説明

放熱装置用ろう材箔

【課題】絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介してろう材箔によってろう付された放熱装置の製造において、接合に供されない余剰ろう材量を減らす。
【解決手段】 応力緩和材(20)は少なくとも片面に開口する応力吸収空間(21)を有し、この応力緩和材(20)の応力吸収空間(21)が開口する面に絶縁基板(11)またはヒートシンク(13)を接合するために絶縁基板(11)またはヒートシンク(13)と応力緩和材(20)との間に介在させる放熱装置用ろう材箔(30)(40)であって、前記応力緩和材(20)の応力吸収空間(21)の開口部に相対する開口部対応領域の一部もしくは全部に、ろう材箔を厚み方向に貫く貫通部(32)(42)がろう材箔を切除することなく形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子を搭載する絶縁基板とヒートシンクとを応力吸収空間を有する応力緩和材を介して接合するための放熱装置用ろう材箔、およびその関連技術に関する。
【0002】
本明細書および特許請求の範囲の記載において、「アルミニウム」の語はアルミニウムおよびその合金の両者を含む意味で用いられる。
【背景技術】
【0003】
電子素子を搭載するための放熱装置として、絶縁基板の一面側に電子素子搭載用の金属回路層が接合され、他面側にヒートシンクを接合し、絶縁基板をヒートシンクに熱的に結合したものが知られている。かかる放熱装置において、セラミック製絶縁基板と金属製ヒートシンクとを直接ろう付すると通電時の発熱と非通電時の冷却による冷熱サイクルにおいて接合部の剥離やセラミック基板の割れが発生しやすいことから、これらの間に軟質の金属層を介在させて接合部に発生する熱応力を緩和することがある(特許文献1、2参照)。
【0004】
さらには、前記金属層のかわりに貫通穴や有底の穴による応力吸収空間を設けた応力緩和材の使用や、前記応力緩和材と金属層とを併用することが提案されている。図7に示した放熱装置(100)は、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)との間に介在させる応力緩和材(20)として、金属板に多数の円形の貫通穴(21)を設けたものを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153075号公報
【特許文献2】特開2006−294699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記放熱装置(100)の製造に際しては、金属回路層(12)と絶縁基板(11)との間、絶縁基板(11)と応力緩和材(20)との間、応力緩和材(20)とヒートシンク(13)との間にそれぞれろう材箔(101)(102)(103)を挟んで仮組みし、これらを一括してろう付する。前記仮組物においては応力緩和材(20)の貫通穴(21)上にもろう材箔(102)(103)が重なっている。この仮組物をろう付加熱すると、図8に示すように、貫通穴(21)の開口部に相対する開口部対応領域にあるろう材(102a)(103a)は、開口部の中央付近に集まって溶着する。前記貫通穴(21)の開口部上に溶着したろう材(102a)(103a)は応力緩和材(20)と絶縁基板(11)またはヒートシンク(13)との接合に寄与しないので余剰ろう材となって無駄になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、絶縁基板とヒートシンクとが応力緩和材を介して接合された放熱装置の製造に際し、接合に寄与しない余剰ろう材量を減らすことができるろう材箔を提供し、さらにその関連技術を提供するものである。
【0008】
即ち、本発明は下記[1]〜[7]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]応力緩和材は少なくとも片面に開口する応力吸収空間を有し、この応力緩和材の応力吸収空間が開口する面に絶縁基板またはヒートシンクを接合するために絶縁基板またはヒートシンクと応力緩和材との間に介在させる放熱装置用ろう材箔であって、
前記応力緩和材の応力吸収空間の開口部に相対する開口部対応領域の一部もしくは全部に、ろう材箔を厚み方向に貫く貫通部が形成されていることを特徴とする放熱装置用ろう材箔。
