説明

改善された高温特性を有するドープされたイリジウム

本発明は、イリジウム少なくとも85質量%、モリブデン少なくとも0.005質量%、ハフニウム0.0005〜0.6質量%及び場合によりレニウムからなり、その際にモリブデン及びハフニウムの総和が0.02〜1.2質量%であるイリジウム合金、並びにIrMo−及びIrHf−母合金1個ずつがアーク中で製造され、場合によりReと共に、イリジウム融液中へ浸漬されるイリジウム合金の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン及びハフニウムでのイリジウム又はイリジウム−レニウム合金のドーピングに関する。
【0002】
国際公開(WO)第2004/007782号パンフレットには、イリジウムの多くの使用可能性の1つとして、結晶成長用のるつぼが挙げられている。タングステン及び/又はジルコニウムを含有するイリジウム合金が記載されており、前記合金はさらに付加的にモリブデン及びハフニウムのような別の元素0.01〜0.5質量%を含有し、かつ場合によりルテニウムを0.01〜10質量%含有する。このパンフレットには、これらの付加的な元素の添加が、それ自体単独では有効でないことも記載されている。
【0003】
米国特許(US)第4,444,728号明細書には、レニウム含分1〜15質量%を有するイリジウム−レニウムるつぼが記載されている。
【0004】
米国特許(US)第3,918,965号明細書によれば、イリジウムの機械的性質は、ハフニウム0.65〜0.93質量%でのドーピングによって著しく改善される。
【0005】
本発明の課題は、酸化物融液に対するイリジウムの抜群の耐食性に基づき耐クリープ性及びクリープ強さ(Kriech- und Zeitstandsfestigkeit)を高め、機械的応力下での挙動を改善し、並びに再結晶の際の粗粒形成を減少させることにある。
【0006】
この課題は、請求項1の特徴を用いて解決される。
【0007】
好ましい実施態様及び使用は、その後の請求項に記載されている。
【0008】
1800℃でのクリープ強さを高めるために、モリブデン少なくとも50ppm及びハフニウム少なくとも5ppmでのイリジウム又はイリジウム−レニウム合金のドーピングが行われ、その際にモリブデン及びハフニウムの総和は、200ppm〜1.2質量%、特に0.02〜0.7質量%である。
【0009】
モリブデン及びハフニウムの総和が200ppmを下回る場合に、本発明による効果は失われる。1.2質量%を上回ると加工はより困難になる。本発明による効果を達成するためには、高いモリブデン含量の場合に5ppmのハフニウムで既に十分である。低いモリブデン含量の場合に、合金が加工可能なままであるためには、ハフニウム濃度は、0.6質量%を超えてはならない。
【0010】
それゆえに、モリブデン及びハフニウムでドープされているイリジウム及び場合によりレニウムからなる合金が準備される。
【0011】
製造に制約された通常の不純物は、ここではさらに考慮されていない。その場合に、不純物は、特に別の貴金属又はるつぼ材料であり、この材料はイリジウムの製造の際にこれをさらにまた汚染する。純度99質量%、特に99.9質量%及び特に好ましくは99.99質量%の成分からの合金が適していることが判明している。
【0012】
好ましい実施態様において、モリブデンの含分は、モリブデン0.01〜0.8質量%、特に0.02〜0.3質量%であり;かつハフニウムの含分はハフニウム0.001〜0.4質量%、特に0.01〜0.2質量%である。
【0013】
これにより、再結晶の際の粗粒形成は顕著に遅くなり、かつ耐クリープ性及びクリープ強さは高められる。このドープされたイリジウムは、酸化物融液に対して、機械的応力下での明らかに改善された挙動を示す。
【0014】
同じ成分は、Ir少なくとも85質量%を有し、好ましくはレニウム8質量%まで、特にRe 0.1〜5質量%を有するイリジウム−レニウム合金の場合に、再結晶による粗粒形成の減少及び耐熱性に関してなおより有効な結果を生じさせる。さらに加えて、鋳引けを形成する(Lunkerbildung)傾向はかなり減少される。
【0015】
好ましい別の実施態様において、モリブデン対ハフニウムの質量比は、3:1〜1:1、特に2.5:1〜1.5:1である。
【0016】
本発明による合金の製造のためには、IrMo−及びIrHf−母合金をアーク中で製造することが適していることが判明している。これらの母合金は、目的合金に対比してイリジウム融液中へ導入されるかもしくはイリジウム融液が流し込まれる。さらに加えて、Reは、Ir融液中へ導入されることができる。
【0017】
本発明は、以下に、実施例に基づいて説明される。
