説明

放射線像変換パネル

【課題】 金属製支持体の腐食を確実に、容易に、かつ安価に防止することができる放射線像変換パネルを提供する。
【解決手段】 支持体およびその上に気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該支持体が金属からなり、そして該支持体の蛍光体層側表面に樹脂フィルムからなる腐食防止層が設けられている放射線像変換パネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蓄積性蛍光体層とからなるものである。ただし、蓄積性蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蓄積性蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蓄積性蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、気相堆積法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるものなどが知られている。特に気相堆積法は、蓄積性蛍光体またはその原料を蒸着、スパッタリングなどにより基板(支持体)表面に堆積させて、柱状結晶構造の蛍光体層を形成するものである。形成された蛍光体層は蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶間には空隙が存在するため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像が得られる。
【0005】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0006】
放射線像変換パネルの支持体に、アルミニウムなどの金属材料を使用することは知られている。このような金属製支持体の腐食を防ぐために、支持体表面に金属酸化物の層を設けることも知られている。例えば、特許文献1には、基板と発光性材料層との間に防湿性層を有する放射線変換器が開示されている。そして、アルミニウム等の卑金属からなる基板上にアルマイト等の金属酸化物からなる防湿性層を設けること、および防湿性層は卑金属基板の腐食を防護できることが記載されている。また、防湿性層の材料としてポリイミドも記載されている。特許文献2には、放射線像変換パネルの支持体として酸化被膜形成処理されたアルミニウム基板を用いることが開示されている。
【0007】
しかしながら、金属酸化物の層は、気相堆積法により形成すると製造コストが高くつき、陽極酸化法により形成すると特に合金の場合に、ミクロンオーダーで均一な層を設けるのが困難であるという欠点がある。また、ポリイミドの層は塗布法により形成すると個々のバッチのばらつきにより層厚ムラやピンホールが発生することが懸念される。
【0008】
【特許文献1】国際公開第02/086540A1号パンフレット
【特許文献2】特開2004−61159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、金属製支持体の腐食を確実に、容易に、かつ安価に防止することができる放射線像変換パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、支持体およびその上に気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該支持体が金属からなり、そして該支持体の蛍光体層側表面に樹脂フィルムからなる腐食防止層が設けられていることを特徴とする放射線像変換パネルにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、腐食防止層が樹脂フィルムからなるので、金属製支持体の腐食を確実に防止することができる。また、腐食防止層は樹脂フィルムを支持体表面に粘着剤等を用いて貼り付けることにより付設できるので、容易にかつ安価に形成することができる。従って、本発明の放射線像変換パネルは、支持体の腐食を防いで高画質の放射線画像を与えることができ、医療用放射線画像診断などに有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の放射線像変換パネルにおいて、樹脂フィルムは耐熱性の樹脂フィルムであることが好ましく、特にポリイミドを主成分とする樹脂からなることが好ましい。
【0013】
腐食防止層は、支持体表面に粘着剤層を介して設けられていることが好ましい。
【0014】
支持体の金属は、アルミニウムもしくはアルミニウムを主成分とする合金であることが好ましい。
【0015】
蛍光体は、蓄積性蛍光体であることが好ましく、特に下記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることが好ましい。基本組成式(I)においてMIはCsであり、XはBrであり、AはEuであり、そしてzは1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値であることが好ましい。
【0016】

IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
【0017】
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0018】
以下に、本発明の放射線像変換パネルについて、添付図面を参照しながら詳細に述べる。
【0019】
図1は、本発明の放射線像変換パネルの構成の一例を概略的に示す断面図である。図1において、放射線像変換パネルは、順に支持体1、腐食防止層2および蓄積性蛍光体層3から構成される。
【0020】
本発明において支持体1は、金属材料からなる。金属材料としては、アルミニウム、鉄、スズ、クロム、およびそれらの合金を挙げることができる。特に好ましいのはアルミニウムおよびアルミニウムを主成分とする合金である。
【0021】
腐食防止層2は、樹脂フィルムからなる層である。蓄積性蛍光体層の形成(例えば、蒸着法による形成)の際の基板加熱やアニール処理を考慮すると、樹脂フィルムは耐熱性の樹脂フィルムであることが好ましい。耐熱性樹脂フィルムのうちでも好ましいのは、ポリイミドフィルムおよびポリエステルフィルムであり、特にはポリイミドフィルムである。腐食防止層2の層厚は、一般に0.1μm乃至1000μmの範囲にある。
【0022】
本発明においてポリイミドフィルムは、ポリイミドまたはポリイミドを主成分とする(少なくとも50重量%含有)樹脂からなる。ポリイミドは、炭化水素の主鎖中に次のような部分構造を含むポリマーである。
【0023】
【化1】

