説明

改質システム

【課題】たとえ原燃料ガスに水素ガスが含まれていても、吸着剤による硫黄化合物の吸着性能の低下を回避して、硫黄化合物による改質触媒の性能劣化を未然に防止することのできる改質システムの提供。
【解決手段】原燃料ガスGに含まれる硫黄化合物を吸着して除去する吸着剤1aを有する脱硫器1と、脱硫器1により脱硫処理された後の原燃料ガスGを改質して水素リッチガスRを生成する改質器2を備えている改質システムで、脱硫器1に流入する原燃料ガスGに含まれる水素ガスの量を検出する水素ガスセンサ5と、その水素ガスセンサ5の経時的な検出結果に基づいて、吸着剤1aの吸着性能を判定する吸着性能判定手段11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原燃料ガスに含まれる硫黄化合物を吸着して除去する吸着剤を有する脱硫器と、その脱硫器により脱硫処理された後の原燃料ガスを改質して水素リッチガスを生成する改質器を備えている改質システムに関する。
【背景技術】
【0002】
このような改質システムは、例えば、都市ガスを原燃料ガスとして使用し、ルテニウムなどの改質触媒を有する改質器で水素リッチガスに改質し、その水素リッチガスを燃料として発電する燃料電池発電システムなどで使用される。
原燃料ガスとなる都市ガスには、通常、付臭剤としてジメチルスルフィド(DMS)などの硫黄化合物が含まれており、その硫黄化合物が、ルテニウムなどの改質触媒を被毒して改質性能を劣化させるため、原燃料ガスに含まれる硫黄化合物は、予めゼオライトなどの吸着剤に吸着させて除去しておく必要があり、したがって、この種の改質システムでは、吸着剤を有する脱硫器が必要不可欠となる。
ところで、吸着剤としてのゼオライトなどは、硫黄化合物と共に水分も吸着するので、原燃料ガスに含まれる水分レベルが高いと、硫黄化合物の吸着性能が低下するという問題があり、そのような問題を解消するものとして、Y型ゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライト吸着剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−66313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公報に記載の銀ゼオライト吸着剤をはじめとして、ゼオライト系の吸着剤は、水素ガスと接触すると、硫黄化合物の吸着性能が低下するという問題がある。
すなわち、近年、バイオマスを原料とするバイオガスの製造が盛んに行われており、都市ガスへのバイオガスの混入も試みられている。
ところが、そのバイオガスには、製造時に水素ガスが含まれることがあり、その場合には、原燃料ガスに水素ガスが含有されることになる。原燃料ガスに水素ガスが含有されていると、吸着剤による硫黄化合物の吸着性能が低下し、その結果、硫黄化合物が改質器に流入して改質触媒の性能劣化を招くことになる。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目したもので、その目的は、たとえ原燃料ガスに水素ガスが含まれていても、吸着剤による硫黄化合物の吸着性能の低下を回避して、硫黄化合物による改質触媒の性能劣化を未然に防止することのできる改質システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その目的を達成するため、本発明において、原燃料ガスに含まれる硫黄化合物を吸着して除去する吸着剤を有する脱硫器と、その脱硫器により脱硫処理された後の原燃料ガスを改質して水素リッチガスを生成する改質器を備えている改質システムの特徴構成は、
前記脱硫器に流入する原燃料ガスに含まれる水素ガスの量を検出する水素ガスセンサと、その水素ガスセンサの経時的な検出結果に基づいて、前記吸着剤の吸着性能を判定する吸着性能判定手段を備えているところにある。
【0007】
