説明

放電加工機および放電加工方法

【課題】本発明は、水系加工液の導電率を上昇させることなく、かつ金属材料を防食した状態で放電加工を可能とする放電加工機および加放電工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るワイヤ放電加工機は、金属材料を放電加工する電極と、金属材料に防食剤を含む水系加工液を供給する加工液供給部と、水系加工液にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、オゾンガスの供給量を制御するオゾンガス供給量制御部と、金属材料の電位を測定する電位測定部と、水系加工液の導電率を制御する導電率制御部とを含み、加工液供給部は、水系加工液を金属材料の放電加工される部分に供給し、オゾンガス供給量制御部は、電位測定部において測定した電位に基づきオゾンガス供給部のオゾンガスの供給を制御するために設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属材料の放電加工を行なう放電加工機および放電加工方法に関するものであり、水系加工液を用いたワイヤ放電加工機および放電加工方法に好適である。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機における加工液としては、イオン交換水を用いた水系加工液と油系加工液とが挙げられる。油系加工液の場合、ワイヤ放電加工機の加工性能は劣るが、被加工材料である金属材料の防食という利点を有する。一方、水系加工液の場合、ワイヤ放電加工機の加工性能が高く、また、火災の危険性がない、すなわち安全性が高いといった利点がある。しかしながら、水系加工液の場合は、金属材料に錆が発生し、すなわち金属材料の加工液による腐食が進行し、金属材料の加工性能(加工精度)が低下してしまうという問題点も含む。したがって、水系加工液を使用する場合には、金属材料における錆の発生を抑制する必要がある。
【0003】
金属材料の加工液による腐食を防止するために、防食剤を添加した加工液を用いる方法が検討されている。具体的には、テトラゾール化合物またはその塩からなる水溶性金属防食剤を水に添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、亜硝酸イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、および水酸化物イオンのうちの1種以上のイオンとを固定した陰イオン交換樹脂を用いて腐食性イオンを除去し、水系加工液中にある鉄系金属からなる被加工材を防食する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−145491号公報
【特許文献2】特開2002−301624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、ワイヤ放電加工機の加工液に水溶性金属防食剤を添加する場合は、放電加工性能を劣化させないために、加工液を所定の導電率以下に維持する必要がある。そのために、H+形陽イオン交換樹脂およびOH-形陰イオン交換樹脂(これらのイオン交換樹脂をあわせて、「純水化樹脂」ということがある)に加工液を通過させる。その際、水溶性金属防食剤に含まれるイオン性物質が純水化樹脂に捕捉されるために、加工液中の水溶性金属防食剤濃度が低下し、超硬材料や金属材料に対する防食効果を発揮できなくなる問題がある。また、イオン交換樹脂の頻繁な交換が必要である。
【0005】
他方、特許文献2のように、亜硝酸イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、および水酸化物イオンのうちの1種以上とを固定した陰イオン交換樹脂を用いる場合、放電加工している間、常に防錆イオン濃度を維持する必要がある。このため、ワイヤ放電加工機が装備すべき陰イオン交換樹脂の使用量が増加してしまう、すなわち、金属材料の防錆のために必要な陰イオン交換樹脂が消耗するために、陰イオン交換樹脂の交換といったメンテナンスが必要となる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、水系加工液の導電率を上昇させることなく、かつ金属材料を防食した状態で放電加工を可能とする放電加工機および加放電工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るワイヤ放電加工機は、金属材料を放電加工する電極と、金属材料に防食剤を含む水系加工液を供給する加工液供給部と、水系加工液にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、オゾンガスの供給量を制御するオゾンガス供給量制御部と、金属材料の電位を測定する電位測定部と、水系加工液の導電率を制御する導電率制御部とを含み、加工液供給部は、水系加工液を金属材料の放電加工される部分に供給し、オゾンガス供給量制御部は、電位測定部において測定した電位に基づきオゾンガス供給部のオゾンガスの供給を制御するために設けられることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、水系加工液を用いて金属材料を放電加工する放電加工方法であって、金属材料を放電加工する工程において、水系加工液を金属材料の放電加工される部分に供給するA工程と、水系加工液が供給された金属材料の電位を測定するB工程と、測定した電位に基づき水系加工液にオゾンガスを供給するC工程と、オゾンガスを供給した水系加工液を金属材料の放電加工する部分に供給するD工程とを含み、前記A〜D工程において、水系加工液の導電率は、所定値以下に制御される放電加工方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防食剤を含む水系加工液を用いることにより、金属材料表面に不働態被膜を形成させることができ、電位測定部に基づきオゾンガスの供給量を制御することにより、濃度が制御されたオゾンガスを供給し、上記不働態被膜を維持することができるので、金属材料表面の腐食を抑制することができる。