説明

放射線検出器

【課題】アンプ回路の初段の静電容量の増大を抑制しつつ、高密度実装化を達成するとともに、外部ノイズがアンプ回路に侵入するのを低減する。
【解決手段】多層プリント基板の第1層11には、放射線検出素子105、直流カット用コンデンサC1およびアンプ回路107を配置し、配線パターンP1には、第1層11の配線パターンH1、H2下に第2層12の配線パターンP1が配置されないようにするための開口部17a、17bを形成するとともに、多層プリント基板の第3層13には全面電極P2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線検出器に関し、特に、放射線の検出に用いられるアンプ回路が搭載される回路基板の構成に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、加速器施設および放射線利用施設などにおいて、放射線業務従事者が被ばくした放射線の線量を検出したり管理したりするために、放射線業務従事者のポケットに収まる携帯用の放射線検出器が用いられている。
図3は放射線検出器の実装状態を示す図、図4は従来の放射線検出器の外観構成を示す斜視図である。
【0003】
図3および図4において、放射線検出器100は、放射線業務従事者の作業服の胸に収まるような大きさに設定され、概ね100×50×10mmの寸法を有している。この放射線検出器100には、信号処理回路が搭載されたプリント基板104、プリント基板104を収納する筐体101、放射線量などのデータ表示を行う液晶ディスプレイ102および放射線業務従事者に警報を行う警報ブザー103が設けられている。ここで、放射線の検出方式としては、入射した放射線による電離作用を利用した半導体式が主流となっている。
【0004】
図5は、放射線検出器の概略構成を示すブロック図である。
図5において、プリント基板101には、放射線を検出する放射線検出素子105、放射線検出素子105にて検出された信号から直流成分を除去する直流カット用コンデンサC1、放射線検出素子105にて検出された信号を増幅するアンプ回路107、アンプ回路107から出力された信号を閾値と比較するコンパレータ108、コンパレータ108からの比較結果に基づいて被ばく放射線量を算出するCPU109およびCPU109にて算出された放射線量を被ばく量集中管理システムに送信する通信回路110が実装され、プリント基板101は、コネクタなどを介して液晶ディスプレイ102および警報ブザー103に接続されている。なお、通信回路110としては、例えば、無線通信回路や赤外線通信回路などを用いることができる。
【0005】
そして、放射線業務従事者が被ばくした放射線は筐体101を介して放射線検出素子105に入射され、放射線検出素子105にて放射線が検出される。
例えば、放射線の検出方式として半導体式を用いた場合、放射線検出素子105には、放射線を検出する半導体のダイオード構造が設けられる。そして、このダイオード構造に逆バイアスが印加されると、電子はn側からp側に移動し、ダイオード構造の空乏層はさらに広がる。そして、放射線業務従事者が被ばくした放射線がダイオード構造の空乏層に入射すると、空乏層内で共有結合している電子が弾き飛ばされ、電子と正孔のペア(電子正孔対)が生成される。
【0006】
そして、電子と正孔のペアが空乏層内で生成されると、逆バイアスされている電界に向かって電子は+方向に移動するとともに、正孔は−方向に移動し、ダイオード構造に入射した放射線の線量に対応した電流が流れる。
そして、放射線検出素子105にて検出された信号は、直流カット用コンデンサC1にて直流成分が除去された後、アンプ回路107に送られ、アンプ回路107にて増幅される。そして、アンプ回路107にて増幅された信号は、コンパレータ108にて閾値と比較され、閾値以上のレベルの信号がパルス信号としてCPU109に入力される。そして、CPU109は、コンパレータ108からのパルス信号をカウントすることにより、放射線業務従事者の被ばく放射線量を算出することができる。
【0007】
そして、CPU109は、被ばく放射線量を算出すると、放射線業務従事者の現在の被ばく放射線量を液晶ディスプレイ102に表示させる。また、CPU109は、放射線業務従事者の現在の被ばく放射線量が規定値を超えた場合、そのことを警報ブザー103に通知する。そして、警報ブザー103は、放射線業務従事者の現在の被ばく放射線量が規定値を超えたという通知をCPU109から受けると、ブザーを鳴らすことにより、その作業空間からの離脱を放射線業務従事者に促すことができる。
【0008】
ここで、アンプ回路107では、放射線などの電離作用によって発生した非常に小さな信号を所定の電圧まで増幅するため、入力インピーダンスが非常に高くなるように構成されている。また、放射線の低エネルギー領域を正確に検出するために、アンプ回路107の初段の静電容量を低減し、高いS/N比が実現されている。
一方、放射線業務従事者は、外部との連絡がとれるようにするために、管理区域構内の通信機器として用いられるPHSなどの高周波通信機器を放射線検出器100とともに携帯している。そして、PHSなどの高周波通信機器からのノイズの影響によって放射線検出器100が誤動作するのを防止するために、放射線検出器100内部の回路はシールド部材にて覆われている。
【0009】
また、例えば、特許文献1には、γ線や中性子線などの複数の放射線を1個の検出器で検出できるようにするために、放射線検出部および前置増幅回路が搭載された基板と、増幅回路が搭載された基板との間にシールド板を介在させ、金属製のパッケージに収納する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平6−34763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の放射線検出器100では、放射線検出器100の小型化を実現するために、プリント基板104を多層化し、電子部品を高密度実装化すると、配線パターン間のパターン容量が増大する。このため、アンプ回路107の初段の静電容量が増大し、S/N比が劣化することから、放射線の低エネルギー領域を正確に検出することができないという問題があった。
【0011】
また、従来の放射線検出器100では、液晶ディスプレイ102などを搭載するための開口部が筐体101に形成されると、PHSなどの高周波通信機器からのノイズが放射線検出器100内部に伝わる可能性があり、このようなノイズがアンプ回路107に浸入すると、放射線検出器100が誤動作することがあるという問題があった。
そこで、本発明の目的は、アンプ回路の初段の静電容量の増大を抑制しつつ、高密度実装化を達成するとともに、外部ノイズがアンプ回路に侵入するのを低減することが可能な放射線検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の放射線検出器によれば、放射線を検出する放射線検出素子と、前記放射線検出素子にて検出された信号から直流成分を除去する直流カット用コンデンサと、前記直流カット用コンデンサの後段に接続され、前記放射線検出素子にて検出された信号を増幅するアンプ回路と、前記放射線検出素子、前記直流カット用コンデンサおよび前記アンプ回路が第1層目に配置されたN(Nは2以上の整数)層構造の多層プリント基板とを備え、前記多層プリント基板の少なくとも2層目の配線パターンは、前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下を避けるようにして形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2記載の放射線検出器によれば、前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下には、2層目の配線パターンが存在せず、3層目以降のいずれかの層には全面電極が形成されていることを特徴とする。
また、請求項3記載の放射線検出器によれば、前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下には、2層目からN−2層目までの配線パターンが存在せず、N−1層目に全面電極が形成されていることを特徴とする。
また、請求項4記載の放射線検出器によれば、前記多層プリント基板のN層目の裏面には電子部品が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、放射線検出素子からアンプ回路に至る第1層目の配線パターン下においては、少なくとも2層目の配線パターンが存在しないようにしたので、放射線検出素子およびアンプ回路が実装される回路基板が多層化された場合においても、アンプ回路の初段におけるパターン容量の増大を抑制することが可能となる。
このため、放射線検出器の小型化を図りつつ、アンプ回路の初段の静電容量の増大を抑制することができ、高いS/N比を実現することが可能となることから、放射線の低エネルギー領域の検出精度を向上させることができる。
また、多層プリント基板の3層目以降に全面電極を形成することにより、液晶ディスプレイなどを搭載するための開口部が筐体に形成された場合においても、PHSなどの高周波通信機器からのノイズがアンプ回路に浸入するのを防止することができ、放射線検出器が誤動作するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る放射線検出器について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る放射線検出器に適用されるアンプ回路が搭載される回路基板の概略構成を各層ごとに分解して示す斜視図である。
図1において、放射線検出器には、放射線を検出する放射線検出素子105、放射線検出素子105にて検出された信号から直流成分を除去する直流カット用コンデンサC1、放射線検出素子105にて検出された信号を増幅するアンプ回路107が設けられるとともに、図5の通信回路110を構成したり、液晶ディスプレイ102や警報ブザー103などの制御に用いられる電子部品18a〜18cが設けられ、図4のプリント基板101に実装することができる。
【0016】
ここで、プリント基板101としては、N(Nは2以上の整数)層構造の多層プリント基板を用いることができ、例えば、第1層11から第6層16を有する6層構造の多層プリント基板を用いることができる。
そして、多層プリント基板の第1層11には、放射線検出素子105、直流カット用コンデンサC1およびアンプ回路107を配置し、多層プリント基板の第6層16の裏面には電子部品18a〜18cを配置することができる。そして、第2層12から第5層15にグランド層や電源層を形成することができる。なお、放射線検出素子105、直流カット用コンデンサC1およびアンプ回路107は近接して配置するのが好ましく、例えば、放射線検出素子105、直流カット用コンデンサC1およびアンプ回路107は互いに隣接するように配置することができる。
【0017】
ここで、多層プリント基板の第1層11には、放射線検出素子105と直流カット用コンデンサC1とを接続する配線パターンH1が形成されるとともに、直流カット用コンデンサC1とアンプ回路107とを接続する配線パターンH2が形成されている。
また、多層プリント基板の第2層12には配線パターンP1が形成され、配線パターンP1には、第1層11の配線パターンH1、H2下に第2層12の配線パターンP1が配置されないようにするための開口部17a、17bを形成することができる。
また、多層プリント基板の第3層13には全面電極P2が形成され、全面電極P2は、例えば、グランド層としてシールド機能を持たせることができる。
【0018】
これにより、放射線検出素子105からアンプ回路107に至る第1層11の配線パターンH1、H2下においては、第2層12の配線パターンP2が存在しないようにすることができ、放射線検出素子105およびアンプ回路107が実装されるプリント基板101が多層化された場合においても、アンプ回路107の初段におけるパターン容量の増大を抑制することが可能となる。
【0019】
このため、放射線検出器100の小型化を図りつつ、アンプ回路107の初段の静電容量の増大を抑制することができ、高いS/N比を実現することが可能となることから、放射線の低エネルギー領域の検出精度を向上させることができる。
