説明

改善された性質を有する再構成サーファクタント

本発明は、脂質担体、ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチドアナログ、およびネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチドアナログを含む再構成サーファクタントに関するものである。本発明は、その薬学的組成物に、ならびにRDSおよび他の呼吸器障害の処置または予防のためのその使用にもまた関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質担体、およびネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cの特定のポリペプチドアナログとネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bの特定のポリペプチドアナログの組み合わせを含む再構成サーファクタントに関する。
【0002】
本発明は、その薬学的組成物、ならびにRDSおよび他の呼吸障害の処置または予防のためのその使用にもまた関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒトの肺は、血液と肺の気腔の間でガスが交換される、肺胞と呼ばれる多数の小さな気胞から構成される。健康な個体では、この交換は、呼気終末で肺が虚脱するのを防止するタンパク質含有サーファクタント複合体の存在によって仲介される。
【0004】
肺サーファクタント複合体は、主に脂質から構成され、少量の各種タンパク質を含有する。この複合体が十分なレベルで存在しない結果として、肺の機能不全が生じる。この症候群は呼吸窮迫症候群(RDS)と呼ばれ、通常、早期産児を冒す。
【0005】
該症候群は、動物の肺から抽出された改変天然サーファクタント調製物で効果的に処置される。
【0006】
市販の改変サーファクタント調製物は、例えば、ブタ肺由来のCurosurf、抽出された形態のウシ肺洗浄液であるInfasurf、および化学的に改変された天然ウシ肺抽出物であるSurvantaである。
【0007】
これらのサーファクタント調製物の主成分は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)として一般に知られている1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、ホスファチジルグリセロール(PG)ならびに疎水性のサーファクタントタンパク質BおよびC(SP−BおよびSP−C)である。
【0008】
生産工程および滅菌工程の複雑さ、ならびに免疫反応を誘導する可能性などの、動物組織からサーファクタントを調製する欠点が原因で、改変天然サーファクタントの組成を模倣する合成サーファクタントが開発された。該合成サーファクタントは再構成サーファクタントとして知られている。
【0009】
しかし、ネイティブな疎水性タンパク質が合成には大きすぎ、構造的に複雑で、純粋な形態では不安定なことから、臨床的に活性な再構成サーファクタントの開発は複雑であることが判明した。
【0010】
該ネイティブな疎水性タンパク質に取って代わるために、その配列に部分的に対応するいくつかの合成ポリペプチドおよびそれらのアナログが従来技術に述べられており、例えば国際公開公報第89/06657号、第92/22315号、第98/49191号、第95/32992号、米国特許第6,660,833号、EP413,957および国際公開公報第91/18015号に開示されている。
【0011】
国際公開公報第00/47623号は、i)5および6位のシステイン残基がSer残基により置き換えられ;ii)SP−Cの「中心領域」のVal残基が、Leu、Ileおよびノルロイシン(nL)からなる群より選択される他の中性疎水性残基に置換され;iii)SP−Cの「中心領域」に存在するいくつかの中性アミノ酸が、Lys、Try、Phe、Tyr、およびオルニチンからなる群より選択されるかさ高い残基または極性残基により置き換えられている、ネイティブなタンパク質SP−Cのアナログである合成ポリペプチドを開示した。
【0012】
該人工ポリペプチドは、ネイティブなタンパク質であるSP−Cのようにフォールディングすることができることから、サーファクタントの脂質と適切に相互作用し、自己オリゴマー化を生じないことを特徴とする。
【0013】
国際公開公報第00/76535号は、一般にSP−Bの少なくとも一つの改変をSP−Cタンパク質の少なくとも一つの改変と共に含む肺サーファクタント調製物に関する。
【0014】
Waring AJら(2006年4月29日〜5月2日にサンフランシスコで開催されたPaediatric Academy Societyの年次総会で発表された要旨)では、SP−C模倣体であるSP−Cff(4および5位のシステインの代わりにフェニルアラニンを有する合成34残基性SP−C)およびSP−B模倣体であるMini−Bから構成される合成サーファクタントの活性を検討するための研究が行われた。
【0015】
しかし、入手できる文献によると、動物実験において再構成サーファクタントを用いた処置は、呼気終末に不十分な肺気量および肺胞開存度を生じることから、改変天然サーファクタントで達成されるものに匹敵するin vivo活性を達成するためには、呼気終末陽圧換気(PEEP)が必要である(Johansson J et al J Appl Physiol 2003, 95, 2055-2063; Davis AJ et al Am J Respir Crit Care Med 1998; 157, 553-559)。入手できる再構成サーファクタント調製物は、実際に呼気終末に安定なリン脂質フィルムを肺胞に形成することができない。
【0016】
前述の文書の全ては、呼気終末での肺胞開存の問題およびその開示された調製物の効果について指摘していない。
【0017】
したがって、肺コンプライアンスに関して改善された性質を有する再構成サーファクタントの、まだ満たされていない必要性がある。
【0018】
特に、肺胞の安定性を保証する故に、PEEPを用いた換気の必要なしに呼気終末に肺胞開存を維持することができる再構成サーファクタント調製物の必要性がある。
【0019】
肺コンプライアンスに関して改善された性質を有し、特に呼気終末にPEEPを用いた換気の必要なしに肺胞開存を効果的に維持する能力を有する再構成サーファクタント調製物を提供するために、ネイティブなSP−Cタンパク質の特定のアナログおよび好ましくは国際公開公報第00/47623号のポリペプチドを、ネイティブなタンパク質SP−Bの特定のアナログと好都合に組み合わせることができることが今回見出されたが、これが本発明の目的である。
【0020】
特に、未熟新生児がPEEPの適用なしに外因性サーファクタント調製物を用いて処置されたRDSのモデルにおいて、タンパク質SP−CおよびSP−Bの該特定のアナログの組み合わせが肺気量(呼気終末の肺胞開存の指標)に作用することが見出された。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、脂質担体、およびネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cの特定のポリペプチドアナログとネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bの特定のポリペプチドアナログの組み合わせを含む再構成サーファクタントに関する。
【0022】
特に、本発明は、以下を含む再構成サーファクタントに関するものである:
a)脂質担体;
b)一般式(I)
【0023】
【化1】

