説明

放射線検出器の記録用光導電層の製造方法

【課題】蒸着時のレートのばらつきを抑制し、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性が大きく向上した放射線検出器を製造する。
【解決手段】記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、あるいは、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線などの放射線撮像装置に適用して好適な放射線検出器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、医療診断等を目的とするX線(放射線)撮影において、X線画像情報記録手段として放射線検出器(半導体を主要部とするもの)を用いて、この検出器により被写体を透過したX線を検出して被写体に関するX線画像を表す画像信号を得るX線撮影装置が各種提案、実用化されている。
【0003】
この装置に使用される放射線検出器としても、種々の方式が提案されている。例えば、X線を電荷に変換する電荷生成プロセスの面からは、X線が照射されることにより蛍光体から発せられた蛍光を光導電層で検出して得た信号電荷を蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を画像信号(電気信号)に変換して出力する光変換方式(間接変換方式)の検出器、或いは、X線が照射されることにより光導電層内で発生した信号電荷を電荷収集電極で集めて蓄電部に一旦蓄積し、蓄積電荷を電気信号に変換して出力する直接変換方式の検出器等がある。
【0004】
一方、蓄積された電荷を外部に読み出す電荷読出プロセスの面からは、読取光(読取用の電磁波)を検出器に照射して読み出す光読出方式のものや、蓄電部と接続されたTFT(薄膜トランジスタ)、CCD(電荷結合素子)あるいはCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサなどを走査駆動して読み出す電気読出方式のもの等がある。
【0005】
上述した放射線検出器は、この放射線検出器内に設けられた電荷生成層にX線を照射することによって、X線エネルギーに相当する電荷を生成し、生成した電荷を電気信号として読み出すようにしたものであって、上記光導電層は電荷生成層として機能する。従来より、この光導電層としてはアモルファスセレン(a−Se)、PbO、PbI2、HgI2、BiI、Cd(Zn)Teなどの材料が使用されている。
【0006】
上記アモルファスセレンは、真空蒸着法等の薄膜形成技術を利用して容易に大面積化に対応が可能であるが、アモルファスゆえの構造欠陥を多く含む傾向があるため、感度が劣化しやすい。そこで、性能を改善するために、適量の不純物を添加(ドーピング)することが一般的に行われており、例えば、特許文献1にはアルカリ金属を0.01〜10ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、特許文献2には、アルカリ金属としてNaを70ppmドーピングしたアモルファスセレンを利用した記録用光導電層が、それぞれ記載されている。
【0007】
特許文献3には一般的なセレンの蒸着方法が記載されているが、蒸着の際には、蒸着容器内部の原料温度を均一にするために容器の一部を覆う蓋が用いられたり、あるいは蒸着容器の開口部を絞る等の方策がとられたりする。その際、開口部付近での温度低下による原料の堆積を抑制するために蓋部材を加熱して原料の温度制御を間接的に行ったり(特許文献4)、容器からの熱伝達性を上げたりして(特許文献5)、温度を低下させずに蒸気の析出を防ぐ工夫がなされている。
【特許文献1】特開2003−315464号公報
【特許文献2】特開2001−244492号公報
【特許文献3】特開昭58−19471号公報
【特許文献4】特開2005−29839号公報
【特許文献5】特開2004−315898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、大容積の容器を使用すると原料を温度制御していても原料の量の状態により液面の高さが変化し、溶液内の温度分布が変化するために蒸発面の温度も変化し、蒸発レートにばらつきが生じてくる。また、蓋においても液面の変化により温度の変化が現れ、これは蒸着時のレートのばらつきになるという問題がある。
【0009】
従来、アモルファスセレンはP型半導体であることから正孔輸送性は充分であって、放射線検出器として高感度を得るには電子輸送性向上が課題であると考えられており、上記特許文献1および2においてもアモルファスセレンにナトリウムをドープすることで電子輸送性を向上させていた。これはアモルファスセレンの荷電欠陥のうち電子捕獲中心を減少させる効果によるものであった。
【0010】
しかし、さらなる感度向上のためには、発生キャリアを両電極へ輸送するために電子輸送性向上のみではなく、正孔輸送性をも向上させる必要がある。本発明者が鋭意検討を行ったところ、記録用光導電層の製造方法を工夫することによって、蒸着時のレートのばらつきが抑制されて、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上させることができることがわかった。
【0011】
