説明

放電空間内の電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置

【課題】電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置であって、技術的に簡潔な手段の使用によって、前記電極のより高い平均負荷容量又は大幅に長い動作寿命を生じる方法及び装置を提供することにある
【解決手段】本発明は、少なくとも2つの電極を含む放電空間内の電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置であって、前記電極の少なくとも一方は、蒸発スポットによる侵食影響領域が、少なくとも電流フローによって形成されるように、マトリックス材料又はキャリア材料から構成されている方法及び装置に関する。電気放電によるプラズマの前記発生のための方法又は装置を提供するために、放電動作中の犠牲材38の沸点が前記キャリア材料30の融点よりも低い犠牲材38が、前記電流フローにおいて生じる電荷キャリアが前記犠牲材38から主に生成されるように、少なくとも前記蒸発スポットに設けられることが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの電極を含む放電空間内の電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置であって、前記電極の少なくとも一方は、蒸発スポット(evaporation spot)による侵食影響領域(erosion−susceptible region)が、少なくとも電流フローによって形成されるように、マトリックス材料又はキャリア材料から構成されている方法及び装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
複数の前記のような方法及び装置が知られている。従って、国際公開第WO−A−02/07484号明細書には、ガス放電に基づくプラズマによる短波放射の発生のための方法及び装置であって、2つのプラズマ電極に加えて、2つの更なる電極が予備電離のために使用されている方法及び装置が記載されている。ピンチプラズマの発生ための、複雑で、従って高価な電子制御システムは別として、4つの前記電極は、放射源を安定させる冷却液を付加的に備えているべきである。
【0003】
国際公開第WO−A−01/95362号明細書は、更に、電気放電を介する高周波のピンチプラズマを発生する装置であって、共鳴状態において伝送される電気エネルギが、飽和状態にある付加的な磁気スイッチによって、再度、2つのキャパシタ間に蓄積され、電極の侵食が軽減される装置を記載している。更なる実施例において、リチウム金属を、電極の1つに又は該電極の1つの内部に備えており、リチウムは、極紫外線放射の放出のための前記ピンチプラズマにおいて励起されるように、付加的なレーザ装置の短いレーザの放射パルスによって蒸発される。前記レーザの放射パルスのエネルギは、前記電極の熱負荷を増加させ、更に、該電極の動作寿命を減少する。
【0004】
イグナイトロン、スパークパス(spark path)、トリガされる真空スイッチ、又は高電流パルス装置においてスイッチ要素として使用される擬スパーク・プラズマ・スイッチ(pseudo−spark plasma switches)は、現在までのところ、電極の強度な侵食のために、有用寿命が不十分である電極を有している。前記電極材料の毒性燃焼生成物の放出、オゾンの生成、及び/又はイグナイトロンからの水銀の破棄における環境問題は、ここで、多くの分野のアプリケーションに対して、特に不利である。
【0005】
スイス国特許第CH301203号明細書は、イグナイトロンであって、例えば、水銀を吸収する焼結されたモリブデンのスポンジ状電極を備えているイグナイトロンに関するものであり、スイッチング中に生じるアーク放電に対する高い耐性を提案している。このイグナイトロンは、この場合、運動の全条件において、及びイグナイタに対する前記イグナイトロンのそれぞれ及び全ての位置において、カソードに対する不変の空間関係を提供するように、ただ1つのスポンジ状カソードを有する。しかしながら、前記イグナイタとして使用される電極の有用寿命は、前記アーク放電によって生じる侵食のために、非常に短いままである。
【0006】
