体繊維増殖症、ルベオーシス;オスラー・ウェーバー症候群;心筋血管新生;プラーク心血管形成;毛細血管拡張症;血友病関節;血管線維腫;ならびに創傷肉芽形成および創傷治癒;毛細血管拡張症、乾癬、強皮症、化膿性肉芽種、冠状動脈側枝(cororany collaterals)、虚血肢血管形成、角膜疾患、虹彩血管新生、関節炎、糖尿病性血管新生、骨折、脈管形成、造血(例えばWO2005056764参照)。
【0148】
本発明のFn3ベースの結合分子が使用できる感染症の具体例は、細胞性、真菌性、細菌性およびウイルス性のものを含むが、これらに限定されない。
【0149】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これはさらなる限定を構成するべきではない。全ての図面および本明細書を通じて言及した全ての文献、特許および公開された特許出願の内容は、明示的に参照により本明細書に引用する。
【実施例】
【0150】
実施例1
フィブロネクチンベースの結合分子のライブラリーの作成
一般に、特に定めのない限り、本発明の実施は、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(例えば特に抗体技術)およびポリペプチド調製における標準的な技術を使用する。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989); Antibody Engineering Protocols (Methods in Molecular Biology), 510, Paul, S., Humana Pr (1996); Antibody Engineering: A Practical Approach (Practical Approach Series, 169), McCafferty, Ed., Irl Pr (1996); Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow et al., C.S.H.L. Press, Pub. (1999); および Current Protocols in Molecular Biology, eds. Ausubel et al., John Wiley & Sons (1992)を参照されたい。本発明の実施に使用するのに好適な他の方法、技術および配列は、米国特許7,153,661; 7,119,171; 7,078,490; 6,703,199; 6,673,901; および 6,462,189に見出すことができる。
【0151】
第10ヒトフィブロネクチンタンパク質(Fn310)を用いて、単一特異性なバインダーを設計し、単離し、操作した。標準的な選択方法を用いて、2つのライブラリーから独立して、最初のバインダーをまず単離した。次いでこの富化集団を突然変異誘発し、ランダム突然変異の逐次ラウンドおよび富化を行って、所望の単一特異性なバインダーを得た。
【0152】
ライブラリー構成
配列番号1の野生型Fn310配列を基礎として用いて、上部または底部ループを用いるバインダーのライブラリーを作成した。
VSDVPRDLEVVAATPTSLLISWDAPAVTVRYYRITYGETGGNSPVQEFTVPGSKSTATISGLKPGVDYTITVYAVTGRGDSPASSKPISINYRTEI (配列番号1)
【0153】
コンピューターモデリングを用いて、2セットの野生型Fn310の可変領域を選択し、ランダム化した。溶媒に曝される上部ループBC、DEおよびFGを含む第一のセットをライブラリーAとして、配列番号2で太字で示す領域においてランダム化した。
ライブラリーA(溶媒に曝される上部ループBC、DEおよびFGを有するベータサンドイッチ):
【化1】
【0154】
溶媒に曝される底部ループAB、CD、EFおよびC末端を含む第二のセットをライブラリーBとして、イタリック体で示す下線の領域においてランダム化した。
ライブラリーB(溶媒に曝される底部ループAB、CE、EFおよびC末端を有するベータサンドイッチ):
【化2】
【0155】
2つのライブラリーに対応するDNA配列を、Geneart AG, Germanyでの大腸菌における発現に最適化した。配列番号2および3の太字または下線を付したイタリック体の領域はそれぞれ、変性位置として合成した。全長フラグメントゲル精製に対応する合成的に変性されたオリゴヌクレオチドおよび遺伝子該ライブラリーから構築した。末端プライマーで増幅を行い、続いてクローニングベクターpCR-Scriptに増幅したライブラリーをライゲートして、出発ライブラリーを得た。ライブラリーAおよびBは次いで、下記実施例2に記載のとおり、単一特異性なバインダーを同定するために独立してスクリーニングした。
【0156】
実施例2
単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子のスクリーニング
本実施例は、実施例1に記載のライブラリーAおよびBから作成した単一特異性なフィブロネクチンバインダーについてどのようにスクリーニングするかを説明する。ライブラリーAおよびBはいずれも独立して、pYD1 (Invitrogen)のような酵母ディスプレイベクターに、相同組換え法を用いてサブクローン化して、EBY100のような好適な株に、標準的な分子生物学的技術を用いて形質転換する。
【0157】
ニワトリリゾチームに対するフィブロネクチンベースのバインダーの提示および選択は、本質的にLipovsek、D. et alにより公開されているプロトコール(J Mol Biol. 2007 May 11;368(4):1024-41)に従って、いくつかのわずかな改変を加えて実施した。両方のライブラリーを独立して、ニワトリ卵白リゾチームに対するバインダーについてスクリーニングした。
【0158】
(i) 磁性ビーズ選別を用いたニワトリ卵白リゾチームに対結合の選択
全ての選択について、10Fn3ベースの分子のライブラリーAまたはライブラリーBを提示する酵母培養物をガラクトース含有培地(90% SG-CAA/10% SD-CAA、50 μg/mL カナマイシン、100 U/mL ペニシリンG、200 U/mL ストレプトマイシン)中、30℃で18時間誘導した。誘導された109個のライブラリーAまたはBの酵母細胞を25 mLの氷冷リン酸緩衝化食塩水(PBS)pH 7.4、2 mMのエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)で洗浄し、次いで1 μMのビオチニル化ニワトリ卵白リゾチーム(HEL-b、Sigma、St. Louis、MO)を含む同じバッファー 5mL中、室温で1時間、緩やかに振盪しながらインキュベートした。インキュベーションの後、サンプルを氷上で冷やし、25 mLの氷冷PBS pH 7.4、2 mMのEDTA、0.5%のBSAで洗浄し、2.5 mLの同じバッファーに再懸濁した。磁性Streptavidin MicroBeads (Miltenyi Biotec、Auburn、CA)の100 μLのアリコートを酵母に加え、氷上で10分間インキュベートした。氷冷PBS pH 7.4、2 mMのEDTA、0.5%のBSAをサンプルに加えて全量を25 mLとした後、すぐにこれをAutoMACS Cell Separator (Miltenyi Biotec)で、レア細胞のポジティブ選択のために予めセットされたプログラム(possel_s)を用いた分離に供した。選択した細胞を6 mLのSD-CAA、pH 4.5、50 μg/mLのカナマイシン、100 U/mLのペニシリンG、200 U/mLのストレプトマイシン中に回収し;連続希釈で定量した後、SD-CAA寒天プレートに播種し;50 mLの同じ培地中、30℃で2日間増殖させた。