さらに、導電率制御部を備えるので、放電加工時に水系加工液の導電率を上昇させることがない。その結果、本発明は、金属材料表面の腐食を抑制し、放電加工性能に優れた放電加工機および放電加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の放電加工機は、金属材料を放電加工する電極と、金属材料に防食剤を含む水系加工液を供給する加工液供給部と、水系加工液にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、オゾンガスの供給量を制御するオゾンガス供給量制御部と、金属材料の電位を測定する電位測定部と、水系加工液の導電率を制御する導電率制御部とを含む。本発明の放電加工機は、これらの構成以外にも、例えば、金属材料を水系加工液に浸漬して放電加工を行なう場合は、水系加工液を貯めるための貯水槽などを備えてもよい。また、水系加工液を調製するための装置などを備えることができる。
【0011】
本発明は、上記構成により、金属材料の表面に不働態被膜を形成させ、その不働態被膜をオゾンガスにより維持させることにより金属材料の腐食を抑制するものである。
【0012】
金属材料としては、放電加工の対象となるものであれば特に限定されないが、水系加工液を用いた場合に錆の発生する金属材料を対象とした場合、本発明の効果が顕著である。例えば、放電加工の対象とされる金型材料であって、軟鋼、ステンレス鋼などの鉄を主成分として含有する鉄系金属材料や超硬合金などの腐食を効率的に抑制することができる。
【0013】
放電加工するための電極は、このような放電加工に通常用いられるワイヤ電極である。ワイヤの径などは、対象とする金属材料および加工形状等にあわせて、調整すればよい。
【0014】
本発明における水系加工液としては、放電加工において用いられている従来公知の水系加工液を適用することができ、例えば、イオン交換水があげられる。このイオン交換水は、純水化樹脂を用いて製造することができる。純水化樹脂とは、H+形陽イオン交換樹脂とOH-形陰イオン交換樹脂の混合物である。H+形陽イオン交換樹脂としては、例えばスチレンージビニルベンゼン共重合体、フェノールホルマリン樹脂などを基体とし、イオン交換基としてスルホン酸基を持つものがあげられる。これらは、例えばH+形のアンバーライトIR120B(ローム・アンド・ハース社製)、H+形のダイヤイオンSK1B(三菱化学(株)製)として市販されている。OH-形陰イオン交換樹脂としては、例えばスチレンージビニルベンゼン共重合体などを基体とし、イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基、β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウム基などを持つものがあげられる。これらは、例えばOH-形のアンバーライトIRA400J(ローム・アンド・ハース社製)、OH-形のダイヤイオンSA10A(三菱化学(株)製)として市販されている。
【0015】
純水化樹脂におけるH+形陽イオン交換樹脂とOH-形陰イオン交換樹脂の混合割合は特に限定されず、例えばそれぞれの形のイオン交換基が等量となるようにすればよい。イオン交換水は、純水化樹脂を供えた容器などに水系加工液の源となる水道水、工業用水、地下水などの淡水を通水させることによって淡水中の不純物イオンを除去して得られる。例えば不純物陽イオンとしてK+、不純物陰イオンとしてCl-が存在すると、H+形陽イオン交換樹脂の場合は下記の式(1)の反応により、OH-形陰イオン交換樹脂の場合は式(2)の反応によってK+、Cl-が純水化樹脂に捕捉される。
【0016】
R−SO3-+ + K+ → R−SO3+ + H+ ・・・式(1)
R≡N+OH- + Cl- → R≡N+Cl- + OH- ・・・式(2)
ここで、式(1)および式(2)において、Rはポリスチレン樹脂など、上記各形のイオン交換樹脂の基体を示す。
【0017】
上記水系加工液には防食剤を含むことが好ましい。防食剤としては、金属材料表面を覆う被膜を形成するものであればよく、具体的にはタングステン酸ナトリウムのほかに、不働態被膜を形成する亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、吸着膜を形成するテトラアンモニウムヨージド、金属と不溶性の錯体塩を形成するメルカプトベンゾチアゾール、トリルトリアゾールやベンゾトリアゾール、沈降膜を形成するリン酸水素ナトリウムやポリリン酸ナトリウム、化成被膜を形成する塩化セリウム、硝酸セリウムなどが防食剤として有効である。防食剤の添加量は特に限定されないが、導電率の制御が容易であることから、たとえば、2mg/dm3〜200mg/dm3とすることが好ましい。
【0018】
防食剤の添加方法としては、イオン交換水に直接防食剤を添加する方法の他、防食イオン生成装置であるイオン交換樹脂塔や電解水製造装置などにより防食イオン発生させて、水系加工液にイオンを添加する方法も有効である。なお、防食イオン生成装置を用いた場合は加工液の導電率が上昇するが、上記のように純水化樹脂を通過させることで、所定の導電率に制御することができる。
【0019】
