説明

故障診断システム

【課題】絶えず信号処理が実行される信号処理装置においても、入力された信号の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断することができる故障診断システムを得る。
【解決手段】同種の複数のセンサと、対象となる機器の動作状態を検出する各種センサ4と、複数のセンサの各々に対応して設けられ、検出された動作状態に基づいて複数のセンサから出力されたセンサ信号の受信感度をそれぞれ調整し、調整後センサ信号を出力する複数の感度調整部12と、複数の感度調整部12の故障の有無を診断する故障診断部14とを備え、故障診断部14は、複数の感度調整部12から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部12から出力された調整後センサ信号の所定区間における最大値との差異が所定量よりも大きい場合に、故障診断対象の感度調整部12の故障状態を検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力された信号の受信感度(変換率)を調整する感度調整部の故障の有無を診断する故障診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全への要求の高まりや、燃料枯渇の問題等を受けて、自動車業界においてもこれらのことに対する対応が急務となっている。そこで、対応策として、例えば内燃機関の効率を最大限に引き上げようとする技術が多く提案されている。
【0003】
このような技術の1つとして、内燃機関の燃焼状態を検出しつつ、検出された燃焼状態に応じて内燃機関をフィードバック制御することにより、内燃機関の効率を最大化しようとするものがある。なお、内燃機関の燃焼状態を検出する手段としては、可燃混合気の燃焼によって発生するイオンを、イオンセンサでイオン電流として検出し、検出されたイオン電流に基づいて燃焼状態を判断するものが一般的に知られている。
【0004】
ここで、イオン電流は、内燃機関の燃焼状態や各種環境の変化によって非常に繊細に変化するものであり、かつ信号の変化量が大きい。したがって、イオン電流信号を、例えばA/D(Analog to Digital)変換器を介してマイクロコンピュータに取り込み、デジタル的に処理するような信号処理装置では、A/D変換器のダイナミックレンジの制約によって大きな信号が欠損したり、A/D変換器の分解能の制約によって小さな信号が欠損したり、微小な変化が捉えられなかったりといった問題が発生する。
【0005】
そこで、上記の問題を解決するために、信号処理装置において、イオン電流信号を取り込むインタフェース部に、信号を適切な大きさに変換する感度調整部を設けることが知られている。なお、イオン電流信号を処理する信号処理装置に限らず、他の信号処理装置であっても、同様に感度調整部を設けることが一般的である。
【0006】
このような、イオン電流信号を適切な大きさに変換して受信感度を調整する感度調整部として、従来から、2つの抵抗器と1つのスイッチング素子とで構成された感度調整部が知られている(例えば、特許文献1参照)。この感度調整部は、スイッチング素子を切り替えて、何れの抵抗器を介してイオン電流信号を伝達するかを選択することにより、イオン電流信号の大きさを変換して受信感度を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−248831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の感度調整部においては、スイッチング素子が正常に動作しなければ、イオン電流信号の受信感度を調整することができない。そのため、信号処理装置としてはイオン電流信号の受信感度を調整しているつもりであっても、実際には受信感度が調整されておらず、適切な信号処理を実行できなくなる場合が考えられる。そこで、感度調整部のスイッチング素子が正常に動作して、イオン電流信号の受信感度が所望の感度に調整されているか否かを診断すること、すなわち感度調整部の故障の有無を診断することが必要となる。
【0009】