上記構成によれば、水素ガスセンサが、脱硫器に流入する原燃料ガスに含まれる水素ガスの量を検出し、その水素ガスセンサの経時的な検出結果に基づいて、吸着性能判定手段が、吸着剤の吸着性能を判定し、例えば、予め設定された量にまで達すると、吸着剤の吸着性能低下であると判定するので、その判定結果に基づいて、脱硫器への原燃料ガスの流入を停止することにより、原燃料ガスに含まれる硫黄化合物が、誤って改質器へ流入する事態を回避することができる。
したがって、硫黄化合物による改質触媒の性能劣化を未然に防止することができ、比較的高価な改質触媒を所定の期間にわたって所望どおりに機能させることができる。
【0008】
上記構成を備えた改質システムにおいて、前記吸着性能判定手段が、前記水素センサによる水素ガスの積算検出量に基づいて、その積算検出量が設定閾値を超えると、前記吸着剤の吸着性能低下であると判定することが好ましい。
このように構成すれば、吸着性能判定手段による判定が、より一層正確なものとなり、硫黄化合物による改質触媒の性能劣化を確実に防止して、改質触媒を所定の期間にわたって確実に機能させることができる。
【0009】
上記構成を備えた改質システムにおいて、前記脱硫器への原燃料ガスの流入を制御する脱硫制御手段を備え、前記吸着性能判定手段が、前記吸着剤の吸着性能低下であると判定すると、前記脱硫制御手段が、前記脱硫器への原燃料ガスの流入を停止することが好ましい。
このように構成すれば、脱硫制御手段が、吸着剤の吸着性能低下に伴って、脱硫器への原料ガスの流入を自動的に停止するので、原燃料ガスに含まれる硫黄化合物が、誤って改質器へ流入する事態を確実に回避することができる。
【0010】
上記構成を備えた改質システムにおいて、前記改質器により改質された後の水素リッチガスを燃料として発電する燃料電池を備えていることが好ましい。
このように構成すれば、非常に高価な燃料電池への硫黄化合物の流入を未然に回避して、燃料電池を所定の期間にわたって所望どおりに機能させることができる。
【0011】
上記構成を備えた改質システムにおいて、前記原燃料ガスが、メタンを主成分とするガスとバイオマスを原料とするバイオガスとの混合ガスであってもよい。
このように構成すれば、メタンを主成分とするガスとして、例えば、都市ガスの使用が可能となり、その都市ガスにバイオガスを混合して原燃料ガスとすることができる。
【0012】
上記構成を備えた改質システムにおいて、前記吸着剤が、ゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライト吸着剤であることが好ましい。
このように構成すれば、たとえ原燃料ガスに含まれる水分レベルが高くても、硫黄化合物の吸着性能の低下が抑制され、硫黄化合物を所望どおりに吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】燃料電池発電システムの概略構成図
【図2】実験データ図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による改質システムの実施形態を図面に基づいて説明する。
この改質システムは、例えば、燃料電池発電システムにおいて使用されるもので、燃料電池発電システムは、図1に示すように、メタンを主成分とするガス(例えば、13Aなどの都市ガス)にバイオマスを原料とするバイオガスを混入した原燃料ガスとしての混合ガスGを使用し、その混合ガスGから硫黄化合物を除去する脱硫器1と、脱硫器1により脱硫処理された後の混合ガスGを改質して水素リッチガスRを生成する改質器2などを備えている。
原燃料ガスとしての混合ガスGは、ガス調節弁3を通って燃料ポンプ4により脱硫器1へ流入され、その脱硫器1に流入する混合ガスGに含まれる水素ガスの量を検出する水素ガスセンサ5が、燃料ポンプ4と脱硫器1の間に設けられている。
【0015】
メタンを主成分とする13Aなどの都市ガスは、ジメチルスルフィド(DMS)などの硫黄化合物を付臭剤として含有しており、その硫黄化合物を吸着して除去するため、脱硫器1内には、脱硫剤である、例えば、X型ゼオライト、Y型ゼオライトなどの吸着剤1a、好ましくは、Y型ゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライト吸着剤1aが収納されている。
