説明

放電加工装置および放電加工方法

【課題】放電加工量をより一層増加させるとともに、放電中に生成される加工屑を効果的に除去して加工時間の短縮と相俟って加工精度の向上を図った放電加工装置および放電加工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る放電加工装置は、水中内の被加工物に放電して放電加工を行う放電加工装置において、前記被加工物に位置決めし、レベル調整してセットする位置決めセット部10と、この位置決めセット部の軸方向へ移動、昇降、回転を自在に行って被加工物に放電加工する放電加工ヘッド部11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中内に設置された被加工物をより早く切断や所定の形状等に加工する際に適する放電加工装置および放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工装置は、被加工物と加工電極とを絶縁性の加工液の中に極めて少ない隙間にして対向配置させ、短時間のパルス柱アーク放電を繰り返すことにより、被加工物を所定の形状に除去加工するか切断するかを行うことを原理とするものである。
【0003】
この放電加工装置は、硬い材料や複雑な形状の加工が容易であり、加工時に働く力が小さく、自動化が容易である点からして水中内に設置されている被加工物の加工等に好まれて適用されている。
【0004】
水中内に設置されている被加工物を切断や加工に適用する放電加工装置には、例えば、特開昭62−228986号公報(特許文献1)や特開平9−38831号公報(特許文献2)に見られるように、遠隔操作の下、放電加工を行っている。
【特許文献1】特開昭62−228986号公報
【特許文献2】特開平9−38831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、放電加工装置は、被加工物に対し、加工電極からの放電を間欠的に行っている。これは、放電停止中、前に行った放電によって生じたプラズマを消し、絶縁破壊を回復させ、次の放電の発生位置を隣の位置に移動させ、放電の発生箇所を加工電極の表面上に広く分散させるためである。
【0006】
しかし、加工電極からの放電の一時停止は、加工時間の点を考えるとマイナスの要因になっているものの、これを廃止することができない。放電の一時停止を廃止すると、前に行った放電によるプラズマが消えず、残っているプラズマによって放電が起り、放電が集中し、放電集中箇所で温度が上昇し、プラズマの電離度が上がり、ますます放電が集中する等の不都合、不具合が発生するからである。
【0007】
このため、加工時間の短縮を考えると、放電の一時停止をカバーするために放電加工量をより一層向上させることが求められている。
【0008】
また、放電加工中、加工屑が発生するため、放電が偏在することがある。放電の偏在は、加工屑の濃度が増し、加工液の絶縁破壊強度を低下させてその偏在を助長し、加工電極と被加工物との間隙が部分的に異なり、加工精度を低下させる等の問題があった。
【0009】
本発明は、このような背景技術に基づいてなされたもので、放電加工量をより一層増加させるとともに、放電中に生成される加工屑を効果的に除去して加工時間の短縮と相俟って加工精度の向上を図った放電加工装置および放電加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項1に記載したように、水中内の被加工物に放電して放電加工を行う放電加工装置において、前記被加工物に位置決めし、レベル調整してセットする位置決めセット部と、この位置決めセット部の軸方向へ移動、昇降、回転を自在に行って被加工物に放電加工する放電加工ヘッド部とを備えたものである。
【0011】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項2に記載したように、位置決めセット部は、放電加工ヘッド部を装着させて軸方向に移動させるテーブルと、ベースプレートを位置決め固定する位置決めクランプとを備えたものである。
【0012】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項3に記載したように、テーブルは、摺動機構部を備えて移動可能に構成したものである。
【0013】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項4に記載したように、摺動機構部は、ガイドレールとガイドレール用ベアリングとで構成したものである。
【0014】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項5に記載したように、ベースプレートは、加工口を備えたものである。
【0015】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項6に記載したように、放電加工ヘッド部は、加工電極を回転駆動する回転駆動部と、前記加工電極を昇降駆動する昇降駆動部とを備えたものである。
