説明

放電灯点灯装置

【課題】始動特性の改善、放電灯寿命延伸、始動時における放電状態の変化抑制、立ち消えの時間の最小化に有効な放電灯点灯装置を提供すること。
【解決手段】DC/ACコンバータ21は直流電圧V1を、交流電圧V2に変換して出力する。高電圧発生部22は、DC/ACコンバータ21から供給された交流電圧V2に、パルス電圧Vpを重畳したパルス重畳交流電圧Voutを出力する。マイクロプロセッサ4は、始動時において、交流電圧V2に同期し、かつ、交流電圧V2の正負の両サイクルにおいて、パルス電圧Vpを交流電圧V2に重畳させるべく、高電圧発生部22を制御するタイミングを持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電灯点灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタなどで代表される映像機器、自動車の前照灯または店頭照明等の光源として、光輝度の放電灯(HID)が開発されている。この放電灯は、従来の光源と比較して低電力で高輝度が得られるという特徴を有しており、特に、プロジェクタの光源や自動車の前照灯として有望視されている。
【0003】
放電灯(HID)は、通常、石英ガラスなどで構成された管体の内部に水銀が封入されており、相対する両端に、間隔を隔てて互いに対向する一対の電極を配置した構造を持つ。この構造において、電極間に高電圧を印加すると、電極間で絶縁破壊が生じ、アーク放電が発生し、発光する。
【0004】
電極材料はタングステンが採用されており、その物性は温度が1100℃を超えると昇華現象が発生する。放電灯が点灯している時に発生する熱は、一方の電極から放出された電子がもう一方の電極に衝突した時に発生する熱と、アーク放電そのものが発生する熱と、電極に電流が流れて電力が消費されることによる熱が考えられるが、電極を直接加熱するのは電子の衝突であると考えられる。
【0005】
この種の放電灯を点灯させるための放電灯点灯装置としては、従来より種々のタイプのものが提案されている。これまで提案された放電灯点灯装置について、始動方式の違いに着目して分類すると、直流始動方式(特許文献1)、低周波始動方式及び高周波始動方式(特許文献2)に分かれる。直流始動方式は、放電灯の電極間に一定の直流電圧をかけたまま、始動のための高圧パルスを発生させ、放電開始後の一定時間の間は直流電圧を維持する方式である。低周波始動方式は、放電灯の電極間に数百Hzの低周波交流電圧を印加したまま,高圧パルスを発生させ、放電開始後もその周波数を維持する方式である。高周波始動方式は、放電灯の電極間に数十kHzの高周波交流電圧を印加したまま、高圧パルスを発生させ、放電開始後もその周波数を維持する方式である。
【0006】
これらの始動方式には、放電灯の特性との関係で、それぞれ、長所があるが、同時に短所もあり、更に改善しなければならない課題を抱えている。まず、直流始動方式の場合は、直流で動作しているため、電子の放出、流入方向が一定である。このため、片方の電極のみが過熱されて電極を消耗してしまう。
【0007】
高周波始動方式においては、放電灯点灯装置に内包されているインダクタの限流作用により、電極間の電圧極性を変化させても、その間に流れる電流は反転せず、電流波形は三角波となり、片方の極性に流れ続けるため、やはり片方の電極のみが加熱されてしまう。
【0008】
低周波始動方式は、片方の電極のみが過熱されることはないという点で、上記2つの始動方式に優る。しかし、極性反転時に一時的に立消えてしまうことがあるため、放電灯内の温度が上がりにくく、始動性能に問題があり、これを改善しなければならない。
【0009】
即ち、始動時の挙動として、絶縁破壊直後は、放電灯内は冷状態であるため、封入されている水銀は液体の状態にある。一対の電極に対する放熱作用が同一であるならば、液体の水銀が電極のそれぞれに対して一様に付着しようが、放電灯は、上述したように光源として用いられるところから、電極の一方が、光反射体に近くなっているなど、電極に対する放熱作用が同じではない。このため、冷状態では、放熱作用を強く受けて温度の低下している一方の電極に、液状になった水銀が多く付着する。
【0010】