【0159】
(ii) 蛍光活性化細胞選別を用いたニワトリ卵白リゾチームに対する結合の選択
2×106〜3×106個の誘導された酵母細胞で開始して、FACSによって続く選択ラウンドを行った。細胞を1 mLのPBS、pH 7.4、0.1% BSAで洗浄し、ビオチニル化ニワトリ卵白リゾチームを含む同じバッファー 100 μL中に再懸濁して、室温で緩やかに振盪しながら1時間インキュベートした。
【0160】
1 mLの氷冷PBS、pH 7.4、0.1% BSAで洗浄した後、細胞を抗体およびストレプトアビジンで標識した。マウスモノクローナルFITC複合化抗c−myc抗体(AbD Serotec)を用いてc−mycタグ化抗体模倣物の表面ディスプレイのために酵母を標識し、PE標識化ストレプトアビジン(Invitrogen)または抗ビオチン抗体(Miltenyi)を用いてリゾチーム結合抗体模倣物に関するHEL−bを標識した。FITC複合化マウス抗c−myc抗体およびPE複合化ストレプトアビジン(Invitrogen)で標識した酵母細胞について、FACSソートを実施した。
【0161】
488 nmのレーザーを備えたDako MoFloハイスピードセルソーターで、6000〜10,000 細胞/sで二重標識された酵母細胞を選別した。最も高い0.1〜1%のHEL−b関連シグナル(PE)および発現関連シグナル(FITC)の上半分で酵母細胞を回収するようにゲートを調節した。同じ抗体およびストレプトアビジン試薬で標識したがHEL−bなしでの2回目のサンプルを用いて、リゾチームではなく検出試薬に結合した細胞を選択することを回避した。
【0162】
全てのライブラリーについて、1 μMのHEL−bで標識した酵母に最初の2回のFACS選別を実施した。HEL−bの存在下であって非存在下ではなくPEで標識した細胞集団が観察されると、続くラウンドでのHEL−bの濃度を1オーダー下げる。選択した細胞を0.5 mLのSD-CAA、pH 4.5、50 μg/mLのカナマイシン、100 U/mLのペニシリンGおよび200 U/mLのストレプトマイシン中に回収した。回収した細胞を5 mLの同じ培地中、30℃で2日間振盪しながら飽和まで増殖させた後、次の選別ラウンドのために誘導し、標識した。
【0163】
数ラウンドのFACS選別の後、最後の富化された集団をSDCAAプレートに播種し、30℃で2日間インキュベートした。個々のコロニーはGenetix Clonepixを用いて取り出し、SD-CAA配置を含む96ウェルプレートに再アレイした。24時間インキュベートした後、遠心分離して細胞を回収し、表面で発現される固有のFn3分子の誘導のためにSD-GAA培地に再懸濁した。標準的なELISAでポジティブクローンを同定した。固有のFn3ポジティブクローンに対応するプラスミドDNAを精製し、配列決定して、単一特異性なバインダーを同定した。
【0164】
単一特異性なバインダーを同定し、ライブラリーAまたはBのいずれかから選択した後、それらを独立して用いて治療用分子を作成できる。特に、Fn3分子の底部ループを用いてライブラリーBから作成した単一特異性なバインダーを用いて、目的の標的に対する新規な治療用結合分子を作成できる。ライブラリーBからの多様な単一特異性なバインダーをリンカーと組み合わせて、1個の標的(例えばTNF)の1個以上の領域に結合できるFn3結合分子を作成できる。あるいは、ライブラリーBからのバインダーを含むFn3結合分子は、複数の標的の1個以上の領域(例えばHSAおよびTNFの1個以上の領域)に結合するようにも設計できる。
【0165】
さらに、ライブラリーAおよびライブラリーBから作成した単一特異性なバインダーは、標準的な分子生物学的技術を用いて、下記実施例3に記載のとおりに二重特異性または多重特異性なバインダーを作成するために組み合わせることができる。
【0166】
実施例3
二重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成
ヒトFn3のX線構造におけるランダム化領域のコンピューターモデリングは、ライブラリーAおよびBのそれぞれの単一特異性なバインダーを組み合わせて、二重特異性なフィブロネクチン結合分子を作成できることを示している。これらの結合分子は、それらが同じ標的分子の異なる領域を認識するか、あるいは二重特異性または多重特異性なフィブロネクチン分子の異なる結合部位が2種以上の異なる標的の異なる領域に結合できるように操作可能である。
【0167】
例えば、バインダーA(ライブラリーAをスクリーニングして得た)に対応する好適な配列と、バインダーB(ライブラリーBをスクリーニングして得た)に対応する好適な配列を1個の分子に組み合わせて、二重特異性な分子を作成できる。
ライブラリーAをスクリーニングして同定したバインダーA(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ):
【化3】
ここでXは任意のアミノ酸配列である。
【0168】
ライブラリーBをスクリーニングして同定したバインダーB(溶媒に曝される底部ループAB、CE、EFおよびC末端を有するベータサンドイッチ):
【化4】
ここでZは任意のアミノ酸配列である。
【0169】
ライブラリーAをスクリーニングして得た配列(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ)とライブラリーBをスクリーニングして得た配列(溶媒に曝される上部ループBC、DE、FGを有するベータサンドイッチ)を組み合わせてバインダーCを同定した。2つの配列を1つの分子に組み合わせると、二重特異性なバインダーCが導かれる。
【化5】
ここでXおよびZは任意のアミノ酸配列である。
【0170】
次いで、バインダーCの組み合わされたアミノ酸配列に対応するDNAを合成し、Geneart AG、Germanyでの大腸菌における発現に最適化した。大腸菌へのクローン化および続く精製は、4章(製造方法)に記載の標準的なプロトコールに従う。
あるいは、二重特異性なFn3ベースの結合分子は、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子を連結して作成できる。
【0171】
実施例4
底部ループを用いて標的に結合する単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成
