説明

改善された全歯車交差軸差動装置

全歯車差動装置は、一義的には自動車での使用のために設計され、共通の第1軸回りに回転可能で各対向する車軸上に取り付け可能な1対のはす歯「サイド」歯車即ち「S」歯車と、第1軸に直交する第2軸回りに回転可能な1対又は2対以上の「バランス」歯車即ち「B」歯車とによって画定された「交差軸」の配置を採用する。B歯車は、はす歯S歯車と噛み合うはす歯中央部分を有し、互いに噛み合う平歯車端部分を有する。各バランス歯車とそれの各サイド歯車との間のB/Sはす歯歯車の歯数比は、0.60より大きく、好ましくは0.75程に高く、各バランス歯車とそれの各サイド歯車との間のB/Sねじれ角比は、43°/47°より小さく、より好ましくは40°/50°より小さく、約35°/55°であり、最も好ましくは約27°/63°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2009年6月10日出願の米国特許出願第12/482,185号の優先権を主張し、ここで参照することでその全体を本願に組み込む。
【0002】
発明の分野
本発明は、一義的には車両の駆動輪を差動制限する工程を提供する自動車のために設計された全歯車差動装置に関係し、更に特定すれば、本発明は、ここで「S」歯車として参照される1対のはす歯「サイド」歯車と、ここで「B」歯車として参照される1対又は2対以上の「バランス」歯車とで画定される「交差軸」の配置を採用する差動装置に関係する。1対のはす歯「サイド」歯車は、駆動輪の車軸を受け、共通の第1軸回りに回転可能であり、1対又は2対以上の「バランス」歯車は、キャリア筺体に取り付けられ、各バランス歯車が第1軸に直交する第2軸回りに回転可能で、はす歯サイド歯車と噛み合うはす歯中央部分と、互いに噛み合う平歯車端部分とを有し、それにより、キャリア筺体に取り付けられることで各バランス歯車がエンジントルクを受ける。最も特定すれば、本発明は、内部の歯車比の関係に取り組む交差軸差動装置の配置に関係する。各バランス歯車の中央部分とそれの各サイド歯車との間のB/Sはす歯歯車の歯数比は、0.60より大きく、好ましくは約0.75であり、各バランス歯車の中央部分とそれの各サイド歯車との間のB/Sねじれ角比は、43°/47°より小さく、より好ましくは40°/50°より小さく、約35°/55°であり、最も好ましくは約27°/63°である。
【背景技術】
【0003】
多くの型のスリップ制限差動装置(limited-slip differentials)があるが、商業的に最も成功しているものには、ヴァーノン・イー・グリースマン(Vernon E. Gleasman)の設計に基づいた全歯車差動装置であり、その最も高効率のものは、例えばトーセン(Torsen)(登録商標)のタイプ1の差動装置として商業的に特定された「交差軸」の設計に基づいた全歯車差動装置である。ここで使用されるように、歯車の型を参照すれば、用語「はす歯」は、それの最も広義で解釈されるべきであり、修正されたはす歯歯車、或いは、混成型のはす歯歯車に限定されず、それらを含む差動歯車装置の技術で使用されるすべての型のはす歯歯車を含むように意図される。ここで使用されるように、用語「交差軸」は、差動歯車セットを意味し、共通の第1軸回りに回転可能な1対のはす歯「サイド」歯車(ウォーム)と、第1軸に直交する第2軸回りに各々が回転可能な1対又は2対以上のバランス歯車と、はす歯サイド歯車と噛み合うはす歯中央部分(ウォームホイール)と、互いに噛み合う平歯車端部分とを有する。交差軸遊星歯車装置を使用したそのような既知の差動装置の最近の改善は、米国特許第6,783,476号(「コンパクト全牽引差動装置」、本発明と同じ譲受人トーヴェック社(Torvec, Inc.)に譲受され、商標「イソトルク(IsoTorque)」で特定される)に開示されており、参照することでここに組み込む。この特定された特許で開示された改善された差動装置は、他の先行技術の交差軸差動装置の初期の設計より寸法と重量が小さく製造コストも少ないが、類似の荷重運搬の仕様に適合する。
【0004】
すべての伝統的な交差軸差動装置は、例えば図1a、図1bの符号131,132及び131a、132aのような、対をなす「バランス」歯車(ウォームホイールと平歯車との組み合わせ)を含み、これらの歯車は、各端部に形成された平歯車部分133を介して互いに噛み合い、ウォームホイール部分134内に形成されたはす歯歯を介してサイド歯車はす歯ウォーム141,142とも噛み合う。
【0005】
