説明

放射線像変換パネル及び放射線イメージセンサ

【課題】 大型かつ薄型で、輝度の高い放射線画像を得ることができ、量産化が容易な放射線像変換パネルおよび放射線イメージセンサを提供する。
【解決手段】 本発明に係る放射線像変換パネルは、金属反射体上に誘電体多層膜を設けた支持体上に放射線画像を光画像へ変換する変換部を形成したものであり、この誘電体多層膜は、少なくとも金属反射体に接する第1の誘電体層と、この第1の誘電体層上に形成され、変換部が発する光に対して第1の誘電体層より屈折率の高い第2の誘電体層からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用、工業用のX線撮影等に用いられる放射線画像を光画像に変換する放射線像変換パネル及び放射線イメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療、工業用のX線撮影では、X線感光フィルムが用いられてきたが、利便性や撮影結果の保存性の面から放射線検出器を用いた放射線イメージングシステムが普及してきている。このような放射線イメージングシステムにおいては、放射線検出器により放射線による2次元画像データを電気信号として取得し、この信号を処理装置により処理してモニタ上に表示している。
【0003】
代表的な放射線検出器としては、アルミニウム、ガラス、溶融石英等の基板上に放射線を可視光に変換するシンチレータを形成した放射線像変換パネル(以下、「シンチレータパネル」という。)を形成し、これと撮像素子とを組み合わせた構造を有する放射線検出器が存在する。この放射線検出器においては、入射する放射線をシンチレータで撮像素子が検出可能な波長領域の光画像(可視光とは限らない。)に変換して撮像素子で検出している。
【0004】
こうしたシンチレータパネルとしては、下記特許文献1〜3に開示されているシンチレータパネルが知られている。特許文献1に開示されているシンチレータパネルは、放射線透過基板上に、反射性の金属薄膜、保護膜を積層し、シンチレータを堆積させたものである。特許文献2に開示されているシンチレータパネルは、耐熱性の放射線透過基板上に誘電体多層膜を設け,その上にシンチレータを堆積させたものである。そして、特許文献3に開示されているシンチレータパネルは、光透過基板上に誘電体多層膜を設け、その上にシンチレータを堆積させたものであって、誘電体多層膜と光透過基板との界面および/または光透過基板の誘電体多層膜との反対の面に不要な光の入反射を抑制する光入反射抑制部材を設けたものである。これらのシンチレータパネルにおいては、基板を透過した放射線がシンチレータに入射し、光画像に変換され、放射線の入射面と反対の面から出力されるが、シンチレータと基板との間に設けられた反射材により、シンチレータから基板側に発せられた光を反射することで輝度の高い放射線画像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第00/63722号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/23219号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/23220号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のシンチレータパネルにおいては、反射材の反射率が高いほど輝度の高い放射線画像を得ることができる。誘電体多層膜の場合には、その層数を増やすことで高反射率が実現できる。
【0007】
近年、胸部X線撮影等の用途においてシンチレータパネルの大型化が進んでいるが、このような大型のパネル上に均一な膜厚の誘電体膜を多層積層するのは量産化の上で困難であり、製造コストの増加を招く。また、被爆量を抑制しつつ、輝度の高い放射線画像を得るには、シンチレータに到達するまでの基板等による吸収によるロスを極力減らすことが望ましく、基板等はできるだけ薄くすることが好ましい。基板等が大型化して薄くなるほど多層の誘電体膜の形成は困難になる。
【0008】
出願人は、大型で薄型のシンチレータパネルの量産化を進めているが、発明者らはその開発過程において、基板を薄く、大型化させると、シンチレータ形成によって基板に数mmないし十数mm程度の反りが生じる場合のあることを見出した。このように反りが生じた場合、誘電体膜を構成する無機材料は、柔軟性、弾性、延性に乏しいので、この反りによって発生する変形への耐性が低く、誘電体膜層が厚くなると、誘電体膜にクラックが発生するという不具合が生ずることがわかった。
【0009】
