説明

放射線画像撮影装置および方法

【課題】放射線画像を補正することなく、また装置のコストを増大させることなく、放射線源と放射線検出器とのアライメントエラーに起因する放射線画像の濃度ムラを低減する。
【解決手段】濃度ムラ検出部2cが、撮影により取得した放射線画像の濃度ムラを検出する。アライメント取得部2dが、各種の濃度ムラとアライメントとの関係を規定するテーブルを参照して、検出された濃度ムラに対応するアライメントを取得する。表示制御部2eが、アライメントをモニタ3に表示する。これにより、操作者は、放射線源と放射線検出器とのアライメントを確認し、必要であれば、アライメントを修正できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源から被写体に向けて照射された放射線を放射線検出器で検出することにより被写体の放射線画像を取得する放射線画像撮影装置および方法に関し、とくに放射線検出器が放射線源に固定されていない状態で撮影を行う放射線画像撮影装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野等において、被写体を透過した放射線の照射により被写体に関する放射線画像を記録する放射線検出器(いわゆる「Flat Panel Detector」 以下、FPDとする)が各種提案、実用化されている。
【0003】
また、放射線画像の撮影時には、被検体により散乱された放射線が放射線検出器に照射されないように、被検体と放射線検出器との間にグリッドを配置して撮影を行うことがある。グリッドを用いて撮影を行うと被検体により散乱された放射線が放射線検出器に照射されにくくなるため、放射線画像のコントラストを向上させることができる。また、検出面にグリッドを取り付けた放射線検出器も提案されている。
【0004】
一方、グリッドには平行グリッドと収束グリッドとがあり、収束グリッドは、最適な放射線源から放射線検出器までの距離(SID)が定められている。したがって、収束グリッドを使用する場合、定められたSIDにて撮影を行うことにより、良好に散乱線を除去することができる。
【0005】
また、放射線検出器を用いた放射線撮影装置としては、放射線源と放射線検出器とを対向させて撮影装置本体に一体的に固定させたものが提案されている。また、撮影装置本体には放射線源のみを取り付け、放射線検出器を被写体のベッド上に設置して被写体の撮影を行うようにした装置も提案されている。後者の装置は、移動が容易であるため、とくに回診用の撮影装置として用いられている。
【0006】
ところで、放射線撮影装置とは別体に構成された放射線検出器を用いて撮影を行う場合、ベッドに寝ている被写体の背面に放射線検出器を設置した状態で、コリメータに設けられた照射野ランプを点灯し、放射線の照射範囲が被写体の撮影部位と一致するように放射線源の位置を調整することとなる。
【0007】
しかしながら、コリメータに備えられたランプの光によって放射線照射範囲を設定しても、放射線検出器は被写体を挟んで放射線源と反対側に位置するため、ランプの光が直接放射線検出器に照射されない。このため、放射線照射範囲の中心と放射線検出器の中心との位置合わせは、操作者の目視に頼る必要があることから、放射線照射範囲の中心と放射線検出器の中心との位置合わせを精度よく行うことができない。また、グリッドを用いて撮影を行う場合、グリッドの中心を通る垂線に対して放射線の光軸が傾くアライメントエラーが生じた状態にあると、取得された放射線画像にグリッドに起因する濃度ムラが生じることとなる。
【0008】
このため、撮影により取得した放射線画像において、放射線の照射が放射線検出器の全領域に対して均一であれば略等濃度になる領域を検出し、その領域の画素値を用いて放射線画像の画素値を補正する手法(特許文献1参照)、撮影オーダに応じて濃度ムラの補正値を保持しておき、放射線画像の濃度ムラを撮影オーダに応じて補正する手法(特許文献2参照)、および放射線画像における放射線が直接照射された部分の濃度差を求め、濃度差がしきい値以上の場合に濃度ムラが大きいとして濃度ムラを補正する手法(特許文献3参照)が提案されている。また、ジグを撮影し、撮影画像に含まれるジグの濃度から、撮影時の撮影面の傾きを算出し、算出した傾きに応じて放射線画像を補正する手法も提案されている(特許文献4参照)。特許文献1〜4に記載された手法によれば、放射線画像の濃度ムラを補正することにより、高画質の放射線画像を取得することができる。
【0009】
また、放射線源の近傍にセンサのトランスミッタを、放射線検出器にセンサのレシーバを取り付け、磁気センサを動作させて放射線検出器の位置を検出し、これを表示して操作者に放射線源と放射線検出器との位置の補正を行わせる手法が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−5373号公報
