放射線撮影装置及び画像処理方法
【課題】アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像を得る。
【解決手段】X線画像検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部40と、位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部41と、アンラップ処理のエラーを補正する処理単位としてアンラップ処理済みの位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により最頻値を求める統計演算処理部44と、最頻値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、各画素の画素値から整数nと幅αの積を減算することにより、アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部45と、を備える。
【解決手段】X線画像検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部40と、位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部41と、アンラップ処理のエラーを補正する処理単位としてアンラップ処理済みの位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により最頻値を求める統計演算処理部44と、最頻値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、各画素の画素値から整数nと幅αの積を減算することにより、アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部45と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体による放射線の位相変化に基づく画像を検出する放射線撮影装置及びこれに用いられる画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の重さ(原子番号)と物質の密度及び厚さとに依存して吸収され減衰するといった特性を有する。この特性に着目し、医療診断や非破壊検査等の分野において、被検体の内部を透視するためのプローブとしてX線が利用されている。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源と、X線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体を透過したX線の撮影を行う。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、被検体を透過する際に吸収され減衰した後、X線画像検出器に入射する。この結果、被検体によるX線の強度変化に基づく画像がX線画像検出器により検出される。
【0004】
X線吸収能は、原子番号が小さい元素ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線の強度変化が小さく、画像に十分なコントラストが得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化に基づいた画像を得るX線位相イメージングの研究が近年盛んに行われている。X線位相イメージングは、被検体に入射したX線の位相変化が強度変化より大きいことに基づき、X線の位相変化を画像化する方法であり、X線吸収能が低い被検体に対しても高コントラストの画像を得ることができる。X線位相イメージングの一種として、2枚の回折格子とX線画像検出器とを用いてX線タルボ干渉計を構成することにより、X線の位相変化を検出するX線撮影装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このX線撮影装置は、X線源から見て被検体の背後に第1の回折格子を配置し、第1の回折格子からタルボ距離だけ離れた位置に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置したものである。タルボ距離は、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ効果によって第1の回折格子の自己像(縞画像)を形成する距離であり、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とに依存する。この自己像は、被検体でのX線の位相変化で屈折が生じることにより変調される。この変調量を検出することにより、X線の位相変化が画像化される。
【0007】
上記変調量の検出方法として縞走査法が知られている。縞走査法とは、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面に平行でかつ第1の回折格子の格子線方向に垂直な方向に、所定の走査ピッチで並進移動(走査)させながら、各走査位置において、X線源からX線を放射し、被検体、第1及び第2の回折格子を通過したX線をX線画像検出器により撮影する方法である。このX線画像検出器により得られる各画素の画素値の上記走査に対する変化を表す信号(強度変調信号)について位相ズレ量(被検体が存在しない場合の初期位置からの位相差)を算出することにより、上記変調量に関連する画像が得られる。この画像は、被検体の屈折率を反映した画像であり、X線の位相変化(位相シフト)の微分量に対応するため、位相微分画像と呼ばれる。
【0008】
特許文献1に示されているように、上記位相ズレ量は、複素数の偏角を抽出する関数(arg[…])や、逆正接関数(tan−1[…])を用いて算出される。このため、位相微分画像は、上記関数の値域(−πから+π、または、−π/2から+π/2)に畳み込まれた(ラップされた)値により表現される。このようにラップされた位相微分画像には、値域の上限から下限に変化する箇所、または下限から上限に変化する箇所で不連続点が生じることがあるため、この不連続点をなくして連続化するようにアンラップ処理を行うことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
アンラップ処理は、画像内の所定位置を起点とし、該起点から所定の経路に沿って順に行われる。この経路中に上記不連続点が検出されると、この不連続点以降のデータに、上記関数の値域に相当する値が一律に加算または減算される。これにより、不連続点がなくなり、データが連続化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/058070号公報
【特許文献2】特開2011−045655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、被検体に骨部等のX線吸収能が高い高吸収体が含まれる場合には、該高吸収体がX線を大きく減衰させるので、上記強度変調信号の強度や振幅が低下する。このため、高吸収体がある領域では位相ズレ量の算出精度が低下し、アンラップエラーが生じやすくなる。アンラップエラーには、本来不連続点でない箇所に不連続性が生じて不連続点と見なされることによりアンラップ処理が行われるケースと、本来不連続点である箇所の不連続性が低下して不連続点と見なされないことによりアンラップ処理が行われないケースとがある。
【0012】
例えば、アンラップ処理を行う経路上に骨部領域がある場合、骨部領域上で一旦アンラップエラーが生じると、アンラップエラーが生じた箇所以降の経路にエラー値(上記関数の値域に相当する値)が積算される。この結果、アンラップ処理後の位相微分画像にはアンラップ処理の経路方向に沿った筋状のノイズが生じる。このノイズが軟部組織である軟骨部の一部に重なる場合には、X線位相イメージングでの関心領域である肝心の軟部組織の画像化を阻害してしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、アンラップエラーを補正することにより、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる放射線画像撮影装置を提供することを目的とする。また、アンラップエラーを補正するための画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の放射線撮影装置は、放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、前記位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、 前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理部と、前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
前記基準値は、前記小領域内の画素値の最頻値であることが好ましい。
【0016】
前記アンラップ処理後の前記位相微分画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定部を備えることが好ましい。
【0017】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像内に定められた複数の所定領域の画素値の平均値に基づいて前記位相微分画像の画素値の最大変化量を算出し、前記最大変化量と前記位相微分画像のサイズの比率に基づいて前記小領域のサイズを決定することが好ましい。
【0018】
前記平均値を求める前記複数の所定領域は、前記位相微分画像の四隅に定められていることが好ましい。
【0019】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像のサイズの比率に応じて、前記小領域内での画素値の大局的な変化がα以下となるように、前記小領域のサイズを決定することが好ましい。
【0020】
前記小領域サイズ決定部は、前記平均値に基づいて前記位相微分画像の横方向,縦方向,及び対角方向の最大変化量を各々算出し、横方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の横幅を決定するとともに、縦方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の縦幅を決定することが好ましい。
【0021】
前記小領域は、前記位相微分画像の全体を過不足なく区分けするように位置が定められることが好ましい。
【0022】
前記小領域は、隣接する他の前記小領域と一部が重複するように定められることが好ましい。
【0023】
前記被検体がない状態で撮影して得られる位相微分画像をオフセット画像として記憶する記憶手段と、前記アンラップ処理のエラーが補正された前記位相微分画像から、前記オフセット画像を減算するオフセット処理部と、を備えることが好ましい。
【0024】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することが好ましい。
【0025】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することが好ましい。
【0026】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることが好ましい。
【0027】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることが好ましい。
【0028】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することが好ましい。
【0029】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0030】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0031】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることが好ましい。
【0032】
本発明の画像処理方法は、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理ステップと、前記前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出する整数n算出ステップと、前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正ステップと、を備えることを特徴とする。
【0033】
前記アンラップ処理が施された前記画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定小領域サイズ決定ステップを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】X線撮影装置の構成を示すブロック図である。
【図2】X線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の格子の構成を説明する説明図である。
【図4】強度変調信号を示すグラフである。
【図5】画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】アンラップ処理の起点及び経路の設定を示す説明図である。
【図7】アンラップ処理の態様を示す説明図である。
【図8】アンラップ処理でアンラップエラーが生じる態様を示す説明図である。
【図9】アンラップ処理後の位相微分画像を模式的に示す図である。
【図10】小領域を決定する態様を示す説明図である。
【図11】アンラップエラーの補正を行う態様を示す説明図である。
【図12】画素値の出現頻度を示す頻度ヒストグラムである。
【図13】アンラップエラーの補正と頻度ヒストグラムの対応関係を示す説明図である。
【図14】プレ撮影の態様を示すフローチャートである。
【図15】本撮影の態様を示すフローチャートである。
【図16】小領域を決定する他の態様を示す説明図である。
【図17】アンラップエラーの補正を行う他の態様を示す説明図である。
【図18】オフセット処理後にアンラップエラーの補正を行うための構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、格子部12、X線画像検出器13、メモリ14、画像処理部15、画像記録部16、撮影制御部17、コンソール18、及びシステム制御部19を備える。X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、撮影制御部17の制御に基づき、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0037】
格子部12は、第1の格子21、第2の格子22、及び走査機構23を備える。第1及び第2の格子21,22は、X線照射方向であるz方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器13は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に、検出面13aがz方向に直交するように配置されている。
【0038】
第1の格子21は、z方向に直交する格子面内の一方向であるy方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、z方向及びy方向に直交するx方向に交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にy方向に延伸され、かつx方向に交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する材料により形成されている。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性を有する材料や空隙により形成されている。
【0039】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。被検体Hが配置されていない場合において、G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。
【0040】
X線画像検出器13は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ14は、X線画像検出器13から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部15は、メモリ14に記憶された画像データに基づいて位相微分画像を生成し、この位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部16は、位相微分画像と位相コントラスト画像とを記録する。
【0041】
走査機構23は、第2の格子22をx方向に並進移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の相対位置を順次に変更する。走査機構23は、圧電アクチュエータや静電アクチュエータにより構成され、後述する縞走査を実行するために、撮影制御部17の制御に基づいて駆動される。メモリ14には、縞走査の各走査位置でX線画像検出器13により得られる画像データが一括して記憶される。
【0042】
コンソール18は、操作部18a及びモニタ18bを備えている。操作部18aは、キーボードやマウス等により構成され、X線源11の管電圧、管電流、照射時間等の撮影条件の設定や、本撮影またはプレ撮影のモード選択、撮影実行指示等の操作入力を可能とする。本撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置した状態で行う撮影モードである。プレ撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置せずに行う撮影モードである。詳しくは後述するが、プレ撮影は、第1及び第2の格子21,22の製造誤差や配置誤差等により生じるバックグランド成分をオフセット画像として取得するために用いられる。
【0043】
モニタ18bは、撮影条件等の撮影情報や、画像記録部16に記録された位相微分画像及び位相コントラスト画像の表示を行う。システム制御部19は、操作部18aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0044】
