説明

改善された引裂性を有する熱収縮チューブ

【課題】本体に損傷を与えず、しかも安定した引裂経路を呈する熱収縮チューブを提供する。
【解決手段】フッ素樹脂からなる熱収縮チューブの外表面で且つその長手方向に沿って、剥離自在の筋状体を固着する。筋状体2は、フッ素樹脂に対して非相溶性を有する樹脂からなり、熱収縮チューブ1とは異なる色相を呈する。長方方向の熱収縮率は−20%〜+20%であり、径方向の熱収縮率は20%〜70%である。電線、端子部分、リード線などに保護用、色識別用として被せて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その長手方向に沿った引裂性の改善された熱収縮チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
熱収縮チューブは種々の分野で汎用されている。例えば、該チューブは、電線、端子部分およびリード線等に被せられ、それら部品の仮固定や仮保護用として、さらに、電線やリード線等を配線する際の色識別用として適用されるが、最終的には該チューブは不要となる為、剥離・除去される。
【0003】
ところで、この剥離・除去工程では、熱収縮したチューブの片端からその長手方向の或る一定長さに亘って刃が入れられ、その切れ目を起点として、該熱収縮したチューブは手作業で引裂かれる。しかし、この工程では、刃を入れる際に該熱収縮したチューブ内部の本体素材を傷つける危険性がつきまとう。さらに、該熱収縮したチューブを引裂く経路が真っ直ぐにならないため、引裂途中にチューブ片が切れてしまう。このため、該熱収縮したチューブに再度刃を入れ直してから引裂かなければならず、ここでも該熱収縮したチューブ内部の素材を再度傷つける恐れが生じると同時に、作業が重複してしまい工数が増える、といった作業上の問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、該本体素材を損傷する懸念がなく、しかも安定した引裂経路を呈する熱収縮チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、上記の課題は、フッ素樹脂からなる熱収縮チューブの外表面で且つその長手方向に沿って、剥離自在の筋状体を固着しておくことにより達成される。
【発明の効果】
【0006】
(1)熱収縮したチューブの剥離・除去に際して、刃を用いなくてよいので、該チューブ内部の本体素材を傷つける懸念が解消される。
(2)熱収縮したチューブから筋状体を剥離・除去した後の痕跡は、その引裂時に引裂経路を安定に規制する引裂案内溝として機能する。すなわち、筋状体の剥離・除去開始点を起点として、該チューブは該案内溝に沿って手で容易に引裂くことができるので、引裂経路が曲がらず、一回の作業でチューブ終端まで引裂くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の熱収縮チューブについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の熱収縮チューブの一例を示す横断面図である。
図2(a)は、本発明の熱収縮チューブを電線2本に被せて仮固定した例を示す斜視図である。
図2(b)は、図2(a)の熱収縮チューブを熱収縮処理した後、剥離・除去する状況を示す斜視図である。
図3は、従来の熱収縮チューブの適用例を示す斜視図である。
【0008】
図1において、(1)は熱収縮チューブ、(2)は、チューブ(1)の外表面で且つその長手方向に沿って剥離自在に固着された筋状体である。この例では、筋状体(2)は、熱収縮チューブ(1)の横断面方向で対峙する2箇所の外表面に固着され且つその長手方向に延在している。この筋状体の断面形状については、円形から矩形まで種々の形状が採択される。また、そのサイズについては熱収縮チューブ(1)のサイズにもよるが、図1に示した細巾状体の場合、一般的には、巾が0.50mm〜5.0mm、深さが熱収縮チューブ(1)の厚さの10%〜100%の範囲にあればよい。また、その本数については、作業性の面から1〜3本程度で十分である。
【0009】
この熱収縮チューブ(1)に特徴的なことは、筋状体(2)の剥離・除去痕が熱収縮後のチューブ(1)の安定な引裂案内溝として機能する、ことにある。
【0010】
ここで、熱収縮チューブ(1)を構成するベース樹脂としては、一連のフッ素樹脂群から適宜選択すればよい。一方、筋状体(2)は、ベース樹脂とは異なる樹脂、特に該ベース樹脂に対して非相溶性を呈する樹脂で構成される。この場合、該樹脂に顔料を添加して、ベース樹脂と異なる色相にしておくと、筋状体(2)が識別性を呈し、その剥離・除去作業が容易になる。具体的な樹脂の組み合わせとしては、該ベース樹脂として、例えばテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(FEP)を用い、該非相溶性の樹脂として、該FEPとは、分子量ないし溶融温度、または分子構造を異にし、且つ融点がFEPの融点±50℃程度のフッ素樹脂(例えばエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)、さらにはFEPとの融点差が±100℃程度のポリエステル、ナイロン等の樹脂が用いられる。また、筋状体(2)を構成する非相溶性樹脂は、該ベース樹脂と同じ樹脂に充填剤を添加することによっても得られる。
【0011】
この熱収縮チューブ(1)には、熱収縮処理時ないし後に、該チューブ内部の本体素材に求心的押圧力を加える性質が求められることから、該チューブは、径方向には20%〜70%程度に熱収縮するものが好ましい。この径方向の収縮率に関連して、該チューブは長手方向には−20%(自己伸張領域)〜+20%(収縮領域)程度に熱収縮するものが好ましい。ここで言う熱収縮率は、以下のようにして測定される。
【0012】
熱収縮前の熱収縮チューブの全長は鋼尺で、内径はピンゲージにて測定する。次に該チューブを規定の収縮温度、収縮時間にて熱収縮させ、その後、収縮前と同様に該チューブの全長と内径を測定する。ここで、規定の収縮温度とは100〜300℃、規定の収縮時間とは、3〜10分の範囲内にあればよく、使用する樹脂や収縮率によって適宜選択すればよい。そして、この測定値を以下の式に当てはめて収縮率を算出する。
