説明

散気装置

【課題】被処理水に空気を散気するに際し、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成することが可能な散気装置を提供すること。
【解決手段】被処理水10中に空気を散気するに際し、散気装置2において、シート状に成形した合成樹脂膜からなる散気パネルの一方の面から他方の面に向けて加湿空気を供給し、散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させて、被処理水10中に微細気泡100を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曝気槽などに収容された被処理水中に空気を散気する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、活性汚泥槽で被処理水に生物処理を施す際には、微生物に酸素を供給するために、被処理水中に空気を散気して曝気する散気処理が行われる。散気装置としては、主として以下のものが使用されている。
(1)多孔質のセラミックを板状に成形したもの(散気板)をコンクリート又は合成樹脂製のホルダー(上面が開口した容器)の上面に固定し、ホルダーに空気を圧入して散気板を通過させることにより気泡を発生させるもの;
(2)多孔質のセラミックを円筒中空状に成形したもの(散気筒)の中空部に空気主管からの枝管を接続し、散気筒の中空部に空気を圧入して散気筒の壁を通過させることにより気泡を発生させるもの;
(3)ネオプレンゴムなどの円形ラバーでホルダーの開口部を覆い、その中心部を固定し、ホルダーに空気を圧入して円形ラバーの周端部を振動させることにより気泡を発生させるもの。
【0003】
上記の散気装置(1)〜(3)のうち、装置(3)においては、発生する気泡が大きく、被処理水への酸素の溶解効率が不十分となる。従って、本曝気には適しているとは言い難く、主に予備曝気などに使用される。
【0004】
これに対して、装置(1)、(2)の場合は、比較的微細な気泡を発生させることができるものの、停電又は定期点検のため装置を停止したときに、被処理水中の浮遊固形物が沈降して散気孔の目詰まりを生じるという欠点がある。
【0005】
このような背景の下、散気パネル式散気装置の使用が検討されている(特許文献1など)。この装置は、合成樹脂膜をシート状に成形した散気パネルをホルダーの上面に配置したもので、ホルダーに圧入した空気の圧力によって散気パネルが膨張して散気孔が生じ、空気が散気孔を通過することによって処理水中に微細気泡を供給することができる。また、空気の供給を停止すると散気パネルは平滑なシート状に戻るため、散気孔は見かけ上消失する。従って、装置を停止した場合に、被処理水中の浮遊固形物の沈降による散気孔の目詰まりを防止することができる。
【特許文献1】特表2001−504754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、散気パネル式散気装置であっても、装置の運転中に散気パネルの散気孔が目詰まりする場合がある。例えば、下水処理場の活性汚泥槽に収容された被処理水中に空気を散気する場合、約1〜2日で散気パネルの圧力損失が増加し、被処理水中への酸素供給を正常に行うことができなくなる。
【0007】
なお、このように散気孔が目詰まりした場合、空気の供給を停止して散気パネルを平滑なシート状に戻した後、再び空気の供給を行うと正常運転を復帰させることができる。これは、散気パネルが平滑なシート状に戻るときに、散気パネルの収縮によって目詰まりの原因物質が散気孔から弾き出されることによるものと考えられる。しかしながら、生物処理を行う上で、頻繁にあるいは長時間ブローダウンを行うことはできるだけ回避すべきである。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、被処理水に空気を散気するに際し、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、生物処理などのための十分な酸素の溶解効率を達成することが可能な散気方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の散気方法は、有機性排水と生物汚泥とを含む被処理水中に空気を散気する方法であって、
シート状に成形した合成樹脂膜からなる散気パネルの一方の面から他方の面に向けて加湿空気を供給し、散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させて、被処理水中に微細気泡を発生させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の散気装置は、有機性排水と生物汚泥とを含む被処理水中に空気を散気する装置であって、
空気を供給する送風手段と、