差動装置の技術分野以外で使用される従来型のウォーム駆動の歯車装置では、「ウォーム」Sは、更に大きな歯車、一般には平歯車と噛み合う螺旋形状の歯を備えた円筒状の歯車であり、その大きな歯車は、一般にウォーム歯車即ち「ウォームホイール」として特定される。典型的には、ウォーム及びウォームホイールは、各直交する平面内に含まれる各軸回りに回転し、ここでは、用語「交差軸」を用いる。従来型のウォーム駆動の歯車装置では、ウォームSは、相対的に高いねじれ角を有し、噛み合うウォーム歯車よりも直径がずっと小さい。その結果、小さい直径のウォームSから大きい直径のウォームホイールBへエネルギが伝達されるとき、機構上の有利な点があり、大きい直径のウォームホイールBから小さい直径のウォームSへエネルギが伝達されるとき、付随する機構上の不利な点があり、一般に、ウォームホイームの大幅な逆駆動を妨げる。ウォームとウォームホイールとの組み合わせを差動装置内で使用するとき、この一般的な関係のためにBがSを回転させることが一層困難となり、それにより、2つの反対向きの動作方向の間でトルクバイアスが生成され、その間に、ウォームSがウォームホイールBを駆動させるとき差動動作も促進される。
【0006】
差動装置で使用されるとき、SとBの歯は、差動装置の技術以外で使用されるウォーム歯車駆動のための、上述のような従来型のウォーム/ウォームホイールの歯で形成される必要はない。はす歯歯車及びウォームホイール、平歯車として形成されるウォームに代わって、差動装置では、「全はす歯歯車装置」が使用されることがある。即ち、ウォームとウォームホイールの両方は、はす歯歯車として形成されることがあり、即ち、トーヴェック社がごく最近にしたように形成されることがあり、はす歯歯車装置及びウォーム/ウォームホイール歯車装置の両方からの標準的な歯車設計要素の組み合わせを組み込んだ独特の「混成型」設計として形成されることがある。
【0007】
このスリップ制限差動装置に適用する以外に、交差軸全はす歯歯車装置の配置は、仮にあるにせよ、比較的ほとんどない。それゆえに、交差軸全はす歯歯車装置は、差動装置の技術に特有とみなされることがあり、従って、全く難解である。その結果、一般的な交差軸歯車の技術は、スリップ制限差動装置のための交差軸歯車装置の配置の設計の助けになる専門知識や先行技術をほとんど提供しない。
【0008】
例えば、一般的な交差軸の技術で使用される従来型のウォームSは、典型的に、噛み合うウォームホイールBより直径がずっと小さい。他方、先行技術の差動装置を適用すれば、サイド歯車ウォームSは、ウォームホイールBより直径が大きい。最も共通の先行技術の交差軸全はす歯歯車差動装置では、サイド歯車ウォームSは13の歯を有し、一方、噛み合うウォームホイールBは7個の歯を有し、結果として0.54というB/Sはす歯歯車の歯数比になる。差動装置の部材それ自体の中でそのようになるパッケージの許容範囲を有するにもかかわらず、先行技術の差動装置の歯車の歯数比は、認められた設計では決して0.60を超えず、ウォームホイールBの直径に対するサイド歯車ウォームSの直径を減らすよりむしろ増加させることに向かう傾向にある。
【0009】
他の例として、一般的な交差軸の技術では、ウォームSは、比較的高いねじれ角を有する。他方、先行技術の交差軸差動装置では、トルクの伝達が両方向にほとんど等しく促進され、それゆえに、たいていの交差軸の設計は、SとBの歯車でほとんど統一したねじれ角(43°/47°)を使用することが好まれる。
【0010】
これらの差動歯車装置の属性の重要性を理解するために、全歯車交差軸差動装置がスリップ制限をどのように生成するかを理解することは有益である。従来型の交差軸を有しない差動装置(即ち「開放型」差動装置として一般に参照される差動装置)を備える車両では、車両の1つの駆動輪が牽引力を失うとき、エンジントルクのほとんどは、直ちにスリップしたホイールに送達される。しかし、交差軸差動装置を備え、エンジンからホイールへのBとSの歯車接続で生成される機構上の不利な点は、低牽引輪の過度のスリップを制限する。特殊な差動装置の設計で支持される最大トルク比は、「バイアス比」と名付けられ、低トルク車軸のトルクに対する高トルク車軸のトルクの比率として表現される。例えば、4:1のバイアス比は、交差軸差動装置が、低牽引輪で支持可能なトルク量の4倍を、良好な牽引力を有する駆動輪に送達する能力を有することを意味する。SからBへの方向で操作するとき、この同じ接続は、車両がコーナーを曲がり同じ時間経過の間に外輪が内輪よりも長い距離を移動するとき、駆動輪の速度変化に対する差動装置の応答を高める。その結果、比較的高い差動装置のバイアス比は、これら2つの理由により望ましい。
【0011】
