説明

放射性フッ素化合物の製造方法

本発明は、イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該捕集された[18F]フッ化物イオンに基質を反応させる工程とを含む放射性フッ素化合物の製造方法において、上記イオン交換樹脂が下記一般式(1)で示される樹脂であることを特徴とする放射性フッ素化合物の製造方法を提供する:


(但し、上記式中nは1〜10までの整数、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素基であり、Pはスチレン系共重合体、Yは陰イオンを示す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性フッ素化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、[18F]−FDGと略す)、各種アミノ酸[18F]フッ素化合物、[18F]−フルオロトシルオキシエタンや[18F]−フルオロトシルオキシプロパン等の[18F]−放射性フッ素化合物を、[18F]フッ化物イオンを含む多量の[18O]水から高い収率で確実に得ることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、[18F]−FDGを得る方法が種々提案されており、例えば、反応容器中で標識合成を行うHamacher法と、カラムで標識合成を行うオンカラム法とが知られている。
【0003】
ここで、上記Hamacher法について説明する(非特許文献1および非特許文献2)。まず、陰イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を通して[18F]フッ化物イオンを捕集する。使用された[18O]水はリサイクルのために回収する。次に、このカラムに炭酸カリウム水溶液を導入し、カラム中の[18F]フッ化物イオンを溶離させ、溶液を反応容器に回収する。この反応容器内に相間移動触媒としてアミノポリエーテル(クリプタンド[2.2.2])が溶解したアセトニトリル溶液を加え、蒸発乾固することにより[18F]イオンを活性化させ、基質である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(以下、TATMという)が溶解したアセトニトリル溶液を加える。該反応容器内では求核置換反応が起こり、[18F]−FDGの中間体である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、[18F]−TAFDGと略す)が生成する。これを脱保護(加水分解)し、精製して[18F]−FDGを得る。
【0004】
このHamacher法によれば、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を2mL〜2.5mL使用した場合、陰イオン交換樹脂への[18F]フッ化物イオンの捕集率は95%、[18F]−TAFDG収率が95%、[18F]−FDG収率は40〜55%で、合成時間1時間程度で放射性フッ素化合物[18F]−FDGを製造することができる。
【0005】
次に、オンカラム法について説明する。オンカラム法は[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムにTATMが溶解したアセトニトリル溶液を導入して[18F]−TAFDGを得る方法であり、例えば、イオン交換樹脂に4−アミノピリジニウム樹脂を用いる方法(Mulholland法)、ホスホニウム塩を含む樹脂を用いる方法(特許文献1)を挙げることができる。
【0006】
ここで、Mulholland法としては、4−アミノピリジニウム樹脂を単独で充填したカラムを使用する方法(非特許文献3)や、4−アミノピリジニウム樹脂と繊維状陽イオン交換樹脂との混合床を充填したカラムを使用する方法(非特許文献4)が提案されている。
【0007】