特別な電極の幾何学的配置であって、極紫外線及び軟X線の放射の効果的な放出と、キロヘルツ領域までの繰り返し率を有する擬スパーク・スイッチとの両方のための幾何学的配置が、国際公開第WO−A−99/29145号明細書から知られている。付加的なスイッチング要素が、ピンチプラズマ内の前記電極とキャパシタバンクとの間で使用されており、これは、自発的な放電開始(spontaneous breakdown)によって、動作する。前記プラズマは、絶縁体と接触しておらず、単に、前記絶縁体の消耗を軽減するはずである。しかしながら、比較的に複雑な構成である前記装置は、侵食に対して前記電極の表面を、十分に保護することができない。
【0007】
ドイツ国特許出願公開第DE−OS 101 39 677号明細書に記載されているように、ホロカソードによってトリガされるピンチプラズマ(略称、HCTピンチ)は、スイッチング要素なしに、パッシェン曲線(Paschen curve)の左側の分岐において動作されることができ、従って、低い誘導性の、効果的なエネルギの結合を可能にする。出願公開されている前記明細書からの図1は、極紫外線又は軟X線放射を発生する擬スパーク・プラズマ・スイッチの構造を示している。
【0008】
絶縁体(18)を一緒に有するホロカソード(10)及びアノード(12)が、放電空間(22)を規定している。電流パルス発生器は、この電極システムに、電気放電を介して、プラズマ(26)を発生させる。この電流パルス発生器は、キャパシタバンク(20)によって、表されている。プラズマ(26)は、2つの電極(10、12)の開孔(14、16)によって規定されている対称性の軸(24)に沿って、点火される。
【0009】
プラズマ(26)を発生するように、適切な放電ガスが、典型的には1から100Paまでの範囲にある圧力(p)で、放電空間(22)に導入される。典型的には10から数百nsの長さのパルス期間を有する、数十から最大100kAまでのパルス状の電流フローは、ピンチプラズマを、数十電子ボルトの温度(T)と、使用される前記放電ガスが、所望のスペクトル領域における放射の効率的な放出(28)に励起される密度とに至らせる。前記電極間の空間内の低オーム性チャネルが、ホロカソード(10)の後方空間内の電荷キャリアによって生成される。前記電荷キャリアは、様々な仕方で生成されることができる。例えば、表面スパークのトリガ、高い誘電性のトリガ、強誘電性のトリガ又は上述の予備電離は、電子のような電荷キャリアの生成のためのホロー電極内での使用に好まれている。このため、電極(10、12)に対する強度の熱負荷が、高パルスエネルギのために、主に、開孔(14、16)に生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特に、国際公開第WO−A−01/01736号明細書から知られているように、必要とされる点火電圧に影響を与え、補助電極の使用を介して電気放電の瞬間を予め決定することが、可能である。前記補助電極は、代替的には、トリガをかけるのに使用されることもでき、この結果、キャパシタバンク(20)は、前記点火電圧まで充電される必要はなく、より低いレベルまで充電されれば良い。しかしながら、これは、再び、ホロカソード内のプラズマを発生し、これは、前記電極の表面を強度に侵食し、電極の寿命を不利に短くする。
【0011】
従って、本発明は、目的として、電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置であって、技術的に簡潔な手段の使用によって、前記電極のより高い平均負荷容量又は大幅に長い動作寿命を生じる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、冒頭段落で記載した種類の方法であって、犠牲材(sacrificial substrate)が、少なくとも前記蒸発スポットに設けられ、前記電流フローにおいて生じる前記電荷キャリアが主に犠牲材から生成されるように、放電動作中の犠牲材の沸点が、前記キャリア材料の融点よりも低い方法において、達成される。
【0013】
この態様において、低融点の犠牲材は、電極の形状を一定に保つように、マトリックス材料の利益のために犠牲になる。
【0014】
電極表面からプラズマへの電流フローも、常に、表面材料の一部を蒸発させるので、前記電極の形状は、通常、変化され、このことは、プラズマ形成の効率に対して不利な効果を有する。これによって、前記プラズマの大きさ及び位置も、変化され、この結果、これらの電極は、再生可能な安定なプラズマを得るのに役に立たなくなる。通常の電極は、固体であって電気的及び熱的に導電性の高い材料からできており、これらは、一方では、前記プラズマへの、低損失な電流通路に適しており、他方では、前記プラズマからの熱エネルギの放電に適している。
【0015】
好ましくは、前記方法は、前記犠牲材が、前記電極から、前記電気放電に面している表面まで設けられるように、構成される。
【0016】