実施例2に記載の実験の詳細を反復して、フィブロネクチンの底部ループを用いて半減期エクステンダーであるHSAに結合する単一特異性なFn3ベースの結合分子を作成した。別のライブラリーを用いて、底部ループを用いてリゾチームに結合する単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子を作成した。
【0172】
(a) 酵母からの富化ループの単離
数ラウンドの選択の後、選択した集団の配列を決定した。各選択した酵母集団の飽和培養物1 mLからZymoprep キット(Zymo Research、Orange、CA)を用いてプラスミドDNAを抽出し、2 μLのプラスミドをエレクトロ・コンピテントなTop10 大腸菌(Invitrogen、Carlsbad、CA)に形質転換した。 プラスミドミニプレップを調製し、96コロニーについて配列決定した。
【0173】
(b) 大腸菌へのサブクローニング
富化されたフィブロネクチンプールをコードする遺伝子を図6に示すpNAT40ベクターにクローン化して、構築物をエレクトロ・コンピテントなAcella大腸菌株(Gaithersburg、MD)に形質転換した。多数のクローンを選択肢、配列決定した。HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーの選択したクローンのアミノ酸配列は、コンセンサス結合配列(配列番号42)と共に図7に示す。図8はリゾチームに対する潜在的なFn3ベースのバインダーの選択したクローンのアミノ酸配列を示す。
【0174】
HSAライブラリーからの個々のクローンを選択し、使用して、コロニーピッカー(Genetix Clonepix2、Boston、MA)を用いて96ディープウェルプレート中で、100 μg/mlのカナマイシンを含むOvernightExpress培地(Novagen、Gibbstown、NJ)1 mlに播種して、激しく撹拌しながら37℃で一夜増殖した。翌日、3000 rpmで15分間遠心分離し、上清を破棄して細胞ペレットを回収した。ディープウェルプレートを−80℃で30分間、2回凍結し、室温で解凍した。次いで、TBS、0.2 mg/mlのリゾチームおよび1 mMのEDTAを含む溶解バッファー250 μlを加え、プレートを室温で1時間インキュベートし、次いで0.1 mg/mlのDNaseI、10 mMのMgCl2を含むTBS 250 μlを加えて、室温でさらに1時間インキュベートした。
【0175】
溶解した細胞懸濁液を96ウェルMultiscreen HTS(Millipore、Billerica、MA)に移し、遠心分離して上清を澄明にした。次いで、HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーを含む澄明にした上清を下記実施例5に記載のELISAアッセイに用いた。
【0176】
実施例5
単一特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の結合特性
この実施例は、Fn3の底部ループの少なくとも1個(例えばAB、CDおよび/またはEF)を改変してFn3ベースの結合分子を作成して、底部ループを用いて標的に結合するFn3ベースの分子の生産に成功した初めての例を示す。この実施例において、HSAに対する潜在的なFn3ベースのバインダーを試験した。
【0177】
結合特性を評価するため、ELISAアッセイを用いた。前処理したELISAプレート(Nunc Maxisorb)の各ウェルをPBS中プラスティックフィルムで被覆した100 μlの1.0 μg/mL HSAでコーティングし、4℃で一夜インキュベートした。翌日、コーティング溶液を除去し、PBSでプレートを2回洗浄した。ウェルあたり200 μLの25 mg/ml カゼイン/PBSを加えてウェルをブロックし、湿潤密封容器中で37℃で1時間インキュベートした。ブロック溶液を除去し、50 μlのPBSで2回洗浄した後、潜在的な単一特異性なバインダーを発現する予め調製した大腸菌溶解物を加え、撹拌下で1時間インキュベートした。次いで、PBS/Tween 20(0.05%)バッファーでプレートを5回洗浄し、次いで0.25%のカゼイン/PBS中に希釈したHRP複合化抗Hisタグ抗体(Abcam、Cambridge、MA)をウェルあたり50 μL加えた。1時間インキュベートした後、Hisタグ抗体溶液を除去し、PBS/Tween 20 (0.05%)でプレートを5回洗浄した。最後に、ウェルあたり50 μLの基質溶液(SureBlue TMB microwell substrate solution、KPL)を加えてELISAを現像した。ポジティブクローンを選択し、次いでスケールアップ生産のための候補を同定するために発現をスクリーニングした。
【0178】
図9は選択したクローンに由来するHisタグ化フィブロネクチンタンパク質の、ヒト血清アルブミン特異的ELISA分析の非限定的な代表例を示す。HSA抗原でコーティングし、さらにPBSと1%のカゼインでブロックしたELISAプレートのウェルに、可溶性フィブロネクチンFn10ドメインの粗溶解物を加えた。HSAに対するFn3ベースのバインダーの検出は、モノクローナルHRP複合化抗His抗体を用いて行った。ELISAを上記のとおり、TMB基質で現像した。OD値(Y軸)をELISAリーダーで450 nmで測定した。各バーはそれぞれのクローン抽出物を示す。このデータは、HSAに対するポジティブFn3ベースのバインダーである多数のクローンがバックグラウンドよりも約3倍高い結合を示すことを示している。この結果は、フィブロネクチン分子の底部ループを用いてHSAのような標的に結合できることを初めて示している。
【0179】
発現されたHSAに対する単一特異性なFn3ベースのバインダーを精製するため、澄明にした溶解物を96ウェルディープブロックに移し、20 μLの50%(v/v)Ni2+負荷MagneHisビーズ(Promega)のスラリーを加えた。KingFisher Robot (Thermo Scientific)を用いて自動精製を行った。30分間インキュベートした後、1 mlの洗浄バッファー/ウェル(50 mMのリン酸、1 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、pH 7.6)でビーズを2回洗浄した。最後に、200 μlのPBSと300 mMのイミダゾール、pH 7.6で結合したフィブロネクチンタンパク質を溶出した。粗抽出物および溶出物のアリコートをSDSゲル電気泳動で分析した(データは示さず)。
【0180】
HSAに対する底部側Fn3ベースのバインダーの発現が成功することをさらに示すため、大腸菌で小スケールの全発現実験を行った。24個の構築物の全発現由来のサンプルをNovex BisTris 4-2% NuPAGEゲル、26ウェル(Invitrogen)で分析した。レーン1はサイズマーカーSeeBlue plus2 (Invitrogen)を含む。この結果は、修飾された底部ループを有するフィブロネクチン分子の大腸菌における発現が成功したことを示している。図10に示すとおり、選択したクローンの多くに約16kDaのタンパク質バンド(フィブロネクチンFn10(約11〜12kDa)とN末端Hisタグ、Sタグおよび正確な切断部位の合計に対応する)が見られる。これらの結果はさらに、単一特異性なFn3ベースの結合分子が大腸菌において成功裏に発現され、結合活性を保持していることを示している。
