説明

放電装置及び放電方法

【課題】簡易な構成で液相と誘電体(固相)との間の気相で放電を発生させて、気相、液相、又は固相の浄化や改質を可能とした放電装置及び放電方法を提供する。
【解決手段】交流電源101と、交流電源101の各端部に接続された電極102,103とを有し、電極102,103のうち一方の電極102の少なくとも一部の領域が誘電体105で覆われ、誘電体105と他方の電極103との間に液体Wが介在し、誘電体105と液体Wの液面とが接する部分において誘電体と液体間をその周囲の気体を介して放電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相と誘電体(固相)との間の気相で放電を発生させて、気相、液相、又は固相の浄化や改質を可能とした放電装置及び放電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高電圧を電極間に印加して、水中で発生させた放電を利用して水の改質を行ったり、空気中での放電を利用して流路の流水性を高めた技術が知られている(例えば、特許文献1乃至特許文献3参照)。
【0003】
かかる特許文献1に記載の水の改質装置は、水中での放電によりこの水を改質するようになっており、その具体的な構成として、放電容器内の水に非接触状態で対向配置された電極に正負反転の非対称な波形を有する交流パルス電圧を印加し、電位反転の際に誘起されて放電容器内に発生する電場により水中放電を行うようになっている。そして、この構成によって水中での水を改質して高酸化性水を得るようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の水の改質装置は、水溶液中において2個の電極間にパルス電界を発生させて生じる水中放電により水溶液を処理するようになっている。具体的には、少なくとも1個の電極を誘電材料層で被覆し、この装置の作動中誘電材料によって少なくとも1個の電極を水溶液から完全に隔離する。これによって、従来の水中放電装置において許容できる電界強度よりも高い電界強度の使用を可能にし、水の改質を行うようになっている。
【0005】
また、特許文献3に記載のチップ部材は、部分的親水化機能を有しており、基板に形成された流路内のような微小領域において部分的親水化処理を行うチップ状の部材である。具体的には、チップ部材の一部をなす平坦な基板上に一対の櫛歯状電極が互いに噛み合うように配置されており、その上を覆って誘電体層が被覆されている。また、誘電体層上には電極の領域を一部に含むように流路が形成されている。そして、このチップ部材の流路を分析や反応に使用するに先立ち、一対の櫛歯状電極間に所定の高周波電圧を印加すると、流路内で電極が存在する領域に沿面放電が生じてその部分にプラズマが発生し、その部分の表面が親水化処理されるようになっている。
【特許文献1】特開2001−9463号公報(4−5頁、図1)
【特許文献2】特表2001−507274号公報(10−11頁、Fig.1)
【特許文献3】特開2006−205055号公報(4−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、印加する電圧をパルス波形の先行する一方の極性の持続時間を水分子の双極子モーメントの応答に合わせて比較的長く、それに続く他方の極性への反転時間を分極磁場の保存のため、比較的短い時間で急峻に変化するような非対称波形にすることが必要であり、そのような複雑な電圧波形を作るには電源装置が大型化するといった問題があった。
【0007】
特許文献2に記載の発明では、細い電線或いは鋭い先端を有する電極を用い、極性が交互に変わるデューティ比0.01以下のパルス電圧を印加しなければならず、構造及び運転方法が複雑であるといった問題があった。また、このような構造では水に浸した電極から放電が発生するため、電極表面の腐食や消耗、それに伴う水への溶出(汚染)も問題となっていた。
【0008】
本発明の目的は、簡易な構成で、気相、液相、又は固相の浄化や改質を可能とした放電装置及び放電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の放電装置は、
交流電源と、
前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、
前記電極のうち一方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体と前記他方の電極との間に液体が介在し、
前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体間をその周囲の気体を介して放電させることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の放電方法は、
交流電源と、前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、前記電極のうち一方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体と前記他方の電極との間に液体が介在するようにした放電装置を用意し、
