説明

放電加工装置

【課題】ワークに微細孔を放電により加工するための放電加工装置において、電極のたわみや振れを抑制し、加工孔径の加工バラツキを小さくして加工精度を向上させる。
【解決手段】ワークWに対向する電極11を電極ガイド2に挿通保持し、電極ガイド2の外周に中空の加工液ガイド3を設ける。加工液ガイド3内は、電極ガイド2の外周に環状の加工液溜まり32が設けられ、ワークWに対向するテーパ状の開口部34内に、電極ガイド2のテーパ状の先端部21を挿通して、両テーパ面間にワークW側へ縮径する加工液噴出路35を形成する。電極ガイド2の先端部21は、加工液ガイド3よりワークW側へ突出し、電極11の突出量を小さくして軸方向から加工液を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射装置等の各種装置用ノズルの噴孔、オリフィスのような微細な細孔を加工するために好適な放電加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放電加工は、被加工物である金属製のワークと、放電電極との間に電圧を印加し、放電を発生させてワークを溶融加工する方法で、微細加工に適している(特許文献1〜3等)。図8(a)は、特許文献1、2に記載される孔開け用の放電加工装置の一例であり、被加工物である台座102に配置されるワーク101と、放電ヘッド104に保持される電極103が対向して配され、これらの間に加工液ノズル105を備えている。また、図8(b)は、特許文献3に記載されるワイヤ放電加工装置の一例であり、ワイヤ電極110が挿通されるワイヤガイド112を収容したノズル113が、ワーク111の上面に近接し、ワイヤ電極110がワーク111を上下方向に貫通して配置される。ワイヤ電極110は、加工溝114の側面との間で放電を発生し、水平方向を加工方向としてワーク111に所定形状の加工溝114を形成する。
【0003】
車両エンジンの燃料噴射装置において、噴射ノズルやオリフィス部材に形成される微細孔の加工方法に、図8(a)の放電加工装置が採用されている。放電加工による孔開け方法を図9(a)に基づいて説明すると、放電加工装置の電極103は、電極ガイド106に回転自在に支持されており、ワークである噴射ノズル101と対向している。噴射ノズル101は、噴孔107の形成方向が電極103の軸方向と一致するように配置され、両者の間に電圧を印加して放電を生起し、噴射ノズル101の先端部に微細な噴孔107を貫通形成する。この時、電極103の側方には、加工液ノズル105が配置されて、電極ガイド106と噴射ノズル101の間に横方向から加工液を供給し、スラッジを排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−272484号公報
【特許文献2】特開2008−254117号公報
【特許文献3】特開昭62−297022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記図8(a)の放電加工装置は、加工液を電極ガイド104の横方向から供給するために、電極ガイド106と噴射ノズル101の間に十分な隙間を必要とする。一方、放電を起こすには電極103を噴射ノズル101に近接させる必要があり、電極ガイド106から下方に突出する電極103長さが長くなる。噴孔107加工用の電極103は、微細径(例えば、Φ40〜Φ120μm程度)であるために、加工液の圧力を受けやすく、図9(b)に示すように、加工液の圧力で電極103にたわみが生じ、または回転する電極103に振れが発生して、加工孔径のバラツキが生じる問題があった。
【0006】
この問題に対して、特許文献1には、ワークに予め下孔を開けて、細孔加工中に下孔から加工液を吸引するとともに、加振手段を設けて電極またはワークを軸方向に振動させる方法が開示されている。これにより、電極のたわみや振れを抑制可能とされるものの、下孔をレーザ加工するための装置や加工液の吸引装置が必要となる。また、加工に手間がかかり製作コストが増大する。
【0007】
特許文献2には、加工時間を短くする方法が開示されている。具体的には、電極を送ってワークとの間で放電が開始する所定の位置を把握し、これを基準位置として所定の送り量で孔加工を行った後、所定の戻し量だけ電極を戻すことを繰り返すことで、連続加工を容易にする。また、加工中は、電極とワークの極間電圧をモニタし、所定値を上回っている間は電極を下降させ、所定値を下回ったら上昇させるという制御を行い、放電・短絡・開放を繰り返しながら加工する。
【0008】