流路を介して送風手段と連結され、送風手段からの空気を加湿する加湿手段と、
シート状に成形した合成樹脂膜からなる散気パネルを備え、該散気パネルの一方の面から他方の面に向けて加湿手段からの空気を供給し、散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させて、被処理水中に微細気泡を発生させる散気手段と
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明では、被処理水中に浸漬配置された散気手段に加湿された空気を圧入し、散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させることによって、非常に微細な気泡が被処理水中に発生するので、生物処理などのための十分な量の酸素を被処理水中に溶解させることができる。このとき、散気孔の孔径は上記の従来例(1)〜(3)に比べて小さいため、被処理水中の浮遊固形物、又は溶解物に起因する析出物は散気孔に付着すると目詰まりが起こりやすいが、本発明では空気を加湿状態で噴出させることによって浮遊固形物の付着や溶解物の析出が起こりにくくなり、また、これらが付着もしくは析出した場合であっても空気中の水蒸気によって効率よく且つ確実に除去することができる。従って、本発明により、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成することが可能な散気方法及び装置が実現される。
【0012】
また、本発明の散気方法は、加湿された空気の相対湿度が、被処理水の温度において70%以上であることを特徴としてもよい。これにより、散気孔からの付着物質の除去効率を高めることができる。
【0013】
また、本発明の散気装置は、散気手段が、板状の金属製プレートと、シート状に成形した合成樹脂膜をプレートの一方の面を覆うように配置してなる散気パネルと、プレート又は散気パネルの所定の位置に設けられ、加湿手段からの空気をプレートと散気パネルとの間に導入する空気導入口と、を備えることを特徴としてもよい。これにより、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成するといった特性に優れた散気装置が実現される。
【0014】
また、本発明の散気装置は、散気手段が、上面が開口した容器と、シート状に成形した合成樹脂膜を容器の上面を覆うように配置してなる散気パネルと、容器又は散気パネルの所定の位置に設けられ、加湿手段からの空気を前記容器内に導入するための空気導入口と、を備えることを特徴としてもよい。これにより、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成するといった特性に優れた散気装置が実現される。
【0015】
また、本発明の散気装置は、被処理水の温度と、加湿手段に供給される空気の温度とを測定する温度測定手段と、
加湿手段と電気的に接続されており、空気の相対湿度が被処理水の温度において70%以上となるように加湿手段を制御する制御手段と
を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、散気孔からの付着物質の除去効率がより高められた散気装置が実現される。
【0016】
また、本発明の散気装置は、送風手段に供給される空気の温度及び湿度、並びに送風手段から加湿手段に供給される空気の温度、風量及び圧力を測定する測定手段と、
加湿手段と電気的に接続されており、測定手段で得られる送風手段に供給される空気の温度及び湿度の測定値並びに送風手段から加湿手段に供給される空気の温度、風量及び圧力の測定値に基づいて加湿手段における空気の相対湿度を制御する制御手段と
を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、十分に加湿された空気の散気手段への供給を安定的に行うことが可能となり、上述の効果を一層高めることができる。
【0017】
また、本発明の散気装置は、送風手段から加湿手段に供給される空気の温度、湿度、風量及び圧力を測定する測定手段と、
加湿手段と電気的に接続されており、測定手段で得られる送風手段から加湿手段に供給される空気の温度、湿度、風量及び圧力の測定値に基づいて加湿手段における空気の相対湿度を制御する制御手段と