図2において、X線画像検出器13は、入射X線により半導体膜(図示せず)に生じた電荷を収集する画素電極31と、画素電極31によって収集された電荷を読み出すためのTFT(Thin Film Transistor)32とを備えた画素部30が2次元状に多数配列されたものである。半導体膜は、例えば、アモルファスセレンにより形成されている。
【0045】
また、X線画像検出器13は、ゲート走査線33、走査回路34、信号線35、及び読み出し回路36を備える。ゲート走査線33は、画素部30の行ごとに設けられている。走査回路34は、TFT32をオン/オフするための走査信号を各ゲート走査線33に付与する。信号線35は、画素部30の列ごとに設けられている。読み出し回路36は、各信号線35を介して画素部30から電荷を読み出し、画像データに変換して出力する。各画素部30の詳細な層構成については、例えば、特開2002−26300号公報に記載されている層構成と同様である。
【0046】
読み出し回路36は、積分アンプ、A/D変換器、補正回路(いずれも図示せず)等を備える。積分アンプは、各画素部30から信号線35を介して出力された電荷を積分して画像信号を生成する。A/D変換器は、積分アンプにより生成された画像信号を、デジタル形式の画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、暗電流補正、ゲイン補正、リニアリティ補正等を行う。この補正後の画像データがメモリ14に記憶される。
【0047】
X線画像検出器13は、入射X線を半導体膜で直接電荷に変換する直接変換型に限られず、ヨウ化セシウム(CsI)やガドリウムオキシサルファイド(GOS)等のシンチレータで入射X線を可視光に変換し、可視光をフォトダイオードで電荷に変換する間接変換型であってもよい。さらに、X線画像検出器13を、シンチレータとCMOSセンサを組み合わせて構成してもよい。
【0048】
図3において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビームである。第1の格子21は、タルボ効果が生じず、X線透過部21bを通過したX線を幾何光学的に投影するように構成される。具体的には、x方向へのX線透過部21bの幅を、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とし、X線の大部分がX線透過部21bで回折しないようにすることで実現される。X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21bの幅を1〜10μm程度とすればよい。
【0049】
これにより、G1像は、第1の格子21からz方向下流への距離に依らず、常に第1の格子21の自己像となる。G1像は、X線焦点11aからz方向下流への距離に比例して拡大される。
【0050】
第2の格子22の格子ピッチp2は、前述のように、第2の格子22の格子パターンが第2の格子22の位置におけるG1像に一致するように設定されている。具体的には、第2の格子22の格子ピッチp2は、第1の格子21の格子ピッチp1、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L1、第1の格子21と第2の格子22との間の距離L2と、下式(1)をほぼ満たすように設定されている。
【0051】
【数1】
【0052】
G1像は、被検体HでX線に位相変化が生じて屈折することにより変調される。この変調量には、被検体HでのX線の屈折角φ(x)が反映される。同図には、被検体HでのX線の位相変化を表す位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示し、符号X2は、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。
【0053】
位相シフト分布Φ(x)は、X線の波長をλ、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
上記屈折角φ(x)は、位相シフト分布Φ(x)と、下式(3)の関係にある。
【0056】
【数3】
【0057】
第2の格子22の位置において、X線は、屈折角φ(x)に応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φ(x)が微小であることに基づいて、近似的に下式(4)で表される。
【0058】
【数4】
【0059】
このように、変位量Δxは、位相シフト分布Φ(x)の微分値に比例する。したがって、変位量Δxを後述する縞走査により検出することにより、位相シフト分布Φ(x)の微分値が得られ、位相微分画像が生成される。
【0060】
縞走査は、格子ピッチp2をM個に分割した値(p2/M)を走査ピッチとし、走査機構23により、この走査ピッチで第2の格子22を並進移動させ、第2の格子22を並進移動させるたびに、X線源11からX線を放射してG2像をX線画像検出器13により撮影することにより行われる。Mは3以上の整数であり、例えば、M=5であることが好ましい。
【0061】
上式(1)を僅かに満たさない場合や、第1の格子21と第2の格子22との間にz方向周りの回転や、xy平面に対する傾斜が僅かに生じている場合には、G2像にはモアレ縞が生じる。このモアレ縞は、第2の格子22の並進移動に伴って移動し、x方向への移動距離が格子ピッチp2に達すると元のモアレ縞に一致する。このモアレ縞の移動を確認することで、第2の格子22の並進移動量を検証することができる。
【0062】
上記縞走査により、X線画像検出器13の各画素部30について、M個の画素値が得られる。図4に示すように、M個の画素値Ikは、第2の格子22の走査位置kに対して周期的に変化する。走査位置kは、第2の格子22を一周期分並進移動させた場合の走査ピッチ(p2/M)ごとの各位置である。走査位置kに対する画素値Ikの変化を表す信号を強度変調信号と呼ぶ。
【0063】
同図中の破線は、被検体Hを配置しない状態で得られる強度変調信号を示している。これに対して、実線は、被検体Hを配置した状態で、被検体Hにより位相ズレ量ψ(x)が生じた強度変調信号を示している。この位相ズレ量ψ(x)は、上記変位量Δxと下式(5)の関係にある。
【0064】
【数5】
【0065】
したがって、各画素部30について、縞走査で得られるM個の画素値Ikに基づき、強度変調信号の位相ズレ量ψ(x)を求めることにより、位相微分画像が得られる。
【0066】
次に、位相ズレ量ψ(x)の算出方法について説明する。強度変調信号は、一般に下式(6)で表される。
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、A0は入射X線の平均強度を表し、Anは強度変調信号の振幅を表す。nは正の整数、iは虚数単位である。なお、図4に示すように、強度変調信号が正弦波を描く場合には、n=1である。
【0069】
本実施形態では、走査ピッチ(p2/M)が一定であるため、下式(7)が成立する。
【0070】
【数7】
【0071】
上式(7)を上式(6)に適用すると、位相ズレ量ψ(x)は、下式(8)で表される。
【0072】
【数8】
【0073】
ここで、arg[…]は、複素数の偏角を抽出する関数である。また、位相ズレ量ψ(x)は、逆正接関数を用いて下式(9)のように表すことも可能である。
【0074】
【数9】
【0075】
複素数の偏角は、値域が−πから+πの範囲であるため、上式(8)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−πから+πの範囲に畳み込まれた(ラップされた)値を取る。これに対して、逆正接関数は、通常、値域が−π/2から+π/2の範囲であるため、上式(9)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−π/2から+π/2の範囲に畳み込まれた値を取る。なお、上式(9)において、逆正接関数内の分母及び分子の正負を判別することにより、値域を−πから+πとすることができるため、−πから+πの範囲で位相ズレ量ψ(x)を算出することも可能である。
【0076】
本実施形態では、各画素部30について算出された位相ズレ量ψ(x)を画素値とするデータを位相微分画像という。なお、位相ズレ量ψ(x)に定数を乗じたり加算したりしたデータで表される画像を位相微分画像としてもよい。以下、位相微分画像の画素値は、幅αを有する所定の値域(例えば0からαの範囲)にラップされているとする。
【0077】
図5に示すように、画像処理部15は、位相微分画像生成部40、アンラップ処理部41、オフセット画像記憶部42、小領域サイズ決定部43、統計演算処理部44、補正処理部45、オフセット処理部46、位相コントラスト画像生成部47等を備える。
【0078】
位相微分画像生成部40は、プレ撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(プレ撮影画像データ)51を用い、上式(8)または上式(9)に基づいて演算を行うことにより、位相微分画像を生成する。同様に、位相微分画像生成部40は、本撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(本撮影画像データ)52に基づいて位相微分画像を生成する。
【0079】
アンラップ処理部41は、位相微分画像生成部40から入力される位相微分画像にアンラップ処理を施す。プレ撮影時には、プレ撮影画像データ51に基づいて生成された位相微分画像が位相微分画像生成部40からアンラップ処理部41に入力される。アンラップ処理部41は、プレ撮影画像データ51から生成された位相微分画像にアンラップ処理を施すと、これをオフセット画像として、オフセット画像記憶部42に記憶させる。なお、オフセット画像記憶部42は、新たにプレ撮影を行って新たなオフセット画像が入力された場合には、既に記憶されているオフセット画像を消去した後、新たに入力されたオフセット画像を記憶する。
【0080】
また、アンラップ処理部41は、本撮影時には、本撮影画像データ52に基づいて生成された位相微分画像にアンラップ処理を施し、小領域サイズ決定部43に入力する。
【0081】
図6に示すように、アンラップ処理部41は、例えば、位相微分画像61の角部に位置する画素に起点SP1を設定し、起点SP1から経路WR1に沿ってアンラップ処理を行った後、起点SP1と、これに隣接する起点SP2とのアンラップ処理を行い、起点SP2から経路WR2に沿ってアンラップ処理を行うという処理を、起点SPn及び経路WRnを変更しながら順に繰り返す。
【0082】
アンラップ処理は、前述のように位相微分画像の画素値が所定の値域にラップされていることにより大きく変化(いわゆる位相飛び)する点を不連続点DPとして検出し、検出した不連続点DP以降の経路WRn上の画素値に該値域の幅αを加算または減算することで不連続点DPをなくし、画素値の変化をほぼ連続化する処理である。不連続点DPの検出は、画素値の変化量が所定量(例えば、α/2)以上である箇所を求めることにより行われる。図7に示すように、位相微分画像にアンラップ処理を施すと、経路WRn上に、位相飛びによる不連続点DPだけが検出された場合には、画素値の変化は正常に連続化される。
【0083】
一方、図8に示すように、経路WRn上に、位相飛びによる不連続点DPだけでなく、ノイズ等による不連続点Errが存在すると、アンラップ処理部41は、位相飛びによる不連続点DPとノイズ等による不連続点Errとを識別することができず、不連続点Errに対しても値域の幅αを加算または減算することがある。この場合、アンラップ処理後位相微分画像には、不連続点Errで幅αのギャップが生じてしまう。このギャップがアンラップエラーである。
【0084】
なお、ノイズ等による不連続点Errが1点のデータだけで構成される場合には、結果的には正しくアンラップ処理される。これは、不連続点Errと直前のデータ点との差が不連続点を検出するための所定量を超え、かつ、不連続点Errと次のデータ点との差も所定量を超えるため、αを減算(加算)するアンラップ処理とαを加算(減算)するアンラップ処理が行われ、不連続点Errにおけるアンラップ処理は相殺されるからである。このため、図8に示す不連続点Errは、複数のデータ点からなる。例えば、不連続点Errが、データ点Err1,Err2の2点からなり、データ点Err1と直前のデータ点との差が所定量を超え、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差が所定量を超えないとする。この場合、データ点Err1と直前のデータ点との差を検出してアンラップ処理が行われるが、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差はアンラップ処理が必要な箇所としては検出されないので、結果的にデータ点Err1と直前のデータ点との差を検出して行われるアンラップ処理がアンラップエラーとして残る。
【0085】
プレ撮影は、前述のように被検体Hがない状態で行われる撮影であるから、プレ撮影画像データ51及びプレ撮影画像データ51から生成される位相微分画像には、位相飛びによる不連続点DP以外の不連続点Errは基本的に発生しない。このため、プレ撮影時に生成される位相微分画像にアンラップ処理を施してもアンラップエラーは生じない。
【0086】
一方、本撮影時に得られる位相微分画像は、被検体Hが写し出された本撮影画像データ51に基づいて生成されるので、位相微分画像にアンラップ処理を施すと、撮影した被検体Hによってはアンラップエラーが生じることがある。例えば、図9に示すように、被写体Hに、X線吸収能が高いためにコントラストが低くノイズが生じやすい骨部66と、X線撮影装置10による撮影の主要な関心領域である軟部組織67(軟骨や関節液等)があるとする。骨部66はコントラストが低く、アンラップエラーが生じやすいので、本撮影画像データ52から直接生成された位相微分画像においては、骨部66を通る経路WRnに沿ってアンラップエラーによる筋状のノイズ67が発生することがある。破線で示す領域68のように、ノイズ67が軟部組織67に重畳される箇所では、関心領域である軟部組織67の観察が阻害される。
【0087】
上述のように発生するアンラップエラーの補正は、小領域サイズ決定部43、統計演算処理部44、及び補正処理部45によって行われる。
【0088】
小領域サイズ決定部43は、統計演算処理部44で行う統計演算処理及び補正処理の処理単位(以下、小領域という)のサイズを決定する。具体的には、図10に示すように、小領域サイズ決定部43は、アンラップ処理部41からアンラップ処理済みの位相微分画像が入力されると、まず、所定の領域EA,EB,EC,EDの画素値を抽出する。
【0089】
所定の領域EA,EB,EC,EDは、サイズ及び位置が各々予め定められている。各領域EA,EB,EC,EDのサイズは、例えば、いずれも位相微分画像61の横幅W及び縦幅(高さ)Hの10%(0.1W×0.1Hの大きさ)である。また、領域EA,EB,EC,EDは、小領域のサイズを精度良く決定することができるように互いにできるだけ離れた位置に定められる。例えば、領域EA,EB,EC,EDは、位相微分画像61の左上隅,右上隅,左下隅,右下隅に各々定められる。
【0090】
次いで、小領域サイズ決定部43は、各領域EA,EB,EC,ED毎に、抽出した画素値の平均値μA,μB,μC,μDを算出し、これらの各平均値μA,μB,μC,μDに基づいて、位相微分画像61に重畳されたオフセット等に起因する横方向(Wの方向),縦方向(Hの方向),斜め方向(DL1及びDL2の各方向)の最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出する。
【0091】
横方向の最大変化量NWを算出する場合、まず、領域EAから領域EBへの変化量を表すNAB=|μA−μB|を算出し、領域ECから領域EDへの変化量を表すNCD=|μC−μD|を算出する。そして、NABとNCDのうち大きい方の値を、横方向の最大変化量NWとする。
【0092】
同様に、縦方向の最大変化量NHを算出する場合、領域EAから領域ECへの変化量を表すNAC=|μA−μC|を算出し、領域EBから領域EDへの変化量を表すNBD=|μB−μD|を算出する。そして、これらのうち大きい方の値を、縦方向の最大変化量NHとする。また、斜め方向DL1,DL2への最大変化量NDL1,NDL2は、それぞれ|μA−μD|,|μB−μC|によって算出する。
【0093】
小領域サイズ決定部43は、こうして算出した各方向の最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2に基づき、小領域内における大局的な画素値の変化量がα(アンラップ前の位相微分画像の値域に相当する値)を超えないように、小領域のサイズを決定する。具体的には、小領域サイズ決定部43は、小領域の横幅を決定するときに、算出した各方向の最大変化量NW,NDL1,NDL2に基づいて、第1横基準長,第2横基準長,第3横基準長の3種の長さを決定する。
【0094】
第1横基準長は、α(W/NW)であり、画素値の横方向への大局的な変化量がαに一致する長さである。第2横基準長は、対角方向DL1に沿った長さα(DL1/NDL1)を位相微分画像61の横辺に射影することにより算出され、位相微分画像61が正方形の場合にはα(DL1/NDL1)×cos45°である。第2横基準長は、対角方向DL1への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその横方向への長さである。同様に、第3横基準長は、対角方向DL2に沿った長さα(DL2/NDL2)を位相微分画像61の横辺に射影することにより算出される。第3横基準長は、対角方向DL2への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその横方向への長さである。
【0095】
小領域サイズ決定部43は、第1横基準長,第2横基準長,第3横基準長のうちから最も短い横基準長以下で、かつ、位相微分画像61の横幅Wを整数分割する長さを求め、これを小領域の横幅として決定する。この横幅を有する小領域内では、横方向への大局的な画素値の変化量がα以下に抑えられる。
【0096】
また、小領域サイズ決定部43は、同様に、最大変化量NH,NDL1,NDL2に基づいて、第1縦基準長,第2縦基準長,第3縦基準長を算出することにより、小領域の縦幅を決定する。
【0097】