しかしながら、この方法は制御が複雑であり、実用的とはいえない。これは、複数の孔加工を行う時の初期位置設定にかかる時間は短縮可能であるが、一回の孔加工においては、極間電圧に応じて電極が下降・停止・上昇を繰り返すことになるためであり、結果的に加工時間も長くなるおそれがある。
【0009】
一方、図8(b)のワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極110を保持するワイヤガイド112の外周に、加工液が流れるノズル113を設けている。この構成では、加工液が横方向から供給されないので、ノズル113とワーク111との隙間L1は小さくできる。ところが、このようなワイヤ放電加工用の装置構成を、本発明が対象とする孔開け加工用の装置に単純には適用することはできず、以下のような問題が生じる。
【0010】
このワイヤ放電加工装置は、ノズル113の先端が縮径しており、縮径部より上方にワイヤガイド112が収容されて、縮径部内にワイヤ電極110が露出する。ここで、ワイヤ放電加工では、通常、図示するように、ワイヤ電極110が予めワーク111を貫通し、その上下で2点支持されているために、加工液の圧力の影響は比較的小さい。また、形成される加工溝114へ加工液が流れるために、スラッジの排出も容易である。
【0011】
ところが、本発明の対象とする孔開け加工では、図9(a)のように、電極が一点支持であるために、加工液の圧力を受けやすくなる。特に、図8(b)のように、ワイヤガイド112とワーク111との隙間L2が大きい場合には、電極の突出量が大きくなる。また、噴出した加工液とスラッジの排出路を確保する必要があり、ワーク111との隙間L1を大きくすると、電極の突出量がさらに大きくなってしまい、電極のたわみや振れを抑制する効果は期待できない。
【0012】
本発明は、このような実情に着目したものであり、ワークに微細径の細孔を放電加工するための放電加工装置において、電極のたわみや振れを抑制し、加工孔径の加工バラツキを小さくして加工精度を向上させること、また複雑な制御や加工工程数の増加を伴うことがなく、高効率で高品質な微細孔加工が可能な放電加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の発明は、細孔が加工されるワークに対向する細長形状の電極と、該電極が挿通保持される電極ガイドと、上記電極と上記ワークとの間に電圧を印加する電圧印加手段と、上記ワークの被加工部位に加工液を供給する加工液供給手段とを有する放電加工装置において、
上記加工液供給手段が、上記電極ガイドの外周に配置される中空の加工液ガイド部材を備えており、その中空部を加工液溜まりとする一方、該加工液溜まりに連通し上記電極ガイドの先端部が挿通される開口部を設けて、上記電極ガイドの先端を上記開口部の先端より上記ワーク側へ突出位置させ、かつ上記電極ガイドの先端部外周面と上記開口部の内周面の間に、上記ワーク側ほど外径が小さくなる環状の加工液噴出路を形成したことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項2に記載の発明において、具体的には、上記電極ガイドの先端部外周面および上記開口部の内周面を、上記ワーク側ほど縮径するテーパ面となし、両テーパ面の間に形成される環状空間を上記加工液噴出路とする。
【0015】
本発明の請求項3に記載の発明において、上記電極ガイドおよび上記開口部の両テーパ面を、上記加工液噴出路の延長線上に上記ワークの加工点が位置するテーパ角度に設定している。
【0016】
本発明の請求項4に記載の発明において、上記電極ガイドは、先端部外周面のテーパ面を、テーパ角度の異なる2つの面で構成している。
【0017】
本発明の請求項5に記載の発明において、上記加工液溜まりとなる中空部は、上記加工液ガイド部材に設けた上記電極ガイドの保持部と上記開口部の間において、上記電極ガイドの外周面を取り巻く環状空間であり、該環状空間に外部から加工液を導入するための加工液導入口を備えている。
【0018】
本発明の請求項6に記載の発明において、上記加工液溜まりには、内部を上記電極ガイドの軸方向に区画し、複数の加工液流通孔を有する整流プレートを配置している。
【0019】
本発明の請求項7に記載の発明において、上記電極は、直径が150μm以下の細線状電極である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に記載の放電加工装置によれば、電極ガイドと加工液ガイド部材の間に加工液噴出路を設けて、電極の軸方向からワークへ加工液を供給するので、電極が加工液の圧力の影響を受けにくい。しかも、電極ガイドが加工液ガイド部材から突出するので、電極をワークと近接配置させることができ、電極のたわみや振れを防止できる。また、加工液ガイド部材の内部に加工液溜まりを備え、加工液噴出路へ十分な加工液を供給するとともに、ワーク側ほど縮径する加工液噴出路により加速された加工液を、ワークの被加工部位に集中供給することができる。
