説明

放射線支援化学処理装置及び方法

放射線支援化学処理に有用な放射線に対し透明な壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路と、透明壁の第1面に対向する第2面によって少なくとも一部が画成され、放射線支援化学処理に有用な放射線を生成するよう構成されたガス放電チャンバー又はプラズマ・チャンバーとを有する放射線支援化学処理を行うための装置の開示である。関連する光触媒反応装置の作製方法が、とりわけ流体経路をウォッシュコートして光触媒材料を堆積させるステップであって、光触媒材料を非円形断面経路の第1部分に堆積させ、透明材料から成る壁の第1面の少なくとも一部を含む非円形断面経路の第2部分には堆積させず、又は第2部分から光触媒材料を除去することを含むステップを有している。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は2007年11月29日出願の「Devices and Methods for Radiation Assisted Chemical Processing(放射線支援化学処理装置及び方法)」と題する欧州特許出願第07301600.8号の優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は放射線支援化学処理装置及び方法に関し、特には放射線支援化学処理の効率を向上する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
放射線支援化学処理は、例えば、特定の部位の活性化、あるいは特定の化学結合の切断等、放射線が反応種に直接作用するプロセスを含んでいる。また、放射線支援化学処理は、放射線が光触媒物材料に作用し、再結合、滞留、又は光触媒材料の表面に移動し、反応性流体流の表面吸着種(例えば、吸着O、吸着HO、表面OH等)と反応して反応物に対し所望の反応を可能にする活性種(例えば、O2−、OH、H等)を生成する電子やホールを生成するプロセスも含んでいる。放射線支援化学処理は化学合成、水及び空気浄化、汚染対策等の用途に用いられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、放射線支援化学処理に有用な放射線に対し透明な壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路と、前記透明壁の第1面に対向する第2面によって少なくとも一部が画成され、前記放射線を生成するよう構成されたガス放電チャンバー又はプラズマ・チャンバーとを有して成る放射線支援化学処理装置を含んでいる。こうして、放射線源と光触媒反応領域との非常に密な結合が得られる。
【0005】
本発明は更に光触媒反応装置の作製方法を含んでいる。前記方法は断面の少なくとも一部が非円形を成し、光触媒に対する所望の放射線に対し透明な材料から成る壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路を用意するステップと、前記流体経路をウォッシュコートして光触媒材料を堆積させるステップであって、前記光触媒材料を前記非円形断面経路の第1部分に堆積させ、前記透明材料から成る壁の第1面の少なくとも一部を含む前記非円形断面経路の第2部分には堆積させず、又は第2部分から前記光触媒材料を除去することを含むステップとを有して成ることを特徴とする方法である。これにより、放射線が流体経路に効率良く入射でき、経路内の光触媒材料が配置された内表面に照射できる。
【0006】
本発明の更なる特徴および効果は以下に詳細に述べてあり、以下の説明によりその特徴および効果は当業者にとって明白であるか、または以下の説明、請求項、および添付図面に記載の本発明を実施することにより認識できる。
【0007】
本発明の概要及び以下に述べる本発明の実施の形態の詳細な説明は、クレームによって規定される本発明の本質および特徴を理解するための概要及び構成を説明するためのものである。添付図面は本発明の理解を深めるためのものであり、本明細書の一部を構成するものである。添付図面は本発明の実施の形態を示しており、その説明と共に、本発明の原理および動作を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の実施の形態の平面図。
【図2】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の別の実施の形態の平面図。
【図3】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の更に別の実施の形態の平面図。