さらに、シンチレータパネルにイメージセンサを貼り合わせて放射線イメージセンサを作成する場合、シンチレータパネルの貼り合わせ表面を平坦化する必要があり、シンチレータパネルに前述したような反りが生じていると、反りを戻すために応力を加えると、基板に対して繰り返し応力を加えることになってよりクラックが生じやすくなる。
【0010】
そこで本発明は、大型かつ薄型で、輝度の高い放射線画像を得ることができ、量産化が容易な放射線像変換パネルおよび放射線イメージセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る放射線像変換パネルは、支持体上に放射線像を光像に変換する変換部を備える放射線像変換パネルにおいて、変換部は、蒸着により形成される複数の針状シンチレータからなり、耐湿保護膜によって密封されており、支持体は、(1)金属反射体と、(2)金属反射体に接してその上に形成された第1の誘電体層と、第1の誘電体層上に形成された変換部から出力される光像の光に対して第1の誘電体層より屈折率の高い第2の誘電体層との2層からなる誘電体膜ミラーと、(3)誘電体膜ミラー上に形成される透明有機膜と、を備えており、透明有機膜側に変換部が形成され、耐湿保護膜と透明有機膜はいずれも第1の誘電体層より屈折率が高く、第2の誘電体層より屈折率の低いキシリレン系材料からなることを特徴とする。この場合の放射線像変換パネルを、シンチレータパネルと呼ぶ。
【0012】
第1の誘電体層はSiOであり、第2の誘電体層は、TiO、Nb、Ta、HfO、ZrOのうちいずれかであると好適である。この誘電体膜ミラー全体の膜厚は、1μm以下であるとよい。
【0013】
金属反射体としては、金属薄膜か金属基板を用いることができ、金属反射体が金属薄膜の場合には、金属反射体を支持する支持基板をさらに備えているとよい。これらの金属反射体は、アルミニウム、銀または金からなるとよい。
【0014】
前記変換部から放射線イメージセンサは、上記いずれかの放射線像変換パネルと、出力される光像を電気信号に変換する撮像素子と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
発明者の知見によれば、屈折率の異なる複数の誘電体膜を組み合わせてミラーを構成する際、その層が2層の場合には、光入射面と反対の側を基準として屈折率の低い層を第1層とし、その上に第2層としてこれより屈折率の高い層を積層したほうが全体の反射率が高くなる。本発明は、この知見に基づくものである。上記のような構成とすることで、少ない層数でも高い光反射率が得られ、基板が薄い場合にも好適に積層を行うことができるうえ、基板が後工程において反った場合にも、誘電体層にクラックが生じるのを防ぐことができるので、輝度の高い放射線画像が得られ、その量産化も容易になる。
【0016】
SiOは、TiO、Nb、Ta、HfO、ZrOのいずれよりも屈折率が低く、その屈折率差も大きいので高反射率を実現することができる。積層数を増大させると、反射率は向上するが、上述したように積層の難度が増大し、後工程において発生する可能性のある反りに対する耐性も低下するから、高反射率と量産性の両立を考えると、2層でも好適な効果が得られる。透明有機膜を備えることで、透明有機膜により誘電体膜ミラーを保護するとともに、光反射率をさらに向上させる効果も得られる。
【0017】
支持体を備えることで、金属薄膜の場合でもその取り扱いが容易になる。また、上記の金属を用いることで、反射体自体の光反射率を高くすることができ、全体の光反射率が向上し、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る放射線像変換パネルの第1実施形態の構成を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図2のIII部分拡大図である。
【図4】代表的なシンチレータであるCsI(Tl)の発光スペクトルと代表的なイメージセンサの分光感度スペクトルを示す図である。
【図5】本発明に係る放射線イメージセンサの構成を示す概略図である。
【図6】本発明に係る放射線イメージセンサの別の構成を示す断面図である。
【図7】比較例となるシンチレータパネルの構成を示す断面図である。
【図8】図7のシンチレータパネルの界面における光反射率の波長特性を示す図である。
【図9】(a)は、本発明に係る放射線像変換パネルにおける誘電体層の積層順序を示す図であり、(b)は、比較例における誘電体層の積層順序を示す図である。
【図10】図9(a)に示す誘電体層による光反射率の波長特性を示す図である。
【図11】図9(b)に示す誘電体層による光反射率の波長特性を示す図である。
【図12】図9(a)に示される誘電体層の表面に有機膜を設けた場合とそれがない場合の光反射率の波長特性を比較して示す図である。
【図13】図9(a)に示される構成を有するシンチレータパネルにおいて基板がアルミである場合の光反射率の波長特性を示す図である。
