説明

改変型フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ

【課題】公知の血糖センサ用酵素と比較して、さらに実用面において有利な血糖値測定用試薬に使用可能な酵素を提供する。
【解決手段】野生型のフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)よりも熱安定性が向上した改変型FADGDHであって、好ましくは真核生物由来、さらに好ましくは糸状菌由来、さらに好ましくはAspergillus属菌由来のFADGDHであり、特定のアミノ酸配列を有するFADGDHにおいて、少なくとも1つのアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加された一次構造を有する改変型FADGDH。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱安定性が改良された改変型グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)に関し、また、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とする改変型FADGDH依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)、その製造方法及びグルコースセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血糖自己測定は、糖尿病患者が通常の自分の血糖値を把握し治療に生かすために重要である。血糖自己測定に用いられるセンサにはグルコースを基質とする酵素が利用されている。そのような酵素の例としては例えばグルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4)が挙げられる。グルコースオキシダーゼはグルコースに対する特異性が高く、熱安定性に優れているという利点を有していることから血糖センサ用酵素として古くから利用されており、その最初の発表は実に40年ほど前に遡る。グルコースオキシダーゼを利用した血糖センサにおいては、グルコースを酸化してD−グルコノ−δ−ラクトンに変換する過程で生じる電子がメディエーターを介して電極に渡されることで測定がなされるが、グルコースオキシダーゼは反応で生じたプロトンを酸素に渡しやすいため溶存酸素が測定値に影響してしまうという問題があった。
【0003】
このような問題を回避するために、例えばNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47)あるいはピロロキノリンキノン(本書ではピロロキノリンキノンをPQQとも記載する。)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.5.2(旧EC1.1.99.17)が血糖センサ用酵素として用いられている。これらは溶存酸素の影響を受けない点で優位であるが、前者のNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼをNADGDHとも記載する。)は安定性の乏しさや補酵素の添加が必要という煩雑性がある。一方後者のPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではPQQ依存型グルコースデヒドロゲナーゼをPQQGDHとも記載する。)は、基質特異性に乏しく、マルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用するため測定値の正確性を損ねてしまうという欠点がある。
【0004】
また、特許文献1にはアスペルギルス属由来フラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼ(本書ではフラビン結合型グルコースデヒドロゲナーゼをFADGDHとも記載する。)が開示されている。本酵素は、キシロースに対する作用性がグルコースに対する作用性の10%程度あるため、キシロース負荷試験を受けている人の血糖を測定する場合、測定値の正確性を損ねてしまう可能性がある。熱安定性については50℃、15分処理で89%程度の活性残存率であり安定性についても優れているとされている。特許文献2には、その遺伝子配列、アミノ酸配列が報告されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】アスペルオリゼ由来 WT(野生型)、改変型FADGDH精製標品のpH安定性を示す。pH3.5〜6.3:酢酸バッファー、pH6.3〜7.3、PIPESバッファー、pH7.3〜8.8:トリス塩酸バッファー、pH6.0〜7.7:リン酸バッファーをそれぞれ用いた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は組み換えFADGDHよりも熱安定性が向上した改変型FADGDHを含む。
【0028】
配列番号2で示される野生型のアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHは、以下の方法により入手した。
【0029】
本発明者らは、National Center for Biotechnology Information(以下NCBIと表記)のデータベースを利用し、アスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子を推定、取得し、該遺伝子を用い、大腸菌よりアスペルギルス・オリゼ由来のグルコースデヒドロゲナーゼを取得できることを見出した。
【0030】
アスペルギルス・オリゼ由来GDH遺伝子を取得するために、自社保有のアスペルギルス・オリゼTI株の培養上清から、各種クロマトグラフィーを用いてGDHの精製を試みたが、高純度のGDHを得るのは困難であり、遺伝子取得の常法の1つである部分アミノ酸配列を利用したクローニングは断念せざるを得なくなった。しかしながら、我々はPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231株がGDHを生産することを見出し、精製酵素を用いて部分アミノ酸配列の決定に成功した。ついで、決定したアミノ酸配列を元に、PCR法により、P.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH遺伝子を一部取得し、塩基配列を決定した(1356bp)。最終的に、この塩基配列を元に、アスペルギルス・オリゼGDH遺伝子を推定、取得した。その概要を以下の<実験例1><実験例2>に示す。
【0031】
<実験例1>、
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHとも記載)遺伝子の推定]
[1]アスペルギルス・オリゼ由来GDHの取得
アスペルギルス・オリゼTI株のL乾燥菌株をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元した。復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収してフィルター滅菌水に懸濁した。2基の10L容ジャーファーメンター中に生産培地(1%麦芽エキス、1.5%大豆ペプチド、0.1%MgSO4・7水和物、2%グルコース、pH6.5)6Lを調製し、120℃15分オートクレーブ滅菌して放冷した後、上記の菌糸懸濁液を接種し、30℃、通気攪拌培養を行った。培養開始から64時間後に培養を停止し、菌糸体を濾過により除去してGDH活性を含む濾過液を回収した。回収した上清を限外ろ過膜(分子量10,000カット)により低分子物質を除去した。次いで、硫酸アンモニウムを60%飽和度となるように添加、溶解し、硫安分画を行い、遠心機によりGDHを含む上清画分を回収後、Octyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。得られたGDH溶液を、G−25−Sepharoseカラムを用いて脱塩を行った後、60%飽和度の硫酸アンモニウムを添加、溶解し、これをPhenyl−Sepharoseカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム飽和度60%〜0%でグラジエント溶出してGDH活性のある画分を回収した。更にこれを50℃で45分加温した後、遠心分離を行って上清を得た。以上の工程を経て得られた溶液を精製GDH標品(AOGDH)とした。尚、上記精製過程においては、緩衝液として20mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を使用した。さらに、AOGDHの部分アミノ酸配列を決定するため、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの各種手段により精製を試みたものの、部分アミノ酸配列決定に供することのできる高純度の精製標品を得ることはできなかった。
【0032】
[2]ペニシリウム属糸状菌由来GDHの取得
ペニシリウム属糸状菌由来のGDH生産菌としてPenicillium lilacinoechinulatum NBRC6231を用い、上記アスペルギルス・オリゼTI株と同用の手順に従って、培養および精製を行い、SDS電気泳動でほぼ均一な精製標品を取得した。
[cDNAの作製]
