説明

放射線照射装置

【課題】本発明の目的は、患部に対して適正量の放射線を照射し、且つ患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、患部性状に応じた放射線照射領域を設定した上で当該患部に放射線を照射することのできる放射線照射装置を提供することである。
【解決手段】本発明の放射線照射装置では、治療用X線発生源2が、互いに直交する2つの回転軸を備えた回転機構13を介して支持台12に固定される。治療用X線発生源2から出射されるX線は、回転機構13によって、その照射軸が照射対象患部の中心が位置されるアイソセンタに向くように指向制御される。また、治療用X線発生源2は、それとは独立に、位置決め機構11を介して支持台12に対して2軸方向に位置調整される。これら2つの機構による調整により、X線の照射軸と支持台に固定されているマルチリーフコリメータの中心軸とがアイソセンターに指向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線照射装置、特に放射線治療に用いる放射線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線照射装置では、電子ビームを電子加速装置により加速し、加速された電子ビームを当該電子加速装置の出口端部に配設されるX線ターゲット(W、Ta等の高原子番号材またはW−Re等の高原子番号材合金)に照射し、その際制動放射現象により発生したX線を治療等に用いている。当該X線は、電子ビーム条件(加速エネルギ、電流量、入射角度)及びX線ターゲットの材質物性(原子番号、形状)により定まる強度分布で、X線ターゲットから出射される。通常、放射線照射装置で使用される電子ビームのエネルギーは、6〜20MeV程度であり、当該エネルギーを有する電子ビームがX線ターゲットに垂直に入射した場合、その強度分布は電子ビームの入射方向に対して最大強度を有する対称系となる。即ち、電子ビーム軸とX線軸とは同一となる。
【0003】
患部への適正量照射の遂行及び周辺健全組織への照射量低減を図るために、放射線照射装置の治療用X線発生源から照射されるX線は、患部性状に応じた照射領域の設定がなされた上で、患部に照射されることが必要である。患部性状に応じた照射領域の設定を行う手段として、一般にマルチリーフコリメータ(MLC)が使用される。マルチリーフコリメータは、放射線照射装置の治療用X線発生源と患者との間に設置され、各々独立に移動可能な複数のリーフを有している。マルチリーフコリメータでは、境界線を挟んで対向するリーフの組が、それぞれ境界線に沿って複数隣接して配置される。そして、当該境界線を挟んで対向するリーフそれぞれを、当該境界線に対して出し入れすることにより、治療用X線発生源と患者との間において、患部性状に応じた照射空間となる開口部を形成する。マルチリーフコリメータに備わるそれぞれのリーフは、治療用X線発生源から照射されるX線の強度を必要限度以下(具体的には照射利用X線の1/1000以下)に減衰させるために十分な実効的厚さを有している。
【0004】
リーフそれぞれの配置位置は、例えばリーフ位置が全開時の開口部重心位置を原点とし、リーフの移動方向に平行な平面内において各リーフの移動に対して平行方向及び垂直方向に対して基本軸(X/Y軸)を設定した際の、当該座標指定により行う。治療行為に先立ち別途事前に作成する治療計画では、治療用X線発生源から照射されるX線の各照射角度毎に、それぞれのリーフの配置座標位置が決定される。そして、治療時に、患部性状再評価結果に基づき、最終的なリーフの配置位置が決定される。
【0005】
ここで、X線の照射対象部位である患部の絶対位置と、マルチリーフコリメータのリーフそれぞれにより形成される開口部との相対位置を最適化させる必要がある。従来技術においては、ガントリ中心と患部中心がほぼ一致するようにカウチ位置が調整される。即ち、ガントリ中心を基準とした絶対座標系を構築することにより前記合致が図られていた。その際、X線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸(リーフの移動面(XY面)の原点(重心)を通り、リーフの移動面に対して垂直な軸)とが一致するように、治療用X線発生源に対してマルチリーフコリメータが機械的に接続される。これにより、マルチリーフコリメータの中心軸に対して対称なX線強度分布を得ることができ、治療計画をより簡易なものとすることが可能となる。このことは、例えばX線強度分布をトップフラットにするためのフラットニングフィルタの使用の有無とは関係なく成立する。
【0006】
しかし、治療用X線発生源における電子ビームの照射軸と電子ビーム加速装置の中心軸とが、各電極配置及び加速管本体における歪のために必ずしも精度よく一致しないといった問題がある。それ故、X線の照射軸に対するマルチリーフコリメータの相対的配置が、所望の関係からずれる場合があった。
【0007】
また、上記した従来技術では、初期段階でX線の照射軸と、マルチリーフコリメータの中心軸とが一致するように調整されていても、自重による機械構造物形状、組み合わせ配置に経時的変化が生じるため、長期に亘り当該同等性を維持できるとは限らない。即ち、電子ビーム加速装置とマルチリーフコリメータの双方で機械的嵌合を図るのみでは、X線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸との相関を明確に取ることはできない。このことは、例えば、治療用X線の出射強度分布が、マルチリーフコリメータの中心軸に対して非対称となることを意味する。このように、従来技術において行われていた、X線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸との機械的位置合わせのみでは、治療計画とおりに照射条件を設定しても患部に対する適正な治療効果を得られないばかりでなく、周辺健全組織へ悪影響を及ぼす可能性があった。
【0008】
上記した技術に関連して、以下に示す提案がなされている。
【0009】
特開2004−97646号公報に開示されている「放射線照射装置」では、被検体の治療野へ治療用放射線を照射する放射線照射ヘッドと、被検体の治療野に診断用X線を照射するX線源と、被検体を透過した診断用X線の透過X線を検出して診断画像データとして出力するセンサアレイとを備え、センサアレイは、放射線照射ヘッドの移動に連動して動く放射線照射装置が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−97646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、被照射対象部位に対して適正量の放射線を照射し、且つ被照射対象部位外の領域への放射線照射量の低減を図るために、被照射対象部位の形状に応じた放射線照射領域を設定した上で放射線を照射することのできる放射線照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用する番号・符号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであるが、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0013】
本発明に係る放射線照射装置(100)は、X線を出射する放射線発生装置(2)と、放射線発生装置に対してX線出射方向側に配置され、出射されたX線の照射野を調整するマルチリーフコリメータ(8)と、マルチリーフコリメータに対する放射線発生装置の相対的な配置を調整する配置調整部(11、13)と、位置調整部の動作を制御する制御部(300)と、を具備する。