【図14】図9(a)に示される構成を有するシンチレータパネルにおいて基板をガラスとした場合の光反射率の波長特性を示す図である。
【図15】本発明に係る放射線像変換パネルの第2実施形態の構成を示す断面図である。
【図16】図15のXVI部分拡大図である。
【図17】本発明に係る放射線像変換パネルの第3実施形態の構成を示す断面図である。
【図18】本発明に係る放射線像変換パネルの第4実施形態の構成を示す断面図である。
【図19】本発明に係る放射線像変換パネルの第5実施形態の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。また、各図面における寸法は説明のために誇張している部分があり、必ずしも実際のそれとは一致しない。
【0020】
図1〜図3に本発明に係る放射線像変換パネルの第1実施形態の構成を示す。本実施形態は、放射線像の変換部としてシンチレータを用いたシンチレータパネルである。図1は、その一部破断斜視図であり、図2は、そのII−II線断面図であり、図3は、図2のIII部分拡大図である。このシンチレータパネル100は、胸部X線撮影等に用いられるものであって、450mm×450mm等の大型のものである。その構成は、アルミニウム基板10の一方の表面に、アルミニウムからなる金属反射膜11、SiO膜21、TiO膜22が積層されている。そして、これらを反射膜保護膜30がアルミニウム基板10ごと覆って支持体1を構成している。支持体1のTiO膜22上の反射膜保護膜30表面に針状のシンチレータ40が設けられ、さらに全体が耐湿保護膜50により覆われている。
【0021】
アルミニウム基板10は、全体を支持する支持基板として機能するものである。アルミニウム基板10の厚さが0.3mm未満であると、アルミニウム基板10が湾曲することによってシンチレータ40が剥離しやすくなる傾向にある。一方、アルミニウム基板10の厚さが1.0mmを超えると、その放射線透過率が低下する傾向にある。シンチレータ40を基板上に確実に形成しつつ、このアルミニウム基板10を透過してシンチレータ40へ入射する放射線強度を確保するためには、アルミニウム基板10の厚みは0.3mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。
【0022】
金属反射膜11としては、金、銀、アルミニウム等の薄膜を用いることができる。アルミニウム基板10は、通常、圧延によって形成されるが、その圧延工程において縞状の筋が形成され、その後の研磨によっても完全に消すことは困難である。金属反射膜11の厚みが50nm未満であると、この筋の影響を受けて反射面にむらができる傾向がある。一方、その厚みが200nmを超えると、その放射線反射率が低下する傾向にある。金属反射膜11の光反射率と、シンチレータ40へ入射する放射線強度とのバランスを考えると、金属反射膜11の厚さは50nm以上200nm以下とすることが好ましい。本実施形態では、厚さ70nmのアルミニウム薄膜が用いられるが、これは、AES分析(オージェ電子分光分析)による分析では不完全なアルミニウム酸化物として分析される場合がある。
【0023】
SiO膜21、TiO膜22は、両者で誘電体膜ミラー2を構成している。図4は、本実施形態におけるシンチレータ40の発光スペクトルと、シンチレータパネル100と組み合わせて用いられ、光画像を取得するためのMOS型イメージセンサ(浜松ホトニクス社製、C7921)の分光感度特性を示す図である。この図に示されるように、シンチレータ40の発光スペクトルは、560nm付近に中心発光波長を有しているから、誘電体膜ミラー2は、この波長を中心とする領域に高い反射率を有する必要がある。波長560nmの光に対する屈折率は、SiOが1.46、TiOが2.29であり、第1層であるSiO膜21の屈折率より第2層であるTiO膜22の屈折率が高い。両者の膜厚は、反射する光の中心波長をλとすると、その光学膜厚がλ/4となるように設定するとよいから、SiO膜21の厚みは95nm、TiO膜の厚みは60nmに設定するとよい。後述するシンチレータ40の成分が、金属反射膜11に接触すると、これにより金属反射膜11の腐食が起こり得る。金属反射膜11とシンチレータ40との間にこれらSiO膜21、TiO膜22が存在することで、シンチレータ40の成分が金属反射膜11に接するのを防ぎ、その腐食、劣化を防止する機能も果たしている。
【0024】
