説明

改良型FRETプローブおよびその使用

本発明は、検出、特に、腫瘍特異的な融合タンパク質およびタンパク質相互作用の検出に関する。少なくとも第1および第2の分子プローブの一式が提供され、各プローブには色素が付与されており、前記色素は協働してエネルギー移動を引き起こし、各プローブには、前記少なくとも第1および第2のプローブを並列させるような反応基がさらに付与され、前記反応基は、オリゴヌクレオチドであり、前記第1のプローブの反応基は、前記第2のプローブの反応基とは直接反応しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出、特に、腫瘍特異的な融合タンパク質およびタンパク質相互作用の検出に関する。より具体的には、本発明は、融合タンパク質および/または相互作用するタンパク質の存在を単一細胞レベルで示す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の診断および分類は、通常、特異的なタンパク質または一群のタンパク質分子の検出に基づいており、癌性異常の、主としてDNAレベルまたはRNAレベルでの検出にも基づいている[1]。正常および悪性細胞に関する現在のゲノミクスおよびプロテオミクス研究によって、遺伝子発現および遺伝子異常に関する情報は飛躍的に拡がっている。このことが、細胞−細胞相互作用、細胞の活性化、シグナル伝達経路、増殖、分化、アポトーシス、およびその他多数の正常および異常な細胞機能を制御する、多様な新規タンパク質ネットワークの発見につながっている。これらのタンパク質ネットワークを明らかにするためには、個々のタンパク質分子の厳密な共局在を特異的に検出する必要がある。
【0003】
悪性腫瘍の分類は、細胞系統および分化の特徴、ならびに特異的な染色体異常の存在に特に基づいている。これらの染色体異常の多くは、融合遺伝子、すなわち、1つの遺伝子の上流部分が他の遺伝子の下流部分に連結された、またはその逆である、異常に連結された遺伝子を生じる[2−5]。これらの融合遺伝子は、融合遺伝子転写物に転写されて、癌化過程に重要な役割を果たしていると考えられている融合タンパク質へと翻訳される(図1)。これまでに、100を超える異なる型の融合遺伝子が、白血病、リンパ腫および白血病、リンパ腫、および固形腫瘍で報告されている。典型的な融合タンパク質を表1に列挙している。
【0004】
したがって、単一細胞レベルでこれらの腫瘍特異的融合タンパク質を確実に検出することによって、癌患者の診断および分類が大幅に進歩すると同時に、適用した治療方法の有効性の指標としての、治療中における悪性細胞消失のモニタリングも大きく進歩するであろう。
【0005】
【表1】

【0006】
まず最初に、研究者らは、融合タンパク質の融合エピトープに対する抗体を作製することによって、融合タンパク質特異的抗体を確立しようとした。このアプローチは、ほとんど成功せず、特異的抗体が得られたとしても、それらの抗体はたいてい、蛍光顕微鏡またはフローサイトメトリーに適用できるものではなかった[6−8]。たとえば、BCR−ABLp190融合タンパク質に対するER−FP1抗体は、ウェスタンブロッティングにおいては良好に働くが、ヒトBCR−ABL陽性白血病 に関する顕微鏡的研究においては働かなかった[6,7]。
【0007】
これらの初期の問題にもかかわらず、融合タンパク質の特異的検出は、融合タンパク質のある部分に対する捕捉抗体およびタンパク質の他の部分に対するラベルした検出抗体の利用を通じて可能になってきた。このような系において、捕捉抗体は、ディップスティック、ELISAプレート、またはビーズのような、フローサイトメトリーで分析可能な固体層に固定される[9]。これらの系は洗練されており簡単に実施できるが、細胞溶解物を用いるため、その結果、細胞内融合タンパク質を単一細胞レベルで検出することができない。
【0008】
2つの異なる膜結合型タンパク質および/または細胞内タンパク質間の近距離での相互作用、または融合タンパク質の存在は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に適した蛍光色素にコンジュゲートまたは連結させた抗体を利用して調べることができる。FRET技術は、(異なる励起波長をもつ)2つの異なる蛍光色素を並列させることに基づいており、1つの蛍光色素が、もう一方の蛍光色素を励起する発光を生じる(図2)。もし第2の蛍光色素の発光をフローサイトメトリーで検出できれば、この方法によって、タンパク質ネットワークの簡便で高速な分析および融合タンパク質の検出が単一細胞レベルで可能となる。たとえば共焦点レーザースキャニング顕微鏡を用いて、相互作用しているタンパク質および融合タンパク質の細胞内における正確な位置を調べることができる。
【0009】
2つのFRET蛍光色素コンジュゲート抗体がおおまかに共局在しているだけでは、必要な光エネルギー移動に十分ではない。2つの異なる抗体に連結された蛍光色素が接近して並列する(一般的に80オングストローム未満であるが、好ましくは50オングストローム未満、より好ましくは10オングストローム未満)ように、検出されるタンパク質が厳密に共局在することが必要であり、このことは効果的な光エネルギー移動に必須である。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らはこれまでに、FRET技術が、特異的に設計したプローブ一式を用いて、細胞中の融合タンパク質の存在(WO2004/042398)、またはタンパク質の相互作用(WO2004/042404)を検出するために利用できることを報告した。WO2004/042398およびWO2004/042404によれば、各プローブには色素が付与され、前記色素が協働してFRETを引き起こし、かつ、少なくとも1つのプローブには反応基が付与されている。反応基に結合可能な“架橋”試薬を加えることで、FRET色素間のエネルギー移動の可能性が高くなるように、第1および第2のプローブが並列される。WO2004/042398は、たとえば、A−B融合タンパク質の断片AおよびBに対する抗体プローブAおよびBの一群を開示しており、ここで、AおよびBは、異なるFRET色素でラベルされており、かつ(ストレプト)アビジン架橋物質に結合可能なビオチン反応基が付与されている。反応基へ架橋物質が添加されることにより、抗体プローブの空間的構成が反応基を介して調節される。これによりプローブに付加されている個々のFRET色素が、FRETが起こり得るような相互距離、すなわち、互いに約80〜100オングストローム以内、に近付く。WO2004/042398およびWO2004/042404のプローブおよび方法によって概ね満足な結果が得られるが、本発明では、さらなる改良を目指した。特に、本発明の目的は、融合タンパク質および相互作用するタンパク質を検出するためのFRETに基づく方法の感度を向上させることである。