【0014】
上記の放射線照射装置(100)において、配置調整部は、マルチリーフコリメータの開口部に対する前記放射線発生装置の相対的な位置を、マルチリーフコリメータの開口面に平行な方向でずらして調整する位置調整部(11)、を有する。
【0015】
上記の放射線照射装置(100)において、配置調整部は、マルチリーフコリメータの開口面に対する放射線発生装置の相対的な角度を調整する角度調整部(13)、を有する。
【0016】
上記の放射線照射装置(100)において、角度調整部は、放射線発生装置を、第1の回転軸と前記第1の回転軸方向と垂直な方向である第2の回転軸との周りに回動自在とする回転機構(13)を有している。
【0017】
上記の放射線照射装置(100)において、位置調整部は、放射線照射装置を、前記マルチリーフコリメータの開口面に平行な方向へ移動させる。
【0018】
上記の放射線照射装置(100)は、更に、放射線照射装置により照射されたX線を検出する検出器(6)を具備する。制御部は、検出器により検出されたX線の強度分布の対称性と、予め決められた対称性の許容範囲と、を比較する。制御部は、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっていない場合には、角度調整部を駆動して、放射線発生装置とマルチリーフコリメータとの角度を調整する。制御部は、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合には、位置調整部を駆動して、放射線発生装置とマルチリーフコリメータとの相対位置を調整する。
【0019】
上記の放射線照射装置(100)において、制御部は、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合に、X線の強度分布の強度中心が、マルチリーフコリメータに対して設定された位置合わせ用の基準軸であるマルチリーフコリメータ中心軸(8e)上に位置するように、放射線発生装置の位置を調整する。
【0020】
上記の放射線照射装置(100)において、放射線発生装置は、電子ビームを発生させる電子銃(2e)と、電子銃によって発生した電子ビーム(2b)の進行方向に配置され、電子ビームの衝突に応じてX線を発生させるX線ターゲット(2c)と、を有する。配置調整部は、前記電子ビームの軌道を調整する電子ビーム軌道調整部(200a、200b)、を有する。電子ビーム軌道調整部により、電子ビームがX線ターゲットへ入射する際の位置と角度が調整される。
【0021】
上記の放射線照射装置(100)において
前記電子ビーム軌道調整部は、ステアリングコイル(200a、200b)である
【0022】
上記の放射線照射装置(100)において、更に、放射線発生装置が取り付けられるガントリ(1)と、ガントリとX線照射軸及びマルチリーフコリメータと、の角度を調整するガントリ角度調整部(16)、を具備することが好ましい。
【0023】
上記の放射線照射装置(100)において、更に、回転対称型の開口を有し、マルチリーフコリメータ中心軸に同心となるように配置されたスリット(15)を具備する。検出部は、前記スリットを通過したX線を検出する。
【0024】
上記の放射線照射装置(100)において、スリットは、着脱自在である。制御部が、X線の強度分布の対称性を予め決められた対称性との許容範囲と比較する際には、単一のスリットが取り付けられる。一方、制御部が、前記位置調整部を駆動して、前記放射線発生装置と前記マルチリーフコリメータとの相対位置を調整する際には、複数の前記スリット(15A、1B)が取り付けられる。
【0025】
本発明に係る放射線照射装置の制御方法は、X線を出射する放射線発生装置と、放射線発生装置に対してX線出射方向側に配置され、出射されたX線の一部をカットして照射野を調整するマルチリーフコリメータと、を具備する放射線照射装置の制御方法である。マルチリーフコリメータの開口部に対する放射線発生装置の相対的ない地を、マルチリーフコリメータの開口面に平行な方項でずらして調整する位置決めステップ(ステップS70)、を具備する。
【0026】
上記の放射線照射装置の制御方法は、更に、放射線発生装置がマルチリーフコリメータの開口面に対して相対的に成す角度を調整する角度調整ステップ(ステップS70)、を具備する。
【0027】
上記の放射線照射装置の制御方法は、更に、放射線照射装置により照射されたX線を検出する検出ステップ(ステップS30)と、検出ステップにおいて検出されたX線の強度分布の対称性と、予め決められた対称性の許容範囲と、を比較する比較ステップ(ステップS40)と、を具備する。比較ステップにおいて、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっていない場合には、角度調整ステップを実施する。比較ステップにおいて、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合には、位置決めステップを実施する。
【0028】
上記の放射線照射装置の制御方法において、放射線照射装置は、更に、回転対称型の開口を有し、前記マルチリーフコリメータ中心軸の開口中心に同心となるように配置されたスリット、を具備する。検出ステップにおいて、前記スリットを通過したX線が検出される。
【0029】
上記の放射線照射装置の制御方法において、スリットは、着脱自在である。比較ステップにおいては、単一のスリットが取り付けられる。位置決めステップにおいては、複数の前記スリットが取り付けられる。
【0030】
上記の放射線照射装置の制御方法において、放射線発生装置は、更に、電子ビームを発生させる電子銃と、電子銃によって発生した電子ビームの進行方向に配置され、電子ビームの衝突に応じてX線を発生させるX線ターゲットと、を有する。角度調整ステップでは、電子ビームの軌道を調整して、電子ビームが前記X線ターゲットへ入射する際の位置と角度が調整される。
【0031】
本発明に係る放射線照射装置の制御プログラムは、上記放射線照射装置の制御方法を実現するための、コンピュータにより読み取り可能な放射線照射装置の制御プログラムである。
【0032】
本発明に係る放射線照射装置(100)は、ガントリ(1)と、ガントリに配設される取り付け台と、取り付け台に支持され、前記ガントリの内側に向けてX線を出射する放射線発生装置と、放射線発生装置に対してX線出射方向側に配置され、出射されたX線の一部をカットして照射野を調整し、前記放射線発生装置に対して固定されているマルチリーフコリメータと、ガントリと、X線の出射方向及び前記マルチリーフコリメータと、の角度を調整するガントリ角度調整部(16)と、を具備する。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、被照射対象部位に対して適正量の放射線を照射し、且つ被照射対象部位外の領域への放射線照射量の低減を図ることのできる放射線照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
添付図面を参照して、本発明による放射線照射装置を実施するための最良の形態を以下に説明する。尚、以下の説明では、放射線照射装置として、患者の患部にX線を照射して治療を行う治療装置を例とした場合について説明する。
【0035】
本発明の放射線照射装置は、放射線照射領域を設定するための基準軸と放射線の照射軸の相関を適正化することにより、事前策定とおりの性状での患部に対する放射線の照射を実現する。
【0036】
(第1の実施形態)
