説明

放射温度計

【課題】 大きな受光領域の赤外線センサに最適な光学系を構築使用することにより、高速応答性能だけでなく、測定精度及び測定再現性の面で十分に満足のゆく結果が得られ、高速かつ高精度測定を実現できる放射温度計を提供する。
【解決手段】 高速応答のサーモパイル型赤外線センサ1と測定対象物からの赤外光を赤外線センサ1の受光領域に向けて屈折させる赤外線レンズ5との間に、該赤外線レンズ5側ほど漸次広い開口の内周面7aを有する円錐形状の集光ミラー7をその内周面の狭い開口端が赤外線センサ1の受光領域に接触もしくは極近接する状態に配置している

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば食品や飲料水など接触を避けたいものや、工場内の稼動部のように接触式での測定が困難な各種物体の表面温度を非接触で測定する場合に用いられるもので、測定対象物の表面から放出される赤外線量を測定することにより、その測定対象物の表面温度を計測する放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の放射温度計としては、動体の計測用途において応答速度の高速化が望まれている。例えば飲料水を連続製造しつつ温度管理する高速ラインでは1サンプルに対する測定可能時間が30〜40msecであり、このような条件下で、95%以上の応答特性を発揮させるためには10msec以下の応答速度が要求される。放射温度計の応答速度は、内部に搭載されている赤外線センサの応答速度に依存するものであり、かかる観点に立って、赤外線センサの応答速度を高速化するための種々の研究が行われ、飲料水の連続製造高速ラインにも十分に対応する応答速度を有する赤外線センサが開発され現在既に実用化レベルにまで達している。
【0003】
一方、高速応答性能を有する赤外線センサは、その構造上、受光領域が比較的大きくならざるを得ないのであり、このような大きな受光領域の赤外線センサを用いる放射温度計において指示値のふらつき及び視野特性に満足できる効率的な集光が行える光学系は開発されていない。したがって、高速応答性能を有する赤外線センサの光学系としては、従来よりごく一般的に知られている光学系、すなわち、図5に概略的に示すように、赤外線センサ21の前面側にその大きな受光領域21aに対応する大きさの赤外線レンズ22を配置したもの(例えば、特許文献1参照)や、図6に概略的に示すように、赤外線センサ21の受光領域21aの直前部に円錐形状の内周面を有する集光ミラー23のみを配置したものが用いられているのが実状である。
【0004】
【特許文献1】特開平4−104080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図5に示すように、大きな赤外線レンズ22のみを光学系として用いる放射温度計の場合は、大きいだけでなく分厚いレンズが必要で、高価であるのみならず厚さに対応して透過損失が増えるために、測定対象物からの赤外光の取り込み効率はせいぜい30%程度であり、高速応答性能に優れた赤外線センサを用いつつも、測定精度及び測定再現性の面では満足のゆく結果が得られない。また、図6に示すような円錐形状の集光ミラー23のみを光学系として用いる放射温度計の場合は、赤外線センサの受光領域に適合する絞った視野特性が得られず、測定精度及び測定再現性の面で満足のゆく結果が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、大きな受光領域の赤外線センサに最適な光学系を構築することにより、高速応答性能に優れているだけでなく、測定精度及び測定再現性の面でも満足のゆく結果が得られ、高速かつ高精度測定を実現できる放射温度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る放射温度計は、測定対象物の表面から放出される赤外線量を測定してその測定対象物の表面温度を計測する放射温度計であって、赤外線センサと前記測定対象物からの赤外光を前記赤外線センサの受光領域に向けて屈折させる赤外線レンズとの間に、該赤外線レンズ側ほど漸次広い開口の内周面を有する錘体形状の集光ミラーをその内周面の狭い開口端が赤外線センサの受光領域に接触もしくは極近接する状態に配置していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記のような特徴構成を有する本発明によれば、受光領域の大きな赤外線センサを使用することにより、放射温度計の応答速度を高速化して動体の計測用途にも十分に対応することができるとともに、赤外線センサの大きな受光領域に対する光学系として、赤外線レンズと錘体形状の集光ミラーとの組み合わせからなる光学系を用い、レンズの厚みや曲率及び集光ミラーの開き角や長さなどに関して、測定対象物からの赤外光を100%近く取り込める効率よい集光特性及び絞った視野特性が得られるようにするための光学シミュレーションによる選択と実験による検証を行い、その結果、大きな受光領域に最適な光学系の構築を完成することができたのである。したがつて、高速応答性能に優れているだけでなく、その高速応答赤外線センサに最適な光学系の構築(採用)により、測定精度及び測定再現性の面でも十分満足のゆく結果が得られ、高速かつ高精度測定が実現可能な放射温度計を得ることができるという効果を奏する。
【0009】