イソトルクの交差軸設計にとって、このウォーム/ウォームホイールの関係は、駆動輪間のトルクバイアスにかなり重要であり、すべての駆動条件のもとで駆動輪の容易な差動動作に貢献する。それゆえに、イソトルクの設計はすべて、40°/50°と同じか或いは更に大きいB/Sねじれ角比を使用する。
【0012】
これに対して、トーセンのタイプ1の差動装置の製造業者を含む先行技術の交差軸差動装置の製造業者は、B/S結合体を備えたはす歯歯車装置がトルクバイアスに貢献することを認識してきたが、この貢献が摺動で創生される摩擦の増加にあるとし、はす歯歯車装置に伴うスラスト力を終える。差動動作を促進することに関係したはす歯歯車装置自体の効果には、ほとんど考慮はされない。(例えば、S.E.チョチョレック(S. E. Chocholek)著、技術誌「牽引制御の改善のための差動装置の開発(The development of a differential for the improvement of traction control)」1998年、機械技術者協会、C368/88参照。)それゆえに、現在の商業的に利用可能な先行技術の交差軸差動装置は、一般に、B/Sねじれ角比でほぼ統一した値、例えば43°/47°を使用する(直交する交差軸はす歯歯車装置では、ねじれ角は、常に合わせて90°でなければならない)。
【0013】
本技術分野で必要とされるものは、実質的に改善されたトルクバイアス特性と差動バイアス特性とを有する交差軸差動装置である。
【0014】
本技術分野で必要とされるものは、B/S歯数比が0.6より大きく、ねじれ角比が43°/47°よりも小さい交差軸差動装置である。
【0015】
本発明の主要な課題は、7.0かそれより大きい増加トルクを提供する改善された交差軸差動装置を提供することである。
【0016】
本発明の主要な課題は、差動動作させるための差動装置の作用力を実質的に減らすが増加トルクバイアスを提供する改善された交差軸差動装置を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,783,476号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】S.E.チョチョレック(S. E. Chocholek)著、技術誌「牽引制御の改善のための差動装置の開発(The development of a differential for the improvement of traction control)」1998年、機械技術者協会、C368/88
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
簡潔に記載すれば、本発明は、一義的には車両の駆動輪をスリップ制限させるため自動車での使用のために設計された全歯車差動装置に関係し、そのような差動装置は、共通の第1軸回りに回転可能で各対向する車軸上に取り付け可能な1対のはす歯「サイド」歯車即ち「S」歯車と、第1軸に直交する第2軸回りに回転可能で車両のエンジンによって駆動可能なキャリア筺体に取り付け可能な1対又は2対以上の「バランス」歯車即ち「B」歯車とによって画定された「交差軸」の配置を採用する。B歯車は、はす歯S歯車と噛み合うはす歯中央部分を有し、互いに噛み合う平歯車端部分を有する。各バランス歯車とそれの各サイド歯車との間のB/Sはす歯歯車の歯数比は、0.60より大きく、好ましくは0.75程に高く、各バランス歯車とそれの各サイド歯車との間のB/Sねじれ角比は、43°/47°より小さく、より好ましくは40°/50°より小さく、約35°/55°であり、最も好ましくは約27°/63°である。
【0020】
車両をコーナー周りで運転するとき、道路上で牽引力を維持するために、外輪は内輪より速く回転する必要がある。例えば摩擦クラッチを使用する伝統的な牽引支援差動装置では、トルクバイアス比が限度を超えるとき(バイアス比を生成する装置が分割された車軸の2つの部分を結合するとき)にだけ、これは起こりことがあり、トルクの大部分を遅く動く内輪に強制して、トルクバイアス比の大きさで決定される。
【0021】
しかし、本発明に従った交差軸差動装置は、それの新規なねじれ角と歯数比のために、2つの方法のトルク伝達装置である。差動動作するための作用力は、いくつかの先行技術で信じられてきたように、或いは、上述した論文内でチョチョレックによって信奉されたように、エンジンから生じることはなく、むしろ、道路面と車両タイヤとの間の牽引作用から生じる。車両の変化する慣性力は、タイヤ上に力を置き、それらを道路面から差動動作させることを強制する。この方向に働くことで、サイド歯車は、新規なねじれ角のために、バランス歯車を回転させ、エンジン側からサイド歯車を回転させるのに不利なバランス歯車よりむしろ、機構上の有利性を有する。この直接性は、コーナリングの際に差動動作させるためには、改善された差動装置がその高いバイアス比を打ち負かす必要がないことを意味している。その結果、エンジンからの高い入力負荷が備わってさえあれば、個々の車輪がスピンすることが少なくなり、或いは、差動動作が妨害されることが少なくなって、運転者は、コーナーを通過する際にスロットルを更に使用することができる。それによって、牽引力が維持されて、車両のハンドリング特性と安全特性を改善する。