【0010】
[2]前記貫通部は切り込みによって形成されている前項1に記載の放熱装置用ろう材箔。
【0011】
[3]前記貫通部は孔によって形成されている前項1または2に記載の放熱装置用ろう材箔。
【0012】
[4]前記貫通部の長手方向の寸法が0.5mm以上である前項1〜3のいずれかに記載の放熱装置用ろう材箔。
【0013】
[5]前記開口部対応領域のろう材箔が応力緩和材側に曲がっている前項1〜4のいずれかに記載の放熱装置用ろう材箔。
【0014】
[6]絶縁基板とヒートシンクとが、絶縁基板側の面およびヒートシンク側の面のうちの少なくとも一方に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有する応力緩和材を介して接合された放熱放置であって、
前記応力緩和材の応力吸収空間が開口する面と絶縁基板またはヒートシンクとが前項1〜5のいずれかに記載のろう材箔によって接合されていることを特徴とする放熱装置。
【0015】
[7]絶縁基板、応力緩和材、ヒートシンクの順に重ねてこれらの部材をろう付する放熱装置の製造方法であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側の面およびヒートシンク側の面のうちの少なくとも一方に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、
前記応力緩和材の応力吸収空間が開口する面と絶縁基板またはヒートシンクとの間に、前項1〜5のいずれかに記載のろう材箔を、該ろう材箔の開口部対応領域が応力吸収空間の開口部に一致するように配置して仮組し、この仮組物を加熱してろう付することを特徴とする放熱装置の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
上記[1]に記載の発明にかかる放熱装置用ろう材箔は、応力緩和材の応力吸収空間の開口部に相対する開口部対応領域に貫通部が形成されているため、絶縁基板、ろう材箔、応力緩和材、ろう材箔、ヒートシンクをこれらの順に重ねて仮組した仮組物において、ろう材箔の開口部対応領域は応力緩和材によって絶縁基板またはヒートシンクに押し付けられていない。しかも開口部対応領域のろう材箔は貫通部によって絶縁基板またはヒートシンクから離れ易くなっている。前記仮組物をろう付すると、開口部対応領域のろう材箔は貫通部から溶け始め、応力吸収空間の開口縁部に向かって退縮しながら溶けていき、溶けたろう材は絶縁基板またはヒートシンクに付着することなく応力吸収空間の開口縁部に集まる。開口縁部に集まったろう材は毛細管力によって応力緩和材と絶縁基板またはヒートシンクとの接合界面に引き込まれてこれらの接合に供される。従って、接合対象が存在しない開口部対応領域のろう材箔が無駄にならない。また、接合界面にろう材を追加供給することになるので良好なろう付が達成される。
【0017】
上記[2]に記載の発明によれば、開口部対応領域に設ける貫通部として切り込みを形成することにより上記の効果を奏する。
【0018】
上記[3]に記載の発明によれば、開口部対応領域に設ける貫通部として孔を形成することにより上記の効果を奏する。
【0019】
上記[4]に記載の発明によれば、開口部対応領域のろう材箔を確実に貫通部から溶かし始めて円滑に退縮させることができる。
【0020】
上記[5]に記載の発明によれば、開口部対応領域のろう材箔が絶縁基板またはヒートシンクから確実に離れているので、溶けたろう材の絶縁基板またはヒートシンクへの付着を確実に防止して応力吸収空間の開口縁部に集めることができる。
【0021】
上記[6]に記載の発明にかかる放熱装置は、応力緩和材と絶縁基板、応力緩和材とヒートシンクのうちの少なくとも一方が、上記[1]〜[5]のいずれかに記載されたろう材箔、即ち開口部対応領域に貫通部を有するろう材箔によって接合されたものであるから、ろう材が無駄なく接合界面に供給されて良好に接合されている。
【0022】