第1縦基準長は、α(W/NH)であり、画素値の縦方向への大局的な変化量がαに一致する長さである。第2縦基準長は、対角方向DL1に沿った長さα(DL1/NDL1)を位相微分画像61の縦辺に射影することにより算出され、位相微分画像61が正方形の場合にはα(DL1/NDL1)×sin45°である。第2横基準長は、対角方向DL1への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその縦方向への長さである。同様に、第3横基準長は、対角方向DL2に沿った長さα(DL2/NDL2)を位相微分画像61の縦辺に射影することにより算出される。第3横基準長は、対角方向DL2への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその縦方向への長さである。
【0098】
小領域サイズ決定部43は、第1縦基準長,第2縦基準長,第3縦基準長のうちから最も短い縦基準長以下であり、かつ、位相微分画像61の縦幅Hを整数分割する長さを求め、これを小領域の縦幅として決定する。この縦幅を有する小領域内では、縦方向の大局的な画素値の変化量がα以下に抑えられる。
【0099】
統計演算処理部44は、図11に示すように、小領域サイズ決定部43により決定された横幅FW及び縦幅FHを有する小領域71により位相微分画像61を分割し、各小領域71に以下の統計演算処理を施す。この統計演算処理は、例えば、矢印で示す順に行う。なお、図11では、小領域サイズ決定部43により、横幅FWがW/4、縦幅FHがH/5と決定された例を示している。
【0100】
統計演算処理部44は、まず、小領域71内について画素値ψの頻度分布を調べ、最頻値ψmを求める。例えば、小領域71内の画素値ψの頻度分布をヒストグラム化すると、図12に示すように、ほぼαの広がり有する複数の小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・が現れる。この場合、最頻値ψmは、小分布P0のほぼ平均値である。
【0101】
小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・のうち、最頻値ψmを含む小分布P0は、実質的にアンラップエラーによるギャップがなく、正常な画素値を示す画素が属している。これは、小領域71内での画素値の変化量はほぼαの範囲内であり、小領域71内でのアンラップエラーの発生頻度は低く、正常な画素が大半を占めるためである。
【0102】
このため、小分布P0以外の小分布P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、アンラップエラーに起因した画素値が大半を占める。これらの小分布P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、小分布ピークP0を基準として概ね正負対称に生じる。これは、アンラップエラーの原因となるノイズがランダムであり、アンラップエラーがほぼ正負同等の確率で生じるためである。このため、各小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、全体として概ね二項分布となる。
【0103】
補正処理部45は、算出した最頻値ψmを基準として、小領域71内の画素値の補正を行う。例えば、最頻値ψmの画素値を基準値(0)として、−α/2以上+α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、実質的にアンラップエラーがない正常画素として分類する。また、画素値が+α/2以上+3α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、アンラップエラーによってαが1回余分に加算された異常画素として分類する。同様に、画素値が−3α/2以上−α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、アンラップエラーによってαが1回余分に減算された異常画素として分類する。その他の範囲についても同様である。
【0104】
頻度ヒストグラムを用いて説明したが、上述の各画素の分類は、数式に基づくアルゴリズムを用いて行う。具体的には、補正処理部45は、小領域71内の各画素の画素値ψ(x,y)と最頻値ψmとの差分Δ(x,y)=ψ(x,y)−ψmを算出し、差分Δ(x,y)が下式(10)を満たす整数nを算出する。そして、算出した整数nを用いて、下式(11)に示すように、元の画素値ψ(x,y)を新たな画素値ψ’(x,y)に置き換える。
【0105】
【数10】
【0106】
【数11】
【0107】
この式(10)及び式(11)に基づく画素値の補正処理により、小領域71内でアンラップエラーが補正される。ここで、“x,y”は、位相微分画像61内における各画素の座標を表す。また、式(10)では、差分Δの下限を、等号を含む不等号(≦)で表し、上限を、等号を含まない不等号(<)で表しているが、整数nが一意に決定される範囲を規定するように不等号が表されていればよく、等号の位置は任意である。すなわち、式(10)を次のように変形してもよい(nα−α/2<Δ(x,y)≦nα+α/2 ・・・(10’))。
【0108】
上述の式(10)及び式(11)に基づく画素値の補正処理を、頻度ヒストグラムに対応付ければ、小分布P0に属する画素ではn=0であるため、実質的に画素値の置換えは行われない。一方、小分布P1aに属する画素ではn=1であり、画素値はαだけ減算される。また、小分布P1bに属する画素ではn=−1であり、画素値はαだけ加算される。同様に、小分布P2aに属する画素ではn=+2であり、画素値は2αだけ減算され、ピークP2bに属する画素ではn=−2であり、画素値は2αだけ加算される。その他の各小分布についても同様である。
【0109】
前述のように、小分布P0に属する画素は、アンラップエラーがない正常画素が大半を占めるため画素値の補正は不要である。一方、小分布P1a,P1bに属する画素はアンラップエラーによりαが1回だけ余分に加算または減算された異常画素が大半を占めるため、式(10)及び式(11)にしたがって逆にαを減算または加算することにより、アンラップエラーが補正された正常画素となる。これは図13に示すように、小分布P1a,P1bを、中心位置が最頻値ψmとなるように移動させることに相当する。小分布P2a,P2b及びその他の各小分布に属する画素についても同様である。
【0110】
小領域71のサイズが大きすぎる場合には、小分布P0,P1a,P1b,・・・のそれぞれは分布が広がり、各々の裾が繋がってしまう等、各小分布が区別し難くなる。このように小領域71のサイズが大きすぎる場合には、上述の式(10)及び式(11)による補正処理を行うと、小分布P0と小分布P1aの重なり部分では、本来アンラップエラーがない小分布P0に属する正常画素に対して、統計演算処理部44により補正処理が行われてしまうことがある。一方、小領域71のサイズが小さすぎる場合には、小分布P0,P1a,P1b,・・・の各分布が狭まるが、データ数が少ないため、最頻値ψmの算出精度が悪化する。これにともなって、統計演算処理部44による画素値の補正処理の精度も悪化する。
【0111】
オフセット処理部46は、上述のように補正処理部45によってアンラップエラーが補正された位相微分画像に対してオフセット補正を施す。オフセット補正は、アンラップエラーが補正された位相微分画像からオフセット画像を減算することにより、位相微分画像にバックグラウンドとして重畳されたノイズを減算する補正処理である。ここで、オフセットとして除去されるノイズ成分は、例えば、第1の格子21や第2の格子22の歪や僅かな位置ずれ(回転や傾斜を含む)や、これらの位置ずれによって生じるモアレ等によるものである。
【0112】
位相コントラスト画像生成部47は、アンラップエラーが補正され、かつ、オフセットが除去された位相微分画像をx方向に沿って積分処理することにより、位相シフト分布を表す位相コントラスト画像を生成する。オフセット補正後の位相微分画像と位相コントラスト画像は、画像記録部16に記録される。
【0113】
以下、X線撮影装置10の作用を説明する。X線撮影装置10を用いて被検体Hの撮影を行う場合、図14に示すように、被検体Hの撮影の前に、プレ撮影を行う。操作部18aを用いて撮影モードとしてプレ撮影モードが選択されると(ステップS10)、撮影指示の入力待機状態となる(ステップS11)。操作部18aを用いて撮影指示が入力されると、走査機構23により第2の格子22が所定の走査ピッチずつ並進移動されながら、各走査位置kにおいて、X線源11によるX線照射及びX線画像検出器13によるG2像の検出が行われる(ステップS12)。この縞走査の結果、M枚のプレ撮影画像データ51が生成され、メモリ14に格納される。
【0114】
プレ撮影画像データ51は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によってプレ撮影画像データ51から位相微分画像が生成される(ステップS13)。この位相微分画像は、アンラップ処理部41でアンラップ処理が施された後(ステップS14)、オフセット画像としてオフセット画像記憶部42に記憶される。プレ撮影動作は、以上で終了する。なお、このプレ撮影は、X線撮影装置10の立ち上げ時等に被検体Hを配置しない状態で少なくとも一度行われればよく、本撮影の前に毎回行われる必要はない。
【0115】
次に、被検体Hを配置し、本撮影を行う。本撮影を行う場合、図15に示すように、操作部18aを用いて撮影モードとして本撮影モードが選択される(ステップS20)。本撮影モードが選択されると、撮影指示の待受状態となる(ステップS21)。操作部18aを用いて撮影指示がなされると、縞走査が行われ(ステップS22)、メモリ14にM枚の本撮影画像データ52が格納される。
【0116】
その後、本撮影画像データ52は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によって本撮影画像データ52から第1位相微分画像K1が生成され(ステップS23)、アンラップ処理部41によってアンラップ処理が施される(ステップS24)、小領域サイズ決定部43に入力される。
【0117】
小領域サイズ決定部43では、統計演算処理部44による統計演算処理及び補正処理の処理単位である小領域の最適なサイズを決定する(ステップS25)。次に、統計演算処理部44において、小領域サイズ決定部43で算出された小領域毎に位相微分画像を区分けし、各小領域で画素値の最頻値ψmを算出する(ステップS26)。その後、小領域内の各画素の画素値ψ(x,y)と最頻値ψmの差分Δ(x,y)を算出し(ステップS27)、算出した差分Δ(x,y)が前述の式(10)を満たす整数nを算出する(ステップS28)。そして、前述の式(11)に基づいて算出した整数nに応じた画素値の補正処理を行う(ステップS29)。
【0118】
上述の各種処理のうち、統計演算処理部44による最頻値ψmの算出(S26)、補正処理部45による差分Δ(x,y)の算出(S27)及び画素値の補正処理(S29)は全ての小領域について行う(ステップS30)。これにより、アンラップ済み位相微分画像に対するアンラップエラーの補正処理が完了する。
【0119】
統計演算処理部44及び補正処理部45による各種処理(S26〜S29)が全ての小領域について完了し、アンラップエラーの補正処理が完了すると、アンラップエラーの補正処理済み位相微分画像は、オフセット処理部46に入力され、プレ撮影によって予め記憶されたオフセット画像を減算するオフセット処理が施される(ステップS31)。こうしてオフセット処理された位相微分画像は、画像記録部16に記録される。
【0120】
同時に、位相コントラスト画像生成部47は、オフセット処理された位相微分画像に積分処理を施すことにより、位相コントラスト画像を生成し(ステップS32)、画像記録部16に記録する。その後、オフセット処理後の位相微分画像や位相コントラスト画像はモニタ18bに表示される(ステップS33)。
【0121】
以上のように、X線撮影装置10は、アンラップエラーを補正する。このため、X線撮影装置10は、アンラップエラーがない位相微分画像及び位相コントラスト画像を生成し、表示することができる。
【0122】
また、X線撮影装置10は、アンラップエラーの補正をする時に、位相微分画像を小領域に区切り、小領域毎に最頻値ψmを算出し、アンラップエラーの補正処理を行う。このため、アンラップ処理自体は、アンラップエラーが発生しやすい骨部66の判別や、実際のアンラップエラーの有無等を考慮することなく、所定の経路に沿って行うことができる。X線撮影装置10によれば、骨部66等を判別し、迂回しながらアンラップ処理を行う等、そもそもアンラップエラーを発生させないようにするアンラップ処理を行う場合と比較して、容易にアンラップエラーがない位相微分画像を得られる。また、撮影部位等によらず、アンラップエラーを好適に補正することができる。
【0123】
さらに、X線撮影装置10が行うアンラップエラーの補正処理には、補正処理の対象であるアンラップ処理後の位相微分画像以外のデータを必要としない。このため、X線撮影装置10が行うアンラップエラーの補正処理は、容易かつ正確である。
【0124】
なお、上述の実施形態では、小領域サイズ決定部43によって小領域のサイズを決定するときに、まず、位相微分画像61の四隅に定められた所定の領域EA,EB,EC,EDの平均値μA,μB,μC,μDを算出する例を説明したが、これらの領域EA,EB,EC,EDの配置箇所は任意である。例えば、図16に示すように、位相微分画像61の左辺中央,上辺中央,下辺中央,右辺中央に、それぞれ領域EA,EB,EC,EDを定めても良い。
【0125】
この場合、オフセット等による横方向の画素値の最大変化量NWは、NW=|μA−μD|、縦方向の最大変化量NHは、NH=|μB−μC|によって求めれば良い。また、対角方向DL1の最大変化量NDL1は、|μA−μB|と|μD−μC|のうち大きい方の2倍の値とすれば良い。|μA−μB|と|μD−μC|の平均値の2倍を最大変化量NDL1としても良い。対角方向DL2の最大変化量NDL2についても同様である。また、この他の位置に領域EA,EB,EC,EDを定める場合もここで説明した変形例や上述の実施形態とほぼ同様の計算によって最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出することができる。但し、4箇所の領域EA,EB,EC,EDに基づいて、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出する場合には、上述の実施形態のように、これらの所定領域は位相微分画像61の四隅に定めることが好ましい。これは、各所定領域間距離が最も長くとれ、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2の算出精度が良いからである。
【0126】
さらに、上述の実施形態では、領域EA,EB,EC,EDのサイズを0.1W×0.1Hとしているが、領域EA,EB,EC,EDのサイズはこれに限らず、任意である。但し、領域EA,EB,EC,EDのサイズが大きすぎたり、小さすぎたりする場合、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2の検出精度が悪くなるので、上述の実施形態のように、領域EA,EB,EC,EDのサイズは、0.1W×0.1H程度であることが好ましい。
【0127】
また、上述の実施形態では、小領域のサイズを決定するために、4つの領域が領域EA,EB,EC,EDをもちいているが、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出することができれば、領域の個数は任意である。例えば、位相微分画像61の中央に領域EEを設け、この領域EEの平均値μEをも加味して、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出しても良い。
【0128】
また、上述の実施形態では、位相微分画像61を小領域71に区分けした後、各小領域71に対してアンラップエラーの補正処理を、図11に示す矢印の順に行っているが、この補正処理を行う順序は任意である。また、隣接した小領域71を順に処理して行く必要もない。
【0129】
また、上述の実施形態では、小領域によって位相微分画像61を縦横に整数分割し、小領域によって位相微分画像を過不足なく区分けすることができるように、小領域のサイズを決定する例を説明したが、これに限らない。例えば、図17に示すように、隣接する小領域の縦横の一部を重複させつつ、かつ、位相微分画像61の全体で余りなくアンラップエラーの補正をするようにすることができるように各小領域の位置が定められることがより好ましい。具体的には、統計演算処理部44は、小領域71aの次にアンラップエラーの補正を行う小領域71bの位置を、小領域71aの下側の一部分と重複するようにを決める。同様に、小領域71cの位置も、小領域71bの下側の一部分と重複するように決める。また、小領域71aを初端とする列(位相微分画像61の左端部分の列。)の隣の列では、小領域71kのように、第1列で各小領域71a,71b,71c,・・・と左側の一部分が重複するように、小領域の位置を決定する。このように、小領域の一部が重複するように各小領域の位置を決定し、各小領域のアンラップエラーの補正を順に行うと、重複部分では既にアンラップエラーが補正されているために、アンラップエラーが多く含まれる場合であっても、少分布P0のピーク値が他の少分布P1a,P1b等と比べて有意に大きくなる。したがって、最頻値ψmをより精度良く検出でき、アンラップエラーの補正の精度も向上する。なお、上述の実施形態のように各小領域に重複がない場合には、小領域の一部を重複させる場合よりも、アンラップエラーの補正処理に要する時間が短い。
【0130】
なお、このように、小領域を重複させながらアンラップエラーの補正を行う場合も、各小領域のサイズは、上述の実施形態と同様に小領域サイズ決定部43で算出する大きさにすれば良い。但し、各小領域内での画素値の大局的な変化がα以下であればよいので、小領域のサイズは、小領域サイズ決定部43で算出されるサイズ以下であれば良い。但し、前述のように、小領域のサイズが小さすぎる場合には、データの少ないことによって、補正処理部45による補正処理の精度が悪化するので、各小領域の一部を重複させる場合にも、小領域のサイズは概ね上述の実施形態と同様のサイズにすることが好ましい。
【0131】
