説明

散乱体の吸収情報計測方法及び装置

【課題】 種々の形状の散乱体内部の特定吸収成分の濃度変化や絶対値などの計測を実現し、その計測精度を大幅に改善するとともに、それらの時間変化や空間分布を効率良く計測することができる散乱体内部の吸収情報の計測方法および計測装置を提供すること。
【解決手段】 散乱体に所定の変調周波数成分をもつ変調光を入射し、散乱体内部を伝播した変調光を受光して測定信号を取得し、その測定信号から前記変調周波数成分の信号を検出し、前記変調周波数成分の信号の振幅、および位相の変調角周波数に対する傾きを求め、前記振幅と前記位相の変調角周波数に対する傾きと吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて第1次情報である吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は散乱体の吸収情報計測方法および装置に関し、詳しくは、再入射不可能な表面をもつ散乱体における吸収成分の濃度の時間変化や空間分布を計測する方法および装置、さらには複数波長の光を利用して散乱体内部の吸収成分の濃度を計測する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体のような散乱体内部の特定吸収成分の濃度、さらにはその時間変化や空間分布などの吸収情報を非侵襲で精密に測定したいという要請は非常に強く、現在までに連続光(cw光)や変調光(例えばパルス光、方形波光、正弦波変調光など)を用いる方法、さらに波長の異なる光を利用する方法(多波長分光)など、種々の方法が試みられている。
【0003】
ところが、これらの従来技術では、生体のように種々の形をした組織や器官、あるいは同じ組織や器官であっても形状に個体差がある対象物などについて、内部の特定吸収成分の濃度を正確に計測することが可能な方法や装置は未だ開発されていない。このことは、光を利用した生体の非侵襲計測の大きな問題であり、その改善が強く望まれている。
【0004】
生体などの散乱体に入射された光は、散乱吸収されながら内部を伝搬し、その一部が表面に出てくる。そして、散乱体の外部は、普通、空気であるため、表面に出た光は自由空間を散逸する。散乱体の内部情報計測では、上記のようにして表面に出てくる光を検出する。このとき、伝搬光は散乱体の全域に広がり、表面全体から外部に散逸する。したがって、表面の特定の位置で出力光を検出する場合、媒体の形状が変わると、例えば球であるか直方体であるかなどによって、検出光の量や時間波形が大きく異なることになる。
【0005】
以上のような場合の計測精度を高めるには、散乱体内部の光の挙動をよく理解する必要がある。最近では、散乱体内部の光の挙動はコンピュータによるモンテカルロシミュレーションで解析、実験、検討されている。また光拡散理論 (Photon Diffusion Theory) によってある程度正確に記述、解析できることが知られている。ところが、モンテカルロシミュレーションは極めて長い計算時間が必要であり、かつ、その結果から散乱体内部の特定吸収成分の濃度などを算出することができない。さらに、光拡散理論を利用する場合には、光拡散方程式を解くときに境界条件を設定する必要がある。しかし、この境界条件は散乱体の形状に大きく依存するため、正確な計測を行うためには、散乱体の形状が変わるたびに、新たな境界条件を設定して光拡散方程式を解くことが必要になる。また、境界条件をある程度正確に設定できる散乱体は、無限空間、半無限空間、無限円柱、無限にひろがる有限厚さのスラブなど、極めて単純な形状のものに限定される。この結果、形状が単純でない生体組織などの計測では、近似した境界条件を用いることが不可欠となり、これが大きな計測誤差を生じる原因となる。
【0006】
以上のような問題点は、例えば下記非特許文献1でも議論されている。
【0007】
以上に述べたように、形状の異なる散乱体に対して統一的に適用できる吸収情報の計測法には未だ充分なものはなく、形状の異なる散乱体に対して従来技術で統一的に内部の特定吸収成分の濃度などを正確にかつ効率良く計測することは極めて困難であった。
【非特許文献1】AlbertCerussi et al."The Frequency Domain Multi-Distance Method in the Presenceof Curved Boundaries"、in BiomedicalOptical Spectroscopy and Diagnostics、1996、TechnicalDigest(Optical Society ofAmerica、Washington DC、1996)pp.24-26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、形状の異なる散乱体内部の光の挙動を記述する方法(基本関係式)を新たに開示し、この関係を利用して種々の形状の散乱体内部の特定吸収成分の濃度変化や絶対値などの計測を実現し、その計測精度を大幅に改善するとともに、さらにはそれらの時間変化や空間分布を効率良く計測することができる散乱体内部の吸収情報の計測方法および計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0010】
また、本発明の第2の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の余弦成分、および正弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記余弦成分と、前記正弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0011】
さらに、本発明の第3の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の振幅、および位相の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記振幅と、前記位相の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0012】
さらにまた、本発明の第4の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の位相、および振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記位相と、前記振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングでおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0013】
そして、上記本発明の方法においては、上記のように求められた前記吸収係数の差を用いて、この吸収係数の差と、吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数と、吸収成分の濃度の差との間の所定の関係に基づいて吸収成分の濃度の差を定量することが可能である。
【0014】
また、本発明の方法においては、複数の波長を有する変調光を用いてもよい。すなわち、本発明の第5の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0015】
また、本発明の第6の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の余弦成分、および正弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記余弦成分と、前記正弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0016】
さらに、本発明の第7の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の振幅、および位相の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記振幅と、前記位相の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0017】
さらにまた、本発明の第8の散乱体の吸収情報計測方法は、(a)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射し、(b)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得し、(c)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、(d)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の位相、および振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きを求め、(e)前記位相と、前記振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、ことを特徴とする、医療行為を除く方法である。
【0018】