前者のMulholland法は、4−(N,N−ジアルキル)アミノピリジンと、クロロメチルポリスチレン:ジビニルベンゼンコポリマー(いわゆる「メリフィールド樹脂」)とをアセトニトリル中で加熱して得られる4−アミノピリジニウム樹脂を充填したカラムを使用する(非特許文献3)。このカラムに2NのNaOHを通して樹脂をOH化し、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する。使用された[18O]水は回収してリサイクルする。カラムにアセトニトリル又はジメチルスルホキシドを通すことにより脱水して[18F]フッ化物イオンを活性化した後、TATMが溶解したアセトニトリル溶液を加えることにより、カラムの[18F]フッ化物イオンと基質であるTATMとの求核置換反応が起こり、[18F]−TAFDGが生成され、これを脱保護(加水分解)して、更に精製し、[18F]−FDGを得る。
【0008】
この方法によれば、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を1mL使用した場合、[18F]フッ化物イオンの捕集率は75〜90%で、フッ素化反応の収率は基質が脂肪族の場合には40〜65%、芳香族の場合には20〜35%である。
【0009】
後者のMulholland法では、4−(4−メチル−1−ピペリジノ)ピリジンとクロロメチルポリスチレン:2%架橋ジビニルベンゼンコポリマービーズ(いわゆる「メリフィールド樹脂」、塩素含有量1.2当量/g)とをアセトニトリル中で加熱して得られる4−アミノピリジニウム樹脂と繊維状陽イオン交換樹脂とを充填したカラムを使用する(非特許文献4)。このカラムに1.8NのKCOを通して樹脂をCO2−化し、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集後、上記と同様にして[18F]−FDGを得るものである。
【0010】
この方法は、4−アミノピリジニウムと繊維状陽イオン交換樹脂との混合比が4:1であるとき、[18F]フッ化物イオンの捕集率約66%、フッ素化反応の収率約77%であり、混合比が6:1であるとき、捕集率約95%、フッ素化反応の収率約61%で、合成時間40分で行うことができる。
【0011】
また、上述したホスホニウム塩を含む樹脂を用いるオンカラム法では、上記Mulholland法のカラム充填剤に代えて、ホスホニウム塩を有する樹脂をカラムに充填して、このカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を通して[18F]フッ化物イオンを捕集して同様に[18F]−FDGを得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0012】
この方法では、樹脂量20〜30mgを用い、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を4mL使用した場合、[18F]フッ化物イオンの捕集率が99%とされている。
【0013】
しかしながら、上記従来技術には様々な問題点があり、更なる改良が望まれている。
【0014】
例えば、Hamacher法は、操作手順が多く、合成に時間がかかりすぎるため、製造中に時間と共に[18F]の崩壊(半減期109.7分)が進み、結果的に[18F]フッ素化合物の収量が少なくなるという問題がある。また、この方法は、毒性のあるアミノポリエーテルを使用するため、医薬品として使用する場合に、アミノポリエーテルの除去操作という煩雑な作業を要するという問題がある。
【0015】
一方、4−アミノピリジニウム樹脂を使用するオンカラム法では、活性基である有毒な4−アミノピリジンが樹脂に固定されているため、活性基を系外に流出させることは無い。このため、オンカラム法では、Hamacher法のような蒸発乾固やポリアミノエーテルを除去する工程が必要なく、Hamacher法に比較して工程数を減らすことができ、合成時間の短縮が可能となる。しかしながら、オンカラム法では、4−アミノピリジニウム樹脂にTATMが溶解したアセトニトリル溶液を十分に接触させるために、該溶液をカラムに数回往復させることが必要である。また、ピリジニウム塩は親水基であるため、4−アミノピリジニウム樹脂は親水性が高く、極性の高い溶媒で膨潤を起こし、極性の低い溶媒で収縮を起こすという性質を有する。このため、充填した樹脂が膨潤するとカラムに溶液を通す際の圧力が非常に高くなるため、基質を含む溶媒の流動性が低下し、また、収縮するとカラム効率の低下を引き起こすという問題がある。
【0016】