本発明の放電加工機は、水系加工液にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部を備える。オゾンガスは電離度が小さく、また還元されると酸素ガスに変化するという特性を有する。したがって、オゾンガスを金属材料に対して供給(照射)した場合は、金属材料の水系加工液への浸漬時および金属材料の放電加工時に、オゾンガス自体により水系加工液の導電率が上昇することはない。オゾンガスは水系加工液に供給されればよいが、金属材料表面の加工性を維持する点からは、金属材料表面付近に供給することが好ましく、この場合、たとえばノズルなどを用いて行なうことができる。オゾンガスの供給量は後述のように水系加工液にオゾンが溶解したオゾン水におけるオゾン濃度(オゾン水濃度ということがある)によって調整すればよいが、たとえば、0.1g/m3〜9g/m3とすることが好ましく、0.1g/m3〜6.3g/m3とすることがより好ましい。このようなオゾンガスの供給量を満足する場合は、より精度よく金属材料の防食を行なうことができる。
【0020】
オゾンガスは水系加工液に供給されると、該加工液にオゾンが溶解してオゾン水が生成する。金属材料表面の加工性を維持する点から、オゾン水におけるオゾン濃度は1ppm以下とすることが好ましく、0.7ppmとすることがより好ましい。また、その下限は、特に限定されるものではないが、公知のオゾン発生装置のオゾン発生能力を考慮すると0.01ppmとなる。なお、オゾン濃度は、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムを用いた滴定により確認することができる。
【0021】
上記オゾンガスは、その供給量が後述の電位測定部において測定した電位に基づき制御される。オゾンガスは、酸化力が高いので金属材料表面の不働態化に有効である。水系加工液に鉄系金属材料を浸漬した場合、金属材料表面では鉄と酸化鉄の可逆反応が生じる。このときの可逆反応の平衡電極電位、すなわち、金属材料の平衡電極電位は−0.4V〜0.5V付近にある。この金属材料は、表面に活性な鉄が露出している限り鉄が酸化され続け、結果として腐食が局所的に進行する。この金属材料に対して、酸化力の強いオゾンガスを溶解させたオゾン水を供給(照射)することにより、膜厚の薄い鉄酸化物(Fe34)が生成するので、金属材料表面の腐食を抑制することができる。このときの金属材料の電位はオゾンによる酸化反応が進行するために上昇する。したがって、腐食の進む電位領域からFe34が生成する電位領域に移行する間の電位よりも、金属材料の電位が下回っている状態を電位測定により確認したときに、オゾンガスの供給が開始されるように制御することが好ましい。
【0022】
上記平衡電極電位は水系加工液の液性(pH)によって変動するため、オゾンガス供給開始条件は、水系加工液のpHと電位との条件により制御することが好ましい。オゾンガス供給開始は、水系加工液のpHを[pH]とした場合に、標準水素電極電位(NHE(Normal Hydrogen Electrode)ということがある)に対する値を、−0.063−0.059[pH](V)以下に設定することが好ましい。また、上述のように、この電位状態からオゾンガスの供給を続けると金属材料の電位が上昇し続け、やがては金属材料表面に形成される酸化物がFe34から赤錆の原因となるFe23へと変化する。したがって、錆が発生する前に金属材料へのオゾンガスの供給を停止する必要がある。オゾンガス供給開始の電位と同様に、オゾンガス供給の停止する際の金属材料の電位も、水系加工液のpHによって変動するので、水系加工液のpHと電位との条件により制御することが好ましく、具体的には上述同様水系加工液のpHを[pH]とした場合に、0.214−0.059[pH](V vs.NHE)以上に設定すればよい。また、酸化反応の進行を抑制するためには、この設定した電位に到達する前に金属材料表面へのオゾンガスの供給を停止することが好ましく、電位測定部において測定した金属材料の電位をモニターして、オゾンガス供給量制御部でオゾン発生を制御または停止する。
【0023】
なお、金属材料の電位測定は、たとえば、電位測定部に参照電極を備え、該参照電極と金属材料との間の電位を測定すればよい。参照電極を含めた測定系は特に限定されないが、金属材料と参照電極とが1つの水系加工液に浸漬された状態であることが好ましい。また、参照電極としては、水系加工液に適用できるものであれば、その測定値を上記標準水素電極電位に換算でき、また、当該換算値に基づき上記オゾンガスの供給量の制御を行なうことが可能であるので、特に限定されない。電気化学測定に汎用されるものであれば使用が可能であるが、加工液の導電率制御の観点から、銀塩化銀電極のように電極に溶液を使用しているために加工液導電率を上昇させてしまう電極よりも、固体で構成される参照電極が好ましく、さらに好ましくは広い電位窓を有する電極、例えば金電極、白金電極など安定な金属電極を使用するとよい。
【0024】
本発明における水系加工液の導電率制御部は、たとえば、水系加工液の導電率を測定する導電率計と、この導電率計で測定した水系加工液の導電率が設定した導電率よりも高くなると、水系加工液を上記純水化樹脂に通過させる循環システム(ポンプ、フィルタなどを含む)とを備える構成とすることができる。純水化樹脂を通過させることによって、水系加工液の導電率を制御することが可能となる。水系加工液の導電率は、放電加工性能を劣化させない点からは70μS/cm以下に設定することが望ましい。このような特定の導電率は、純水化樹脂を通過させることにより達成することができ、必要に応じて純水化樹脂を複数回通過させることで調整することができる。純水化樹脂を通過した水系加工液は、直接上記貯水槽に流入させてもよいし、別に設けた槽に流入させてから貯水槽に流入させてもよい。