前記電流の輸送を可能にするために必要な材料の損失は、前記電極の外形が、長期間に渡り、そのまま残るように均整がとられる。有利には、前記方法は、前記犠牲材が、前記電極よりも低い融点を有するように構成される。この場合、液状の犠牲材が、移動層として振る舞い、該移動層は、素早く及び効果的に、電極の前記表面上に移動されることができる。
【0017】
本発明の更なる実施例において、前記方法は、前記表面が犠牲材によって濡らされるように、有利に配される。このことは、前記電極の外形を規定する前記プラズマとマトリックスとの間の直接的な接触を防止する。前記電気放電に面している表面は、毛細管力によって誘導される前記犠牲材の輸送によって、継続的に再生(renew)される。
【0018】
本発明の特に有利な実施例は、放電が、前記電極の平均温度であって、前記犠牲材の融点よりも高い平均温度において動作される場合に、得られる。この場合、前記平均温度は、前記電極の外形を規定しているキャリア材料の融点よりも、常に低い。前記電極に対する熱負荷は、例えば、前記プラズマからのイオンのようなホットパーティクル及び放射の放出、又は電気放電における数十Jまでの脈動エネルギによって生じる。これは、十分な量で熱的に誘導される電子の放出に対して、不十分なものである。従って、電極(好ましくは、カソード)の表面上に、局所的な過熱又はスポット形成の既知の過程が生じ、これにより、電極の材料は、蒸発される。蒸発する前記電極の材料は、次いで、通常、前記プラズマのための放電に必要な、前記電荷キャリア(例えば、電子)を、供給する。前記電極の表面を濡らす犠牲材は、自身の沸点を超えた場合、蒸発し、前記電極の前記キャリア材料の侵食を制限し、更に、発生する蒸気(vapor)におけるスポット形成に有利に働く。
【0019】
好ましくは、電気放電を介してプラズマを発生する当該方法は、前記放電によって蒸発される犠牲材の量(mass)が貯留部から補充されるように、配される。濡れている犠牲材による電極の表面において生じる損失は、毛細管力による犠牲材の補充を介して、必然的に良好にされる。ここで、前記キャリア材料は、濡れているスポンジのように作用する。
【0020】
本発明の更なる実施例において、蒸発された犠牲材は、凝縮の後、前記貯留部又は他の貯留部内に戻されるように設けられる。前記キャリア材料のマトリックスを濡らす犠牲材は、直ちに流出することができ、この結果、本発明による前記電極の外形は、その後、変化されないままでいる。光システム(例えば、犠牲材を蒸発させることによるEUVリソグラフィ)の汚染は、比較的小さく、これは、生産の利便性を高くする。
【0021】
電気放電を介するプラズマの発生の特に有利な方法は、前記電気放電が、所与のガス圧においてパッシェン曲線の左側の分岐上で動作されるように配されることである。パッシェン曲線上の最小値の左側における動作点の選択は、特に、例えば、極紫外線及び軟X線の放射のような、所望の波長領域における放射効率(radiant efficacy)を向上させ、擬スパーク・プラズマ・スイッチの特徴をより厳密に規定することを可能にする。
【0022】
前記方法の更なる利点は、ガスであって、前記放射を発生する少なくとも1つの成分を含むガスが、前記電極間に存在することであり得る。例えば、キセノンが、これに使用されることができる。前記ピンチプラズマにおいて形成される高電離されたキセノンイオンは、例えば、13.5nmの波長で放射を放出する。しかしながら、放射放出する前記ガスの分圧が、放電空間内で高すぎるように選択された場合、発生された放射も、吸収される。
【0023】
発生される前記放射の強度を増加するには、当該方法は、好ましくは、前記ガスの主成分が、前記放出される放射に対して透明であるように、配される。ヘリウム、アルゴン又は窒素が、これに使用されることができ、例えば、この結果、典型的には、前記放電空間内で1から100Paであるガス圧を調整し、従って、適切な電極の幾何学的配置を与えられたパッシェン曲線の前記左側の分岐における動作点を規定する。
【0024】