そして、複数の波長を有する変調光を用いる上記本発明の方法においては、上記のように求められた前記吸収係数の差を用いて、この吸収係数の差と、前記波長のそれぞれに対する吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数と、吸収成分の濃度との間の所定の関係に基づいて、吸収成分の濃度を定量することが可能である。また、前記の測定信号は、前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光した複数の測定信号であってもよい。
【0019】
本発明の第1の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0020】
また、本発明の第2の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の余弦成分、および正弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記余弦成分と、前記正弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0021】
さらに、本発明の第3の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の振幅、および位相の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記振幅と、前記位相の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0022】
さらにまた、本発明の第4の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の位相、および振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記位相と、前記振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングでおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0023】
そして、上記本発明の装置の前記第2の演算部においては、上記のように求められた前記吸収係数の差を用いて、この吸収係数の差と、吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数と、吸収成分の濃度の差との間の所定の関係に基づいて吸収成分の濃度の差を演算することが可能である。
【0024】
また、本発明の装置は、複数の波長を有する変調光を用いるものであってもよい。すなわち、本発明の第5の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0025】
また、本発明の第6の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の余弦成分、および正弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記余弦成分と、前記正弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0026】
さらに、本発明の第7の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の振幅、および位相の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記振幅と、前記位相の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0027】
さらにまた、本発明の第8の散乱体の吸収情報計測装置は、(i)測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射する光入射部と、(ii)測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得する光検出部と、(iii)前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、(iv)前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の位相、および振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、(v)前記位相と、前記振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、ことを特徴とする装置である。
【0028】
そして、複数の波長を有する変調光を用いる上記本発明の装置の第2の演算部においては、上記のように求められた前記吸収係数の差を用いて、この吸収係数の差と、前記波長のそれぞれに対する吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数と、吸収成分の濃度との間の所定の関係に基づいて吸収成分の濃度を定量することが可能である。また、前記光検出部は、前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光することが可能な受光部を備えていてもよく、この場合、前記測定信号として前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光した複数の測定信号を用いることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の散乱体の吸収情報計測方法および装置によれば、再入射不可能な面からなる任意の形状の散乱体内部の吸収成分の濃度変化あるいは絶対濃度を効率良く計測することが可能となる。また、本発明によれば、前記濃度変化の空間分布、濃度の時間変化や空間分布を計測することができる。さらに、本発明の方法および装置においては変調光を利用していることから光の利用率が高く、かつ信号対雑音比が大きくなり、高い計測精度が得られる。したがって、本発明の方法および装置によれば、脳内酸素量、運動中の人の脚の筋肉の中の酸素量、立ち木などの吸収成分の濃度などのリアルタイム計測を高精度にかつ効率良く行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(本発明の原理)
先ず、本発明の原理について説明する。なお、以下に述べる知見は本発明者によって初めて開示されるものである。
【0031】
生体組織の中の各種の成分は、ミクロに見れば不均一に混在、つまり局在している。しかし、医学、生物学的見地から生体組織の分光分析を考えた場合、複雑な生体組織をマクロ的に見たときの光学的特性、つまり平均値として計測される計測値から、生体組織内に含有される特定成分を定量することで十分な場合が多い。このような考え方は線形システム理論におけるブラックボックスのインパルス応答やシステム関数に見られる。以下では均一な散乱体を考え、その表面に光を入射し、散乱体の内部を伝播した光を表面の他の位置で受光して測定信号を得て、その測定信号から内部に含まれる吸収成分の濃度などを定量することを考える。この場合、散乱体の外形は再入射不可能な表面をもつもの、つまり媒体から出た拡散光が再び媒体に入射することがない任意の形状の媒体を考える。また、入射する光は任意の時間波形をもつものを考える。この場合、任意の時間波形の入射光は、フーリエ変換原理から明らかなように、種々の周波数で変調された光の重ね合わせで表されるから、以下では周波数面で議論することとし、任意の変調周波数の入射光を考える。
【0032】
図1は、検出された光子が散乱体あるいは散乱吸収体の内部を伝播した飛跡の例を示す。光は散乱成分によって強く散乱され、光子の光路はジグザグに折れ曲がる。この時、ジグザグな飛行距離に対してベア・ランバート則(Lambert-Beer's low)が成立し、伝播光の強度はジグザグな飛行距離(累積距離)に対して指数関数的に減衰する。つまり、媒体中の光速度をc、飛行時間をtとすれば、飛行距離(光路長)はl=ctとなり、吸収係数をμaとしたとき光子の生存率はexp(-cμat)となる。光(光ビーム)を位置Pから入射して位置Qで検出すると、種々の光路を通過した光子が検出されるが、それらの総和である検出光量、つまり生存率はexp(-cμat)に比例する。
【0033】
したがって、散乱体にインパルス光を入射したときの光出力h(t)、つまりインパルス応答は次のようになる。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、Jはインパルス応答つまり出力光、s(μs,t)は吸収係数がμa=0のときの応答(つまり、散乱のみがあるときの応答)、指数項exp(-cμat)は吸収係数μaによる減衰を表す項である。いずれの関数もt<0のときゼロとなる時間因果関数である。また、μsは散乱係数である。
【0036】
インパルス応答h(t)のフーリエ変換はシステム関数を表す。インパルス応答h(t)が時間因果関数であることを考慮し、(1.1)式のフーリエ変換を考えると、次のようなシステム関数H(ω)が導出される。
【0037】
【数2】

