説明

放熱装置、及び、放熱方法

【課題】発熱部で発生した熱を放熱部から放出する際に、ユーザーが放熱部に触れても安全な放熱装置を提供する。
【解決手段】熱を発生する発熱部65と、発熱部で発生した熱を放出させる放熱部81と、発熱部で発生した熱により変形することで、発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させる変形部82と、を備える。これにより、発熱部65が異常な高熱を発生した場合に、その高熱によって変形部82自体が変形し、発熱部65と放熱部81との間の熱伝導率を低下させ、発熱部から放熱部への熱の移動(伝導)を制限して放熱部の過熱を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱装置、及び、放熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱部で発生した熱を放熱部から放出させることで、発熱部の冷却を行う放熱装置が知られている。このような放熱装置を備える機器の例として、ヘッドから液体を噴出して媒体上に液滴(ドット)を着弾させることで印刷を行う印刷装置がある。印刷装置を用いて印刷を行う際に、ヘッドを駆動する駆動回路や、ヘッドを移動させるためのモーターを制御するモータードライバー等の発熱部が非常に高温になる場合がある。特に、発熱部を構成するトランジスターは高温状態が継続すると故障してしまうため、適当に冷却を行う必要がある。そこで、発熱部を冷却する方法として、アルミニウム板や鉄板を用いて大気に熱を放出させる放熱部を設けておき、発熱部で発生した熱を放熱部に伝導させることで熱を放出させる方法が一般的である。
【0003】
発熱部からの放熱を効率的に行わせる例としては、通常動作時には発熱部と放熱部とが離れている印刷装置において、発熱部と放熱部との間に受熱部を設けておき、発熱部の温度が異常に高くなり放熱が必要となった場合に、該受熱部の位置を移動させて発熱部から放熱部へ熱を伝導させることで放熱を行う方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−197461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような放熱装置では、装置の構成上、ユーザーが触れる可能性がある場所に放熱部を配置せざるを得ない場合がある。
本発明では、発熱部で発生した熱を放熱部から放出する際に、ユーザーが放熱部に触れても安全な放熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、熱を発生する発熱部と、前記発熱部で発生した熱を放出させる放熱部と、前記発熱部で発生した熱により変形することで、前記発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させる変形部と、を備える放熱装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】印刷システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2Aは、本実施形態のプリンターの構成を説明する図である。図2Bは、本実施形態のプリンターの構成を説明する側面図である。
【図3】ヘッドの構造を説明するための断面図である。
【図4】比較例における放熱の様子を説明する図である。
【図5】第1実施形態における放熱ユニット80の概略図である。
【図6】第1実施形態における変形部82の組成の一例を説明する図である。
【図7】第1実施形態で変形部82の熱による変形の様子を説明する図である。
【図8】第1実施形態で変形部82が変形した場合の放熱の様子を説明する図である。
【図9】第2実施形態における放熱ユニット80の概略図である。
【図10】2実施形態における放熱の様子を説明する図である。
【図11】第2実施形態で変形部82が変形した場合の放熱の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0009】
熱を発生する発熱部と、前記発熱部で発生した熱を放出させる放熱部と、前記発熱部で発生した熱により変形することで、前記発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させる変形部と、を備える放熱装置。
このような放熱装置によれば、発熱部で発生した熱を放熱部から放出する際に、ユーザーが放熱部に触れても安全である。
【0010】
かかる放熱装置であって、前記変形部は、前記発熱部と前記放熱部との間に設けられ、前記発熱部で発生した熱を前記放熱部に伝導させることが望ましい。
このような放熱装置によれば、変形部自体を発熱部から放熱部への熱伝導媒体とすることで、該熱伝導媒体の変形によって発熱部と放熱部との熱伝導率を低下させることができる。これにより、発熱部から放熱部への熱の移動が制限されるため、放熱部の過熱を抑制することができる。
【0011】
かかる放熱装置であって、前記変形部が変形することにより、前記発熱部と前記変形部との接触領域を減少させることで前記熱伝導率を低下させることが望ましい。
このような放熱装置によれば、発熱部から変形部への熱の移動量を確実に減少させることで、放熱部への熱移動を制限し、放熱部の過熱を抑制することができる。