【0025】
本発明の放電加工機によれば、金属材料の電位をモニターしながらオゾンガスを供給するので、オゾンガスの過度の供給による赤錆発生を抑制することができ、結果として金属材料表面の腐食を抑制することができる。そして、加工液導電率の上昇も抑制されることから、放電加工性能を低下させることなく、金属材料表面の腐食を抑制することができる。また、このような効果は、以下のような放電加工方法によっても達成することができる。
【0026】
本発明の放電加工方法は、金属材料を放電加工する工程において、金属材料を放電加工する工程において、水系加工液を金属材料の放電加工される部分に供給するA工程と、水系加工液が供給された金属材料の電位を測定するB工程と、測定した電位に基づき水系加工液にオゾンガスを供給するC工程と、オゾンガスを供給した水系加工液を金属材料の放電加工する部分に供給するD工程とを含み、水系加工液の導電率は、所定値以下に制御される放電加工方法に関する。なお、本発明における上記各工程の名称は便宜上のものであり、その順序を示すものではない。
【0027】
上記A工程において、供給される水系加工液としては、上述のイオン交換水を用いることができる。このA工程は、放電加工中連続して行なわれていることが好ましく、すなわち該水系加工液が、放電加工時に放電加工部分に連続的に供給されることが好ましく、たとえば、放電加工部分を含めた金属材料を、水系加工液を貯めた貯水槽に浸漬する形態が好ましい。本発明の放電加工方法は、水系加工液に防食剤を添加するE工程をさらに含み、該E工程は、A工程の前に行なわれることが好ましい。防食剤の添加方法としては、上述の放電加工機における場合のように、防食剤または防食性イオンを上述のような手段または装置により含有させる工程を含むことが好ましい。
【0028】
上記B工程は、金属材料の電位を測定する工程である。この工程は、放電加工部分に水系加工液が供給された後に行なわれる。金属材料の電位の測定は、上記電位測定部の構成により測定することができる。
【0029】
上記C工程は、上記測定した電位に基づき水系加工液にオゾンガスを供給する工程である。このように測定した電位に基づいてオゾンガスを供給する。その後、D工程においてオゾンガスを供給した水系加工液を金属材料の放電加工する部分に供給することで、金属材料表面に形成される不働態被膜を維持することができるので、金属材料表面の腐食を抑制することができる。
【0030】
オゾンガスが供給された水系加工液の導電率も、所定値以下に制御される。導電率水系加工液の導電率は、放電加工性能を劣化させない点からは70μS/cm以下に設定することが望ましい。導電率の制御は、上記導電率制御部のような構成により達成することができる。
【0031】
金属材料の放電加工中において、供給する水系加工液の導電率およびオゾンガス含有を上記A〜Dの工程により制御することにより、金属材料表面に錆を発生させることがなく、その結果精度の高い放電加工を行なうことができる。これらの工程は、水系加工液の導電率および金属材料の電位に基づき、繰り返し、または順不同で複数回行なうことが好ましい。たとえば、オゾンガスが供給された水系加工液を金属材料の放電加工する部分に供給した(D工程)後に、金属材料の電位を測定し(B工程)、その電位に基づいて水系加工液にオゾンガスを供給する(C工程)など、放電加工中の金属材料の電位に応じて組み合わせて行なえばよい。
【0032】
このような工程を含む放電加工方法により、オゾンガスの過度の供給による赤錆発生を抑制することができ、結果として金属材料表面の腐食を抑制することができる。そして、加工液導電率の上昇も抑制されることから、放電加工性能を低下させることなく、金属材料表面の腐食を抑制することができる。
【0033】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明を実施するための実施の形態1における放電加工機を示す模式図である。図1に示される放電加工機は、金属材料1を放電加工するためのワイヤ電極2と、水系加工液を金属材料の上部から供給するノズル4と、水系加工液を金属材料の下部から供給するノズル5と、オゾンガス発生装置20で発生したオゾンガスを水系加工液に供給するためのノズル19と、オゾンガスの供給および停止を制御するためにオゾンガス発生装置20に連動するオゾンガス量制御装置23と、金属材料1の電位を測定するための電位測定部として、電位測定装置21とを備える。
【0035】
放電加工のためのワイヤ電極2は、ワイヤボビン3に巻回されており、ボビン3から水系加工液を供給するためのノズル4およびノズル5を経由して張架され、一対の回収ローラ6にそって搬送および回収されて、放電加工後のワイヤ電極2は回収箱7に回収される。図1において、放電加工は、水系加工液8aを蓄える加工槽8内において金属材料1とワイヤ電極2の間に水系加工液8aを介して放電させて行なわれる。
【0036】
ノズル4および5、加工槽8に供給される水系加工液は、水系加工液の液質を調整する液質制御装置本体9において調製される。液質制御装置本体9は、加工槽8から放電加工後または導電率が高い水系加工液が流路28を通じて流入する汚液槽10を備え、この汚液槽10に流入した水系加工液がポンプ11により流路11aを通じて送られ、ポンプ11から流路11bを経由して濾過フィルタ12に送られる。この濾過フィルタ12を通過することにより、水系加工液に含まれる金属材料の加工屑などの不純物が濾過される。濾過された水系加工液は、液質制御装置本体9に設けられた清液槽13に蓄えられ、ポンプ14の作動により、流路14aおよび流路14bを経て、水系加工液を供給するためのノズル4およびノズル5を介して金属材料1とワイヤ電極2の間に噴出される。