【0011】
この目的は、オリゴヌクレオチド部分が、FRET色素を、FRETが高効率で起こり得るような、接近した並列配置に持っていくのに非常に好適であるということにより達成される。オリゴヌクレオチドは小型であるので、並列した色素間の空間を最小にすることができる。さらに、特異性が高く強力な分子間相互作用が得られるように、相補的なオリゴヌクレオチド配列を設計できる。このように、本発明者らは、オリゴヌクレオチド(たとえば、DNA またはPNA またはLNA分子)が、色素ラベルしたプローブの接近した並列配置を調節し、かつ/または促進するための、すぐれた反応基および架橋物質であると考えた。
【0012】
本発明は、したがって、各プローブに色素が付与された、少なくとも第1および第2の分子プローブの一式を提供する。ここで、前記色素は協働してエネルギー移動を引き起こし、各プローブには、前記少なくとも第1および第2のプローブを並列させるような反応基がさらに付与され、前記反応基は、オリゴヌクレオチドであり、前記第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基は、前記第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基とは直接反応しない。後者は、プローブ間の不要な自己会合によって生成する偽陽性のシグナルを避けるために必要である。
【0013】
本発明の基礎となる原理を、図3に模式的に示す。第1の分子プローブ(抗体A)には、FRET色素Xおよび少なくとも1つの反応基が付与され、前記反応基は、オリゴヌクレオチド(ヌクレオチドA)を含む、またはオリゴヌクレオチド(ヌクレオチドA)からなる。反応基は、架橋物質(ヌクレオチドC)に特異的に結合でき、架橋物質(ヌクレオチドC)は、一部が少なくともヌクレオチドAの断片の配列に対し相補的な核酸配列を含む、または、前記核酸配列からなる。ヌクレオチドCはまた、FRET色素Yが付加された第2の分子プローブ(抗体B)の反応基(ヌクレオチドB)の配列の少なくとも一部に対し相補的である。色素XおよびYは協働してFRET対を形成する。第1および第2のプローブが互いに近距離に接近した場合(たとえば、図に示すように、それらが融合タンパク質A−B上の近接したエピトープ、または、相互作用する分子上のエピトープに結合することにより)にのみ、オリゴヌクレオチド反応基(ヌクレオチドAおよびB)は、架橋物質(ヌクレオチドC)が第1および第2のプローブいずれの反応基にも結合できるほど、互いに十分に接近する。この相互作用は、FRETシグナルが検出され得るよう、2つのプローブ結合型色素間の距離を短縮し、安定化する。
【0014】
FRETエネルギー移動の効率は、ドナー色素およびアクセプター色素間の距離の6乗に逆比例する。オリゴヌクレオチド反応基の大きさが非常に小さいことと、ここで開示されるオリゴヌクレオチドリンカーシステムの架橋物質とによって、色素をごく近くに隣接させることができ(たとえば、10オングストローム以内)、WO2004/042398 またはWO2004/042404に開示されたタンパク質性反応基および架橋物質を用いるよりも、より強力な蛍光シグナルを得ることができる。さらに、反応基そのもの同士の間でなく、反応基および架橋物質の相補配列間の塩基対認識によって、高い特異性が得られる。
【0015】
3つのオリゴヌクレオチド分子を安定化リンカーシステムとして用いるこのFRET法では、細胞を、通常は最初に、各々がオリゴヌクレオチド反応基をもつ少なくとも2つのプローブで細胞内ラベルし、続いて(厳密な条件で)洗浄し、次に、特異的に設計した架橋オリゴヌクレオチドとインキュベーションして、2つの反応抗体を近距離で安定に連結させる。好ましい実施形態としては、各プローブには、各々が架橋オリゴヌクレオチドと反応する、2〜6個のオリゴヌクレオチドのような、多重な反応基が付与される。1つのプローブに含まれる前記反応基は、互いに同一であってもよいし、または異なっていてもよい。
【0016】
ここで用いられる、“反応基オリゴヌクレオチド”および“オリゴヌクレオチド反応基”という表現は、特に断りなく、置き換え可能に用いられる。また、“架橋オリゴヌクレオチド”および“オリゴヌクレオチド架橋物質”も同じ実体として扱う。
【0017】
ここで用いられる、“オリゴヌクレオチド”という用語は、核酸または、長鎖につながった核酸アナログの一続きを指す。オリゴヌクレオチドの全長は、中でも核酸または核酸アナログの性質に依存して異なってよい。1つの実施形態としては、オリゴヌクレオチドは、5〜50残基、好ましくは10〜30残基の核酸または長鎖につながった核酸アナログの鎖からなる。核酸とは、たとえば、含窒素塩基(DNAではA,G,Tまたは C、RNAではA,G,U、またはC)、電荷をもつリン酸部分、および糖部分(DNAではデオキシリボース、RNAではリボース)を含むヌクレオチドである。
【0018】
プローブ結合型オリゴヌクレオチド(すなわち反応基)の好適な長さは、少なくとも8つの核酸残基からなり、好ましくは10〜18残基の核酸またはアナログからなる長さを含む。各プローブ上のオリゴヌクレオチド反応基の長さは、異なっていてもよいし、同じであってもよい。1つの実施形態としては、それらは同じ長さであって、たとえば10〜15残基、好ましくは10〜12残基の核酸またはアナログである。架橋オリゴヌクレオチドは、一般に反応基オリゴヌクレオチドよりも長い。1つの実施形態としては、架橋またはリンカーオリゴヌクレオチドは、15〜40残基の核酸またはそのアナログであり、たとえば、18〜30残基、たとえば約20〜約25残基である。