本発明の、第1の実施の形態に係わる放射線照射装置の概略構成を図1に、その断面構造を図2に示す。本実施の形態の放射線照射装置100は、ガントリー1と、ガントリー1に取り付けられて治療用の放射線を出射するための治療用X線発生源2と、ガントリー1の治療用X線発生源2と対向する位置に取り付けられて治療用X線発生源2から出射されるX線を検出するための検出器(FPD,CCD、MWPC、X線フィルム等)6と、ガントリー1に取り付けられて患者の体内にある患部(癌病巣部)の位置を確認するための透視画像を取得するための診断用X線発生源5と、ガントリー1の診断用X線発生源(X線管)5と対向する位置に取り付けられて診断用X線発生源5から出射されるX線を検出する検出器4と、患者を寝かせるカウチ7とを備えている。ガントリー1は円枠状である。カウチ7は、ガントリー1の円枠中心を通る位置に患者Pを寝かすように配置される。ガントリー1は、治療用X線発生源、円枠中心、及び検出器を通る直線を旋回軸として、旋回回転を行うように形成されている。ガントリー1に取り付けられて治療用の放射線を放射する治療用X線発生源2は、そのX線照射軸を必要に応じて2軸の周りに回動して指向角を制御することの出来るジンバル構造3を有している。治療用X線発生源2は、ガントリー1の円枠上を走行可能に設けられている。また、本実施の形態に係わる放射線照射装置100は、CPUおよび記憶部等を備えた図示せぬコンピュータを有しており、当該記憶部には、本実施の形態の放射線照射装置を動作させるための放射線照射装置制御用プログラムが予め格納されている。これにより、本実施の形態に係わる放射線照射装置100は、治療用X線発生源2から出射されるX線照射軸の方向制御、および患者の載置されているカウチ7の位置制御を行う。
【0037】
本実施の形態に係わる放射線照射装置100では、アイソセンターを原点としたシステム座標系が設定される。上記したアイソセンターは、ガントリー7の円枠中心を通り円枠平面に直交する軸とガントリー7の旋回軸との交点に設定されており、治療用X線発生源2の放射線放射軸、診断用X線発生源(X線管)5からの放射線放射軸は、全てこのアイソセンターにおいて1点に交わるように設定される。また、放射線照射に先立ち、に、患者Pの患部中心がアイソセンターに来るようにカウチ7の位置が調整される。そして、治療用X線発生源2から照射されるX線の照射軸は、アイソセンターを通るように調整される。
【0038】
また、本実施の形態においては、患部性状に応じた放射線照射領域を設定して患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、治療用X線発生源2と患部との間にマルチリーフコリメータ(MLC)8を備えている。本実施の形態における、治療用X線発生源2とマルチリーフコリメータ(MLC)8との概略構成を図3に示す。治療用X線発生源2において、電子銃から出射された電子ビーム2bは、電子ビーム加速装置2a中を通過する間にエネルギーを得て加速され、電子ビーム加速装置2aの終端部に機械的に接続されているX線ターゲット2cに衝突する。X線ターゲット2cからは、制動放射により、例えば図5に示されるような電子ビーム入射方向とX線出射角度分布との関係に基づいて、電子ビームと同一の照射軸を有するX線9が発生する。X線ターゲット2cで発生したX線9は、図3に示されるように、治療用X線発生源2と患部との間に配置されているマルチリーフコリメータ(MLC)8により、患部性状に応じて照射領域を制限される。尚、マルチリーフコリメータ8とX線ターゲット2cとの間にフラットニングフィルタ(図示せず)が設けられる場合もある。マルチリーフコリメータ(MLC)8は、図4に示されるように、照射軸方向から見ると、マルチリーフコリメータ(MLC)8の重心を通る境界線(Y軸8cに平行な線)を挟んで対向し、各々独立に移動可能なリーフ8aを境界線に沿って複数有している。そして、当該境界線に対して対向するリーフ8aそれぞれを移動させることにより、治療用X線発生源2と患部との間において、患部性状に応じた形状の照射空間である開口部8bを形成する。
【0039】
ここで、図6に示されているように、治療用X線発生源2において電子銃の設置角度にズレ(θ)が生じると、電子ビーム2bがX線ターゲット2cに対して斜めに衝突し、X線ターゲット2cから制動放射により発生するX線の中心軸は、X線検出器6に対して斜めになる。この結果、X線検出器6上でのX線強度分布は照射軸に対して対称とはならない。従って、実際に患部に照射されるX線の状態は、所望の状態からはずれてしまう。相対配置を一致させる為に、マルチリーフコリメータ8に軸合わせ用の軸が仮想的に設定される。以下の説明においては、軸合せ用の軸として、リーフの移動面(XY面)の原点(マルチリーフコリメータの開口部が全開の状態における重心)を通り、リーフの移動面に対して垂直な軸(以下、マルチリーフコリメータの中心軸と記載する)、を選んだ場合について説明する。
【0040】
本実施の形態に係わる放射線照射装置100においては、図7に示されるように、治療用X線発生源2とマルチリーフコリメータ8とが、それぞれガントリー1の円周位置に取り付けられて当該ガントリー上を任意角度に走行可能且つ任意位置に固定可能である支持台12に配置された構成を有している。本実施の形態に係わる放射線照射装置100においては、特に治療用X線発生源2が、互いに直交する2つの回転軸を備えた回転機構13を介して支持台12に固定される。これにより、治療用X線発生源2から出射される放射線の指向角度を支持台に対して任意の角度に制御することができる。また、治療用X線発生源2は、それとは独立に、支持台12に対して位置決め機構11を介して2軸方向に水平移動可能である。マルチリーフコリメータ8は、ガントリー1の内側に、支持台12を介して固定されている。
【0041】
本実施の形態に係わる放射線照射装置100においては、回転機構13および位置決め機構11により、治療用X線発生源2の支持台12に対する取り付け角度および相対位置を調整することにより、治療用X線発生源2から出射されるX線の照射軸と、支持台12に固定されているマルチリーフコリメータ8の中心軸とを合致させ、各々の軸をアイソセンタに向けるよう制御することが可能である。これにより、従来技術の課題であった、X線照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを合致させる際に、電子ビーム加速装置2aの中心軸と電子ビームの照射軸とが、治療用X線発生源2における各電極等の配置及び加速管本体における歪のため必ずしも精度の良いX線照射軸を見出せず、それ故X線照射軸と、マルチリーフコリメータ8の中心軸とを精度良く合致させることが出来ない問題を解決することができる。また、本実施の形態では、初期段階でX線の照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とが一致するように調整されていても、自重による機械構造物形状、組合配置の経時的変化を生じるため、長期に亘り当該同等性は担保できるとは限らなかった従来の問題を、支持台12に取り付けられた治療用X線発生源2のX線照射軸をマルチリーフコリメータ8の中心軸と一致するように調整し、各々の軸がアイソセンタに指向するよう任意の時間間隔で制御することにより解決することができる。
【0042】
このように、本実施の形態においては、患部に対して適正量の放射線を照射し、且つ患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、患部性状に応じた放射線照射領域を設定した上で当該患部に放射線を照射することのできる放射線照射装置を提供することができる。
【0043】
(実施の形態1の動作原理)