この状態で放電灯を始動させると、水銀の付着している電極からの電子放出が妨げられるから、交流駆動において、片方の極性には電流を流しにくい状態である。この状態で極性を反転させると、反転した瞬間に放電の状態が変化し、グロー放電状態となったり、一時的に立消えたりするのである。
【0011】
しかも、従来は、始動のための高電圧パルスを、CR時定数によって定まる固定されたタイミングで発生させていたから、立ち消えやグロー放電状態が発生した場合、それに対応することが困難である。
【特許文献1】特開2001−273984号公報
【特許文献2】特開2008−59806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、放電灯に対して、改善された始動特性を与える放電灯点灯装置を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの課題は、放電灯始動時の電極消耗を最小限に抑え、放電灯寿命を延伸させ得る放電灯点灯装置を提供することである。
【0014】
本発明の更にもう一つの課題は、始動時における放電状態の変化、立ち消えの時間を最小限に抑えることにより、放電灯内部の温度を素早く均一に上昇させることのできる放電灯点灯装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、本発明に係る放電灯点灯装置は、DC/ACコンバータと、高電圧発生部と、マイクロプロセッサとを含む。前記DC/ACコンバータは、供給された直流電圧を、交流電圧に変換して出力する。前記高電圧発生部は、前記DC/ACコンバータから供給された交流電圧に、パルス電圧を重畳して出力する。前記マイクロプロセッサは、前記交流電圧に同期して、前記パルス電圧を前記交流電圧に重畳させるべく、前記高電圧発生部を制御するタイミングを持つ。
【0016】
上述したように、本発明に係る放電灯点灯装置では、DC/ACコンバータと、高電圧発生部とを含んでおり、DC/ACコンバータは、供給された直流電圧を、交流電圧に変換して出力し、高電圧発生部は、DC/ACコンバータから供給された交流電圧に、パルス電圧を重畳したパルス重畳交流電圧を出力するから、パルス重畳交流電圧を、放電灯に供給することにより、放電灯を始動させることができる。放電灯が点灯した後は、DC/ACコンバータから出力される交流電圧を、放電灯に供給することにより、放電灯の点灯を維持することができる。
【0017】
また、放電灯をパルス重畳交流電圧によって始動させ、点灯を維持するから、電子の放出、流入方向が、交流電圧の周波数に応じて反転する。従って、片方の電極のみが過熱されて電極を消耗してしまうことがないから、放電灯始動時の電極消耗を最小限に抑え、放電灯の寿命を延伸させ得る。
【0018】
マイクロプロセッサは、DC/ACコンバータから出力される交流電圧に同期して、パルス電圧を交流電圧に重畳させるべく、高電圧発生部を制御するタイミングを持つ。このタイミングは、マイクロプロセッサに予め設定された始動プログラムによって、任意に設定される。従って、始動直後の冷状態で、放熱作用を強く受けて温度の低下している一方の電極に、液状になった水銀などの金属原子が多く付着し、金属原子の付着している電極からの電子放出が妨げられ、この結果、極性反転直後に放電が立消えてしまった場合でも、次のパルス重畳交流電圧によって、絶縁破壊を促し、放電を形成することにより、電流の流れない期間を最小限に抑えることができる。放電の立消えや、グロー放電の発生などは、通常、この種の放電灯点灯装置に含まれる電流検出回路によって管電流を検出し、その検出信号をマイクロプロセッサに供給することにより、マイクロプロセッサで知ることができる。
【0019】
交流電圧に対してパルス電圧を重畳させるべく、マイクロプロセッサから、高電圧発生部に与えられるべき制御のタイミングは、交流電圧の極性反転時を基準にした遅延時間によって与えることができる。この遅延時間交流電圧の半周期に対し、10%以下の範囲にあることが好ましい。特に好ましくは、5%以下の範囲である。遅延時間=0、即ち、交流電圧の極性反転時にパルス電圧を重畳させてもよい。
【0020】
