説明

放電ランプ、光源装置及びプロジェクター

【課題】放電容器の失透を効果的に低減でき、かつ、電極が細ることを抑制して、ランプ寿命を大幅に改善することのできる放電ランプ、及びこれを用いた光源装置、プロジェクターを提供すること。
【解決手段】発光管10において、失透しやすい頭頂部TPを内側保護層18のうち比較的厚い第1保護膜部分MP1で覆って保護することで、膨出部10Aでの失透を十分に低減できる。また、黒化を発生しやすい周辺部CPを比較的薄い第2保護膜部分MP2で覆っている。これにより、黒化に伴って生じる失透が低減される。以上により、膨出部10Aにおける失透の発生を効果的に低減することができる。また、周辺部CP上での内側保護層18が比較的薄い形状であるため、ホウ素が蒸発してタングステン製の電極11a,11aを劣化させること、すなわち当該電極が細ることを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス製の放電容器を有する放電ランプ及びこれを用いた光源装置、プロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターに使用される光源装置としては、例えば超高圧水銀ランプ等の放電ランプが主に用いられている。放電ランプを構成する放電容器として、高純度の石英ガラスが多く用いられている。高純度の石英ガラスは、粘度が高く、硬く変形し難い性質を有している。さらに、高純度の石英ガラスは、高温時においても結晶化し難く、放電容器としてある程度の期間にわたって十分な透光性を確保することができる。
【0003】
しかしながら、石英ガラスを用いた場合であっても、長時間・長期間にわたって使用を続けると、最終的には結晶化(失透)に至るという問題点があった。また、長時間・長期間の使用に伴い、タングステン製の電極が細くなるという問題もある。
【0004】
上記の問題を解決するために、放電容器内面にホウ素酸化物膜を形成することによって、シリカガラスの結晶化を抑制することが試みられている(特許文献1)。しかしながら、このような方法では、石英ガラスの結晶化をある程度抑制できても、例えばタングステン製の電極が細くなることを必ずしも抑制することができない。また、立方晶系窒化ホウ素(c−BN)薄膜や窒化珪素ホウ素(SiBN)薄膜を用いるもの、あるいは酸化イットリウム等の保護膜を用いたもの知られているが(特許文献2〜4)、これらの場合、いずれも化学気相析出(CVD)法を用いており、放電容器内面に厚く成膜することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−198977号公報
【特許文献2】特開平6−333535号公報
【特許文献3】特開平9−147801号公報
【特許文献4】特開2008−270074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、放電容器の失透を効果的に低減でき、かつ、電極が細ることを抑制して、ランプ寿命を大幅に改善することのできる放電ランプ、及びこれを用いたプロジェクターを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る放電ランプは、放電用の一対の電極と、石英ガラスで形成され、放電媒体を封入するための内部空間を有するとともに内部空間に一対の電極を離間配置する放電容器と、を備え、放電容器は、内部空間を囲む膨出部と、膨出部の両端から延び一対の電極をそれぞれ支持する一対の封止部と、膨出部の内表面に一対の電極間の中心に対向する頭頂部から一対の封止部側に位置する周辺部にわたって設けられ、頭頂部よりも周辺部の膜厚が相対的に薄くなる内側保護層と、を有する。ここで、頭頂部とは、放電容器のうち最も膨らんだ胴回り部分の全体を指す。例えば放電容器が一対の電極間を通る中心線を軸とする回転体であり、膨出部のうち一対の電極間の中心の側方が最も膨らんだ形状となっている場合、当該最も膨らんだ帯状の部分全体が頭頂部である。
【0008】
上記放電ランプでは、膨出部の内表面において、頭頂部より周辺部の膜厚が相対的に薄くなる内側保護層を有するので、放電による影響を受けやすく失透しやすい頭頂部を内側保護層のうち比較的厚い部分で覆うことで十分に保護して、失透を低減できる。また、失透の一要因となる黒化が発生しやすい周辺部を内側保護層のうち比較的薄い部分で覆うことで黒化の発生を抑制できる。このように、黒化の発生を抑制することによって、熱の蓄積を防止して失透をさらに低減できる。以上により、内表面側における失透の発生を効果的に低減することができる。また、上記のように周辺部で内側保護層が比較的薄い形状であるため、膜厚が一定である場合に比べて、ホウ素が蒸発してタングステン製の電極を劣化させること、すなわち当該電極が細ることを抑制できる。