【0038】
ここで、R(cμa,ω)とX(cμa,ω)はそれぞれ実部と虚部、またA(cμa,ω)とφ(cμa,ω)はそれぞれ振幅と位相を表す。なお、位相遅れは位相の符号を変えたものである。
【0039】
つぎに、(1.1)式を(2)式に代入して整理すると、複素関数論でコーシー−リーマン(Cauchy-Riemann)の関係式とよばれる次の関係式が成立することがわかる。
【0040】
【数3】

【0041】
さらに、(3.1)式及び(3.2)式が成立する場合、次の関係が成立することが証明される。
【0042】
【数4】

【0043】
本発明の第一の目的である吸収係数μaの算出は、(3.1)〜(4.2)式の中のいずれの式を利用してもよい。具体的には、これらの式をμaで積分したもの、つまり上記の式から得られる次式を利用することが好ましい。
【0044】
【数5】

【0045】
ただし、(5.1)〜(5.4)式の右辺第2項は積分定数であり、それぞれ、μa=0のときの値を表す。以下、(5.1)〜(5.4)式を用いて測定値から吸収に関する情報を算出する方法を説明する。
【0046】
(吸収成分の濃度変化の計測)
媒体中に1種類の吸収成分が含まれ、その濃度が変化して吸収係数μaがμa1からμa2に変化した場合を考える。変化の前後で(5.1)〜(5.4)式が成立し、かつ変化の前後でs(μs,t)が変化しないものとすれば、変化前後のμa1とμa2とを用いて次式が導出される。
【0047】
【数6】

【0048】
なお、通常の散乱体では、吸収成分の濃度が変化しても、散乱特性は変化しないと考えてよい。これは、丁度、牛乳の中にインクを入れるようなものである。
【0049】
つぎに、平均値定理を用いると(6.1)〜(6.4)式から次式が得られる。
【0050】
【数7】

【0051】
ただし、μxi(i=1,2,3,4)はμa1≦μxi≦μa2またはμa1≧μxi≧μa2なる条件を満たす適宜の値である。
【0052】
以上から、測定に用いる変調光の変調角周波数ω、およびμa=μxiにおける4種のパラメータの傾き∂X/∂ω,∂R/∂ω,∂φ/∂ω,∂lnA/∂ωを知ることができれば、変化の前後のX,R,A,φの値(これらはいずれも観測値から求めることができる)、および媒体の屈折率と光速度で決まるcの値から、変化の前後の吸収係数の差μa2−μa1を算出することができる。
【0053】
以上の場合、上記の4種のパラメータBi(i=1,2,3,4)のμa=μxiにおける傾き∂Bi/∂ω|μxiは、μa1およびμa2における傾きを用いて次のように表すことができる。
【0054】
【数8】

【0055】
ただし、piは0≦pi≦1なる条件を満たす適宜の値である。この場合、Biは単調関数であり、通常はμa1とμa2における傾きがほぼ等しいから、pi=1/2としてよい。
【0056】
さらに、変調角周波数ω1のときの4種のパラメータの傾き∂Bi/∂ω|ω1は、ω=ω1±Δω/2(>0)なる2つの変調角周波数成分をもつ変調光を用いて測定することができる。この関係を式で表せば次のようになる。
【0057】
【数9】

【0058】
したがって、(7.1)〜(7.4)式のそれぞれの傾き∂Bi/∂ωは、(9)式を(8)式に代入してpi=1/2とおいて、次のようになる。
【0059】
【数10】


以上、∂Bi/∂ωを精密に求める方法を説明した。
【0060】
他方、変調周波数が低い場合(例えば、生体などの計測でf=ω/2π=100MHz以下の場合)には、∂φ/∂ω≒φ/ωなる近似が成立することが経験的に知られている。このことは、光拡散方程式を用いて単純な形状をもつ散乱体の応答を解析することによって導出することができる。つまり、半無限媒体やある程度以上の大きさの直方体状の媒体などについて、境界条件を定めて光拡散方程式を解き、(7.1)〜(7.4)式の右辺の傾斜∂Bi/∂ωを求めて、傾斜∂Bi/∂ωの近似式を導出する事ができる。例えば、(7.3)式の関係では∂φ/∂ω≒φ/ωなる近似が成立する。したがって、変調周波数が低い場合は、(7.3)式において∂φ/∂ω≒φ/ωとしてよい。この場合、前記の(7.3)式は次のようになる。
【0061】
【数11】

【0062】
ただし、pは(8)式で用いたものと同様の係数であり、ここでも通常はp=1/2としてよい。なお、前出の(7.1)、(7.2)および(7.4)式に対しても前記と同様にして、各式に対応する近似式をそれぞれ導くことができることは明らかである。
【0063】
また、吸収成分の濃度変化ΔVを算出するには、ベア・ランバート則から導かれる次式を用いる。
【0064】

εΔV=μa2−μa1 (12)

ただし、εは吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数(または消光係数)であり、分光光度計で測定することができる。なお、上記の方法で2種類以上の波長を有する光を用いて2種類以上の吸収成分の濃度の変化を測定することもできる。
【0065】
以上説明したように、(7.1)〜(7.4)式および(12)式から、散乱体内部の吸収成分の濃度変化ΔVを計測する方法が明らかになった。また、波長の異なる変調光を用いて上記の計測を行うこともできる。したがって、測定位置を固定して、散乱体内部の吸収成分の濃度の時間的変化を計測することができる。このような計測は、所定の部位におけるヘモグロビン濃度の時間変化の計測などに応用することができる。
【0066】
(吸収成分の濃度変化あるいは基準値に対する濃度差の空間分布の計測)測定位置を移動あるいは走査させながら前記の計測を行うことによって、散乱体内部の吸収成分の濃度の時間的変化の分布を測定することもできる。また、光入射と受光との位置を相対的に固定したまま、測定位置を計測対象に沿って移動あるいは走査させて計測し、任意の位置での計測値を基準値とすることによって、散乱体内部の吸収成分の濃度の基準値に対する差の分布を計測することもできる。このような計測は、乳ガンの診断を行うための光マンモグラフィーに応用することができる。本発明によるこれらの計測は、再入射不可能な外形をもつ種々の形状の散乱体に適用でき、具体的な応用例として光マンモグラフィーの他に、透視装置、光CT、手術や治療に利用される臨床モニターなどがある。これらの例においては、多箇所での受光、光入射位置や受光位置の走査、時分割計測などの方法が適宜利用される。
【0067】
(特定吸収成分の濃度計測)
つぎに、2つの波長λ1とλ2を有する光の変調光(変調角周波数はω)を用いて計測する場合、つまり2波長分光計測法について説明する。
【0068】
先ず、1種類の吸収成分を含む散乱体の吸収係数が、波長λ1の光に対してμa1、波長λ2の光に対してμa2であるとする。そして、波長λ1とλ2の光に対する媒質の散乱係数が同じであるか、ほぼ等しいものとする。このような条件は、測定に用いる波長を選択することによって、容易に実現される。このようにすると、前出の(5.1)〜(5.4)式から(6.1)〜(6.4)式と同形の式が導出される。ただし、吸収係数μa1とμa2の定義は、(6.1)〜(6.4)式の場合と異なり、ここではμa1およびμa2は波長λ1およびλ2の光に対する被測定媒質の吸収係数を表す。さらに、前出の(7.1)〜(7.4)式と同形の式が得られ、これらの式を用いて被測定媒質の2波長の光に対する吸収係数の差μa2−μa1を求めることができる。
【0069】
特定吸収成分の濃度Vは、波長λ1とλ2の光に対する特定吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数(または消光係数)ε1およびε2を用いて、次式から算出される。
【0070】