以下、図8に基づいて、本実施の形態の動作フローを説明する。本実施の形態に係わる放射線照射装置が起動すると、本実施の形態に係わる放射線照射装置100に備わるコンピュータのCPUが、記憶部に予め格納されている放射線照射装置制御用プログラムを読み込んで実行する。放射線照射装置制御用プログラムが実行されると、CPUは、患部に対して適正量の放射線を照射し、且つ、患部性状に応じた放射線照射領域を設定して患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、下記の方法でX線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを同一に調整する。
【0044】
初めに、支持台12に固定されているマルチリーフコリメータ(MLC)8の境界線を挟んで対向するリーフをそれぞれ移動させて開口部を全開の形態とする(ステップS10)。次に、X線照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを同一に調整するためのX線を出射する(ステップS20)。そして、検出器6にてX線の強度分布を測定する(ステップS30)。ステップS30の評価結果に基づいて、X線の強度分布が許容可能な対称性を有しているかどうかの判断がなされる(ステップS40)。ステップS40において、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内ではないと判断された場合、回転機構13に備えられている駆動部が駆動して、支持台12に対する治療用X線発生源2の支持角度が調整され、治療用X線発生源2のX線照射軸の向きが許容範囲に収まるように再設定される(ステップS60)。一方、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内であると判断された場合、支持台12に取り付けられた治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とのアイソセンターに指向される軸の相対位置のズレが、予め規定されている許容範囲に収まっているかどうかの判断が行われる(ステップS50)。ステップS50において、現行の治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内ではないと判断された場合、支持台12に固定された治療用X線発生源2は、位置決め機構11に備えられる駆動部が駆動することにより、支持台に対して2軸方向に位置調整され、これによりX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内になるよう再設定される(ステップS70)。一方、現行の治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内であると判断された場合、治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とのアイソセンターに指向させるための一連の動作が終了する。この動作が終了した後、当該境界線に対して対向するリーフ8aそれぞれを移動させることにより、治療用X線発生源と患者との間において、患部性状に応じた形状の照射空間である開口部8bが形成され、治療計画に基づいた放射線治療が開始される。尚、リーフ8aそれぞれの移動に際しては、リーフの移動面(XY面)の重心を原点として、この原点を基準としてリーフ8aの移動量が決定されてもよいし、リーフの移動面(XY面)の重心以外の点を原点としてリーフ8aの移動量が決定されてもよい。
【0045】
このように、本実施の形態に係わる放射線照射装置100により、X線の照射軸と、マルチリーフコリメータの中心軸とを精度良く合致させることができる。また、初期段階でX線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とが一致するように調整されていても、自重による機械構造物形状、組み合わせ配置に経時的変化が生じるため、長期に亘り当該同等性を維持できなかったものが、本実施の形態により、任意の時間間隔で実施した校正結果に基づき両軸の向きを適宜制御することにより、常に両軸を精度良く合致しつづけることが出来る。これにより、治療計画に基づいて照射条件を設定し、常に患部に対して適正な治療効果を得ることが出来る。
【0046】
尚、本実施の形態においては、回転機構13により角度を調整した後に、位置決め機構11により治療用X線発生源をずらして軸を合わせる場合について説明を行ったが、角度を調整した後に、リーフ8aそれぞれの移動量を補正することで、マルチリーフコリメータの開口部の位置を調整してもよい。このようにしても、X線照射軸と、マルチリーフコリメータの開口部との相対配置を所望の関係とすることができる。この場合、位置決め機構11が不要となるので、小型軽量化となり、更に低コスト化も達成される。
【0047】
また、マルチリーフコリメータ8とX線ターゲット2cとの間にフラットニングフィルタを用いた場合、X線9の強度分布は、ガウス分布のような急峻なピークを持つものとはならないが、対称性の評価を行えるほどの勾配は有している。
【0048】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係わる放射線照射装置の概略構成を図9に示す。本実施の形態に係わる放射線治療の基本的な構成は、実施の形態1のそれと同じである。但し、本実施の形態に係わる放射線照射装置は、マルチリーフコリメータ8と患者の照射線照射対象となる患部との間に、さらにスリット15を備えている。本実施の形態に備わるスリット15は、放射線のビームの照射領域を物理的に遮蔽することにより、回転対称とする形状形態を備えており、マルチリーフコリメータ8で照射領域を絞られた照射線の迷光成分をカットする。
【0049】
本実施の形態においては、スリット15を一枚構成とせずに、図10に示されるように、例えば2枚構成などの複数構成としても良い。スリットを、例えばスリット1(15A)およびスリット2(15B)の2枚構成とすることで、X線の強度分布が対称からズレた場合においても補正ができるほか(図11参照)、スリット全体の重量を軽減することができる。
【0050】
このように、本実施の形態により、実施の形態1に示した作用効果に加えて、患部に対してさらに高精度で制御された適正量の放射線を照射し、且つ患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図ることができる。
【0051】
(実施の形態2の動作原理)
図12に示される動作フローに基づいて、本実施の形態に係わる放射線照射装置の動作原理について説明する。本実施の形態に係わる動作の基本原理は、実施の形態1におけるそれと同じである。但し、本実施の形態においては、マルチリーフコリメータ8と照射対象となる患者の患部との間に、さらにスリット15を取り付ける工程が追加される。
【0052】
本実施の形態に係わる放射線照射装置が起動すると、本実施の形態に係わる放射線照射装置に備わるコンピュータのCPUが、記憶部に予め格納されている放射線照射装置制御用プログラムを読み込んで実行する。放射線照射装置制御用プログラムが実行されると、CPUは、患部に対して適正量の放射線を照射し、且つ、患部性状に応じた放射線照射領域を設定して患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、下記の方法でX線照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを同一に調整する。