【0024】
[式中、
Xは、I、L、およびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Bは、K、R、H、W、F、Y、およびOrnからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Sは、エステル結合により側鎖に結合した、12〜22個の炭素原子、好ましくは16個の炭素原子を含むアシル基で場合により置換されていてもよく;
Ωは、Mまたは硫黄原子が酸化されたM、I、L1およびnLからなる群より選択されるアミノ酸であり;
aは、1〜8に含まれる値を有する整数であり;
bは、1〜19に含まれる値を有する整数であり;
cは、3から8より独立して選択される値を有する整数であり;
e、f、gおよびpは、0または1の値を有する整数であり;
nは、0〜3に含まれる値を有する整数であり;そして
aBXb(BXcnは、最大22個のアミノ酸を有する配列であることを条件とする]
により表される配列を有する、少なくとも20個で最大40個のアミノ酸残基のポリペプチド;
c)一般式(II)
【0025】
【化2】

【0026】
[式中、
Δは、WおよびLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Ωは、M、I、LおよびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Φは、RおよびT、好ましくはRからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;そして
fは、0または1の値を有する整数である]
により表されるポリペプチド。
【0027】
本発明には、該ポリペプチドの薬学的に許容され得る塩、ならびに例えばアセチル化およびアミド化により遮断されたそれらのNおよび/またはC末端誘導体もまた含まれる。
【0028】
本発明は、その薬学的組成物ならびに呼吸窮迫症候群(RDS)および他の呼吸障害の予防および/または処置のためのそれらの使用にもまた関する。
【0029】
本発明は、さらに、呼気終末での肺胞開存を改善するための再構成サーファクタントを調製するために、一般式(II)のポリペプチドを使用することに関する。
【0030】
最終的に、本発明は、呼吸窮迫症候群(RDS)および他の呼吸障害の予防および/または処置のための方法を提供し、該方法は、そのような処置を必要とする患者に、脂質担体、一般式(I)のポリペプチド、および一般式(II)のポリペプチドを含む再構成サーファクタントの治療有効量を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ヒトタンパク質SP−Cの配列を示す図である。ネイティブなSP−CのCys残基はパルミトイル化されている。
【図2】ヒトタンパク質SP−Bの配列を示す図である。
【図3】肺気量(ml/kg)で表した結果を示す図である。
【図4】一回換気量(ml/kg)を時間/圧力の関数として表した結果を示す図である。
【0032】
定義
外因性サーファクタント調製物を用いたin vivo処置後の呼吸機能決定は、以下の二つのパラメータを測定することによって行う:
i)肺コンプライアンスの指標である一回換気量、および
ii)呼気終末での肺胞気のエクスパンションまたは開存の指標である故に、呼気終末に肺胞に安定なリン脂質フィルムを形成する能力の指標である肺気量。
【0033】
本出願において、「再構成サーファクタント」という用語は、リコンビナント技法または合成法によって作られた、サーファクタントタンパク質のポリペプチドアナログが添加された脂質担体を意味する。
【0034】
「脂質担体」という用語は、リン脂質と、所望によりさらなる脂質成分、例えばトリアシルグリセロールなどの中性脂質、遊離脂肪酸および/またはコレステロールなどの中性脂質の混合物を意味する。
【0035】
「ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチドアナログ」という用語には、脂質担体との混合物中のポリペプチドが肺サーファクタント活性を示す限りにおいて、ネイティブなタンパク質に比べて一つまたは複数のアミノ酸が欠如しているか、または他のアミノ酸により置き換えられたアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。
【0036】
「ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチドアナログ」という用語には、脂質担体と混合されたポリペプチドが肺サーファクタント活性を示す限りにおいて、ネイティブなタンパク質に比べて一つまたは複数のアミノ酸が欠如しているアミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。
【0037】
「mini−B」という用語は、構造が、California NanoSystems Instituteのウェブサイトから引用された説明に初めて一般に開示されたネイティブなSP−Bタンパク質のN末端残基8〜25およびC末端残基63〜78に基づく残基34個のポリペプチドを意味する。その完全配列は、その後RCSB Protein Data Bankに開示された。
【0038】
Waring AJ et al J Peptide Res 2005, 66, 364-374に、その構造および活性に関するさらに多くの情報が報告された。
【0039】
「変異体」という用語は、脂質担体との混合物中のポリペプチドがMini−Bの活性を保持する限りにおいて、一つまたは複数のアミノ酸が他のアミノ酸により置き換えられたアミノ酸配列を有するMini−Bペプチドのポリペプチドアナログを意味する。
【0040】
アミノ酸配列は、左端に遊離アミノ基を有するアミノ酸(アミノ末端)および右端に遊離カルボキシル基を有するアミノ酸(カルボキシ末端)と共に三文字コードにしたがって示す。
【0041】
「相乗的」という用語は、二つのポリペプチドの有効性が、所与のアッセイにおけるそれらの個別の有効性をそれぞれ合計することによって予測されるものよりも大きいことを意味する。
【0042】
本明細書において確認された全てのアミノ酸残基は、自然のL−配置にあり、本明細書において確認された配列は、以下の対応表に示されるアミノ酸残基についての標準的な略語にしたがって記録する。
【0043】
【表1】

【0044】
発明の詳細な説明
本発明は、脂質担体、ならびにネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cの特定のポリペプチドアナログと、Mini−Bペプチドおよびその変異体を含めた、ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bの特定のポリペプチドアナログの組み合わせを含む再構成サーファクタントに関する。
【0045】
本発明者らは、未熟新生児がPEEPを適用されずに外因性サーファクタント調製物で処置されたRDSのモデルにおいて、一般式(I)のポリペプチドと一般式(II)のポリペプチドの組み合わせが肺コンプライアンスにポジティブに作用することを実際に見出した。
【0046】
特に、二つのポリペプチドの組み合わせは、呼気終末での肺胞開存の指標である肺気量に相乗的に作用することが見出された。
【0047】
該結果は、本発明の再構成サーファクタントが、タンパク質SP−Cのアナログのみ、またはタンパク質SP−Bのアナログのみを含む再構成物よりも良好に呼気終末での肺胞のリン脂質フィルムを安定化することができることを実証している。
【0048】
さらに、請求された再構成サーファクタント調製物は、一回換気量により表現される呼吸機能を、改変天然サーファクタントの投与後に達成されるものに匹敵するか、またはそれよりもやや良好でさえある程度まで改善することが判明した。
【0049】
好都合には、ネイティブなタンパク質SP−Cのアナログは、一般式(I)
【0050】
【化3】