【0012】
かかる放熱装置であって、前記変形部が変形することにより、前記放熱部と前記変形部との接触領域を減少させることで前記熱伝導率を低下させることが望ましい。
このような放熱装置によれば、変形部から放熱部への熱の移動量を確実に減少させることで、放熱部への熱移動を制限し、放熱部の過熱を抑制することができる。
【0013】
また、発熱部で熱を発生することと、前記発熱部で発生した熱を放熱部から放出することと、変形部が前記発熱部で発生した熱により変形することで、前記発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させることと、を有する放熱方法が明らかとなる。
【0014】
===装置の基本的構成===
発明を実施する放熱装置について、画像形成装置(プリンター1)に備えられる放熱装置を例に挙げて説明する。
【0015】
<プリンターの構成>
図1は、プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
プリンター1は、紙・布・フィルム等の媒体にインクを噴出することで文字や画像を記録(印刷)するインクジェットプリンターであり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0016】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(不図示)にユーザーインターフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。また、プリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0017】
コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0018】
プリンター1は、搬送ユニット20と、キャリッジユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、放熱装置である放熱ユニット80と、を有する。なお、図1では放熱ユニット80が一つだけ設けられているが、放熱ユニット80は複数設けられていても良い。
【0019】
コントローラー60は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいて各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0020】
図2は、本実施形態のプリンター1の構成を表した図である。
搬送ユニット20は、媒体(例えば紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。ここで、搬送方向はキャリッジの移動方向と交差する方向である。搬送ユニット20は、給紙ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する(図2A及び図2B)。
【0021】
給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給紙ローラー21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。搬送モーター22の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。プラテン24は、印刷中の紙Sを、紙Sの裏側から支持する部材である。排紙ローラー25は、紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0022】
搬送モーター22は媒体を搬送する際に駆動(回転)することによって発熱する。また、搬送モーター22の駆動力を搬送ローラーに伝達するために設けられるギア輪列(不図示)も回転時の摩擦により発熱する。つまり、搬送モーター22及びギア輪列はプリンター1の発熱部であると言える。これらの発熱部に、後述する放熱部81や変形部82を設けることで、放熱ユニット80を構成することができる。
【0023】
<キャリッジユニット30>
キャリッジユニット30は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジ31を所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモーターとも言う)とを有する(図2A及び図2B)。
【0024】
キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。キャリッジモーター32の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0025】
なお、キャリッジモーター32や、キャリッジモーター32の駆動力を用いてキャリッジ31を移動させるためのギア輪列(不図示)は、キャリッジ31の移動動作時に発熱する。つまり、キャリッジモーター32及びギア輪列はプリンター1の発熱部であると言える。したがって、前述の搬送モーター22等と同様に、これらの発熱部に放熱部81や変形部82を設けることで、放熱ユニット80を構成することもできる。