を更に備えることを特徴としてもよい。かかる散気装置によっても、十分に加湿された空気の散気手段への供給を安定的に行うことが可能となり、上述の効果を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明した通り、本発明では、被処理水中に浸漬配置された散気手段に加湿された空気を圧入し、散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させることによって、非常に微細な気泡が被処理水中に発生するので、生物処理などのための十分な量の酸素を被処理水中に溶解させることができる。このとき、被処理水中の浮遊固形物、又は溶解物に起因する析出物が散気孔に付着しにくくなり、また、これらの物質が散気孔に付着しても、空気中の水蒸気によってこれらを効率よく且つ確実に除去することができる。従って、本発明により、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成することが可能な散気方法及び装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面と共に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態に係る散気装置を示す概略構成図である。図中、曝気槽1には有機性排水と活性汚泥とを含む被処理水10が収容されており、曝気槽1の中層部には、曝気槽1の対向する内壁の一方の側に寄せて散気手段2が配設されている。
【0021】
図2は散気手段2の概略構成を模式的に示した断面図である。図2において、散気手段2は、板状の金属製プレート2aと、プレート2aの一方の面をシート状に成形した合成樹脂膜で覆うように配置された散気パネル2bとを含んで構成されている。プレート2aの周縁部には、嵌合部21aと、嵌合部21aの周囲に凹状に形成された連通部21bとを有するプラスチックカバー21が設けられており、連通部21bにおいて散気パネル2bの周縁部をプレート2aの上面から下面にわたって折り返されるように連通させると共に、嵌合部2とプレート2aの周縁部とを嵌合させることによって、プレート2aと散気パネル2bとが一体化されている。更に、プレート2aの上下面方向からプラスチックカバーを挟み込むSUSカバー22によりこれらは強固に固定されている。
【0022】
また、散気パネル2bの所定の位置には開口部23が設けられており、開口部23に配管24が差し込まれて空気導入口2cが形成されている。散気パネル2bの内側において、配管24には散気パネル2bと同材質のパッキン25及びゴムパッキン26が装着され、更にその先端は支持部材27で支持されている。また、散気パネル2bの外側において、配管24には散気パネル2bと同材質のパッキン25及びSUSパッキン28が装着され、これらをナット29と支持部材27とで挟み込むことにより配管24がプレート2aに固定されている。
【0023】
散気パネル2bは、散気手段2の内部から圧力が加わらないときには平滑なシート状で空気を通さないが(図1中の二点波線)、空気導入口2cから空気を圧入するとその圧力により膨張し、複数の細孔(散気孔)を生じるものである(図1中の実線)。散気パネルに用いられる合成樹脂としては、具体的には、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、散気手段2の空気導入部2cには流路3が接続されており、流路3には、散気手段2に近い側から順に加湿手段4、送風機(ブロワ)5が設けられている。送風機5は、散気手段2に空気を供給するためのものである。空気の供給量は散気手段2内の圧力が、散気手段2の設置される位置の水深に相当する圧力よりも0.1〜0.2kPa大きくなるように設定される。
【0025】
送風機5からの空気は、加湿手段4によりに加湿された後、空気導入口2cから散気手段2内に圧入される。かかる加湿手段5における加湿方法は特に制限されないが、例えば、空気に噴霧水やスチームを直接混入する方法、予め充填塔に曝気用空気を導入して加湿する方法などが挙げられる。
【0026】
また、曝気槽1には温度測定手段7、加湿手段4の出口側には温度・湿度測定手段8が設けられており、温度測定手段7、温度・湿度測定手段8及び加湿手段4は制御手段9と電気的に接続されている。これにより、被処理水10の温度、並びに加湿手段4から散気手段2に供給される空気の温度及び湿度に関する測定データ信号が温度測定手段7及び温度・湿度測定手段8から制御手段9へ送られ、更に、得られた測定値に基づいて、空気の加湿条件を制御する制御信号が制御手段9から加湿手段4に送られる。これにより、被処理水10の温度における相対湿度が所定の値となるように、加湿手段4における空気の加湿条件を制御することができる。
【0027】
上記の構成を有する散気装置を用い、被処理水中に空気を散気するときの手順について、図3を参照しつつ説明する。図3は、散気パネル2bの膨張により散気孔が生じたときの状態を概念的に示す説明図である。本実施形態において、送風機5からの空気が、加湿手段4で加湿された後、空気導入口2cから散気手段2内に圧入されると、空気圧により散気パネル2bが矢印の方向に膨張して、散気パネル2bに微小の散気孔2d(細孔径が好ましくは0.1〜0.3mmの細孔)が生じる。そして、空気が加湿状態で散気孔2dから噴出することにより、被処理水10中に微細気泡100が発生する。このとき、散気手段2は、前述の通り曝気槽1内の対向する内壁の一方の側に寄せて配設されているので、発生した微細気泡100は被処理水中を図1中の矢印の向きに循環する。このようにして、被処理水中に十分な量の酸素を溶解させることができる。