【0009】
本発明の具体的な側面によれば、内側保護層の膜厚は、段階的に変化している。この場合、例えば部分領域の成膜を含む複数回の段階的な成膜によって、比較的容易に膜厚差を有する内側保護層を形成できる。
【0010】
本発明の別の側面によれば、内側保護層において、比較的厚い第1保護膜部分と比較的薄い第2保護膜部分との境界部は、一対の封止部の端部と膨出部の端部との接合部として形成されるくびれ部分に対応する位置に形成される。この場合、膨出部の内表面のうち、特に失透しやすい箇所を厚く成膜することができる。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、内側保護層は、前記膨出部の内表面上において、三酸化二ホウ素を塗布及び溶融して形成される。この場合、膨出部の内表面が、例えば球状のような曲面であっても、所望の膜厚で成膜でき、また、例えば部分領域の成膜を行うといったことも比較的容易である。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、内側保護層は、石英ガラスにホウ素を拡散させた層を含む。この場合、この拡散層は、Si−B−O系のガラスで形成され、高い透光性を有するだけでなく、化学的な安定性及び耐熱性に非常に優れていることから、ランプ使用時に高温に晒されても変質しにくい。
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、内側保護層の膜厚は、頭頂部において1μm以上20μm以下であり、一対の封止部側の周辺部において0.1μm以上1μm未満である。この場合、頭頂部での失透を十分低減でき、かつ、周辺部での黒化の抑制を図ることができる。
【0014】
本発明に係る光源装置は、上述の放電ランプと、放電ランプから射出された光束を反射するリフレクターと、を備える。本発明の光源装置は光束を長期に亘って照射することが可能な光源ランプを備えており、信頼性を有するものとなる。
【0015】
本発明に係るプロジェクターは、上述の光源装置と、光源装置からの照明光によって照明される光変調装置と、光変調装置で変調された像光を投射する投射レンズと、を備える。本発明のプロジェクターは、高輝度な照明光を長期に亘って照射することが可能な光源装置を備えており、高い表示品位や信頼性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の放電ランプを組み込んだ光源装置の構成を示す断面図である。
【図2】実施形態の放電ランプの構成を示す断面図である。
【図3】(A)、(B)は、放電ランプの頭頂部付近及び周辺部付近での膨出部の内表面をそれぞれ示す図である。
【図4】放電ランプの製造工程を示すフローチャートを示す図である。
【図5】(A)、(B)は、放電ランプの製造工程の途中における発光管の部分拡大断面図を示す。
【図6】(A)、(B)は、変形例について示す図である。
【図7】(A)〜(C)は、放電時間の経過に伴う電極の変化の様子を示す図である。
【図8】(A)〜(I)は、比較例の放電ランプについて、放電時間の経過に伴う電極の変化の様子を示す図である。
【図9】(A)は、実施例の放電ランプの放電容器の状態を示す図であり、(B)は比較例の放電ランプの放電容器の状態を示す図である。
【図10】プロジェクターの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1)放電ランプを組み込んだ光源装置
以下、図1等を参照して、本発明の一実施形態に係る放電ランプを組み込んだ光源装置について説明する。
【0018】
図1に示す光源装置1は、リフレクター12と、リフレクター12の内部に配置される放電ランプ3とを備える。放電ランプ3は、基本的に石英ガラスで形成される発光管10と、発光管10内に配置された一対の電極11a,11aとを有し、発光管10内には放電媒体が封入されている。
【0019】
図2に示すように、発光管10は、石英ガラスすなわちシリカ(SiO)ガラスで形成され光透過性を有するチューブ状の放電容器である。発光管10は、一対の電極11a,11a間を通る中心線である光軸OAを軸とする回転体であり、中央部において球状に膨出する膨出部10Aと、膨出部10Aの両側に延在する一対の封止部10B,10Bとを有し、両封止部10B,10Bに挟まれた膨出部10Aの内部には、放電媒体を充填した内部空間14が形成されている。内部空間14の内径は、例えば略1mm〜数mm程度である。ここで、回転体形状を有する膨出部10Aのうち、最も膨らんだ胴回り部分の全体を頭頂部TPとし、頭頂部TPの周辺側すなわち一対の封止部10B,10B側の部分を周辺部PPとする。この場合、頭頂部TPは、発光中心、すなわち内部空間14内の発光部15の中心から光軸OAに対して垂直である側方で発光中心に対向したものとなっている。従って、頭頂部TPは、発光中心から放射状に射出される光の影響を受けやすい。