【0019】
好ましい実施形態としては、オリゴヌクレオチドは、ペプチド核酸(PNA)オリゴマーである。PNAはDNAまたはRNAに類似するが、その“主鎖”の組成が異なる。DNAおよびRNAは、デオキシリボースおよびリボース糖主鎖をそれぞれ有するが、PNAの主鎖は、ペプチド結合で連結された反復N−(2−アミノエチル)−グリシンユニットからなる。多様なプリンおよびピリミジン塩基が、メチレンカルボニル結合によって主鎖に連結される。PNAは、一般的にはペプチドのように、第1位(左側)にN末端および右側にC末端を付して、表される。
【0020】
核酸アナログPNAは、自然界において天然には発生しないが、人工的に合成可能である。PNAは、生物学的研究および診療の特定の分野で用いられてきた。合成ペプチド核酸オリゴマーは、近年では、分子生物学的手法、診断アッセイ、およびアンチセンス療法に用いられている。PNAの主鎖は、電荷のないリン酸基を含むので、静電気的反発がなく、PNA鎖/DNA鎖間の結合はDNA鎖/DNA鎖間の結合よりも強い。ホモピリミジン鎖(1つのピリミジン塩基の繰り返しのみからなる鎖)を用いた以前の実験では、6塩基のチミンPNA/アデニンDNA二重らせんのTm(“融解”温度)は、同等の6塩基DNA/DNA2本鎖が10℃未満で変性するのに対し、31℃であることが示されている。混合塩基PNA分子は、塩基対認識においてDNA分子を正確に模倣する。
【0021】
PNAオリゴマーはまた、PNA/DNA塩基のミスマッチがDNA/DNA二重鎖における同様のミスマッチよりも不安定であるので、相補DNAへの結合においてより高い基質特異性を示す。この結合力および特異性は、PNA/RNA二本鎖にも当てはまる。PNAは、ヌクレアーゼによってもプロテアーゼによっても容易に認識されず、酵素分解に対して耐性を示す。PNAはまた、広いpH範囲にわたって安定である。最後に、PNAの非電荷的性質によって細胞膜透過がより容易となるので、このことで、無傷細胞における融合タンパク質の検出を含む本発明における、PNAの有用性がさらに増す。一態様において、約10残基から16残基の、たとえば12〜15残基のPNAユニットからなるPNAオリゴヌクレオチドは、反応基オリゴヌクレオチドとして用いられ、20残基から30残基のPNAユニットからなる架橋オリゴヌクレオチドと任意に組み合わせて用いてもよい。具体的な態様としては、プローブ結合型PNA配列は、20残基から25残基の、たとえば21残基のPNAユニットからなる架橋オリゴヌクレオチドに対して相補的な、10残基から12残基のPNAユニットからそれぞれなる。
【0022】
さらに他の実施形態では、オリゴヌクレオチドは、ロックされた核酸(LNATM)を含む。LNAは、2’‐O,4’‐Cメチレン架橋を含む新しい種類の核酸アナログである。この架橋―3’‐エンド配位で固定された―が、リボフラノース環の柔軟性を制限し、構造を柔軟性のない二環構造に固定し、このことでハイブリダイゼーションの効率が向上し、生物学的に並はずれた安定性が得られる。
【0023】
当業者にとっては当然のことながら、反応基および架橋物質としては、核酸オリゴマーの種類(たとえばDNA,RNA,LNA,PNA)、の多様で異なる組合せを用いることができる。反応基および架橋基質間の特異的でアフニティーの高い相互作用が、ホモ二量体(たとえばDNA/DNA,PNA/PNA)またはヘテロ二量体(たとえばDNA/PNA)構造のいずれかによって得られる。1つの実施形態としては、本発明のプローブ一式は、少なくとも第1および第2のプローブを含み、各プローブには異なるオリゴヌクレオチドが反応基として付与されており、ここで前記核酸オリゴマーはデオキシリボヌクレオチドオリゴマー(DNA)である。これらのDNA反応基は、異なる種類の架橋物質、たとえば、DNA(ホモ二量体)またはPNA(ヘテロ二量体)架橋物質、によって、クラスター化されてもよい。または、反応基は、RNA(ホモ二量体)またはPNA(ヘテロ二量体)架橋物質によって認識され結合され得るオキシリボヌクレオチド配列(RNA)を含む。または、架橋物質と少なくとも第1のプローブの反応基との間のホモ二量体、および架橋物質と少なくとも第2のプローブとの間のヘテロ二量体を用いてもよい。たとえば、プローブAにはPNA反応基が付加され、プローブBにはDNAまたはRNA反応基が付加され、いずれの基もPNA架橋物質によってクラスター化され得る。
【0024】
架橋オリゴヌクレオチドおよびいずれかのオリゴヌクレオチド反応基間の相補性の程度は、特異的で安定な結合が可能である限り、様々であってよい。1つの実施形態としては、反応基および架橋基質間で、少なくとも5残基長、好ましくは少なくとも7残基長の連続した核酸またはアナログにわたり相補性(すなわち塩基対合)がある。当然のことながら、第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基は、プローブの自己会合および付加色素同士間での早まったエネルギー移動が起きるのを避けるため、第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基とは直接反応しない。このことは、FRETシグナルが並列したプローブを正確に反映していることを確実にするため重要である。
【0025】
1つの実施形態として、架橋物質は、第1のオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に相補的な第1の配列、および、第2のオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に相補的な第2の配列を含み、ここで、第1および第2の配列は、少なくとも1つの核酸またはアナログで隔てられている。たとえば、1〜10残基、たとえば2,3,4、または5残基の核酸によって隔てられる。1〜3残基の核酸による間隔がより好ましい。別の実施形態では、相補配列は、1残基またはそれ以上のアミノ酸残基、好ましくは1残基または2残基のグリシンのような小さなアミノ酸残基で隔てられる。
【0026】