ここで、感度調整部の故障の有無を診断する手段としては、特定のタイミングで既知の信号を感度調整部に入力し、感度調整部から出力された信号が所望の値になっているか否かを確認するものが一般的に知られている。しかしながら、この手段は、絶えず信号処理が実行される信号処理装置には適用することができない。つまり、感度調整部に既知の信号を入力するタイミングが取れない、すなわち故障診断処理を割り込ませることができない信号処理装置には、この手段を適用することができないという問題がある。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、絶えず信号処理が実行される信号処理装置においても、入力された信号の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断することができる故障診断システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る故障診断システムは、互いに同等の環境下に設けられた同種の複数のセンサと、対象となる機器の動作状態を検出する動作状態検出部と、複数のセンサの各々に対応して設けられ、検出された動作状態に基づいて、複数のセンサから出力されたセンサ信号の受信感度をそれぞれ調整し、調整後センサ信号を出力する複数の感度調整部と、複数の感度調整部の故障の有無を診断する故障診断部と、を備え、故障診断部は、複数の感度調整部から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部から出力された調整後センサ信号の所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい場合に、故障診断対象の感度調整部の故障状態を検出するものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る故障診断システムによれば、故障診断部は、複数の感度調整部から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部から出力された調整後センサ信号の所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい場合に、故障診断対象の感度調整部の故障状態を検出する。
そのため、絶えず信号処理が実行される信号処理装置においても、入力された信号の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断することができる故障診断システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る故障診断システムを含む内燃機関の点火制御装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける感度調整部の回路構成を、イオン電流検出部およびA/D変換器とともに示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける故障診断部の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける点火信号およびデジタル電流信号を示すタイミングチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける故障診断結果を示すトレンドグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明に係る故障診断システムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。なお、以下の実施の形態では、この故障診断システムが、内燃機関の各気筒に設けられたイオンセンサからのイオン電流信号の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断する場合について説明する。しかしながら、これに限定されず、この故障診断システムは、各気筒に設けられたノックセンサからのノック信号や筒内圧センサからの筒内圧信号等の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断するものであってもよい。
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る故障診断システムを含む内燃機関の点火制御装置を示すブロック構成図である。図1において、内燃機関の点火制御装置は、エンジンコントロールユニット1(以下、「ECU(Engine Control Unit)1」と略称する)、点火コイル装置2、点火プラグ3(点火装置)および各種センサ4(運転状態検出部)から構成されている。なお、点火コイル装置2および点火プラグ3は、内燃機関の各気筒に設けられているが、図1では、それぞれ1つずつ示している。
【0016】
ECU1は、各種信号の入出力を司る制御装置であり、信号制御部11、感度調整部12、A/D変換器13、故障診断部14および燃焼状態診断部15(信号処理部)を有している。なお、感度調整部12およびA/D変換器13は、点火コイル装置2および点火プラグ3と対応して、内燃機関の各気筒に設けられているが、図1では、それぞれ1つずつ示している。
【0017】