【0013】
長手方向の熱収縮率(%)={〔(収縮前の熱収縮チューブ全長)−(収縮後の熱収縮チューブ全長)〕/(収縮前の熱収縮チューブ全長)}×100、径方向の熱収縮率(%)={〔(収縮前の熱収縮チューブ内径)−(収縮後の熱収縮チューブ内径)〕/(収縮前の熱収縮チューブ内径)}×100
【0014】
このような収縮率を得るには、例えば、上記の2つの樹脂を同時押出しにてチューブ状に成型後、チューブを拡径すればよい。これにより、拡径割合に応じた収縮率が得られる。例えば、拡径率が50%の下では、長手方向の収縮率は−5%に、そして、径方向の収縮率は45%程度に調整される。
【0015】
図2(a)には、上述の熱収縮チューブ(1)を2本の電線に被せて仮固定した例が示されている。該図において、(3)は電線で、導体(4)にフッ素樹脂層(5)を被覆したものである。電線(3)の2本を熱収縮チューブ(1)で仮固定しておくことにより、2本揃え電線(3)の端末加工等がし易くなる。
【0016】
熱収縮チューブ(1)には、その後熱収縮が施される。この熱収縮チューブの引裂状況を示したのが、図2(b)である。熱収縮したチューブの引裂・除去に際しては、熱収縮後のチューブ(1)から筋状体(2)が剥離・除去され、その剥離痕で形成される引裂案内溝(6)の端部を起点として、該チューブは手作業で引裂かれる。そのときの引裂経路は引裂案内溝(6)によって規制され、該溝に沿うことになるので、引裂作業は円滑に進行する。
【0017】
これに対して、従来の引裂作業の状況は、図3に示される。この場合は、熱収縮チューブとして、フッ素樹脂単独からなる均一な膜厚のチューブ(7)が用いられていたので、引裂経路は規制されず、矢印で示すように蛇行して安定しないことが容易に理解される。
【実施例】
【0018】
以下は、図1〜図2に示した態様についての実施例である。
a.電線(3)の製造
直径0.5mmの金属導体(4)の周りに膜厚が0.3mmのFEP層(5)を押出し被覆して、電線(3)を2本用意した。
b.熱収縮チューブの製造
熱収縮チューブ(1)を構成する樹脂として、融点が275℃のFEP(溶融粘度:1.5×10ポイズ)を100重量部、そして、筋状体(2)を構成する非相溶性樹脂として、融点が275℃のFEP(溶融粘度:7×10ポイズ)に青色顔料を添加したものを10重量部、夫々に秤量して、同時押し出し機に投入した。その際、同時押し出し機の金型は図1の横断面形状に対応するものを使用した。また、溶融温度は350℃、および押し出し速度は1.5m/分とした。これにより、外径が3mmで肉厚が0.5mmで且つチューブの外表面に、巾が1.0mm、深さが0.2mm(チューブ肉厚の40%に相当)の筋状体(2)が固着されたチューブを得た。このチューブを外径5.0mmになるように拡径させて熱収縮チューブ(1)を完成させた。この熱収縮チューブの長手方向の熱収縮率は約5%、径方向の熱収縮率は約52%であった。
c. 2本の電線の仮固定
a項に記載した2本の電線(3)を平行に並べ、b項に記載した熱収縮チューブ(1)を被せ、150℃、10分で該チューブに収縮処理を施して電線2本を仮固定させた。次いで、この電線(3)2本の先端にコネクタを取り付ける加工を施した。この際、収縮チューブで電線(3)2本を仮固定させていた為、2本がずれることなく容易に先端加工を施すことができた。最後に、熱収縮したチューブ(1)から、図1に向かって上側の筋状体(2)を剥離・除去した後、この剥離開始点を起点にして、該チューブ(1)を手で長手方向に引裂いてこれを除去した。このとき、引裂作業は筋状体(2)の剥離痕である引裂案内溝(6)に沿って最後まで円滑に進行した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の熱収縮チューブは、そのチューブが被覆されて内部の本体素材に求心的押圧力が必要とされる、いかなる分野においても適用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る熱収縮チューブの好ましい一例を示す横断面図。
【図2】(a)は本発明の熱収縮チューブを電線2本に被せて仮固定した例を示す斜視図、(b)は図2(a)の熱収縮チューブを熱収縮処理した後、剥離・除去する状況を示す斜視図。
【図3】従来の熱収縮チューブの適用例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0021】
1 熱収縮チューブ
2 筋状体
3 電線
4 導体
5 フッ素樹脂層
6 筋状体の剥離痕(引裂案内溝)
7 従来の熱収縮チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる熱収縮チューブの外表面で且つその長手方向に沿って、筋状体が剥離自在に固着されていることを特徴とする、改善された引裂性を有する熱収縮チューブ。
【請求項2】
該筋状体が、該フッ素樹脂に対して非相溶性を有する樹脂からなる、請求項1に記載の熱収縮チューブ。
【請求項3】
該筋状体が、該チューブとは異なる色相を呈する、請求項1または2に記載の熱収縮チューブ。
【請求項4】
その長手方向の熱収縮率が−20%〜+20%の範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【請求項5】
その径方向の熱収縮率が20%〜70%の範囲にある、請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮チューブ。







































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−179889(P2007−179889A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377478(P2005−377478)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】