すなわち、本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上することが可能な放射線検出器の記録用光導電層の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の記録用光導電層の製造方法の別の態様は、記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とするものである。
本発明の記録用光導電層の製造方法における前記アルカリ金属は、ナトリウムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の記録用光導電層の製造方法は、所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、別の態様として、アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより記録用光導電層を形成するので、蒸着時のレートのばらつきが抑制されて、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上した記録用光導電層を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
放射線検出器には、放射線を直接電荷に変換し電荷を蓄積する直接変換方式と、放射線を一度CsI:Tl、GdS:Tbなどのシンチレータで光に変換し、その光をa−Siフォトダイオードで電荷に変換し蓄積する間接変換方式があるが、本発明の製造方法によって製造された記録用光導電層は、前者の直接変換方式にも、間接変換型の光-電子変換層にも用いることができる。なお、放射線としてはX線の他、γ線、α線などについて使用することが可能である。
【0016】
また、本発明の製造方法によって製造された記録用光導電層は、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用した放射線画像検出器により読み取る、いわゆる光読取方式にも、また、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)などの電気的スイッチを1画素ずつON・OFFすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)にも用いることができる。
【0017】
まず、前者の光読取方式に用いられる放射線検出器を例にとって説明する。図1は放射線検出器の一実施の形態を示す断面図を示すものである。
この放射線検出器10は、後述する記録用の放射線L1に対して透過性を有する第1の導電層1、この導電層1を透過した放射線L1の照射を受けることにより導電性を呈する記録用放射線導電層2、導電層1に帯電される電荷(潜像極性電荷;例えば負電荷)に対しては略絶縁体として作用し、かつ、電荷と逆極性の電荷(輸送極性電荷;上述の例においては正電荷)に対しては略導電体として作用する電荷輸送層3、後述する読取用の読取光L2の照射を受けることにより導電性を呈する読取光導電層4、電磁波L2に対して透過性を有する第2の導電層5を、順に積層してなるものである。
【0018】
ここで、導電層1および5としては、例えば、透明ガラス板上に導電性物質を一様に被覆したもの(ネサ皮膜等)、より具体的には、多結晶ITO(In23:Sn)、アモルファスITO(In23:Sn)、アモルファスIZO(In23:Zn)、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)、金、銀、白金、アルミニウム、インジウム等の薄膜、10〜1000nm程度のサイズからなる貴金属(白金、金、銀)の分散物の塗布膜等が好ましい。
【0019】
電荷輸送層3としては、導電層1に帯電される負電荷の移動度と、その逆極性となる正電荷の移動度の差が大きい程良く、ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK、ポリビニルアルコール)分散物,As2Se3、Sb23、シリコンオイル、Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質、ポリカーボネートが適当である。特に、有機系化合物(PVK,TPD、ディスコティック液晶等)は光不感性を有するため好ましく、また、誘電率が一般に小さいため電荷輸送層3と読取光導電層4の容量が小さくなり読み取り時の信号取り出し効率を大きくすることができる。
【0020】
読取光導電層4には、a−Se,Clを10〜200ppmドープしたa−Se、Se−Te,Se−As−Te,As2Se3、無金属フタロシアニン,金属フタロシアニン,MgPc( Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine),CuPc(Cupper phtalocyanine)、Bi12MO20 (M:Ti、Si、Ge)、Bi4312 (M:Ti、Si、Ge)、Bi23、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24239、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2 ,CdS、CdSe、CdTe、BiI3等のうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質を用いることができる。
【0021】