しかしながら、第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に相補的な配列は、第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に相補的な配列と、間隔なしに直接隣接させてもよい。好ましくは、架橋オリゴヌクレオチドの両端は、単鎖の“遊離末端”が存在しないように、オリゴヌクレオチド反応基との結合に関与するように設計される。
【0027】
さらに、オリゴヌクレオチド配列は、融合タンパク質の検出が行われる細胞における内在性のオリゴヌクレオチド配列と交差反応性でないものを選択しなければならない。したがって、本発明の実施に用いられるすべての配列の設計において、内在性(たとえばヒト)DNAおよび/またはRNA 配列との相補性は、オリゴヌクレオチドの不要なブロッキングまたは除去を避けるため、最小化されるか、または完全に回避しなければならない。
【0028】
1つの実施形態として、第1のプローブに、配列5’−CGA TTC TAT G−3’を含む反応基オリゴヌクレオチドが、たとえばリンカーを介して付与され、第2のプローブに、配列5’−TGT ACC TTG A−3’を含む反応基オリゴヌクレオチドが、たとえばリンカーを介して付与される。このプローブ一式は、配列5’−TCA DGG TAC A Gly Gly CAT AGA ATC G−3’を含む、または、前記配列からなる架橋オリゴヌクレオチドと組み合わせて有効に用いられる。本発明は、架橋物質と各プローブとの間の十分な結合力および結合特異性を与え得る、DNA、RNA、PNAまたはそれらの任意の組合せである、いかなる配列一式を用いても実施できるということは、当業者にとっては、しかしながら、当然であろう。
【0029】
分子プローブは、関心のある生体分子にそのいわゆる結合領域を介して特異的に結合できる。少なくとも第1および第2のプローブが関心のある分子に結合領域を介して結合した後、反応基によって並列配置が調節される。1つのオリゴヌクレオチド反応基は、プローブが関心のある分子に結合した後、並列したプローブの空間的構成を調節できるように残っている。1つの実施形態として、前記関心のある分子は、タンパク質であり、好ましくは融合タンパク質であり、より好ましくは癌性の融合タンパク質である。特に好ましくは、第1および第2のプローブの一式であり、ここで各プローブは、前記融合タンパク質の融合領域の反対側に位置する結合部位(エピトープ)を認識し結合できる。当然、各プローブが関心のある分子の異なるエピトープ(たとえば融合タンパク質の融合領域のCおよびN末端側のエピトープ)に結合するようなプローブ一式を用いる場合は、前記異なるエピトープは、分子間または分子内で互いに反応してはいけない。これは明らかにプローブの結合を阻害するからである。プローブ一式内の異なるプローブは、したがって、異なる、本質的に非反応性のエピトープに結合できる。プローブは、互いにわずかしか離れていない結合部位(エピトープ)を認識するので、融合タンパク質または相互作用分子へ単にプローブが結合するだけで、理論的には、色素間のエネルギー移動が起こり得る。しかしながら、並列した反応基の架橋物質による“クラスタリング”によって、色素の空間的構成が、エネルギー移動の可能性が劇的に高まるように、調節できる。
【0030】
本発明はまた、本発明に係るプローブ一式を含む診断キットを提供する。好ましい実施形態としては、キットは、さらに、第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に相補的な配列を有し、第2のプローブのオリゴヌクレオチドの少なくとも一部に相補的なオリゴヌクレオチド架橋物質を含む。たとえば、このようなキットは、たとえば白血病細胞などの悪性細胞を、腫瘍特異的融合タンパク質陽性細胞の検出を通じてモニターおよび定量するのに利用できる。ここで提供される診断テストキットは、診断時と同時に、治療中および治療後においても、適用された癌治療法の有効性を調べるのに有用である。
【0031】
さらなる態様は、疾患の診断および/または分類において、また、前記治療法の効果を調べるため疾患の治療前、治療中および治療後において、融合タンパク質または相互作用(タンパク質性)分子の存在を検出するための、プローブ一式の使用方法に関する。
【0032】
また、本発明に係るプローブ一式を作製する方法が提供され、該方法は、各プローブを、オリゴヌクレオチド反応基と接触させて、前記プローブと前記反応基との間でコンジュゲートを形成すること、および前記コンジュゲートを精製することを含む。反応基オリゴヌクレオチドは、たとえば、スペーサーまたはリンカー部分を介して、プローブへ直接または間接的に付加される。FRET色素もまた、たとえば反応基を介して、プローブへ直接または間接的に付加される。好ましい実施形態としては、プローブは、反応基にFRET色素が付加された(図3B参照)少なくとも1つのオリゴヌクレオチド反応基を含む。オリゴヌクレオチド反応基は、プローブに対し直接または間接的に結合される。反応基には、プローブへの結合前または結合後にFRET色素が付加される。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、プローブ一式は、少なくとも2つの色素−オリゴヌクレオチド−結合抗体の一式を含み、各抗体は、融合タンパク質の融合領域の反対側に位置する結合部位、または、異なる相互作用分子、たとえばタンパク質複合体におけるタンパク質に位置する結合部位を認識可能である。好ましい抗体は、従来の(ポリクローナルまたはモノクローナル)抗体、または合成抗体、またはそれらに機能的に同等な、Fab’、Fab、一本鎖Fv断片、二重特異性抗体(一本鎖Fv二量体)および類似物などの、結合断片を含む。たとえば、キメラ融合タンパク質A−Bは、色素結合プローブの一式、たとえば抗A抗体および抗B抗体を用いたFRETを介して検出可能である。好ましい実施形態としては、試料は、一方は融合タンパク質のドメインAに対する抗体であり他方はドメインBに対する抗体である、2つの抗体と接触し、細胞試料中のA−B融合タンパク質の存在を検出する。一方の抗体は、FRETドナー色素で(好ましくはその反応基を介して)標識されており、他方の抗体は、FRETアクセプタ―色素で標識されている。ドメインAがドメインBのすぐ近くにある、たとえば、両者が同じタンパク質分子の一部である、ときにのみ、2つの抗体が十分に接近(‘並列’)し、ドナー/アクセプタ―対が、検出可能なFRET蛍光シグナルを誘導できる。