【図4】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の実施の形態の断面図。
【図5】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の実施の形態の断面図。
【図6】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の実施の形態の断面図。
【図7】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の実施の形態の断面図。
【図8】光触媒化学処理のための本発明の他の実施の形態の断面図であって、図5の断面の一部に対応する拡大図。
【図9】本発明の放射線支援化学処理に有用な装置の他の実施の形態の断面図。
【図10】図9の断面の部分拡大図。
【図11】A〜Iは、本発明の装置構成に有用な各種構造体の形成方法における、特定のステップ及び/又は代替ステップにおける断面図。
【図12】A〜Dは、本発明の装置構成に有用な各種構造体の形成方法における、特定のステップ及び/又は代替ステップにおける断面図。
【図13】A〜Dは、本発明の装置構成に有用な各種構造体の別の形成方法、図12の変形、における特定のステップ及び/又は代替ステップにおける断面図。
【図14】ウォッシュコート光触媒材料の代わりに薄膜光触媒材料を用いた図8の実施の形態に似た光触媒化学処理のための本発明の他の実施の形態の断面図。
【図15】ウォッシュコート光触媒材料の代わりに薄膜光触媒材料を用いた図8の実施の形態に似た光触媒化学処理のための本発明の他の実施の形態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面の例を参照し、本発明の現時点における好ましい実施の形態について説明する。図において、同一又は同様の部品については、可能な限り同じ参照符号で示す。
【0010】
本発明を理解する上において、本発明との関連において有用な構造体の作製に役立つ方法の例を検討することが有益である。
【0011】
本発明を限定するものでなく、より良く理解するための1つの方法を図11に示す。図11A〜Iは、図11Dに示す第1チャンネル30の形態を成す1つのチャンネル・セットを有する第1ガラス構造体20、図11F又は11Iに示す2つの補完チャンネル・セットである、第1チャンネル30及び第2チャンネル40を有するガラス構造体22又は28、及び/又は図11G及び11Hに示す3又は4セットのチャンネルを有するガラス構造体24又は26のような、様々なガラス構造体を形成する方法における特定のステップ及び/又は代替ステップにおける断面図である。
【0012】
第1ガラス構造体20は、図11Aに示すように、供給タンク(図示せず)から2つの加熱回転ローラ72、74にガラス塊70を供給することにより形成できる。次いで、圧延された軟ガラスシート76が真空導管(図示せず)を有する移動モールド78上に繰り出される。シート76が硬化しないうちに真空形成することにより、軟ガラスシート76と比較して厚さが減少した図11に示す定形シート80を形成することができる。第2且つ直後のパスにおいて、図11Cに示すように、第2軟ガラスシート82を定形シート80上に配することができる。
図11Dに示すように、第2軟ガラスシート82が直ちに定形シート80の上面を閉じることにより、閉第1チャンネル30が形成され、中間ガラス構造体20が作製される。このように、第1チャンネル30は約5〜10秒という短時間のうちに作製され閉じられる。
【0013】
第1チャンネル30を有する中間構造体20をモールド78から外し、支持体84の上に裏返して配置することにより、本発明に特に有用なガラス構造体である、ガラス構造体22が形成される。次に、閉じられていない補完チャンネル40を第3軟ガラスシート86で覆うことにより、閉第2チャンネル40が形成され、第1チャンネル30及び第2チャンネル40を有する図11Fに示すガラス構造体22が作製される。ここで、第1チャンネル30と第2チャンネル40とは基本的に各チャンネルに沿ったすべての位置において定形シート80の縦の部分から成る共通壁を有していること、及び共通する概して平坦な体積中に存在している点で補完的である。
【0014】
図11E及び11Fに示すステップに代わる方法として、図11Bに示すような定形シート80と第1ガラス構造体20のようなガラス構造体が熱いうちに同時に形成するか又は先に形成したものを重ねて焼結することによりチャンネルを閉じることができる。形成されたチャンネルは真っ直ぐに位置合わせされていることが好ましく、図11Iのガラス構造体28が作製される。
【0015】