【0051】
[式中、
Xは、I、L、およびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Bは、K、R、H、W、F、Y、およびOrnからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Sは、エステル結合により側鎖に結合した、12〜22個の炭素原子、好ましくは16個の炭素原子を有するアシル基により置換されていてもよく;
Ωは、Mまたは硫黄原子が酸化されたそれ、I、L、およびnLからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;
aは、1〜8に含まれる値を有する整数であり;
bは、1〜19に含まれる値を有する整数であり;
cは、3〜8より独立して選択される整数であり;
e、f、gおよびpは、0または1の値を有する整数であり;
nは、0〜3に含まれる値を有する整数であり;そして
aBXb(BXcnは最大22個のアミノ酸を有する配列であって、好ましくは10〜22個のアミノ酸を含む配列であることを条件とする]
により表される配列を有する、少なくとも20個で最大40個のアミノ酸残基のポリペプチドである。
【0052】
好ましくは、一般式(I)のポリペプチドは、少なくとも30個で最大35個、さらに好ましくは最大33個のアミノ酸からなる。
【0053】
特定の態様では、一般式(I)のポリペプチドは、30または33または35個のアミノ酸からなる。
【0054】
好ましくは、SP−Cタンパク質のポリペプチドアナログは、eおよびnが0であり、gが1である一般式(Ia)
【0055】
【化4】

【0056】
[式中、
X、BおよびΩは、上記の通りであり;
aは1〜8、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1であり;
bは1〜19、好ましくは5〜15、さらに好ましくは14であり;
fおよびpは0または1である]
により表される。
【0057】
さらに好ましくは、SP−Cタンパク質のポリペプチドアナログは、fが1である一般式(Ib)
【0058】
【化5】

【0059】
[式中、
X、B、Ω、aおよびbは、上に定義する通りであり;
pは0または1である]
により表される。
【0060】
なおさらに好ましくは、P−Cタンパク質のポリペプチドアナログは、一般式(Ic)
【0061】
【化6】

【0062】
[式中、
Ωは上に定義する通りであり;
pは0または1である]
により表される。
【0063】
式(Ic)のポリペプチドの例を下記:
【0064】
【化7】

【0065】
に示す。
【0066】
ポリペプチド(Id)は、従来技術においてSP−C33ともまた呼ばれた。
【0067】
最も好ましくは、SP−Cアナログは、式(Ie)、(If)、(Ig)および(Ih)を有するポリペプチドの群より選択されるポリペプチドである。
【0068】
本発明の好ましい態様では、一般式(I)のポリペプチドは、以後SP−C33(Leu)31と呼ばれるポリペプチド(If)である。
【0069】
好都合には、ネイティブなタンパク質SP−Bのアナログは、ネイティブなSP−Bタンパク質またはその変異体のN末端残基8〜25およびC末端部63〜78に対応する二つの部分(Mini−Bペプチドと呼ぶ)からなる。
【0070】
さらに好都合には、ネイティブなタンパク質SP−Bのアナログは、以下の一般式(II)
【0071】
【化8】

【0072】
[式中、
Δは、WおよびLからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;
Ωは、M、I、L、およびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Φは、RおよびT、好ましくはRからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;そして
fは、0または1の値を有する整数である]
により表されるポリペプチドである。
【0073】
本発明の特定の態様では、SP−Bアナログは、式(IIa)
【0074】
【化9】