【0034】
これに関連して、“反応基”という用語は、FRET色素の空間的構成を、エネルギー移動が起こる可能性が高くなり、かつ/またはエネルギー移動の効率が高くなるように、調節可能にする部分を意味する。空間的構成とは、色素間の距離、およびそれら色素の相対的な位置関係の両方を意味する。空間的構成の調節は、色素の空間的構成の調整および安定化を含む。エネルギー移動が起こる主な条件の1つは、ドナーおよびアクセプタ―分子がすぐ近くに、一般に10〜100Åの距離で存在することである。好ましい実施形態としては、反応基は、前記色素を互いに50Å以内、より好ましくは互いに20Å以内、さらに好ましくは互いに10Å以内に並列させる。
【0035】
これに関連して、“色素”という用語は、別の色素と共に、FRET解析のようなエネルギー移動解析に用いることのできる置換基を意味する。上述のように、FRETは通常、いずれもが蛍光物質であるドナーおよびアクセプタ―色素の相互作用に基づいている。1つの実施形態として、本発明は、前記色素の少なくとも1つが蛍光色素であるプローブ一式を用いる。しかし、非蛍光のアクセプタ―も用いることができ、FRETはドナー蛍光の消失によって検出される。前記のように、プローブの並列によって起こるドナー蛍光の減少をモニターすることによるFRETの検出は、たいてい、アクセプター蛍光の増加の検出ほど感度がよくない。したがって、好ましい実施形態としては、発明の詳細な記載に開示されるように、少なくとも2つの蛍光ラベルされたプローブが、融合タンパク質の検出に用いられる。好ましい蛍光色素としては、従来のフローサイトメトリーによる解析に適している蛍光色素であり、フルオレセイン標識を含む。たとえば、5−(および6)−カルボキシフルオレセイン、5−または6−カルボキシフルオレセイン、6−(フルオレセイン)−5−(および6)−カルボキサミド ヘキサン酸およびフルオレセインイソチオシアネート、AlexaFluor488TMまたはAlexaFluor594TMのようなAlexaFluorTM 色素、Cy2,Cy3,Cy5,Cy7などのシアニン色素、任意に置換されたクマリン、R−フィコエリトリン、アロフィコエリトリン、テキサスレッドおよびプリンストンレッド、また、R−フィコエリトリンと、たとえばCy5またはテキサスレッドとのコンジュゲート、ならびにフィコビリタンパク質の一群などが挙げられる。他の重要な色素としては、ほとんど無限の色調が提供できる量子ドット色素が挙げられる。フローサイトメトリーによるエネルギー移動の検出に適したドナー/アクセプター対に関する多大な情報は、Szollosiらによって報告されている。蛍光色素の好ましい組合せは、古典的なタンデムコンジュゲートに用いられる色素、デュオクロームともよばれる、を含む。好ましい実施形態として、プローブには、LCRed640TM またはLCRed705TMと組合わせたフルオレセインなどの、LightCycler技術で用いられる色素の一式が付与される。
【0036】
ここでまた、細胞中の融合タンパク質の存在を、少なくとも第1および第2の分子プローブの一式を用いて検出する方法も提供される。各プローブは、前記融合タンパク質の融合領域の反対側に位置する結合部位を(その結合領域を介して)認識でき、各プローブにはさらに、色素が付加されており、前記色素は協働してエネルギー移動を引き起こし、少なくとも1つのプローブには、前記色素間でのエネルギー移動が起こる可能性が高くなるように前記少なくとも第1および前記第2のプローブの並列を調節できるように、オリゴヌクレオチド反応基が付加されている。提供される方法は、プローブ一式の提供と、細胞を含む試料の提供と、前記試料と前記プローブとの、前記融合タンパク質上で前記プローブの並列が起こるような条件下での接触と、非結合プローブおよび非特異的に結合したプローブの除去と、前記融合タンパク質の存在を決定するため前記プローブの並列をFRETを介して検出することとを含む。
【0037】
1つの実施形態として、プローブには2つ以上のオリゴヌクレオチド反応基が付加され、前記プローブは2つ以上の架橋物質と反応可能である。2つ以上の反応基を有するプローブが提供されることで、理論上、前記プローブおよび架橋物質間の反応が起こる可能性が高くなる。
【0038】
次に、本発明は、本発明に係るプローブの一式を用いた、単細胞レベルでの融合タンパク質の検出方法を提供する。各プローブは、前記融合タンパク質の融合領域の反対側に位置する結合部位に、プローブの結合領域を介して結合できる。すなわち、1つのプローブは融合タンパク質のN末端断片を含むタンパク質断片に結合し、他方のプローブは、同じ融合タンパク質のC末端断片を含むタンパク質断片に結合する。融合タンパク質は、融合遺伝子の転写および翻訳後に生成されるどんなタンパク質性物質を含んでもよい。融合遺伝子は、1つ以上の遺伝子が他の遺伝子またはそれらの一部と組み合わされた遺伝子の一部を含む。融合タンパク質は、染色体転座、逆位、または欠失によって生じたものでもよい。好ましい実施形態としては、提供される方法は、腫瘍特異的な融合タンパク質の検出に用いられる。融合タンパク質は、内在的に発現しているタンパク質、または遺伝子工学により得られたものであってもよい。本発明に係る方法を用いて容易に検出可能な、悪性腫瘍における融合タンパク質は、表1に挙げたものを含むが、これらに限定されない。
【0039】
ここで開示される、提案したオリゴヌクレオチドを基にしたFRET法を用いた多くの他の応用が考えられる。たとえば、
・天然および発癌性融合タンパク質の検出:
・いくつかの白血病および固形腫瘍で生じる発癌性融合タンパク質
・遺伝子断片の融合によって形成されるT細胞受容体またはB細胞受容体
・特異的なT細胞受容体鎖(たとえばVδ2 とVγ9 鎖と)の相互作用の検出;
・タンパク質複合体の解析:タンパク質複合体の全ての成分が存在しているのか?連結している成分はどのくらい近いのか?
