説明

放射線像変換パネルの製造方法

【課題】気相堆積法によって蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造において、蛍光体層のクラックや剥離がなく、かつ、感度が良好な変換パネルを、安定して製造することを可能にする。
【解決手段】気相堆積法による蛍光体層の形成開始時における基板温度を152〜189℃に、形成終了時における基板温度を190〜250℃に、それぞれ制御することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージングプレートやシンチレータパネル等の放射線像変換パネルの製造に関し、詳しくは、蛍光体層のクラックや剥離を無くし、かつ、感度も良好な放射線像変換パネルを安定して製造することを可能にする放射線像変換パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線など)の照射を受けると、受けた放射線エネルギーに応じた応答を示す蛍光体が知られており、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、放射線の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギーに応じた輝尽発光を示す、輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0004】
この輝尽性蛍光体の層を有する放射線像変換パネル(いわゆるIP(Imaging Plate))を利用する、放射線像情報記録再生システムが知られており、例えば、富士フイルム社製のFCR(Fuji Computed Radiography)等として実用化されている。
このシステムでは、人体などの被写体を介してX線等を照射することにより、変換パネル(輝尽性蛍光体層)に被写体の放射線像を記録する(放射線画像を撮影する)。記録後に、変換パネルを励起光で2次元的に走査して輝尽発光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて再生した画像を、CRTなどの表示装置や、写真感光材料などの記録材料等に、被写体の放射線像として出力する。
【0005】
また、IPのように、放射線画像を蓄積記録して、励起光の照射による輝尽発光光によって放射線画像を得るのではなく、放射線の入射によって可視光を発光(蛍光)する蛍光体も知られている。この蛍光体からなる蛍光体層を有する放射線像変換パネル(いわゆるシンチレータパネル)も、医療用途等の各種の用途に利用されている。
シンチレータパネルを用いるシステムでは、被写体を透過した放射線をシンチレータパネルに入射することにより、被写体画像を担持する放射線を可視光に変換し、この可視光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換して、この電荷をTFT(Thin Film Transistor)等で、順次、読み出して電気信号を得、この電気信号を先と同様に被写体の放射線画像として出力する。
【0006】
従来より、IPやシンチレータパネル等の放射線像変換パネル(以下、変換パネルとする)における蛍光体層は、蛍光体粒子と結合剤(バインダ)とを溶媒に分散してなる塗料を調整して、この塗料をガラスや樹脂製のパネル状の支持体に塗布、硬化することによって、形成される(塗布型の蛍光体層)。
これに対し、真空蒸着やスパッタリング等の気相堆積法(真空形成法)によって、蛍光体層を形成(成膜)してなる変換パネルも知られている。気相堆積法による蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、輝尽性蛍光体以外のバインダなどの成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。
【0007】
気相堆積法による蛍光体層の形成では、変換パネルの特性を向上するために、様々な工夫が行なわれている。
形成中における基板(形成する蛍光体層)の温度制御も、その1つである。
【0008】
例えば、特許文献1には、真空蒸着によって輝尽性蛍光体層を形成する変換パネルの製造において、形成中に基板の温度を経時的に低くすることが開示されており、特に、蒸着開始時における基板温度と、蒸着終了時における基板温度の差を100℃以上、中でも特に150℃以上とするのが好ましいとしている。
気相堆積法による蛍光体層は、柱状結晶構造を有するために、塗布型の蛍光体層に比して、鮮鋭性の良好な放射線画像を得ることができる。特許文献1には、このように基板の温度を制御することにより、柱状結晶の大径化を抑制して、画像の粒状性および鮮鋭性の良好な放射線画像を得ることができることが開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、基板の裏面側を複数の区分に分割して、独立して加熱条件を制御可能にして、各領域を所定の温度に加熱することが開示されており、さらに、基板温度を150〜350℃の範囲で一定温度に制御するのが好ましいとしている。
特許文献2には、このような構成を有し、特に基板を前記温度範囲に制御することにより、形成中における基板の中央部と周辺部との温度差を無くし、基板全域に渡って、粒状性や鮮鋭性に優れ、かつ感度も良好な変換パネルが得られることが開示されている。
【0010】
【特許文献1】特許第3070940号公報
【特許文献2】特開平10−62599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献に開示されるように、気相堆積法によって蛍光体層を形成する変換パネルの製造方法においては、蛍光体層の形成中に基板の温度を制御することにより、変換パネルの感度を向上し、さらに放射線画像の鮮鋭性や粒状性も向上できる。