【0075】
により表されるポリペプチドである。
【0076】
本発明の別の態様では、SP−Bアナログは、以下の式
【0077】
【化10】

【0078】
を有するものより選択される。
【0079】
好ましい態様では、ポリペプチド(IIa)、(IIb)、(IIc)および(IId)は、分子間ジスルフィド結合が1および33位の二つのCys残基の間ならびに/または4および27位の二つのCys残基の間の、ジスルフィド結合した分子の形態である。
【0080】
ジスルフィド結合したポリペプチド(IIa)は、当技術分野において酸化Mini−B(ox Mini−B)と呼ばれてきた。
【0081】
ポリペプチド(IIc)は、以下にMini−B(Lleu)と呼ばれ、そのジスルフィド結合形態はox Mini−B(Leu)と呼ばれる。
【0082】
一般式(I)および(II)のポリペプチドは、当業者に周知の合成法またはリコンビナント技法により調製してもよい。
【0083】
利用できる多数の技法の優れた概要は、固相ペプチド合成に関してはJ. M. Steward and J. D. Young, "Solid Phase Peptide Synthesis", W.H. Freeman Co., San Francisco, 1969およびJ. Meienhofer, Hormonal Proteins and Peptides", Vol.2, p. 46, Academic Press (New York), 1983に、古典的液相合成に関してはE. Schroder and K. Kubke, "The Peptides", Vol.1, Academic Press (New York), 1965に見出すことができる。本発明のポリペプチドは、Merrifield(J. Am. Chem. Soc. 85: 2149-2154 (1963))により最初に記載された固相合成技法を使用して調製することもまたできる。他のポリペプチド合成技法は、例えばM. Bodanszky et al., Peptide Synthesis, John Wiley & Sons, 2d Ed., (1976)および当業者に公知の他の参考研究に見出すことができる。
【0084】
このような合成に使用するための適切な保護基は、上記文書およびJ.F.W. McOmie, Protective Groups in Organic Chemistry, Plenum Press, New York, NY (1973)に見出されよう。
【0085】
例えば、一般式(I)のポリペプチドは、国際公開公報第00/47623号に開示された方法により調製してもよいが、一般式(II)のポリペプチドは、Waring AJ et al J Peptide Res 2005, 66, 364-374に報告された方法により調製してもよい。
【0086】
本発明には、一般式(I)および(II)のポリペプチドの薬学的に許容される塩ならびに例えばアセチル化およびアミド化により遮断されたそれらのNおよび/またはC末端誘導体もまた含まれる。
【0087】
薬学的に許容され得る塩には、例えば塩酸、酢酸、およびトリフルオロ酢酸の塩が含まれる。
【0088】
本発明の再構成サーファクタントは、一般式(I)および(II)のポリペプチドならびに脂質の溶液または懸濁物を混合し、続いてその混合物を乾燥することによって調製してもよいし、別のやり方では、凍結乾燥または噴霧乾燥によって調製してもよい。
【0089】
好ましくは、一般式(I)のポリペプチドおよび一般式(II)のポリペプチドは、本発明の再構成サーファクタント中に一定量で、一定の組み合わせとして定量的な比で存在する。
【0090】
再構成サーファクタントに対する一般式(I)および(II)のポリペプチドの比率は変動しうる。好都合には、各ポリペプチドは、サーファクタントの重量に対して0.5〜10%(w/w)、好ましくは1〜5%、最も好ましくは1〜3%に含まれる量で存在しうる。
【0091】
好ましい態様では、再構成サーファクタントは、ポリペプチド(If)を1〜3重量%および好ましくは酸化された形態のポリペプチド(IIa)を1〜3重量%含む。
【0092】
別の好ましい態様では、再構成サーファクタントは、ポリペプチド(If)を1〜3重量%および好ましくは酸化された形態のポリペプチド(IIc)を1〜3重量%含む。
【0093】
好都合には、脂質担体は、天然肺サーファクタント調製物に含有されるリン脂質、例えばジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびパルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)などのホスファチジルコリン(PC)、ならびにパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)およびジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)などのホスファチジルグリセロール(PG)を含む。