【特許文献2】特開2005−270260号公報
【特許文献3】特開2002−345801号公報
【特許文献4】特開平7−8474号公報
【特許文献5】特開2010−119485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜4に記載された濃度ムラを補正する手法では、放射線画像の濃度が変更されることとなるため、補正された放射線画像において病変を確認できなくなるおそれがある。例えば、胸部の放射線画像の場合、左右の一方の肺野に水がたまると肺野の濃度が左右で異なるものとなるが、その濃度差が濃度ムラとして検出されると、左右の肺野の濃度が同一となるように放射線画像が補正されてしまうため、放射線画像を見ても病気を発見することができなくなってしまう。
【0012】
また、特許文献5に記載された手法は、撮影装置にセンサを設ける必要があるため、装置の構成が煩雑となり、また装置のコストも増大する。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、放射線画像を補正することなく、また装置のコストを増大させることなく、放射線源と放射線検出器とのアライメントエラーに起因する放射線画像の濃度ムラを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による放射線画像撮影装置は、放射線源を有する撮影装置本体と、
前記撮影装置本体とは別体に構成された、グリッドが一体化された放射線検出器によって、前記放射線源から被写体に向けて照射された放射線を検出することにより、前記被写体の放射線画像を取得する放射線画像取得手段と、
前記放射線画像の濃度ムラを検出する濃度ムラ検出手段と、
前記濃度ムラに基づいて、前記放射線検出器に対する前記放射線源のアライメントを取得するアライメント取得手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0015】
「アライメント」とは、放射線源から発せられる放射線の光軸が、放射線検出器の検出面を通る垂線となす角度を意味する。なお、本発明において使用される放射線検出器は、グリッドが一体化されているため、アライメントとしては、放射線源から射出される放射線の光軸が、放射線検出器と一体化されたグリッドの放射線入射面、とくに放射線入射面の中心を通る垂線となす角度としてもよい。
【0016】
グリッドとしては、被写体により散乱された放射線が、放射線検出器に照射されないように、例えば10本/mm程度の細かなピッチで放射線の透過しない鉛等と透過しやすいアルミニウムや木材等とが交互に配置されて構成されているものを用いることができる。
【0017】
なお、本発明による放射線画像撮影装置においては、各種の前記濃度ムラと前記アライメントとの関係を規定するテーブルを記憶する記憶手段をさらに備えるものとし、
前記アライメント取得手段を、前記テーブルを参照して、前記検出された濃度ムラに対応するアライメントを取得する手段としてもよい。
【0018】
また、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記取得したアライメントを通知する通知手段をさらに備えるものとしてもよい。
【0019】
また、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記アライメントが所定範囲を超えた場合に警告を行う警告手段をさらに備えるものとしてもよい。
【0020】
また、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記濃度ムラ検出手段を、前記前記放射線画像の前記被写体が撮影された領域中の、前記放射線の照射が前記放射線検出器の全領域に対して均一であれば略等濃度になる領域を取得し、該取得した領域の画素値を用いて前記濃度ムラを検出する手段としてもよい。
【0021】
この場合、前記放射線画像を、人体の胸部正面放射線画像とし、
前記濃度ムラ検出手段を、前記胸部正面放射線画像中の、胸郭の左右の外輪郭部に存在する肋骨の重なりが撮影された領域を前記略等濃度になる領域として取得する手段としてもよい。
【0022】
また、本発明による放射線画像撮影装置においては、前記グリッドを平行グリッドとしてもよい。
【0023】
本発明による放射線画像撮影方法は、放射線源を有する撮影装置本体と、
前記撮影装置本体とは別体に構成された、グリッドが一体化された放射線検出器によって、前記放射線源から被写体に向けて照射された放射線を検出することにより、前記被写体の放射線画像を取得する放射線画像取得手段とを備えた放射線画像撮影装置における放射線画像撮影方法であって、