また、4−アミノピリジニウム樹脂と繊維状陽イオン交換樹脂との混合床を使用したオンカラム法(非特許文献4)は、上記オンカラム法の流動性の問題を解消するものであるが、繊維状陽イオン交換樹脂のコストが高いという問題がある。また、このイオン交換樹脂の量を減らすと流動性の改善効果が得られず、反応効率が低下する、という問題もある。
【0017】
更に、ホスホニウム塩を有する樹脂を使用するオンカラム法(特許文献1)を用いた実験を行ったところ、この方法は[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を多量に使用した場合、[18F]フッ化物イオンの捕集率が低くなり、その結果、全体収率が低下してしまうことがわかった。また、この方法では、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の使用量を増やすと、全体収率がより低下することもわかった。この比較実験については後に実施例1で詳述する。
【0018】
サイクロトロンによる[18F]の製造では、原料として数グラムの[18O]水を用いるスタティック型のターゲットが多く使用されてきた。しかし近年、より多くの[18F]を製造するために、原料である[18O]水を大量に用いることができる、循環式のターゲットが用いられるようになってきている。このような背景から、多量の[18F]含有[18O]水を使用しても収率が低下することなく、従って、広い範囲の[18O]水の処理液量において、効率良く放射性フッ素化合物を製造し得る方法が求められている。
【特許文献1】特開平8−325169号公報
【非特許文献1】J.Nucl.Med.,27,pp.235−238(1986)
【非特許文献2】Appl.Radiat.Isot.,Vol.41,No.1,pp.49−55(1990)
【非特許文献3】J.Labelled Compd.Radipha.,26(1989)
【非特許文献4】Nucl.Med.Bio.,Vol.17,No.3.pp.273−279(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、放射性フッ素化合物を収率よくかつ確実に得ることができる、放射性フッ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の処理液量が、1g程度の低容量から10g以上の大容量までの広い範囲において、[18F]フッ化物イオンを効率よく捕集でき、かつ標識率が高い製造方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明は、種々の放射性フッ素化合物、例えば[18F]−FDG、各種アミノ酸[18F]フッ素化合物、[18F]−フルオロトシルオキシエタンや[18F]−フルオロトシルオキシプロパン等を収率良く得るのに好適な放射性フッ素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該捕集された[18F]フッ化物イオンに基質を反応させる工程とを含む放射性フッ素化合物の製造方法において、上記イオン交換樹脂に下記一般式(1)で示される樹脂を使用することにより、所望の放射性フッ素化合物を収率よく確実に得ることができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。特に、本発明の製造方法によれば、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水が低容量(1g程度)である場合はもちろん、大容量(10g以上20g以下)である場合でも収率よく[18F]フッ化物イオンを捕集でき、且つ、フッ素化反応率が高いため、[18F]フッ素化合物の収率が非常に高くなる。従って、本発明の放射性フッ素化合物の製造方法は、[18F]−FDG、各種アミノ酸[18F]フッ素化合物、[18F]−フルオロトシルオキシエタンや[18F]−フルオロトシルオキシプロパン等の放射性フッ素化合物を高い収率で得ることができる方法である。
【0021】
すなわち、本発明は、イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該捕集された[18F]フッ化物イオンに基質を反応させる工程とを含む放射性フッ素化合物の製造方法において、上記イオン交換樹脂が下記一般式(1)で示される樹脂であることを特徴とする放射性フッ素化合物の製造方法を提供する。
【0022】