記録用放射線導電層2は、本発明の製造方法によって製造されたものである。記録用放射線導電層2の厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0022】
なお、第1の導電層と記録用放射線導電層2との間に、電子注入阻止層があってもよい。電子注入阻止層としては、硫化アンチモン、N,N'−ジフェニル−N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1'−ビフェニル〕−4,4'−ジアミン(TPD)が用いられる。また、読取光導電層4と第2の導電層5の間に、正孔注入阻止層があってもよい。正孔注入阻止層としては、酸化セリウム、硫化アンチモン、硫化亜鉛が用いられる。
【0023】
続いて、静電潜像を読み取るために光を用いる方式について簡単に説明する。図2は放射線検出器10を用いた記録読取システム(静電潜像記録装置と静電潜像読取装置を一体にしたもの)の概略構成図を示すものである。この記録読取システムは、放射線検出器10、記録用照射手段90、電源50、電流検出手段70、読取用露光手段92並びに接続手段S1、S2とからなり、静電潜像記録装置部分は放射線検出器10、電源50、記録用照射手段90、接続手段S1とからなり、静電潜像読取装置部分は放射線検出器10、電流検出手段70、接続手段S2とからなる。
【0024】
放射線検出器10の導電層1は接続手段S1を介して電源50の負極に接続されるとともに、接続手段S2の一端にも接続されている。接続手段S2の他端の一方は電流検出手段70に接続され、放射線検出器10の導電層5、電源50の正極並びに接続手段S2の他端の他方は接地されている。電流検出手段70はオペアンプからなる検出アンプ70aと帰還抵抗70b とからなり、いわゆる電流電圧変換回路を構成している。
【0025】
導電層5は、特開2001-337171号や特開2001−160922号記載の構造のものであってもよい。
導電層1の上面には被写体9が配設されており、被写体9は放射線L1に対して透過性を有する部分9aと透過性を有しない遮断部9bが存在する。記録用照射手段90は放射線L1を被写体9に一様に曝射するものであり、読取用露光手段92はレーザ光やLED、有機EL、無機EL等の読取光L2を図3中の矢印方向へ走査露光するものであり、読取光L2は直線状に収束された形状をしていることが望ましい。
【0026】
以下、上記構成の記録読取システムにおける静電潜像記録過程について電荷モデル(図3)を参照しながら説明する。図2において接続手段S2を開放状態(接地、電流検出手段70の何れにも接続させない)にして、接続手段S1をオンし導電層1と導電層5との間に電源50による直流電圧Edを印加し、電源50から負の電荷を導電層1に、正の電荷を導電層5に帯電させる(図3(A)参照)。これにより、放射線検出器10には導電層1と5との間に平行な電場が形成される。
【0027】
次に記録用照射手段90から放射線L1を被写体9に向けて一様に曝射する。放射線L1は被写体9の透過部9aを透過し、さらに導電層1をも透過する。放射線導電層2はこの透過した放射線L1を受け導電性を呈するようになる。これは放射線L1の線量に応じて可変の抵抗値を示す可変抵抗器として作用することで理解され、抵抗値は放射線L1によって電子(負電荷)とホール(正電荷)の電荷対が生じることに依存し、被写体9を透過した放射線L1の線量が少なければ大きな抵抗値を示すものである(図3(B)参照)。なお、放射線L1によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0028】
放射線導電層2中に生じた正電荷は放射線導電層2中を導電層1に向かって高速に移動し、導電層1と放射線導電層2との界面で導電層1に帯電している負電荷と電荷再結合して消滅する(図3(C),(D)を参照)。一方、放射線導電層2中に生じた負電荷は放射線導電層2中を電荷輸送層3に向かって移動する。電荷輸送層3は導電層1に帯電した電荷と同じ極性の電荷(本例では負電荷)に対して絶縁体として作用するものであるから、放射線導電層2中を移動してきた負電荷は放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で停止し、この界面に蓄積されることになる(図3(C),(D)を参照)。本発明の製造方法によって製造された記録用光導電層を用いた放射線検出器においては、高い電子輸送性と正孔輸送性を両立させることができる。蓄積される電荷量は放射線導電層2中に生じる負電荷の量、即ち、放射線L1の被写体9を透過した線量によって定まるものである。
【0029】
一方、放射線L1は被写体9の遮断部9bを透過しないから、放射線検出器10の遮断部9bの下部にあたる部分は何ら変化を生じない( 図3(B)〜(D)を参照)。このようにして、被写体9に放射線L1を曝射することにより、被写体像に応じた電荷を放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積することができるようになる。なお、この蓄積せしめられた電荷による被写体像を静電潜像という。
【0030】
次に静電潜像読取過程について電荷モデル(図4)を参照しつつ説明する。接続手段S1を開放し電源供給を停止すると共に、S2を一旦接地側に接続し、静電潜像が記録された放射線検出器10の導電層1および5を同電位に帯電させて電荷の再配列を行った後に(図4(A)参照)、接続手段S2を電流検出手段70側に接続する。