しかしながら、従来の基板温度の制御方法では、十分な感度を有する変換パネルを得られない場合が有り、さらに、蛍光体層の剥離や、蛍光体層にクラック(ヒビ割れ)を生じてしまう場合も有る。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、気相堆積法によって蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造において、蛍光体層の形成開始時および形成終了時の基板温度を、それぞれで適正に制御することにより、良好な感度を有し、かつ、蛍光体層のクラックの剥離等の無い放射線像変換パネルを、安定して製造することを可能にする放射線像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の放射線像変換パネルの製造方法は、気相堆積法によって蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造において、前記蛍光体層の形成開始時における基板の温度を152〜189℃に制御し、前記蛍光体層の形成終了時における基板の温度を190〜250℃に制御することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法を提供する。
【0014】
このような本発明の放射線像変換パネルの製造方法において、前記蛍光体層が、輝尽性蛍光体からなる層であるのが好ましく、また、気相堆積法によって付活剤を含有しない母体層を形成し、この母体層の上に、前記蛍光体層を形成するのが好ましく、さらに、前記輝尽性蛍光体が、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体であるのが好ましい。
あるいは、前記蛍光体層が、放射線の入射によって可視光を発光する蛍光体からなるものであるのが好ましく、また、前記蛍光体の母体がCsIであるのが好ましく、さらに、前記蛍光体が、付活剤として、Tl,Na,Eu,およびTbの少なくとも1つを含有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、真空蒸着等の気相堆積法によって蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造において、蛍光体層の形成開始時および形成終了時における基板の温度を、終了時の方が高温になる所定温度となるように制御する。すなわち、蛍光体層の形成中に、基板温度が一定温度となるように制御を行なうのではなく、蛍光体層の形成開始時および形成終了時の、それぞれで基板温度が適正になるように、基板の温度制御を行なう。
本発明は、このような構成を有することにより、蛍光体層のクラックの発生や蛍光体層の剥離を防止して、さらに、感度も良好な放射線像変換パネルを、安定して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明の製造方法によって製造される放射線像変換パネルの一例の概念図を示す。
図1に示す放射線像変換パネル10(以下、変換パネル10とする)は、基本的に、基板12と、母体層14と、蛍光体層18とを有して構成される。
【0018】
この変換パネル10は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有し、被写体を透過した放射線を蓄積(記録)することにより放射線画像を撮影して、励起光の入射によって撮影した放射線画像に応じて輝尽発光光を出射する、いわゆるIP(Imaging Plate)である。
しかしながら、本発明は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有する変換パネル10の製造(輝尽性蛍光体層の形成)に限定はされず、放射線の入射で可視光を発光(蛍光)する蛍光体層(シンチレータ層)を有する、いわゆるシンチレータパネルの製造にも、好適に利用可能である。
【0019】
本発明の製造方法において、蛍光体層18(図示例においては、さらに母体層14)を形成する基板12には、特に限定はない。
すなわち、基板12としては、アルミニウム板等の金属板、ガラス板、プラスチック製(樹脂製)のフィルムや板など、真空蒸着などの気相堆積法によって蛍光体層を形成(成膜)できるものが、全て利用可能であり、製造する放射線像変換パネルの用途に応じたものを、適宜、選択すればよい。また、基板12は、基材となる金属板等の表面に、基材を保護するための保護層、蛍光体層18(母体層14)の密着性を向上するための密着層(密着改良層)、輝尽発光光を反射するための反射層等、各種の機能を発現するための層(各種の機能を得るための層)を有するものであってもよい。
【0020】
また、蛍光体層18を、一般式CsBr:Euで示される蛍光体などのアルカリハライド系の蛍光体で形成し、かつ、基板12に金属材料を利用する場合には、基板12は、ポリパラキシリレン層、および、ポリパラキシリレン層の上層の酸化物層を有するのが好ましい。
ポリパラキシリレン層は、吸湿した蛍光体が金属を腐食するのを防止するための層(隔離層)であり、パラキシリレンもしくはパラキシリレン誘導体を重合してなる膜である。具体的には、パリレンC(ポリモノクロロパラキシリレン)、パリレンD(ポリジクロロパラキシリレン)、パリレンHT(ポリテトラフルオロパラキシリレン)、および、パリレンN(ポリパラキシリレン)等からなる層が例示される。
また、酸化物層は、ポリパラキシリレン層では不十分な蛍光体層18の密着性を向上するための層(密着層)であり、酸化硅素(SiO2)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、および、酸化アルミニウム(Ai23)等からなる層が例示される。
【0021】
図示例の変換パネル10は、好ましい態様として、基板12の表面に母体層14を有し、この母体層14の上に蛍光体層18を有する。
前述のように、蛍光体層18は、輝尽性蛍光体からなる層である。輝尽性蛍光体は、通常、母体と付活剤(賦活剤:activator))とで形成される。母体層14は、輝尽性蛍光体の付活剤(付活剤成分)を含まない、母体(母体成分)のみからなる層である。
例えば、蛍光体層18が、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体からなる場合には、母体層14は、付活剤であるEuを含まない、臭化セシウム(CsBr)のみからなる層である。
このような母体層14を形成し、この母体層14の上に蛍光体層18を形成することにより、蛍光体層18の密着性を向上することができ、好ましい。
【0022】