上記[7]に記載の発明にかかる放熱装置の製造方法は、絶縁基板と応力緩和材との間、応力緩和材とヒートシンクとの間の少なくとも一方に上記[1]〜[5]のいずれかに記載されたろう材箔、即ち開口部対応領域に貫通部を有するろう材箔を介在させての仮組みする。この仮組物においては、応力緩和材の応力吸収空間の開口部とろう材箔の開口部対応領域を一致させて仮組されているので、開口部対応領域のろう材箔を接合界面に引き込ませて接合に供することができる。従って、接合対象物が存在しない開口部対応領域のろう材箔を無駄なく接合に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかるろう材箔を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図2】図1の放熱装置におけるろう材箔および応力緩和材を示す斜視図である。
【図3】図1の放熱装置のろう付後の状態を示す要部縦断面図である。
【図4】本発明にかかるろう材箔の他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明にかかるろう材箔の他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明にかかるろう材箔と応力緩和材との仮組状態を示す縦断面図である。
【図7】従来のろう材箔を用いた放熱装置の仮組物を示す縦断面図である。
【図8】図7の放熱装置のろう付後の状態を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[放熱装置の構成]
図1は本発明のろう材箔を用いて作製する放熱装置の一実施形態の仮組物を、構成部材が積層する方向で切断した断面で示している。以下の説明において、構成部材が積層する方向を縦または縦方向、縦方向の断面を縦断面と称し、この縦断面と直交する面で切断した断面を横断面と称する。
【0025】
放熱装置(1)の仮組物は、絶縁基板(11)の一面側に電子素子搭載用の回路層(12)が重ねられ、他面側には応力緩和材(20)を介して複数の中空部を有するチューブ型のヒートシンク(13)が重ねられている。(14)は回路層(12)に接合された電子素子である。各部材間の接合は、部材間に介在させたろう材箔(15)(20)(30)によって行われる。ろう付後の放熱装置(1)において、絶縁基板(11)とヒートシンク(13)とは応力緩和材(20)を介して熱的に結合され、電子素子(14)が発する熱はヒートシンク(13)に排熱される。
【0026】
前記放熱装置(1)を構成する各層の好ましい材料は以下のとおりである。
【0027】
絶縁基板(11)を構成する材料としては、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化ジルコニウム等のセラミックを例示できる。これらのセラミックは電気絶縁性が優れていることはもとより、熱伝導性が良く放熱性が優れている点で推奨できる。
【0028】
回路層(12)を構成する金属としては、導電性が高くかつ絶縁基板(11)とろう付またははんだ付が可能な金属を用いるものとし、特に高純度アルミニウムを推奨できる。
【0029】
応力緩和材(20)は、剛性の高いセラミック製の絶縁基板(11)とヒートシンク(13)との接合界面に発生する熱応力を緩和するための層であるから、軟質の金属を用いることが好ましく、特に高純度アルミニウムが好ましい。また、図1に示した応力緩和材(20)は応力吸収空間として複数の円形貫通穴(21)を有するパンチングメタルであり、前記貫通穴(21)は絶縁基板(11)側の面およびヒートシンク(13)側の面の両方に開口している。
【0030】
ヒートシンク(13)を構成する金属は、軽量性、強度維持、成形性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましく、これらの特性を有するものとしてAl−Mn系合金やAl−Fe系合金等のアルミニウム合金を推奨できる。ヒートシンク(13)は応力緩和材(20)側の外面がフラットであれば応力緩和材(20)と広い面積でろう付して高い放熱性能が得られるので、応力緩和材(20)側の面以外の外部形状や内部形状は問わない。ヒートシンクの他の形状として、平板、平板の他方の面にフィンをろう付したヒートシンク、平板の他方の面にフィンを立設したヒートシンク、中空部内にフィンを設けたチューブ型ヒートシンク等を例示できる。
【0031】
[ろう材箔および放熱装置の製造]