なお、上述のように隣接する小領域の一部を重複させる場合、各小領域の重複量は任意である。重複量が多いほど最頻値ψmの検出精度は向上する。但し、重複量が多いほどアンラップエラーの補正処理に要する時間が長くなる。したがって、仕様等により、モニタ18bに位相微分画像や位相コントラスト画像を表示するまでの時間の上限が予め設定されている場合には、アンラップエラーの補正処理及びその後の各処理に要する時間を逆算し、小領域の重複量や小領域のサイズを最適に調節しても良い。また、最頻値ψmの検出精度とアンラップエラーの補正処理に要する時間を考慮し、最適な重複量を予め定めておいても良い。
【0132】
なお、上述の実施形態では、小領域サイズ決定部43において、実際に位相微分画像に重畳されたオフセットの態様に応じて最適な小領域71のサイズを決定する例を説明したが、小領域71は位相微分画像に対して予め固定的に設定されていても良い。これはオフセットの具体的態様が撮影毎にほぼ変化しない場合に有効であり、小領域71のサイズを算出しない分、迅速にアンラップエラーの補正処理を行うことができる。小領域71のサイズを固定的に設定しておく場合には、X線撮影装置10のメンテナンスやキャリブレーション時等に、上述の実施形態と同様に小領域71のサイズを決定しておけば良い。なお、上述の実施形態のように小領域71のサイズを決定する態様は、オフセットの態様が不意に変化しても、常に正確なアンラップエラーの補正処理を行うことができるという利点がある。
【0133】
なお、上述の実施形態では、小領域71が2次元の範囲である例を説明したが、小領域71は1次元の範囲(画素の列または行、もしくは画素の行または列の一部分)であっても良い。
【0134】
なお、上述の実施形態では、小領域71の統計演算処理(最頻値ψmの算出)及び画素値の補正を各小領域について順に行う例を説明したが、全ての小領域71について統計演算処理を行った後に各小領域71の画素値の補正を行っても良い。
【0135】
なお、上述の実施形態では、小領域71に対してアンラップエラーの補正処理を行う画素値の基準値として、統計演算処理部44により小領域71内の画素値の最頻値ψmを求めているが、最頻値ψm以外の値を基準値としても良い。例えば、小領域71の画素値の平均値や中央値を基準値としても良い。
【0136】
なお、上述の実施形態では、アンラップエラーの補正を終えた後に、オフセット処理を行う態様を例に説明したが、オフセット処理を行った後にアンラップエラーの補正を行なっても良い。この場合、例えば、図18に示すように、アンラップ処理部41でアンラップ処理が施された位相微分画像はオフセット処理部46に入力されるようにする。そして、オフセット処理部46でオフセット処理が施された位相微分画像が小領域サイズ決定部43に入力し、適切な小領域のサイズを決定した後、統計演算処理部44で統計演算処理を、補正処理部45でアンラップエラーの補正処理を順に行うようにすれば良い。
【0137】
なお、上述の実施形態では、位相微分画像と位相コントラスト画像を生成する例を説明したが、プレ撮影画像データ51や本撮影画像データ52から吸収画像、吸収画像の微分画像、または小角散乱画像を生成しても良い。吸収画像は、強度変調信号の平均強度を画像化することにより生成される。吸収画像の微分画像は、吸収画像を所定方向(例えば、x方向)に微分処理することにより生成される。小角散乱画像は、強度変調信号の振幅を画像化することにより生成される。
【0138】
さらに、X線画像検出器13、第1の格子21、第2の格子22に欠陥が生じたり、ゴミなどが付着したりした場合には、所定の画素部30の画素値が常に高く、または低くなることがある。このような画素欠陥が生じた領域は、強度変調信号の平均強度、振幅等が異常値を示すため、アンラップエラーが生じやすい領域となる。このようにアンラップエラーが画素欠陥に起因する場合にも本発明は有効であり、アンラップエラーを補正することができる。
【0139】
上述の画素欠陥に起因するアンラップエラーは、プレ撮影時にも発生する。このため、上述の実施形態では、本撮影時にだけアンラップエラーの補正処理を行う例を説明したが、画素欠陥がある場合に備えて、プレ撮影時にもアンラップエラーの補正処理を行うようにすることが好ましい。プレ撮影時にアンラップエラーを補正する態様は、上述の実施形態で説明した本撮影の場合と同様である。
【0140】
なお、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0141】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を格子線に直交する方向(x方向)に移動させているが、本出願人により特願2011−097090号として出願されているように、第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向(xy平面内でx方向及びy方向に直交しない方向)に移動させてもよい。この移動方向は、xy平面内で、かつy方向以外であれば、いずれの方向であってもよい。この場合には、第2の格子22の移動のx方向成分に基づいて、走査位置kを設定すればよい。第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向に移動させることにより、縞走査の一周期分の走査に要するストローク(移動距離)が長くなるため、移動精度が向上するといった利点がある。
【0142】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を移動させているが、第2の格子22に代えて、第1の格子21を格子線に直交する方向または傾斜する方向に移動させてもよい。
【0143】
また、上記第実施形態では、X線源11から射出されるコーンビーム状のX線を射出するX線源11を用いているが、平行ビーム状のX線を射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p2=p1をほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0144】
また、上記実施形態では、X線源11から射出されたX線を第1の格子21に入射させており、X線源11は単一焦点であるが、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)を設けることにより、X焦点を分散化してもよい。これより、高出力のX線源を用いることが可能となり、X線量が向上するため、位相微分画像の画質が向上する。この場合、マルチスリットのピッチp0は、下式(12)を満たす必要がある。この場合、距離L1は、マルチスリットから第1の格子21までの距離を表す。
【0145】
【数12】
【0146】
また、上記実施形態では、第1の格子21が入射X線を幾何光学的に投影するように構成しているが、WO2004/058070号公報等で知られているように、第1の格子21をタルボ効果が生じる構成としてもよい。第1の格子21でタルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、上記マルチスリットを用いればよい。
【0147】
第1の格子21でタルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)が、第1の格子21からz方向下流にタルボ距離Zmだけ離れた位置に生じるため、第1の格子21から第2の格子22までの距離L2をタルボ距離Zmとする必要がある。
【0148】
タルボ距離Zmは、第1の格子21の構成とX線のビーム形状とに依存する。第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(13)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0149】
【数13】
【0150】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(14)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0151】
【数14】
【0152】
また、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(15)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0153】
【数15】
【0154】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(16)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0155】
【数16】
【0156】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(17)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0157】
【数17】
【0158】
そして、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(18)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0159】
【数18】
【0160】
また、上記実施形態では、格子部12に第1及び第2の格子21,22の2つの格子を設けているが、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることも可能である。
【0161】
例えば、特開平2009−133823号公報に記されたX線画像検出器を用いることにより、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることが可能である。このX線画像検出器は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器であり、各画素の電荷収集電極が複数の線状電極群を備える。1つの線状電極群は、一定の周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続したものであり、他の線状電極群と互いに位相が異なるように配置されている。この線状電極群が第2の格子22として機能し、線状電極群が複数存在することにより、一度の撮影で位相の異なる複数のG2像の検出が行われる。したがって、この構成では、走査機構23を省略することが可能である。
【0162】
また、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法がある。この方法として、本出願人により特願2010−256241号として出願されている画素分割法がある。この画素分割法では、第1の格子21と第2の格子22とを、z方向の回りに僅かに回転させて、y方向に周期を有するモアレ縞をG2像に発生させる。X線画像検出器13により得られる単一の画像データを、該モアレ縞に対して互いに位相が異なる画素行(x方向に並ぶ画素)の群に分割し、分割された複数の画像データを、縞走査により互いに異なる複数のG2像に基づくものと見なして、上記縞走査法と同様な手順で位相微分画像を生成する。この画素分割法において、前述の強度変調信号は、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0163】
さらに、画素分割法と同様に、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法として、WO2010/050483号公報に記載されたフーリエ変換法が知られている。このフーリエ変換法は、上記単一の画像データに対してフーリエ変換を行うことによりフーリエスペクトルを取得し、このフーリエスペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトル(位相情報を担うスペクトル)を分離した後、逆フーリエ変換を行なうことにより位相微分画像を生成する方法である。なお、このフーリエ変換法において、前述の強度変調信号は、画素分割法の場合と同様に、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0164】
なお、上述の実施形態では、位相微分画像に対してアンラップ処理を施したときに生じるアンラップエラーを補正する画像処理の態様を説明したが、本発明の画像処理方法の処理対象は位相微分画像に限らず、アンラップ処理が施された任意の画像であれば画素値の物理量が位相微分値でなくても良く、任意の画像に対して好適に用いることができる。
【0165】
本発明は、医療診断用の放射線撮影装置の他に、工業用の放射線撮影装置等に適用することが可能である。また、放射線は、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0166】
10 X線撮影装置
12 格子部
13 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
30 画素部
31 画素電極
33 ゲート走査線
35 信号線
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体による放射線の位相変化に基づく画像を検出する放射線撮影装置及びこれに用いられる画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の重さ(原子番号)と物質の密度及び厚さとに依存して吸収され減衰するといった特性を有する。この特性に着目し、医療診断や非破壊検査等の分野において、被検体の内部を透視するためのプローブとしてX線が利用されている。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源と、X線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体を透過したX線の撮影を行う。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、被検体を透過する際に吸収され減衰した後、X線画像検出器に入射する。この結果、被検体によるX線の強度変化に基づく画像がX線画像検出器により検出される。
【0004】
X線吸収能は、原子番号が小さい元素ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線の強度変化が小さく、画像に十分なコントラストが得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化に基づいた画像を得るX線位相イメージングの研究が近年盛んに行われている。X線位相イメージングは、被検体に入射したX線の位相変化が強度変化より大きいことに基づき、X線の位相変化を画像化する方法であり、X線吸収能が低い被検体に対しても高コントラストの画像を得ることができる。X線位相イメージングの一種として、2枚の回折格子とX線画像検出器とを用いてX線タルボ干渉計を構成することにより、X線の位相変化を検出するX線撮影装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このX線撮影装置は、X線源から見て被検体の背後に第1の回折格子を配置し、第1の回折格子からタルボ距離だけ離れた位置に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置したものである。タルボ距離は、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ効果によって第1の回折格子の自己像(縞画像)を形成する距離であり、第1の回折格子の格子ピッチとX線波長とに依存する。この自己像は、被検体でのX線の位相変化で屈折が生じることにより変調される。この変調量を検出することにより、X線の位相変化が画像化される。
【0007】
上記変調量の検出方法として縞走査法が知られている。縞走査法とは、第1の回折格子に対して第2の回折格子を、第1の回折格子の面に平行でかつ第1の回折格子の格子線方向に垂直な方向に、所定の走査ピッチで並進移動(走査)させながら、各走査位置において、X線源からX線を放射し、被検体、第1及び第2の回折格子を通過したX線をX線画像検出器により撮影する方法である。このX線画像検出器により得られる各画素の画素値の上記走査に対する変化を表す信号(強度変調信号)について位相ズレ量(被検体が存在しない場合の初期位置からの位相差)を算出することにより、上記変調量に関連する画像が得られる。この画像は、被検体の屈折率を反映した画像であり、X線の位相変化(位相シフト)の微分量に対応するため、位相微分画像と呼ばれる。
【0008】
特許文献1に示されているように、上記位相ズレ量は、複素数の偏角を抽出する関数(arg[…])や、逆正接関数(tan−1[…])を用いて算出される。このため、位相微分画像は、上記関数の値域(−πから+π、または、−π/2から+π/2)に畳み込まれた(ラップされた)値により表現される。このようにラップされた位相微分画像には、値域の上限から下限に変化する箇所、または下限から上限に変化する箇所で不連続点が生じることがあるため、この不連続点をなくして連続化するようにアンラップ処理を行うことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
アンラップ処理は、画像内の所定位置を起点とし、該起点から所定の経路に沿って順に行われる。この経路中に上記不連続点が検出されると、この不連続点以降のデータに、上記関数の値域に相当する値が一律に加算または減算される。これにより、不連続点がなくなり、データが連続化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2004/058070号公報
【特許文献2】特開2011−045655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、被検体に骨部等のX線吸収能が高い高吸収体が含まれる場合には、該高吸収体がX線を大きく減衰させるので、上記強度変調信号の強度や振幅が低下する。このため、高吸収体がある領域では位相ズレ量の算出精度が低下し、アンラップエラーが生じやすくなる。アンラップエラーには、本来不連続点でない箇所に不連続性が生じて不連続点と見なされることによりアンラップ処理が行われるケースと、本来不連続点である箇所の不連続性が低下して不連続点と見なされないことによりアンラップ処理が行われないケースとがある。
【0012】