【0021】
したがって、ワークに微細孔を放電加工する際の、加工孔径の加工バラツキを小さくして加工精度を向上させることができる。また複雑な制御を必要とせず、下穴加工等も不要であるので、効率よく高品質な微細孔加工が可能である。
【0022】
本発明の請求項2に記載の発明のように、具体的には、電極ガイドの先端部と、加工液ガイド部材の開口部を、それぞれテーパ面とすることで、これらの間に容易に加工液噴出路を形成できる。
【0023】
本発明の請求項3に記載の発明のように、好適には、電極ガイドのテーパ面と加工液ガイド部材のテーパ面を適切に設定することで、加工液噴出路の延長線上にワークの加工点が位置するようにし、加工液をワークの加工点に効果的に供給することができる。
【0024】
本発明の請求項4に記載の発明のように、電極ガイドの先端部テーパ面は、テーパ角度を一定とせず、例えば先端部のテーパ角度を大きくすることで、加工液の流れを加工点に収束しやすくすることができる。
【0025】
本発明の請求項5に記載の発明のように、具体的には、加工液ガイド部材に開口部と対向する電極ガイドの保持部を設けることで、両部の間の電極ガイド周りに加工液溜まりとなる環状空間を容易に形成できる。また、加工液導入口により、容易に外部から加工液を導入することができる。
【0026】
本発明の請求項6に記載の発明によれば、加工液溜まりに設置した整流プレートによって。加工液溜まりから開口部へ均等に加工液を流入させ、電極のたわみや振れを防止する効果を高めて、加工バラツキを抑制することができる。
【0027】
本発明の請求項7に記載の発明のように、好適には、電極の直径が150μm以下の細線状電極である放電加工装置において、本発明を適用する効果が特に高く、微細孔を高い加工精度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態であり、(a)は、放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図、(b)は、本装置により加工される燃料噴射ノズルの全体構成を示す一部断面図である。
【図2】(a)は、第1実施形態の放電加工装置の全体概略構成図である。
【図3】本発明の放電加工装置を用いた放電加工方法と作用効果を説明するための放電加工装置の主要部断面図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の放電加工装置による放電加工工程を説明するための概略図である。
【図5】(a)は、本発明の第2実施形態における放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図、(b)は、本発明の第3実施形態における放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図である。
【図6】(a)は、本発明の第4実施形態における放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図、(b)は、(a)のA部拡大断面図である。
【図7】(a)は、本発明の第5実施形態における放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図、(b)は、本発明の第6実施形態における放電加工装置の主要部構成を示す拡大断面図である。
【図8】(a)は、従来の放電加工装置の全体概略構成図、(b)は、従来のワイヤ放電加工装置の要部拡大断面図である。
【図9】(a)は、従来の放電加工装置による放電加工方法を説明するための図、(b)、(c)は、従来の放電加工装置における課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態について詳細に説明する。本発明の放電加工装置は、種々の被加工物(ワーク)に微細径の細孔(以下、適宜、微細孔と称する)を加工するための装置であり、本実施形態は、自動車ディーゼルエンジン用インジェクタを構成する燃料噴射ノズルの噴孔加工に適用した例としている。図1(a)は、放電加工装置の主要部構成を示す断面図であり、図1(b)は、本装置により加工されるワークである燃料噴射ノズルの全体構成図で、先端側半部を断面として示している。図2は、放電加工装置の全体構成図であり、まず、本図に基づいて、放電加工装置1の概略構成を説明する。