【0094】
好都合に使用することのできる他のリン脂質は、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリン(SM)である。
【0095】
特定の態様では、脂質担体は、さらなる成分、例えばトリアシルグリセロールなどの中性脂質、遊離脂肪酸および/またはコレステロールを含んでもよい。
【0096】
好都合には、本発明に記載の再構成サーファクタントは、脂質担体を90〜99重量%、好ましくは92〜98%、さらに好ましくは94〜96%、および両者のペプチドの総量を1〜10重量%、好ましくは2〜8%、さらに好ましくは4〜6%含む。
【0097】
本発明の態様の一つでは、再構成サーファクタントは、脂質担体を96重量%、一般式(I)のポリペプチドを2重量%および一般式(II)のポリペプチドを2重量%含む。
【0098】
特定の態様では、脂質担体は、リン脂質のみから、さらに好ましくはDPPCとパルミトイルオレイルリン脂質の、95:5〜50:50、好ましくは80:20〜60:40の範囲の重量比の混合物のみからなり、このパルミトイルオレイルリン脂質は、POPGまたはそれとPOPCの混合物より選択される。
【0099】
DPPCとPOPGの重量比は、好ましくは75:25〜65:35の範囲であり、さらに好ましくは68:31である。DPPC:POPG:POPCの混合物の場合、リン脂質は好ましくは60:20:20または68:15:16の重量比で使用される。
【0100】
別の態様では、脂質担体は、DPPC、DPPGおよびコレステロールからなってもよい。
【0101】
本発明の好ましい態様では、再構成サーファクタントは、一般式(Ia)のポリペプチドの一つを1〜5重量%、一般式(II)のポリペプチドの一つを1〜5重量%、ならびに重量比68:31のDPPCとPOPGの混合物を含む。
【0102】
本発明の再構成サーファクタントの投与は、好ましくは気管支内設置(注入またはボーラス)または噴霧により、当業者に公知の方法で実施される。
【0103】
本発明は、本発明の再構成サーファクタントを含む薬学的組成物にもまた関するものである。該組成物は、好都合には、溶液、分散物、懸濁物または乾燥粉末の形態で投与される。好ましくは、該組成物は、適切な溶媒または再懸濁媒に溶解または懸濁された再構成サーファクタントを含む。
【0104】
好ましくは、該薬学的組成物は、1回使用型ガラスバイアルに入れた緩衝生理食塩水中の懸濁液として供給される。好都合には、再構成サーファクタントの濃度(リン脂質の含量として表す)は、約2〜約160mg/ml、好ましくは10〜100mg/ml、さらに好ましくは20〜80mg/mlのサーファクタントの範囲である。
【0105】
該組成物は、カルシウム塩、マグネシウム塩および/またはナトリウム塩、好ましくは塩化カルシウムなどの電解質をさらに含んでもよい。
【0106】
本発明による薬学的組成物は、未熟児における呼吸窮迫症候群(RDS)、または成人RDS(ARDS)、胎便吸引症候群(MAS)、および気管支肺異形成症(BPD)を含めたサーファクタントの欠乏もしくは機能不全に関係する他の疾患の予防および/または処置に適する。
【0107】
これらは、肺炎、気管支炎、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、および嚢胞性線維症などの他の呼吸障害の予防および/または処置に、ならびに漿液性中耳炎(膠耳)の処置にもまた有用でありうる。
【0108】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に例示する。
【0109】
実施例
実施例1 − ポリペプチドSP−C33(Leu)31およびSP−C33の合成および精製
ポリペプチドSP−C33(Leu)31は、Fmoc化学反応および連続するTFA切断に基づく標準的SPPS(固相ペプチド合成)法により調製した。
【0110】
合計186.0gの粗SP−C33(Leu)31を得た。
【0111】
二相溶媒系としてH2O/n−BuOH/AcOEt/AcOH(4:1:4:1)を使用してこの材料を向流分配(CCD)に供することによって、このポリペプチドを精製した。
【0112】
この精製により、78.9gのSP−C33(Leu)31を純度>60%で回収した。
【0113】
最終精製は、50×300mmのスチールカラム中に固定相としてPLRP−Sを使用し、75分間に25%Bから100%Bに直線勾配をかけた調製用HPLCにより実施した。移動相は、緩衝液A=ACN/H2O(1:4)中の0.1%TFAおよび緩衝液B=IPA中の0.1%TFAからなった。
【0114】
精製ポリペプチドを90%AcOHに溶解し、Dowexイオン交換樹脂(酢酸塩型)を充填したカラムを通過させ、凍結乾燥後に最終産物5.8g(=5.4%)を酢酸塩として供給した。
【0115】
ポリペプチドSP−C33を同様に調製した。
【0116】
凡例
ACN アセトニトリル
AcOEt 酢酸エチル
AcOH 酢酸
Boc t−ブチルオキシカルボニル