前記放射線画像の濃度ムラを検出し、
前記濃度ムラに基づいて、前記放射線検出器に対する前記放射線源のアライメントを取得することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、放射線源から被写体に向けて照射された放射線を放射線検出器で検出することにより取得された放射線画像の濃度ムラが検出され、検出された濃度ムラに基づいて、放射線検出器に対する放射線源のアライメントを取得するようにしたものである。このため、取得されたアライメントに基づいて、放射線源から発せられる放射線の光軸が、放射線検出器の検出面の中心を通る垂線、さらにはグリッドの放射線入射面の中心を通る垂線と一致するように、操作者は、放射線源のアライメントおよび放射線源と放射線検出器との相対的な位置を調整することができる。したがって、放射線画像を補正しなくても、放射線源と放射線検出器とのアライメントエラーに起因する放射線画像の濃度ムラをなくすことができるため、放射線画像を用いた診断を正確に行うことができる。また、放射線源と放射線検出器との位置関係を検出するセンサを設ける必要もないため、装置の構成を簡易なものとすることができるとともに、装置のコストを低減できる。
【0025】
ここで、平行グリッドを使用した場合、グリッドのピッチに直交する方向においては、放射線検出器の端部ほど放射線の線量が低下する。このため、例えば胸部の放射線画像を取得する場合、左右の肺の濃度差をなくすためには、左右の肺の中心位置、すなわち被写体である患者の胸の中心位置に放射線の光軸を一致させる必要がある。本発明においては、放射線の光軸が患者の胸の中心と一致するように、放射線源のアライメントおよび放射線源と放射線検出器との相対的な位置を調整することができるため、とくに胸部の放射線画像を撮影する場合において、左右の肺の濃度差を改善することができる。
【0026】
また、各種の濃度ムラとアライメントとの関係を規定するテーブルを参照して、検出された濃度ムラに対応するアライメントを取得することにより、簡易な演算により迅速にアライメントを取得することができる。
【0027】
また、アライメントを通知することにより、操作者は通知されたアライメントに応じて、放射線源のアライメントおよび放射線源と放射線検出器との相対的な位置を調整することができる。
【0028】
また、アライメントが所定範囲を超えた場合に警告を行うことにより、操作者は警告に応答して、迅速に放射線源のアライメントおよび放射線源と放射線検出器との相対的な位置を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態による放射線画像撮影装置の概略構成を示す図
【図2】放射線の照射角度の変更を説明するための図
【図3】図1に示す放射線画像撮影装置のコンピュータ内部の概略構成を示すブロック図
【図4】放射線画像の例を示す図
【図5】本実施形態において行われる処理を示すフローチャート
【図6】アライメントの警告表示を示す図
【図7】アライメントの数値の通知を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態による放射線画像撮影装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態による放射線画像撮影装置1は、移動型の装置であり、移動台車11の上に放射線画像撮影装置1の制御を行う制御装置12が搭載されている。制御装置12はコンピュータ2と、コンピュータ2に接続されたモニタ3および入力部4とを備えている。なお、図1においては、コンピュータ2、モニタ3および入力部4は、説明のために制御装置12の外部に接続されているように示されているが、制御装置12に搭載されてなるものである。
【0031】
移動台車11には、支柱13が移動台車11に対して垂直に旋回可能に取り付けられている。支柱13には支柱13に沿って上下方向および支柱13の長さ方向に対して垂直方向へ移動可能な線源支持アーム14が設けられている。線源支持アーム14の回転、上下方向および支柱13に対する垂直方向の移動は、支柱13に組み込まれたアームコントローラ31により制御される。
【0032】
一方、線源支持アーム14の先端には放射線照射部15が取り付けられている。放射線照射部15内には放射線源16と、放射線源コントローラ32とが収納されている。また、放射線照射部15の下部には、放射線の照射範囲を設定するためのコリメータ17が取り付けられている。
【0033】