ここで、信号制御部11、故障診断部14および燃焼状態診断部15は、CPU(Central Processing Unit)とプログラムを格納したメモリとを有するマイクロプロセッサ(図示せず)で構成されており、これら各ブロックは、メモリにソフトウェアとして記憶されている。なお、故障診断部14および燃焼状態診断部15を総称して診断部16とする。
【0018】
点火コイル装置2は、ECU1および点火プラグ3に接続されており、火花放電を発生させるための高電圧を点火プラグ3に印加する。また、点火コイル装置2は、イオン電流を検出するためのバイアス電圧を点火プラグ3に印加するとともに、検出したイオン電流をECU1に出力する。点火コイル装置2は、1次巻線21aおよび2次巻線21bからなる高電圧発生部21およびイオン電流検出部22(センサ)を有している。
【0019】
点火プラグ3は、内燃機関の各気筒に設けられており、燃焼室内の可燃混合気に着火するための火花放電を発生させる火花放電機能を有している。また、点火プラグ3は、可燃混合気の燃焼によって発生するイオンを検出し、イオン電流として出力するイオン検出プローブ機能も有している。各種センサ4は、ECU1に接続されており、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)を検出してECU1に出力する。
【0020】
以下、上記構成の内燃機関の点火制御装置の各部の機能について説明する。
信号制御部11は、燃焼状態診断部15からの燃焼状態診断結果(後述する)および各種センサ4で検出された内燃機関の運転状態等に基づいて、点火コイル装置2を動作させるための指示信号である点火信号を生成して高電圧発生部21に出力する。高電圧発生部21は、信号制御部11からの点火信号に応じて高電圧を発生し、この高電圧を点火プラグ3に印加する。
【0021】
具体的には、点火信号がハイ(High)状態になると、一端がバッテリ(図示せず)に接続された1次巻線21aに1次電流の通電が開始され、高電圧発生部21がエネルギーの蓄積を始める。続いて、点火信号がハイ状態からロー(Low)状態に切り替わる点火タイミングで1次電流が遮断され、相互誘導作用により、一端が点火プラグ3に接続された2次巻線21bに、例えば30kV程度の高電圧が発生する。
【0022】
点火プラグ3は、高電圧発生部21から印加された高電圧により、点火プラグ3の電極とグランド(GND)との間で絶縁破壊による火花放電を発生させ、燃焼室内の可燃混合気の着火および燃焼を引き起こす。このとき、イオン電流検出部22は、この火花放電に伴って、可燃混合気の燃焼により発生するイオンを検出するためのバイアス電圧(例えば100V程度の一定電圧)を生成し、火花放電終了後に点火プラグ3に印加する。
【0023】
点火プラグ3は、電極とグランドとの間にバイアス電圧が印加されることにより、可燃混合気の燃焼によって発生するイオンを検出し、イオン電流としてイオン電流検出部22に出力する。イオン電流検出部22は、点火プラグ3から出力されたイオン電流を検出し、電流増幅した後に、この電流増幅されたイオン電流をイオン電流信号(センサ信号)として感度調整部12に出力する。
【0024】
感度調整部12は、イオン電流検出部22からのイオン電流信号を適切な大きさに変換して受信感度を調整する。この発明の実施の形態1においては、感度調整部12は、電流信号であるイオン電流信号を電圧信号に変換するとともに、この変換率を制御することによって、イオン電流信号の大きさを変換している。A/D変換器13は、感度調整部12からの電圧信号(調整後センサ信号)をアナログ信号からデジタル信号に変換(A/D変換)して、デジタル電圧信号を故障診断部14に出力する。
【0025】
図2は、この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける感度調整部12の回路構成を、イオン電流検出部22およびA/D変換器13とともに示すブロック図である。図2において、感度調整部12は、入力に対して並列にそれぞれ一端が接続された2つの抵抗器121、122と、抵抗器122の他端にコレクタが接続されたトランジスタ123とから構成されている。なお、抵抗器121の他端およびトランジスタ123のエミッタは接地されている。また、トランジスタ123は、診断部16からベースに入力される感度調整信号(後述する)に応じてオンオフするスイッチング素子として用いられる。
【0026】
トランジスタ123がオフ(OFF)状態、すなわちトランジスタ123のベース電位がロー(Low)状態である場合には、イオン電流信号は、抵抗器121を介してグランド(GND)帯に流れる。これに対して、トランジスタ123がオン(ON)状態、すなわちトランジスタ123のベース電位がハイ(High)状態である場合には、イオン電流信号は、抵抗器121と、抵抗器122およびトランジスタ123とを介してグランド(GND)帯に流れる。