図11E及び11Fに示すステップに代わる方法として、図11Dに示す第1ガラス構造体20が熱いうちに別の同様の構造体に重ねるか、又は必要があれば、2つの部品を重ねて焼結することにより、図11Gに示す第1チャンネル30、第2チャンネル40、及び第3チャンネル50を有するガラス構造体24を作製できる。必要に応じ、第1ガラス構造体20のような構造体を更に重ね、構造体24の開放チャンネルを追加の平坦層で閉じるように、開放チャンネルを追加の平坦層で閉じることにより更に別のチャンネル層を同様に形成でき、図11Hに示す第1チャンネル30、第2チャンネル40、第3チャンネル50、及び第4チャンネル60を有するガラス構造体26を作製できる。
【0016】
特定のガラス、7740 Pyrex(登録商標)に対し、図11A〜11Iに示す方法のプロセス・パラメータの例に熱的条件があり、一般に1350℃のガラスを650℃に加熱したローラ及びモールドに供給することが望ましい。アセチレン熱分解によるカーボンブラックのような離型剤を用いることができる。ガラスシートが薄ければ薄いほど、ローラの温度を高くする必要がある。本発明において、チャンネル30と40との間の壁のようなチャンネル間の壁は、充分実用的な堅牢性を有する範囲において、できるだけ薄いことが好ましい。一般に、壁の厚さは、必要とする機械的堅牢性が維持できる範囲において、できるだけ薄くする必要があり、2mm以下が好ましく、1mmであることがより好ましく、0.5mm以下であることが更に好ましい。本プロセスにより0.8mmに圧延したガラスシートを真空形成することにより、形成された形状の底部の厚さを0.2mm以下にまですることができる。図11A〜11Iの方法及び関連方法の詳細については、例えば、2004年4月30日出願の欧州特許出願番号04291114「High Thermal Efficiency Glass Microfluidic Channels and Methods for Forming the Same」を参照されたい。
【0017】
当然のことながら、読者は図11Bに示すような1つの波形定形シート80の使用を含む図11A〜11Iの形成プロセス又は同様のプロセスの使用又はかかるシートの対向面に画成されるチャンネルを考えた場合、第1及び第2チャンネル・セット30、40は補完的である、即ち、共通壁を有し、共通する概して平坦な体積中に存在することが理解できる。以下に説明するする図12A〜12D及び図13A〜13Cの方法によって形成されるチャンネルも補完的である。
【0018】
図12A〜12Dは本発明との関連において有用な構造体の作製に役立つ方法の別の例を示す図である。図12A〜12Dの方法によれば、ガラス又はガラスを含む材料から成るシート88が、広い温度範囲においてガラスに親和性を有する材料から成る協働モールド、即ち半モールド90と92との間に配される。モールドの材料はカーボンであることが好ましく、例えば、フランス、Gennevilliersに所在するCarbon Lorraine社製のグレード2450PT又は2020PTグラファイトのような約10%以上の開放気孔率を有する多孔質カーボンであることが好ましい。CNS加工、ダイヤモンド超高速加工、放電加工、又はその組合せによってモールド面を形成することができる。モールドの表面設計は所望の機能に依存する。
【0019】
任意として、シート88及び/又はモールド90、92にカーボン煤であることが好ましい離型剤を用いることができる。ガラスを含むシート88とモールド90、92との界面に圧力を加えることが好ましい。例えば、負荷をかけることによって、このような圧力を得ることができる。次に、シート88が充分軟らかくなりモールド90、92の輪郭に沿うようになるまで、モールド90、92及びシート88を一緒に加熱することにより、成形シート94が作製される。次に、モールド90、92及び成形シート94が一緒に冷却され、シート94がモールドから取り出される。次に、成形シート94をガラス、ガラスを含む材料、又はその他適切な材料から成るフラットシート96と96との間に置き、その組立体をフリット使用又は不使用焼結、適切な接着剤、又はその他適切な手段により接着することができる。その結果、図11A〜11Iにおける構造体22に対応する構造体22が作製される。必要に応じ、図12A〜12Cに示す成形シート94を用いて図11A〜11Iに示す別の構造体を作製することもできる。
【0020】