前記放電装置の前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体との間をその周囲の気体を介して放電させるようにしたことを特徴としている。
【0011】
このような構成を有することで、液体と誘電体(固相)との間の気相でコロナ放電が発生し、液相、周囲の気相、放電部近傍の固相の浄化や改質が可能となる。また、交流電源を用いれば良いので装置が簡易な構成となる。
【0012】
また、本発明の放電装置の他の態様は、
交流電源と、
前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、
前記双方の電極の少なくとも一部の領域がそれぞれ誘電体で覆われ、該誘電体同士の間に液体が介在し、
前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体間をその周囲の気体を介して放電させることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の放電方法の他の態様は、
交流電源と、前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、前記電極のうち双方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体同士の間に液体が介在するようにした放電装置を用意し、
前記放電装置の前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体との間をその周囲の気体を介して放電させるようにしたことを特徴としている。
【0014】
このような構成を有することで、液体と誘電体(固相)との間の気相で生じるコロナ放電をより広い領域で発生させることができ、広範囲での液相、周囲の気相、放電部近傍の固相の浄化や改質が可能となる。また、交流電源を用いれば良いので装置が簡易な構成となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、簡易な構成で、液相と誘電体(固相)との間の気相で放電を発生させて、気相、液相、又は固相の浄化や改質を可能とした放電装置及び放電方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態及びその実施例に係る放電装置及び放電方法について図面に基づいて説明する。ここで、図1は、本発明の第1の実施形態に係る放電装置の概略的な構成を示す概念図であり、図2は図1に示した放電装置の作用を説明するための概念図である。なお、これらの図においては、構成の理解の容易化を図るために断面ハッチングを省略している(以下、他の図も同様とする)。
【0017】
本発明の第1の実施形態に係る放電装置100は、交流電源101と、交流電源101の各端部に接続された電極102,103とを有し、これら電極102,103のうち、一方の電極102が誘電体105で覆われ、この誘電体105と他方の電極103との間に液体として水Wが介在している。そして、交流電源101を介して各電極102,103に印加される電圧によって、水Wが電極103と同電位になり、電極102との間に電位差が生じるため、誘電体105と水Wとが接触する部分において誘電体105と水Wとの間をその周囲の空気Aを介して放電させるようになっている(図1の点線で示す放電AD(Atmospheric discharge)参照)。なお、交流電源101には、高圧交流電源が用いられている。
【0018】
誘電体に覆われていない電極103は、水Wと少なくとも一部が接していれば、どのような形態でも良い。
【0019】
水Wは純水に限らず、水道水、汚水等どのような水でも良い。また、水以外の液体でも良い。空気Aも同様に、純空気に限らず、臭気物質や汚染物質、水蒸気を含んだ空気でも良く、また、空気以外の気体でも良い。なお、図1及び図2は本発明の本質的構成を示す概念図であるため、一方の電極102を覆う誘電体105と他方の電極103との間に水Wを図示するように介在させる具体的手段については示していないが、これを具体化した態様については第1の実施形態の後述する変形例で明らかにする。
【0020】
続いて、このような構成を有する放電装置100を用いた放電方法について説明する。この放電方法を実施するに当って、最初に放電装置100の交流電源101を介して各電極間に交流電圧を印加する。これによって、一方の電極102を覆った誘電体105と水Wの水面とが接する部分において、図2に示すようにこの接する部分の周囲の空気Aを介して放電が生じる(図2の点線で示す放電AD参照)。この放電により、例えば気体が空気や酸素の場合、酸素の一部がオゾン(O)や酸素原子(O)、スーパーオキサイドアニオン(O)等反応性に富んだ物質(活性種と呼ぶ)になる。また、液体が水の場合、それらの活性種が水と反応したり、或いは水分子が直接放電の作用を受け、ヒドロキシラジカル(・OH)や過酸化水素(H)等の活性種も生成される。それらの活性種は気相に漂ったり、液相に溶け込んだりして、気相、液相の物質を酸化(分解)や殺菌をし、気相、液相の浄化、改質が可能となると考えられる。また、気相や液相に含まれている臭気物質や汚染物質、黴菌が放電の作用を直接受け、他の物質に変化したり、殺菌をし、気相、液相の浄化、改質が行われることもあると考えられる。