なお、コリメータ17には照射野ランプ(不図示)が設けられており、撮影準備のためのポジショニングを行う際には照射野ランプを点灯することにより、被写体に対する放射線の照射範囲を設定することが可能となっている。
【0034】
放射線源コントローラ32は、放射線源16から放射線を照射するタイミングと、放射線源16における放射線発生条件(管電流、時間、管電流時間積等)を制御するものである。
【0035】
なお、放射線照射部15は、放射線の照射角度を任意に変更するための移動機構19を介して、線源支持アーム14に角度を変更可能に取り付けられる。放射線照射部15の角度の変更は移動機構19に組み込まれた角度コントローラ33により制御される。これにより、放射線照射部15は、図2に示すように、放射線の照射角度θを任意に変更可能とされている。ここで、放射線の光軸が放射線検出器20の検出面に対して垂直となった状態を、照射角度=0度とし、放射線の光軸が放射線検出器20の検出面の垂線に対して傾いているときのその傾きを表す角度を斜入角度(アライメント)と称するものとする。
【0036】
ここで、放射線の照射角度は図1,2における紙面に平行な方向の角度のみならず、任意の方向に変更することができるが、本実施形態においては、図1,2における紙面に平行な方向(すなわち後述するグリッド24のピッチの方向)のみにおいて、放射線の照射角度を変更するものとする。
【0037】
このような移動式の放射線画像撮影装置1は、通常は病院内の所定場所に留め置かれる。そして、ベッド21に寝ている被写体22について、放射線画像の撮影が必要となったときに、放射線画像撮影装置1は病室内へ移動され、ベッド21上の被写体22の放射線撮影に供される。
【0038】
放射線画像撮影装置1には、放射線検出器20が固定支持されておらず、放射線検出器20は撮影者によって台車に搭載され、もしくは単体で持ち運ばれ、病室へ搬送される。そして、放射線検出器20は、放射線画像の撮影時に、ベッドに横たわった被写体22とベッド21との間に設置される。そして、放射線検出器20は、移動台車11の移動によって被写体22の撮影部位へ位置決めされた放射線照射部15から発せられ、被写体22を透過した放射線を検出する。
【0039】
なお、図1においては、ベッド21上に放射線検出器20を載置し、その上に被写体22を横臥させたが、放射線検出器20はベッド21に内蔵されていてもよい。
【0040】
放射線検出器20は、放射線画像の記録と読み出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線検出器を用いるようにしてもよい。また、放射線画像信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフさせることによって放射線画像信号が読み出される、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0041】
また、放射線検出器20は、放射線の検出面にグリッド24が取り付けられており、これにより、放射線検出器20とグリッド24とが一体化されている。グリッド24は、被写体22により散乱された放射線が、放射線検出器20に照射されないように、例えば10本/mm程度の細かなピッチで放射線の透過しない鉛等と透過しやすいアルミニウムや木材等とが交互に配置されて構成されているものを用いることができる。なお、グリッド24としては、平行グリッドおよび収束グリッドのいずれを用いてもよいが、本実施形態においては、平行グリッドを用いるものとする。
【0042】
放射線検出器20は、ケーブル26を介してあるいは無線により制御装置12と接続される。制御装置12には、放射線検出器20からの電荷信号の読み出しを制御する検出器コントローラ34が備えられている。また、制御装置12の内部には、放射線検出器20から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部等が設けられた回路基板等も設置されている。
【0043】
コンピュータ2は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイス等を備えており、これらのハードウェアによって、図3に示すような制御部2a、放射線画像記憶部2b、濃度ムラ検出部2c、アライメント取得部2d、および表示制御部2eが構成されている。なお、制御部2aは、本発明における警告手段としても機能する。
【0044】
制御部2aは、各種のコントローラ31〜34に対して所定の制御信号を出力し、システム全体の制御を行うものである。具体的な制御方法については後述する。
【0045】
放射線画像記憶部2bは、放射線検出器20によって取得された放射線画像信号を記憶するものである。
【0046】