なお、当然のことであるが、図示例の変換パネル10の製造においては、まず、基板12の表面に母体層14を形成し、その後、付活剤を含む蛍光体層18を形成する。ここで、気相堆積法によって形成された母体層14および蛍光体層18は、図1に示すように、柱状結晶構造を有するが、母体層14と蛍光体層18とは、境界を有する独立した層にはならず、あたかも1本の柱のように結晶が成長する。
そのため、図1においては、模式的に母体層14と蛍光体層18との境界を点線によって示している。
【0023】
変換パネル10において、母体層の厚さには特に限定は無く、形成する蛍光体層18に応じて、適宜、決定すればよいが、通常、1〜350μm程度が好ましく、特に、10〜100μmが好ましい。
【0024】
蛍光体層18は、このような母体層14の上に形成される。すなわち、図示例においては、蛍光体層18を成膜する基板(成膜基板)は、母体層14を形成した基板12と言うこともできる。
特許文献1等にも示されるように、真空蒸着等の気相堆積法で形成(成膜)される蛍光体層18(および母体層14)は、図1に概念的に示されるように柱状結晶構造を有し、蛍光体層18は、間隙を有する状態で柱状結晶が立設されたような構造となる。
【0025】
前述のように、変換パネル10において、蛍光体層18は、輝尽性蛍光体からなる層である。
本発明の製造方法で形成する蛍光体層18には、特に限定はなく、公知の輝尽性蛍光体からなる層が、全て利用可能である。
【0026】
特に、良好な輝尽発光特性が得られる、本発明の効果を好適に得ることができる等の点で、特開昭61−72087号公報に開示される、一般式;
IX・aMIIX’2・bMIIIX''3:cA
で示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体が好適に利用される。
(上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。)
その中でも、優れた輝尽発光特性を有し、かつ、本発明の効果が特に良好に得られる等の点で、MIが、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体が好ましい。
【0027】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同56−116777号、同58−69281号、同58−206678号、同59−38278号、同59−75200号等の各公報に開示される各種の輝尽性蛍光体も、好適に利用可能である。
【0028】
また、本発明の製造方法で製造する放射線像変換パネル(本発明の製造方法で成膜する蛍光体層)は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を有する変換パネル10に限定はされず、前述のように、放射線の入射によって可視光を発光(蛍光)する蛍光体からなる蛍光体層を有する放射線像変換パネルであってもよい。
【0029】
このような蛍光体も、公知の物が全て利用可能であるが、同様に、本発明の効果を好適に得ることができる等の点で、下記の一般式;
IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA
で示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体が好ましく例示される。
(上記式において、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表わす。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表わし、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表わす。)
特に、本発明の効果を、より良好に得られる等の点で、前記一般式のMIとしてCsを含んでいるのが好ましく、XとしてIを含んでいることが好ましく、AとしてTl,Na,Eu,およびTbの何れかを含んでいるのが好ましく、また、zは、1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値であるの好ましい。すなわち、一般式CsI:Tl、CsI:Na、CsI:EuおよびCsI:Tbで示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は、好ましく用いられる。
【0030】
本発明の製造方法において、蛍光体層18の形成方法には、特に限定はなく、スパッタリング、CVD等の各種の気相堆積法が全て利用可能であるが、成膜速度や形成する蛍光体層の結晶構造、さらには、本発明の効果をより好適に得ることができる等の点で、真空蒸着が好適に利用される。
【0031】
また、真空蒸着によって蛍光体層18を形成する場合には、特に蛍光体成分と付活剤成分の成膜材料を別のルツボ(蒸発源)で加熱/蒸発する、二元の真空蒸着で蛍光体層を形成するのが好ましい。例えば、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体の蛍光体層18を形成する場合であれば、付活剤成分である臭化ユーロピウム(EuBrx(xは、通常、2〜3であるが2が好ましい))と、母体成分である臭化セシウムとを、別々のルツボに収容して、蒸着を行なうのが好ましい。
二元の真空蒸着を行なうことにより、母体層14を容易に形成することが可能であり、また、蛍光体層18における付活剤の含有量の制御を良好に行なうことが可能となる。
【0032】
さらに、真空蒸着を行なう際における成膜条件にも、特に限定は無く、後述する、蛍光体層の形成開始時(蒸着開始時)における基板温度、および、蛍光体層の形成終了時(蒸着終了時)における基板温度以外は、形成する蛍光体層に応じた成膜条件を、適宜、設定すればよい。
ここで、本発明においては、良好な柱状結晶構造の蛍光体層18が形成できる方法として、0.01〜3Pa程度の真空度(以下、便宜的に中真空とする)で、抵抗加熱等によって成膜材料を加熱して真空蒸着を行うのが好ましい。好ましくは、一旦、系内を高い真空度に排気した後、アルゴンガスや窒素ガス等を系内に導入して中真空として、この中真空下で真空蒸着を行うのが好ましい。前述のように、気相堆積法による蛍光体層18は柱状結晶構造を有するが、このような中真空下で真空蒸着によって形成した蛍光体層18、特に前記CsBr:Eu等のアルカリハライド系の蛍光体層18は、非常に良好な柱状の結晶構造を有する。
【0033】