Penicillium lilacinoechinulatum NBRC6231について上記方法に従い(ただしジャーファーメンターでの培養時間は24時間)培養を実施し、濾紙濾過により菌糸体を回収した。得られた菌糸は直ちに液体窒素中に入れて凍結させ、クールミル(東洋紡社製)を用いて菌糸を粉砕した。粉砕菌体より直ちにセパゾールRNA I(ナカライテスク社製)を用いて本キットのプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAからはOrigotex−dt30(第一化学薬品社製)をもちいてmRNAを精製し、これをテンプレートにReverTra−Plus−TM(東洋紡社製)を用いてRT−PCRを行った。得られた産物はアガロース電気泳動を行い、鎖長0.5〜4.0kbに相当する部分を切り出した。切り出したゲル断片からMagExtractor−PCR&Gel Clean Up−(東洋紡社製)を用いてcDNAを抽出・精製してcDNAサンプルとした。
[GDH遺伝子部分配列の決定]
上記で精製したNBRC6231由来GDHを0.1%SDS、10%グリセロールを含有するTris−HClバッファー(pH6.8)に溶解し、ここにGlu特異的V8エンドプロテアーゼを終濃度10μg/mlとなるよう添加し37℃16時間インキュベートすることで部分分解を行った。このサンプルをアクリルアミド濃度16%のゲルを用いて電気泳動してペプチドを分離した。このゲル中に存在するペプチド分子を、ブロット用バッファー(1.4%グリシン、0.3%トリス、20%エタノール)を用いてセミドライ法によりPVDF膜に転写した。PVDF膜上に転写したペプチドはCBB染色キット(PIERCE社製GelCode Blue Stain Reagent)を用いて染色し、可視化されたペプチド断片のバンド部分2箇所を切り取ってペプチドシーケンサーにより内部アミノ酸配列の解析を行った。得られたアミノ酸配列はIGGVVDTSLKVYGT(配列番号37)およびWGGGTKQTVRAGKALGGTST(配列番号38)であった。この配列を元にミックス塩基を含有するディジェネレートプライマーを作製し、NBRC6231由来cDNAをテンプレートにPCRを実施したところ増幅産物が得られ、アガロースゲル電気泳動により確認したところ1.4kb程度のシングルバンドであった。このバンドを切り出して東洋紡製MagExtractor−PCR&Gel Clean Up−を用いて抽出・精製した。精製DNA断片はTArget Clone −Plus−(東洋紡社製)によりTAクローニングし、得られたベクターで大腸菌JM109コンピテントセル(東洋紡社製)をヒートショックにより形質転換した。形質転換クローンのうち青白判定でインサート挿入が確認されたコロニーについてMagExtractor−Plasmid−(東洋紡社製)を用いてプラスミドをミニプレップ抽出・精製し、プラスミド配列特異的プライマーを用いてインサートの塩基配列を決定した(1356bp)。
[AOGDH遺伝子の推定]
決定した塩基配列を元に「NCBI BLAST」のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からホモロジー検索を実施し、AOGDH遺伝子を推定した。検索により推定したAOGDHとP.lilacinoechinulatum NBRC6231由来GDH部分配列とのアミノ酸レベルでの相同性は49%であった。
【0033】
<実験例2>
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ遺伝子の取得、大腸菌への導入]
AOGDH遺伝子を取得するために、アスペルギルス・オリゼTI株の菌体よりmRNAを調製し、cDNAを合成した。配列番号39、40に示す2種類のオリゴDNAを合成し、調製したcDNAをテンプレートとしてKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)を用いてAOGDH遺伝子増幅した。DNA断片を制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンatgに合わせNdeI認識配列のatgを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)NdeI−BamHIサイトに挿入し、組換えプラスミドを構築した。この組換えプラスミドを用いて、エシェリヒア・コリーDH5α(東洋紡社製)を形質転換した。形質転換体より、常法に従いプラスミドを抽出し、AOGDH遺伝子の塩基配列の決定を行った(配列番号41)。この結果、cDNA配列から推定されるアミノ酸残基は593アミノ酸(配列番号42)からなることが明らかとなった。データベース予想されるGDHは588アミノ酸でありTI株 GDHとアミノ酸残基数が異なることが示唆された。なお、該遺伝子については、TI株ゲノムDNAを用いて配列を確認し、遺伝子隣接領域についてもRACE法を用いて確認を行った。また、PCR法を用いて、データベースに基づくDNA配列をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。これら形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む液体培地(Terrific broth)200ml中で、30℃、16時間振とう培養を行った。菌体破砕液についてGDH活性を確認したところ、データベースより推定したGDHの配列を有する形質転換体ではGDH活性が確認できなかったが、TI株由来GDHの配列を有する形質転換体については菌体内に培養液1ml当たり8.0UのGDH活性が得られた。尚、実施例1で実施したアスペルギルス・オリゼTI株の培養上清のGDH活性は、0.2U/mlであった。
【0034】
<実験例3>
[アスペルギルス・オリゼ由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下AOGDHと示す)遺伝子の大腸菌への導入]
シグナルペプチド切断後のFAD−GDHをmFAD−GDHとした場合、mFAD−GDHのN末端にMのみ付加してmFAD−GDHのN末端が1アミノ酸分のびた形態となっているものをS2と表現した。
【0035】
S2では、配列番号43のオリゴヌクレオチドをN末端側プライマーとして、配列番号44のプライマーとの組合せでPCRを行い、同様手順にて、S2をコードするDNA配列(配列番号1)をもつ組換えプラスミドを構築し、同様に形質転換体を取得した。
【0036】
なお、この改変FAD−GDHのDNA配列を持つプラスミドは、DNAシーケンシングにて配列上誤りがないことを確かめた。
【0037】
この形質転換体をTB培地にて10L−ジャーファーメンターを用いて1〜2日間液体培養した。各培養フェーズの菌体を集菌した後、超音波破砕してGDH活性を確認した。シグナルペプチドと思われるアミノ酸配列を削除することにより、そのGDH生産性が増大した。
【0038】
配列番号46で示される野生型のアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHは、以下の方法により入手した。
【0039】
<実験例4>
cDNAの調製
アスペルギルス・テレウス NBRC33026(独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入)L乾標本をポテトデキストロース寒天培地(Difco製)に植菌し25℃でインキュベートすることにより復元させた。500ml 坂口フラスコに1.5%大豆ペプチド、2%グルコース、1%マルトエキスpH6.5を50ml調製し、復元させたプレート上の菌糸を寒天ごと回収して植菌し、30℃,24時間振とう培養を行い、菌体を回収した。得られた菌体は直ちに液体窒素中に入れて凍結させ、東洋紡製クールミルを用いて、粉砕した。粉砕菌体より直ちにナカライテスク社製セパゾールRNA Iを用いて本キットのプロトコールに従ってトータルRNAを抽出し、これをテンプレートに東洋紡製ReverTra−Plus−TMを用いてRT−PCRを行いcDNAを調製した。
【0040】
<実験例5>
GDH遺伝子の配列決定
我々はAspergillus oryzae、Penicillium lilacinoechinulatum 、およびPenicillium italicum由来 GDH遺伝子のクローニングに成功し、その塩基配列情報を取得している。アスペルギルス・テレウスよりGDH遺伝子をクローニングするために、上記3種のGDHの推定アミノ酸配列をアラインさせ、相同性の高い領域の配列をもとに、ディジェネレートプライマーを作製した。<実験例4>で作製したゲノムDNAをテンプレートにPCRを実施したところ、増幅産物が認められた。増幅産物をサブクローニングし、塩基配列を決定した。決定したGDH部分配列を元に、該配列部分の5’側および3’側隣接領域をRACE法により決定した。決定した遺伝子領域の開始コドンから終始コドンまでの配列を配列番号45に、また、本配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号46に示す。なお、特許文献1に示されているアスペルギルス・テレウス FERM BP−08578由来補酵素結合型グルコース脱水素酵素とは、アミノ酸レベルで約98.5%と非常に高い相同性をもち、本質的に同等であると考えられる。「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮しうるものである)における、オーバーラップする全アミノ酸に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。このようなアルゴリズムの例としては、非特許文献1〜4に記載のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
<実験例6>
GDH組換えプラスミドおよび組換え体の作製