【0022】
次に、本発明は、実施例を用いて、添付図面を参照しつつ、記述される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1a】ここで改善されたタイプの2セットの歯車結合体を有する、本発明に従った交差軸差動装置の概略及び部分断面図である。
【図1b】図1aの差動装置の概略及び部分断面図で、図1aの平面1B−1Bで所得した図である。
【図2a】ここで改善されたタイプの3セットの歯車結合体を有する、本発明に従った交差軸差動装置の概略及び部分断面図である。
【図2b】図2aの差動装置の概略及び部分断面図で、図2aの平面2B−2Bで所得した図である。
【図3】本発明に従った様々なB/S比を使用する機構上の有利性における改善を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1及び図2に示す交差軸差動装置の特徴は、先行技術の差動装置のそれらと外見上類似することに留意されたい。しかし、例示として図1及び図2に示された差動装置の発明は、本発明の新規な歯車の歯数比と新規なねじれ角比とを具体化し、それゆえ、先行技術として解釈されるべきでない。
【0025】
対応する参照符号は、いくつかの図を通じて対応する部品を示す。ここに示された実施例は、本発明の現時点の好適な実施形態を示し、そのような実施形態は、いかなる方法でも本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきでない。
【0026】
本発明は、上で参照した米国特許第6,783,476号に開示された先行技術のコンパクト全牽引差動装置に改善を加えるものである。それゆえに、参照は、最初に、本発明に従った第1の実施形態の差動装置100に従って、2セットのバランス歯車だけを使用する完全交差軸の歯車複合体の2つの図を示す図1a及び図1bに対してなされる。
【0027】
筺体120は、好適には、形成された金属、即ち、鋳物で造られ、3個の開口部だけを有する。即ち、出力車軸(不図示)の各内側端部を受けるための第1軸125に沿って整合された第1セットの適切な開口部121,122と、単一の更なる開口部126とを有し、開口部126は、長方形の形状で、筺体120を通って直接に延在し、軸125に垂直に中心合わせされ、対となる歯車結合体を受けるための「窓」として当該技術分野で既知の2つの開口部を生成する。
【0028】
2対の組み合わせ、即ち、バランス歯車131,132及び131a,132aは、各々が、はす歯歯車部分134で分離された各平歯車部分133を有する。各対の各平歯車部分133は、互いに噛み合い、これらバランス歯車のすべてと噛み合った状態にある。バランス歯車の対131,132の各はす歯歯車部分134は、一対のサイド歯車はす歯歯車141,142の各一つと噛み合った状態にあり、一方、バランス歯車の対131a,132aの各はす歯歯車部分134は、同じ対のサイド歯車はす歯歯車141,142とそれぞれが同様に噛み合った状態にある。
【0029】
各々が軸受け表面152,153を含むスラストワッシャ150は、サイド歯車はす歯歯車141,142の内側両端の中間に配置される。それゆえ、そして次に図1aを特に参照すれば、駆動トルクがサイド歯車に印加されるとき、はす歯歯車141,142は、左方向のスラスト力という結果となり、はす歯歯車142は、スラストワッシャ150の軸受け面152に抗して動き、軸受け面153をはす歯歯車141の中へ押し、筺体120に抗して動く(或いは、はす歯歯車141と筺体120との間に従来通りに配置された適切なワッシャに抗して動く)。同様に、駆動トルクがサイド歯車に印加されるとき、はす歯歯車141,142は、右方向のスラスト力という結果となり、はす歯歯車141は、スラストワッシャ150の軸受け面153に抗して動き、はす歯歯車142の中へ動き、筺体120に抗して動く(或いは、再び、はす歯歯車142と筺体120との間に従来通りに配置された適切なワッシャに抗して動く)。
【0030】