V(ε2−ε1)=μa2−μa1 (13)

ただし、ε1およびε2の値は前もって分光光度計で測定することができる。したがって、前出の吸収成分の濃度変化の計測と全く同様にして、吸収成分の絶対濃度Vを計測することができる。
【0071】
また、散乱係数の波長依存性を考慮すると、例えば前記の(6.3)式に対応する式は、波長λ1およびλ2の光に対する被計測媒体の散乱係数μs1およびμs2を用いて次のようになる。
【0072】
【数12】

【0073】
ただし、ここでは∂φ/∂ωの波長依存性は無視してある。また、b2/b1は波長λ1およびλ2における入射光の強度の比であり、A(μs1,0,ω)およびA(μs2,0,ω)はμs=0のときの値である。このようにすると、(7.3)式と同様にして、(14)式から次式が得られる。
【0074】
【数13】

【0075】
ここでも、(7.3)式と同様に、μxはμa1≦μx≦μa2またはμa1≧μx≧μa2なる条件を満たす適宜の値である。この(15)式は、b2/b1=1およびk=1とおけば、前出の(7.3)式に等しい。係数b2/b1は、入射光の強度調整によってb2/b1=1とすることができる。また、光源の強度の実測値からb2/b1の値を推定することもできる。さらに、単純な形状の媒体に対して光拡散方程式を解くと、k=μ's1/μ's2が導出される。但し、μ's1およびμ's2はそれぞれ波長λ1およびλ2における輸送散乱係数である。したがって、(15)式から、特定吸収成分を含む媒体の2波長の光に対する吸収係数の差μa2−μa1が算出される。そしてさらに、(13)式から特定吸収成分の濃度Vを算出することができる。
【0076】
また、上記の2波長分光計測において、2つの位置で出力光を受光する2点計測を行うと、前述した係数b2/b1を消去した関係が得られる。つまり、係数b2/b1が検出位置に依存しないことを利用して、係数b2/b1を消去することができる。さらに、当然ではあるが、以上に述べた方法は、3つ以上の波長を有する光を用いる多波長分光計測に拡張することができる。
【0077】
(吸収成分の濃度の空間分布の計測)
吸収成分の濃度の空間分布の計測は、多箇所で上述のような計測を行うことによって達成される。本発明にかかるこのような計測によれば、再入射不可能な外形をもつ種々の形の散乱体についての計測が可能である。具体的な応用例としては、光マンモグラフィー、透視装置、光CTなどがある。これらの例においては、多箇所での受光、光入射位置や受光位置の走査、時分割計測などの方法が適宜利用される。これらの計測の特長は、既に説明したように、特定吸収成分の濃度の空間分布、被計測媒体の2波長の光に対する吸収係数の差の空間分布、特定吸収成分の濃度の時間的変化の空間分布などが計測できることにある。また、これらの情報は、臨床モニター、診断や解析、手術や治療に利用される。
【実施例1】
【0078】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。ただし、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0079】
実施例1
図2は本発明の方法を実施するための本発明の装置の第1実施例を示すもので、散乱体2の内部の吸収成分の濃度の時間変化を計測する装置1の構成を示す。この装置1の構成では、散乱体2の表面の位置P(光入射位置)に所定の波長λ、変調周波数fの変調光(変調角周波数ω=2πf)を入射し、表面の他の位置Q(光検出位置)で散乱体2の内部を伝播した光を受光する。そして、繰り返し測定を行って散乱体内部の吸収成分の濃度の変化を定量する。この場合、第1回目の計測を行ったときの吸収成分の濃度を基準値にとれば、吸収成分の濃度の変化が定量できる。計測装置1は、一体化されて1つの筐体に収納されている。
【0080】
光源10としてはレーザーダイオードなどを使用し、波長λ、所定の変調角周波数ωの変調光を発生する。この場合、波長は計測すべき散乱体や吸収成分に応じて選択される。生体の計測では、酸化、還元ヘモグロビンや酸化、還元ミオグロビンを計測することが多く、それらの吸収成分の吸収スペクトルを図3に示す。したがって、生体の計測では通常600nm〜1.3μmの光が使用される。また、変調周波数fは1MHz〜1GHzの範囲で適宜に選択する。空間分布を計測する場合には、この変調周波数は高い方がよい。以下では、f=100MHzとする。光源10には、レーザーダイオードの他に発光ダイオード、HeNeレーザーなどを使用することができる。
【0081】
なお、所定角周波数の正弦波変調光は、図4R>4(a)に示すようにレーザーダイオードの電流変調によって発生させる。また、正弦波変調光は、図4(b)や図4(c)に示すように、2台のcwレーザーのビート、あるいは光変調器を利用して発生させることもできる。
【0082】
光源10から発した変調光は光ガイド12を通して計測対象である散乱体2の表面に入射される。光ガイド12と散乱体2の間の空間は、図2の実施例では微小になっている。しかし実際にはこの隙間を広くして、そこに散乱体2とほぼ等しい屈折率と散乱係数をもつ液状体やゼリー状物体(以下、インターフェース材と呼ぶ)を満たしておいてもよい。つまり、変調光はこのインターフェース材の中を伝搬して計測対象に入射するから何ら問題は生じない。また、散乱体の表面反射が問題になるときは、インターフェース材を適宜に選択することによって、表面反射などの影響を低減することができる。
【0083】
散乱体の内部を伝搬した変調光は、前記光入射位置Pから距離rの位置Qに置いた光ガイド13で受光される。ここでも前記と同様の理由によって、インターフェース材を使用してもよい。光検出器14は、前記受光された光の光信号を電気信号に変換し、必要に応じて増幅して、測定信号を出力する。光検出器14としては光電子増倍管の他に、光電管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオードなどを使用することができる。光検出器の選択に際しては、所定波長の光を検出する分光感度特性と必要な時間応答速度をもっていればよい。また、光信号が微弱であるときは、高利得の光検出器を使用する。さらには、光子を計数する時間相関光子係数法を用いてもよい。光検出器の受光面以外の場所は、光を吸収あるいは遮光する構造にしておくことが望ましい。
【0084】
信号検出部15は、前記の測定信号から所定の変調周波数成分の信号を検出する。具体的には、よく知られているモノダイン検波、ヘテロダイン検波、あるいはロックイン検出法などが利用される。この場合、信号検出部15は必要に応じて、光源10から発せられる変調光に同期した信号を利用する。第1の演算部16は、前記所定変調周波数成分の信号から振幅A、および位相φの変調角周波数に対する傾き(微分係数)∂φ/∂ωを演算する。そして以上の計測を繰り返して実行する。ここで、m回目と(m+1)回目の計測を考える。
【0085】