【0020】
封止部10B,10Bには、棒状に延び先端が塊状に膨らんだ外形を有する電極11a,11aがそれぞれ互いの端部を離間させた状態で配置されている。電極11a,11aの材料には、導電性材料であって、特に熱膨張係数が小さく耐熱性が高い材料、具体的にはタングステンが適している。
【0021】
封止部10B,10Bの内部には、一対の電極11a,11aと電気的に接続されるモリブデン製の金属箔11bが挿入され、ガラス材料等で封止されている。この金属箔11bには、さらに電極引き出し線としてのリード線33が接続され、このリード線33は、放電ランプ3の外部まで延出しており、不図示の電源に接続可能になっている。
【0022】
内部空間14内に充填される放電媒体としては、水銀のような発光物質のほか、希ガス、ハロゲン化合物等を含めることができる。ここで、水銀は、例えば0.15mg/mm〜0.32mg/mmの封入量であり、150bar〜190barの蒸気圧で封入されることが好ましい。また、希ガスは、発光を補助するために用いられるものであり、特に限定されないが、アルゴンガス、キセノンガス等を用いることができる。さらに、ハロゲンは、ハロゲンサイクルによって電球内面の黒化を防ぐためのものであり、塩素、臭素、及び沃素のうちのいずれか一つ以上を用いることができ、特に臭素を用いることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、放電容器である発光管10の中央の膨出部10Aから封止部10B,10Bにかけての内表面10cには、放電ランプ3の耐久性向上のため内側保護層18が形成されている。内側保護層18は、膨出部10Aのうち一対の電極11a,11a間の発光中心、すなわち内部空間14内の発光部15の中心に対向する頭頂部TPから一対の封止部10B,10B側に位置する周辺部PPに向かって、頭頂部TPよりも周辺部PPの膜厚が相対的に薄くなるように成膜されている。
【0024】
また、内側保護層18は、例えば、図3(A)等に示すように、酸化ホウ素を含有する表皮層であり、石英ガラスで形成した本体部10bに隣接する拡散層18aと、拡散層18aを覆う被覆層18bとを有する。拡散層18aは、発光管10の内表面10c全体にホウ素を拡散させることで形成されたものであり、SiOにB等を添加したSi−B−O系のガラス材料層となっている。この拡散層18aは、最上層から内部(発光管10の管壁の深部)に向かってホウ素の濃度が漸次小さくなるような分布を有して形成されており、発光管10の本体部10bを被覆する表面改質層となっている。被覆層18bは、実質的にBで形成された膜であり、このB膜によって拡散層18aの表面全体が覆われている。
【0025】
以下、内側保護層18について、より具体的に説明する。図2に示すように、内側保護層18は、頭頂部TP側を覆う比較的厚い第1保護膜部分MP1と、周辺部PP側を覆う比較的薄い第2保護膜部分MP2とを有する。これにより、内側保護層18は、2段階で段階的に膜厚を変化させた構造となっており、頭頂部TPより周辺部PPの方が膜厚が相対的に薄くなっている。つまり、図3(A)及び3(B)に模式的に示すように、第1保護膜部分MP1に含まれる部分CP1の膜厚T1と、第2保護膜部分MP2に含まれる部分CP2の膜厚T2とを比較すると、T1>T2となっている。この際、膜厚T1は、1μm以上20μm以下、特に10μm以下であることが、頭頂部での失透を十分低減でき、かつ、作製の困難性を回避できるものとして望ましい。また、膜厚T2は、0.1μm以上1μm未満であることが、黒化の抑制を図ることで失透を低減し、かつ、電極11a,11aを細くさせないために望ましい。なお、この場合、各保護膜部分MP1,MP2の拡散層18aの厚さ及び被覆層18bの厚さについても、膜厚T1,T2の厚さの差に応じて異なっており、同様の大小関係を有する。
【0026】
また、図2に示すように、第1保護膜部分MP1と第2保護膜部分MP2との境界部SPは、一対の封止部10B,10Bの端部と膨出部10Aの端部との接合部であるくびれ部分WPに対応する位置に形成されている。具体的には、図において、電極11a,11a間の発光中心、すなわち内部空間14内の発光部15の中心からくびれ部分WPに向けて延びる点線Q1,Q2上に境界部SPが形成されている。