【0181】
発現されたタンパク質がタンパク質構造に悪影響(例えば分解)なく精製され得ることを示すため、上記のとおりサンプルを精製して、Novex BisTris 4-12% NuPAGEゲル、26 ウェル(Invitrogen)で分析した。レーン1はサイズマーカーMark 12 (Invitrogen)を含む。図10に示すとおり、16 kDaのバンドがほとんどのクローンに明らかに見られる。表1に示すとおり、質量分析によって、精製したフィブロネクチンの正しい分子量での存在を確認する。
【表1】
【0182】
以上より、この結果は、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように改変されエチルFn3ベースの結合分子を作成できることを、初めて示している。今日まで、底部ループと比較して上部ループが抗体配列とよりアラインメントしやすいため、典型的には上部ループが標的との結合について分析されてきた。本明細書で提示する結果は、分子の安定性に悪影響を及ぼすことなく、底部ループを改変できることを示している。したがって、少なくとも1個の底部ループが標的に結合するように改変されているFn3ベースの結合分子のライブラリーを作成できる。HSAライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と同じ長さに保って改変した。リゾチームライブラリーについて、底部ループは野生型Fn3と比較して長さを変えたが、タンパク質の構造に悪影響はなかった。さらに、改変された底部ループを有するこれらの単一特異性なFn3ベースの結合分子は、立体構造安定性を維持しており、結合能を保ったまま発現され、精製できる。したがって、本発明の方法を用いて、少なくとも1個の改変された底部ループを有するFn3ベースの結合分子のライブラリー、ならびに底部表面を用いて標的に結合するFn3ベースの結合分子を作成できる。
【0183】
実施例6
多重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成および特徴付け
この実施例は、2個の別個の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、多重特異性、例えば二重特異性な分子を作成するためのリンカー配列を用いて数珠状に一体に連結されている、多重特異性なFn3ベースの結合分子の作成および特徴付けを示す。二重特異性な分子は次のとおりに設計した。図7において同定し、次に(配列番号8)示す底部側HSAバインダーに、短いGSリンカー配列GGGGSGGGGS(配列番号118)を用いて下記VEGFR2結合配列(配列番号117)を融合して、下記の配列番号119を有する多重特異性なFn3ベースの結合分子を作成した。この構築物はDNA2.0で合成し、発現ベクターpjExpress 401にサブクローン化した。クローニング、精製およびELISAは上記の標準的なプロトコールに従った。
【0184】
VEGFR上部側配列:
【化6】
図7からの底部側配列8:
【化7】
GSリンカーと融合した図7からのVEGFR2底部配列8(クローン87):
【化8】
【0185】
多重特異性な分子のELISA結合試験は、図13に示し、実施例7により詳細に記載する。
【0186】
多重特異性なFn3ベースの結合分子が該分子の大スケール発現から精製できることを示すため、Graeslundらによって示された方法を用いた(Graeslund et al. Nature Methods (2008) 5, 135 - 146)。出発培養物10 ml(〜1/100の最終培養体積)を用いて、25 μg/mlのカナマイシンを含むMinimal Mediaに播種し、37℃、175 rpmで一夜インキュベートした。翌朝、10 mlの出発培養物を用いて、2.8 LのFernbach撹拌フラスコ中の100 μg/mlのカナマイシンを含むOvernightExpress培地 1 リットルに播種した。600 nm (OD600)で1〜1.5の光学密度が得られるまで37℃、175 rpmで細胞をインキュベートした。次いで培養温度を18℃に下げて発現のスイッチを入れて、続く発現のために培養物を18℃で一夜維持した。4500 gで10分間遠心分離して細胞を回収した。細胞を秤量し、1体積(v/w)の溶解バッファー(0.1 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、1.0 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、10%(v/v)のグリセロール、1 mMのTCEPおよび20 単位/mlのBenzonase)を加えた。l mg/mlのリゾチームを細胞懸濁液に加え、氷上で30分間インキュベートした後、懸濁液を1〜2分間断続的に超音波処理した。溶解物を2〜3体積の溶解バッファーで希釈し、1 mlのNi-NTA樹脂を加えた。250 mlのコニカルバイアル中、4℃で1時間上清をゆっくりと撹拌して、結合を行った。樹脂を20 mlの使い捨てカラム中に回収し、タンパク質が溶出しなくなるまで(それぞれ20〜30カラム体積)負荷バッファー(0.05 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、0.5 MのNaCl、20 mMのイミダゾール、5%(v/v)のグリセロール、0.5 mMのTCEP)で洗浄した。溶出バッファー(0.05 Mのリン酸ナトリウム、pH 8.0、0.5 MのNaCl、0.3 Mのイミダゾール、5%(v/v)のグリセロール、0.5 mMのTCEP)で結合したタンパク質を溶出させた。ピークフラクションを同定し、一緒に貯留し、平衡化したMonoS 5/50 GLカラム(GE)にバッファーS(50 mMのHepes、50 mMのNaCl pH 7.6)と共にロードした。Ni-NTA溶出物をバッファーSで10倍に希釈し、予め平衡化したカラムにロードした。10体積のバッファーSで洗浄した後、タンパク質をバッファーS中50 mMから1 MのNaClの直線グラジエントで溶出した。SDS−PAGEおよび質量分析でフラクションを分析した。
【0187】
図12の左パネルは、クローン87の異なる精製工程のSDS−PAGEを示す。レーン1、全タンパク質;レーン2、粗抽出物;レーン3、Ni-NTA流出;レーン4、Ni-NTA 洗浄;レーン5、Ni-NTA溶出;レーン6、Mono S 溶出。右パネルは、クローン87のN末端メチオニン切断タンパク質の予期される質量と一致した精製サンプルのマススペクトル(MW 23404 D)を示す。
【0188】
実施例7
二重特異性なフィブロネクチンベースの結合分子の作成および特徴付け
この実施例は、1個のフィブロネクチン分子が2個の別個の標的、例えばVEGFR2とHSAに結合するように改変された上部ループおよび底部ループを有する二重特異性なFn3ベースの結合分子の作成および特徴付けを示す。