HCTピンチ放電における1つのパルス内の犠牲材料の量は、前記ガス放電を達成し前記放射の放出に寄与する前記電極間のガス量よりも、規模の程度が小さい。従って、より多い犠牲材が、前記放電の前に、付加的なエネルギの短期間の導入を介して、少なくとも前記のような場所において、又は前記カソードのスポット若しくは蒸発領域が通常生じる場所において、例えば、レーザパルス又は電子線によって蒸発されることが、有利である。約50mJの付加的なレーザパルスのエネルギは、前記犠牲材の粒子の量を、蒸気の形態における1015個の粒子の範囲で発生することができる。従って、発生される犠牲材の蒸気の前記粒子の量は、通常使用される放電ガスの粒子の量に、ほぼ対応する。結果として、ピンチプラズマは、主に蒸気の状態で形成され、前記蒸気の特性が、ここで、放射の放出を規定する一方で、前記電極のキャリア又はマトリックス材料の寸法安定性の利点が、保持される。前記電極間の蒸気を解放するエネルギパルスのおかげで、所定の場合において、付加的なガスを、全て、不要にすることができる。従って、前記電極のシステムは、最初、真空(例えば、10−6mbar)状態にあり、即ち、前記パッシェン曲線上の左側に対して、非常に遠い。前記気体が発生して初めて、前記放電が発生され、前記犠牲材の蒸気内でピンチを形成する。
【0025】
当該方法は、好ましくは、スズ、インジウム、ガリウム、リチウム、金、ランタン、アルミニウム、及びこれらの合金並ぶに/又はこれらと他の原子との化合物のような犠牲材が、使用されるように、配される。上述の要素とこれらの塩と(これらのうちの一部は、かなり低い温度で、沸騰する)は、特に、極紫外線及び/又は軟X線放射の生成に使用されることができ、前記犠牲材の流動化範囲は、前記マトリックス材料に適応化されることができる。
【0026】
本発明によれば、更に、冒頭段落に記載した種類の装置に関する前記目的は、犠牲材であって、沸点が放電動作中の前記キャリア材料の融点よりも低い犠牲材を、電流のフローの場合に生じる電荷キャリアが、主に、前記犠牲材から生成されることができるように、少なくとも前記蒸発スポットに設ける構成によって達成される。
【0027】
本発明による前記装置の電極は、原則的に、ガス放電に基づく何らかのアプリケーションに使用されることができる。この外形は、例えば、円柱又はホロー電極の形状のように、所望するいかなる態様においても設計されることもできる。
【0028】
特に有利な装置は、規定されている点火電圧に到達した場合、少なくとも2つの電極と少なくとも1つの絶縁体とによって形成される放電空間における開孔によって規定される対称性の軸に沿って、プラズマが形成されることができる場合に、得られる。これは、例えば、自発的な放電開始によって、規定されている空間寸法を有するHCTピンチプラズマを、前記放電空間の表面までの比較的長い距離において、発生することを可能にする。前記電極に対する熱負荷と、従って前記電極の侵食とは、これによって低く保持されることができる。
【0029】
本発明の更なる実施例は、キャリア材料が、多孔質である又は毛細管型のチャネルを有することを提供する。付加的な犠牲材は、次いで、前記電極の外形を規定している前記キャリア材料を介して、好ましくは、前記電気放電に面している面において、出る。
【0030】
当該装置は、好ましくは、キャリア材料が、液及び/又は気体状の犠牲材を含む少なくとも1つの貯留部に接続されているように、設計される。前記貯留部は、後続の放電動作に必要な前記電極の表面における材料の損失の補充と、前記放電空間の表面の冷却場所において凝縮された犠牲材を収容するのとの両方の働きをし、この結果、前記電極の外形は、常に維持される。固体状態の前記犠牲材を、例えば、ワイヤの形態で、前記貯留部及び/又は前記放電空間内に設けることも明らかに可能である。
【0031】
上述のプラズマを発生する装置の実施例において、前記キャリア材料が、屈折性材料(好ましくは、金属又は金属合金)から、又はセラミックス材料から作られている場合が、便利である。明らかに、電極を規定する前記キャリア材料の外形は、何らかの耐熱材料から形成されることができる。
【0032】
プラズマを発生する得に有利な装置は、前記電極の一方のプラズマに面している面の少なくとも1つにおけるキャリア材料が、該キャリア材料の他の部分の孔質形状とは異なっている多孔質形状を有するように、構成される。
【0033】
このことは、電極の前記面におけるキャリア材料が、異なる大きさの孔を有することを可能にする。適切な製造工程は、例えば、大量の犠牲材の吸収を介して、犠牲材の局所的な高い損失を補償する孔を作ることができ、該高い損失は、例えば、前記ピンチプラズマの対称性の軸が高い電流フローへの露出が最も強い場所であるので、該軸に沿って又は該軸上に生じる。
【0034】
前記キャリア材料内の孔の大きさが異なる場合であって、例えば、内側から前記表面に向かって小さくなっていく場合も、代替的に可能であり、有利である。この場合、毛細管力が、犠牲材の輸送を有利に支持する。
【0035】
ガス放電に基づくアプリケーションのための、電気放電を介するプラズマの発生用の当該装置又は当該方法の全体的な使用に対して、いかなる制限も課さない場合、有利な使用は、極紫外線及び/又は軟X線放射、特に、EUVリソグラフィの範囲における放射の発生において、見出されることができる。