【0030】
図2において、放電加工装置1は、細長形状の電極11をワークWへ向けて送り出す放電加工ヘッドHと、ワークWが載置される台座12と、ワークWおよび台座12を位置決めするX−YテーブルTと、電極11をガイドするガイド部Gと、電極11およびワークWの間に電圧を印加するための電圧印加手段となる電源装置Bと、加工部に加工液を供給するための加工液供給手段を具備している。放電加工ヘッドHは、内部に図示しない電極11の回転機構および送り機構を備え、加工の進行に応じて電極11を回転させながら下方に送り出す。また、放電加工ヘッドHを支持するアプローチ軸13は、駆動部14によってアプローチ軸13とともに放電加工ヘッドHを図の上下方向に駆動可能となっている。
【0031】
ガイド部Gは、アーム状とした一端側がアプローチ軸13に支持されており、他端側に設けた電極ガイド2に電極11が挿通保持されるようになっている。加工液供給手段は、ガイド部Gの電極ガイド2周りに配置される加工液ガイド部材としての加工液ガイド3と、加工液ガイド3に接続される加工液供給路31を有している。加工液供給路31は、図示しない加工液の貯留タンクに連通し、図示しないポンプを駆動することにより加工液ガイド3へ加工液を供給する。ガイド部Gおよび加工液供給手段については、詳細構成を後述する。
【0032】
ワークWは、台座12の載置面に所定の姿勢で保持固定された状態で、X−YテーブルT上に配置される。X−YテーブルTはX、Y方向に任意に移動可能な駆動機構を備え、ワークWの加工部が放電加工ヘッドHから突出する電極11の軸と同一直線上に位置するように、ワークWを電極11に対し相対移動させて所定位置に位置決めする。電源装置Bの正極側の端子は電極11に、負極側の端子はワークWにそれぞれ接続される。
【0033】
図1(a)に示すように、ガイド部Gに設けられる電極ガイド2は、一定径の本体部に続く円錐状の先端部21を有し、中心軸に沿って電極11が挿通されるガイド孔22を貫通形成した略円筒体からなる。電極11は、軟質の金属材料、例えばタングステンまたは銅よりなる細線状で、通常、直径150μm以下、好適には、直径40〜120μmの範囲を有する。電極ガイド2はセラミックス製で、ガイド孔22は電極11より僅かに大きく形成され、回転する電極11を保持しながら案内する。
【0034】
電極11の進行方向(図の下方)に対向して、ワークWである燃料噴射ノズルのノズルボディ4が配置され、噴孔41の被加工位置が電極11の軸線上となるように位置調整される。燃料噴射ノズルのノズルボディ4は、図1(b)に示すように、円錐状の先端部(図の上端部)42の頂部を、半円球状のサック部43とし、このサック部43壁を貫通する複数の噴孔41を有する。ノズルボディ4の筒内は、燃料流路とされるとともに図示しないノズルニードルが収容され、先端部内壁のテーパ面を弁座としてノズルニードルが昇降することにより、噴孔41が開閉される。
【0035】
図1(a)において、本発明の加工液供給手段の構成を説明する。本発明の加工液供給手段は、電極ガイド2と一体的に設けられる加工液ガイド3を備える。加工液ガイド3は、中空の略容器形状で、電極ガイド2の外周を取り囲むように配置される。加工液ガイド3の中空部は、電極ガイド2の外周面との間に形成される環状空間で、加工液溜まり32を構成する。この加工液溜まり32には、加工液ガイド3の側壁を貫通する加工液導入口33が開口し、図2の加工液供給路31が接続されて、加工液(例えば、純水)を導入するようになっている。
【0036】
加工液ガイド3の先端面(図1(a)の下面)には、中央に下方へ向けて縮径する開口部34が設けられ、電極ガイド2の先端部21が挿通されている。この先端部21は下方へ向けて縮径する円錐状で、開口部34より下方のワークW側に突出し、平面状の先端面が、ワークWである燃料噴射ノズルのノズルボディ4に近接位置している。これにより、電極ガイド2の先端部21から突出する電極11が、ノズルボディ4の噴孔41が加工される部位の直上に対向位置する。
【0037】
本発明では、電極ガイド2の先端部21外周のテーパ面と、加工液ガイド3の開口部34内周のテーパ面との間に、加工液噴出路35を形成する。加工液噴出路35は、同心状に配置される両テーパ面にて囲まれる環状空間で、ワークW側ほど内外径が小さくなる。これにより、加工液噴出路35の流路面積が下流側ほど小さくなるために、加工液噴出路35に流入する加工液の流れは、図示するように軸中心方向へ向かいながら加速されて、電極11の周囲から噴出する。
【0038】