【0027】
例えば、イオン電流検出部22からのイオン電流信号の電流値が1mA、抵抗器121、122の抵抗値がそれぞれ4kΩ、1kΩ、トランジスタ123の動作時のコレクタ−エミッタ間電圧Vceが0.1Vであるとする。このとき、トランジスタ123がオフ状態である場合には、A/D変換器13に出力される電圧信号の電圧値は4Vとなり、トランジスタ123がオン状態である場合には、A/D変換器13に出力される電圧信号の電圧値は0.88Vとなる。したがって、同じイオン電流信号に対して、A/D変換器13での読み値を変化させることができ、イオン電流信号の受信感度が調整される。
【0028】
ここで、A/D変換器13のダイナミックレンジが0〜5Vである場合、感度調整部12は、電圧信号がA/D変換される際に切り捨てられる信号成分が出ることを防止するために、イオン電流信号を0〜5Vの適切な電圧信号に変換する必要がある。また、例えば内燃機関が高回転状態である場合には、イオン電流が大きくなることが知られている。そのため、イオン電流信号を電圧信号に変換する際に、電圧値の最大値が5Vを超える状態になり易いか否かを、内燃機関の回転数と対応づけて、実験等によってあらかじめ知ることができる。
【0029】
そこで、診断部16は、各種センサ4で検出された内燃機関の回転数に基づいて、内燃機関が高回転状態である(回転数が所定回転数よりも大きい)場合に、トランジスタ123のベース電位がハイ(High)状態になるように感度調整信号を出力して、感度調整部12の感度が低下するように調整する。また、診断部16は、内燃機関が高回転状態でない(回転数が所定回転数以下である)場合に、トランジスタ123のベース電位がロー(Low)状態になるように感度調整信号を出力して、感度調整部12の感度が向上するように調整する。
【0030】
なお、診断部16は、各種センサ4で検出された内燃機関の負荷等に基づいて、トランジスタ123のオンオフを制御する感度調整信号を出力してもよい。このように、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に基づいて、あらかじめ得られた実験結果を用いて、イオン電流信号から電圧信号に変換する際の変換率を変更することにより、A/D変換器13において、電圧信号がA/D変換される際に切り捨てられる信号成分が出ることを防止して、電圧信号の電圧値を適切に読み取ることができる。
【0031】
図1に戻って、故障診断部14は、A/D変換器13からのデジタル電圧信号を用いて、感度調整部12がイオン電流信号の受信感度を適切に所望の感度に調整しているか否か、すなわち感度調整部12の故障の有無を診断して、故障診断結果を燃焼状態診断部15に出力する。
【0032】
故障診断部14の詳細な故障診断方法については後述するが、例えば、故障診断部14は、複数の感度調整部12から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部12から出力された調整後センサ信号の所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい場合、または所定量よりも大きい状態が所定頻度以上発生した場合に、故障診断対象の感度調整部12の故障状態を検出する。
【0033】
ここで、何れの気筒についても感度調整部12の故障が発生しておらず、故障診断部14からの故障診断結果が良好である場合には、燃焼状態診断部15は、A/D変換器13から出力されたデジタル電圧信号をそのまま用いて燃焼状態を診断し、燃焼状態診断結果を信号制御部11に出力する。このとき、信号制御部11は、燃焼状態診断部15からの燃焼状態診断結果に基づいて、各種アクチュエータを制御し、燃焼状態が最適状態になるようにフィードバック制御やクローズドループ制御を実行する。
【0034】
一方、故障診断部14からの故障診断結果に基づいて、特定の気筒について意図通りにイオン電流信号の受信感度が調整されず、感度調整部12の故障が発生していると判断された場合には、燃焼状態診断部15は、燃焼状態の診断を停止し、このことを燃焼状態診断結果として信号制御部11に出力する。このとき、信号制御部11は、各種アクチュエータのフィードバック制御やクローズドループ制御を禁止し、オープンループでの制御に切り替えて内燃機関を制御する。
【0035】
なお、故障診断部14は、一部の気筒について意図通りにイオン電流信号の受信感度が調整されていないと診断した場合には、当該気筒についてのデジタル電圧信号を、デジタル的に適切な値に補正してもよい。故障診断部14においては、イオン電流信号の受信感度が、既知である所望の感度に調整されているか否かが診断されることから、入力されたデジタル電圧信号を、所望の感度のものにソフトウェア的に変換することができる。