また、蛍光体層18の層厚にも、特に限定は無く、形成する蛍光体層18等に応じて、適宜、設定すればよいが、通常、100〜1500μm程度が好ましく、特に、500〜1000μmが好ましい。
【0034】
本発明は、基板12に、真空蒸着等の気相堆積法によって蛍光体層18を形成することにより、変換パネル10を製造するものであり、蛍光体層18の形成開始時における基板12の温度(形成開始温度)を152〜189℃に制御し、蛍光体層18の形成終了時における基板12の温度(形成終了温度)を190〜250℃に制御する。
本発明の変換パネル10の製造方法は、このような構成を有することにより、蛍光体層18のクラック(ヒビ割れ)の発生、蛍光体層18の剥離を防止し、さらに、感度も良好な変換パネル10を、安定して製造することを可能にしたものである。
【0035】
特許文献1や特許文献2に開示されるように、気相堆積法によって蛍光体層を形成する(放射線画像)変換パネルの製造においては、良好な特性を有する変換パネルを得るために、蛍光体層の形成中に基板の温度制御が行なわれている。
しかしながら、これらの特許文献等に示されるような、一定温度や単純漸減などの従来の基板温度制御では、蛍光体層にクラックが入る、蛍光体層が剥離する等の不良が生じる場合が有り、さらに、十分な感度も得られない場合が有る。
【0036】
これに対し、本発明者らの検討によれば、気相堆積法による蛍光体層の形成では、蛍光体層の形成開始時および形成終了時の両者で、それぞれに適正な基板12(すなわち蛍光体層18)の温度範囲があり、蛍光体層の形成開始時および形成終了時の、それぞれに対応して、開始時には152〜189℃、終了時には190〜250℃となるように、基板の温度制御を行なう。これにより、蛍光体層のクラック発生や剥離を好適に防止することができ、さらに、感度も良好な変換パネル10を安定して製造できる。
【0037】
蛍光体層18の形成開始時における基板12の温度が152℃未満では、蛍光体層18のクラックが発生し易く、甚だしい場合には、このクラックに起因して、蛍光体層18が剥離してしまう。逆に、蛍光体層18の形成開始時における基板12の温度が189℃を超えると、蛍光体層18を形成する柱状結晶同士が融着し易くなり、この融着により、蛍光体層18が剥離してしまう。
なお、蛍光体層18のクラック発生や剥離を、より好適に防止できる等の点で、蛍光体層18の形成開始時における基板12の温度は、155〜170℃が、より好ましい。
【0038】
他方、蛍光体層18の形成終了時における基板12の温度(基板12の到達温度)が190℃未満では、同様に、蛍光体層18のクラックが発生し易く、しかも、変換パネル10(蛍光体層18)の感度が不十分になってしまう場合が多い。逆に、蛍光体層18の形成終了時における基板12の温度が250℃を超えると、蛍光体層18を形成する柱状結晶同士が融着し易くなり、この融着により、蛍光体層18が剥離してしまう。
なお、蛍光体層18のクラック発生や剥離を、より好適に防止でき、しかも、十分な感度を安定して得ることができる等の点で、蛍光体層18の形成終了時における基板12の温度は、190〜230℃が、より好ましい。
【0039】
ここで、図示例のような母体層14を有する変換パネル10では、前述のように、母体層14と蛍光体層18とは、あたかも1本の柱のように結晶が成長するので、剥離は、基板12と母体層14との間で生じ、この母体層14の剥離によって、結果的に、蛍光体層18が基板12から剥離する。
【0040】
本発明においては、蛍光体層18の形成中も、基板12の温度は上記範囲すなわち152〜250℃の範囲であるのが好ましく、特に、形成開始時から形成終了時に向けて、基板12の温度が、漸次、上昇するように、基板温度を制御するのが好ましい。
【0041】
蛍光体層の形成開始時および形成終了時における基板温度の制御方法には、特に限定はない。例えば、基板を保持する基板ホルダ(基板保持手段)に、加熱手段、冷却手段、加熱/冷却手段等の基板の温度制御手段を設けて、この温度制御手段によって、蛍光体層の形成開始時および形成終了時における基板温度を制御する方法、ヒータや加熱用のランプを用いて蛍光体層18の形成面側から輻射熱等によって基板12を加熱する方法等、公知の温度制御方法が、各種、利用可能である。
【0042】
また、一般的な真空蒸着では(特に、基板12とルツボとが近接する、前記中真空の真空蒸着では)、成膜を開始した後は、成膜終了まで、蒸発源からの輻射熱や成膜材料蒸気の熱等によって、基板12の温度は、漸次、高くなる。
従って、成膜開始前に、ヒータ等によって基板の温度を152〜189℃の範囲における所定温度(形成開始温度)に加熱して、この温度で蛍光体層18の形成を開始し、蒸発源からの輻射熱等を利用して、基板12の温度を、漸次、上昇させることにより、成膜終了時における基板温度を190〜250℃とする、基板12の温度制御方法も、好適に利用可能である。
なお、この輻射熱を利用する基板12の温度制御方法においては、蛍光体層18の形成開始後は、ヒータによる加熱は停止してもよく、ヒータは形成開始温度に維持してもよく、ヒータを形成開始温度よりも低い温度に調整して加熱を維持してもよい。すなわち、この基板温度の制御方法において、蛍光体層18の形成開始後のヒータのon/offや温度は、蛍光体層18の形成時における輻射熱、基板ホルダからの放熱状態などに応じて、成膜終了時における基板温度が目的とする温度になるように、適宜、設定すればよい。
【0043】
なお、この輻射熱を利用する温度制御方法で、形成終了時における基板温度が高くなり過ぎる場合には、基板ホルダなどの基板12に接触する部材に放熱手段を設ける方法、基板ホルダなど基板に接触する部材と基板12との密着性や接触量を調整する方法、基板ホルダなど基板に接触する部材から真空チャンバ等への放熱経路の設定する方法等によって、過剰な基板12の温度上昇を抑制することにより、基板12の温度を制御すればよい。
あるいは、基板の温度に応じて、基板加熱用のヒータの温度や駆動を制御してもよく、また、冷却手段を利用してもよい。
【0044】
以下、図2を参照して、本発明の変換パネル10の製造方法の一例を説明する。なお、図2において、横軸は時間経過を示す。
なお、本例は、母体成分と付活剤成分とを、別々のルツボで加熱する、二元の真空蒸着によって蛍光体層18を形成する例である。
【0045】