第2の演算部17は、m回目と(m+1)回目の計測で得られた2種の前記振幅AmとAm+1、および2種の前記位相の傾きから求められる位相の傾き∂φ/∂ω|μx3を前出の(7.3)式に代入して、散乱体2の吸収係数の変化量μa(m+1)−μam(第1次情報)を演算し、さらに前出の(12)式を用いて吸収成分の変化量を演算する。
【0086】
このとき、位相の傾き∂φ/∂ω|μx3の算出には、前出の(8)式を用いて、p=1/2として十分な精度が得られる。また、f=100MHzであるから、前述したように∂φ/∂ω≒φ/ωと近似してよい。なお、f>100MHzの場合には、前記変調光を2種の変調角周波数ω=ω1±Δω/2(>0)として計測し、前出の(10)式を用いて、∂φ/∂ω|μx3を算出する。これらの演算処理は、第1および第2演算部に組み込んだマイクロコンピュータなどで高速に実行される。
【0087】
前記第2の演算部17は、このようにして得た吸収成分の濃度情報を記憶する機能をもち、表示記録手段18はこれらを表示あるいは記録するものである。
【0088】
上記では、1つの波長の変調光を用いたが、実際には2つ以上の波長の変調光を利用することもできる。さらに、1つの位置から光を入射し、2つ以上の位置で伝播光を検出することもできる。また、これらは並列あるいは時分割で検出してもよい。
【0089】
散乱体2に光を入射する手段は、図2に示した光ガイド12の代わりに、集光レンズによる方法(図5(a))、光ファイバーを用いる方法(図5(b))、ピンホールを利用する方法(図5(c))、胃カメラのように体内から光を入射する方法(図5(d))などがある。また、太いビーム状の光を散乱体2に入射してもよい。この場合には、複数のスポット状光源が並んでいると考えればよい。
【0090】
散乱体2の内部を拡散伝搬した光を検出する手段としては、図2に示した光ガイド13を用いる方法以外に、直接検出する方法(図6(a))、光ファイバーを用いる方法(図6(b))、レンズを用いる方法(図6(c))などがある。
【0091】
なお、上記第1の演算部16は、前記所定変調周波数成分の信号から振幅A、および位相φの変調角周波数に対する傾き∂φ/∂ωを演算する場合について説明した。しかしここでは、前述したように、前記所定変調周波数成分の信号から、(i)正弦成分と、余弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、(ii)余弦成分と、正弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、あるいは(iii)位相 と、振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾き(微分係数)のいずれの組み合わせを演算してもよい。その場合には、上記実施例1において、「振幅A、位相φの変調角周波数に対する傾き∂φ/∂ω、および(7.3)式」を、(i)「正弦成分、余弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(7.2)式」、(ii)「余弦成分、正弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(7.1)式」、あるいは(iii)「位相、振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(7.4)式」と読み換えればよい。したがって、ここに述べた第1実施例では、(7.1)〜(7.4)式による吸収成分の濃度の変化が定量できる。
【0092】
実施例2
散乱体2に対する変調光の光入射位置Pと光検出位置Qとを同期して走査させた以外は上記実施例1と同様にして計測し、任意の位置での吸収成分の濃度を基準値として、その基準値に対する濃度の差の空間分布を計測することができる。この場合にも、前記実施例1と同様にして、(7.1)〜(7.4)式を用いて、吸収成分の濃度の基準値に対する差の空間分布の計測ができる。
【0093】
図7は本発明の方法を実施するための本発明の装置の第2実施例を示すもので、乳房のような散乱体2の内部の吸収成分の濃度の空間分布を計測する装置1(マンモグラフィー)の構成を示す。図7中では、前記第1実施例にかかる図2に示したものと同じ機能をもつものには同じ記号を用いた。散乱体2の表面に所定の波長λ、変調周波数fの変調光(変調角周波数ω=2πf)を入射し、反対側の表面の位置で散乱体の内部を伝播した光を受光する。この際、変調光の入射位置と光検出位置とを同期して走査させて計測する。そして、例えば、第1の位置(第1の光入射位置および第1の光検出位置)で計測を行ったときの吸収成分の濃度を基準値にとれば、吸収成分の濃度差の空間分布が計測できる。
【0094】
この第2実施例にかかる図7に示す装置1は、散乱体2を平行に軽く挟みつける第1の機構部30を備える。つまり、第1の機構部30によって、乳房のような散乱体2を少し平たく伸して計測することが可能となる。この第1の機構部30には、変調光の入射位置と光検出位置とを同期して走査させるための第2の機構部31が設けてある。そして、この第2の機構部31からは、走査位置を表す位置信号が発せられ、この位置信号は表示記録部18に供給されて、空間分布の表示記録に利用される。また、変調光を発生する光源10の後段には波長選択器11が設けてあり、適宜所望の波長の変調光が選択できるようにしてある。その他の部分は、前記の第1実施例の装置のものと同じである。
【0095】
上記では、1つの波長の変調光を用いたが、実際には2つ以上の波長の変調光を利用することもできる。さらに、1つの光入射位置から光を入射し、2つ以上の光検出位置で同時あるいは時分割で伝播光を検出することもできる。
【0096】
実施例3
図8は本発明の方法を実施するための本発明の装置の第3実施例を示すもので、散乱体2の内部の吸収成分の濃度を計測する装置の構成を示す。図8中では、前記第1実施例にかかる図2および前記第2実施例にかかる図7に示したものと同じ機能をもつものには同じ記号を用いた。この構成では2種類の波長λ1とλ2の変調光と、2種類の光検出距離r1とr2を用いる。この場合、2種類の光検出距離r1とr2における計測に対して、それぞれ先に述べた(15)式が成立する。したがって、(15)式についての2つの式からなる連立方程式から(15)式の中の係数b2/b1を消去して、被計測散乱体2の2波長の光に対する吸収係数の差μa2−μa1を求めることができる。なお、ここでは、散乱係数が等しいかまたは等しいと見なせる異なる2種類の波長の変調光を散乱体に入射するので、前記(15)式中のkはk=1となり、lnkが消去される。また、単純な形状の媒体では、前述したように、k=μ's1/μ's2としてもよい。以上によって、(15)式から特定吸収成分を含む媒体の2波長の光に対する吸収係数の差μa2−μa1が算出され、(13)式に示した関係に基づいて散乱体内部の吸収成分の濃度を定量することができる。