【0189】
底部側HSA結合ループ配列を上部側VEGFR2バインダーに作って二重特異性な分子を作成して、同じFn3分子の上部および底部ループの両方を用いて2個の異なる標的分子に結合できる二重特異性機能を有する分子を作成した。二重特異性な分子を作成するために、底部ループを切除してVEGFR2バインダーにそれを挿入し、分子VEGFR2−HAS(配列番号120)を得て、底部側バインダー(配列番号8)ループ(上記)をVEGFR2バインダー(配列番号117)(上記)に作った。構築物はDNA2.0で合成紙、発現ベクターpjExpress 401にサブクローン化した。クローニング、精製およびELISAは、上記の標準的なプロトコールに従った。
VEGFR2/底部側配列番号8融合分子(クローン89)
【化9】
【0190】
(a) 実施例6および7の二重特異性なフィブロネクチン結合分子のELISA:
実施例6および7の多重特異性および二重特異性なバインダーの結合特性を次のとおりに評価した。VEGFR2−Fc融合タンパク質を前処理したELISAプレート(NuncMultisorb)に不動化して、さらにPBSと1%のカゼインでブロックした。野生型Fn10(レーン1)、クローン87(多重特異性)(レーン2)、クローン89(二重特異性)(レーン3)およびPBSの澄明な溶解物のアリコートをウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。これらは異なる濃度1、2および3で実行した。PBS/0.05%のTweenで5回洗浄し、該ウェルをPBS中 1 μg/mlのHSAと共にインキュベートした。HRP複合化ニワトリ抗ヒトhSA抗体(Abcam)で検出を行った。ELISAをTMP基質で現像し、OD値を450 nmで測定した。結果を図13に示す。
【0191】
粗抽出物中に存在する多重特異性および二重特異性なFn3ベースの結合分子の両方について一貫して再現可能な結果が得られ、クローン87(多重特異性)とクローン89(二重特異性)がHSAとVEGFR2の両方に結合することが示された。このデータは、単一特異性なフィブロネクチン結合分子の1個がHSAに結合できる少なくとも1個の改変された底部ループ(AB、DE、FG)を有するとき、多重特異性および二重特異性なFn分子が作成できることを示している(図13参照)。
【0192】
多重特異性なFn3分子(クローン87)は、G−Sリンカーを介して一体に連結した2個の別々の単一特異性なFn3分子を有する。一方の単一特異性なFn3分子はHSAに結合する改変された底部ループを有するが、他方の単一特異性なFn3分子はVEGFR2に結合する改変された上部ループを有する。得られた多重特異性な分子は、各々の単一特異性なフィブロネクチン分子を用いて2種の異なる標的に結合する能力を保有する。このデータは、単一特異性なFn3分子を数珠状に一体に連結して多重特異性なFn3分子を作成できること;リンカーは各単量体Fn3分子の結合能に干渉しないこと;そして多重特異性なFn3分子はなんら立体障害の問題なく2種の異なる標的に結合できることを示している。
【0193】
二重特異性なフィブロネクチン分子(クローン89)は、底部ループがHSAに結合し、上部ループがVEGFR2に結合するように操作された1個のフィブロネクチン分子である。1個の二重特異性なフィブロネクチン分子はHSAとVEGFR2の両方にうまく結合する。図13は、なんら立体障害の問題なく1個の二重特異性なフィブロネクチン分子がHSAとVEGFR2の両方に結合できることを示している。このデータは、二重特異性なフィブロネクチン分子が作成できること;該二重特異性なフィブロネクチン分子の各側のループの結合能が保持されること;二重特異性な分子の構造確認が、同時に改変されている底部および上部ループの両方で維持されること;上部および底部ループが互いに独立して別個の標的に結合するために機能すること;そして二重特異性なFn3分子がなんら立体障害の問題なく2種の異なる標的に結合できることを、初めて示す。
【0194】
(b) 実施例6および7の二重特異性なフィブロネクチン結合分子のBiacore:
BIAcore T100 (GE)を用いて標的に結合するフィブロネクチンベースの足場タンパク質の結合カイネティクスを測定した。抗ヒトIgG(GE、ヒトIgG補足キット)。Fc特異的抗体をCM5センサーチップに不動化して、可溶性VEGFR2−huFc融合タンパク質をその表面に補足した。可溶性フィブロネクチンクローン87(多重特異性)をバッファー0(10 mMのHEPES、150 mMのNaCl、0.005%のTween 20、pH 7.4)中に100 nM(トップライン)および200 nM(ボトムライン)で注入した。各濃度でセンサーグラムを得て、速度定数ka(kon) および kd (koff)を決定した。アフィニティー定数KDを速度定数koff/konの比から計算した。
【0195】
クローン87についての結果を、上部ループ結合VEGFR2および底部ループ結合HSAについてそれぞれ図14および15に示す。このデータは、G−Sリンカーで一体に連結した2個の別個の単一特異性なFn3分子を含む多重特異性なフィブロネクチンが、底部および上部ループを用いて2個の別個の標的分子にうまく結合することを示す。
【0196】
同じ実験をクローン89について反復し、1個の二重特異性なFn3分子および同様の結果を得た(データは示さず)。
【0197】
以上から、これらの結果は、多重特異性および二重特異性なフィブロネクチン分子を作成可能であると初めて示す。これらの分子は大腸菌における発現に成功し、分解することなく精製でき、結合能を保持し、そして2個の別個の標的に結合できた。
【0198】
均等
当業者は、常套未満の実験を用いて、本明細書に記載の本発明の具体的な態様の多様な均等を認識し、あるいは確認することができる。かかる均等は、特許請求の範囲に含まれることを意図する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項2】
少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95および96番アミノ酸からなる群から選択される、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項3】
非Fn3結合配列が、抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む、請求項1または2のFn3ベースの結合分子。
【請求項4】
特定の標的が半減期エクステンダーである、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項5】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項4のFn3ベースの結合分子。
【請求項6】
特定の標的がリゾチームである、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項7】
Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二のFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項8】
第一および第二の標的が同一分子に存在する、請求項7のFn3ベースの結合分子。
【請求項9】
第一および第二の標的が異なる分子に存在する、請求項7のFn3ベースの結合分子。
【請求項10】
Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、半減期エクステンダーに結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項11】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項10のFn3ベースの結合分子。
【請求項12】
第二の標的がVEGFR2である、請求項10のFn3ベースの結合分子。
【請求項13】
二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、結合分子。
【請求項14】
底部AB、CDまたはEFループ領域における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95および96番アミノ酸からなる群から選択され、そして上部BC、DEまたはFGループ領域における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87および88番アミノ酸からなる群から選択される、請求項13の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項15】
非Fn3結合配列が抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む、請求項13の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項16】
第一および第二の標的が同一分子に存在する、請求項13〜15のいずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項17】
第一および第二の標的が異なる分子に存在する、請求項13〜14のいずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項18】
二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、半減期エクステンダーに結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、結合分子。
【請求項19】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項18の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項20】
第二の標的がVEGFR2である、請求項18の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかの2個以上のFn3ベースの結合分子を含んでなる、多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項22】
Fn3ベースの結合分子がそれぞれ異なる標的に結合する、請求項21の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項23】
異なる標的が同一分子に存在する、請求項22の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項24】
異なる標的が異なる分子に存在する、請求項22の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項25】
Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する非Fn3部分に結合する、請求項1〜24のいずれかのFn3ベースの結合分子。
【請求項26】
多重特異性なFn3ベースの結合分子であって、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなり、ここで少なくとも1個の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を含み;そして第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を含み、第一および第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子がリンカー配列によって連結されている、結合分子。
【請求項27】
配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1種以上の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を有する第三の単一特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなり、第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子と第三の単一特異性なFn3ベースの結合分子がリンカー配列によって連結されている、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項28】
第一の標的が半減期エクステンダーである、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項29】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項28の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項30】
第二の標的がVEGFR2である、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項31】
リンカー配列がG−Sリンカー配列である、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項32】
配列番号119(クローン87)を含む、Fn3ベースの結合分子。
【請求項33】
配列番号120(クローン89)を含む、Fn3ベースの結合分子。
【請求項34】
1個以上の非Fn3部分に連結された請求項1〜33のいずれかのFn3ベースの結合分子を含む、複合体。
【請求項35】
非Fn3部分が、Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する分子を含むかまたはそれと結合する、請求項34の複合体。
【請求項36】
非Fn3部分が、抗体Fc領域、ヒト血清アルブミン(HSA)およびポリエチレングリコール(PEG)からなる群から選択される分子を含む、請求項34〜35のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項37】