配列番号45のDNA配列がコードするアミノ酸配列について、SignalP 3.0 Serverを利用して、シグナルペプチド予測を行った。この結果を元に、シグナルペプチドを除去すべく、N末端配列25コドンが削除され、開始コドン(ATG)を付加した配列増幅が増幅されるようにPCRプライマーを作製した(配列番号47、48)。これらのプライマーを用いて、NBRC33026 cDNAをテンプレートとしてKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)により遺伝子増幅を実施した。増幅断片は制限酵素NdeI、BamHIで処理し、pBluescript(LacZの翻訳開始コドンATGに合わせNdeI認識配列のATGを合わせる形でNdeIサイトを導入したもの)のNdeI−BamHIサイト間に挿入し、組換えプラスミドを構築した(pAtGDH−s2−7)。この組換えプラスミドを用いて、エシェリヒア・コリーDH5α(東洋紡社製)を形質転換し、アスペルギルス・テレウス由来 GDH 組換え体を取得した。該形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む液体培地(Terrific broth)200ml中で、30℃、16時間振とう培養を行った。菌体破砕液についてGDH活性を確認したところ、菌体内に培養液1ml当たり1.0UのGDH活性が得られた。
【0042】
本発明の改変型FADGDHは、配列番号2または配列番号46のアミノ酸配列におけ
る上記で示されるいずれか位置においてアミノ酸置換を行うことにより得られる。
【0043】
例えば、「配列番号2のアミノ酸配列と同等の位置」とは、配列番号2アミノ酸配列と、配列番号2と相同性(好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)を持つアミノ酸配列を有する他のGDHとを、アラインさせた場合に、そのアラインメントにおける同一の位置を意味する。
【0044】
基質特異性、及び/または、熱安定性の改良された本発明は、配列番号2のアミノ酸配
列において、53位、163位、167位、位及び551位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有する改変型FADGDHが例示される。
配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸置換がG53H、G53N、G53K、G53M、G53T、G53V、G53C、G163R、S167P、V551Cからなる群から選ばれる改変型FADGDH。
【0045】
ここで、「G53H」は、53位のG(Gly)を(His)に置換することを意味する。特に、G53H、G53N、G53K、G53M、G53T、G53V、G53Cのアミノ酸置換は、改変型FADGDHの基質特異性の向上に寄与し、G53H+S167P、G53N+S167P、G53N+G163R+V551Cのアミノ酸置換は、改変型FADGDHの基質特異性、及び/または、安定性の向上に寄与する。
【0046】
熱安定性の改良された本発明は、配列番号2のアミノ酸配列において、120位、160位、162位、163位、164位、165位、166位、167位、169位、170位、171位、172位、180位、329位、331位、369位、471位及び551位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有する改変型FADGDHが例示される。上記のうち、162位、163位、167位、位及び551位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有する改変型FADGDH。
【0047】
配列番号2のアミノ酸配列において、アミノ酸置換がK120E、G160E、G160I、G160P、G160S、G160Q、S162A、S162C、S162D、S162E、S162F、S162H、S162L、S162P、G163D、G163K、G163L、G163R、S164F、S164T、S164Y、L165A、L165I、L165N、L165P、L165V、A166C、A166I、A166K、A166L、A166M、A166P、A166S、167A、S167P、S167R、S167V、N169K、N169P、N169Y、N169W、L170C、L170F、S171I、S171K、S171M、S171Q、S171V、V172A、V172C、V172E、V172I、V172M、V172S、V172W、V172Y、A180G、V329Q、A331C、A331D、A331I、A331K、A331L、A331M、Q331V、K369R、K471R、V551A、V551C、V551T、V551Q、V551S、V551Yからなる群から選ばれる改変型FADGDH。
【0048】
ここで、「K120E」は、120位のK(Lys)をE(Glu)に置換することを意味する。
【0049】
特に、G163K、G163L、G163R、S167P、V551A、V551C、V551Q、V551S、V551Y、(G160I+S167P)、(S162F+S167P)、(S167P+N169Y)、(S167P+L171I)、(S167P+L171K)、(S167P+L171V)、(S167P+V172I)、(S167P+V172W)、(G163K+V551C)(G163R+V551C)のアミノ酸置換は、改変型FADGDHの熱安定性の向上に寄与する。
【0050】
また、配列番号46のアミノ酸配列において、116位、159位、161位、164位、166位、167位、175位、325位、327位、365位及び547位の少なくとも1つの位置においてアミノ酸置換を有する改変型FADGDHが例示される。
【0051】
好ましくは配列番号46のアミノ酸配列において、アミノ酸置換がK116D、K116G、K116L、K116F、K116Q、Q159A、Q159K、Q159N、Q159P、Q159V、Q159L、E161C、N164Y、N164V、N164C、T166F、T166Y、T166W、T167L、T167V、T167S、G175K、S325A、S325G、S325K、S325Q、S325R、S325T、S325V、S325Y、S327E、Q365R、V547S、V547C、V547A、V547Qからなる群から選ばれる改変型FADGDHが例示される。
【0052】
ここで、「K116D」は116位のK (Lys)をD (Asp)に置換することを意味する。
【0053】
配列番号2で示される野生型のアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHを改変した改変型FADGDHの製造法または、配列番号46で示される野生型のアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHを改変した改変型FADGDHの製造法は特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。FADGDHを構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社, EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0054】
作製された改変型FADGDHの遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物に移入され、改変型FADGDHを生産する形質転換体となる。この際のプラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5・、エシェリヒア・コリーW3110、エシェリヒア・コリーC600などが利用できる。宿主微生物に組み換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリーに属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組み換えDNAの移入を行う方法などを採用することができる、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には市販のコンピテントセル(例えばコンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0055】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変型FADGDHを安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は液体培養で行うが、工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用される。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。窒素減としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分怪物、大豆粕アルカリ分解物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培地温度は菌が発育し、改変型FADGDHを生産する範囲で適日変更し得るが、エシェリヒア・コリーの場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養温度は条件によって多少異なるが、改変型FADGDHが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を終了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地pHは菌が発育し改変体タンパク質を生産する範囲で適宜変更しうるが、特に好ましくはpH6.0〜9.0程度である。
【0056】