例えば、アンラップ処理を行う経路上に骨部領域がある場合、骨部領域上で一旦アンラップエラーが生じると、アンラップエラーが生じた箇所以降の経路にエラー値(上記関数の値域に相当する値)が積算される。この結果、アンラップ処理後の位相微分画像にはアンラップ処理の経路方向に沿った筋状のノイズが生じる。このノイズが軟部組織である軟骨部の一部に重なる場合には、X線位相イメージングでの関心領域である肝心の軟部組織の画像化を阻害してしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、アンラップエラーを補正することにより、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる放射線画像撮影装置を提供することを目的とする。また、アンラップエラーを補正するための画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の放射線撮影装置は、放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、前記位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、 前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理部と、前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正処理部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
前記基準値は、前記小領域内の画素値の最頻値であることが好ましい。
【0016】
前記アンラップ処理後の前記位相微分画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定部を備えることが好ましい。
【0017】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像内に定められた複数の所定領域の画素値の平均値に基づいて前記位相微分画像の画素値の最大変化量を算出し、前記最大変化量と前記位相微分画像のサイズの比率に基づいて前記小領域のサイズを決定することが好ましい。
【0018】
前記平均値を求める前記複数の所定領域は、前記位相微分画像の四隅に定められていることが好ましい。
【0019】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像のサイズの比率に応じて、前記小領域内での画素値の大局的な変化がα以下となるように、前記小領域のサイズを決定することが好ましい。
【0020】
前記小領域サイズ決定部は、前記平均値に基づいて前記位相微分画像の横方向,縦方向,及び対角方向の最大変化量を各々算出し、横方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の横幅を決定するとともに、縦方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の縦幅を決定することが好ましい。
【0021】
前記小領域は、前記位相微分画像の全体を過不足なく区分けするように位置が定められることが好ましい。
【0022】
前記小領域は、隣接する他の前記小領域と一部が重複するように定められることが好ましい。
【0023】
前記被検体がない状態で撮影して得られる位相微分画像をオフセット画像として記憶する記憶手段と、前記アンラップ処理のエラーが補正された前記位相微分画像から、前記オフセット画像を減算するオフセット処理部と、を備えることが好ましい。
【0024】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することが好ましい。
【0025】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することが好ましい。
【0026】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることが好ましい。
【0027】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることが好ましい。
【0028】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することが好ましい。
【0029】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0030】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。
【0031】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることが好ましい。
【0032】
本発明の画像処理方法は、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理ステップと、前記前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出する整数n算出ステップと、前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正ステップと、を備えることを特徴とする。
【0033】
前記アンラップ処理が施された前記画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定小領域サイズ決定ステップを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、アンラップエラーによって生じる筋状のノイズを除去した位相微分画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】X線撮影装置の構成を示すブロック図である。
【図2】X線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の格子の構成を説明する説明図である。
【図4】強度変調信号を示すグラフである。
【図5】画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】アンラップ処理の起点及び経路の設定を示す説明図である。
【図7】アンラップ処理の態様を示す説明図である。
【図8】アンラップ処理でアンラップエラーが生じる態様を示す説明図である。
【図9】アンラップ処理後の位相微分画像を模式的に示す図である。
【図10】小領域を決定する態様を示す説明図である。
【図11】アンラップエラーの補正を行う態様を示す説明図である。
【図12】画素値の出現頻度を示す頻度ヒストグラムである。
【図13】アンラップエラーの補正と頻度ヒストグラムの対応関係を示す説明図である。
【図14】プレ撮影の態様を示すフローチャートである。
【図15】本撮影の態様を示すフローチャートである。
【図16】小領域を決定する他の態様を示す説明図である。
【図17】アンラップエラーの補正を行う他の態様を示す説明図である。
【図18】オフセット処理後にアンラップエラーの補正を行うための構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、格子部12、X線画像検出器13、メモリ14、画像処理部15、画像記録部16、撮影制御部17、コンソール18、及びシステム制御部19を備える。X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、撮影制御部17の制御に基づき、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0037】
格子部12は、第1の格子21、第2の格子22、及び走査機構23を備える。第1及び第2の格子21,22は、X線照射方向であるz方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器13は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に、検出面13aがz方向に直交するように配置されている。
【0038】
第1の格子21は、z方向に直交する格子面内の一方向であるy方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、z方向及びy方向に直交するx方向に交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にy方向に延伸され、かつx方向に交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する材料により形成されている。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性を有する材料や空隙により形成されている。
【0039】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。被検体Hが配置されていない場合において、G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。
【0040】
X線画像検出器13は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ14は、X線画像検出器13から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部15は、メモリ14に記憶された画像データに基づいて位相微分画像を生成し、この位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部16は、位相微分画像と位相コントラスト画像とを記録する。
【0041】
走査機構23は、第2の格子22をx方向に並進移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の相対位置を順次に変更する。走査機構23は、圧電アクチュエータや静電アクチュエータにより構成され、後述する縞走査を実行するために、撮影制御部17の制御に基づいて駆動される。メモリ14には、縞走査の各走査位置でX線画像検出器13により得られる画像データが一括して記憶される。
【0042】
コンソール18は、操作部18a及びモニタ18bを備えている。操作部18aは、キーボードやマウス等により構成され、X線源11の管電圧、管電流、照射時間等の撮影条件の設定や、本撮影またはプレ撮影のモード選択、撮影実行指示等の操作入力を可能とする。本撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置した状態で行う撮影モードである。プレ撮影とは、X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置せずに行う撮影モードである。詳しくは後述するが、プレ撮影は、第1及び第2の格子21,22の製造誤差や配置誤差等により生じるバックグランド成分をオフセット画像として取得するために用いられる。
【0043】
モニタ18bは、撮影条件等の撮影情報や、画像記録部16に記録された位相微分画像及び位相コントラスト画像の表示を行う。システム制御部19は、操作部18aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0044】
図2において、X線画像検出器13は、入射X線により半導体膜(図示せず)に生じた電荷を収集する画素電極31と、画素電極31によって収集された電荷を読み出すためのTFT(Thin Film Transistor)32とを備えた画素部30が2次元状に多数配列されたものである。半導体膜は、例えば、アモルファスセレンにより形成されている。
【0045】
また、X線画像検出器13は、ゲート走査線33、走査回路34、信号線35、及び読み出し回路36を備える。ゲート走査線33は、画素部30の行ごとに設けられている。走査回路34は、TFT32をオン/オフするための走査信号を各ゲート走査線33に付与する。信号線35は、画素部30の列ごとに設けられている。読み出し回路36は、各信号線35を介して画素部30から電荷を読み出し、画像データに変換して出力する。各画素部30の詳細な層構成については、例えば、特開2002−26300号公報に記載されている層構成と同様である。
【0046】
読み出し回路36は、積分アンプ、A/D変換器、補正回路(いずれも図示せず)等を備える。積分アンプは、各画素部30から信号線35を介して出力された電荷を積分して画像信号を生成する。A/D変換器は、積分アンプにより生成された画像信号を、デジタル形式の画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、暗電流補正、ゲイン補正、リニアリティ補正等を行う。この補正後の画像データがメモリ14に記憶される。
【0047】
X線画像検出器13は、入射X線を半導体膜で直接電荷に変換する直接変換型に限られず、ヨウ化セシウム(CsI)やガドリウムオキシサルファイド(GOS)等のシンチレータで入射X線を可視光に変換し、可視光をフォトダイオードで電荷に変換する間接変換型であってもよい。さらに、X線画像検出器13を、シンチレータとCMOSセンサを組み合わせて構成してもよい。
【0048】
図3において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビームである。第1の格子21は、タルボ効果が生じず、X線透過部21bを通過したX線を幾何光学的に投影するように構成される。具体的には、x方向へのX線透過部21bの幅を、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とし、X線の大部分がX線透過部21bで回折しないようにすることで実現される。X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21bの幅を1〜10μm程度とすればよい。
【0049】
これにより、G1像は、第1の格子21からz方向下流への距離に依らず、常に第1の格子21の自己像となる。G1像は、X線焦点11aからz方向下流への距離に比例して拡大される。
【0050】
第2の格子22の格子ピッチp2は、前述のように、第2の格子22の格子パターンが第2の格子22の位置におけるG1像に一致するように設定されている。具体的には、第2の格子22の格子ピッチp2は、第1の格子21の格子ピッチp1、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L1、第1の格子21と第2の格子22との間の距離L2と、下式(1)をほぼ満たすように設定されている。
【0051】
【数1】
【0052】
G1像は、被検体HでX線に位相変化が生じて屈折することにより変調される。この変調量には、被検体HでのX線の屈折角φ(x)が反映される。同図には、被検体HでのX線の位相変化を表す位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示し、符号X2は、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。
【0053】
位相シフト分布Φ(x)は、X線の波長をλ、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。
【0054】
【数2】
【0055】
上記屈折角φ(x)は、位相シフト分布Φ(x)と、下式(3)の関係にある。
【0056】
【数3】
【0057】
第2の格子22の位置において、X線は、屈折角φ(x)に応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φ(x)が微小であることに基づいて、近似的に下式(4)で表される。
【0058】
【数4】
【0059】
このように、変位量Δxは、位相シフト分布Φ(x)の微分値に比例する。したがって、変位量Δxを後述する縞走査により検出することにより、位相シフト分布Φ(x)の微分値が得られ、位相微分画像が生成される。
【0060】
縞走査は、格子ピッチp2をM個に分割した値(p2/M)を走査ピッチとし、走査機構23により、この走査ピッチで第2の格子22を並進移動させ、第2の格子22を並進移動させるたびに、X線源11からX線を放射してG2像をX線画像検出器13により撮影することにより行われる。Mは3以上の整数であり、例えば、M=5であることが好ましい。
【0061】
上式(1)を僅かに満たさない場合や、第1の格子21と第2の格子22との間にz方向周りの回転や、xy平面に対する傾斜が僅かに生じている場合には、G2像にはモアレ縞が生じる。このモアレ縞は、第2の格子22の並進移動に伴って移動し、x方向への移動距離が格子ピッチp2に達すると元のモアレ縞に一致する。このモアレ縞の移動を確認することで、第2の格子22の並進移動量を検証することができる。
【0062】
上記縞走査により、X線画像検出器13の各画素部30について、M個の画素値が得られる。図4に示すように、M個の画素値Ikは、第2の格子22の走査位置kに対して周期的に変化する。走査位置kは、第2の格子22を一周期分並進移動させた場合の走査ピッチ(p2/M)ごとの各位置である。走査位置kに対する画素値Ikの変化を表す信号を強度変調信号と呼ぶ。
【0063】
同図中の破線は、被検体Hを配置しない状態で得られる強度変調信号を示している。これに対して、実線は、被検体Hを配置した状態で、被検体Hにより位相ズレ量ψ(x)が生じた強度変調信号を示している。この位相ズレ量ψ(x)は、上記変位量Δxと下式(5)の関係にある。
【0064】
【数5】
【0065】
したがって、各画素部30について、縞走査で得られるM個の画素値Ikに基づき、強度変調信号の位相ズレ量ψ(x)を求めることにより、位相微分画像が得られる。
【0066】
次に、位相ズレ量ψ(x)の算出方法について説明する。強度変調信号は、一般に下式(6)で表される。
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、A0は入射X線の平均強度を表し、Anは強度変調信号の振幅を表す。nは正の整数、iは虚数単位である。なお、図4に示すように、強度変調信号が正弦波を描く場合には、n=1である。
【0069】
本実施形態では、走査ピッチ(p2/M)が一定であるため、下式(7)が成立する。
【0070】
【数7】
【0071】
上式(7)を上式(6)に適用すると、位相ズレ量ψ(x)は、下式(8)で表される。
【0072】
【数8】
【0073】