【0021】
また、気体が空気の場合、放電により窒素酸化物(NOx)が生成し、それらが液(水)に溶け込むことで硝酸(HNO)になり、水が酸性水になる(水のpHが下がる)効果も期待できる。
【0022】
気相が空気、液相が水以外の場合でも、それらを形成する分子が放電により解離され、反応性に富んだ物質(例えばラジカル)となり、気相、液相の浄化、改質が可能となる。
【0023】
更に放電部近傍の誘電体(固相)も放電の作用を直接受けたり、気相や液相で生成した活性種により、付着している物質(例えば汚れ)が除去(浄化)されたり、表面が親水化等の改質をされる効果もある。
【0024】
このようにして、液相と誘電体(固相)との間の気相で発生する放電により、液相、気相、又は固相の浄化や改質が可能となる。
【0025】
また、水に浸した電極103から放電することはないので、電極表面の腐食や消耗、それに伴う液体への溶解(液体の汚染)を避けることができる。
【0026】
続いて、上述した第1の実施形態に係る放電装置100の第1変形例について説明する。図3は、図1に示した放電装置100の第1変形例に係る放電装置110を概略的に示す概念図である。なお、上述の第1の実施形態に係る放電装置100と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。また、この変形例に係る放電装置110の各構成要素の材質等については、上述の第1の実施形態に係る放電装置100と同様であるので、その詳細な説明を省略する。
【0027】
この第1変形例に係る放電装置110は、第1の実施形態に係る放電装置100とは異なり、一方の電極112が誘電体115で全体的に覆われておらず、他方の電極113と対向する面であってその両端部を除く領域のみが誘電体115で覆われている。そして、この一方の電極112の誘電体115と他方の電極113との間に水Wが介在している。なお、この変形例においても水Wを電極間に介在させる具体的手段については図示省略する。
【0028】
このような一方の電極112を全て誘電体115で覆わない簡単な構成によっても第1の実施形態に係る放電装置100と同等の作用効果を生じる。
【0029】
具体的には、高圧交流電源からなる交流電源111を介して放電装置110の各電極112,113に交流電圧を印加することで、一方の電極112の一部を覆う誘電体115と水Wとが接触する部分において誘電体115との水Wとの間に空気Aを介して放電を生じさせ(図3における点線で示す放電AD参照)、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0030】
続いて、本発明の第1の実施形態の第2変形例について説明する。図4は図1に示した放電装置100の第2変形例に係る放電装置120を概略的に示す側方断面図であり、図1に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。なお、上述の第1の実施形態及びその第1変形例に係る放電装置100,110と同等の構成については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
この第2変形例に係る放電装置120は、第1の実施形態に係る放電装置100をより実際の使用態様に適した形で具現化した変形例である。この第2変形例に係る放電装置120は、水Wが容器124内に溜められ、誘電体125で覆われた一方の電極122の一部と、誘電体で周囲が覆われていない他方の電極123の一部が水Wに浸されている。第2変形例に係る放電装置120がこのような構成を有していても、上述した第1の実施形態及びその第1の変形例と同等の作用効果を発揮することができる。
【0032】
具体的には、高圧交流電源からなる交流電源121を介して各電極122,123に交流電圧を印加することで、一方の電極122の一部を覆う誘電体125と水Wの水面とが接触する部分において誘電体125との水Wとの間に空気Aを介して放電を生じさせる(図4における点線で示す放電AD参照)。この放電によって、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、このような作用効果に加えて、水面に接した空気Aに漂っている活性種によって容器124の水面から突出した容器内壁124aの酸化や殺菌が行われ、容器内壁124aを浄化や改質することができる。また、水中に溶け込んだ活性種やHNOにより水中の容器内壁124bを酸化や殺菌して、容器内壁124bも浄化や改質をされることが期待できる。その結果、この変形例による放電装置120を用いることで、容器内124の水Wや空気A、誘電体125の改質や浄化を行うだけでなく、容器内壁124a,124bの容器内壁の浄化も期待できる。
【0034】