【0016】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項7に記載したように、昇降駆動部は、ボールネジであることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項8に記載したように、回転駆動部は、モータの駆動力によって回転するスピンドルと、このスピンドルにフードを介して接続する加工電極とを備えたものである。
【0018】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項9に記載したように、スピンドルおよび加工電極は、内部に加工液を供給する加工液供給通路と、前記加工電極の被加工物への放電加工中に生成される加工屑を加工液とともに排出させる通路を前記加工電極の外側に設ける一方、前記通路から排出される加工屑をフードを介して吸引する加工屑吸引ポンプを備えたものである。
【0019】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項10に記載したように、加工屑吸引ポンプは、フィルタを備えたものである。
【0020】
また、本発明に係る放電加工装置は、上述の目的を達成するために、請求項11に記載したように、加工電極は、荒加工電極と仕上げ加工電極とで構成したものである。
【0021】
また、本発明に係る放電加工方法は、上述の目的を達成するために、請求項12に記載したように、水中内の被加工物に放電して放電加工を行う際、ベースプレートに設けた加工口に沿って加工電極のうち、荒加工電極を移動させて放電加工を行った後、残りの仕上げ加工電極を移動させて再び放電加工を行う方法である。
【0022】
また、本発明に係る放電加工方法は、上述の目的を達成するために、請求項13に記載したように、水中内の被加工物に放電して放電加工を行う際、荒加工電極と仕上げ加工電極とを一体に構成した加工電極内に設けた加工液供給通路に加工液を供給し、前記被加工物の放電加工中に生成された加工屑を前記加工液とともに、前記加工電極の外側に設けた通路を介して回転駆動部のスピンドルに接続するフードに供給する方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る放電加工装置および放電加工方法は、水中内の被加工物の放電加工を行う放電加工ヘッド部が軸方向への移動、昇降移動、回転を自在に行い得るようにするとともに、加工電極が荒加工と仕上げ加工との2種類で行い得るようにしたので、より一層加工量を増加させることができ、2種類の加工仕上げによる放電加工の加工精度をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る放電加工装置および放電加工方法の実施形態を図面および図面に付した符号を引用して説明する。
【0025】
図1は、原子力発電所の圧力容器内における水中内のシュラウドにタイロッドを取り付けるとき、タイロッドを支持する支持部に本発明に係る放電加工装置を適用して放電加工を行う例示であって、タイロッドを支持部を介して取り付けたときのシュラウドの一部を示す切欠部分概念図である。
【0026】
図1に示す筒状のシュラウド1の外側には、炉水を循環させるジェットポンプ2a,2bがその周方向に沿って複数台設けられるとともに、上部タイロッド3aと下部タイロッド3bからなるタイロッド3もその周方向に沿って複数本設けられている。
【0027】
上部タイロッド3aと下部タイロッド3bからなるタイロッド3は、シュラウド1が何らかの事情で軽微な亀裂等が発生しても、シュラウド1に高い圧縮力を加えて高い強度に維持させるもので、上部ブラケット4、下部レストレント5、シールリング6a、バッフルプレート6、Tバー6b等で構成する支持部7により支持されている。
【0028】
このように、シュラウド1の強度を高く維持するタイロッド3を支持する支持部7を水中内で放電し、穴明け加工を行う放電加工装置8は、図2に示すように、ジェットポンプ9と隣りのジェットポンプ(図示せず)との間の空間領域に設置される。
【0029】
この放電加工装置8は、大別して位置決めセット部10と放電加工ヘッド部11とで構成されている。
【0030】
位置決めセット部10は、摺動機構部、具体的にはガイドレール12およびガイドレール用ベアリング13を介装させてベースプレート14上に設けたテーブル15と、このテーブル15にプーリ16a,16bおよびベルト17を介して軸方向に移動させる駆動力を与える第1モータ18と、放電加工ヘッド部11を位置決めセットし、ガイドピン19a,19bで支持させた放電加工ヘッドクランプ20a,20bとを備えている。
【0031】