【0026】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを噴出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられ、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に噴出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が紙に形成される。
【0027】
図3は、ヘッド41の構造を示した断面図である。ヘッド41は、ケース411と、流路ユニット412と、ピエゾ素子群PZTとを有する。ケース411はピエゾ素子群PZTを収納し、ケース411の下面に流路ユニット412が接合されている。流路ユニット412は、流路形成板412aと、弾性板412bと、ノズルプレート412cとを有する。流路形成板412aには、圧力室412dとなる溝部、ノズル連通口412eとなる貫通口、共通インク室412fとなる貫通口、インク供給路412gとなる溝部が形成されている。弾性板412bはピエゾ素子PZTの先端が接合されるアイランド部412hを有する。そして、アイランド部412hの周囲には弾性膜412iによる弾性領域が形成されている。インクカートリッジに貯留されたインクが、共通インク室412fを介して、各ノズルNzに対応した圧力室412dに供給される。ノズルプレート412cはノズルNzが形成されたプレートである。ノズル面では、イエローインクを吐出するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを吐出するシアンノズル列Cと、ブラックインクを吐出するブラックノズル列Kと、が形成されている。各ノズル列では、ノズルNzが搬送方向に所定間隔Dにて並ぶことによって構成されている。
【0028】
ピエゾ素子群PZTは、櫛歯状の複数のピエゾ素子(駆動素子)を有し、ノズルNzに対応する数分だけ設けられている。ヘッド制御部HCなどが実装された配線基板(不図示)を介してピエゾ素子に駆動信号COMが印加され、駆動信号COMの電位に応じてピエゾ素子は上下方向に伸縮する。ピエゾ素子PZTが伸縮すると、アイランド部412hは圧力室412d側に押されたり、反対方向に引かれたりする。このとき、アイランド部412h周辺の弾性膜412iが変形し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降することにより、ノズルからインク滴が吐出される。
【0029】
<検出器群50>
検出器群50は、プリンター1の状況を監視するためのものである。検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、紙検出センサ53、及び光学センサ54等が含まれる(図2A及び図2B)。
【0030】
リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。紙検出センサ53は、給紙中の紙Sの先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、対向する位置の紙Sの有無を検出し、例えば、移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、紙Sの先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0031】
<コントローラー60>
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、ヘッド駆動回路65と、モータードライバー66と、を有する。
【0032】
インターフェース部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御する。
【0033】
ヘッド駆動回路65はCPU62とヘッドユニット40との間で、印刷用データの転送や印刷タイミングの制御等、ヘッド駆動関係の情報のやりとりを行なう。また、ヘッド駆動回路65は、ピエゾ素子PZTを駆動する駆動信号COM(駆動波形)の生成も行なう。駆動信号COMを生成する際には、NPNトランジスター及びPNPトランジスター(共に不図示)をプッシュプルで構成した増幅器を使用して電流波形を増幅し、所望の形状の台形波を生成する。この台形波をヘッドユニット40に印加してピエゾ素子PZTへの充放電を行なう。ピエゾ素子PZTの充放電時において、該トランジスター対は非常に高い熱を発生することから、ヘッド駆動回路65はプリンター1の発熱部であると言うことができる。
【0034】
モータードライバー66は、搬送モーター22やキャリッジモーター32の回転方向、回転速度等を制御する。モータードライバー66にはトランジスターやFET(不図示)が組み込まれており、各種モーターの駆動時には該トランジスター等によって構成されるブリッジ回路を用いて電流を増幅する。その際、該トランジスターは非常に高い熱を発生することから、モータードライバー66もプリンター1の発熱部であると言うことができる。
【0035】
<放熱ユニット80>