【0037】
清液槽13に蓄えられた水系加工液は、その導電率により、ポンプ16により流路16aおよび流路16bを経由して純水化樹脂が備えられた純水化樹脂塔15に送られ、純水化樹脂を通過した後、流路15aを通じて再び清液槽14に戻され、水系加工液を供給するためのノズル4およびノズル5より金属材料の加工部へ噴出されて、その後、加工槽8に一時的に蓄えられる。一時的に蓄えられた水系加工液は、再度上述のようにその液質により液質制御装置本体9に送られ、循環する。
【0038】
清液槽13に蓄えられた水系加工液の導電率は、導電率計17を用いて測定され、測定された導電率のデータは導電率制御部18に送られる。導電率制御部18は、測定した導電率が所定の導電率を超える場合は、清液槽13にある水系加工液を純水化樹脂塔15に送るようにポンプ16を作動させるように信号を送る。
【0039】
加工槽8に蓄えられた水系加工液8aには、金属材料1の電位によりオゾンガスが供給される。オゾンガスは、オゾンガス発生装置20で発生させて、ノズル19を通じて水系加工液8aに供給される。ノズル19を介して供給されたオゾンガスは、水系加工液に混合されオゾン水となり、金属材料1に供給される。ノズル19は、図1に示すように、その先端が放電加工される金属材料の近傍に存在するように設計することが好ましい。オゾンガスの供給および停止(ON/OFF動作)は、オゾンガス発生装置20に連結されたオゾンガス量制御装置23により制御される。このオゾンガス量制御装置23には、pH測定計26と電位測定装置21とが接続されており、pH測定計26と電位測定装置21の測定データが信号として送られる。そのデータに基づきオゾンガスの供給および停止等をオゾンガス量制御装置23において制御する。
【0040】
電位測定装置21は、参照電極22を備え、図1のように、水系加工液8aに浸漬した、金属材料1と参照電極22との電位差を測定する。測定されたデータは、上述のようにオゾンガス量制御装置23に送られる。また、pH測定は、放電加工中の水系加工液8aに対して行なわれるが、これは、加工槽8に連結された流路27を通じてpH測定用溶液槽24に流入した水系加工液を用いて、pH測定計26とそれに接続されたpH測定用電極25により測定する。測定されたpHのデータは、信号としてオゾンガス量制御装置23に送られ、オゾンガスの供給量が上記電位のデータとに基づき制御される。
【0041】
次に、図1に示されるワイヤ放電加工機の動作およびそれを用いた放電加工方法について説明する。金属材料1とワイヤ電極2との間に電圧を印加し、水系加工液を供給するためのノズル4とノズル5とにより噴出される水系加工液を介して放電を行なわせ、金属材料1の表面を溶融除去することにより加工を進める。このとき、ワイヤ電極2も放電加工にともない放電部分が溶融し、劣化する。したがって、放電加工の進行とともに新しいワイヤ電極2が加工部に供給されるように、放電加工中はボビン3に巻回されたワイヤ電極2が、ノズル4、ノズル5、および回収ローラ6を経由して回収箱7に送り続けられる。ノズル4およびノズル5より噴出した水系加工液は放電加工部に生ずるスラッジを流した後、不純物を多く含有した状態となり、加工槽8に一時蓄えられる。
【0042】
続いて、加工槽8の水系加工液8aは、流路28を通じて汚液槽10に送られ、汚液槽10の加工液はポンプ11により濾過フィルタ12に送られる。不純物を含有した水系加工液は濾過フィルタ12を通過することにより不純物が濾過され、その後清液槽13に蓄えられる。清液槽13に蓄えられた水系加工液は、導電率計17により導電率が測定され、測定された結果は導電率制御部18に送られる。導電率制御部18は、導電率計17の測定結果があらかじめ設定された設定値より高い場合はポンプ16を作動させ、清液槽13の加工液を流路16aおよび流路16bを経由して純水化樹脂塔15に送り、放電加工により生じた金属イオンや大気中の炭酸ガスによる炭酸イオン等を取り除き、水系加工液8aの導電率の上昇を抑制する。
【0043】
上記のように水系加工液8aの導電率の向上は抑制されるが、放電加工の際に、金属材料表面の酸化による錆の発生を抑制するためには、別途オゾンガスを供給することが必要である。
【0044】
図1におけるオゾンガス発生装置20により生成したオゾンガスは、ノズル19内の水を通過し、オゾン水として金属材料1に供給(照射)される。オゾンガス発生装置20において生成されるオゾンガスの発生流量は5g/m3に設定した。このときのノズル先から照射されるオゾン濃度についてヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムを用いた滴定により測定したところ0.5ppmであった。以上の条件により生成されたオゾンガス(水系加工液中に通過させたオゾン水)を、電位測定装置21を用いて測定した金属材料1の電位と、水系加工液8aのpHとを測定しながら照射する。電位測定方法については、参照電極22を用いて金属材料との電位差を測定する。参照電極22としては、白金電極を使用した。また、電位測定装置21は、ポテンシオスタットを用いたが、参照電極22と金属材料1の間の電位差を測定し、その値をデジタル信号またはアナログ信号としてオゾンガス量制御装置23に対して送出できるものであればよい。そして、モニターした金属材料1の電位が上記のような所望の電位の範囲から外れたことをオゾンガス量制御装置23が検知した場合に、オゾンガス発生のON/OFFを制御する。
【0045】
