説明

放射性物質の分離回収装置

【課題】核燃料の溶融によって原子炉建屋から周辺の水系に放出された放射性物質を、濾過材や吸着剤を用いずに分離濃縮して固体化する物理的手段。さらに固化体から水によってイオン化された塩類などを分離し、不溶性の放射性物質を分離回収する装置。
【解決手段】汚染水タンクの底部から大気を含む不活性気体を気泡として吹き込み、汚染水の水分を水蒸気として分離する。水蒸気は煙道4に設置したフィルターを通じて大気中に放出されるが、汚染水に含まれた不揮発物質(イオンおよび塩類を含む)はタンク内で濃縮される。濃縮された不揮発物質に中空管から送風を続けることで閉鎖的な空間において風乾を達成し、塩類と放射性物質を含む固化体を得る装置。さらに固化体の構造を凝固材によって安定化し、再び水に浸漬することで脱塩を達成する汚染水処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境とくに水系に放出された高濃度汚染水から放射性物質の分離回収に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所事故によって放出された放射性物質が水系(地下水および表流水と海水)に拡散した場合には、高濃度の放射性汚染水が大量に発生する。汚染水を処理して放射性物質を分離回収する必要が生じるが、無機物による吸着や加圧プラントによる急速濾過には多くの問題があり、実用となっていない。
【0003】
この課題に対して有機物とくに植物遺骸や活性炭を中心とする緩速濾過と吸着による放射性物質の分離回収については既に特許を出願しているが、植物遺骸や活性炭にも少量の無機質部分が含まれる。このため緩速濾過と物理化学的吸着の過程で、多少とも放射性廃棄物の増加が見込まれる。また吸着濾過材を低温で酸化燃焼する過程が必要となるため、僅かながら大気中への拡散が発生する。また汚染水の塩分濃度が高い場合には、脱塩過程を必要とする可能性が考えられる。これらの課題を解決するためには、吸着濾過材を用いないで汚染水中に含まれる放射性物質を濃縮分離する装置が必要となる。
【0004】
もちろん高濃度かつ大量の汚染水を長期にわたって貯蔵する貯水池が建設されれば、いわゆる風乾(大気中への水蒸気拡散)によって、汚染水の濃縮が起こることは先に示した通りである。しかし自然の風乾によって汚染物質の濃縮を待つには長期間が必要で、さらに乾燥した放射性物質が大気中へ飛散する可能性も高い。周辺環境とくに大気中に放射性物質が飛散すれば、人為によって回収することは不可能であるから、容易に風乾法を用いて汚染水の処理を行うべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】2010ー194541
【特許文献2】2008ー64703
【特許文献3】2006ー181510
【特許文献4】2005ー177709
【特許文献5】平11ー183693
【特許文献6】平9ー230095
【特許文献7】平5ー80194
【特許文献8】2010ー122230
【特許文献9】2009ー244089
【特許文献10】2006ー78336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子炉から周辺環境へ放出されて水中に拡散した放射性物質の分離回収を、常圧下で吸着濾過材なしに実現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、汚染水を貯留するタンク内部に微細な気泡を発生するための中空管を挿入し、気体圧縮機ないしガスタンクから供給される乾燥気体(大気あるいは不活性ガス)を吹き込む。汚染水の表面から発生する水蒸気をフィルター付き煙道に導き、放射性微粒子を回収した上で大気中に放出する装置。
【発明の効果】
【0008】
図1に示すように気体圧縮機あるいはガスタンクから供給される乾燥気体は、汚染水タンクの底部から水面に向かって微細な気泡を発生させる。気泡中には汚染水からの水蒸気が含まれるが、塩分や油脂あるいは土砂などの固体は含まれない。汚染水表面で破裂した気泡から水蒸気は煙道に導かれるが、イオンを含めて他の不揮発成分は汚染水の内部に戻る。この過程により汚染水の水部分は水蒸気となって分離し、煙道に設置されたフィルターを経て大気中に放出可能となる。
【0009】
図2に示すようにタンク内の汚染水を加温するか減圧すれば、水蒸気の発生量を増やすことが可能だが、加温あるいは減圧による水蒸気の増加は装置の機能として本質的ではない。装置の大型化が放射性廃棄物の増加に繋がることに配慮すれば、常温常圧下で気泡発生を行うことが原則となる。また気体圧縮の前段階で気体中に含まれる水蒸気を減らせば、より効率的に汚染水の濃縮を実現できる。さらに再利用可能な除湿剤たとえばシリカゲルや木炭などを用いれば、放射性物質による新たな汚染物質の増大を招かない。とくに活性炭の場合には物理的な吸着による分離過程でも利用できるため、先に除湿剤として用いてから物理吸着材として再利用すれば、環境への負荷は実質的にゼロとなる。