都市ガスに混入されるバイオガスは、一般的に、主成分としてのメタンを50〜75体積%程度含有し、さらに、二酸化炭素を25〜50体積%程度含み、その他、少量の窒素、硫化水素、酸素などに加えて、1体積%以下の水素ガスを含んでいる。
このバイオガスに含有される水素ガスが、後述する実験結果からも明らかなように、吸着剤1aによる硫黄化合物の吸着性能低下を招くのである。
【0016】
そして、脱硫器1により脱硫処理された後の混合ガスGには、水蒸気調節弁6を通って水蒸気生成器7からの水蒸気が混入され、その水蒸気混入の混合ガスGが、ルテニウム、ニッケル、白金などの改質触媒を有する改質器2に供給され、必要に応じて一酸化炭素や二酸化炭素が除去されて、水素リッチガスRに改質され、その改質された後の水素リッチガスRが、燃料電池(セルスタック)8へ供給される。
燃料電池8は、水素リッチガスRを燃料とし、水素リッチガスRと酸素(空気)との反応により直流電力DCを発電するもので、固体高分子形燃料電池(PEFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭化塩形燃料電池(MCFC)などの各種方式のものが使用可能であり、燃料電池8により発電された直流電力DCが、電力変換器9により所定周波数の交流電力ACに変換された後、電力機器などの電力負荷(図外)に供給される。
【0017】
つぎに、水素ガスが吸着剤1aの吸着性能に及ぼす影響について実験を行ったので、その実験結果について言及する。
実験では、硫黄化合物であるジメチルスルフィド(DMS)を一定濃度含有し、かつ、水素ガス濃度の異なる複数の実験用ガスを準備し、吸着剤1aとして銀ゼオライト吸着剤を収納した脱硫器1に対して、その実験用ガスを流入し、各実験用ガスについて、脱硫器1からDMSが流出するまでの経過時間と濃度を測定した。
その結果が、図2の実験データであり、横軸は実験用ガスの流入経過時間(h)、縦軸はDMS濃度(体積ppm)を示し、図中、〇印は水素ガスを含まないガス、×印は水素ガスを0.2(体積%)、△印は500(体積ppm)、●印は100(体積ppm)の水素ガスをそれぞれ含んだ実験用ガスを示す。
【0018】
この実験結果から、水素ガスが0.2(体積%)含まれていると、硫黄の破過時間は132hとなり、水素ガスが含まれていない場合の230hに対して、98hも短くなり、たとえ100(体積ppm)程度しか含まれていない場合でも、硫黄の破過時間は215hとなって、15hも短くなることが理解できる。
つまり、原燃料ガスGに水素ガスが含まれていると、吸着剤1aによる硫黄化合物の吸着性能が低下することになり、その結果、硫黄化合物が改質器2に流入して改質触媒の性能劣化を招くおそれがある。
そこで、後述するように、吸着性能判定手段11と脱硫制御手段12を設けて、ジメチルスルフィド(DMS)などの硫黄化合物が改質器2へ流入するのを未然に回避しているのである。
【0019】
すなわち、燃料電池発電システムは、図1に示すように、その作動が全て制御装置10により制御され、制御装置10には、水素ガスセンサ5の経時的な検出結果に基づいて、脱硫器1に収納された吸着剤1aの吸着性能を判定する吸着性能判定手段としての吸着性能判定部11が設けられ、さらに、ガス調節弁3、燃料ポンプ4、電力変換器9などを制御する脱硫制御手段としての脱硫制御部12が設けられている。
吸着性能判定部11は、水素ガスセンサ5が検出する水素ガスの量、つまり、混合ガスGに含まれる水素ガスの量を経時的に積算し、その水素ガスの積算検出量が予め設定された設定閾値を越えると、脱硫器1に収納された吸着剤1aの吸着性能が低下したと判定するように構成されている。
そして、吸着性能判定部11が、吸着剤1aの吸着性能低下であると判定すると、脱硫制御部12が、ガス調節弁3を閉じて、脱硫器1への混合ガスGの流入を停止するとともに、燃料ポンプ4の作動を停止し、電力変換器9による電力変換を停止するように構成されている。結果、たとえ原燃料ガスに水素ガスが含まれていても、的確にメンテナンスを行うことで、脱硫器1に到達する水素ガスの積算量に基づいた脱硫器1の運転・管理を行うことができ、脱硫器1、改質器2、さらには燃料電池8を良好な運転状態に維持できる。すなわち、長期間に渡って、改質システムさらには燃料電池システムを安定かつ信頼性の高い状態で運転できる。