【0024】
ただし、X1およびX2は独立に、酸素または硫黄である。
上記の部分構造の例としては、下記のものを挙げることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
ポリイミドフィルムの具体例としては、次のようなものを挙げることができる:3M社製ポリイミドフィルム(テープ)No.5412、5413、5419、5434、7414及び7419;日東電工(株)製ポリイミドテープNo.360シリーズ;およびパーマセル社製ポリイミドテープWS−1。
【0027】
また、ポリエステルフィルムの具体例としては、次のようなものを挙げることができる:3M社製ポリエステルフィルム(テープ)No.859、8901、8902、8905、8911、8951及び9394等。
【0028】
蓄積性蛍光体層3は、蒸着法等の気相堆積法により形成された柱状結晶構造の蓄積性蛍光体からなる。
【0029】
なお、本発明の放射線像変換パネルは、図1に示した構成に限定されるものではなく、例えば後述するように保護層や各種の補助層が付設されていてもよい。また、腐食防止層が支持体の両面に付設されていてもよい。
【0030】
次に、本発明の放射線像変換パネルを製造する方法について、蛍光体が蓄積性蛍光体であり、抵抗加熱方式による蒸着法を用いる場合を例にとって詳細に述べる。
【0031】
蒸着膜形成のための基板は、放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、上述したようにアルミニウム、鉄、スズ、クロムまたはそれらの合金からなる金属シートである。金属シートの表面には、腐食防止層との接着性を高めるために、機械的、電気的または化学的手法等による研磨処理を行ってもよい。
【0032】
この金属製基板の表面には、上述した樹脂フィルムからなる腐食防止層が設けられる。腐食防止層は、例えば上記の樹脂フィルムを粘着剤を用いて基板表面に貼り付けることにより付設することができる。粘着剤としては、フェノール系、エポキシ系、アクリル系、合成ゴム系、酢酸ビニル系、EVA系、ウレタン系、シリコーン系、ポリイミド系粘着剤など公知の各種の粘着剤の中から適宜選択することができる。しかし、蒸着の際の基板加熱やアニール処理を考慮すると粘着剤は耐熱性であることが好ましく、アクリル系、シリコーン系、ポリイミド系粘着剤を好ましく用いることができる。
【0033】
樹脂フィルムの貼り付けは、予め粘着剤が設けられた樹脂フィルムを基板表面に重ね合わせたのちローラ等を用いて均一に圧着することにより行う。均一に荷重するためにラミネート機を使用してもよい。圧着時の空気の巻き込みを防ぐために真空中で行ってもよい。あるいは、接着をより均一に強固にするためにローラ等を加熱して熱圧着してもよい。
【0034】
このように本発明においては腐食防止層が樹脂フィルムからなるので、層厚ムラやピンホールが生じることがなく、金属製支持体の腐食を確実に防止することができる。また、樹脂フィルムを支持体表面に粘着剤で貼り付けることにより腐食防止層を付設できるので、特別な装置や煩雑な操作を必要とせず簡便に低コストで設けることができる。
【0035】
形成された腐食防止層の表面は、蒸着に先立って脱脂洗浄することが好ましい。脱脂洗浄は、腐食防止層表面をアセトン等の有機液体や洗浄液で洗浄することにより、あるいはArガス等の不活性ガスをプラズマ放電させてプラズマ洗浄することにより行うことができる。
【0036】
次いで、腐食防止層の表面には蓄積性蛍光体層が設けられる。蓄積性蛍光体としては、波長が400〜900nmの範囲の励起光の照射により、300〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が好ましい。
【0037】
そのうちでも、基本組成式(I):

IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)

で代表されるアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は特に好ましい。ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し、そしてAはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Cu及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。
【0038】
上記基本組成式(I)において、zは1×10-4≦z≦0.1の範囲内にあることが好ましい。MIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましい。Xとしては少なくともBrを含んでいることが好ましい。AとしてはEu又はBiであることが好ましく、そして特に好ましくはEuである。また、基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MIX1モルに対して、0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0039】
また、基本組成式(II):

IIFX:zLn ‥‥(II)

で代表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。
【0040】
基本組成式(III):

IIS:A,Sm ‥‥(III)

で代表される希土類付活アルカリ土類金属硫化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIはMg、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表す。Aは、Eu及び/又はCeを表す。
【0041】
基本組成式(IV):

IIIOX:Ce ‥‥(IV)