【0028】
また、被処理水中10中に含まれる浮遊固形物や、溶解物に起因するなどの付着性物質が含まれるが、これらが散気孔に付着した場合であっても、加湿された空気が散気孔を通過する際に当該空気中の水蒸気によって効率よく且つ確実に除去することができる。従って、本実施形態により、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成することが可能となる。
【0029】
ここで、空気を加湿する際には、その相対湿度が、被処理水の温度において70%以上(より好ましくは90%以上、更に好ましくは水蒸気の飽和状態又は過飽和状態)となるように制御することが好ましい。相対湿度が前記の条件を満たすように空気を加湿することによって、散気孔2dからの付着物質の除去効率を高めることができる。
【0030】
また、生物処理などにおいては、被処理水10の温度は通常15〜25℃と比較的低く、他方、加湿手段4に供給される空気の温度は、加圧により被処理水10の温度よりも高くなりやすい。このとき、加湿手段4の入り口側における温度で空気を飽和状態又は過飽和状態まで加湿すると、当該空気の冷却により生じる水が散気手段2や流路3などに滞留する現象が起こりやすくなるが、上述のように、被処理水の温度における相対湿度が所定の条件を満たすように空気を加湿することによって、被処理水の温度が低温の場合にも装置内への水の滞留を防止することができる。
【0031】
更に、図1に示した装置の場合、停電や定期点検などのために装置の運転を停止すると、散気パネル2bは平滑なシート状となり、散気孔は見かけ上消失する(図1中の二点鎖線)。これにより、被処理水10中に含まれる浮遊固形物などが散気パネル2b上に付着・堆積しても、これらは散気孔の目詰まりの原因物質とはなり得ない。
【0032】
図4は本発明の散気装置にかかる第2実施形態を示す概略構成図である。図4に示した散気装置は、散気手段2が、底面と4つの側面とを有し上面が開口したステンレス製容器(ホルダー)2eの開口部を、合成樹脂膜シート状に成形した散気パネル2bで覆い、散気パネル2bの周縁部をホルダー2eに固定して密閉構造としたものである点、並びにホルダー2eの底面に空気導入部2cが設けられている点で図1に示した装置と相違するが、他の構成は図1に示した装置と同様である。
【0033】
図4に示した散気装置は、散気手段2の構成部材の一部が図1に示した装置と相違するだけで、被処理水中に空気を散気する際のメカニズムは図1に示した装置の場合と同様である。すなわち、図4に示した装置においても、送風機5からの空気が、加湿手段4で加湿された後、空気導入口2cから散気手段2内に圧入され、空気圧により散気パネル2bが矢印の方向に膨張する。この散気パネル2bの膨張に伴い散気パネル2bに微小の散気孔2dが生じ、空気が加湿状態で散気孔2dから噴出することにより、被処理水10中に微細気泡100が発生する。従って第2実施形態によっても、散気孔の目詰まり現象を生じることなく微細な気泡を長期にわたって安定的に供給し、十分な酸素の溶解効率を達成することが可能となる。
【0034】
さらに、本発明においては、後述する第3及び第4実施形態のように特定の測定手段及び制御手段を用いることによって、加湿手段から散気手段に供給される空気の湿度をより確実に制御し、散気孔の目詰まり防止効果をより高めることができる。
【0035】
図5は本発明の第3実施形態にかかる散気装置を示す概略構成図である。図5中、流路3はヘッダー管11を含んで構成されており、ヘッダー管11よりも上流側に送風機5が設けられている。また、送風機5の空気吸引管12には吸引側温度測定手段13及び吸引側湿度測定手段14が、流路3の送風機5とヘッダー管11との間(空気圧送側)には圧送側温度測定手段15、風量測定手段16及び圧力測定手段17がそれぞれ設けられている。さらに、ヘッダー管11には流路19を介して散水ポンプ18が接続されている。吸引側温度測定手段13、吸引側湿度測定手段14、圧送側温度測定手段15、風量測定手段16、圧力測定手段17及び散水ポンプ18はそれぞれ制御手段9と電気的に接続されている。
【0036】
図5に示した装置においては、このように、散水ポンプ18とヘッダー管4とを流路19を介して接続することにより加湿手段4が構成されている。このとき、送風機5に吸引される空気の温度及び湿度が吸引側温度測定手段13及び吸引側湿度測定手段14により測定され、また、送風機5からヘッダー管11に圧送される空気の温度、風量及び圧力が圧送側温度測定手段15、風量測定手段16、圧力測定手段17により測定された後、得られた各測定値についてのデータ信号が制御手段9に送られる。これらのデータ信号に基づいて、制御手段9から散水ポンプ18への供給水量に関する制御信号が送られて、ヘッダー管11において所定の散水量の水が散布される。