本発明に係る放射温度計における赤外線センサとしては、請求項2に記載のように、基板上に短冊状の細長い薄膜部を互いに平行に複数列配置し、これら複数列の細長い薄膜部の各長辺に沿ってそれぞれ複数の熱電対を直列に接続して設けたサーモパイルから構成されたものを使用することが好ましい。
【0010】
上記構成のサーモパイル型赤外線センサは、薄膜部とヒートシンクである基板との熱コンダクタンスが短辺方向のサイズで規定されるので、応答速度を速くすることができる一方、薄膜部の長辺方向に沿った熱電対の設置段数を増やすことにより、応答速度が速くなればなるほど後述のトレードオフの関係から感熱部の到達温度が低くなり、それに伴う感度低下を補うことができ、二律背反の関係にある応答速度と実用レベル感度の性能を両立させることが可能である。このような高速応答でかつ感度の高いサーモパイル型赤外線センサとそれに最適な光学系との組み合せによって、例えば飲料水を連続製造しつつ温度管理する高速ラインなどの動体の計測用途に非常に有効に適用することができる。
【0011】
なお、前記応答速度と感度とのトレードオフの関係とは、感熱部の熱容量をC、基板との熱コンダクタンスをGとした時の熱時定数τが、
τ=C/G …(1)
で表わされ、応答速度を速くしようとすると、熱容量Cを小さく熱コンダクタンスGを大きくする必要がある一方、熱コンダクタンスGが大きくなると感度が低下する関係にあることをいうものである。
【0012】
また、上記サーモパイル型赤外線センサを用いる放射温度計において、請求項3に記載のように、前記赤外線センサの受光領域を円形またはほぼ円形に形成し、かつ、前記集光ミラーの内周面を円錐形状に形成することが望ましい。この場合は、測定対象物がどのような形状のものであっても、高感度かつ高速度に、しかも高精度に測定することができるとともに、汎用性を高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る放射温度計において、請求項4に記載のように、前記集光ミラーを、その内周面の広い開口端と赤外線レンズとの間に空間を形成するように配置する場合は、レンズによって屈折された赤外光が集光ミラーの広い開口端側の内周面で乱反射されて視野特性が悪化することを回避することが可能で、集光特性及び視野特性を一層優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る放射温度計の要部である鏡筒部の縦断面図である。図1において、1は赤外線センサで、鏡筒2内の底部に取付座板3及びボルト4を介して着脱自在に組付け固定されている。前記鏡筒2の開口端側には測定対象物からの赤外光IRを前記赤外線センサ1の受光領域に向けて屈折させる赤外線レンズ5が環状押え6を介して固定されている。
【0015】
前記赤外線センサ1と前記赤外線レンズ5との間の鏡筒2内には、赤外線レンズ5側ほど漸次広い開口の内周面7aを有する円錐形状の集光ミラー7が配置されている。この集光ミラー7は、その内周面7aの最も広い開口端に前記赤外線センサ1の受光領域(後述する)の約15倍の面積の仮想受光面8を形成するように構成されているとともに、その内周面7aの最も狭い開口端が前記赤外線センサ1を収容するキャン9に接触されるように固定して赤外線センサ1の受光領域との間の距離を可及的に短くしている。また、前記集光ミラー7は、その内周面7aの最も広い開口端、すなわち、仮想受光面8と赤外線レンズ5との間に空間が存在するように長さLの短いものに形成されている。
【0016】
前記鏡筒2底部の取付座板3の外面には、赤外線センサ1のヒートシンクとなるシリコン基板10から導出されたリードピン11を電気的に接続する導電性のプリント基板12が前記ボルト4により共締め固定されている。
【0017】
前記赤外線センサ1は、図2及び図3の原理構成図に示すように、シリコン基板10の上面にSiO2 等の絶縁膜13を形成した上、前記シリコン基板10の裏面をエッチングすることにより、ダイヤフラム構造で短冊状の3列の細長い薄膜部14a,14b,14cを互いに平行に並べ形成して感熱部とし、これら薄膜部14a,14b,14cにより略円形の受光領域1Aが形成されている。
【0018】
そして、前記3列の薄膜部14a,14b,14cの各長辺に沿って、アルミニウムと多結晶シリコンとで構成される複数個、例えば合計で144個の熱電対15をそれらの各温接点15hが薄膜部14a,14b,14c上に位置し、かつ、各冷接点15cがシリコン基板10上に位置するように一定パターン幅に並設するとともに、これら各熱電対15を直列に接続した高速応答サーモパイルから構成されている。
【0019】
放射温度計は、上記した高速応答サーモパイル型の赤外線センサ1及び赤外線レンズ5と集光ミラー7の組み合せからなる光学系を搭載した鏡筒部に、警報出力機能や、ゲート入力によるピークホールド・ボトムホールド、移動平均機能、外部とのインターフェイス回路などを内蔵したケース本体が接合されていいるが、それらは周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0020】
上記のように構成された放射温度計においては、赤外線センサ1として、短冊状の細長い薄膜部14a,14b,14cを互いに平行に3列並べた構造を感熱部とし、その感熱部に複数個、例えば合計144個の熱電対15を直列接続したサーモパイル型赤外線センサが用いられていることにより、既述のトレードオフの関係式(1)からも明らかなように、2msec以上、10msec以下の速い応答速度と実用レベル感度を両立させることが可能となり、例えば飲料水を連続製造しつつ温度管理する高速ラインなどの動体の計測用途にも有効に適用することができる。