機能的部分を付加するために配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して少なくとも1個の修飾アミノ酸残基をさらに含んでなる、請求項1〜36のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項38】
修飾アミノ酸残基が、システイン残基または非天然アミノ酸残基の付加または置換を含む、請求項37のFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項39】
2個以上の異なるFn3ドメイン由来のベータストランドを含んでなる、請求項1〜38のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項40】
請求項1〜39のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体と、担体を含む組成物。
【請求項41】
自己免疫疾患、がんおよび感染症からなる群から選択される疾患について対象を処置する方法であって、請求項1〜41のいずれかのFn3ベースの結合分子、複合体または組成物を投与することを含んでなる方法。
【請求項42】
サンプル中のタンパク質を検出する方法であって、請求項1〜39のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体を標識化し、該標識化した結合分子または複合体を前記サンプルと接触させ、そしてFn3ベースの結合分子または複合体と前記タンパク質間の複合体形成を検出することを含んでなる方法。
【請求項43】
請求項1、7、10、18、21および26のいずれか一つのFn3ベースの結合分子または複合体をコードする、まだら状核酸。
【請求項1】
フィブロネクチンタイプIII(Fn3)ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、特定の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項2】
少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95および96番アミノ酸からなる群から選択される、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項3】
非Fn3結合配列が、抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む、請求項1または2のFn3ベースの結合分子。
【請求項4】
特定の標的が半減期エクステンダーである、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項5】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項4のFn3ベースの結合分子。
【請求項6】
特定の標的がリゾチームである、請求項1のFn3ベースの結合分子。
【請求項7】
Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二のFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項8】
第一および第二の標的が同一分子に存在する、請求項7のFn3ベースの結合分子。
【請求項9】
第一および第二の標的が異なる分子に存在する、請求項7のFn3ベースの結合分子。
【請求項10】
Fn3ベースの結合分子であって、第一のFn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、半減期エクステンダーに結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして第二Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されている、結合分子。
【請求項11】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項10のFn3ベースの結合分子。
【請求項12】
第二の標的がVEGFR2である、請求項10のFn3ベースの結合分子。
【請求項13】
二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、結合分子。
【請求項14】
底部AB、CDまたはEFループ領域における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の15、16、38、39、40、41、42、43、44、45、60、61、62、63、64、93、95および96番アミノ酸からなる群から選択され、そして上部BC、DEまたはFGループ領域における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1の21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、51、52、53、54、55、56、76、77、78、79、80、80、81、82、83、84、85、86、87および88番アミノ酸からなる群から選択される、請求項13の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項15】
非Fn3結合配列が抗体の相補性決定領域(CDR)またはT細胞受容体の全部または一部を含む、請求項13の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項16】
第一および第二の標的が同一分子に存在する、請求項13〜15のいずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項17】
第一および第二の標的が異なる分子に存在する、請求項13〜14のいずれかの二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項18】
二重特異性なFn3ベースの結合分子であって、Fn3ドメインを含んでなり、ここで該Fn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、半減期エクステンダーに結合する非Fn3結合配列が作成されており、そして該Fn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的に結合する非Fn3結合配列が作成されており、結合分子。
【請求項19】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項18の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項20】