但し、上記式中nは1〜10までの整数、Rは直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜8の一価炭化水素基であり、Pはスチレン系共重合体、Yは陰イオンを示す。
また、本発明は上記一般式(1)で、n=1、Rが直鎖ブチル基、YがCO−2又はHCOで、Pがポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体である上記イオン交換樹脂を用いた放射性フッ素化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法は、[18F]−FDGやアミノ酸のフッ素化合物および中間体、グリコールジトシレートのフッ素化合物等を[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水から高い収率で確実に得ることができる。本発明の製造方法によれば、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の処理液量は、低容量から大容量の広い範囲の量を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の製造方法について更に詳しく説明する。本発明の製造方法は、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水をカラムに導入し、該カラムで[18F]フッ化物イオンを捕集する工程を含む。カラム内で標識合成を行う、という点から、本発明の製造方法は、所謂オンカラム法による製造方法に分類される。ここで、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水は、常法に従って製造でき、例えば、[18O]水をターゲットとしてプロトン照射することにより得ることができる。
【0025】
本発明の製造方法は、[18F]フッ化物イオンを捕集するためにカラムに下記一般式(1)で示される樹脂を充填して使用する。
【0026】

但し、上記式中nは1〜10までの整数、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素基であり、Pはスチレン系共重合体、Yは陰イオンを示す。
【0027】
ここで、上記式中nは1〜10までの整数、好ましくは1〜3の整数、最も好ましくは1である。また、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素基であり、好ましくは直鎖ブチル基である。また、Pはスチレン系共重合体であり、好ましくはポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体である。また、Yは陰イオンを示し、好ましくはCO2−又はHCOである。
従って、上記式(1)で示される樹脂のうち、特に好ましい樹脂は、n=1、Rが直鎖ブチル基、YがCO2−又はHCOで、Pがポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体であるイオン交換樹脂である。
【0028】
本発明のイオン交換樹脂は、例えば、下記化学式(2)で示されるトリブチルメチルアンモニウムクロライド基を含むイオン交換樹脂の塩化物イオンを、CO2−やHCOに置換させる処理を施すことによって得ることができる。ここで行う処理は公知の方法に従って行うことができる。例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムや炭酸水素ナトリウム等を使用して塩化物イオンをCO2−やHCOなどに置換すればよい。
【0029】

(但し、上記式中Pはスチレン系共重合体を示す。)
【0030】
上記式(1)で示される樹脂の活性基は1.0〜1.3mmol/g、特に1.2mmol/gであることが推奨され、市販品の樹脂を好適に使用することができる。本発明のイオン交換樹脂は、従来技術と比べて活性基が比較的少ないにも拘わらず、[18F]フッ化物イオンを効率よく捕集することができる上、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の処理量が1g程度の低容量の場合はもちろんのこと、10g以上の大容量の場合においても、高収率で[18F]フッ化物イオンを捕集することができる。
本発明のイオン交換樹脂の充填量は、処理する[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の量およびカラムの内径に応じて適宜選択される。例えば、内径6mmのカラムを用いて[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を処理する場合であって、処理する[18O]水の量が20gである場合は、0.3mL以上の樹脂を用いればよく、10gの[18O]水を処理する場合は、0.2mL以上の樹脂を用いればよい。さらに、5g以下の[18O]水を処理する場合は、0.1mLの樹脂を用いれば十分である。
【0031】
本発明において、上記イオン交換樹脂を充填するカラムに制限はなく、通常のオンカラム法で使用されているカラムを使用できる。例えば、出願人が先に提案した特願2003−75650号に記載されたカラムを好適に使用することができる。このカラムは樹脂の膨張や収縮に好適に対応し得ることから、本発明で使用するイオン交換樹脂をより多く充填することができるため、1g程度から10g以上の大容量までの広い範囲の[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を用いた放射性フッ素化合物の製造に対応することができる。
【0032】
本発明の製造方法において、カラムに[18F]フッ化物イオンを捕集した後の操作については特に制限はなく、公知の方法に従うことができる。例えば、[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムにアセトニトリル又はジメチルスルホキシドを通して脱水し、基質が溶解した溶媒を更に加えて求核置換反応を行わせればよい。従って、[18F]−FDGの製造方法の場合には、求核置換反応により得られた[18F]−TAFDGを、更に加水分解、精製し、[18F]−FDGを製造することができる。
【0033】
ここで、本発明の製造方法について図面を参照して説明する。図1は本発明の製造方法の一例である製造ラインを表した図である。図中、1はターゲットボックス、2はターゲット水容器、3はシリンジポンプ、4はバルブ、5は標識合成用樹脂カラム、6は回収容器、7はアセトニトリル容器、8は廃液容器、9はTATM容器、10はイオン交換樹脂カラム、11は加水分解液容器、12は精製カラムを示す。ここでは、標識合成用樹脂カラム5には、下記化学式(3)〜(4)で示される樹脂の少なくとも1種が充填されている。
【0034】