培養物中の改変型FADGDHを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し利用することもできるが、一般には常法に従って改変型FADGDHが培養液中に存在する場合は、濾過、遠心分離などにより、改変タンパク質の含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。改変タンパク質が菌体内に存在する場合には得られた培養物から濾過または遠心分離などの手法により菌体を採取し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEDTA等のキレート剤及びまたは界面活性剤を添加して改変型FADGDHを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0057】
このようにして得られた改変型FADGDH含有溶液を、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、さらに、硫酸アンモニム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、或いは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加温処理や東電点処理も有効な生成手段である。吸着剤或いはゲル濾過剤などによるゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーにより、精製された改変型FADGDHを得ることができる。
【0058】
グルコースアッセイキット
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキットを特徴とする。本発明のグルコースアッセイキットは、本発明に従う改変型FADGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含む。典型的には、キットは、本発明の改変型FADGDHに加えて、アッセイに必要な緩衝液、メディエーター、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明に従う改変型FADGDHは種々の形態で、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
【0059】
グルコースセンサー
本発明はまた、本発明に従う改変型FADGDHを用いるグルコースセンサーを特徴とする。電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどがあり、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明の改変型FADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
【0060】
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明の改変型FADGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【実施例】
【0061】
本発明において、FAD依存型GDHの活性測定は以下の条件で行う。
[試験例]
<試薬>
50mM PIPES緩衝液pH6.5(0.1%TritonX−100を含む)
163mM PMS溶液
6.8mM 2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D−グルコース溶液
上記PIPES緩衝液15.6ml、DCPIP溶液0.2ml、D―グルコース溶液4mlを混合して反応試薬とする。
<測定条件>
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。GDH溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってGDH活性を求める。ここでGDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD−グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義している。

活性(U/ml)=
{−(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率}/{16.3×0.1×1.0}

なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【0062】
実施例1:グルコース測定系を用いた改変型FADGDH熱安定性の検討
検討は、先述の試験例のFADGDH活性の測定方法に準じて行った。
まず、アスペルギルス・オリゼまたはアスペルギルス・テレウス由来改変型FADGDHを約2U/mlになるように酵素希釈液(50mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5)、0.1% TritonX−100)にて溶解したものを50ml用意した。この酵素溶液を1.0mlとしたものを2本用意した。コントロールには、夫々の改変型FADGDH(各種化合物の代わりに蒸留水0.1mlを添加したものを2本用意した。
【0063】
2本のうち、1本は4℃で保存し、もう1本は、50℃、15分間処理を施した。処理後、夫々のサンプルのFADGDH活性を測定した。各々、4℃で保存したものの酵素活性を100として、50℃、15分間処理後の活性値を比較して活性残存率(%)として算出した。
【0064】
実施例2:アスペルギルス・オリゼ由来FADGDH遺伝子への変異導入
野生型FADGDHをコードする遺伝子(配列番号1)を含む組み換えプラスミドpAOGDH−S2で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリン(50mg/ml;ナカライテスク社製)を含んだ液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl;pH7.3)を摂取し、30℃で一晩振とう培養して得られた菌体から、常法によりプラスミドを調整した。該プラスミドを鋳型として用いDiversifyTMPCR Ramdom Mutagenesis Kit(Clontech社製)を用いた変異処理をそのプロトコールに従って実施し、グルコースデヒドロゲナーゼの生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調製した。
【0065】
実施例3:アスペルギルス・オリゼ由来改変型FADGDHを含む粗酵素液の調整
実施例2で調整したプラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩振とう培養して得られたコロニーをさらにアンピシリン(100μg/ml)を含んだLB液体培地に摂取し、30℃で一晩振とう培養した。その培養液の一部から遠心分離によって得られた菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)中でガラスビーズで該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
【0066】
実施例4:熱安定性が向上した変異体のスクリーニング
実施例3の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定し、3種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら3種の改変体をコードするプラスミドをpAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4と命名した。
【0067】
pAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M1で配列番号2記載の162番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M2では167番目のセリンがプロリンに471番目のリジンがアルギニン、pAOGDH−M3では180番目のアラニンがグリシンに551番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M4では120番目のリジンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリンに369番目のリジンがアルギニンに置換されていることが確認された。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
pAOGDH−S2のプラスミドを鋳型として、160番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号3の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、161番目のトリプトファンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号4の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、162番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号5の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号6の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、164番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号7の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、165番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号8の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、166番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