濃度ムラ検出部2cは、放射線検出器20によって取得された放射線画像信号に基づく放射線画像の濃度ムラを検出する。
【0047】
具体的には、濃度ムラ検出部2cは、放射線画像の被写体が撮影された領域中の、放射線の照射が放射線検出器20の全領域に対して均一であれば略等濃度になる領域を取得する。例えば図4に示すように、放射線画像が人体の胸部正面放射線画像である場合、胸部正面放射線画像中の、胸郭の左右の外輪郭部に存在する肋骨の重なりが撮影された領域A(図中白抜きでの実線で囲まれた領域)を略等濃度になる領域として取得する。
【0048】
なお、この略等濃度になる領域は自動で検出してもよく、操作者による略等濃度になる領域を特定する情報を入力部4から受け付け、その情報に基づいて略等濃度になる領域を取得するものであってもよい。ここで、略等濃度になる領域を特定する情報は、その情報から直接的に等濃度になる領域が定まるような情報であり、例えば、等濃度になる領域として特定したい領域が一意的に決まるよう、その領域を囲むように指定された幾つかの点の位置情報、塗りつぶしで等濃度になる領域として指定された領域の情報等を含む。
【0049】
略等濃度になる領域として肋骨の重なりが撮影された領域を自動検出する場合には、例えば特開2003−6661号公報に記載されている手法を用いて、右肺外側輪郭、右肺内側輪郭、右肺下側輪郭、左肺外側輪郭、左肺内側輪郭、左肺下側輪郭で囲まれた領域を決定し、決定した領域の左右の輪郭から外側に、肋骨の重なりが撮影された領域が一般的に有する程度の幅の領域を抽出することによりその肋骨の重なりが撮影された領域を取得する。また、ここで説明した取得方法に限らず、他の手法を用いて取得するようにしてもよい。
【0050】
そして、濃度ムラ検出部2cは、取得された略等濃度になる領域の画素値を用いて放射線画像の濃度ムラを近似したムラデータを作成する。このため、濃度ムラ検出部2cは、例えば下記の式(1)のように、略等濃度になる領域の画像信号を近似した線形モデルZ´(x, y)を作成する。ここで、定数a、b、cは、例えば最小二乗法により最も確からしい線形モデルZ´(x, y)を構成するように選ばれたパラメータである。具体的には、略等濃度になる領域内の各画素の画素値A(x, y) とZ´(x, y)との差の2乗和が最も小さくなるようなパラメータを探索して求める。
【数1】

【0051】
次に、その求められたパラメータa,bおよび放射線画像の中心の座標(xc, yc)を用いて、下記の式(2)のように、放射線画像の水平方向xおよび垂直方向yにおける濃度ムラを近似した線形モデルZ(x, y)をムラデータとして作成する。
【数2】

【0052】
アライメント取得部2dは、ムラデータに基づいて、放射線源16から射出される放射線の光軸が、放射線検出器20の検出面の中心(グリッド24の放射線入射面の中心)を通る垂線となす角度、すなわち斜入角度を、アライメントとして取得する。本実施形態においては、コンピュータのストレージデバイスに、各種の濃度ムラと斜入角度すなわちアライメントとの関係を規定するテーブルが記憶されており、アライメント取得部2dは、濃度ムラ検出部2cが検出した濃度ムラに基づいて、テーブルを参照してアライメントを取得する。
【0053】
ここでテーブルは、被写体22がいない状態で、斜入角度を種々変更しつつ放射線検出器20に放射線を照射し、これにより取得した放射線画像信号に基づく放射線画像に対して、上記式(1)、(2)を用いてムラデータを作成し、斜入角度とムラデータとを対応づけることにより作成される。
【0054】
なお、各種斜入角度と放射線検出器との位置関係、および放射線線量の関係に基づいて、ムラデータを演算により算出することが可能であるため、各種車入角度とムラデータとの関係を演算により算出してテーブルを作成するようにしてもよい。
【0055】
表示制御部2eは、放射線画像信号に基づく放射線画像をモニタ3に表示したり、アライメント取得部2dが取得したアライメントをモニタ3に表示したりするものである。
【0056】
入力部4は、例えば、キーボードやマウス等のポインティングデバイスから構成されるものであり、モニタ3に表示された放射線画像内の異常陰影等の位置をカーソルにより指定可能に構成されたものである。また、入力部4は、操作者による撮影条件等の入力や操作指示の入力等を受け付けるものである。
【0057】
モニタ3は、表示制御部2eからの指示により、放射線画像信号に基づく放射線画像を表示したり、アライメント取得部2dが取得したアライメントを表示したりする。
【0058】
次いで、本実施形態において行われる処理について説明する。図5は本実施形態において行われる処理を示すフローチャートである。
【0059】