【0036】
この場合、故障診断部14は、故障診断結果を異常として燃焼状態診断部15に出力するものの、この補正後のデジタル電圧信号を燃焼状態診断部15に出力し、燃焼状態診断部15は、この補正後のデジタル電圧信号をそのまま用いて燃焼状態を診断する。これにより、信号制御部11によるフィードバック制御やクローズドループ制御が継続されることとなる。
【0037】
しかしながら、デジタル電圧信号の補正は、デジタル的に離散化されたデータを補正することとなるので、細部の情報が欠落している可能性が考えられる。したがって、このような場合には、データの信頼性が低下していることを示すフラグを立てておくことにより、補正後のデジタル電圧信号を用いるか否かの判断を、後段の処理に任せることができるようになる。
【0038】
続いて、図3のフローチャートを参照しながら、この発明の実施の形態1に係る故障診断システムにおける故障診断部14の動作について説明する。故障診断部14は、デジタル電圧信号の最大値等、信号のレベルを示すパラメータに基づいて、感度調整部12の故障の有無を診断するものである。なお、ここでは、気筒の数が4つである場合について説明する。
【0039】
まず、故障診断部14は、故障診断処理を実行することができる条件が満たされているか否かを判定する(ステップS1)。
例えば、燃料カット中である、多重点火を実施中である、信号経路が断線している、過渡中である、点火プラグ3の電極とグランド(GND)との間にリーク経路がある、点火カット中である、というような場合には、実行条件が満たされていないとして、後述するように、故障診断処理を実行しないものとする。
【0040】
ステップS1において、実行条件が満たされている(すなわち、Yes)と判定された場合には、故障診断部14は、感度調整部12で設定された変換率を用いて、A/D変換器13からのデジタル電圧信号をデジタル電流信号に変換するとともに、ローパスフィルタ等を用いて、デジタル電流信号からノイズ成分を除去する(ステップS2)。
【0041】
続いて、故障診断部14は、ステップS2で得られたデジタル電流信号において、点火プラグ3の点火タイミングから所定時間経過後までの区間Pにおける電流最大値Aを求める(ステップS3)。
【0042】
ここで、図4のタイミングチャートを参照しながら、ステップS3における故障診断部14の処理について具体的に説明する。図4において、横軸は時刻を示している。また、図4の上段は、信号制御部11から高電圧発生部21に入力される点火信号を示し、下段は、ステップS2で得られたデジタル電流信号を示している。
【0043】
上述したように、点火信号がハイ(H)状態になると(時刻t1)、1次巻線21aに1次電流の通電が開始される。次に、点火信号がハイ状態からロー(L)状態に切り替わる点火タイミング(時刻t2)で1次電流が遮断され、2次巻線21bに高電圧が発生する。続いて、この高電圧を用いた点火プラグ3の火花放電による可燃混合気の燃焼によって、デジタル電流信号に示したようなイオン電流が発生する。
【0044】
このとき、故障診断部14は、点火タイミング(時刻t2)から所定時間経過後(時刻t3)までの区間P(時刻t3−t2)における、デジタル電流信号の電流最大値Aを求める。なお、区間Pは、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じたマップ値として、マイクロプロセッサのメモリに記憶しておくとよい。
【0045】
図3に戻って、次に、故障診断部14は、気筒毎に得られた電流最大値Aに対して、点火イベント毎に平均化、平滑化処理を実行し、平滑化値Bを算出する(ステップS4)。
具体的には、故障診断部14は、例えば移動平均を利用して、次式(1)に示されるように平滑化処理を実行する。なお、式(1)において、B[cyl]nは、時刻nの点火イベントにおけるある気筒の平滑化値Bを示すものである。また、αは0.9程度の値を見込んでいる。
【0046】
[cyl]n=B[cyl]n−1×α+A×(1−α) ・・・(1)
【0047】
続いて、故障診断部14は、時刻nの点火イベントにおいて気筒毎に得られた平滑化値Bを各気筒で比較し、次式(2)に示されるように、時刻nの点火イベントにおける各気筒の平滑化値Bの中央値を選択し、比較値Cとして格納する(ステップS5)。なお、式(2)において、Cは時刻nの点火イベントにおける比較値Cを示すものである。また、B[cyl1〜cyl4]nは、時刻nの点火イベントにおける各気筒の平滑化値Bをまとめて示すものである。
【0048】
=median(B[cyl1〜cyl4]n) ・・・(2)
【0049】