反射膜保護膜30は、シンチレータ40の成分による金属反射膜11の腐食、劣化をさらに防止する機能を有している。上述したSiO膜21、TiO膜22は、後述するように蒸着により形成させるが、その際に微少なピンホールが生ずることがある。このような場合に、TiO膜22上に直接、シンチレータ40を形成すると、シンチレータ40の成分が、SiO膜21、TiO膜22に存在する微少なピンホールを通して金属反射膜11に達し、その腐食や劣化の原因となり得るが、本実施形態においては、反射膜保護膜30が存在し、誘電体膜形成時にピンホールが生じた場合でもこれらの開口を効果的に塞いでシンチレータ40の成分が金属反射膜11に達するのを効果的に抑制することができる。また、アルミニウム基板10側面側からシンチレータ40の成分が金属反射膜11へ達するのも効果的に抑制することができる。
【0025】
一方、シンチレータ40は、一般に潮解性を有する材料で形成されているので、そのような潮解性を有する材料で形成されている場合は、シンチレータ40への水分の侵入を防ぐため、耐湿保護膜50によりシンチレータ40を密封することが望ましい。
【0026】
反射膜保護膜30と耐湿保護膜50としては、有機膜または無機膜を用いることができ、それぞれ異なる材料を用いても、同じ材料を用いてもよい。本実施形態においては、両膜30、50は、例えばポリパラキシリレンからなるが、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラクロロパラキシリレン、ポリフルオロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジエチルパラキシリレン等のキシリレン系の材料からなってもよい。また、反射膜保護膜30と耐湿保護膜50は、例えば、ポリ尿素、ポリイミド等からなってもよいし、LiF、MgF、SiO、Al、TiO、MgO、又はSiN等の無機材料からなってもよい。さらに、無機膜及び有機膜を組み合わせて形成されてもよい。本実施形態において、各保護膜30、50の厚さは10μmである。保護膜30の波長560nmの光に対する屈折率は1.64であり、第2層であるTiO膜22の屈折率より低く、第1層であるSiO膜21の屈折率より高い。
【0027】
シンチレータ40は、アルミニウム基板10の厚さ方向から見てアルミニウム基板10よりも小さい。言い換えると、アルミニウム基板10のシンチレータ40形成面の全体ではなく、その表面上の一部の領域に形成されている。アルミニウム基板10表面のシンチレータ40が形成されている領域は、四方をシンチレータ40が形成されていない領域に囲まれていてもよいが、その三方あるいは二方のみに形成されていない領域が存在し、他方は基板10の端までシンチレータ40が形成されていてもよい。
【0028】
シンチレータ40は、例えば、放射線を可視光に変換する蛍光体からなり、Tl又はNa等がドープされたCsIの柱状結晶等からなる。シンチレータ40は、複数の針状結晶が林立した構成を有する。シンチレータ40は、TlがドープされたNaI、TlがドープされたKI、EuがドープされたLiIからなってもよい。また、可視光以外の赤外光や紫外光を発するタイプのものでもよい。シンチレータ40の厚さは、100〜1000μmであることが好ましく、450〜550μmであるとより好ましい。シンチレータ40を構成する針状結晶の平均針径は、3〜10μmであると好ましい。
【0029】
次に、このシンチレータパネル100の製造工程を説明する。最初に、アルミニウム基板10を準備する。次に、このアルミニウム基板10上に、真空蒸着法を用いて金属反射膜11を形成する。続いて、同様に真空蒸着法によりSiO膜21、TiO膜22を積層する。その後、アルミニウム基板10、金属反射膜11、誘電体膜ミラー2全体を密封するように、CVD法を用いて反射膜保護膜30を形成する。続いて、蒸着法を用いて、反射膜保護膜30上の所定の位置にシンチレータ40を形成する。次に、反射膜保護膜30で密封されたアルミニウム基板10、金属反射膜11、誘電体膜ミラー2とその上に形成されたシンチレータ40を合わせて全体を密封するように、CVD法を用いて耐湿保護膜50を形成する。こうして、シンチレータパネル100が製造される。なお、保護膜30、50の密封は、CVD時にアルミニウム基板10のシンチレータ形成面と反対面側を装置内で基板を支持する基板ホルダから浮かせることで実現できる。このような方法としては、例えば米国特許明細書第6777690号に記載された方法がある。この方法では、ピンを用いてアルミニウム基板10を浮かせている。この場合、アルミニウム基板10とピンとの微小な接触面には保護膜が形成されない。
【0030】
次に、このシンチレータパネル100の動作・作用を説明する。このシンチレータパネル100は、放射線イメージセンサの一部として用いられる。図5は、このシンチレータパネルを用いた放射線イメージセンサ(本発明に係る放射線イメージセンサ)の一実施形態(第1の実施形態)を示す概略構成図である。
【0031】