で代表されるセリウム付活三価金属酸化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIIはPr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。
【0042】
ただし、本発明において蛍光体は蓄積性蛍光体に限定されるものではなく、X線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に(瞬時)発光を示す蛍光体であってもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd22S:Tb、Gd22S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga512:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0043】
多元蒸着(共蒸着)により蒸着膜を形成する場合には、蒸発源として、上記蓄積性蛍光体の母体成分を含むものと付活剤成分を含むものからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤成分の融点や蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸発速度を各々制御して蛍光体母体中に付活剤を均一に含有させることができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする蓄積性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0044】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、あるいは反応して母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物や酸化物が用いられる。
【0045】
付活剤がEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比はできるだけ高いことが好ましい。所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。一般に、市販されているEu化合物には酸素混入のためにEu2+とEu3+が混合して含まれていることが多いが、このような場合には、予めEu化合物をBrガス雰囲気中で溶融処理して含有酸素を除去し、そして得られたEuBr2を用いることが望ましい。
【0046】
蒸発源は、その含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源となる蛍光体母体成分や付活剤成分が、例えばEuBr、CsBrのように吸湿性である場合には特に、含水量をこのような低い値に抑えることは突沸防止などの点から重要である。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理することにより行うことが好ましい。あるいは、各蛍光体成分を窒素ガス雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、該成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱溶融してもよい。
【0047】
さらに、本発明において、蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外アルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外アルカリ土類金属)の含有量が5ppm(重量)以下であることが望ましい。とりわけ、蛍光体が前記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体である場合には望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。
【0048】
上記複数の蒸発源および金属製基板を蒸着装置内に配置する。次いで、装置内を排気して0.1〜10Pa程度の中真空度とする。好ましくは0.1〜4Paの真空度にする。更に好ましくは、装置内を排気して1×10-5〜1×10-2Pa程度の高真空度とした後、Arガス、Neガス、N2ガスなどの不活性ガスを導入して上記中真空度にする。これにより、装置内の水分圧や酸素分圧等を下げることができる。排気装置としては、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ディフュージョンポンプ、メカニカルブースタ等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0049】
次に、抵抗加熱方式により蒸着を行う。抵抗加熱方式は、中程度の真空度で蒸着を行うことができ、柱状結晶性の良好な蒸着膜を容易に得られる利点がある。各抵抗加熱器に電流を流して蒸発源を加熱する。蒸発源である蓄積性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応により蛍光体を形成するとともに基板表面に堆積する。このとき、基板のサイズ等によっても異なるが、一般に各蒸発源と基板との距離は10乃至1000mmの範囲にあり、各蒸発源間の距離は10乃至1000mmの範囲にある。また、基板を加熱してもよいし、あるいは冷却してもよい。基板温度は、一般には20乃至350℃の範囲にあり、好ましくは100乃至300℃の範囲にある。各蒸発源の蒸着速度は、加熱器の抵抗電流などを調整することにより制御することができる。蛍光体の堆積する速度、すなわち蒸着速度は、一般には0.1乃至1000μm/分の範囲にあり、好ましくは1乃至100μm/分の範囲にある。
【0050】
なお、抵抗加熱装置による加熱を複数回に分けて行って二層以上の蛍光体層を形成することもできる。蒸着終了後に蒸着膜を熱処理(アニール処理)してもよい。熱処理は、一般には100℃乃至300℃の温度で0.5乃至3時間かけて行い、好ましくは150℃乃至250℃の温度で0.5乃至2時間かけて行う。熱処理雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、もしくは少量の酸素ガス又は水素ガスを含む不活性ガス雰囲気が用いられる。
【0051】
上記蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体母体化合物のみからなる蒸着膜を形成してもよい。この母体化合物の蒸着膜は、一般に柱状結晶構造または球状結晶の凝集体からなり、この上に形成される蛍光体蒸着膜の柱状結晶性をより一層良好にすることができる。なお、蒸着時の基板加熱および/または蒸着後の熱処理によっては、蛍光体蒸着膜中の付活剤など添加物が母体化合物蒸着膜中に拡散するために両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0052】
一元蒸着の場合には、蒸発源として蛍光体自体または蛍光体原料混合物を用いてこれを単一の抵抗加熱装置で加熱する。蒸発源は予め、所望の濃度の付活剤を含有するように調製する。もしくは、蛍光体母体成分と付活剤成分との蒸気圧差を考慮して、蒸発源に蛍光体母体成分を補給しながら蒸着を行うことも可能である。
【0053】
このようにして、蛍光体の柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した蛍光体層が得られる。蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙が存在する。蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蒸着法の実施手段や条件などによっても異なるが、通常は50μm〜1mmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700μmの範囲にある。
【0054】
本発明に用いられる気相堆積法は、上記の抵抗加熱方式による蒸着法に限定されるものではなく、電子線照射方式による蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着(CVD)法など公知の各種の方法を利用することができる。
【0055】
蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。
【0056】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
(1)蒸発源
蒸発源として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr2)溶融物を用意した。EuBr2溶融物は、酸化を防ぐために、EuBr2粉末を白金製坩堝に入れ、これを十分なハロゲン雰囲気としたチューブ炉中にて800℃に加熱して溶融した後、冷却し、炉から取り出して得た。各蒸発源中の微量元素をICP−MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)は各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBr2中のEu以外の希土類元素は各々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。これらの蒸発源は、吸湿性が高いので露点20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0058】
(2)腐食防止層の付設
支持体として、10mm厚のアルミニウム基板(200mm×200mm、日鐵商事製YH−75、JIS呼称7075)を用意し、基板の表面を切削、研磨した。このアルミニウム基板の表面に、シリコーン系粘着剤が片面に設けられているポリイミドテープ(ポリイミド基材の厚み25μm、粘着剤の厚み28μm、3M社製No.5434)を、ゴムローラを用いて50N/cm2の圧力で、20cm/分の速度で均一に圧着して、腐食防止層を設けた。
【0059】
(3)蛍光体層の形成
基板の腐食防止層表面をアセトンで一様に拭いた後、基板を蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。上記CsBr蒸発源およびEuBr2蒸発源を装置内の抵抗加熱用坩堝容器に充填した。基板と各蒸発源との距離は15cmとした。次に、メイン排気バルブを開いて装置内を排気して1×10-3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースタおよびディフュージョンポンプの組合せを用いた。さらに、水分除去のために水分排気用クライオポンプを使用した。その後、排気をメイン排気バルブからバイパス排気バルブに切り換え、装置内にArガスを導入して0.5Paの真空度とした後、プラズマ発生装置(イオン銃)によりArプラズマを発生させ、腐食防止層表面の洗浄を行った。その後、排気をメイン排気バルブに切り換えて1×10-3Paの真空度まで排気し、そして再度排気をバイパス排気バルブに切り換え、Arガスを導入して1Paの真空度(Arガス圧)とした。基板の蒸着とは反対側に位置したシーズヒータで基板を100℃に加熱した。各蒸発源を抵抗加熱器で加熱溶融して、腐食防止層表面にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。堆積は10μm/分の速度で行った。また、各加熱器の抵抗電流を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。次に、蛍光体蒸着膜が形成された基板を窒素雰囲気中にて200℃で2時間アニール処理した。基板の腐食防止層上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蓄積性蛍光体層(層厚:700μm)が形成されていた。
このようにして、順に支持体、腐食防止層および蓄積性蛍光体層からなる本発明の放射線像変換パネルを製造した(図1参照)。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、アルミニウム基板に腐食防止層を付設しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0061】