・転写複合体(たとえば、正常な造血に重要なレギュレーターであるAML1/CBFβコア結合因子転写複合体)による遺伝子制御の解析;
・タンパク質複合体による転写活性化の解析(たとえば、β−カテニンのTcf−1への結合はWnt標的遺伝子の転写を誘導する);
・転写または翻訳に関わるタンパク質の解析のための、タンパク質−DNAまたはタンパク質−RNA相互作用の検出;
・同一の相互作用過程に関与する異なる細胞種に対する抗体を介した細胞−細胞相互作用の解析
【0040】
ここで開示される方法は、組織切片および塗抹での適用にいくつかの利点を有する。
・他の免疫組織化学的染色との同時適用
・スプリットシグナルFISHとの組合せ:DNAレベル(融合遺伝子)およびタンパク質レベル(融合タンパク質)での癌化現象の検出
【0041】
特筆に値するのは、本方法においては、細胞統合性を破壊する必要がない、たとえば、細胞内の融合タンパク質または分子複合体を検出するために細胞溶解物を調製する必要がない、ということである。細胞の形態的統合性を維持することで、たとえばフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡による単一細胞レベルでの解析が可能となる。フローサイトメトリーによるFRETシグナルの検出によって、不均一な細胞集団中の特定の個々の細胞の迅速な多様的解析が可能となる。フローサイトメトリーの主な利点は、定量データが直接得られること、および非常に迅速なこと(数時間で結果が得られる)である。
【0042】
本発明で提供する方法は、融合タンパク質または相互作用分子の単一細胞レベルでの検出を可能とする。細胞を含む試料は、物質透過能を得て、かつ形態を維持するように処理される。好ましい処理は、細胞中の細胞マトリクスおよびタンパク質の形態的統合性を固定、かつ維持し、同時に、たとえば抗体などのプローブを最も効果的に侵入させる処理である。
【0043】
たとえば‘捕捉/検出’抗体法のように、実際には細胞表面または細胞破砕物中の融合タンパク質または相互作用タンパク質の存在の検出にのみ適用可能な方法と異なり、本発明の方法は、細胞の混合物中に存在する一部の細胞を、免疫表現型の特性によって出入りさせる。その結果、ここで提供される方法では、多数の正常細胞中の稀な悪性細胞の集団を検出可能である。これは、治療効果の評価中またはその後における微小残存病変(MRD)を検出する場合などの、頻度の低い融合陽性細胞の検出において特に有利である。好ましい実施形態では、提供される方法は、単一細胞を同定および/または単離し、単一細胞レベルで融合タンパク質の存在を検出するための多重パラメーターフローサイトメトリーを含む。提供される方法を実施するのに必要なものは、フローサイトメトリー設備だけである。重要なことは、本方法の工程は、通常の実験室で通常の技術者が行えるということである。
【0044】
100を超える異なる融合遺伝子および融合タンパク質が多様な種類の癌で報告されている。前述の通り、提供される方法では、単一細胞レベルで正常タンパク質および異常融合タンパク質の存在を見分けることができる。理論的には、融合タンパク質の異なる2つの領域を認識する2つの抗体は、融合遺伝子ではなく正常遺伝子から生じた正常タンパク質の領域に結合することで、染色のバックグラウンドを高めてしまう。しかし、細胞表面および/または細胞内マーカーによって決定されるように、2つの正常タンパク質の1つのみが、標的細胞集団中で検出可能な発現レベルに達するという例もある。さらに、正常タンパク質および融合タンパク質は、たいてい細胞内における発現パターンが異なっており、その結果細胞内局在が異なっていることが多い。このことは、2つの異なる正常タンパク質が偶然に共局在することは高い頻度では起こりにくいことを示唆している。特に、FRETシグナルが生じるようにプローブが偶然に並列することは、正常細胞においては、もし起こるとしてもまれである。
【0045】
提供される方法は、細胞を含む試料の提供を含み、前記試料は任意に固定され、透過処理され得る。試料は、生物試料から得られる初代細胞を含んでもよい。生物試料は、血液、血清、尿、骨髄、脳脊髄液(CSF)、唾液を含む体液試料であってもよい。または、組織試料、組織ホモジネートでもよい。試料は、培養細胞を含み、たとえば、リンパ節生検から得た腫瘍細胞などの培養初代細胞であってもよい。さらに、試料は、たとえばK562,KASUMI−1,REHまたはCEM 細胞株など、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC;www.atcc.orgオンラインカタログ)またはドイツ微生物・培養細胞収集有限会社(DSMZ;www.dsmz.deオンラインカタログ)などの多くの機関から入手可能な、確立された実験用細胞株を含んでもよい。提供される方法は、細胞中の内在性融合タンパク質および組換え融合タンパク質の存在を検出するのに適している。提供される方法はまた、細胞中の組換えタンパク質および/または内在性分子間の相互作用を検出するのに適している。
【0046】
細胞懸濁物を含む試料の分析では、関心のある分子がプローブへ十分接近できることを確実にするため、材料の形態および透過性が保持されるように試料が処理されることが好ましい。処理の種類は、様々な因子に依存するが、たとえば、使用する固定剤については、固定の程度および関心のある分子の性質に依存する。固定は、ホルムアミドなどの固定剤を用いて行われる。
【0047】