【0027】
以上のように、発光管10において、まず、放電による影響を受けやすく失透しやすい頭頂部TPを内側保護層18のうち比較的厚い第1保護膜部分MP1で覆って保護している。これにより、膨出部10Aでの失透を十分に低減できる。また、失透の一要因となる黒化を発生しやすい周辺部CPを内側保護層18のうち比較的薄い第2保護膜部分MP2で覆っている。これにより、黒化によって熱が蓄積することで黒化した部分の周辺に失透が生じ、さらに熱が蓄積しやすくなることで失透した部分が拡がっていき照明光に影響を及ぼす、という事態を回避することができる。以上により、膨出部における失透の発生を効果的に低減することができる。また、周辺部CP上での内側保護層18が比較的薄い形状であるため、膜厚が一定なままの場合に比べて、ホウ素が蒸発してタングステン製の電極11a,11aを劣化させること、すなわち電極11a,11aが細ることを抑制できる。
【0028】
図1に戻って、リフレクター12は、放電ランプ3の封止部10Bが挿通される首状部21と、この首状部21から拡がる曲面状の反射部22とを備えたガラス製の一体成形品である。首状部21には、中央に挿入孔23が形成されており、この挿入孔23の中心に放電ランプ3の一方の封止部10Bが配置されて固定される。封止部10Bの固定に際しては、上記一方の封止部10Bをリフレクター12の挿入孔23に挿入し、挿入孔23内部の隙間にシリカ、アルミナ等を主成分とする無機系接着剤を充填する。これにより、リフレクター12に放電ランプ3が確実に固定される。リフレクター12の反射部22は、曲面状のガラス内面に無機材料膜、金属薄膜等を蒸着して形成され、この反射部22の反射面は、例えば可視光を反射して赤外線を透過するコールドミラーとなっている。
【0029】
放電ランプ3は、この反射部22の内部に配置され、膨出部10A内に支持された電極11a,11a間の発光中心、すなわち内部空間14内の発光部15の中心が反射部22の曲面ミラーの焦点位置と一致するように配置される。放電ランプ3を点灯すると、膨出部10Aから放射された光束は、反射部22の反射面で光束射出方向AB側に反射される。
【0030】
副反射鏡13は、膨出部10Aの光束射出方向AB側を覆う反射部材であり、その反射面は、膨出部10Aの内表面10c(すなわち内部空間14を画成する球状面)や膨出部10Aの外表面10aに倣う凹曲面状に形成されている。副反射鏡13の反射面は、リフレクター12と同様にコールドミラーとなっている。
【0031】
上述した放電ランプ3において、一対の封止部10Bから外側に延出する一対のリード線33間に電圧を印加すると、電極11a,11a間で放電が生じて発光部15が発光する。そして、放電ランプ3の膨出部10Aから前方側に射出された光束の一部は、この副反射鏡13の反射面にて反射され、膨出部10A内に再度戻される。そして、この戻り光の一部が膨出部10Aの内部空間14に封入された放電媒体に吸収されるとともに、その他の戻り光がリフレクター12側に向けて進み、リフレクター12の反射部22で反射されて全体として光束射出方向ABの向きに射出される。
【0032】
以上の光源装置1は、発光管(放電容器)10が内側保護層18で被覆された放電ランプ3を備えており、発光管10の失透を長期的に低減することができ、電極11a,11aが細る劣化を抑制できるので、ランプ寿命を大幅に改善できる。
【0033】
2)放電ランプの製造方法
以下の説明では、本願発明の特徴部分である放電ランプ3の発光管10の内表面10cに内側保護層18を形成する工程について詳しく説明し、他の工程については説明を省略し又は簡略化する。
【0034】
図4は放電ランプ3の製造工程を示すフローチャートであり、図5(A)及び5(B)は内表面10cの形成中における発光管10の部分拡大断面図を示す。
【0035】
図4に示すように、放電ランプ3の製造方法は、段階層形成工程(ステップS1)と、熱処理工程(ステップS2)と、電極設置及び放電媒体封入工程(ステップS3)とを有している。ここで、ステップS1の段階層形成工程には、液体材料を塗布する複数の液体材料塗布工程が含まれる。
【0036】
まず、発光管10の本体部10bとなるべき石英ガラス管を準備する。この石英ガラス管は、膨出部10Aに対応する中央部で内径が大きく、封止部10B,10Bに対応する両端部で断面積が小さいものとする。
【0037】