【0037】
ここで、上記測定値に基づき散水量を制御する具体的手順について、送風機5に吸引される空気の温度が20℃、相対湿度が60%である場合を例にとり、図6を参照しつつ説明する。図6は低温度湿度表を示すもので、曲線l1、l2はそれぞれ湿度100%及び60%の場合の温度(単位:℃)と相対湿度(関係湿度、単位:kg−水蒸気/kg−乾き空気)との相関を示している。
【0038】
送風機5に吸引される温度20℃、相対湿度60%の空気の状態は図6中の点Aに相当する。この空気は送風機5にて圧送されるため、送風機5の出口以降においては加圧による空気の温度上昇、並びにそれに伴う相対湿度の低下が起こる(図6中の点B)。
【0039】
点Bの状態にある空気を相対湿度100%まで加湿することは、図6中の点Bを通る断熱冷却線l3と相対湿度100%を示す曲線l1との交点Cまで状態を変化させることに相当する。従って制御手段9においては、点Aにおける空気の温度及び湿度、並びに点Bにおける空気の温度、圧力及び風量の測定値に基づいて演算処理が行われ、点Cの状態とするために必要な散水量が算出される。かかる演算処理の際には、質量基準の場合の相対湿度を表す下記式(1)を解くことにより導かれる、圧力補正された下記式(2)の適用が可能である。
【0040】
【数1】

【0041】
[式(1)中、Yは相対湿度を表し、MV及びMGはそれぞれ水蒸気及び空気のモル質量を表し、p及びpVはそれぞれ全圧及び水蒸気分圧を表す]
【0042】
【数2】

【0043】
[式(2)中、MV、MG及びpは式(1)中のMV、MG及びpと同義であり、YSは圧力pにおける相対湿度を表し、Y1は1気圧(101.325kPa)における相対湿度を表す。]
【0044】
なお、図5に示した装置において、散水ポンプ18とヘッダー管4とを流路19を介して接続することにより加湿手段が構成されている点については前述の通りであるが、便宜上、図5には当該加湿手段の構成を一部省略して示してある。以下、当該加湿手段の構成について、図7を参照しつつ詳細に説明する。なお、便宜上、図7には、ヘッダー管11の上流側の送風機5、測定手段13〜17、並びにヘッダー管11の下流側の曝気槽1及び散気手段2は図示していない。
【0045】
図7に示したように、ヘッダー管11にはその管内に水を導入する補給水導入流路201が接続されている。補給水導入流路201には上流側から順に浄化手段200(イオン交換機、膜濾過機等)及び補給水制御弁202が設けられており、補給水制御弁202はヘッダー管11内の水位を測定する水位測定手段203と電気的に接続されている。これにより、ヘッダー管11の水位に基づくデータ信号が水位測定手段203から補給水制御弁202に送られ、補給水制御弁202の開度が調節されてヘッダー管11内の水位が制御される。
【0046】
また、ヘッダー管11には、管の底部に溜まった補給水を引き出して管上部のシャワーノズル204に供給する循環流路19が接続されている。循環流路19には上流側から順に散水ポンプ18及び噴霧水制御弁205が設けられており、噴霧水制御弁205は制御手段9と電気的に接続されている。これにより、測定手段13〜17(図示せず)からのデータ信号に基づく制御信号が制御手段9から噴霧水制御弁205に送られ、シャワーノズル204への噴霧水の供給量が制御される。
【0047】
図7に示した加湿手段により加湿を行う場合、先ず、水道水を浄化手段200で浄化し、その浄化水(補給水)を補給水制御弁202よりヘッダー管4の底部に供給する。このとき、水位計測手段203により水位を測定し、所定の水位に達したときに補給水制御弁202を全閉する。補給水の供給を停止すると散水ポンプが稼働してヘッダー管11の上部のシャワーノズルより噴霧水が供給され、ヘッダー管11内の圧送空気が加湿される。このとき、制御手段9からの制御信号により噴霧水制御弁11の開度が調節され、所望の相対湿度となるために必要な量の噴霧水の量に制御される。
【0048】
このように第3実施形態では、送風機5に供給される空気の温度及び湿度、並びに送風機5からヘッダー管11に供給される空気の温度、風量及び圧力を測定し、これらの測定値に基づいて散水ポンプ18からヘッダー管11に供給される散水量が制御される。これにより、送風機5から散気手段2に供給される空気が高圧である場合や、送風機5での圧送により空気の温度が上昇した場合であっても、十分に加湿された空気を散気手段2に安定的に供給することが可能となり、散気孔の閉塞防止効果及び被処理水への酸素の溶解効率をより高めることができる。従って本実施形態は、特に、水深が深く(例えば10m以上)、容量が大きな深層曝気槽を用い、当該曝気槽内に複数の散気装置を配置して散気を行う汚水処理場等において非常に有用である。
【0049】