したがって、この流れが加工点に収束するように、加工液噴出路35の形状、電極ガイド2の先端部21の突出量、電極ガイド2とワークWの間の距離等を調整することで、加工液を加工点に集中させることができる。具体的には、電極ガイド2の先端部21外周のテーパ面と、加工液ガイド3の開口部34内周のテーパ面との距離、テーパ角度を調整することで、流路面積や流速、収束点を調整することができる。
【0039】
具体的には、図1(a)に示すように、本実施形態では、電極ガイド2と加工液ガイド3の両テーパ面を、テーパ角度がほぼ同等となるように形成する。ただし、必ずしもこれに限らず、少なくとも加工液ガイド3の開口部34内周にテーパ面を設けて、ワークW側ほど外径が小さくなる環状空間を形成し、加工液噴出路35とすることで、流路面積の縮小と流れの収束による同等の効果が得られる。
【0040】
加工液ガイド3の上端開口部には、電極ガイド2との間に、保持部となる筒状保持部材36が嵌着固定される。筒状保持部材36の下端外周は、加工液ガイド3の上端開口部内に設けた段部に支持され、シール部材37が介設される。これにより、電極ガイド2の上端部は、筒状保持部材36の筒内に密着保持され、筒状保持部材36と開口部43の間に形成される加工液溜まり32の液密性が確保される。
【0041】
ここで、加工液溜まり32となる環状空間は、加工液噴出路35となる開口部34に対して十分大きな容量と外径を有し、加工液溜まり32の環状の底面全体から、開口部34へ均等に加工液を供給可能な構成であるとよい。また、加工液ガイド3は、先端部外周を下方へ縮径するテーパ面とし、ワークWであるノズルボディ4との距離を確保してスラッジを含む加工液が排出しやすい形状としている。好適には、加工液噴出路35を構成する、電極ガイド2の先端部21と加工液ガイド3の開口部34との距離を、0.3〜0.5mmの範囲とするとよく、加工液を集中させるとともに、スラッジの排出を容易にすることができる。
【0042】
次に、図3、4に基づいて、上記構成の放電加工装置1を用いた放電加工方法とその作用効果について説明する。図3において、放電加工装置1の構成は図1と同様であり、対向して配設したワークWに微細孔W1を加工する。図4は、図2の放電加工ヘッドHにより電極11を送りながら放電加工する工程を拡大して示す図である。
【0043】
まず、図3において、電極ガイド2および加工液ガイド3と、ワークWとを所定の加工開始位置に位置決めする。このために、図2のX−YテーブルTを作動させて台座12ごとワークWを所定の位置、姿勢に位置決めし、さらに、アプローチ軸13を駆動部14によって駆動して、電極ガイド2とワークWとの間が所定の距離aとなる高さまで、放電加工ヘッドHを下降させる。
【0044】
本発明では、電極ガイド2が加工液ガイド3よりワークW側へ突出しているので、加工液ガイド3とワークWとの距離bが、所定の距離aよりも大きくなる(距離b>距離a)。つまり、距離bを十分広くして、加工によるスラッジの排出路を確保でき、一方で、距離aを従来より狭くして、放電に必要な電極ガイド2からの電極11の突出量を小さくできる。具体的には、所定の距離aを、例えば、従来の0.3mmから、0.2mm程度まで小さくすることができ、片持ち保持の電極11に振れが生じるのを防止する効果が得られる。
【0045】
加工開始時は、図4(a)に示すように、電極11の先端は、電極ガイド2の先端面と同一面となるように位置出しされている。次いで、電源装置BによってワークWと電極11の間に電圧を印加するとともに、放電加工ヘッドHに内蔵される回転および送り機構により、電極11を回転させながら必要な長さだけ電極送りを開始する。また、これに先立ち、図示しないポンプを駆動して、加工液供給路31から加工液ガイド3内の加工液溜まり32へ加工液を供給する。
【0046】
図4(b)、(c)に示すように、電極11が所定の放電ギャップGaまでワークWに接近すると両者の間に放電が生じ、ワークWの表面を徐々に溶融して、微細孔W1が加工される。この時の送り量は、所定の距離aとワークWの厚みc分の長さよりやや大きくするとよい。この放電加工中、加工液溜まり32に続く加工液噴出路35から加工液が噴出する。加工液は、徐々に縮径する加工液噴出路35によって加速し、電極ガイド2のテーパ面に沿って加工点に集中供給される。放電加工によって発生するスラッジ(削り屑)は、加工液とともに、図3中の矢印のように排出される。
【0047】