図5(A)に示すように、発光管10の内表面10cに三酸化ニホウ素(B)を溶媒で溶かした液体材料を塗布し、塗布した液体状材料を乾燥させて塗布膜(酸化ホウ素の固化微粒子層17)とする(ステップS1)。なお、この際、塗布及び乾燥を複数回に分けて塗布領域を変化させつつ行うことで、固化微粒子層17に膜厚差を設けることができ、完成時に境界部SP(図2参照)を形成できる。つまり、例えば1回目の塗布では、内表面10cのうち第1保護膜部分MP1を形成する箇所のみに部分的に液体状材料の塗布・乾燥を行い、2回目の塗布では、内表面10c全体に対応する箇所に液体状材料の塗布・乾燥を行う。これにより、固化微粒子層17を2段階の膜厚を有する状態にすることができる。
【0038】
次に、ステップS1で形成した固化微粒子層17を、発光管10を炉内で加熱・焼成することによって酸化ホウ素の固化微粒子層17を溶融させ、図5(B)に示すように、発光管10の内表面10cの管壁中にホウ素を拡散させる(ステップS2)。発光管10を形成する石英ガラス(SiO)中にホウ素が拡散することで拡散層18aが形成され、内表面10c(管壁の最表層)が改質される。ここで、固化微粒子層17を加熱することによって、酸化ホウ素の固化微粒子層17が接している内表面10cの最表層から深部に向かってホウ素が漸次拡散していく。このため、ホウ素の濃度としては、最表面側が最も大きく、管壁の厚さ方向に向かうに従って漸次小さくなるような分布となる。このようにして、内表面10cの最表層から管壁の厚さ方向の深部に向かってホウ素の濃度が漸次小さくなるような濃度傾斜を有した拡散層18aが、改質層として下地の本体部10b上に本体部10bを覆うように形成される。また、拡散層18aが形成されるのと同時に、この拡散層18a上にガラス状のB膜で形成された被覆層18bが残る。
【0039】
ステップS2で作製された発光管10の内部に電極11a、11aを設置するとともに水銀及びハロゲンガスを封入する(ステップS3)。これにより、放電ランプ3が完成する。この放電ランプ3は、図1に示すような光源装置1の組み立てに際して構成部品として利用される。つまり、放電ランプ3に副反射鏡13やリフレクター12を固定して、光源装置1を得る。
【0040】
なお、図6(A)及び6(B)に示すように、内側保護層18において、被覆層18bを省略したものとすることもできる。つまり、例えば上記ステップS2において、残った被覆層18bをエッチング等により除去することで、拡散層18aのみによって内側保護層18を構成できる。これにより、内部空間でのホウ素の蒸発をさらに抑制することができる。
【0041】
3)実施例
図7(A)〜7(C)は、放電ランプ3の使用による電極11aの変化について示す図である。具体的には、図7(A)が使用開始後307時間を経過した時の電極11aの形状を示すものであり、図7(B)が使用開始後539時間、図7(C)が使用開始後800時間を経過した時の電極11aの形状を示すものである。図示のように、この場合、電極11aの先端側には多少の劣化がみられるが、軸側は比較的太い状態が保たれている。これに対して、図8(A)〜8(I)に示す比較例では、いずれも電極11aの劣化が激しくなっている。具体的には、図8(A)〜8(C)は、放電ランプ3において、内側保護層18が膜厚差を設けず一様に厚い膜で成膜したものである場合の電極11aの変化について示す図である。図8(A)〜8(C)は、それぞれ使用開始後261時間、450時間及び739時間を経過したものである。同様に、図8(D)〜8(F)は、放電ランプ3において、内側保護層18が膜厚差を設けず一様に薄い膜で成膜したものである場合の電極11aの変化について示す図である。図8(D)〜8(F)は、それぞれ使用開始後261時間、450時間及び739時間を経過したものである。また、図8(G)〜8(I)は、放電ランプ3において、内側保護層18を設けていない場合の電極11aの変化について示す図である。図8(G)〜8(I)は、それぞれ使用開始後261時間、450時間及び739時間を経過したものである。図8(A)〜8(F)の場合、特に軸側が細くなっている。また、図8(G)〜8(I)の場合、特に先端側の形状の崩れが激しい。これらに比較して、本実施形態では、電極11aの劣化が抑制されていることが分かる。
【0042】
また、図9(A)は、放電ランプ3の使用による発光管10の膨出部10Aの変化について示す図である。具体的には、放電ランプ3の使用開始後750時間を経過した時の膨出部10Aの形状を示すものである。この場合、膨出部10Aの内表面において、失透がほとんど発生していない。これに対して、図9(B)は、比較例として内側保護層18を設けていない場合の放電ランプ3の使用による膨出部10Aの変化について示す図であり、使用開始後750時間を経過した時の膨出部10Aの形状を示すものである。この場合、図示のように、膨出部10Aの一部10Pが失透している。