第二の標的がVEGFR2である、請求項18の二重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかの2個以上のFn3ベースの結合分子を含んでなる、多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項22】
Fn3ベースの結合分子がそれぞれ異なる標的に結合する、請求項21の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項23】
異なる標的が同一分子に存在する、請求項22の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項24】
異なる標的が異なる分子に存在する、請求項22の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項25】
Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する非Fn3部分に結合する、請求項1〜24のいずれかのFn3ベースの結合分子。
【請求項26】
多重特異性なFn3ベースの結合分子であって、2個以上の単一特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなり、ここで少なくとも1個の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第一の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの底部AB、CDもしくはEFループ領域またはC末端の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を含み;そして第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子が、配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、第二の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を含み、第一および第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子がリンカー配列によって連結されている、結合分子。
【請求項27】
配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して改変されて、1種以上の標的と結合する非Fn3結合配列を作成されているFn3ドメインの上部BC、DEもしくはFGループ領域の1個以上における少なくとも1個のアミノ酸を有する第三の単一特異性なFn3ベースの結合分子を含んでなり、第二の単一特異性なFn3ベースの結合分子と第三の単一特異性なFn3ベースの結合分子がリンカー配列によって連結されている、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項28】
第一の標的が半減期エクステンダーである、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項29】
半減期エクステンダーがヒト血清アルブミンである、請求項28の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項30】
第二の標的がVEGFR2である、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項31】
リンカー配列がG−Sリンカー配列である、請求項26の多重特異性なFn3ベースの結合分子。
【請求項32】
配列番号119(クローン87)を含む、Fn3ベースの結合分子。
【請求項33】
配列番号120(クローン89)を含む、Fn3ベースの結合分子。
【請求項34】
1個以上の非Fn3部分に連結された請求項1〜33のいずれかのFn3ベースの結合分子を含む、複合体。
【請求項35】
非Fn3部分が、Fn3ベースの結合分子の半減期を延長する分子を含むかまたはそれと結合する、請求項34の複合体。
【請求項36】
非Fn3部分が、抗体Fc領域、ヒト血清アルブミン(HSA)およびポリエチレングリコール(PEG)からなる群から選択される分子を含む、請求項34〜35のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項37】
機能的部分を付加するために配列番号1を含む野生型Fn3ドメインと比較して少なくとも1個の修飾アミノ酸残基をさらに含んでなる、請求項1〜36のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項38】
修飾アミノ酸残基が、システイン残基または非天然アミノ酸残基の付加または置換を含む、請求項37のFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項39】
2個以上の異なるFn3ドメイン由来のベータストランドを含んでなる、請求項1〜38のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体。
【請求項40】
請求項1〜39のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体と、担体を含む組成物。
【請求項41】
自己免疫疾患、がんおよび感染症からなる群から選択される疾患について対象を処置する方法であって、請求項1〜41のいずれかのFn3ベースの結合分子、複合体または組成物を投与することを含んでなる方法。
【請求項42】
サンプル中のタンパク質を検出する方法であって、請求項1〜39のいずれかのFn3ベースの結合分子または複合体を標識化し、該標識化した結合分子または複合体を前記サンプルと接触させ、そしてFn3ベースの結合分子または複合体と前記タンパク質間の複合体形成を検出することを含んでなる方法。
【請求項43】
請求項1、7、10、18、21および26のいずれか一つのFn3ベースの結合分子または複合体をコードする、まだら状核酸。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−522517(P2011−522517A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506738(P2011−506738)
【出願日】平成21年5月4日(2009.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055365
【国際公開番号】WO2009/133208
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月4日(2009.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055365
【国際公開番号】WO2009/133208
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
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