図8は本発明の第4実施形態にかかる散気装置を示す概略構成図である。図8に示した装置は、図5に示した装置と同様にヘッダー管11を含んで構成された流路3を有するもので、流路3の送風機5とヘッダー管11との間(空気圧送側)に圧送側温度測定手段15、圧送側湿度測定手段206、風量測定手段16及び圧力測定手段17が設けられており、圧送側温度測定手段15、圧送側湿度測定手段206、風量測定手段16及び圧力測定手段17はそれぞれ制御手段9と電気的に接続されている。なお、図8には、図5の場合と同様に、ヘッダー管11及び散水ポンプ18を含んで構成される加湿手段の構成を一部省略して示してあるが、本実施形態の加湿手段も図7に示した構成を有するものである。
【0050】
本実施形態では、送風機5からヘッダー管11に圧送される空気の温度、湿度、圧力及び風量が、それぞれ圧送側温度測定手段15、圧送側湿度測定手段206、風量測定手段16及び圧力測定手段17により測定される。このようにして得られた各測定値についてのデータ信号が制御手段9に送られて所定の演算処理が行われた後、制御手段9から散水ポンプ18に供給水量に関する制御信号が送られて、ヘッダー管11において所定の散水量の水が散布される。これにより、送風機5から散気手段2に供給される空気が高圧である場合や、送風機5での圧送により空気の温度が上昇した場合であっても、十分に加湿された空気を散気手段2に安定的に供給することが可能となり、散気孔の閉塞防止効果及び被処理水への酸素の溶解効率をより高めることができる。従って本実施形態は、上記第3実施形態と同様に、深層曝気槽を用い、当該曝気槽内に複数の散気装置を配置して散気を行う汚水処理場等において非常に有用である。
【0051】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の実施形態において、加湿手段4の出口側における空気の温度及び湿度が比較的安定している場合には、予め得られている被処理水10の温度、並びに加湿手段4の出口側における空気の温度及び湿度に基づいて、被処理水10の温度における相対湿度が所望の値となるように加湿条件を設定して散気を行ってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、曝気槽1の中層部に散気手段2を設置した装置例を示したが、散気手段2の位置は曝気槽1の水深などに応じて変更してもよい。すなわち、曝気槽1の水深が約6〜10mと比較的深い場合には、図1等に示したように散気手段2を曝気槽1の中層部に配設することが好ましく、また、曝気槽1の水深が約6m未満と比較的浅い場合には、散気手段2を曝気槽1の底部に配設することが好ましい。
【0053】
また、上記実施形態においては、散気手段2を、曝気槽1の対向する内壁の一方の側に寄せて配設することにより、発生する微細気泡が被処理水10内を循環するが、攪拌子とモーターとを含んで構成される撹拌手段などにより被処理水10を攪拌してもよい。これにより発生した微細気泡が被処理水10中に拡散されるので、被処理水10への酸素の溶解効率を高めることができる。
【0054】
また、本発明において使用される散気手段の数は特に制限されず、例えば被処理水中に複数の散気手段を、相互に並列となるように浸漬配置してもよい。
【0055】
また、空気の加湿に用いる水としてイオン交換機や膜濾過機などにより得られる浄化水を用いることが好ましい点については上述の通りであるが、加湿用の水にUV照射等による殺菌処理を施すことも好ましい。
【0056】
さらに、本発明においては、加湿用水に酸化剤や酸又は塩基を添加して散気孔の洗浄性を向上させることもできる。加湿用水に用いられる酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、塩素、二酸化塩素等が挙げられる。また、酸及び塩基としては、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。酸化剤、酸及び塩基の添加量はその種類に応じて適宜設定可能であるが、散気孔の付着物を効率よく除去することができ、且つ被処理水中に排出された場合に悪影響を及ぼさない範囲内に設定することが好ましい。例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液の場合、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は1〜100mg/lとすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の散気装置の第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示した装置が備える散気手段を示す模式断面図である。
【図3】本発明に係る散気パネルの膨張により散気孔が生じたときの状態を概念的に示す説明図である。