号9の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、167番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号10の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、168番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号11の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、169番目のアスパラギンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号12の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、170番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号13の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、171番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号14の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、172番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号15の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、329番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号16の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、330番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号17の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、331番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号18の合成オリゴヌクレオチド、551番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号19の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、グルコースデヒドロゲナーゼの生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調整した。
【0070】
実施例4で調整したプラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した後、実施例3と同様に粗酵素液を調製した。
【0071】
上記の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定し、16種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら16種の改変体をコードするプラスミドを、pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10、pAOGDH−M11、pAOGDH−M12、pAOGDH−M13、pAOGDH−M14、pAOGDH−M15、pAOGDH−M16、pAOGDH−M17、pAOGDH−M18、pAOGDH−M19と命名した。
【0072】
pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10、pAOGDH−M11、pAOGDH−M12、pAOGDH−M13、pAOGDH−M14、pAOGDH−M15、pAOGDH−M16、pAOGDH−M17、pAOGDH−M18、pAOGDH−M19の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M5で配列番号2記載の160番目のグリシンがプロリン、pAOGDH−M6では163番目のグリシンがリジン、pAOGDH−M7では163番目のグリシンがロイシン、pAOGDH−M8では163番目のグリシンがアルギニン、pAOGDH−M9では167番目のセリンがアラニン、pAOGDH−M10では167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M11では167番目のセリンがアルギニン、pAOGDH−M12では167番目のセリンがバリン、pAOGDH−M13では171番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M14では551番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M15では551番目のバリンがシステイン、pAOGDH−M16では551番目のバリンがスレオニン、pAOGDH−M17では551番目のバリンがグルタミン、pAOGDH−M18では551番目のバリンがセリン、pAOGDH−M19では551番目のバリンがチロシンに置換されていることが確認された。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
実施例5;多重変異体の作製と熱安定性
pAOGDH−M10のプラスミドを鋳型として、160番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号20の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、161番目のトリプトファンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号21の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、162番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号22の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号23の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、164番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号24の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、165番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号25の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、166番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号26の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、168番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号27の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、169番目のアスパラギンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号28の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、170番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号29の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、171番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号30の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、172番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号31の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、329番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号32の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、330番目のロイシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号33の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、331番目のアラニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号34の合成オリゴヌクレオチド、551番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号35の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、 グルコースデヒドロゲナーゼの生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調製した。
【0075】