初代細胞中での検出においては、関心ある標的細胞の集団を明らかにするために、さらにマーカーを使用することが特に有効である。感染性疾患における多くの重要な生物学的応用、MRDの検出およびモニタリング、ならびに遺伝子療法では、一般的に、他の細胞の多大な“バックグラウンド”から稀な細胞(たとえば造血幹/前駆細胞)を分析し単離することを必要とする。本発明の一実施形態において、本方法は、細胞混合物中の標的細胞の集団を明らかにするために、細胞表面マーカーまたは細胞内マーカーなどの、少なくとも1つの細胞マーカーに対する試料の染色を含み、染色は、前記試料を前記マーカーに選択的に結合可能な化合物に接触させることを含む。好ましい実施形態において、このような化合物には直接蛍光色素がタグされている。好ましい化合物は、蛍光標識された抗体または、機能的にそれらに同等な結合断片である。また、細胞マーカーに選択的に結合可能な化合物は、色素コンジュゲートされた二次試薬(たとえば蛍光標識された二次抗体)を用いて検出され得る化合物を用いることができる。細胞マーカーは、細胞の混合物中において、細胞の亜集団を識別するのに用いることのできるあらゆる種類の細胞内または膜結合型マーカーを含む。細胞の混合物は、生細胞を含む。また、透過処理および/または固定化された細胞を含む。細胞マーカーは、分化抗原群(CD)でもよい。CDマーカーは、細胞表面分子であり、中でもモノクローナル抗体で識別できる造血細胞である。造血細胞は、胸腺細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、好中球、好酸球、胚中心B細胞、濾胞性樹状細胞、血漿細胞、および骨髄細胞を含む。たとえば、好適な細胞マーカーは、CD1,CD3,CD4,CD8、CD10,CD19,CD20,CD33,CD34、およびCD117を含む。多数のヒトCDマーカーに対するモノクローナル抗体は、BDバイオサイエンシズ、またはAncell Immunology Research Products, Bayport, USAなど様々な供給者から入手可能である。たいてい、蛍光色素で直接コンジュゲートされた抗体が入手可能である。蛍光色素の選択としては、たとえば、CD10−PEまたはCD19−FITCが、本発明に係る方法を実施するのに、明らかに好ましい。
【0048】
好ましい実施形態では、多重パラメーターフローサイトメトリー/セルソーティング技術を用いて、稀な単一細胞を同定および/または単離し、関心のある融合タンパク質の存在または非存在によって、または、相互作用分子の同定によって、これらの細胞をさらに特徴付けるための方法が提供される。このような方法は、免疫系の発生、感染性疾患、癌および遺伝子治療における多くの重要な問題への応用に特に適している。一般に、細胞をプローブ一式で染色する前に、標的細胞集団を明らかにするため、標準的な手順に従い、細胞は少なくとも1つの適切な色素コンジュゲート抗体で標識される。色素の選択は、好ましくは、しかし限定されずに、FRET色素に加えて、免疫表現型の分類のための、2つまたは3つの色素の使用を目的とするべきである。たとえば、本発明に係るFRETプローブ一式は、免疫表現型の特徴によって白血球亜集団の出入りを調節するもう1つの色素と組合わせることができる。たとえば、骨髄における前駆B細胞の亜集団を正確に決定するためのCD10,CD19およびCD20、または、胸腺細胞の亜集団を決定するためのCD1,CD4およびCD8、または、幹/前駆細胞の集団を同定するためのCD34および/またはCD117などである。発明の詳細な説明に示すように、本発明は、細胞のごくわずかな亜集団における細胞内融合タンパク質の検出、すなわち、癌治療の効果の評価において必須であるMDRの検出を可能とする方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】遺伝子Aの上流(5’)部分および遺伝子Bの下流(3’)部分を含む融合遺伝子の模式図。このA−B融合遺伝子はA−BmRNAに転写されてA−B融合タンパク質に翻訳される。
【図2】蛍光色素Xをドナー色素とし、Yをアクセプタ―色素とした蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)の原理の模式図。A.アクセプタ―色素Yは、XおよびY間の距離が大きすぎるとドナー色素Xの発光によって励起されない。B.ドナーおよびアクセプタ―色素間の距離が十分小さい(80オングストローム未満、しかし好ましくは50オングストローム未満)と、ドナー色素Xの発光がアクセプタ―色素Yを励起する。
【図3】2つの抗体を接近してかつ安定に連結させる、オリゴヌクレオチド(たとえばDNA/PNA)分子の使用の模式図。両抗体がいずれも融合タンパク質A−Bの相手と結合することによりそれらが互いに近距離に接近すると、オリゴヌクレオチドAおよびBのどちらとも部分的に相補的な架橋物質オリゴヌクレオチドCが、2つの蛍光色素XおよびY間の距離を縮め、安定化させて、FRETシグナルが検出される。A.ドナーおよびアクセプタ―蛍光色素は、抗体プローブに直接コンジュゲートされる。B.ドナーおよびアクセプタ―蛍光色素は、オリゴヌクレオチド反応基にコンジュゲートされる。オリゴヌクレオチド反応基は、リンカー部分を介して抗体プローブに付着する。
【図4】反応基オリゴヌクレオチドA、反応基オリゴヌクレオチドB、反応基オリゴヌクレオチドAおよびBの組合せ、またはAおよびBおよび架橋オリゴヌクレオチドCの組合せのいずれかの場合で検出された蛍光の結果を示す。矢印は、相補的架橋オリゴヌクレオチドCの添加によって誘導されたFRETシグナルを示す。詳細は下記の実施例を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(実施例)
以下のオリゴヌクレオチドは、標準的な方法により合成された。
反応基オリゴヌクレオチドA:リンカーCGA TTC TAT Gフルオレセイン
反応基オリゴヌクレオチドB:Alexa−TGT ACC TTG A−リンカー
架橋オリゴヌクレオチドC:TCA DGG TAC A GlyGly CAT AGA ATC G
【0051】
異なるオリゴヌクレオチドである10pmolのPNAを200μLリン酸バッファーpH7.2中で混合し、それらの蛍光を測定した。ハイブリダイゼーションは、PNAオリゴヌクレオチドCを添加して5分以内に完了した。結果は図4に示す。
装置:パーキンエルマーLS55
励起波長:フルオレセイン:485nm、Alexa546:546nm
励起スリット5nm 発光スリット10nm
【0052】
参考文献
1.Jaffe ES, Harris NL, Stein H, Vardiman JW (eds), World Health Organization classification of tumours. Pathology and genetics of tumours of haematopoietic and lymphoid tissues. Lyon: IARC Press, 2001.