交流電圧の周波数は、40Hz〜数百Hzの範囲にあること、即ち、低周波始動方式であることが好ましい。低周波始動方式であれば、高周波始動方式におけるインダクタの限流作用、それによる三角波電流波形の発生、更には、片電極のみの偏加熱の各現象を回避することができる。低周波始動方式の場合、遅延時間は1000μs以内、好ましくは500μs以内、更に好ましくは、100μs以内である。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)本発明の課題は、放電灯に対して、改善された始動特性を与える放電灯点灯装置を提供することができる。
(b)放電灯始動時の電極消耗を最小限に抑え、放電灯寿命を延伸させ得る放電灯点灯装置を提供することができる。
(c)始動時における放電状態の変化、立ち消えの時間を最小限に抑えることにより、放電灯内部の温度を素早く均一に上昇させ得る放電灯点灯装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明に係る放電灯点灯装置の構成を示すブロック図である。図示の放電灯点灯装置は、HID放電灯(High Intensity Discharge Lamp)で代表される放電灯6を駆動するために用いられる。HID放電灯は、金属原子高圧蒸気中のアーク放電を、光源として利用するタイプのものであって、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧ナトリウムランプの総称である。この放電灯6は、石英ガラスなどで構成された管体61の内部に、一対の電極62、63が、間隔を隔てて配置されており、電極62−63間のアーク放電を、光源として利用している。フィラメントがなく、白熱電球と比べて長寿命・高効率である。メタルハライドランプはテレビや映画などの演出照明分野でも、その高輝度、高効率、太陽光と色温度が近い、などの特徴をいかし、ロケーション照明の主力となっている。近年ではシールドビームやハロゲンランプに代わって自動車や鉄道車両などの前照灯に用いられるようになってきている。
【0023】
本発明に係る放電灯点灯装置は、上述した放電灯6を駆動するため、DC/DCコンバータ1と、放電灯駆動部2と、パルス幅制御部3と、マイクロプロセッサ4とを含む。
【0024】
DC/DCコンバータ1は、入力端子T11,T12に供給される入力直流電圧Vinをスイッチングし、入力直流電圧Vinとは異なる電圧値の直流電圧V1に変換して出力する。DC/DCコンバータ1は、放電灯6の電極62−63の間の電圧(管電圧)が、始動時と定常動作時とで大きく変化することから、この変化に関わらず、放電灯1の消費電力を一定化するなどの目的で設けられている。DC/DCコンバータ1には、パルス幅制御部3からパルス幅制御されたスイッチング制御信号S1が供給され、DC/DCコンバータ1において、パルス幅の制御されたスイッチング動作が行われる。DC/DCコンバータ1は、スイッチング周波数50kHz以上の高い周波数でスイッチング動作をする。
【0025】
DC/DCコンバータ1としては、一般には、降圧型チョッパ回路が用いられ、その出力段に図示しない平滑回路が付設されている。平滑回路としては、コンデンサ及びインダクタを含むコンデンサインプット型のものが用いられる。DC/DCコンバータ1に供給される入力直流電圧Vinは、商用交流電源を整流平滑化して得られ、又は、他の直流電源から供給される。
【0026】
放電灯駆動部2は、DC/DCコンバータ1から供給される直流電圧V1を、放電灯6の駆動に適したパルス重畳交流電圧Voutに変換する部分であって、DC/ACインバータ21と、高圧発生部22とを含む。DC/ACインバータ21は、DC/DCコンバータ1から供給された直流電圧V1を、DC/DCコンバータ1よりも低い周波数でスイッチングして交流電圧V2に変換する。DC/ACインバータ21のスイッチング周波数、従って交流電圧V2の周波数は、40Hz〜数百Hzの範囲にあること、即ち、低周波始動方式であることが好ましい。DC/ACインバータ21はマイクロプロセッサ4から供給される制御信号S21によって、その動作が制御される。
【0027】