このように、本発明では、加工液が軸方向から供給されるので、電極11に加工液の圧力が横方向から加わるのを防止できる。また、電極ガイド2がワークWに近接するので、電極11が微細径であっても、たわみや振れを生じにくい。しかも、加工液が加工点に収束するように供給されるので、ワークWに微細孔W1が貫通するまで、加工点に効率よく加工液を供給し続けることができ、発生するスラッジの排出も容易である。したがって、加工孔径のバラツキを抑制し、加工精度を大幅に向上することができる。また、複雑な制御等を必要とすることなく、効率よく加工を行なうことができるので、製作コストを増大させることがない。
【0048】
図5に、本発明の第2、3実施形態を示す。図5(a)は第2実施形態における放電加工装置1の主要部の構成を拡大して示す断面図、図5(b)は第3実施形態における放電加工装置1の主要部の構成を拡大して示す断面図である。これら第2、3実施形態の他の基本構成は上記第1実施形態と同様であるので、同一部材には同じ符号を付している。以下、相違点を中心に説明する。
【0049】
図5(a)の第2実施形態は、上記第1実施形態における加工液溜まり32内に、整流プレート5を配置したものである。整流プレート5は、加工液溜まり32内を上下に区画する円環状の板面51と、その下面外周部に設けた脚部52からなり、板面51の全周に多数の加工液流入穴53が形成されている。整流プレート5の多数の加工液流入穴53は、全流路面積が、加工液噴出路35の入口部(加工液溜まり32側)の流路面積よりも十分大きくなるように、穴径と穴数を設定するとよい。加工液噴出路35は、電極ガイド2の先端部21と加工液ガイド3の開口部34との距離を、例えば0.3〜0.5mmの範囲とする。
【0050】
これにより、加工液溜まり32内に側面に開口する加工液導入口33から流入する加工液が、整流プレート5を通過することで軸方向の流れとなり、加工液溜まり32の下半部に均等に流入する。したがって、加工液噴出路35を通過する加工液の流れをより均一にして、電極11への影響を小さくし、加工精度をさらに向上させることができる。
【0051】
図5(b)の第3実施形態は、上記第1実施形態における加工液ガイド3の形状を、ワークW形状に合わせて変更したものである。例えば、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置では、インジェクタ内の流路の一部を微細なオリフィス流路とするものがある。本実施形態では、このような流路を形成する流路形成部材をワークWとし、ワークWに流路となる小径穴W2とオリフィスとなる微細孔W1を加工する。
【0052】
このため、加工液ガイド3は、先端面中央部に下方に向けて縮径する円錐面状の突出部38を設け、その内部に電極ガイド2の先端部21を挿通して、加工液噴出路35を形成する。突出部38の外径は、ワークWの小径穴W2より小さくし、突出部38の突出長は、電極ガイド2の先端部21から突出する電極11が、小径穴W2の底面に達する長さとする。このように、加工対象となるワークWの形状に応じて、加工液ガイド3の形状を変更することができ、同様の放電加工方法によって、小径穴W2に連通する微細孔W1を加工することができる。そして、加工液を小径穴W2底部の加工点に直接供給することができるので、効率よい加工が可能であり、スラッジの排出も良好になされる。
【0053】
図6に、本発明の第4実施形態を示す。図6(a)は第4実施形態における放電加工装置1の要部を拡大した断面図、図6(b)はそのA部拡大図である。本実施形態は、上記第2実施形態を基本構成とし、電極ガイド2および加工液ガイド3形状を変更したものであり、以下、相違点を中心に説明する。
【0054】
図6(a)、(b)に示すように、本実施形態では、加工液溜まり32内に、整流プレート5を配置している。さらに、電極ガイド2のテーパ状の先端部21は、加工液噴出路35内に位置する部位と、加工液ガイド3から突出する突出部23とで、テーパ面のテーパ角度を変更しており、突出部23の外周面のテーパ角度をより大きくしている。これにより、突出部23ではワークW側ほどさらに径が小さくなり、加工液の流れが中心に集中しやすくなる。また、加工液ガイド3は、開口部34内周面のテーパ角度を、対向する電極ガイド2外周面のテーパ角度よりやや大きくしている。これにより、加工液噴出路35を構成する両テーパ面の距離が、入口側で広く、出口のワークW側で狭くなり、加工液の流れがより加速される。
【0055】
このように、本実施形態では、加工液噴出路35から噴出する加工液の流れが、ワークWの加工点により収束しやすくなり、かつ流速が増すので、スラッジの排出が良好になされて放電加工をより効率よく実施することができる。
【0056】