本実施形態による放射線画像撮影装置1により被写体の放射線画像を撮影するに際しては、撮影準備として、まず、放射線画像撮影装置1を病院内の所定場所から被写体22のいる病室内のベッドサイドへ移動する。そして、被写体22の撮影部位の中心が放射線検出器20の中心と一致するように、目視で概略の位置合わせをして被写体22の背後に放射線検出器20を設置する。さらに、移動台車11の位置の微調整、支柱13の旋回の微調整、線源支持アーム14の上下方向および垂直方向の位置の微調整、並びに放射線照射部15の角度の微調整等を行って、放射線照射範囲の中心(すなわち放射線の光軸)を、被写体22の撮影部位の中心に合わせる(ポジショニング:ステップST1)。この際、目視にて、放射線検出器20と一体化されたグリッド24の中心が、被写体22の撮影部位の中心、すなわち放射線照射範囲の中心と一致するように、ポジショニングが行われる。
【0060】
具体的には、操作者が入力部4を操作してポジショニングの指示がなされると、制御部2aがポジショニングを行うべく、アームコントローラ31および角度コントローラ33に対して制御信号を出力する。これにより、線源支持アーム14の上下方向および垂直方向の位置の微調整、並びに放射線照射部15の角度の微調整が行われる。なお、移動台車11の位置の微調整および支柱13の旋回の微調整は、操作者が移動台車11を移動したり、支柱13を旋回したりすることにより行われる。
【0061】
次に、操作者は入力部4を操作して、プレショット撮影を行う(ステップST2)。プレショット撮影は、通常よりも低い線量の放射線を被写体22に照射することにより行われる。具体的には、まず制御部2aが、プレショット撮影を行うべく、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ34に対してプレショット用の低線量の放射線の照射と放射線画像信号の読み出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源16から放射線が射出され、被写体の放射線画像が放射線検出器20によって検出され、検出器コントローラ34によって放射線画像信号が読み出され、その放射線画像信号に対して所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部2bに、プレショット画像の放射線画像信号として記憶される。
【0062】
次に、濃度ムラ検出部2cにより、プレショット画像の濃度ムラが検出される(ステップST3)。具体的には、上述したように、濃度ムラを近似した線型モデルZ(x,y)をムラデータとして作成する。なお、プレショット画像は、低線量にて被写体22を撮影することにより取得されるため、ノイズが多い。しかしながら、濃度ムラは、画像全体の濃度の傾向を表すものであるため、ノイズが多くても濃度ムラは正確に検出可能である。
【0063】
そして、アライメント取得部2dにより、ムラデータに基づいてテーブルが参照されて、アライメントが取得される(ステップST4)。制御部2aは、取得されたアライメントが所定のしきい値Th1以上であるか否かを判定する(ステップST5)。なお、しきい値Th1は、撮影により取得される放射線画像の濃度ムラが許容できる範囲内となるように設定される。ステップST5が肯定されると、制御部2aは、プレショット画像およびアライメントをモニタ3に表示する(ステップST6)。この際、アライメントがしきい値Th1を超えていることから、アライメントを修正する必要がある旨の警告表示を併せて行う。なお、警告表示としては、図6に示すように、アライメントがしきい値を越えてアライメントエラーが発生していることを文字にて表示するものであってもよく、音声を伴うものであってもよい。また、音声のみにより警告を行うようにしてもよい。
【0064】
さらに、図7に示すように、例えば「時計回り方向に2度」というように、アライメントの数値を通知するようにしてもよい。これにより、操作者は、アライメントの修正の角度を知ることができるため、アライメントの修正を容易に行うことができる。
【0065】
一方、ステップST5が否定されると、制御部2aは警告表示なしでプレショット画像およびアライメントをモニタ3に表示する(ステップST7)。
【0066】
操作者はプレショット画像を見て、被写体22のポジショニングを確認するとともに、アライメントを確認する。そして、ポジショニングの修正の指示が入力部4からなされると(ステップST8肯定)、ステップST1に戻り、再度のポジショニングが行われる。
【0067】