高電圧発生部22は、始動時に、DC/ACインバータ21から供給された交流電圧V2に、パルス電圧Vpを重畳して出力するタイミングを有する。
【0028】
マイクロプロセッサ4は、全体を統括制御する部分であって、交流電圧V2に同期して、パルス電圧Vpを交流電圧V2に重畳させるべく、高電圧発生部22を制御するタイミングを持つ。パルス電圧Vpを交流電圧V2に重畳させるタイミングは、マイクロプロセッサ4に組み込まれたプログラムにより決定される。従って、パルス電圧Vpの重畳タイミングは、プログラムによって、任意に設定することができる。
【0029】
図示の放電灯点灯装置には、更に、一般的な構成として電圧検出回路12、電流検出回路13、入力電圧検出回路11及び通信部5が含まれている。まず、電圧検出回路12は、放電灯駆動部2に供給される直流電圧V1を検出してその電圧検出信号Vd2をマイクロプロセッサ4に供給する。マイクロプロセッサ4は、電圧検出信号Vd2の示す電圧値に応じて、パルス幅制御部3に供給される基準パルスCLの周波数を変える。基準パルスCLの周波数の制御は、予め設定されたプログラムに従う。
【0030】
電流検出回路13は、放電灯駆動部2に供給される電流を検出してその電流検出信号Id1をマイクロプロセッサ4に供給する。マイクロプロセッサ4は、電流検出信号Id1と電圧検出信号Vd2とより、放電灯6の消費電力が一定となる方向に、DC/DCコンバータ1を制御する。これにより、定電力制御が実行される。この定電力制御も、マイクロプロセッサ4に予め設定されたプログラムに従って実行される。放電の立消えや、グロー放電の発生なども、電流検出回路13からマイクロプロセッサ4に供給される電流検出信号Id1により、マイクロプロセッサ4で知ることができる。
【0031】
入力電圧検出回路11は、入力直流電圧Vinを監視し、その電圧検出信号Vd1をマイクロプロセッサ4に供給する。入力直流電圧Vinが、例えば、極端に低下した場合などには、マイクロプロセッサ4は入力電圧検出回路11から供給される電圧検出信号Vd1に基づいて、動作を停止させるなどの保護動作を、パルス幅制御部3に供給する。
【0032】
通信部5は、例えば、ホトカプラなどによる絶縁伝送回路を構成し、マイクロプロセッサ4の通信ポートに接続される。通信部5は、マイクロプロセッサ4の制御内容を含む送信信号S5を、出力端子T3から外部に送信するとともに、外部から入力端子T41に供給される点灯指令信号S6及び入力端子T42に供給される受信信号S7を、マイクロプロセッサ4に供給する役割を担う。
【0033】
次に、図2を参照して、図1に示した放電灯点灯装置の動作について、始動動作を中心にして説明する。
【0034】
まず、図2(a)に示すように、t0時にDC/DCコンバータ1が動作を開始すると、DC/DCコンバータ1により入力直流電圧Vinがスイッチングされ、入力直流電圧Vinとは異なる電圧値に変換された直流電圧V1が生成される。
【0035】
DC/DCコンバータ1に対しては、パルス幅制御部3から、パルス幅制御されたスイッチング制御信号S1が供給され、DC/DCコンバータ1は、このパルス幅制御されたスイッチング制御信号S1にしたがってスイッチング動作をする。図示の実施例において、パルス幅制御部3からDC/DCコンバータ1に対して供給されるスイッチング制御信号S1は、マイクロプロセッサ4から供給されるパルス幅制御信号S3と、基準パルスCLとより生成される。もっとも、基準パルスCLは、パルス幅制御部3の内部で生成してもよい。
【0036】
DC/DCコンバータ1で変換された直流電圧V1は、放電灯駆動部2に供給される。放電灯駆動部2は、DC/DCコンバータ1から供給される直流電圧V1を、放電灯6の駆動に適した電圧に変換する。放電灯駆動部2のDC/ACインバータ21は、t0時にDC/DCコンバータ1から供給された直流電圧V1を、交流電圧V2に変換して出力する(図2(b)参照)。交流電圧V2は、一般には、放電灯6が消灯している状態では、例えば、300V(波高値)程度の矩形波となる。
【0037】