続いて、本発明の第1の実施形態の第3変形例について説明する。図5は、図1に示した放電装置の第3変形例を概略的に示す放電装置130で、図5(a)は装置上面図、図5(b)は装置側方断面図であり、図1に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。なお、上述の実施形態及びその各種変形例と同等の構成については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0035】
この第3変形例に係る放電装置130は、上述の第2変形例に係る放電装置120と類似しているが、水Wを溜める容器134それ自体が誘電体からなり、高圧交流電源からなる交流電源131に接続された一方の電極132の一部が容器130に溜まった水Wに浸されると共に、容器134の側壁外周に他方の電極133が備わっている。第3変形例に係る放電装置130がこのような構成を有することで、容器134が電極133に密着した誘電体としての役目を果す。
【0036】
このような構成によって、容器134の周囲と水Wとが接する部分で空気Aを介して放電するため、上述した容器内の水Wや空気A、誘電体134、即ち反応容器内部の改質、浄化が可能となる。
【0037】
続いて、本発明の第2の実施形態に係る放電装置について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態に係る放電装置200の概略的な構成を示す概念図である。なお、上述の実施形態及びその各変形例と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。この第2の実施形態に係る放電装置200は、図1に示した第1の実施形態に係る放電装置100と基本的構成が共通するが、高圧交流電源からなる交流電源201の両端に接続された電極202,203の双方が誘電体205,206で完全に覆われている点で構成が異なっている。なお、図6は本発明の本質的構成を示す概念図であるため、誘電体205と誘電体206との間に水Wを図示するように介在させる具体的手段については示していないが、これを具体化した態様については第2の実施形態の後述する変形例で明らかにする。
【0038】
このように電極202,203をそれぞれ誘電体205,206で覆うことで、交流電源201の両端に接続された各電極202,203に交流電圧を印加すると、水Wの電位が電極202と203の間の電位となり、電極202と水Wとの間、及び電極203と水Wとの間に電位差が生じるため、各誘電体205,206と水Wが接する部分において誘電体205,206と水Wとの間で空気Aを介して放電を生じさせる(図6の点線で示す放電AD参照)。
【0039】
第2の実施形態に係る放電装置200がこのような構成を有することで、水Wと誘電体205,206との間であって空気Aを介して生じる放電の箇所をより増やすことができ、短時間の放電によってより多くの活性種を発生させ、それらにより、或いは放電により直接、液相、気相、固相の浄化、改質を行うことができ、より効率良く浄化、改質を進めることができる。
【0040】
続いて、第2の実施形態の第1変形例に係る放電装置について説明する。図7は、図6に示した放電装置200の第1変形例に係る放電装置210を概略的に示す概念図である。なお、上述の第1及び第2の実施形態並びに第1の実施形態の各種変形例に係る放電装置と同等の構成については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。また、この変形例においても水Wを電極間に介在させる具体的手段については図示省略する。
【0041】
この第1変形例に係る放電装置210は、図3に示す第1の実施形態の第1変形例に係る放電装置110に対応した構成を有しているが、双方の電極212,213の一部にそれぞれ誘電体215,216が密着した状態で備わり、各誘電体間に水Wが介在する構成を有することで第1の実施形態の第1変形例110と構成が異なっている。この第1変形例に係る放電装置210によっても、上述した第2の実施形態に係る放電装置200と同様に2つの誘電体215,216と水Wとがそれぞれ接する部分で両者間に空気Aを介してより広い領域で放電(図7の点線で示す放電AD参照)を生じさせることができるので、液相、気相、固相の浄化、改質をより効率良く進めることができる。
【0042】
続いて、第2の実施形態の第2変形例に係る放電装置について説明する。図8は、図6に示した放電装置200の第2変形例に係る放電装置220を示す側方断面図であり、図6に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。なお、この変形例に係る放電装置220は、上述の第1の実施形態の第2変形例に係る放電装置120に対応した構成を有しているので、同等の構成については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