前記放熱装置(1)は、絶縁基板(11)、ろう材箔(30)、応力緩和材(20)、ろう材箔(40)、ヒートシンク(13)の順に重ねて仮組し、あるいはさらに絶縁基板(11)上にろう材箔(15)を介して回路層(12)を重ねて仮組し、この仮組物を加熱し、これらの部材を一括してろう付することによって作製する。これらのろう材箔のうち、応力緩和材(20)と絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)とを接合するためのろう材箔(30)(40)が本発明にかかるろう材箔である。
【0032】
前記ろう材箔(15)(30)(40)の材料は限定されないが、上述した回路層(12)、絶縁基板(11)、応力緩和材(20)、ヒートシンク(13)の材料の接合に好適なろう材としてAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金を推奨できる。
【0033】
図2に示すろう材箔(30)(40)において、円形の破線で囲まれた部分が開口部対応領域(31)(41)であり、ろう付前の仮組物において応力緩和材(20)の貫通穴(21)の開口部に相対する領域である。前記円形の破線は貫通穴(21)の開口縁部の位置を表すものであり、開口部対応領域(31)(41)は絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)との接合対象物が存在しない領域である。前記ろう材箔(30)(40)は開口部対応領域(31)(41)に、2本の切り込み(32)(42)が十文字に入れられて、4つの扇形部(31a)(41a)に分割されている。前記切り込み(32)(42)は本発明における貫通部に対応するものである。前記切り込み(32)(42)はろう材箔(30)(40)の厚み方向に貫通する切れ目を入れただけであってろう材箔(30)(40)は切り取られていないので、の4つの扇形部(31a)(41a)は弧の部分で他の領域と繋がっているが、先端部(扇形の要の部分)は拘束されない自由端となっている。これらの切り込み(32)(42)はカッター等を用いて容易に形成することができる。
【0034】
図1に示す仮組物において、絶縁基板(11)側のろう材箔(30)の開口部対応領域(31)は応力緩和材(20)側の貫通穴(21)に相対しているので、絶縁基板(11)に接触はしていても応力緩和材(20)によって押し付けられてはいない。しかも切り込み(32)によってろう材箔は絶縁基板(11)から離れ易くなっている。この状態で仮組物をろう付加熱すると、扇形部(31a)は先端部(扇形の要の部分)から溶け始め、弧の部分に向かって縮まりながら溶融していく。即ち、開口部対応領域(31)の中心部から溶け始め、ろう材箔の無い空白部を拡大するように退縮しながら溶けていく。開口部対応領域(31)のろう材箔は絶縁基板(11)に押し付けられていないので、溶融しても絶縁基板(11)に付着することなく、扇形部(31a)の弧の部分、即ち貫通穴(21)の開口縁部に集まっていく。そして、図3に示すように、溶けて開口縁部に集まったろう材の一部は毛細管力によって絶縁基板(11)と応力緩和材(20)との接合界面に引き込まれてこれらの接合に供され、残り(31b)は貫通穴(21)の開口縁部の近傍に溶着する。
【0035】
前記応力緩和材(20)とヒートシンク(13)の間のろう材箔(40)も同様に、開口部対応領域(41)のろう材箔は貫通穴(21)の開口縁部に退縮し、一部は毛細管力によって応力緩和材(20)とヒートシンク(13)との接合界面に引き込まれてこれらの接合に供され、残り(41b)は貫通穴(21)の開口縁部に溶着する。
【0036】
以上のように、ろう材箔(30)(40)の開口部対応領域(31)(41)に貫通部(32)(42)を設けることによって、開口部対応領域(31)(41)のろう材箔を接合に供することができるので、接合対象が存在しない開口部対応領域(31)(41)のろう材箔を無駄なく接合に利用することができる。また、接合界面にろう材を追加供給することになるので良好なろう付が達成される。
【0037】
本発明のろう材箔において、貫通部は開口部対応領域のろう材箔を応力吸収空間の開口縁部に退縮させることが目的であり、この目的を達成できる限り貫通部の形状や寸法は限定されない。以下に、図4〜図6を参照しつつ貫通部の他の形状例について説明する。
【0038】
(貫通部の他の形状例1)