【0053】
初めに、マルチリーフコリメータと照射対象となる患者の患部との間に、自動あるいは手動にてスリット15が取り付けられる。そして、マルチリーフコリメータの境界線を挟んで対向するリーフをそれぞれ移動させて開口部を全開の形態とする(ステップS100)。次に、X線照射軸をマルチリーフコリメータの中心軸に一致させるためのX線が治療用X線発生源2から出射される(ステップS20)。そして、検出器6にてX線の強度分布を測定する(ステップS30)。ステップS30の評価結果に基づいて、X線の強度分布が許容可能な対称性を有しているかどうかの判断がなされる(ステップS40)。ステップS40において、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内ではないと判断された場合、回転機構13に備えられている駆動部が駆動して、支持台12に対して治療用X線発生源2の取り付け角度が調整され、治療用X線発生源2のX線照射軸の向きが再設定される(ステップS60)。一方、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内であると判断された場合、支持台12に取り付けられた治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とのアイソセンターに指向される軸の相対位置のズレが、予め規定されている許容範囲に収まっているかどうかの判断が行われる(ステップS50)。ステップS50において、現行の治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内ではないと判断された場合、支持台12に固定された治療用X線発生源2は、位置決め機構11に備えられる駆動部が駆動することにより、支持台に対して2軸方向に位置調整され、これによりX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内になるよう再設定される(ステップS70)。一方、現行の治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内であると判断された場合、治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とのアイソセンターに指向させるための一連の動作が終了する。この動作が終了した後、当該境界線に対して対向するリーフ8aそれぞれを1次元的に出し入れすることにより、治療用X線発生源と患者との間において、患部性状に応じた形状の照射空間である開口部8bが形成され、治療計画に基づいた放射線治療が開始される。
【0054】
このように、本実施の形態に係わる放射線照射装置により、実施の形態1に示される作用効果のほか、患部に対してさらに高精度で制御された適正量の放射線を照射し、且つ患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図ることができる。これは、マルチリーフコリメータによる照射線の照射領域の位置決めでは、機械精度(例:歯車ピッチ)による限界があり、ある程度(数百μmオーダ)以上の合わせ精度を求めることはできない。しかし、マルチリーフコリメータの開口部に相当する回転対称形のアパーチャ(本実施の形態におけるスリット)を別途設置することで、機械加工精度(数μmオーダ)で同様な対応が可能となる。
【0055】
(実施の形態3)
本実施の形態に係わる放射線照射装置の概略構成は、実施の形態2におけるそれと同様である。但し、本実施の形態においては、支持台12に支持されている治療用X線発生源2の支持台12に対する取り付け角度を調整する際には1枚構成のスリット15を備え、一方、支持台12に対する水平位置を調整する際には2枚構成のスリット15Aおよびスリット15Bを備えている。
【0056】
(実施の形態3の動作原理)
本実施の形態に係わる放射線照射装置の動作原理を図13に示す動作フローに基づいて説明する。本実施の形態の放射線照射装置が起動すると、実施の形態1および2と同様に、コンピュータのCPUが、記憶部に予め格納されている放射線照射装置制御用プログラムを読み込んで実行する。放射線照射装置制御用プログラムが実行されると、CPUは、患部に対して適正量の放射線を照射し、且つ、患部性状に応じた放射線照射領域を設定して患部周辺健全組織への放射線照射量の低減を図るために、下記の方法でX線照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを同一に調整する。
【0057】
初めに、マルチリーフコリメータの境界線を挟んで対向するリーフをそれぞれ移動させて開口部を全開の形態とする(ステップS200)か、マルチリーフコリメータと照射対象となる患者の患部との間に、自動あるいは手動にて1枚構成のスリット15が取り付けられて、その後に、マルチリーフコリメータの開口部が全開にされる(ステップS210)かのいずれか一方のステップが選択される。次に、X線照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを同一に調整するためのX線を出射する(ステップS220)。そして、検出器6にてX線の強度分布を測定する(ステップS230)。ステップS230の評価結果に基づいて、X線の強度分布が許容可能な対称性を有しているかどうかの判断がなされる(ステップS240)。ステップS240において、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内ではないと判断された場合、回転機構13に備えられている駆動部が駆動して、支持台12に対する治療用X線発生源2の支持角度が調整され、治療用X線発生源2のX線照射軸の向きが許容範囲になるように再設定される(ステップS300)。一方、現行のX線の照射軸の向きが許容範囲内であると判断された場合、X線の照射が停止される(ステップS250)。そして、現在マルチリーフコリメータと照射対象となる患者の患部との間に取り付けられている1枚構成のスリット15が取り外され、それに代わって多段型のスリット(ここでは2枚構成であるスリット1(15A)とスリット2(15B))が取り付けられる(ステップS260)。多段型スリットの取り付けが終了すると、再度治療用X線発生源2からX線が出射される(ステップS270)。そして、検出器6において、X線の強度分布が検出される(ステップS280)。検出器6で検出された当該X線の強度分布データに基づいて、当該強度分布が最大強度になっているかどうかの評価がなされ(ステップS290)、ステップS290において、現行の治療用X線発生源2から出射されているX線の強度分布が最大ではないと判断された場合、支持台12に固定された治療用X線発生源2は、位置決め機構11に備えられる駆動部が駆動することにより、支持台に対して水平な2軸方向に位置調整され、これにより治療用X線発生源2から出射されているX線の強度分布が、検出器6の検出面において最大となるよう再設定される(ステップS310)。一方、現行の治療用X線発生源2から出射されているX線の強度分布が最大であると判断された場合、治療用X線発生源2のX線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とを一致させるための一連の動作が終了する。この動作が終了した後、当該境界線に対して対向するリーフ8aそれぞれを1次元的に出し入れすることにより、治療用X線発生源と患者との間において、患部性状に応じた形状の照射空間である開口部8bが形成され、治療計画に基づいた放射線治療が開始される。
【0058】