図2a及び図2bは、本発明に従った他の差動装置の3個の歯車セットの実施形態200を示し、図2aは、軸125に対して垂直に取られている。当業者が理解するように、そのような3個の歯車セットの差動装置は、高性能車の例外的なトルク要求を担持するために使用されるであろう。この実施形態は、3対のバランス歯車を含む。筺体220は、3個の対向する搭載部分227,228,229を有し、各搭載部分の各々は、120度の角度で適合する搭載面を形成する2つの内部面を備えたセグメントとして形成され、各々が、搭載スルーホール238を含む。各バランス歯車231のための回転可能な支持体を備えるために、複数のジャーナルピン236は、各バランス歯車231を通じて形成されたジャーナル孔239内でそれぞれに噛み合って受けられ、各ジャーナルピン236は、次に、筺体220の各対の搭載部分227,228,229の対向する搭載面内に形成される整合されたスルーホール238の各セット内で受けられる。
【0031】
複数の停止ピン244は、好ましくは、任意の各ジャーナルピン236が偶発的に除去されるのを防ぐために使用されるであろう。各停止ピン244は、各スルーホール238に垂直な各取付け部分227,228,229内に形成された、停止ピンの大きさに適切に適合した各孔246に圧入される。
【0032】
本発明に従ったこの設計を分析する間に、発明者は、動的に動作している間にだけ起こるウォーム/ウォームホイール歯車装置の更なる機構上の有利性を全く認識していなかったことが判るようになった。即ち、噛み合うバランス歯車Bの歯数に関連付けてサイド歯車Sの歯数を減らすことによる有利性である。換言すれば、サイド歯車Sの歯数S=13とバランス歯車Bの歯数B=7との間の歯数の関係を有する周知の先行技術の交差軸差動装置を例として用いれば、歯数の関係をS=9の歯でB=6の歯という歯数の関係に変えることで、B/S歯数比が0.54から0.66へ増加する結果となり、機構上の有利性が22%増加する結果となる。その結果、本発明によれば、発明者は、動的なトルクバイアス比を改善するために、差動装置の筺体と車両スペースの許容範囲という制約の中で、B/S歯数比は、可能な限り大きくすべきであることを認識した。本発明によれば、可能な限り大きなB/S歯数比から結果として生じるこの更なる機構上の有利性は、交差軸差動装置の発端から(約50年間)当業者によってすっかり見落とされてきた。
【0033】
そのような更に高いB/Sの歯数比によれば、ウォームホイールBがウォームSに打ち勝ち、それによって、差動動作を妨げることを更に困難にさえする。この配置は、Sの更に高いねじれ角を補い、BがSを回転させることを更に困難にさえする。その結果、動的な動作中に、更に高いB/S歯数比は、ウォームSのために更に大きな機構上の有利性さえ提供し、動的なトルクバイアスと静的なトルクバイアスとは一層近い状態となり、差動動作の間にトルクバイアスが突然に動的に低下することを防ぐ。
【0034】
本発明によれば、現在のパッケージのパラメータは、B/S歯数比を増加させることを可能にするが、本発明の更に好適な歯車の歯数比は、トルクバイアスがはす歯歯車装置に付随するねじれ角と摩擦だけに影響されるという一般に受け入れられ信じされていることのために、先行技術の交差軸差動装置では無視されてきた。その結果、先行技術の設計が、B/S比を常に制限してきており、その結果、Bは、直径がSよりかなり小さく、歯数がSよりずっと少ない。例えば、先行技術のトーセンタイプの差動装置でのB/S歯車の歯数比は、常に、0.60よりも少ない範囲で変動する(例えば周知の先行技術のB/Sの歯数比は0.54である)。
【0035】
本発明は、伝統的な交差軸差動歯車装置の今までの過ごされてきたこの機構上の有利性を利用する。イソトルクのスリップ制限差動装置は高いトルクバイアス(通常5:1かそれ以上)を維持するが、本発明に従った交差軸差動装置もまた、動的な機構上の有利性の面で著しく追加の増加を備えた歯車装置を提供するために、B/S歯数比も最大化するB/S歯車装置を組み込む。この改善のために、高いエンジントルク下で動作するとき、差動動作を増加させることで差動装置の効率が向上する。
【0036】
本発明に従った交差軸差動装置は、歯車が適合する必要のある筺体の大きさのために、SがBより大きい歯数を未だに必要とするが、そのように改善された差動装置は、概ね0.60より大きくなるようにB/S歯車の歯数比が最大となるように伝統的な又は先行技術のB/S関係を意図的に修正する。図3を参照すれば、バランス歯車の中心部分Bが7個の歯を有しサイド歯車Sが13個の歯を有して、歯車の歯数比B/S50が0.54という結果となる先行技術は、第1のコラムに記載されている。B/S歯車の歯数比52を0.66に増加させることで、改善された歯車セットの動的な機構上の有利性54は22%まで増加することに留意されたい。同様に、B/S歯車の歯数比56を0.75に増加させることで、改善された歯車セットの動的な機構上の有利性58は38%まで増加し、B/S歯車の歯数比60を0.80に増加させることで、改善された歯車セットの動的な機構上の有利性62は48%まで増加する。