n−BuOH n−ブタノール
Fmoc 9−フルオレニルメチルオキシカルボニル
IPA イソプロピルアルコール
TFA トリフルオロ酢酸
【0117】
実施例2 − ポリペプチドox Mini−B(Leu)およびox−Mini−Bの合成および精製
ポリペプチドox−Mini−B(Leu)は、Fmoc化学反応および連続するTFA切断に基づく標準的SPPS(固相ペプチド合成)法により調製した。
【0118】
粗ポリペプチドは、TFA系を使用した調製用HPLCで精製し、凍結乾燥により単離した。
【0119】
精製ペプチドの空気酸化により、Cys1とCys33の間にジスルフィド結合を有する単環性配列を回収した。この単環性ペプチドはTFA系を使用した調製用HPLCで精製し、凍結乾燥により単離した。
【0120】
Cys4とCys27の間の第2のジスルフィド架橋は、ヨウ素を使用して形成させた。
【0121】
酸化後に、産物はTFA系を使用した調製用HPLCで精製し、凍結乾燥により単離した。最終化合物1.12g(=1.7%)を純度>89%で単離した。
【0122】
ポリペプチドox Mini−Bは同様にして調製した。
【0123】
実施例3 − ox Mini−BおよびSP−C33に基づく再構成サーファクタントを用いたin vivo実験
在胎27日での子宮摘出により得た未熟新生ウサギでサーファクタント調製物をアッセイした。呼気終末陽圧(PEEP)を適用せずに実験を行った。
【0124】
SP−Cアナログとして、実施例1に準じて調製したSP−C33と呼ばれるポリペプチドを使用した。
【0125】
タンパク質SP−Bのアナログとして、実施例2に準じて調製した酸化Mini−B(ox Mini−B)を使用した。
【0126】
動物は、誕生時に、脂質担体としてリン脂質混合物DPPC:POPGを68:31w/wの比で含有する再構成サーファクタント調製物で処置した。リン脂質は、2または4%w/wのSPC−33、2%w/wのox Mini−Bまたは2%w/wのSPC−33および2%w/wのox Mini−Bと混合した。
【0127】
同用量のCurosurf(登録商標)を投与されている動物を陽性対照として、無処置同腹仔を陰性対照として供した。
【0128】
全てのサーファクタント調製物を濃度80mg/mlおよび基準用量2.5ml/kgで投与した。
【0129】
未熟新生ウサギを標準化された順序のピーク吸気圧で並行して換気した。肺を拡張させるために、圧は最初35cm H2Oに1分間設定した。このリクルートメント方法の後に、圧を25cm H2Oに15分間、さらに20、そして15cm H2Oに下げた。最後に、圧を再び25cm H2Oに5分間上げ、その後、肺を窒素で追加的に5分間換気し、次に気量測定のために切除した。
【0130】
肺気量および一回換気量の両方をml/kgとして表して測定し、中央値として示した結果をそれぞれ図3および4に記録する。
【0131】
図3より、2%w/wのox Mini−Bを含有する再構成サーファクタント調製物で処置された動物は、2%w/wのSP−C33を投与された動物よりも低い肺気量を有した(約2ml/kg対約4ml/kg)と認めることができる。
【0132】
SP−C33サーファクタントへの2%w/wのox Mini−Bの添加は、いずれかのペプチド単独よりも有意に大きな肺気量の増加を生じた(8ml/kg対約6ml/kg)。
【0133】
図4に示すように、一回換気量に関して同様の傾向が観察され、ペプチドを組み合わせて投与した後に、Curosurf(登録商標)の投与後に達成されたものに匹敵するか、またはそれよりもわずかに良好でさえある改善が観察された。
【0134】
SP−C33含量を2から4%w/wに増加させても肺気量は増加しなかったこともまた見出されたが、これは、呼気終末での肺胞のリン脂質フィルムの安定化効果がox Mini−Bの添加に起因することを示している。
【0135】
該結果は、本発明の再構成サーファクタントが、タンパク質SP−Cのアナログまたはタンパク質SP−Bのアナログのみを含む再構成物よりも良好に呼気終末での肺胞のリン脂質フィルムを安定化することができることを実証している。
【0136】
さらに、請求された再構成サーファクタント調製物は、一回換気量により表される呼吸機能を、改変天然サーファクタントの投与後に達成されたものに匹敵するか、またはそれよりもやや良好でさえある程度まで改善することが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質担体、およびネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチドアナログとネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチドアナログの組み合わせを含む再構成サーファクタントであって、該ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cの該ポリペプチドアナログが、一般式(I)
【化11】