【0036】
当該方法及び装置は、特に高出力スイッチのために、高い電流強度を制御するのにも使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】従来技術による電極の幾何学的配置の図である。
【図2】第1実施例における、付加的に設けられることができる犠牲材を有する電極を示している。
【図3】第2実施例における、電極の断面図を示している。
【図4】第3実施例における放電動作の間の、付加的な犠牲材を備えている電極を示している。
【図5】第4実施例の動作の間の、付加的に設けられている犠牲材を有する電極の断面図と、電極の表面温度分布とを示している。
【図6】第5実施例における毛細管型チャネルを有する電極の幾何学的配置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の更なるフィーチャ及び有利な点は、以下の5つの実施例の記載と符号が付されている添付図面とから明らかになるであろう。
【0039】
同一の符号は、逆に述べられていない限り、常に、同一の構造上のフィーチャに関しており、図2ないし6に関している。
【0040】
自己再生電極10を備える装置の第1実施例の、本発明による動作原理は、特に、図2を参照して記載されている。電極10は、多孔質キャリア材料30から形成されており、この内部空間に、多孔質キャリア材料30よりも低い融点を持つ犠牲材38が設けられている。犠牲材38は、貯留部34内に液状で存在しており、通過部32を介する電気放電に面している面36(図3)と連通している。液状の犠牲材38は、好ましくは、多孔質キャリア材料30を濡らす特性を有する。
【0041】
図3は、再生可能な電極10を有する本発明による装置の第2実施例を、断面図において示している。多孔質キャリア材料30は、金属(好ましくは、タングステン又はモリブデンのような屈折性金属)の焼結によって得られるマトリックス40として構成されている。前記金属体は、形状及び大きさが変化し得て、この結果、適切な焼結処理は、対応して寸法決定された孔を、表面36上に又は電極10内の介在空間及びチャネル48内に生成することができる。明らかに、多孔質キャリア材料30は、代替的に、セラミックス材料でもあり得る。マトリックス40内の前記介在空間は、動作中、本発明による電極10内の液状犠牲材38によって満たされる。犠牲材38の融点及び沸点は、マトリックス40の融点よりも低くなるように選択される。犠牲材38が、マトリックス40を濡らした場合、これらの孔内に自然に生じる毛細管力が、貯留部34から多孔質キャリア材料30までの吸入効果を生じる。多孔質キャリア材料30のこのスポンジのような特性は、前記放電の動作中、表面36内への液状犠牲材38の継続的な補充を生じ、従って、通常生じる電極材料の破片(detritus)を補償する。
【0042】
図4は、放電動作における装置の第3実施例の断面図を示している。放電は、ここで、電流のフロー42によって、電極10の表面36を強力に加熱し、この結果、液状犠牲材38は、表面36から部分的に蒸発し、従って、蒸気44を発生する。犠牲材38は、マトリックス40を濡らすので、プラズマ26は、犠牲材38のみと接触するようになる。ここで、電極10の表面36が犠牲材38によって完全に濡らされることは、絶対的に必要であるわけではない。犠牲材38は、自身が前記孔の領域内にのみ存在する場合、電極10からの電流輸送を引き受けることもできる。前記犠牲材は、次いで、液体として、毛細管力46によってこの電極10を介して、電極10の表面36に付加的に供給され、この結果、マトリックス40の輪郭と、従って電極10の外形とは、変化されないままでいる。
【0043】
第4の実施例は、図5に示されている。犠牲材38は、形成中の電極スポットの温度T1が、犠牲材38の沸点に到達した場合、プラズマ26の点火の際に、マトリックス40の表面36から蒸発する。犠牲材38の補充的供給は、プラズマ26の形成によって表面36に供給されるエネルギが、犠牲材38の蒸発エンタルピーの形態で除去されるので、マトリックス40に対する熱負荷をT1に制限する。付加的に蒸発する犠牲材38は、この間、わずかに表面36を冷却し、蒸気50を形成し、該蒸気50は対流により全ての空間方向に移動する。しかしながら、犠牲材38の前記蒸気は、前記スポットの外側の電極10のより冷たい場所における主要部に対して凝縮し、前記孔を介して、再び、マトリックス材料30に戻ることができる。プラズマ接触の外側に横たわっている表面36のより冷たい領域は、犠牲材38の沸点T1よりも低い温度T2を有する領域内の表面36との衝突によって到達され、該より冷たい領域は、蒸気50内に蓄えられている熱エネルギを吸収する。