図4のろう材箔(50)は、貫通部として開口部対応領域(51)に1本の切り込み(52)を有している。前記切り込み(52)は、図2に示したろう材箔(30)(40)と同様に、ろう材箔の厚み方向に貫通する切れ目を入れただけでろう材箔は切り取られていない。
【0039】
本発明において、ろう材箔の開口部対応領域に設ける切り込みの本数や位置は限定されない。切り込みは少なくとも1本あれば、ろう材箔を退縮させて絶縁基板またはヒートシンクへの溶着防止効果が得られる。ただし、溶融したろう材を応力吸収空間の開口縁部に集めるためには、開口縁部から離れた開口部対応領域の中央部で溶融が始まることが好ましく、このため、切り込みを開口部対応領域の中心またはその近傍を通るように形成することが好ましい。さらに、ろう材箔を周方向で均一に退縮させるには、複数本の切り込みを中心から放射状に形成することが好ましい。
【0040】
(貫通部の他の形状例2)
図5のろう材箔(60)は、貫通部として開口部対応領域(61)に円形の孔(62)を有している。前記孔(62)はパンチでろう材箔を円形に打ち抜くことによって形成したものである。ろう付時、開口部対応領域(61)のろう材箔は孔(62)の周縁から溶け始め孔径が拡大する方向に退縮し、溶融したろう材の一部は貫通穴(21)の開口縁部から接合界面に引き込まれ、残りは開口縁部に溶着する。
【0041】
前記孔(62)は、切り込みと同様に、開口部対応領域の中心に形成されていることが好ましい。孔の形状は円形に限定されず角形や楕円形等の孔であっても良い。また、開口部対応領域と同形状であることも要さず、角形の開口部対応領域に円形の孔を組み合わせることも任意である。また、ろう材箔の開口部対応領域に切り込みと孔の両方が形成されていても良い。
【0042】
さらに、複数の開口部対応領域に対して形状の異なる貫通部が形成されていても良い。
【0043】
本発明において、前記切り込みと孔との違いは、開口部対応領域においてろう材箔が存在しない空白部の有無である。図1、2、4に参照されるように、前記切り込み(32)(42)(52)は、切り込み(32)(42)(52)の両側のろう材箔が突き合わされており、ろう材箔は切り取られておらず、ろう材箔が存在しない空白部が無いものを指す。一方、図5に参照されるように、孔(62)とは、ろう材箔が存在しない空白部を有しているものを指す。前記空白部を形成する方法としては、打ち抜きや切り取りによってろう材箔の一部を取り除く方法、あるいはろう材箔を錐等の尖った工具で突き通す方法等を例示できる。後者の方法によれば、錐を突き通すことによって破れたろう材箔は破れ目の周りでしわが寄った状態となっているが、ろう材箔は切り取られてはいない。しかし、錐を抜いてもしわは復元せずに錐の断面積相当の空白部が形成されている。
【0044】
本発明において、貫通部の寸法(L)および開口部対応領域の寸法(L)はこれらの長手方向における寸法で表すものとする。従って、図2および図4に示すように、貫通部が切り込み(32)の場合はその長さ(L)であり、孔(62)の場合は孔の外接円の直径(L)である。また、開口部対応領域(31)(61)の寸法(L)は開口部対応領域の外接円の直径である。なお、図示例の開口部対応領域(31)(61)は円形であるから、その直径が開口部対応領域(31)(61)の寸法(L)である。
【0045】
本発明において、貫通部の寸法(L)は0.5mm以上とすることが好ましい。貫通部の寸法(L)が0.5mm以下では溶け始めの領域が狭いので、ろう材箔を絶縁基板またはヒートシンクに溶着させることなく退縮させる効果が小さい。0.5mm以上の貫通部を形成することにより、円滑に退縮させることができる。特に好ましい貫通部の寸法(L)は1mm以上である。一方、前記貫通部は開口部対応領域のろう材箔を溶け縮ませて開口縁部に集めることが目的であるから、開口部対応領域を逸脱して接合界面に達する大きい貫通部を形成する意味が乏しい。従って、貫通部は開口部対応領域を逸脱することなく開口部対応領域内に形成することが好ましく、貫通部の寸法(L)の好ましい上限値は開口部対応領域の寸法(L)である。また、前記貫通部が孔の場合、孔径(L)が開口部対応領域の寸法(L)と同一であれば、余剰ろう材は生じないが接合界面にろう材を追加供給するという効果も得られない。従って、接合界面にろう材を追加供給するためには、孔径(L)が開口部対応領域の寸法(L)の0.9倍以下であることが好ましい。また、前記貫通部が切り込みの場合は、切り込みの長さ(L)が開口部対応領域の寸法(L)の0.9倍以下であれば切り込みからのろう材の溶融が良好に行われ、開口部近傍のろう付が良好となるためである。従って、切り込みの場合も切り込みの長さ(L)は開口部対応領域の寸法(L)の0.9倍以下であることが好ましい。