例えば、時刻nの点火イベントにおいて、第1気筒から得られた平滑化値BがB[cyl1]n=100μA、第2気筒から得られた平滑化値BがB[cyl2]n=30μA、第3気筒から得られた平滑化値BがB[cyl3]n=101μA、第4気筒から得られた平滑化値BがB[cyl4]n=102μAである場合、比較値CはC=100μAとなる。
【0050】
次に、故障診断部14は、感度調整部12の故障の有無を診断するために、時刻nの点火イベントにおけるある気筒の平滑化値B(B[cyl]n)に係数D(後述する)を乗算した値が、時刻nの点火イベントにおける比較値C(C)よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。
【0051】
ステップS6において、平滑化値Bに係数Dを乗算した値が比較値Cよりも大きい(すなわち、Yes)と判定された場合には、故障診断部14は、感度調整部12の故障の有無を診断するために、時刻nの点火イベントにおけるある気筒の平滑化値B(B[cyl]n)が、時刻nの点火イベントにおける比較値C(C)に係数Dを乗算した値よりも小さいか否かを判定する(ステップS7)。
【0052】
ここで、係数Dは、感度調整部12で設定された変換率に応じて決められることが望ましい。例えば、図2に示した感度調整部12の例では、受信感度が高い側は、受信感度が低い側に対して、イオン電流信号の大きさが約4倍も異なるので、係数Dはこの半分程度の2としておくとよい。また、内燃機関の運転状態によって平滑化値Bのばらつきが異なるので、このばらつきの差による誤判定を防止するために、係数Dを、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じて決まる変数、またはマップ値として、マイクロプロセッサのメモリに記憶してもよい。
【0053】
ステップS7において、平滑化値Bが比較値Cに係数Dを乗算した値よりも小さい(すなわち、Yes)と判定された場合には、故障診断部14は、当該気筒の感度調整部12が故障している可能性が低いと判断し、次式(3)に示されるように、時刻nの点火イベントにおける当該気筒のカウンタCNTを1つ減算する(ステップS8)。なお、式(3)において、CNT[cyl]nは、時刻nの点火イベントにおける当該気筒のカウンタCNTを示すものである。
【0054】
CNT[cyl]n=CNT[cyl]n−1−1 ・・・(3)
【0055】
一方、ステップS6において、平滑化値Bに係数Dを乗算した値が比較値C以下である(すなわち、No)と判定された場合、またはステップS7において、平滑化値Bが比較値Cに係数Dを乗算した値以上である(すなわち、No)と判定された場合には、故障診断部14は、当該気筒の感度調整部12が故障している可能性があると判断し、次式(4)に示されるように、時刻nの点火イベントにおける当該気筒のカウンタCNTを2つ加算する(ステップS9)。
【0056】
CNT[cyl]n=CNT[cyl]n−1+2 ・・・(4)
【0057】
ここで、カウンタCNTは、内燃機関の各気筒に設けられており、当該気筒の感度調整部12が故障している可能性がある場合にはカウントアップし、当該気筒の感度調整部12が故障している可能性が低い場合にはカウントダウンするものである。
【0058】
続いて、故障診断部14は、ステップS8で減算、またはステップS9で加算されたカウンタCNTを、所定の上下限値Eでクリップする(ステップS10)。
具体的には、故障診断部14は、カウンタCNTを例えば下限値0でクリップし、上限値10でクリップする。このとき、クリップの上限値を大きくすると、当該気筒の感度調整部12が故障していないと診断される状態(正常状態)に復帰しにくくなり、より安全側の設定とすることができる。
【0059】
なお、カウンタCNTのカウントアップ量およびカウントダウン量は、別々の量に設定できるようにするとよい。この発明の実施の形態1において、故障診断部14は、ステップS8またはステップS9で示したように、カウントアップ量を2とし、カウントダウン量を1としている。これにより、当該気筒の感度調整部12が故障していると診断されやすく、正常状態に復帰しにくくなるようなヒステリシスが設定される。
【0060】
また、カウントアップ量およびカウントダウン量、またはクリップの上下限値は、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じて決まる変数、またはマップ値として、マイクロプロセッサのメモリに記憶されてもよい。
【0061】
次に、故障診断部14は、当該気筒の感度調整部12の故障の有無を最終的に診断するために、ステップS10でクリップされた時刻nの点火イベントにおける当該気筒のカウンタCNT(CNT[cyl]n)が、任意に設定される比較値Fよりも大きいか否かを判定する(ステップS11)。