また、安定な放電加工を行なうためには、電位に基づいたオゾンガス発生の制御と同時に水系加工液の導電率を、所定値を維持するように(所定値以下となるように)制御する必要がある。その制御は、上述のように、導電率計17の測定結果が、あらかじめ設定された設定値より高い場合、ポンプ16を作動させることにより、水系加工液を純水化樹脂に通過させて導電率制御を行なう。導電率計17の測定結果が上述のあらかじめ設定された設定値より低くなるとポンプ16の作動を停止する。
【0046】
このように構成されたワイヤ放電加工機における金型の防食方法は、酸化力の強いオゾンを金属材料の電位をモニターしながら照射させることにより、金属材料表面に不働態被膜が形成され、その被膜を破壊することなく維持し続けるために材料表面の腐食を抑制することができる。
【0047】
本実施の形態において、水系加工液の原水として導電率147μS/cm、pH7.2の水道水を用いて放電加工を行なった。この原水を清液槽13に蓄え、加工制御のために清液槽13からポンプ16を用いて純水化樹脂塔15に備えられた純水化樹脂に通水させて不純物を除去した。その結果、導電率8μS/cm、pH6.2の水系加工液が生成された。このpH値より、オゾン水を照射する金属材料1の電極電位の範囲について上限値を−0.15V vs.NHE、下限値を−0.3V vs.NHEとし、下限値よりも金属材料電位が下回ったときに、オゾンガス供給を開始し、上限値に達した時点でオゾンガスの供給を停止する。このような動作により金属材料1表面に安定な表面酸化物Fe34を常に存在させることができ、金属材料1の腐食を抑制する。
【0048】
以上のような実施の形態1の構成を有する放電加工機に、金属材料としてS45C、SK3、SKH51(いずれもJIS規格により表記した炭素鋼鋼材)の試験片をそれぞれ4日間浸漬して放電加工(加工浸漬)した。その結果、これらの試験片の表面は、極めて僅かに変色している程度であり、腐食は軽微であることが確認された。また、浸漬後の試験片表面の被膜の構成成分を調べるために、上記S45C、SK3、SKH51の試験片の試験後の表面についてXPS分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy)を実施した。その結果、被膜の主成分はFeの酸化物であるFe34であり、厚みが数十nm以下の不働態被膜であることがわかった。そしてその下地(試験片表面)にFeの金属層が存在することを確認した。以上により、この上記酸化物から形成される不働態被膜によって金属材料表面の腐食が抑制されていると考えられる。
【0049】
一方、オゾンガスの供給を行なわずに、純水化樹脂塔15に通水したイオン交換水(導電率1.6μS/cm、pH6)を水系加工液として、S45C、SK3、SKH51の試験片をそれぞれ4日間加工浸漬した。その結果、これらの試験片は変色だけではなく、表面酸化物の析出が顕著となり、腐食を呈した。上記の試験と同様に、浸漬後の金属材料表面についてXPS分析を実施したところ、表面にFeの酸化物であるFe23から構成される被膜が厚さ数百μm以上の広範囲にわたって存在することを確認した。これは、オゾンガスが照射されず、不働態被膜が破壊されたために、金属材料表面の腐食が進行したと考えられる。
【0050】
以上の結果から、オゾンガスの供給により水系加工液にオゾンが溶解している状態で、オゾンガス供給量制御部、導電率制御部を用いて、金属材料の電位および水系加工液の導電率を制御することにより、腐食を抑制することができることが確認された。
【0051】
本発明の実施の形態1では、水系加工液に金属材料を浸漬した直後から発生量を制御したオゾンガスを照射することにより金属材料の表面に不働態被膜を形成させて腐食を抑制しているが、予め水系加工液に防食剤を添加しておき、その防食剤により金属材料表面に不働態被膜を形成させ、オゾンガス供給量制御部のオゾンガスの供給および停止の制御によりその不働態被膜を維持させる手段も有効であり、以下の実施の形態2に詳細に説明する。
【0052】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、防食剤により金属材料表面に不働態被膜を形成させ、該不働態被膜をオゾンガスの供給により維持する防食性能の高い金属材料の放電加工方法について説明する。
【0053】
本発明の実施の形態2では、放電加工機の始動時点において水系加工液に防食剤を含有させること意外は、金属材料1の放電加工機において水系加工液が加工槽8、液質制御装置9などを循環するシステムなどは実施の形態1と同様であり、同様な部分についての説明は省略する。実施の形態1に係わる放電加工機の水系加工液については、原水である水道水を純粋化樹脂15に通過させて導電率を所定の値以下に制御したが、本実施の形態2では、防食剤の添加により、導電率が所定の値よりも上昇した水系加工液を、純粋化樹脂15に通過させて水系加工液の導電率の制御を実施する。
【0054】
防食剤の添加方法について説明する。防食剤としては、金属材料表面に不働態被膜を形成するタングステン酸ナトリウムを使用した。予め製造した導電率を1μS/cmに制御したイオン交換水に対して、タングステン酸ナトリウムの濃度が10.8mg/dm3となるように添加したものを初期の水系加工液とした。防食剤を添加した後の水系加工液の導電率は13.6μS/cmであった。
【0055】
防食剤を添加した水系加工液を所定の導電率に制御するために、純粋化樹脂15に通水し、導電率が制御された防食剤を添加した水系加工液に金属材料を浸漬させて、その表面に不働態被膜を形成させる。その不働態被膜を実施の形態1と同様にオゾンガスを照射することにより維持させる。オゾンガスの照射方法については実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