【0043】
4)プロジェクター
次に、上記実施形態の放電ランプを用いたプロジェクターについて説明する。
【0044】
図10は、プロジェクターの構成例を示す平面図である。図示のプロジェクター100の内部には、照明系として、図1に示す光源装置1を備えたランプユニット102が設けられている。このランプユニット102は、光源装置1のほかに、光束を平行化するコリメーターレンズ51、光束を均一化するインテグレーター52、光束の偏光方向を揃える偏光変換装置53、光束を重ねる重畳レンズ54等を備える。
【0045】
ランプユニット102から射出された投射光は、ライトガイド104内に配置された4枚のミラー106及び2枚のダイクロイックミラー108によってRGBの3原色に分離され、各原色に対応するライトバルブとしての液晶パネル(光変調部)110R,110B,110Gに入射される。
【0046】
各液晶パネル110R,110B,110Gは、光変調用の能動素子である液晶素子61を一対の偏光フィルム62,62の間に配置した構造を有する光変調装置であり、不図示の画像信号処理回路から供給されるR、G、Bの原色信号でそれぞれ駆動される。そして、これらの液晶パネル110R,110B,110Gによって変調された光は、ダイクロイックプリズム112に3方向から入射される。このダイクロイックプリズム112においては、R及びBの光が90度に屈折する一方、Gの光が直進する。したがって、各色の画像が合成される結果、投射レンズ114を介して、スクリーン等にカラー画像が投写されることとなる。ここで、各液晶パネル110R,110B,110Gによる表示像について着目すると、液晶パネル110Gによる表示像は、液晶パネル110R,110Bによる表示像に対して左右反転することが必要となる。
【0047】
プロジェクター100は、ランプユニット102中に図1に示す放電ランプ3を備えている。この放電ランプ3は、失透が長期的に抑制され、かつ、電極が細ることを抑制できる。このため、プロジェクター100は、長寿命化され、表示品位が高く信頼性の高い投写像を得ることができる。また、小型な放電ランプ3延いては光源装置1を備えたことにより、全体が小型化されかつ軽量なプロジェクターを得ることができる。
【0048】
5)その他
以上各実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
上記では、発光管10において、内側保護層18が2段階の膜厚差を有するものとすることで、頭頂部TPから周辺部PPに向かって膜厚が相対的に薄くなるように成膜されているが、これに限らず、多段階の膜厚差を有するものであってもよい。また、段階的な膜厚差でなく、厚みが徐々に変化していくものであってもよい。
【0050】
また、発光管10において、内側保護層18は、頭頂部TP全体を比較的厚い第1保護膜部分MP1で覆うように第1保護膜部分MP1を回転体状に形成するものとしているが、例えば、頭頂部TPのうち使用状態を考慮して重力方向に対して反対側の上面側のみが失透しやすいという場合には、頭頂部TPの上面側のみを第1保護膜部分MP1で覆い、頭頂部TPの側面及び下面側については、比較的薄い第2保護膜部分MP2で覆うものとしてもよい。
【0051】
また、発光管10の膨出部10Aから封止部10B,10Bにかけての外表面10aに、発光管10の強度向上のため外側保護層を形成してもよい。
【0052】
また、放電ランプ3の内側保護層18を形成するためのBには、本発明の効果である放電容器の破損抑制や失透抑制を損なわない限り、他の元素を含有させることも可能である。
【0053】
また、上記実施形態でのプロジェクター100は、光変調部として液晶パネル110R,110B,110Gを用いている。しかし、光変調部は、これに限らず、一般に入射光を画像情報に応じて変調するものであればよく、マイクロミラー型光変調装置などを使用してもよい。なお、マイクロミラー型光変調装置としては、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)(登録商標)を用いることができる。マイクロミラー型光変調装置を用いた場合には、入射偏光板や射出偏光板などは不要とすることができ、偏光変換素子も不要とすることができる。
【0054】
上記実施形態の放電ランプ3を組み込んだ光源装置1は、一例として透過型液晶方式のプロジェクター100に用いられている。しかし、光源装置1は、透過型液晶方式に限らず、反射型液晶方式であるLCOS(Liquid Crysta1 On Silicon)方式などを採用したプロジェクターに用いられても同様の効果を奏することが可能である。