1.モリブデン0.05質量%でドープされたイリジウムは、ハフニウム0.001質量%でのドーピングにより、1800℃でのクリープ強さに関して改善される。この改善は、Hf 0.01〜0.1質量%でのドーピングの際に最も明らかに現れる。Hf 0.5質量%を上回るドーピングの場合に、合金の加工はより困難になる。
【0018】
2.ハフニウム0.3質量%でドープされたイリジウムは、モリブデン0.01質量%でのドーピングにより、1800℃でのクリープ強さの増大を示す。クリープ強さは、0.02〜0.3質量%の範囲内のMoでのドーピングにより、さらに明らかに改善される。Mo 0.8質量%を上回るドーピングの場合に、合金の加工はより困難になる。
【0019】
3.前記の例においてイリジウムの代わりに、レニウム0.1質量%、レニウム1質量%及びレニウム8質量%を有するイリジウム−レニウム合金が使用される場合には、耐熱性のさらなる増大が、鋳引けを形成する傾向の減少と同時に確認されることができ、その際にレニウム1質量%で最良の結果が達成された。レニウム8質量%を上回るドーピングの場合に、合金の加工は困難になる。
【実施例】
【0020】
本発明によるイリジウム合金は、Irを有する母合金の再溶融により得ることができる。
【0021】
Ir Hf 1及びIr Mo 1 母合金は、アーク中で製造される。
【0022】
この場合に、溶融プロセスは、W電極を備えたアーク設備中で、
・Ir 99g及びHf 1gをはかり入れる
・水冷されたCuチル鋳型中へ装入する
・真空排気する
・アルゴン300mbarでフラッディングする
・アークを点火し、合金を溶融させる
・均質な合金を得るために、何度も再溶融させる
ことによって行われる。
【0023】
Ir Mo 1については、前記プロセスは対応して繰り返される。
【0024】
合金融液の製造プロセスの際に、場合によりReが添加され、かつ双方の母合金は、合金成分の酸化を防止するために、Ir融液中へ浸漬される。このためには、母合金は、酸化ジルコニウムからなる棒と共にイリジウム融液中へ導かれ、浮上しないように保持される。
【0025】
Ir−Re 1%−Mo 0.04%−Hf 0.02%からなる合金3kgをアルゴン雰囲気下に誘導溶融し、通常の実施に従い20mm×70mm×100mmの寸法を有する銅チル鋳型中へ鋳造した。鋳塊で目立つのは、純イリジウムの場合に通常観察されるよりも少ない鋳引けの形成であった。鋳塊を通常の実施に従い熱間鍛造し、1mmの厚さに熱間圧延し、その際に各々の圧延工程(Walzstich)の前に1400℃に加熱した。熱間成形の際に、この合金は、純イリジウムに類似して良好に挙動した。純イリジウムに類似して、成形後に、20分/1400℃の仕上げ焼きなましを行った。金属組織学的な断面調査は、0.095mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造を示した。
【0026】
この合金化されたIr板から試料を切断し、1400℃で100時間貯蔵した。金属組織学的に断面には、平均粒度0.11mmを有する均一に再結晶された構造が確認された。
【0027】
同じ合金化されたIr板から3個の試料をクリープ試験用に切断した。これらの試料を、1800℃で16.9MPaの荷重下に − 純イリジウムについては10.0時間の耐用寿命が得られた荷重に相当する − Ar/H2 95/5からなる雰囲気下に試験した。個々の試料の破断までの時間は、15.4;16.6もしくは18.8時間であった。
【0028】
同じ合金組成を有する別の鋳塊を溶融し、2.4mmの厚さの板に成形した。この板から、熱間深絞りにより、外径50mm及び高さ60mmを有する円筒形のるつぼを製造した。成形の際に、合金は純Irに類似して挙動した。
【0029】
このるつぼを使用して、チョクラルスキー法により、ネオジム−イットリウム−アルミニウムガーネットの単結晶を成長させた。
【0030】
類似した方法で、Ir−Mo 0.3%−Hf 0.04%の合金の鋳塊を溶融し、鋳造し、1mmの板に成形した。仕上げ焼きなまし後に、この板は、0.3mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造を有していた。
【0031】
1400℃で100時間のさらに付加的な試料焼きなまし後に、0.6mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造が確認された。
【0032】
16.9MPaの荷重下での1800℃でのクリープ試験において、3個の試料について12.0;12.6もしくは13.1時間の耐用寿命が測定された。
【0033】