高電圧発生部22は、DC/ACインバータ21から供給された交流電圧V2に同期して、交流電圧V2にパルス電圧Vpを重畳したパルス重畳交流電圧Voutを出力する(図2(c)参照)。このパルス重畳交流電圧Voutは、放電灯6の一対の電極62、63に供給される。これにより、放電灯6の電極62−63間で絶縁破壊が発生し、管電流Ioutが流れる(図2(d)参照)。パルス電圧Vpは、持続時間の短い鋭い立上がり、立下り特性をもつ。パルス重畳交流電圧Voutの波高値は10kV程度に選定される。
【0038】
パルス電圧Vpを交流電圧V2に重畳させるタイミングは、マイクロプロセッサ4に組み込まれたプログラムにより、任意に設定することができる。
【0039】
上述のようにして、管電流Ioutが流れた後、交流電圧V2の極性が負に反転したt3時からΔτまでの期間で、管電流Ioutが立ち消えたものとする。この管電流Ioutの立ち消えは、電流検出回路13によって検出され、その検出信号Id1がマイクロプロセッサ4に供給される。マイクロプロセッサ4は、管電流Ioutが立ち消えたことを示す電流検出信号Id1が供給されたとき、Δτ相当の遅延時間をもって、再度、パルス電圧Vpを重畳する。
【0040】
再度のパルス電圧Vpの重畳により、管電流Ioutが再び流れ、半周期を経てt4時に至る。t4時において、交流電圧V2が正に反転した直後に管電流Ioutの立ち消えが検出されなかったときは、パルス電圧Vpを生じさせる必要はない。
【0041】
t3時から半周期を経たt4時まで流れていた管電流Ioutが、交流電圧V2の極性が負に反転したt5時から半周期を経て、t6時に交流電圧V2が正に反転した瞬間に、再び立ち消えたものとする。この管電流Ioutの立ち消えも、電流検出回路13によって検出され、その検出信号Id1がマイクロプロセッサ4に供給される。マイクロプロセッサ4は、管電流Ioutが立ち消えたことを示す電流検出信号Id1が供給されたとき、Δτ相当の遅延時間を以って、再度、パルス電圧Vpを重畳する。
【0042】
上述したような動作を繰り返すことにより、管内の温度が上がり、電極62又は63に付着していた水銀などの金属原子が気化され、管電流Ioutの立ち消え現象がなくなると、放電灯6は、始動から点灯の状態に移行することになる。図2では、t10時以降が点灯状態となる。
【0043】
以上の動作説明から明らかなように、本発明では、放電灯6を、極性の反転するパルス重畳交流電圧Voutによって始動させ、交流電圧によって点灯を維持するから、電子の放出、流入方向が、交流電圧V2の周波数に応じて反転する。従って、放電灯6において、電極62、63のうち、片方の電極のみが過熱されて電極を消耗してしまうことがないから、放電灯6の始動時における電極消耗を最小限に抑え、放電灯6の寿命を延伸させ得る。
【0044】
しかも、DC/ACインバータ21から供給された交流電圧V2に、パルス電圧Vpを重畳して出力するタイミングは、マイクロプロセッサ4のプログラムによって決定される。マイクロプロセッサ4は、組み込まれたプログラムに従い、始動時に、DC/ACインバータ21から出力される交流電圧V2に同期して、パルス電圧Vpを交流電圧V2に重畳させるべく、高電圧発生回路22を制御する。従って、始動時に、高電圧発生部22から放電灯6に対し、パルス重畳交流電圧Voutが印加されることになる。
【0045】
このため、始動直後の冷状態で、放熱作用を強く受けて温度の低下している一方の電極62又は63に、液状になった水銀などの金属原子が多く付着し、金属原子の付着している電極からの電子放出が妨げられ、この結果、極性反転直後に放電が立消えてしまった場合でも、すぐにパルス電圧Vpを重畳することによって、絶縁破壊を促し、放電を形成することにより、電流の流れない期間を最小限に抑えることができる。
【0046】
交流電圧V2に対してパルス電圧Vpを重畳させるべく、マイクロプロセッサ4から、高電圧発生部22に与えられるべき制御のタイミングは、交流電圧V2の極性反転時を基準にした遅延時間Δτとして与えることができる。遅延時間Δτは、交流電圧V2の半周期に対し、10%以下の範囲にあることが好ましい。特に好ましくは、5%以下の範囲である。遅延時間Δτ=0、即ち、交流電圧V2の極性反転時にパルス電圧Vpを重畳させてもよい。
【0047】
