説明

改良された分離挙動を有する高流束透析膜

【課題】合成ポリマーをベースとする一体非対称構造を有する血液治療用の親水性反透過性中空繊維膜及びこのような膜の製法。
【解決手段】中空繊維膜は、その内面に細孔を有する分離層及びこの層と隣接した開気孔の支持層を有し並びに25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有し、細孔安定化添加物不含であり、少なくとも0.8のチトクロームCのふるい係数及び最高0.005のアルブミンのふるい係数を有する。合成第1ポリマー並びに場合により親水性第2ポリマーから成る紡糸溶液を中空繊維ノズルの環状スリットを通して中空繊維にし、同時に凝固剤を内部充填剤として中空繊維ノズルの中央開口を通して押出し、この凝固剤は中空繊維の内部で凝固を起こし、分離層が中空繊維の内側に形成され並びに膜構造が形成され、その際、内部充填剤が負の固定電荷を有する高分子電解質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁上に開気孔の一体非対称構造、その内腔に向いた内面に細孔を有する厚さ0.1〜2μmの分離層並びにこの分離層と隣接して開気孔の支持層を有し、25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有する、特に血液透析、血液透析濾過又は血液濾過用の、合成第1ポリマーをベースとする親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜に関する。本発明は更にこのような膜の製法に関する。
【0002】
特に本発明の目的は、高流束の(High−Flux)血液透析、血液透析濾過又は血液濾過に好適である中空繊維膜である。このような血液治療用の使用では、大量の水の除去が必須である。更に低分子尿毒素の拡散除去だけでなく、いわゆる中分子、即ち特に低分子蛋白質の対流除去も行われる。
【背景技術】
【0003】
特に血液治療、例えば血液透析、血液透析濾過又は血液濾過用にも、最近その優れた物理化学的特性によって合成ポリマー、例えばポリアミド又はポリビニルアルコール並びに特にエンジニアリングプラスチック、例えば芳香族スルホンポリマー、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルイミド又はポリエーテルケトンが研究され、中空繊維膜用の膜材料として使用されるようになった。しかし後者ポリマーの疎水性特性のために、これらのポリマーから成る膜は水性媒体で湿潤することができない。その結果、膜を完全に乾燥させることができないか又は細孔安定化用に細孔安定化液体、例えばグリセリン又はポリエチレングリコールを充填しなければならない。このような安定化を行わない場合には、膜の透過性は各乾燥工程と共に連続的に減少し、膜の分離特性が変化する。膜を十分水湿潤性にするために、親水性の合成ポリマーをベースとする膜又は膜を形成する疎水性ポリマーの他に親水性ポリマー成分を含有するようなものは、通常乾燥での膜構造の安定化及び中分子の範囲での少なくとも一定の分離力を得るために、細孔充填剤を有している。
【0004】
血液透析でも或いは血液透析濾過又及び血液濾過でも、低分子の腎臓標的物質、即ち尿毒素及び/又は尿マーカー、例えば尿素、クレアチニン又は燐酸塩、特に低分子蛋白質、例えばβ−ミクログロブリン(β2M)を治療すべき血液から除去することが目的である。多数の研究から、低分子蛋白質が透析中の合併症の原因であることが判明した。例えば血液中のβ2Mの蓄積はアミロイド症及び手根管症候群の原因とみなされる。従って低分子蛋白質に関する膜透過性を高めるような努力がなされる。しかしその結果、同時に屡々、血液治療で血液中に残留すべきである貴重な血液成分、例えばアルブミンの損失が増加する。
【0005】
DE4230077には、特に血液透析で使用するための親水性膜が記載されているが、その際この膜はポリスルホンとスルホン化ポリスルホンの混合物から成る。細孔を安定化するために、膜を乾燥する前にグリセリン/水−混合物で後処理する。DE4230077の実施例によれば、確かに部分的には0.001以下の範囲のアルブミンのふるい係数を有する非常に僅かなアルブミン透過率が達成されるが、しかしこれは中分子範囲では比較的僅かな透過性であり、即ちβ2M用のマーカー分子として使用される12500ダルトンの分子量を有するチトクロームCに関しては最高0.43までのふるい係数である。0.87までの範囲のチトクロームCに関する高いふるい係数は、比較的高いアルブミン透過率が許容される場合、即ちアルブミンのふるい係数が0.04までの範囲である場合にのみ達成される。しかしこのような高いアルブミン透過率は透析で高いアルブミン損失を伴い、従って透析患者にとって許容できない。
【0006】
EP305787は、合成第1ポリマー、有利にはポリアミド及び親水性の第2ポリマー、例えばポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールから成る、例えば血液透析用の、非対称膜に関する。膜は、緊密な比較的薄い皮膜の形の分離層、その下にある海綿構造を有する層及びこれに隣接した指形の粗い細孔を有する第3の層を有する3層から成る構造を有する。しかし指形細孔を有するこのような構造は、機械的強度が比較的僅かとなり、膜の十分な安定性を獲得するために比較的厚い膜壁を必要とするので、使用上有利ではない。EP305787の実施例から、細孔構造を安定化するために膜を同じくグリセリンで後処理すると推論される。EP305787の膜に関しては、ふるい係数はアルブミンについては約0.001及びβ2Mについては0.6〜0.8が達成される。
【0007】
EP344581の課題は、危険物質、例えばβ2Mの除去及び必要な成分、例えばアルブミンの保持を高効率で可能にする、指形細孔なしかつ非対称細孔サイズのない血液透析用膜を提供することであった。EP344581の膜は、ポリアクリレートとポリスルホンとの混合物から成り、膜横断面に関して均質でかつ同じ形の繊維構造を有する。EP344581に公開された膜は、そのポリマー組成により疎水性であり、EP344581の記載によれば乾燥前にグリセリンで処理するか又は先ず例えばアルコールで洗浄し、次いで水で置き換える。
【0008】
EP168783には、血液透析用の開気孔の気泡状支持構造を有する親水性非対称微孔性ポリスルホン−中空繊維膜が記載されている。親水性は有利にはポリビニルピロリドンである1〜10質量%の含分の親水性ポリマーによって得られる。EP168783によれば、膜をその分離挙動に関して自然の腎臓に近づけるように努める。このためにEP168783の膜は30000〜40000ダルトンの分子量を有する分子に関する排除限界を有する内側に存在する多孔性分離層を有する。有利な態様の一つでは、EP168783の膜は分子量65000ダルトンを有するヒトアルブミンに関して0.005のふるい係数を有する。
【0009】
EP828553には、血液透析、血液透析濾過又は血液濾過で使用するためのε−カプロラクタム中に可溶性のポリマーから成る一体型多重非対称膜が公開されている。EP828553の膜は、薄い分離層、これに隣接する指形細孔不含の海綿状粗孔性支持層及び支持層に接続した、細孔サイズが支持層より小さく、膜の透水性を決める第3の層を有する3層構造を有する。EP828553は実施例で、0.75のチトクロームCのふるい係数及び0.05のアルブミンのふるい係数を有する膜を開示している。
【0010】
EP716859は、均質な膜構造を有する、即ち壁断面で非対称性なしの膜構造を有する膜に関する。この膜は例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールスルホンをベースとしており、その際、膜の親水性を高めるために親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールを添加した。EP716859の膜は、膜構造を維持するために凝固後及び乾燥前にグリセリン溶液を含浸する。実施例により製造した膜に関しては詳細はないが0.01より小さいアルブミンのふるい係数が記載されている。10ml/分の小さな濾過流量では安定化された膜に関して0.88までのβ2Mのふるい係数が得られ、高い濾過流量、即ち50ml/分の濾過流量では得られたβ2Mのふるい係数は最高0.75である。しかし、アルブミン溶液中で相応する限外濾過率で比較可能であるこの膜に関して達成された水の限外濾過率及び血液の限外濾過率は、均質な膜構造により比較的僅かであるに過ぎず、通常血液透析又は血液濾過で使用される率より下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】DE4230077
【特許文献2】EP305787
【特許文献3】EP344581
【特許文献4】EP168783
【特許文献5】EP828553
【特許文献6】EP716859
【特許文献7】EP568045
【特許文献8】EP750938
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】DIN58353第2部
【非特許文献2】ドイツ薬局方(DAB10、1.補足、1992VII.I.3"Phosphat−Pufferloesung pH7.4、natriumchloridhaltige R")
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、高い透水性及び公知技術の膜に対して改良された分離挙動を有し、従って治療すべき血液から低分子蛋白質の有効な除去を同時に貴重な血液成分の高い保留下で可能にする、血液透析、血液透析濾過及び血液濾過用に好適な中空繊維膜を提供することである。膜は高い機械的安定性を有し、乾燥後でも安定した性能特性を有し、この中空繊維膜を有する透析器の支障のない製造を可能にするものである。
【0014】
本発明のもう一つの課題は、このような中空繊維膜の製法を提供することである。
【0015】
本発明による課題は、特に血液透析、血液透析濾過又は血液濾過用の、合成第1ポリマーをベースとする親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜によって解決されるが、これは壁上に開気孔の一体非対称構造、その内腔に向いた内面に細孔を有する厚さ0.1〜2μmの分離層並びにこの分離層と隣接して開気孔の支持層を有し、25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有するものであり、その際、この中空繊維膜は前もっての乾燥後に少なくとも0.80のチトクロームCのふるい係数並びに最高0.005のアルブミンのふるい係数を有し、その際中空繊維膜は乾燥状態で膜壁中の細孔を安定化する添加物を不含であることを特徴とする。
【0016】
本発明の課題は更にこの中空繊維膜の製法によって解決されるが、その際この方法は、(a)溶剤系中の合成第1ポリマー12〜30質量%並びに場合によりその他の添加物を有する均質な紡糸溶液を製造し、(b)紡糸溶液を中空繊維ノズルの環状スリットを通して押出して中空繊維にし、(c)内部充填剤を中空繊維ノズルの中央開口を通し押出し、その際内部充填剤は合成第1ポリマー用の凝固媒体であり、これは合成第1ポリマー用の溶剤並びに非溶剤を含み、(d)内部充填剤を中空繊維の内面と接触させ、中空繊維の内面で凝固を起こし、中空繊維の内面に分離層を形成し及び膜構造を形成し、(e)場合により膜構造の形成を完成させかつ膜構造を固定するために、中空繊維を凝固浴中を通過させ、(f)こうして形成した中空繊維膜を溶剤系並びに可溶性物質を除去するために抽出し、(g)中空繊維膜を乾燥させる工程を含むが、その際この方法は、内部充填剤が負の固定電荷を有する高分子電解質を含有し、それによって少なくとも0.80のチトクロームCのふるい係数並びに最高0.005のアルブミンのふるい係数を有する中空繊維膜が得られることを特徴とする。
【0017】
本発明による膜は鋭敏な分離特性を有する優れた分離特性を有する。この膜は、液体細孔安定剤、例えばグリセリン又はポリエチレングリコールを用いる後処理によって細孔の安定化を行う必要なしに、アルブミンの優れた保留と同時に低分子量蛋白質の優れた除去を可能にする。鋭敏な分離特性及びアルブミンの優れた保留により、本発明による膜の構造又は分離層は、アルブミンのふるい係数が本発明により必要とされる限界を超えることなく、自由に作ることができる。これによって同時にチトクロームCのふるい係数を更に高めることができ、低分子量蛋白質、例えばβ−ミクログロブリンの除去を更に改善することができる。
【0018】
通常本発明による膜は同時に改善された発熱物質貯留を示す。透析で使用するために、血液治療用に使用される膜がエンドトキシン−及び発熱物質移動を膜壁によってどの程度阻止することができるかが重要である。研究によって多数の透析センターで透析液体中でも発熱物質が検出された。これから特に高流束膜で、発熱物質又は生物学的活性エンドトキシンフラグメントが膜壁を通過しうる危険性が生じる。本発明による膜は実質的に発熱物質の通過に対して非透過性であり、それによって透析患者により高い安全性を提供する。
【0019】
本発明で一体非対称膜とは、分離層及び支持層が同じ材料から成り、一緒に直接膜製造で形成されたものであり、それによって二つの層が一体単位として相互に結合している膜のことである。分離層から支持層への移行に際して、ただ膜構造に関する変化がある。一体非対称膜では分離層から出発して支持構造では細孔サイズが壁厚をわたって変化する。これと対照的なものの一つは、例えば、細孔状の屡々微孔性の保護層又は保護膜上に別の工程で緊密な層が分離層として塗布されている多層構造を有する複合膜である。これは、支持層及び分離層を形成する材料が複合膜では異なる特性も有するという結果を生じる。他方では、対称膜又は均質な膜が対称的であり、その際、膜細孔の大きさが膜壁にわたって実質的に同じである、即ち実質的に変化しない。一体非対称膜は、対称の均質な、つまり壁厚にわたって細孔サイズに関して均質である膜に対して、分離層の厚さが僅かであることにより流体力学的抵抗の著しい減少、それによって中分子範囲の物質でも改良された対流輸送という利点を提供する。更にこの膜は膜の透水性及び分離特性の独立した制御を可能にする。
【0020】
通常公知技術の膜は例えばグリセリンを用いて処理又は負荷によって細孔構造を安定化させ、公知技術の膜ではしばしば膜の一定の分離能が膜の加工に必要な乾燥後にも確保されるように実施する。しかし透析器を製造するために中空繊維膜を更に加工する際に、例えば埋込樹脂中への中空繊維膜の通常の埋込で、グリセリン含有膜を用いては不利益が生じる。グリセリン含有膜は相互に接着し、従って埋込材料、例えばポリウレタンが中空繊維膜間の間隙に浸透することができない。しかしこれによって埋込が気密とは言えない結果となる。更にグリセリンを負荷された膜を有する透析器を使用する前に、即ち血液浄化用に使用する前に、透析器を費用をかけて洗浄して、膜からグリセリンを洗い流して不含にする必要がある。更に公知技術によるこの膜はグリセリン除去後に乾燥させることができない。それはそれによって分離特性の著しい悪化及び特に中分子範囲、即ち低分子蛋白質の分離能の著しい低下が起こり、更に部分的には湿潤挙動が悪化するからである。
【0021】
本発明による中空繊維膜はこれに対して、その親水性特性により乾燥後でも水又は水性媒体を用いて湿潤可能である。この膜は更に、乾燥後でも、即ち抽出後かつ乾燥前に例えばグリセリン溶液で後処理してなかった場合でも、乾燥状態で、即ち中空繊維膜を乾燥状態で、即ち乾燥後に膜壁の細孔を安定化させる添加物を含まない場合でも、また本発明による中空繊維膜の乾燥状態で膜壁の細孔が安定化添加物、例えばグリセリンを含有してない場合でも、その優れた分離特性を有する。公知技術の膜に対して本発明による膜は、安定な優れた分離特性、従って改良された分離挙動を有する。
【0022】
もちろん本発明による膜は、有利であると見なされる場合には、乾燥後にグリセリンを負荷することもできる。しかし公知中空繊維膜と異なり、本発明による中空繊維膜はグリセリン除去及び引き続いての乾燥後でも、鋭敏な分離特性を有するその特性を維持する。前記したように本発明による中空繊維膜は、乾燥前に細孔安定化添加物の負荷が行われていない場合でも、抽出及び乾燥後にその特性を有する。鋭敏な分離特性に関して更には、透析器の製造で後で通常適用される滅菌を行っているかどうかは重要でない。従って本発明には滅菌した膜も含まれる。
【0023】
有利には本発明による中空繊維膜は少なくとも0.85、特に有利には少なくとも0.9のチトクロームCのふるい係数を有する。更に有利な態様では、アルブミンのふるい係数は最高0.003である。有利な態様の一つでは、本発明による中空繊維膜は、少なくとも0.85のチトクロームCのふるい係数並びに最高0.003のアルブミンのふるい係数を併せ持つ。少なくとも0.9のチトクロームCのふるい係数並びに最高0.003のアルブミンのふるい係数を併せ持つ本発明による中空繊維膜が特に有利である。
【0024】
本発明によれば中空繊維膜は、25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有する。25ml/(h・m・mmHg)より下のアルブミン溶液中の限外濾過率は、血液治療で多量の水の除去用に十分ではなく、このような僅かな限外濾過率を有する膜は、高流束の血液透析、血液透析濾過又は血液濾過の分野での課題に関して十分有効ではない。これに対して60ml/(h・m・mmHg)より上のアルブミン溶液中の限外濾過率では、透析機での透析治療に際して、危険信号がともり、場合により透析処理で補正するための処置が必要となる、極めて低いか又は負の膜間圧力差が示される危険性がある。本発明による膜のアルブミン中の限外濾過率は有利には30〜55ml/(h・m・mmHg)の範囲である。
【0025】
親水性中空繊維膜の膜構造を構成する第1ポリマーには、本発明によれば合成ポリマーが該当し、これは本発明による方法で紡糸溶液中に12〜30質量%の濃度で含有されている。この合成第1ポリマーは1種類の親水性の合成ポリマーであってもよいし又は異なる親水性合成ポリマーの混合物であってもよい。例えば、親水性ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド−ポリカーボネートコポリマー又は本来は疎水性の変性ポリマー、例えばスルホン酸基で親水性に変性されたポリスルホン又はポリエーテルスルホンを使用することができる。
【0026】
親水性の第1ポリマーを使用して本発明による膜を製造する場合に、紡糸溶液はその他の成分として、紡糸溶液中で粘度上昇作用を有しかつ/又は膜構造の形成で核剤及び細孔形成剤として作用する親水性の第2ポリマーを含有することができる。
【0027】
有利な態様では本発明による中空繊維膜を構成する合成第1ポリマーには、親水性第2ポリマーと組合せてある疎水性第1ポリマーが該当する。疎水性第1ポリマーを使用する場合には、親水性第2ポリマーは、本発明による方法で紡糸溶液の粘度を高めかつ/又は核剤及び細孔形成剤として働く作用の他に、本発明による中空繊維膜の親水性を付与する課題も有する。
【0028】
親水性第2ポリマーを使用する場合には、紡糸溶液中のその濃度は紡糸溶液の質量に対して0.1〜30質量%である。有利には紡糸溶液中の第2親水性ポリマーの濃度は、紡糸溶液の質量に対して1〜25質量%、特に有利には5〜17質量%である。
【0029】
本発明による方法用に合成第1ポリマーとして、極性非プロトン性溶剤中で良好な溶解性を有し、これから沈殿して非対称膜を生成することができるようなポリマーを使用することができる。有利な膜形成性、即ち本発明による中空繊維膜を構成する疎水性の第1ポリマーとして本発明では、芳香族スルホンポリマー、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、これらのポリマーのコポリマー又は変性物又はこれらのポリマーの混合物の群から成るエンジニアリングプラスチックを使用することができる。特に有利な態様では疎水性第1ポリマーは下記式(I)及び(II)
【化1】

に記載の反復分子単位を有するポリスルホン又はポリエーテルスルホンである。
【0030】
本発明による中空繊維膜を製造するために実質的に、親水性の水湿潤性半透性中空膜を製造するための公知技術から公知の方法で、一体非対称構造及びその内面に分離層を有する合成ポリマーから出発することができる。非溶剤誘発凝固をベースとするこのような公知技術による方法は、EP168783、EP568045、EP750938又はEP828553に記載されており、これに関する公開内容は明らかに関連するものである。例えばそこに記載の方法から出発して、少なくとも0.80のチトクロームCのふるい係数を最高0.005のアルブミンのふるい係数と併せて有する中空繊維膜を製造するために本発明による方法では負の固定電荷を有する高分子電解質を含有する内部充填剤を使用する。
【0031】
本発明によれば紡糸溶液中の合成第1ポリマーの濃度は12〜30質量%である。12質量%より下の濃度は紡糸工程の実施及び製造された中空繊維膜の機械的安定性に関して不利益を生じる。他方30質量%より多い合成第1ポリマーを有する紡糸溶液から得た膜は、緊密すぎる構造及び僅かな透過性を有する。有利には紡糸溶液は合成第1ポリマー15〜25質量%を有する。合成第1ポリマーは、膜の特性を目的に合わせて変性するために添加物、例えば酸化防止剤、核剤、紫外線吸収剤等を含有することができる。
【0032】
親水性第2ポリマーとしては有利には、一方では合成第1ポリマーとの相溶性を有し、それ自体親水性である反復ポリマー単位を提供する長鎖ポリマーを使用する。親水性第2ポリマーは有利にはポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、カルボキシメチルセルロース又はこれらポリマーの変性物又はコポリマーである。ポリビニルピロリドンが特に有利である。もう一つの有利な態様では異なる親水性ポリマーの混合物及び特に異なる分子量を有する親水性ポリマーの混合物、例えば分子量が5以上異なるポリマーの混合物を使用してもよい。
【0033】
親水性第2ポリマーは大部分、本発明による中空繊維膜の製造で膜構造から洗い流される。しかし本発明の中空繊維膜の親水性特性及びその湿潤性に関しては、疎水性第1ポリマーを合成第1ポリマーとして有利に使用する場合には、膜中に一定割合の親水性第2ポリマーが残留する必要がある。従って疎水性第1ポリマーを合成第1ポリマーとして有利に使用する場合には、完成した中空繊維膜は親水性第2ポリマーを完成した中空繊維膜の質量に対して有利には1〜15質量%及び特に有利には3〜10質量%の範囲の濃度で有する。親水性第2ポリマーは更に完成した膜中でなお化学的又は物理的に変性させることができる。従って例えばポリビニルピロリドンを次いで架橋により水に不溶性にすることができる。
【0034】
使用される溶剤系は使用される合成第1ポリマー並びに場合により第2親水性ポリマーに合わせるべきである。本発明によれば紡糸溶液を製造するために使用される溶剤系には極性非プロトン性溶剤、例えば特にジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン又はε−カプロラクタム又はこれら溶剤相互の混合物が含まれる。溶剤系はその他の補助溶剤を含有することができ、ε−カプロラクタムを使用する場合にはブチロラクトン、プロピレンカーボネート又はポリアルキレングリコールが有利であると実証された。更に溶剤系はポリマー用の非溶剤、例えば水、グリセリン、ポリエチレングリコール又はアルコール、例えばエタノール又はイソプロパノールを含有してよい。
【0035】
脱ガス及び溶解しなかった粒子の濾過後、均質な紡糸溶液を通常の中空繊維ノズルの環状スリットを通して押出して中空繊維にする。中空繊維ノズル中で環状スリットと同軸に配置してある中央ノズル開口を通して、疎水性第1ポリマー用の凝固剤であり、同時に中空繊維の内腔を安定化する内部充填剤を押出す。
【0036】
内部充填剤、即ち内部凝固剤は前記した溶剤、有利には紡糸溶液の溶剤系中でも使用される溶剤の一つ又は紡糸溶液の製造に使用される溶剤系並びに必要な場合には非溶剤から成る。この非溶剤は、合成第1ポリマーの凝固を起こし、場合により存在する親水性第2ポリマーを有利には溶解するべきである。溶剤系中に非溶剤が含有されている限り、内部充填剤中に含有される非溶剤には同じ非溶剤が該当し、その際当然十分な沈殿作用を達成するために内部充填剤中の非溶剤濃度は溶剤系の濃度より高めてある。しかし内部充填剤用に溶剤系用とは異なる他の非溶剤を使用することもできる。使用される非溶剤は多数の異なる非溶剤成分から構成されていてもよい。
【0037】
本発明によれば内部充填剤は負の固定電荷を有する高分子電解質を含有するが、その際高分子電解質は内部充填剤中に溶解した形で存在する。負の固定電荷を有する高分子電解質とは本発明では負の電荷を有する官能基を含有するか又は十分塩基性媒体中でそのような基を形成することができるポリマーであり、その際官能基はポリマーと共有結合している。それによって負の電荷も必然的に共有結合性であり、従ってポリマーと強固に結合している。
【0038】
本発明により使用される負の固定電荷を有する高分子電解質は実際には前記特性を有するポリマーであること、即ち多数、有利には少なくとも数百及び特に有利には数千のモノマー単位が共有結合しており、その結果>7000ダルトンの範囲及び特に有利には>70000ダルトンの範囲である分子量が生じる分子であることが重要である。内部充填剤中に負の固定電荷を有する低分子電解質、例えばその3個の酸基が3個の陰イオンを生成することができるクエン酸を使用する場合には、高められた分離感度を有さない膜が生じる。同じく本発明により使用される高分子電解質が負の固定電荷を有することが重要である。内部充填剤に正電荷を有する高分子電解質、例えばビニルピロリドン及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドから成るコポリマーを添加する場合には、同じく高められた分離感度を有さない膜が生じる。
【0039】
本発明の有利な態様では、負の固定電荷を有する高分子電解質は、ポリ燐酸、ポリスルホン酸又はポリカルボン酸及び後者の場合には特にアクリル酸のホモ−及びコポリマーの群から選択する。中空繊維膜の分離挙動の改量に関して部分架橋したアクリル酸、メタクリル酸及びメチルメタクリレートから成るコポリマー、アクリル酸及びビニルピロリドンから成るコポリマー及びアクリル酸、ビニルピロリドン及びラウリルメタクリレートから成るコポリマーが特に有利であると実証された。
【0040】
負の固定電荷を有する高分子電解質を沈殿剤として作用する内部充填剤中に完全に可溶性であるがしかし内部充填剤の個々の成分中には可溶性でないように選択する場合に、特に著しい分離感度の上昇が観察される。更に本発明により使用される負の固定電荷を有する高分子電解質を、紡糸溶液と接触させる場合に沈殿するように選択する場合に、特に著しい分離感度の上昇が観察される。
【0041】
有利には負の固定電荷を有する高分子電解質は内部充填剤中に内部充填剤の質量に対して0.01〜5質量%の濃度で存在する。0.01質量%の濃度より下では、もはや本発明による鋭敏な分離特性は得られない。これに対して5質量%より上の本発明により使用される高分子電解質の濃度では、もはや内部充填剤中の添加物の可溶性及び従って十分な紡糸安定性を確保することができない。更に5質量%より上の濃度ではしばしば膜の透過性の減少が起こる。特に有利には負の固定電荷を有する高分子電解質の濃度は0.05〜1質量%である。
【0042】
内部充填剤の沈殿作用を、内面、即ち中空繊維膜の内腔に面した側に分離層が形成され、中空繊維膜の外側方向にそれと隣接して支持層が形成されるように調整すべきである。内部充填剤への負の固定電荷を有する高分子電解質の添加と組み合わせて、最初に、乾燥後及び前もって膜壁の細孔を安定化させる添加物、例えばグリセリンで処理することなく、本発明による鋭敏な分離特性を有する本発明による中空繊維膜を製造することができる。負の固定電荷を有する高分子電解質は分離層の形成及び特に分離層中の細孔の形成に対して、狭い細孔サイズ分布へ向かって、影響を有し並びに膜の表面極性に対する影響も有すると思われる。後者は本発明による膜を使用する際に、変化した二次膜に向かって作用する。更に分離層に関する変化は本発明による膜の発熱物質透過に対するより高い安全性の原因でもあると思われる。
【0043】
その際、負の固定電荷を有する高分子電解質は分離層中で物理的に結合している。これは前記高分子電解質が本発明による膜の分離層中で化学的には結合していないことを意味する。分離層中の高分子電解質の物理学的結合は非常に安定であるので、膜の湿式化学的製造で不可避である洗浄又は抽出でも、本発明による膜の滅菌又は使用によって膜の高分子電解質の著しい損失を生じないし、高分子電解質不含の膜を生じることなど全くない。下記説明で確言するつもりはないが、高分子電解質のポリマー鎖と膜形成ポリマーのポリマー鎖との引っかかり合い及び絡み合いが、例えば本発明による方法の間に、工程(b)で形成された溶剤含有中空繊維がその内側で高分子電解質含有の内部充填剤と接触することによって実現し、高分子電解質が本発明による膜の分離層中で安定に固着すると思われる。
【0044】
好適な検出方法、例えばESCA/XPS、IR分光法による検出、例えばフーリエ変換赤外分光(FTIR−ATR)又は酸性高分子電解質を塩基性色素と反応させることによって、本発明による方法を用いて製造した負の固定電荷を有する高分子電解質の中空繊維膜が分離層中に含有されていることを確認することができる。これに対して支持層の主要部分は実質的に負の固定電荷を有する高分子電解質不含である。
【0045】
分離層に隣接する支持層又は中空繊維膜の外側表面の範囲の所望される構造に応じて、有利な態様では中空繊維は、外側の凝固浴に浸漬されかつこの浴を通される前に、中空繊維ノズルからの出た後に、先ずなお1個の空気スリットを通過する。その際空気スリットは、特に有利には水蒸気で空気調整及び温度調整されていて、それによって特定の条件を中空繊維の外側での凝固開始前に、例えば空気調整された大気から非溶剤の配量摂取により設定することができ、それによって遅らされた前凝固が起こる。次いで拡散的に誘発された凝固を、有利には温度調整してあり、有利には水浴である外側の沈殿浴中で完了させ、膜構造を固定することができる。しかし、中空繊維が外側の沈殿槽中に浸漬される前に内部液体の沈殿作用により内部から外へ沈殿している場合には、外側の凝固浴は膜構造を固定しかつ中空繊維膜を押し出す準備をする課題のみを有していてもよい。外側で凝固を遅らせる空気調整された空気スリットを使用する代わりに、直接内部充填剤より僅かな沈殿作用を生じる外側の凝固浴中へ押し出すこともできる。
【0046】
膜構造の凝固及び固定の次ぎにこうして生成した中空繊維膜を抽出して、溶剤系の残り及びその他の可溶性有機物質を除去する。親水性第2ポリマーを使用する場合には通常抽出で親水性第2ポリマーの主要含分が除去される。しかし疎水性第1ポリマーを使用する場合には、十分な親水性及び湿潤性を確保するために親水性第2ポリマー分が本発明による膜中に残留する。その場合に親水性第2ポリマーの濃度は、本発明による膜の質量に対して1〜15質量%、特に有利には3〜10質量%である。
【0047】
抽出後、中空繊維膜を乾燥させ、場合により後の束での中空繊維膜の交換特性を改良するためにテクスチャード加工し、最後に常法により例えばボビンに巻き取るか又は好適な糸数及び長さを有する束に加工する。束を製造する前に例えば添付糸をマルチフィラメント糸の形で添加して、中空繊維膜の相互の分離を確保し、個々の中空繊維膜の環流性を良くすることもできる。
【0048】
本発明による中空繊維膜中に残留する親水性第2ポリマーを、不溶性にして次の使用で親水性ポリマーの洗浄流出を阻止するために、例えば照射及び/又は熱の適用によって架橋させることもできる。このために通常の公知技術から公知の方法を使用することができる。
【0049】
本発明による中空繊維膜の特に有利な態様では、支持層は分離層から始まって実質的に中空繊維膜の全壁に広がっており、指形細孔を有さない海綿状構造を有する。このような膜は、空洞状の大きな細孔を有する、即ち指形細孔を有する構造を有する膜に対して高い機械強度を有する。これによって膜の厚さを僅かにし、それにより広い範囲で本発明による膜の透水性を実現することができる。
【0050】
有利には本発明による膜の内径は100〜500μm、特に有利には150〜300μmである。壁厚は有利には10〜60μm、特に有利には25〜45μmである。
【0051】
本発明のもう一つの有利な態様では、分離層から離れた側で海綿状支持層の次ぎに、その細孔が支持層中の細孔に比して小さな細孔サイズを有するか又は細孔サイズが外側方向に減少するか又は海綿状支持層の構造が膜壁の外側範囲で外側表面へ向かって厚くなっている層が接続している。このような細孔構造を有する膜はEP828553に記載されており、その公開内容は前記したように参照にされたい。
【0052】
次ぎに本発明を実施例につき詳説する。
【実施例】
【0053】
実施例で得られた膜を特性付けるために下記の方法を使用した:
アルブミン溶液中の限外濾過率、チトクロームC及びアルブミンのふるい係数
下記でUFRAlbと称するアルブミン溶液(BSA−溶液)中の限外濾過率並びにチトクロームCのふるい係数SKCC及びアルブミンのふるい係数SKAlbはDIN58353第2部により測定する。
【0054】
試験溶液としては、ウシ血清(BSA)50g/l及びチトクロームC100mg/lを有する燐酸塩緩衝食塩溶液(PBS)を使用する。PBS溶液の処方は、ドイツ薬局方(DAB10、1.補足、1992VII.I.3"Phosphat−Pufferloesung pH7.4、natriumchloridhaltige R")に基づく。測定は、有効膜面約250cm及び有効中空膜長さ180mmを有する中空繊維膜モジュールで行う。測定は37℃で行う。膜モジュールの流入側の第1ポンプによって中空繊維膜を通る流量Q200ml/(分・m)を設定し、膜モジュールの流出側の第2ポンプを流入側の第1ポンプに対して制御することによって、膜壁を通る濾過流量Q30ml/(分・m)を設定する。濾過流量Qの結果として設定される膜間圧差TMPが測定の間に記録される。
【0055】
UFRAlbは下記式により得られる:
【数1】

【0056】
式中、Q=有効膜面1mに関する濾過流量[ml/(分・m)]、TMP=膜間圧差[hPa]。
【0057】
ふるい係数SKの測定は下記式により行う:
【数2】

【0058】
式中、C=濾液中のアルブミン又はチトクロームCの濃度、CST=アルブミン又はチトクロームCの原濃度、C=保持液中のアルブミン又はチトクロームCの濃度。
【0059】
BSAの濃度は、Boehringer Mannheimの方法で臨床化学用の自動分析器、例えばHitachi 704 Automatic Analyzerを用いて測定する。試験原則としてブロムクレゾールグリーン法を使用する。チトクロームCもHitachi704を用いて測定する。BSAによる波長λ=415mmにおけるチトクロームCの吸収の障害を取り除くために、先ず0〜約80g/lのBSAのPBS中のBSA希釈系を測定し、BSA濃度に対するλ=415mmでの吸光をプロットすることによって得た直線の傾斜因子を求める。補正因子は傾斜因子及び試料中のBSAの実際の濃度CSTから得られる。
【0060】
比較例1
ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.5質量%及びポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.65質量%からε−カプロラクタム31.75質量%、γ−ブチロラクトン31.75質量%及びグリセリン3.35質量%中で温度約100℃で強力に混合することによって均質な紡糸溶液を製造した。得られた溶液を約60℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、67℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入する。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して質量比61:4:35のε−カプロラクタム/グリセリン/水から成る内部充填液を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:約55℃;相対湿度80%)を通し、内部充填剤を用いて並びに約75℃の温水を含有する浴を通すことによって沈殿又は固定させた。こうして得た中空繊維膜を次いで約90℃の温水で洗浄し、乾燥させた。内腔径約0.2mm及び壁厚約0.03mmを有する中空繊維膜が得られた。この膜に関して得られたアルブミン溶液中の限外濾過率、UFRAlbを、チトクロームCのふるい係数SKCC及びアルブミンのふるい係数SKAlbと一緒に第1表に記載する。
【0061】
例1a
中空繊維膜を比較例1と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP1005(ISP社)0.25質量%を溶解しておいた点は変えた。Acrylidone ACP1005はアクリル酸75%及びビニルピロリドン25%から成るコポリマーである。内部充填剤を製造するために先ずε−カプロラクタム及び水から成る混合物を前装入し、この混合物中にAcrylidone ACP1005を溶解させ、次いでグリセリンを添加した。結果を第1表に記載する。
【0062】
例1b
中空繊維膜を比較例1と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Rohagit S hv(Degussa/Roehm社)0.25質量%を溶解しておいた点は変えた。Rohagit S hvはメタクリル酸及びメチルメタクリレートから成るコポリマーである。内部充填剤を製造するために先ずε−カプロラクタム/水から成る混合物を前装入し、この混合物中にRohagit S hvを溶解させ、次いでグリセリンを添加した。
【0063】
第1表に、UFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第1表
【表1】

【0064】
第1表が示すように、高分子電解質を内部充填剤に添加することによって、ほぼ同じ限外濾過率でアルブミン及びチトクロームCの分離に関する著しく高められた選択性を有する中空繊維膜が生じる。
【0065】
比較例2
ポリエーテルスルホン(Ultrason E 6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.68質量%、ε−カプロラクタム31.98質量%、γ−ブチロラクトン31.98質量%及びグリセリン3.36質量%から成る均質な紡糸溶液を温度約100℃で強力に攪拌することによって製造した。生成した溶液から比較例1に記載した方法で、内腔径約0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜を製造した。ノズル温度は62℃であった。内腔及び分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して質量比55:45のε−カプロラクタム/水から成る内部充填液を搬入した。この膜に関して得られた結果を第2表に記載する。
【0066】
例2
中空繊維膜を比較例2と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP 1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は異なる。内部充填剤を製造するために、先ずε−カプロラクタム/水から成る混合物を前装入し、この混合物中にAcrylidone ACP 1005を溶解させた。
【0067】
第2表に、得られた中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第2表
【表2】