この放射線イメージセンサ400は、シンチレータパネル100と、シンチレータパネル100のシンチレータ40から発せられた光画像Iを電気信号Iに変換する撮像素子470とを備えている。撮像素子470と、シンチレータパネル100の間には、光画像Iを縮小して撮像素子470の撮像面へと導く縮小光学系としてミラー450とレンズ460とが配置されている。縮小光学系は図示された構成に限るものではなく、ミラーまたはレンズのどちらかのみで構成してもよく、ミラー、レンズは単数でも複数であってもよい。また、ミラー、レンズのほかに、プリズムやその他の光学部品を用いてもよい。
【0032】
胸部X線撮影を行う場合を例にとると、シンチレータパネル100のシンチレータ40が形成されていない側の表面(以下「放射線入力面」という。)と放射線源340との間に被写体である被験者(図示しない。)を位置させる。放射線源340から被験者に向けて発せられた放射線は、一部被験者を通過し、得られた放射線画像Iがシンチレータパネル100の放射線入力面に入射する。
【0033】
シンチレータパネル100に入射した放射線は、耐湿保護膜50、反射膜保護膜30、アルミニウム基板10、金属反射膜11、誘電体膜ミラー2、反射膜保護膜30を通過し、シンチレータ40に入射する。シンチレータ40では、入射した放射線に応じて可視光が発せられる。これにより、放射線画像Iに応じた可視光画像Iが生成される。
【0034】
シンチレータ40から発せられた可視光の一部は、耐湿保護膜50を通過してシンチレータパネル100の放射線入射面とは反対側の面(以下、「光画像出力面」という。)から出力される。また、一部は、逆方向、つまり、誘電体膜ミラー2側へと出力されるが、反射膜保護膜30、誘電体膜ミラー2、金属反射膜11により反射されて、シンチレータ40側へと戻り、シンチレータ40、耐湿保護膜50を通過して最終的に光画像出力面から出力される。
【0035】
本実施形態のシンチレータパネル100では、薄型のアルミニウム基板10を用いているので、シンチレータ40に入射する放射線強度を確保し、輝度の高い放射線画像(実際には、放射線画像Iに対応した光画像I)を得ることができる。また、シンチレータ40から発した光を反射膜保護膜30、誘電体膜ミラー2、金属反射膜11により有効に光画像出力面へと導いて出力するので、出力光画像の輝度をさらに高めることができる。これにより、入射する放射線強度が低くても十分な輝度の放射線画像に対応した光画像を得ることができるので、被写体へ入射する放射線量を減らすことができ、被写体の被爆量を低減する効果も得られる。
【0036】
シンチレータパネル100から出力された光画像Iは、ミラー450、レンズ460によって縮小されて、撮像素子470の撮像面へと導かれる。撮像素子470としては、例えば、CCD(電荷結合素子)やCMOS(相補型金属酸化膜半導体)等の固体撮像素子のほか、撮像管等を用いることができる。撮像素子470は撮像面から入射した光画像Iに応じた電気信号Iを出力する。出力された電気信号Iは、電子機器480を経て、解析用のワークステーション490へと送られ、所定の処理が行われて、ディスプレイへの画像表示や、ハードディスク等の記憶装置への画像情報の蓄積・記憶を行う。画像に対応した電気信号Iは、ワークステーション490までアナログ信号で送られてもよいし、電子機器480により、あるいは、撮像素子470自体によりデジタル信号に変換されてもよい。電子機器480では、取得した電気信号Iについて、デジタル化に限らず、それ以外の処理を行ってもよい。また、電子機器480により、撮像素子470の作動を制御してもよい。本実施形態では、縮小光学系を用いることで、撮像素子470として小型の撮像素子を用いることができる利点がある。
【0037】
本実施形態のシンチレータパネル100を用いた放射線イメージセンサは、上記の形態に限られるものではない。図6は、本実施形態のシンチレータパネル100を用いた別の放射線イメージセンサの構成を示す断面図である。この実施形態の放射線イメージセンサ600は、シンチレータパネル100と、これに対向して配置され、シンチレータパネル100のシンチレータ40から出力される光を電気信号へと変換する撮像素子500とを備える。ここで、シンチレータパネル100の光画像出力面は、撮像素子500側の撮像面側に配置される。すなわち、撮像素子500と、基板10の間にシンチレータ40が配置される構成となっている。シンチレータパネル100と撮像素子500とは、互いに接合されていてもよいし、接合していなくともよい。また、必ずしも接触している必要はなく、離間して配置されていてもよい。両者を接合する場合には、接着剤により接合してもよいし、シンチレータ40、保護膜50の屈折率を考慮して出射される光が効率よく撮像素子500の撮像面へと導かれるよう、光損失を低減すべく光学結合材(屈折率整合材)を用いてもよい。また、図示していない固定部材を用いて機械的に両者を組み合わせてもよい。