この際、まず、放射線の光軸が放射線検出器20の検出面と垂直となるように、目視により放射線照射部15の角度を修正し、次いで、目視により放射線の光軸がグリッド24の中心と一致するように、移動台車11の位置の微調整、支柱13の旋回の微調整、並びに線源支持アーム14の上下方向および垂直方向の位置の微調整の少なくとも1つを行えばよい。また、必要に応じて、放射線照射部15の角度の修正および移動台車11の位置等の微調整を繰り返し行うようにしてもよい。
【0068】
ステップST8が否定され、さらに操作者が入力部4を操作して本撮影の指示がなされると(ステップST9肯定)、本撮影を行う(ステップST10)。本撮影は、通常線量の放射線を被写体22に照射することにより行われる。具体的には、まず制御部2aが、本撮影を行うべく、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ34に対して本撮影用の照射と放射線画像信号の読み出しを行うよう制御信号を出力する。この制御信号に応じて、放射線源16から放射線が射出され、被写体の放射線画像が放射線検出器20によって検出され、検出器コントローラ34によって放射線画像信号が読み出され、その放射線画像信号に対して所定の信号処理が施された後、コンピュータ2の放射線画像記憶部2bに、本撮影による放射線画像の放射線画像信号として記憶される。
【0069】
撮影により取得された放射線画像はモニタ4に表示されて、診断に供される(ステップST11)。
【0070】
このように、本実施形態によれば、プレショット撮影により取得した放射線画像の濃度ムラを検出し、検出した濃度ムラに基づいて、放射線検出器20に対する放射線源16のアライメントを取得するようにしたものである。このため、取得されたアライメントに基づいて、放射線源16から発せられる放射線の光軸が、放射線検出器20の検出面の中心を通る垂線、さらにはグリッド24の放射線入射面の中心を通る垂線と一致するように、操作者は、放射線源16のアライメントおよび放射線源16と放射線検出器20との相対的な位置を調整することができる。したがって、放射線画像を補正しなくても、放射線源16と放射線検出器20とのアライメントエラーに起因する放射線画像の濃度ムラをなくすことができるため、放射線画像を用いた診断を正確に行うことができる。また、放射線源16と放射線検出器20との位置関係を検出するセンサを設ける必要もないため、装置の構成を簡易なものとすることができるとともに、装置のコストを低減できる。
【0071】
ここで、平行グリッドを使用した場合、グリッド24のピッチの方向においては、放射線検出器20の端部ほど放射線の線量が低下する。このため、例えば胸部の放射線画像を取得する場合、左右の肺の濃度差をなくすためには、左右の肺の中心位置、すなわち被写体22の胸の中心位置に放射線の光軸を一致させる必要がある。本実施形態においては、放射線の光軸が被写体22の胸の中心と一致するように、放射線源16のアライメントおよび放射線源16と放射線検出器20との相対的な位置を調整することができるため、とくに胸部の放射線画像を撮影する場合において、左右の肺の濃度差を改善することができる。
【0072】
また、各種の濃度ムラとアライメントとの関係を規定するテーブルを参照して、検出された濃度ムラに対応するアライメントを取得しているため、簡易な演算により迅速にアライメントを取得することができる。
【0073】
また、アライメントをモニタ3に表示して操作者に通知するようにしたため、操作者は通知されたアライメントに応じて、放射線源16のアライメントおよび放射線源16と放射線検出器20との相対的な位置を調整することができる。
【0074】
また、アライメントが所定のしきい値Th1を超えた場合に警告を行うことにより、操作者は警告に応答して、迅速に放射線源16のアライメントおよび放射線源16と放射線検出器20との相対的な位置を調整することができる。
【0075】
なお、上記実施形態においては、アライメント取得部2dはテーブルを参照してアライメントを取得しているが、濃度ムラを入力としアライメントを出力とする関数を表す演算式を記憶しておき、この演算式を用いてアライメントを算出することにより取得するようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態においては、プレショット撮影を行い、プレショット画像を用いてアライメントを算出しているが、プレショット撮影を行うことなく、本撮影を行い、本撮影により取得した放射線画像を用いてアライメントを取得してもよい。この場合、その撮影により取得した放射線画像については、濃度ムラを含む可能性があるため、撮影をし直してもよく、その撮影については濃度ムラを許容し、次回以降の撮影時にはポジショニングを適切に行うことにより、濃度ムラのない放射線画像を取得することが可能となる。
【0077】