交流電圧V2の周波数は、40Hz〜数百Hzの範囲にあること、即ち、低周波始動方式であることが好ましい。低周波始動方式であれば、高周波始動方式におけるインダクタの限流作用、それによる三角波電流波形の発生、更には、片電極のみの偏加熱の各現象を回避することができる。低周波始動方式の場合、遅延時間Δτは1000μs以内、好ましくは500μs以内、更に好ましくは、100μs以内である。
【0048】
図4は、高電圧発生部22の具体的な回路構成を示す図である。図を参照すると、高電圧発生部22は、高圧パルストランス221と、高圧発生用のキャパシタ223と、充電用の抵抗器222と、サイリスタ又はIGBT等の三端子スイッチ素子224とを含んでいる。
【0049】
高圧パルストランス221は、互いに誘導結合する第1〜第3巻線N1〜N3を含んでいる。第1巻線N1は、一端が、DC/ACコンバータ21の一方の出力端に接続され、他端が端子T21に接続されている。第2巻線N2は、一端が、DC/ACコンバータ21の他方の出力端に接続され、他端が端子T22に接続されている。
【0050】
第3巻線N3には、三端子スイッチ素子224の主電極回路及びキャパシタ223が直列に接続されており、第3巻線N3とキャパシタ223の接続点に、充電用の抵抗器222の一端が接続されている。抵抗器222の他端には、充電用電源Vinが供給される。また、三端子スイッチ素子224のゲートGには、マイクロプロセッサ4から、ゲートトリガ信号S22が供給される。
【0051】
始動に当たり、マイクロプロセッサ4から三端子スイッチ素子224のゲートGに、そのプログラムに従ってゲートトリガ信号S22を供給すると、三端子スイッチ素子224が導通し、抵抗222によってキャパシタ223に蓄積されていた電荷が、第3巻線N3を通って放電され、第3巻線N3にパルス電圧が発生する。そして、第3巻線N3と、第1又は第2巻線N1,N2との誘導結合により、第1又は第2巻線N1,N2に、巻数比に応じたパルス電圧Vpが発生し、交流電圧V2に重畳される。これにより、交流電圧V2にパルス電圧Vpを重畳したパルス重畳交流電圧Voutが生成される。
【0052】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る放電灯点灯装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した放電灯点灯装置の電圧波形及び電流波形を示す図である。
【図3】図1に示した放電灯点灯装置における高電圧発生部の具体的な回路構成を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 DC/DCコンバータ
2 放電灯駆動部
21 DC/ACコンバータ
22 高電圧発生部
3 パルス幅制御部
4 マイクロプロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DC/ACコンバータと、高電圧発生部と、マイクロプロセッサとを含む放電灯点灯装置であって、
前記DC/ACコンバータは、供給された直流電圧を、交流電圧に変換して出力し、
前記高電圧発生部は、前記DC/ACコンバータから供給された交流電圧に、パルス電圧を重畳して出力し、
前記マイクロプロセッサは、前記交流電圧に同期し、前記パルス電圧を前記交流電圧に重畳させるべく、前記高電圧発生部を制御するタイミングを持つ、
放電灯点灯装置。
【請求項2】
請求項1に記載された放電灯点灯装置であって、前記タイミングは、前記交流電圧の極性反転時を基準にした遅延時間で与えられ、前記遅延時間は前記交流電圧の半周期に対し、10%以下の範囲にある、放電灯点灯装置。
【請求項3】
請求項2に記載された放電灯点灯装置であって、前記交流電圧の周波数は、40Hz〜数百Hzの範囲にある、放電灯点灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−10074(P2010−10074A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170906(P2008−170906)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】