【0055】
プロジェクター100の光変調部としては、液晶パネルを3枚使用する3板方式であっても、液晶パネルを1枚使用する単板方式を用いてもよい。なお、単板方式を用いた場合には、照明光学系の色分離光学系や色合成光学系などは不要とすることができる。
【0056】
また、上記実施形態の放電ランプ3を組み込んだ光源装置1は、外部に設置される投射面に光学像の投射を行うフロントタイプのプロジェクターに適用している。しかし、これに限らず、プロジェクターの内部にスクリーンを有して、そのスクリーンに光学像を投射するリアタイプのプロジェクターにも適用可能である。
【0057】
また、上記実施形態の放電ランプ3を組み込んだ光源装置1は、プロジェクターの光源に限らず、小型軽量の光源装置として、他の光学機器に適用してもよい。また、かかる光源装置1は、航空、船舶、車輌などの照明機器や、屋内照明機器などへも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…光源装置、 3…放電ランプ、10…発光管、 11a…電極、 10A…膨出部、 TP…頭頂部、 CP…周辺部、 10B…封止部、 10a…外表面、 10b…本体部、 10c…内表面、 11a,11a…電極、 12…リフレクター、 13…副反射鏡、 14…内部空間、 15…発光部、 17…固化微粒子層、 18…内側保護層、 MP1…第1保護膜部分、 MP2…第2保護膜部分、 18a…拡散層、 18b…被覆層、 61…液晶素子、 62,62…偏光フィルム、 100…プロジェクター、 102…ランプユニット、 108…ダイクロイックミラー、 110R,110B,110G…液晶パネル、 112…ダイクロイックプリズム、 114…投射レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電用の一対の電極と、
石英ガラスで形成され、放電媒体を封入するための内部空間を有するとともに前記内部空間に前記一対の電極を離間配置する放電容器と、を備え、
前記放電容器は、
前記内部空間を囲む膨出部と、
前記膨出部の両端から延び前記一対の電極をそれぞれ支持する一対の封止部と、
前記膨出部の内表面に前記一対の電極間の中心に対向する頭頂部から前記一対の封止部側に位置する周辺部にわたって設けられ、前記頭頂部よりも前記周辺部の膜厚が相対的に薄くなる内側保護層と、を有する、
放電ランプ。
【請求項2】
前記内側保護層の膜厚は、段階的に変化している、請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記内側保護層において、比較的厚い第1保護膜部分と比較的薄い第2保護膜部分との境界部は、前記一対の封止部の端部と前記膨出部の端部との接合部として形成されるくびれ部分に対応する位置に形成される、請求項2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記内側保護層は、前記膨出部の内表面上において、三酸化二ホウ素を塗布及び溶融して形成される、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項5】
前記内側保護層は、前記石英ガラスにホウ素を拡散させた層を含む、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項6】
前記内側保護層の膜厚は、前記頭頂部において1μm以上20μm以下であり、前記一対の封止部側の前記周辺部において0.1μm以上1μm未満である、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の放電ランプ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の放電ランプと、
前記放電ランプから射出された光束を反射するリフレクターと、
を備える光源装置。
【請求項8】
請求項7に記載の光源装置と、
前記光源装置からの照明光によって照明される光変調装置と、
前記光変調装置で変調された光を投射する投射レンズと、
を備えるプロジェクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−160278(P2012−160278A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17638(P2011−17638)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】