真空蒸着装置の基板ホルダへの基板12の装填し、ルツボへの成膜材料の充填等、準備が終了したら、真空チャンバを閉塞して、内部を所定の圧力まで減圧し、さらに、成膜材料の加熱を開始する。
成膜材料が所定温度まで上昇したら、母体成分(母体成分を収容するルツボ)に対応するシャッタを開放して、母体層14の成膜を開始する(時点a)。
【0046】
所定厚さの母体層14を形成したら、母体成分に対応するシャッタを閉塞して、一旦、成膜を停止する(時点b)。この間、基板12の温度はルツボ空の輻射熱等によって、漸次、上昇する。また、母体層14の形成終了と同時(時点b)に、基板ホルダ等に設置された基板12の加熱手段を駆動して、基板12の加熱を開始する。
基板温度が蛍光体層18の形成開始時における目的温度(形成開始温度 図示例では、152℃)まで上昇したら(時点c)、基板12の温度が安定するのを待ち、基板温度が形成開始温度で安定したら(時点d)、母体成分および付活剤成分に対応するシャッタを開放して、蛍光体層18の形成を開始する。なお、蛍光体層18の形成開始後は、基板12の加熱手段は、加熱停止でも加熱継続でも良いのは、前述のとおりである。
【0047】
蛍光体層18の形成中は、基板21の温度は、ルツボからの輻射熱等によって、漸次、上昇する(単調増加する)。
所定の厚さの蛍光体層18を形成したら(時点e)、シャッタを閉塞して、成膜材料の加熱を停止して、蛍光体層18の形成を終了する。
なお、本例においては、基板12の加熱手段の温度を形成開始温度に維持し、ルツボからの輻射熱等によって基板12を加熱することで、この時点eにおける温度が190〜250℃となるように制御を行なっているが、必要に応じて、基板ホルダに放熱部材を設ける、基板加熱手段の駆動を制御する等の方法で、時点eにおける温度が190〜250℃となるように基板温度を制御する。
【0048】
蛍光体層18の形成を終了したら、真空チャンバ内を大気開放し、基板温度が十分に低くなったら、蛍光体層18を形成した基板12(変換パネル10)を真空チャンバから取り出し、必要に応じて、後加熱処理(アニーリング)を行ない、さらに、防湿性を有する保護膜で蛍光体層18を気密に封止する。
なお、後加熱処理は、形成する蛍光体層18に応じた、公知の条件で行なえばよい。
【0049】
図3(A)に、本発明の製造方法を実施する真空蒸着装置の一例の概念図を示す。
図3(A)に示す真空蒸着装置20は、母体成分の成膜材料と、付活剤成分の成膜材料とを、別々のルツボ(蒸発源)によって加熱する、二元の真空蒸着によって基板12の表面に母体層14および蛍光体層18を形成するものである。
このような真空蒸着装置20(以下、蒸着装置20とする)は、基本的に、真空チャンバ22と、真空排気手段24と、基板ホルダ26(図3(B)に詳細を示し、図3(A)では外形のみを示す)と、基板搬送機構28と、加熱蒸発部30とを有して構成される。
【0050】
真空チャンバ22は、ステンレス等で構成される、真空蒸着装置における通常の真空チャンバであり、内部を真空排気手段24によって排気され、所定の圧力(真空度)に維持される。
真空排気手段24も、真空蒸着装置に利用される公知のものであり、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボモレキュラポンプ等や、これらの組み合わせなどの公知の真空ポンプが、各種、利用可能であり、さらに、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。
また、図示は省略するが、真空チャンバ12には、真空チャンバ12内に圧力調整用のアルゴンガスの導入する、ガス導入手段が設けられる。ガス導入手段も、ボンベ等との接続手段やガス流量の調整手段等を有する(もしくは、これらに接続される)、真空蒸着装置やスパッタリング装置等で用いられる、公知のガス導入手段である。
【0051】
基板ホルダ26は、蛍光体層18を成膜される基板12を、成膜面を下方(加熱蒸発部30側、以下、この方向を「下」、逆を「上」とする)に向けて保持するものである。なお、図示例において、基板12は四角形の板状のものである。
図3(B)に、基板ホルダ26の構成を概念的に示す。図示例の蒸着装置20において、基板ホルダ26は、ホルダ本体34と、保持部材36と、金属プレート38と、熱電導シート40と、ネジ42と、ナット46と、ヒータ48と、送りネジ部材50と、ガイド部材52とを有して構成される。
【0052】
ホルダ本体34は、下面が開放する矩形の筐体であり、上面の中央に、筒状のブロック部材34aが固定される。
金属プレート38は、銅、アルミニウム、ステンレス等の熱伝導が高い金属で形成される、四角形の板状の部材であり、前記開放面からホルダ本体34内に挿入され、下部の一部を厚さ方向(板の厚さ方向)に突出して、公知の固定手段でホルダ本体34に固定される。なお、基板12の温度制御性を良好にするためには、ホルダ本体34と金属プレート38とは、前記固定手段以外は非接触とするのが好ましい。
金属プレート38の下面には、全面的に密着するように、熱伝導シート40が固定されている。熱伝導シート40は、高い熱伝導(例えば、熱伝導率1W/m以上)を有し、かつ、可撓性および弾性を有するシート状物である。熱伝導シート40としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレンプロピレン系樹脂等の樹脂に、熱伝導粒子や熱伝導フィラーを分散させたシートや、グラファイトシート等が例示され、各種の市販品を用いればよい。
【0053】
金属プレート38の上面には、ヒータ48が固定される。
ヒータ48は、シースヒータ等の公知のヒータ(加熱手段)である。なお、本発明を実施する蒸着装置20においては、ヒータ48に加えて、基板12を冷却するための冷却手段を設けてもよく、あるいは、ヒータ48に代えて公知の加熱冷却手段を設けてもよい。
また、前述のように、成膜前に基板12を152〜189℃の目的とする成膜開始温度に加熱して、成膜を開始し、後述するルツボ62や64からの輻射熱によって基板12の温度を上昇して形成終了時における温度を190〜250℃に制御する方法において、形成終了時における温度が高く成りすぎる場合には、金属プレート38の上面に、金属性のブロック等の放熱部材を設けて、ルツボからの輻射熱等による基板12の過剰な加熱を防止してもよい。
【0054】