この第2の実施形態の第2変形例に係る放電装置220は、第1の実施形態の第2変形例に係る放電装置120とは異なり、双方の電極222,223が誘電体225,226で覆われ、この双方の誘電体225,226の一部がそれぞれ容器224に溜まった水Wに浸されている。この第2変形例に係る放電装置220がこのような構成を有することで、上述の第2の実施形態及びその第1変形例に係る放電装置200,210と同様に、誘電体225,226と水Wとの間で空気Aを介して生じさせる放電の領域を広めることができ(図8における点線で示す放電AD参照)、第1の実施形態の第2変形例に係る放電装置120に比べて液相、気相、固相の浄化、改質をより効率良く進めることができる。
【0044】
続いて、第2の実施形態の第3変形例に係る放電装置について説明する。図9は、図6に示した放電装置200の第3変形例230を示す図であり、図6に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。そして、図9(a)が装置上面図、図9(b)が装置側方断面図である。なお、上述の第1、第2実施形態及びその各種変形例と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
この第3変形例に係る放電装置230は、図9(b)に示すように高圧交流電源からなる交流電源231の両端に接続された電極232,233が、誘電体からなる容器234の側壁外側であって周方向に端部232a,233a(図9(a)参照)が互いに若干離間した位置に密着させて取り付けられている。端部232aと233aの間は、電極232と233の間で沿面放電が発生するのを防ぐために、絶縁体236で絶縁している。なお、端部232aと233aが十分離れている場合等、電極232と233の間で沿面放電が起こらない場合は、絶縁体236は必ずしも必要ではない。また、人等が電極に接触する危険を防ぐために、電極232と233の外周全体を絶縁体で覆っても良い。
【0046】
この第3変形例に係る放電装置230の各電極232,233が容器周方向をそれぞれ略半分程度覆う構成を有することで、図9(a)の放電ADに示すように容器内壁234aの接液部全体に亘って放電を生じさせることができるようになる。これによって、容器内の広い領域に亘って放電を生じさせることができるようになるので、液相、気相、固相、即ち反応容器内部の浄化、改質をより効率良く進めることができる。
【0047】
続いて、上述した第2の実施形態の第3変形例の更なる変形例について説明する。なお、この第3変形例と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。この更なる変形例に係る放電装置230’は、上述した図9に示す第3変形例の放電装置230と基本的構成が共通するが、ここでは詳細には示さない傾斜アクチュエータを特別に有しており、図10(b)に示すように一方の電極232’に対応する容器内壁部の接水面積が他方の電極233’に対応する容器内壁部の接水面積より小さくなるようにしている。
【0048】
本発明では液相を電極とみなすことができ、液相と電極の間の誘電体をコンデンサとみなすことができる。図10のように容器234’を積極的に傾けることで、一方の電極232’と水Wとの間で形成されるコンデンサの静電容量が、他方の電極233’と水Wとの間で形成されるコンデンサの静電容量よりも小さくなる。これによって、静電容量の小さい一方の電極232’側で水Wとの電位差を大きくできるので、電極232’側で容器内壁と水Wの接触する部分の近傍であって容器234’と水Wとの間に空気Aを介して放電を生じさせることができる(図10(a),(b)の放電AD参照)。
【0049】
その結果、各電極232’,233’が接続される交流電源231’の電圧を上述した第2の実施形態及びその変形例のように高くしなくて済む。即ち、第1の実施形態及びその各変形例に係る放電装置の交流電源と同程度の交流電源で放電を生じさせることができるようになる。
【0050】
続いて、上述した第2の実施形態の第4変形例について説明する。図11は、図6に示した放電装置200の第4変形例に係る放電装置240を示し、図11(a)が放電装置240の管路長手方向から見た端面図、図11(b)が放電装置240の斜視図である。なお、上述した各実施形態及びその各種変形例と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0051】
この第4変形例に係る放電装置240は、上述した各放電装置とは異なり、誘電体でできた管路244と、管路244の側方外周壁244aであって管路半径方向にそれぞれ対向して密着状態で取り付けられた2つの電極242,243と、電極242,243に交流電圧を印加する高圧交流電源からなる交流電源241を備えている。そして、交流電源241を介して電極242,243に交流電圧を印加することで、図11(a)に示すように各電極242,243に対応する管路244と流れている水Wとの間に空気Aを介して放電を生じさせる(図10(a)における放電AD参照)。
【0052】
誘電体からなる管路244は、図11(b)に示すように、一方から水Wが流入し、他方に水Wが流出するようになっているので、この放電によって生じる活性種によって、或いは放電により直接、流れている液相、気相、固相即ち管路244の内壁の浄化、改質をすることができる。