【0068】
第2表が示すように、高分子電解質を内部充填剤に添加することによって、アルブミン及びチトクロームCの分離に関する著しく高められた選択性を有する中空繊維膜が生じる。
【0069】
比較例3
紡糸溶液を製造するために、ポリエーテルスルホン(Ultrason E 6020、BASF社)19.0質量%及びポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%をジメチルアセトアミド(DMAC)63.64質量%及び水4.06質量%と温度約70℃で強力に混合した。生じる均質な溶液を約50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、40℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、DMAC62質量部及び水38質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、次いで約50℃に温度調整された水を含有する沈殿浴で沈殿させた。こうして得た中空繊維膜を次いで約90℃の温水で洗浄し、約90℃で乾燥させた。内腔径約0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。こうして得た膜の特性を第3表に記載する。
【0070】
例3
中空繊維膜を比較例3と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP 1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は異なる。内部充填剤を製造するために、先ずAcrylidone ACP 1005を溶剤中に分散させ、次いで水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。次いで溶液を30℃に冷却した。
【0071】
第3表に、この例からの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第3表
【表3】

【0072】
比較例4
成分ポリエーテルスルホン(Ultrason E 6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%から、温度約70℃で強力に混合することによって、均質な紡糸溶液を製造した。溶液を約60℃に冷却し、ガス抜きし、60℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに供給した。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP50質量部及び水50質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維膜を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、約70℃に温度調整された水中で沈殿させ、固定し、次いで洗浄し、乾燥させた。内腔径約0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0073】
例4
中空繊維膜を比較例4と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP 1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために、先ずAcrylidone ACP 1005をNMP中に分散させ、次いで水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。次いで溶液を30℃に冷却した。
【0074】
第4表に、比較例4及び例4からの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第4表
【表4】

【0075】
比較例5
ポリエーテルスルホン(Ultrason E 6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K90、ISP社)4.75質量%、ジメチルアセトアミド(DMAC)68.62質量%及びグリセリン7.63質量%から、温度約70℃で均質な紡糸溶液を製造した。溶液を約50℃に冷却し、ガス抜きし、45℃に温度調整してある中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び内部の分離層を形成するために、DMAC47.5質量部、水47.5質量部及びグリセリン5質量部から成る内部充填剤を使用した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、70℃に温度調整した水中で沈殿させ、固定した。こうして得た中空繊維膜を次いで約90℃の温水で洗浄し、約90℃で乾燥させた。内腔径約0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0076】
例5
ポリエーテルスルホン中空繊維膜を比較例5と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP 1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために、先ずAcrylidone ACP 1005をジメチルアセトアミド中に分散させ、次いで水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。次いで溶液を30℃に冷却した。
【0077】
第5表に、比較例5及び例5からの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第5表
【表5】

【0078】
第5表が示すように、高分子電解質ACPを内部充填剤に添加する際に、著しく鋭敏な分離特性を有する中空繊維膜が得られる。
【0079】
比較例6
ポリスルホン(Ultrason S6010、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)65.87質量%及び水1.83質量%から、均質な紡糸溶液を製造した。このために先ずポリスルホンを主要分のNMP中に温度70℃で混入し、次いで90℃で均質に溶解させた。その後PVP K30を攪拌下で添加し、同じく溶解させた。こうして得た溶液を50℃に冷却し、次いで水並びに残りの量のNMPを添加した。生じた溶液をガス抜きし、濾過し、40℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。中空繊維ノズルのノズル針を通してNMP60質量部及び水40質量部から成る内部充填液を搬出した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、70℃に温度調整した水を有する沈殿浴で沈殿かつ固定させ、引き続き洗浄し、乾燥させた。内腔径約0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0080】
例6
ポリスルホン−中空繊維膜を比較例6と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acylidone ACP1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために、Acrylidone ACP1005をNMP中に分散させ、引き続き水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。溶液を最後に30℃に冷却した。
【0081】
第6表に、比較例6及び例6からの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第6表
【表6】

【0082】
比較例7
ポリエーテルイミド(Ultem 1010/1000、GE社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%及びN−メチルピロリドン(NMP)67.7質量%から、均質な紡糸溶液を製造した。このためにポリエーテルイミドを先ず温度70℃でNMP中に混入し、次いで90℃で均質に溶解させた。その後PVP K30を攪拌下で添加し、同じく溶解させた。こうして得た溶液を50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、次いで40℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP75質量部及び水25質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、次いで70℃に温度調整した水浴中で沈殿させ、固定した。洗浄し、乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0083】
例7
ポリエーテルイミド−中空繊維膜を比較例7と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために、先ずAcrylidone ACP1005をNMP中に分散させ、引き続き水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。溶液を最後に30℃に冷却した。
【0084】
第7表に、比較例7及び例7からの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第7表
【表7】

【0085】
比較例8
ポリフェニレンスルホン(Radel R 5000 NT、Solvay社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)64.32質量%及び水3.38質量%から成る均質な紡糸溶液を製造した。このためにポリフェニレンスルホンを主要量のNMP中に温度70℃で混入し、次いで温度90℃で均質に溶解させた。その後PVP K30を攪拌下で添加し、同じく溶解させた。生じる溶液を50℃に冷却し、次いで水並びに残りの量のNMPを添加した。こうして得た均質な溶液をガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP63質量部及び水37質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、70℃に温度調整した水を有する沈殿浴中で沈殿させた。90℃の温水で洗浄し、乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。こうして得た中空繊維膜の特性を第8表にまとめて記載する。
【0086】
例8
ポリフェニレンスルホン−中空繊維膜を比較例8と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP1005(ISP社)0.5質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために、Acrylidone ACP1005をNMP中で分散させ、引き続き水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。溶液を最後に30℃に冷却した。
【0087】
第8表に、この中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第8表
【表8】

【0088】
比較例9
攪拌容器中で温度約70℃でポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%から、均質な紡糸溶液を製造した。紡糸溶液をついで約55℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP54質量部及び水46質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、約70℃に温度調整した水を有する沈殿浴中で沈殿させた。約85℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0089】
例9a〜e
膜特性と内部充填剤中に含有される高分子電解質の濃度との依存関係を調べた。このために中空繊維膜を比較例9と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Rohagit S hv(Degussa/Roehm社)0.01〜0.25質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために先ずRohagit S hvをNMP中に分散させ、水の添加後約70℃で溶解させ、次いで30℃に冷却した。
【0090】
第9表に、比較例9及び例9a〜eからの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第9表
【表9】

【0091】
表から、本実施例で内部充填剤中の約0.10質量%の濃度より上のRohagit S hvでは膜特性は更に改善されないことが示される。
【0092】
比較例10a
紡糸溶液を製造するために、攪拌容器中でポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%を温度約70℃で強力に攪拌した。生じた均質な溶液を約50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP54質量部及び水46質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、約63℃に温度調整した水を含有する沈殿浴中で沈殿させ、固定した。85℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.03mmを有する中空繊維膜が得られた。こうして得た中空繊維膜の特性を第10表に記載する。
【0093】
例10a〜d、比較例10b
高分子電解質濃度の影響を調べるために、中空繊維膜を比較例10aと同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Rohagit S ENV(Degussa/Roehm社)0.01〜0.25質量%を溶解しておいた点は変えた。Rohagit S ENVはメタクリル酸及びメチルメタクリレートからなるコポリマーである。内部充填剤を製造するために各々先ずRohagit S ENVをNMP中に分散させ、水の添加後約70℃で溶解させ、次いで30℃に冷却した。
【0094】
第10表に、比較例10a及び10b及び例10a〜dからの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第10表
【表10】