さらに、基板ホルダ26には、基板12の温度を測定するための温度測定手段49が配置される。
図示例においては、金属プレート38および熱伝導シート40に貫通孔38aおよび40aを形成して、この貫通孔38aおよび40aから温度測定手段49を挿入して、基板12の裏面の温度を測定している。なお、通常は、基板12の表面の温度と裏面の温度は、ほぼ、等しいので、これにより、基板12の温度を適正に測定できる。
温度測定手段49には、特に限定はなく、熱電対等の公知の温度測定手段が全て利用可能である。
なお、金属プレート38および熱伝導シート40は、共に、非常に熱伝導率が高いので、金属プレート38の上面の温度は、基板12の裏面温度(=表面温度)に、ほぼ、等しい。従って、基板12の温度を、直接、測定するのではなく、金属プレート38の上面の温度を測定することで、基板12の温度を測定する構成としてもよい。
【0055】
保持部材36は、基板12の角部を下方から支持する部材で、計4つが設けられる。4つの保持部材36は、保持部材36は、基板12の角部を下方から支持した状態で、ホルダ本体34に係合するフック36aによって上方に持ち上げられることにより、基板12を熱伝導シート40に密着させる。なお、基板12の温度制御性を向上するため、基板12を熱伝導シート40に密着して保持した状態で、ホルダ本体34と保持部材とが非接触であるのが好ましい。
前述のように、熱伝導シート40は金属プレート38に密着しており、金属プレート38の上面には、ヒータ48が固定されている。従って、基板12は、ヒータ48によって加熱され、また、基板12が真空蒸着によって加熱された場合には、基板12の熱は、熱伝導シート40から金属プレート38を経て放熱される。また、金属プレート38の上に放熱部材を設ける、熱伝導シート40と基板12との密着性や接触量を調整する等の方法により、基板12の温度制御を行なってもよいのは、前述のとおりである。
【0056】
ここで、金属プレート38および熱伝導シート40は、ホルダ本体34の中心に固定されるブロック部材34aの貫通穴に対応する位置に、貫通穴が形成れ、また、基板12の中心部には、ネジ穴12aが穿孔されている。
このブロック部材34a、金属プレート38および熱伝導シート40の貫通穴には、少なくとも両端の所定領域がネジとなっている棒状のネジ42が挿通される。ネジ42の下端部は、基板12のネジ穴12aに螺合している。また、ネジ42の上端部には、ナット46が螺合しており、このナット46(あるいはさらにワッシャ46a)によって、ブロック部材34aの貫通穴からネジ42が落下することを防止している。言い換えれば、上端にナット46が螺合するネジ42は、ブロック部材34aに挿通されて、ブロック部材34aの上端で支持(上端に載置)されている。
【0057】
従って、ナット46を回転することにより、ネジ42を上昇して、基板12の中心部を持ち上げることが出来る。
図示例の基板ホルダ26においては、このような構成を有することにより、基板12の中央部が、自重によって弛んでしまうことを防止し、保持部材36で支持されている四隅のみならず、基板21の中央部も熱伝導シート40に密着させることができ、基板12の全面を、好適に熱伝導シート40に密着できる。従って、図示例の基板ホルダ26によれば、基板12の温度制御を、高精度に行なうことができる。
また、前述のように、熱伝導シート40は可撓性および弾性を有するので、基板12や金属プレート48に、多少の歪み等が有っても、基板12および金属プレート48は、好適に全面的に熱伝導シート40に密着されるので、より高精度な基板12の温度制御が可能である。
【0058】
なお、図示例の基板ホルダ26において、フック36aの形状や、フック36aの昇降手段には、特に限定はなく、公知の機械的な機構を利用すればよい。
また、基板ホルダ26において、基板12の下方からの支持は、基板12の角部で行なうのに限定はされず、例えば、基板12の端部辺(1辺)を下方から支持する4つの保持部材を利用する方法、基板12の全周を下方から支持する枠状の部材を用いる方法等、各種の手段が利用可能である。
【0059】
ホルダ本体34の上面には、後述する基板12の搬送方向(図中矢印a方向)にブロック部材34aを挟むように2つの送りネジ部材50が固定され、さらに、この送りネジ部材50を同方向に挟むように2つのガイド部材52が固定される。
送りネジ部材50は、後述する基板搬送機構28のネジ軸58に螺合するネジ穴が穿孔されている部材である。また、ガイド部材52は、同じく基板搬送機構28のガイドレール56に係合する部材である。
【0060】
図示例の蒸着装置20は、蒸発源であるルツボの上部を通過する直線状の搬送経路で、基板12を往復搬送しつつ、基板12の表面に真空蒸着を行なう装置である。基板搬送機構28は、基板12を保持した基板ホルダ26を直線状の搬送経路で往復搬送することにより、基板12をルツボ上部を通過する直線状の搬送経路で往復搬送する。
基板搬送機構26は、ネジ伝動によって基板ホルダ26を往復搬送するものであり、ガイドレール56と、ネジ軸58と、回転駆動源60とを有して構成される。
【0061】
ネジ軸58は、ネジ伝動により基板ホルダ26を往復搬送するための長尺なネジ(送りネジ)で、基板12の搬送方向(図中矢印a方向)に延在して、軸受け58aによって回転自在に軸支されている。
回転駆動源60は、ネジ軸58を回転させる、ネジ伝動による搬送機構28の駆動源である。この回転駆動源60は、正逆転が可能なモータである。
ガイドレール56は、基板ホルダ26を往復搬送をガイド(案内)する部材で、前記基板ホルダ26のガイド部材56が摺動可能に係合している。
【0062】
前述のように、基板ホルダ26には、基板12の搬送方向に離間して2つの送りネジ部材50が設けられ、送りネジ部材50(そのネジ穴)は、ネジ軸58に螺合している。
従って、回転駆動源60によってネジ軸58を回転することにより、基板ホルダ26すなわち基板12を所定の搬送方向に直線状に往復搬送することができる。
【0063】
加熱蒸発部30は、成膜材料を加熱して、溶融、蒸発させる部位で、ルツボ62およびルツボ64が配置される。