ここで、arg[…]は、複素数の偏角を抽出する関数である。また、位相ズレ量ψ(x)は、逆正接関数を用いて下式(9)のように表すことも可能である。
【0074】
【数9】
【0075】
複素数の偏角は、値域が−πから+πの範囲であるため、上式(8)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−πから+πの範囲に畳み込まれた(ラップされた)値を取る。これに対して、逆正接関数は、通常、値域が−π/2から+π/2の範囲であるため、上式(9)に基づいて位相ズレ量ψ(x)を算出した場合には、位相ズレ量ψ(x)は、−π/2から+π/2の範囲に畳み込まれた値を取る。なお、上式(9)において、逆正接関数内の分母及び分子の正負を判別することにより、値域を−πから+πとすることができるため、−πから+πの範囲で位相ズレ量ψ(x)を算出することも可能である。
【0076】
本実施形態では、各画素部30について算出された位相ズレ量ψ(x)を画素値とするデータを位相微分画像という。なお、位相ズレ量ψ(x)に定数を乗じたり加算したりしたデータで表される画像を位相微分画像としてもよい。以下、位相微分画像の画素値は、幅αを有する所定の値域(例えば0からαの範囲)にラップされているとする。
【0077】
図5に示すように、画像処理部15は、位相微分画像生成部40、アンラップ処理部41、オフセット画像記憶部42、小領域サイズ決定部43、統計演算処理部44、補正処理部45、オフセット処理部46、位相コントラスト画像生成部47等を備える。
【0078】
位相微分画像生成部40は、プレ撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(プレ撮影画像データ)51を用い、上式(8)または上式(9)に基づいて演算を行うことにより、位相微分画像を生成する。同様に、位相微分画像生成部40は、本撮影の縞走査でX線画像検出器13により得られるM枚分の画像データ(本撮影画像データ)52に基づいて位相微分画像を生成する。
【0079】
アンラップ処理部41は、位相微分画像生成部40から入力される位相微分画像にアンラップ処理を施す。プレ撮影時には、プレ撮影画像データ51に基づいて生成された位相微分画像が位相微分画像生成部40からアンラップ処理部41に入力される。アンラップ処理部41は、プレ撮影画像データ51から生成された位相微分画像にアンラップ処理を施すと、これをオフセット画像として、オフセット画像記憶部42に記憶させる。なお、オフセット画像記憶部42は、新たにプレ撮影を行って新たなオフセット画像が入力された場合には、既に記憶されているオフセット画像を消去した後、新たに入力されたオフセット画像を記憶する。
【0080】
また、アンラップ処理部41は、本撮影時には、本撮影画像データ52に基づいて生成された位相微分画像にアンラップ処理を施し、小領域サイズ決定部43に入力する。
【0081】
図6に示すように、アンラップ処理部41は、例えば、位相微分画像61の角部に位置する画素に起点SP1を設定し、起点SP1から経路WR1に沿ってアンラップ処理を行った後、起点SP1と、これに隣接する起点SP2とのアンラップ処理を行い、起点SP2から経路WR2に沿ってアンラップ処理を行うという処理を、起点SPn及び経路WRnを変更しながら順に繰り返す。
【0082】
アンラップ処理は、前述のように位相微分画像の画素値が所定の値域にラップされていることにより大きく変化(いわゆる位相飛び)する点を不連続点DPとして検出し、検出した不連続点DP以降の経路WRn上の画素値に該値域の幅αを加算または減算することで不連続点DPをなくし、画素値の変化をほぼ連続化する処理である。不連続点DPの検出は、画素値の変化量が所定量(例えば、α/2)以上である箇所を求めることにより行われる。図7に示すように、位相微分画像にアンラップ処理を施すと、経路WRn上に、位相飛びによる不連続点DPだけが検出された場合には、画素値の変化は正常に連続化される。
【0083】
一方、図8に示すように、経路WRn上に、位相飛びによる不連続点DPだけでなく、ノイズ等による不連続点Errが存在すると、アンラップ処理部41は、位相飛びによる不連続点DPとノイズ等による不連続点Errとを識別することができず、不連続点Errに対しても値域の幅αを加算または減算することがある。この場合、アンラップ処理後位相微分画像には、不連続点Errで幅αのギャップが生じてしまう。このギャップがアンラップエラーである。
【0084】
なお、ノイズ等による不連続点Errが1点のデータだけで構成される場合には、結果的には正しくアンラップ処理される。これは、不連続点Errと直前のデータ点との差が不連続点を検出するための所定量を超え、かつ、不連続点Errと次のデータ点との差も所定量を超えるため、αを減算(加算)するアンラップ処理とαを加算(減算)するアンラップ処理が行われ、不連続点Errにおけるアンラップ処理は相殺されるからである。このため、図8に示す不連続点Errは、複数のデータ点からなる。例えば、不連続点Errが、データ点Err1,Err2の2点からなり、データ点Err1と直前のデータ点との差が所定量を超え、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差が所定量を超えないとする。この場合、データ点Err1と直前のデータ点との差を検出してアンラップ処理が行われるが、データ点Err1とデータ点Err2の差、及びデータ点Err2と次のデータ点との差はアンラップ処理が必要な箇所としては検出されないので、結果的にデータ点Err1と直前のデータ点との差を検出して行われるアンラップ処理がアンラップエラーとして残る。
【0085】
プレ撮影は、前述のように被検体Hがない状態で行われる撮影であるから、プレ撮影画像データ51及びプレ撮影画像データ51から生成される位相微分画像には、位相飛びによる不連続点DP以外の不連続点Errは基本的に発生しない。このため、プレ撮影時に生成される位相微分画像にアンラップ処理を施してもアンラップエラーは生じない。
【0086】
一方、本撮影時に得られる位相微分画像は、被検体Hが写し出された本撮影画像データ51に基づいて生成されるので、位相微分画像にアンラップ処理を施すと、撮影した被検体Hによってはアンラップエラーが生じることがある。例えば、図9に示すように、被写体Hに、X線吸収能が高いためにコントラストが低くノイズが生じやすい骨部66と、X線撮影装置10による撮影の主要な関心領域である軟部組織67(軟骨や関節液等)があるとする。骨部66はコントラストが低く、アンラップエラーが生じやすいので、本撮影画像データ52から直接生成された位相微分画像においては、骨部66を通る経路WRnに沿ってアンラップエラーによる筋状のノイズ67が発生することがある。破線で示す領域68のように、ノイズ67が軟部組織67に重畳される箇所では、関心領域である軟部組織67の観察が阻害される。
【0087】
上述のように発生するアンラップエラーの補正は、小領域サイズ決定部43、統計演算処理部44、及び補正処理部45によって行われる。
【0088】
小領域サイズ決定部43は、統計演算処理部44で行う統計演算処理及び補正処理の処理単位(以下、小領域という)のサイズを決定する。具体的には、図10に示すように、小領域サイズ決定部43は、アンラップ処理部41からアンラップ処理済みの位相微分画像が入力されると、まず、所定の領域EA,EB,EC,EDの画素値を抽出する。
【0089】
所定の領域EA,EB,EC,EDは、サイズ及び位置が各々予め定められている。各領域EA,EB,EC,EDのサイズは、例えば、いずれも位相微分画像61の横幅W及び縦幅(高さ)Hの10%(0.1W×0.1Hの大きさ)である。また、領域EA,EB,EC,EDは、小領域のサイズを精度良く決定することができるように互いにできるだけ離れた位置に定められる。例えば、領域EA,EB,EC,EDは、位相微分画像61の左上隅,右上隅,左下隅,右下隅に各々定められる。
【0090】
次いで、小領域サイズ決定部43は、各領域EA,EB,EC,ED毎に、抽出した画素値の平均値μA,μB,μC,μDを算出し、これらの各平均値μA,μB,μC,μDに基づいて、位相微分画像61に重畳されたオフセット等に起因する横方向(Wの方向),縦方向(Hの方向),斜め方向(DL1及びDL2の各方向)の最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出する。
【0091】
横方向の最大変化量NWを算出する場合、まず、領域EAから領域EBへの変化量を表すNAB=|μA−μB|を算出し、領域ECから領域EDへの変化量を表すNCD=|μC−μD|を算出する。そして、NABとNCDのうち大きい方の値を、横方向の最大変化量NWとする。
【0092】
同様に、縦方向の最大変化量NHを算出する場合、領域EAから領域ECへの変化量を表すNAC=|μA−μC|を算出し、領域EBから領域EDへの変化量を表すNBD=|μB−μD|を算出する。そして、これらのうち大きい方の値を、縦方向の最大変化量NHとする。また、斜め方向DL1,DL2への最大変化量NDL1,NDL2は、それぞれ|μA−μD|,|μB−μC|によって算出する。
【0093】
小領域サイズ決定部43は、こうして算出した各方向の最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2に基づき、小領域内における大局的な画素値の変化量がα(アンラップ前の位相微分画像の値域に相当する値)を超えないように、小領域のサイズを決定する。具体的には、小領域サイズ決定部43は、小領域の横幅を決定するときに、算出した各方向の最大変化量NW,NDL1,NDL2に基づいて、第1横基準長,第2横基準長,第3横基準長の3種の長さを決定する。
【0094】
第1横基準長は、α(W/NW)であり、画素値の横方向への大局的な変化量がαに一致する長さである。第2横基準長は、対角方向DL1に沿った長さα(DL1/NDL1)を位相微分画像61の横辺に射影することにより算出され、位相微分画像61が正方形の場合にはα(DL1/NDL1)×cos45°である。第2横基準長は、対角方向DL1への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその横方向への長さである。同様に、第3横基準長は、対角方向DL2に沿った長さα(DL2/NDL2)を位相微分画像61の横辺に射影することにより算出される。第3横基準長は、対角方向DL2への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその横方向への長さである。
【0095】
小領域サイズ決定部43は、第1横基準長,第2横基準長,第3横基準長のうちから最も短い横基準長以下で、かつ、位相微分画像61の横幅Wを整数分割する長さを求め、これを小領域の横幅として決定する。この横幅を有する小領域内では、横方向への大局的な画素値の変化量がα以下に抑えられる。
【0096】
また、小領域サイズ決定部43は、同様に、最大変化量NH,NDL1,NDL2に基づいて、第1縦基準長,第2縦基準長,第3縦基準長を算出することにより、小領域の縦幅を決定する。
【0097】
第1縦基準長は、α(W/NH)であり、画素値の縦方向への大局的な変化量がαに一致する長さである。第2縦基準長は、対角方向DL1に沿った長さα(DL1/NDL1)を位相微分画像61の縦辺に射影することにより算出され、位相微分画像61が正方形の場合にはα(DL1/NDL1)×sin45°である。第2横基準長は、対角方向DL1への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその縦方向への長さである。同様に、第3横基準長は、対角方向DL2に沿った長さα(DL2/NDL2)を位相微分画像61の縦辺に射影することにより算出される。第3横基準長は、対角方向DL2への画素値の大局的な変化がαに一致する場合のその縦方向への長さである。
【0098】
小領域サイズ決定部43は、第1縦基準長,第2縦基準長,第3縦基準長のうちから最も短い縦基準長以下であり、かつ、位相微分画像61の縦幅Hを整数分割する長さを求め、これを小領域の縦幅として決定する。この縦幅を有する小領域内では、縦方向の大局的な画素値の変化量がα以下に抑えられる。
【0099】
統計演算処理部44は、図11に示すように、小領域サイズ決定部43により決定された横幅FW及び縦幅FHを有する小領域71により位相微分画像61を分割し、各小領域71に以下の統計演算処理を施す。この統計演算処理は、例えば、矢印で示す順に行う。なお、図11では、小領域サイズ決定部43により、横幅FWがW/4、縦幅FHがH/5と決定された例を示している。
【0100】
統計演算処理部44は、まず、小領域71内について画素値ψの頻度分布を調べ、最頻値ψmを求める。例えば、小領域71内の画素値ψの頻度分布をヒストグラム化すると、図12に示すように、ほぼαの広がり有する複数の小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・が現れる。この場合、最頻値ψmは、小分布P0のほぼ平均値である。
【0101】
小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・のうち、最頻値ψmを含む小分布P0は、実質的にアンラップエラーによるギャップがなく、正常な画素値を示す画素が属している。これは、小領域71内での画素値の変化量はほぼαの範囲内であり、小領域71内でのアンラップエラーの発生頻度は低く、正常な画素が大半を占めるためである。
【0102】
このため、小分布P0以外の小分布P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、アンラップエラーに起因した画素値が大半を占める。これらの小分布P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、小分布ピークP0を基準として概ね正負対称に生じる。これは、アンラップエラーの原因となるノイズがランダムであり、アンラップエラーがほぼ正負同等の確率で生じるためである。このため、各小分布P0,P1a,P1b,P2a,P2b,P3a,P3b,・・・は、全体として概ね二項分布となる。
【0103】
補正処理部45は、算出した最頻値ψmを基準として、小領域71内の画素値の補正を行う。例えば、最頻値ψmの画素値を基準値(0)として、−α/2以上+α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、実質的にアンラップエラーがない正常画素として分類する。また、画素値が+α/2以上+3α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、アンラップエラーによってαが1回余分に加算された異常画素として分類する。同様に、画素値が−3α/2以上−α/2未満の範囲に属する画素値を有する画素を、アンラップエラーによってαが1回余分に減算された異常画素として分類する。その他の範囲についても同様である。
【0104】
頻度ヒストグラムを用いて説明したが、上述の各画素の分類は、数式に基づくアルゴリズムを用いて行う。具体的には、補正処理部45は、小領域71内の各画素の画素値ψ(x,y)と最頻値ψmとの差分Δ(x,y)=ψ(x,y)−ψmを算出し、差分Δ(x,y)が下式(10)を満たす整数nを算出する。そして、算出した整数nを用いて、下式(11)に示すように、元の画素値ψ(x,y)を新たな画素値ψ’(x,y)に置き換える。
【0105】
【数10】
【0106】
【数11】
【0107】
この式(10)及び式(11)に基づく画素値の補正処理により、小領域71内でアンラップエラーが補正される。ここで、“x,y”は、位相微分画像61内における各画素の座標を表す。また、式(10)では、差分Δの下限を、等号を含む不等号(≦)で表し、上限を、等号を含まない不等号(<)で表しているが、整数nが一意に決定される範囲を規定するように不等号が表されていればよく、等号の位置は任意である。すなわち、式(10)を次のように変形してもよい(nα−α/2<Δ(x,y)≦nα+α/2 ・・・(10’))。
【0108】
上述の式(10)及び式(11)に基づく画素値の補正処理を、頻度ヒストグラムに対応付ければ、小分布P0に属する画素ではn=0であるため、実質的に画素値の置換えは行われない。一方、小分布P1aに属する画素ではn=1であり、画素値はαだけ減算される。また、小分布P1bに属する画素ではn=−1であり、画素値はαだけ加算される。同様に、小分布P2aに属する画素ではn=+2であり、画素値は2αだけ減算され、ピークP2bに属する画素ではn=−2であり、画素値は2αだけ加算される。その他の各小分布についても同様である。
【0109】
前述のように、小分布P0に属する画素は、アンラップエラーがない正常画素が大半を占めるため画素値の補正は不要である。一方、小分布P1a,P1bに属する画素はアンラップエラーによりαが1回だけ余分に加算または減算された異常画素が大半を占めるため、式(10)及び式(11)にしたがって逆にαを減算または加算することにより、アンラップエラーが補正された正常画素となる。これは図13に示すように、小分布P1a,P1bを、中心位置が最頻値ψmとなるように移動させることに相当する。小分布P2a,P2b及びその他の各小分布に属する画素についても同様である。
【0110】
小領域71のサイズが大きすぎる場合には、小分布P0,P1a,P1b,・・・のそれぞれは分布が広がり、各々の裾が繋がってしまう等、各小分布が区別し難くなる。このように小領域71のサイズが大きすぎる場合には、上述の式(10)及び式(11)による補正処理を行うと、小分布P0と小分布P1aの重なり部分では、本来アンラップエラーがない小分布P0に属する正常画素に対して、統計演算処理部44により補正処理が行われてしまうことがある。一方、小領域71のサイズが小さすぎる場合には、小分布P0,P1a,P1b,・・・の各分布が狭まるが、データ数が少ないため、最頻値ψmの算出精度が悪化する。これにともなって、統計演算処理部44による画素値の補正処理の精度も悪化する。
【0111】
オフセット処理部46は、上述のように補正処理部45によってアンラップエラーが補正された位相微分画像に対してオフセット補正を施す。オフセット補正は、アンラップエラーが補正された位相微分画像からオフセット画像を減算することにより、位相微分画像にバックグラウンドとして重畳されたノイズを減算する補正処理である。ここで、オフセットとして除去されるノイズ成分は、例えば、第1の格子21や第2の格子22の歪や僅かな位置ずれ(回転や傾斜を含む)や、これらの位置ずれによって生じるモアレ等によるものである。