【0020】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、吸着性能判定部11が、水素ガスセンサ5による検出水素ガスの量を積算し、その積算検出量に基づいて吸着剤1aの吸着性能を判定するように構成した例を示したが、吸着性能判定部11とは別に、水素ガスの量を積算する積算部を設け、その積算部による積算検出量に基づいて、吸着性能判定部11が、吸着剤1aの吸着性能を判定するように構成することもできる。
また、吸着性能判定部11は、必ずしも水素ガスの積算検出量に基づいて吸着剤1aの吸着性能を判定するものに限らず、例えば、一定の時間内に一定値以上の水素ガスの量を検出した場合、あるいは、一定の時間内に水素ガスの量が一定値以上に増加した場合に、吸着剤1aの吸着性能低下であると判定するように構成するなど、混合ガスGの特性などに応じて対応するのが好ましい。
【0021】
(2)先の実施形態では、吸着性能判定部11が吸着剤1aの吸着性能低下であると判定すると、脱硫制御部12が、脱硫器1への混合ガスGの流入を自動的に停止するように構成した例を示したが、脱硫器1への混合ガスGの流入を自動的に停止することなく、例えば、吸着剤1aの吸着性能低下を各種の警報手段により報知し、その後、必要な処置については人為的に処理するように構成することもできる。
また、原燃料ガスの一例として、メタンを主成分とするガスとバイオマスを原料とするバイオガスとの混合ガスGを示したが、その他、種々のガスを複数混合して原燃料ガスとして使用することも、種々のガスを単独で原燃料ガスとして使用することもできる。
【符号の説明】
【0022】
1 脱硫器
1a 吸着剤
2 改質器
5 水素ガスセンサ
8 燃料電池
11 吸着性能判定手段
12 脱硫制御手段
G 原燃料ガスとしての混合ガス
R 水素リッチガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原燃料ガスに含まれる硫黄化合物を吸着して除去する吸着剤を有する脱硫器と、その脱硫器により脱硫処理された後の原燃料ガスを改質して水素リッチガスを生成する改質器を備えている改質システムであって、
前記脱硫器に流入する原燃料ガスに含まれる水素ガスの量を検出する水素ガスセンサと、その水素ガスセンサの経時的な検出結果に基づいて、前記吸着剤の吸着性能を判定する吸着性能判定手段を備えている改質システム。
【請求項2】
前記吸着性能判定手段が、前記水素センサによる水素ガスの積算検出量に基づいて、その積算検出量が設定閾値を超えると、前記吸着剤の吸着性能低下であると判定する請求項1に記載の改質システム。
【請求項3】
前記脱硫器への原燃料ガスの流入を制御する脱硫制御手段を備え、前記吸着性能判定手段が、前記吸着剤の吸着性能低下であると判定すると、前記脱硫制御手段が、前記脱硫器への原燃料ガスの流入を停止する請求項1または2に記載の改質システム。
【請求項4】
前記改質器により改質された後の水素リッチガスを燃料として発電する燃料電池を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の改質システム。
【請求項5】
前記原燃料ガスが、メタンを主成分とするガスとバイオマスを原料とするバイオガスとの混合ガスである請求項1〜4のいずれか1項に記載の改質システム。
【請求項6】
前記吸着剤が、ゼオライトに銀を担持させた銀ゼオライト吸着剤である請求項5に記載の改質システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214336(P2012−214336A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80979(P2011−80979)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】