【0021】
その上、上述のような高速応答高感度なサーモパイル型赤外線センサ1の比較的大きな受光領域1Aに対する光学系として、赤外線レンズ5と円錐形状の集光ミラー7とを組み合わせたもので、レンズ5の厚みや曲率及び集光ミラー7の開き角や長さなどに関して、測定対象物からの赤外光IRを100%近く取り込める効率よい集光特性及び絞った視野特性が得られるようにするための光学シミュレーションによる選択と実験による検証を行い、大きな受光領域1Aに対しても指示値のふらつき及び視野特性が満足できるように構築された最適な光学系を用いることによって、高速応答性能に優れているだけでなく、測定精度が±2℃(0〜200℃)以内、測定再現性が1℃以内という高精度測定を実現可能な放射温度計を得ることができる。
【0022】
また、上記実施の形態のように、前記サーモパイル型赤外線センサ1の受光領域1Aを略円形または円形に形成し、かつ、前記集光ミラー7の内周面7aを円錐形状に形成することにより、測定対象物がどのような形状のものであっても、高感度かつ高速度に、しかも高精度に測定することができるとともに、汎用性を高めることができる。
【0023】
さらに、前記集光ミラー7としては、図1の仮想線で示すように、その円錐形状の内周面7aの最も広い開口端が赤外線レンズ5に接触するような長さに形成してもよいが、特に、上記実施の形態で示したように、内周面7aの最も広い開口端と赤外線レンズ5との間に空間が存在する長さLの短いものに形成することによって、レンズ5によって屈折された赤外光IRが集光ミラー7の広い開口端側の内周面7aで乱反射されて視野特性が悪化することを回避することが可能で、集光特性及び視野特性を一層優れたものとすることができる。
【0024】
なお、上記実施の形態では、シリコン基板10上にダイヤフラム構造で短冊状の3列の細長い薄膜部14a,14b,14cを互いに平行に並べて感熱部とし、これら薄膜部14a,14b,14cにより略円形の受光領域1Aを形成してなるサーモパイル型赤外線センサ1を使用したが、これに代えて、図4に示すように、ダイヤフラム構造で短冊状の同長の細長い薄膜部14a,14bを2列平行に並べて感熱部とし、これら2列の薄膜部14a,14bの各長辺に沿ってアルミニウムと多結晶シリコンとで構成される複数個の熱電対15を並設するとともに、これら各熱電対15を直列に接続してなる長方形の受光領域1Aを有する高速応答サーモパイル型赤外線センサ1を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る放射温度計の要部である鏡筒部の縦断面図である。
【図2】本発明に係る放射温度計に用いる赤外線センサの原理構成を示す平面図である。
【図3】本発明に係る放射温度計に用いる赤外線センサの原理構成を示す断面図である。
【図4】本発明に係る放射温度計に用いる他の赤外線センサの原理構成を示す平面図である。
【図5】従来の放射温度計に用いられていた赤外線センサの光学系の一例を示す概略図である。
【図6】従来の放射温度計に用いられていた赤外線センサの光学系の他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 赤外線センサ(サーモパイル型赤外線センサ)
1A 受光領域
5 赤外線レンズ
7 集光ミラー
7a 円錐形状の内周面
14a,14b,14c 短冊状の細長い薄膜部
15 熱電対
IR 赤外光


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面から放出される赤外線量を測定してその測定対象物の表面温度を計測する放射温度計であって、
赤外線センサと前記測定対象物からの赤外光を前記赤外線センサの受光領域に向けて屈折させる赤外線レンズとの間に、該赤外線レンズ側ほど漸次広い開口の内周面を有する錘体形状の集光ミラーをその内周面の狭い開口端が赤外線センサの受光領域に接触もしくは極近接する状態に配置していることを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記赤外線センサが、基板上に短冊状の細長い薄膜部を互いに平行に複数列配置し、これら複数列の細長い薄膜部の各長辺に沿ってそれぞれ複数の熱電対を直列に接続して設けたサーモパイルから構成されている請求項1に記載の放射温度計。
【請求項3】
前記サーモパイルから構成される赤外線センサの受光領域が、円形またはほぼ円形に形成され、かつ、前記集光ミラーの内周面が円錐形状に形成されている請求項2に記載の放射温度計。
【請求項4】
前記集光ミラーは、その内周面の広い開口端と赤外線レンズとの間に空間を形成するように配置されている請求項1ないし3のいずれかに記載の放射温度計。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−2739(P2009−2739A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162613(P2007−162613)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】