また、位置決めセット部10は、ベースプレート14に設けられ、被加工物への放電による穴明け加工に用いる楕円状または長円状の加工口21と、ジェットポンプ9に当接させ、ベースプレート14を固定セットするジェットポンプ用受駒22a,22bと、ベースプレート14のレベルを水準器23で計測し、レベルが偏位しているとき、ピン24a,24bを矢印方向に回転させてレベル調整を行うレベリング調整装置45a,45bと、レベルが調整されたときベースプレート14の位置決めを行う位置決めクランプ25a,25bと、放電加工ヘッドクランプ20a,20bのそれぞれのガイドピン19a,19bにリード線を介して接続する陽極シリンダ26a,26bと、
原子炉圧力容器(図示せず)に当接させ、ベースプレート14を固定セットする原子炉圧力容器用受駒27a,27bとを備えている。
【0032】
一方、放電加工ヘッド部11は、加工電極28に、フード31、スピンドル32、プーリ33、ベルト34を介して回転駆動力を与える第2モータ35と、スピンドル32に接続するサドル36に設けた第3モータ37と、この第3モータ37の駆動力をプーリ38a,38b、ベルト39を介して与えられ、加工電極28を軸方向に沿って昇降させるボールネジ40と、このボールネジ40の両端のそれぞれを軸支する軸支部41a,41bとを備えている。
【0033】
なお、加工電極28は、被加工物の穴明け加工の際、荒加工を行う荒加工電極29と、仕上げ加工を行う仕上げ加工電極30との2つが一体になっている。また、符号42は、ボールネジ40を囲うコラムであり、さらに、符号43は、放電加工ヘッド部11を昇降移動させる揚重機に係合させる吊環である。
【0034】
次に、本実施形態に係る放電加工装置および放電加工方法の手順を説明する。
【0035】
まず、最初に、位置決めセット部10は、図2に示すように、吊耳44に係合するワイヤ等を介して揚重機等で水中内に降下され、ジェットポンプ9の空間領域に設置される。
【0036】
位置決めセット部10がジェットポンプ9の空間領域に設置されると、本実施形態では、水準器23からの計測値をベースにレベリング調整装置45a,45bのピン24a,24bを回転させ、レベル調整を行う。
【0037】
位置決めセット部10のレベル調整が終了すると、本実施形態では、放電加工ヘッド部11を位置決めセット部10のガイドピン19a,19bに挿通し、放電加工ヘッドクランプ20a,20bで固定セットする。
【0038】
次に、放電による被加工物の穴加工が行われるが、その際、まず、位置決めセット部10の第1モータ18の駆動力によってテーブル15を軸方向に移動させ加工電極28を加工口21上にセットする。
【0039】
加工電極28が加工口21上にセットされると、本実施形態では、放電加工ヘッド部11の第2モータ35の駆動力をプーリ33、スピンドル32等を介して加工電極28に与えて回転させ、回転中に第3モータ37の駆動力をプーリ38a,38b、ベルト39を介してボールネジ40に与えて回転させ、この回転力により加工電極28を降下させ、加工口21を介して被加工物に当接させ、当接位置を基準位置と設定し、再び加工電極28を加工口21の上側に上昇させる。
【0040】
放電加工の準備が完了すると、本実施形態は、図3(a)に示すように、加工電極28のうち、荒加工電極29の放電により被加工物の穴明け機構を行いながら図2に示した位置決めセット部10の第1モータ18の駆動力でテーブル15を軸方向に移動させ、図3(b)に示すように、被加工物の穴明け加工を行う。
【0041】
このとき、被加工物の穴の形状に、加工屑の生成の影響を受けて穴径が最初と最後で偏位する。
【0042】
このため、本実施形態は、図3(c)に示すように、加工電極28をより一層降下させて仕上げ加工電極30を使用し、図3(d)に示すように、仕上げ加工電極30を移動させ、最終形状である楕円形状または長円形状に加工する。
【0043】
一方、加工電極28の放電による被加工物の穴加工中、加工液の供給、加工屑の処理は、次のようにして行われている。
【0044】
本実施形態は、起動時、図4に示すように、放電加工制御電源部46から位置決めセット部10および放電加工ヘッド部11に電流が与えられ、加工電極28による被加工物への放電による穴明け加工が開始される。
【0045】
このとき、加工液注水ポンプ47からフィルタ48を介して、例えば純水を使用する原子炉圧力容器内の炉水を放電加工ヘッド部11のスピンドル32および加工電極28内に形成する加工液供給通路49に供給し、ここから反転させ、その外側に形成した、例えば溝等の通路50a,50bに流れる間に加工屑を誘引してフード31に集め、集めた加工屑および加工水を加工屑加工ポンプ51に送り、フィルタ52で加工屑と加工水を分離させる。
【0046】
このように、本実施形態は、原子炉圧力容器内の水中で被加工物の放電加工を行う際、遠隔操作により軸方向への移動、昇降移動、回転が自在に行い得る放電加工ヘッド部を備えるとともに、加工電極を荒加工電極と仕上げ加工電極との2種類を一体的に備え、放電加工中に生成される加工屑を自動的に除去する構成にしたので、放電加工の加工量をより一層向上させることができ、加工屑の自動除去の下、放電加工精度をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る放電加工装置を使用して放電による穴加工を、この穴にタイロッドを取り付けたときの原子炉圧力容器のシュラウドを示す一部切欠概念図。