【0095】
比較例11a
均質な紡糸溶液を製造するために、ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%を攪拌容器中で温度約70℃で強力に攪拌した。生じた均質な溶液を約50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP54質量部及び水46質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維膜を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、約67℃に温度調整した水を含有する沈殿浴中で沈殿させ、固定した。85℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.03mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0096】
例11a〜d、比較例11b
種々の中空繊維膜を比較例11aと同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Acrylidone ACP 1005(ISP社)を濃度0.01〜0.25質量%で溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために各々先ずAcrylidone ACP 1005をNMP中に分散させ、次いで水を添加し、約70℃で均質な溶液を製造した。溶液を最後に30℃に冷却した。
【0097】
第11表に、比較例11a及び11b及び例11a〜dからの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第11表
【表11】

【0098】
比較例12a〜f
攪拌容器中で、ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%から強力な攪拌下で温度約約70℃で均質な紡糸溶液を製造した。溶液を約50℃に冷却し、濾過し、ガス抜きし、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び内部の分離層を形成するために中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP及び水から成る内部充填剤を搬入した。6種の異なる膜を製造したが、その際内部充填剤の組成は質量部に関してNMP:水を48:52から58:42に段階的に変えた。各々生成した中空繊維膜を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、約70℃に温度調整した水浴中で沈殿させた。80℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0099】
例12a〜f
中空繊維膜を比較例12a〜fと同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Rohagit S hv(Degussa/Roehm社)各々0.1質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために各々先ずRohagit S hvをNMP中に分散させ、水の添加後約70℃で溶解させ、次いで30℃に冷却した。
【0100】
第12表に、比較例12a〜f及び例12a〜fからの中空繊維膜のUFRAlb、SKCC及びSKAlbをまとめて記載する。
第12表
【表12】

【0101】
第12表は、膜製造で内部充填剤にただ高分子電解質Rohagit S hv0.1質量%を添加する場合に、膜は同じNMP:水比でアルブミン及びチトクロームCの分離に関する著しく高い選択性を有することを示す。高分子電解質Rohagit S hvの添加なしでは、チトクロームCの高いふるい係数はアルブミンの高いふるい係数を甘受する場合にのみ達成されるにすぎない。
【0102】
比較例13
ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%から攪拌容器中で温度約70℃で強力な攪拌下で均質な紡糸溶液を製造した。溶液を次いで約50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに供給した。中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP52質量部及び水48質量部から成る内部充填剤を搬入した。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:50℃;相対湿度90%)を通し、次いで約75℃の温水を含有する沈殿浴中で沈殿させた。80℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.035mmを有する中空繊維膜が得られた。
【0103】
例13
中空繊維膜を比較例13と同様にして製造したが、しかし内部充填剤中にその質量に対して付加的に高分子電解質Rohagit S ENV(Degussa/Roehm社)0.25質量%を溶解しておいた点は変えた。内部充填剤を製造するために各々先ずRohagit S ENVをNMP中に分散させ、水の添加後約70℃で溶解させ、次いで30℃に冷却した。
【0104】
比較例13及び例13からの中空繊維膜の特性を第13表にまとめて記載する。
第13表
【表13】

【0105】
例14
紡糸溶液を製造するために、ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%を温度約60℃で強力に攪拌した。生じる均質な溶液を約50℃に冷却し、ガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP52質量部及び水48質量部並びに内部充填剤の質量に対して0.1質量%の高分子電解質Carbopol 1382(Noveon社)の添加から成る内部充填剤を搬入した。内部充填剤を製造するために、Carbopol 1382を先ずNMP中に分散させ、水の添加後約70℃で溶解させた。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:55℃;相対湿度80%)を通し、約71℃に温度調整した水を有する沈殿浴中で沈殿させた。90℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.03mmを有する中空繊維膜が得られた。この中空繊維膜の特性を第14表に記載する。
第14表
【表14】

【0106】
例15a〜b
ポリエーテルスルホン(Ultrason E6020、BASF社)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(PVP K30、ISP社)13.3質量%、N−メチルピロリドン(NMP)62.96質量%及び水4.74質量%を温度約60℃で強力な攪拌下で加工して均質な紡糸溶液にした。溶液をガス抜きし、濾過し、45℃に温度調整した中空繊維ノズルの環状スリットに導入した。内腔及び分離層を形成するために、中空繊維ノズルのノズル針を通して、NMP55.95質量部、水43.95質量部並びに高分子電解質Styleze 2000(ISP社)0.1質量%から成る(例19a)又はNMP55.88質量部、水43.87質量部並びに高分子電解質Styleze 2000 0.25質量%から成る(例19b)内部充填剤を搬入した。内部充填剤を製造するためにStyleze 2000を先ずNMP中に混入し、水の添加後70℃で溶解させた。Styleze 2000はアクリル酸、ビニルピロリドン及びラウリルメタクリレートから成るコポリマーである。形成された中空繊維を空調チャンネル(空調:55℃;相対湿度70%)を通し、約65℃に温度調整した水を有する沈殿浴中で沈殿させた。90℃の温水で洗浄し、熱気で乾燥させた後に、内腔径0.2mm及び壁厚約0.03mmを有する中空繊維膜が得られたが、そのUFRAlb、SKCC及びSKAlbを第15表にまとめて記載する。
【0107】
第15表
【表15】