本実施の形態においては、検出器6におけるX線強度の評価時に、小口径の2枚のスリット15A、15Bが、同心軸に対してそれぞれ垂直になるように設置される。スリットそれぞれの厚さ及び材質は、X線をスリット開口内と比較して有意量以上低減させるものとする。本実施の形態においては、X線を出射させて、同心軸(これは既にX線軸と平行で且つマルチリーフコリメータの中心軸と一致)で平行な2枚のスリットを通して出射されたX線の強度を計測して最も当該値が大きくなるようにX線発生部の位置を調整することにより、X線軸とマルチリーフコリメータの中心軸とを一致させている。特に、実施の形態2においては、X線検出器6で検出したX線に関し絶対座標が求められることが前提であった。しかし、現実的には数百μm程度の精度を求めるのは必ずしも容易でない場合もある。これに対し、本実施の形態では、スリットを2ヶ設置するという簡易な上記方法を用いることにより、両軸を一致させる調整を高精度で実施することが可能となる。
【0059】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係わる放射線照射装置の、治療用X線発生部2およびマルチリーフコリメータ8の概略構成を図14に示す。本実施の形態に係わる放射線照射装置の基本構成は、実施の形態1から3までに示したものと同等である。但し、本実施の形態においては、実施の形態1から3までに備えられていた回転機構13と位置決め機構11とを備えず、代わりに、磁場を発生させて治療用X線発生源2における電子ビームの進行方向を制御することのできる2組のステアリングコイル200aおよび200bを備えている。本実施の形態において、マルチリーフコリメータは、治療用X線発生部2に対して相対位置が固定されている。
【0060】
本実施の形態において、2組のステアリングコイル200aおよび200bは、図14に示されるように、各々電子ビームに対して、その進行方向と垂直な方向に各々直交する磁場を発生するように配置される。2組のステアリングコイル200aおよび200bに各々直流電流を流すことにより、2組のステアリングコイル200aおよび200bは、電子ビームの進行方向に対して概ね垂直で、直交する2方向(図15における、BxおよびBy方向)にそれぞれ磁場を生成する。そして、それぞれのコイルに流す電流量及び通電方向を調整することにより、BxおよびBy方向の磁場の強度及び方向を変化させる。これにより、電子ビームの軌道にローレンツ力に基づく偏向を加えることで、電子ビームのX線ターゲットへの入射角度及び相対位置を制御する。
【0061】
本実施の形態においては、電子ビームとX線ターゲットとの相対位置の調整を機械的にではなく、電子ビームの進行方向に対して垂直な直交する2方向に制御することの出来る磁場を用いて行うことにより、X線ターゲットから制動放射されるX線の照射軸の角度、およびX線の照射軸とマルチリーフコリメータの中心軸との相対位置の最適化を図る。これにより、支持台12に対して治療用X線発生源2の首振り角度、および水平相対位置の調整のために備えられていた回転機構13および位置決め機構11を不要とする。
【0062】
なお、本実施の形態においては、2組のステアリングコイル200aおよび200bに基づいて、電子ビームのX線ターゲットへの入射角度及び相対位置の制御をする説明を行ったが、ステアリングコイルは、2組以上を備えて細かく制御しても構わない。また、電子ビームの進行経路におけるどの位置の側面に対向させて配置しても構わない。さらに、ステアリングコイルは単段式のものでなくとも、電子ビームの進行経路に沿った多段式のものでも良い。また、電子ビームを偏向させるたに、ステアリングコイルを例示したが、同様の磁場を発生させることの可能な機能を備えたものであれば、配置されるのはステアリングコイルに限定されない。更に、支持台12に対して治療用X線発生源2の首振り角度、および水平相対位置の調整のために備えられていた回転機構13および位置決め機構11と併用することも構わない。
【0063】
本実施の形態は、実施の形態1から3までの全てに適用可能である。本実施の形態により、上記したように回転機構13および位置決め機構11が不要となり、実施の形態1から3までに記載したそれぞれの作用効果に加えて、構成要素の簡略化、つまり製品としての軽量化と製造コストの低減が実現する。
【0064】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5に係わる放射線照射装置の、治療用X線発生部2およびマルチリーフコリメータ8の概略構成を図16に示す。本実施の形態に係わる放射線照射装置の基本構成は、実施の形態1に示したものと同等である。但し、本実施の形態においては、マルチリーフコリメータ8と治療用X線発生部2との配置が、固定部材16によって相対的に固定されている。この固定体(マルチリーフコリメータ8と治療用X線発生部2)とガントリー1との相対配置が、回転機構16によって調整される。即ち、回転機構16は、マルチリーフコリメータ8と治療用X線発生部の角度を調整するのではなく、ガントリー1に対する固定体の角度を調整する。また、実施の形態4と同様に、ステアリングコイル200a及び200bが追加されている。ステアリングコイル200a及び200bにより、X線照射軸とマルチリーフコリメータ8との相対的な配置(角度及び位置)が調整される。
【0065】
(実施の形態5の動作原理)
本実施の形態に係わる放射線照射装置の動作原理を図17に示す動作フローに基づいて説明する。本実施の形態に関わる動作の基本原理は、実施の形態1におけるそれと同じである。但し、本実施の形態においては、ステアリングコイルの設定を評価する工程(ステップS01)と、取り付け角度の調整で対応可能か否かを判断する工程(ステップS45)と、が追加される。
【0066】
まず、ステアリングコイル200a及び200bをガントリー1に取り付ける前に、ステアリングコイル200a及び200bの評価が行われる。この評価は、ステアリングコイルに電流を流していない状態で既に電子ビームの入射角度、位置がずれていた場合には、このずれを補正するのに必要な電流量を求めておく必要があることから行われる。この評価結果に基いて、ステアリングコイル補正値が算出される。そして、ステアリングコイル補正値に基いて、ステアリングコイル200a及び200bがガントリー1に搭載される。尚、ステアリングコイルの評価は、ガントリーに搭載された後に行われてもよい。
【0067】
続いて、実施の形態1と同様に、マルチリーフコリメータ8が全開にされる(ステップS10)。更に、X線が出射される(ステップS20)。出射されたX線が検出され、X線の強度分布が測定される(ステップS30)。ステップS30の評価結果に基いて、X線の強度分布の対称性が評価される(ステップS40)。
【0068】
ステップS40において、対称性が許容範囲外であった場合には、角度の調整で対応可能かどうかの判断が行われる(ステップS45)。角度の調整で対応不可能であると判断された場合には、再びステップS01に戻り、ステアリングコイルの設定評価が行われる。一方、角度の調整で対応可能であると判断された場合には、ステアリングコイルにより、電子ビームのX線ターゲットへの入射角度が調整される(ステップS60)。そして、再度ステップS30の強度分布の評価が実施される。
【0069】