【0038】
本実施形態においても第1の実施形態の放射線イメージセンサと同様に、放射線入力面から入射した放射線画像は、シンチレータ40へと入射し、光画像へと変換されて、撮像素子500へと導かれることにより、電気信号へと変換される。この電気信号を図示していない解析装置へと導くことで、表示、蓄積・記憶等を行うことができ、第1の実施形態の放射線イメージセンサと同様の効果が得られる。この実施形態では、シンチレータパネル100と撮像素子500とを一体化できるため、その取り扱いが容易になるとともに、光学系を省略することで調整が容易になるという利点もある。
【0039】
次に、本実施形態のシンチレータパネル100の誘電体膜ミラー2の有無による効果の違いを検証した結果について説明する。図7は、比較例となるシンチレータパネル200の構成を示す断面図である。このシンチレータパネル200は、アルミニウム基板10を保護膜30で密封し、その一方の表面にシンチレータ40を形成し、全体を耐湿保護膜50で覆ったものであり、本実施形態に係るシンチレータパネル100から金属反射膜11と、誘電体膜ミラー2を除外した構成となっており、それ以外の構成はすべてシンチレータパネル100と同一である。
【0040】
図8は、図7のシンチレータパネル200において、シンチレータ40側から見た基板10、保護膜30のシンチレータ40形成面における分光反射率を示したグラフである。可視光域から近赤外光域にかけて80〜90%の反射率を有するが、10%強の吸収損失があることがわかる。
【0041】
次に、誘電体ミラー2を設けた場合について説明する。図9(a)、(b)にシンチレータパネルの誘電体ミラー部分を示すが、両者は、いずれもアルミニウム基板10上にSiO膜21、TiO膜22を交互に積層した構成をとっており、その積層順序のみが異なる。図9(a)に示される誘電体ミラーにおいては、本実施形態に係るシンチレータパネル100と同様に、アルミニウム基板10上に第1層として、低屈折率のSiO膜21aを設け、その上に第2層として高屈折率のTiO膜22aを設け、以下、これを繰り返している。一方、図9(b)に示される誘電体ミラーにおいては、これとは逆に、アルミニウム基板10上に第1層として高屈折率のTiO膜22aを設け、その上に第2層として低屈折率のSiO膜21aを設け、以下、これを繰り返している。
【0042】
図10、図11に、図9(a)、(b)それぞれの構成の場合の分光反射率を示す。図9(a)の構成によれば、本実施形態のように誘電体ミラーが2層の場合でも95%近い反射率を得ることができ、6層で反射率は99%を超え、10層で99.8%が得られた。図9(b)の構成によると、600nm付近で反射率が大きく落ち込む現象がみられた。シンチレータ40の発光スペクトル(図4参照)において、この反射率が落ち込んでいる領域のエネルギー量は無視できるものではなく、図9(a)の構成に比べて得られる光画像の輝度が低くなる。
【0043】
図12は、図9(a)の構成において、その表面に保護膜30を設けた場合と設けない場合の分光反射率を比較して示す図である。図12に示されるように、有機膜を形成すると、有機膜を設けない場合に比較して、反射率が細かく周期的に変動する傾向がみられるが、全体として、反射率が向上していることがわかる。この構成における誘電体層の積層数に対する波長560nmにおける光反射率の違いを表1に示す。
【表1】



【0044】
この表から偶数層であるTiO膜を積層したときの反射率の向上効果が、奇数層であるSiO膜21を積層したときの反射率の向上効果より大きいことがわかる。したがって、コストパフォーマンス等を考慮すると、積層数は偶数とすることが好ましい。
【0045】
図13、図14は、図9(a)における基板10の素材による分光反射率を比較して示す図である。図13は、図9(a)に示される基板10の場合の分光反射率を示しており、図10を簡略化したものである。図14は、図9(a)に示される基板10をガラス基板に代えた場合の分光反射率を示している。層数が多層(20層)の場合には、両者にほとんど差はなくなるが、層数が少ない場合には、基板層の影響を受けることがわかる。したがって、層数が少ない場合には、本実施形態に示されるように誘電体ミラーの第1層は、光反射面上に形成されると好ましいことが確認された。
【0046】