【0062】
なお、この発明の実施の形態1において、比較値Fは、わかりやすいように5程度の値に設定するが、内燃機関の運転状態(回転数や負荷等)に応じて決まる変数、またはマップ値として、マイクロプロセッサのメモリに記憶されてもよい。
【0063】
ステップS11において、カウンタCNTが比較値Fよりも大きい(すなわち、Yes)と判定された場合には、故障診断部14は、当該気筒の感度調整部12が故障している、つまり意図通りにイオン電流信号の受信感度が調整されていないと診断し、この旨を故障診断結果として出力して(ステップS12)、図3の処理を終了する。
【0064】
一方、ステップS11において、カウンタCNTが比較値F以下である(すなわち、No)と判定された場合には、故障診断部14は、当該気筒の感度調整部12が故障していないと診断し、この旨を故障診断結果として出力して(ステップS13)、図3の処理を終了する。
【0065】
また一方、ステップS1において、実行条件が満たされていない(すなわち、No)と判定された場合には、故障診断部14は、時刻nの点火イベントにおける各気筒の平滑化値B(B[cyl1〜cyl4]n)を0に設定する(ステップS14)。
【0066】
続いて、故障診断部14は、時刻nの点火イベントにおける各気筒のカウンタCNT(CNT[cyl1〜cyl4]n)を0に設定し(ステップS15)、前回の診断結果を維持して(ステップS16)、図3の処理を終了する。
【0067】
次に、図5のトレンドグラフを参照しながら、図3のステップS4〜ステップS12までの処理について具体的に説明する。図5では、第2気筒の感度調整部12の感度が意図せず低下する故障が発生した場合、すなわち図2に示した感度調整部12の例において、トランジスタ123のベース電位をロー(Low)状態にする感度調整信号が出力されているにもかかわらず、ベース電位がハイ(High)状態になる故障が発生した場合について説明する。
【0068】
図5の横軸は、各点火イベントの発生する時刻を示し、左縦軸は、各時刻の点火イベントにおける各気筒の平滑化値B、および各時刻における各気筒の平滑化値Bの中央値である比較値Cを示し、右縦軸は、各時刻の点火イベントにおける第2気筒のカウンタCNTを示している。
【0069】
図5において、時刻0の時点で第2気筒の感度調整部12に故障が発生したとすると、ここから徐々に第2気筒の平滑化値B(B[cyl2])が、他の気筒の平滑化値B(B[cyl1、3、4])から離れていくことが分かる。続いて、時刻3において、各気筒の平滑化値Bは、B[cyl1、2、3、4]3=[100μA、54μA、104μA、101μA]となり(ステップS4)、比較値Cは、C=101μAとなる(ステップS5)。
【0070】
このとき、図3のステップS6において、係数D=2とすると、101<54×2となるので、Yesと判定されてステップS7に進み、さらにステップS7において、101×2>54となるので、Yesと判定されてステップS8に進む。また、ステップS8において、カウンタCNTが1つ減算されるが、ステップS10において、カウンタCNTの下限値が0でクリップされるので、時刻3における第2気筒のカウンタCNTは、CNT=0となる。
【0071】
時間が進み、時刻4において、各気筒の平滑化値Bは、B[cyl1、2、3、4]3=[104μA、48μA、102μA、107μA]となり(ステップS4)、比較値Cは、C=103μAとなる(ステップS5)。このとき、図3のステップS6において、係数D=2とすると、103>48×2となるので、Noと判定されてステップS9に進み、カウンタCNTが2つ加算されて、時刻4における第2気筒のカウンタCNTは、CNT=2となる。以後、同様にして第2気筒のカウンタCNTは増加していく。
【0072】
ここで、故障診断用の比較値FをF=5と設定すると、時刻6の時点でステップS11における判定がYesとなってステップS12に進み、故障診断部14は、第2気筒の感度調整部12が故障していると診断して、この旨を故障診断結果として出力することができる。
【0073】
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、故障診断部は、複数の感度調整部から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部から出力された調整後センサ信号の所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい場合に、故障診断対象の感度調整部の故障状態を検出する。
そのため、絶えず信号処理が実行される信号処理装置においても、入力された信号の受信感度を調整する感度調整部の故障の有無を診断することができる故障診断システムを得ることができる。