【0046】
(貫通部の他の形状例3)
開口部対応領域のろう材箔を絶縁基板またはヒートシンクに溶着させることなく確実に応力吸収空間の開口縁部に集めるためには、開口部対応領域にあるろう材箔を絶縁基板またはヒートシンクから離しておくことが好ましい。具体的には、開口部対応領域のろう材箔を応力緩和材側に曲げることによって絶縁基板またはヒートシンクから離しておく。
【0047】
図6は、前記ろう材箔(30)(40)の開口部対応領域(31)(41)の扇形部(31a)(41a)を開口縁部に沿って応力緩和材(20)側に曲げ、扇形部(31a)(41a)が貫通穴(21)に差し込まれた状態を示している。曲げられた扇形部(31a)(41a)は絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)から離れているので、溶融したろう材を絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)に付着させることなく貫通穴(21)の開口縁部に集めることができる。また、開口部対応領域(31)(41)のろう材箔の曲げ角度をろう材箔(本例では扇形部(31a)(41a))と絶縁基板(11)またはヒートシンク(13)とが成す角度(θ)として定義し、前記曲げ角度(θ)を5°以上に設定することが好ましい。前記曲げ角度(θ)が5°未満では絶縁基板(11)またはヒートシンク(13)との距離が短く溶着を防止する効果が少ない。また、曲げ角度(θ)が90°に近づくと応力緩和材(20)の応力吸収空間(21)の内壁に溶着するおそれがあり、内壁に溶着すると接合界面に供給されない余剰ろう材となる。以上の理由により、特に好ましいろう材箔の曲げ角度(θ)は10〜60°である。
【0048】
図6は十文字の切り込み(32)(42)を形成したろう材箔(30)(40)であるが、切り込みの数に関わらず開口部対応領域のろう材箔を曲げることができる。また、図5の貫通部として孔(62)を設けたろう材箔においても、開口部対応領域のろう材箔を曲げることができる。
【0049】
開口部対応領域のろう材箔を曲げる方法としては、切り込みまたは孔による貫通部を形成した後、ろう材箔を工具で押して曲げ変形させる方法、貫通部の形成に用いた工具をそのまま押し込んで曲げ変形させる方法等を例示できる。ろう材は薄く剛性の低い箔であるから簡単に曲げ変形させることができる。
【0050】
本発明のろう材箔を用いてろう付する放熱装置において、応力緩和材は応力吸収空間が絶縁基板側およびヒートシンク側の少なくとも一方に開口している限り、その形状や数は限定されない。応力吸収空間の横断面形状としては、図示例の円形の他、角形、楕円形、星形、細長い溝、スリット状の貫通穴等の形状を例示できる。また、従って、応力吸収空間は貫通穴であることも要さず、一方の面のみに開口する有底の穴であっても良い。前記有底の穴は絶縁基板側またはヒートシンク側の一方の面にのみ形成されていても両面に形成されていても良い。
【0051】
放熱装置の製造に際しては、図1に参照されるように、絶縁基板(11)、ろう材箔(30)、応力緩和材(20)、ろう材箔(40)、ヒートシンク(13)の順に重ねて仮組みする。あるいはさらに絶縁基板(11)上にろう材箔(15)および回路層(12)を重ねる。各部材を仮組みする際には、応力緩和材(20)の貫通穴(21)とろう材箔(30)(40)の開口部対応領域(31)(41)の位置が一致するように重ねる。また、図6に示したような開口部対応領域のろう材箔を曲げたろう材箔を使用する場合は、曲げられたろう材箔が応力緩和材(20)の貫通穴(21)に差し込まれる方向にろう材箔を重ねる。
【0052】
また、放熱装置を仮組みする際には、上述したように予め貫通部を形成したろう材箔を用いる他、貫通部のないろう材箔を応力緩和材に重ね、応力緩和材に重ねた状態で貫通部を形成し、その後絶縁基板またはヒートシンクを組み付けることもできる。