2.Van Dongen JJM, Macintyre EA, Gabert JA, et al, Standardized RT-PCR analysis of fusion gene transcripts from chromosome aberrations in acute leukemia for detection of minimal residual disease. Report of the BIOMED-1 Concerted Action: investigation of minimal residual disease in acute leukemia. Leukemia 1999; 13: 1901-28.
3.Mitelman F, Johansson B, Mertens F, The impact of translocations and gene fusions on cancer causation. Nat Rev Cancer 2007; 7: 233-45
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9.Berendes P, Recognition of tumor-specific proteins in human cancer, Ph.D. Thesis, Chapter 8. Rotterdam: Erasmus University Rotterdam, 1997: 111-27.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1および第2の分子プローブの一式であって、各プローブには色素が付与されており、前記色素は協働してエネルギー移動を引き起こし、各プローブには、前記少なくとも第1および第2のプローブを並列させるような反応基がさらに付与され、前記反応基はオリゴヌクレオチドであり、前記第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基は、前記第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基とは直接反応しないことを特徴とする分子プローブの一式。
【請求項2】
前記第1および第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)オリゴマー、オキシリボヌクレオチド(RNA)オリゴマー、固定された核酸(LNA(登録商標))、およびペプチド核酸(PNA)オリゴマーからなる群から別個に選択され、好ましくは前記第1および第2のオリゴヌクレオチド反応基は、LNAまたはPNAオリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載の分子プローブの一式。
【請求項3】
前記色素は、オリゴヌクレオチド反応基にコンジュゲートされていることを特徴とする請求項1または2に記載の分子プローブの一式。
【請求項4】
前記プローブのそれぞれには、多重な反応基が付与されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子プローブの一式。
【請求項5】
前記プローブは、抗体またはそれと機能的に同等な結合断片であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分子プローブの一式。
【請求項6】
少なくとも1つの前記色素は、蛍光色素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分子プローブの一式。
【請求項7】
前記蛍光色素は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、テキサスレッド(TR)、R−フィコエリトリン(R−PE)、アロフィコシアニン(APC)、フィコビリタンパク質の一群、Cy3,Cy5,Cy5.5またはCy7などのシアニン色素、Alexa Fluor色素、フルオレセイン、LCRed640またはLCRed705などのLightCycler色素、これらの蛍光色素のタンデムコンジュゲート、および量子ドット色素からなる群から選ばれることを特徴とする請求項6に記載の分子プローブの一式。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子プローブの一式を提供する方法であって、各プローブを好適な色素とオリゴヌクレオチド反応基またはそれらの誘導体と接触させて、前記プローブ、前記色素、および前記オリゴヌクレオチド間でコンジュゲートを形成すること含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記色素を前記オリゴヌクレオチド反応基にコンジュゲートすることを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞中の融合タンパク質の存在を、少なくとも第1および第2の分子プローブの一式を用いて検出する方法であって、各プローブは、前記融合タンパク質の融合領域の反対側に位置する結合部位を認識でき、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子プローブの一式を提供し、
細胞を含む試料を提供し、
前記試料を前記プローブの一式と、前記プローブを前記融合タンパク質上で並列させるような条件下で接触させ、
前記プローブを、前記第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部、および、前記第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に特異的に結合可能な核酸配列を含む架橋物質と接触させ、
前記プローブの並列を、FRETを介して検出して前記融合タンパク質の存在を決定することを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記融合タンパク質は、腫瘍特異的融合タンパク質であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
細胞中の少なくとも2つの相互作用する分子を、少なくとも第1および第2の分子プローブの一式を用いて検出する方法であって、各プローブは、関心のある異なる相互作用する分子に特異的に結合できる結合領域を含み、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分子プローブの一式を提供し、
細胞を含む試料を提供し、
前記試料を前記プローブの一式と、前記プローブを前記相互作用する分子上で並列させるような条件下で接触させ、
前記プローブを、前記第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部、および、前記第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチド配列を含む架橋物質と接触させ、
前記プローブの並列を、FRETを介して検出して、前記相互作用する分子を検出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記分子の少なくとも1つは、タンパク質性物質、核酸、脂質分子、または炭水化物であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記オリゴヌクレオチド反応基および前記架橋物質は、DNA,RNA,LNAまたはPNA配列を含み、好ましくはLNAまたはPNAを含むことを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
標的細胞の集団を明らかにするために、前記試料を少なくとも1つの細胞マーカーに対して染色することを含み、前記染色は前記試料を前記細胞マーカーに選択的に結合可能な化合物に接触させることを含み、前記細胞マーカーは、好ましくは分化抗原群(CD)であることを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
好ましくはフローサイトメトリーを用いた、単一細胞レベルでのFRET検出を含むことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプローブの一式を含む診断キットであって、好ましくは、前記第1のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部、および、前記第2のプローブのオリゴヌクレオチド反応基の少なくとも一部に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチド配列を含む架橋物質をさらに含むことを特徴とする診断キット。
【請求項18】
前記架橋物質は、DNA,RNA,LNAまたはPNA配列であり、好ましくはオリゴヌクレオチド反応基および架橋物質の両方がLNAまたはPNA配列であることを特徴とする請求項17に記載の診断キット。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のプローブの一式、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法、または、請求項16または17に記載のキットの使用であって、疾患の治療前、治療中および治療後において、前記治療法の効果を調べるための、または疾患を診断および/または分類するための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−505549(P2011−505549A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534902(P2010−534902)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050737
【国際公開番号】WO2009/067009
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(501399603)エラスムス ユニバーシティ メディカル センター ロッテルダム (2)
【氏名又は名称原語表記】Erasmus University Medical Center Rotterdam
【住所又は居所原語表記】Dr.Molewaterplein 40,Rotterdam,Netherlands
【Fターム(参考)】