【0074】
また、入力された信号の受信感度が適切に調整されているか否かを診断することができるので、診断結果に基づいて、適切な処置を実行することができる。
さらに、この発明の実施の形態1に係る故障診断システムは、内燃機関を利用する自動車、二輪車、船外機またはその他の特殊機械等に搭載され、感度調整部の故障の有無を確実に診断することができるので、内燃機関を効率よく運転させることができ、環境保全や燃料枯渇等の問題に役立てることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 ECU、2 点火コイル装置、3 点火プラグ、4 各種センサ(運転状態検出部)、11 信号制御部、12 感度調整部、13 A/D変換器、14 故障診断部、15 燃焼状態診断部(信号処理部)、16 診断部、21 高電圧発生部、21a 1次巻線、21b 2次巻線、22 イオン電流検出部(センサ)、121 抵抗器、122 抵抗器、123 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同等の環境下に設けられた同種の複数のセンサと、
対象となる機器の動作状態を検出する動作状態検出部と、
前記複数のセンサの各々に対応して設けられ、検出された前記動作状態に基づいて、前記複数のセンサから出力されたセンサ信号の受信感度をそれぞれ調整し、調整後センサ信号を出力する複数の感度調整部と、
前記複数の感度調整部の故障の有無を診断する故障診断部と、を備え、
前記故障診断部は、前記複数の感度調整部から出力されたそれぞれの調整後センサ信号の所定区間における最大値に基づいて算出される比較値と、故障診断対象の感度調整部から出力された調整後センサ信号の前記所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい場合に、前記故障診断対象の感度調整部の故障状態を検出する
ことを特徴とする故障診断システム。
【請求項2】
前記動作状態検出部は、車両に設けられた内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出部であり、
前記運転状態は、前記内燃機関の回転数および負荷の少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の故障診断システム。
【請求項3】
前記複数のセンサは、内燃機関の各気筒に設けられ、燃焼室内での可燃混合気の燃焼によって発生するイオンを検出するイオンセンサである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の故障診断システム。
【請求項4】
前記故障診断部は、前記故障診断対象の感度調整部の故障診断処理が困難であると判断される場合には、前記故障診断処理を実行しない
ことを特徴とする請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の故障診断システム。
【請求項5】
前記調整後センサ信号を処理して所望の情報を得る信号処理部をさらに備え、
前記信号処理部は、前記故障診断部により、前記複数の感度調整部の一部が故障していると診断された場合に、前記調整後センサ信号の処理を停止する
ことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の故障診断システム。
【請求項6】
前記調整後センサ信号を処理して所望の情報を得る信号処理部をさらに備え、
前記故障診断部は、前記複数の感度調整部の一部が故障していると診断した場合に、前記調整後センサ信号を補正した補正センサ信号を生成して前記信号処理部に出力し、
前記信号処理部は、前記補正センサ信号を処理して所望の情報を得る
ことを特徴とする請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の故障診断システム。
【請求項7】
前記故障診断部は、前記比較値と、前記故障診断対象の感度調整部から出力された調整後センサ信号の前記所定区間における最大値との差異が、所定量よりも大きい状態が所定頻度異常発生した場合に、前記故障診断対象の感度調整部の故障状態を検出する
ことを特徴とする請求項1から請求項6までの何れか1項に記載の故障診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−67682(P2012−67682A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213420(P2010−213420)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】