【0112】
位相コントラスト画像生成部47は、アンラップエラーが補正され、かつ、オフセットが除去された位相微分画像をx方向に沿って積分処理することにより、位相シフト分布を表す位相コントラスト画像を生成する。オフセット補正後の位相微分画像と位相コントラスト画像は、画像記録部16に記録される。
【0113】
以下、X線撮影装置10の作用を説明する。X線撮影装置10を用いて被検体Hの撮影を行う場合、図14に示すように、被検体Hの撮影の前に、プレ撮影を行う。操作部18aを用いて撮影モードとしてプレ撮影モードが選択されると(ステップS10)、撮影指示の入力待機状態となる(ステップS11)。操作部18aを用いて撮影指示が入力されると、走査機構23により第2の格子22が所定の走査ピッチずつ並進移動されながら、各走査位置kにおいて、X線源11によるX線照射及びX線画像検出器13によるG2像の検出が行われる(ステップS12)。この縞走査の結果、M枚のプレ撮影画像データ51が生成され、メモリ14に格納される。
【0114】
プレ撮影画像データ51は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によってプレ撮影画像データ51から位相微分画像が生成される(ステップS13)。この位相微分画像は、アンラップ処理部41でアンラップ処理が施された後(ステップS14)、オフセット画像としてオフセット画像記憶部42に記憶される。プレ撮影動作は、以上で終了する。なお、このプレ撮影は、X線撮影装置10の立ち上げ時等に被検体Hを配置しない状態で少なくとも一度行われればよく、本撮影の前に毎回行われる必要はない。
【0115】
次に、被検体Hを配置し、本撮影を行う。本撮影を行う場合、図15に示すように、操作部18aを用いて撮影モードとして本撮影モードが選択される(ステップS20)。本撮影モードが選択されると、撮影指示の待受状態となる(ステップS21)。操作部18aを用いて撮影指示がなされると、縞走査が行われ(ステップS22)、メモリ14にM枚の本撮影画像データ52が格納される。
【0116】
その後、本撮影画像データ52は、画像処理部15に読み出される。画像処理部15内では、位相微分画像生成部40によって本撮影画像データ52から第1位相微分画像K1が生成され(ステップS23)、アンラップ処理部41によってアンラップ処理が施される(ステップS24)、小領域サイズ決定部43に入力される。
【0117】
小領域サイズ決定部43では、統計演算処理部44による統計演算処理及び補正処理の処理単位である小領域の最適なサイズを決定する(ステップS25)。次に、統計演算処理部44において、小領域サイズ決定部43で算出された小領域毎に位相微分画像を区分けし、各小領域で画素値の最頻値ψmを算出する(ステップS26)。その後、小領域内の各画素の画素値ψ(x,y)と最頻値ψmの差分Δ(x,y)を算出し(ステップS27)、算出した差分Δ(x,y)が前述の式(10)を満たす整数nを算出する(ステップS28)。そして、前述の式(11)に基づいて算出した整数nに応じた画素値の補正処理を行う(ステップS29)。
【0118】
上述の各種処理のうち、統計演算処理部44による最頻値ψmの算出(S26)、補正処理部45による差分Δ(x,y)の算出(S27)及び画素値の補正処理(S29)は全ての小領域について行う(ステップS30)。これにより、アンラップ済み位相微分画像に対するアンラップエラーの補正処理が完了する。
【0119】
統計演算処理部44及び補正処理部45による各種処理(S26〜S29)が全ての小領域について完了し、アンラップエラーの補正処理が完了すると、アンラップエラーの補正処理済み位相微分画像は、オフセット処理部46に入力され、プレ撮影によって予め記憶されたオフセット画像を減算するオフセット処理が施される(ステップS31)。こうしてオフセット処理された位相微分画像は、画像記録部16に記録される。
【0120】
同時に、位相コントラスト画像生成部47は、オフセット処理された位相微分画像に積分処理を施すことにより、位相コントラスト画像を生成し(ステップS32)、画像記録部16に記録する。その後、オフセット処理後の位相微分画像や位相コントラスト画像はモニタ18bに表示される(ステップS33)。
【0121】
以上のように、X線撮影装置10は、アンラップエラーを補正する。このため、X線撮影装置10は、アンラップエラーがない位相微分画像及び位相コントラスト画像を生成し、表示することができる。
【0122】
また、X線撮影装置10は、アンラップエラーの補正をする時に、位相微分画像を小領域に区切り、小領域毎に最頻値ψmを算出し、アンラップエラーの補正処理を行う。このため、アンラップ処理自体は、アンラップエラーが発生しやすい骨部66の判別や、実際のアンラップエラーの有無等を考慮することなく、所定の経路に沿って行うことができる。X線撮影装置10によれば、骨部66等を判別し、迂回しながらアンラップ処理を行う等、そもそもアンラップエラーを発生させないようにするアンラップ処理を行う場合と比較して、容易にアンラップエラーがない位相微分画像を得られる。また、撮影部位等によらず、アンラップエラーを好適に補正することができる。
【0123】
さらに、X線撮影装置10が行うアンラップエラーの補正処理には、補正処理の対象であるアンラップ処理後の位相微分画像以外のデータを必要としない。このため、X線撮影装置10が行うアンラップエラーの補正処理は、容易かつ正確である。
【0124】
なお、上述の実施形態では、小領域サイズ決定部43によって小領域のサイズを決定するときに、まず、位相微分画像61の四隅に定められた所定の領域EA,EB,EC,EDの平均値μA,μB,μC,μDを算出する例を説明したが、これらの領域EA,EB,EC,EDの配置箇所は任意である。例えば、図16に示すように、位相微分画像61の左辺中央,上辺中央,下辺中央,右辺中央に、それぞれ領域EA,EB,EC,EDを定めても良い。
【0125】
この場合、オフセット等による横方向の画素値の最大変化量NWは、NW=|μA−μD|、縦方向の最大変化量NHは、NH=|μB−μC|によって求めれば良い。また、対角方向DL1の最大変化量NDL1は、|μA−μB|と|μD−μC|のうち大きい方の2倍の値とすれば良い。|μA−μB|と|μD−μC|の平均値の2倍を最大変化量NDL1としても良い。対角方向DL2の最大変化量NDL2についても同様である。また、この他の位置に領域EA,EB,EC,EDを定める場合もここで説明した変形例や上述の実施形態とほぼ同様の計算によって最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出することができる。但し、4箇所の領域EA,EB,EC,EDに基づいて、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出する場合には、上述の実施形態のように、これらの所定領域は位相微分画像61の四隅に定めることが好ましい。これは、各所定領域間距離が最も長くとれ、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2の算出精度が良いからである。
【0126】
さらに、上述の実施形態では、領域EA,EB,EC,EDのサイズを0.1W×0.1Hとしているが、領域EA,EB,EC,EDのサイズはこれに限らず、任意である。但し、領域EA,EB,EC,EDのサイズが大きすぎたり、小さすぎたりする場合、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2の検出精度が悪くなるので、上述の実施形態のように、領域EA,EB,EC,EDのサイズは、0.1W×0.1H程度であることが好ましい。
【0127】
また、上述の実施形態では、小領域のサイズを決定するために、4つの領域が領域EA,EB,EC,EDをもちいているが、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出することができれば、領域の個数は任意である。例えば、位相微分画像61の中央に領域EEを設け、この領域EEの平均値μEをも加味して、最大変化量NW,NH,NDL1,NDL2を算出しても良い。
【0128】
また、上述の実施形態では、位相微分画像61を小領域71に区分けした後、各小領域71に対してアンラップエラーの補正処理を、図11に示す矢印の順に行っているが、この補正処理を行う順序は任意である。また、隣接した小領域71を順に処理して行く必要もない。
【0129】
また、上述の実施形態では、小領域によって位相微分画像61を縦横に整数分割し、小領域によって位相微分画像を過不足なく区分けすることができるように、小領域のサイズを決定する例を説明したが、これに限らない。例えば、図17に示すように、隣接する小領域の縦横の一部を重複させつつ、かつ、位相微分画像61の全体で余りなくアンラップエラーの補正をするようにすることができるように各小領域の位置が定められることがより好ましい。具体的には、統計演算処理部44は、小領域71aの次にアンラップエラーの補正を行う小領域71bの位置を、小領域71aの下側の一部分と重複するようにを決める。同様に、小領域71cの位置も、小領域71bの下側の一部分と重複するように決める。また、小領域71aを初端とする列(位相微分画像61の左端部分の列。)の隣の列では、小領域71kのように、第1列で各小領域71a,71b,71c,・・・と左側の一部分が重複するように、小領域の位置を決定する。このように、小領域の一部が重複するように各小領域の位置を決定し、各小領域のアンラップエラーの補正を順に行うと、重複部分では既にアンラップエラーが補正されているために、アンラップエラーが多く含まれる場合であっても、少分布P0のピーク値が他の少分布P1a,P1b等と比べて有意に大きくなる。したがって、最頻値ψmをより精度良く検出でき、アンラップエラーの補正の精度も向上する。なお、上述の実施形態のように各小領域に重複がない場合には、小領域の一部を重複させる場合よりも、アンラップエラーの補正処理に要する時間が短い。
【0130】
なお、このように、小領域を重複させながらアンラップエラーの補正を行う場合も、各小領域のサイズは、上述の実施形態と同様に小領域サイズ決定部43で算出する大きさにすれば良い。但し、各小領域内での画素値の大局的な変化がα以下であればよいので、小領域のサイズは、小領域サイズ決定部43で算出されるサイズ以下であれば良い。但し、前述のように、小領域のサイズが小さすぎる場合には、データの少ないことによって、補正処理部45による補正処理の精度が悪化するので、各小領域の一部を重複させる場合にも、小領域のサイズは概ね上述の実施形態と同様のサイズにすることが好ましい。
【0131】
なお、上述のように隣接する小領域の一部を重複させる場合、各小領域の重複量は任意である。重複量が多いほど最頻値ψmの検出精度は向上する。但し、重複量が多いほどアンラップエラーの補正処理に要する時間が長くなる。したがって、仕様等により、モニタ18bに位相微分画像や位相コントラスト画像を表示するまでの時間の上限が予め設定されている場合には、アンラップエラーの補正処理及びその後の各処理に要する時間を逆算し、小領域の重複量や小領域のサイズを最適に調節しても良い。また、最頻値ψmの検出精度とアンラップエラーの補正処理に要する時間を考慮し、最適な重複量を予め定めておいても良い。
【0132】
なお、上述の実施形態では、小領域サイズ決定部43において、実際に位相微分画像に重畳されたオフセットの態様に応じて最適な小領域71のサイズを決定する例を説明したが、小領域71は位相微分画像に対して予め固定的に設定されていても良い。これはオフセットの具体的態様が撮影毎にほぼ変化しない場合に有効であり、小領域71のサイズを算出しない分、迅速にアンラップエラーの補正処理を行うことができる。小領域71のサイズを固定的に設定しておく場合には、X線撮影装置10のメンテナンスやキャリブレーション時等に、上述の実施形態と同様に小領域71のサイズを決定しておけば良い。なお、上述の実施形態のように小領域71のサイズを決定する態様は、オフセットの態様が不意に変化しても、常に正確なアンラップエラーの補正処理を行うことができるという利点がある。
【0133】
なお、上述の実施形態では、小領域71が2次元の範囲である例を説明したが、小領域71は1次元の範囲(画素の列または行、もしくは画素の行または列の一部分)であっても良い。
【0134】
なお、上述の実施形態では、小領域71の統計演算処理(最頻値ψmの算出)及び画素値の補正を各小領域について順に行う例を説明したが、全ての小領域71について統計演算処理を行った後に各小領域71の画素値の補正を行っても良い。
【0135】
なお、上述の実施形態では、小領域71に対してアンラップエラーの補正処理を行う画素値の基準値として、統計演算処理部44により小領域71内の画素値の最頻値ψmを求めているが、最頻値ψm以外の値を基準値としても良い。例えば、小領域71の画素値の平均値や中央値を基準値としても良い。
【0136】
なお、上述の実施形態では、アンラップエラーの補正を終えた後に、オフセット処理を行う態様を例に説明したが、オフセット処理を行った後にアンラップエラーの補正を行なっても良い。この場合、例えば、図18に示すように、アンラップ処理部41でアンラップ処理が施された位相微分画像はオフセット処理部46に入力されるようにする。そして、オフセット処理部46でオフセット処理が施された位相微分画像が小領域サイズ決定部43に入力し、適切な小領域のサイズを決定した後、統計演算処理部44で統計演算処理を、補正処理部45でアンラップエラーの補正処理を順に行うようにすれば良い。
【0137】
なお、上述の実施形態では、位相微分画像と位相コントラスト画像を生成する例を説明したが、プレ撮影画像データ51や本撮影画像データ52から吸収画像、吸収画像の微分画像、または小角散乱画像を生成しても良い。吸収画像は、強度変調信号の平均強度を画像化することにより生成される。吸収画像の微分画像は、吸収画像を所定方向(例えば、x方向)に微分処理することにより生成される。小角散乱画像は、強度変調信号の振幅を画像化することにより生成される。
【0138】
さらに、X線画像検出器13、第1の格子21、第2の格子22に欠陥が生じたり、ゴミなどが付着したりした場合には、所定の画素部30の画素値が常に高く、または低くなることがある。このような画素欠陥が生じた領域は、強度変調信号の平均強度、振幅等が異常値を示すため、アンラップエラーが生じやすい領域となる。このようにアンラップエラーが画素欠陥に起因する場合にも本発明は有効であり、アンラップエラーを補正することができる。
【0139】
上述の画素欠陥に起因するアンラップエラーは、プレ撮影時にも発生する。このため、上述の実施形態では、本撮影時にだけアンラップエラーの補正処理を行う例を説明したが、画素欠陥がある場合に備えて、プレ撮影時にもアンラップエラーの補正処理を行うようにすることが好ましい。プレ撮影時にアンラップエラーを補正する態様は、上述の実施形態で説明した本撮影の場合と同様である。
【0140】
なお、上記実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0141】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を格子線に直交する方向(x方向)に移動させているが、本出願人により特願2011−097090号として出願されているように、第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向(xy平面内でx方向及びy方向に直交しない方向)に移動させてもよい。この移動方向は、xy平面内で、かつy方向以外であれば、いずれの方向であってもよい。この場合には、第2の格子22の移動のx方向成分に基づいて、走査位置kを設定すればよい。第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向に移動させることにより、縞走査の一周期分の走査に要するストローク(移動距離)が長くなるため、移動精度が向上するといった利点がある。
【0142】
また、上記実施形態では、縞走査時に第2の格子22を移動させているが、第2の格子22に代えて、第1の格子21を格子線に直交する方向または傾斜する方向に移動させてもよい。
【0143】
また、上記第実施形態では、X線源11から射出されるコーンビーム状のX線を射出するX線源11を用いているが、平行ビーム状のX線を射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p2=p1をほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0144】
また、上記実施形態では、X線源11から射出されたX線を第1の格子21に入射させており、X線源11は単一焦点であるが、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)を設けることにより、X焦点を分散化してもよい。これより、高出力のX線源を用いることが可能となり、X線量が向上するため、位相微分画像の画質が向上する。この場合、マルチスリットのピッチp0は、下式(12)を満たす必要がある。この場合、距離L1は、マルチスリットから第1の格子21までの距離を表す。
【0145】
【数12】
【0146】
また、上記実施形態では、第1の格子21が入射X線を幾何光学的に投影するように構成しているが、WO2004/058070号公報等で知られているように、第1の格子21をタルボ効果が生じる構成としてもよい。第1の格子21でタルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、上記マルチスリットを用いればよい。
【0147】
第1の格子21でタルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)が、第1の格子21からz方向下流にタルボ距離Zmだけ離れた位置に生じるため、第1の格子21から第2の格子22までの距離L2をタルボ距離Zmとする必要がある。
【0148】
タルボ距離Zmは、第1の格子21の構成とX線のビーム形状とに依存する。第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(13)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0149】