【0035】
次に、図1の製造ラインを使用して[18F]−FDGの製造する場合について説明する。まず、ターゲットボックス1からシリンジポンプ3とバルブ4を調節して[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水をターゲット水容器2に収容し、更に標識合成用樹脂カラム5に導入する。カラム5では、本発明のイオン交換樹脂が[18F]フッ化物イオンを捕集する。また、導入された[18O]水はヘリウムガス、窒素ガス等の適当なガスによってカラム外に排出され、回収容器6へリサイクルのために収容される。
【0036】
次いで、上記カラム5に、アセトニトリル容器7から脱水されたアセトニトリルを導入して、カラム内の脱水を行い、使用されたアセトニトリルを廃液容器8に回収する。
【0037】
上記標識合成用樹脂カラム5に、更に、TATM容器9からTATMが溶解したアセトニトリル溶液を導入し、求核置換反応により[18F]−TAFDGを生成させた後、[18F]−TAFDGをアセトニトリル溶液と共にイオン交換樹脂カラム10に導入する。
【0038】
18F]−TAFDGが導入された上記イオン交換樹脂カラム10に、更に加水分解液容器11から酸性またはアルカリ性の加水分解液を導入し、カラム内で[18F]−TAFDGを加水分解して[18F]−FDGを生成する。その後、精製カラム12で精製し、[18F]−FDGを得る。
【0039】
本発明の製造方法によれば、標識合成用樹脂カラム5に特定のイオン交換樹脂が充填され、[18F]フッ化物イオンが効率よく捕集できるように最適化されているので、標識率が飛躍的に向上し、所望の放射性フッ素化合物を収率良くかつ確実に得ることができる。例えば、1g程度の低容量から10g以上の大容量までの広い範囲の[18O]水の処理液量において、特別の操作を要することなく[18F]−TAFDGの製造を収率良く行うことができ、従って、[18F]−FDGを収率良く生産することができる。
【0040】
なお、本発明で製造される種々の放射性フッ素化合物とは、中間体及び最終生成物のうちのいずれであってもよい。すなわち、本発明における放射性フッ素化合物とは、本発明の製造方法でカラムに捕集された[18F]フッ化物イオンと結合した化合物のことをいい、例えば、[18F]−FDGやアミノ酸のフッ素化合物および中間体、グリコールジトシレートのフッ素化合物等であり、特に、[18F]−TAFDG、[18F]−FMACBC(フルオロメチルアミノシクロブタンカルボン酸)の中間体、[18F]−FACBC(フルオロアミノシクロブタンカルボン酸)の中間体、[18F]−FET(フルオロエチルチロシン)の中間体、[18F]−FEtOTs(フルオロトシルオキシエタン)、[18F]−FPrOTs(フルオロトシルオキシプロパン)等を挙げることができる。本発明の製造方法により、例えば[18F]−FMACBC中間体を81.3%の純度で、[18F]−FPrOTsを84.6%の純度でそれぞれ得ることができる。なお、上記各種放射性フッ素化合物を得る場合、本発明のイオン交換樹脂を使用すること以外は特に制限はなく、公知の方法を採用できる。
【0041】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0042】
18F]−TAFDGの合成
以下の工程(1)〜(3)に従って[18F]−TAFDGを合成した。
(1)[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水生成工程:サイクロトロンにおいて[18O]水にプロトン照射し、核反応〔18O(p,n)→18F〕によって放射性フッ素−18([18F])を生成させ、[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を得た。
(2)[18F]捕集工程:表1に記載の水量の[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を、TBA樹脂(実施例1)あるいはTBP樹脂(比較例1)を0.2mL充填したカラム(内径6mm)に流速2mL/minで導入し、[18F]フッ化物イオンを捕集した。
(3)フッ素化工程:[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムにアセトニトリルを室温、流速10mL/minの条件下で1分間注入し、脱水を行った。更に該カラムにヘリウムガスを通じながらヒーターで95℃に加熱した。この状態を3分間保持した後、TATM20mgをアセトニトリル1.0mLに溶解させた液1.0mLを該カラムに導入して、TATMとフッ化物イオンとを反応させ、[18F]−TAFDGを得た。
18F]フッ化物イオンの捕集率(%)、[18F]−TAFDGの標識率(%)、[18F]−TAFDGの収率(%)をそれぞれ下記計算式により求めた。結果を表1に示す。
【数1】