本発明との関連において有用な構造体の作製に役立つ方法の更に別の例として、図12A〜12Dに示す方法を図13A〜13Cに示す方法に修正することにより、プロセス・チャンネル98と隣接チャンネル100とが必ずしも補完的ではないようにできる。図13A及び13Bに示すように、モールド90、92は同様又は協働相互貫通構造をとらず、1つが成形モールド90、もう1つが平面モールド92のようにそれぞれ独立した形状を成している。従って、それによって作製された成形シート94は1つ以上の表面に仕切り又は壁102を有することができる。図13A〜13Cに示すプロセスによるチャンネルは、1枚のシートの対向面に形成する必要がなく、図13Cに示すように、全く同一である必要がなく、仕切り又は壁102によってプロセス・チャンネル98と隣接チャンネル100とが分離されるよう、フリット使用又は不使用焼結、適切な接着剤、又はその他適切な手段により接着することができる2枚の成形シート94と94との間に形成することができる。図12及び13に示すプロセスの詳細は、例えば、2007年2月28日出願の欧州特許出願番号07300835「Method for Making Microfluidic Devices and Devices Produced Thereof」及び欧州特許出願番号07300836「Methodsfor Forming ComspositionsContaining Glass」に記載されている。
本発明の装置における補完チャンネルの使用例を図1の平面図に示す。図1は図11F又は11GのI−I線断面である。
【0021】
図1は放射線支援化学処理に有用な本発明による装置10の概略平面図である。装置10はそれぞれ第1チャンネル30(今や1つのチャンネル12として見える)及び第2チャンネル40(今や1つのチャンネル14として見える)に対応する第1及び第2補完チャンネル12、14を有している。チャンネル12、14の一部は、成形シート80の成形時に形成された実質的に縦のガラス壁32によって画成されている。補完チャンネル12には流体がアクセスできる入出力ポート16、18が形成され、流体経路13を構成している。補完チャンネル14は両端に電極17、19を備えることができると共に、ガス放電又はプラズマ放電に適したガス混合物を含んで成り、放射線支援化学処理に適した放射線を生成するためのガス放電チャンバー又はプラズマ放電チャンバー15を構成している。
【0022】
前記から分かるように、ガラス壁32の第1面34によって流体経路13の少なくとも一部が画成され、ガラス壁32の第2面36によってチャンバー15の少なくとも一部が画成されている。従って、チャンバー15はチャンネル14に対応する体積中に形成され、少なくとも部分的に流路13を画成している同じ透明壁32の第2面によって少なくとも部分的に画成されたガス放電チャンバー又はプラズマ放電チャンバーを構成している。これにより、図1の矢印38で示すように、チャンバー15で生成された放射線が透明壁32を通して流体経路13に直接且つ効率的に連結することができる。
【0023】
例えば、図2の実施の形態の構成のような別の構成のチャンネルを用いることができる。図2のチャンバー15のような独特の形状を有する放電チャンバーに対し、2つを超える電極の設置、チャンバーの細分割、好ましくはマイクロ波ビームと適切に配した磁界との組合せ又はその他適切な手段によるチャンバー15内のガスの外部励起が可能である。図13A〜13Cの製造プロセスのように、構造体の製造プロセスが充分柔軟であれば、非補完チャンネル構造を採用することができる。プロセス・チャンネル又は反応チャンネル98が放射線を生成するチャンバーを形成する3つの分離チャンネル100と一体化された非補完チャンネルの例を図3に示す。更に複雑な構成も勿論可能である。
【0024】
図4〜図7は様々な数のチャンネル・セット及び様々に構成されたチャンネルを有する本発明の各種実施の形態の概略断面を示す図である。各々の場合において、装置10は透明壁32の第1面34によって少なくとも一部が画成された流体経路13、透明壁32の第1面に対向する第2面によって少なくとも一部が画成され、放射線支援化学処理に有用な放射線を生成するよう構成されたガス放電チャンバー又はプラズマ・チャンバー15を有している。
【0025】
図4に示す装置10の実施の形態において、流体チャンネルの第1セット12内に構成された流体チャンネル13が流体チャンネルの第1セット12を補完する流体チャンネルの第2セット14内に構成された放電チャンバー15と密接に関係している。流体経路13とチャンバー15とが壁32の対向面に波形ガラスシート33として形成されている。このようにして得られた流体経路13と放電チャンバー15との密接な関係により、放射線支援化学処理に有用な放射線が、図1〜7において一部矢印で示すように、容易且つ効率的にチャンバー15から流体経路13に移動できる。
【0026】