類似した方法で、Ir−Re 3%−Mo 0.05%−Hf 0.03%の合金の鋳塊を溶融し、鋳造し、1mmの板に成形した。仕上げ焼きなまし後に、この板は、0.075mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造を有していた。
【0034】
1400℃で100時間のさらに付加的な試料焼きなまし後に、0.09mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造が確認された。
【0035】
16.9MPaの荷重下での1800℃でのクリープ試験において、3個の試料について18.1;19.7もしくは20.9時間の耐用寿命が測定された。
【0036】
同じ合金組成を有する別の鋳塊を溶融し、2.4mm厚さの板に成形した。この板から、熱間深絞りにより、外径30mm及び高さ35mmを有する円筒形のるつぼを製造した。成形の際に、純イリジウムの場合よりも、より高い力の適用が必要であった。同様に、るつぼは、純イリジウムの場合に通常であるよりも頻繁に中間焼きなまし(10分/1400℃)にかけなければならなかった。それ以外には成形は問題なく経過した。
【0037】
このるつぼを使用して、チョクラルスキー法により、サファイアからなる単結晶を酸化アルミニウム融液から成長させた。
【0038】
比較例:
純イリジウムからなる1mmの厚さの板からなる試料を、圧延及び20分/1400℃の仕上げ焼きなまし後に、金属組織学的に断面を調べた。試料は、0.7mmの平均粒度を有する均一に再結晶された構造を示した。
【0039】
同じIr板からの別の試料を、仕上げ焼きなまし後に、1400℃でさらに100時間貯蔵し、金属組織学的に調べた。試料は、部分的な粗粒形成を有する再結晶された構造を示した。粒度は、1〜2mmで不均一であった。
【0040】
同じIr板からの10個の試料を、仕上げ焼きなまし後に、Ar/H2 95/5からなる雰囲気下に1800℃での6〜25MPaの異なる荷重をかけ、個々の試料の破断までの時間を決定した。16.9MPaの荷重については、破断までの10.0時間の耐用寿命が決定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム少なくとも85質量%、モリブデン少なくとも0.005質量%、ハフニウム0.0005〜0.6質量%及び場合によりレニウムからなり、その際に、モリブデン及びハフニウムの総和は0.02〜1.2質量%である、イリジウム合金。
【請求項2】
レニウム0〜8質量%、モリブデン0.01〜0.8質量%及びハフニウム0.002〜0.4質量%である、請求項1記載のイリジウム合金。
【請求項3】
レニウム0.1〜5%を有する、請求項1又は2記載のイリジウム合金。
【請求項4】
モリブデン0.02〜0.3質量%を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載のイリジウム合金。
【請求項5】
ハフニウム0.002〜0.2質量%を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載のイリジウム合金。
【請求項6】
IrMo−及びIrHf−母合金1個ずつをアーク中で製造し、かつ場合によりReと共に、イリジウム融液中へ浸漬する、請求項1から5までのいずれか1項記載のイリジウム合金の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載のイリジウム合金からなる、るつぼ、槽(Wanne)又はガラス加工金型。
【請求項8】
高融点酸化物融液、特に酸化アルミニウム又はネオジム−イットリウム−アルミニウムガーネットから結晶を成長させるための請求項7記載のるつぼの使用。
【請求項9】
高融点ガラスを製造するための、請求項7記載のるつぼ、槽又はガラス加工金型の使用。

【公表番号】特表2009−520109(P2009−520109A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520766(P2008−520766)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006684
【国際公開番号】WO2007/006513
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(390023560)ヴェー ツェー ヘレーウス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (42)
【氏名又は名称原語表記】W.C.Heraeus GmbH 
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】