【0097】
光源10としてはレーザーダイオードなどを使用し、異なる2種類の波長λ1とλ2の例えば変調周波数f=100MHzの変調光を発生する。光源10からの変調光は波長選択器11で波長選択され、光ガイド12を通して計測対象である散乱体2の表面に入射される。この場合、2種類の波長の変調光を同時に入射する方法としてもよく、このときには波長選択器11は省略される。
【0098】
光ガイド12と散乱体2との間の空間は、図8の実施例では微小になっている。しかし実際には、第1実施例と同様にこれを広くして、この空間に散乱体2とほぼ等しい屈折率と散乱係数をもつ液状体やゼリー状物体(インターフェース材)を満たしておいてもよい。つまり、変調光はこのインターフェース材の中を伝搬して計測対象に入射するから何ら問題は生じない。また、散乱体の表面反射が問題になるときは、インターフェース材を適宜に選択することによって、表面反射などの影響を低減することができる。
【0099】
散乱体2の内部を伝搬した光は、前記光入射位置から距離r1およびr2の位置(光検出位置)に置いた第1および第2の光ガイド131,132で受光される。ここでも前記と同様の理由によって、インターフェース材を使用してもよい。
【0100】
第1の光検出器141および第2の光検出器142は、前記受光された光の光信号を電気信号に変換し、必要に応じて増幅し、2種類の光検出距離r1とr2における計測に対する測定信号を出力する。光検出器141,142としては、光電子増倍管の他に、光電管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオードなどを使用することができる。光検出器の選択に際しては、所定波長の光を検出する分光感度特性と必要な時間応答速度をもっていればよい。また、光信号が微弱であるときは、高利得の光検出器を使用する。さらには、光子を計数する時間相関光子係数法を用いてもよい。光検出器の受光面以外の場所は、光を吸収あるいは遮光する構造にしておくことが望ましい。また、前述したように散乱体に2種類の波長の変調光を同時に入射する場合には、光検出器141,142と散乱体2との間の適宜の位置に波長選択フィルタ(図示せず)を入れる。
【0101】
信号検出部15および第1の演算部16は、2種類の光検出距離r1とr2での計測に対して得られるそれぞれの前記測定信号に基づいて次のような演算を行う。まず、信号検出部15は、2種類の波長の変調光に対して得られるそれぞれの前記測定信号から、それぞれ所定の変調周波数成分の信号を検出する。この場合、信号検出部15は必要に応じて、光源10から発せられる変調光に同期した信号を利用する。次に、第1の演算部16は、2種類の波長の変調光に対して得られたそれぞれの前記所定変調周波数成分の信号から、それぞれの振幅A、および位相の変調角周波数に対する傾き(微分係数)∂φ/∂ωを演算する。
【0102】
第2の演算部17は、2種類の波長の変調光に対して2種類の光検出距離で得られるそれぞれの前記振幅A、およびそれぞれの前記位相の傾きから求められる位相の傾き∂φ/∂ω|μxを前出の(15)式に代入して、2種類の光検出距離r1とr2での計測に対して得られる2つの式からなる連立方程式を解いて、散乱体2の2種類の波長を有する光に対する吸収係数の差μa2−μa1(第1次情報)を演算し、さらに前出の(13)式を用いて吸収成分の濃度を演算する。位相の傾き∂φ/∂ω|μx3の算出には、前出の(8)式を用いてp=1/2 として十分な精度が得られる。また、f=100MHzであるから、前述したように∂φ/∂ω≒φ/ωと近似してよい。なお、f>100MHzの場合には、前記変調光を2種の変調角周波数ω=ω1±Δω/2(>0)として計測し、前出の(10)式を用いて∂φ/∂ω|μx3を算出する。これらの演算処理は、第1および第2演算部に組み込んだマイクロコンピュータなどで高速に実行される。
【0103】
前記第2の演算部17は、このようにして得た吸収成分の濃度情報を記憶する機能をもち、表示記録手段18はこれらを表示あるいは記録するものである。
【0104】
なお、2種類の波長λ1とλ2の変調光の散乱体2への入射光強度が等しいか、又はこれらが等しくなるように制御できる場合には、第2の光検出器142を省略することができる。この場合、前述の(15)式中の係数b2/b1がb2/b1=1となり、ln(b2/b1)が消去されるから、(15)式から直接、散乱体2の2種類の波長の光に対する吸収係数の差μa2−μa1(第1次情報)を演算し、さらに前出の(13)式を用いて吸収成分の濃度を演算することができる。
【0105】
上記では、一箇所から光を入射し、他の2箇所で光検出する方法について説明した。しかし実際には、2箇所から波長の異なる光を入射し、他の位置で光を並列あるいは時分割で検出してもよい。
【0106】
また、上記の第3実施例では、異なる波長の光を含む光を入射する方法と、異なる波長の光を時分割で入射させて使用する方法とがある。前者の場合には、異なる波長の光を同軸状のビームにして、光入射位置の直前に設けた波長選択フィルタで波長選択する方法、あるいはそのまま散乱体に入射して、光検出器の直前に設けた波長選択フィルタで波長選択する方法、さらにはそれぞれの検出光を2つに分岐して波長選択して合計4個の光検出器で並列に検出する方法などがある。また後者では、光源側にミラーを用いた光ビーム切り換え器、フィルターを用いた波長切り換え器、光スイッチを用いた光切り換え器などを利用することができる。散乱体に光を入射する手段および散乱体の内部を拡散伝搬した光を検出する手段としては、第1実施例に示したようなものがある。
【0107】
なお、上記で第1の演算部16は、前記所定変調周波数成分の信号から振幅A、および位相φの変調角周波数に対する傾き∂φ/∂ωを演算する場合について説明した。しかしここでは、前述したように、前記所定変調周波数成分の信号から、(i)正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、(ii)余弦成分、および正弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、あるいは(iii)位相、および振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾き(微分係数)のいずれの組み合わせを演算してもよい。その場合には、上記実施例3において、「振幅A、位相φの変調角周波数に対する傾き∂φ/∂ω、および(15)式」を、(i)「正弦成分、余弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(5.2)式から導出される(15)式と同様の式」、(ii)「余弦成分、正弦成分の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(5.1)式から導出される(15)式と同様の式」、あるいは(iii)「位相、振幅の自然対数の変調角周波数に対する傾き(微分係数)、および(5.4)式から導出される(15)式と同様の式」と読み換えればよい。具体的には、b1=b2、μs1=μs2である場合には、上記の(15)式と同等の式はそれぞれ、(i)のときは(7.1)式、(ii)のときは(7.2)式、(iii)のときは(7.4)式となる。したがって、ここに述べた第3実施例では、4種類の方式によって吸収成分の濃度を定量することができる。