【0053】
続いて、上述した第2の実施形態の第4変形例に係る放電装置240の更なる変形例に係る放電装置240’について説明する。図12は、図11に示した第4変形例の更なる変形例に係る放電装置240’を示す図11(a)に対応する端面図である。この更なる変形例に係る放電装置240’について第4の実施形態に係る放電装置240と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0054】
この更なる変形例に係る放電装置240’は、図10に示した第3変形例に係る放電装置240と基本的に同等の構成を有するが、図10に示す第3変形例の更なる変形例と同様に特別なアクチュエータを備えている。このアクチュエータは、図12では詳細には示さないが、管路244’を軸線廻りに回転させる回転アクチュエータであり、この回転アクチュエータで管路244’の外周壁に密着した一方の電極242’に対応する管路244’の接水面積を他方の電極243’に対応する管路244’の接水面積よりも小さくさせる。
【0055】
この回転アクチュエータの作用によって、一方の電極242’と水Wとの間に形成されるコンデンサの静電容量が他方の電極243’と水Wとの間で形成されるコンデンサの静電容量よりもかなり小さくなる。これによって、一方の電極242’と水Wとの電位差を大きくできるので、電極242’に対応する管路244’と水Wとの接触部において空気Aを介して放電が起こり易くなる(図12における放電AD参照)。
【0056】
この更なる変形例がこのような構成を有することで、上述した第2の実施形態の第3変形例の更なる変形例と同様に第1の実施形態及びその変形例に用いた交流電源と同程度の小型の交流電源で放電を効率的に起こさせることができる。
【実施例】
【0057】
続いて、上述した実施形態及びその各種変形例に関連して本発明の有用性を立証する評価試験を行ったので、その評価試験結果を説明する。
【0058】
最初に、図13に評価試験結果を示す第1実施例について説明する。この第1実施例では、本発明を実施するにあたって上述した第2実施形態の第2変形例に係る放電装置220(図8参照)に対応する放電装置を用い、ヨウ化カリウム(KI)の酸化反応を行った。ヨウ素イオン(I)は酸化されると黄色のIを生成する。
【0059】
この評価試験の条件としては、図8の容器224に相当する容器に0.1mol/LのKI水溶液200mlを入れ、電圧を印加した。電圧印加中、水溶液は撹拌子を用いて撹拌した。酸化した量は、生成物のIの濃度を可視紫外分光光度計(測定波長355nm)で測定して把握した。なお、放電装置の概略スペックとしては、誘電体として厚さ0.5mmのガラスを用い、放電部をなす電極の長さを20mmとし、印加した交流電圧は、周波数を5kHzの正弦波で、18.8kVp−pとした。
【0060】
図13に示す評価試験結果から分かるように、電極に交流電圧を印加することでヨウ化カリウムの酸化反応が経時的に進み、本発明の放電装置によって液相での物質の酸化が可能なことが立証できた。
【0061】
続いて、図14に評価試験結果を示す第2実施例について説明する。この第2実施例では、本発明を実施するにあたって、上述した第2実施形態の第4変形例に係る放電装置240(図11参照)を用いて測定データを取り、水を流した状態でヨウ化カリウム(KI)の酸化反応を行った。
【0062】
この評価試験の条件としては、0.1mol/LのKI水溶液を図14に相当する放電装置に流し、反応後のI濃度を可視紫外分光光度計で測定した。放電装置の概略スペックは、誘電体として厚さ1mmのガラスを用い、放電部をなす電極の長さを250mmとし、印加した交流電圧は、周波数を28kHzの正弦波で、6.4kVrmsとした。
【0063】
図14に示す評価試験結果から分かるように、電極に交流電圧を印加することで、ヨウ化カリウムの酸化反応が進み、本発明の放電装置によって液相での物質の酸化が可能なことが立証できた。
【0064】
続いて、図15に評価試験結果を示す第3実施例について説明する。この第3実施例では、本発明を実施するにあたって、上述した第2実施形態の第3変形例に係る放電装置230(図9参照)を用いて測定データを取り、有機塩素化合物の分解を行った。
【0065】
この評価試験の条件としては、2mmol/Lの有機塩素化合物(クロロベンゼン)水溶液2.5mlを図9に相当する放電装置に入れて電圧を印加し、分解生成物の塩素イオン(Cl)濃度をイオンクロマトグラフィシステムで測定した。放電装置の概略スペックは、誘電体として厚さ1mm、内径14mmのガラス容器を用い、印加した交流電圧は、周波数を28kHzの正弦波で、交流電圧を6.4kVrmsとした。
【0066】
図15に示す評価試験結果から分かるように、電極に交流電圧を印加していくことでクロロベンゼンが分解され、本発明の放電装置によって液相での分解が可能なことが立証できた。
【0067】