以上述べたように、誘電体膜は、その反射特性を向上させるためには、層数が多いことが好ましいが、2層でも95%近く、10層では、99.85%の反射率が得られるのであり、それ以上の多層化による反射率の向上効果は小さい。一方で、誘電体膜を構成する素材は、柔軟性、弾性、延性に乏しい。本実施形態のシンチレータパネル100の製造工程中、シンチレータ40の形成により、基板10に数mm〜十数mmの反りが生ずることがあるが、この反りにより生ずる歪みに対して誘電体膜は耐性が乏しく、クラックが発生する不具合が生ずることがある。このクラックは誘電体膜の層数、層厚が多くなるほど生じやすくなり、概ね1μmを超えないことが好ましい。したがって、誘電体膜は、層数では10層以下程度、厚みとしては1μm以下とすると、量産性と高反射率を両立させることができる。
【0047】
以下、本発明に係る放射線像変換パネルの異なる実施形態のいくつかを説明する。図15は、本発明に係る放射線像変換パネルの第2の実施形態の構成を示す断面図であり、図16は、そのXIII部分拡大図である。このシンチレータパネル100aの構成は、基本的に図2、図3に示される第1の実施形態のシンチレータパネル100と同一であって、支持体1aにおいて、アルミニウム基板10に代えて、アモルファスカーボン基板10aを用いている点のみが相違する。アモルファスカーボン基板10aにおいても、第1の実施形態のアルミニウム基板10と同様の理由で、その厚みは0.3mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。この実施形態においても、第1の実施形態と同様に輝度の高い光画像を得ることができる。アモルファスカーボン基板は、アルミニウム基板より放射線透過率が高いため、より良好な光画像を得ることができる。
【0048】
図17は、本発明に係る放射線像変換パネルの第3の実施形態の構成を示す断面図である。このシンチレータパネル101においては、支持体1bにおいて、第1の実施形態の誘電体ミラー2に代えて、10層の誘電体ミラー2bを用いている点のみが相違する。誘電体ミラー2bの積層順序は、第1の実施形態の誘電体ミラー2と同様に、金属反射膜11上に第1層として低屈折率のSiO膜21aを設け、その上に第2層として高屈折率のTiO膜22aを設け、以下、SiO膜、TiO膜の積層を4回繰り返したものである。それぞれの膜厚は、第1の実施形態と同様に、SiO膜21a〜21eが95nm、TiO膜22a〜22eが60nmである。本実施形態によれば、図12、表1に示されるように99.85%という高い反射率の反射層が実現できるので、さらに輝度の高い光画像を得ることができる。一方、10層を超えて誘電体層を積層しても、反射率の向上はわずかである一方、積層の困難性が増大し、製品の歩留り等も低下し、製造コストも増大するので、10層を超える積層は好ましくない。
【0049】
図18は、本発明に係る放射線像変換パネルの第4の実施形態の構成を示す断面図である。このシンチレータパネル102においては、支持体1cにおいて、第1の実施形態では設けている反射膜保護膜30を除外している点のみが相違する。シンチレータ成分による劣化から金属反射膜11を保護する点および反射率が若干向上する点を考えると、第1の実施形態のように反射膜保護膜30を設けることがより好ましいが、反射膜保護膜30は本発明に必須の構成ではない。本実施形態では、誘電体ミラー2を構成する誘電体層は2層であり、この2層の誘電体層が保護膜として機能するので、専用の保護膜30を設けなくとも、金属反射膜11のシンチレータ成分による劣化を効果的に抑制することができる。
【0050】
図19は、本発明に係る放射線像変換パネルの第5の実施形態の構成を示す断面図である。このシンチレータパネル103は、第4の実施形態から支持体1dの金属反射膜11をさらに除外したものである。アルミニウム基板10表面を平滑化して鏡面化することで、基板10表面に金属反射膜11と同様の機能をもたせることが可能である。また、完全に鏡面化していない状態でも、十分な反射率が得られれば、反射面として機能させることができる。本実施形態によれば、簡単な構成により、高輝度の放射線画像を得ることができる。アルミニウム基板に代えて表面が光反射性の他の金属基板を用いてもよい。アルミニウム以外では、例えば、金、銀等を用いると、反射率が高く好ましい。
【0051】
本発明は以上の実施形態の構成に制限されるものではなく、それぞれの実施形態を組み合わせた形態やその置換等も含まれる。例えば、第3、第4の実施形態において、基板をアルミニウム以外の金属製基板に代えてもよく、さらに、アモルファスカーボン基板やシリコン基板、ガラス基板のような放射線透過性の別の基板に交換することもできる。
【0052】
以上の実施形態においては、誘電体膜層の第1層(低屈折率層)の材料として、SiOを、第2層(高屈折率層)の材料としてTiOをそれぞれ用いたが、それ以外の材料を用いてもよい。高屈折率層の材料としては、例えば、Nb、Ta、HfO、ZrOのほか、TiOも含む材料の少なくとも1種類の材料を含む材料を用いることができる。