pAOGDH−M15のプラスミドを鋳型として、163番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号36の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、 グルコースデヒドロゲナーゼの生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調製した。
【0076】
実施例4で調整したプラスミドで市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した後、実施例3と同様に粗酵素液を調製した。
【0077】
上記の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定し、57種の熱安定性の向上した変異体を取得した。これら57種の改変体をコードするプラスミドを、pAOGDH−M20、pAOGDH−M21、pAOGDH−M22、pAOGDH−M23、pAOGDH−M24、pAOGDH−M25、pAOGDH−M26、pAOGDH−M27、pAOGDH−M28、pAOGDH−M29、pAOGDH−M30、pAOGDH−M31、pAOGDH−M32、pAOGDH−M33、pAOGDH−M34、pAOGDH−M35、pAOGDH−M36、pAOGDH−M37、pAOGDH−M38、pAOGDH−M39 pAOGDH−M40、pAOGDH−M41、pAOGDH−M42、pAOGDH−M43、pAOGDH−M44、pAOGDH−M45、pAOGDH−M46、pAOGDH−M47、pAOGDH−M48、pAOGDH−M49、pAOGDH−M50、pAOGDH−M51、pAOGDH−M52、pAOGDH−M53、pAOGDH−M54、pAOGDH−M55、pAOGDH−M56、pAOGDH−M57、pAOGDH−M58、pAOGDH−M59、pAOGDH−M60、pAOGDH−M61、pAOGDH−M62、pAOGDH−M63、pAOGDH−M64、pAOGDH−M65、pAOGDH−M66、pAOGDH−M67、pAOGDH−M68、pAOGDH−M69、pAOGDH−M70、pAOGDH−M71、pAOGDH−M72、pAOGDH−M73、pAOGDH−M74、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76と命名した。
【0078】
pAOGDH−M20、pAOGDH−M21、pAOGDH−M22、pAOGDH−M23、pAOGDH−M24、pAOGDH−M25、pAOGDH−M26、pAOGDH−M27、pAOGDH−M28、pAOGDH−M29、pAOGDH−M30、pAOGDH−M31、pAOGDH−M32、pAOGDH−M33、pAOGDH−M34、pAOGDH−M35、pAOGDH−M36、pAOGDH−M37、pAOGDH−M38、pAOGDH−M39、pAOGDH−M40、pAOGDH−M41、pAOGDH−M42、pAOGDH−M43、pAOGDH−M44、pAOGDH−M45、pAOGDH−M46、pAOGDH−M47、pAOGDH−M48、pAOGDH−M49、pAOGDH−M50、pAOGDH−M51、pAOGDH−M52、pAOGDH−M53、pAOGDH−M54、pAOGDH−M55、pAOGDH−M56、pAOGDH−M57、pAOGDH−M58、pAOGDH−M59、pAOGDH−M60、pAOGDH−M61、pAOGDH−M62、pAOGDH−M63、pAOGDH−M64、pAOGDH−M65、pAOGDH−M66、pAOGDH−M67、pAOGDH−M68、pAOGDH−M69、pAOGDH−M70、pAOGDH−M71、pAOGDH−M72、pAOGDH−M73、pAOGDH−M74、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer ; Perkin−Elmer製)でグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M20で配列番号2記載の160番目のグリシンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M21では160番目のグリシンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M22では160番目のグリシンがセリングルタミンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M23では160番目のグリシンがグルタミンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M24では162番目のセリンがアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M25では162番目のセリンがシステインに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M26では162番目のセリンがアスパラギン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M27では162番目のセリンがグルタミン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M28では162番目のセリンがフェニルアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M29では162番目のセリンがヒスチジンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M30では162番目のセリンがロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M31では163番目のグリシンがアスパラギン酸に167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M32では164番目のセリンがフェニルアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M33では164番目のセリンがスレオニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M34では164番目のセリンがチロシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M35では165番目のロイシンがアラニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M36では165番目のロイシンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M37では165番目のロイシンがアスパラギンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M38では165番目のロイシンがプロリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M39では165番目のロイシンがバリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M40では166番目のアラニンがシステインに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M41では166番目のアラニンがイソロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M42では166番目のアラニンがリジンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M43では166番目のアラニンがロイシンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M44では166番目のアラニンがメチオニンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M45では166番目のアラニンがプロリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M46では166番目のアラニンがセリンに167番目のセリンがプロリン、pAOGDH−M47では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがリジン、pAOGDH−M48では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがプロリン、pAOGDH−M49では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがチロシン、pAOGDH−M50では167番目のセリンがプロリンに169番目のアスパラギンがトリプトファン、pAOGDH−M51では167番目のセリンがプロリンに170番目のロイシンがシステイン、pAOGDH−M52では167番目のセリンがプロリンに170番目のロイシンがフェニルアラニン、pAOGDH−M53では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがイソロイシンに、pAOGDH−M54では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがリジン、pAOGDH−M55では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがメチオニン、pAOGDH−M56では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがグルタミン、pAOGDH−M57では167番目のセリンがプロリンに171