【図2】本発明に係る放電加工装置の実施形態を示す概略斜視図。
【図3】本発明に係る放電加工装置における加工電極の被加工物への穴加工手順を示す図。
【図4】本発明に係る放電加工装置における放電加工中、加工水と加工屑との流れを示す図。
【符号の説明】
【0048】
1 シュラウド
2a,2b ジェットポンプ
3 タイロッド
3a 上部タイロッド
3b 下部タイロッド
4 上部ブラケット
5 下部レストレント
6 バッフルプレート
6a シールリング
6b Tバー
7 支持部
8 放電加工装置
9 ジェットポンプ
10 位置決めセット部
11 放電加工ヘッド部
12 ガイドレール
13 ガイドレール用ベアリング
14 ベースプレート
15 テーブル
16a,16b プーリ
17 ベルト
18 第1モータ
19a,19b ガイドピン
20a,20b 放電加工ヘッドクランプ
21 加工口
22 ジェットポンプ用受駒
23 水準器
24a,24b ピン
25a,25b 位置決めクランプ
26a,26b 陽極シリンダ
27a,27b 原子炉圧力容器用受駒
28 加工電極
29 荒加工電極
30 仕上げ加工電極
31 フード
32 スピンドル
33 プーリ
34 ベルト
35 第2モータ
36 サドル
37 第3モータ
38a,38b プーリ
39 ベルト
40 ボールネジ
41a,41b 軸支部
42 コラム
43 吊環
44 吊耳
45a,45b レベリング調整装置
46 放電加工制御電源部
47 加工液注水ポンプ
48 フィルタ
49 加工液供給通路
50a,50b 通路
51 加工屑吸引ポンプ
52 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中内の被加工物に放電して放電加工を行う放電加工装置において、前記被加工物に位置決めし、レベル調整してセットする位置決めセット部と、この位置決めセット部の軸方向へ移動、昇降、回転を自在に行って被加工物に放電加工する放電加工ヘッド部とを備えたことを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
位置決めセット部は、放電加工ヘッド部を装着させて軸方向に移動させるテーブルと、ベースプレートを位置決め固定する位置決めクランプとを備えたことを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項3】
テーブルは、摺動機構部を備えて移動可能に構成したことを特徴とする請求項2記載の放電加工装置。
【請求項4】
摺動機構部は、ガイドレールとガイドレール用ベアリングとで構成したことを特徴とする請求項3記載の放電加工装置。
【請求項5】
ベースプレートは、加工口を備えたことを特徴とする請求項2記載の放電加工装置。
【請求項6】
放電加工ヘッド部は、加工電極を回転駆動する回転駆動部と、前記加工電極を昇降駆動する昇降駆動部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項7】
昇降駆動部は、ボールネジであることを特徴とする請求項6記載の放電加工装置。
【請求項8】
回転駆動部は、モータの駆動力によって回転するスピンドルと、このスピンドルに接続するフードとを備えたことを特徴とする請求項6記載の放電加工装置。
【請求項9】
スピンドルおよび加工電極は、内部に加工液を供給する加工液供給通路と、前記加工電極の被加工物への放電加工中に生成される加工屑を加工液とともに排出させる通路を前記加工電極の外側に設ける一方、前記通路から排出される加工屑をフードを介して吸引する加工屑吸引ポンプを備えたことを特徴とする請求項8記載の放電加工装置。
【請求項10】
加工屑吸引ポンプは、フィルタを備えたことを特徴とする請求項9記載の放電加工装置。
【請求項11】
加工電極は、荒加工電極と仕上げ加工電極とで構成したことを特徴とする請求項6,9記載の放電加工装置。
【請求項12】
水中内の被加工物に放電して放電加工を行う際、ベースプレートに設けた加工口に沿って加工電極のうち、荒加工電極を移動させて放電加工を行った後、残りの仕上げ加工電極を移動させて再び放電加工を行うことを特徴とする放電加工方法。
【請求項13】
水中内の被加工物に放電して放電加工を行う際、荒加工電極と仕上げ加工電極とを一体に構成した加工電極内に設けた加工液供給通路に加工液を供給し、前記被加工物の放電加工中に生成された加工屑を前記加工液とともに、前記加工電極の外側に設けた通路を介して回転駆動部のスピンドルに接続するフードに供給することを特徴とする放電加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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