放熱ユニット80は、前述のヘッド駆動回路65やモータードライバー66等の発熱部で発生した熱を、周囲の大気中に放出させる放熱装置である。以下、前述の発熱部のうち、印刷動作において最も高温となるヘッド駆動装置65に設けられる放熱ユニット80について説明を行なう(図1参照)。なお、放熱ユニット80は前述した複数の発熱部のそれぞれについて設けられていてもよいし、発熱部同士がなるべく近くに配置されるように設計し、各発熱部に共通の放熱ユニット80を1つだけ設けてもよい。放熱ユニット80は、熱の発生源である発熱部と、放熱部81と、変形部82とを有する。
【0036】
放熱部81はアルミニウムや鉄製の金属板であり、発熱部で発生した熱を放熱部81の
表面から周囲の大気中に放射させることで熱を逃がし、発熱部の冷却を行なう。放熱部81は大気との接触面積が大きいほど熱の放射が起こりやすくなる。つまり、表面積が大きい程、冷却性能が高くなる。図2A及び図2Bに示されるように、本実施形態において放熱部81はキャリッジ移動方向に沿った長方形の板状とすることで、表面積がなるべく広くなるようにしてある。さらに冷却性能を上げるために、放熱部81の表面にフィンを設けて表面積を大きくしてもよい。また、放熱部81が設置される場所は、周囲を囲むものがない開放された場所であることが望ましい。周囲が囲まれていると放出された熱がこもってしまい、放熱ユニット80の冷却効率が徐々に低下していくからである。本実施形態においても、放熱部81はプリンター1の他の構成要素(例えば搬送ユニット20やヘッドユニット40等)に囲まれておらず、放射された熱を周囲に逃がしやすいような位置に設置されている(図2A及び図2B参照)。
【0037】
変形部82は発熱部から発生した熱により変形することで、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させる機能を有する。そのため、変形部82は熱伝導率が高い物質で形成され、また、所定の温度以上で形状が変形する物質で形成される。例えば、粉末冶金製の平板や、形状記憶合金製の板等を用いて形成される。変形部82についての詳細は後で説明する。
【0038】
<プリンターの印刷動作>
プリンター1の印刷動作について簡単に説明する。コントローラー60は、コンピューター110からインターフェース部61を介して印刷命令を受信し、各ユニットを制御することにより、給紙処理・ドット形成処理・搬送処理等を行う。
【0039】
給紙処理は、印刷すべき紙をプリンター内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙を位置決めする処理である。コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき紙を搬送ローラー23まで送る。続いて、搬送ローラー23を回転させ、給紙ローラー21から送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。
【0040】
ドット形成処理は、移動方向(走査方向)に沿って移動するヘッドからインクを断続的に噴出させ、紙上にドットを形成する処理である。コントローラー60は、キャリッジ31を移動方向に移動させ、キャリッジ31が移動している間に、印刷データに基づいてヘッド41からインクを噴出させる。噴出されたインク滴が紙上に着弾すると、紙上にドットが形成され、紙上には移動方向に沿った複数のドットからなるドットラインが形成される。
【0041】
搬送処理は、紙をヘッドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。コントローラー60は、搬送ローラー23を回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理により、ヘッド41は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異なる位置に、ドットを形成することが可能になる。
【0042】
コントローラー60は、印刷すべきデータがなくなるまで、ドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り返し、ドットラインにより構成される画像を徐々に紙に印刷する。そして、印刷すべきデータがなくなると、排紙ローラーを回転させてその紙を排紙する。なお、排紙を行うか否かの判断は、印刷データに含まれる排紙コマンドに基づいても良い。
次の紙に印刷を行う場合は同処理を繰り返し、行わない場合は、印刷動作を終了する。
【0043】
===比較例===
まず、比較例として、変形部82がない場合、つまり放熱ユニットが発熱部と放熱部81のみで構成される場合の放熱方法について説明する。
【0044】
図4は、比較例の場合の放熱の様子を説明する図である。図ではプリント基板上にヘッド駆動回路65(発熱部)が設けられ、発熱部に接して放熱部81(放熱板)が設けられている。図中の矢印は放熱時における熱の流れを表している。また、放熱板を囲うように設置されているのは防護壁である。
【0045】
発熱部で発生した熱は図の斜線部で表される熱源を中心として四方へと発散する。発熱部はプリント基板及び放熱部81と接しているが、プリント基板は熱伝導性が悪いため、発生した熱は主に放熱部81の方へ移動する。放熱部81は発熱部よりも温度が低く、また、熱伝導性が高いので、発熱部で発生した熱は発熱部と放熱部81とが接触している領域から放熱部81内部へと伝導する。そして、放熱部81内を伝導して発熱部と反対側の表面から大気へと放出される。これにより、発熱部が冷却される。