番目のロイシンがバリン、pAOGDH−M58では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがアラニン、pAOGDH−M59では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがシステインに、pAOGDH−M60では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがグルタミン酸、pAOGDH−M61では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがイソロイシン、pAOGDH−M62では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがメチオニン、pAOGDH−M63では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがシステイン、pAOGDH−M64では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがグルタミン酸、pAOGDH−M65では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがトリプトファン、pAOGDH−M66では167番目のセリンがプロリンに172番目のバリンがにチロシン、pAOGDH−M67では167番目のセリンがプロリンに329番目のバリンがグルタミン、pAOGDH−M68では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがシステイン、pAOGDH−M69では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがアスパラギン酸、pAOGDH−M70では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがイソロイシン、pAOGDH−M71では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがリジンpAOGDH−M72では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがロイシン、AOGDH−M73では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがメチオニン、pAOGDH−M74では167番目のセリンがプロリンに331番目のアラニンがバリンに置換されていることが確認された。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例6:アスペルギルス・オリゼ由来改変型FADGDHの取得
改変型FADGDH生産菌として、pAOGDH−M10、pAOGDH−M15、pAOGDH−M75、pAOGDH−M76で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換した。得られた形質転換体を10L容ジャーファーメンターを用いて、TB培地に培養温度25℃で24時間培養した。培養菌体を遠心分離で集めた後、50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に懸濁し、除核酸処理後、遠心分離して上清を得た。これに硫酸アンモニウムを飽和量溶解させて目的タンパク質を沈殿させ、遠心分離で集めた沈殿を50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に再溶解させた。そしてG−25セファロースカラムによるゲルろ過、Octyl−セファロースカラムおよびPhenyl−セファロースカラムによる疎水クロマト(溶出条件は共に25%飽和〜0%の硫酸アンモニウム濃度勾配をかけてピークフラクションを抽出)を実施し、さらにG−25セファロースカラムによるゲルろ過で硫酸アンモニウムを除去し改変型FADGDHサンプルとした。表4に示すように精製標品においても熱安定性が向上していることが確認された。
【0081】
【表4】

【0082】
実施例7:pH安定性
実施例6で得た精製標品についてpH安定性を知るために、pH3.5〜8.5の範囲の緩衝液(pH3.5〜6.3:0.1M 酢酸バッファー、pH6.3〜7.3、0.1M PIPESバッファー、pH7.3〜8.5:0.1M トリス塩酸バッファー、pH6.0〜7.7:0.1M リン酸バッファー)を調製し、これらを用いて各GDHを酵素濃度1U/mlとなるよう希釈した。希釈液を25℃で16時間インキュベートしてインキュベート前後の活性を比較した。インキュベート前の活性に対するインキュベート後の活性残存率を示したグラフを図1に示す。図1に示すようにpH安定域の幅が広がっていることが確認された。
【0083】
実施例8:アスペルギルス・テレウス由来FADGDH遺伝子への変異導入
我々はアスペルギルス・オリゼ由来 GDH遺伝子のクローニングに成功し、その塩基配列情報を取得している。また、熱安定性を指標としたスクリーニングを実施し、熱安定性向上に効果のあるアミノ酸部位を同定している。そこで、アスペルギルス・オリゼ由来GDHの推定アミノ酸配列とアスペルギルス・テレウス由来GDHの推定アミノ酸配列をアラインさせ、アスペルギルス・テレウス由来GDHにおいて、アスペルギルス・オリゼFADGDHで熱安定性向上に効果のあった部位に対応するアミノ残基を同定した。
【0084】
実験例6で作製した組換えプラスミドpAtGDH−s2−7を鋳型として用い、116番目のリジンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、159番目のグルタミンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、161番目のグルタミン酸を複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、164番目のアスパラギンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、166番目のスレオニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、167番目のスレオニンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、175番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、325番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、327番目のセリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、365番目のグルタミンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチド、547番目のバリンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5a;TOYOBO社製)を形質転換し、アンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩培養した。
【0085】
実施例9:アスペルギルス・テレウス由来改変型FADGDHを含む粗酵素液の調整
得られたコロニーをさらにアンピシリン(100μg/ml)を含んだLB液体培地に摂取し、30℃で一晩振とう培養した。その培養液の一部から遠心分離によって得られた菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)中でガラスビーズで該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
【0086】
実施例10:熱安定性が向上した変異体のスクリーニング
実施例9の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。
【0087】
これらFADGDHの遺伝子配列については、DNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)により配列確認を実施した。加熱処理前の活性に対する加熱処理後の残存活性率(%)を表5に示した。この結果より、組換え体を用いて熱安定性が向上したアスペルギルス・テレウス由来グルコースデヒドロゲナーゼを取得すること可能となった。
【0088】
【表5】

【0089】
また、種々の糖類に対する基質特異性については、上記の活性測定方法に従い、酵素活性を測定した。グルコースを基質溶液とした場合の脱水素酵素活性値とそれに代えて同じモル濃度の比較対象の糖類(例えばマルトース)を基質溶液とした場合の脱水素酵素活性
値を測定し、グルコースを基質とした場合の測定値を100とした場合の相対値を求めた。
【0090】
上記で得られた種々の変異体の基質特異性は良好であった。
【0091】
実施例11:FADGDH遺伝子への変異導入
野生型FADGDHをコードする遺伝子(配列番号1)を含む組み換えプラスミドpAOGDH−S2で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5・;TOYOBO社製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリン(50・g/ml;ナカライテスク社製)を含んだ液体培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl;pH7.3)を摂取し、30℃で一晩振とう培養して得られた菌体から、常法によりプラスミドを調整した。該プラスミドを鋳型として53番目のグリシンを複数種のアミノ酸に置換するよう設計した配列番号49の合成オリゴヌクレオチドとそれに相補的な合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って、変異操作を行い、グルコースデヒドロゲナーゼの生産能を有する、改変型FADGDH変異プラスミドを作製し、上記方法により同様にプラスミドを調製した。