ステップS40において、対称性が許容範囲内であった場合には、X線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸とのズレがが許容範囲内かどうかの判断が行われる(ステップS50)。ステップS50において、許容範囲外と判断された場合は、ステアリングコイルにより、電子ビームのX線ターゲットへの入射位置が調整され、X線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との相対位置のズレが許容範囲内になるよう再設定される(ステップS70)。再設定された後に、再びステップS30へ戻り、X線の強度分布が評価される。一方、ステップS50において、許容範囲内と判断された場合には、X線照射軸とマルチリーフコリメータ8の中心軸との軸合わせに関する一連の動作が終了する。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態に依れば、回転機構16によって、マルチリーフコリメータ8及び治療用X線発生部2の固定物の、ガントリー1に対する相対的な配置が調整される。よって、ガントリー1自体が、機器の重量により変形したとしても、X線照射軸をアイソセンタへ指向させることができる。また、マルチリーフコリメータ8の中心軸と、X線照射軸と、の相対的な配置関係(角度及び位置)は、ステアリングコイル200a、200b、によって調整される。よって、ガントリー1に対する固定体(マルチリーフコリメータ及び治療用X線発生部)の相対配置を調整した上で、更に、マルチリーフコリメータ8と治療用X線発生部2との相対配置を調整することができる。
【0071】
尚、マルチリーフコリメータ8とX線照射軸との相対配置(角度及び位置)を調整するにあたり、ステアリングコイル200a及び200bに替えて、回転機構13及び位置決め機構11を用いてもよい。別の回転機構13及び位置決め機構11によって、マルチリーフコリメータ8に対する治療用X線発生部の相対配置(角度及び位置)を調整すれば、ステアリングコイルを用いたときと同様の作用効果を奏することは、当業者にとっては自明的である。
【0072】
また、ステアリングコイル200a及び200bに替えて、X線ターゲットと、電子ビーム加速装置との相対配置を可変にする構成としてもよい。このような構成は、例えば、X線ターゲットと、電子ビーム加速装置とをフレキシブル材料で接続することで行うことができる。X線ターゲットと電子ビーム加速装置との相対配置を調整することにより、上述のステアリングコイル200aを用いた場合や、別の回転機構13及び位置決め機構11を設けた場合と同様に、X線照射軸を、マルチリーフコリメータ中心軸に一致させることができる。
【0073】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6に係わる放射線照射装置の、治療用X線発生部2およびマルチリーフコリメータ8の概略構成を図18に示す。本実施の形態に係わる放射線照射装置の基本構成は、実施の形態1から3に示したものと同等である。但し、本実施の形態においては、マルチリーフコリメータ8は、治療用X線発生部2に対して、固定部材16によって相対的に固定されている。
【0074】
マルチリーフコリメータ8が治療用X線発生部2に固定されているので、回転機構16が駆動すると、固定体(治療用X線発生部2及びマルチリーフコリメータ8)と、ガントリー1との角度が調整される。
【0075】
ガントリー1には、多数の機器が固定される為に、機器の重量による負担がかかる。本実施の形態に依れば、ガントリ−1に対する固定体の角度が調整されるので、例え機器の重量により、ガントリー1自体が変形したとしても、X線照射軸をアイソセンタに向けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置の断面を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置のマルチリーフコリメータの開口形態の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源における電子ビーム入射方向とX線出射角度分布との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源における電子ビーム入射角度のズレ量と、それに伴うX線検出器上におけるX線強度分布との関係を示す図である。
【図7】実施の形態1に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図8】実施の形態1に係わる放射線照射装置の動作フローを示す図である。
【図9】実施の形態2に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図10】実施の形態2に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図11】実施の形態2に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源における電子ビーム照射位置ズレと、それに伴うX線検出器上におけるX線強度分布との関係を示す図である。
【図12】実施の形態2に係わる放射線照射装置の動作フローを示す図である。
【図13】実施の形態3に係わる放射線照射装置の動作フローを示す図である。
【図14】実施の形態4に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図15】図14におけるコイルの配置形態の一例を、電子ビームの射出方向から見た図である。
【図16】実施の形態5に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【図17】実施の形態5に係わる放射線照射装置の動作フローを示す図である。
【図18】実施の形態6に係わる放射線照射装置の治療用X線発生源とマルチリーフコリメータとの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1…ガントリー
2…治療用X線発生源
2a…電子ビーム加速装置
2b…電子ビーム
2c…X線ターゲット
2d…X線中心軸
2e…電子銃
3…ジンバル構造
4…検出器
5…診断用X線発生源
6…X線検出器
7…カウチ
8…マルチリーフコリメータ(MLC)
8a…リーフ
8b…開口部
8c…Y軸(境界線)
8d…X軸
8e…マルチリーフコリメータ中心軸
9…X線
10…利用線錐
11…位置決め機構
12…支持台
13…回転機構
14…コリメータ
15…スリット
15A…スリット1
15B…スリット2
16…回転機構
100…放射線照射装置
200a…コイルA
200b…コイルB
300…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を出射する放射線発生装置と、
前記放射線発生装置に対してX線出射方向側に配置され、出射されたX線の一部をカットして照射野を調整するマルチリーフコリメータと、
前記マルチリーフコリメータに対する前記放射線発生装置の相対的な配置を調整する配置調整部と、
前記配置調整部の動作を制御する制御部と、
を具備する
放射線照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載された放射線照射装置であって、
前記配置調整部は、
前記マルチリーフコリメータの開口部に対する前記放射線発生装置の相対的な位置を、前記マルチリーフコリメータの開口面に平行な方向でずらして調整する位置調整部、
を有する
放射線照射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された放射線照射装置であって、
前記配置調整部は、
前記マルチリーフコリメータの開口面に対する前記放射線発生装置の相対的な角度を調整する角度調整部
を有する
放射線照射装置。
【請求項4】
請求項3に記載された放射線照射装置であって、