前述のように、図示例の蒸着装置10は、付活剤成分と母体成分とを別々のルツボ(蒸発源)で加熱蒸発させる、二元の真空蒸着を行なうものである。図示例において、ルツボ62は付活剤の成膜材料を加熱蒸発するものであり、ルツボ64は、母体の成膜材料を加熱蒸発するものである。従って、例えば、前記一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体の蛍光体層18を成膜する際には、付活剤用のルツボ62には臭化ユーロピウムが収容され、母体用のルツボ64には臭化セシウムが収容される。
【0064】
ルツボ62および64は、共に、抵抗加熱用のルツボであり、図示しない電源から電力を供給され、自身が発熱することにより、成膜材料を加熱する。
なお、本発明においては、成膜材料の加熱手段は抵抗加熱に限定はされず、電子線加熱や誘導加熱等の真空蒸着で利用されている各種の加熱手段が利用可能である。
【0065】
図2に示すように、付活剤用のルツボ62と、母体用のルツボ64とは、基板12の搬送方向(矢印a方向)に離間して配置される。
また、ルツボ62は、基板12の搬送方向と直交する方向(紙面と垂直方向)に、複数が配列され、同様に、ルツボ64も、板12の搬送方向と直交する方向に、複数が配列される。
図示例の蒸着装置20においては、このように基板12を直線状に往復搬送し、ルツボを、この搬送方向と直交する方向に、複数、配列することにより、膜厚均一性の高い蛍光体層18(蒸着膜)を形成することを可能にしている。
【0066】
なお、図示は省略するが、ルツボ62の列、および、ルツボ64の列の上には、ルツボから排出される成膜材料の上記を遮蔽するための、シャッタが配置される。
【0067】
以上、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の変更や改良を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0069】
[実施例]
基板12として、表面を鏡面研磨した面積100×100mmのアルミニウム合金(A5083)製の板(厚さ10mm)を用意した。
図3に示すような蒸着装置を用いて、この基板12に、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体からなる蛍光体層18を形成した。
【0070】
まず、保持手段36によって基板12の角部を下方から支え、フック36aによって保持手段36を上昇して、かつ、ナット46によって基板12の中央部を持ち上げて、熱伝導シート40に全面的に密着させて、基板12を基板ホルダ26に装填した。
なお、金属プレート38は、銅製のプレートを用い、熱伝導シート40は、シリコーン系ゲルシート(厚さ1mm)を用いた。さらに、金属プレート38および熱伝導シート40に、貫通孔38aおよび40aを設け、此処から、温度測定手段49を挿入して基板12の裏面温度を測定した。基板12の裏面と表面の温度は、ほぼ等しいのは前述のとおりである。
【0071】
ルツボ62に臭化ユーロピウムを、ルツボ64に臭化セシウムを、それぞれ充填して、真空チャンバ22を閉塞した。
ルツボ62およびルツボ64は、共にタンタル製で、出力6kWのDC電源を接続した。また、蛍光体の成膜材料を収容したルツボには、温度測定手段を設けた。
【0072】
次いで、真空排気手段24を駆動して、真空チャンバ12内の排気を開始した。真空排気手段24は、ディフュージョンポンプおよびクライオコイルを用いた。
真空度が8×10-4Paとなった時点で、真空チャンバ12内にアルゴンガスを導入して真空度を0.75Paとし、次いで、DC電源を駆動して両ルツボに通電して、成膜材料の溶解を開始した。
ルツボ64の加熱(臭化セシウムの溶解)は670℃で行った。また、ルツボ62の加熱は、臭化ユーロピウムが溶解する温度まで電力を上げて、完全に溶解した後、臭化ユーロピウムが蒸発しない温度まで投与電力を落した。なお、臭化ユーロピウムの溶解のためのルツボ62への投与電力は、予め行なった実験に応じて制御した。
【0073】
成膜材料の溶解を開始して60分が経過した時点で、ルツボ64に対応するシャッタを開放して、母体層14(CsBr層)の形成(蒸着)を開始した(すなわち、臭化セシウムの蒸発温度は670℃)。
母体層14の層厚が50μmとなった時点で、シャッタを閉塞して、母体層14の形成を終了した。同時に、ピータ48によって基板12の加熱を開始した。
また、アルゴンガスの導入量を調整して真空チャンバ内の圧力(Arガス圧)を1.0Paとし、また、蛍光体層におけるEu/Csのモル濃度比が0.001:1となる電力まで、ルツボ62への臭化ユーロピウム(そのルツボ)への投与電力を上昇した。
【0074】
基板12の温度が、目的とする蛍光体層18の形成開始時の温度(形成開始温度)まで上昇し、かつ、温度が安定したことを確認できた時点で、ルツボ62およびルツボ64に対応するシャッタを開放して、基板12(母体層14)の表面に、CsBr:Euからなる蛍光体層18の形成を開始した。
【0075】
蛍光体層18の層厚が650μmとなった時点で、ルツボ62およびルツボ64に対応するシャッタを閉塞して、蛍光体層18の形成を終了し、その時点における基板12の温度(形成終了温度)を測定した。なお、ヒータ48の加熱は、蛍光体層18の形成開始時点で停止した。
次いで、DC電源を停止してルツボへの通電を停止し、また、ヒータ48への通電を停止した。
その後、真空チャンバ22内が大気圧なるまで乾燥した空気を導入し、大気開放状態で状態で放置して蛍光体層18の冷却を行い、冷却を終了した後、基板12(変換パネル10)を基板ホルダ26から取り外し、真空チャンバ22から取り出した。
【0076】
真空チャンバ22から取り出した基板12を、32℃/30%RHの環境に3日間保管した後、窒素雰囲気中で、200℃の後加熱処理を15分行なって、変換パネル10を作製した。
【0077】
このような変換パネル10の製造を、基板12の形成開始温度(開始)、および、形成終了温度(終了)を、様々、変更して行なった。
具体的には、開始150℃−終了150℃(比較例1); 開始150℃−終了220℃(比較例2); 開始200℃−終了200℃(比較例3); 開始200℃−終了220℃(比較例4); 開始160℃−終了260℃(比較例5);
開始152℃−終了220℃(実施例1); 開始155℃−終了220℃(実施例2); 開始160℃−終了191℃(実施例3); 開始160℃−終了220℃(実施例4); 開始160℃−終了250℃(実施例5); 開始170℃−終了220℃(実施例6); 開始189℃−終了220℃(実施例7); および、開始152℃−終了191℃(実施例8); の、合計13個の変換パネル10を作製した。