以上の実施の形態2により調整された水系加工液の加工槽8、液質制御装置9などの循環系の水系加工液内に、金属材料として実施の形態1と同様にS45C、SK3およびSKH51の試験片をそれぞれ4日間加工浸漬した。その結果、これらの金属材料の表面は、極めて僅かに変色している程度であり、腐食は軽微であることが確認された。すなわち、実施の形態2のように構成された放電加工機における放電加工方法は、予め防食剤により形成された不働態被膜に対して、酸化力の強いオゾンを金属材料の電位をモニターしながら照射させることにより、その不働態被膜を破壊することなく維持し続けることができるので、金属材料表面の腐食を抑制することができる。
【0057】
一方、防食剤を添加した水系加工液を用いて、金属材料に対してオゾンガスの照射を行なわずに上記S45C、SK3およびSKH51の試験片をそれぞれ4日間加工浸漬した。その結果、これらの金属材料の表面はこれらの試験片は変色だけではなく、表面酸化物の析出が顕著となり、腐食を呈した。このように金属材料表面の腐食を抑制できなかった理由としては、予め防食剤を添加した場合であっても、金属材料の放電加工中に水系加工液における防食剤濃度が低下し、防食効果がなくなったためであると考えられる。
【0058】
以上の結果から、オゾンガスを供給することにより水系加工液にオゾンが溶解している状態で、予め防食剤を添加した水系加工液、オゾンガス供給量制御部、導電率制御部を用いて、金属材料の電位および水系加工液の導電率を制御することにより、金属材料の腐食を抑制することができることを確認した。
【0059】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、オゾンガスの供給量以外は、実施の形態1と同様の形態とすることができる。オゾンガスはその強い酸化力のために、金属材料1表面に形成された不働態被膜を維持する手段として有効である。しかしながら強い酸化力のため、照射するオゾンの濃度が高すぎると(オゾンガスの供給量が多すぎると)、金属材料表面での酸化反応を過度に促進させて、不働態被膜を破壊する場合があり、その結果、金属材料が腐食する可能性がある。本実施の形態3は、実施の形態1と異なるオゾンガス供給量により、金属材料表面に形成された不働態被膜を維持する形態に関する。
【0060】
本実施の形態3では、オゾンガス生成装置において発生させるオゾンガスを16g/m3とした。このとき、水系加工液に供給されたオゾンガスの供給量は、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムを用いた滴定の結果、オゾン水濃度で1.4ppmであった。上記実施の形態1と同様のオゾンガス供給量制御部23の制御を用いて、試験片として金属材料S45Cを図1に示す放電加工機の加工槽8に浸漬させ、金属材料の電位とオゾンガス供給のON/OFF動作状態をモニターした。図2はオゾンガスの供給を開始した直後から測定した金属材料の電位をプロットした図である。オゾンガス照射直後から、金属材料の電位が上昇し、−0.1V付近に到達したところでオゾンガス量制御部23が動作し、オゾンガスの供給が停止した。その後、金属材料の電位は0.13V vs.NHE付近まで上昇し続けたが、オゾンガスの供給は停止したままであった。金属材料の電位の0.13V vs.NHEという値は、赤錆の主成分であるFe23の発生電位となる、0.214−0.059[pH](V vs.NHE)を超えている。そして、水系加工液のpHが6.2で金属材料の電位が−0.152Vとなったときにオゾンガスの照射が停止している。このようにオゾンガス供給量制御部23が機能しているにもかかわらず、金属材料電位がオゾン照射停止電位を超えてしまったのは、金属材料表面にFe34の他にFe23が生成され、Fe、Fe34およびFe23が不均一に混在している状態になっており、Fe23の影響が表れているためと考えられる。その後、金属材料の表面から酸化力の高いオゾンが消失するために金属材料電位が低下している様子を確認したが、金属材料の電位を0.1V vs.NHE付近に到達してからは数時間を経てもその値より電位が下がることはなかった。このときの金属材料表面を観察したところ、表面に赤錆が発生している様子を確認した。また、試験後の金属材料表面について、XPS分析を実施したところ、表面にFe、Fe34の他にFe23が存在することを確認した。さらに、その酸化物の層が数百μm以上の厚みとなって表面に存在することを確認した。なお、本実施の形態では、金型材料としてCrをほとんど含有していないS45Cを用いたが、S45CよりもCrを含有するFe系金型材料を加工対象とした場合にも、本実施の形態の放電加工機の防食錆効果は十分に機能する。これは、Cr酸化物が材料表面に安定な不働態被膜を形成するためにS45Cよりも錆びにくい性質を有するからである。
【0061】
また、オゾンガス生成装置において発生させるオゾンガスを7g/m3とした場合、金属材料に供給される水系加工液の溶存酸素濃度を、ヨウ化カリウムおよびチオ硫酸ナトリウムを用いた滴定を実施したところ、0.85ppmであった。オゾンガス量供給制御部23を備えた実施の形態1と同様の放電加工機に金属材料S45C、SK3およびSKH51の試験片をそれぞれ4日間浸漬させたところ、オゾンガスが供給されている間に、金属材料の電位が赤錆の主成分であるFe23の発生電位を超えることはなかった。また、試験終了後の試験片の表面について観察したところ、いずれの試験片も極めて僅かに変色している程度であり、腐食は軽微であった。
【0062】