【0108】
以上の第3実施例で、3種類の波長の光を使用すれば、2種類の吸収成分が含まれた散乱体のそれぞれの吸収成分の濃度、あるいは多種の吸収成分が含まれた散乱体の1種類の吸収成分の濃度と、他の吸収成分の合計の濃度などを計測することができる。例えば、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは、前出の図3に示したように、波長によって吸収係数が異なる。したがって、適宜に選択した3種類の波長の光を使用することによって、これらの濃度、さらには酸素飽和度などを計測することができる。一般的には、n(nは2以上の整数)種類の波長の光を使用して、(n−1)種類の吸収成分のそれぞれの濃度を計測することができる。また、n種類より多くの波長の光を使用して、(n−1)種類の吸収成分の濃度計測の精度を向上させることもできる。
【0109】
また、異なる時間(タイミング)に上記の計測を行なえば、特定吸収成分の濃度の時間変化を計測することができる。さらに、散乱体に対する光の入射位置と光検出位置とを同期して走査させて、散乱体の各部の吸収成分の濃度を計測すれば、濃度の空間分布の計測ができる。前記第2の演算部17には、このようにして得た吸収成分の濃度情報を記憶する機能を持たせることができる。
【0110】
実施例4
図9は本発明の方法を実施するための本発明の装置の第4実施例を示すものであり、人体頭部などの散乱体2の内部の酸化ヘモグロビンの濃度あるいはヘモグロビンの酸素飽和度(酸化ヘモグロビンの濃度とヘモグロビン全体の濃度との比)を計測、あるいはモニタリングする装置の構成を示す。この第4実施例では、3種類の波長λ1,λ2,λ3の変調光と、2種類の光検出距離r1,r2を用いる。この場合、前記実施例と同様にして、先に述べた(7.1)〜(7.4)式のそれぞれに基づいて、4種類の3連の連立方程式が得られる。したがって、これらの連立方程式を解いて、各波長における吸収係数の差 (第1次情報)を演算し、さらに前出の(13)式を用いて酸化・還元ヘモグロビン濃度およびヘモグロビンの酸素飽和度などを定量することができる。
【0111】
図9に示す装置は、鉢巻きのように頭部2に装着される取り付け用のバンドを有する容器40を備えており、信号検出部、第1演算部、第2演算部および表示記録部を内蔵した外部機器41がケーブル42を介して容器40に接続されている。この実施例に示す装置においては、3種類の所定波長λ1,λ2,λ3の光が使用され、その動作および各構成機器は第3実施例の装置とほぼ同じである。また、図10は、前出の図9に示した装置の一部分、すなわち容器40の内部の詳細を示す。
【0112】
図10に示すように、容器40内には光源10、波長選択器11、第1の光検出器141、第2の光検出器142および光ガイド12,131,132が内蔵されており、光源10から発せられた所定波長λ1,λ2,λ3の変調光は波長選択器11で波長選択され、光ガイド12を通して頭部2に入射される。この際、3種類の波長は、前出の図3に示したヘモグロビンの吸収スペクトルを参照して、適宜に選ばれる。
【0113】
頭部2内を拡散伝搬した光は、前記光入射位置から距離r1とr2の位置(光検出位置)に置いた光ガイド131,132で受光され、第1の光検出器141と第2の光検出器142で電気信号に変換、また必要に応じて増幅される。電力(電源)や種々の信号などは、容器40に付けたコネクタ43および信号ケーブル42を介して外部機器41から送られかつ外部機器41に送られる。外部機器41の中に配置された信号検出部、第1の演算部、第2の演算部および表示記録部(いずれも図示せず)では、3種類の波長と2種類の光検出距離に対して前記第3実施例と同様の信号検出や演算が行われる。
【0114】
なお本実施例においては、波長λ1とλ2および波長λ1とλ3で得られる信号、波長λ1とλ2および波長λ2とλ3で得られる信号、あるいは波長λ1とλ3および波長λ2とλ3で得られる信号に対して、前出の(15)式と同様の4種類の2連の連立方程式が成立する。また、以上の演算処理は、第1および第2演算部に内蔵されたマイクロコンピユータなどで高速に実行される。さらに、容器40の中で信号を電波や光信号に変換し、信号ケーブルを介さないで外部機器41に伝送することもできる。
【0115】
上記本実施例においては、光源、光入射部、光検出手段などは、第1の実施例で説明したものが利用できる。また、人体頭部などでは、表面反射や光ガイドと頭部間の隙間などが問題になることがある。この場合には、前述したインターフェース材を利用するとよい。この場合には、図10に示した光ガイドを省略して、頭部2と波長選択器11との間、および頭部2と光検出器141および142との間に、計測対象とほぼ同一の散乱係数と吸収係数をもつインターフェース材を配置することもできる。
【0116】
このような装置は、脳内の情報の計測以外に、例えばマラソン中の人の脚の筋肉中の酸化ヘモグロビン濃度の計測あるいはモニタリングなどに使用することができる。
【0117】
実施例5
第5の実施例は、前記第4実施例で光源が発生する3種類の波長λ1,λ2,λ3の変調光を、任意の波形の所定の繰り返し周波数の変調光としたものである。つまり、前記第4実施例では、所定角周波数の正弦波変調光を使用したが、変調光は所定の周波数成分を含むものであればどのような波形のものであっても、その中に含まれる特定の周波数成分に対して、第4実施例の手法をそのまま適用することができる。例えば、繰り返しパルス光では、繰り返し周波数と同一、およびその整数倍の周波数成分が存在するので、いずれかの周波数成分に対して第4実施例の手法をそのまま適用することができる。所定の繰り返し周波数の変調光に要求される性能は、安定な繰り返し周波数と安定な光強度である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】散乱体内部を伝播した光子の飛跡を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる第1実施例の装置の構成概略図である。
【図3】ヘモグロビンおよびミオグロビンの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】(a)〜(c)はそれぞれ、変調光の発生方法を示す概略図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ、散乱体への光入射方法を示す概略図である。