図4〜7の実施の形態に加え、第1反射コーティング42が装置10の1つの主要外面に施されている。このコーティングは金属膜又は金属薄膜、誘電体又は誘電体多層コーティング、又は放射線支援化学処理に有用な放射線を反射して装置10内に戻すのに有効なその他の適切なコーティングであってよい。装置10の別の主要外面に放射線支援化学処理に有用な放射線を反射して装置10内に戻すのに同様に有効な第2反射コーティング44を施すことが好ましい。
図5の実施の形態は、各々がそれぞれ流体経路12及び12aを含む、第1チャンネル12と第3チャンネル12aとを有している。流体経路12及び12aはそれぞれ独立していても、希望する場合には直列又は並列に接続されていてもよい。現時点では、直列接続して長い反応経路及び/又は長い反応時間を得ること好ましい。本実施の形態において、非平坦面ではあるが望ましい放射線を装置10内に戻すのに有効な面に第1反射コーティング42が施されている。
【0027】
図6の実施の形態に示すように、本発明の基本原理を拡張して3層を超える装置を構成できる。図6の実施の形態において、流体経路13、13a、13bを構成する3セットのチャンネル12、12a、12bと1つ以上の放電チャンバー15、15a、15bを構成する3セットのチャンネル14、14a、14bとが組み込まれている。希望する場合には、図5の実施の形態と同様、これ等のチャンネル・セットを直列又は並列に相互接続することができる。本発明のその他の実施の形態において、図8及び10を用いて以下に説明するチャンネル12、12a、12b内の触媒材料の配置により、図6の矢印群が示すように、流体経路13a、13bと比較して、より多くの放射線が流体経路13に到達する。このため、より多くの放射線が有効なのはプロセスのどの部分であるかに応じて、流体経路13を通して反応物をプロセスの最初、最後、又は中央で供給することが望ましい。
図7は流路13とチャンバー15とが波形ではなく平坦なガラスシート35の形状を成す透明壁32の対向面34、36に形成されている実施の形態を示している。光触媒材料を使用する実施の形態では、反射層42、44により放射線がチャンバー15から流体経路13の表面の光触媒材料に集中するよう構造体の曲率を選択することが望ましい。
本発明のすべての装置において、流体経路の断面がそこを流れる反応物が完全に照射されるような大きさに制限されることが望ましい。流体経路の最大断面寸法が2cm以下であることが好ましく、1cm以下であることがより好ましく、0.6cm以下であることが最も好ましい。
図8は光触媒による化学処理のための光触媒材料を使用する本発明の装置の他の実施の形態を示す図である。図8の装置は図5の装置に対応するが、光触媒が付加されていると共に、図8の装置は図5の断面の一部の拡大図に対応している。図示のように、本実施の形態では、流体経路13、13aの内表面の少なくとも1つ以上の第1部分47に光触媒材料46が配置されている。流体経路13、13aの内表面には光触媒材料46を全く有しないか又はその量が第1部分47より少なく、有用な放射線に対し第1部分47より透明である1つ以上の第2部分48も設けられている。図8から分かるように、第2部分48は内壁の凸部64(内部に向けて凸)の他にその平坦部分62も含んでいる。事実上触媒を有しない1つ以上の第2部分48により、放射線が流体経路13、13aに入射でき、流体経路内の触媒材料の前面を完全且つ効率良く照射できる。
この有益な光触媒材料の不均一なコーティング即ち配置は、断面の少なくとも一部が非円形を成し、所望の光触媒放射線に対し透明な材料から成る壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路を使用し、その流体経路をウォッシュコートして経路内部に光触媒材料を堆積させるステップであって、光触媒材料を非円形断面経路の第1部分に堆積させ、透明材料から成る壁の第1面の少なくとも一部を含む非円形断面経路の第2部分には堆積さないか又は第2部分から光触媒材料を除去することを含むステップにより達成できる。
【0028】
このことは、平坦部を有する非円形断面を備えた、本明細書に示す実施の形態と同様の流体経路を選択することにより容易に達成できる。ウォッシュコート法は当然ながら流体経路の平坦部にはウォッシュコート成分が堆積しないか又は堆積しても量が少ない傾向がある。また、最初にウォッシュコートにより大量に堆積させ、次いで部分的に除去する場合、流体経路平坦部からより短時間のうちに除去される。(内部に向けて)凸部もウォッシュコート成分の堆積量が少なく、エッチングする場合、コーティングがより早く解放される。光触媒放射線源を第2部分又はその近傍に設けることにより、流体経路内の光触媒材料の反応物に対向する面が良く照射される。