【0108】
本願発明の好ましい態様は以下の通りである:
1.膜構造を構成する親水性合成ポリマーをベースとするか又は膜構造を構成する合成第1ポリマーと親水性第2ポリマーとから成る組合せ物をベースとする、特に血液透析、血液透析濾過又は血液濾過用の、親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜であって、前記組合せ物中の合成第1ポリマーは親水性又は疎水性であってよく、かつ合成第1ポリマーが疎水性である場合には親水性第2ポリマーは中空繊維膜の親水性をもたらすものであり、前記中空繊維膜はその壁全体にわたる開気孔の一体非対称構造と、その内腔に向いた内面上に細孔を有する厚さ0.1〜2μmの分離層と並びにこの分離層と隣接して開気孔の支持層とを有し、前記中空繊維膜は25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有しかつ前もって乾燥後に少なくとも0.8のチトクロームCのふるい係数を最高0.005のアルブミンのふるい係数と併せて有し、かつ前記中空繊維膜が乾燥状態で膜壁の細孔を安定化させる添加物を有さない中空繊維膜において、分離層中で負の固定電荷を有する高分子電解質が物理的に結合していることを特徴とする、中空繊維膜。
2.中空繊維膜が膜構造を構成する疎水性第1ポリマー及び親水性第2ポリマーを含むことを特徴とする、1に記載の中空繊維膜。
3.疎水性第1ポリマーが芳香族スルホンポリマー、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド又はこれらのポリマーのコポリマー又は混合物であることを特徴とする、2に記載の中空繊維膜。
4.疎水性第1ポリマーがポリスルホン又はポリエーテルスルホンであることを特徴とする、3に記載の中空繊維膜。
5.親水性第2ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース又はこれらポリマーのコポリマーであることを特徴とする、1から4までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
6.支持層が、分離層から始まって実質的に中空繊維膜の全壁に広がっており、海綿状構造を有し、指形細孔を有さないことを特徴とする、1から5までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
7.少なくとも0.85のチトクロームCのふるい係数を有することを特徴とする、1から6までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
8.最高0.003のアルブミンのふるい係数を有することを特徴とする、1から7までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
9.30〜55ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有する1から8までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
10.親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜の製法であって、前記方法は(a)紡糸溶液の質量に対して12〜30質量%の合成親水性ポリマー又は紡糸溶液の質量に対して0.1〜30質量%の親水性第2ポリマーと組み合わせた紡糸溶液の質量に対して12〜30質量%の合成第1ポリマー(ここで合成第1ポリマーは組合せ物の場合には親水性であってもよいし、疎水性であってもよい)並びに場合によりその他の添加物を溶剤系中に含有する均質な紡糸溶液を製造し、(b)紡糸溶液を中空繊維ノズルの環状スリットを通して押出して中空繊維にし、(c)内部充填剤を中空繊維ノズルの中央開口を通して押出し、ここで内部充填剤は、合成第1ポリマー用の溶剤並びに非溶剤を含む合成第1ポリマー用の凝固媒体であり、(d)内部充填剤を中空繊維の内面と接触させ中空繊維の内面で凝固を起こし、かつ分離層を中空繊維内面に形成しかつ膜構造を形成し、(e)場合により膜構造の形成を完成させかつ膜構造を固定するために、中空繊維を凝固浴中を通過させ、(f)こうして形成した中空繊維膜を溶剤系並びに可溶性物質を除去するために抽出し、(g)中空繊維膜を乾燥させる工程を含む中空繊維膜の製法において、内部充填剤が負の固定電荷を有する高分子電解質を含有し、ここで高分子電解質の質量分は内部充填剤の質量に対して0.025〜5質量%であり、かつ前記の方法の工程を、少なくとも0.8のチトクロームCのふるい係数を最高0.005のアルブミンのふるい係数と併せて有する1に記載の中空繊維膜が得られるように実施することを特徴とする、親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜の製法。
11.紡糸溶液が、紡糸溶液の質量に対して12〜30質量%の疎水性第1ポリマーを紡糸溶液の質量に対して0.1〜30質量%の親水性第2ポリマーとの組合せで含有することを特徴とする、10に記載の方法。
12.第1疎水性ポリマーとして、芳香族スルホンポリマー、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド又はこれらのポリマーのコポリマー又は混合物を使用することを特徴とする、11に記載の方法。
13.第2親水性ポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース又はこれらポリマーのコポリマーを使用することを特徴とする、10から12までのいずれか1項に記載の方法。
14.溶剤系が極性非プロトン性溶剤を含むことを特徴とする、10から13までのいずれか1項に記載の方法。
15.高分子電解質をポリ燐酸、ポリスルホン酸又はポリカルボン酸の群から選択することを特徴とする、10から14のいずれか1項に記載の方法。
16.ポリカルボン酸がアクリル酸のホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする、15に記載の方法。
17.高分子電解質の質量分が内部充填剤の質量に対して0.01〜1質量%であることを特徴とする、10から16までのいずれか1項に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に血液透析、血液透析濾過又は血液濾過用の、合成第1ポリマーをベースとする親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜であって、前記中空繊維膜はその壁全体にわたる開気孔の一体非対称構造と、その内腔に向いた内面上に細孔を有する厚さ0.1〜2μmの分離層と並びにこの分離層と隣接して開気孔の支持層とを有し、かつ25〜60ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有する中空繊維膜において、前記中空繊維膜が前もって乾燥後に少なくとも0.8のチトクロームCのふるい係数を最高0.005のアルブミンのふるい係数と併せて有し、その際前記中空繊維膜が乾燥状態で膜壁の細孔を安定化させる添加物を有さないことを特徴とする、中空繊維膜。
【請求項2】
中空繊維膜が更に親水性第2ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の中空繊維膜。
【請求項3】
合成第1ポリマーが疎水性第1ポリマーであり、かつ中空繊維膜が更に親水性第2ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の中空繊維膜。
【請求項4】
疎水性第1ポリマーが芳香族スルホンポリマー、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド又はこれらのポリマーのコポリマー又は変性物又はこれらのポリマーの混合物であることを特徴とする、請求項3に記載の中空繊維膜。
【請求項5】
疎水性第1ポリマーがポリスルホン又はポリエーテルスルホンであることを特徴とする、請求項4に記載の中空繊維膜。
【請求項6】
親水性第2ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース又はこれらポリマーの変性物又はコポリマーであることを特徴とする、請求項2から5までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項7】
支持層が、分離層から始まって実質的に中空繊維膜の全壁に広がっており、海綿状構造を有し、指形細孔を有さないことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項8】
少なくとも0.85のチトクロームCのふるい係数を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項9】
最高0.003のアルブミンのふるい係数を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項10】
分離層中で負の固定電荷を有する高分子電解質が物理的に結合していることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項11】
30〜55ml/(h・m・mmHg)の範囲のアルブミン溶液中の限外濾過率を有する請求項1から10までのいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項12】
請求項1に記載の親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜の製法であって、前記方法は(a)12〜30質量%の合成第1ポリマー並びに場合によりその他の添加物を溶剤系中に含有する均質な紡糸溶液を製造し、(b)紡糸溶液を中空繊維ノズルの環状スリットを通して押出して中空繊維にし、(c)内部充填剤を中空繊維ノズルの中央開口を通して押出し、ここで内部充填剤は、合成第1ポリマー用の溶剤並びに非溶剤を含む合成第1ポリマー用の凝固媒体であり、(d)内部充填剤を中空繊維の内面と接触させ中空繊維の内面で凝固を引き起こし、かつ分離層を中空繊維内面に形成しかつ膜構造を形成し、(e)場合により膜構造の形成を完成させかつ膜構造を固定するために、中空繊維を凝固浴中を通過させ、(f)こうして形成した中空繊維膜を溶剤系並びに可溶性物質を除去するために抽出し、(g)中空繊維膜を乾燥させる工程を含む中空繊維膜の製法において、内部充填剤が負の固定電荷を有する高分子電解質を含有し、それによって少なくとも0.8のチトクロームCのふるい係数を最高0.005のアルブミンのふるい係数と併せて有する中空繊維膜が得られることを特徴とする、請求項1に記載の親水性の水湿潤性の半透過性中空繊維膜の製法。
【請求項13】
紡糸溶液が更に0.1〜30質量%の第2親水性ポリマーを含有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
合成第1ポリマーが疎水性第1ポリマーであり、かつ紡糸溶液が更に第2親水性ポリマー0.1〜30質量%を含有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
第1疎水性ポリマーとして、芳香族スルホンポリマー、例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド又はこれらのポリマーのコポリマー又は変性物又はこれらのポリマーの混合物を使用することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第2親水性ポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース又はこれらポリマーの変性物又はコポリマーを使用することを特徴とする、請求項13から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
溶剤系が極性非プロトン性溶剤を含むことを特徴とする、請求項12から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
高分子電解質をポリ燐酸、ポリスルホン酸又はポリカルボン酸の群から選択することを特徴とする、請求項12から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ポリカルボン酸がアクリル酸のホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
高分子電解質の質量分が内部充填剤の質量に対して0.01〜1質量%であることを特徴とする、請求項12から19までのいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−214124(P2010−214124A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107539(P2010−107539)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【分割の表示】特願2006−553512(P2006−553512)の分割
【原出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(300083158)メムブラーナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (14)
【氏名又は名称原語表記】Membrana GmbH
【住所又は居所原語表記】Oehder Strasse 28, D−42201 Wuppertal, Germany
【Fターム(参考)】