【0046】
放熱時において放熱部81は非常に高温になるが、このような放熱装置で放熱部81が剥き出しの状態だと、放熱中にユーザーが誤って該放熱部81に触れるおそれがある。そこで、パンチングメタル等を用いた防護壁で該放熱部81を覆い(図4参照)、高温となっている放熱部81にユーザーが直接触れることができないようにする方法がある。しかし、防護壁を設けると、放熱部81と該防護壁との間の空間に熱が篭りやすくなるため、放熱装置の冷却性能が悪化するという問題がある。一方、放熱部81と該防護壁との間の空間を広くとれば熱は篭りにくくなるが、発熱装置自体が大型化してしまう。
【0047】
また、放熱部81自体をユーザーが触れることができない位置に配置することもあるが、装置設計の都合上、ユーザーが触れる可能性がある位置に放熱部81を配置せざるを得ない場合がある。
【0048】
===第1実施形態===
第1実施形態では、ユーザーが触れる可能性がある位置に防護壁を設けずに放熱部81を配置する場合であっても、安全を確保できる放熱装置について説明する。図5に第1実施形態における放熱ユニット80の概略図を示す。
【0049】
本実施形態では、発熱部(例えば、ヘッド駆動回路65)と放熱部81との間で両者に接触するように変形部82を設け、発熱部で発生した熱を変形部82を介して放熱部81へと導き、大気中へ放出させる。つまり、本実施形態において、変形部82は発熱部で発生した熱を放熱部81へ伝導させる熱伝導部である。
【0050】
放熱を行う際、変形部82は温度条件によって形状が変化することで、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させる。これにより、発熱部から放熱部81への熱の移動を制限し、放熱板81の温度が過度に上昇することを抑制する。放熱板81の過熱が抑制され、過度な高温にはならないため、放熱時においてユーザーが該放熱部81に触れる可能性があっても問題にはならない。以下、変形部82の詳細について説明する。
【0051】
<変形部82について>
図5に示されるように、第1実施形態ではプリント基板上に発熱部(ヘッド駆動回路65)が設けられ、該発熱部に接するように平板状の変形部82が設けられる。そして、発熱部との間で変形部82を挟み込むように放熱部81が設けられる。発熱部で発生した熱は図5の斜線部で表される熱源を中心として四方へと発散する。発生した熱は変形部82と発熱部との接触面から変形部82の内部へ伝導し、さらに変形部82と放熱部81との接触面から放熱部81内部へと伝導する。そして、放熱部81内を伝導した熱が大気へと放出されることで発熱部が冷却される。
【0052】
本実施形態の変形部82は粉末冶金によって製造される。粉末冶金では、原料となる金属粉末を金型で圧縮して固め、高温で焼結することにより、任意の形状の金属部品を製造することができる。また、金属粉末を金型に充填した後、本加圧を行なう前に金属粉末を移動させることで部分的に密度が異なる金属部品を製造することができる。また、異なる種類の金属粉末同士を組み合わせて焼結することで、部分的に性質が異なる金属部品を容易に製造することもできる。
【0053】
図6は、本実施形態における変形部82の組成について説明する図である。本実施形態では変形部82の平板のうち発熱部と接する側の面である領域Aの部分を、所定の熱膨張率αを有する金属(合金)を用いて構成する。また、放熱部81と接する側の面(領域Aとは反対側の面)で、斜線部で示される領域Bの部分を、α<βの関係となる熱膨張率βを有する金属(合金)を用いて構成する。領域Aを構成する金属と領域Bを構成する金属の組み合わせは、放熱時における変形部82の予想温度等を考慮して決定される。
【0054】
<高熱による変形部82の変形>
ところで、変形部82は放熱時には熱伝導媒体として非常に高温になるため、熱膨張により伸びようとする。一方、図6で表されるように、変形部82は部分的に材質が異なるため、部分によって熱膨張率も異なる。具体的には、領域B部分を構成する金属の方が、領域A部分を構成する金属よりも熱膨張率が大きい(α<β)。したがって、熱による伸び量は領域Aよりも領域Bの方が大きくなり、この伸び量の差によって変形部82は以下のように変形する。
【0055】
図7に、熱による変形部82の変形の様子を説明する図を示す。また、図8に変形部82が変形した場合における放熱の様子を説明する図を示す。ある温度Tにおいて、領域Aの部分の伸び量よりも領域Bの部分の伸び量が大きいため、図7に示されるように変形部82は全体が領域Aの側に湾曲するように変形して平板状ではなくなる。その結果、図5の状態において領域A側の面で発熱部と接触していた変形部82が、図8のように領域A側の端部のみで発熱部と接触するようになる。つまり、放熱部と変形部82との接触領域が小さくなる。同様に、図5の状態において領域B側の面で放熱部81と接触していた変形部82が、図8のように領域Bの中央部のみで放熱部81と接触するようになる。つまり、変形部82と放熱部81との接触領域も小さくなる。
【0056】