以上のように、照射する際のオゾン水について濃度が高い場合、オゾンの持つ高い酸化力により金属材料表面に赤錆の原因となるFe23が生成されてしまう。したがって、オゾン照射時におけるオゾン水濃度についても制御することが望ましいことがわかる。本実施の形態では、オゾン水濃度を1ppm以下とした場合に金属材料表面のFe23生成を抑制し、高い防食効果が得られることがわかる。また、水系加工液系へのオゾンガス供給量と実際にノズルから照射されるオゾン水濃度については相関があり、オゾンガス供給量を調整することにより照射するオゾン水濃度を制御することができる。水系加工液へのオゾンガス供給量とノズルから照射されるオゾン水濃度の相関について図3に示す。図3より、本実施の形態に用いたオゾン発生装置では、供給されるオゾンガスを9g/m3以下に調整することで、金属材料表面に照射するオゾン水濃度を1ppm以下に制御できることがわかった。なお、オゾンガスの供給量や、オゾン水濃度については、加工対象である金属材料の形態や、オゾンガスを供給するノズルの形状などにより適宜調整することが望ましい。
【0063】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0064】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態1におけるワイヤ放電加工装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態3における金属材料の電位とオゾンガス供給量制御部のON/OFF動作状態の時間経過の特性を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態3における水系加工液へのオゾンガス供給量とオゾン水濃度の関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0066】
1 金属材料、2 ワイヤ電極、3 ボビン、4,5,19 ノズル、6 回収ローラ、7 回収箱、8 加工槽、9 液質制御装置、10 汚液槽、11,14,16 ポンプ、12 濾過フィルタ、13 清液層、15 純水化樹脂塔、17 導電率計、18 導電率制御部、20 オゾン発生装置、21 電位測定装置、22 参照電極、23 オゾンガス供給量制御部、24 pH測定用溶液槽、25 pH測定用電極、26 pH測定計、27,28 流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を放電加工する放電加工機であって、
前記金属材料を放電加工する電極と、前記金属材料に水系加工液を供給する加工液供給部と、前記水系加工液にオゾンガスを供給するオゾンガス供給部と、前記オゾンガスの供給量を制御するオゾンガス供給量制御部と、前記金属材料の電位を測定する電位測定部と、前記水系加工液の導電率を制御する導電率制御部とを含み、
前記加工液供給部は、水系加工液を前記金属材料の放電加工される部分に供給し、
前記オゾンガス供給量制御部は、前記電位測定部において測定した電位に基づき前記オゾンガス供給部のオゾンガスの供給を制御するために設けられる放電加工機。
【請求項2】
前記放電加工機は、供給された前記水系加工液が貯められる貯水槽をさらに含み、
前記貯水槽は、前記金属材料の放電加工される部分を浸漬させるための槽であり、
前記電位測定部は、前記貯水槽に参照電極を備え、前記参照電極と前記金属材料との間の電位を測定する請求項1に記載の放電加工機。
【請求項3】
前記放電加工機は、前記水系加工液のpHを測定するpH測定部をさらに備え、
前記オゾンガスの供給量制御部は、前記水系加工液のpH値を[pH]としたときに、前記金属材料の標準水素電極電位に対する電位が、−0.063−0.059[pH](V)以下の場合に前記オゾンガスを供給し、前記金属材料の標準水素電極電位に対する電位が、0.214−0.059[pH](V)以上の場合に前記オゾンガスの供給を停止する請求項1または2に記載の放電加工機。
【請求項4】
前記オゾンガス供給部は、前記水系加工液におけるオゾン濃度が0.01ppm以上1ppm以下であるオゾンガスを供給する請求項1〜3のいずれかに記載の放電加工機。
【請求項5】
前記水系加工液は、防食剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の放電加工機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の放電加工機を用いた放電加工方法。
【請求項7】
水系加工液を用いて金属材料を放電加工する放電加工方法であって、金属材料を放電加工する工程において、
前記水系加工液を前記金属材料の放電加工される部分に供給するA工程と、
前記水系加工液が供給された前記金属材料の電位を測定するB工程と、
測定した前記電位に基づき前記水系加工液にオゾンガスを供給するC工程と、
オゾンガスを供給した前記水系加工液を前記金属材料の放電加工する部分に供給するD工程とを含み、
前記A〜D工程において、前記水系加工液の導電率は所定値以下に制御される放電加工方法。
【請求項8】
前記放電加工方法は、前記水系加工液に防食剤を添加するE工程をさらに含み、
前記E工程は、前記A工程の前に行なわれる請求項7に記載の放電加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−248247(P2009−248247A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99167(P2008−99167)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】