また、上記実施形態においては、グリッド24として平行グリッドを用いているが、収束グリッドを用いるようにしてもよい。ここで、収束グリッドは、使用可能なSIDが定められているため、使用可能なSIDとなるように、放射線源、被写体および放射線検出器のポジショニングを行う必要がある。
【0078】
なお、収束グリッドを用いた場合、SIDが適切でないと、取得される放射線画像にグリッドに起因する周期的なノイズが発生する。このため、この周期的なノイズを検出し、検出したノイズを周波数解析することにより、SIDを算出することが可能である。この場合、算出したSIDを表示して、どの程度SIDを修正すればよいかを操作者に知らせることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 放射線画像撮影装置
2 コンピュータ
2a 制御部
2b 放射線画像記憶部
2c 濃度ムラ検出部
2d アライメント取得部
2e 表示制御部
3 モニタ
4 入力部
11 移動台車
12 制御装置
13 支柱
14 線源支持アーム
15 放射線照射部
16 放射線源
17 コリメータ
20 放射線検出器
21 ベッド
22 被写体
24 グリッド
31 アームコントローラ
32 放射線源コントローラ
33 角度コントローラ
34 検出器コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源を有する撮影装置本体と、
前記撮影装置本体とは別体に構成された、グリッドが一体化された放射線検出器によって、前記放射線源から被写体に向けて照射された放射線を検出することにより、前記被写体の放射線画像を取得する放射線画像取得手段と、
前記放射線画像の濃度ムラを検出する濃度ムラ検出手段と、
前記濃度ムラに基づいて、前記放射線検出器に対する前記放射線源のアライメントを取得するアライメント取得手段とを備えたことを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項2】
各種の前記濃度ムラと前記アライメントとの関係を規定するテーブルを記憶する記憶手段をさらに備え、
前記アライメント取得手段は、前記テーブルを参照して、前記検出された濃度ムラに対応するアライメントを取得する手段であることを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影装置。
【請求項3】
前記取得したアライメントを通知する通知手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2記載の放射線画像撮影装置。
【請求項4】
前記アライメントが所定範囲を超えた場合に警告を行う警告手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項5】
前記濃度ムラ検出手段は、前記前記放射線画像の前記被写体が撮影された領域中の、前記放射線の照射が前記放射線検出器の全領域に対して均一であれば略等濃度になる領域を取得し、該取得した領域の画素値を用いて前記濃度ムラを検出する手段であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項6】
前記放射線画像が、人体の胸部正面放射線画像であり、
前記濃度ムラ検出手段は、前記胸部正面放射線画像中の、胸郭の左右の外輪郭部に存在する肋骨の重なりが撮影された領域を前記略等濃度になる領域として取得する手段であることを特徴とする請求項5記載の放射線画像撮影装置。
【請求項7】
前記グリッドが平行グリッドであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の放射線画像撮影装置。
【請求項8】
放射線源を有する撮影装置本体と、
前記撮影装置本体とは別体に構成された、グリッドが一体化された放射線検出器によって、前記放射線源から被写体に向けて照射された放射線を検出することにより、前記被写体の放射線画像を取得する放射線画像取得手段とを備えた放射線画像撮影装置における放射線画像撮影方法であって、
前記放射線画像の濃度ムラを検出し、
前記濃度ムラに基づいて、前記放射線検出器に対する前記放射線源のアライメントを取得することを特徴とする放射線画像撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−152417(P2012−152417A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14738(P2011−14738)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】