【図4】本発明の散気装置の第2実施形態を示す概略構成図である。
【図5】本発明の散気装置の第3実施形態を示す概略構成図である。
【図6】低温度湿度表を示すものであり、曲線l1、l2はそれぞれ湿度100%及び60%の場合の温度(単位:℃)と相対湿度(関係湿度、単位:kg−水蒸気/kg−乾き空気)との相関を示している。
【図7】本発明にかかる加湿手段の一例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の散気装置の第4実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1…曝気槽、2…散気手段、2a…プレート、2b…散気パネル、2c…空気導入口、2d…散気孔、2e…容器(ホルダー)、21…プラスチックカバー、21a…嵌合部、21b…連通部、22…SUSカバー、23…開口部、24…配管、25…パッキン、26…ゴムパッキン、27…支持部材、28…SUSパッキン、29…ナット、3…流路、4…加湿手段、5…送風機、7…温度測定手段、8…温度・湿度測定手段、9…制御手段、10…被処理水、100…微細気泡、200…浄化手段、201…補給水導入流路、202…補給水制御弁、203…水位測定手段、204…シャワーノズル、205…噴霧水制御弁、206…圧送側湿度測定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水と生物汚泥とを含む被処理水中に空気を散気する装置であって、
空気を供給する送風手段と、
流路を介して前記送風手段と連結され、前記送風手段からの空気を加湿する加湿手段と、
シート状に成形した合成樹脂膜からなる散気パネルを備え、該散気パネルの一方の面から他方の面に向けて前記加湿手段からの空気を供給し、前記散気パネルの膨張により生じる散気孔から空気を加湿状態で噴出させて、前記被処理水中に微細気泡を発生させる散気手段と、
前記送風手段から前記加湿手段に供給される空気の温度、湿度、風量及び圧力を測定する測定手段と、
前記加湿手段と電気的に接続されており、前記測定手段で得られる前記送風手段から前記加湿手段に供給される空気の温度、湿度、風量及び圧力の測定値に基づいて、前記空気の相対湿度が前記被処理水の温度において所定値以上となるように前記加湿手段における空気の相対湿度を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする散気装置。
【請求項2】
前記測定手段は、前記送風手段に供給される空気の温度及び湿度、並びに前記送風手段から前記加湿手段に供給される空気の温度、風量及び圧力を測定する測定手段であり、
前記制御手段は、前記測定手段で得られる前記送風手段に供給される空気の温度及び湿度並びに前記送風手段から前記加湿手段に供給される空気の温度、風量及び圧力の測定値に基づいて、前記空気の相対湿度が前記被処理水の温度において所定値以上となるように前記加湿手段における空気の相対湿度を制御する制御手段であることを特徴とする、請求項1に記載の散気装置。
【請求項3】
前記散気手段が、板状の金属製プレートと、シート状に成形した合成樹脂膜を前記プレートの一方の面を覆うように配置してなる散気パネルと、前記プレート又は前記散気パネルの所定の位置に設けられ、前記加湿手段からの空気を前記プレートと前記散気パネルとの間に導入する空気導入口と、を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の散気装置。
【請求項4】
前記散気手段が、上面が開口した容器と、シート状に成形した合成樹脂膜を前記容器の上面を覆うように配置してなる散気パネルと、前記容器又は前記散気パネルの所定の位置に設けられ、前記加湿手段からの空気を前記容器内に導入するための空気導入口と、を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の散気装置。
【請求項5】
前記制御手段が、前記空気の相対湿度が前記被処理水の温度において70%以上となるように前記加湿手段を制御する制御手段であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の散気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−167856(P2007−167856A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67077(P2007−67077)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【分割の表示】特願2002−193672(P2002−193672)の分割
【原出願日】平成14年7月2日(2002.7.2)
【出願人】(507036050)住友重機械エンバイロメント株式会社 (88)
【Fターム(参考)】