図7に、本発明の第5、6実施形態を示す。これら実施形態における放電加工装置1の構成は、上記第1実施形態と同様であり、加工対象となるワークWを変更している。上記各実施形態では、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置の部品加工への適用例を示したが、本発明は、これら以外の部品の孔加工にも好適に用いることができる。例えば、図7(a)の第5実施形態は、電解加工装置への適用例であり、電解加工用の電解液噴射電極6をワークWとするものである。電解液噴射電極6は、筒状体の筒面全体に多数の噴孔61を有しており、これら噴孔61を、本発明の放電加工装置1により加工することで、加工孔径のバラツキを小さくし、電解液の噴射性能に優れた電解液噴射電極6を製作することができる。
【0057】
ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンの燃料噴射装置へ適用して、種々の部品の孔加工を行うことももちろんできる。図7(b)の第6実施形態は、ガソリンエンジンの燃料噴射ノズル7をワークWとするもので、ノズル先端の噴孔71を、本発明の放電加工装置1により加工する。噴孔71に限らず、燃料噴射装置の流路構成部材にオリフィス孔を加工する場合、あるいは、燃料供給通路に配置されるフィルタ部材に微細孔を加工する場合にも適用することができ、本発明の放電加工装置1により、高い加工精度を実現して品質を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、車両エンジン用の燃料噴射装置の他、各種装置用ノズルの噴孔、オリフィス孔、フィルタ孔といった高い加工精度が要求される微細径の細孔(例えば、150μm以下)を加工するために好適である。また、本発明の放電加工装置により加工された微細孔は、加工バラツキが小さいので、多数の微細孔を有する部材の加工、あるいは多数の微細孔を連続加工する方法において極めて有用である。
【符号の説明】
【0059】
B 電源装置(電圧印加手段)
G ガイド部
H 放電加工ヘッド
T X−Yテーブル
W ワーク
1 放電加工装置
11 電極
12 台座
2 電極ガイド
21 先端部
22 ガイド孔
3 加工液ガイド(加工液ガイド部材)
31 加工液供給路
32 加工液溜まり
33 加工液導入口
34 開口部
35 加工液噴出路
4 燃料噴射ノズル
41 ノズルボディ
42 先端部
43 サック部
5 整流プレート
51 加工液流入穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔が加工されるワークに対向する細長形状の電極と、該電極が挿通支持される電極ガイドと、上記電極と上記ワークとの間に電圧を印加する電圧印加手段と、上記ワークの被加工部位に加工液を供給する加工液供給手段とを有する放電加工装置において、
上記加工液供給手段が、上記電極ガイドの外周に配置される中空の加工液ガイド部材を備えており、その中空部を加工液溜まりとする一方、該加工液溜まりに連通し上記電極ガイドの先端部が挿通される開口部を設けて、上記電極ガイドの先端を上記開口部の先端より上記ワーク側へ突出位置させ、かつ上記電極ガイドの先端部外周面と上記開口部の内周面の間に、上記ワーク側ほど外径が小さくなる環状の加工液噴出路を形成したことを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
上記電極ガイドの先端部外周面および上記開口部の内周面を、上記ワーク側ほど縮径するテーパ面となし、両テーパ面の間に形成される環状空間を上記加工液噴出路とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項3】
上記電極ガイドおよび上記開口部の両テーパ面を、上記加工液噴出路の延長線上に上記ワークの加工点が位置するテーパ角度に設定する請求項2記載の放電加工装置。
【請求項4】
上記電極ガイドは、先端部外周面のテーパ面を、テーパ角度の異なる2つの面で構成する請求項2または3記載の放電加工装置。
【請求項5】
上記加工液溜まりとなる中空部は、上記加工液ガイド部材に設けた上記電極ガイドの保持部と上記開口部の間において、上記電極ガイドの外周面を取り巻く環状空間であり、該環状空間に外部から加工液を導入するための加工液導入口を備える請求項1ないし4のいずれか記載の放電加工装置。
【請求項6】
上記加工液溜まりの内部を上記電極ガイドの軸方向に区画し、複数の加工液流通孔を有する整流プレートを配置する請求項1ないし5のいずれか記載の放電加工装置。
【請求項7】
上記電極は、直径が150μm以下の細線状電極である請求項1ないし6のいずれか記載の放電加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate