説明

放射線検出器

【課題】ダイヤモンドを利用した放射線の検出において検出感度を良好にする。
【解決手段】放射線がダイヤモンド層10に入射すると、ダイヤモンドと放射線の相互作用により二次電子等が発生する。また、放射線が重金属層20に入射すると、重金属層20内には、重金属と放射線の相互作用により二次電子等が発生する。そして、重金属内20で発生した二次電子等が、バイアスを加えられたダイヤモンド層10に入り、検出用の電子等となる。また、重金属内20で発生した二次電子等がダイヤモンド層10内でさらに二次電子等を発生させ、発生した二次電子等も検出用の電子等として利用される。こうして、ダイヤモンドと放射線の相互作用により発生する二次電子等に加えて、重金属から得られる電子等の影響により発生する二次電子等が放射線の検出に利用され、放射線の検出感度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドを利用した放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な構成の放射線検出器が知られており、例えば特許文献1,2には、半導体を利用した放射線検出器が示されている。半導体を利用した放射線検出器では、放射線との相互作用により半導体中に発生された電子(二次電子)及び正孔(以下、二次電子等とする)を収集して放射線を検出する。
【0003】
放射線検出器に利用される半導体としては、シリコン(Si)などが一般的であった。ところが、近年になり、シリコンと同様に半導体としての性質を備えたダイヤモンドが注目され、ダイヤモンドを利用した放射線検出器も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−107941号公報
【特許文献2】特許第3644306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイヤモンドを利用する場合においても、シリコンの場合と同様な検出原理であり、ダイヤモンドと放射線の相互作用により発生した二次電子等を介して放射線が検出される。
【0006】
ところが、ダイヤモンドはシリコンに比べて原子番号が小さく、放射線と相互作用する確率がシリコンに比べて低くなる。したがって、単純にシリコンに代えてダイヤモンドを利用すると、例えば放射線の検出感度が低下する可能性がある。
【0007】
こうした事情に鑑み、本願の発明者は、ダイヤモンドを利用した放射線の検出について研究開発を重ねてきた。
【0008】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、ダイヤモンドを利用した放射線の検出において検出感度を良好にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的にかなう好適な放射線検出器は、ダイヤモンドを含んだダイヤモンド層と、重金属を含んだ重金属層と、を有し、前記ダイヤモンド層は、ダイヤモンドと放射線の相互作用により直接的な検出用電子及び正孔(以下、検出用電子等)を発生し、前記重金属層は、重金属と放射線の相互作用により得られる提供用電子及びX線(以下、提供用電子等)を前記ダイヤモンド層に与えることにより、前記ダイヤモンド層内に間接的な検出用電子等を発生させ、前記直接的な検出用電子等と前記間接的な検出用電子等に基づいて放射線を検出することを特徴とする。
【0010】
上記放射線検出器によれば、ダイヤモンドと放射線の相互作用により発生する直接的な検出用電子等に加えて、重金属から得られる提供用電子等により発生する間接的な検出用電子等も利用されるため、例えば直接的な検出用電子等のみを利用する場合に比べて、放射線の検出感度を高めることができる。もちろん、検出感度を単に高めるだけではなく、例えば重金属の種類などを適宜に選定することにより、放射線の検出感度を調整することも可能になる。重金属層を形成する重金属は、例えば、原子番号が炭素より大きい金属であり、例えば金、銀、銅が重金属に含まれる。さらに、鉄、鉛、白金、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、スズなども重金属に含まれる。1層の重金属層は、例えばいずれか1元素の重金属で形成される。但し、必要に応じて、複数元素の重金属で1層の重金属層が形成されてもよい。
【0011】
望ましい具体例において、前記重金属層は、放射線の検出感度を調整する互いに異なる複数の重金属を含むことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記放射線検出器は、複数のダイヤモンド層と、前記複数の重金属の各々に対応した重金属層からなる複数の重金属層とを有することを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記放射線検出器は、第1のダイヤモンド層と、原子番号の小さい重金属に対応した第1の重金属層と、原子番号の大きい重金属に対応した第2の重金属層と、第2のダイヤモンド層と、前記原子番号の大きい重金属に対応した第3の重金属層と、第3のダイヤモンド層と、を有することを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記原子番号の小さい重金属は銅であり、前記原子番号の大きい重金属は金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、ダイヤモンドを利用した放射線の検出において検出感度が良好になる。例えば、本発明の好適な態様によれば、放射線の検出感度を高めることや放射線の検出感度を調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施において好適な放射線検出器を示す図である。
【図2】重金属を使用した場合と未使用の場合の比較結果を示す図である。
【図3】放射線の検出感度の調整を説明するための図である。
【図4】フラットな検出感度を実現する放射線検出器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好適な実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施において好適な放射線検出器を示す図である。図1に示す放射線検出器は、ダイヤモンド層10と重金属層20を備えており、例えばγ腺やX線などの放射線を検出する。
【0019】
ダイヤモンド層10は、ダイヤモンドで形成される層であり、放射線検出器の構造や用途などに応じた形状とされる。ダイヤモンド層10は、例えば表面が正方形の板状に形成されるが、ダイヤモンド層10の形状は特定のものに限定されない。
【0020】
重金属層20は、重金属で形成される層であり、ダイヤモンド層10を挟むように積層された2層の重金属層20が設けられている。重金属層20は、例えばダイヤモンド層10と同じ表面形状で板状に形成される。なお、重金属層20の形状も特定のものに限定されない。
【0021】
図1に示す2層の重金属層20は電極として機能している。つまり、一方の重金属層20が正極(+極)として機能し、他方の重金属層20が負極(−極)として機能する。これにより、ダイヤモンド層10にバイアスが加えられる。なお、重金属層20とダイヤモンド層10の間に、電極として機能する部材が挿入されてもよい。
【0022】
そして、図1に示す放射線検出器は、入射する放射線(一点鎖線の矢印)の影響によりダイヤモンド層10内に発生する二次電子(検出用電子)を収集して放射線を検出する。なお、入射する放射線の影響により、ダイヤモンド層10内には、二次電子に加えて正孔も発生する。そこで、以下の説明においては、ダイヤモンド層10内に発生する二次電子と正孔を二次電子等(検出用電子等)とする。
【0023】
放射線がダイヤモンド層10に入射すると、ダイヤモンド層10内には、ダイヤモンドと放射線の相互作用により二次電子等(直接的な検出用電子等)が発生する。シリコンと比較すると、ダイヤモンドは原子番号が小さいため放射線と相互作用する確率が低くなり、直接的に得られる二次電子等が少ない。そこで、図1の放射線検出器では、重金属層20により、放射線の検出に利用される二次電子等が追加される。
【0024】
放射線が重金属層20内に入射すると、重金属層20内には、重金属と放射線の相互作用(例えば光電効果とコンプトン散乱)により二次電子(提供用電子)が発生する。そして、重金属内20で発生した二次電子が、バイアスを加えられたダイヤモンド層10に入り、検出用の電子(間接的な検出用電子)となる。また、重金属内20で発生した二次電子がダイヤモンド層10内でさらに二次電子を発生させ、発生した二次電子も検出用の電子として利用される。なお、入射する放射線の影響により、重金属層20内には、二次電子に加えてX線も発生する。そこで、以下の説明においては、重金属層20内に発生する二次電子とX線を二次電子等(提供用電子等)とする。
【0025】
こうして、ダイヤモンドと放射線の相互作用により発生する二次電子等に加えて、重金属から得られる提供用電子等の影響により発生する二次電子等が、放射線の検出に利用される。そのため、重金属を利用しない場合に比べて、ダイヤモンド層10内における二次電子等の発生確率が上がり、例えば放射線の検出感度が向上する。
【0026】
図2は、重金属を使用した場合と未使用の場合の比較結果を示す図である。重金属を使用した場合の例として(A)に示すように、各々の厚さ100μmの2枚の金(Au)で厚さ100μmのダイヤモンドを挟み込んだ積層構造Aを利用している。一方、重金属を使用しない場合の例として(B)に示すように、厚さ100μmのダイヤモンドで構成された比較構造Bを利用している。
【0027】
そして、積層構造Aと比較構造Bの各々に対して、662keVの光子(放射線)を入射させた場合に検出されるカウント数の比較結果が図示されている。つまり、横軸をセンサーでの吸収エネルギーとして縦軸にカウント数を示した測定結果が図示されている。
【0028】
その測定結果において、重金属を使用しない比較構造Bと比べて、重金属を使用した積層構造Aは、横軸の広い範囲に亘ってカウント数が大きい。横軸の全域に亘るカウント数の合計を比較すると、比較構造Bの合計が27319であるのに対し、積層構造Aの合計は81884であり、約3倍程度に高められている。このように、重金属を使用することにより放射線の検出感度が高められる。
【0029】
ところで、図2においては、重金属として金(Au)を利用しているが、一般的に原子番号が大きい重金属ほど、放射線と相互作用して二次電子等を発生する確率が高まる。そのため、重金属の元素を適宜に選択することにより、放射線の検出感度を調整することが可能になる。また、重金属層の厚さや重金属層に利用する元素の組み合わせなどを適宜調整して、放射線の光子エネルギーと放射線の検出感度との対応関係を調整することなども可能になる。さらに、ダイヤモンドの下側に位置する重金属は、検出器の下側に存在する図示しない構造体からの散乱線の影響を防ぐ機能を持たすこともできる。
【0030】
図3は、放射線の検出感度の調整を説明するための図である。図3の(A)及び(B)には、ダイヤモンドを重金属で挟んだ積層構造について、重金属の元素や各層の厚さなどを異ならせた場合の一例が図示されている。
【0031】
ダイヤモンドを重金属aと重金属bで挟み込んだ(A)に示す例では、比較的低い光子エネルギーの領域における感度が向上しており、ダイヤモンドを重金属cと重金属dで挟み込んだ(B)に示す例では、比較的低い光子エネルギーの領域における感度は抑制されているのに対して、比較的高い光子エネルギーの領域における感度が向上している。なお(A)(B)において、ダイヤモンドと重金属の各層の厚さも適宜に調整される。
【0032】