犠牲材38は、この結果として、凝縮され、戻される。このことは、例えば、上述の多孔質キャリア材料30における毛細管力36によっても、生じ得る。平均動作温度は、常に、犠牲材38の融点よりも高く、マトリックス40の融点よりも低い。このことは、ここで示されていない装置であって、例えば、レーザパルス又は電子線によって、付加的な犠牲材38を蒸発させるように、前記放電の前の短期間に渡って、少なくともカソードのスポット又は蒸発スポットが通常生じる場所に、付加的なエネルギを供給する装置によることも可能である。従って、例えば、スズ、インジウム、ガリウム、リチウム及びこれらの合金並びに/又はこれらと他の原子との化合物であり得る犠牲材38の粒子の量が発生され、この場合、EUV及び/又は軟X線放射を発生するのに使用される放電ガスの量に、ほぼ対応する。
【0044】
本発明による装置の特に有利な実施例が、図6に示されている。この第6の実施例において、電極10は、電気放電の対称性の軸24と同軸の第1開孔14を有する。電極10は、キャリア材料30に加えて、液状及び/又はガス状の犠牲材38を含む少なくとも1つの貯留部34と、面36に延在している毛細管型チャネル48とを有する。表面36から生じる液状の犠牲材38の表面張力は、濡らされた表面52の二次元結合された領域を生じ、これは、放電動作における侵食に対してキャリア材料30を保護する。キャリア材料30内の毛細管型チャネル48の適切な配置は、要件に従う犠牲材38の適切な供給を達成することができる。表面36と、従って電極10とは、継続的に再生される。犠牲材38は、代替的には、ワイヤの形態で、必要に応じて、貯留部34及び/若しくは表面36、又は放電空間22(図6には示されていないが、図1に示されている)に供給される。
【0045】
本発明は、電気放電を介するプラズマの発生のための方法及び装置であって、前記電気放電は、形状が安定しており、特に、極紫外線及び/若しくは軟X線放射の範囲における放射のソース、又は擬スパーク・プラズマ・スイッチとして使用されることができる装置及び方法を提供する。
【符号の説明】
【0046】
10 電極I
12 電極II
14 第1開孔
16 第2開孔
18 絶縁体
20 キャパシタバンク
22 放電空間
24 対称性の軸
26 プラズマ
28 放射
30 キャリア材料、マトリックス材料
32 供給通路
34 貯留部
36 表面
38 犠牲材
40 マトリックス
42 電流フロー
44 犠牲材の蒸気
46 毛細管力
48 チャネル
50 気体
52 濡らされた表面
p ガス圧
T、T1、T2 温度
U 点火電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの電極を含む放電空間内の電気放電を介するプラズマの発生のための方法であって、
前記電極の少なくとも一方は、蒸発スポットによる侵食影響領域が少なくとも電流フローによって形成されるようにマトリックス材料又はキャリア材料から構成されており、犠牲材が、少なくとも前記蒸発スポットに供給され、前記電流フローにおいて生じる電荷キャリアが前記犠牲材から主に生成されるように、放電動作中の前記犠牲材の沸点は、前記キャリア材料の融点よりも低く、大幅に多くの前記犠牲材が、放電前、付加的なエネルギの短期間の導入を介して、少なくとも、カソードのスポット若しくは蒸発領域が通常生じる場所又は複数の場所において、例えば、レーザパルス又は電子線によって、蒸発されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記犠牲材は、前記電極を介して、前記電気放電に面している表面に供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気放電に面している表面は、前記犠牲材によって濡らされることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気放電は、前記犠牲材の融点よりも高い前記電極の平均温度において動作することを特徴とする、請求項1ないし3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記電気放電によって蒸発される前記犠牲材の量は、貯留部から補充されることを特徴とする、請求項1ないし4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