【図6】(a)〜(c)はそれぞれ、受光方法を示す概略図である。
【図7】本発明にかかる第2実施例の装置の構成概略図である。
【図8】本発明にかかる第3実施例の装置の構成概略図である。
【図9】本発明にかかる第4実施例の装置の構成概略図である。
【図10】第4実施例の装置の光入射・検出部の構成概略図である。
【符号の説明】
【0119】
1…吸収情報計測装置、2…散乱体、10…光源、11…波長選択器、12,13,131,132…光ガイド、14,141,142…光検出器、15…信号検出部、16…第1演算部、17…第2演算部、18…表示記録部、30…第1の機構部、31…第2の機構部、40…容器、41…外部機器、42…ケーブル、43…コネクタ、P…光入射位置、Q…光検出位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射し、
測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得し、
前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、
前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、
前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、
ことを特徴とする、医療行為を除く散乱体の吸収情報計測方法。
【請求項2】
前記吸収係数の差、吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数、および吸収成分の濃度の差との間の所定の関係に基づいて、前記吸収成分の濃度の差を定量することを特徴とする請求項1に記載の散乱体の吸収情報計測方法。
【請求項3】
測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射し、
測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得し、
前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出し、前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを求め、
前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する、
ことを特徴とする、医療行為を除く散乱体の吸収情報計測方法。
【請求項4】
前記吸収係数の差、前記波長のそれぞれに対する吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数、および吸収成分の濃度との間の所定の関係に基づいて、前記吸収成分の濃度を定量することを特徴とする請求項3に記載の散乱体の吸収情報計測方法。
【請求項5】
前記測定信号は、前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光した複数の測定信号である、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の散乱体の吸収情報計測方法。
【請求項6】
測定対象物である散乱体の表面に所定の変調周波数成分をもつ変調光をスポット状に入射する光入射部と、
測定対象物の内部を伝播した前記変調光を、前記散乱体の表面において複数のタイミングでおよび/または複数の位置で受光して測定信号をそれぞれ取得する光検出部と、
前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、
前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における測定でそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、
前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記の複数のタイミングおよび/または複数の位置における吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、
ことを特徴とする散乱体の吸収情報計測装置。
【請求項7】
前記第2の演算部は、さらに、前記吸収係数の差、吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数、および吸収成分の濃度の差との間の所定の関係に基づいて、前記吸収成分の濃度の差を演算することを特徴とする請求項6に記載の散乱体の吸収情報計測装置。
【請求項8】
測定対象物である散乱体の表面に、所定の変調周波数成分をもちかつ測定対象物に対して散乱係数が等しいか又は等しいと見なせる異なる波長をもつ複数種の変調光をスポット状に入射する光入射部と、
測定対象物の内部を伝播した前記変調光を前記散乱体の表面における所定の位置で受光して、前記波長に対してそれぞれ測定信号を取得する光検出部と、
前記測定信号から前記変調周波数成分の信号をそれぞれ検出する信号検出部と、
前記波長に対してそれぞれ得られた前記変調周波数成分の信号の正弦成分、および余弦成分の変調角周波数に対する傾きを演算する第1の演算部と、
前記正弦成分と、前記余弦成分の変調角周波数に対する傾きと、前記波長のそれぞれに対する吸収係数の差との間の所定の関係に基づいて、第1次情報である前記吸収係数の差を演算する第2の演算部とを具備する、
ことを特徴とする散乱体の吸収情報計測装置。
【請求項9】
第2の演算部は、さらに、前記吸収係数の差、前記波長のそれぞれに対する吸収成分の単位濃度当たりの吸収係数、および吸収成分の濃度との間の所定の関係に基づいて、前記吸収成分の濃度を定量することを特徴とする請求項8に記載の散乱体の吸収情報計測装置。
【請求項10】
前記光検出部は、前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光することが可能な受光部を備えており、前記測定信号は、前記測定対象物の表面における複数の位置でそれぞれ受光した複数の測定信号である、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の散乱体の吸収情報計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−53156(P2006−53156A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278588(P2005−278588)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【分割の表示】特願平8−230683の分割
【原出願日】平成8年8月30日(1996.8.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】