【0029】
図14及び15は図8に代わる実施の形態の断面図である。図14及び15において、光触媒材料46が、図8のウォッシュコート光触媒材料光触媒材料の代わりに、薄膜光触媒材料の形態を成している。薄膜光触媒材料は、蒸着、スパッタリング、化学気相蒸着、プラズマ支援化学気相蒸着、ディップコート等様々な薄膜技術によって被膜できる。図14において、薄膜光触媒材料46が流体経路13、13aのすべての内表面に配置されている。本実施の形態において、光触媒材料の厚さは、望ましい放射線の一部が薄膜を透過して流体経路13、13aのすべての内表面を適切に照射できる程度に薄くされる。これに対し、図15の実施の形態では、薄膜光触媒材料46によりチャンネル壁の内表面の第1部分47のみが被膜され第2部分48は被膜されない。図15の実施の形態は、第1部分47の場所が上部チャンネル12aと下部チャンネル12とで異なっている点が図8の実施の形態と異なっている。下部チャンネル12において、チャンネルの内表面の平坦部が光触媒材料によって被膜された第1部分47であり、一方上部チャンネル12aにおいてはチャンネルの内表面の凸部と凹部とが光触媒材料によって被膜された第1部分47である。これは図14及び15の矢印方向の完全な照射の確保と薄膜材料の被膜を容易にするためである。
【0030】
平坦基板と波形基板とを合わせて接着することにより、図14又は15の装置を形成する前に、平坦基板又は波形基板に薄膜材料を被膜することができる。これは平坦部品及び波形部品を作製した後、個別に冷却し必要な表面を薄膜光触媒で被膜することにより達成できる。次に、平坦基板と波形基板とを合わせて焼結又はその他の適切なプロセスによって接着できる。
【0031】
光触媒処理のための本発明の他の実施の形態を図9に示す。図9の実施の形態においては、装置のガラス構造体が放電チャンバーを有さず、代わりにすべてのチャンネル・セット12及び12aが反応物のための流体経路13及び13aとして使用される。この場合も、経路13及び13aを直列又は並列使用することができる。
【0032】
図9の実施の形態において、光触媒に照射する放射線は外部の平面放射線源52及び54から供給される。これ等の放射線源はプラズマベース放射体、ダイオード又はレーザーダイオード・アレー、又はその他適切な形態を成すことができる。必要に応じ、線源54を破線で輪郭を示す反射コーティング42に置換することにより、線源52からの片側照射とすることができる。図9の実施の形態において、それぞれのチャンネル12、12aに配置されることを除き、図8と同様に光触媒材料を分布させることが好ましい。それを図9の断面の部分拡大図である図10に示す。線源52、54からの放射線は、線源52、54に隣接する平坦部62を含め、流体経路内表面の1つ以上の部分48に光触媒材料46が存在していないため、図の矢印で示すように、容易に流体経路12、12aに入射できる。
本発明の装置及び方法により、所望の放射線を効率的に化学処理のためのマイクロ・チャンネルに供給できると共に、所望の放射線の供給を可能とするウォッシュコート堆積制御が可能となる。これ等の装置及び方法は特に、有機及び無機合成、汚染対策、水及び空気浄化等を含みこれに限定されない様々な化学処理に有益である。
【0033】
光触媒は有機汚染物質の分解及び有機合成プロセスに有益である。化学処理において、光触媒は一般に分子機能を向上させ低価反応物から高価分子を得るために使用される。動作条件が穏やか(室温又は室温より若干高い温度)であるため、1つには選択性の向上が期待できるため合成が魅力的である。反応の例として、シクロヘキサンの選択的酸化からシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンへの反応には光触媒が使用されるのが通例である。例えば、シミズケンイチ他、Applied Catalysis A:General 225(2002)185−191を参照されたい。リニア・アルキル・オレフィンも光触媒及び酸化剤として酸素分子を用いて直接エポキシ化され、1-ヘキセンはTiO2及び光触媒を用いて、1-ヘキセンの消費量に対し79%の収率で、直接1,2-エポキシヘキサンにエポキシ化される(マツムラミチオ他、Journal of Catalysis 176, 76−81(1998)参照)。
【0034】
一般に、紫外線を照射したチタニアが光触媒系とし好まれているが、原理上は以下の表1に示すような多くの材料が使用できる。
【表1】

【0035】
表に示すように、適切な放射線の波長が可視スペクトル全体に及んでいると共にその上下に広がっている。
【0036】