以上の3つの評価試験結果から分かるように、本発明による放電装置を用いた放電方法を実施すると、気相での放電で生成して液相に溶け込んだ活性種や、液相へ放電が直接作用することにより、液相での酸化や分解反応が進むことが立証でき、液相と誘電体(固相)との間の気相で発生する放電により、気相のみならず、その周辺(液相や固相)も作用を受けることが示された。
【0068】
以上説明したように、本発明によると、簡易の構成で液相と誘電体(固相)との間の気相で放電を発生させて、気相、液相、固相の浄化、改質を可能とした放電装置及び放電方法を提供することができる。
【0069】
なお、上述した各実施形態及びその変形例で使用する電極の材料は、導体であれば何れでも良く、例えば金属であれば銅、アルミニウム、チタンやそれらの合金等の何れも使用でき、非金属であっても、使用する液体よりも電気伝導度が低いものであれば、例えば導電性のセラミックスや樹脂等でも使用可能である。
【0070】
また、電極に印加する電圧は、周波数や誘電体の材質、厚さにもよるが、300Vから300kVが良く、好ましくは1kVから100kV、より好ましくは3kVから30kVが良い。
【0071】
交流電源の電圧波形は、正弦波や矩形波、のこぎり波等、どのような波形でも良く、極性が正極や負極に偏った波形にしても良い。
【0072】
交流電源の周波数は、電圧や誘電体の材質、厚さにもよるが、50Hzから1MHzが良く、好ましくは100Hzから500kHz、より好ましくは1kHzから100kHzが良い。
【0073】
また、交流電源の最大電位と最小電位の中間の電位から最大電位及び最小電位に変化するまでの時間、及び、最大電位及び最小電位から中間の電位に変化するまでの時間は、50n秒から5m秒が良く、好ましくは500n秒から5m秒、より好ましくは2.5μ秒から5m秒が良い。
【0074】
交流電源のデューティ比は0.01から0.99が良く、好ましくは0.1から0.9、より好ましくは0.2から0.8が良い。即ち放電を起こすために、意図的に特殊な電圧波形を作る必要がなく、そのため装置の大型化を避けられ、製造コストも安価で済む。
【0075】
また、上述した各実施形態及びその変形例で使用する誘電体としての材料として、アルミナ等の非導電性のセラミックス、又はガラス、樹脂等の材料を使用しても良い。
【0076】
誘電体の厚さは用いる材料や交流電源の電圧、周波数にもよるが、0.1μmから10mmが良い。
【0077】
液体の容器又は流路は全体を誘電体で構成されても良く、或いは容器又は流路の少なくとも一部、即ち液面近傍を誘電体で構成されても良い。
【0078】
また、上述した各実施形態及びその変形例で使用する、安全面や電極間での放電を防止するために用いる絶縁体の材料としては、樹脂や絶縁性のセラミックス、ガラス等絶縁性を有していればどのような材料でも使用可能である。
【0079】
また、本発明における液体の種類としては、上述した実施形態では液体として水を用いたが、純水や水道水や汚水等の水の他、有機溶媒や油等、どのような液体を用いても良い。
【0080】
上述した各実施形態及びその変形例では気体として通常の空気を用いたが、臭気物質等不純物を含んだ空気や、空気に限らず、酸素、窒素、水蒸気、ヘリウム等如何なる気体であっても良い。
【0081】
また、第2の実施形態の第2変形例、第3変形例の更なる変形例のような特別なアクチュエータを備えることなく、単に一方の電極側の静電容量を他方の電極側の静電容量より小さくしても、一方の電極側においてのみ放電を生じさせることができ、小型の交流電源を用いた簡単な構成の放電装置とすることが可能となる。この場合の電極と液体との間に生じる電位差の変化のさせ方は、2つのコンデンサを構成する、各電極に対応する誘電体と水との接触面積をそれぞれ異なるようにしたり、各誘電体の誘電率をそれぞれ異なるようにしたり、各誘電体の厚みをそれぞれ異なるようにしたり何れの方法をとることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は水処理プラントや水処理装置等における浄水処理や排水処理、液体の工業的な製造、脱臭や気体清浄機、気体の工業的な製造、配管や排水口、液体が接する装置内壁の汚れ付着防止や洗浄等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る放電装置の概略的な構成を示す概念図である。
【図2】図1に示した放電装置の作用を説明する概念図である。
【図3】図1に示した放電装置の第1変形例を示す図1に対応する概念図である。
【図4】図1に示した放電装置の第2変形例を示す図1に対応する側方断面図であり、図1に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。
【図5】図1に示した放電装置の第3変形例を示す図1に対応する平面図(図5(a))及び側方断面図(図5(b))であり、図1に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る放電装置の概略的な構成を示す概念図である。
【図7】図6に示した放電装置の第1変形例を示す概念図である。