各例の形成開始温度および形成終了温度を、下記表に示す。
【0078】
なお、基板12の形成終了温度の制御は、金属プレート38の上面に放熱用の金属ブロックを固定し、この金属ブロックの数および位置、種々、変更することで行なった。
金属ブロックの数/配置位置と、基板12の形成終了温度との関係は、予め、実験およびシミュレーションによって、調べておいた。
【0079】
このようにして作製した各変換パネル10について、蛍光体層18の性能(剥離、クラック、および感度)を調べた。
[剥離]
得られた各変換パネルについて、テープ引っ張り法によって、蛍光体層18の剥離を調べた。
蛍光体層18の柱状性が良好で剥離が確認できないものを◎;
蛍光体層18の一部に柱の融着が確認できるが、剥離は剥離が確認できないものを○;
蛍光体層18の柱の融着に起因する剥離が確認できるものを×; と評価した。
結果を下記表に併記する。
【0080】
[クラック]
得られた各変換パネルについて、目視概観検査によって、蛍光体層18のクラックを調べた。
蛍光体層18の柱状性が良好でクラックが確認できないものを◎;
母体層14の一部に性状不良が認められるが、クラックは確認できないものを○;
蛍光体層18の端部にクラックの発生が認められるが、画像領域外もしくは画像処理による修正が可能なものを△;
蛍光体層18の画像処理による修復が不可能なクラックが発生しているものを×; と評価した。
結果を下記表に併記する。
【0081】
[感度]
変換パネルを遮光性のカセッテに収容して、管電圧80kVpのX線を約1mR照射した。
X線照射後、暗室でカセッテから変換パネルを取り出し、半導体レーザ光(波長660nm:10mW)を励起光として蛍光体層に照射し、蛍光体層が発する輝尽発光光を測定した。なお、輝尽発光光の測定は、励起光カットフィルタ(HOYA(株)製 B410)を通して励起光と輝尽発光光とを分離して、光電子増倍管を用いて行なった。
評価は、比較例2を基準として、
比較例2を超える感度(輝尽発光量)のものを○;
比較例2に対して相対感度が90〜100%ものを△;
比較例2に対して相対感度が90%未満ものを×; と評価した。
なお、本例においては、比較例2に対する相対感度が90%以上のものは、実用域であると言うことができる。
結果を下記表に併記する。
【0082】
【表1】


上記表に示されるように、基板12の形成開始度が低すぎる比較例1および2は、蛍光体層18にクラックが発生し、また、形成開始温度が高すぎる比較例3および4、形成終了温度が高すぎる比較例5は、蛍光体層の剥離が生じている。さらに、形成終了温度が低すぎる比較例1は、感度も低い。
これに対し、形成開始温度および形成終了温度が、共に、所定領域に入っている実施例は、いずれも、剥離、クラック、および感度共に、良好な結果が得られている。特に、形成開始温度が155〜170℃、および、形成終了温度190〜230℃の範囲である実施例4および6は、剥離、クラック、および感度共に非常に優れた結果が得られている。 以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の放射線像変換パネルの製造方法で製造される放射線像変換パネルの一例の概念図である。
【図2】本発明の放射線像変換パネルの製造方法の一例を説明するためのグラフである。
【図3】(A)は、本発明の放射線像変換パネルの製造方法を実施する真空蒸着装置の一例の概念図、(B)は、この真空蒸着装置の基板ホルダの概念図である。
【符号の説明】
【0084】
10 (放射線像)変換パネル
12 基板
14 母体層
18 蛍光体層
20 (真空)蒸着装置
22 真空チャンバ
24 真空排気手段
26 基板ホルダ
28 基板搬送機構
30 加熱蒸発部
34 ホルダ本体
36 保持手段
38 金属プレート
40 熱伝導シート
42 ネジ
46 ナット
48 ヒータ
50 送りネジ部材
52 ガイド部材
56 ガイドレール
58 ネジ軸
62,64 ルツボ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相堆積法によって蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造において、
前記蛍光体層の形成開始時における基板の温度を152〜189℃に制御し、前記蛍光体層の形成終了時における基板の温度を190〜250℃に制御することを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体層が、輝尽性蛍光体からなる層である請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項3】
気相堆積法によって付活剤を含有しない母体層を形成し、この母体層の上に、前記蛍光体層を形成する請求項2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項4】
前記輝尽性蛍光体が、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体である請求項2または3に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項5】
前記蛍光体層が、放射線の入射によって可視光を発光する蛍光体からなるものである請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項6】
前記蛍光体の母体がCsIである請求項5に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項7】
前記蛍光体が、付活剤として、Tl,Na,Eu,およびTbの少なくとも1つを含有する請求項6に記載の放射線像変換パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−14469(P2010−14469A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173251(P2008−173251)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】