前記角度調整部は、前記放射線発生装置を、第1の回転軸と前記第1の回転軸方向と垂直な方向である第2の回転軸との周りに回動自在とする回転機構を有している
放射線照射装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された放射線照射装置であって、
前記位置調整部は、前記放射線照射装置を、前記マルチリーフコリメータの開口面に平行な方向へ移動させる
放射線照射装置。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれかに記載された放射線照射装置であって、
更に、
前記放射線照射装置により照射されたX線を検出する検出器
を具備し、
前記制御部は、
前記検出器により検出されたX線の強度分布の対称性と、予め決められた対称性の許容範囲と、を比較し、
検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっていない場合には、前記角度調整部を駆動して、前記放射線発生装置と前記マルチリーフコリメータとの角度を調整し、
検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合には、前記位置調整部を駆動して、前記放射線発生装置と前記マルチリーフコリメータとの相対位置を調整する
放射線照射装置。
【請求項7】
請求項6に記載された放射線照射装置であって、
前記制御部は、
検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合に、X線の強度分布の強度中心が、前記マルチリーフコリメータに対して設定された位置合わせ用の基準軸であるマルチリーフコリメータ中心軸上に位置するように、前記放射線発生装置の位置を調整する
放射線照射装置。
【請求項8】
請求項1に記載された放射線照射装置であって、
前記放射線発生装置は、
電子ビームを発生させる電子銃と、
前記電子銃によって発生した電子ビームの進行方向に配置され、電子ビームの衝突に応じてX線を発生させるX線ターゲットと、
を有し、
前記配置調整部は、
前記電子ビームの軌道を調整する電子ビーム軌道調整部、
を有し、
前記電子ビーム軌道調整部により、前記電子ビームが前記X線ターゲットへ入射する際の位置と角度が調整される
放射線照射装置。
【請求項9】
請求項8に記載された放射線照射装置であって、
前記電子ビーム軌道調整部は、ステアリングコイルである
放射線照射装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載された放射線照射装置であって、
更に、
前記放射線発生装置が取り付けられるガントリと、
前記ガントリと、前記X線の出射方向及び前記マルチリーフコリメータと、の角度を調整するガントリ角度調整部
を具備する
放射線照射装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載された放射線照射装置であって、
更に、
回転対称型の開口を有し、前記マルチリーフコリメータ中心軸に同心となるように配置されたスリット
を具備し、
前記検出部は、前記スリットを通過したX線を検出する
放射線照射装置。
【請求項12】
請求項11に記載された放射線照射装置であって、
前記スリットは、着脱自在であり、
前記制御部が、X線の強度分布の対称性を予め決められた対称性との許容範囲と比較する際には、単一の前記スリットが取り付けられ、
前記制御部が、前記位置調整部を駆動して、前記放射線発生装置と前記マルチリーフコリメータとの相対位置を調整する際には、複数の前記スリットが取り付けられる
放射線照射装置。
【請求項13】
X線を出射する放射線発生装置と、前記放射線発生装置から出射されたX線の照射野を調整するマルチリーフコリメータと、を具備する放射線照射装置の制御方法であって、
前記マルチリーフコリメータの開口部に対する前記放射線発生装置の相対的な位置を、前記マルチリーフコリメータの開口面に平行な方向でずらして調整する位置決めステップ、を具備する
放射線照射装置の制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載された放射線照射装置の制御方法であって、
更に、
前記放射線発生装置が前記マルチリーフコリメータの開口面に対して相対的に成す角度を調整する角度調整ステップ、
を具備する
放射線照射装置の制御方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載された放射線照射装置の制御方法であって、
更に、
前記放射線照射装置により照射されたX線を検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおいて検出されたX線の強度分布の対称性と、予め決められた対称性の許容範囲と、を比較する比較ステップと、
を具備し、
前記比較ステップにおいて、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっていない場合には、前記角度調整ステップを実施し、
前記比較ステップにおいて、検出されたX線の強度分布の対称性が許容範囲に収まっている場合には、前記位置決めステップを実施する
放射線照射装置の制御方法。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれかに記載された放射線照射装置の制御方法であって、
前記放射線照射装置は、更に、回転対称型の開口を有し、前記マルチリーフコリメータ中心軸の開口中心に同心となるように配置されたスリット、を具備し、
を具備し、
前記検出ステップにおいて、前記スリットを通過したX線が検出される
放射線照射装置の制御方法。
【請求項17】
請求項16に記載された放射線照射装置の制御方法であって、
前記スリットは、着脱自在であり、
前記比較ステップにおいては、単一の前記スリットが取り付けられ、
前記位置決めステップにおいては、複数の前記スリットが取り付けられる
放射線照射装置の制御方法。
【請求項18】
請求項13乃至17のいずれかに記載された放射線照射装置の制御方法であって、
前記放射線発生装置は、更に、電子ビームを発生させる電子銃と、前記電子銃によって発生した電子ビームの進行方向に配置され、電子ビームの衝突に応じてX線を発生させるX線ターゲットと、を有し、
前記角度調整ステップでは、
前記電子ビームの軌道を調整して、前記電子ビームが前記X線ターゲットへ入射する際の位置と角度が調整される
放射線照射装置の制御方法。
【請求項19】
請求項12乃至18のいずれかに記載された放射線照射装置の制御方法を実現するための、コンピュータにより読み取り可能な放射線照射装置の制御プログラム。
【請求項20】
ガントリと、
前記ガントリに配設される取り付け台と、
前記取り付け台に支持され、前記ガントリの内側に向けてX線を出射する放射線発生装置と、
前記放射線発生装置に対してX線出射方向側に配置され、出射されたX線の一部をカットして照射野を調整し、前記放射線発生装置に対して固定されているマルチリーフコリメータと、
前記ガントリと、X線の出射方向及び前記マルチリーフコリメータと、の角度を調整するガントリ角度調整部と、
を具備する
放射線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−267971(P2007−267971A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97619(P2006−97619)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】