【図8】図6に示した放電装置の第2変形例を示す側方断面図であり、図6に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。
【図9】図6に示した放電装置の第3変形例を示す平面図(図9(a))及び側方断面図(図9(b))であり、図6に比べてより実際の使用形態に近づけた構成を示している。
【図10】図9に示した第3変形例の更なる変形例であり、図10(a)が図9(a)に対応する平面図で、図10(b)が図9(b)に対応する側方断面図である。
【図11】図6に示した放電装置の第4変形例を示し、図11(a)が装置の管路長手方向から見た端面図、図11(b)が放電装置の斜視図である。
【図12】図11に示した第4変形例の更なる変形例を示す図11(a)に対応する端面図である。
【図13】本発明の有用性を立証するための第1変形例の評価試験結果である。
【図14】本発明の有用性を立証するための第2変形例の評価試験結果である。
【図15】本発明の有用性を立証するための第3変形例の評価試験結果である。
【符号の説明】
【0084】
100 放電装置
101 交流電源
102,103 電極
105 誘電体
110 第1の実施形態の第1変形例に係る放電装置
111 交流電源
112,113 電極
115 誘電体
120 第1の実施形態の第2変形例に係る放電装置
121 交流電源
122,123 電極
124 容器
124a,124b 容器内壁
125 誘電体
130 第1の実施形態の第3変形例に係る放電装置
131 交流電源
132,133 電極
134 容器
200 第2の実施形態に係る放電装置
201 交流電源
202,203電極
205,206 誘電体
210 第2の実施形態の第1変形例に係る放電装置
212,213 電極
215,216 誘電体
220 第2の実施形態の第2変形例に係る放電装置
221 交流電源
222,223 電極
224 容器
225,226 誘電体
230 第2の実施形態の第3変形例に係る放電装置
231 交流電源
232,233 電極
232a,233a 端部
234 容器
234a 容器内壁
236 絶縁体
230’ 第2の実施形態の第3変形例の更なる変形例
231’ 交流電源
232’,233’ 電極
234’ 容器
236’ 絶縁体
240 第2の実施形態の第4変形例に係る放電装置
241 交流電源
242,243 電極
244 管路
244a 側方外周壁
244b 管路内壁
240’ 第2の実施形態の第4変形例の更なる変形例に係る放電装置
241’ 交流電流
242’,243’ 電極
244’ 管路
A 空気
W 水
AD 空中放電

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と、
前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、
前記電極のうち一方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体と前記他方の電極との間に液体が介在し、
前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体間をその周囲の気体を介して放電させることを特徴とする放電装置。
【請求項2】
交流電源と、
前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、
前記双方の電極の少なくとも一部の領域がそれぞれ誘電体で覆われ、該誘電体同士の間に液体が介在し、
前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体間をその周囲の気体を介して放電させることを特徴とする放電装置。
【請求項3】
交流電源と、前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、前記電極のうち一方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体と前記他方の電極との間に液体が介在するようにした放電装置を用意し、
前記放電装置の前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体との間をその周囲の気体を介して放電させるようにしたことを特徴とする放電方法。
【請求項4】
交流電源と、前記交流電源の各端部に接続された電極とを有し、前記電極のうち双方の電極の少なくとも一部の領域が誘電体で覆われ、該誘電体同士の間に液体が介在するようにした放電装置を用意し、
前記放電装置の前記誘電体と液体の液面とが接する部分において該誘電体と液体との間をその周囲の気体を介して放電させるようにしたことを特徴とする放電方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−22885(P2009−22885A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188762(P2007−188762)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】