また、多層プリント基板の第3層13に全面電極P2を形成することにより、液晶ディスプレイ102などを搭載するための開口部が筐体101に形成された場合においても、PHSなどの高周波通信機器からのノイズがアンプ回路107に浸入するのを防止することができ、放射線検出器100が誤動作するのを防止することができる。
【0020】
なお、図1の実施形態では、第1層11の配線パターンH1、H2下には、第2層12の配線パターンが存在せず、第3層13に全面電極P3を形成する方法について説明したが、第4層14または第5層15に全面電極を形成するようにしてもよい。
または、第5層15に全面電極を形成し、第1層11の配線パターンH1、H2下には、第2層12から第4層14の配線パターンが存在しないようにしてもよい
あるいは、第4層14に全面電極を形成し、第1層11の配線パターンH1、H2下には、第2層12および第3層13の配線パターンが存在しないようにしてもよい。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る放射線検出器に適用されるアンプ回路の初段部の概略構成を示す回路図である。
図2において、アンプ回路107には、トランジスタ22、23および抵抗R1〜R3が設けられ、トランジスタ22にてアンプ回路107の初段部21が構成されている。
そして、放射線検出素子105は、直流カット用コンデンサC1を介してトランジスタ22のベースに接続され、トランジスタ22のコレクタは次段のトランジスタ23のベースに接続され、トランジスタ23のコレクタは後段アンプに接続されている。
【0022】
また、トランジスタ22のコレクタは抵抗R1を介して電源電位VCCに接続されるとともに、トランジスタ23のコレクタは電源電位VCCに接続され、トランジスタ22のエミッタは接地されるとともに、抵抗R2を介してトランジスタ23のエミッタに接続され、トランジスタ23のエミッタは抵抗R3を介して接地されている。
ここで、放射線検出素子105から初段部21のトランジスタ22に至る配線経路には、図1の配線パターンH1、H2に起因するパターン容量C2、C3が形成されている。
【0023】
そして、放射線の検出方式として半導体式を用いた場合、放射線検出素子105のダイオード構造には、逆バイアス電圧Vbが印加される。そして、放射線業務従事者が被ばくした放射線がダイオード構造の空乏層に入射すると、電離作用にて発生した電荷が逆バイアスによって引き抜かれ、ダイオード構造に入射した放射線の線量に対応した電流が流れる。そして、放射線検出素子105にて検出された信号は、直流カット用コンデンサC1にて信号成分が抽出された後、トランジスタ22のベースに入力され、所定の増幅率で電圧に変換されてから、次段のトランジスタ23に入力される。
【0024】
ここで、放射線検出素子105、直流カット用コンデンサC1およびトランジスタ22、23は、図1の多層プリント基板の第1層11に配置することができ、放射線検出素子105からトランジスタ22に至る第1層11の配線パターンH1、H2下においては、第2層12の配線パターンP2が存在しないようにすることができる。このため、配線パターンH1、H2に起因するパターン容量C2、C3を低減することができ、高いS/N比を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る放射線検出器に適用されるアンプ回路が搭載される回路基板の概略構成を各層ごとに分解して示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る放射線検出器に適用されるアンプ回路の初段部の概略構成を示す回路図である。
【図3】放射線線量計の実装状態を示す図である。
【図4】放射線線量計の外観構成を示す斜視図である。
【図5】放射線検出器の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
11 第1層
12 第2層
13 第3層
14 第4層
15 第5層
16 第6層
17a、17b 開口部
18a〜18c 電子部品
100 放射線検出器
101 筐体
102 液晶ディスプレイ
103 警報ブザー
104 プリント基板
105 放射線検出素子
107 アンプ回路
108 コンパレータ
109 CPU
110 通信回路
C1 直流カット用コンデンサ
C2、C3 パターン容量
21 初段部
22、23 トランジスタ
R1〜R3 抵抗
H1、H2、P1 配線パターン
P2 全面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を検出する放射線検出素子と、
前記放射線検出素子にて検出された信号から直流成分を除去する直流カット用コンデンサと、
前記直流カット用コンデンサの後段に接続され、前記放射線検出素子にて検出された信号を増幅するアンプ回路と、
前記放射線検出素子、前記直流カット用コンデンサおよび前記アンプ回路が第1層目に配置されたN(Nは2以上の整数)層構造の多層プリント基板とを備え、
前記多層プリント基板の少なくとも2層目の配線パターンは、前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下を避けるようにして形成されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下には、2層目の配線パターンが存在せず、3層目以降のいずれかの層には全面電極が形成されていることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記放射線検出素子から前記アンプ回路に至る前記第1層目の配線パターン下には、2層目からN−2層目までの配線パターンが存在せず、N−1層目に全面電極が形成されていることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記多層プリント基板のN層目の裏面には電子部品が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−222497(P2009−222497A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65924(P2008−65924)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】