【0053】
そして、前記仮組物をろう付加熱し、各部材を一括してろう付する。図1、3に示すように、本発明のろう材箔(30)(40)を使用して製造した放熱装置(1)は、ろう材箔に形成した貫通部(32)(42)の作用によって絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)の貫通穴(21)に重なる部分にろう材が溶着しない。一方、図7、8に示すように、貫通部の無いろう材箔(102)(103)を用いて製造した放熱装置(100)は、絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)の貫通穴(21)に重なる部分にろう材が溶着している。このように、本発明のろう材箔を用いてろう付した放熱装置であるか否かは、絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)の貫通穴(21)に重なる部分にろう材が溶着しているか否かによって明確に区別できる。
【0054】
なお、本発明の放熱装置は、応力緩和材と、絶縁基板およびヒートシンクのうちの少なくとも一方との接合に本発明のろう材箔を用いたものである。応力緩和材の応力吸収空間が両面に開口するものであっても、絶縁基板およびヒートシンクのうちのどちらか一方との接合に本発明のろう材箔を用いた放熱装置および製造方法は本発明に含まれる。
【実施例】
【0055】
図1および図7に参照される積層構造の放熱装置(1)(100)を、応力緩和材(20)と絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)とを接合するろう材箔を変えて作製した。
【0056】
ろう材箔を除く部材は各例で共通のものを用いた。
【0057】
絶縁基板(11)は窒化アルミニウムからなる30mm×30mm×厚さ0.6mmの平板である。回路層(12)は99.99%以上の高純度アルミニウムからなる厚さ0.6mmの板である。ヒートシンク(13)はAl−1質量%Mn合金からなる扁平多穴チューブである。応力緩和材(20)は、99.99%以上の高純度アルミニウムからなり、28mm×28mm×厚さ1.6mmの平板に切削加工を施して直径2mmの円形の12個の貫通穴(21)を形成したものである(図2参照)。
【0058】
ろう材箔(15)(30)(40)(50)(60)(101)(102)(103)は、厚さ30μmのAl−10質量%Si−1質量%Mg合金箔であることが共通するが、貫通部の有無と形状が異なる。これらのろう材箔のうち、(15)(101)(102)(103)は貫通部を有さない箔である。また、ろう材箔(30)(40)(50)(60)は貫通部を有する箔であるが、応力緩和材(20)が共通であるから開口部対応領域(31)(41)(51)(61)はいずれも直径(L)2mmの円形である。
【0059】
[実施例1]
図2に示すろう材箔(30)(40)を用いた。これらのろう材箔(30)(40)の開口部対応領域(31)(41)には、長さ(L)1.5mmの2本の切り込み(32)(42)が十文字に形成されている。2本の切り込み(32)(42)の交点は開口部対応領域(31)(41)の中心である。前記ろう材箔(30)(40)を応力緩和材(20)の両面に配置し、図1の放熱装置(1)を仮組した。
【0060】
[実施例2]
図4に示すろう材箔(50)を用いた。このろう材箔(50)の開口部対応領域(51)には、開口部対応領域(51)の中心を通る長さ(L)1.5mmの1本の切り込み(52)が形成されている。前記ろう材箔(50)を応力緩和材(20)の両面に配置し、図1の放熱装置(1)を仮組した。
【0061】
[実施例3]
図5に示すろう材箔(60)を用いた。を用いた。このろう材箔(60)の開口部対応領域(61)には、開口部対応領域(61)の中心に、直径(L)1.5mmの円形の孔(62)が形成されている。前記ろう材箔(60)を応力緩和材(20)の両面に配置し、図1の放熱装置(1)を仮組した。
【0062】
[実施例4]
実施例1のろう材箔(30)(40)に対し、図6に示すように、開口部対応領域(31)(41)の扇形部(31)(41)を応力緩和材(20)側に曲げ角度(θ)45°で曲げたものを使用した。前記ろう材箔(30)(40)を応力緩和材(20)の両面に配置し、図1の放熱装置(1)を仮組した。