【0031】
読取用露光手段92により読取光L2を放射線検出器10の導電層5側に走査露光すると、読取光L2は導電層5を透過し、この透過した読取光L2が照射された光導電層4は走査露光に応じて導電性を呈するようになる。これは上記放射線導電層2が放射線L1の照射を受けて正負の電荷対が生じることにより導電性を呈するのと同様に、読取光L2の照射を受けて正負の電荷対が生じることに依存するものである(図4(B)参照)。なお、記録過程と同様に、読取光L2によって生成される負電荷(−)および正電荷(+)を、図面上では−または+を○で囲んで表している。
【0032】
電荷輸送層3は正電荷に対しては導電体として作用するものであるから、光導電層4に生じた正電荷は蓄積電荷に引きつけられるように電荷輸送層3の中を急速に移動し、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面で蓄積電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。一方、光導電層4に生じた負電荷は導電層5の正電荷と電荷再結合し消滅する(図4(C)参照)。光導電層4は読取光L2により十分な光量でもって走査露光されており、放射線導電層2と電荷輸送層3との界面に蓄積されている蓄積電荷、即ち静電潜像が全て電荷再結合により消滅せしめられる。このように、放射線検出器10に蓄積されていた電荷が消滅するということは、放射線検出器10に電荷の移動による電流Iが流れたことを意味するものであり、この状態は放射線検出器10を電流量が蓄積電荷量に依存する電流源で表した図4(D)のような等価回路でもって示すことができる。
【0033】
このように、読取光L2を走査露光しながら、放射線検出器10から流れ出す電流を検出することにより、走査露光された各部(画素に対応する)の蓄積電荷量を順次読み取ることができ、これにより静電潜像を読み取ることができる。なお、本放射線検出部動作については特開2000-105297号等に記載されている。
【0034】
次に、後者のTFT方式の放射線検出器について図5を参照して説明する。図5に示す放射線検出器100は、基板105上に、TFTからなる読み取り回路と画素電極とからなる第2の電極104、電荷ブロック層103、放射線光電変換層102、第1の電極101がこの順に積層されたものである。第1の電極101は、X線に対して透過性を有するものであればよく、例えば金薄膜等を用いることができる。放射線光電変換層102は、量子効率が高く、暗電流の少ないアモルファスカルコゲナイドから構成されることが好ましい。放射線光電変換層102が本発明の製造方法によって製造されたものである。
【0035】
第2の電極104は、各画素毎に対応して薄膜トランジスタ(thin film transistor:TFT)が形成されており、各TFTの出力ラインは不図示の信号検出手段に接続される。また各TFTの制御ラインは不図示のTFT制御用手段に接続されている。そして、この放射線検出器100は、第1の電極101と第2の電極104との間に電界を形成している際に、放射線光電変換層102にX線が照射されると、放射線光電変換層102内に電荷対が発生し、この電荷対の量に応じた潜像電荷が第2の電極104内に蓄積されるものである。蓄積された潜像電荷を読み取る際には、第2の電極104のTFTを順次駆動して、各画素に対応した潜像電荷に基づく画像信号を出力ラインから出力させて、この画像信号を信号検出手段により検出することにより、潜像電荷が担持する静電潜像を読み取ることができる。
【0036】
図6に本発明の記録用光導電層の製造方法に使用することが可能な真空蒸着装置の一実施の形態である模式断面図を、図7に蒸着容器の部分拡大断面図を示す。この真空蒸着装置80は、蒸発源であるアルカリ金属を含むセレン81が収容される蒸着容器82と、蒸着容器82上に設けられた多孔板83と、蒸発源が被着する基板84を保持する保持部材85とからなり、多孔板83の下には多孔板83を温度制御するためのヒータ87が設けられてなる。
【0037】
多孔板83は、金属板(例えば、ステンレス、アルミニウム)に多数の孔を有する金属多孔板や、セラミックス板(例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化珪素、窒化ボロン)に多数の孔を有するセラミックス多孔板の他、ステンレス、タンタル、モリブデン、タングステン等の金属網やセラミック網等が含まれる。金属多孔板やセラミックス多孔板の場合、孔は金属板に対して均一に設けられても、一定のパターンニングで、あるいはランダムに設けられていてもよい。金属多孔板の板厚は熱伝導性の観点から、1mm以上10mm以下であることが望ましい。多孔板が、金属網やセラミック網等の網目状の場合、インチ当たりの網目数として#100〜#625であることが好ましい。
【0038】
多孔板の温度制御としては、図7や8に示した温度制御のためのヒータ(シースヒータ等のヒータあるいは油冷パイプ)を別に配置する他、網目状の場合には、金属網そのものを温度制御する、例えばメッシュ通電や金属鞘(シース)の中に発熱体(ニクロム線など)を保持し、その隙間を熱伝導性のよい絶縁物(酸化マグネシウムなど)の粉末で充填したシースヒータ等のヒータあるいは油冷パイプ等を用いることができる。
【0039】
多孔板の場合には、多孔板の上または下に電熱線や油冷パイプ等の温度制御部材を配することにより温度制御することができる。多孔板に電熱線や油冷パイプ等の温度制御部材を配する場合には、多孔板に密着させて設けることがより好ましい。また、熱伝導率を向上させるという観点から、温度制御部材は多孔板の孔の設けられていない部分に配設される。温調部材を別に設ける関係上、多孔板そのものは熱伝導性のあまりよくない部材、例えばステンレス、酸化アルミニウム等を用いることが好ましい。
【0040】
温度制御部材が配された多孔板の一例として、電熱線が配された金属多孔板の正面概略図を図8に示す。この金属多孔板60は、金属板61の全面に一定のパターンニングでパンチング(孔)62が設けられ、金属板61に密着させて電熱線63が渦巻き状に配置され、その電熱線63は外部に配置された電源64に配設されてなるものである。このような図8に示す金属多孔板を、図7に示す多孔板83及びヒータ87に代えて蒸着容器82上に設けることができる。
【0041】
ここで、図9に多孔板全体を温度制御した場合の蒸着レートと多孔板枠のみを加熱した場合の蒸着レートを比較したグラフを示す。図9に示すグラフは、蒸着レートを水晶振動子を用いてリアルタイム測定したものである。グラフから明らかなように、多孔板全体を温度制御した場合の蒸着レートは、多孔板枠のみを加熱した場合の蒸着レートに比較して、時間における変動が小さいことがわかる。すなわち、本発明の製造方法においては、多孔板全体を温度制御するので蒸着時のレートのばらつきが抑制されて蒸着膜厚の調整が容易となり、また、複数の蒸着源により蒸着する場合においても、所望の共蒸着が行うことが可能である。このように、蒸着時のレートのばらつきが抑制されるため、高い電子輸送性を維持したまま、正孔輸送性を大きく向上した記録用光導電層を製造することができる。
【0042】
蒸着方法としては回転蒸着や直線搬送など、特に限定されるものではなく、蒸発容器82内でアルカリ金属を含むセレン81を、蒸発容器82に接続された加熱源(図示せず)によって加熱してセレンの蒸気流を生じさせ、この蒸気流がヒータ87によって温度制御された多孔板83を通過して基板84に被着することにより、蒸着セレン層88を形成することができる。
【0043】
なお、ここでは、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含むセレンを用いた場合を説明したが、蒸発源である原材料として、アルカリ金属を含まないセレンと、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を用いることによっても、同様にして蒸着セレン層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】放射線検出器の一実施の形態を示す概略断面図
【図2】放射線検出器を用いた記録読取システムの概略構成図
【図3】記録読取システムにおける静電潜像記録過程を電荷モデルにより示した図
【図4】記録読取システムにおける静電潜像読取過程を電荷モデルにより示した図
【図5】別の実施の形態による放射線検出器の概略断面図
【図6】本発明の記録用光導電層を製造するための一実施の形態である真空蒸着装置の模式断面図
【図7】図8に示す蒸着容器の部分拡大断面図
【図8】温度制御部材が配された多孔板の一実施の形態を示す正面概略図
【図9】蒸着レートを比較したグラフ
【符号の説明】
【0045】
1 導電層
2 記録用放射線導電層
3 電荷輸送層
4 読取光導電層
5 導電層
10 放射線検出器
80 真空蒸着装置
82 蒸着容器
83 多孔板
87 ヒータ(温度制御部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
所定量のアルカリ金属を含むセレンを収容した蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含むセレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項2】
記録用光導電層の両側に電極が設けられ、該電極間に所定のバイアス電圧を印加した状態で、放射線の照射を受けることにより前記記録用光導電層内部に発生した電荷を電気信号として検出する放射線検出器の前記記録用光導電層の製造方法であって、
アルカリ金属を含まないセレンを収容した、アルカリ金属を含有する化合物で改質された蒸着容器を加熱し、温度制御部材が孔の形成されていない部分に配設された多孔板を通して、前記アルカリ金属を含む前記セレンを蒸着することにより前記記録用光導電層を形成することを特徴とする記録用光導電層の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする請求項1または2記載の記録用光導電層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−27834(P2010−27834A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186895(P2008−186895)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【復代理人】
【識別番号】100111040
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 淑子
【Fターム(参考)】