[式中、
Xは、I、L、およびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Bは、K、W、F、Y、およびOrnからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Sは、エステル結合により側鎖に結合した、12〜22個の炭素原子、好ましくは16個の炭素原子を含むアシル基により場合により置換されていてもよく;
Ωは、Mまたは硫黄原子が酸化されたそれ、I、L、およびnLからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;
aは、1〜8に含まれる値を有する整数であり;
bは、1〜19に含まれる値を有する整数であり;
cは、3〜8より独立して選択される値を有する整数であり;
e、f、gおよびpは、0または1の値を有する整数であり;
nは、0〜3に含まれる値を有する整数であり;
aBXb(BXcnは、最大22個のアミノ酸を有する配列であることを条件とする]
により表される配列を有する、少なくとも20個で最大40個のアミノ酸残基のポリペプチドであり、
該ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bの該ポリペプチドアナログが、一般式(II)
【化12】


[式中、
Δは、WおよびLからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;
Ωは、M、I、L、およびnLからなる群より独立して選択されるアミノ酸残基であり;
Φは、RおよびTからなる群より選択されるアミノ酸残基であり;そして
fは、0または1の値を有する整数である]
のポリペプチドである、再構成サーファクタント。
【請求項2】
ΦがRである、請求項1記載の再構成サーファクタント。
【請求項3】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのアナログおよびネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのアナログが、一定の組み合わせで存在する、請求項1または2記載の再構成サーファクタント。
【請求項4】
ポリペプチド(II)が、1および33位における二つのCys残基の間ならびに/または4および27位における二つのCys残基の間に分子内ジスルフィド結合を有するジスルフィド結合した分子の形態である、請求項1〜3のいずれか一項記載の再構成サーファクタント組成物。
【請求項5】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのアナログが、一般式(IIa)
【化13】


により表される、請求項1〜3のいずれか一項記載の再構成サーファクタント組成物。
【請求項6】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのアナログが、一般式(Ia)
【化14】


[式中、
X、BおよびΩは、上に定義する通りであり;
aは、1〜8、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1であり;
bは、1〜19、好ましくは5〜15、さらに好ましくは14であり;そして
fおよびpは、0または1である]
により表される、請求項5記載の再構成サーファクタント。
【請求項7】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのアナログが、一般式(Ib)
【化15】


[式中、
X、B、Ω、aおよびbは、上に定義する通りであり;そして
pは、0または1である]
により表される、請求項6記載の再構成サーファクタント組成物。
【請求項8】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのアナログが、一般式(Ic)
【化16】


[式中、
Ωは、上に定義する通りであり;そして
pは、0または1である]
により表される、請求項7記載の再構成サーファクタント組成物。
【請求項9】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのアナログが、
【化17】


からなる群より選択される、請求項8記載の再構成サーファクタント組成物。
【請求項10】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチドアナログが、
【化18】


であり、ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチドアナログが、
【化19】


である、請求項1記載の再構成サーファクタント。
【請求項11】
ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Cのポリペプチドアナログが、
【化20】


であり、ネイティブなサーファクタントタンパク質SP−Bのポリペプチドアナログが、
【化21】


である、請求項1記載の再構成サーファクタント。
【請求項12】
脂質担体が、リン脂質混合物を含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の再構成サーファクタント。
【請求項13】
リン脂質混合物が、95:5〜50:50の範囲の重量比のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびパルミトイルオレオイルリン脂質からなり、該パルミトイルオレオイルリン脂質が、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)またはそれとパルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)の混合物より選択される、請求項12記載の再構成サーファクタント。
【請求項14】
リン脂質混合物が、68:31の重量比のDPPCおよびDOPGからなる、請求項13記載の再構成サーファクタント。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項記載の再構成サーファクタントを含む薬学的組成物。
【請求項16】
溶液、分散物、懸濁物または乾燥粉末の形態の、請求項15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
水性懸濁物の形態の、請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
2〜160mg/mlに含まれる濃度の再構成サーファクタントを含む、請求項17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
再構成サーファクタントの濃度が20〜80mg/mlに含まれる、請求項18記載の薬学的組成物。
【請求項20】
未熟児における呼吸窮迫症候群(RDS)の処置もしくは予防のための、またはサーファクタントの欠乏もしくは機能不全に関係する他の疾患の処置もしくは予防への、請求項1〜14のいずれか一項記載の再構成サーファクタントの使用。
【請求項21】
サーファクタントの欠乏または機能不全に関係する疾患に、成人RDS(ARDS)、胎便吸引症候群(MAS)、および気管支肺異形成症(BPD)が含まれる、請求項20記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−505937(P2010−505937A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531932(P2009−531932)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002841
【国際公開番号】WO2008/044109
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(591201985)
【Fターム(参考)】