【数2】

【数3】

【0043】
上記製造方法において、実施例のTBA樹脂はFluka 90806(Tributylmethylammonium chloride polymer bound SIGMA ALDRICH社製)の塩化物イオンを炭酸イオンに置換した樹脂であり、比較例のTBP樹脂はFluka 90808(Tributylmethylphosphonium chloride polymer bound SIGMA ALDRICH社製)の塩化物イオンを炭酸イオンに置換した樹脂であった。これら樹脂の陰イオン置換にはそれぞれ1.8M KCOを使用した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果の通り、本発明の製造方法では、1gから12gまでの広い[18O]水の処理量において、高い[18F]フッ化物イオンの捕集率ならびに高い[18F]−TAFDGの標識率を達成することができた(実施例1)。
【0046】
これに対して、比較例1に示したTBP樹脂を用いた方法では、[18O]水の処理量が1gの場合においては[18F]フッ化物イオンの捕集率ならびに[18F]−TAFDGの標識率共に高い値を示していたものの、5g以上では[18F]フッ化物イオンの捕集率ならびに[18F]−TAFDGの標識率共に80%未満であり、前記実施例1に示したTBA樹脂を用いた製法と比較して低い値を示していた。さらに、[18O]水の処理量が増加するにつれ、捕集率及び標識率が減少する傾向を示していた。
【0047】
以上の結果より、本発明による製造方法は[18F]フッ化物イオンの捕集率が高く、またフッ素標識率が高く、従って、[18F]−TAFDGを収率良く得るのに優れた製造方法であることが確認された。
【実施例2】
【0048】
アミノ酸及びグリコールジトシレートのフッ素化
上記実施例1と同様のTBA樹脂0.2mLを充填したカラムを使用し、表2記載の基質を用いて、フルオロメチルアミノシクロブタンカルボン酸(以下、FMACBCとする)中間体(1−N−tert−ブトキシカルバメート−3−[18F]フルオロ−1−シクロブタン−1−カルボン酸tert−ブチルエステル)、フルオロアミノシクロブタンカルボン酸(以下、FACBCとする)中間体(1−N−tert−ブトキシカルバメート−3−[18F]フルオロ−1−シクロブタン−1−カルボン酸メチルエステル)、フルオロエチルチロシン(以下、FETとする)中間体(O−(2−[18F]フルオロエチル)−N−tert−ブトキシカルボニル−L−チロシンtert−ブチルエステル)、2−[18F]フルオロエチル−p−トシレート(以下、FEtOTsとする)、3−[18F]フルオロプロピル−p−トシレート(以下、FPrOTsとする)を得た。
なお、各基質は、100μmol相当の基質を1.0mLのアセトニトリルに溶解させてカラムに導入した。また、各基質は、前記の基質のアセトニトリル溶液を、95℃に加熱したカラムに、0.33mL/minの流速で流すことにより導入した。得られた放射性フッ素化合物の各々の収率を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の結果の通り、本発明の製造方法は、各種アミノ酸やグリコール等の放射性フッ素化合物を収率良く得ることができることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例に係る製造プロセスを示す概略図である。
【符号の説明】
【0052】
1 ターゲットボックス
2 ターゲット水容器
3 シリンジポンプ
4 バルブ
5 標識合成用樹脂カラム
6 回収容器
7 アセトニトリル容器
8 廃液容器
9 TATM容器
10 イオン交換樹脂カラム
11 加水分解液容器
12 精製カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を充填したカラムに[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水を導入して[18F]フッ化物イオンを捕集する工程と、該捕集された[18F]フッ化物イオンに基質を反応させる工程とを含む放射性フッ素化合物の製造方法において、上記イオン交換樹脂が下記一般式(1)で示される樹脂であることを特徴とする放射性フッ素化合物の製造方法:

(但し、上記式中nは1〜10までの整数、Rは炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖の一価炭化水素基であり、Pはスチレン系共重合体、Yは陰イオンを示す。)。
【請求項2】
イオン交換樹脂が、上記一般式(1)でn=1、Rが直鎖ブチル基、YがCO2−又はHCOで、Pがポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体である請求項1記載の放射性フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記カラムに導入される[18F]フッ化物イオンを含む[18O]水の量が、1g以上20g以下である、請求項1記載の放射性フッ素化合物の製造方法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/030677
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514236(P2005−514236)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014184
【国際出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】