【数13】
【0150】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(14)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0151】
【数14】
【0152】
また、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(15)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0153】
【数15】
【0154】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(16)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0155】
【数16】
【0156】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(17)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0157】
【数17】
【0158】
そして、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zmは、下式(18)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0159】
【数18】
【0160】
また、上記実施形態では、格子部12に第1及び第2の格子21,22の2つの格子を設けているが、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることも可能である。
【0161】
例えば、特開平2009−133823号公報に記されたX線画像検出器を用いることにより、第2の格子22を省略し、第1の格子21のみとすることが可能である。このX線画像検出器は、X線を電荷に変換する変換層と、変換層において変換された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器であり、各画素の電荷収集電極が複数の線状電極群を備える。1つの線状電極群は、一定の周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続したものであり、他の線状電極群と互いに位相が異なるように配置されている。この線状電極群が第2の格子22として機能し、線状電極群が複数存在することにより、一度の撮影で位相の異なる複数のG2像の検出が行われる。したがって、この構成では、走査機構23を省略することが可能である。
【0162】
また、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法がある。この方法として、本出願人により特願2010−256241号として出願されている画素分割法がある。この画素分割法では、第1の格子21と第2の格子22とを、z方向の回りに僅かに回転させて、y方向に周期を有するモアレ縞をG2像に発生させる。X線画像検出器13により得られる単一の画像データを、該モアレ縞に対して互いに位相が異なる画素行(x方向に並ぶ画素)の群に分割し、分割された複数の画像データを、縞走査により互いに異なる複数のG2像に基づくものと見なして、上記縞走査法と同様な手順で位相微分画像を生成する。この画素分割法において、前述の強度変調信号は、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0163】
さらに、画素分割法と同様に、走査機構23を省略し、第1及び第2の格子21,22を介してX線画像検出器13により得られる単一の画像データに基づいて位相微分画像を生成する方法として、WO2010/050483号公報に記載されたフーリエ変換法が知られている。このフーリエ変換法は、上記単一の画像データに対してフーリエ変換を行うことによりフーリエスペクトルを取得し、このフーリエスペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトル(位相情報を担うスペクトル)を分離した後、逆フーリエ変換を行なうことにより位相微分画像を生成する方法である。なお、このフーリエ変換法において、前述の強度変調信号は、画素分割法の場合と同様に、単一の画像データに生じるモアレ縞の1周期分の画素値の強度変化として表される。
【0164】
なお、上述の実施形態では、位相微分画像に対してアンラップ処理を施したときに生じるアンラップエラーを補正する画像処理の態様を説明したが、本発明の画像処理方法の処理対象は位相微分画像に限らず、アンラップ処理が施された任意の画像であれば画素値の物理量が位相微分値でなくても良く、任意の画像に対して好適に用いることができる。
【0165】
本発明は、医療診断用の放射線撮影装置の他に、工業用の放射線撮影装置等に適用することが可能である。また、放射線は、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0166】
10 X線撮影装置
12 格子部
13 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
30 画素部
31 画素電極
33 ゲート走査線
35 信号線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、
前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、
前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
前記位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、
前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理部と、
前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算する補正処理部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記基準値は、前記小領域内の画素値の最頻値であることを特徴とする請求項1記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記アンラップ処理後の前記位相微分画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定部を備えることを特徴とする請求項1または2記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像内に定められた複数の所定領域の画素値の平均値に基づいて前記位相微分画像の画素値の最大変化量を算出し、前記最大変化量と前記位相微分画像のサイズの比率に基づいて前記小領域のサイズを決定することを特徴とする請求項3記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記複数の所定領域は、前記位相微分画像の四隅に定められていることを特徴とする請求項4記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像のサイズの比率に応じて、前記小領域内での画素値の大局的な変化がα以下となるように、前記小領域のサイズを決定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記小領域サイズ決定部は、前記平均値に基づいて前記位相微分画像の横方向,縦方向,及び対角方向の最大変化量を各々算出し、横方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の横幅を決定するとともに、縦方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の縦幅を決定することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記小領域は、前記位相微分画像の全体を過不足なく区分けするように位置が定められることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
前記小領域は、隣接する他の前記小領域と一部が重複するように定められることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記被検体がない状態で撮影して得られる位相微分画像をオフセット画像として記憶する記憶手段と、
前記アンラップ処理のエラーが補正された前記位相微分画像から、前記オフセット画像を減算するオフセット処理部と、
を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、
前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項12】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、
前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、
前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することを特徴とする請求項11記載の放射線撮影装置。
【請求項13】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることを特徴とする請求項12記載の放射線撮影装置。
【請求項14】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることを特徴とする請求項12記載の放射線撮影装置。
【請求項15】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することを特徴とする請求項11記載の放射線撮影装置。
【請求項16】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項17】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項18】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項19】
幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、
前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理ステップと、
前記前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出する整数n算出ステップと、
前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正ステップと、
を備えることを特徴とする画像処理方法。
【請求項20】
前記アンラップ処理が施された前記画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定小領域サイズ決定ステップを備えることを特徴とする請求項19記載の画像処理方法。
【請求項1】
放射線源から射出され、被検体を透過した放射線を検出して画像データを生成する放射線検出器と、
前記放射線源と前記放射線検出器との間に配置された格子部と、
前記放射線検出器により得られた画像データに基づいて、幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
前記位相微分画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理部と、
前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理部と、
前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出し、各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算する補正処理部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記基準値は、前記小領域内の画素値の最頻値であることを特徴とする請求項1記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記アンラップ処理後の前記位相微分画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定部を備えることを特徴とする請求項1または2記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像内に定められた複数の所定領域の画素値の平均値に基づいて前記位相微分画像の画素値の最大変化量を算出し、前記最大変化量と前記位相微分画像のサイズの比率に基づいて前記小領域のサイズを決定することを特徴とする請求項3記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記複数の所定領域は、前記位相微分画像の四隅に定められていることを特徴とする請求項4記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記小領域サイズ決定部は、前記位相微分画像のサイズの比率に応じて、前記小領域内での画素値の大局的な変化がα以下となるように、前記小領域のサイズを決定することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記小領域サイズ決定部は、前記平均値に基づいて前記位相微分画像の横方向,縦方向,及び対角方向の最大変化量を各々算出し、横方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の横幅を決定するとともに、縦方向の前記最大変化量と前記対角方向の最大変化量に基づいて、前記小領域の縦幅を決定することを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記小領域は、前記位相微分画像の全体を過不足なく区分けするように位置が定められることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
前記小領域は、隣接する他の前記小領域と一部が重複するように定められることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記被検体がない状態で撮影して得られる位相微分画像をオフセット画像として記憶する記憶手段と、
前記アンラップ処理のエラーが補正された前記位相微分画像から、前記オフセット画像を減算するオフセット処理部と、
を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記格子部は、放射線源からの放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子と有し、
前記放射線画像検出器は、前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項12】
前記格子部は、前記第1の格子または第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構を備え、
前記放射線画像検出器は、前記各走査位置で前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成し、
前記位相微分画像生成部は、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成することを特徴とする請求項11記載の放射線撮影装置。
【請求項13】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に直交する方向に移動させることを特徴とする請求項12記載の放射線撮影装置。
【請求項14】
前記走査機構は、前記第1の格子または第2の格子を、格子線に対して傾斜する方向に移動させることを特徴とする請求項12記載の放射線撮影装置。
【請求項15】
前記位相微分画像生成部は、前記放射線検出器により得られる単一の画像データに基づいて前記位相微分画像を生成することを特徴とする請求項11記載の放射線撮影装置。
【請求項16】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項17】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項18】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化するマルチスリットを備えることを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項19】
幅αを有する所定の値域に画素値が畳み込まれた画像にアンラップ処理を施すアンラップ処理ステップと、
前記アンラップ処理のエラーを補正する処理単位として前記アンラップ処理済みの前記位相微分画像内に定められる小領域について、画素値の統計演算により1つの基準値を求める統計演算処理ステップと、
前記前記基準値と各画素の画素値の差分Δがnα−α/2≦Δ<nα+α/2を満たす整数nを画素毎に算出する整数n算出ステップと、
前記整数nに応じて各画素の画素値から前記整数nと前記幅αの積を減算することにより、前記アンラップ処理のエラーを補正する補正ステップと、
を備えることを特徴とする画像処理方法。
【請求項20】
前記アンラップ処理が施された前記画像に基づいて、前記小領域のサイズを決定する小領域サイズ決定小領域サイズ決定ステップを備えることを特徴とする請求項19記載の画像処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−78464(P2013−78464A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219888(P2011−219888)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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