したがって、発熱部から変形部82への熱移動が起こりにくくなり、さらに、変形部82から放熱部81への熱移動も起こりにくくなる(図8)。つまり、変形部82が変形することによって、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させる。これにより、発熱部において異常な高熱が発生した場合でも、その高熱は放熱部81までは伝導しにくくなるので、放熱部81自体はユーザーが触れても安全なくらいの温度に抑えられる。
【0057】
なお、変形部82の材料組成については、前述の図6のような例には限られない。例えば、領域Aと領域Bとが逆であってもよい。すなわち、異常高熱が発生した時に、変形部82が図8の場合とは逆に放熱部81側に湾曲するようにしてもよい。この場合でも、発熱部及び放熱部81との接触面積が小さくなるため、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させることができる。
【0058】
また、変形部82で領域Aが領域Bよりも厚くなるようにしたり、領域Aと領域Bとの間に他の領域(金属の層)を設けて多層構造にしたりすることで、高温時における変形部82の変形(湾曲)の度合いを調整することもできる。
【0059】
変形部82を製造するための原料粉としては鉄、ステンレス鋼、銅、及び合金鋼等を使用することができる。これらの金属はそれぞれ熱膨張率や熱伝導率が異なるため、放熱装置の使用条件や用途に応じて最適な性質を有する変形部82を用いることが可能である。
【0060】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態の放熱装置によれば、発熱部が異常な高熱を発生した場合に、その高熱によって変形部自体が変形し、発熱部と放熱部との間の熱伝導率を低下させる。これにより、発熱部から放熱部への熱の移動(伝導)を制限して放熱部の過熱を抑制する。
放熱部への熱移動が制限されることにより、発熱部の冷却は不十分となるが、一方で、ユーザーが触れる可能性のある放熱部は過度な高温にならないので、最優先とされるユーザーの安全を確保することができる。
これにより、放熱時において、ユーザーが該放熱部に触れても安全な放熱装置を実現することができる。
【0061】
===第1実施形態の変形例===
第1実施形態では、粉末冶金によって製造された変形部82を用いていた。しかし、他の製造方法や、異なる性質を有する材料を用いて変形部82を製造してもよい。
【0062】
例えば、変形部82を形状記憶合金で形成することができる。形状記憶合金は所定温度以上で元の形状に戻る性質を有する。そこで、初期状態で図7に示されるような湾曲した板状の変形部82を製造し、それを平板形状にして図5のように発熱部と放熱部81との間に挟まれるようにして設けておく。発熱部が異常高温になると、変形部82が元の形状に戻るため、図8のように発熱部と放熱部81との間の熱伝導率が低下する。
【0063】
また、変形部82をバイメタルで形成することができる。バイメタルは熱膨張率の異なる金属が組み合わされた素材であり、図6に示されるように領域Aと領域Bとで、異なる金属を組み合わせることで、粉末冶金によって製造された変形部82と同等の機能をもたせることができる。
【0064】
また、所定温度以上になると溶けるような材質で変形部82全体を製造してもよい。この場合、発熱部が所定温度に達しない状態では、図5のように発熱部から変形部82を介して放熱部81へと熱が伝導する。一方、発熱部が所定温度以上の高熱を発生した場合、変形部82が溶け落ちて発熱部と放熱部81とが分断される。つまり、発熱部と放熱部81との間に存在する熱伝導媒体が変形部82に代わって大気となるため、熱伝導率は大きく低下する。
【0065】
このように、熱伝導媒体としての変形部82を変更した場合でも、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させることができれば、発熱部から放熱部81への熱の移動を制限して、放熱部81の過熱を抑制することができる。したがって、安全な放熱装置を実現することができる。
【0066】
===第2実施形態===
第2実施形態では変形部82を変更する。第1実施形態において変形部82は、発熱部で発生した熱を放熱部81へ伝導させる熱伝導媒体としての機能を有していた。本実施形態における変形部82は発熱部と放熱部81との位置関係を調節する機能を有する。変形部82以外の構成については第1実施形態と同様である。
【0067】
図9に第2実施形態における放熱ユニット80の概略図を示す。また、図10に第2実施形態における放熱の様子を説明する図を示す。図11に第2実施形態で変形部82が変形した場合における放熱の様子を説明する図を示す。
【0068】
本実施形態では発熱部の周囲に円柱状の変形部82が放熱部81の端部に複数設けられ、放熱部81を支持すると同時に、発熱部と放熱部81とが接するように放熱部81の位置を調整している。なお、変形部82の形状や数量については変更することができる。また、変形部82は熱伝導性がある金属等で構成され、所定温度以上の熱を加えることにより膨張する性質を有する。この点、前述の第1実施形態において説明した粉末冶金や形状記憶合金を用いて変形部82を製造することができる。
【0069】