【0053】
また、基板と金属反射膜との間に、酸化膜等の無機膜や有機膜を設けるなどして、金属反射膜の安定性を向上させてもよい。酸化膜を形成する手法としては、基板上に酸化膜を蒸着等により形成する手法の他、基板が金属製の場合には、基板表面を酸化させて酸化膜を形成してもよい。
【0054】
ここでは、放射線像変換パネルとして、シンチレータパネルを例示してきたが、シンチレータに代わる放射線像を光像に変換する変換部として、EuがドープされたCsBrのような輝尽性蛍光体を使用してもよい。輝尽性蛍光体によって放射線像は一旦潜像に変換され、この潜像をレーザ光でスキャンすることによって可視光像を読み出すことができる。読み出した可視光像は、各種の光検出器、例えば、ラインセンサ、イメージセンサ、光電子増倍管等によって検出される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る放射線像変換パネル、シンチレータパネル、放射線イメージセンサは、工業用、医療用の放射線検出システムに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…支持体、2…誘電体膜ミラー、10…アルミニウム基板、10a…アモルファスカーボン基板、11…金属反射膜、21…第1の誘電体膜、22…第2の誘電体膜、30…反射膜保護膜、40…シンチレータ、50…耐湿保護膜、100〜103、200…シンチレータパネル、340…放射線源、400、600…放射線イメージセンサ、450…ミラー、460…レンズ、470…撮像素子、480…電子機器、490…ワークステーション、500…撮像素子、I…電気信号、I…可視光画像、I…放射線画像。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に放射線像を光像に変換する変換部を備える放射線像変換パネルにおいて、
前記変換部は、蒸着により形成される複数の針状シンチレータからなり、耐湿保護膜によって密封されており、
前記支持体は、
金属反射体と、
前記金属反射体に接してその上に形成された第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層上に形成された前記変換部から出力される光像の光に対して前記第1の誘電体層より屈折率の高い第2の誘電体層との2層からなる誘電体膜ミラーと、
前記誘電体膜ミラー上に形成される透明有機膜と
を備えており、前記透明有機膜側に前記変換部が形成され、前記耐湿保護膜と前記透明有機膜はいずれも前記第1の誘電体層より屈折率が高く、前記第2の誘電体層より屈折率の低いキシリレン系材料からなることを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
前記第1の誘電体層がSiOであり、前記第2の誘電体層は、TiO、Nb、Ta、HfO、ZrOのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の放射線像変換パネル。
【請求項3】
前記誘電体膜ミラーの全体の厚さは、1μm以下であることを特徴とする請求項2記載の放射線像変換パネル。
【請求項4】
前記金属反射体は、金属薄膜であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の放射線像変換パネル。
【請求項5】
前記金属反射体を支持する支持基板をさらに備えていることを特徴とする請求項4記載の放射線像変換パネル。
【請求項6】
前記金属反射体は,金属基板であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の放射線像変換パネル。
【請求項7】
前記金属反射体は、アルミニウム、銀または金からなることを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の放射線像変換パネル。
【請求項8】
請求項1ないし8のいずれかに記載の放射線像変換パネルと、
前記変換部から出力される光像を電気信号に変換する撮像素子と、
を備える放射線イメージセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−211925(P2012−211925A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164929(P2012−164929)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【分割の表示】特願2007−327886(P2007−327886)の分割
【原出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】