【0010】
濃縮された汚染水に対して送気を続ければ、図3に示すように有機物あるいは塩分などの無機物を多く含む固化体が生じる。ここまでの過程を風乾として、放射性物質を含む固体として処理を終了することも可能である。ただし固化体の大部分は海水などに由来する塩分であるから、さらに放射性物質の分離回収を進めなければならないことも考えられる。
【0011】
大量の塩分を固化体から分離回収するためには、図4に示すように固化体の構造を凝固材(たとえば多孔性炭酸カルシウム)によって強化してから一定量の水に浸漬すれば、イオン化された塩分を分離回収できる。ただし凝固材によって不可溶性の放射性物質は溶出しなくなるが、もともと可溶性の放射性物質は塩類と一緒に溶出される。したがって塩類と可溶性の放射性物質を分離するには、別の方法が採用されなければならない。
【0012】
多孔性炭酸カルシウムを凝固材として用いた場合には、高温で処理(酸化)すれば、粉末化すると同時に一定の減容が生じるが、カルシウムなど無機質は放射性物質と分離できない。この問題を解決するには、酸化によって燃焼する有機物を凝固材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は気泡発生用の中空管を設けたタンクの断面図である。
【図2】図2は汚染水タンクを減圧加温する場合の断面図である。
【図3】図3は風乾によって生じた固化体の微視的断面図である。
【図4】図4は凝固材から塩類が溶出する場合の微視的断面図である。
【図5】図5は実施例1の断面図である。
【図6】図6は実施例2の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
図5には原発建屋に付属する煙道(水蒸気放出用の煙突)を利用し、ガスタンク(気体圧縮装置)からの気体が煙突から放出されるまでの過程を示した。汚染水を貯留したタンクを除けば、気泡発生用の中空管と煙道までの配管および気泡発生装置の外殻(タンクあるいは建屋)のみが放射性廃棄物となるが、他に廃棄物が増加する要素はない。汚染水タンクは既に用いられている貯蔵タンクの一部を流用することが可能で、特別な配管などの必要はない。すなわち既存の設備を改変せずに汚染水の減容濃縮を行うことができる。
【実施例2】
【0015】
図6に示すように緊急あるいは応急的な処置として、小型の気体圧縮装置あるいはガスボンベと気体発生管を多数の汚染水タンクに設置し、分散処理を行う方法も採用可能である。たとえば10トン程度の可搬性タンクを100台設置した場合、1000トンの汚染水を一度に処理できる。送気量によって異なるが、10分の1程度まで減容するには数日を要すると考えられる。このような分散処理に当たっては、汚染水タンク周辺の空間線量に留意するとともに、濃縮された放射性物質が臨界状態に達しないよう配慮されなければならない。なぜなら空間線量の増加は水蒸気中に溶解した放射性物質の存在を意味し、臨界の危険性は東海村で発生した事故で証明済みである。しかしながら緊急的な対応法として採用される可能性を否定できない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は福島第一原発のように緊急性を有する国家的および産業上の必要性に対するものであり、多数の設備が実施されるとは考え難い。しかしながら緊急性および必要性が極めて高い設備であり、また他地域で原発の溶融などが発生した場合にも同様の装置が要求される。すなわち産業利用上の応用範囲は狭いが、極めて必要度の高い装置設備である。
【符号の説明】
【0017】
1 汚染水タンク
2 気体圧縮装置あるいはガスタンク
3 気泡発生管
4 煙道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体圧縮装置あるいは不活性ガスタンクからの気体を汚染水タンクの底部に導き、汚染水中で気泡を発生させることで水蒸気を分離回収する装置。
【請求項2】
水蒸気の分離回収によって汚染水中の不溶物質を濃縮し、さらに風乾によって放射性物質などの固化体を実現する装置。
【請求項3】
風乾によって得られた塩類と放射性物質の混合体から、凝固材処理によって不溶部分を安定化し、溶媒とくに水によって可溶性塩類を不溶性の放射性物質から分離回収する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7699(P2013−7699A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141729(P2011−141729)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(309027805)
【Fターム(参考)】