【0092】
実施例12:改変型FADGDHを含む粗酵素液の調製
実施例2で調整したプラスミドpAOGDH−S2で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5・;TOYOBO社製)を形質転換した後、形質転換体をアンピシリンを含んだ寒天培地(1%ポリペプトン、0.5%酵母エキス、0.5%NaCl、1.5%寒天;pH7.3)に塗布した後、30℃で一晩振とう培養して得られたコロニーをさらにアンピシリン(100μg/ml)を含んだLB液体培地に摂取し、30℃で一晩振とう培養した。その培養液の一部から遠心分離によって得られた菌体を回収し、50mMのリン酸緩衝液(pH7.0)中でガラスビーズで該菌体を破砕することにより粗酵素液を調製した。
【0093】
実施例13:基質特異性が向上した変異体のスクリーニング
実施例3の粗酵素液を用いて、上述した活性測定法によりグルコースならびにキシロースを基質として活性を測定したところ、7種の基質特異性が向上した変異体を取得した。これら7種の改変体をコードするプラスミドをpAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7と命名した。
【0094】
pAOGDH−M1、pAOGDH−M2、pAOGDH−M3、pAOGDH−M4、pAOGDH−M5、pAOGDH−M6、pAOGDH−M7の変異箇所を同定するためにDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M1で配列番号2記載の53番目のグリシンがシステイン、pAOGDH−M2で配列番号2記載の53番目のグリシンがヒスチジン、pAOGDH−M3で配列番号2記載の53番目のグリシンがリジン、pAOGDH−M4で配列番号2記載の53番目のグリシンがメチオニン、pAOGDH−M5で配列番号2記載の53番目のグリシンがアスパラギン、pAOGDH−M6で配列番号2記載の53番目のグリシンがスレオニン、pAOGDH−M7で配列番号2記載の53番目のグリシンがバリンに置換されていることが確認された。結果を表1に示す。
【0095】
【表6】

【0096】
実施例14:基質特異性、及び/または、熱安定性が向上した変異体の作製
実施例13で調整したプラスミドpAOGDH−M2を鋳型として、164番目のセリンをプロリンに置換するよう設計した配列番号50の合成オリゴヌクレオチドと、それに相補的な合成オリゴヌクレオチド、pAOGDH−M5を鋳型として、164番目のセリンをプロリンに置換するよう設計した配列番号50の合成オリゴヌクレオチドと、それに相補的な合成オリゴヌクレオチド、pAOGDH−M2を鋳型として、163番目のグリシンをアルギニンに置換するよう設計した配列番号51の合成オリゴヌクレオチドと、それに相補的な合成オリゴヌクレオチド、さらに551番目のバリンをシステインに置換するよう設計した配列番号52の合成オリゴヌクレオチドと、それに相補的な合成オリゴヌクレオチドをもとに実施例2の方法と同様に変異操作を行い、基質特異性、及び/または、熱安定性に優れた改変型FADGDHを作製し上記の方法と同様にプラスミドを調整した。変異箇所を同定するため実施例4の方法と同様にDNAシークエンサー(ABI PRISMTM 3700DNA Analyzer;Perkin−Elmer製)でグルコースデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の塩基配列を決定した結果、pAOGDH−M8で配列番号2記載の53番目のグリシンがヒスチジンに、167番目のセリンがプロリンに、pAOGDH−M9で配列番号2記載の53番目のグリシンがアスパラギンに、167番目のセリンがプロリンに、pAOGDH−M10で配列番号2記載の53番目のグリシンがアスパラギンに、163番目のグリシンがアルギニンに、551番目のバリンがシステインに置換していることが確認された。実施例4と同様の活性測定法により、グルコースならびにキシロースを基質として活性を測定したところ、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10は基質特異性が向上していることが確認された。熱安定性を測定するため実施例3の方法と同様に、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10の粗酵素液を調整し、上述した活性測定法によりグルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定した。また、同粗酵素液を50℃で15分間加熱処理した後、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を測定し、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10は熱安定性が向上していることが確認された。結果を表2に示す。
【0097】
【表7】

【0098】
実施例15:改変型FADGDHの取得
改変型FADGDH生産菌として、pAOGDH−M8、pAOGDH−M9、pAOGDH−M10で市販の大腸菌コンピテントセル(E.coli DH5・;TOYOBO社製)を形質転換した。得られた形質転換体を10L容ジャーファーメンターを用いて、TB培地に培養温度25℃で24時間培養した。培養菌体を遠心分離で集めた後、50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に懸濁し、除核酸処理後、遠心分離して上清を得た。これに硫酸アンモニウムを飽和量溶解させて目的タンパク質を沈殿させ、遠心分離で集めた沈殿を50mMのリン酸バッファー(pH6.5)に再溶解させた。そしてG−25セファロースカラムによるゲルろ過、Octyl−セファロースカラムおよびPhenyl−セファロースカラムによる疎水クロマト(溶出条件は共に25%飽和〜0%の硫酸アンモニウム濃度勾配をかけてピークフラクションを抽出)を実施し、さらにG−25セファロースカラムによるゲルろ過で硫酸アンモニウムを除去し改変型FADGDHサンプルとした。表3に示すように精製標品においても熱安定性が向上していることが確認された。
【0099】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、FAD−GDHにおいて熱安定性向上に関与しているアミノ酸残基を見出すことができ、あらゆる属、種のFAD−GDHにもあてはまる可能が示された。また、本発明によるFADGDHの安定性の向上は、グルコース測定試薬、グルコースアッセイキット及びグルコースセンサー作製時の酵素の熱失活を低減して、該酵素の使用量低減や測定精度の向上を可能にし、医療関連分野などの産業に貢献するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型のアスペルギルス属由来のフラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FADGDH)よりも基質特異性が向上した改変型FADGDHであって、以下の(1)または(2)の位置においてアミノ酸置換を有する、改変型FADGDH。
(1)配列番号2のアミノ酸配列における53位。
(2)配列番号2以外のアミノ酸配列であって、該配列と配列番号2のアミノ酸配列とをアラインさせることにより同定した、配列番号2のアミノ酸配列における53位と同等の位置。
【請求項2】
基質特異性の向上が、キシロースに対する作用性がグルコースに対して5%以下に低減された点にある、請求項1の改変型FADGDH。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列における53位のアミノ酸置換が、53位のグリシン(G)のシステイン(C)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、スレオニン(T)およびバリン(V)のうちいずれかである、請求項1または2の改変型FADGDH。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の改変型FADGDHをコードする遺伝子。
【請求項5】
請求項4に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養することを特徴とする改変型FADGDHの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の改変型FADGDHを含むグルコースアッセイキット。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の改変型FADGDHを含むグルコースセンサー。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の改変型FADGDHを含むグルコース測定法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−225800(P2009−225800A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126142(P2009−126142)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【分割の表示】特願2007−293325(P2007−293325)の分割
【原出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】