図10に示されるように、放熱時において発熱部で発生した熱は直接放熱部81に伝導し、放熱部81から大気へと放出される。同時に、発熱部から放熱部81へ移動した熱は、放熱部81の内部を伝導して変形部82まで到達する。
【0070】
前述のように、変形部82は所定温度以上の熱によって膨張する。したがって、放熱部から伝導する熱が所定温度以上である場合には、図11に示されるように変形部82が膨張する。その結果、変形部82に支持される放熱部81は発熱部から離れるので、発熱部から放熱部81への熱伝導が遮断される。言い換えると、発熱部で発生する高熱によって変形部82が変形することにより、発熱部と放熱部81との間の熱伝導率を低下させる。これにより、放熱部81の過熱が抑制され、ユーザーが該放熱部81に触れる可能性がある場合でも安全を確保することができる。
【0071】
===その他の実施形態===
一実施形態として、放熱装置を備えるプリンターを説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【0072】
例えば、画像読取装置、画像投影装置、複写装置、コンピューター等、高熱を発するおそれのある発熱部を備える多くの機器に、本発明の放熱装置を適用することが可能である。また、プリンターに適用する場合、以下に述べる実施形態であっても本発明に含まれるものである。
【0073】
<使用するインクについて>
前述の実施形態では、CMYKの4色のインクを使用して印刷する例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト、クリア(透明)等、CMYK以外の色のインクを用いて印刷を行ってもよい。
【0074】
<ノズル列の配置について>
ヘッド部のノズル列は搬送方向上流側からCMYKの配列順で並んでいたが、これに限られるものではない。例えば、ノズル列の順番が入れ替わっていてもよいし、Kインクのノズル列数が他のインクのノズル列数より多い構成などであってもよい。
【0075】
<プリンタードライバーについて>
プリンタードライバーの処理はプリンター側で行ってもよい。その場合、プリンターとドライバーをインストールしたPCとで印刷装置が構成される。
【符号の説明】
【0076】
1 プリンター、
20 搬送ユニット、21 給紙ローラー、22 搬送モーター、
23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排紙ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、32 キャリッジモーター、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、411 ケース、412 流路ユニット、
412a 流路形成板、412b 弾性板、412c ノズルプレート、
412d 圧力室、412e ノズル連通口、412f 共通インク室、
412g インク供給路、412h アイランド部、412i 弾性膜、
50 検出器群、51 リニア式エンコーダ、52 ロータリー式エンコーダ、
53 紙検出センサ、54 光学センサ、60 コントローラー、
61 インターフェース部、62 CPU、63 メモリー、
64 ユニット制御回路、65 ヘッド駆動回路、66 モータードライバー
80 放熱ユニット、81 放熱部、82 変形部、
110 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱を発生する発熱部と、
前記発熱部で発生した熱を放出させる放熱部と、
前記発熱部で発生した熱により変形することで、前記発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させる変形部と、
を備える放熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放熱装置であって、
前記変形部は、前記発熱部と前記放熱部との間に設けられ、
前記発熱部で発生した熱を前記放熱部に伝導させることを特徴とする放熱装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の放熱装置であって、
前記変形部が変形することにより、前記発熱部と前記変形部との接触領域を減少させることで前記熱伝導率を低下させることを特徴とする放熱装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の放熱装置であって、
前記変形部が変形することにより、前記放熱部と前記変形部との接触領域を減少させることで前記熱伝導率を低下させることを特徴とする放熱装置。
【請求項5】
発熱部で熱を発生することと、
前記発熱部で発生した熱を放熱部から放出することと、
変形部が前記発熱部で発生した熱により変形することで、前記発熱部と前記放熱部との間の熱伝導率を低下させることと、
を有する放熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−109401(P2012−109401A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257103(P2010−257103)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】