蒸発された前記犠牲材は、凝縮の後、前記貯留部又は他の貯留部内に戻されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電気放電は、所与のガス圧においてパッシェン曲線の左側の分岐において動作することを特徴とする、請求項1ないし6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
ガスが、前記電極間に存在し、前記ガスは、放射を発生する少なくとも1つの成分を含んでいることを特徴とする、請求項1ないし7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ガスの主成分は、放出される前記放射に対して透明であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
スズ、インジウム、ガリウム、リチウム、金、ランタン、アルミニウム、及びこれらの合金、並びに/又はこれらと他の原子との化合物のような、前記犠牲材が、使用されることを特徴とする、請求項1ないし9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
電気放電を介してプラズマを発生させる装置であって、少なくとも2つの電極を有する放電空間であって、前記電極の少なくとも一方は、蒸発スポットによる侵食影響領域が少なくとも電流のフローによって形成されるように、マトリックス材料又はキャリア材料から構成されている装置において、犠牲材を、少なくとも前記蒸発スポットに供給する構成であって、前記犠牲材の沸点は、前記電流のフローの場合に生じる電荷キャリアが前記犠牲材から主に生成されることができるように、放電動作中、前記キャリア材料の融点よりも低く、大幅に多くの前記犠牲材が、放電前、付加的なエネルギの短期間の導入を介して、少なくとも、カソードのスポット若しくは蒸発領域が通常生じる場所又は複数の場所において、例えば、レーザパルス又は電子線によって、蒸発される構成を有することを特徴とする装置。
【請求項12】
プラズマは、規定されている点火電圧に到達した場合、前記放電空間内の開孔によって規定される対称性の軸に沿って形成されることができ、該放電空間は少なくとも2つの電極と少なくとも1つの絶縁体とによって形成されていることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記キャリア材料は、多孔質である又は毛細管型チャネルであることを特徴とする、請求項11又は12に記載の装置。
【請求項14】
前記キャリア材料は、液状及び/又は気体の形態における前記犠牲材を含む少なくとも1つの貯留部に接続されている、請求項11ないし13の何れか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記キャリア材料は、屈折性金属、好ましくは、金属若しくは合金、又はセラミック材料によって形成されていることを特徴とする、請求項11ないし14の何れか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記キャリア材料は、前記電極の一方の前記プラズマに面している面の少なくとも1つにおいて多孔質の形状を有し、該形状は、前記キャリア材料の他の部分の多孔質の形状とは異なっていることを特徴とする、請求項12ないし15の何れか一項に記載の装置。
【請求項17】
極紫外線及び/又は軟X線放射の範囲内の放射の発生のためであって、特にEUVリソグラフィのための、請求項1ないし10の何れか一項に記載のプラズマの発生のための方法の使用。
【請求項18】
極紫外線及び/又は軟X線放射の範囲内の放射の発生のためであって、特にEUVリソグラフィのための、請求項11ないし16の何れか一項に記載のプラズマの発生のための装置の使用。
【請求項19】
特に高出力スイッチの場合、非常に高い電流強度を制御する、請求項1ないし10の何れか一項に記載のプラズマの発生のための方法の使用。
【請求項20】
特に高出力スイッチの場合、非常に高い電流強度を制御する、請求項11ないし16の何れか一項に記載のプラズマの発生のための装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−100741(P2011−100741A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289649(P2010−289649)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【分割の表示】特願2006−506293(P2006−506293)の分割
【原出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】