さらに(A)及び(B)に示した積層構造を組み合わせることにより、例えば(A)及び(B)の2つの積層構造を直列的に積層させる又は並列的に近接して配置するなどにより、図3の(C)に示すように、複合的な特性を実現することも可能になる。例えば、比較的広い光子エネルギーの範囲に亘って、放射線の検出感度をフラットにする(一定に近づける)ことなども可能になる。
【0033】
図4は、フラットな検出感度を実現する放射線検出器を示す図である。図4の(A)には、その放射線検出器の具体的な積層構造が図示されている。(A)に示す多層構造Aは図の上から順に、厚さ20μmのダイヤモンド、厚さ7μmの銅(Cu)、厚さ2000μmの金(Au)、厚さ40μmのダイヤモンド、厚さ2000μmの金(Au)、そして厚さ40μmのダイヤモンドを積層したものである。なお、ダイヤモンドの各層にはバイアスが加えられる。その場合に、銅や金の層が電極として機能してもよい。
【0034】
図4の(B)には、重金属を使用しない比較構造Bが図示されている。(B)に示す比較構造Bは、厚さ100μmのダイヤモンドで形成されている。比較構造Bにおけるダイヤモンドの厚さは、多層構造Aにおける3層のダイヤモンドの厚さの合計に等しい。
【0035】
図4の(I)(II)には、多層構造Aと比較構造Bを利用して得られる放射線の検出結果が示されている。図4の(I)は、入射する放射線のエネルギーつまり入射光子エネルギーを横軸とし、放射線の検出感度を縦軸に示したものである。図4の(II)は、入射光子エネルギーを横軸とし、レスポンス比(エネルギー662keVの光子の感度に対する相対感度)を縦軸に示したものである。
【0036】
図4の(I)と(II)の両方において、比較構造Bに比べて、多層構造Aの方が、横軸の広い範囲に亘る検出結果の変動が小さい。つまり多層構造Aを利用することにより、放射線の検出感度をフラットにすることが可能になる。特に(II)に示すレスポンス比において、多層構造Aによる検出結果は、横軸の60〜1500keVの範囲に亘って、±30パーセント内の変動に収まっている。
【0037】
図4の(A)に示した多層構造Aは、フラットな検出感度を実現するための好適な具体例の一つであるが、各層の厚さなどは適宜調整されてもよい。例えば、第1層のダイヤモンドの厚さは10〜30μmの範囲内で調整され、第2層の銅(Cu)の厚さは4〜10μmの範囲内で調整され、第3層の金(Au)の厚さは1000〜3000μmの範囲内で調整され、第4層のダイヤモンドの厚さは30〜50μmの範囲内で調整され、第5層の金(Au)の厚さは1000〜3000μmの範囲内で調整され、第6層のダイヤモンドの厚さは30〜50μmの範囲内で調整される。
【0038】
また、フラットな検出感度を実現するために銅や金以外の重金属が利用されてもよい。例えば、図4の(A)に示す多層構造Aの第2層において銅(Cu)に代えて他の重金属を利用し、第3層と第5層において金(Au)に代えて、第2層の重金属よりも原子番号の大きい重金属を利用する。この場合において、第2層よりも、第3層と第5層の方が厚く形成される。なお、第3層と第5層の厚さを互いに異ならせてもよい。また、放射線検出器の下側に存在する図示しない構造体からの散乱線影響を防ぐために、第6層の下側に別の素材を配置してもよい。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0040】
10 ダイヤモンド層、20 重金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドを含んだダイヤモンド層と、
重金属を含んだ重金属層と、
を有し、
前記ダイヤモンド層は、ダイヤモンドと放射線の相互作用により直接的な検出用電子等を発生し、
前記重金属層は、重金属と放射線の相互作用により得られる提供用電子等を前記ダイヤモンド層に与えることにより、前記ダイヤモンド層内に間接的な検出用電子等を発生させ、
前記直接的な検出用電子等と前記間接的な検出用電子等に基づいて放射線を検出する、
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線検出器において、
前記重金属層は、放射線の検出感度を調整する互いに異なる複数の重金属を含む、
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線検出器において、
複数のダイヤモンド層と、
前記複数の重金属の各々に対応した重金属層からなる複数の重金属層と、
を有する、
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】
請求項3に記載の放射線検出器において、
第1のダイヤモンド層と、
原子番号の小さい重金属に対応した第1の重金属層と、
原子番号の大きい重金属に対応した第2の重金属層と、
第2のダイヤモンド層と、
前記原子番号の大きい重金属に対応した第3の重金属層と、
第3のダイヤモンド層と、
を有する、
ことを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線検出器において、
前記原子番号の小さい重金属は銅であり、
前記原子番号の大きい重金属は金である、
ことを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−191255(P2011−191255A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59360(P2010−59360)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2010年春季<第57回>応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」(DVD−ROM)2010年3月3日、社団法人応用物理学会発行
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】