[放射線像変換パネルの性能評価]
得られた各放射線像変換パネルについて、X線を照射した後スキャナで読み取ってX線画像を得た。次に、パネルを高温高湿環境として32℃、80%の恒温恒湿槽内で48時間放置した後、同様にしてX線画像を得た。また、その後、パネルの蛍光体層を剥がして支持体表面の観察を行った。
【0062】
高温高湿環境下での経時前後のX線画像を比較観察したところ、本発明の放射線像変換パネル(実施例1)では、アーチファクトが全く観察されず、腐食防止層(ポリイミドフィルム)表面も蒸着前と変化はなかった。一方、比較のための放射線像変換パネル(比較例1)では、経時前の画像には存在しなかった濃度の異なる点状及び線状のアーチファクトが経時後の画像に見られた。そしてその部分の支持体(アルミニウム)表面が腐食していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の放射線像変換パネルの代表的な構成例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 支持体
2 腐食防止層
3 蓄積性蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体およびその上に気相堆積法により形成された蛍光体層を有する放射線像変換パネルにおいて、該支持体が金属からなり、そして該支持体の蛍光体層側の表面に樹脂フィルムからなる腐食防止層が設けられていることを特徴とする放射線像変換パネル。
【請求項2】
樹脂フィルムが耐熱性の樹脂フィルムである請求項1に記載の放射線像変換パネル。
【請求項3】
耐熱性の樹脂フィルムがポリイミドを主成分とする樹脂からなる請求項2に記載の放射線像変換パネル。
【請求項4】
樹脂フィルムからなる腐食防止層が、支持体表面に粘着剤層を介して設けられている請求項1乃至3のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項5】
支持体の金属がアルミニウムもしくはアルミニウムを主成分とする合金である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項6】
蛍光体が蓄積性蛍光体である請求項1乃至5のいずれかの項に記載の放射線像変換パネル。
【請求項7】
蓄積性蛍光体が、基本組成式(I):

IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)

[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体である請求項6に記載の放射線像変換パネル。
【請求項8】
基本組成式(I)においてMIがCsであり、XがBrであり、AがEuであり、そしてzが1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値である請求項7に記載の放射線像変換パネル。

【図1】
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【公開番号】特開2007−40836(P2007−40836A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225641(P2005−225641)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】