光触媒を用いない放射線支援化学処理の場合には、フォトン・エネルギー・レベルが反応物又は反応物の特定の部位の活性化エネルギーに一致するよう放射線の波長が選択される。また、フォトン・エネルギー・レベルが所望の化学処理ステップにおいて切り離されることが好ましい化学結合の結合エネルギーに一致するように波長を選択することもできる。
【0037】
本明細書に開示した本発明の装置のすべての実施の形態に対し、ガラス及び/又は充填ガラス、ガラス・セラミックス等のガラスを含む材料が好ましいが、所望の用途及び必要とする透明度に応じて別の材料も使用できる。例えば、セラミック材料は特定の波長に対し魅力ある透明壁材料と成り得る。
【0038】
例示した実施の形態は複雑度及び寸法を限定したものであるが、本発明の方法は、形成プロセスにおいて表面積の大きなシートを用いると共に、形成された構造体を図11Hのように積み重ねることにより、数百又は数千のチャンネルを有する大きな装置を作製することができる。本発明の方法はメートル単位の寸法を有する波形ガラスシートの形成に適用することができる。
【0039】
本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかである。従って、本発明は添付クレーム及びその均等物の範囲に属する変更及び修正も含むものである。
【符号の説明】
【0040】
10 装置
12、14 チャンネル
13 流体経路
15 ガス放電チャンバー/プラズマ・チャンバー
16、18 入出力ポート
17、19 電極
32 ガラス壁
33 波形ガラスシート
34 第1面
36 第2面
42、44 反射コーティング
46 光触媒材料
47 第1部分
48 第2部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線支援化学処理を行うための装置であって、
放射線支援化学処理に有用な放射線に対し透明な壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路と、
前記透明壁の第1面に対向する第2面によって少なくとも一部が画成され、前記放射線支援化学処理に有用な放射線を生成するよう構成されたガス放電チャンバー又はプラズマ・チャンバーと、
を有して成ることを特徴とする装置。
【請求項2】
主要外面に前記放射線を反射して内部に戻すのに有効な反射コーティングを更に有して成ることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記流体経路と前記チャンバーとが波形基板の対向面に形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記流体経路が、少なくとも該経路の内表面の第1部分に薄膜光触媒材料を含むと共に、前記光触媒材料を含まないか、含むとしても前記第1部分より少量であり、前記放射線に対し前記第1部分より透明な第2部分を有して成ることを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載の装置。
【請求項5】
光触媒反応装置の作製方法であって、
断面の少なくとも一部が非円形を成し、放射線支援化学処理に有用な所望の放射線に対し透明な材料から成る壁の第1面によって少なくとも一部が画成された流体経路を用意するステップと、
前記流体経路をウォッシュコートして該経路の内部に光触媒材料を堆積させるステップであって、前記光触媒材料を前記非円形断面経路の第1部分に堆積させ、前記透明材料から成る壁の第1面の少なくとも一部を含む前記非円形断面経路の第2部分には堆積させず、又は該第2部分から前記光触媒材料を除去することを含むステップと、
を有して成ることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図11G】
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【図11H】
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【図11I】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−509755(P2012−509755A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535999(P2010−535999)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/013120
【国際公開番号】WO2009/070289
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】