【0063】
[実施例5]
実施例3のろう材箔(60)に対し、開口部対応領域(61)を応力緩和材(20)側に曲げ角度(θ)45°で曲げたものを使用した。前記ろう材箔(60)を応力緩和材(20)の両面に配置し、図1の放熱装置(1)を仮組した。
【0064】
[比較例]
応力緩和材(20)の両面に配置するろう材箔として貫通部を有さないろう材箔(102)(103)を用い、図7に示すろう放熱装置(100)を仮組みした。
【0065】
[ろう付]
実施例1〜5および比較例の仮組物を7×10−4Paの真空中で600℃×20分で真空ろう付した。
【0066】
ろう付した放熱装置(1)(100)を切断して目視観察したところ、絶縁基板(11)およびヒートシンク(13)の貫通穴(21)上の部分において、実施例1〜5は中心部にろう材の溶着は認められず開口縁部に集まっていた。一方、比較例は中心部にろう材が溶着していた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のろう材箔は、セラミック製の絶縁基板とアルミニウム製ヒートシンクとが応力緩和材を介して接合された放熱装置の製造に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
1、100…放熱装置
11…絶縁基板
12…回路層
13…ヒートシンク
14…電子素子
20…応力緩和材
21…貫通穴(応力吸収空間)
30、40、50、60…ろう材箔
31、41、51、61…開口部対応領域
32、42、52…切り込み(貫通部)
62…孔(貫通部)
L…切り込みの寸法、孔の直径(貫通部の寸法)
…開口部対応領域の直径(開口部対応領域の寸法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力緩和材は少なくとも片面に開口する応力吸収空間を有し、この応力緩和材の応力吸収空間が開口する面に絶縁基板またはヒートシンクを接合するために絶縁基板またはヒートシンクと応力緩和材との間に介在させる放熱装置用ろう材箔であって、
前記応力緩和材の応力吸収空間の開口部に相対する開口部対応領域の一部もしくは全部に、ろう材箔を厚み方向に貫く貫通部が形成されていることを特徴とする放熱装置用ろう材箔。
【請求項2】
前記貫通部は切り込みによって形成されている請求項1に記載の放熱装置用ろう材箔。
【請求項3】
前記貫通部は孔によって形成されている請求項1または2に記載の放熱装置用ろう材箔。
【請求項4】
前記貫通部の長手方向の寸法が0.5mm以上である請求項1〜3のいずれかに記載の放熱装置用ろう材箔。
【請求項5】
前記開口部対応領域のろう材箔が応力緩和材側に曲がっている請求項1〜4のいずれかに記載の放熱装置用ろう材箔。
【請求項6】
絶縁基板とヒートシンクとが、絶縁基板側の面およびヒートシンク側の面のうちの少なくとも一方に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有する応力緩和材を介して接合された放熱放置であって、
前記応力緩和材の応力吸収空間が開口する面と絶縁基板またはヒートシンクとが請求項1〜5のいずれかに記載のろう材箔によって接合されていることを特徴とする放熱装置。
【請求項7】
絶縁基板、応力緩和材、ヒートシンクの順に重ねてこれらの部材をろう付する放熱装置の製造方法であって、
前記応力緩和材は、絶縁基板側の面およびヒートシンク側の面のうちの少なくとも一方に開口する少なくとも1つの応力吸収空間を有し、
前記応力緩和材の応力吸収空間が開口する面と絶縁基板またはヒートシンクとの間に、請求項1〜5のいずれかに記載のろう材箔を、該ろう材箔の開口部対応領域が応力吸収空間の開口部に一致するように配置して仮組し、この仮組物を加熱してろう付することを特徴とする放熱装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−243804(P2012−243804A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109470(P2011−109470)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】