【0037】
加えて、機構上の有利性を著しく増加させることは、本発明に従った交差軸差動装置にとって、更に高いねじれ角の機構上の有利性に対して補足的である。B/Sねじれ角比は、43°/47°より小さく、好ましくは40°/50°より小さく、約35°/55°で、最も好ましくは約27°/63°である。低いB/Sねじれ角の比と高いB/S歯車の歯数比とのこの結合体は、トルクバイアス比が10:1に向かいつつある交差軸差動装置を提供し、それは、高いエンジン出力における厳しい順番で、5:1のトルクバイアスを有する現在利用されている交差軸差動装置より一層容易に差動動作さえする。
【0038】
本発明は、様々な特殊な実施形態を参照して記述されたが、記述された発明の概念の精神及び範囲の中で多数の変更がされることは理解されるであろう。従って、発明は、記述された実施形態に限定されるべきでなく、以下の特許請求の範囲の記載によって画定される充分な範囲を有することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の動力源から複数のはす歯のバランス歯車を介して1対のはす歯サイド歯車へ回転力を伝達する交差軸差動装置において、
改善は、各サイド歯車のはす歯の歯数に対する各バランス歯車のはす歯の歯数比が0.60より大きい、交差軸差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の交差軸差動装置において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が43°/47°より小さい、交差軸差動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の交差軸差動装置において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が約40°/50°より小さい、交差軸差動装置。
【請求項4】
請求項2に記載の交差軸差動装置において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が約35°/55°である、交差軸差動装置。
【請求項5】
請求項2に記載の交差軸差動装置において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が約27°/63°である、交差軸差動装置。
【請求項6】
請求項1に記載の交差軸差動装置において、
前記歯数比が約0.75である、交差軸差動装置。
【請求項7】
交差軸差動装置を備えた自動車であって、
各サイド歯車のはす歯の歯数に対する各バランス歯車のはす歯の歯数比が0.60より大きい、自動車。
【請求項8】
請求項7に記載の自動車において、
各サイド歯車のはす歯の歯数に対する各バランス歯車のはす歯の前記歯数比が約0.75である、自動車。
【請求項9】
請求項7に記載の自動車において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が43°/47°より小さい、自動車。
【請求項10】
請求項7に記載の自動車において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が約35°/55°である、自動車。
【請求項11】
請求項7に記載の自動車において、
前記サイド歯車の歯のねじれ角に対する前記バランス歯車の歯のねじれ角の比が約27°/63°である、自動車。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−529612(P2012−529612A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515089(P2012−515089)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/037882
【国際公開番号】WO2010/144519
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(501050955)トーヴェック・インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】